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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】グリッパ装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 15/08 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
B25J15/08 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020098561
(22)【出願日】2020-06-05
(65)【公開番号】P2021191599
(43)【公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森村 章一
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-088053(JP,A)
【文献】実開昭59-069887(JP,U)
【文献】実開平02-003389(JP,U)
【文献】特開昭62-074544(JP,A)
【文献】実開昭52-020666(JP,U)
【文献】特開2001-165199(JP,A)
【文献】実開平05-060787(JP,U)
【文献】特開平08-025271(JP,A)
【文献】特開2014-009721(JP,A)
【文献】特表2015-535776(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第00205141(EP,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 11/00-15/08
B23Q 3/06- 7/04
F16D 41/06-43/202
H05K 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに連動して移動可能な複数のグリッパ爪と、
複数の前記グリッパ爪それぞれに対応して設けられた複数の直動部と、
前記複数の直動部の動きの同期をとる同期機構と、
油圧または空圧により直進進退し、前記直動部または前記同期機構に駆動力を与える第一シリンダと、
油圧または空圧により直進進退し、前記第一シリンダよりもストロークが小さく、前記第一シリンダよりも駆動力が大きい第二シリンダと、
前記第二シリンダと前記同期機構を機械的に、連結および連結解除するクラッチを含む伝達機構と、
を備え
前記クラッチは、前記第二シリンダが第一の向きに直進した場合に、前記同期機構と連結して前記第二シリンダの駆動力を前記同期機構に伝達し、前記第二シリンダが前記第一の向きと逆の第二の向きに直進した場合に前記同期機構との連結を解除するワンウェイクラッチである、
ことを特徴とするグリッパ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のグリッパ装置であって、
前記伝達機構は、
前記第二シリンダと、常時、連結され、第二シリンダの進退に応じて回転する外輪と、
前記外輪の軸方向端面に形成され、その周面がカム面として機能するポケットと、
前記同期機構と、常時、連結され、前記ポケット内において前記外輪と同心配置された内輪と、
前記カム面と前記外輪との間に配置され中継ローラであって、前記外輪が第一の回転方向に回転した際に前記カム面および前記外輪の双方に密着する連結状態となり、前記外輪が前記第一の回転方向と逆の第二の回転方向に回転した際に前記カム面および前記外輪の少なくとも一方から離間した解除状態となる中継ローラと、
前記中継ローラを前記連結状態となる方向に付勢する付勢部材と、
を備えたカム式ワンウェイクラッチを含む、ことを特徴とするグリッパ装置。
【請求項3】
請求項1に記載のグリッパ装置であって、
前記伝達機構は、
前記第二シリンダと、常時、連結され、第二シリンダの進退に応じて回転する内輪と、
前記内輪の軸方向端面に形成され、その周面がカム面として機能するポケットと、
前記同期機構と、常時、連結され、前記内輪と同心配置された外輪と、
前記カム面と前記外輪との間に配置され中継ローラであって、前記内輪が第一の回転方向に回転した際に前記カム面および前記外輪の双方に密着する連結状態となり、前記内輪が前記第一の回転方向と逆の第二の回転方向に回転した際に前記カム面および前記外輪の少なくとも一方から離間した解除状態となる中継ローラと、
前記中継ローラを前記連結状態となる方向に付勢する付勢部材と、
を備えたカム式ワンウェイクラッチを含む、ことを特徴とするグリッパ装置。
【請求項4】
請求項1に記載のグリッパ装置であって、
前記伝達機構は、
前記第二シリンダと、常時、連結され、第二シリンダの進退に応じて揺動するレバーと、
前記レバーと連結され、前記レバーの揺動に応じて揺動するラチェット爪と、
前記同期機構と、常時、連結され、前記同期機構とともに動くラチェット歯車であって、前記ラチェット爪が第一の揺動方向に揺動した際には回転し、前記ラチェット爪が前記第一の揺動方向と逆の第二の揺動方向に揺動した際には回転しないラチェット歯車と、
を備えたラチェット式ワンウェイクラッチを含む、ことを特徴とするグリッパ装置。
【請求項5】
互いに連動して移動可能な複数のグリッパ爪と、
複数の前記グリッパ爪それぞれに対応して設けられた複数の直動部と、
前記複数の直動部の動きの同期をとる同期機構と、
油圧または空圧により直進進退し、前記直動部または前記同期機構に駆動力を与える第一シリンダと、
油圧または空圧により直進進退し、前記第一シリンダよりもストロークが小さく、前記第一シリンダよりも駆動力が大きい第二シリンダと、
前記第二シリンダと前記同期機構を機械的に、連結および連結解除するクラッチを含む伝達機構と、
を備え、
前記伝達機構は、
前記同期機構と、常時、連結され、前記同期機構とともに動く出力側ホイールと、
