(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】ひずみゲージ
(51)【国際特許分類】
G01B 7/16 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
G01B7/16 R
(21)【出願番号】P 2021033200
(22)【出願日】2021-03-03
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】P 2020052359
(32)【優先日】2020-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】戸田 慎也
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 真太郎
(72)【発明者】
【氏名】浅川 寿昭
(72)【発明者】
【氏名】相澤 祐汰
【審査官】眞岩 久恵
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-525582(JP,A)
【文献】特開2010-231287(JP,A)
【文献】実公昭39-032019(JP,Y1)
【文献】特開2019-066311(JP,A)
【文献】特開2006-352119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する樹脂製の基材と、
前記基材の一方の側に、クロムとニッケルの少なくとも一方を含む材料から形成された抵抗体と、
前記基材の他方の側に、無機材料から形成された絶縁層と、
前記絶縁層の前記基材とは反対側に積層された導電層と、を有するひずみゲージ。
【請求項2】
前記基材の一方の側に形成された第2導電層と、
前記第2導電層の前記基材とは反対側に積層された、無機材料から形成された第2絶縁層と、を有し、
前記抵抗体は、前記第2絶縁層の前記第2導電層とは反対側に積層されている請求項
1に記載のひずみゲージ。
【請求項3】
前記基材の一方の側に、無機材料から形成された第3絶縁層を有し、
前記第2導電層は、前記第3絶縁層の前記基材とは反対側に積層されている請求項
2に記載のひずみゲージ。
【請求項4】
前記抵抗体の前記基材側に、金属、合金、又は、金属の化合物から形成された機能層が、前記抵抗体に接して形成されている請求項1乃至
3の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項5】
前記抵抗体は、
Cr混相膜から形成されている請求項1乃至
4の何れか一項に記載のひずみゲージ。
【請求項6】
前記Cr混相膜は、Cr、CrN、及びCr
2
Nを含み、
前記
Cr混相膜に含まれるCrN及びCr
2Nは、20重量%以下である請求項
5に記載のひずみゲージ。
【請求項7】
前記CrN及び前記Cr
2N中の前記Cr
2Nの割合は、80%以上90%未満である請求項
6に記載のひずみゲージ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ひずみゲージに関する。
【背景技術】
【0002】
測定対象物に貼り付けて、測定対象物のひずみを検出するひずみゲージが知られている。ひずみゲージは、ひずみを検出する抵抗体を備えており、抵抗体の材料としては、例えば、Cr(クロム)やNi(ニッケル)を含む材料が用いられている。又、抵抗体は、例えば、絶縁樹脂からなる基材上に形成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のひずみゲージでは、抵抗体に重畳されるノイズが比較的大きく、測定精度の低下に繋がっていた。
【0005】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたもので、抵抗体に重畳されるノイズを低減可能なひずみゲージを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本ひずみゲージは、可撓性を有する樹脂製の基材と、前記基材の一方の側に、クロムとニッケルの少なくとも一方を含む材料から形成された抵抗体と、前記基材の他方の側に、無機材料から形成された絶縁層と、前記絶縁層の前記基材とは反対側に積層された導電層と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、抵抗体に重畳されるノイズを低減可能なひずみゲージを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
