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特許7406470粒子線照射システム及びその制御方法並びに粒子線照射システムの制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】粒子線照射システム及びその制御方法並びに粒子線照射システムの制御装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
A61N5/10 H
A61N5/10 S
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020135881
(22)【出願日】2020-08-11
(65)【公開番号】P2022032270
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2022-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健太
(72)【発明者】
【氏名】大倉 曉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 友紀
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕平
【審査官】北村 龍平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/155868(WO,A1)
【文献】特開2009-045229(JP,A)
【文献】特開2011-000378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生部と、
前記荷電粒子ビーム発生部で発生させた荷電粒子ビームを照射対象に順次スポット照射する走査電磁石と前記荷電粒子ビームの照射量を計測する線量モニタとを備えた照射部と、
前記照射部で前記照射対象に照射する前記荷電粒子ビームの照射を開始または停止する信号を発生するスキャニングコントローラと、
前記スキャニングコントローラから出力された前記荷電粒子ビームの前記照射を開始または停止する信号を受けて前記荷電粒子ビーム発生部から前記照射部への前記荷電粒子ビームの出射を開始または停止する加速器・輸送系コントローラとを備えた粒子線照射システムであって、
前記スキャニングコントローラは、前記荷電粒子ビームの前記照射を停止する信号を受けた前記加速器・輸送系コントローラが前記荷電粒子ビーム発生部から前記照射部への前記荷電粒子ビームの出射を停止させたときに直前まで前記荷電粒子ビームを照射していたスポットにおける前記線量モニタで計測した前記スキャニングコントローラから前記照射を停止する信号が出力された後の照射量が次のスポットの目標照射量を超過しているとき、前記スポットの次のスポットへの前記荷電粒子ビームの照射をスキップさせるとの判定して前記加速器・輸送系コントローラを制御することを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項2】
荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生部と、
前記荷電粒子ビーム発生部で発生させた荷電粒子ビームを照射対象の複数のスポットに順次スポット照射する走査電磁石と前記荷電粒子ビームの照射量を計測する線量モニタとを備えた照射部と、
前記照射部で前記照射対象に照射する前記荷電粒子ビームの照射を開始または停止する信号を発生するスキャニングコントローラと、
前記スキャニングコントローラから出力された前記荷電粒子ビームの前記照射を開始または停止する信号を受けて前記荷電粒子ビーム発生部から前記照射部への前記荷電粒子ビームの出射を開始または停止する加速器・輸送系コントローラとを備えた粒子線照射システムであって、
前記スキャニングコントローラは、前記加速器・輸送系コントローラを制御して前記複数のスポットに前記荷電粒子ビームを連続して照射し、前記線量モニタで計測した前記連続して照射する前記複数のスポットの総照射量が所定の照射量に達したときに前記荷電粒子ビームの前記照射を停止する信号を前記加速器・輸送系コントローラに出力し、前記停止する信号が出力された後の前記線量モニタで計測した照射量が次のスポットの目標照射量を超過しているとき、前記連続して照射する前記複数のスポットの次に連続して照射する複数のスポットにおいて、最初のスポットへの前記荷電粒子ビームの照射をスキップさせるとの判定して前記加速器・輸送系コントローラを制御することを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の粒子線照射システムであって、
前記スキャニングコントローラは、前記線量モニタで計測した前記荷電粒子ビームを照射したスポットにおける前記荷電粒子ビームの照射量の計測値が予め設定した量よりも大きい場合には前記計測値の正常・異常を判定し、前記計測値が予め設定した量よりも小さい場合には前記計測値の正常・異常の判定をスキップすることを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項4】
請求項3記載の粒子線照射システムであって、
前記スキャニングコントローラは、前記計測値の正常・異常の判定をスキップしたスポットにおける前記計測値の累計を予め設定した閾値と比較して前記計測値の累計が前記閾値よりも大きくなった場合に前記加速器・輸送系コントローラを制御して前記荷電粒子ビームの照射を中断することを特徴とする粒子線照射システム。
【請求項5】
荷電粒子ビーム発生部で発生させた荷電粒子ビームを照射部から照射量を線量モニタで計測しながら照射対象の複数のスポットに順次照射するときにスキャニングコントローラから出力される信号に基づいて前記荷電粒子ビームの照射を開始または停止させる粒子線照射システムの制御システムによる制御方法であって、
前記線量モニタで計測した前記複数のスポットの内の一つのスポットにおける前記荷電粒子ビームの照射量が所定の照射量に達したときに前記スキャニングコントローラから前記荷電粒子ビームの前記照射を停止する信号を加速器・輸送系コントローラに出力し、前記停止する信号が出力された後の前記線量モニタで計測した前記照射量が次のスポットの目標照射量を超過しているとき、前記荷電粒子ビームを照射した前記スポットの次のスポットへの前記荷電粒子ビームの照射をスキップさせるとの判定して前記加速器・輸送系コントローラを制御することを特徴とする粒子線照射システムの制御方法。
【請求項6】
荷電粒子ビーム発生部で発生させた荷電粒子ビームを照射部から照射量を線量モニタで計測しながら照射対象の複数のスポットに連続して照射するときにスキャニングコントローラから出力される信号に基づいて前記荷電粒子ビームの照射を開始または停止させる粒子線照射システムの制御システムによる制御方法であって、
前記線量モニタで計測した前記連続して照射する前記複数のスポットにおける前記荷電粒子ビームの総照射量が所定の照射量に達したときに前記スキャニングコントローラから前記荷電粒子ビームの前記照射を停止する信号を加速器・輸送系コントローラに出力し、前記停止する信号が出力された後の前記線量モニタで計測した照射量が次のスポットの目標照射量を超過しているとき、前記連続して照射する前記複数のスポットの次に連続して照射する複数のスポットにおいて、最初のスポットへの前記荷電粒子ビームの照射をスキップさせるとの判定して前記加速器・輸送系コントローラを制御することを特徴とする粒子線照射システムの制御方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の粒子線照射システムの制御方法であって、
前記スキャニングコントローラにおいて、前記線量モニタで計測した前記荷電粒子ビームを照射した前記スポットにおける前記荷電粒子ビームの照射量の計測値が予め設定した量よりも大きい場合には前記計測値の正常・異常を判定し、前記計測値が前記予め設定した量よりも小さい場合には前記計測値の正常・異常の判定をスキップすることを特徴とする粒子線照射システムの制御方法。
【請求項8】
請求項7記載の粒子線照射システムの制御方法であって、
前記スキャニングコントローラにおいて、前記計測値の正常・異常の判定をスキップしたスポットにおける前記計測値の累計を予め設定した閾値と比較して前記計測値の累計が前記閾値よりも大きくなった場合に前記加速器・輸送系コントローラを制御して前記荷電粒子ビームの照射を中断することを特徴とする粒子線照射システムの制御方法。
【請求項9】
荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生部と、前記荷電粒子ビーム発生部で発生させた荷電粒子ビームを照射対象の複数のスポットに順次スポット照射する照射部と、前記照射部から照射する前記荷電粒子ビームの照射量をモニタする線量モニタとを備えた粒子線照射システムの制御装置であって、
