(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】既存建築物補強構造及び既存建築物補強方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/08 20060101AFI20231220BHJP
E02D 27/34 20060101ALI20231220BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
E02D27/08
E02D27/34 Z
E04G23/02 D
(21)【出願番号】P 2020146900
(22)【出願日】2020-09-01
【審査請求日】2023-02-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 新一
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-270381(JP,A)
【文献】特開2015-048643(JP,A)
【文献】特開2015-045199(JP,A)
【文献】特開2017-101534(JP,A)
【文献】特開2001-173241(JP,A)
【文献】特開2016-000955(JP,A)
【文献】特開2010-156178(JP,A)
【文献】特開2002-322652(JP,A)
【文献】米国特許第05697191(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/08
E02D 27/34
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨柱の柱脚が埋め込まれた基礎を有する既存建築物を補強する既存建築物補強構造であって、
前記既存建築物の外側における支持地盤上に構築されて前記基礎に接合され、前記基礎を拡張する基礎拡張部と、
前記既存建築物の外側における前記支持地盤に打ち込まれ、又は前記基礎拡張部上に設置され、前記支持地盤に対する前記基礎拡張部の浮き上がりを抑止する浮上抑止部材と、
を備え
、
前記基礎拡張部は、前記既存建築物における外向きの前記基礎の回転に対する耐力である抵抗転倒モーメントが前記鉄骨柱における前記柱脚での曲折に対する耐力である柱脚曲げ耐力以上となるように、前記基礎を拡張し、
前記浮上抑止部材は、前記既存建築物における内向きの前記基礎の回転に対する耐力である抵抗転倒モーメントが前記柱脚曲げ耐力以上となるように、前記基礎拡張部の浮き上がりを抑止する、
既存建築物補強構造。
【請求項2】
鉄骨柱の柱脚が埋め込まれた基礎を有する既存建築物を補強する既存建築物補強方法であって、
前記基礎を拡張する基礎拡張部を前記既存建築物の外側における支持地盤上に構築して前記基礎に接合すると共に、前記支持地盤に対する前記基礎拡張部の浮き上がりを抑止する浮上抑止部材を、前記既存建築物の外側における前記支持地盤に打ち込む、又は前記基礎拡張部上に設置する
ことを備え、
前記基礎拡張部の構築では、前記既存建築物における外向きの前記基礎の回転に対する耐力である抵抗転倒モーメントが前記鉄骨柱における前記柱脚での曲折に対する耐力である柱脚曲げ耐力以上となるように、前記基礎を拡張し、
前記浮上抑止部材の打ち込み又は設置では、前記既存建築物における内向きの前記基礎の回転に対する耐力である抵抗転倒モーメントが前記柱脚曲げ耐力以上となるように、前記基礎拡張部の浮き上がりを抑止する、
既存建築物補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存建築物を補強する既存建築物補強構造及び既存建築物補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
