IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士重工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-車両の電源システム 図1
  • 特許-車両の電源システム 図2
  • 特許-車両の電源システム 図3
  • 特許-車両の電源システム 図4
  • 特許-車両の電源システム 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】車両の電源システム
(51)【国際特許分類】
   B60W 10/00 20060101AFI20231220BHJP
   B60L 1/00 20060101ALI20231220BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20231220BHJP
   B60R 16/03 20060101ALI20231220BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20231220BHJP
   B60W 20/50 20160101ALI20231220BHJP
   F02D 29/02 20060101ALI20231220BHJP
   F02N 11/08 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
B60W10/00 900
B60L1/00 L ZHV
B60L50/16
B60R16/03 A
B60W10/08 900
B60W20/50
F02D29/02 321B
F02N11/08 L
F02N11/08 V
F02N11/08 Y
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020137780
(22)【出願日】2020-08-18
(65)【公開番号】P2022034131
(43)【公開日】2022-03-03
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】守屋 史之
(72)【発明者】
【氏名】家邊 裕文
(72)【発明者】
【氏名】銅城 敦
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-209811(JP,A)
【文献】特開2018-202915(JP,A)
【文献】特開2017-131106(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0066492(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107176160(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00
B60L 1/00
B60L 50/16
B60R 16/03
B60W 10/08
B60W 20/50
F02D 29/02
F02N 11/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを再始動する再始動モータと、走行モータに電力を供給する走行用バッテリと、前記再始動モータ及び制御系機器の両方を含む複数の機器に電力を供給する第1機器バッテリ及び第2機器バッテリと、前記走行用バッテリの電力から前記複数の機器に供給可能な電源電圧を生成するDC/DCコンバータと、を備えた車両に搭載される車両の電源システムであって、
前記第1機器バッテリから前記制御系機器へ電力が送られる第1電力ラインと、
前記第2機器バッテリから前記再始動モータへ電力が送られる第2電力ラインと、
前記DC/DCコンバータと前記第1電力ラインとの間に接続され、前記第1電力ライン側へ電流を流す向きのダイオードを有する第1スイッチと、
前記DC/DCコンバータと前記第1スイッチとの間から前記第2電力ラインへ電力伝送可能な中継ラインと、
前記中継ラインの電路を開閉する第2スイッチと、
前記再始動モータ、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチを制御する制御部と、
を備え、
前記エンジンの再始動要求に基づき、前記制御部は、前記第2スイッチを開いて前記再始動モータを駆動し、前記エンジンが再始動しない場合に、前記第2スイッチを閉じかつ前記第1スイッチを開いて前記再始動モータを駆動することを特徴とする車両の電源システム。
【請求項2】
前記DC/DCコンバータは出力能力を切替え可能であり、