前記照射部で前記照射対象に照射する前記荷電粒子ビームの照射を開始または停止する信号を発生するスキャニングコントローラと、
前記スキャニングコントローラからの前記荷電粒子ビームの前記照射を停止する信号を受けて前記荷電粒子ビーム発生部から前記照射部への前記荷電粒子ビームの出射を開始または停止する加速器・輸送系コントローラと、を備え、
前記スキャニングコントローラは、前記線量モニタで計測した前記複数のスポットの内の一つのスポットにおける前記荷電粒子ビームの照射量が所定の照射量に達したときに、前記荷電粒子ビームの前記照射を停止する信号を前記加速器・輸送系コントローラに出力し、前記停止する信号が出力された後の前記線量モニタで計測した前記照射量が次のスポットの目標照射量を超過しているとき、前記荷電粒子ビームを照射した前記スポットの次のスポットへの前記荷電粒子ビームの照射をスキップさせるとの判定して前記加速器・輸送系コントローラを制御することを特徴とする粒子線照射システムの制御装置。
【請求項10】
荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生部と、前記荷電粒子ビーム発生部で発生させた荷電粒子ビームを照射対象の複数のスポットに連続して照射する照射部と、前記照射部から照射する前記荷電粒子ビームの照射量をモニタする線量モニタとを備えた粒子線照射システムの制御装置であって、
前記照射部で前記照射対象に照射する前記荷電粒子ビームの照射を開始または停止する信号を発生するスキャニングコントローラと、
前記スキャニングコントローラからの前記荷電粒子ビームの前記照射を停止する信号を受けて前記荷電粒子ビーム発生部から前記照射部への前記荷電粒子ビームの出射を開始または停止する加速器・輸送系コントローラと、を備え、
前記スキャニングコントローラは、前記線量モニタで計測した前記連続して照射する前記複数のスポットにおける前記荷電粒子ビームの総照射量が所定の照射量に達したときに、前記荷電粒子ビームの前記照射を停止する信号を前記加速器・輸送系コントローラに出力し、前記停止する信号が出力された後の前記線量モニタで計測した照射量が次のスポットの目標照射量を超過しているとき、前記連続して照射する前記複数のスポットの次に連続して照射する複数のスポットにおいて、最初のスポットへの前記荷電粒子ビームの照射をスキップさせるとの判定して前記加速器・輸送系コントローラを制御することを特徴とする粒子線照射システムの制御装置。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の粒子線照射システムの制御装置であって、
前記スキャニングコントローラは、前記線量モニタで計測した前記荷電粒子ビームを照射したスポットにおける前記荷電粒子ビームの照射量の計測値が予め設定した量よりも大きい場合には前記計測値の正常・異常を判定し、前記計測値が予め設定した量よりも小さい場合には前記計測値の正常・異常の判定をスキップすることを特徴とする粒子線照射システムの制御装置。
【請求項12】
請求項11記載の粒子線照射システムの制御装置であって、
前記スキャニングコントローラは、前記計測値の正常・異常の判定をスキップしたスポットにおける前記計測値の累計を予め設定した閾値と比較して前記計測値の累計が前記閾値よりも大きくなった場合に前記加速器・輸送系コントローラを制御して前記荷電粒子ビームの照射を中断することを特徴とする粒子線照射システムの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は粒子線照射システム及びその制御方法並びに粒子線照射システムの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒子線照射システムでは、スポットと呼ばれる単位で粒子線のビーム(以下、単にビームと記す)出射を制御し、治療を行っている。近年、従来よりも複雑な形状、線量分布の照射に対応するため、スポット単位の照射量を小さくする動向があり、そのような小線量を照射するスポットが含まれていても治療を継続できる制御機能が求められている。
【0003】
特許第3806723号公報(特許文献1)では、照射量の監視に関して、スポット単位ではなく、各スポットの積算値として監視し、照射対象の線量分布をより均一化できる「粒子線照射システム」が提供されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3806723号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の実施例においては、当該スポットのビーム出射開始信号出力時、前スポット目標照射量満了から前記信号出力までの期間で計測した線量が、既に当該スポット目標照射量を超過している場合、エラー発生で照射が中断され、治療継続が不可能となる。
なお、前記線量は、本システムで使用される加速器の応答遅れによる線量であり、その値はビーム電流値によって変動する。そのため、ビーム電流値が突発的に増加すると、前記線量が急激に大きくなり、予期せぬ治療中断につながる可能性がある。
【0006】
また、前記応答遅れによって、当該スポット目標照射量を超過せずとも照射量が限りなく小さくなる可能性もある。このようなスポットでは、照射量実績値も微小となり、照射後の実績値判定において監視機能が設定値逸脱エラーを検出し、治療中断となる可能性がある。
【0007】
以上のような事象は、特に小線量を照射するスポットにて発生する可能性が高い。
【0008】
本発明は、上記した従来技術の課題を解決して、十分な安全性を維持したうえで予期せぬ治療中断を引き起こさないようなスキップスポット機能を備えた粒子線照射システム及びその制御方法並びに粒子線照射システムの制御装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記した課題を解決するために、本発明では、荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生部と、この荷電粒子ビーム発生部で発生させた荷電粒子ビームを照射対象に順次スポット照射する走査電磁石と荷電粒子ビームの照射量を計測する線量モニタとを備えた照射部と、この照射部で照射対象に照射する荷電粒子ビームの照射を開始または停止する信号を発生するスキャニングコントローラと、このスキャニングコントローラから出力された荷電粒子ビームの照射を開始または停止する信号を受けて荷電粒子ビーム発生部から照射部への荷電粒子ビームの出射を開始または停止する加速器・輸送系コントローラと
を備えた粒子線照射システムにおいて、スキャニングコントローラは、荷電粒子ビームの照射を停止する信号を受けた加速器・輸送系コントローラが荷電粒子ビーム発生部から照射部への荷電粒子ビームの出射を停止させたときに直前まで荷電粒子ビームを照射していたスポットにおける線量モニタで計測したスキャニングコントローラから照射を停止する信号が出力された後の照射量に応じて、前記荷電粒子ビームを照射したスポットの次のスポットへの荷電粒子ビームの照射をスキップさせるか否かを判定して加速器・輸送系コントローラを制御するように構成した。
【0010】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生部と、この荷電粒子ビーム発生部で発生させた荷電粒子ビームを照射対象に順次スポット照射する走査電磁石と荷電粒子ビームの照射量を計測する線量モニタとを備えた照射部と、この照射部で照射対象に照射する荷電粒子ビームの照射を開始または停止する信号を発生するスキャニングコントローラと、このスキャニングコントローラから出力された荷電粒子ビームの照射を開始または停止する信号を受けて荷電粒子ビーム発生部から照射部への荷電粒子ビームの出射を開始または停止する加速器・輸送系コントローラとを備えた粒子線照射システムにおいて、スキャンニングコントローラは、前記加速器・輸送系コントローラを制御して複数のスポットに荷電粒子ビームを連続して照射し、線量モニタで計測した連続して照射する複数のスポットの総照射量が所定の照射量に達したときに荷電粒子ビームの照射を停止する信号を加速器・輸送系コントローラに出力し、停止する信号が出力された後の線量モニタで計測した照射量に応じて、連続して照射するスポットの次に連続して照射するスポットにおいて、最初のスポットへの荷電粒子線ビームの照射をスキップさせるか否かを判定して前記加速器・輸送系コントローラを制御する等に構成した。
