(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】燃料組成物
(51)【国際特許分類】
C10L 1/195 20060101AFI20231220BHJP
C10L 10/08 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
C10L1/195
C10L10/08
(21)【出願番号】P 2021518776
(86)(22)【出願日】2019-10-03
(86)【国際出願番号】 EP2019076818
(87)【国際公開番号】W WO2020070246
(87)【国際公開日】2020-04-09
【審査請求日】2022-09-26
(32)【優先日】2018-10-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023685
【氏名又は名称】シエル・インターナシヨネイル・リサーチ・マーチヤツピイ・ベー・ウイ
【氏名又は名称原語表記】SHELL INTERNATIONALE RESEARCH MAATSCHAPPIJ BESLOTEN VENNOOTSHAP
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【氏名又は名称】新井 規之
(74)【代理人】
【識別番号】100220098
【氏名又は名称】宮脇 薫
(72)【発明者】
【氏名】スミス,アラステア・グラハム
(72)【発明者】
【氏名】グリフィス,クレア
(72)【発明者】
【氏名】サウスビー,マーク・クリフト
(72)【発明者】
【氏名】ベラ,トゥーシャー
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-515550(JP,A)
【文献】特表2013-544942(JP,A)
【文献】特表2013-545856(JP,A)
【文献】特表2015-513603(JP,A)
【文献】特表2014-505758(JP,A)
【文献】特開2013-129835(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00-1/32、10/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車燃料組成物の潤滑性を向上させる目的のための、自動車燃料組成物における粘度指数(VI)向上添加剤の使用であって、前記粘度指数(VI)向上添加剤は、
以下の式によって特徴付けられる星型ポリイソプレン系ポリマー
である、使用:
(D’-PA-D’’)n-X;
式中、D’は少なくとも1つのジエンに誘導されたブロックを表し、PAはモノアルケニルアレーンから誘導されたブロックを表し、D’’はジエンから誘導されたブロックを表し、nはアーム1モル当たり2モル以上のポリアルケニルカップリング剤の反応によって形成される星型ポリマー当たりのアームの平均数を表し、Xはポリアルケニルカップリング剤の核を表し、
ジエンブロックD’およびD’’の少なくとも1つは、混合ジエンモノマーから誘導されるコポリマーブロックであり、組み込まれるモノマー単位の65重量%~95重量%がイソプレンから、および組み込まれるモノマー単位の5重量%~35重量%がブタジエンからのものであり、少なくとも80重量%のブタジエンが1,4-配置で組み込まれ、
D’は、10,000~120,000ダルトンの数平均分子量を有し、PAは10,000~50,000ダルトンの数平均分子量を有し、D’’は、5000~60,000ダルトンの数平均分子量を有する。
【請求項2】
粘度指数(VI)向上添加剤を含有する自動車燃料組成物が導入されるかもしく導入されることが意図される内燃機関、またはかかるエンジンによって動力が供給される車両の出力を向上させると同時に、
自動車燃料組成物の潤滑性を向上させる目的のための、自動車燃料組成物における粘度指数(VI)向上添加剤の使用であって
、前記粘度指数(VI)向上添加剤は、
以下の式によって特徴付けられる星型のポリイソプレン系ポリマーである、
使用:
(D’-PA-D’’)n-X;
式中、D’は少なくとも1つのジエンに誘導されたブロックを表し、PAはモノアルケニルアレーンから誘導されたブロックを表し、D’’はジエンから誘導されたブロックを表し、nはアーム1モル当たり2モル以上のポリアルケニルカップリング剤の反応によって形成される星型ポリマー当たりのアームの平均数を表し、Xはポリアルケニルカップリング剤の核を表し、
ジエンブロックD’およびD’’の少なくとも1つは、混合ジエンモノマーから誘導されるコポリマーブロックであり、組み込まれるモノマー単位の65重量%~95重量%がイソプレンから、および組み込まれるモノマー単位の5重量%~35重量%がブタジエンからのものであり、少なくとも80重量%のブタジエンが1,4-配置で組み込まれ、
D’は、10,000~120,000ダルトンの数平均分子量を有し、PAは10,000~50,000ダルトンの数平均分子量を有し、D’’は、5000~60,000ダルトンの数平均分子量を有する。
【請求項3】
前記自動車燃料組成物中のVI向上添加剤の濃度は、0.001~0.5%w/wである、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記自動車燃料組成物中のVI向上添加剤の濃度は、0.05~0.25%w/wである、請求項1又は2に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車燃料組成物、特に粘度指数向上剤(VII)成分を含む自動車燃料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
粘度指数(VI)は、温度に対する流体の粘度変化を測定するために一般的に使用される方法である。VIが高いほど、温度による粘度の相対的な変化は小さくなる。VI向上剤(粘度調整剤とも呼ばれる)は、流体の粘度を、その有用な温度範囲にわたって増加させる添加剤である。
【0003】
加速性能を向上させるために、燃料組成物に増粘成分を使用することが知られている。WO2009/118302号は、燃料組成物が導入されるかまたは導入されることが意図される内燃機関、またはかかるエンジンによって動力が供給される車両の加速性能を向上させる目的で、自動車燃料組成物における粘度指数(VI)向上添加剤の使用を記載している。
【0004】
車両エンジンに導入される燃料の組成および/または特性を変更することによって、車両エンジンの性能をさらに向上させることができることが望ましく、これは、エンジン自体に構造的または動作的な変更を行うよりも、性能最適化へのより単純で、柔軟で、費用効果の高い経路を提供することが期待され得るためである。
【0005】
特に、動力および/または加速特性の向上をもたらす新規な粘度指数(VI)向上添加剤を同定することと同様に、燃料組成物の1つ以上の他の態様、例えば、摩擦調整特性、潤滑性、エンジン清浄性、低温性能およびポンプ圧送性などを向上させることが望ましいであろう。
【0006】
US2013/0165362号には、潤滑油組成物用の粘度指数向上剤としての使用に好適な特定の線状および星型ポリマーが開示されている。しかしながら、燃料組成物におけるかかるポリマーの使用について、US2013/0165362号では開示されていない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、ベース燃料および粘度指数向上剤を含む燃料組成物が提供され、この粘度指数向上剤は、星型のポリイソプレン系ポリマーを含む。
【0008】
本発明の第2の態様によれば、向上した潤滑性を提供するための燃料組成物における粘度指数向上剤の使用が提供され、この粘度指数向上剤は、星型ポリイソプレン系ポリマーを含む。
【0009】
本発明のさらなる態様によれば、向上した出力および/または加速特性を提供するための燃料組成物における粘度指数向上剤の使用が提供され、この粘度指数向上剤は、星型ポリイソプレン系ポリマーである。