【
図2】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その1)である。
【
図3】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その2)である。
【
図4】第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図(その3)である。
【
図5】第1実施形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する断面図である。
【
図6】第1実施形態の変形例2に係るひずみゲージを例示する断面図である。
【
図7】第1実施形態の変形例3に係るひずみゲージを例示する断面図である。
【
図8】第1実施形態の変形例4に係るひずみゲージを例示する断面図である。
【
図9】実施例と比較例のノイズ測定の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
【0010】
〈第1実施形態〉
図1は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する平面図である。
図2は、第1実施形態に係るひずみゲージを例示する断面図であり、
図1のA-A線に沿う断面を示している。
図1及び
図2を参照すると、ひずみゲージ1は、基材10と、抵抗体30と、端子部41と、導電層50とを有している。
【0011】
なお、本実施形態では、便宜上、ひずみゲージ1において、基材10の抵抗体30が設けられている側を上側又は一方の側、抵抗体30が設けられていない側を下側又は他方の側とする。又、各部位の抵抗体30が設けられている側の面を一方の面又は上面、抵抗体30が設けられていない側の面を他方の面又は下面とする。但し、ひずみゲージ1は天地逆の状態で用いることができ、又は任意の角度で配置できる。又、平面視とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視ることを指し、平面形状とは対象物を基材10の上面10aの法線方向から視た形状を指すものとする。
【0012】
基材10は、抵抗体30等を形成するためのベース層となる部材であり、可撓性を有する。基材10の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、5μm~500μm程度とすることができる。特に、基材10の厚さが5μm~200μmであると、接着層等を介して基材10の下面に接合される起歪体表面からの歪の伝達性、環境に対する寸法安定性の点で好ましく、10μm以上であると絶縁性の点で更に好ましい。
【0013】
基材10は、例えば、PI(ポリイミド)樹脂、エポキシ樹脂、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂、PEN(ポリエチレンナフタレート)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PPS(ポリフェニレンサルファイド)樹脂、LCP(液晶ポリマー)樹脂、ポリオレフィン樹脂等の絶縁樹脂フィルムから形成できる。なお、フィルムとは、厚さが500μm以下程度であり、可撓性を有する部材を指す。
【0014】
ここで、『絶縁樹脂フィルムから形成する』とは、基材10が絶縁樹脂フィルム中にフィラーや不純物等を含有することを妨げるものではない。基材10は、例えば、シリカやアルミナ等のフィラーを含有する絶縁樹脂フィルムから形成しても構わない。
【0015】
抵抗体30は、基材10上に所定のパターンで形成された薄膜であり、ひずみを受けて抵抗変化を生じる受感部である。抵抗体30は、基材10の上面10aに直接形成されてもよいし、基材10の上面10aに他の層を介して形成されてもよい。なお、
図1では、便宜上、抵抗体30を梨地模様で示している。
【0016】
抵抗体30は、例えば、Cr(クロム)を含む材料、Ni(ニッケル)を含む材料、又はCrとNiの両方を含む材料から形成できる。すなわち、抵抗体30は、CrとNiの少なくとも一方を含む材料から形成できる。Crを含む材料としては、例えば、Cr混相膜が挙げられる。Niを含む材料としては、例えば、Cu-Ni(銅ニッケル)が挙げられる。CrとNiの両方を含む材料としては、例えば、Ni-Cr(ニッケルクロム)が挙げられる。
【0017】
ここで、Cr混相膜とは、Cr、CrN、Cr2N等が混相した膜である。Cr混相膜は、酸化クロム等の不可避不純物を含んでもよい。
【0018】