工場及び体育館等の建築物では、鉄骨柱の柱脚を基礎に埋め込んで自立柱とし鉄骨柱どうしの間に屋根小梁を掛けたいわゆる自立柱フレーム構造が採用されていることがある(非特許文献1及び非特許文献2)。非特許文献1及び非特許文献2には、鉄骨柱に水平方向の外力が作用したときに鉄骨柱が柱脚で曲折して倒れる「柱脚曲げ降伏」、又は支持地盤が基礎によって押し込まれて降伏し基礎が回転する「基礎回転降伏」に対して建築物の耐震診断を行う方法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】“2011年改定版 耐震改修促進法のための既存鉄骨造建築物の耐震診断および耐震改修指針・同解説”、p.83,87,91,92
【文献】“屋内運動場等の耐震性能診断基準(平成18年版)”、文部科学省大臣官房文教施設企画部、平成22年10月、p.11,12,13,21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、柱脚曲げ降伏に対する既存建築物の補強については、種々の方法が提案されているのに対して、基礎回転降伏に対する既存建築物の補強の提案は少ない。このような理由から、既存建築物においては、基礎回転降伏に対する補強が求められている。
【0005】
本発明は、基礎回転降伏に対して既存建築物を補強することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、鉄骨柱の柱脚が埋め込まれた基礎を有する既存建築物を補強する既存建築物補強構造であって、既存建築物の外側における支持地盤上に構築されて基礎に接合され、基礎を拡張する基礎拡張部と、既存建築物の外側における支持地盤に打ち込まれ、又は基礎拡張部上に設置され、支持地盤に対する基礎拡張部の浮き上がりを抑止する浮上抑止部材と、を備え、基礎拡張部は、既存建築物における外向きの基礎の回転に対する耐力である抵抗転倒モーメントが鉄骨柱における柱脚での曲折に対する耐力である柱脚曲げ耐力以上となるように、基礎を拡張し、浮上抑止部材は、既存建築物における内向きの基礎の回転に対する耐力である抵抗転倒モーメントが柱脚曲げ耐力以上となるように、基礎拡張部の浮き上がりを抑止する。
【0007】
また、本発明は、鉄骨柱の柱脚が埋め込まれた基礎を有する既存建築物を補強する既存建築物補強方法であって、基礎を拡張する基礎拡張部を既存建築物の外側における支持地盤上に構築して基礎に接合すると共に、支持地盤に対する基礎拡張部の浮き上がりを抑止する浮上抑止部材を、既存建築物の外側における支持地盤に打ち込む、又は基礎拡張部上に設置することを備え、基礎拡張部の構築では、既存建築物における外向きの基礎の回転に対する耐力である抵抗転倒モーメントが鉄骨柱における柱脚での曲折に対する耐力である柱脚曲げ耐力以上となるように、基礎を拡張し、 浮上抑止部材の打ち込み又は設置では、既存建築物における内向きの基礎の回転に対する耐力である抵抗転倒モーメントが柱脚曲げ耐力以上となるように、基礎拡張部の浮き上がりを抑止する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、基礎回転降伏に対して既存建築物を補強することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る補強構造を既存建築物に適用した状態を示す断面図である。
【
図2】
図1に示す矢印R1の方向の基礎回転降伏に対する基礎の抵抗転倒モーメントの増強を説明するための図であり、(a)は、桁行方向から見た補強構造を模式的に示し、(b)は、鉛直下向きに見た補強構造100を模式的に示す。
【
図3】
図1に示す矢印R2の方向の基礎回転降伏に対する基礎の抵抗転倒モーメントの増強を説明するための図であり、桁行方向から見た補強構造を模式的に示す。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る補強構造を既存建築物に適用した状態を示す断面図である。
【
図5】
図4に示す矢印R1の方向の基礎回転降伏に対する基礎の抵抗転倒モーメントの増強を説明するための図であり、桁行方向から見た補強構造を模式的に示す。
【
図6】
図4に示す矢印R2の方向の基礎回転降伏に対する基礎の抵抗転倒モーメントの増強を説明するための図であり、桁行方向から見た補強構造を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態に係る既存建築物を補強する補強構造及び補強方法について、図面を参照して説明する。
