(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】障害物検知システム及び障害物検知方法
(51)【国際特許分類】
B61L 23/00 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
B61L23/00 A
(21)【出願番号】P 2020172289
(22)【出願日】2020-10-13
【審査請求日】2023-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】弁理士法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小田 篤史
(72)【発明者】
【氏名】小池 潤
(72)【発明者】
【氏名】勝田 敬一
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-084881(JP,A)
【文献】国際公開第2018/020928(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
列車の周囲を監視する外界センサと、
前記外界センサにより得られたセンサデータを用いて、障害物を検知する障害物検知処理を行う少なくとも2つ以上の障害物検知処理部
を備える障害物検知システムにおいて、
前記センサデータのセンサ情報に応じて前記外界センサから受信した前記センサデータを、前記2つ以上の障害物検知処理部のうちのいずれか1つの障害物検知処理部に送信し、前記障害物検知処理を割り当てる分配部をさらに備え、
前記2つ以上の障害物検知処理部は、前記分配部によって割り当てられた前記障害物検知処理をする
ことを特徴とする障害物検知システム。
【請求項2】
請求項1に記載の障害物検知システムであって、
前記分配部は、障害物検知処理を外界センサのセンサデータ容量の大きさに応じて、
前記2つ以上の障害物検知処理部へ割り当てること
を特徴とする障害物検知システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の障害物検知システムであって、
前記分配部は、センサデータ容量が小さい外界センサのセンサデータを使用した障害物検知処理を、進行方向先頭車以外に搭載された障害物検知処理部に割り当てること
を特徴とする障害物検知システム。
【請求項4】
請求項
3に記載の障害物検知システムであって、
前記分配部は、障害物検知処理部での処理時間が短い外界センサのセンサデータを使用した障害物検知処理を、前記進行方向先頭車以外に搭載された障害物検知処理部に割り当てること
を特徴とする障害物検知システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか1つに記載の障害物検知システムであって、
前記2つ以上の障害物検知処理部が同一列車内に存在すること
を特徴とする障害物検知システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1つに記載の障害物検知システムであって、
前記列車の進行方向に応じて、前記2つ以上の障害物検知処理部へ割り当てる障害物検知処理を切り替えることが可能であること
を特徴とする障害物検知システム。
【請求項7】
請求項1乃至請求項6のいずれか1つに記載の障害物検知システムであって、
前記列車が併結数によって処理負荷が変動する外界センサを1つ以上有する場合、
前記分配部は、前記併結数によって処理負荷が変動する外界センサの外界センサデータを前記外界センサと同一の障害物検知システム内に備わる障害物検知処理部に送信すること
を特徴とする障害物検知システム。
【請求項8】
請求項1乃至請求項7のいずれか1つに記載の障害物検知システムであって、
前記分配部は、前記障害物検知処理を他列車に搭載された障害物検知処理部に割り当てること
を特徴とする障害物検知システム。
【請求項9】
請求項8に記載の障害物検知システムであって、
前記他列車は、前記障害物検知システムが搭載されている列車との通信経路が短い列車であること
を特徴とする障害物検知システム。
【請求項10】
請求項9に記載の障害物検知システムであって、
前記他列車は、割り当てられた前記障害物検知処理の結果を一定周期内に前記障害物検知システムに返送可能な通信経路内に存在すること
を特徴とする障害物検知システム。
【請求項11】
請求項8に記載の障害物検知システムであって、
前記他列車には、車両基地内に停車中の列車または駅に停車中の列車が優先的に設定されること
を特徴とする障害物検知システム。
【請求項12】
請求項1乃至請求項11のいずれか1つに記載の障害物検知システムであって、