【0011】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、荷電粒子ビーム発生部で発生させた荷電粒子ビームを照射部から照射量を線量モニタで計測しながら照射対象の複数のスポットに順次照射するときにスキャニングコントローラから出力される信号に基づいて荷電粒子ビームの照射を開始または停止させる粒子線照射システムの制御方法において、線量モニタで計測した複数のスポットの内の一つのスポットにおける荷電粒子ビームの照射量が所定の照射量に達したときにスキャンニングコントローラから荷電粒子ビームの照射を停止する信号を加速器・輸送系コントローラに出力し、停止する信号が出力された後の線量モニタで計測した照射量に応じて、荷電粒子ビームを照射したスポットの次のスポットへの荷電粒子線ビームの照射をスキップさせるか否かを判定して加速器・輸送系コントローラを制御するようにした。
【0012】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、荷電粒子ビーム発生部で発生させた荷電粒子ビームを照射部から照射量を線量モニタで計測しながら照射対象の複数のスポットに連続して照射するときにスキャニングコントローラから出力される信号に基づいて荷電粒子ビームの照射を開始または停止させる粒子線照射システムの制御方法において、線量モニタで計測した連続して照射する複数のスポットにおける荷電粒子ビームの総照射量が所定の照射量に達したときにスキャンニングコントローラから荷電粒子ビームの照射を停止する信号を加速器・輸送系コントローラに出力し、停止する信号が出力された後の線量モニタで計測した照射量に応じて、連続して照射するスポットの次に連続して照射するスポットにおいて、最初のスポットへの荷電粒子線ビームの照射をスキップさせるか否かを判定して加速器・輸送系コントローラを制御するようにした。
【0013】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生部と、この荷電粒子ビーム発生部で発生させた荷電粒子ビームを照射対象に順次スポット照射する照射部とを備えた粒子線照射システムの制御装置において、照射部で照射対象に照射する荷電粒子ビームの照射を開始または停止する信号を発生するスキャニングコントローラと、スキャニングコントローラからの荷電粒子ビームの照射を停止する信号を受けて荷電粒子ビーム発生部から照射部への荷電粒子ビームの出射を開始または停止する加速器・輸送系コントローラとを備え、スキャニングコントローラは、線量モニタで計測した複数のスポットの内の一つのスポットにおける荷電粒子ビームの照射量が所定の照射量に達したときに、荷電粒子ビームの照射を停止する信号を加速器・輸送系コントローラに出力し、停止する信号が出力された後の線量モニタで計測した照射量に応じて、荷電粒子ビームを照射したスポットの次のスポットへの荷電粒子線ビームの照射をスキップさせるか否かを判定して前記加速器・輸送系コントローラを制御するように構成した。
【0014】
また、上記した課題を解決するために、本発明では、荷電粒子ビームを発生させる荷電粒子ビーム発生部と、この荷電粒子ビーム発生部で発生させた荷電粒子ビームを照射対象の複数のスポットに連続して照射する照射部と、この照射部から照射する荷電粒子ビームの照射量をモニタする線量モニタとを備えた粒子線照射システムの制御装置において、照射部で照射対象に照射する荷電粒子ビームの照射を開始または停止する信号を発生するスキャニングコントローラと、このスキャニングコントローラからの荷電粒子ビームの照射を停止する信号を受けて荷電粒子ビーム発生部から照射部への荷電粒子ビームの出射を開始または停止する加速器・輸送系コントローラとを備え、スキャンニングコントローラは、線量モニタで計測した連続して照射する複数のスポットにおける荷電粒子ビームの総照射量が所定の照射量に達したときに、荷電粒子ビームの照射を停止する信号を加速器・輸送系コントローラに出力し、停止する信号が出力された後の線量モニタで計測した照射量に応じて、連続して照射するスポットの次に連続して照射するスポットにおいて、最初のスポットへの荷電粒子線ビームの照射をスキップさせるか否かを判定して加速器・輸送系コントローラを制御するように構成した。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ビーム出射開始信号出力前に当該スポットの目標照射量を既に超過していて目標照射量がゼロの場合、もしくは加速器応答遅れや複雑な形状、線量分布の照射に対応するために小線量を照射するスポットの場合においても、十分な安全性を維持したスキップ機能によって治療を継続することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例1及び2に係る粒子線照射システムの全体構成を示すブロック図である。
図2】実施例1における、スキャニングコントローラおよび加速器・輸送系コントローラが実行する制御手順を示すフローチャートである。
図3】実施例1における、スキャニングコントローラが実行する制御手順の詳細を示すフローチャートである。
図4】実施例1においてスキャニングコントローラが実行する制御手順によって実現される各スポットの照射量の推移を示すグラフである。
図5】実施例2における、スキャニングコントローラおよび加速器・輸送系コントローラが実行する制御手順を示すフローチャートである。
図6】実施例2における、スキャニングコントローラが実行する制御手順の詳細を示すフローチャートである。
図7】実施例2においてスキャニングコントローラが実行する制御手順によって実現される各スポットの照射量の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、粒子線照射システムにおいて、ビーム出射開始信号出力前に当該スポットの目標照射量を超過している場合、ビーム出射をスキップして次スポットに進行するようにしたものである。
【0018】
また、ビームを照射前に予め設定した下限値以下の線量を照射したスポットにおいては、照射実績値の判定をスキップして次スポットに進行するものである。なお、照射実績値の判定スキップに対して監視機能を実装し、治療安全性を維持するようにしたものである。
【0019】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。本実施の形態を説明するための全図において同一機能を有するものは同一の符号を付すようにし、その繰り返しの説明は原則として省略する。
【0020】
ただし、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。本発明の思想ないし趣旨から逸脱しない範囲で、その具体的構成を変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。
【実施例1】
【0021】
図1は、本実施例の粒子線照射システム150を示している。
本実施例の粒子線照射システム150は、荷電粒子ビーム発生装置1と、荷電粒子ビーム発生装置1の下流側に接続されたビーム輸送系4とを有している。
【0022】
荷電粒子ビーム発生装置1は、イオン源(図示せず),前段荷電粒子ビーム発生装置
(ライナック)11及びシンクロトロン(加速器)12を有する。シンクロトロン12は
、高周波印加装置9、及び加速装置10を有する。
【0023】
高周波印加装置9は、シンクロトロン12の周回軌道に配置された高周波印加電極93と高周波電源91とを開閉スイッチ92にて接続して構成される。
【0024】
加速装置(第2エレメント,荷電粒子ビームエネルギー変更装置)10は、その周回軌道に配置された高周波加速空胴(図示せず)、及び高周波加速空胴に高周波電力を印加する高周波電源(図示せず)を備える。
【0025】
図示していないイオン源で発生したイオン(例えば、陽子イオン(または炭素イオン))は、前段荷電粒子ビーム発生装置(例えば直線荷電粒子ビーム発生装置)11で加速される。
【0026】
前段荷電粒子ビーム発生装置11から出射されたイオンビームはシンクロトロン12に入射される。荷電粒子ビーム(粒子線)であるそのイオンビームは、シンクロトロン12で、加速装置10の高周波電源から高周波加速空胴を経てイオンビームに印加される高周波電力によってエネルギーを与えられて加速される。イオンビームが設定されたエネルギーまでに高められた後、高周波印加装置9の高周波電源91からの出射用の高周波電力が、閉じられた開閉スイッチ92を経て高周波印加電極93に達し、高周波印加電極93よりイオンビームに印加される。
【0027】
安定限界内で周回しているイオンビームは、この高周波印加電極93による高周波電力の印加によって安定限界外に移行し、出射用デフレクタ8を通ってシンクロトロン12からビーム輸送系4へ出射される。
【0028】