【0010】
驚くべきことに、本明細書に記載される粘度指数向上剤は、向上した潤滑性を提供するために、ならびに向上した出力および/または加速特性を提供するために、燃料組成物において使用され得ることが見出された。
【0011】
したがって、本発明のさらに別の態様によれば、粘度指数(VI)向上添加剤、または粘度指数(VI)向上添加剤を含有する燃料組成物が導入されるかまたは導入されることが意図される内燃機関またはかかるエンジンによって動力が供給される車両の出力および/または加速性能を向上させると同時に、燃料組成物の潤滑性を向上させる目的で、燃料組成物における粘度指数(VI)向上添加剤の使用が提供され、この粘度指数(VI)向上添加剤は、ポリイソプレン系星型ポリマーである。
【0012】
また、本明細書の燃料組成物に使用される粘度指数向上剤は、向上した摩擦調整特性、向上した濾過特性、向上した粘度特性、向上した低温性能、向上したポンプ圧送性、特に低温での改良されたポンプ圧送性、およびエンジン汚れが増加しないこと、のうちの1つ以上を提供することができることが見出された。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書で使用される場合、「粘度指数(VI)向上剤」という用語は、その有用な温度範囲全体にわたって燃料の粘度を増加させる添加剤を意味する。粘度指数向上剤は、粘度調整剤としても知られている。
【0014】
本明細書に記載の燃料組成物は、好ましくはディーゼル燃料組成物であり、本明細書に記載の内燃機関は、好ましくはディーゼルエンジンである。
【0015】
「ディーゼルエンジン」とは、ディーゼル燃料で作動するように適合された圧縮点火内燃機関を意味する。
【0016】
エンジンの出力および/または加速特性を向上させるために本発明を使用することに加えて、本発明は、燃料組成物の潤滑性を向上させるのに使用することができる。本明細書で使用される場合、燃料に関する「潤滑性」という用語は、内燃機関の摩擦および/または摩耗を低減するための燃料の能力を意味する。
【0017】
潤滑性能は、エンジンの摩耗を測定することで評価され得る。エンジンの摩耗は、任意の好適な方法で測定され得る。エンジンの摩耗を測定するのに好適な方法は、HFRR(高摩擦往復動リグ)試験ISO12156である。本発明の文脈において、潤滑性能の「向上」は、任意の程度の向上を包含する。同様に、測定されたパラメータの減少または増加(例えば、燃料組成物によって提供されるエンジン摩耗の減少)は、場合によっては、任意の程度の減少または増加を包含する。場合によっては、向上、減少、または増加は、粘度指数(VI)向上添加剤を組み込む前の燃料組成物を使用する場合の関連するパラメータと比較され得る。これは、燃料組成物に粘度指数(VI)向上添加剤を加える前に、内燃(典型的にはディーゼル)機関で使用することが意図されている(例えば市販されている)他の類似の燃料組成物で同じエンジンを作動した場合に測定される関連パラメータと比較したものであってよい。
【0018】
本発明は、例えば、粘度指数(VI)向上添加剤によって燃料組成物の特性および/または性能および/または効果、特に燃料組成物の潤滑性能に対するその効果を、所望の目標を満たすために調整することを含み得る。
【0019】
潤滑性能の向上は、別の原因、特に燃料組成物に含まれる別の燃料成分または添加剤による潤滑性能の低下において、少なくともある程度の緩和をも包含し得る。
【0020】
潤滑性能の向上は、ディーゼルおよびディーゼル成分の脱硫、水素化処理または水素化分解などの別の理由で低下した潤滑性能の少なくとも部分的な回復をも包含し得る。
【0021】
「加速性能」は、一般的に、増加したスロットルに対するエンジンの応答性、例えば、任意の所与のエンジン速度から加速する速度を含む。これには、任意の所与の速度でエンジンによって生成される出力および/またはトルクおよび/または車両牽引力(VTE)のレベルが含まれる。したがって、加速性能の向上は、任意の所与の速度でのエンジン出力および/またはトルクおよび/またはVTEの増加によって明らかになり得る。
【0022】
エンジントルクは、試験対象のエンジンによって動力が供給される車両の車輪によってダイナモメータに加えられる力から導き出し得る。好適に特殊化された機器(例えば、Kistler(商標)RoaDyn(商標))を使用して、かかる車両の車輪から直接測定することができる。エンジン出力は、当技術分野で知られているように、測定されたエンジントルクおよびエンジン速度値から好適に導き出すことができる。VTEは、例えば、シャシーダイナモメータのローラーに、エンジンによって駆動される車両の車輪によって加えられる力を測定することによって測定することができる。
【0023】
本発明は、内燃機関またはかかるエンジンによって動力が供給される車両の加速性能を向上させるのに有用であり得る。加速性能は、エンジンを加速し、エンジン速度、出力、トルク、および/またはVTE、空気チャージ圧力、および/またはターボチャージャ速度の経時変化を監視することによって評価し得る。この評価は、エンジン速度の範囲にわたって好適に実行することができる。
【0024】
加速性能は、試験対象のエンジンによって動力が供給される車両を、例えば0~100km/時まで、道路上で好適な経験を積んだドライバーによって加速することでも評価され得る。加速性能の変化をエンジン速度に関連付けるために、車両にはエンジン速度計などの適切な計測器が装備されている必要がある。
【0025】
一般に、加速性能の向上は、加速時間の短縮、および/または上記の効果のいずれか1つ以上、例えば、ターボチャージャ速度のより速い増加、または任意の所与の速度でのエンジントルクまたは出力またはVTEの増加によって明らかになり得る。
【0026】
本発明の文脈において、加速性能の「向上」は、任意の程度の向上を包含する。同様に、測定されたパラメータの減少または増加(例えば、ターボチャージャが最大速度に達するまでにかかる時間)には、場合によっては、任意の程度の減少または増加が含まれる。場合によっては、向上、減少、または増加は、粘度指数(VI)向上添加剤を組み込む前の燃料組成物を使用する場合の関連するパラメータと比較され得る。これは、燃料組成物に粘度指数(VI)向上添加剤を加える前に、内燃(典型的にはディーゼル)機関で使用することが意図されている(例えば市販されている)他の類似の燃料組成物で同じエンジンを作動した場合に測定される関連パラメータと比較したものであってよい。
【0027】
本発明は、例えば、粘度指数(VI)向上剤によって燃料組成物の特性および/または性能および/または効果、特に内燃機関の加速度および/または出力性能に対するその効果を、所望の目標を満たすために調整することを含み得る。
【0028】
加速性能の向上は、別の原因、特に燃料組成物に含まれる別の燃料成分または添加剤による加速性能の低下において、少なくともある程度の緩和をも包含し得る。例として、燃料組成物は、燃焼時に生成される排出物のレベルを低減するために、全体の密度を低減することを意図した1つ以上の成分を含有することができ、密度の減少は、エンジン出力の損失をもたらす可能性があるが、この効果は、本発明による粘度指数(VI)向上剤の使用によって克服されるか、または少なくとも軽減され得る。
【0029】
加速性能の向上は、酸素化成分を含有する燃料(例えば、いわゆる「バイオ燃料」)の使用、またはエンジン(典型的には燃料噴射器内)における燃焼関連堆積物の蓄積などの別の理由で低下した加速性能の少なくとも部分的な回復をも包含し得る。
【0030】
本発明を使用して、典型的には加速期間中に、所与のエンジン速度でエンジントルクを増加させる場合、増加は、粘度指数(VI)向上剤を組み込む前の燃料組成物でエンジンを運転した場合に得られるものと比較して、少なくとも0.1%、好ましくは少なくとも0.2%または0.3%または0.4%または0.5%、場合によっては少なくとも0.6%または0.7%であり得る。この増加は、燃料組成物に粘度指数(VI)向上剤を加える前に、内燃(典型的にはディーゼル)機関で使用することを意図した(例えば市販されている)他の類似の燃料組成物で同じエンジンを作動させたときに、該当する速度で得られるエンジントルクと比較され得る。