【0011】
<第1実施形態>
まず、
図1から
図3を参照して、本発明の第1実施形態に係る補強構造100及び補強方法について説明する。
【0012】
図1は、既存建築物1に補強構造100を適用した状態を示す断面図である。
図1に示すように、既存建築物1は、支持地盤上に構築された基礎2と、基礎2に支持された複数の鉄骨柱3と、鉄骨柱3どうしの間に掛けられた屋根小梁4と、を備えている。基礎2は、例えば鉄筋コンクリート製であり、地面を掘削して構築される。基礎2の構築後は、埋め戻される。
【0013】
基礎2は、支持地盤に接するフーチング(基部)2aと、フーチング2aに直立して設けられた直立部2bと、を備えている。鉄骨柱3の柱脚3aは、基礎2の直立部2bに埋め込まれており、自立柱とされている。基礎2は、複数の鉄骨柱3を個別に支持するいわゆる独立基礎であってもよいし、複数の鉄骨柱3をまとめて支持するいわゆる布基礎であってもよい。
【0014】
柱脚3aを基礎2に埋め込んで鉄骨柱3を自立柱とし鉄骨柱3どうしの間に屋根小梁4を掛けたこのような構造は、「自立柱フレーム構造」とも呼ばれる。自立柱フレーム構造は、例えば工場及び体育館に採用されている。
【0015】
自立柱フレーム構造の既存建築物1では、例えば地震等により鉄骨柱3が水平方向に外力を受けたときに、鉄骨柱3が柱脚3aで曲折して倒れる柱脚曲げ降伏、又は支持地盤が基礎2によって押し込まれて降伏し基礎2が回転する基礎回転降伏が生じることがある。柱脚曲げ降伏又は基礎回転降伏のいずれが生じるかは、柱脚曲げ降伏を生じるときの耐力である柱脚曲げ耐力と、基礎回転降伏を生じるときの耐力である抵抗転倒モーメントと、の大小関係によって決まる。すなわち、柱脚曲げ耐力が抵抗転倒モーメントよりも小さい場合には柱脚曲げ降伏が生じ、柱脚曲げ耐力が抵抗転倒モーメントよりも大きい場合には基礎回転降伏が生じる。
【0016】
柱脚曲げ降伏と基礎回転降伏とでは、地震時に既存建築物1がどれくらいの変形まで倒れずにいられるかを示す指標である靭性指標(「F値」とも呼ばれる)が異なることが分かっている。基礎回転降伏における靭性指標は、柱脚曲げ降伏における靭性指標よりも小さい。そのため、基礎回転降伏が生じた場合には、柱脚曲げ降伏が生じた場合と比較して、既存建築物1が倒れやすい。このような理由から、既存建築物1における基礎2の抵抗転倒モーメントを増強することが求められている。
【0017】
補強構造100及び補強方法は、既存建築物1における基礎2の抵抗転倒モーメントを増強するために用いられる。
【0018】
補強構造100は、既存建築物1の外側における支持地盤上に構築される基礎拡張部10と、既存建築物1の外側における支持地盤に打ち込まれる引抜抵抗杭20と、を備えている。基礎拡張部10は、例えば鉄筋コンクリート製であり、引抜抵抗杭20は、例えば鋼管杭である。
【0019】
基礎拡張部10は、基礎2におけるフーチング2aにあと施工アンカー11等で接合されており、フーチング2aを支持地盤に沿って拡張する。そのため、基礎2は、基礎拡張部10と一体的に支持基盤に支持される。したがって、鉄骨柱3が既存建築物1の外向きに倒れるように基礎2が回転する基礎回転降伏(
図1において、矢印R1の方向の基礎回転降伏)に対して、基礎2の抵抗転倒モーメントを増強することができる。
【0020】
引抜抵抗杭20は、支持地盤から引き抜かれる方向に外力を受けたときに支持地盤内に留まるように抵抗力を発揮する。引抜抵抗杭20の杭頭は、基礎拡張部10に埋め込まれており、引抜抵抗杭20は、支持地盤に対する基礎拡張部10の浮き上がりを抑止する。そのため、基礎拡張部10は、引抜抵抗杭20によって支持地盤に押え込まれる。したがって、鉄骨柱3が既存建築物1の内向きに倒れるように基礎2が回転する基礎回転降伏(
図1において、矢印R2の方向の基礎回転降伏)に対して、基礎2の抵抗転倒モーメントを増強することができる。
【0021】
補強構造100による基礎2の抵抗転倒モーメントの増強について、
図2及び
図3を参照して詳述する。
図2は、
図1に示す矢印R1の方向の基礎回転降伏に対する基礎2の抵抗転倒モーメントの増強を説明するための図であり、