一方、開閉スイッチ92を開いて高周波印加電極93への高周波電力の印加を停止することによって、シンクロトロン12からのイオンビームの出射が停止される。なお、本実施例の加速器であるシンクロトロン12の場合、その特性から、後述する加速器・輸送系コントローラより、ビーム停止指令が入力されても、厳密には、直ちに高周波印加装置9の開閉スイッチ92が開いて出射用デフレクタ8からビーム輸送系4へのイオンビームの出力が停止するまでに若干の応答遅れが生じる可能性がある。
【0029】
シンクロトロン12から出射用デフレクタ8を通って出射されたイオンビームは、ビーム輸送系4より下流側へ輸送される。ビーム輸送系4は、四極電磁石18及び偏向電磁石17と、治療室内に配置された照射装置15に連絡されるビーム経路62にビーム進行方向上流側より配置された四極電磁石21,四極電磁石22,偏向電磁石23,偏向電磁石24(それぞれの電磁石が第1エレメント)を備える。
【0030】
ビーム輸送系4へ導入されたイオンビームは、ビーム経路62を通って図示していない治療室に配置された照射装置15へと輸送される。
【0031】
治療室は、内部に設置された回転ガントリー(図示せず)に取り付けられた照射装置
15を備える。ビーム輸送系4のビーム経路62の一部を含む逆U字状のビーム輸送装置
及び照射装置15は、回転ガントリー(図示せず)の略筒状の回転胴(図示せず)に設置
されている。回転胴はモータ(図示せず)により回転可能に構成されている。回転胴内に
は治療ゲージ(図示せず)が形成される。
【0032】
照射装置15は、回転胴に取り付けられ前述の逆U字状のビーム輸送装置に接続される
ケーシング(図示せず)を有している。ビームを走査するための走査電磁石5A,5B、
及び線量モニタ6A,位置モニタ6B等がケーシング内に設置される。
【0033】
ビーム経路62を経て逆U字状のビーム輸送装置から照射装置15内へ導入されたイオンビームは、走査電磁石(荷電粒子ビーム走査装置)5A,5Bによって順次照射位置を2次元的に走査され、治療台29に横たわっている患者30の患部(例えば癌や腫瘍の発生部位)に照射される。そのイオンビームは、患部においてそのエネルギーを放出し、高線量領域を形成する。
【0034】
本実施例の粒子線照射システム150が備えている制御システム90は、中央制御装置100、治療計画情報を格納した記憶装置110、スキャニングコントローラ41、加速器・輸送系コントローラ(以下、加速器コントローラという)40を有する。更に、本実施例の粒子線照射システムは、治療計画装置140を有している。
【0035】
中央制御装置100は、CPU101と、治療制御に必要な情報を記憶するメモリ103とを備えており、加速器コントローラ40、スキャニングコントローラ41と連携を取っている。
【0036】
記憶装置110に記憶されている各患者の上記治療計画情報(患者情報)は、患者IDナンバー、照射量(一回当たり)、照射エネルギー、照射方向、照射位置等のデータを含む。
【0037】
照射装置15内の走査電磁石5A,5Bを制御するスキャニングコントローラ41は、様々な治療情報を記憶するためのメモリ41Aと、照射量の検出に関わるものとしてカウンタ41Bを内部に有している。
【0038】
カウンタ41Bは、線量モニタ6Aから出力されるパルスの数をカウントすることで照射量を求める。このカウント数は、カウント開始からの照射量を表す。以降、カウント数と照射量は同義として扱う。
【0039】
本実施例の粒子線照射システム150では、中央制御装置100,スキャニングコントローラ41,加速器コントローラ40が、治療計画装置140により作成した治療計画情報に基づいて、互いに連携して制御を行う。
【0040】
中央制御装置100は、治療計画装置140により作成されて記憶装置110に格納された治療計画情報を読み出してメモリ103に格納する。
【0041】
CPU101は、メモリ103に格納した治療計画情報に基づき、イオンビームの照射に関する情報(患部を含むイオンビームの照射対象領域を深さ方向に複数の層に分割した数(スライス数),照射位置の数(スポットの数),各スライス内での照射位置,各照射位置での目標照射量、及び各スライスの全スポットに関する走査電磁石5A,5Bの電流値等の情報)を生成し、スキャニングコントローラ41に送信する。ここで各照射位置での目標照射量は、患部への最初の照射開始を起点とする積算照射量(積算線量)であっても良いし、スポット単位の照射量であっても良い。
【0042】
CPU101は、治療計画情報のうち全てのスライスに関するシンクロトロン12の加速パラメータのデータの全てを、加速器コントローラ40に伝える。
【0043】
続いて、スキャニングコントローラ41および加速器コントローラ40が実行する制御手順について説明する。
【0044】
図2は、照射を実施する際のスキャニングコントローラ41および加速器コントローラ40それぞれのフローチャート、およびそれらの連携を示している。
【0045】
治療室内にある照射開始指示装置(図示せず)が操作されると、加速器コントローラ40は、それに応じてステップS201でスライス番号を表す演算子iを1、スポット番号を表す演算子jを1、1つのスライスの照射回数nを1に初期設定する。
【0046】
加速器コントローラ40は、ステップS201の初期設定を終了した後、ステップS202で、中央制御装置100のメモリ103に格納した複数パターンの加速パラメータの中から、i番目(この時点ではi=1)のスライスに対する加速器パラメータを読み出して設定し、ステップS203でそれをシンクロトロン12へ出力する。
【0047】
加速器コントローラ40は、ステップS203で、シンクロトロン12及びビーム輸送系4の各電磁石の電源に対して、i番目の加速器パラメータに含まれるそれらの電磁石に対する励磁電流情報を出力し、それらの励磁電流情報により各電磁石が所定の電流で励磁されるように該当する電源を制御する。
【0048】
また、加速器コントローラ40は、ステップS203で、加速装置10の高周波加速空胴に高周波電力を印加する高周波電源を制御してその高周波電力と周波数を所定の値まで増加させる。
【0049】
これにより、シンクロトロン12内を周回するイオンビームのエネルギーが治療計画で定められた値まで増大される。その後、ステップS204に移り、スキャニングコントローラ41へ出射準備指令を出力する。
【0050】
スキャニングコントローラ41は、ステップS201の初期設定の情報、及びステップ
S204における出射準備指令を加速器コントローラ40から受けて、ステップS205で、既にメモリ41Aに格納した電流値データ及び目標照射量データから、j番目(この時点ではj=1)スポットの電流値データ及び目標照射量データを読み出して設定する。
【0051】
当該スポットへの照射準備が完了した後、スキャニングコントローラ41は、ステップS300において加速器コントローラ40に対してビーム出射開始信号を出力し、加速器コントローラ40は高周波印加装置9を制御して出射用デフレクタ8を通ってシンクロトロン12からビーム輸送系4へイオンビームを出射させる(ステップS207)。すなわち、スキャニングコントローラ41からのビーム出射開始信号(スポット照射:S300)を受けて、加速器コントローラ40は高周波印加装置9の開閉スイッチ92を作動させて開閉スイッチ92を閉じ、高周波が高周波電源91からの高周波電力を高周波印加電極93に印加する。
【0052】
安定限界内でシンクロトロン12の内部を周回しているイオンビームは、この高周波印加電極93による高周波電力の印加によってイオンビームのエネルギーは安定限界外に移行し、出射用デフレクタ8を通ってシンクロトロン12からビーム輸送系4へ出射される。シンクロトロン12からビーム輸送系4へ出射されたイオンビームは、ビーム経路62を通って照射装置15に達する。
【0053】
照射装置15の走査電磁石5A,5Bは、S300におけるスキャニングコントローラ41からの制御信号を受けて1番目のスポットの位置にイオンビームが達するように励磁されているため、そのイオンビームは照射装置15より該当するスライスの1番目のスポットに照射される。
【0054】
1番目のスポットへの照射量が該当する目標照射量に達したとき、スキャニングコントローラ41は、ビーム出射を停止するスポットであればビーム出射停止信号を出力し(ステップS207)、その後、ステップS208に移行する。
【0055】
第1のスライスで照射すべきスポットが残されている場合、ステップS208の判定が「No」であるため、ステップS209に移ってスポット番号jに1が加えられる(すなわち照射位置を隣のスポットへと移動)。そして、ステップS205,S300,S208の処理が繰り返される。すなわち、第1のスライスの全スポットへの照射が終了するまで、走査電磁石5A,5Bにより、イオンビームを隣接するスポットへと次々に移動させながら、イオンビームの照射が行われる(スポットスキャニング照射)。
【0056】