【0031】
本発明を用いて、典型的には加速期間中に、所与のエンジン速度でエンジン出力を増加させる場合、増加は、ここでも、粘度指数向上剤を組み込む前の燃料組成物でエンジンを運転した場合に得られるものと比較して、少なくとも0.1%、好ましくは少なくとも0.2%または0.3%または0.4%または0.5%、場合によっては少なくとも0.6%または0.7%であり得る。この増加は、燃料組成物に粘度指数向上剤を加える前に、内燃(典型的にはディーゼル)機関で使用することを意図した(例えば市販されている)他の類似の燃料組成物で同じエンジンを作動させたときに、該当する速度で得られるエンジン出力と比較され得る。
【0032】
本発明を用いて、典型的には加速期間中に、所与のエンジン速度でエンジンVTEを増加させる場合、増加は、ここでも、粘度指数(VI)向上剤を組み込む前の燃料組成物でエンジンを運転した場合に得られるものと比較して、少なくとも0.1%、好ましくは少なくとも0.2%または0.3%または0.4%または0.5%、場合によっては少なくとも0.6%または0.7%であり得る。この増加は、粘度指数(VI)向上剤を加える前に、内燃(典型的にはディーゼル)機関で使用することを意図した(例えば市販されている)他の類似の燃料組成物で同じエンジンを作動させたときに、該当する速度で得られるVTEと比較され得る。
【0033】
本発明を用いて、2つの所与のエンジン速度間でエンジンが加速するのに要する時間を短縮する場合、短縮は、粘度指数(VI)向上剤を組み込む前の燃料組成物でエンジンを運転した場合にかかるものと比較して、少なくとも0.1%、好ましくは少なくとも0.2%または0.3%または0.4%または0.5%、場合によっては少なくとも0.6%または0.7%、または0.8%または0.9%であり得る。この短縮は、燃料組成物に粘度指数(VI)向上剤を加える前に、内燃(典型的にはディーゼル)機関で使用することを意図した(例えば市販されている)他の類似の燃料組成物で同じエンジンを作動させたときの該当する速度間の加速時間と比較され得る。かかる加速時間は、例えば、300rpm以上、または400rpm以上または500rpm以上または600rpm以上または700rpm以上または800rpm以上または900rpm以上または1000rpm以上、例えば1300~1600rpm、または1600~2200rpm、または2200~3000rpm、または3000~4000rpmのエンジン速度増加にわたって測定することができる。
【0034】
本発明によれば、VI向上添加剤が使用される自動車燃料組成物は、特に、ディーゼルエンジンでの使用に好適なディーゼル燃料組成物であり得る。それは、任意の種類の圧縮点火エンジン、例えば以下に記載されるもので使用されてよく、および/または好適であってよく、および/または適合され、および/または使用されることが意図され得る。
【0035】
粘度指数向上添加剤(VI向上剤とも呼ばれる)は、潤滑剤配合物での使用ですでによく知られており、高温で粘度を増加することにより、所望の温度範囲で粘度を可能な限り一定に維持するために使用される。それらは、典型的には、集塊および/またはミセルを形成することができる比較的高分子量の長鎖ポリマー分子に基づいている。これらの分子系は高温で膨張するため、相互の動きがさらに制限され、系の粘度が増加する。
【0036】
本発明による燃料組成物に使用されるVI向上添加剤は、ポリイソプレン系星型ポリマー、特にスチレン-イソプレン星型ポリマーを含む。
【0037】
好適なスチレン-イソプレン星型ポリマーの例としては、US2013/0165362号に開示されているものが挙げられ、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。US2013/0165362号に開示された星型ポリマーは、ジビニルベンゼン(DVB)コアなどの中心コアに結合された複数のトリブロックアームを有し、このトリブロックアームは、ジエンから誘導された2つの部分的または完全に水素化されたブロックの間に位置するモノアルケニルアレーンモノマーから誘導されたブロックを含有し、このジエンブロックの少なくとも1つは混合ジエンモノマーから誘導されたコポリマーであり、組み込まれたモノマー単位の約65重量%~約95重量%がイソプレンからであり、組み込まれたモノマー単位の約5重量%~約35重量%までがブタジエンからであり、少なくとも約80重量%、好ましくは少なくとも約90重量%のブタジエンが1,4-配置でランダムコポリマーブロックに組み込まれている。
【0038】
燃料組成物に使用するのに好ましい粘度指数(VI)向上添加剤は、US2013/0165362号に記載される星型イソプレンポリマーであり、これは、以下の式によって特徴付けることができる。
(D’-PA-D’’)n-X;
式中、D’はジエンから誘導された「外側」ブロックを表し、PAはモノアルケニルアレーンから誘導されたブロックを表し、D’’はジエンから誘導された内側ランダムを表し、nはアーム1モル当たり2モル以上のポリアルケニルカップリング剤の反応によって形成される星型ポリマー当たりのアームの平均数を表し、Xはポリアルケニルカップリング剤の核を表す。
【0039】
ジエンブロックD’およびD’’の少なくとも1つ、好ましくはジエンブロックD’およびD’’のそれぞれは、混合ジエンモノマーに由来するコポリマーブロックであり、組み込まれたモノマー単位の約65重量%から約95重量%がイソプレンから、および組み込まれるモノマー単位の約5重量%から約35重量%までがブタジエンからのものであり、少なくとも約80重量%のブタジエン、好ましくは少なくとも90重量%のブタジエンが1,4-配置で組み込まれる。好ましくは、組み込まれたモノマー単位の少なくとも約15重量%がブタジエンモノマー単位である。好ましくは、組み込まれたモノマー単位の約28重量%以下がブタジエンモノマー単位である。好ましくは、ジエンブロックD’およびD’’の少なくとも1つ、より好ましくは、ジエンブロックD’およびD’’’のそれぞれは、ランダムコポリマーブロックである。ブロックD’およびD’’’は、好ましくは、不飽和の少なくとも約80%または90%または95%を除去するために水素化され、より好ましくは、完全に水素化される。
【0040】
外側ブロックD’は、水素化前に、約10,000~約120,000ダルトン、より好ましくは約20,000~約60,000ダルトンの数平均分子量を有する。ブロックPAは、約10,000~約50,000ダルトンの数平均分子量を有する。ブロックPAのサイズを増大させると、星型ポリマーの増粘効率に悪影響が及ぼされ得る。したがって、ブロックPAの数平均分子量は、好ましくは、約12,000~約35,000ダルトンである。内側ブロックD’は、水素化前に、約5,000~約60,000ダルトン、より好ましくは約10,000~約30,000ダルトンの数平均分子量を有する。本明細書で使用される場合、「数平均分子量」という用語は、ポリスチレン標準を用いたゲル浸透クロマトグラフィー(「GPC」)によって測定された数平均分子量を指す。
【0041】
本明細書で使用される星型ポリマーにおいて、外側ブロックD’の数平均分子量と内側ブロックD’’’の数平均分子量との比は、好ましくは少なくとも約1.4:1、例えば少なくとも約1.9:1であり、より好ましくは少なくとも約2.0:1であり、ブロックPAの数平均分子量と内側ブロックD’’’の数平均分子量との比は、好ましくは少なくとも約0.75:1、例えば少なくとも約0.9:1であり、より好ましくは少なくとも約1.0:1である。
【0042】