前記分配部は、前記障害物検知処理を地上部に存在する前記障害物検知処理部に割り当てること
を特徴とする障害物検知システム。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12のいずれか1つに記載の障害物検知システムであって、
前記2つ以上の障害物検知処理部に割り当てられた外界センサのセンサデータ、もしくは障害物検知結果、またはその両方を記録する2つ以上の記録部を更に備えること
を特徴とする障害物検知システム。
【請求項14】
列車の周囲を監視する外界センサと、前記外界センサにより得られたセンサデータを用いて、障害物を検知する障害物検知処理を行う少なくとも2つ以上の障害物検知処理部を備える障害物検知システムにおける障害物検知方法であって、
前記外界センサから受信した前記センサデータを、前記2つ以上の障害物検知処理部のうちのいずれか1つの障害物検知処理部に送信し、前記障害物検知処理を割り当てるステップと、
前記センサデータのセンサ情報に応じて、前記2つ以上の障害物検知処理部に前記障害物検知処理を割り当てるステップと、
を有することを特徴とする障害物検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道上を走行する軌道輸送システムに搭載された障害物検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、運転士の高齢化に伴う人材不足への懸念やオペレーションコストの低減などの理由により、既設の軌道輸送システムにおいて、運転を自動で行う研究が行われている。軌道上を輸送用車両が走行する軌道輸送システムでは、軌道上に障害物があった場合、操舵による回避が出来ないことから、軌道上の障害物を検知することは、軌道輸送システムの安全性や運用性を向上させるために重要である。現状は、運転士が軌道上および経路上の障害物を目視によって検知している。一方、無人運転を行うには、経路上の障害物を自動で検知する仕組みが必要となり、ミリ波レーダー、レーザーレーダー、カメラなど外界センサを用いる方法が研究されている。特許文献1には、外界センサにより軌道上の障害物を検知する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
外界センサデータを基に障害物を検知する処理は、特に画像を使用する場合、高度な画像処理が必要となり、計算負荷が高くなる。その結果、高性能な計算装置を使用せざるを得ず、障害物検知装置のコストが高くなっていた。特許文献1に記載の技術では、外界センサを用いた障害物検知を行う範囲を列車位置に応じて制限することで、障害物検知処理の計算負荷を低下させている。しかしながら、踏切やホームなどでは広範囲での障害物検知を要求されることから、踏切やホームでは計算負荷の高い処理を行わざるを得ない。これらの区間における障害物検知処理のリアルタイム性を維持するために、障害物検知装置の計算性能は、結局計算負荷が高い列車位置での計算負荷を満足させるように設定せざるを得なかった。したがって、障害物検知装置に高性能な装置を使用せざるを得なかった。本発明は、上記課題に対応すべく、軌道輸送システムに搭載された外界センデータを使用した障害物検知システムにおいて、障害物の検知範囲を広範囲に維持しながら、障害物検知装置に求められる計算性能を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、列車の周囲を監視する外界センサと、前記外界センサにより得られたセンサデータを用いて、障害物を検知する障害物検知処理を行う少なくとも2つ以上の障害物検知処理部を備える障害物検知システムにおいて、前記2つ以上の障害物検知処理部は、前記センサデータのセンサ情報に応じて、前記障害物検知処理を割り当てられることによって達成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、軌道輸送システムに搭載された外界センサデータを使用した障害物検知システムにおいて、障害物の検知範囲を広範囲に維持しながら、障害物検知装置に求められる計算性能を低減することが可能となる。上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の第一の実施形態におけるシステム構成を示す図である。
【
図2】本発明の第一の実施形態におけるデータ処理の流れを示す図である。
【
図3】本発明の実施例における分配部の処理を示すフローチャート図である。
【
図4】本発明の第二の実施形態におけるシステム構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施例を図面に用いて説明する。
【実施例1】
【0009】
