(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】トリアリールアミン構造を有する化合物および有機エレクトロルミネッセンス素子
(51)【国際特許分類】
C07C 211/54 20060101AFI20231220BHJP
C07C 211/61 20060101ALI20231220BHJP
C07C 211/57 20060101ALI20231220BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20231220BHJP
H10K 50/15 20230101ALI20231220BHJP
【FI】
C07C211/54 CSP
C07C211/61
C07C211/57
H05B33/14 B
H05B33/22 D
(21)【出願番号】P 2020527465
(86)(22)【出願日】2019-06-20
(86)【国際出願番号】 JP2019024590
(87)【国際公開番号】W WO2020004235
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2018120071
(32)【優先日】2018-06-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005315
【氏名又は名称】保土谷化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上原 卓也
(72)【発明者】
【氏名】加瀬 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】朴 慶和
(72)【発明者】
【氏名】平山 雄太
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-086142(JP,A)
【文献】特開2016-076566(JP,A)
【文献】特開2010-186983(JP,A)
【文献】国際公開第2019/146946(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/135665(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109485577(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2019-0003329(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0131091(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0116740(KR,A)
【文献】特開2005-015418(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0012212(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0062728(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0365517(US,A1)
【文献】特開2017-218446(JP,A)
【文献】国際公開第2017/135717(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/146406(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2017-0126400(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第108101898(CN,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0102735(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 211/54
C07C 211/61
C07C 211/57
H10K 50/10
H10K 50/15
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(A-1)で表される、トリアリールアミン構造を有する化合物。
【化1】
(式中、Aは下記構造式(B-3)で表される基であり、BおよびCは相互に同一でも異なってもよく、置換もしくは無置換のフェニル基、または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表す。
但し、A、BおよびCのうち、少なくとも1つは下記構造式(B-3)で表される基でない。)
【化2】
(式中、破線部は結合部位である。
Rは重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基または置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表し、nはRの個数であり、0を表す。
Ar
1、Ar
2は相互に同一でも異なってもよく、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表す。)
【請求項2】
請求項1記載の前記構造式(B-3)で表される基が下記構造式(B-6)で表される基である、トリアリールアミン構造を有する化合物。
【化3】
(式中、Ar
1、Ar
2、n及びRは、前記(B-3)と同一定義である。)
【請求項3】
一対の電極とその間に挟まれた少なくとも一層の有機層を有する有機EL素子であって、請求項1または2記載のトリアリールアミン構造を有する化合物が、少なくとも1つの有機層の構成材料として用いられていることを特徴とする有機EL素子。
【請求項4】
前記有機層が正孔輸送層である請求項3記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記有機層が電子阻止層である請求項3記載の有機EL素子。
【請求項6】
前記有機層が正孔注入層である請求項3記載の有機EL素子。
【請求項7】
前記有機層が発光層である請求項3記載の有機EL素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の表示装置に好適な自発光素子である有機エレクトロルミネッセンス素子(以下、有機EL素子と略称する)に適した化合物と素子に関するものであり、詳しくはトリアリールアミン構造を有する化合物と、該化合物を用いた有機EL素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は自発光性素子であるため、液晶素子に比べて明るく視認性に優れ、鮮明な表示が可能であることから、活発な研究がなされてきた。
【0003】
1987年にイーストマン・コダック社のC.W.Tangらは、各種の役割を各材料に分担した積層構造素子を開発することにより、有機材料を用いた有機EL素子を実用的なものにした。彼らは、電子を輸送することのできる蛍光体と正孔を輸送することのできる有機物とを積層し、両方の電荷を蛍光体の層の中に注入して発光させることにより、10V以下の電圧で1000cd/m2以上の高輝度を得ている(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。
【0004】
現在まで、有機EL素子の実用化のために多くの改良がなされており、積層構造における各層の役割をさらに細分化し、基板上に順次、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層、陰極を設けた電界発光素子とすることによって、高効率と耐久性が達成されるようになってきた(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また、発光効率の更なる向上を目的として三重項励起子の利用が試みられており、燐光発光性化合物の利用が検討されている(例えば、非特許文献2参照)。
そして、熱活性化遅延蛍光(TADF)による発光を利用する素子も開発されている。2011年に九州大学の安達らは、熱活性化遅延蛍光材料を用いた素子によって5.3%の外部量子効率を実現させた(例えば、非特許文献3参照)。
【0006】
発光層は、一般的にホスト材料と称される電荷輸送性の化合物に、蛍光性化合物や燐光発光性化合物または遅延蛍光を放射する材料をドープして作製することもできる。前記非特許文献に記載されているように、有機EL素子における有機材料の選択は、その素子の効率や耐久性など諸特性に大きな影響を与える(例えば、非特許文献2参照)。
【0007】
有機EL素子においては、両電極から注入された電荷が発光層で再結合して発光が得られるが、正孔と電子の両電荷を如何に効率良く発光層に受け渡すかが重要であり、キャリアバランスに優れた素子とする必要がある。また、陰極から注入された電子をブロックする電子阻止性を高めることによって正孔と電子が再結合する確率を向上させ、より高い発光効率を得ることができる。そのため、正孔輸送材料の果たす役割は重要であり、正孔注入性が高く、正孔の移動度が大きく、電子阻止性が高く、さらに電子に対する耐久性が高い正孔輸送材料が求められている。