抵抗体30の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、0.05μm~2μm程度とすることができる。特に、抵抗体30の厚さが0.1μm以上であると抵抗体30を構成する結晶の結晶性(例えば、α-Crの結晶性)が向上する点で好ましく、1μm以下であると抵抗体30を構成する膜の内部応力に起因する膜のクラックや基材10からの反りを低減できる点で更に好ましい。
【0019】
機能層20上に抵抗体30を形成することで、安定な結晶相により抵抗体30を形成できるため、ゲージ特性(ゲージ率、ゲージ率温度係数TCS、及び抵抗温度係数TCR)の安定性を向上できる。
【0020】
例えば、抵抗体30がCr混相膜である場合、機能層20を設けることで、α-Cr(アルファクロム)を主成分とする抵抗体30を形成できる。α-Crは安定な結晶相であるため、ゲージ特性の安定性を向上できる。ここで、主成分とは、対象物質が抵抗体を構成する全物質の50質量%以上を占めることを意味する。抵抗体30がCr混相膜である場合、ゲージ特性を向上する観点から、抵抗体30はα-Crを80重量%以上含むことが好ましく、90重量%以上含むことが更に好ましい。なお、α-Crは、bcc構造(体心立方格子構造)のCrである。
【0021】
又、抵抗体30がCr混相膜である場合、Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nは20重量%以下であることが好ましい。Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nが20重量%以下であることで、ゲージ率の低下を抑制できる。
【0022】
又、CrN及びCr2N中のCr2Nの割合は80%以上90%未満であることが好ましく、90%以上95%未満であることが更に好ましい。CrN及びCr2N中のCr2Nの割合が90%以上95%未満であることで、半導体的な性質を有するCr2Nにより、TCRの低下(負のTCR)が一層顕著となる。更に、セラミックス化を低減することで、脆性破壊の低減がなされる。
【0023】
一方で、膜中に微量のN2もしくは原子状のNが混入、存在した場合、外的環境(例えば高温環境下)によりそれらが膜外へ抜け出ることで、膜応力の変化を生ずる。化学的に安定なCrNの創出により上記不安定なNを発生させることがなく、安定なひずみゲージを得ることができる。
【0024】
端子部41は、抵抗体30の両端部から延在しており、平面視において、抵抗体30よりも拡幅して略矩形状に形成されている。端子部41は、ひずみにより生じる抵抗体30の抵抗値の変化を外部に出力するための一対の電極であり、例えば、外部接続用のリード線等が接合される。抵抗体30は、例えば、端子部41の一方からジグザグに折り返しながら延在して他方の端子部41に接続されている。端子部41の上面を、端子部41よりもはんだ付け性が良好な金属で被覆してもよい。なお、抵抗体30と端子部41とは便宜上別符号としているが、両者は同一工程において同一材料により一体に形成できる。
【0025】
導電層50は、基材10の下面10bに形成されている。導電層50は、抵抗体に重畳されるノイズを低減するために形成される層であり、基材10よりも電気伝導率が高い材料から形成される。基材10の下面10bに導電層50を形成して抵抗体に重畳されるノイズを低減することで、ひずみゲージ1の測定精度の低下を抑制できる。
【0026】
基材10の下面10bに導電層50を形成することで、例えば、静電気などのノイズが出やすい環境(例えば、低湿度)での測定において、TCR値やひずみ印加時の出力電圧のバラつきが小さくなる等の効果が得られる。特に、Cr混相膜を用いたゲージ率が10以上の高感度なひずみゲージは、感度が高いためにモータなどの測定対象物から発生した静電気の影響を受けやすく、基材への静電気の蓄積により、出力電圧に測定誤差やばらつきが生じやすい。そのため、Cr混相膜を用いたゲージ率が10以上の高感度なひずみゲージにおいて、導電層50を形成する効果が特に顕著である。
【0027】
なお、導電層50は、基準電位(GND)と電気的に接続されることが好ましい。或いは、ひずみゲージ1を起歪体に貼り付ける際に、導電層50が起歪体と同電位になるようにしてもよい。何れの場合もノイズ低減に有利である。
【0028】
導電層50は、例えば、金属、合金、金属及び/又は合金を積層した積層膜、から形成できる。より具体的には、導電層50の材料としては、例えば、Cu、Ni、Al、Ag、Au、Pt、Pd、Sn、Cr等、これら何れかの金属の合金、又は、これら何れかの金属や合金を適宜積層した積層膜が挙げられる。導電層50の材料として、抵抗体30と同じ材料(例えば、Cr混相膜)を用いてもよい。