前記制御部は、前記エンジンが再始動しない場合に、更に、前記DC/DCコンバータの出力能力を上昇させることを特徴とする請求項1記載の車両の電源システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記エンジンが再始動しない場合に、更に、前記エンジンの内部損失に応じて前記DC/DCコンバータの出力電圧を変化させることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両の電源システム。
【請求項4】
前記制御部は、前記エンジンが再始動しない場合に、更に、前記第1電力ラインに接続されている少なくとも1つの機器を停止させることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両の電源システム。
【請求項5】
前記制御部は、前記エンジンが再始動しないことにより前記第2スイッチを閉じかつ前記第1スイッチを開く場合に、前記第1スイッチを開いてから前記第2スイッチを閉じることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の車両の電源システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の電源システムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、スタータモータに低電圧バッテリとDC/DCコンバータとの両方から電力を供給できる車両の電源システムが示されている。この電源システムにおいては、スタータモータを駆動する際、エンジンの内部損失(フリクション)が大きい場合にDC/DCコンバータの出力電圧が変化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-046248号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
内部損失の大きなエンジンを再始動する場合、再始動モータの負荷が大きくなるため、再始動モータを駆動する電力が増す。内部損失が大きいエンジンでも十分に再始動可能とするには、電力を供給する機器バッテリの容量を増やせばよい。
【0005】
一方、近年の車両には、複数の機器バッテリ及びDC/DCコンバータなど、複数の電源が設けられることがある。この場合、1つの機器バッテリの容量を増やさなくても、他の電源から電力を融通し、再始動バッテリに供給することで、内部損失の大きなエンジンでも十分に再始動可能となる。
【0006】
しかしながら、他の電源から電力を融通する際、なんら工夫がないと、融通する側の電源に電圧降下などの影響が及び、他の機器の正常な動作が妨げられる恐れがある。機器の中には制御系機器など一時的な停止も許されない機器が含まれる。
【0007】
本発明は、エンジンの内部損失が大きいときでも、他の電源から電力を融通してエンジンを再始動することが可能であり、かつ、電力の融通により制御系機器に悪影響が及ぶことを抑制できる電源システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1記載の発明は、
エンジンを再始動する再始動モータと、走行モータに電力を供給する走行用バッテリと、前記再始動モータ及び制御系機器の両方を含む複数の機器に電力を供給する第1機器バッテリ及び第2機器バッテリと、前記走行用バッテリの電力から前記複数の機器に供給可能な電源電圧を生成するDC/DCコンバータと、を備えた車両に搭載される車両の電源システムであって、
前記第1機器バッテリから前記制御系機器へ電力が送られる第1電力ラインと、
前記第2機器バッテリから前記再始動モータへ電力が送られる第2電力ラインと、
前記DC/DCコンバータと前記第1電力ラインとの間に接続され、前記第1電力ライン側へ電流を流す向きのダイオードを有する第1スイッチと、
前記DC/DCコンバータと前記第1スイッチとの間から前記第2電力ラインへ電力伝送可能な中継ラインと、
前記中継ラインの電路を開閉する第2スイッチと、
前記再始動モータ、前記第1スイッチ及び前記第2スイッチを制御する制御部と、
を備え、
前記エンジンの再始動要求に基づき、前記制御部は、前記第2スイッチを開いて前記再始動モータを駆動し、前記エンジンが再始動しない場合に、前記第2スイッチを閉じかつ前記第1スイッチを開いて前記再始動モータを駆動することを特徴とする。
【0009】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の車両の電源システムにおいて、
前記DC/DCコンバータは出力能力を切替え可能であり、