前記第二シリンダと、常時、連結され、前記第二シリンダの進退に応じて回転する入力側ホイールであって、軸方向に進出することで、前記出力側ホイールの少なくとも一部と周方向に係合する入力側ホイールと、
前記入力側ホイールを軸方向に進退させるアクチュエータと、
を備えた噛み合いクラッチを含む、
ことを特徴とするグリッパ装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載のグリッパ装置であって、
前記直動部は、対応する前記グリッパ爪と機械的に連結された直動体を含み、
前記同期機構は、
各直動体に1以上形成された爪側ラックと、
前記爪側ラックに噛み合う1以上の同期用歯車と、
を含む、ことを特徴とするグリッパ装置。
【請求項7】
請求項6に記載のグリッパ装置であって、
前記伝達機構および前記同期機構は、前記第二シリンダの駆動力を増幅して前記直動部に伝達する、ことを特徴とするグリッパ装置。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載のグリッパ装置であって、
前記複数のグリッパ爪は、N≧3とした場合に、N個のグリッパ爪を含み、
前記N個のグリッパ爪は、N個の辺で構成される多角形の辺に沿って進退可能であり、
前記直動部は、対応する前記グリッパ爪と機械的に連結された直動体を含み、
前記同期機構は、
各直動体に形成された爪側ラックと、
前記多角形の中心と同心に配され、N個の爪側ラック全てと、直接または間接的に同時に噛み合う第一同期用歯車と、
を含む、ことを特徴とするグリッパ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、油圧または空圧で駆動されるグリッパ装置を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来から、物品を把持するための装置としてグリッパ装置が広く知られている。グリッパ装置は、複数のグリッパ爪を、互いに接近または離間させることで、物品を把持または把持解除する装置である。かかるグリッパ装置は、例えば、ロボットのエンドエフェクタとして利用される。
【0003】
こうしたグリッパ装置として、油圧または空圧で駆動されるグリッパ装置がある(例えば特許文献1参照)。この場合、油圧または空圧で作動するシリンダを用いてグリッパ爪を進退させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-96484号公報
【文献】特開2019-76973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、一般にグリッパ装置は、重い物や異なるサイズの物も把持できるように、把持力およびストロークの双方が大きいことが望まれる。油圧または空圧のシリンダを駆動源とするグリッパ装置の場合、そのストロークは、シリンダの長さに依存する。また、グリッパ装置の把持力は、シリンダの受圧面積に依存する。ここで、当然ながら、シリンダの体積が同一であれば、受圧面積を大きくすれば、その分、ストロークが小さくなる。つまり、シリンダの体積が同一の場合、グリッパ装置の把持力を大きくすればストロークが小さくなり、ストロークを大きくすれば把持力が小さくなり、大把持力と大ストロークとの両立は困難であった。もちろん、シリンダの体積を増加させれば、大把持力と大ストロークとの両立は可能であるが、この場合、グリッパ装置全体の大型化、大重量化を招く。
【0006】
そこで、本明細書では、大型化を避けつつ、大把持力および大ストロークの両立が可能なグリッパ装置を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書で開示するグリッパ装置は、互いに連動して移動可能な複数のグリッパ爪と、複数の前記グリッパ爪それぞれに対応して設けられた複数の直動部と、前記複数の直動部の動きの同期をとる同期機構と、油圧または空圧により直進進退し、前記直動部または前記同期機構に駆動力を与える第一シリンダと、油圧または空圧により直進進退し、前記第一シリンダよりもストロークが小さく、前記第一シリンダよりも駆動力が大きい第二シリンダと、前記第二シリンダと前記同期機構を機械的に、連結および連結解除するクラッチを含む伝達機構と、を備える。
【0008】
この場合、前記直動部は、対応する前記グリッパ爪と機械的に連結された直動体を含み、前記同期機構は、各直動体に1以上形成された爪側ラックと、前記爪側ラックに噛み合う1以上の同期用歯車と、を含んでもよい。
【0009】
また、前記伝達機構および前記同期機構は、前記第二シリンダの駆動力を増幅して前記直動部に伝達してもよい。
【0010】
また、前記クラッチは、前記第二シリンダが第一の向きに直進した場合に、前記同期機構と連結して前記第二シリンダの駆動力を前記同期機構に伝達し、前記第二シリンダが前記第一の向きと逆の第二の向きに直進した場合に前記同期機構との連結を解除するワンウェイクラッチであってもよい。
【0011】
この場合、前記伝達機構は、前記第二シリンダと、常時、連結され、第二シリンダの進退に応じて回転する外輪と、前記外輪の軸方向端面に形成され、その周面がカム面として機能するポケットと、前記同期機構と、常時、連結され、前記ポケット内において前記外輪と同心配置された内輪と、前記カム面と前記外輪との間に配置され中継ローラであって、前記外輪が第一の回転方向に回転した際に前記カム面および前記外輪の双方に密着する連結状態となり、前記外輪が前記第一の回転方向と逆の第二の回転方向に回転した際に前記カム面および前記外輪の少なくとも一方から離間した解除状態となる中継ローラと、前記中継ローラを前記連結状態となる方向に付勢する付勢部材と、を備えたカム式ワンウェイクラッチを含んでもよい。
【0012】