図2(a)は、桁行方向から見た補強構造100を模式的に示し、
図2(b)は、鉛直下向きに見た補強構造100を模式的に示す。
図3は、
図1に示す矢印R2の方向の基礎回転降伏に対する基礎2の抵抗転倒モーメントの増強を説明するための図であり、桁行方向から見た補強構造100を模式的に示す。
【0022】
図2及び
図3では、基礎2を梁間方向に拡張するように基礎拡張部10を基礎2に接合した例が示されている。ここでは、梁間方向における基礎2及び基礎拡張部10の長さをそれぞれD、Deとする。桁行方向における基礎2の幅をBとし、基礎拡張部10の幅は、基礎2の幅と同じとする。また、鉛直荷重による鉄骨柱3の軸力をNをとし、基礎2の重量をWとし、基礎拡張部10の重量をWeとする。鉄骨柱3の中心軸から基礎拡張部10の中心までの梁間方向の長さをLeとし、鉄骨柱3の中心軸から引抜抵抗杭20の中心軸までの梁間方向の長さをLpとする。支持地盤の極限地耐力をqsとする。また、
図2において、鉄骨柱3が既存建築物1の外向きに倒れるように基礎2が回転する方向の転倒モーメントをMf1とし、
図3において、鉄骨柱3が既存建築物1の内向きに倒れるように基礎2が回転する方向の転倒モーメントをMf2とする。
【0023】
まず、
図2を参照して、転倒モーメントMf1に対する基礎2の抵抗転倒モーメントの増強について説明する。ここで、基礎2に転倒モーメントMf1が作用したときには基礎2及び基礎拡張部10における所定領域A1に支持地盤の地耐力が作用するとし、梁間方向における所定領域A1の長さをx1とする。鉄骨柱3の中心軸から所定領域A1の中心までの梁間方向の長さをe1とする。
【0024】
鉛直方向の力の釣り合いから、次式が成立する。
【0025】
【0026】
基礎2が支持地盤から受ける地反力Qvの中心軸と鉄骨柱3の中心軸までの偏心距離がe1であるから、次式が成立する。
【0027】
【0028】
式(2)を式(3)に代入すると、次式が得られる。
【0029】
【0030】
また、転倒モーメントは、地反力Qvの応力中心の偏心距離e1と地反力Qvの積と釣り合っているため、次式が成立する。
【0031】
【0032】
式(1)、式(4)を式(5)に代入すると、次式が得られる。
【0033】
【0034】
式(6)において、簡易化するために基礎拡張部10の重量Weを0(零)として整理すると、次式を得る。
【0035】
【0036】
式(7)から得られるMf1が、補強構造100により増強された後の基礎2の抵抗転倒モーメントに相当する。補強前の基礎2の抵抗転倒モーメントMf0は、式(7)にて梁間方向における基礎拡張部10の長さDeを0(零)とすることによって得られる。
【0037】
【0038】
補強構造100による補強後の抵抗転倒モーメントMf1と補強前の抵抗転倒モーメントMf0との差を式(7)と式(8)を用いて算出すると、次式を得る。
【0039】
【0040】
つまり、基礎2の抵抗転倒モーメントは、補強構造100によって、(N+W)・Deだけ増強されることになる。
【0041】
次に、
図3を参照して、転倒モーメントMf2に対する基礎2の抵抗転倒モーメントの増強について説明する。ここで、基礎2に転倒モーメントMf2が作用したときには基礎2における所定領域A2に支持地盤の地耐力が作用するとし、梁間方向における所定領域A2の長さをx2とする。鉄骨柱3の中心軸から所定領域A2の中心までの梁間方向の長さをe2とする。また、引抜抵抗杭20の抵抗力をRtとする。引抜抵抗杭20の抵抗力Rtは、引抜抵抗杭20の長さ及び外径により調整可能である。
【0042】
力の釣り合い及びモーメントの釣り合いから式を変形し、基礎拡張部10の重量Weを0(零)として整理すると、次式を得る。
【0043】
【0044】
式(9)から得られるMf2が、補強構造100により増強された後の基礎2の抵抗転倒モーメントに相当する。補強前の基礎2の抵抗転倒モーメントMf0は、式(9)において引抜抵抗杭20の抵抗力Rtを0(零)とすることによって得られ、式(8)と同じになる。補強構造100による補強後の抵抗転倒モーメントMf2と補強前の抵抗転倒モーメントMf0との差を式(9)と式(8)を用いて算出すると、次式を得る。