【0029】
或いは、導電性を有する材料であれば、導電層50の材料として、錫ドープ酸化インジウム(ITO)、フッ素ドープ酸化錫(FTO)、アンチモンドープ酸化錫(ATO)等の酸化膜や、導電性フィラーを含有する樹脂膜等を用いてもよい。
【0030】
導電層50の厚さは、例えば、0.1μm以上5μm以下とすることができる。導電層50の厚さを0.1μm以上とすることで、十分なノイズ低減効果が得られる。導電層50の厚さを5μm以下とすることで、導電層50にクラックが入ることなく容易に成膜できる。
【0031】
又、基材10の下面10bに導電層50を形成することで、基材10の帯電を防止する効果や、ひずみゲージ1の熱分布を均一化する効果、基材10の吸水を防止する効果が得られる。
【0032】
例えば、基材10となる絶縁樹脂フィルムをロールから巻き出し、所定の処理を施す工程が行われる場合がある。この場合、導電層50が形成されていないと、絶縁樹脂フィルムをロールから巻き出す際に、絶縁樹脂フィルムの巻内と巻外が剥がれて静電気が発生し、絶縁樹脂フィルムの表面が帯電する。この絶縁樹脂フィルムの表面の帯電により絶縁樹脂フィルムの表面にコンタミが付着し、歩留まりが低下する。基材10の下面10bに導電層50を形成することで、基材10の帯電を防止可能となり、基材10の表面へのコンタミの付着を抑制できる。なお、基材10の上面10a側は、抵抗体30により帯電が防止される。
【0033】
導電層50のシート抵抗は、104[Ω/□]以下では帯電しなくなり、108~104[Ω/□]では帯電しにくくなり、1011~108[Ω/□]では帯電はするが帯電を減衰できる。帯電防止の効果を得る場合には、これらの点を考慮し、取り扱う環境等によって、導電層50のシート抵抗を適宜選択することが好ましい。なお、シート抵抗は、導電層50の膜厚を変えることで調整できる。
【0034】
抵抗体30を被覆し端子部41を露出するように基材10の上面10aにカバー層60(絶縁樹脂層)を設けても構わない。カバー層60を設けることで、抵抗体30に機械的な損傷等が生じることを防止できる。又、カバー層60を設けることで、抵抗体30を湿気等から保護できる。なお、カバー層60は、端子部41を除く部分の全体を覆うように設けてもよい。
【0035】
カバー層60は、例えば、PI樹脂、エポキシ樹脂、PEEK樹脂、PEN樹脂、PET樹脂、PPS樹脂、複合樹脂(例えば、シリコーン樹脂、ポリオレフィン樹脂)等の絶縁樹脂から形成できる。カバー層60は、フィラーや顔料を含有しても構わない。カバー層60の厚さは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、2μm~30μm程度とすることができる。
【0036】
ひずみゲージ1を製造するためには、まず、基材10を準備し、基材10の下面10bに導電層50を形成する。導電層50の材料や厚さは、前述の通りである。導電層50は、例えば、圧延箔のラミネートにより、基材10の下面10bに形成できる。導電層50は、スパッタ法やめっき法等により、基材10の下面10bに形成してもよい。このように、最初に基材10の下面10bに導電層50を形成することで、後工程でロールを用いる場合があっても、基材10の帯電を防止可能となり、基材10の表面へのコンタミの付着を抑制できる。
【0037】
次に、基材10の上面10aに
図1に示す平面形状の抵抗体30及び端子部41を形成する。抵抗体30及び端子部41の材料や厚さは、前述の通りである。抵抗体30と端子部41とは、同一材料により一体に形成できる。
【0038】
抵抗体30及び端子部41は、例えば、抵抗体30及び端子部41を形成可能な原料をターゲットとしたマグネトロンスパッタ法により成膜し、フォトリソグラフィによってパターニングすることで形成できる。抵抗体30及び端子部41は、マグネトロンスパッタ法に代えて、反応性スパッタ法や蒸着法、アークイオンプレーティング法、パルスレーザー堆積法等を用いて成膜してもよい。
【0039】
ゲージ特性を安定化する観点から、抵抗体30及び端子部41を成膜する前に、下地層として、基材10の上面10aに、例えば、コンベンショナルスパッタ法により膜厚が1nm~100nm程度の機能層を真空成膜することが好ましい。なお、機能層は、機能層の上面全体に抵抗体30及び端子部41を形成後、フォトリソグラフィによって抵抗体30及び端子部41と共に
図1に示す平面形状にパターニングされる。