第1のスライスの照射回数n=1における全スポットへの照射が終了したとき、ステップS208の判定が「Yes」となる。このとき、スキャニングコントローラ41は、スポット番号jを初期化し(ステップS210)、n=設定した照射回数(第1のスライスの全スポットに対して、設定回数の照射完了)に達していなければステップS211が「No」となり、ステップS212においてnに1が加算されたうえでS205に進んで次回の照射が行われる。
【0057】
一方、n=設定した照射回数(第1のスライスの全スポットに対して、設定回数の照射完了)であれば、ステップS211が「Yes」となり、加速器コントローラ40のCPUに対しスライス変更指令を出力する。
【0058】
スライス変更指令を入力した加速器コントローラ40のCPUは、ステップS213でスライス番号iに1を加え(すなわち照射対象を第2のスライスに変更)、ステップS214でシンクロトロン12へ残ビーム減速指令を出力する。
【0059】
加速器コントローラ40は、残ビーム減速指令の出力により、シンクロトロン12の各電磁石の電源を制御して各電磁石の励磁電流を徐々に低減させ、最後には予め決められた値、例えばイオンビームがシンクロトロン12内で安定限界内のイオンエネルギーとなるような励磁電流にする。これにより、シンクロトロン12内を周回するイオンビームが減速される。
【0060】
シンクロトロン12からイオンビームが出射される期間は、スライス内のスポット数,照射量によって異なる。この時点では第1のスライスへの照射が終了しただけであり、第2のスライス以降の照射が残されている場合、ステップS215の判定が「No」となる。この場合、ステップS202に戻って、2番目のスライス(第2のスライス)に対する加速器パラメータを加速器コントローラ40のメモリから読み出して設定される。
【0061】
以下、第2のスライスに対して、ステップS203~S215の処理が実行される。また、最終スライスにおける全スポットに対する照射が終了するまで、ステップS202~S215の処理が実行される。
【0062】
加速器コントローラ40のCPUは、ステップS215の判定で「Yes」となった場合(患者30の標的における全スライス内の全スポットへの所定の照射完了)に、中央制御装置100のCPU101に対し照射終了信号を出力する。
【0063】
以下、スキャニングコントローラ41における制御の詳細および、本実施例に係るスキップスポット機能動作時の一例を図3図4を用いて説明する。
【0064】
図3は、スキャニングコントローラ41が実行する、図2のステップS205及びS300における詳細を示している。
【0065】
図2のS205に対応するステップとして、図3において、スキャニングコントローラ41は、ステップS301で、既にメモリ41Aに格納されている目標照射数に対応するカウント数の設定指令を、カウンタ41Bに出力する。
【0066】
カウンタ41Bは、ステップS302において、その設定指令に基づいてスライスiのj番目のスポットにおける目標カウント数を設定する。
【0067】
ステップS301の処理が終了すると図2のS300に対応するステップとしてステップS303へ移り、当該スポットについての走査電磁石5A,5Bの電流設定指令を走査電磁石5A,5Bの電源へ出力する。走査電磁石5A,5Bは、該当する電流値にて偏向電磁力を発生させるとともに、そのような状態が完成したことを示す電流設定完了信号をスキャニングコントローラ41に出力する(ステップS304)。
【0068】
スキャニングコントローラ41は、電流設定指令が出力され(ステップS303)、かつ走査電磁石5A,5Bからの電流設定完了信号が入力された(ステップS304)ことを条件としてステップS321に進行し、当該スポットのビーム出射を開始するか判断する。ただし、ステップS304の条件成立を待たずにステップS321に進行しても良い。
【0069】
ステップS321では、ビーム出射開始信号出力(ステップS305)前に、カウンタ41Bのカウント数がステップS302で設定した目標カウント数を超過していないか判定する。
【0070】
この判定時、目標カウント数がカウンタ41Bのカウント数よりも大きい場合(S321でYesの場合)、ステップS305に進行する。一方、目標カウント数がカウンタ41Bのカウント数以下の場合(S321でNoの場合)、当該スポットにおける目標照射量が満了していることを意味するため、当該スポットにおけるビーム出射はスキップし(ステップS322)、ステップS316に進行する。ステップS322におけるビーム出射スキップは、ステップS321の判定が「No」である限り実行されるため、連続する2つ以上のスポットにおいてもスキップが可能である。
【0071】
ステップS322に進行すると、即座に当該スポット照射完了処理(ステップS316以降)に移行することとなる。そのため、ステップS304の条件成立を待たずにステップS321に進行した場合には、ステップS322の進行条件にステップS304成立を追加しても良い。これにより、当該スポットのステップS304の処理と次スポットのステップS304の処理の重複を避けることができる。
【0072】
ステップS321が「Yes」の場合、スキャニングコントローラ41は、ステップS305で、ビーム出射開始信号を加速器コントローラ40に出力する。ビーム出射開始信号を受けた加速器コントローラ40は、高周波印加装置9の開閉スイッチ92を制御して、開閉スイッチ92を閉じる。これにより高周波電源91から高周波印加電極93に高周波電力が印加される。
【0073】
安定限界内でシンクロトロン12の内部を周回しているイオンビームは、この高周波印加電極93に印加された高周波電力によってエネルギーが安定限界外に移行し、出射用デフレクタ8を通ってシンクロトロン12からビーム輸送系4へ出射される。ビーム輸送系4へ出射されたイオンビームは、ビーム経路62を通って照射装置15から治療台29に横たわっている患者30の患部の該当するスポットに出射される。
【0074】
カウンタ41Bでカウントするスキャニングコントローラ41への入力パルスに基づくカウント数がステップS302で設定した目標カウント数(目標照射量)の設定値以上となった場合に(ステップS309)、ステップS310でカウンタ41Bはトリガー信号を出力する。
【0075】
トリガー信号を受けたスキャニングコントローラ41は、そのトリガー信号に基づきビーム出射停止信号を生成し、加速器コントローラ40にそのビーム出射停止信号を出力する(ステップS312)。ビーム出射停止信号を受けた加速器コントローラ40は、開閉スイッチ92を制御して開閉スイッチ92を開く。これにより、高周波電源91から高周波印加電極93への高周波電力の印加が停止されてイオンビームのエネルギーが安定限界内になり、シンクロトロン12からのイオンビームの出射が停止され、患者へのイオンビームの出射が停止される。
【0076】
スキャニングコントローラ41は、シンクロトロン12が加速器コントローラ40からのビーム停止指令に応答する(ビームが完全に停止する)まで待つことを目的として、遅延タイマー(図示せず)を備えている。ステップS310にて出力されたトリガー信号は、この遅延タイマーをスタートさせる指令信号として入力される(ステップS314)。このスタート後の経過時間があらかじめ定められた所定の設定時間となった場合に遅延時間到達信号が出力される(ステップS315)。
【0077】
スキャニングコントローラ41は、遅延時間到達信号、及び遅延タイマースタート指令信号の入力を条件として、ステップS316において、カウンタ41Bでカウントした線量モニタ6Aから出力されるパルスのカウント数を読み出す。ただし、遅延タイマーの設定時間経過を待つのではなく、ビーム輸送系4上の電磁石等を使用して、患者30に到達するビームを停止してもよい。
【0078】
次に、当該スポットの照射量が設定値以下であるかを判定し(ステップS325),設定値以下ではない場合「No」となり、S317に進む。
【0079】
ステップS317においてスキャニングコントローラ41は、患者30に照射したスポットの各種実績値が、予め計画された範囲内にあるかどうかを確認するため、読み出したカウント数を用いて各種実績値判定を実施し、異常と判定した場合は「No」となり、異常信号を中央制御装置100へと出力する(ステップS318)。一方、ステップS317で正常な値であると判定された場合は「Yes」となり、カウント値を実績照射量情報として、中央制御装置100へと出力するとともに、スポット照射を終了する。
【0080】
ここで、各種実績値の中には、当該スポットの照射量が微小であることにより演算精度が著しく悪化する項目が存在する。そのため、予め実績値ごとに照射量を設定しておき、当該スポットの照射量が設定値以下の場合、ステップS325で「Yes」となり、その実績値の判定をスキップして(ステップS326)、スポットの照射を終了する。