前記制御部は、前記エンジンが再始動しない場合に、更に、前記DC/DCコンバータの出力能力を上昇させることを特徴とする。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の車両の電源システムにおいて、
前記制御部は、前記エンジンが再始動しない場合に、更に、前記エンジンの内部損失に応じて前記DC/DCコンバータの出力電圧を変化させることを特徴とする。
【0011】
請求項4記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の車両の電源システムにおいて、
前記制御部は、前記エンジンが再始動しない場合に、更に、前記第1電力ラインに接続されている少なくとも1つの機器を停止させることを特徴とする。
【0012】
請求項5記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の車両の電源システムにおいて、
前記制御部は、前記エンジンが再始動しないことにより前記第2スイッチを閉じかつ前記第1スイッチを開く場合に、前記第1スイッチを開いてから前記第2スイッチを閉じることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、エンジンの内部損失が低いときには、制御部が第2スイッチを開いて再始動モータを駆動することで、第2機器バッテリの電力によりエンジンを再始動できる。一方、エンジンの内部損失が高く、第2機器バッテリの電力のみでエンジンを再始動できない場合、制御部が第2スイッチを閉じかつ第1スイッチを開き、DC/DCコンバータと第2機器バッテリとの両方の電力で再始動モータを駆動することで、多くの場合、エンジンを再始動することができる。
【0014】
さらに、DC/DCコンバータの電力が再始動モータへ供給される際、第1スイッチが開いていることで、第1電力ラインから第2電力ラインへ電流が引き抜かれることが抑制される。加えて、第1スイッチに含まれるダイオードにより、第1電力ラインに接続された機器の電力消費が多い場合に、DC/DCコンバータから第1電力ラインへ電力を送ることができる。したがって、DC/DCコンバータの電力が再始動モータの駆動電力として融通されても、第1電力ラインに電圧降下などの影響が及びにくく、電力の融通により第1電力ラインに接続された制御系機器に悪影響が及ぶことを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態の電源システムが搭載された車両を示す構成図である。
図2】システム制御部が実行する再始動時処理を示すフローチャートの第一部である。
図3】同、再始動時処理を示すフローチャートの第二部である。
図4】再始動時処理の動作の一例を示すタイムチャートである。
図5】システム制御部が実行する再始動時処理の変形例を示すフローチャートの一部である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態の電源システムが搭載された車両を示す構成図である。本発明の実施形態に係る車両1は、HEV(Hybrid Electric Vehicle)であり、駆動輪2と、駆動輪2に動力を出力するエンジン4と、エンジン4を駆動するための補機5と、エンジン4を始動又は再始動させるISG(Integrated Starter Generator)6と、駆動輪2に動力を出力する走行モータ11と、走行モータ11を駆動するインバータ12と、インバータ12に走行用の電力を供給する走行用バッテリ13と、運転者の運転操作を受ける運転操作部20と、車両1の走行制御を行う走行制御部21と、車両1のシステム制御を行うシステム制御部22と、暖房用のヒータを含む車載機器7とを備える。ISG6は、本発明に係る再始動モータの一例に相当する。システム制御部22は、本発明に係る制御部の一例に相当する。
【0017】
走行用バッテリ13は、リチウムイオン二次電池又はニッケル水素二次電池などであり、機器用の電源電圧(12V系)よりも高い電圧を出力する。
【0018】
ISG6は、車両1の動力の一部を吸収して発電を行う発電機としての機能と、エンジン4に始動又は再始動用の動力を出力する電動機としての機能とを有する。ISG6はエンジン4を始動又は再始動させる際に一時的に大きな電力を消費する。
【0019】
運転操作部20は、アクセル操作部、制動操作部、操舵操作部、起動操作部等を含む。走行制御部21は、運転操作部20からアクセル操作部及び制動操作部の操作量の信号を受け、これらの信号に応じて補機5又はインバータ12を駆動し、エンジン4及び走行用バッテリ13を動作させる。これらの動作により、運転操作に応じた車両1の走行が実現される。
【0020】