【0045】
【0046】
つまり、基礎2の抵抗転倒モーメントは、補強構造100によって、Rt・Lpだけ増強されることになる。
【0047】
このように、補強構造100によって、
図1における矢印R1の方向と矢印R2の方向との両方の基礎回転降伏に対して基礎2の抵抗転倒モーメントを増強することができる。したがって、基礎回転降伏に対して既存建築物1を補強することができる。
【0048】
また、基礎拡張部10は、既存建築物1の外側における支持地盤上に構築され、引抜抵抗杭20は、既存建築物1の外側における支持地盤に打ち込まれる。そのため、既存建築物1の補強は、既存建築物1の外側での工事で完結する。したがって、既存建築物1の内側での工事が不要になり、基礎回転降伏に対して既存建築物1を容易に補強することができる。
【0049】
基礎拡張部10は、既存建築物1における外向きの基礎2の回転に対する耐力である抵抗転倒モーメントMf1が鉄骨柱3における柱脚3aでの曲折に対する耐力である柱脚曲げ耐力以上となるように、基礎2を拡張する。具体的には、基礎拡張部10の長さDeは、式(7)から得られる抵抗転倒モーメントMf1が柱脚曲げ耐力以上となるように、決定される。
【0050】
また、引抜抵抗杭20は、既存建築物1における内向きの基礎2の回転に対する耐力である抵抗転倒モーメントMf2が柱脚曲げ耐力以上となるように、支持地盤に対する基礎拡張部10の浮き上がりを抑止する。具体的には、引抜抵抗杭20の長さ、外径及び打ち込み位置は、式(9)から得られる抵抗転倒モーメントMf2が柱脚曲げ耐力以上となるように、決定される。
【0051】
このように、補強構造100により、抵抗転倒モーメントMf1,Mf2が柱脚曲げ耐力以上となる。そのため、基礎回転降伏を回避することができる。したがって、既存建築物1の靭性指標を高めることができ、既存建築物1の耐震性を高めることができる。
【0052】
本実施形態に係る補強方法では、まず、既存建築物1の外側における地面を掘削し、支持地盤を露出させる。次に、引抜抵抗杭20を支持地盤に打ち込む。その後、杭頭を基礎拡張部10に埋め込むようにして支持地盤上に基礎拡張部10を構築して基礎2に接合し、基礎2を支持地盤に沿って拡張する。その後、掘削土を埋め戻す。以上により、既存建築物1の補強が完了する。
【0053】
以上の実施形態によれば、以下に示す作用効果を奏する。
【0054】
補強構造100及び補強方法では、基礎拡張部10は、基礎2に接合され、基礎2を拡張する。そのため、基礎2は、基礎拡張部10と一体的に支持基盤に支持される。したがって、
図1における矢印R1の方向の基礎回転降伏に対して、基礎2の抵抗転倒モーメントを増強することができる。また、引抜抵抗杭20は、支持地盤に対する基礎拡張部10の浮き上がりを抑止する。そのため、基礎拡張部10は、引抜抵抗杭20によって支持地盤に押え込まれる。したがって、
図1における矢印R2の方向の基礎回転降伏に対して、基礎2の抵抗転倒モーメントを増強することができる。これらにより、基礎回転降伏に対して既存建築物1を補強することができる。
【0055】
また、基礎拡張部10は、既存建築物1の外側における支持地盤上に構築され、引抜抵抗杭20は、基礎拡張部10に杭頭を埋め込むようにして支持地盤に打ち込まれる。そのため、既存建築物1の補強は、既存建築物1の外側での工事で完結する。したがって、既存建築物1の内側での工事が不要になり、基礎回転降伏に対して既存建築物1を容易に補強することができる。
【0056】
また、補強構造100により、抵抗転倒モーメントMf1,Mf2が柱脚曲げ耐力以上となる。そのため、地震時には基礎回転降伏を回避することができる。したがって、既存建築物1の靭性指標を高めることができ、既存建築物1の耐震性を高めることができる。
【0057】
<第2実施形態>
次に、
図4から
図6を参照して、発明の第2実施形態に係る補強構造200及び補強方法について説明する。以下では、第1実施形態と異なる点を主に説明し、第1実施形態で説明した構成と同一の構成又は相当する構成については、図中に第1実施形態と同一の符号を付して説明を省略する。