好ましくは、星型ポリマー中のポリジエンの総量の30重量%以下、より好ましくは25重量%以下がブタジエンから誘導される。好ましくは、1,2-または1,4-配置単位としてポリマー中に組み込まれ得るブタジエンの総量の少なくとも約80重量%、より好ましくは少なくとも約90重量%が、1,4-配置で組み込まれる星型ポリマー中に組み込まれる。ポリマーに組み込まれるブタジエンの割合を1,4-単位として増大させると、星型ポリマーの増粘効率特性を増加させることができる。過剰量のポリブタジエン、特に1,2-配置を有するポリブタジエンは、低温でのポンプ圧送特性に悪影響を与える可能性がある。
【0043】
本明細書のコポリマーの前駆体として使用されるイソプレンモノマーは、1,4-または3,4-配置のいずれか、またはそれらの混合物としてポリマーに組み込まれ得る。好ましくは、イソプレンの大部分は、約60重量%を超える、より好ましくは約80重量%を超える(約80重量%~100重量%など)、より好ましくは約90重量%を超える(約93重量%~100重量%など)1,4-単位としてポリマーに組み込まれる。
【0044】
好適なモノアルケニルアレーンモノマーとしては、スチレン、モノビニルナフタレンなどのモノビニル芳香族化合物、ならびにそれらのアルキル化誘導体(o-、m-およびp-メチルスチレン、α-メチルスチレンおよび第三級ブチルスチレンなど)が挙げられる。好ましいモノアルケニルアレーンはスチレンである。
【0045】
本明細書で使用される星型ポリマーは、4~約25個のアーム(n=約4~約25)、好ましくは約10~約20個のアームを有し得る。本明細書で使用される星型ポリマーは、約100,000~約1,000,000ダルトン、好ましくは約400,000~約800,000ダルトン、より好ましくは約500,000~約700,000ダルトンの合計数平均分子量を有し得る。
【0046】
様々な重合調製方法を含む、これらの好ましい星型ポリマーを作製するための構造、特性、および方法のさらなる詳細は、US2013/0165362号に開示されており、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0047】
本明細書で使用するための別の好適なタイプの粘度指数(VI)向上添加剤は、水素化ポリイソプレンまたはポリ(交互エチレン-プロピレン)のアームを有する架橋ポリスチレンコアを含む星型ポリイソプレンポリマーである。かかるポリマーの例は、Infineumから市販されているSV300である。US2017/025370号に開示されているように、SV300は、水素化ポリイソプレンまたはポリ(交互エチレン-プロピレン)のアーム30個を有する、6重量%の架橋ポリスチレン星型コアを含有し、全体の分子量は875,000であり、PAO4(Exxon Mobilから市販されている100℃で約4mm2/秒の粘度を有するポリアルファオレフィン)中の流体力学半径は25nmである。
【0048】
本明細書で15.6℃で使用するための粘度指数(VI)向上添加剤(ASTM D-4052)の密度は、0.70g/cm3以上、好ましくは0.75g/cm3以上である。
【0049】
本明細書で使用するのに好適な市販の粘度指数(VI)向上添加剤の例としては、SV300、SV600、SV260などの商品名でInfineumから市販されているものが挙げられる。
【0050】
燃料組成物の潤滑特性を向上させると共に出力特性を向上させる観点から特に好ましい粘度指数(VI)向上添加剤は、Infineumから市販されているSV600である。
【0051】
VI向上添加剤は、好適な溶媒、例えば鉱油またはフィッシャー・トロプシュ由来炭化水素混合物などの油;添加剤が使用される燃料組成物(例えばディーゼル燃料組成物中での使用が意図される場合、軽油または灯油などの中間留出物燃料成分)と適合性のある燃料成分(ここでも、鉱物またはフィッシャー・トロプシュ由来のいずれかであり得る);ポリアルファオレフィン;脂肪酸アルキルエステル(FAAE)、フィッシャー・トロプシュ由来のバイオマス-液体合成生成物、水素化植物油、廃棄物または藻類油またはエタノールのようなアルコールなどのいわゆるバイオ燃料;芳香族溶媒;任意の他の炭化水素または有機溶媒;またはそれらの混合物中に予め溶解され得る。この文脈において使用するための好ましい溶媒は、鉱油ベースのディーゼル燃料成分および溶媒、ならびに以下で言及される「XtL」成分などのフィッシャー・トロプシュ由来成分である。場合によっては、バイオ燃料溶媒も好ましい。
【0052】
燃料組成物中のVI向上添加剤の濃度は、最大1%w/w(10,000ppm)、好適には最大0.5%w/w、場合によっては最大0.4または0.3または0.25%w/wであり得る。濃度は、0.001%w/w以上、好ましくは0.01%w/w以上、好適には0.02または0.03または0.04または0.05%w/w以上、場合によっては0.1または0.2%w/w以上であってもよい。好適な濃度は、例えば、0.001~1%w/w、または0.001~0.5%w/w、または0.05~0.5%w/w、または0.05~0.25%w/w、例えば、0.05~0.25%w/w、または0.1~0.2%w/wであってよい。
【0053】
組成物の残りの部分は、例えば、以下により詳細に記載されるように、典型的には、1つ以上の自動車ベース燃料からなり、任意で1つ以上の燃料添加剤とともに構成される。
【0054】
上記の濃度は、VI向上添加剤自体に対するものであり、その有効成分が事前に希釈されている溶媒は考慮していない。それらは、全燃料組成物の質量に基づく。本明細書の燃料組成物には、2つ以上のVI向上添加剤を使用することができる。2つ以上のVI向上添加剤の組み合わせが組成物中で使用される場合、同じ濃度範囲が全体的な組み合わせに適用されてよく、ここでも存在する任意の前駆体溶媒は除外される。
【0055】
VI向上添加剤の濃度は、全燃料組成物の所望の粘度、添加剤を組み込む前の組成物の粘度、添加剤自体の粘度、および添加剤が使用される任意の溶媒の粘度に依存する。本発明に従って調製される自動車燃料組成物中に存在するVI向上添加剤、燃料成分および任意の他の成分または添加剤の相対的な割合は、密度、エミッション性能およびセタン価、特に密度などの他の所望の特性にも依存し得る。
【0056】
驚くべきことに、本明細書に記載のVI向上添加剤は、燃料組成物の潤滑性を増加させるだけでなく、出力および/または加速特性を増加させ得ることが見出された。
【0057】
VI向上添加剤が含まれるため、本発明に従って調製された燃料組成物(特にディーゼル燃料組成物)は、好適には、2.7または2.8mm2/秒以上、好ましくは2.9または3.0または3.1または3.2または3.3または3.4mm2/秒以上、場合によっては3.5または3.6または3.7または3.8または3.9、またはさらには4mm2/秒以上のVK40を有する。そのVK40は、最大4.5または4.4または4.3mm2/秒であり得る。場合によっては、例えば、極寒用ディーゼル燃料の場合、組成物のVK40は、1.5mm2/秒と低くてもよいが、好ましくは、1.7または2.0mm2/秒以上である。本明細書における粘度への言及は、特に明記しない限り、動粘度を意味することを意図している。
【0058】
組成物は、好ましくは比較的高い密度を有し、例えば、ディーゼル燃料組成物の場合、15℃で830kg/m3以上(ASTM D-4052またはEN ISO3675)、好ましくは832kg/m3以上、例えば832~860kg/m3である。好適には、その密度は15℃で845kg/m3以下であり、これは、現在のEN590ディーゼル燃料仕様の上限である。
【0059】
本発明に従って調製される燃料組成物は、例えば、自動車用ガソリンまたはディーゼル燃料組成物、特に後者であり得る。
【0060】
本発明に従って調製されるガソリン燃料組成物は、一般に、火花点火(ガソリン)エンジンでの使用に好適な任意の種類のガソリン燃料組成物であり得る。VI向上添加剤に加えて、他の標準的なガソリン燃料成分を含有し得る。例えば、典型的には、大部分を20℃~210℃の沸点範囲(ASTM D-86またはEN ISO3405)を有するガソリンベース燃料で占めることができる。この文脈における「大部分」とは、典型的には、燃料全組成物に基づいて85%w/w以上、より好適には90または95%w/w以上、最も好ましくは98または99または99.5%w/w以上を意味する。