さらに、車両1は、車速センサ31と、エンジン4の回転速度を検出する回転センサ32と、エンジン4の冷却液の温度を計測する液温センサ33とを備える。車速センサ31、回転センサ32及び液温センサ33は、検出信号をシステム制御部22へ出力する。
【0021】
車両1は、さらに、制御系機器(走行制御部21及びシステム制御部22)等へ電力を供給する第1機器バッテリ41と、ISG6に電力を供給する第2機器バッテリ42と、走行用バッテリ13の高電圧を機器用の電源電圧(12V系)に変換するDC/DCコンバータ43と、機器用の電源電圧が供給される第1電力ラインL1、第2電力ラインL2及び中継ラインL3と、電源供給経路を切り替えるリレー(第2スイッチに相当)25及び半導体スイッチ26(第1スイッチに相当)とを備える。第1電力ラインL1、第2電力ラインL2、中継ラインL3、リレー25、半導体スイッチ26及びシステム制御部22が、本実施形態の電源システムE1に相当する。
【0022】
第1機器バッテリ41及び第2機器バッテリ42は、例えば鉛バッテリであり、機器用の電源電圧(12V系)を出力する。
【0023】
第1電力ラインL1には、第1機器バッテリ41、補機5、制御系機器、運転操作部20及び車載機器7が接続され、第1電力ラインL1を介して第1機器バッテリ41から補機5、制御系機器、運転操作部20及び車載機器7へ電力が伝送される。第2電力ラインL2には、第2機器バッテリ42とISG6とが接続され、第2電力ラインL2を介して第2機器バッテリ42からISG6へ電力が伝送される。
【0024】
半導体スイッチ26は、DC/DCコンバータ43の出力端子と第1電力ラインL1との間に接続される。半導体スイッチ26は第1電力ラインL1側へ電流を流す向きのダイオード26aを含む。ダイオード26aは、半導体スイッチ26の開閉部と並列に接続される。ダイオード26aは寄生ダイオードであってもよい。中継ラインL3は、第2電力ラインL2と接続点N1とを結び、これらの間で電力を伝送できる。接続点N1は、DC/DCコンバータ43と半導体スイッチ26との間の電路に位置する。リレー25は、中継ラインL3の電路に位置し、当該電路を開閉する。リレー25及び半導体スイッチ26はシステム制御部22が切替え制御する。
【0025】
DC/DCコンバータ43は、出力電圧を12V、13V、14Vなど、複数に切り替える機能を有する。切り替えられる電圧は、ともに機器用の電源電圧として使用できる電圧である。さらに、DC/DCコンバータ43は、出力能力を、所定時間、通常の出力能力より高くするブースト機能を有する。通常の出力能力のときには、最大出力電流が第1電流値(例えば定格電流)に制限される一方、高い出力能力に切替えられると、最大出力電流が第1電流値より大きな第2電流値まで引き上げられる。ただし、ブースト機能において、高い出力能力を維持する時間、並びに、出力能力を上げる前回の切り替えから次に切り替え可能となるまでの時間間隔は、それぞれ所定の継続時間及び所定の時間間隔に制限される。DC/DCコンバータ43の出力電圧の切替え、並びに、ブースト機能の発動は、システム制御部22により行われる。
【0026】
電源システムE1においては、ISG6の発電により第2機器バッテリ42が充電される。また、走行用バッテリ13の電力又は走行モータ11の回生電力がDC/DCコンバータ43により降圧され供給されることで第1機器バッテリ41が充電される。エンジン4の始動時又は再始動時以外の通常時には、リレー25が開き、半導体スイッチ26が閉じられる。半導体スイッチ26が閉じることで、DC/DCコンバータ43の電力を低い損失で第1電力ラインL1に導くことができる。
【0027】
<アイドリングストップ機能>
車両1は、一時的な走行停止時、あるいは、HEV走行時の回生充電の停止時に、条件に応じてエンジン4のアイドリング運転を停止するアイドリングストップ機能を有する。アイドリングストップ機能において、システム制御部22は、アイドリングストップの条件が成立した場合にエンジン4のアイドリング運転を停止し、再始動の条件が成立した場合に、エンジン4を再始動する。
【0028】
<エンジンの再始動時処理>
図2及び図3は、システム制御部が実行する再始動時処理を示すフローチャートである。図4は、再始動時処理の動作の一例を示すタイムチャートである。再始動時処理は、エンジン4のアイドリング運転が停止された後、エンジン4を再始動する条件が成立した場合に開始される。再始動時処理が開始されると、システム制御部22は、まず、リレー25を開く(ステップS1)。元々リレー25が開いている場合には、システム制御部22は、その状態を維持する。次に、システム制御部22は、エンジン4を再始動させるためにISG6の駆動を開始し(ステップS2)、再始動に要する所定時間(例えば2秒)を待機する(ステップS3)。