【0008】
また、素子の寿命に関しては材料の耐熱性やアモルファス性も重要である。耐熱性が低い材料では、素子駆動時に生じる熱により低い温度でも熱分解が起こり、材料が劣化する。アモルファス性が低い材料では、短い時間でも薄膜の結晶化が起こり、素子が劣化してしまう。そのため、使用する材料には、耐熱性が高く、アモルファス性が良好な性質が求められる。
【0009】
これまで有機EL素子に用いられてきた正孔輸送材料としては、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(α-ナフチル)ベンジジン(以後、NPDと略称する)や種々の芳香族アミン誘導体が知られていた(例えば、特許文献1および特許文献2参照)。NPDは良好な正孔輸送能力を持っているが、耐熱性の指標となるガラス転移点(Tg)が96℃と低く、高温条件下では結晶化による素子特性の低下が起こってしまう。
【0010】
また、特許文献1および2に記載の芳香族アミン誘導体の中には、正孔の移動度が10-3cm2/Vs以上と優れた移動度を有する化合物もあるが、電子阻止性が不十分であるため、電子の一部が発光層を通り抜けてしまい、発光効率の向上が期待できないなどの問題があり、更なる高効率化のため、より電子阻止性が高く、より安定で耐熱性の高い薄膜が得られる材料が求められていた。
【0011】
さらに、耐久性の高い芳香族アミン誘導体も報告されているが(例えば、特許文献3参照)、これらは電子写真感光体における電荷輸送材料として用いられており、有機EL素子として用いた例はなかった。
【0012】
耐熱性や正孔注入性などの特性を改良した化合物として、置換カルバゾール構造を有するアリールアミン化合物が提案されているが(例えば、特許文献4および特許文献5参照)、これらの化合物を正孔注入層または正孔輸送層に用いた素子では、耐熱性や発光効率などは改良されているものの、未だ十分とはいえない。そのため、更なる低駆動電圧化や高発光効率化のために、正孔注入性が高く、正孔の移動度が大きく、電子阻止性が高く、さらには電子に対する耐久性が高い正孔輸送材料が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】US5792557
【文献】US5639914
【文献】US7799492
【文献】US8021764
【文献】EP2684932
【非特許文献】
【0014】
【文献】応用物理学会第9回講習会予稿集55~61ページ(2001)
【文献】応用物理学会第9回講習会予稿集23~31ページ(2001)
【文献】Appl.Phys.Let.,98,083302(2011)
【発明の概要】
【0015】
本発明の目的は、高効率、高耐久性の有機EL素子用材料として、正孔注入・輸送性能に優れ、電子阻止能力を有し、薄膜状態での安定性が高い優れた特性を有する有機化合物を提供し、更にこの化合物を用いて、高効率、高耐久性の有機EL素子を提供することにある。
【0016】
本発明が提供しようとする有機化合物が具備すべき物理的な特性としては、(1)正孔の注入特性が良いこと、(2)正孔の移動度が大きいこと、(3)電子阻止能力に優れること、(4)薄膜状態が安定であること、(5)耐熱性に優れていること、を挙げることができる。
また、本発明が提供しようとする有機EL素子が具備すべき物理的な特性としては、(1)発光効率および電力効率が高いこと、(2)発光開始電圧が低いこと、(3)実用駆動電圧が低いこと、(4)長寿命であること、を挙げることができる。
【0017】
そこで本発明者らは上記の目的を達成するために鋭意検討を行った結果、特定の構造を有するトリアリールアミン化合物が、正孔注入・輸送能力、ならびに薄膜の安定性および耐久性に優れており、更に電子阻止性にも優れているという知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0018】
すなわち本発明は、以下のとおりである。
1)下記構造式(A-1)で表される、トリアリールアミン構造を有する化合物。
【0019】
【化1】
(式中、A、BおよびCは相互に同一でも異なってもよく、下記構造式(B-1)で表される基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表す。但し、A、BおよびCのうち、少なくとも1つは下記構造式(B-1)で表される基でない。)
【0020】
【化2】
(式中、破線部は結合部位である。
Rは水素原子、重水素原子、フッ素原子、塩素原子、シアノ基、ニトロ基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基、置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基、置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基、置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基または置換もしくは無置換のアリールオキシ基を表し、nはRの個数であり、0~3の整数を表す。nが2~3である場合、同一のベンゼン環に複数個結合するRは相互に同一でも異なってもよく、単結合、置換もしくは無置換のメチレン基、酸素原子、または硫黄原子を介して互いに結合して環を形成してもよい。
Lは置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表し、mは1~3の整数を表す。mが2または3である場合、Lは相互に同一でも異なってもよい。
Ar
1、Ar
2は相互に同一でも異なってもよく、置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基、置換もしくは無置換の芳香族複素環基または置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基を表す。)
【0021】
2) 上記1)記載の前記構造式(B-1)で表される基が、下記構造式(B-2)で表される基である、トリアリールアミン構造を有する化合物。
【0022】
【化3】
(式中、Ar
1、Ar
2、L、m、n及びRは、前記構造式(B-1)と同一定義である。)
【0023】
3) 上記2)記載の前記構造式(B-2)で表される基におけるLが、無置換の芳香族炭化水素基、無置換の芳香族複素環基または無置換の縮合多環芳香族基である、トリアリールアミン構造を有する化合物。
【0024】
4) 上記3)記載の前記構造式(B-2)で表される基が、下記構造式(B-3)で表される基である、トリアリールアミン構造を有する化合物。
【0025】
【化4】
(式中、Ar
1、Ar
2、n及びRは、前記構造式(B-1)と同一定義である。)
【0026】
5) 上記3)記載の前記構造式(B-2)で表される基が、下記構造式(B-4)で表される基である、トリアリールアミン構造を有する化合物。
【0027】
【化5】
(式中、Ar
1、Ar
2、n及びRは、前記構造式(B-1)と同一定義である。)
【0028】
6) 上記5)記載の前記構造式(B-4)で表される基が、下記構造式(B-5)で表される基である、トリアリールアミン構造を有する化合物。
【0029】
【化6】
(式中、Ar
1、Ar
2、n及びRは、前記構造式(B-1)と同一定義である。)
【0030】
7) 上記6)記載の前記構造式(B-5)におけるnが0または1である、トリアリールアミン構造を有する化合物。
【0031】
8) 上記6)記載の前記構造式(B-5)におけるnが0である、トリアリールアミン構造を有する化合物。
【0032】
9) 上記4)記載の前記構造式(B-3)で表される基が、下記構造式(B-6)で表される基である、トリアリールアミン構造を有する化合物。
【0033】
【化7】
(式中、Ar
1、Ar
2、n及びRは、前記(B-1)と同一定義である。)
【0034】
10) 上記9)記載の前記構造式(B-6)におけるnが0または1である、トリアリールアミン構造を有する化合物。
【0035】
11) 上記9)記載の前記構造式(B-6)におけるnが0である、トリアリールアミン構造を有する化合物。
【0036】
12) 一対の電極とその間に挟まれた少なくとも一層の有機層を有する有機EL素子であって、上記1)から11)のいずれか1項記載のトリアリールアミン構造を有する化合物が、少なくとも1つの有機層の構成材料として用いられていることを特徴とする有機EL素子。
【0037】
13) 前記有機層が正孔輸送層である12)記載の有機EL素子。
【0038】
14) 前記有機層が電子阻止層である12)記載の有機EL素子。
【0039】
15) 前記有機層が正孔注入層である12)記載の有機EL素子。
【0040】
16) 前記有機層が発光層である12)記載の有機EL素子。