【0058】
図4は、既存建築物1に補強構造200を適用した状態を示す断面図である。
図4に示すように、補強構造200は、基礎拡張部10と、基礎拡張部10上に設置されたカウンタウエイト220と、を備えている。カウンタウエイト220は、例えば柱形状に形成された鉄筋コンクリートブロック塊であり、あと施工アンカー11等により基礎拡張部10に結合される。
【0059】
基礎拡張部10は、基礎2を支持地盤に沿って拡張する。そのため、基礎2は、基礎拡張部10と一体的に支持基盤に支持される。したがって、鉄骨柱3が既存建築物1の外向きに倒れるように基礎2が回転する基礎回転降伏(
図4において、矢印R1の方向の基礎回転降伏)に対して、基礎2の抵抗転倒モーメントを増強することができる。
【0060】
カウンタウエイト220は、基礎拡張部10に鉛直下向きの荷重をかけ、支持地盤に対する基礎拡張部10の浮き上がりを抑止する。そのため、基礎拡張部10は、カウンタウエイト220によって支持地盤に押え込まれる。したがって、鉄骨柱3が既存建築物1の内向きに倒れるように基礎2が回転する基礎回転降伏(
図4において、矢印R2の方向の基礎回転降伏)に対して、基礎2の抵抗転倒モーメントを増強することができる。
【0061】
補強構造200による基礎2の抵抗転倒モーメントの増強について、
図5及び
図6を参照して詳述する。
図5は、
図4に示す矢印R1の方向の基礎回転降伏に対する基礎2の抵抗転倒モーメントの増強を説明するための図であり、桁行方向から見た補強構造200を模式的に示す。
図6は、
図4に示す矢印R2の方向の基礎回転降伏に対する基礎2の抵抗転倒モーメントの増強を説明するための図であり、桁行方向から見た補強構造200を模式的に示す。鉛直下向きに見た補強構造200の模式図は、
図2(b)に示される模式図とほぼ同じであるため、ここではその図示を省略する。
【0062】
図5及び
図6では、基礎2を梁間方向に拡張するように基礎拡張部10を基礎2に接合した例が示されている。ここでは、鉄骨柱3の中心軸からカウンタウエイト220の中心までの梁間方向の長さをLcとし、
図6に示すように、カウンタウエイト220の重量をWcとする。また、
図5において、鉄骨柱3が既存建築物1の外向きに倒れるように基礎2が回転する方向の転倒モーメントをMf3とし、
図6において、鉄骨柱3が既存建築物1の内向きに倒れるように基礎2が回転する方向の転倒モーメントをMf4とする。
【0063】
まず、
図5を参照して、転倒モーメントMf3に対する基礎2の抵抗転倒モーメントの増強について説明する。力の釣り合い及びモーメントの釣り合いから式を変形し、基礎拡張部10の重量Weを0(零)として整理すると、次式を得る。
【0064】
【0065】
式(10)から得られるMf3が、補強構造200により増強された後の基礎2の抵抗転倒モーメントに相当する。補強前の基礎2の抵抗転倒モーメントMf0は、式(10)において梁間方向における基礎拡張部10の長さDeを0(零)とすることによって得られ、第1実施形態における式(8)と同じになる。補強構造200による補強後の抵抗転倒モーメントMf3と補強前の抵抗転倒モーメントMf0との差を式(10)と式(8)を用いて算出すると、次式を得る。
【0066】
【0067】
つまり、基礎2の抵抗転倒モーメントは、補強構造200(より具体的には基礎拡張部10)によって、式(11)により算出される値だけ補強されることになる。
【0068】
次に、
図6を参照して、転倒モーメントMf4に対する基礎2の抵抗転倒モーメントの増強について説明する。力の釣り合い及びモーメントの釣り合いから式を変形し、基礎拡張部10の重量Weを0(零)として整理すると、次式を得る。
【0069】
【0070】
式(12)から得られるMf4が、補強構造200により増強された後の基礎2の抵抗転倒モーメントに相当する。補強前の基礎2の抵抗転倒モーメントMf0は、式(12)においてカウンタウエイト220の重量Wcを0(零)とすることによって得られ、第1実施形態における式(8)と同じになる。補強構造200による補強後の抵抗転倒モーメントMf4と補強前の抵抗転倒モーメントMf0との差を式(12)と式(8)を用いて算出すると、次式を得る。
