(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A47G 21/18 20060101AFI20231220BHJP
F16L 11/06 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
A47G21/18
F16L11/06
(21)【出願番号】P 2020538380
(86)(22)【出願日】2019-08-19
(86)【国際出願番号】 JP2019032298
(87)【国際公開番号】W WO2020040093
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-06-23
(31)【優先権主張番号】P 2018154019
(32)【優先日】2018-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大倉 徹雄
【審査官】宮部 愛子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-331757(JP,A)
【文献】特表2003-518998(JP,A)
【文献】特開2006-136657(JP,A)
【文献】国際公開第2014/188646(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47G 21/18
F16L 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂からなり、チューブの肉厚が0.1~0.6mmであるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブを製造する方法であって、
少なくとも2種類のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を混合する工程、及び、
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を押出機中で溶融した後、環状ダイから押出して水中に投入する工程を含み、
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の示差走査熱量分析における融点ピーク温度と、融点ピークの終了温度の差が10℃以上
30℃以下であり、
前記環状ダイの温度を、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の示差走査熱量分析における融点ピーク温度と、融点ピークの終了温度の間の温度に設定する、製造方法。
【請求項2】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の160℃における溶融粘度が10000poise以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の示差走査熱量分析における融点ピーク温度と、融点ピークの終了温度の差が15℃以上である、請求項1
又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂からなるチューブであって、該チューブの肉厚が0.1~0.6mmであり、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の示差走査熱量分析における融点ピーク温度と、融点ピークの終了温度の差が10℃以上
30℃以下である、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブ。
【請求項5】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)である、請求項
4に記載のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、欧州を中心に生ゴミの分別回収やコンポスト処理が進められており、生ゴミと共にコンポスト処理できるプラスチック製品が望まれている。そのようなプラスチック製品の一例として、特許文献1では、例えば、ポリ乳酸と、脂肪族ポリエステルおよび/または脂肪族-芳香族ポリエステルとからなる、ストローなどの管状成形品が開示されている。
【0003】
一方で、廃棄プラスチックが引き起こす環境問題がクローズアップされ、特に海洋投棄や河川などを経由して海に流入したプラスチックが、地球規模で多量に海洋を漂流していることが判ってきた。この様なプラスチックは長期間にわたって形状を保つため、海洋生物を拘束、捕獲する、いわゆるゴーストフィッシングや、海洋生物が摂取した場合は消化器内に留まり摂食障害を引き起こすなど、生態系への影響が指摘されている。
【0004】
更には、プラスチックが紫外線などで崩壊・微粒化したマイクロプラスチックが、海水中の有害な化合物を吸着し、これを海生生物が摂取することで有害物が食物連鎖に取り込まれる問題も指摘されている。
【0005】
この様なプラスチックによる海洋汚染に対し、生分解性プラスチックの使用が期待されるが、国連環境計画が2015年に取り纏めた報告書(非特許文献1)では、ポリ乳酸などのコンポストで生分解可能なプラスチックは、温度が低い実海洋中では短期間での分解が期待できないために、海洋汚染の対策にはなりえないと指摘されている。
【0006】
また最近では、漂流した廃棄ストローが生態系に与える影響が指摘され、ストローの継続使用について、飲料メーカーなどにおいて議論されている。しかしながら、ストローはファッション性だけでなく、固形物が沈殿する飲料物や高粘度の飲料物などの吸引に対して有効であり、全面的な禁止ではなく継続使用が望まれている。
【0007】
この様な中、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は海水中でも生分解が進行しうる材料であるため、上記課題を解決する素材として注目されている。
【0008】
特許文献2では、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を含む材料を溶融混練して生分解性樹脂組成物を製造することが記載されており、その成形品の一例として、チューブに言及されているが、ストローとしての使用適用性や、海水分解性の観点からはまったく検討されていない。
【0009】