【0041】
構造式(B-1)~(B-6)中のRで表される「置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基」、「置換もしくは無置換の芳香族複素環基」、または「置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基」における「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」または「縮合多環芳香族基」としては、具体的に、フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、スピロビフルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ピリジル基、ピリミジニル基、トリアジニル基、フリル基、ピロリル基、チエニル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、ナフチリジニル基、フェナントロリニル基、アクリジニル基、およびカルボリニル基などを挙げることができる。さらに、炭素数6ないし30であるアリール基、および炭素数2ないし30であるヘテロアリール基から選択することもできる。これらの置換基とその置換基が置換しているベンゼン環、および同一のベンゼン環に置換した複数の置換基同士は、単結合、置換もしくは無置換のメチレン基、置換もしくは無置換のアミノ基、酸素原子または硫黄原子を介して互いに結合して環を形成していてもよい。
【0042】
構造式(B-1)~(B-6)中のRで表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」、または「置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」における「炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、「炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」、または「炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」としては、具体的に、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、および2-ブテニル基などを挙げることができる。これらの置換基とその置換基が置換しているベンゼン環、および同一のベンゼン環に置換した複数の置換基同士は、単結合、置換もしくは無置換のメチレン基、置換もしくは無置換のアミノ基、酸素原子または硫黄原子を介して互いに結合して環を形成していてもよい。
【0043】
構造式(B-1)~(B-6)中のRで表される「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基」、または「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」における「炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基」、または「炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」としては、具体的に、メチルオキシ基、エチルオキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、n-ペンチルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基、シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、シクロヘプチルオキシ基、シクロオクチルオキシ基、1-アダマンチルオキシ基、2-アダマンチルオキシ基などを挙げることができる。これらの置換基とその置換基が置換しているベンゼン環、および同一のベンゼン環に置換した複数置換基同士は、単結合、置換もしくは無置換のメチレン基、置換もしくは無置換のアミノ基、酸素原子または硫黄原子を介して互いに結合して環を形成していてもよい。
【0044】
構造式(B-1)~(B-6)中のRで表される「置換芳香族炭化水素基」、「置換芳香族複素環基」、「置換縮合多環芳香族基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数2ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルケニル基」、「置換基を有していてもよい炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基」、または「置換基を有していてもよい炭素原子数5ないし10のシクロアルキルオキシ基」における「置換基」としては、具体的に、重水素原子、シアノ基、ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などのハロゲン原子;トリメチルシリル基、トリフェニルシリル基などのシリル基;メチル基、エチル基、プロピル基などの炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基;メチルオキシ基、エチルオキシ基、プロピルオキシ基などの炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキルオキシ基;ビニル基、アリル基などのアルケニル基;フェニルオキシ基、トリルオキシ基などのアリールオキシ基;ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアリールアルキルオキシ基;フェニル基、ビフェニリル基、ターフェニリル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、スピロビフルオレニル基、インデニル基、ピレニル基、ペリレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基などの芳香族炭化水素基もしくは縮合多環芳香族基;ピリジル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、キノリル基、イソキノリル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、カルバゾリル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、キノキサリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、カルボリニル基などの芳香族複素環基のような基を挙げることができ、これらの置換基は、更に前記例示した置換基で置換されていてもよい。また、これらの置換基とその置換基が置換しているベンゼン環、および同一のベンゼン環に置換している複数の置換基同士は、単結合、置換もしくは無置換のメチレン基、置換もしくは無置換のアミノ基、酸素原子または硫黄原子を介して互いに結合して環を形成していてもよい。
【0045】
構造式(B-1)~(B-6)中のAr1およびAr2で表される「置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基」、「置換もしくは無置換の芳香族複素環基」または「置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基」における「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」または「縮合多環芳香族基」としては、前記構造式(B-1)~(B-5)中のRで表される「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」または「縮合多環芳香族基」に関して示したものと同様のものを挙げることができ、とり得る態様も、同様のものを挙げることができる。
【0046】
構造式(B-1)~(B-6)中のAr1およびAr2で表される「置換芳香族炭化水素基」、「置換芳香族複素環基」、または「置換縮合多環芳香族基」における「置換基」としては、前記構造式(B-1)~(B-5)中のRで表される「置換基」に関して示したものと同様のものを挙げることができ、とり得る態様も、同様のものを挙げることができる。
【0047】
構造式(A-1)中のA、BおよびCで表される「置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基」、「置換もしくは無置換の芳香族複素環基」または「置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基」における「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」または「縮合多環芳香族基」としては、前記構造式(B-1)~(B-6)中のRで表される「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」または「縮合多環芳香族基」に関して示したものと同様のものを挙げることができ、とり得る態様も、同様のものを挙げることができる。