【0081】
これにより、照射量が微小なスポットであっても、演算精度悪化によるエラーの検出を防ぎ、照射の継続が可能となる。なお、前記ビーム出射スキップ(ステップS322)したスポットについても、ステップS325で「Yes」と判定された場合には、判定スキップの対象となる。本判定スキップは照射量が実績値ごとの設定値以下であれば適応されるため、複数スポットが連続して判定スキップとなる可能性もある。
【0082】
ここで、判定をスキップした照射量を監視するため、判定スキップしたスポットの照射量をスキップした実績値単位で記録し、その値(累計照射量)を照射前に設定した閾値と比較し(ステップS327),その値が閾値以下である場合(ステップS327でYesの場合)には、累計照射量が、判定未実施で治療継続したとしても安全性に影響を与えないほど小さいと判断して、スポット照射を終了して図2のステップS208へ進む。
【0083】
一方、その値が閾値を超過した場合(ステップS327でNoの場合)には、累計照射量が判定未実施で治療継続すると安全性を低下させると判断して、異常処理信号出力(ステップS318)して、ステップS208へは進まず、ビーム出射中の場合はビーム出射停止信号を出力し(ステップS207)一連のビーム照射を中断させる。なお、連続して判定スキップした際には、それらのスポットにおける照射量を積算して、累計照射量として記録する。
【0084】
この機能により、判定スキップした照射量を常に監視し、本判定スキップが原因となって治療の安全性を低下させることを防ぐ。なお、照射量ではなく、判定スキップした回数を監視しても良い。記録した照射量あるいは回数の値は、その安全性が確認された場合にはリセットすることも可能である。
【0085】
また、ビーム出射をスキップ(ステップS322)した場合について、前記同様、治療安全性の観点から、そのスキップ回数、およびビーム出射をスキップしたスポットの照射量を監視することもできる。
【0086】
図4のグラフ400は、j-1番目、j番目、j+1番目、j+2番目のように、連続する4つのスポットを照射した際の、照射量のタイミングチャートを示している。なお、図4のグラフ400は各スポットの照射量について、最初の照射開始を起点とする積算照射量401として監視している場合の例となる。
【0087】
前述の通り、スキャニングコントローラ41からビーム出射停止信号が出力された後、加速器コントローラ40で開閉スイッチ92を作動させて実際にシンクロトロン12からのイオンビームの出射が停止するまでには応答遅れが生じうる。一方、ビーム出射停止信号(図4の停止指令)が出力されてから、図4においてビームONの状態411からビームOFFの状態412に変化してイオンビームの出射が実際に停止するまでの間(図4の期間(A):413)、シンクロトロン12から出射されたイオンビームに基づく照射量が線量モニタ6Aで計測され、カウンタ41Bによって積算される。これを、加速器応答遅れによる照射量(B)xx(xxは加速器応答遅れによる照射量を計測したスポットNo.を示す)402とする。なお、(B)xxの値は、ビーム電流値によって変動する。
【0088】
図4におけるスポットの進行と積算照射量401との関係について、図2及び3で説明したフローチャートとを関連付けて具体的に説明する。
イオンビームの出射が実際に停止した後、ステップS209、ステップS205の処理として、スキャニングコントローラ41は、メモリ41Aより次の照射位置(スポット)に対する電流値データ及び目標照射量データを読み出し、ステップS301で、カウンタ41Bに対して、目標照射量に対応するカウント数の設定指令を出力する。その後、カウンタ41Bは、ステップS302において次の照射位置に対する目標カウント数を設定する。さらに、ステップS303において出力される電流設定指令に基づいて走査電磁石5A、5Bが制御され、イオンビームの照射位置が次のスポットに移動し、ステップS305のビーム出射開始信号に基づいて、シンクロトロン12からのイオンビームの出射が再開される。
【0089】
この時、次のスポットに対する照射量(カウント数)は、イオンビームの出射再開後における線量モニタ6Aの計測値に基づいた照射量だけでなく、図4の照射量(B)xxも含まれる。
【0090】
例えば、図4のj番目のスポットに対する照射量は、j-1番目のスポットに対する期間(A)で計測した照射量(B)j-1:402を初期値とし、この初期値にビーム出射再開後の照射量を積算した値となる。そして、j番目のスポットに対する照射量が、そのスポットの目標値(図4の「jthスポット目標照射量403」で表される照射量)に達したとき、スキャニングコントローラ41が加速器コントローラ40に対してビーム出射停止信号を出力し、加速器コントローラ40は開閉スイッチ92を開作動させてシンクロトロン12からのイオンビームの出射を停止する。しかし実際には、スキャニングコントローラ41からビーム出射停止信号が出されてから実際にイオンビームの照射が停止するまでの間、j番目のスポットにおける期間(A):414の間、そのスポットに対してイオンビームが照射量(B):404だけ照射される。この期間の照射量は、さらに次のj+1番目のスポット照射時の初期値として積算され、以降、同様に繰り返される。
【0091】
以上のように、照射量に基づいた制御をスキャニングコントローラ41が行うことにより、各スポット照射において、常時、1つ前のスポット照射で生じた応答遅れ期間(A)における照射量(B)xxと当該スポットの照射量の合計値が、そのスポットの目標照射量になるまで、そのスポットに対してイオンビームが照射される。
【0092】
ここで、図4のj+1番目のスポットのように、(j+1)th目標照射量405が極めて小さいスポットについて考える。
【0093】
この場合、j番目のスポットについてjthスポット目標照射量403を照射した後、j+1番目のスポットの(j+1)th目標照射量405に相当する目標カウント数がj番目のスポットにおける期間(A):414の間のイオンビームの照射量(B):404に対応するカウント数よりも多いかを判定する(ビーム出射開始信号出力判定:ステップS321)時点にて、当該スポットの目標照射量を既に超過している(目標カウント数を超過している)状況となる。この時、スキャニングコントローラ41は、j+1番目のスポットにおいては、ステップS321にて「No」と判断し、ビーム出射開始信号を出力せず、j+1番目のスポットをスキップ(ステップS322)する。
【0094】
ステップS322の直前に、スキップを許容するタイミングかどうか監視する機能を実装し、想定外のスキップを防止することもできる。また、前述の通り、ステップS322の進行条件に、j+1番目のスポットにおけるステップS304の条件成立を加えることもできる。
【0095】
その後、ビーム出射停止後の処理(ステップS316以降)を経て、次スポット(ここではj+2番目のスポット)に進行する。なお、スキップしたスポットに関しては、照射量の実績値がゼロのため、前述したステップS325にて「Yes」となり、カウンタ実績値を判定するステップS317もスキップする。(ステップS326)
以上、ステップS326の実績値判定スキップ機能(以降、スキップ機能Aとする)、およびステップS322のスポット照射スキップ機能(以降、スキップ機能Bとする)によって、小線量スポット(目標照射量がゼロ、あるいは微小なスポット)の照射が可能になる。これらの機能を、総じてスキップスポット機能と呼ぶ。
【0096】
以上のようにスキップスポット機能を導入した本実施例の粒子線照射システムによれば、以下のような効果を得る。
【0097】
本機能導入により、ビーム出射開始信号出力時点にて、当該スポットの目標照射量を超過している場合でも、もしくは加速器応答遅れや複雑な形状、線量分布の照射に対応するために小線量を照射するスポットの場合においても、十分な安全性を維持したスキップ機能によって治療を継続することができ、エラー発生による照射中断とせずに治療を継続することが可能となる。
【0098】
また、仮に、様々な状況によって当該スポットの照射量が限りなく微小になった場合や、図4の(B)xx:402,404の値が突発的に増加した場合においても、本機能適用によって照射中断を防ぐことができる。これらにより、治療計画時、照射に小線量スポットへの考慮が不要となることで、治療計画の効率が向上し、治療の品質向上も実現できる。
【0099】
また、治療に使用できるスポット単位の照射量下限値の制約が緩和され、スポット単位の照射量にとらわれない柔軟な治療(複雑な形状、線量分布の照射)が可能となる。
【0100】
さらに、前述の通り、本機能導入による安全性の確保については、スキップ機能Aが適応となったスポットに対して、その照射量、もしくは回数の監視機能を実装することで実現される。さらなる安全性向上のため、スキップ機能Bの監視機能を用いることもできる。