チューブをストローとして使用するには、ストローとしての安全性を確保する観点から、チューブ端部を噛んだりしても割れにくく、また、飲料を飲む際に怪我をしにくいように、チューブがしなりやすいという特性を有する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2005-350530号公報
【文献】特開2004-331913号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】国連環境計画2015,BIODEGRADABLE PLASTICS & MARINE LITTER
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従って、本発明は、しなりやすく、ストローとして好適に使用でき、かつ海水中でも速やかに分解し得るチューブを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂からなり特定の肉厚を有するチューブが、しなりやすく、ストローとして好適に使用でき、かつ海水中でも速やかに分解し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
即ち、本発明は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂からなるチューブであって、該チューブの肉厚が0.1~0.6mmであるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブに関する。前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の示差走査熱量分析における融点ピーク温度と、融点ピークの終了温度の差が10℃以上であることが好ましい。また、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)であることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブを製造する方法であって、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を押出機中で溶融した後、環状ダイから押出して水中に投入する工程を含み、前記環状ダイの温度を、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の示差走査熱量分析における融点ピーク温度と、融点ピークの終了温度の間の温度に設定する、製造方法に関する。前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の160℃における溶融粘度が10000poise以上であることが好ましい。前記製造方法は、少なくとも2種類のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を混合する工程をさらに含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、しなりやすく、ストローとして好適に使用でき、かつ海水中でも速やかに分解し得るチューブを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明におけるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂とは、微生物から生産され得る脂肪族ポリエステル樹脂であって、3-ヒドロキシブチレートを繰り返し単位とするポリエステル樹脂である。当該ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレートのみを繰り返し単位とするポリ(3-ヒドロキシブチレート)であってもよいし、3-ヒドロキシブチレートと他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体であってもよい。また、前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、単独重合体と1種または2種以上の共重合体の混合物、又は、2種以上の共重合体の混合物であってもよい。
【0019】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の具体例としては、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタデカノエート)等が挙げられる。中でも、工業的に生産が容易であることから、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましい。
【0020】
更には、繰り返し単位の組成比を変えることで、融点、結晶化度を変化させ、ヤング率、耐熱性などの物性を変化させることができ、ポリプロピレンとポリエチレンとの間の物性を付与することが可能であること、また上記したように工業的に生産が容易であり、物性的に有用なプラスチックであるという観点から、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)が好ましい。特に、180℃以上の加熱下で熱分解しやすい特性を有するポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の中でも、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)は融点を低くすることができ、低温での成形加工が可能となる観点からも好ましい。
【0021】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)の繰り返し単位の組成比は、柔軟性と強度のバランスの観点から、3-ヒドロキシブチレート単位/3-ヒドロキシヘキサノエート単位の組成比が80/20~99/1(mol/mol)であることが好ましく、75/15~97/3(mo1/mo1)であることがより好ましい。その理由は、柔軟性の点から99/1以下が好ましく、また樹脂が適度な硬度を有する点で80/20以上が好ましいからである。
【0022】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)の市販品としては、株式会社カネカ「カネカ生分解性ポリマーPHBH」(登録商標)などが挙げられる。