【0048】
構造式(A-1)中のA、BおよびCで表される「置換芳香族炭化水素基」、「置換芳香族複素環基」、または「置換縮合多環芳香族基」における「置換基」としては、前記構造式(B-1)~(B-6)中のRで表される「置換基」に関して示したものと同様のものを挙げることができ、とり得る態様も、同様のものを挙げることができる。
【0049】
構造式(B-1)~(B-6)中のLで表される「置換もしくは無置換の芳香族炭化水素基」、「置換もしくは無置換の芳香族複素環基」または「置換もしくは無置換の縮合多環芳香族基」における「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」または「縮合多環芳香族基」としては、前記構造式(B-1)~(B-6)中のRで表される「芳香族炭化水素基」、「芳香族複素環基」または「縮合多環芳香族基」に関して示したものと同様のものを挙げることができ、とり得る態様も、同様のものを挙げることができる。
【0050】
構造式(B-1)~(B-6)中のLで表される「置換芳香族炭化水素基」、「置換芳香族複素環基」、または「置換縮合多環芳香族基」における「置換基」としては、前記構造式(B-1)~(B-6)中のRで表される「置換基」に関して示したものと同様のものを挙げることができ、とり得る態様も、同様のものを挙げることができる。
【0051】
本発明においては、前記構造式(A-1)におけるAが前記構造式(B-1)で表される基であることが好ましい。この場合、BおよびCは相互に同一でも異なってもよく、下記構造式(C-1)又は(C-2)で表される基であることが好ましい。
【0052】
【化8】
(式中、R
1およびR
2は相互に同一でも異なってもよく、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表し、jはR
1の個数であり、0~2の整数を表し、kはR
2の個数であり、0~2の整数を表し、j+kは0または2である。j+kが2の場合、R
1同士、R
2同士、またはR
1およびR
2は隣り合っており、互いに結合して環を形成している。)
【0053】
【化9】
(式中、R
3は相互に同一でも異なってもよく、炭素原子数1ないし6の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基を表し、lはR
3の個数であり、0、2または4を表す。lが2または4の場合、R
3同士は隣り合っており、互いに結合して環を形成している。)
【0054】
本発明の有機EL素子に好適に用いられる、前記構造式(A-1)で表されるトリアリールアミン構造を有する化合物は、有機EL素子の正孔注入層、正孔輸送層および電子阻止層の材料として使用することができる。特に、正孔の移動度が高いことから、正孔注入層および正孔輸送層の材料として好ましい化合物である。
【0055】
本発明の有機EL素子は、正孔の注入・輸送性能、電子阻止性能、および薄膜の安定性や耐久性に優れた有機EL素子用の材料を使用しているため、従来の有機EL素子に比べて正孔輸送層から発光層への正孔輸送効率が向上し、発光効率が向上すると共に駆動電圧が低下して、耐久性が向上したものである。前記構造式(A-1)で表されるトリアリールアミン構造を有する化合物を使用することによって、高効率、低駆動電圧、長寿命の有機EL素子を実現することが可能となった。
【発明の効果】
【0056】
本発明の有機EL素子は、正孔の注入・輸送の役割を効果的に発現できる特定のトリアリールアミン構造を有する化合物を選択したことにより、正孔輸送層から発光層へ正孔を効率良く注入・輸送できるため、正孔の注入・輸送性能、薄膜の安定性や耐久性に優れ、高効率、低駆動電圧、長寿命の有機EL素子を実現することができる。
本発明によれば、有機EL素子の発光効率および駆動電圧、そして耐久性を改良することができる。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【
図1】本発明の有機EL素子の構成を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0058】
本発明の有機EL素子に好適に用いられる前記構造式(A-1)で表されるトリアリールアミン構造を有する化合物の中で、好ましい化合物の具体例を以下に示すが、本発明はこれらの化合物に限定されるものではない。
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
一般式(A-1)で表されるトリアリールアミン構造を有する化合物の精製はカラムクロマトグラフによる精製、シリカゲル、活性炭、活性白土等による吸着精製、溶媒による再結晶や晶析法、昇華精製法など、有機化合物の精製に用いられる公知の方法で行うことができる。化合物の同定は、NMR分析などによって行うことができる。物性値として、融点、ガラス転移点(Tg)と仕事関数の測定を行うことが好ましい。融点は蒸着性の指標となるものであり、ガラス転移点(Tg)は薄膜状態の安定性の指標となり、仕事関数は正孔輸送性や電子阻止性の指標となるものである。
【0068】
融点とガラス転移点(Tg)は、例えば、粉体を用いて高感度示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス製、DSC3100SA)によって測定することができる。
【0069】
仕事関数は、例えば、ITO基板の上に100nmの薄膜を作製して、イオン化ポテンシャル測定装置(住友重機械工業株式会社製、PYS-202)によって求めることができる。
【0070】
本発明の有機EL素子の構造としては、基板上に順次、陽極、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層及び陰極が形成されてなるもの、また、正孔輸送層と発光層の間に電子阻止層を有するもの、発光層と電子輸送層の間に正孔阻止層を有するものが挙げられる。これらの多層構造においては、1つの有機層が何層かの役割を兼ねることが可能であり、例えば1つの有機層が、正孔注入層と正孔輸送層を兼ねた構成とすること、電子注入層と電子輸送層を兼ねた構成とすること、などもできる。また、同一の機能を有する有機層を2層以上積層した構成とすることが可能であり、正孔輸送層を2層積層した構成、発光層を2層積層した構成とすること、電子輸送層を2層積層した構成とすること、などもできる。
【0071】
例えば
図1には、ガラス基板1上に、陽極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、電子阻止層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8および陰極9がこの順に形成されている、有機EL素子の層構成が示されている。以下、本発明の有機EL素子を構成する各層について説明する。
【0072】
(陽極2)
陽極2には、ITOや金のような仕事関数の大きな電極材料が用いられる。
【0073】
(正孔注入層3)
正孔注入層3には、本発明のトリアリールアミン構造を有する化合物のほか、公知の化合物、例えば銅フタロシアニンに代表されるポルフィリン化合物、スターバースト型のトリフェニルアミン誘導体、分子中にトリフェニルアミン構造またはカルバゾリル構造を2個以上有し、それぞれが単結合またはヘテロ原子を含まない2価基で連結した構造を有するアリールアミン化合物などを用いることができ、ヘキサシアノアザトリフェニレンのようなアクセプター性の複素環化合物やポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)(以後、PEDOTと略称する)/ポリ(スチレンスルフォネート)(以後、PSSと略称する)などの塗布型の高分子材料を用いることもできる。
【0074】
これらの化合物および材料は、単独で成膜に供してもよいが、複数種を混合して成膜に供してもよい。複数種を混合して成膜に供する場合には、その1種として、トリスブロモフェニルアミンヘキサクロルアンチモン、ラジアレン誘導体(例えば、特許文献5参照)などをPドーピングしたものや、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(m-トリル)-ベンジジン(以後、TPDと略称する)などのベンジジン誘導体の構造を部分構造に有する高分子化合物などを用いてもよい。
【0075】
これらの化合物および材料は、蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0076】
(正孔輸送層4)