【0101】
なお、本機能が適用されるスポットは、1回の治療中において、全体の1%にも満たないと推定される。よって、本機能導入は、治療への影響を最小限に抑えて導入できる機能であり、現在の治療品質を維持することができる。
【実施例2】
【0102】
次に、本発明の第2の実施例の粒子線照射システムについて説明する。本実施例の粒子線照射システムは実施例1で説明した粒子線照射システム150の構成と同じであるので、全体構成の説明は省略する。本実施例における粒子線照射システムでは、実施例1で説明したようなスポット単位でのビーム出射の開始および停止を制御する方法ではなく、任意のタイミングでビーム出射を開始および停止できることが大きな特徴であり、実施例1の粒子線照射システム150とは、スキャニングコントローラ41の制御手順が異なる。
【0103】
図5は、本実施例におけるスキャニングコントローラ41および加速器コントローラ40それぞれのフローチャート、およびそれらの連携を示している。実施例1において図2で説明したフローチャートと同じ処理を行うステップについては、同じステップ番号を付してある。
【0104】
ステップS251で設定する照射開始時の初期設定値として、実施例1で説明した項目に加えて、ビーム停止スポットNo.であるkを設定する。この設定に従い、スポットNo.kの照射完了後、ビーム停止することになる。なお、kは複数設定することが可能である。
【0105】
ステップS255とステップS350は、それぞれ実施例1における図2のフロー図のステップS205及びS300に相当する。また、その他の初期設定、およびフローは実施例1における図2のフロー図と同一である。
【0106】
図6は、本実施例における、スキャニングコントローラ41が実行する、図5のステップS255及びS350における詳細を示している。
【0107】
前述の通り、本実施例においてはビームを停止することなく複数スポットの照射を行う。そのため、ビーム出射を開始する最初のスポットについては、実施例1と同様の手順(ステップS301~S304)を経てビーム出射を開始することになるが、前スポットからビームを停止していないスポットにおいては、ビーム出射開始信号出力(ステップS305)が不要となる。つまり、ビーム出射開始信号出力前のステップS323にてビーム出射中(前スポットでビームを停止してないか)を確認し、「Yes」と判定された場合には、ステップS309に進行する。
【0108】
その後、実績カウント数が目標カウント数以上になった時、ステップS324に進行して本スポットがビーム出射を停止するスポットなのかを確認する。具体的には、当該スポット数jが予め設定したスポットNo.kと一致しているかを確認し、「Yes」の場合には、実施例1と同様のビーム出射停止処理を行うステップS310、S312、S314、S315に進行する。
【0109】
その後、ステップS312のビーム停止信号出力時にS314で動作を開始した遅延タイマーがS315において設定値以上経過した時、ステップS316に進行する。なお、本実施例においても、前述した遅延タイマーの代わりに電磁石等を使用して、患者30に到達するビームを停止してもよい。
【0110】
一方、ステップS324で「No」と判断された場合、そのスポットはビーム出射を停止しないスポットを意味しており、ビーム停止処理をすることなくステップS316に進行する。なお、ステップS316、S317、S318、およびステップS325、S326、S327は実施例1と同様である。
【0111】
一方、前スポットからビームを一旦停止したスポットにおいては、ステップS323にて「No」と判断され、ビーム出射開始処理を行うステップS321以降の処理に進行する。なお、ビーム出射開始処理を行うステップS321、S305、S322は、実施例1で説明した処理と同一である。ステップS322に進行した後は、ステップS316に進行することで、ビームが停止している状態で再度ビーム出射停止信号を出力しないようにする。
【0112】
本実施例におけるスキップスポット機能の考え方について説明する。
実施例1において図4を用いて説明した通り、スキップ機能Bは、あるスポットの応答遅れによる照射量(B)xxが、次スポットの目標照射量を超過している場合にのみ適応する。この(B)xxは、前述の通り加速器の応答遅れによって発生するため、ビーム出射を停止しないスポットについては、(B)xxの値はゼロとなる。
【0113】
よって、本実施例において、スキップ機能Bは前スポットにてビーム出射を停止し、当該スポットにてビーム出射を開始するスポットにのみ有効となり、その他のビーム出射開始処理が伴わない(図6のステップS323で「Yes」と判断される)スポットについては、本スキップ機能Bの対象外となる。なお、スキップ機能Aは、ビーム出射の開始、停止に関わらず全スポットが対象となる。
【0114】
また、本スキップ機能Bの対象となるスポットについては、実施例1と同様に、ビーム出射開始前(図6のステップS305)にスポット照射をスキップするか否かの判定を実施(図6のステップS321)し、スキップする場合は図6のステップS322、その後ステップS316に進行する。
【0115】
また、S326で実績値判定スキップをした場合、実施例1で説明したのと同様に、判定をスキップした照射量を監視するため、判定スキップしたスポットの照射量をスキップした実績値単位で記録し、その値(累計照射量)を照射前に設定した閾値と比較し(S327),その値(累計照射量)が閾値以下である場合(S327でYesの場合)には、累計照射量が、判定未実施で治療継続したとしても安全性に影響を与えないほど小さいと判断して、スポット照射を終了して図5のステップS208へ進む。
一方、その値が閾値を超過した場合(S327でNoの場合)には、累計照射量が、判定未実施で治療継続すると安全性を低下させると判断して、ステップS208へは進まず、一連のビーム照射を中断させる照射中断(S318)とする機能を実装する。なお、連続して判定スキップした際には、それらのスポットにおける照射量を積算して、累計照射量として記録する。
【0116】
この機能により、判定スキップした照射量を常に監視し、本判定スキップが原因となって治療の安全性を低下させることを防ぐ。なお、照射量ではなく、判定スキップした回数を監視しても良い。記録した照射量あるいは回数の値は、その安全性が確認された場合にはリセットすることも可能である。
【0117】
また、ビーム出射をスキップ(ステップS322)した場合について、前記同様、治療安全性の観点から、そのスキップ回数、およびビーム出射をスキップしたスポットの照射量を監視することもできる。
【0118】
実施例1において説明した図4のグラフ400に対応するグラフを、図7に示す。図7のグラフにおいては、(j-n)~(j-1)番目、j~(j+n)番目、(j+n+2)番目以降はビームはON711の状態を維持してビーム出射を停止せずに連続して次のスポットの照射を行い、(j-1)番目とj番目の間と、(j+n)番目と(j+n+1)番目の間でビームをOFF712の状態にする場合について示している。
【0119】
図7は、図4の場合と同様に、各スポットの照射量について、最初の照射開始を起点とする積算照射量701として監視している場合の例となる。
【0120】
実施例1で説明したことと同様に、スキャニングコントローラ41からビーム出射停止信号が出力された後、加速器コントローラ40で開閉スイッチ92を作動させて実際にシンクロトロン12からのイオンビームの出射が停止するまでには応答遅れが生じうる。一方、ビーム出射停止信号(図7の停止指令)が出力されてから、図7においてビームON711の状態からビームOFF712の状態に変化してイオンビームの出射が実際に停止するまでの間(図7の期間(A):713)、シンクロトロン12から出射されたイオンビームに基づく照射量が線量モニタ6Aで計測され、カウンタ41Bによって積算される。これを、加速器応答遅れによる照射量(B)xx(xxは加速器応答遅れによる照射量を計測したスポットNo.を示す)702とする。なお、(B)xxの値は、ビーム電流値によって変動する。
【0121】
図7におけるスポットの進行と積算照射量701との関係について、図5及び6で説明したフローチャートとを関連付けて具体的に説明する。
【0122】
連続的なイオンビームの出射が実際に停止した後、ステップS209、ステップS205の処理として、スキャニングコントローラ41は、メモリ41Aより次の照射位置(スポット)に対する電流値データ及び目標照射量データを読み出し、ステップS301で、カウンタ41Bに対して、目標照射量に対応するカウント数の設定指令を出力する。その後、カウンタ41Bは、ステップS302において次の照射位置に対する目標カウント数を設定する。さらに、ステップS303において出力される電流設定指令に基づいて走査電磁石5A、5Bが制御され、イオンビームの照射位置が次のスポットに移動し、ステップS305のビーム出射開始信号に基づいて、シンクロトロン12からのイオンビームの出射が再開される。