また、前記伝達機構は、前記第二シリンダと、常時、連結され、第二シリンダの進退に応じて回転する内輪と、前記内輪の軸方向端面に形成され、その周面がカム面として機能するポケットと、前記同期機構と、常時、連結され、前記内輪と同心配置された外輪と、前記カム面と前記外輪との間に配置され中継ローラであって、前記内輪が第一の回転方向に回転した際に前記カム面および前記外輪の双方に密着する連結状態となり、前記内輪が前記第一の回転方向と逆の第二の回転方向に回転した際に前記カム面および前記外輪の少なくとも一方から離間した解除状態となる中継ローラと、前記中継ローラを前記連結状態となる方向に付勢する付勢部材と、を備えたカム式ワンウェイクラッチを含んでもよい。
【0013】
また、前記伝達機構は、前記第二シリンダと、常時、連結され、第二シリンダの進退に応じて揺動するレバーと、前記レバーと連結され、前記レバーの揺動に応じて揺動するラチェット爪と、前記同期機構と、常時、連結され、前記同期機構とともに動くラチェット歯車であって、前記ラチェット爪が第一の揺動方向に揺動した際には回転し、前記ラチェット爪が前記第一の揺動方向と逆の第二の揺動方向に揺動した際には回転しないラチェット歯車と、を備えたラチェット式ワンウェイクラッチを含んでもよい。
【0014】
また、前記伝達機構は、前記同期機構と、常時、連結され、前記同期機構とともに動く出力側ホイールと、前記第二シリンダと、常時、連結され、前記第二シリンダの進退に応じて回転する入力側ホイールであって、軸方向に進出することで、前記出力側ホイールの少なくとも一部と周方向に係合する入力側ホイールと、前記入力側ホイールを軸方向に進退させるアクチュエータと、を備えた噛み合いクラッチを含んでもよい。
【0015】
また、前記複数のグリッパ爪は、N≧3とした場合に、N個のグリッパ爪を含み、前記N個のグリッパ爪は、N個の辺で構成される多角形の辺に沿って進退可能であり、前記直動部は、対応する前記グリッパ爪と機械的に連結された直動体を含み、前記同期機構は、各直動体に形成された爪側ラックと、前記多角形の中心と同心に配され、N個の爪側ラック全てと、直接または間接的に同時に噛み合う第一同期用歯車と、を含んでもよい。
【発明の効果】
【0016】
本明細書で開示するグリッパ装置によれば、大型化を避けつつ、大把持力および大ストロークの両立が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】グリッパ装置を前方から見た斜視図である。
図2】グリッパ装置を後方から見た斜視図である。
図3】グリッパ装置の駆動システムの構成を示す図である。
図4図1から表カバーを取り外した様子を示す模式図である。
図5図2から裏カバーを取り外した図である。
図6】伝達機構の一部のみを取り出した斜視図である。
図7】第二シリンダが完全収縮した状態の伝達機構の正面図である。
図8】第二シリンダが図7の状態から伸長した状態の伝達機構の正面図である。
図9】カム式ワンウェイクラッチの他の例を示す図である。
図10】他のグリッパ装置の斜視図である。
図11図10のグリッパ装置に搭載された同期機構の構成を示す図である。
図12】第二シリンダが完全収縮した状態の図11の伝達機構の正面図である。
図13】第二シリンダが図12の状態から伸長した状態の伝達機構の正面図である。
図14】伝達機構の他の例を示す図である。
図15】複数のグリッパ爪を有するグリッパ装置の斜視図である。
図16図15のグリッパ装置に搭載された同期機構の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照してグリッパ装置10の構成について説明する。図1は、グリッパ装置10を前方から見た斜視図であり、図2は、グリッパ装置10を後方から見た斜視図である。また、図3は、グリッパ装置10の駆動システムの構成を示す図である。このグリッパ装置10は、ロボット(図示せず)のエンドエフェクタとして利用されるものである。グリッパ装置10は、一対のグリッパ爪12を有している。一対のグリッパ爪12は、互いに接近または離間する方向に進退可能であり、一対のグリッパ爪12が互いに接近することで、当該一対のグリッパ爪12で物品を挟持できる。
【0019】
このグリッパ爪12の駆動源として、第一シリンダ14(図1参照)および第二シリンダ16(図2参照)が設けられている。第一シリンダ14および第二シリンダ16は、いずれも、空圧で駆動するエアシリンダである。グリッパ装置10の利用時には、第一シリンダ14および第二シリンダ16は、それぞれ、図3に示すように、第一シリンダ駆動ユニット20および第二シリンダ駆動ユニット22に接続される。各シリンダ駆動ユニット20,22は、対応するシリンダ14,16を駆動するためのユニットであり、少なくともエアコンプレッサを有し、さらに、弁、空気タンク等を含んでもよい。こうしたシリンダ駆動ユニット20,22の駆動は、コントローラ18により制御される。コントローラ18は、プロセッサとメモリとを有したコンピュータであり、例えば、グリッパ装置10が搭載されるロボットのコントローラを、グリッパ装置10のコントローラ18として用いてもよい。図3の構成から明らかなとおり、第一シリンダ14および第二シリンダ16は、互いに独立して駆動可能である。
【0020】
また、本例では、第一シリンダ14は、大ストロークである一方で、駆動力が小さい小型シリンダである。また、第二シリンダ16は、第一シリンダ14に比べて駆動力が大きいものの、そのストロークが、第一シリンダに比べて小さい。したがって、第二シリンダ16も、ストロークを小さく抑えた小型シリンダである。
【0021】
第一シリンダ14の動きは、直動部30a,30bおよび同期機構32を介して各グリッパ爪12に伝達される。これについて、図4を参照して説明する。図4は、図1から表カバー40を取り外した様子を示す模式図である。図4に示すように、直動部30a,30bは、グリッパ爪12それぞれに対応して一つずつ設けられている。なお、直動部30a,30bについては、両者を区別しない場合には、添え字a,bを省略し、「直動部30」と表記する。後述する外筒44および直動体42についても同様である。
【0022】