【0023】
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバリレート)は、3-ヒドロキシブチレート成分と3-ヒドロキシバレレート成分の比率によって融点、ヤング率などが変化するが、両成分が共結晶化するため結晶化度は50%以上と高く、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)に比べれば柔軟ではあるが、脆性の改良は不充分である。
【0024】
一般に販売されているストローでは、異なる径を有する複数のチューブを接続して伸縮可能としたストローを構成するためのストッパー部を形成する加工や、チューブの途中での折り曲げを可能とする蛇腹部を形成する加工などの二次加工がチューブに対して施される場合がある。そのような二次加工は、チューブの所定部分を加熱して可塑化した後に付型することにより実現されるが、当該可塑化時においてもチューブの全体的形状は維持されることが望ましい。しかし、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、一般的に、加熱して可塑化すると、その形状を維持しにくいという特性を有しており、加熱による形状維持と付型性が両立しにくく、二次加工性に劣る問題があった。
【0025】
優れた二次加工性を付与するため、本発明では、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂として、示差走査熱量分析における融点ピーク温度と、融点ピークの終了温度の差が10℃以上であるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を用いることが好ましい。当該温度差が10℃以上であると、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を溶融させると同時に、一部の結晶を溶融させずに残存させることが容易になるためである。これによって、チューブを二次加工する際に、チューブの所定部分を加熱して可塑化しながら、チューブの全体的形状を維持することができ、二次加工によるチューブへの付型を容易に実現することができる。すなわち、加熱による形状維持と付型性を両立することができ、優れた二次加工性を達成することができる。そのため、ストローに折り曲げ部や伸縮構造を容易に持たせることができ、利便性の高いストローを提供することができる。
【0026】
以上説明した優れた二次加工性に加えて、後述するように溶融押出によってチューブを成形する際に、押出後の水中でのポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の固化を速めて、水圧によるチューブの偏平化を回避しやすくなる利点もある。
【0027】
前記温度差は、12℃以上であることがより好ましく、15℃以上であることがさらに好ましく、18℃以上であることがよりさらに好ましい。前記温度差の上限は特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の製造の容易さの観点から、50℃以下であることが好ましく、40℃以下であることがより好ましく、35℃以下であることがさらに好ましく、30℃以下であることがよりさらに好ましい。
【0028】
本発明において、示差走査熱量分析における融点ピーク温度と、融点ピークの終了温度は、以下の様に定義される。樹脂試料4~10mgをアルミパンに充填し、示差走査熱量分析器を用いて、窒素気流下、30℃から180℃まで10℃/分の速度で昇温して前記樹脂試料が融解した時に得られる吸熱曲線において、吸熱量が最大となった温度を融点ピーク温度とし、融点ピークが終了し吸熱が認められなくなった温度を融点ピークの終了温度、とした。なお、前記融点ピーク温度及び融点ピークの終了温度は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブに含まれるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂全体について測定される。
【0029】
前記融点ピーク温度と融点ピークの終了の温度差が10℃以上であるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂としては、融点ピークがブロードで高融点成分を含むポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を使用することができる。また、当該融点ピークがブロードで高融点成分を含むポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂と、融点特性が異なる他のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂とを組み合わせて使用することもできる。
【0030】
前記融点ピークがブロードで高融点成分を含むポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の具体的な製造方法としては、例えば、国際公開第2015/146194号に記載されているとおり、融点挙動が異なる少なくとも2種のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を、単一の微生物中で同時に生産させ、混合樹脂として得る方法がある。
【0031】
前記融点ピークがブロードで高融点成分を含むポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の製造方法は、少なくとも2種類のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を混合する工程をさらに含むことが好ましい。互いに融点挙動が異なる複数のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を混合することによって、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の融点ピークがよりブロードとなり、結果、得られるチューブに、より優れた二次加工性を付与することが可能となる。
【0032】