図1は、障害物検知システムの第一の実施形態におけるシステム構成を示す図である。障害物検知システム110は、列車101に搭載され、外界センサ111、分配部112、障害物検知処理部113、記憶部114からなる。障害物検知システム110は、車上ネットワーク102に接続される。列車101には、運転台が設けられ、列車101が1両編成の場合は、車両の両側に運転台が設けられており、列車101が複数の車両で構成される場合は、列車の先頭車両と後尾車両に設けられる。すなわち、列車101には、少なくとも2つの運転台が設けられる。障害物検知システムは運転台ごとに搭載される。先頭車両に搭載された第一の障害物検知システム110と後尾車両に搭載された第二の障害物検知システム120は、車上ネットワーク102を介して接続されている。本実施例では、列車が複数の車両で構成される場合で、外界センサとしてステレオカメラとLIDAR(Light Detection And Ranging)が搭載された場合で説明を行う。
【0010】
外界センサ111は、列車の周囲(特に前方)の状態をセンシングし、センシングデータを分配部112に送信する。外界センサ111には、カメラ、LIDARをはじめとしたレーザーレンジファインダー、ミリ波レーダーなどがある。カメラは、単眼カメラ、ステレオカメラ、赤外線カメラなどがある。各センサは、冗長化のために複数搭載されることが一般的である。列車101が進行方向に進む場合は、進行方向側の先頭車両に設置された第一の障害物検知システム110の外界センサ111が使用される。
【0011】
分配部112は、外界センサ111からのデータを先頭車両の第一の障害物検知システム110の障害物検知処理部113に送信するか、車上ネットワーク102を介して後尾車両の第二の障害物検知システム120に送信するかを判断する。第一の障害物検知システム110に送信すると判断した外界センサ111のデータは、障害物検知処理部113に、後尾車両の第二の障害物検知システム120に送信すると判断した外界センサ111のデータは、車上ネットワーク102に送信する。
【0012】
障害物検知処理部113、123は、分配部112、122からの外界センサデータを用いて列車の前方の状況を把握し、障害物の有無を判定する。障害物検知処理部113、123の処理は、自動車分野で使用されている技術が使用可能である。例えば、ステレオカメラを用いて視差画像を作成し、視差画像から前方の物体の形状や位置を認識する方法がある。また、単眼画像からDNN(Deep Neural Network)を使用して画像上の物体を認識する方法や、LIDARの点群データから物体を認識する方法もある。このとき、DNNとは、機械学習に用いられる手段の1つであり、対象物の特徴を抽出して学習することで、様々な対象物を認識・検知するものである。本発明では、障害物または物体を認識できればよく、その方法は問わない。
【0013】
記録部114は、第一の障害物検知システム110や第二の障害物検知システム120が認識した外界環境の物体の情報や判断結果などの障害物検知結果や外界センサデータを記録する。外界センサデータは、障害物検知処理部113から受信してもよいし、分配部112や外界センサ111から受信してもよい。記録した外界センサデータや障害物検知結果は、車両基地などで地上のサーバーなどに転送される。地上に送られた外界センサデータや障害物検知結果は、障害物検知処理の処理精度向上のために使用されたり、事故が発生したときの状況確認などに利用される。
【0014】
また、記録部124に記録を分担させてもよい。この場合、記録部114は、第一の障害物検知システム110が認識した外界環境の物体の情報や判断結果などの障害物検知結果や外界センサデータを記録し、記録部124は、第二の障害物検知システム120が認識した外界環境の物体の情報や判断結果などの障害物検知結果や外界センサデータを記録する。外界センサデータは、障害物検知処理部113、123から受信してもよいし、分配部112、122や外界センサ111から受信してもよい。このように、それぞれの障害物検知システムにて処理した障害物検知結果や外界センサデータを各障害物検知システムに備わる記録部にて分配して記録することで、1つの記録部に必要とされる記憶容量を小さくすることが可能となる。
【0015】
すなわち、第一の障害物検知システム110や第二の障害物検知システム120が認識した外界環境の物体の情報や判断結果などの障害物検知結果や外界センサデータは、記録部の記憶容量に応じて、第一の障害物検知システム110の記録部114のみ、または第二の障害物検知システム120の記録部124のみ、もしくは両方で記録してもよい。要は、障害物検知結果や、外界センサデータが記録されていればよく、どの記録部で記録するかは問わない。
【0016】
次に、