【0123】
この時、照射を開始するスポットに対する照射量(カウント数)は、イオンビームの出射再開後における線量モニタ6Aの計測値に基づいた照射量だけでなく、図7の照射量(B)xxも含まれる。
【0124】
例えば、図7のj番目のスポットに対する照射量は、(j-n)~(j-1)番目のスポットへの照射期間の最後における期間(A)713で計測した照射量(B)j-1:702を初期値とし、この初期値にビーム出射再開後の照射量を積算した値となる。
【0125】
そして、次に連続して照射するj番目から(j+n)番目について、各スポットに対する照射量が、ステップS302で設定した各スポットに対する目標カウント数に達したとき、ステップS324において照射したスポット数がステップS251で設定したビーム停止スポットNo.(k)に達したかを判定する。
【0126】
判定の結果、ビーム停止スポットNo.(k)に達した場合(ステップS324で「Yes」)には、ステップS310でカウンタ41Bからスキャニングコントローラ41にトリガー信号を出力する。このトリガー信号を受けたスキャニングコントローラ41は、ステップS312で加速器コントローラ40に対してビーム出射停止信号を発信し、加速器コントローラ40は開閉スイッチ92を開作動させてシンクロトロン12からのイオンビームの出射を停止する。
【0127】
図7の場合、j番目から(j+n-1)番目のスポットにおいてはS324で「No」と判定され、ビーム停止処理をすることなくステップS316に進行し、その後、次スポット照射に進行していく。
【0128】
一方、(j+n)番目の目標カウント数に達したとき、つまり、ビーム出射を開始したj番目~(j+n)番目の目標照射積算量値(図7の「(j)th~(j+n)thスポット目標照射量703」で表される照射量)に達したとき、ステップS324において「Yes」と判定される。
【0129】
しかし実際には、スキャニングコントローラ41からビーム出射停止信号が出されてから実際にイオンビームの照射が停止するまでの間、j番目から(j+n)番目のスポットを照射している期間の最後における期間(A):714で、そのスポットに対してイオンビームが照射量(B)j+n:704だけ照射される。この期間の照射量は、さらに次の(j+n+1)番目からのスポット照射時の初期値として積算され、以降、同様に繰り返される。
【0130】
以上のように、照射量に基づいた制御をスキャニングコントローラ41が行うことにより、各連続するスポット照射において、常時、1つ前の連続するスポット照射で生じた応答遅れ期間(A)における照射量(B)xxと当該連続スポット照射における照射量の合計値が、その連続するスポット照射領域の目標照射量になるまで、その連続するスポット照射領域に対してイオンビームが照射される。
【0131】
ここで、図7の(j+n+1)番目のスポットのように、照射を再開するときの最初のスポットである(j+n+1)thのスポット目標照射量705が極めて小さいスポットについて考える。
【0132】
この場合、連続照射における最初のスポットである(j+n+1)番目のスポットについて、直前のスポット連続照射における(j)th~(j+n)thスポット目標照射量703を照射した後、(j+n+1)番目のスポットの(j+n+1)th目標照射量705に相当する目標カウント数が(j)th~(j+n)thスポット照射期間における期間(A):714におけるイオンビームの照射量(B)j+n:704に対応するカウント数よりも多いかを判定する時点(ビーム出射開始信号出力判定:ステップS321)にて、当該スポットの目標照射量を既に超過している(目標カウント数を超過している)状況となる。この時、スキャニングコントローラ41は、(j+n+1)番目のスポットにおいては、ステップS321にて「No」と判断し、ビーム出射開始信号を出力せず、(j+n+1)番目のスポットをスキップ(ステップS322)する。
【0133】
ステップS322の直前に、スキップを許容するタイミングかどうか監視する機能を実装し、想定外のスキップを防止することもできる。また、前述の通り、ステップS322の進行条件に、(j+n+1)番目から連続するスポットにおけるステップS304の条件成立を加えることもできる。
【0134】
その後、ビーム出射停止後の処理(ステップS316以降)を経て、次の連続スポット(ここでは(j+n+2)番目のスポット)に進行する。なお、スキップしたスポットに関しては、照射量の実績値がゼロのため、前述したステップS325にて「Yes」となり、ステップS326に進んでカウンタ実績値を判定するステップS317もスキップする。
【0135】
以上、実施例1で説明したのと同様に、ステップS326の実績値判定スキップ機能(以降、スキップ機能Aとする)、およびステップS322のスポット照射スキップ機能(以降、スキップ機能Bとする)によって、小線量スポット(目標照射量がゼロ、あるいは微小なスポット)の照射が可能になる。これらの機能を、総じてスキップスポット機能と呼ぶ。
【0136】
図7を用いて説明した通り、スキップ機能Bは、あるスポットの応答遅れによる照射量(B)xxが、次スポットの目標照射量を超過している場合にのみ適応する。この(B)xxは、前述の通り加速器の応答遅れによって発生するため、ビーム出射を停止しないスポットについては、(B)xxの値はゼロとなる。
【0137】
よって、本実施例において、スキップ機能Bは前スポットにてビーム出射を停止し、当該スポットにてビーム出射を開始するスポットにのみ有効となり、その他のビーム出射開始処理が伴わない(図6のステップS323で「Yes」と判断される)スポットについては、本スキップ機能Bの対象外となる。なお、スキップ機能Aは、ビーム出射の開始、停止に関わらず全スポットが対象となる。
【0138】
また、本スキップ機能Bの対象となるスポットについては、実施例1と同様に、ビーム出射開始前(図6のステップS305)にスポット照射をスキップするか否かの判定を実施(図6のステップS321)し、スキップする場合は図6のステップS322、その後ステップ324に進行する。
【0139】
以上のようにスキップスポット機能を導入した本実施例の粒子線照射システムにおいても、実施例1の場合と同様の効果として、ビーム出射開始信号出力時点にて、当該スポットの目標照射量を超過している場合でも、もしくは加速器応答遅れや複雑な形状、線量分布の照射に対応するために小線量を照射するスポットの場合においても、十分な安全性を維持したスキップ機能によって治療を継続することができ、エラー発生による照射中断とせずに治療を継続することが可能となる。
【0140】
また、仮に、様々な状況によって当該スポットの照射量が限りなく微小になった場合や、図7の(B)xx:702,704の値が突発的に増加した場合においても、本機能適用によって照射中断を防ぐことができる。これらにより、治療計画時、照射に小線量スポットへの考慮が不要となることで、治療計画の効率が向上し、治療の品質向上も実現できる。
【0141】
また、治療に使用できるスポット単位の照射量下限値の制約が緩和され、スポット単位の照射量にとらわれない柔軟な治療(複雑な形状、線量分布の照射)が可能となる。
【0142】
さらに、前述の通り、本機能導入による安全性の確保については、スキップ機能Aが適応となったスポットに対して、その照射量、もしくは回数の監視機能を実装することで実現される。さらなる安全性向上のため、スキップ機能Bの監視機能を用いることもできる。
【0143】
なお、本機能が適用されるスポットは、1回の治療中において、全体の1%にも満たないと推定される。よって、本機能導入は、治療への影響を最小限に抑えて導入できる機能であり、現在の治療品質を維持することができる。
【符号の説明】
【0144】
1 荷電粒子ビーム発生装置
4 ビーム輸送系
5A、5B 走査電磁石(荷電粒子ビーム走査装置)
6A 線量モニタ(照射量検出装置)
6B 位置モニタ
8 出射用デフレクタ
9 高周波印加装置
10 加速装置
11 前段荷電粒子ビーム発生装置(ライナック)
12 シンクロトロン(加速器)
15 照射装置
17、23、24 偏向電磁石
18、21、22 四極電磁石
29 治療台
30 患者
40 加速器・輸送系コントローラ
41 スキャニングコントローラ
41A メモリ
41B カウンタ
62 ビーム経路
91 高周波電源
92 開閉スイッチ
93 高周波印加電極
100 中央制御装置
140 治療計画装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7