前記2種類のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を混合する工程においては、均一な樹脂組成を達成するため、当該2種類の樹脂を溶融混錬することが好ましい。溶融混錬する際の加熱温度は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の溶融混錬が可能となる範囲で適宜設定することができるが、当該加熱温度は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂全体が示す、融点ピーク温度と、融点ピークの終了温度の間の温度に設定することが好ましい。このような条件を採用することで、溶融樹脂中に結晶の一部が残存することにより、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の融点ピークがよりブロードとなり、また、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の溶融粘度を高めることもできる。
【0033】
本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブには、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂以外の他の樹脂が含まれていてもよい。そのような他の樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂や、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンセバテートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレートなどの脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。他の樹脂としては1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0034】
前記他の樹脂の含有量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂100重量部に対して、30重量部以下が好ましく、より好ましくは20重量部以下である。他の樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0重量部であってもよい。
【0035】
また、本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブには、本発明の効果を阻害しない範囲で、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂と共に使用可能な添加剤が含まれていてもよい。そのような添加剤としては、無機充填剤、顔料、染料などの着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、可塑剤、酸化防止剤、抗酸化剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤、摺動性改良剤等が挙げられる。添加剤としては1種のみが含まれていてもよいし。2種以上が含まれていてもよい。これら添加剤の含有量は、その使用目的に応じて当業者が適宜設定可能である。
【0036】
本発明において、チューブとは、略一定の肉厚を有しており断面形状が略円形の壁面から構成され、内部が空洞になっている細長い円筒状の成形品のことをいう。本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブの肉厚は、ストローとして飲料を飲む際の吸引で潰れることなく、適度な柔軟性を有していることから割れにくく、指先などを突いたりした際に怪我をしにくく、かつ海水中でも速やかに生分解することから、0.1~0.6mmの範囲であり、好ましくは0.2~0.4mmである。
【0037】
また本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブの外径は、特に限定されないが、ストローとして飲料を飲む際の使用のしやすさから、2~10mmが好ましく、4~8mmがより好ましく、5~7mmがさらに好ましい。
【0038】
本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブの断面形状は、略円形であるが、ストローとしての利用性の観点から、真円に近いほど好ましい。よって、該チューブの断面形状の偏平度[100×(外径最大値-外径最小値)/外径最大値]は、10%以下であることが好ましく、8%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましく、3%以下であることがよりさらに好ましい。なお、偏平度が0%であるとは、断面形状が真円であることを意味する。
【0039】
また本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブの長さは、特に限定されないが、ストローとして飲料を飲む際の使用のしやすさから、50~350mmが好ましく、70~300mmがより好ましく、90~270mmがさらに好ましい。
【0040】
本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブは、ストローとして好適に使用することができる。ストローとして使用される本発明のチューブは、二次加工されていないチューブであってもよいし、ストッパー部の形成や蛇腹部の形成などの二次加工が施されたチューブであってもよい。
【0041】
次に、本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブを製造する方法について説明する。
【0042】
本発明のチューブは、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を押出機中で溶融した後、押出機出口に接続されている環状ダイから押出して水中に投入して固化させることでチューブ状に成形することによって製造することができる。
【0043】