図2を参照して、本発明の実施例1における障害物検知処理の流れと外界センサデータの流れについて説明する。
図2では、外界センサとしてステレオカメラとLIDARを用いる場合で説明する。第一の障害物検知システム110の外界センサ111は、所定のデータ取得周期で外界センサデータを送信する。外界センサデータは、外界センサ111から第一の障害物検知システム110の分配部112に送信される。分配部112は、あらかじめ規定された分配方法に従って外界センサデータの送付先を決定する。分配方法は、後述する。
【0017】
図2の場合は、ステレオカメラデータを第一の障害物検知システム110の障害物検知処理部113に、LIDARデータを第二の障害物検知システム120に送信する。第一の障害物検知システム110の障害物検知処理部113は、ステレオカメラデータを用いて列車前方の障害物を認識する。
【0018】
第二の障害物検知システム120に送信されたLIDARデータは、第二の障害物検知システム120の分配部122を介して第二の障害物検知システム120の障害物検知処理部123に送信される。第二の障害物検知システム120の障害物検知処理部123は、LIDARデータを用いて列車前方の障害物を認識する。第二の障害物検知システム120の障害物検知処理部123は、障害物の検知結果(障害物の有無や障害物の位置、障害物の種別)を先頭車両の第一の障害物検知システム110の分配部112に送信する。
【0019】
第一の障害物検知システム110の分配部112は、第二の障害物検知システム120から送信されたLIDARの障害物検知結果を受信し、受信したLIDARの障害物検知結果を再度第一の障害物検知システム110の障害物検知処理部113へ送信する。第一の障害物検知システム110の障害物検知処理部113は、ステレオカメラデータから認識した障害物検知結果と、第二の障害物検知システム120から分配部112を介して受信したLIDARの障害物検知結果を統合し、最終的な障害物検知結果を算出する。
【0020】
本実施例では、第二の障害物検知システム120から送信された障害物検知結果を第一の障害物検知システム110の分配部112が受信し、再度第一の障害物検知システム110の障害物検知処理部113へ送信する例を説明した。このとき、第一の障害物検知システム110の分配部112が、送受信を行う障害物検知結果に対して論理的な処理を行うか否かは問わず、第二の障害物検知システム120から送信された障害物検知結果を第一の障害物検知システム110の障害物検知処理部113へ転送する役割を担う転送部を設けてもよい。また、第二の障害物検知システム120は、障害物検知結果を第一の障害物検知システム110の分配部112を介さず、直接第一の障害物検知システム110の障害物検知処理部113へ送信するようにしてもよい。
【0021】
第一の障害物検知システム110の障害物検知処理部113は、最終的な障害物検知結果をHMI(Human Machine Interface)(図示せず)を通じて乗務員に報知したり、車上ネットワークを介して列車の他の装置に送信する。本発明では、障害物検知結果のフォーマットや障害物検知結果の利用方法は問わない。
【0022】
次に、
図3を参照して、本発明の実施例1に係る分配部の処理について説明する。
【0023】
図3は、各分配部によって実行される処理を示すフローチャートである。
【0024】
ステップ301:
分配部は、車両の情報を管理する車両情報制御装置から列車の構成情報を取得する。列車の構成とは、編成数や編成の併結の有無などを含む。分配部は、列車の構成情報から列車内に存在する障害物検知システムの数を認識する。
【0025】
障害物検知システム数の認識は、車両情報制御装置からの情報から把握する以外の方法で行ってもよい。例えば、乗務員からHMIを通じて列車内の障害物検知システムの数を入力してもらう方法でもよいし、障害物検知システム同士が車上ネットワークを介して情報をやり取りし、列車内の障害物検知システムの数を把握するようにしてもよい。
【0026】
把握した障害物検知システムの数が2未満の場合は、所定の障害物検知処理を行うための必要な計算資産が足りない可能性が生ずる。その場合は、障害物検知処理が正しく実行されない可能性があることをHMIを通じて乗務員に報知するようにしてもよい。もしくは、機能を制限して実行してもよい。例えば、画像処理による障害物検知は行わず、LIDARデータによる障害物検知処理のみを行うようにしてもよい。また、使用できる機能を制限していることをHMIを通じて乗務員に報知するようにしてもよい。
【0027】
ステップ302:
各分配部の搭載車両を特定する。搭載車両の特定とは、各分配部が列車の進行方向側の先頭車両に搭載されているのか、後尾車両側に搭載されているかを各分配部自身が認識することである。分配部はそれぞれ、車両の情報を管理する車両情報制御装置から進行方向を取得し、各分配部自身が先頭車両に搭載された分配部なのか後尾車両に搭載された分配部なのかを判断する。
【0028】
各分配部の搭載車両の特定は、車両情報制御装置の情報から行う方法以外で行ってもよい。例えば、乗務員からHMIを通じて進行方向を入力してもらう方法でもよいし、進行方向を示す引き通し線(4線、5線など)の情報と分配部の搭載車両号車から判断するようにしてもよい。また、先頭車両の分配部にのみ電源が供給される方法や、先頭車両の分配部にのみ特定の信号が入力されるようにしてもよい。要は各分配部自身が先頭車両に搭載されているのかどうかがわかればよく、本発明では、その方法は問わない。
【0029】
複数の列車が併結されて1つの編成を構成している場合は、先頭車両を含む列車の最後尾車両を後尾車両とする。すなわち、2両編成の列車が3編成併結し、6両編成を構成しており、先頭車両を1号車、編成の最後尾車両を6号車とした場合、2号車の分配部が後尾車両の分配部となる。このようにすることで、編成間の通信にかかる伝送遅延を最小化することが可能となり、障害物検知処理に充てる時間を最大限確保することが可能となる。
【0030】
ステップ303:
各分配部は、先頭車両の分配部であるか否かを判断する。先頭車両の分配部である場合は、ステップ304へ、後尾車両の分配部である場合は、ステップ305へ進む。
【0031】
ステップ304:
先頭車両の第一の障害物検知システム110の分配部112は、外界センサ111から外界センサデータを取得し、そのデータ種別に応じて先頭車両の第一の障害物検知システム110の障害物検知処理部113に送信するか、後尾車両の第二の障害物検知システム120に送信するかを決定する。
【0032】
具体的には、後尾車両の第二の障害物検知システム120には、外界センサデータの容量が小さい外界センサデータを送信するようにする。このようにすることで、車上ネットワーク102の帯域を圧迫せず、第二の障害物検知システム120に送信する際の伝送遅延を防ぐことが可能となる。また、障害物検知処理部における処理時間が短い処理を後尾車両の第二の障害物検知システム120に送信するようにしてもよい。
【0033】
先頭車両の第一の障害物検知システム110の障害物検知処理が一定周期(例えば200ms)で動作している場合、この動作周期内に後尾車両の第二の障害物検知システム120の障害物検知処理結果が先頭車両に帰ってくる必要がある。このとき、外界センサデータや障害物検知処理結果の転送に時間が必要であるため、後尾車両の第二の障害物検知システム120の障害物検知処理部123が障害物検知処理に使用できる処理時間は先頭車両の障害物検知処理部113より短くなる。そのため、なるべく障害物検知処理部における処理時間が短い処理を後尾車両の第二の障害物検知システム120の障害物検知処理部123で行うことが望ましい。分配規則は、あらかじめ不揮発メモリに記録された規則を使用してもよいし、HMIを通じて乗務員が設定するようにしてもよい。分配部は、データ容量が小さい、または処理負荷が軽い外界センサデータの障害物検知処理を実行する車両を進行方向によって切り替える役割を果たしている。
【0034】
すなわち、本発明の障害物検知システムは、進行方向先頭車両以外に搭載された障害物検知処理部に割り当てられていた外界センサのセンサデータを使用した障害物検知処理が、列車の進行方向の転換に応じて、先頭車両の障害物検知処理部へ実行場所が切り替わることが特徴となる。本実施例では、データ容量が大きい、または処理負荷が重い外界センサデータの検知処理を先頭車両もしくは稼働している外界センサが搭載されている車両で実行し、データ容量が小さい、または処理負荷が軽い外界センサデータの検知処理を先頭車両もしくは稼働している外界センサが搭載されている車両以外で実行し、その実行場所を列車の進行方向に応じて切り替えを行う。
【0035】
ステップ305:
後尾車両の第二の障害物検知システム120の分配部122は、車上ネットワーク102を介して受信した外界センサデータを後尾車両の第二の障害物検知システム120の障害物検知処理部123に送信する。
【0036】
本実施例では列車に運転台が2つ存在し、障害物検知システムも2つ存在する例で説明したが、複数列車が併結して1つの列車を構成している場合、列車内に3つ以上の運転台が存在し、障害物検知システムも3つ以上存在する。この場合は、列車内の少なくとも3つ以上の障害物検知システムから任意の2つの障害物検知システムを選択し、障害物検知処理を実行させるようにしてもよい。1つ目の障害物検知システムは先頭車両に搭載された障害物検知システムを採用し、2つ目は最も先頭車両に近い運転台がある車両に搭載された障害物検知システムを採用するのが望ましい。また、さらなる処理負荷を低減するために列車内の少なくとも3つ以上の障害物検知システムから任意の3つ以上の障害物検知システムを選択し、障害物検知処理を実行させるようにしてもよい。