【0071】
【0072】
つまり、基礎2の抵抗転倒モーメントは、補強構造200によって、式(13)により算出される値だけ補強されることになる。
【0073】
このように、補強構造200によって、
図4における矢印R1の方向と矢印R2の方向との両方の基礎回転降伏に対して基礎2の抵抗転倒モーメントを増強することができる。したがって、基礎回転降伏に対して既存建築物1を補強することができる。
【0074】
また、基礎拡張部10は、既存建築物1の外側における支持地盤上に構築され、カウンタウエイト220は、基礎拡張部10上に設置される。そのため、既存建築物1の補強は、既存建築物1の外側での工事で完結する。したがって、既存建築物1の内側での工事が不要になり、基礎回転降伏に対して既存建築物1を容易に補強することができる。
【0075】
基礎拡張部10は、既存建築物1における外向きの基礎2の回転に対する耐力である抵抗転倒モーメントMf3が鉄骨柱3における柱脚3aでの曲折に対する耐力である柱脚曲げ耐力以上となるように、基礎2を拡張する。具体的には、基礎拡張部10の長さDeは、式(10)から得られる抵抗転倒モーメントMf3が柱脚曲げ耐力以上となるように、決定される。
【0076】
また、カウンタウエイト220は、既存建築物1における内向きの基礎2の回転に対する耐力である抵抗転倒モーメントMf4が柱脚曲げ耐力以上となるように、支持地盤に対する基礎拡張部10の浮き上がりを抑止する。具体的には、カウンタウエイト220の重量Wc及び設置位置は、式(12)から得られる抵抗転倒モーメントMf4が柱脚曲げ耐力以上となるように、決定される。
【0077】
このように、補強構造200により、抵抗転倒モーメントMf3,Mf4が柱脚曲げ耐力以上となる。そのため、基礎回転降伏を回避することができる。したがって、既存建築物1の靭性指標を高めることができ、既存建築物1の耐震性を高めることができる。
【0078】
本実施形態に係る補強方法では、まず、既存建築物1の外側における地面を掘削し、支持地盤を露出させる。次に、支持地盤上に基礎拡張部10を構築して基礎2に接合し、基礎2を支持地盤に沿って拡張する。次に、カウンタウエイト220を基礎拡張部10上に設置する。その後、掘削により形成された穴を埋め戻す。
【0079】
以上の実施形態によれば、第1実施形態と同様に、基礎回転降伏に対して既存建築物1を容易に補強することができる。また、既存建築物1の靭性指標を高めることができ、既存建築物1の耐震性を高めることができる。
【0080】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0081】
第1実施形態では、
図1における左右両側の基礎2が補強構造100によって補強され、第2実施形態では、
図4における左右両側の基礎2が補強構造200によって補強されているが、本発明はこの形態に限られない。本発明は、
図1及び
図4における左右の基礎2の一方を補強構造100によって補強し、他方を補強構造200によって補強する形態であってもよい。
【0082】
補強構造100,200のいずれによって基礎2を補強するかは、鉄骨柱3の列毎に決定してもよいし、鉄骨柱3毎に決定してもよい。一部の鉄骨柱3に対して既存建築物1の出入り口や通路確保のためカウンタウエイト220の設置が困難な場合には、当該鉄骨柱3の基礎2に対しては、引抜抵抗杭20を用いる補強構造100を適用する。
【0083】
上記実施形態では、基礎拡張部10は基礎2のフーチング2aにあと施工アンカー11等で接合されてフーチング2aを拡張しているが、本発明は、この形態に限られない。基礎拡張部10は、基礎2を拡張可能であればよい。
【0084】
上記第2実施形態では、
図4に示すように、カウンタウエイト220は地面から突出しているが、カウンタウエイト220は地面から突出していなくてもよい。
【符号の説明】
【0085】
100,200・・・補強構造
1・・・既存建築物
2・・・基礎
3・・・鉄骨柱
3a・・・柱脚
10・・・基礎拡張部
20・・・引抜抵抗杭(浮上抑止部材)
220・・・カウンタウエイト(浮上抑止部材)