一般的に、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、ポリプロピレンなど他の結晶性樹脂と比べて、結晶化速度が極めて遅い。そのため、冷却固化のための水中で水圧の影響を受けてポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブは偏平化しやすい(即ち、前記偏平度が大きくなりやすい)傾向がある。特に、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブの外径が大きく、肉厚が薄いものほど、水圧による扁平化が顕著になる傾向がある。そのため、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂から構成される薄肉チューブであって断面形状が真円に近いものの製造は困難であった。
【0044】
偏平化が抑制された薄肉チューブの成形加工を容易に実現するため、本発明では、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブの製造において、前記環状ダイの温度を、該ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の示差走査熱量分析における融点ピーク温度と、融点ピークの終了温度の間の温度に設定することが好ましい。この条件を採用することで、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を成形加工可能なレベルまで溶融させると同時に、溶融樹脂中に結晶の一部が残存することになり、これによって押出後の水中での結晶固化を迅速に進行させることができるため、水圧の影響によるチューブの扁平化を抑制することが可能となる。
【0045】
また、本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブの製造方法では、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂として、160℃における溶融粘度が10000poise以上を示すポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を用いることが好ましい。このように溶融粘度が高いポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を用いることによって、固化時の水中での水圧の影響を抑制することができ、これによって、水中でのチューブの偏平化をさらに抑制することができる。前記溶融粘度は、11000poise以上であることがより好ましく、12000poise以上であることがさらに好ましく、13000poise以上であることがよりさらに好ましい。前記溶融粘度の上限は特に限定されないが、チューブの表面平滑性や環状ダイの圧力上昇防止の観点から、30000poise以下であることが好ましい。なお、前記溶融粘度は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブに含まれるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂全体(無機充填剤等の添加剤を含むチューブである場合は、該添加剤を含む樹脂全体)について測定される値である。
【0046】
また本発明のポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブには、本発明の効果を損なわない範囲で、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、シリカ、その他の無機充填剤が1種または2種以上含まれていてもよい。
【0047】
前記無機充填剤の含有量は、特に限定されないが、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂100重量部に対して、30重量部以下が好ましく、より好ましくは20重量部以下である。無機充填剤の含有量の下限は特に限定されず、0重量部であってもよい。無機充填剤を含有させると、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂の溶融粘度が高くなり、かつ速い固化に寄与するため、チューブ形状の形成に有利になるため好ましい。
【実施例】
【0048】
以下に実施例と比較例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
(使用した樹脂原料)
樹脂原料1:カネカ製、カネカ生分解性ポリマーPHBHTM 151C 〔ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)〕(融点ピーク温度:125℃、融点ピークの終了温度:167℃)
樹脂原料2:カネカ製、カネカ生分解性ポリマーPHBHTM X131A 〔ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)〕
【0050】
(示差走査熱量分析評価)
樹脂試料4~10mgをアルミパンに充填し、示差走査熱量分析器を用いて、窒素気流下、30℃から180℃まで10℃/分の速度で昇温して前記樹脂試料が融解した時に得られる吸熱曲線において、吸熱量が最大となった温度を融点ピーク温度とし、融点ピークが終了し吸熱が認められなくなった温度を融点ピークの終了温度とした。
【0051】
(溶融粘度の測定方法)
口径1mm、長さ10mm、流入角45°のオリフィスを装着し、160℃に加熱したキャピログラフ(シリンダー径10mm)に樹脂試料15gを充填し、5分間予熱した後に、ピストンを10mm/minの速度で降下させて前記オリフィスから溶融樹脂を押出す際の、ピストンにかかる応力から、剪断速度122/sでの溶融粘度を算出した。
【0052】
(チューブの形状評価)
チューブのある位置での外径の最大値と最小値をノギスで測定した。また該最大値と最小値の差を最大値で除して偏平度を算出した。
チューブの肉厚は、チューブ断面の任意の3箇所をノギスで測定し、算術平均で算出した。
【0053】
(チューブのしなり性評価)
長さ250mmに切り出したチューブの端部50mmを保持し、逆の端部をプッシュゲージを用いて1Nの力で押し、以下の基準で評価した。
○:チューブのしなりによる端部の変位量が30mm以上
×:チューブのしなりによる端部の変位量が30mm未満。
【0054】
(チューブの海水中での生分解性評価)