【0037】
また、本実施例の分配規則では、外界センサデータの容量が小さい外界センサデータの障害物検知処理、または、障害物検知処理部における処理時間が短い外界センサデータの障害物検知処理を第二の障害物検知システムに送信する場合を想定したが、外界環境に応じて分配規則を変更してもよい。例えば、夜間や雨、トンネルではカメラの検知性能が低下するため、夜間や雨に強いLIDARの障害物検知処理を先頭車両側で実施することが考えられる。
【0038】
外界センサがとらえる領域毎に分配を行う場合も想定できる。例えば、軌道上の領域などの障害物が存在すると列車走行に支障をきたす危険な領域をとらえた外界センサデータは、データの送受信によるノイズが混ざりにくい先頭車両側の障害物検知処理部に送信し、危険度が低く、障害物検知の重要度も軌道上ほど高くない周辺領域の処理は後尾車両に送信するように設定してもよい。
【0039】
更に、データ取得周期が早く、障害物検知処理が短い外界センサの障害物検知処理は伝送が不要な先頭車両側で実施することも考えらえる。本実施例では、全処理を200msで回す場合を想定していたが、さらに短い周期でのセンサデータ入力も可能である。このようなデータ取得周期が早い外界センサデータの障害物検知処理は、先頭車両側で短い周期で実行する。一例としては、先頭車両の検知処理部は50msで動作し、後尾車両側の検知処理部は200msで動作する場合が挙げられる。
【0040】
本実施例によると、障害物検知処理の一部を従来は使用されていなかった後尾車両の障害物検知処理部で処理することが可能となる。先頭車両の障害物検知システムのみで障害物検知処理を行う場合、ステレオカメラとLIDARの検知処理負荷に耐えうる性能の計算装置が各障害物検知システムに必要となる。一方、本発明による障害物検知システムでは、先頭車両の障害物検知処理部はステレオカメラの検知処理に耐えうる性能があればよく、計算装置の性能を削減することが可能となり、コスト低減につながる。計算装置の性能の削減効果は、ステレオカメラとLIDARの組み合わせ以外でも発揮される。特に外界センサの数が多い場合に、本発明による計算装置の負荷低減効果は顕著となる。
【実施例2】
【0041】
図4は、障害物検知システムの第二の実施形態におけるシステム構成を示す図である。第一の実施形態では、2つの障害物検知システムは、同一列車内に存在していたが、本実施例では、第一の障害物検知システムが先頭車両に存在し、障害物検知処理を分担する2つ目の障害物検知システムとなる第三の障害物検知システムが地上や他の列車に存在する例を説明する。
【0042】
障害物検知システム110、220は、それぞれ列車101、201に搭載され、外界センサ、障害物検知処理部、記憶部、分配部からなる。障害物検知システム110、220は、それぞれの列車に備えらえる車上ネットワークに接続される。車上ネットワークは、地上―車上通信401を介して地上部301と接続されている。地上部301は、地上―車上通信401を介して複数の列車101、201と接続されている。そのため、列車は、他の列車と地上を介して接続されている。本実施例では、列車と列車の接続は、地上部を介した例で説明を行うが、列車と列車が直接通信を行い、接続されてもよい。
【0043】
図4では、列車101の障害物検知システム110の障害物検知処理を分担する場合で説明する。列車101の第一の障害物検知システム110の分配部112は、地上部301の障害物検知システム320やほかの列車201の障害物検知システム220、いずれの障害物検知システムを第三の障害物検知システムとするかを判断する。第三の障害物検知システムは、あらかじめ定義しておいてもよいし、その時々の状況に応じて定義するようにしてもよい。もしくは、HMIを通じて乗務員に第三の障害物検知システムの場所を選択させるようにしてもよい。
【0044】
第一の障害物検知システム110の分配部112は、外界センサ111からの外界センサデータのうち、データ容量が小さい外界センサデータ、もしくは障害物検知処理の時間が短い外界センサの外界センサデータを地上―車上通信401を介して第三の障害物検知システム220または320に分配する。
【0045】