各直動部30は、外筒44と、直動体42と、を有している。直動体42は、グリッパ爪12の進退方向に長尺な筒状部材である。この直動体42は、対応するグリッパ爪12に機械的に連結されており、直動体42が直動進退することで、グリッパ爪12が直動進退する。二つの直動体42は、後述する同期用歯車50を挟んで、ほぼ180度回転対称の配置となっている。この直動体42の周面には、進退方向に延びるスプライン溝46が1以上形成されている。このスプライン溝46には、後述する外筒44のガイド突起(図示せず)が嵌り込んでおり、これにより、直動体42の回転が防止され、直動体42の移動方向が規制される。
【0023】
また、直動体42の周面には、さらに、進退方向に延びる爪側ラック48も形成されている。この爪側ラック48は、同期機構32を構成するもので、同期用歯車50と噛み合うラックである。また、二つの直動体42のうち、一方の直動体42aには、第一シリンダ14のピストン14aが機械的に連結されており、第一シリンダ14の駆動に伴い、直進進退できる。
【0024】
外筒44は、固定部材(例えば表カバー40等)に対して固定されており、グリッパ爪12の進退に関わらず、位置固定となっている。この外筒44の途中には、直動体42の爪側ラック48を同期用歯車50に対して露出させるための開口が形成されている。また、外筒44の内周面には、スプライン溝46に係合するガイド突起(図示せず)が形成されている。
【0025】
同期機構32は、二つの直動体42の動きの同期をとる。この同期機構32は、二つの直動体42に形成された爪側ラック48と、当該爪側ラック48に噛み合う同期用歯車50と、を有している。同期用歯車50は、図4に示すように、二つの直動部30それぞれに形成された二つの爪側ラック48に同時に噛み合う歯車である。かかる同期用歯車50を設けることで、二つの直動体42の動きが同期する。
【0026】
具体的に、グリッパ爪12の動きについて説明する。第一シリンダ14の伸長に伴い、一つの直動体42aが図4の下方に直進した場合、この直動体42aに形成された爪側ラック48も、図4の下方に直進することになる。その結果、当該爪側ラック48に噛み合う、同期用歯車50は、図4における反時計回り方向に回転する。同期用歯車50が反時計回り方向に回転すると、他方の直動体42bは、図4の上方に直進することになる。すなわち、第一シリンダ14が伸長した場合、二つのグリッパ爪12は、互いに離れる方向に移動し、グリッパ爪12が開くことになる。第一シリンダ14が収縮した場合には、上記と逆の動きとなり、二つのグリッパ爪12は、互いに近づく方向に移動し、グリッパ爪12が閉じることになる。
【0027】
ここで、本例では、グリッパ爪12および直動体42で構成される可動体が二つ存在することになる。この二つの可動体の質量は、ほぼ同じであるため、互いがカウンターウェイトとして機能する。そのため、第一シリンダ14の小さな駆動力でも、二つのグリッパ爪12および二つの直動体42を動かせることができる。ただし、第一シリンダ14は、上述した通り、大ストロークではあるものの、その駆動力が小さい。そのため、第一シリンダ14だけでは、グリッパ装置10の把持力は小さくなり、重量物等をグリッパ装置10で保持することが難しい。そこで、本例では、第二シリンダ16と第二シリンダ16の動きを伝達する伝達機構34と、を設けている。
【0028】
第二シリンダ16は、上述した通り、第一シリンダ14よりも小ストローク、大駆動力のエアシリンダである。伝達機構34は、この第二シリンダ16の駆動を、同期用歯車50に伝達する。ただし、伝達機構34は、第二シリンダ16の駆動力を、第二シリンダ16が、伸長した場合にのみ伝達し、収縮した場合には伝達しない、カム式ワンウェイクラッチ構造となっている。この伝達機構34の構成について図5図8を参照して説明する。図5は、図2から裏カバー54を取り外した図である。また、図6は、伝達機構34の一部のみを取り出した斜視図である。また、図7は、第二シリンダ16が完全収縮した状態の伝達機構34の正面図であり、図8は、第二シリンダ16が図7の状態から伸長した状態の伝達機構34の正面図である。
【0029】
伝達機構34は、可動ブロック55と、外輪58と、内輪60と、中継ローラ62と、ばねプランジャ70(図5図7では見えず、図6図8参照)と、固定ピン72と、を有している。可動ブロック55は、第二シリンダ16のピストン16aと常時連結され、当該ピストン16aとともに直進進退する。この可動ブロック55の周面には、その進退方向に延びる入力ラック56が形成されている。
【0030】
外輪58は、その外周面に歯車が形成された回転体である。この外輪58は、入力ラック56を介して、第二シリンダ16と常時、機械的に連結されており、第二シリンダ16の進退に応じて回転する。ここで、図5の例では、外輪58は、第二シリンダ16が伸長した場合に、反時計周り方向に、第二シリンダ16が収縮した場合に、時計回り方向に回転する。以下では、この第二シリンダ16が伸長した際の外輪58の回転方向(すなわち、図5における反時計回り方向)を「第一の回転方向R1」、第二シリンダ16が収縮した際の外輪58の回転方向(すなわち、図5における時計回り方向)を「第二の回転方向R2」と呼ぶ。
【0031】
外輪58の軸方向端面には、凹部であるポケット64が形成されている。このポケット64の周面は、後述する中継ローラ62の位置を規制するカム面66として機能する。ポケット64の外形は、軸方向視で略十字状である。そのため、内輪60の外周面とカム面66とで囲まれる空間は、四つの略矩形が90度間隔で並ぶような形状となる。以下では、この略矩形の空間を「ポケット片64a」と呼び、カム面66と内輪60の外周面との幅を「ポケット幅D」と呼ぶ。カム面66は、ポケット幅Dが、第一の回転方向R1の端部から、第二の回転方向R2に進むにつれて、徐々に小さくなるように、傾いている。
【0032】
ポケット64内には、内輪60および中継ローラ62が配されている。内輪60は、外輪58と同心配置された回転体である。この内輪60は、出力軸61を介して、同期用歯車50に常時、機械的に連結されている。そのため、内輪60と同期用歯車50は、常に同期して回転する。後述するように、内輪60は、外輪58が第一の回転方向R1に回転した場合、中継ローラ62を介して外輪58と連結され、外輪58と同じ方向(すなわち第一の回転方向R1)に回転する。外輪58および内輪60が第一の回転方向R1に回転した場合、同期用歯車50は、一対のグリッパ爪12を閉じる方向(図4における時計回り方向)に回転する。