【0061】
本発明に従って調製されるディーゼル燃料組成物は、一般に、圧縮点火(ディーゼル)エンジンでの使用に好適な任意の種類のディーゼル燃料組成物であり得る。それは、VI向上添加剤に加えて、他の標準的なディーゼル燃料成分を含有し得る。例えば、大部分を以下に記載される種類のディーゼルベース燃料で占めることができる。ここでも、「大部分」とは、典型的には、全組成物に基づいて85%w/w以上、より好適には90または95%w/w以上、最も好ましくは98または99または99.5%w/w以上を意味する。
【0062】
したがって、VI向上添加剤に加えて、本発明に従って調製されたディーゼル燃料組成物は、従来型の1つ以上のディーゼル燃料成分を含み得る。かかる成分は、典型的には、液体炭化水素中間留分燃料油、例えば石油由来の軽油を含む。一般に、かかる燃料成分は、有機的または合成的に誘導することができ、原油から所望の範囲の留分を蒸留することによって好適に得られる。それらは、典型的には、等級と用途に応じて、150~410℃または170~370℃の通常のディーゼル範囲内の沸点を有する。典型的には、燃料組成物には、重質炭化水素を分解することによって得られる1つ以上の分解生成物を含む。
【0063】
石油由来の軽油は、例えば、原油源を精製し、任意で(水素化)処理することによって得ることができる。それは、そのような精製プロセスから得られる単一の軽油ストリーム、または異なる処理経路を介して精製プロセスで得られるいくつかの軽油留分の混合物であり得る。かかる軽油留分の例は、直留軽油、減圧軽油、熱分解プロセスで得られる軽油、流動接触分解ユニットで得られる軽質および重質サイクル油、ならびに水素化分解ユニットから得られる軽油である。任意で、石油由来の軽油は、いくつかの石油由来の灯油留分を含み得る。
【0064】
かかる軽油は、それらの硫黄含有量をディーゼル燃料組成物中に含めるのに好適なレベルまで低減するために、水素化脱硫(HDS)ユニットで処理され得る。
【0065】
ディーゼルベース燃料は、フィッシャー・トロプシュ由来のディーゼル燃料成分、典型的にはフィッシャー・トロプシュ由来の軽油であるか、またはそれを含み得る。本発明の文脈において、「フィッシャー・トロプシュ由来」という用語は、材料がフィッシャー・トロプシュ縮合プロセスの合成生成物であるか、またはそれに由来することを意味する。「非フィッシャー・トロプシュ由来」という用語は、それに応じて解釈され得る。したがって、フィッシャー・トロプシュ由来の燃料または燃料成分は、添加された水素を除いて、かなりの部分がフィッシャー・トロプシュ縮合プロセスから直接的または間接的に得られる炭化水素流である。
【0066】
フィッシャー・トロプシュ反応は、一酸化炭素と水素を長鎖の、通常はパラフィン系の炭化水素に変換する。
n(CO+2H2)=(-CH2-)n+nH2O+熱、
適切な触媒の存在下で、典型的には高温(例えば、125~300℃、好ましくは175~250℃)および/または圧力(例えば、0.5~10MPa、好ましくは1.2~5MPa)のもと。必要に応じて、2:1以外の水素:一酸化炭素比を使用することができる。
【0067】
一酸化炭素および水素は、それ自体、有機源、無機源、天然源または合成源から、典型的には天然ガスまたは有機的に誘導されたメタンから誘導され得る。
【0068】
本発明で使用されるフィッシャー・トロプシュ由来のディーゼル燃料成分は、精製またはフィッシャー・トロプシュ反応から直接、または例えば、精製または合成生成物の分画または水素化処理によって間接的に得られ、分画または水素化処理された生成物を得ることができる。水素化処理は、沸点範囲を調整するための水素化分解(例えば、GB-B-2077289号およびEP-A-0147873号を参照のこと)および/または分岐パラフィンの割合を増加させることにより低温流動特性を向上させることが可能な水素化異性化を伴う。EP-A-0583836号は、フィッシャー・トロプシュ合成生成物を、まず、実質的に異性化または水素化分解を受けないような条件下で水素化転化に供し(これによりオレフィンおよび酸素含有成分が水素化される)、次いで、得られた生成物の少なくとも一部を、水素化分解および異性化が生じて実質的にパラフィン系の炭化水素燃料が得られるような条件下で水素化転化する2段階水素化処理法が記載されている。所望の留分、典型的には軽油留分は、その後、例えば蒸留によって単離することができる。
【0069】
他の合成後処理、例えば重合、アルキル化、蒸留、分解-脱カルボキシル化、異性化および水素化改質は、例えばUS-A-4125566号明細書およびUS-A-4478955号明細書に記載されているように、フィッシャー・トロプシュ縮合生成物の特性を改変するために用いることができる。
【0070】
パラフィン系炭化水素のフィッシャー・トロプシュ合成における典型的な触媒は、触媒活性成分として、周期表のVIII族からの金属、特に、ルテニウム、鉄、コバルト、またはニッケルを含む。かかる好適な触媒は、例えば、EP-A-0583836号に記載されている。
【0071】
フィッシャー・トロプシュベースのプロセスの例は、Shell(商標)「Gas-to-liquids」または「GtL」技術(以前は、SMDS(シェル中間留分合成(Shell Middle Distillate Synthesis)として知られており、「The Shell Middle Distillate Synthesis Process」、van der Burgtら、第5回Synfuels Worldwide Symposium、Washington DC、1985年11月で出された論文、およびShell International Petroleum Company Ltd、London(英国)からの同じ表題で1989年11月刊行物に記載されている)である。後者の場合、水素化転化プロセスの好ましい特徴は、本明細書に開示されている通りであり得る。このプロセスは、天然ガスを重質長鎖炭化水素(パラフィン)ワックスに転化することによって中間留分範囲の生成物を生成し、次いでこれを水素化転化および分留することができる。
【0072】
本発明で使用するためには、フィッシャー・トロプシュ誘導燃料成分は、好ましくは、気体から液体への合成に由来する任意の好適な成分(以下、GtL成分)、または類似のフィッシャー・トロプシュ合成に由来する成分、例えば、気体、バイオマスまたは石炭を液体に変換する成分(以下、XtL成分)である。フィッシャー・トロプシュ由来の成分は、好ましくはGtL成分である。それはBtL(バイオマスから液体)成分である可能性がある。一般に、好適なXtL成分は、例えば、当技術分野で既知の灯油、ディーゼル油および軽油留分から選択される中間留分燃料成分であってもよく、かかる成分は、合成プロセス燃料または合成プロセス油として一般的に分類され得る。好ましくは、ディーゼル燃料成分として使用するためのXtL成分は、軽油である。
【0073】
本発明に従って調製された組成物中に含有されるディーゼル燃料成分は、典型的には、15℃で750~900kg/m3、好ましくは800~860kg/m3の密度(ASTM D-4052またはEN ISO3675)および/または1.5~6.0mm2/秒のVK40(ASTM D-445またはEN ISO3104)を有する。
【0074】
本発明に従って調製されるディーゼル燃料組成物において、ベース燃料自体は、上記の種類の2つ以上のディーゼル燃料成分の混合物を含み得る。それは、いわゆる「バイオディーゼル」燃料成分、例えば植物油、水素化植物油もしくは植物油誘導体(例えば、脂肪酸エステル、特に脂肪酸メチルエステル)、または別の酸素化物、例えば酸、ケトンもしくはエステルであってもよく、またはそれらを含有してもよい。かかる成分は、必ずしもバイオ由来である必要はない。
【0075】