【0029】
続いて、システム制御部22は、エンジン4の回転速度の信号を取り込み(ステップS4)、ISG6の駆動を停止させ(ステップS5)、ステップS4で取得したエンジン4の回転速度が完爆閾値を越えているか判別する(ステップS6)。完爆閾値は、エンジン4が再始動する回転速度に設定される。
【0030】
図4の期間T1は、ステップS2~S6の動作の一例を示している。期間T1は、ISG6の駆動期間である。ISG6が駆動されると、曲線C1に示すように、期間T1にわたってエンジン4の回転速度が漸次上昇する。エンジン4は、温度要因と、総走行距離、経年及びメンテナンス状況等の温度以外の要因により、内部損失(フリクション)が変化する。エンジン4の内部損失の変化は、ISG6の負荷の変化に相当する。したがって、同一の電源でISG6を駆動した場合、エンジン4の内部損失が変化すると、曲線C1の上昇量(エンジン4の回転速度の上昇量)が変化する。期間T1の終端タイミングt1は、エンジン4の回転速度がほぼ最大となるタイミングであり、このタイミングt1でステップS4の回転速度の信号が取り込まれる。終端タイミングt1の回転速度Rmax1が完爆閾値に到達したらステップS6でエンジン4の再始動が成功したと判定され、完爆閾値に達しなければステップS6でエンジン4の再始動が失敗と判定される。図4の例では、期間T1のエンジン4の最大回転速度Rmax1が完爆閾値に達せず、再始動が失敗している。
【0031】
再起動時処理において、ステップS6の判別結果がYESの場合、すなわち、エンジン4が再始動した場合には、システム制御部22は、再始動時処理を終了する。一方、ステップS6の判別結果がNOの場合、すなわち、エンジン4の再始動が失敗した場合には、システム制御部22は、2回目の再始動を試みるステップS7~S15へ処理を分岐する。
【0032】
2回目の再始動を試みる分岐処理へ処理が進むと、システム制御部22は、まず、半導体スイッチ26を開き(ステップS7)、その後、リレー25を閉じる(ステップS8)。この切替えにより、ISG6が駆動される際には、第2機器バッテリ42とDC/DCコンバータ43とからISG6へ電力が供給されることになる。さらに、ISG6の駆動により第2電力ラインL2と中継ラインL3の両方に電圧降下が生じても、半導体スイッチ26が開いていることで、第1電力ラインL1から第2電力ラインL2へ電流が引き抜かれない。さらに、半導体スイッチ26のダイオード26aにより、DC/DCコンバータ43の出力に余裕がありかつ第1電力ラインL1の消費電力が大きい場合には、DC/DCコンバータ43から第1電力ラインL1へ電力が供給される。このとき、ダイオード26aにおいて損失か生じるが、この期間が長く継続されることはない。以上のような電力経路の切替えにより、ISG6にDC/DCコンバータ43の電力が融通可能にされ、かつ、電力の融通があっても、第1電力ラインL1の電圧が不安定になることがない。
【0033】
また、ステップS7、S8の切替えにより、先に半導体スイッチ26が開くことで、リレー25及び半導体スイッチ26の切替え期間中、第1電力ラインL1と第2電力ラインL2とが直接に接続される期間が生じない。よって、仮に、第2機器バッテリ42の電圧が低く、第1機器バッテリ41の電圧が高いときでも、第1機器バッテリ41から第2機器バッテリ42へ電流が引き込まれることが防止される。なお、システム制御部22は、リレー25と半導体スイッチ26の切替え期間に、DC/DCコンバータ43の出力電圧を第1電力ラインL1の電圧以上に制御してもよく、この制御により、ステップS6とステップS7の順を逆にしても、上記の電流の引き込みを防止できる。
【0034】
ステップS7、S8の切替えを行ったら、システム制御部22は、ステップS4で取得したエンジン4の回転速度に応じてDC/DCコンバータ43の出力電圧を上昇させる(ステップS9)。ここで、出力電圧上昇の目的を説明する。図4の期間T1に示したように、エンジン4の再始動が失敗した場合、エンジン4の最大の回転速度Rmax1は、エンジン4の内部損失と相関する。すなわち、エンジン4の内部損失が低ければ最大回転速度Rmax1は高くなり、エンジン4の内部損失が高ければ最大回転速度Rmax1は低くなる。内部損失が高くてエンジン4の回転速度が上がらない場合、ISG6に供給する電源電圧を高くすることで、エンジン4の回転速度を上げることができる。さらに、内部損失が高いときと、より高いときとで、同じように回転速度を上げるには、内部損失が高ければ高いほど(すなわち、最大回転速度Rmax1が低いほど)、ISG6に供給する電源電圧を高くすればよい。ステップS9では、続くISG6の駆動によりエンジン4の回転速度を上げるために、システム制御部22がDC/DCコンバータ43の出力電圧を上昇させる。システム制御部22は、ステップS4で取得したエンジン4の回転速度Rmax1が低いほどDC/DCコンバータ43の出力電圧が高くなるように、回転速度Rmax1に応じて出力電圧を切り替える。