【0033】
中継ローラ62は、内輪60の外周面とカム面66との間に配置されるローラである。また、中継ローラ62は、一つのポケット片64aに一つずつ、合計4つ設けられている。ここで、ポケット片64aの第一の回転方向R1側の端部付近におけるポケット幅Dは、中継ローラ62の直径よりも十分に大きい。したがって、中継ローラ62が、図7に示すように、第一の回転方向R1側の端部に位置している場合、中継ローラ62は、カム面66(ひいては外輪58)および内輪60の少なくとも一方と離間した状態となる。以下では、この中継ローラ62が、外輪58および内輪60の少なくとも一方と離間する位置を「解除位置」と呼ぶ。
【0034】
一方、ポケット片64aの周方向中心付近において、ポケット幅Dは、中継ローラ62の直径よりも小さい。したがって、中継ローラ62が、図8に示すように、ポケット片64aの周方向中心付近に位置すると、中継ローラ62は、カム面66(ひいては外輪58)と内輪60の双方に密着することなる。以下では、この中継ローラ62が、外輪58および内輪60の双方に密着する位置を「連結位置」と呼ぶ。
【0035】
ポケット片64aの第一の回転方向R1側の端面には、ばねプランジャ70が埋め込まれている。このばねプランジャ70は、中継ローラ62を第二の回転方向R2、換言すれば、連結位置に進む方向に向かって付勢する。また、各ポケット片64aの底面には、カム孔68が形成されており、このカム孔68には、固定ピン72が挿通されている。固定ピン72は、固定部材(例えば裏カバー54など)に固定されたピンである。固定ピン72は、固定されているため、外輪58の回転に伴い、この固定ピン72と中継ローラ62との相対位置関係が変化する。
【0036】
次に、こうした伝達機構34による動力の伝達について図7図8を参照して説明する。図7に示すように、第二シリンダ16が完全収縮した場合、固定ピン72は、中継ローラ62を、ばねプランジャ70の付勢力に抗して、第一の回転方向R1に押圧する。このとき、中継ローラ62は、解除位置にあり、カム面66および内輪60の外周面の少なくとも一方と離間する。したがって、この場合、外輪58の回転は、内輪60に伝達されず、内輪60の回転は、外輪58に伝達されない。その結果、図7の状態では、第一シリンダ14の進退に伴い、同期用歯車50が回転したとしても、内輪60が回転するだけであり、外輪58や可動ブロック55は、影響を受けない。
【0037】
一方、第二シリンダ16が伸長した場合、外輪58は、第一の回転方向R1に回転する。これに伴い、中継ローラ62は、固定ピン72から離れる方向に移動する。固定ピン72と中継ローラ62が離間することで、中継ローラ62は、ばねプランジャ70の付勢力により第二の回転方向R2に押し上げられる。この状態になれば、中継ローラ62は、時計回り方向に公転する。この公転に伴い、中継ローラ62は、連結位置へと移動する。中継ローラ62が連結位置に到達すると、くさび作用により、中継ローラ62は、内輪60および外輪58の双方に強固に密着し、自転を停止する。その結果、外輪58の回転が、中継ローラ62を介して内輪60に伝達され、外輪58は、内輪60とともに第一の回転方向R1に回転する。
【0038】
つまり、本例によれば、第二シリンダ16が伸長した場合には、くさび効果が発生し、外輪58の回転が、中継ローラ62を介して、内輪60に伝達される。ここで、内輪60は、同期用歯車50に常時連結されている。そのため、第二シリンダ16が伸長した場合には、第二シリンダ16の駆動力が、内輪60、同期用歯車50、直動体42を介して、一対のグリッパ爪12に、当該グリッパ爪12を閉じる力として伝達される。そして、これにより、グリッパ爪12の把持力を増加させることができる。
【0039】
なお、図8の状態から第二シリンダ16が収縮した場合、外輪58は、第二の回転方向R2に回転し、中継ローラ62は、反時計回り方向、すなわち、連結位置から離れる方向に公転する。その結果、中継ローラ62と、カム面66および外輪58との摩擦抵抗が小さくなり、外輪58の回転は、内輪60に伝達されない。つまり、本例の構成によれば、第二シリンダ16の伸長の動きは、内輪60、ひいては、グリッパ爪12に伝達されるが、第二シリンダ16の収縮の動きは、グリッパ爪12に伝達されない。また、第二シリンダ16が、完全収縮した状態では、第一シリンダ14の動きは、外輪58に伝達されない。
【0040】
次に、こうしたグリッパ装置10の駆動制御について簡単に説明する。グリッパ爪12を用いて物体を把持する場合、コントローラ18は、予め、第二シリンダ16を完全収縮させ、第二シリンダ16とグリッパ爪12との連結を解除しておく。その状態で、コントローラ18は、第一シリンダ14を伸長させて、一対のグリッパ爪12を開かせる。ここで、第一シリンダ14は、駆動力が小さいものの、ストロークが大きい。そのため、グリッパ爪12の移動ストロークを大きくできる。
【0041】
一対のグリッパ爪12の間に、把持対象の物体が位置すれば、コントローラ18は、第一シリンダ14を収縮させ、一対のグリッパ爪12を閉じる。そして、一対のグリッパ爪12が物体に当接すれば、第一シリンダ14の駆動を停止する。コントローラ18は、このグリッパ爪12が物体に当接する直前、または、当接した直後において、第二シリンダ16の伸長を開始する。第二シリンダ16が伸長することにより、外輪58が第一の回転方向R1に回転し、中継ローラ62が、外輪58および内輪60の双方に接触し、連結される。これにより、外輪58の動きが、中継ローラ62を介して外輪58に伝達され、外輪58の動きが、同期用歯車50等を介して、グリッパ爪12に伝達される。第二シリンダ16は、第一シリンダ14に比べて、駆動力が大きいため、当該第二シリンダ16の力をグリッパ爪12に伝達することで、大きな把持力が得られる。また、外輪58の直径は、同期用歯車50のピッチ円直径に比べて十分に大きく、外輪58の回転力、ひいては、第二シリンダ16の駆動力は、増幅されて、同期用歯車50に伝達される。その結果、グリッパ装置10の把持力をより増加できる。