正孔輸送層4には、本発明のトリアリールアミン構造を有する化合物のほか、正孔輸送性を有する公知の化合物を用いることもできる。正孔輸送性を有する公知の化合物としては、TPDやNPD、N,N,N’,N’-テトラビフェニリルベンジジンなどのベンジジン誘導体、1,1-ビス[(ジ-4-トリルアミノ)フェニル]シクロヘキサン(以後、TAPCと略称する)、分子中にトリフェニルアミン構造またはカルバゾリル構造を2個以上有し、それぞれが単結合またはヘテロ原子を含まない2価基で連結した構造を有するアリールアミン化合物などを挙げることができる。また、上記PEDOTやPSSなどの塗布型の高分子材料を用いることもできる。これらは、単独で成膜してもよいが、複数種を混合して成膜することもでき、それぞれを単層として使用できる。上記の化合物または材料を単独で成膜した層同士の積層構造、複数種を混合して成膜した層同士の積層構造、または上記の化合物または材料を単独で成膜した層と上記複数種を混合して成膜した層との積層構造としてもよい。これらの化合物および材料は、蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0077】
また、正孔輸送層4には、通常使用される化合物および材料に加え、さらにトリスブロモフェニルアミンヘキサクロルアンチモン、ラジアレン誘導体(例えば、特許文献5参照)をPドーピングしたものや、TPDなどのベンジジン誘導体の構造をその部分構造に有する高分子化合物などを用いることができる。
【0078】
(電子阻止層5)
電子阻止層5には、本発明のトリアリールアミン構造を有する化合物のほか、公知の電子阻止作用を有する化合物を用いることもできる。公知の電子阻止作用を有する化合物としては、4,4’,4’’-トリ(N-カルバゾリル)トリフェニルアミン(以後、TCTAと略称する)、9,9-ビス[4-(カルバゾール-9-イル)フェニル]フルオレン、1,3-ビス(カルバゾール-9-イル)ベンゼン(以後、mCPと略称する)、2,2-ビス(4-カルバゾール-9-イルフェニル)アダマンタン(以後、Ad-Czと略称する)などのカルバゾール誘導体、9-[4-(カルバゾール-9-イル)フェニル]-9-[4-(トリフェニルシリル)フェニル]-9H-フルオレンに代表されるトリフェニルシリル基とトリアリールアミン構造を有する化合物などの電子阻止作用を有する化合物を挙げることができる。これらは、単独で成膜してもよいが、複数種を混合して成膜することもでき、それぞれ単層として使用できる。上記の材料を単独で成膜した層同士の積層構造、上記複数種を混合して成膜した層同士の積層構造、または上記の材料を単独で成膜した層と上記複数種を混合して成膜した層との積層構造としてもよい。これらの化合物は、蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0079】
(発光層6)
発光層6には、本発明のトリアリールアミン構造を有する化合物のほか、公知の発光材料を用いることもできる。公知の発光材料としては、Alq3をはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体、各種の金属錯体、アントラセン誘導体、ビススチリルベンゼン誘導体、ピレン誘導体、オキサゾール誘導体、ポリパラフェニレンビニレン誘導体などを挙げることができる。また、発光層6は、ホスト材料とドーパント材料とで構成されていてもよい。ホスト材料としてアントラセン誘導体が好ましく用いられるが、そのほか、本発明のトリアリールアミン構造を有する化合物を初めとする前記発光材料に加え、インドール環を縮合環の部分構造として有する複素環化合物、カルバゾール環を縮合環の部分構造として有する複素環化合物、カルバゾール誘導体、チアゾール誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ポリジアルキルフルオレン誘導体などを用いることができる。また、ドーパント材料としては、キナクリドン、クマリン、ルブレン、ペリレンおよびそれらの誘導体、ベンゾピラン誘導体、ローダミン誘導体、アミノスチリル誘導体などが挙げられる。これらは、単独で成膜してもよいが、複数種を混合して成膜することもでき、それぞれを単層として使用しできる。上記の化合物または材料を単独で成膜した層同士の積層構造、上記複数種を混合して成膜した層同士の積層構造、または上記の化合物または材料を単独で成膜した層と複数種を混合して成膜した層との積層構造としてもよい。
【0080】
また、発光材料として燐光発光体を使用することも可能である。燐光発光体としては、イリジウムや白金などの金属錯体の燐光発光体を使用することができる。例えば、Ir(ppy)3などの緑色の燐光発光体、FIrpic、FIr6などの青色の燐光発光体、Btp2Ir(acac)などの赤色の燐光発光体などが挙げられる。このときのホスト材料としては、正孔注入・輸送性のホスト材料として、4,4’-ジ(N-カルバゾリル)ビフェニル(以後、CBPと略称する)やTCTA、mCPなどのカルバゾール誘導体およびベンゾアゾール環構造とピリドインドール環構造を有する化合物を挙げることができる。また、電子輸送性のホスト材料として、p-ビス(トリフェニルシリル)ベンゼン(以後、UGH2と略称する)や2,2’,2’’-(1,3,5-フェニレン)-トリス(1-フェニル-1H-ベンズイミダゾール)(以後、TPBIと略称する)などを挙げることができる。このような燐光発光体を発光材料に用いることで、高性能の有機EL素子を作製することができる。
【0081】
燐光性の発光材料のホスト材料へのドープは、濃度消光を避けるため、発光層全体に対して1~30重量パーセントの範囲とすることが好ましく、共蒸着によってドープすることが好ましい。
【0082】
また、発光材料としてPIC-TRZ、CC2TA、PXZ-TRZ、4CzIPNなどのCDCB誘導体など、遅延蛍光を放射する材料を使用することも可能である(例えば、非特許文献3参照)。これらの材料は、蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0083】
(正孔阻止層)
発光層6と電子輸送層7との間には、正孔阻止層(
図1には示していない)を設けることができる。正孔阻止層には、公知の正孔阻止作用を有する化合物を用いることができる。公知の正孔阻止作用を有する化合物としては、バソクプロイン(以後、BCPと略称する)などのフェナントロリン誘導体、アルミニウム(III)ビス(2-メチル-8-キノリナート)-4-フェニルフェノレート(以後、BAlqと省略する)などのキノリノール誘導体の金属錯体、各種の希土類錯体、オキサゾール誘導体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ピリミジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ベンゾアゾール誘導体などを挙げることができる。これらの化合物は電子輸送層の材料を兼ねてもよい。これらは、単独で成膜してもよいが、複数種を混合して成膜することもでき、それぞれを単層として使用できる。上記化合物を単独で成膜した層同士の積層構造、上記複数種を混合して成膜した層同士の積層構造、または上記化合物を単独で成膜した層と複数種を混合して成膜した層との積層構造としてもよい。これらの材料は、蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0084】
(電子輸送層7)
電子輸送層7には、電子輸送性を有する公知の化合物を用いることができる。電子輸送性を有する公知の化合物としては、Alq3、BAlqをはじめとするキノリノール誘導体の金属錯体、各種金属錯体、トリアゾール誘導体、トリアジン誘導体、ピリミジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピリジン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンゾアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、アントラセン誘導体、カルボジイミド誘導体、キノキサリン誘導体、ピリドインドール誘導体、フェナントロリン誘導体、シロール誘導体などを挙げることができる。これらは、単独で成膜してもよいが、複数種を混合して成膜することもでき、それぞれを単層として使用できる。上記化合物を単独で成膜した層同士の積層構造、上記複数種を混合して成膜した層同士の積層構造、または上記化合物を単独で成膜した層と複数種を混合して成膜した層との積層構造としてもよい。これらの材料は、蒸着法の他、スピンコート法やインクジェット法などの公知の方法によって薄膜形成を行うことができる。
【0085】
(電子注入層8)
電子注入層8には、フッ化リチウム、フッ化セシウムなどのアルカリ金属塩、フッ化マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩、リチウムキノリノールなどのキノリノール誘導体の金属錯体、酸化アルミニウムなどの金属酸化物、あるいはイッテルビウム(Yb)、サマリウム(Sm)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、セシウム(Cs)などの金属を用いることができる。電子輸送層と陰極との好ましい組み合わせを選択することによって、電子注入層8は省略することができる。