【0035】
続いて、システム制御部22は、ISG6の停止から冷却期間(例えば1秒)が経過するまで待機し(ステップS10)、次に、ISG6の駆動を開始し(ステップS11)、再始動に要する所定時間(例えば2秒)を待機する(ステップS12)。その後、システム制御部22は、エンジン4の回転速度の信号を取り込み(ステップS13)、ISG6の駆動を停止する(ステップS14)。そして、システム制御部22は、ステップS13で取得したエンジン4の回転速度が完爆閾値を越えているか判別し(ステップS15)、完爆閾値を越えていれば、すなわちエンジン4が再始動していれば、再始動時処理を終了する。
【0036】
一方、ステップS15の判別結果がNOで、エンジン4の再始動が失敗した場合、システム制御部22は、3回目の再始動を試みるステップS16~S21へ処理を分岐する。図4の期間T2は、2回目の再始動の処理でエンジン4の回転速度が完爆閾値に到達せずに、タイミングt2で再始動が失敗と判定された例を示す。
【0037】
3回目の再始動を試みる処理へ進むと、まず、システム制御部22は、DC/DCコンバータ43のブースト機能を利用して出力能力を上昇させる(ステップS16)。出力能力の上昇により、DC/DCコンバータ43の出力電流が第1定格電流よりも大きい第2定格電流に達するまで、DC/DCコンバータ43の出力電圧が低下しない設定となる。通常の出力能力では、出力電流が第1定格電流に達すると出力電圧が低下していく。ステップS16において、システム制御部22は、DC/DCコンバータ43の出力電圧を最大値まで引き上げる制御を併せて実行してもよい。
【0038】
続いて、システム制御部22は、ISG6の停止から冷却期間(例えば1秒)が経過するまで待機し(ステップS17)、ISG6の駆動を開始し(ステップS18)、再始動に要する所定時間(例えば2秒)を待機する(ステップS19)。その後、システム制御部22は、エンジン4の回転速度の信号を取り込み(ステップS20)、ISG6の駆動を停止する(ステップS21)。そして、システム制御部22は、ステップS20で取得したエンジン4の回転速度が完爆閾値を越えているか判別し(ステップS22)、完爆閾値を越えていれば、すなわちエンジン4が再始動していれば、再始動時処理を終了する。
【0039】
一方、ステップS22の判別で、回転速度が完爆閾値以下で、3回目の再始動が失敗であれば、システム制御部22は再始動失敗に対処するエラー処理を実行し(ステップS23)、再始動時処理を終了する。図4の期間T3は、3回目の再始動の処理でエンジン4の回転速度が完爆閾値を越え、タイミングt3で再始動が成功と判定された例を示す。
【0040】
上記のような再始動時処理により、低温時などエンジン4の内部損失が高いときでも、電力供給量を変えながら複数回の再始動の処理が行われることで、多くの場合にエンジン4を再始動が成功する。
【0041】
以上のように、本実施形態の車両1及び電源システムE1によれば、制御系機器が接続される第1電力ラインL1とDC/DCコンバータ43との間に、ダイオード26a付きの半導体スイッチ26が設けられる。さらに、ISG6が接続される第2電力ラインL2と第1電力ラインL1との間に、中継ラインL3とその電路を開閉するリレー25とが設けられる。そして、エンジン4の再始動要求に基づき、システム制御部22は、まず、リレー25を開いてISG6を駆動し、エンジン4の回転速度が再始動を示す完爆閾値に達しない場合に、リレー25を閉じかつ半導体スイッチ26を開いてISG6を駆動する。したがって、エンジン4の内部損失が低いときには、第2機器バッテリ42の電力でエンジン4が再始動される。一方、エンジン4の内部損失が高くて第2機器バッテリ42の電力でエンジン4を再始動できない場合には、システム制御部22は、DC/DCコンバータ43の電力を合わせてISG6へ供給し、ISG6を駆動する。したがって、エンジン4の内部損失が高いときでも、DC/DCコンバータ43の電力が融通されることで、多くの場合、エンジン4を再始動することができる。また、このとき、ダイオード26a付きの半導体スイッチ26により、第1電力ラインL1から第2電力ラインL2への電流の引き込みは抑制される一方、DC/DCコンバータ43から第1電力ラインL1への電流の引き込みは可能にされる。したがって、ISG6が一時的に大きな電力を消費して第2電力ラインL2及び中継ラインL3に電圧降下が生じても、第1機器バッテリ41及び第1電力ラインL1に電圧降下などの影響が及ぶことが抑制される。したがって、第1電力ラインL1に接続された制御系機器がリセットしてしまうなどの不都合が生じることを抑制できる。