【0042】
以上の説明で明らかなとおり、本例では、大ストロークで小駆動力の第一シリンダ14でグリッパ爪12を開閉するとともに、把持力が必要な場合だけ、小ストロークで大駆動力の第二シリンダ16の力をグリッパ爪12に伝達している。その結果、大型のエアシリンダを用いることなく、大ストロークで、大把持力を有したグリッパ装置10が得られる。そして、大きな把持力により、グリッパ爪12と物体との間に大きな摩擦力が発生し、物品を滑らずに持つことが可能となる。
【0043】
なお、上述の説明では、外輪58が第二シリンダ16に、内輪60が同期機構32と常時連結されているが、この連結関係は、逆でもよい。例えば、図9に示すように、内輪60の中心に、軸方向紙面手前側に突出する入力歯車74を形成しておき、この入力歯車74に入力ラック56を噛み合わせてもよい。この場合、外輪58の中心に、軸方向紙面奥側に延びる出力軸61を設け、この出力軸61を同期用歯車50に固着しておく。また、この場合、図9に示すように、内輪60にポケット64を形成し、このポケット64のカム面66に、ばねプランジャ70を埋め込んでもよい。
【0044】
次に、グリッパ装置10の他の構成について説明する。図10は、他のグリッパ装置10の斜視図である。このグリッパ装置10では、同期機構32は、二つの同期用歯車76,78(図10では、符号76を省略、図11参照)を有しており、また、伝達機構34にラチェットを利用している。はじめに、同期機構32の構成について説明する。図11は、図10のグリッパ装置10に搭載された同期機構32の構成を示す図である。図1図2に示すグリッパ装置10と同様に、このグリッパ装置10も、二つの直動体42a,42bを有している。このうち、第一シリンダ14と直接連結されている直動体42aには、爪側ラック48が一つ形成されている。また、もう一つの直動体42bには、当該直動体42の中心軸を挟んで180度対称となる位置に爪側ラック48が二つ形成されている。
【0045】
同期機構32は、各直動体42に形成された爪側ラック48と、二つの直動体42a,42bの間に配置される第一同期用歯車76と、直動体42bを挟んで第一同期用歯車76の反対側に配置される第二同期用歯車78と、を有している。第一同期用歯車76は、二つの直動体42a,42bそれぞれに形成された二つの爪側ラック48に同時に噛み合っており、二つの直動体42a,42bの動きの同期をとる。また、第二同期用歯車78は、直動体42bのもう一つの爪側ラック48と噛み合っている。この第二同期用歯車78は、伝達機構34の出力軸61に固定されており、当該出力軸61とともに回転する。
【0046】
次に、図10のグリッパ装置10に搭載されている伝達機構34について参照して説明する。図12図13は、伝達機構34の構成を示す図である。伝達機構34は、可動ブロック55と、揺動レバー80と、ラチェット爪82と、ラチェット歯車84と、を有している。可動ブロック55は、第二シリンダ16のピストン16aに直接、機械的に連結されており、ピストン16aとともに直進進退する。この可動ブロック55の周面からは、可動ピン86が立脚している。
【0047】
揺動レバー80は、出力軸61と可動ピン86との間に架け渡され、出力軸61を中心として揺動可能なレバーである。この揺動レバー80には、第一カム孔90が、形成されており、この第一カム孔90に可動ピン86が挿通されている。第二シリンダ16の駆動に伴い、可動ピン86が昇降すると、揺動レバー80は、当該可動ピン86に押されて、出力軸61を中心として揺動する。
【0048】
ラチェット歯車84は、その外周面に、鋸歯状の歯が形成されている。このラチェット歯車84は、出力軸61に固定されており、出力軸61とともに回転する。また、上述した通り、出力軸61には、第二同期用歯車78も固定されている。したがって、ラチェット歯車84が回転することで、第二同期用歯車78も回転し、一対のグリッパ爪12が直動する。なお、図示例では、一対のグリッパ爪12は、ラチェット歯車84が時計回り方向に回転することで閉じる方向に移動し、ラチェット歯車84が反時計回り方向に回転することで開く方向に移動する。
【0049】
揺動レバー80の途中には、ラチェット爪82が取り付けられている。ラチェット爪82の末端は、ラチェット歯車84の鋸歯状の歯に係合可能な歯止め82aとして機能する。このラチェット爪82は、揺動レバー80に設けられた回転軸88を中心として、揺動レバー80に対して揺動可能となっている。また、ラチェット爪82の途中には、第二カム孔92が形成されている。この第二カム孔92には、固定部材(例えば裏カバー54等)に固定された固定ピン72が挿通されている。この第二カム孔92と固定ピン72との当接関係により、ラチェット爪82の揺動方向が規定される。
【0050】
より具体的に説明すると、図12に示すように、第二シリンダ16が完全収縮している場合、ラチェット爪82は、歯止め82aが、ラチェット歯車84と離間する位置および姿勢をとる。第二シリンダ16が完全収縮した状態から伸長し始めると、ラチェット爪82は、ラチェット歯車84に徐々に近づく方向に揺動し、図13に示すように歯止め82aがラチェット歯車84の歯に係合する。その状態からさらに第二シリンダ16が、伸長すると、ラチェット爪82は、歯止め82aがラチェット歯車84の周方向かつ時計回り方向に進むように揺動する。また、第二シリンダ16が、完全伸長した状態から収縮した場合は、ラチェット爪82は、上記とは逆の方向に揺動する。以下では、第二シリンダ16が伸長した時のラチェット爪82の揺動方向を「第一の揺動方向」と呼び、第二シリンダ16が収縮した時のラチェット爪82の揺動方向を「第二の揺動方向」と呼ぶ。
【0051】