【0086】
さらに、電子注入層8および電子輸送層7には、該層に通常使用される材料に対してセシウムなどの金属をNドーピングした材料を用いることができる。
【0087】
(陰極9)
陰極9には、アルミニウムのような仕事関数の低い電極材料や、マグネシウム銀合金、マグネシウムカルシウム合金、マグネシウムインジウム合金、アルミニウムマグネシウム合金のような、より仕事関数の低い合金およびITO、IZOなどの電極材料が用いられる。
【実施例】
【0088】
以下、本発明の実施形態について、実施例により具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0089】
<N,N-ビス([1,1’-ビフェニル]-4-イル)-5’-フェニル-(1,1’:2’,1”-トリフェニル)-4-アミン(化合物-1)の合成>
窒素置換した反応容器に、ビス(4-ビフェニリル)アミン5.00g、4-ブロモ-5’-フェニル-1,1’:2’,1”-ターフェニル6.59g、トルエン50ml、t-ブトキシナトリウム1.79g、t-ブチルホスフィン(50wt%トルエン溶液)0.13g、酢酸パラジウム(II)0.07gを加えて加熱還流下で3時間撹拌した。反応液にシリカゲルと活性白土をそれぞれ10gずつ加え、10分間撹拌した後、80℃にてセライト濾過を行なった。濃縮した濾液に、アセトン180mlを加えて晶析を行ない、固体を得た。得られた固体をn-ヘプタン/ジクロロメタン混合溶媒を用いて、カラムクロマトグラフィーによって精製した。濃縮した固体をジクロロメタン20mlに溶解後、n-ヘプタン200mlを加えて晶析操作を行ない、N,N-ビス([1,1’-ビフェニル]-4-イル)-5’-フェニル-(1,1’:2’,1”-トリフェニル)-4-アミン(化合物-1)の白色固体5.4g(収率56%)を得た。
【0090】
【0091】
得られた白色固体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR(DMSO-d6)で以下の35個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=7.80-7.72(4H)、7.67-7.62(8H)、7.53-7.40(8H)、7.36-7.28(5H)、7.21-7.09(8H)、6.98(2H)
【実施例2】
【0092】
<N-([1,1’-ビフェニル]-4-イル)-9,9-ジメチル-N-(5’-フェニル-[1,1’:2’,1”-トリフェニル]-4-イル)-9H-フルオレン-2-アミン(化合物-2)の合成>
窒素置換した反応容器に、2-(4-ビフェニリル)アミノ-9,9-ジメチルフルオレン6.10g、4-ブロモ-5’-フェニル-1,1’:2’,1”-ターフェニル7.15g、トルエン61ml、t-ブトキシナトリウム1.95g、t-ブチルホスフィン(50wt%トルエン溶液)0.14g、酢酸パラジウム(II)0.08gを加えて加熱還流下で3時間撹拌した。反応液にシリカゲルと活性白土をそれぞれ10gずつ加え、10分間撹拌した後、80℃にてセライト濾過を行なった。濃縮した濾液に、アセトン220mlを加えて晶析操作を行ない、固体を得た。得られた固体をn-ヘプタン/ジクロロメタン混合溶媒を用いて、カラムクロマトグラフィーによって精製した。濃縮した固体をジクロロメタン22mlに溶解後、n-ヘプタン220mlを加えて晶析操作を行なった。同様の晶析操作を再度行い、N-([1,1’-ビフェニル]-4-イル)-9,9-ジメチル-N-(5’-フェニル-[1,1’:2’,1”-トリフェニル]-4-イル)-9H-フルオレン-2-アミン(化合物-2)の白色固体2.2g(収率19%)を得た。
【0093】
【0094】
得られた白色固体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR(DMSO-d6)で以下の39個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=7.73-7.56(10H)、7.49-7.42(10H)、7.35-7.22(6H)、7.11-7.07(4H)、6.98-6.96(3H)
【実施例3】
【0095】
<N,N-ビス(4-[ナフタレン-1-イル]フェニル)-5’-フェニル-(1,1’:2’,1”-トリフェニル)-4-アミン(化合物-3)の合成>
窒素置換した反応容器に、N,N-ビス[4-(ナフタレン-1-イル)フェニル]アミン9.00g、4-ブロモ-5’-フェニル-1,1’:2’,1”-ターフェニル9.87g、トルエン90ml、t-ブトキシナトリウム2.46g、t-ブチルホスフィン(50wt%トルエン溶液)0.17g、酢酸パラジウム(II)0.10gを加えて加熱還流下で3時間撹拌した。反応液にシリカゲルと活性白土をそれぞれ15gずつ加え、10分間撹拌した後、80℃にてセライト濾過を行なった。濾液を濃縮し、n-ヘプタン/ジクロロメタン混合溶媒を用いて、カラムクロマトグラフィーによって精製した。濃縮した固体をジクロロメタン30mlに溶解後、メタノール300mlに滴下し、固体を得た。得られた固体を同様の方法で精製し、N,N-ビス(4-[ナフタレン-1-イル]フェニル)-5’-フェニル-(1,1’:2’,1”-トリフェニル)-4-アミン(化合物-3)の白色固体13.0g(収率83.9%)を得た。
【0096】
【0097】
得られた白色固体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR(DMSO-d6)で以下の39個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=8.02-7.94(6H)、7.82-7.75(4H)、7.64-7.47(15H)、7.43-7.21(12H)、7.16-7.10(2H)
【実施例4】
【0098】
<N,N-ビス(4-[ナフタレン-2-イル]フェニル)-5’-フェニル-(1,1’:2’,1”-トリフェニル)-4-アミン(化合物-4)の合成>
窒素置換した反応容器に、N,N-ビス[4-(ナフタレン-2-イル)フェニル]アミン10.00g、4-ブロモ-5’-フェニル-1,1’:2’,1”-ターフェニル10.97g、トルエン100ml、t-ブトキシナトリウム2.74g、t-ブチルホスフィン(50wt%トルエン溶液)0.19g、酢酸パラジウム(II)0.11gを加えて加熱還流下で3時間撹拌した。反応液にシリカゲルと活性白土をそれぞれ17gずつ加え、10分間撹拌した後、80℃にてセライト濾過を行なった。濃縮した濾液に、アセトン340mlを加えて晶析操作を行ない、固体を得た。得られた固体をトルエン34mlに溶解後、アセトン340mlを加えて晶析操作を行ない、N,N-ビス(4-[ナフタレン-2-イル]フェニル)-5’-フェニル-(1,1’:2’,1”-トリフェニル)-4-アミン(化合物-4)の白色固体8.3g(収率48%)を得た。
【0099】
【0100】
得られた白色固体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR(DMSO-d6)で以下の39個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=8.21(2H)、8.01-7.92(6H)、7.88-7.74(10H)、7.57-7.48(7H)、7.43-7.30(4H)、7.28-7.17(8H)、7.03(2H)
【実施例5】
【0101】
<N-(4-(ナフタレン-1-イル)フェニル)-N-(5’-フェニル[1,1’:2’,1’’-ターフェニル]-4-イル)フェナントレン-9-アミン(化合物-58)の合成>
窒素置換した反応容器にN-(4-(ナフタレン-1-イル)フェニル)-N-(5’-フェニル[1,1’:2’,1’’-ターフェニル]-4-アミン8.5g、9-ブロモフェナントレン4.8g、トルエン85ml、t-ブトキシナトリウム2.3g、t-ブチルホスフィン(50wt%トルエン溶液)0.3g、酢酸パラジウム(II)0.1gを加えて加熱還流下で3時間撹拌した。80℃でセライト濾過を行った。濾液に活性白土とシリカゲルを加え、吸着精製を行った。濾液を濃縮し、残渣をアセトンにより晶析し、N-(4-(ナフタレン-1-イル)フェニル)-N-(5’-フェニル[1,1’:2’,1’’-ターフェニル]-4-イル)フェナントレン-9-アミン(化合物-58)の白色固体8.3g(収率73%)を得た。
【0102】
【0103】
得られた白色固体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR(CDCl3)で以下の37個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=8.75-8.84(2H)、8.16-8.20(1H)、8.05-8.09(1H)、7.91-7.95(3H)、7.12-7.78(30H)