目開き80μのメッシュで異物を除去した海水(兵庫県高砂市の港湾部から採取)6Lと、ASTM D-7081に準じて3gの塩化アンモニウムと、0.6gのリン酸2カリウムとをプラスチックコンテナに入れ、2cm長に切り出したチューブを投入し、3ヵ月後の重量保持率を算出した。なお、海水は水温を23℃に保った。
【0055】
(チューブの二次加工性評価)
表3に記載の所定温度(130℃又は140℃)に設定した熱風オーブン中に、30mmの長さに切ったチューブを入れて5分間予熱した後、オーブンからチューブを取り出し、チューブ形状を目視で確認すると同時に、速やかにチューブ端部をクリップ(LION社製バインダークリップNo.107)で挟んで、該端部に狭さく部位を形成し、そのまま1分間保持した後、クリップを外して狭さく部位の融着の有無を目視で確認した。形状維持性と付型性は以下の基準で評価した。
【0056】
(形状維持性)
○:予熱後も初期のチューブ形状が維持されている
×:予熱によってチューブ形状が変形した。
【0057】
(付型性)
○:クリップで挟んで1分後に、狭さく部位が融着した
×:クリップで挟んで1分後に、狭さく部位が融着しなかった。
【0058】
[ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂ペレットの製造]
樹脂原料1と樹脂原料2を表1に示す配合比で混合し、両樹脂原料の合計100重量部に対しペンタエリスリトール1重量部を配合してドライブレンドした。得られた樹脂材料を、シリンダー温度を190℃、ダイ温度を150℃に設定したφ26mmの同方向二軸押出機に投入して押出し、45℃の湯を満たした水槽に通してストランドを固化し、ペレタイザーで裁断することにより、樹脂ペレット1~3を得た。
【0059】
また、上記と同様に得られた樹脂材料を、シリンダー温度及びダイ温度をそれぞれ150℃に設定した前記二軸押出機に投入して押出し、45℃の湯を満たした水槽に通してストランドを固化し、ペレタイザーで裁断することにより、樹脂ペレット4を得た。
各樹脂ペレットの製造条件及び融点特性を表1に示す。
【0060】
【0061】
<実施例1>
環状ダイ(外径3mm)を接続したφ12mmの単軸押出機のシリンダー温度及びダイ温度をそれぞれ145℃に設定し、樹脂ペレット1を投入してチューブ状に押出し、環状ダイから30mm離した位置にある30℃の水槽に通すことで、外径3mm、肉厚0.2mmのチューブを得た。得られたチューブは、外径最大値と外径最小値の差はほぼなく、真円の断面を有していた。評価結果を表2に示す。
【0062】
<実施例2>
加工に用いる樹脂ペレットを樹脂ペレット2に変更した以外は実施例1と同様にしてチューブを得た。得られたチューブの評価結果を表2に示す。
【0063】
<実施例3>
加工に用いる樹脂ペレットを樹脂ペレット3に変更し、シリンダー温度及びダイ温度をそれぞれ140℃に設定した以外は実施例1と同様にしてチューブを得た。得られたチューブの評価結果を表2に示す。
【0064】
<比較例1>
加工に用いる樹脂原料をポリ乳酸(ネイチャーワークス製Ingeo10361D)に変更し、シリンダー温度及びダイ温度をそれぞれ160℃に設定した以外は実施例1と同様にしてチューブを得た。得られたチューブの評価結果を表2に示す。
【0065】
【0066】
実施例1~3のチューブは偏平化しておらず断面が真円であり、しなり性評価は○であることから、割れにくく、ストローとして安全に使用できることが分かる。これに対し、ポリ乳酸で作製した比較例1のチューブはしなり性評価は×で、割れ易いことが分かる。また、実施例1~3のチューブは海水中で生分解するのに対し、比較例1のチューブは海水中で生分解が全く進行しなかったことが分かる。
【0067】
<実施例4>
環状ダイ(外径11mm)を接続したφ40mmの単軸押出機のシリンダー温度及びダイ温度をそれぞれ160℃に設定し、樹脂ペレット3を投入してチューブ状に押出し、環状ダイから50mm離した位置の水槽に通すことで、外径約6mm、肉厚0.5mmのチューブを得た。得られたチューブは、水槽の水圧の影響で若干の偏平があり、この外径でこれ以上の薄肉化は困難だった。評価結果を表2に示す。
【0068】
<比較例2>
単軸押出機のスクリュー回転数を調整し、チューブの肉厚を0.7mmとした以外は実施例4と同様にして外径6.3mmのチューブを得た。得られたチューブの評価結果を表2に示す。
【0069】
<実施例5>
加工に用いる樹脂ペレットを樹脂ペレット4に変更した以外は実施例4と同様にして、外径6mm、肉厚0.3mmのチューブを得た。評価結果を表2に示す。
【0070】
実施例4のチューブは、外径を大きくしたため偏平度が若干大きくなったが、ストローとして使用可能なレベルであった。また、肉厚は0.5mmと比較的厚いが、海水中での生分解性を有していることが分かる。しなり性評価は○であり、ストローとしての使用時に割れにくいことが分かる。一方、比較例2のチューブは、偏平度が低く形状は良好だが、肉厚が0.7mmと厚いため、海水中での生分解性が十分ではなく、また、しなり性評価が×で、割れやすいことが分かる。
【0071】
また、実施例5のチューブは、溶融粘度が高い樹脂を使用することにより、大きい外径で薄肉化しても偏平度を低減できたことが分かる。
【0072】
実施例1~5と比較例2の比較により、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂チューブは肉厚であるほど、海水中での生分解が遅くなることが判る。
【0073】
実施例1~3のチューブに関しては、さらに二次加工性を評価した。その結果を表3に示す。
【0074】
【0075】
使用した樹脂原料の融点ピーク温度と、融点ピークの終了温度の差が10℃未満である実施例1のチューブは、予熱温度130℃では予熱時の形状維持性は良好であるものの予熱後の付型性が悪く、また、予熱温度140℃では予熱後の付型性は良好になったものの、予熱時の形状維持性が悪化した。このことより、実施例1のチューブは、予熱温度130℃及び140℃のいずれでも、予熱時の形状維持性と予熱後の付型性を両立できなかったことが分かる。これに対し、前記温度差が10℃以上の実施例2及び3のチューブは、予熱温度130℃及び140℃のいずれでも、予熱時の形状維持性と予熱後の付型性を両立できており、二次加工性に優れることが分かる。