【0040】
本願において、機能層とは、少なくとも上層である抵抗体30の結晶成長を促進する機能を有する層を指す。機能層は、更に、基材10に含まれる酸素や水分による抵抗体30の酸化を防止する機能や、基材10と抵抗体30との密着性を向上する機能を備えていることが好ましい。機能層は、更に、他の機能を備えていてもよい。
【0041】
基材10を構成する絶縁樹脂フィルムは酸素や水分を含むため、特に抵抗体30がCrを含む場合、Crは自己酸化膜を形成するため、機能層が抵抗体30の酸化を防止する機能を備えることは有効である。
【0042】
機能層の材料は、少なくとも上層である抵抗体30の結晶成長を促進する機能を有する材料であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、Cr(クロム)、Ti(チタン)、V(バナジウム)、Nb(ニオブ)、Ta(タンタル)、Ni(ニッケル)、Y(イットリウム)、Zr(ジルコニウム)、Hf(ハフニウム)、Si(シリコン)、C(炭素)、Zn(亜鉛)、Cu(銅)、Bi(ビスマス)、Fe(鉄)、Mo(モリブデン)、W(タングステン)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Re(レニウム)、Os(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、Au(金)、Co(コバルト)、Mn(マンガン)、Al(アルミニウム)からなる群から選択される1種又は複数種の金属、この群の何れかの金属の合金、又は、この群の何れかの金属の化合物が挙げられる。
【0043】
上記の合金としては、例えば、FeCr、TiAl、FeNi、NiCr、CrCu等が挙げられる。又、上記の化合物としては、例えば、TiN、TaN、Si3N4、TiO2、Ta2O5、SiO2、Cr2O3、CrN、Cr2N等が挙げられる。
【0044】
上記の金属や金属の化合物等の中でも、特に、Cr2O3、CrN、Cr2N、Ti、TiO2、Ta2O5、NiCr、Ni、SiO2、Si3N4を用いることが好ましい。これらの材料を用いると、抵抗体30の結晶成長を均一に促進する効果が得られるからである。
【0045】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/5以下であることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを防止できる。
【0046】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/10以下であることがより好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを更に防止できる。
【0047】
機能層が金属又は合金のような導電材料から形成される場合には、機能層の膜厚は抵抗体の膜厚の1/100以下であることが更に好ましい。このような範囲であると、抵抗体に流れる電流の一部が機能層に流れて、ひずみの検出感度が低下することを一層防止できる。
【0048】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~1μmとすることが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく容易に成膜できる。
【0049】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~0.8μmとすることよりが好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層にクラックが入ることなく更に容易に成膜できる。
【0050】
機能層が酸化物や窒化物のような絶縁材料から形成される場合には、機能層の膜厚は、1nm~0.5μmとすることが更に好ましい。このような範囲であると、α-Crの結晶成長を促進できると共に、機能層クラックが入ることなく一層容易に成膜できる。
【0051】
なお、機能層の平面形状は、例えば、
図1に示す抵抗体の平面形状と略同一にパターニングされている。しかし、機能層の平面形状は、抵抗体の平面形状と略同一である場合には限定されない。機能層が絶縁材料から形成される場合には、抵抗体の平面形状と同一形状にパターニングしなくてもよい。この場合、機能層は少なくとも抵抗体が形成されている領域にベタ状に形成されてもよい。或いは、機能層は、基材10の上面全体にベタ状に形成されてもよい。
【0052】