【実施例6】
【0104】
<N-(4-(ナフタレン-2-イル)フェニル)-N-(5’-フェニル[1,1’:2’,1’’-ターフェニル]-4-イル)フェナントレン-9-アミン(化合物-59)の合成>
窒素置換した反応容器にN-(4-(ナフタレン-2-イル)フェニル)-N-(5’-フェニル[1,1’:2’,1’’-ターフェニル]-4-アミン8.0g、9-ブロモフェナントレン4.5g、トルエン80ml、t-ブトキシナトリウム2.2g、t-ブチルホスフィン(50wt%トルエン溶液)0.2g、酢酸パラジウム(II)0.1gを加えて加熱還流下で3時間撹拌した。80℃でセライト濾過を行った。濾液に活性白土とシリカゲルを加え、吸着精製を行った。濾液を濃縮し、残渣をトルエン-アセトンにより晶析し、N-((4-ナフタレン-2-イル)フェニル)-N-(5’-フェニル[1,1’:2’,1’’-ターフェニル]-4-イル)フェナントレン-9-アミン(化合物-59)の白色固体6.6g(収率62%)を得た。
【0105】
【0106】
得られた白色固体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR(CDCl3)で以下の37個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=8.74-8.83(2H)、8.12-8.17(1H)、8.30(1H)、7.21-7.94(29H)、7.08-7.14(4H)
【実施例7】
【0107】
<9,9-ジメチル-N-フェニル-N-(4’-フェニル[1,1’:2’,1’’:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4’’-イル)-9H-フルオレン-2-アミン(化合物-71)の合成>
窒素置換した反応容器に9,9-ジメチル-N-フェニル-9H-フルオレン-2-アミン4.5g、4’’-ブロモ4’-フェニル-[1,1’:2’,1’’:4’’,1’’’-クォーターフェニル]7.6g、トルエン45ml、t-ブトキシナトリウム1.8g、t-ブチルホスフィン(50wt%トルエン溶液)0.13g、酢酸パラジウム(II)0.07gを加えて加熱還流下で終夜撹拌した。室温まで冷却し、水洗浄を行い、無水硫酸マグネシウムで乾燥した。乾燥剤を濾過で除き、濾液を濃縮した。残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、9,9-ジメチル-N-フェニル-N-(4’-フェニル[1,1’:2’,1’’:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4’’-イル)-9H-フルオレン-2-アミン(化合物-71)の白色固体6.5g(収率62%)を得た。
【0108】
【0109】
得られた白色固体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR(CDCl3)で以下の39個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=7.51-7.80(13H)、7.22-7.48(18H)、7.08-7.16(2H)、1.50(6H)
【実施例8】
【0110】
<N-([1,1’-ビフェニル]-4-イル)-N-(4-(ナフタレン-2-イル)フェニル)-4’-フェニル-[1,1’:2’,1’’:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4’’’-アミン(化合物-72)の合成>
窒素置換した反応容器にN-(4-(ナフタレン-2-イル)フェニル)-[1,1’-ビフェニル]-4-アミン5.1g、4’’-ブロモ4’-フェニル-[1,1’:2’,1’’:4’’,1’’’-クォーターフェニル]6.7g、トルエン51ml、t-ブトキシナトリウム1.6g、t-ブチルホスフィン(50wt%トルエン溶液)0.11g、酢酸パラジウム(II)0.06gを加えて加熱還流下で終夜撹拌した。室温まで冷却し、セライト濾過で不溶物を除いた。濾液に活性炭を加え、吸着精製を行った。濾液を濃縮し、残渣をトルエン-アセトンにより晶析し、N-([1,1’-ビフェニル]-4-イル)-N-(4-(ナフタレン-2-イル)フェニル)-4’-フェニル-[1,1’:2’,1’’:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4’’’-アミン(化合物-72)の白色固体7.6g(収率74%)を得た。
【0111】
【0112】
得られた白色固体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR(CDCl3)で以下の41個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=8.11(1H)、7.91-7.98(3H)、7.65-7.83(9H)、7.28-7.62(28H)
【実施例9】
【0113】
<N-フェニル-N-(4’-フェニル-[1,1’:2’,1’’:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4’’’-イル)フェナントレン-9-アミン(化合物-77)の合成>
窒素置換した反応容器にN-フェニル-フェナントレン-9-アミン5.0g、4’’-ブロモ4’-フェニル-[1,1’:2’,1’’:4’’,1’’’-クォーターフェニル]9.4g、トルエン50ml、t-ブトキシナトリウム2.1g、t-ブチルホスフィン(50wt%トルエン溶液)0.15g、酢酸パラジウム(II)0.08gを加えて加熱還流下で終夜撹拌した。80℃まで冷却し、セライト濾過で不溶物を除いた。濾液を濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、N-フェニル-N-(4’-フェニル-[1,1’:2’,1’’:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4’’’-イル)フェナントレン-9-アミン(化合物-77)の白色固体3.8g(収率32%)を得た。
【0114】
【0115】
得られた白色固体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR(CDCl3)で以下の35個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=8.73-8.82(2H)、8.12-8.16(1H)、7.40-7.83(18H)、7.18-7.32(13H)、7.02-7.08(1H)
【実施例10】
【0116】
<N-(4-(ナフタレン-1-イル)フェニル)-N-(4’-フェニル-[1,1’:2’,1’’:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4’’’-イル)フェナントレン-2-アミン(化合物-86)の合成>
窒素置換した反応容器にN-(4-(ナフタレン-1-イル)フェニル)-フェナントレン-2-アミン6.0g、4’’-ブロモ4’-フェニル-[1,1’:2’,1’’:4’’,1’’’-クォーターフェニル]7.3g、トルエン60ml、t-ブトキシナトリウム1.7g、t-ブチルホスフィン(50wt%トルエン溶液)0.12g、酢酸パラジウム(II)0.07gを加えて加熱還流下で終夜撹拌した。80℃まで冷却し、セライト濾過で不溶物を除いた。濾液を濃縮し、残渣をカラムクロマトグラフィーで精製し、N-(4-(ナフタレン-1-イル)フェニル)-N-(4’-フェニル-[1,1’:2’,1’’:4’’,1’’’-クォーターフェニル]-4’’’-イル)フェナントレン-2-アミン(化合物-86)の黄白色固体8.0g(収率68%)を得た。
【0117】
【0118】
得られた白色固体についてNMRを使用して構造を同定した。
1H-NMR(CDCl3)で以下の41個の水素のシグナルを検出した。
δ(ppm)=8.62-8.67(2H)、8.11-8.16(1H)、7.88-7.99(3H)、7.27-7.79(35H)
【実施例11】
【0119】
上記実施例で合成した構造式(A-1)で表されるトリアリールアミン構造を有する化合物について、高感度示差走査熱量計(ブルカー・エイエックスエス製、DSC3100SA)によって融点とガラス転移点(Tg)を測定した。結果を表1に示す。
【0120】
【0121】
実施例1~10で合成した、構造式(A-1)で表されるトリアリールアミン構造を有する化合物は、95℃以上のガラス転移点を有しており、これは薄膜状態が安定であることを示すものである。
【実施例12】
【0122】
上記実施例で合成した構造式(A-1)で表されるトリアリールアミン構造を有する化合物を用いてITO基板の上に膜厚100nmの蒸着膜を作製し、イオン化ポテンシャル測定装置(住友重機械工業株式会社製、PYS-202)によって仕事関数を測定した。結果を表2に示す。