本発明に従って調製される自動車用ディーゼル燃料組成物は、好適には、EN590(欧州の場合)またはASTM D-975(米国の場合)などの適用される現在の標準仕様(複数可)に準拠する。一例として、全燃料組成物は、15℃で820~845kg/m3の密度(ASTM D-4052またはEN ISO3675);360℃以下のT95沸点(ASTM D-86またはEN ISO3405);51以上の測定セタン価(ASTM D-613);2~4.5mm2/秒のVK40(ASTM D-445またはEN ISO3104);50mg/kg以下の硫黄含有量(ASTMD-2622またはEN ISO20846);および/または11%w/w未満の多環式芳香族炭化水素(PAH)含有量(IP391(mod))を有し得る。しかしながら、関連する仕様は国によって、および年によって異なり、燃料組成物の使用目的によって決まり得る。
【0076】
本発明に従って調製されたディーゼル燃料組成物は、5000ppmw(重量百万分率)以下、典型的には2000~5000ppmw、または1000~2000ppmw、あるいは最大1000ppmwの硫黄を好適に含有する。組成物は、例えば、低硫黄または超低硫黄燃料、または硫黄非含有燃料、例えば、最大で500ppmw、好ましくは350ppmw以下、最も好ましくは100または50ppmw以下、さらには10ppmwの硫黄を含有し得る。
【0077】
本発明に従って調製された自動車燃料組成物、またはかかる組成物で使用されるベース燃料は、添加されていても(添加剤含有)、または添加されていなくても(無添加)よい。それは、例えば、製油所で添加される場合、例えば、帯電防止剤、パイプライン抗力低減剤(pipeline drag reducers)、流動性向上剤(例えば、エチレン/酢酸ビニルコポリマーまたはアクリレート/無水マレイン酸コポリマー)、潤滑性添加剤(上記のVI向上添加剤以外)、酸化防止剤、およびワックス沈降防止剤から選択される1つ以上の添加剤を少量含有する。したがって、組成物は、VI向上添加剤に加えて、少ない比率(好ましくは1%w/w以下、より好ましくは0.5%w/w(5000ppmw)以下、最も好ましくは0.2%w/w(2000ppmw)以下)で1つ以上の燃料添加剤を含有し得る。
【0078】
組成物は、例えば、洗浄剤を含有してもよい。洗浄剤含有ディーゼル燃料添加剤は既知であり、市販されている。かかる添加剤は、エンジン堆積物の蓄積を低減する、除去する、または遅延させることを目的としたレベルで、ディーゼル燃料に添加され得る。
【0079】
本発明の目的のための燃料添加剤における使用に好適な洗浄剤の例としては、ポリオレフィン置換スクシンイミドまたはポリアミンのスクシンアミド、例えばポリイソブチレンスクシンイミドまたはポリイソブチレンアミンスクシンアミド、脂肪族アミン、マンニッヒ塩基またはアミンおよびポリオレフィン(例えばポリイソブチレン)無水マレイン酸が挙げられる。スクシンイミド分散剤添加剤は、例えば、GB-A-960493号、EP-A-0147240号、EP-A-0482253号、EP-A-0613938号、EP-A-0557516号、およびWO-A-98/42808号に記載されている。特に好ましいものは、ポリイソブチレンスクシンイミドなどのポリオレフィン置換スクシンイミドである。
【0080】
本発明に従って調製された燃料組成物で使用可能な燃料添加剤混合物は、洗浄剤に加えて他の成分を含有し得る。例としては、潤滑性向上剤;曇り防止剤、例えばアルコキシル化フェノールホルムアルデヒドポリマー;消泡剤(例えばポリエーテル変性ポリシロキサン);着火性向上剤(セタン価向上剤)(例えば硝酸2-エチルヘキシル(EHN)、硝酸シクロヘキシル、過酸化ジ-tert-ブチルおよびUS-A-4208190号の第2欄27行~第3欄21行に開示されているもの);防錆剤(例えばテトラプロペニルコハク酸のプロパン-1,2-ジオール半エステル、またはコハク酸誘導体の多価アルコールエステルであって、ここでコハク酸誘導体はそのα-炭素原子の少なくとも1つに20~500個の炭素原子を含有する非置換または置換脂肪族炭化水素基を有するものであり、例えばポリイソブチレン置換コハク酸のペンタエリスリトールジエステル);腐食防止剤;付香剤;耐摩耗添加剤;抗酸化剤(例えば、2,6-ジ-tert-ブチルフェノールなどのフェノール系化合物、またはN,N’-ジ-sec-ブチル-p-フェニレンジアミンなどのフェニレンジアミン);金属不活性化剤;燃焼向上剤;静電気除去剤;低温流動向上剤;およびワックス沈降防止剤が挙げられる。
【0081】
かかる燃料添加剤混合物は、特に燃料組成物の硫黄含有量が低い(例えば、500ppmw以下)場合、(上記の粘度向上(VI)添加剤に加えて)潤滑性向上剤を含有し得る。添加された燃料組成物において、潤滑性向上剤は、1000ppmw未満、好ましくは50~1000ppmw、より好ましくは70~1000ppmwの濃度で存在するのが好都合である。好適な市販の潤滑性向上剤としては、エステル系および酸系添加剤が挙げられる。他の潤滑性向上剤は、特許文献、特に低硫黄含有量のディーゼル燃料におけるそれらの使用に関連して、例えば:
-Danping WeiおよびH.A.Spikesによる論文「The Lubricity of Diesel Fuels」,Wear,III(1986年)217~235頁、
-WO-A-95/33805号-低硫黄燃料の潤滑性を高めるための低温流動性向上剤、
-WO-A-94/17160号-ディーゼルエンジン噴射システムにおける摩耗低減のための燃料添加剤としての、カルボン酸とアルコールとの特定のエステル(ここで、酸は2~50個の炭素原子を有し、アルコールは1個以上の炭素原子を有する)、特にグリセロールモノオレエートおよびジイソデシルアジペート、
-US-A-5490864号-低硫黄ディーゼル燃料のための耐摩耗性潤滑性添加剤としての特定のジチオリン酸ジエステル-ジアルコール、および
-WO-A-98/01516号-芳香族核に結合した少なくとも1つのカルボキシル基を有する特定のアルキル芳香族化合物であって、特に低硫黄ディーゼル燃料において耐摩耗性潤滑性効果を付与するもの、に記載されている。
【0082】
上記に開示された粘度向上(VI)添加剤を含めることにより、燃料組成物の潤滑性を向上させることができるため、本発明の利点は、他の潤滑性添加剤の量を低減またはさらには排除できることである。
【0083】
また、燃料組成物は、消泡剤を含有することが好ましく、より好ましくは防錆剤および/または腐食防止剤および/または潤滑性向上添加剤と組み合わせて含有する。
【0084】
特に明記しない限り、添加される燃料組成物中の各添加成分の(活性物質)濃度は好ましくは最大10000ppmw、より好ましくは0.1~1000ppmwの範囲、有利には0.1~300ppmw、例えば0.1~150ppmwである。
【0085】
燃料組成物中の任意の曇り防止剤の(活性物質)濃度は、好ましくは、0.1~20ppmw、より好ましくは、1~15ppmw、さらにより好ましくは、1~10ppmw、および有利には1~5ppmwの範囲内である。存在する任意の着火性向上剤の(活性物質)濃度は、好ましくは、2600ppmw以下、より好ましくは、2000ppmw以下、好都合には、300~1500ppmwである。燃料組成物中の任意の洗浄剤の(活性物質)濃度は、好ましくは5~1500ppmw、より好ましくは10~750ppmw、最も好ましくは20~500ppmwの範囲である。
【0086】
所望であれば、1つ以上の添加剤成分(例えば、上に列挙されたもの)は、添加剤濃縮物中で(好ましくは、好適な希釈剤と一緒に)共混合されてよく、次いで、この添加剤濃縮物は、ベース燃料または燃料組成物中に分散され得る。VI向上添加剤は、本発明によれば、かかる添加剤配合物に組み込まれ得る。
【0087】