【0042】
さらに、本実施形態の車両1及び電源システムE1によれば、DC/DCコンバータ43が、出力能力を一時的に上昇するブースト機能を備える。そして、システム制御部22は、エンジン4の再始動が失敗して再度の再始動処理を実行する際に、DC/DCコンバータ43の出力能力を上昇させる。したがって、上記の出力能力の上昇により、ISG6により大きな電力が供給され、続くエンジン4の再始動が成功する確率が上がる。さらに、DC/DCコンバータ43の電力の一部が第1電力ラインL1へ送られている場合でも、DC/DCコンバータ43の出力電力の最大値が上がることで、ISG6の消費電力が一時的に大きくなっても、DC/DCコンバータ43から第1電力ラインL1に送られる電力の落ち込み幅を抑制でき、第1電力ラインL1に電圧降下などの影響が及ぶことを抑制できる。
【0043】
さらに、本実施形態の車両1及び電源システムE1によれば、システム制御部22は、エンジン4の再始動が失敗して再度の再始動の処理を実行する際、失敗したときのエンジン4の回転速度に応じてDC/DCコンバータ43の出力電圧を切り替える。具体的には、再始動が失敗したときのエンジン4の回転速度が高いときには、出力電圧を標準値よりも高い値とし、上記回転速度が低いときには、出力電圧をより高い値とする。この処理により、エンジン4の内部損失に合わせて、ISG6のトルクが高くなり、エンジン4の回転速度を上昇することができる。したがって、エンジン4の再始動が成功する確率が上がる。また、DC/DCコンバータ43の出力電圧が上がることで、ISG6の消費電力が一時的に大きくなっても、DC/DCコンバータ43から第1電力ラインL1へ送られる電力の落ち込み幅を抑制でき、第1電力ラインL1に電圧降下などの影響が及ぶことを抑制できる。
【0044】
さらに、本実施形態の車両1及び電源システムE1によれば、エンジン4の再始動が失敗してリレー25と半導体スイッチ26とを切り替える際、システム制御部22は、まず、半導体スイッチ26を開いてから、リレー25を閉じる。したがって、第1電力ラインL1と第2電力ラインL2とが直接に接続される期間が発生せず、仮に、第2機器バッテリ42の電圧が低く、第1機器バッテリ41の電圧が高いときでも、第1機器バッテリ41から第2機器バッテリ42へ電流が引き込まれることを防止できる。よって、リレー25及び半導体スイッチ26の切り替え期間に、第1電力ラインL1の電圧が不安定になることが抑制される。
【0045】
(変形例)
図5は、システム制御部が実行する再始動時処理の変形例を示すフローチャートの一部である。変形例の再始動時処理は、図2及び図3に示した再始動時処理の一部を変更したものであり、以下、変更された部分について詳細に説明する。
【0046】
変形例の再始動時処理では、ステップS15の判別処理でNO(再始動の失敗)と判別されて、3回目の再始動を試みる分岐処理に移行すると、まず、システム制御部22は、DC/DCコンバータ43の出力に余裕があるか否かを判別する(ステップS31)。余裕の有無の判別は、例えば、DC/DCコンバータ43の出力電力又は出力電流の計測値と、余裕の有無を識別する閾値(例えば定格の75%等)との比較により行われてもよい。あるいは、余裕の有無は、第1電力ラインL1に接続されている車載機器7の駆動状態から判別されてもよい。車載機器7には、暖房機器(ヒータ等)、リアデフロスタ、空調用のブロアファンなど、状況に応じて駆動される機器が含まれ、これらの機器の駆動状態に応じて、DC/DCコンバータ43の出力及び余裕の有無が決定される。
【0047】
ステップS31の判別の結果、DC/DCコンバータ43の出力の余裕がある(ステップS31のNO)と判別されたら、システム制御部22は、エンジン4を再始動するためそのまま処理をステップS16へ進める。
【0048】
ステップS31の判別の結果、DC/DCコンバータ43の出力の余裕が無い(ステップS31のYES)と判別されると、システム制御部22は、第1電力ラインL1に接続されている車載機器7のうち、予め定められた機器の駆動を停止する(ステップS32)。そして、システム制御部22は、停止フラグを「1」にセットする(ステップS33)。ここで、駆動停止の対象となる機器には、一次的に停止しても車両1の運転に支障が生じにくい機器が適用される。上記の機器は、例えば、暖房機器(ヒータ等)、リアデフロスタ、ブロアファンなど、状況に応じて駆動される機器であってもよいし、メータパネルの補助表示器など通常は常時駆動される機器であってもよい。上記の機器の停止により、DC/DCコンバータ43から第1電力ラインL1を介して出力される電力が低減され、DC/DCコンバータ43の出力の余裕量(定格出力から現出力を差し引いた出力量)が大きなる。