ここで、図13から明らかな通り、ラチェット歯車84の各歯98は、第一辺98aと、第一辺98aよりも反時計回り方向に位置する第二辺98bと、で構成されており、第一辺98aは、周方向に対する傾きが緩やかであるが、第二辺98bは、周方向に対する傾きが急峻である。この場合、この歯98に係合した歯止め82aが時計回り方向に動いた場合、すなわちラチェット爪82が第一の揺動方向S1に揺動した場合、歯止め82aにより、第一辺98aが押圧されることになるため、ラチェット歯車84は当該歯止め82aとともに時計回り方向に動く。一方、歯98に係合した歯止め82aが反時計回り方向に動いた場合、すなわち、ラチェット爪82が第二の揺動方向S2に揺動した場合、当該歯止め82aは、傾きが緩やかな第二辺98bの表面を滑り、歯98を乗り越える。その結果、歯止め82aが反時計回り方向に動いた場合には、ラチェット歯車84は回転することなく静止した状態を維持する。つまり、本例では、ラチェット爪82が第一の揺動方向S1に揺動すれば、ラチェット爪82からラチェット歯車84への動力伝達が可能となり、ラチェット爪82が第二の揺動方向S2に揺動した場合には、ラチェット爪82からラチェット歯車84への動力伝達が切断されることになる。別の言い方をすれば、本例の伝達機構34は、第二同期用歯車96に、第二シリンダ16が伸長したときの駆動力のみを伝達し、第一シリンダ14が収縮した時の駆動力は伝達しない、ラチェット式ワンウェイクラッチとして機能する。
【0052】
次に、こうした伝達機構34による動力の伝達について説明する。図12に示すように、第二シリンダ16が完全収縮した場合、ラチェット爪82は、ラチェット歯車84と離間している。したがって、この場合、第二同期用歯車96の回転は、ラチェット爪82には伝達されない。その結果、図12の状態では、第一シリンダ14の進退に伴い、第二同期用歯車78が回転したとしても、ラチェット歯車84が回転するだけであり、ラチェット爪82や揺動レバー80は、影響を受けない。
【0053】
一方、第二シリンダ16が伸長した場合、ラチェット爪82は、第一の揺動方向に揺動し、図13に示すように、ラチェット歯車84と係合する。この状態からさらに第二シリンダ16が伸長すれば、ラチェット爪82の歯止め82aは、ラチェット歯車84の周方向かつ時計回り方向へと動く。これにより、第二シリンダ16の駆動力が、ラチェット爪82を介してラチェット歯車84に伝達され、さらに、ラチェット歯車84の動きが、第二同期用歯車78等を介して、一対のグリッパ爪12に、当該グリッパ爪12を閉じる力として伝達される。そして、これにより、グリッパ爪12の把持力を増加させることができる。また、揺動レバー80の揺動半径は、第二同期用歯車78のピッチ円直径に比べて十分に大きい。そのため、揺動レバー80の揺動する力、ひいては、第二シリンダ16の駆動力は、増幅されて、第二同期用歯車78に伝達される。その結果、グリッパ装置10の把持力をより増加できる。
【0054】
図13の状態から第二シリンダ16が収縮し、ラチェット爪82が、第二の揺動方向に揺動した場合には、上述した通り、ラチェット爪82の歯止め82aは、ラチェット歯車84の歯を乗り越えて動くため、ラチェット歯車84には、第二シリンダ16の駆動力は伝達されない。つまり、本例の構成によれば、第二シリンダ16の伸長の動きは、ラチェット歯車84、ひいては、グリッパ爪12に伝達されるが、第二シリンダ16の収縮の動きは、グリッパ爪12に伝達されない。また、第二シリンダ16が、完全収縮した状態では、第一シリンダ14の動きは、ラチェット爪82に伝達されない。また、こうしたグリッパ装置10の駆動制御については、図1図2に示したグリッパ装置10と同様であるためここでの説明は省略する。
【0055】
以上の説明から明らかな通り、図10に示したグリッパ装置10でも、大ストロークで小駆動力の第一シリンダ14でグリッパ爪12を開閉するとともに、把持力が必要な場合だけ、小ストロークで大駆動力の第二シリンダ16の力をグリッパ爪12に伝達している。その結果、大型のエアシリンダを用いることなく、大ストロークで、大把持力を有したグリッパ装置10が得られる。
【0056】
次に、グリッパ装置10の他の構成について説明する。図14は、他のグリッパ装置10で用いられる伝達機構34の斜視図である。上述のグリッパ装置10の伝達機構34は、ワンウェイクラッチを有していたが、図14の伝達機構34は、噛み合いクラッチを有している。具体的には、伝達機構34は、アクチュエータ100と、入力側ホイール102と、出力側ホイール104と、を有している。出力側ホイール104の中心からは、出力軸61が軸方向に延びており、この出力軸61が同期機構32に機械的に連結されている。また、出力側ホイール104の軸方向端面からは、複数の噛み合い歯104aが軸方向に立脚している。複数の噛み合い歯104aは、図14に示すように、周方向に間隔を開けて並んでいる。
【0057】
入力側ホイール102は、出力側ホイール104と軸方向に対向配置されている。この入力側ホイール102の軸方向端面からは、噛み合い歯104aに対応する噛み合い歯102aが立脚している。この噛み合い歯102aは、入力側ホイール102が、出力側ホイール104に接近すると、噛み合い歯104aと噛み合う。換言すれば、入力側ホイール102は、軸方向に進出することで、出力側ホイール104の一部と周方向に係合し、出力側ホイール104とともに回転する。
【0058】
また、入力側ホイール102の外周面には、歯車102bが形成されている。この歯車102bは、第二シリンダ16とともに進退する入力ラック56(図5参照)と噛み合っている。そして、入力ラック56と歯車102bとが噛み合うことで、入力側ホイール102は、第二シリンダ16の進退に連動して、回転する。
【0059】