又、機能層が絶縁材料から形成される場合に、機能層の厚さを0.05μm以上1μm以下となるように比較的厚く形成し、かつベタ状に形成することで、機能層の厚さと表面積が増加するため、抵抗体が発熱した際の熱を基材10側へ放熱できる。その結果、ひずみゲージ1において、抵抗体の自己発熱による測定精度の低下を抑制できる。
【0053】
機能層は、例えば、機能層を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にAr(アルゴン)ガスを導入したコンベンショナルスパッタ法により真空成膜できる。コンベンショナルスパッタ法を用いることにより、基材10の上面10aをArでエッチングしながら機能層が成膜されるため、機能層の成膜量を最小限にして密着性改善効果を得ることができる。
【0054】
但し、これは、機能層の成膜方法の一例であり、他の方法により機能層を成膜してもよい。例えば、機能層の成膜の前にAr等を用いたプラズマ処理等により基材10の上面10aを活性化することで密着性改善効果を獲得し、その後マグネトロンスパッタ法により機能層を真空成膜する方法を用いてもよい。
【0055】
機能層の材料と抵抗体30及び端子部41の材料との組み合わせは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、機能層としてTiを用い、抵抗体30及び端子部41としてα-Cr(アルファクロム)を主成分とするCr混相膜を成膜可能である。
【0056】
この場合、例えば、Cr混相膜を形成可能な原料をターゲットとし、チャンバ内にArガスを導入したマグネトロンスパッタ法により、抵抗体30及び端子部41を成膜できる。或いは、純Crをターゲットとし、チャンバ内にArガスと共に適量の窒素ガスを導入し、反応性スパッタ法により、抵抗体30及び端子部41を成膜してもよい。この際、窒素ガスの導入量や圧力(窒素分圧)を変えることや加熱工程を設けて加熱温度を調整することで、Cr混相膜に含まれるCrN及びCr2Nの割合、並びにCrN及びCr2N中のCr2Nの割合を調整できる。
【0057】
これらの方法では、Tiからなる機能層がきっかけでCr混相膜の成長面が規定され、安定な結晶構造であるα-Crを主成分とするCr混相膜を成膜できる。又、機能層を構成するTiがCr混相膜中に拡散することにより、ゲージ特性が向上する。例えば、ひずみゲージ1のゲージ率を10以上、かつゲージ率温度係数TCS及び抵抗温度係数TCRを-1000ppm/℃~+1000ppm/℃の範囲内とすることができる。なお、機能層がTiから形成されている場合、Cr混相膜にTiやTiN(窒化チタン)が含まれる場合がある。
【0058】
なお、抵抗体30がCr混相膜である場合、Tiからなる機能層は、抵抗体30の結晶成長を促進する機能、基材10に含まれる酸素や水分による抵抗体30の酸化を防止する機能、及び基材10と抵抗体30との密着性を向上する機能の全てを備えている。機能層として、Tiに代えてTa、Si、Al、Feを用いた場合も同様である。
【0059】
このように、抵抗体30の下層に機能層を設けることにより、抵抗体30の結晶成長を促進可能となり、安定な結晶相からなる抵抗体30を作製できる。その結果、ひずみゲージ1において、ゲージ特性の安定性を向上できる。又、機能層を構成する材料が抵抗体30に拡散することにより、ひずみゲージ1において、ゲージ特性を向上できる。
【0060】
抵抗体30及び端子部41を形成後、必要に応じ、基材10の上面10aに、抵抗体30を被覆し端子部41を露出するカバー層60を設けることで、ひずみゲージ1が完成する。カバー層60は、例えば、基材10の上面10aに、抵抗体30を被覆し端子部41を露出するように半硬化状態の熱硬化性の絶縁樹脂フィルムをラミネートし、加熱して硬化させて作製できる。カバー層60は、基材10の上面10aに、抵抗体30を被覆し端子部41を露出するように液状又はペースト状の熱硬化性の絶縁樹脂を塗布し、加熱して硬化させて作製してもよい。
【0061】
なお、抵抗体30及び端子部41の下地層として基材10の上面10aに機能層を設けた場合には、ひずみゲージ1は
図3に示す断面形状となる。符号20で示す層が機能層である。機能層20を設けた場合のひずみゲージ1の平面形状は、
図1と同様である。
【0062】
又、
図4に示すように、基材10の上面10aに機能層20を設け、基材10の下面10bに機能層21を設けてもよい。この場合、機能層20と機能層21とが同一材料から同一厚さに形成され、抵抗体30及び端子部41と導電層50とが同一材料から同一厚さに形成されてもよい。このような構造とすることで、基材10に対して上下の層構造が略対称となるため、ひずみゲージ1の反りを低減できる。