【0049】
続いて、システム制御部22は、エンジン4を再始動するためにステップS16へ処理を進める。ステップS32の機器の停止と、ステップS16のDC/DCコンバータ43の出力能力の上昇とが合わさって、続く再始動の処理でエンジン4を再始動できる確率をより高めることができる。
【0050】
ステップS16~S21の処理は、図3の処理と同様である。そして、ステップS21でISG6の駆動を停止したら、システム制御部22は、停止フラグが「1」であるか判別し(ステップS34)、「1」であればステップS32で停止した機器を再度駆動し(ステップS35)、停止フラグを「0」に更新する(ステップS36)。その後、ステップS22へ処理を進める。
【0051】
以上のように、変形例の車両1及び電源システムE1によれば、エンジン4の再始動が失敗してシステム制御部22が再度の再始動処理を実行する際、第1電力ラインL1に接続されている機器のうち、制御系機器以外の機器の駆動が停止される。したがって、その後、ISG6が駆動される際に、DC/DCコンバータ43からISG6へ供給可能な電力が増し、エンジン4の次の再始動が成功する確率が上がる。さらに、上記の機器の停止があることで、ISG6の消費電力が一時的に大きくなった場合でも、第1電力ラインL1を介した電力消費が小さくなっていることで、第1電力ラインL1に電圧降下などの影響が及ぶことを抑制できる。よって、制御系機器がリセットするなどの不都合が抑制される。
【0052】
なお、変形例1では、システム制御部22が、DC/DCコンバータ43の出力に余裕があるか否かを確認し、余裕が少ない場合に、車載機器7のうち予め定められた機器の駆動を停止する構成とした。しかし、システム制御部22は、出力に余裕があるか否かの確認を省略し、機器の駆動を停止してもよい。また、変形例1では、機器の駆動停止の制御を、3回目の再始動処理の前に行う例を示したが、システム制御部22は、2回目の再始動処理の前に機器の駆動停止の制御を行ってもよい。また、再始動の失敗しが続いた場合に、4回以上の再始動処理を行う制御フローであれば、システム制御部22は、4回目以降の再始動処理の前に機器の駆動停止の制御を行ってもよい。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、再始動時処理において、再始動を失敗した場合に、3回まで再始動を試みる処理を実行する例を示したが、再始動を試みる処理は2回までとしたり、4回以上としてもよい。また、4回以上とする場合には、回数が増すごとに、DC/DCコンバータ43の出力能力又は出力電圧を段階的に上昇させるように制御が行われてもよい。また、上記実施形態では、エンジン4の再始動が失敗した場合に、一旦、ISG6が停止された後に、次の再始動処理が開始される例を示した。しかし、ISG6が連続的に駆動される間に、再始動の成功又は失敗の判別処理と、再始動失敗と判別された場合のリレー25及び半導体スイッチ26の切り替え、又は、DC/DCコンバータ43の切替えが行われてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、システム制御部22が、エンジン4の回転速度が完爆閾値に達したか否かによりエンジン4の再始動が成功したか失敗したか判定する例を示した。しかし、システム制御部22は、その他の物理量からエンジン4の再始動が成功したか失敗したかを判定してもよい。例えば、上記の物理量として、ISG6の回転トルクの減少量など、様々な完爆判定手法で利用されている物理量が適用されてもよい。
【0055】
その他、第1スイッチ及び第2スイッチに相当する具体的な構成など、実施形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0056】
1 車両
2 駆動輪
4 エンジン
5 補機
6 ISG
11 走行モータ
12 インバータ
13 走行用バッテリ
21 走行制御部
22 システム制御部(制御部)
31 車速センサ
32 回転センサ
33 液温センサ
41 第1機器バッテリ
42 第2機器バッテリ
43 DC/DCコンバータ
L1 第1電力ライン
L2 第2電力ライン
L3 中継ライン
25 リレー(第2スイッチ)
26 半導体スイッチ(第1スイッチ)
26a ダイオード
E1 電源システム
図1
図2
図3
図4
図5