ディーゼル燃料組成物の場合、例えば、燃料添加剤混合物は、典型的には、上述したような他の成分と共に、任意で、鉱油、Shell companiesにより「SHELLSOL」の商標で販売されているような溶媒、エステル、特にアルコール(例えばヘキサノール、2-エチルヘキサノール、デカノール、イソトリデカノール)などの極性溶媒、およびShell companiesにより「LINEVOL」の登録商標で販売されているようなアルコール混合物、特にC7~9の第一級アルコールの混合物であるLINEVOL79アルコール、または市販されているC12~14のアルコール混合物であるディーゼル燃料適合性希釈剤と共に洗浄剤を含有する。
【0088】
燃料組成物中の添加剤の総全含有量は、好適には0~10000ppmwであり、好ましくは5000ppmw未満である。
【0089】
本明細書においては、成分の量(濃度、%v/v、ppmw、%w/w)は活性物質の量であり、揮発性溶媒/希釈剤を除いたものである。
【0090】
異なる種類および/または濃度の添加剤は、ガソリン燃料組成物における使用に適切であってよく、例えば、洗浄剤添加剤としてポリイソブチレン/アミンおよび/またはポリイソブチレン/アミドコポリマーを含有し得る。
【0091】
好適には、VI向上添加剤、およびそれが燃料組成物に使用される濃度は、10℃以下、好ましくは5℃または2℃または1℃以下の組成物の低温フィルタ目詰まり点(CFPP)の増加を引き起こすようなものとなる。好ましくは、CFPPの増加を引き起こさないようなものであろう。CFPPの低下を引き起こすような場合があり得る。CFPPの増加は、VI向上添加剤を組み込む前の燃料組成物のCFPPと比較され得る。それらは、燃料組成物にVI向上添加剤を加える前の、内燃(特にディーゼル)機関での使用を目的とする(例えば、市販されている)他の類似の燃料組成物のCFPPとの比較であり得る。CFPPは、標準試験方法EN116を使用して測定され得る。
【0092】
好適には、VI向上添加剤、およびそれが燃料組成物に使用される濃度は、10℃以下、好ましくは5℃または2℃または1℃以下の組成物の曇り点の上昇を引き起こすようなものとなる。曇り点の上昇を引き起こさないようなものが好ましい。曇り点の低下を引き起こすような場合があり得る。曇り点の上昇は、VI向上添加剤を組み込む前の燃料組成物の曇り点との比較であり得る。それらは、燃料組成物にVI向上添加剤を加える前に、内燃(特にディーゼル)機関での使用を意図されている(例えば、市販されている)他の類似の燃料組成物の曇り点と比較され得る。曇り点は、標準試験法EN23015を使用して測定され得る。
【0093】
本発明の文脈において、燃料組成物におけるVI向上添加剤の「使用」とは、VI向上添加剤を、典型的には1つ以上の燃料成分(典型的にはディーゼルベース燃料)および任意で1つ以上の燃料添加剤との混合(すなわち物理的混合物)として組成物に組み込むことを意味する。VI向上添加剤は、組成物が組成物によって運転されるエンジンに導入される前に都合よく組み込まれる。代わりにまたはそれに加えて、使用は、典型的には組成物をエンジンの燃焼室に導入することによって、VI向上添加剤を含有する燃料組成物でエンジンを運転することを含み得る。
【0094】
本発明によるVI向上添加剤の「使用」はまた、上述の目的の1つ以上を達成するために、特に組成物が導入されるかまたは導入されることが意図される内燃(典型的にはディーゼル)機関の加速性能を向上させるために、自動車燃料組成物におけるその使用のための指示と共にかかる添加剤を供給することを包含し得る。
【0095】
VI向上添加剤は、それ自体、燃料添加剤、特にディーゼル燃料添加剤としての使用に好適であるか、および/または意図された配合物の成分として供給されてもよく、この場合、VI向上添加剤は、自動車燃料組成物の潤滑性に影響を与える、および/または燃料組成物が導入されるか、または導入されることが意図されるエンジンの加速性能および/または出力に対するその効果に影響を与える目的で、このような配合物に含まれてもよい。
【0096】
したがって、VI向上添加剤は、1つ以上の他の燃料添加剤と共に添加剤配合物またはパッケージに組み込むことができる。それは、例えば、添加剤配合物中で、洗浄剤、防食添加剤、エステル、ポリアルファオレフィン、長鎖有機酸、アミンまたはアミド活性中心を含有する成分、およびそれらの混合物から選択される1つ以上の燃料添加剤と組み合わされてもよい。特に、それは、典型的には少なくとも洗浄剤を含む1つ以上のいわゆる性能添加剤と組み合わせてもよい。
【0097】
VI向上添加剤は、例えば製油所で、燃料成分または組成物中に直接投入することができる。それは、その後、自動車燃料組成物全体の一部を形成する好適な燃料成分で事前に希釈することができる。
【0098】
本発明によれば、2つ以上のVI向上添加剤を、上記の目的のために自動車燃料組成物に使用することができる。
【0099】
本発明のさらなる態様によれば、自動車燃料組成物を調製するためのプロセスが提供され、このプロセスは、自動車ベース燃料をVI向上添加剤と混合することを含み、VI向上添加剤は、星型イソプレンポリマーである。混合は、特に得られる燃料組成物の潤滑性、および/またはそれが導入される、または導入されることが意図される内燃機関の加速性能および/または出力への影響に関して、上記の目的のうちの1つ以上のために実施することができる。組成物は、特にディーゼル燃料組成物であり得る。
【0100】
VI向上添加剤は、例えば、製油所で、組成物の他の成分、特にベース燃料と混合することができる。あるいは、それは、製油所の下流の自動車燃料組成物に添加され得る。これは、1つ以上の他の燃料添加剤を含有する添加剤パッケージの一部としても添加され得る。
【0101】
本発明のさらなる態様は、内燃機関、および/またはかかるエンジンによって動力が供給される車両を操作する方法を提供し、この方法は、上記の燃料組成物をエンジンの燃焼室に導入することを含む。この場合も、燃料組成物は、好ましくは、本発明に関連して記載される1つ以上の目的のために導入される。したがって、エンジンは、その潤滑性および/または加速性能および/または出力を向上する目的で、燃料組成物を用いて運転されることが好ましい。
【0102】
この場合も、エンジンは特にディーゼルエンジンであり得る。それはターボ過給エンジン、特にターボ過給ディーゼルエンジンであってよい。ディーゼルエンジンは、直接噴射式、例えば、ロータリーポンプ、インラインポンプ、ユニットポンプ、電子ユニットインジェクタまたはコモンレール式、または間接噴射式であってよい。それは、重負荷または軽負荷ディーゼルエンジンであってよい。それは特に電子ユニット直接噴射(EUDI)エンジンであり得る。
【0103】
本明細書の説明および特許請求の範囲全体を通して、「含む(comprise)」および「含有する(contain)」という語ならびにこれらの語の変形、例えば「含む(comprising)」および「含む(comprises)」は、「含むがこれに限定されない」ことを意味し、他の部分、添加物、成分、整数または工程を除外しない。
【0104】
本明細書の説明および特許請求の範囲全体を通して、文脈上別段の必要がない限り、単数形は複数形を包含する。特に、不定冠詞が使用される場合、本明細書は、文脈上別段の必要がない限り、単数だけでなく複数も意図するものとして理解されるべきである。
【0105】
本発明の各態様の好ましい特徴は、他の態様のいずれかに関連して記載した通りであり得る。
【0106】
本発明の他の特徴は、以下の実施例から明らかになるであろう。一般的に言えば、本発明は、本明細書(添付の任意の特許請求の範囲および図面を含む)に開示された特徴の任意の新規なもの、または任意の新規な組み合わせに及ぶ。したがって、本発明の特定の態様、実施形態または実施例に関連して記載される特徴、整数、特性、化合物、化学的部分または基は、矛盾しない限り、本明細書に記載される任意の他の態様、実施形態または実施例に適用可能であると理解されるべきである。
【0107】
さらに、特に明記しない限り、本明細書に開示される任意の特徴は、同じまたは同様の目的を果たす代替の特徴によって置き換えられ得る。
【0108】