【0063】
なお、ここでいう同一厚さは、設計上の同一厚さであり、製造バラツキ程度に厚さが異なる場合も含むものとする。このような場合も、ひずみゲージ1の反りを低減する効果が得られる。
【0064】
〈第1実施形態の変形例1〉
第1実施形態の変形例1では、第1実施形態とは層構造が異なるひずみゲージの例を示す。なお、第1実施形態の変形例1において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0065】
図5は、第1実施形態の変形例1に係るひずみゲージを例示する断面図である。
図5を参照すると、ひずみゲージ1Aは、基材10の下面10b側に無機材料から形成された絶縁層70を有し、導電層50が絶縁層70の基材10とは反対側に積層されている点が、ひずみゲージ1(
図1、
図2等参照)と相違する。
【0066】
絶縁層70は、基材10の下面10bに直接形成されている。絶縁層70の材料としては、例えば、Cu、Cr、Ni、Al、Fe、W、Ti、Ta等の金属やそれらを含む合金の酸化物や窒化物、窒酸化物が挙げられる。絶縁層70の材料として、Si、Ge等の半導体の酸化物や窒化物、窒酸化物を用いてもよい。絶縁層70の厚さは、例えば、0.01μm~2μm程度とすることができる。
【0067】
絶縁層70の形成方法は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、スパッタ法、めっき法、化学気相蒸着(CVD)法等の真空プロセスや、スピンコート法やゾルゲル法等の溶液プロセスが挙げられる。
【0068】
絶縁層70を形成することで、抵抗体30に電流が流れて発熱し、基材10に伝わった熱を導電層50に効率よく伝え、導電層50から放熱できる。その結果、ひずみゲージにおいて、抵抗体30の自己発熱による測定精度の低下を抑制できる。
【0069】
〈第1実施形態の変形例2〉
第1実施形態の変形例2では、第1実施形態とは層構造が異なるひずみゲージの他の例を示す。なお、第1実施形態の変形例2において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0070】
図6は、第1実施形態の変形例2に係るひずみゲージを例示する断面図である。
図6を参照すると、ひずみゲージ1Bは、基材10の両面に導電層が形成された点が、ひずみゲージ1(
図1、
図2等参照)と相違する。
【0071】
ひずみゲージ1Bは、基材10の下面10bに形成された導電層50と、基材10の上面10aに形成された導電層51と、導電層51の基材10とは反対側に積層された絶縁層71とを有している。そして、抵抗体30及び端子部41は、絶縁層71の導電層51とは反対側に積層されている。
【0072】
導電層51の材料や厚さは、第1実施形態において導電層50について例示した材料や厚さの範囲から適宜選択できる。但し、導電層51の材料や厚さは、導電層50の材料や厚さと同一であってもよいし、異なっていてもよい。絶縁層71の材料や厚さは、第1実施形態の変形例1において絶縁層70について例示した材料や厚さの範囲から適宜選択できる。
【0073】
このように、基材10の両面に導電層が形成されてもよい。これにより、端子部41間に発生するノイズを低減する効果、基材10の帯電を防止する効果、ひずみゲージ1Bの熱分布を均一化する効果、及び基材10の吸水を防止する効果を基材10の片面に導電層が設けられている場合よりも向上できる。
【0074】
なお、ひずみゲージ1Bにおいて、基材10の下面10bと導電層50の上面との間にひずみゲージ1Aと同様に絶縁層70を形成してもよい。
【0075】
〈第1実施形態の変形例3〉
第1実施形態の変形例3では、第1実施形態とは層構造が異なるひずみゲージの更に他の例を示す。なお、第1実施形態の変形例3において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0076】
図7は、第1実施形態の変形例3に係るひずみゲージを例示する断面図である。
図7を参照すると、ひずみゲージ1Cは、基材10の上面10aに形成された絶縁層72を有し、導電層51が絶縁層72の基材10とは反対側に積層された点が、ひずみゲージ1B(
図6参照)と相違する。又、ひずみゲージ1Cは、基材10の下面10bに絶縁層70を有し、導電層50が絶縁層70の基材10とは反対側に積層された点が、ひずみゲージ1B(
図6参照)と相違する。
【0077】