【0123】
【0124】
実施例1~10で合成した、構造式(A-1)で表されるトリアリールアミン構造を有する化合物は、NPD、TPDなどの一般的な正孔輸送材料がもつ仕事関数5.4eVと比較して高いエネルギー準位を示しており、良好な正孔輸送能力を有していた。
【0125】
これらの化合物の仕事関数は、陽極として用いたITOの仕事関数(5.0eV)と実施例で発光層として用いた化合物(EMH-1)の仕事関数(6.0eV)の間であり、良好な正孔注入能力を有していた。
【0126】
これらの化合物の仕事関数は、発光層として用いた化合物(EMH-1)の仕事関数(6.0eV)に近い値であり、発光層材料としても良好である。
【実施例13】
【0127】
実施例1の化合物(化合物-1)を用いて有機EL素子を作製した。有機EL素子は、
図1に示した構成であり、ガラス基板1上に陽極2としてITO電極をあらかじめ形成したものの上に、正孔注入層3、正孔輸送層4、電子阻止層5、発光層6、電子輸送層7、電子注入層8、陰極(アルミニウム電極)9の順に蒸着して作製した。
【0128】
具体的には、膜厚150nmのITOを成膜したガラス基板1をイソプロピルアルコール中にて超音波洗浄を20分間行った後、200℃に加熱したホットプレート上にて10分間乾燥を行った。その後、UVオゾン処理を15分間行った後、このITO付きガラス基板を真空蒸着機内に取り付け、0.001Pa以下まで減圧した。続いて、陽極2を覆うように正孔注入層3として、下記構造式の電子アクセプター(Acceptor-1)と下記構造の化合物(HTM-1)を、蒸着速度比がAcceptor-1:HTM-1=3:97となる蒸着速度で二元蒸着を行い、膜厚30nmとなるように形成した。この正孔注入層3の上に、正孔輸送層4として化合物(HTM-1)を膜厚40nmとなるように形成した。この正孔輸送層4の上に、電子阻止層5として実施例1の化合物(化合物-1)を膜厚5nmとなるように形成した。この電子阻止層5の上に、発光層6として下記構造式の化合物EMD-1と下記構造式の化合物EMH-1を、蒸着速度比がEMD-1:EMH-1=5:95となる蒸着速度で二元蒸着を行い、膜厚20nmとなるように形成した。この発光層6の上に、電子輸送層7として下記構造式の化合物(ETM-1)と下記構造式の化合物(ETM-2)を、蒸着速度比がETM-1:ETM-2=50:50となる蒸着速度で二元蒸着を行い、膜厚30nmとなるように形成した。この電子輸送層7の上に、電子注入層8としてフッ化リチウムを膜厚1nmとなるように形成した。最後に、アルミニウムを膜厚100nmとなるように蒸着して陰極9を形成した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行った。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表3にまとめて示した。
【0129】
【実施例14】
【0130】
電子阻止層5の材料として実施例1の化合物(化合物-1)に代えて実施例2の化合物(化合物-2)を用いた以外は、実施例13と同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表3にまとめて示した。
【実施例15】
【0131】
電子阻止層5の材料として実施例1の化合物(化合物-1)に代えて実施例3の化合物(化合物-3)を用いた以外は、実施例13と同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表3にまとめて示した。
【実施例16】
【0132】
電子阻止層5の材料として実施例1の化合物(化合物-1)に代えて実施例4の化合物(化合物-4)を用いた以外は、実施例13と同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表3にまとめて示した。
【実施例17】
【0133】
電子阻止層5の材料として実施例1の化合物(化合物-1)に代えて実施例5の化合物(化合物-58)を用いた以外は、実施例13と同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表3にまとめて示した。
【実施例18】
【0134】
電子阻止層5の材料として実施例1の化合物(化合物-1)に代えて実施例6の化合物(化合物-59)を用いた以外は、実施例13と同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表3にまとめて示した。
【実施例19】
【0135】
電子阻止層5の材料として実施例1の化合物(化合物-1)に代えて実施例7の化合物(化合物-71)を用いた以外は、実施例13と同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表3にまとめて示した。
【実施例20】
【0136】
電子阻止層5の材料として実施例1の化合物(化合物-1)に代えて実施例8の化合物(化合物-72)を用いた以外は、実施例13と同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表3にまとめて示した。
【実施例21】
【0137】
電子阻止層5の材料として実施例1の化合物(化合物-1)に代えて実施例9の化合物(化合物-77)を用いた以外は、実施例13と同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表3にまとめて示した。
【実施例22】
【0138】
電子阻止層5の材料として実施例1の化合物(化合物-1)に代えて実施例10の化合物(化合物-86)を用いた以外は、実施例13と同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行なった。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表3にまとめて示した。
【0139】
[比較例1]
比較のために、電子阻止層5の材料として実施例1の化合物(化合物-1)に代えてHTM-1を用い、膜厚5nmとなるように形成した以外は、実施例13と同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行った。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表3にまとめて示した。
【0140】
[比較例2]
比較のために、電子阻止層5の材料として実施例1の化合物(化合物-1)に代えて下記構造式の化合物(HTM-2)を用いた以外は、実施例13同様の条件で有機EL素子を作製した。作製した有機EL素子について、大気中、常温で特性測定を行った。作製した有機EL素子に直流電圧を印加したときの発光特性の測定結果を表3にまとめて示した。
【0141】
【0142】
実施例13~22および比較例1~2で作製した有機EL素子を用いて、素子寿命を測定した結果を表3にまとめて示した。素子寿命は、発光開始時の発光輝度(初期輝度)を2000cd/m2として定電流駆動を行った時、発光輝度が1900cd/m2(初期輝度を100%とした時の95%に相当:95%減衰)に減衰するまでの時間として測定した。
【0143】
【0144】
表3において、実施例13~22と比較例1、2を比較すると、電流密度10mA/cm2の電流を流したときの発光効率は、比較例1、2の有機EL素子の7.22、7.65cd/Aに対し、実施例13~22の有機EL素子では8.00~8.38cd/Aと高効率であった。また、電力効率においても、比較例1、2の有機EL素子の6.27、6.56lm/Wに対し、実施例13~22の有機EL素子では6.93~7.25lm/Wと高効率であった。さらに、素子寿命(95%減衰)においては、比較例1、2の有機EL素子の121、165時間に対し、実施例13~22の有機EL素子では230~257時間と長寿命化していることが分かる。
【0145】
本発明の有機EL素子は、電子阻止層の材料として特定のトリアリールアミン構造を有する化合物を選択したことによって、有機EL素子内部のキャリアバランスが改善されており、従来の有機EL素子と比較して、高発光効率、かつ長寿命を実現できることが分かった。
【0146】
また、本発明のトリアリールアミン構造を有する化合物は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層の構成材料として用いても同様の効果が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明の、特定のトリアリールアミン構造を有する化合物を使用した有機EL素子は、発光効率が向上しており、耐久性も改善されているため、例えば、家庭電化製品や照明などの幅広い用途への展開が可能となった。
【符号の説明】
【0148】
1 ガラス基板
2 陽極
3 正孔注入層
4 正孔輸送層
5 電子阻止層
6 発光層
7 電子輸送層
8 電子注入層
9 陰極