外界センサデータの転送が必要であるため、第一の障害物検知システム110と障害物検知処理を分担して行う障害物検知システムには、同一列車内の障害物検知システムを設定できることが望ましいが、同一列車内の障害物検知システムが故障で動作しない場合に、本実施例によれば、地上やその他の列車の障害物検知システムを第三の障害物検知システムとすることができる。地上やその他の列車の障害物検知システムを第三の障害物検知システムとする場合、第三の障害物検知システムは、第一の障害物検知システム110が搭載された列車と地上―車上通信を介して通信可能な障害物検知システムのうち、可能な限り通信経路が短い障害物検知システムとするのが望ましい。このとき、第一の障害物検知システムの障害物検知処理は、一定周期で動作しているため、第三の障害物検知システムは、少なくとも障害物検知処理結果を一定動作周期内で第一の障害物検知システムに返送可能な通信経路内に存在する必要がある。また、停車中の列車に搭載された障害物検知システムを優先的に第三の障害物検知システムとするのが望ましい。この場合の停車中の列車には、車両基地内に停車中の列車や駅に停車中の列車が想定される。このようにすることで、第三の障害物検知システムとして割り当てられた列車自身の障害物検知処理に影響を与えることを回避できる。
【0046】
本実施例では、第三の障害物検知システムを地上または他の列車の障害物検知システムとしたが、第一の障害物検知システムを地上または他の列車の障害物検知システムとしてもよい。地上または列車の複数の障害物検知システムから少なくとも2つの障害物検知システムを選択し、前記選択された障害物検知システムで障害物検知処理を行うようにしてもよく、その選択方法や障害物検知システムの場所は問わない。
【実施例3】
【0047】
次に、複数の列車が併結されて1つの編成を構成する例を説明する。基本的に複数列車が併結されていても前方を監視する外界センサの検知処理負荷は変化しない。そのため、前方監視に関わる外界センサの検知処理は実施例1、2と同様であるため、説明を省略する。
【0048】
列車の側方に取り付けられ、ホーム上の人の監視や、列車とホームの間への人の落下、列車ドアへの乗客の挟み込み検知などを行う側方監視外界センサは、車両ごとに複数取り付けられていることが一般的である。そのため、複数の列車が併結されて1つの編成を構成する場合、側方監視外界センサは併結列車の数に応じて増加し、その結果、側方監視外界センサの検知処理負荷も増加する。
【0049】
側方監視外界センサの検知処理を先頭車両の障害物検知システムと後尾車両の障害物検知システムのみで処理を実行すると処理負荷が列車の併結数によって変動し、併結数が多いと検知処理時間が間に合わなくなる可能性がある。そのため、各車両の分配部は、併結数によって処理負荷が変動する外界センサの外界センサデータは他の障害物検知システムに送信しないようにする。このようにすることで、外界センサデータを用いた検知処理時間が間に合わなくなるという事象を回避できる。
【0050】
これまでの実施例では、外界センサデータを一度に先頭車両の分配部に取り込み、各障害物検知処理部に振り分ける構成で説明したが、他の構成をとってもよい。具体的には、ステレオカメラのようなセンサデータ容量が大きい、もしくは障害物検知処理の時間が長い外界センサの外界センサデータを分配部を介さずに直接先頭車両の障害物検知処理部に入力するようにし、外界センサデータ容量が小さい、もしくは障害物検知処理時間が短い外界センサの外界センサデータは車上ネットワークを介して後尾車両の障害物検知処理部に入力するようにしてもよい。このようにすることで、分配部を不要とすることができる。また、分配部を経由していた伝送時間を削減することができ、障害物検知処理に充てる時間を増加させることが可能となる。
【0051】
以上、述べた実施例によれば、軌道輸送システムに搭載された外界センサデータを用いた障害物検知システムにおいて、障害物の検知範囲を広範囲に維持しながら、障害物検知装置に求められる計算性能を低減することが可能となる。
【0052】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0053】
101 列車
102 列車101の車上ネットワーク
110 先頭車両に搭載された第一の障害物検知システム
111 先頭車両に搭載された第一の障害物検知システムの外界センサ
112 先頭車両に搭載された第一の障害物検知システムの分配部
113 先頭車両に搭載された第一の障害物検知システムの障害物検知処理部
114 先頭車両に搭載された第一の障害物検知システムの記録部
120 後尾車両に搭載された第二の障害物検知システム
121 後尾車両に搭載された第二の障害物検知システムの外界センサ
122 後尾車両に搭載された第二の障害物検知システムの分配部
123 後尾車両に搭載された第二の障害物検知システムの障害物検知処理部
124 後尾車両に搭載された第二の障害物検知システムの記録部
201 列車
220 列車201の障害物検知システム
301 地上部
320 地上部301の障害物検知システム
401 地上―車上通信