アクチュエータ100は、入力側ホイール102を軸方向に進退させる。このアクチュエータ100の構成は、特に限定されないが、図示例では、アクチュエータ100は、軸方向に進退可能なピストン100aを有した空圧シリンダである。入力側ホイール102は、軸受等を介して、ピストン100aに回転可能に取り付けられている。アクチュエータ100が、入力側ホイール102を進出させると、入力側ホイール102は、出力側ホイール104と周方向に係合する。これにより、第二シリンダ16の進退運動が、入力側ホイール102、出力側ホイール104を介して、同期機構32に伝達される。一方、アクチュエータ100が、入力側ホイール102を後退させると、入力側ホイール102と出力側ホイール104との係合が解除される。そして、これにより、第二シリンダ16の進退運動が同期機構32に伝達されなくなる。なお、入力側ホイール102の進退により、入力ラック56と歯車102bの噛み合いが外れることはない。
【0060】
グリッパ装置10を運用する際には、入力側ホイール102と出力側ホイール104との係合を解除した状態で、第一シリンダ14を駆動して、グリッパ爪12を閉じさせ、一対のグリッパ爪12で物品を把持させる。その後、一対のグリッパ爪12が物体に当接すれば、第一シリンダ14の駆動を停止する。コントローラ18は、グリッパ爪12が物体に当接する直前、または、当接した直後において、アクチュエータ100で入力側ホイール102を進出させるとともに、第二シリンダ16を伸長させ、入力側ホイール102を回転させる。これにより、入力側ホイール102は、回転しつつ出力側ホイールに接近し、噛み合い歯102a,104aが互いに噛み合う。そして、これにより、第二シリンダ16の伸長の動きが、入力側ホイール102、出力側ホイール104、同期機構32を介してグリッパ爪12に伝達される。これにより、グリッパ爪12に、大きな把持力が発生し、物品をより確実に把持できる。
【0061】
物品の把持を解除する場合、コントローラ18は、アクチュエータ100で入力側ホイール102を後退させる。これにより、入力側ホイール102と出力側ホイール104との係合が解除され、第二シリンダ16と同期機構32との連結が解除される。この状態になれば、コントローラ18は、第一シリンダ14を駆動して、一対のグリッパ爪12を開ければよい。
【0062】
以上の説明から明らかな通り、図14に示した伝達機構34でも、大ストロークで小駆動力の第一シリンダ14でグリッパ爪12を開閉するとともに、把持力が必要な場合だけ、小ストロークで大駆動力の第二シリンダ16の力をグリッパ爪12に伝達している。その結果、大型のエアシリンダを用いることなく、大ストロークで、大把持力を有したグリッパ装置10が得られる。
【0063】
なお、これまで説明した構成は、一例であり、大ストロークで小駆動力の第一シリンダ14でグリッパ爪12を開閉するとともに、把持力が必要な場合だけ、小ストロークで大駆動力の第二シリンダ16の力をグリッパ爪12に伝達するのであれば、その他の構成は、適宜変更されてもよい。例えば、これまでの説明では、第一シリンダ14を、直動体42の外部に配置しているが、第一シリンダ14は、直動体42の内部に組み込んでもよい。かかる構成とすることで、グリッパ装置10をより小型化できる。
【0064】
また、これまでの説明では、グリッパ爪12が二つの場合を例に挙げて説明したが、グリッパ爪12の個数は、二つに限らず、三つ以上でもよい。図15は、複数(図示例では3つ)のグリッパ爪12を有するグリッパ装置10の斜視図である。また、図16は、図15のグリッパ装置10に搭載された同期機構32の構成を示す図である。グリッパ爪12の個数をNとした場合、複数のグリッパ爪12は、N個の辺で構成される多角形の互いに異なる辺に沿って直進進退する。図15の例では、グリッパ爪12の個数は三つであるため、当該三つのグリッパ爪12は、3個の辺で構成される正多角形、すなわち、正三角形の互いに異なる辺に沿って直進進退する。また、各グリッパ爪12には、直動部30が連結されており、各直動部30の直動体42(図16参照)には、同期機構32を構成する爪側ラック48が、形成されている。
【0065】
同期機構32は、さらに、正多角形の中心に配置された第一同期用歯車94と、三つの第二同期用歯車96と、を有している。第一同期用歯車94は、伝達機構34の出力軸61に固定されており、出力軸61とともに回転する。一方、第二同期用歯車96は、それぞれ対応する爪側ラック48および第一同期用歯車94の双方に噛み合う。この第一、第二同期用歯車94,96により、複数のグリッパ爪12の動きが同期される。
【0066】
また、これまでの説明では、第二シリンダ16が伸長する場合にのみ、その駆動力をグリッパ爪12に伝達していたが、これは、逆でもよい。すなわち、伝達機構34は、第二シリンダ16が収縮する際の駆動力のみを伝達し、第二シリンダ16が伸長する際の駆動力を伝達しない構成としてもよい。また、第一シリンダ14は、直動体42ではなく、同期用歯車50に連結されてもよい。また、これまでの説明では、第一、第二シリンダ14,16を、空圧で進退するエアシリンダとしているが、第一、第二シリンダ14,16を、油圧で進退する油圧シリンダでもよい。さらに、伝達機構34の構成は、必要に応じて、動力伝達を解除できるのであれば、適宜変更されてもよい。
【符号の説明】
【0067】
10 グリッパ装置、12 グリッパ爪、14 第一シリンダ、16 第二シリンダ、18 コントローラ、20 第一シリンダ駆動ユニット、22 第二シリンダ駆動ユニット、30 直動部、32 同期機構、34 伝達機構、40 表カバー、42 直動体、44 外筒、46 スプライン溝、48 爪側ラック、50 同期用歯車、54 裏カバー、55 可動ブロック、56 入力ラック、58 外輪、60 内輪、61 出力軸、62 中継ローラ、64 ポケット、66 カム面、68 カム孔、70 ばねプランジャ、72 固定ピン、76 第一同期用歯車、78 第二同期用歯車、80 揺動レバー、82 ラチェット爪、84 ラチェット歯車、86 可動ピン、88 回転軸、90 第一カム孔、92 第二カム孔、94 第一同期用歯車、96 第二同期用歯車、98 歯、100 アクチュエータ、102 入力側ホイール、104 出力側ホイール。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16