絶縁層72の材料や厚さは、第1実施形態の変形例1において絶縁層70について例示した材料や厚さの範囲から適宜選択できる。但し、絶縁層70、71、及び72の各々の材料や厚さは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0078】
このように、基材10の両面に絶縁層が形成されてもよい。これにより、基材の形状安定性向上の効果が得られる。
【0079】
〈第1実施形態の変形例4〉
第1実施形態の変形例4では、第1実施形態とは層構造が異なるひずみゲージの更に他の例を示す。なお、第1実施形態の変形例4において、既に説明した実施形態と同一構成部についての説明は省略する場合がある。
【0080】
図8は、第1実施形態の変形例4に係るひずみゲージを例示する断面図である。
図8を参照すると、ひずみゲージ1Dは、絶縁層73が、導電層50の基材10とは反対側に積層された点が、ひずみゲージ1B(
図6参照)と相違する。
【0081】
絶縁層73の材料や厚さは、第1実施形態の変形例1において絶縁層70について例示した材料や厚さの範囲から適宜選択できる。但し、絶縁層71及び73の各々の材料や厚さは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0082】
例えば、導電層50及び51を同一の金属から形成し、絶縁層71及び73を導電層50及び51を構成する金属の酸化物から形成してもよい。具体的には、例えば、導電層50及び51をAlで形成し、絶縁層71及び73をAlの酸化物から形成してもよい。この場合には、基材10の上面10aにAlからなる導電層51を形成し、基材10の下面10bにAlからなる導電層50を形成した後、熱処理することで、導電層51の上面側にAl2O3からなる絶縁層71を、導電層50の下面側にAl2O3からなる絶縁層73を形成できる。導電層50及び51が同一材料であるから、熱処理により形成された絶縁層71と絶縁層73とは同一厚さになる。
【0083】
例えば、導電層50及び51をAlで同一厚さに形成した場合には、導電層51と絶縁層71を合わせた厚さと、導電層50と絶縁層73を合わせた厚さとが同一となり、基材10に対して上下の層構造が略対称となるため、ひずみゲージ1Dの反りを低減できる。
【0084】
なお、導電層50及び51は、圧延箔のラミネートにより形成してもよいし、スパッタ法やめっき法等により形成してもよいが、Alを用いる場合は、圧延よりもスパッタ法やめっき法等により形成した薄膜の方が好ましい。Alを圧延する場合には異方性を持つため、Cr混相膜を用いた高感度なひずみゲージではゲージ特性が不安定になる。これに対して、薄膜で形成したAlでは等方性が増すため、縦横の応力が緩和され、サンプル間のゲージ特性のバラつきが小さくなり歩留まりが改善する。
【0085】
[実施例1]
まず、
図1に示すひずみゲージ1を用い、フルブリッジ回路を作製した。基材10としては厚さが約25μmのポリイミド膜を用い、抵抗体30としては厚さが約0.2μmのCr混相膜を用い、導電層50としては厚さが約0.5μmのAl膜を用いた。カバー層60は形成していない。
【0086】
又、比較例として、
図1に示すひずみゲージ1から導電層50を削除したひずみゲージを作製した(便宜上、ひずみゲージ1Xとする)。ひずみゲージ1Xにおいて、基材10と抵抗体30の材料及び厚さは、上記のひずみゲージ1と同様とした。
【0087】
次に、ひずみゲージ1及び1Xについて、測定器として定電圧源と電圧計を用い、ブリッジ回路の出力端子の端子部のノイズ測定を行った。
【0088】
ノイズ測定の結果を
図9に示す。
図9(a)はひずみゲージ1Xの測定結果であり、
図9(b)はひずみゲージ1の測定結果である。
図9より、導電層50が形成されたひずみゲージ1では、導電層50が形成されていないひずみゲージ1Xに対して、ノイズのピークレベルが大幅に低減されることが確認できた。
【0089】
以上、好ましい実施形態等について詳説したが、上述した実施形態等に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施形態等に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0090】
例えば、ひずみゲージ1A、1B、及び1Cにおいて、機能層20や21を設けても構わない。
【符号の説明】
【0091】
1、1A、1B、1C、1D ひずみゲージ、10 基材、10a 上面、10b 下面、20、21 機能層、30 抵抗体、41 端子部、50、51 導電層、60 カバー層、70、71、72、73 絶縁層