以下の実施例は、本発明に従って調製された自動車燃料組成物の特性を示し、ディーゼルエンジンの性能に対するかかる組成物の効果を評価する。
【実施例】
【0109】
ディーゼルベース燃料(欧州ディーゼル燃料規格EN590に準拠)と粘度指数(VI)向上添加剤を組み合わせて燃料混合物を調製した。本実験で使用される粘度指数(VI)添加剤は、500mg/kgまたは1000mg/kgのいずれかの処理速度で、SV150、SV260、SV300およびSV600であった。
【0110】
SV150は、Infineumから市販されている直鎖状のジブロックポリマーであり、本実施例では比較として使用されている。
【0111】
SV260は、Infineumから市販されている星型スチレン-ポリイソプレンポリマーである。
【0112】
SV300は、Infineumから市販されている星型スチレン-ポリイソプレンポリマーである。
【0113】
SV600は、Infineumから市販されている星型スチレン-ポリイソプレンポリマーである。
【0114】
ディーゼルベース燃料に加える前に、VI向上添加剤をShellsol A150溶剤(Shellから市販)と予め混合した。VI向上添加剤対Shellsol A150の重量比は1:8であった。
【0115】
本実施例で使用されるディーゼルベース燃料の燃料仕様を、以下の表1に示す。
【表1-1】
【表1-2】
【0116】
出力利得の実証
Shellsol A150で予め混合されたVI添加剤を含有する上記の燃料混合物を、エンジンの出力性能に対するVI向上添加剤の効果を評価するためにベンチ試験エンジンで使用した。この調査のために選択されたベンチ試験エンジンはPSADW10Bであった。このエンジンは、CEC F-98-09(最新のDI自動車エンジンにおけるインジェクタノズルの汚れに関する業界標準試験)に規定されているため、エンジンの性能および特性を裏付ける膨大な量の履歴試験データが利用可能である。DW10B試験の詳細を以下の表2に列挙する。
【表2】
【0117】
4000回転/分の一定試験速度で、DW10B CEC仕様ノズルを使用して最大アクセルペダル位置(100%APP)を適用した。添加剤を含まないベース燃料と候補燃料との間で交互に、燃料当たり24分のサイクルでエンジンを運転し、出力を測定した。出力試験の結果を以下の表3に示す。出力利得(%)を、添加剤無添加ベース燃料(Shellsol A150を含有する)(表3の実施例1として指定)と比較する。
潤滑性の実証
【0118】
燃料混合物はまた、潤滑性を測定するために、HFRR試験(ISO 12156に準拠)を受けた。HFRR(高摩擦往復動リグ)は、燃料および潤滑剤の潤滑性能を評価するために用いられる、制御された往復動摩擦および摩耗試験装置である。この試験では、燃料を浸し、固定された鋼ディスクの平らな表面に直径6mmの鋼球で荷重をかけ往復運動させた。各試験の最後に、ボールおよびディスクを試験リグから取り出し、トルエンおよびイソプロパノールですすぎ、次いで、0.05重量%のエチレンジアミン四酢酸(EDTA)の溶液で60秒間処理した。次いで、SWLI Veeco Wyko model NT9100を使用して、ボールおよびディスクの摩耗痕の摩耗量を判定するために、トポグラフィー画像を取得し分析した。この装置を垂直走査干渉法(VSI)モードに設定し、ナノメートル検出範囲で粗い表面を測定するために較正した。HFRR試験の結果を以下の表4に示す。摩耗痕の直径の変化率(%)を、無添加ベース燃料(Shellsol A150を含有する)(表4の実施例8として指定)と比較する。変化率がマイナスである結果は、利益を示す。
【表3】
【0119】
考察
星型スチレン-ポリイソプレンポリマーSV300を含有する燃料混合物は、直鎖状のジブロックポリマーSV150(実施例2および3を参照)を含有する燃料混合物と比較して、出力利得(1000mg/kgおよび500mg/kgの両方で)の有意な増加を示した(実施例4および5を参照)。
【0120】
星型のスチレン-ポリイソプレンポリマーSV600を1000mg/kgで含有する燃料混合物は、ベース燃料と比較して出力利得の増加を示した(実施例6および7を参照)。星型スチレン-ポリイソプレンポリマーSV600を1000mg/kgで含有する燃料混合物は、直鎖状のジブロックポリマーSV150を含有する燃料ブレンドほど大きな出力利得を示さなかったが、著しく優れた潤滑性能を示した(実施例6および13を参照)。
【0121】
1000mg/kgの星型スチレン-ポリイソプレンポリマーSV260を含有する燃料混合物(実施例15)は、1000mg/kgのSV150を含有する燃料混合物(実施例9)と比較して向上した潤滑性能を示した。
本明細書は以下の発明の態様を包含する。
[1]
ベース燃料および少なくとも1つの粘度指数(VI)向上添加剤を含む燃料組成物であって、前記粘度指数(VI)向上添加剤は星型ポリイソプレン系ポリマーである燃料組成物。
[2]
前記星型のポリイソプレン系ポリマーは、以下の式によって特徴付けられ、
(D’-PA-D’’)n-X;
式中、D’は少なくとも1つのジエンに誘導されたブロックを表し、PAはモノアルケニルアレーンから誘導されたブロックを表し、D’’はジエンから誘導されたブロックを表し、nはアーム1モル当たり2モル以上のポリアルケニルカップリング剤の反応によって形成される星型ポリマー当たりのアームの平均数を表し、Xはポリアルケニルカップリング剤の核を表し、
ジエンブロックD’およびD’’の少なくとも1つは、混合ジエンモノマーから誘導されるコポリマーブロックであり、組み込まれるモノマー単位の約65重量%~約95重量%がイソプレンから、および組み込まれるモノマー単位の約5重量%~35重量%がブタジエンからのものであり、少なくとも約80重量%のブタジエンが1,4-配置で組み込まれ、
D’は、約10,000~約120,000ダルトンの数平均分子量を有し、PAは約10,000~約50,000ダルトンの数平均分子量を有し、D’’は、約5000~約60,000ダルトンの数平均分子量を有する、[1]に記載の燃料組成物。
[3]
前記星型ポリイソプレン系ポリマーは、水素化ポリイソプレンまたはポリ(交互エチレンープロピレン)のアームを備えた架橋ポリスチレンコアを含む、[1]に記載の燃料組成物。
[4]
前記燃料組成物は、ディーゼル燃料組成物である、[1]~[3]のいずれか一項に記載の燃料組成物。
[5]
前記燃料組成物中のVI向上添加剤の濃度は、0.001~0.5%w/w、好ましくは0.05~0.25%w/wである、[1]~[4]のいずれか一項に記載の燃料組成物。
[6]
前記燃料組成物の潤滑性を向上させる目的のための、自動車燃料組成物での粘度指数(VI)向上添加剤の使用であって、前記粘度指数(VI)向上添加剤は、星型のポリイソプレン系ポリマーである、使用。
[7]
粘度指数(VI)向上添加剤、または前記粘度指数(VI)向上添加剤を含有する自動車燃料組成物が導入されるかもしくは導入されることが意図される内燃機関、またはかかるエンジンによって動力が供給される車両の動力出力を向上させる目的のための、自動車燃料組成物における粘度指数(VI)向上添加剤の使用であって、前記粘度指数(VI)向上添加剤は、星型のポリイソプレン系ポリマーである、使用。
[8]
粘度指数(VI)向上添加剤、または前記粘度指数(VI)向上添加剤を含有する自動車燃料組成物が導入されるかもしくは導入されることが意図される内燃機関、またはかかるエンジンによって動力が供給される車両の出力を向上させると同時に、前記燃料組成物の潤滑性を向上させる目的のための、自動車燃料組成物における粘度指数(VI)向上添加剤の使用であって、前記粘度指数(VI)向上添加剤は、星型のポリイソプレン系ポリマーである、使用。
[9]
前記VI向上添加剤は、溶媒または燃料成分に予め溶解されている、[1]~[8]のいずれか一項に記載の使用。
[10]
内燃機関および/またはかかるエンジンによって動力が供給される車両を操作する方法であって、[1]~[5]のいずれか一項に記載の燃料組成物を前記エンジンの燃焼室に導入することを含む、方法。