(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】光学積層体
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20231220BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20231220BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20231220BHJP
C09J 7/38 20180101ALI20231220BHJP
C09J 7/40 20180101ALI20231220BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
G02B5/30
B32B7/023
B32B27/30 102
C09J7/38
C09J7/40
C09J201/00
(21)【出願番号】P 2021540644
(86)(22)【出願日】2020-06-19
(86)【国際出願番号】 JP2020024145
(87)【国際公開番号】W WO2021033406
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2021-12-06
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2019151176
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】姜 太艶
(72)【発明者】
【氏名】澤田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】三田 聡司
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】廣田 健介
【審判官】井口 猶二
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-120120(JP,A)
【文献】特開2018-202656(JP,A)
【文献】国際公開第2018/186244(WO,A1)
【文献】特開2015-146013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B5/30
G02F1/1335
G02F1/13363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光板と、該偏光板の一方の側に設けられた粘着剤層と、該粘着剤層の該偏光板と反対側に剥離可能に仮着されたセパレーターと、該偏光板の該粘着剤層と反対側に剥離可能に仮着された表面保護フィルムと、を備え、
該偏光板の厚みが60μm以下であり、
該表面保護フィルムの厚みが40μm以上であり、
該表面保護フィルムの剥離力が0.10N/25mm~0.50N/25mmであり、
該表面保護フィルムの弾性率が2.00×10
9Pa以上であり、
該セパレーターの厚みが35μm~80μmであり、
該セパレーターの剥離力が
0.10N/25mm未満である、
光学積層体。
【請求項2】
前記偏光板が、ヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成された偏光子を含む、請求項1に記載の光学積層体。
【請求項3】
前記偏光子の厚みが10μm以下である、請求項2に記載の光学積層体。
【請求項4】
前記偏光子のヨウ素含有量が10重量%~25重量%である、請求項2または3に記載の光学積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
代表的な画像表示装置である液晶表示装置には、その画像形成方式に起因して、液晶セルの両側に偏光子が配置されている。偏光子は、代表的には、ポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムをヨウ素等の二色性物質で染色することにより製造される(例えば、特許文献1および2)。近年、画像表示装置の薄型化の要望が高まっている。そのため、偏光子についても、さらなる薄型化が求められている。薄型の偏光子(実用的には、当該偏光子を含む偏光板)は、例えば、粘着剤層、表面保護フィルムおよびセパレーターを積層した光学積層体として提供され得る。しかし、このような光学積層体においては、搬送性が不十分である、表面保護フィルムおよびセパレーターの剥離性が不十分である等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5048120号公報
【文献】特開2013-156391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、薄型の偏光板、表面保護フィルムおよびセパレーターを有する光学積層体であって、搬送性に優れ、かつ、表面保護フィルムおよびセパレーターの剥離性に優れた光学積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の光学積層体は、偏光板と、該偏光板の一方の側に設けられた粘着剤層と、該粘着剤層の該偏光板と反対側に剥離可能に仮着されたセパレーターと、該偏光板の該粘着剤層と反対側に剥離可能に仮着された表面保護フィルムと、を備え、該偏光板の厚みは60μm以下であり、該表面保護フィルムの厚みは40μm以上であり、該表面保護フィルムの剥離力は0.10N/25mm~0.50N/25mmであり、該表面保護フィルムの弾性率は2.00×109Pa以上であり、該セパレーターの厚みは35μm~80μmであり、該セパレーターの剥離力は0.28N/25mm未満である。
1つの実施形態においては、上記偏光板はヨウ素を含むポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成された偏光子を含む。
1つの実施形態においては、上記偏光子の厚みは10μm以下である。
1つの実施形態においては、上記偏光子のヨウ素含有量は10重量%~25重量%である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、薄型の偏光板、表面保護フィルムおよびセパレーターを含む光学積層体において、当該表面保護フィルムの厚み、剥離力および弾性率、ならびに当該セパレーターの厚みおよび剥離力を最適化することにより、搬送性に優れ、かつ、表面保護フィルムおよびセパレーターの剥離性に優れた光学積層体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の1つの実施形態による光学積層体の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
A.光学積層体の全体構成
図1は、本発明の1つの実施形態による光学積層体の概略断面図である。図示例の光学積層体100は、表面保護フィルム10と、偏光板20と、粘着剤層30と、セパレーター40とを有する。偏光板20の厚みは60μm以下である。さらに、表面保護フィルム10の厚みは40μm以上であり、その剥離力は0.10N/25mm~0.50N/25mmであり、その弾性率は2.00×10
9Pa以上である。さらに、セパレーター40の厚みは35μm~80μmであり、その剥離力は0.28N/25mm未満である。以下、光学積層体の構成要素について、より詳細に説明する。
【0010】
B.偏光板
偏光板20は、代表的には、偏光子22とその片側または両側に配置された保護層とを有する。好ましくは、図示例のように、偏光板20においては、保護層21が偏光子22の片側に配置される。偏光板の厚みは60μm以下であり、好ましくは40μm以下であり、さらに好ましくは35μm以下である。偏光板の厚みの下限は、例えば20μmであり得る。
【0011】
B-1.偏光子
偏光子22は、代表的には、ヨウ素を含有するポリビニルアルコール(PVA)系樹脂フィルムで構成される。
【0012】
偏光子は、その厚みの上限が、1つの実施形態においては10μmであり、別の実施形態においては3μmである。厚みの下限は、1つの実施形態においては1μmである。
【0013】
偏光子のヨウ素含有量は、十分な偏光性能と最適な単体透過率とを両立するよう適切に設定され得る。ヨウ素含有量は、好ましくは10重量%~25重量%であり、より好ましくは15重量%~25重量%である。本発明の実施形態に用いられる偏光子は、このようにきわめて高いヨウ素含有量を有するにもかかわらず、従来は困難であった非常に優れた耐熱性を実現することができる。より詳細には、きわめて高いヨウ素含有量を有する偏光子において、高温環境下における光学特性の変化を顕著に抑制することができる。本明細書において「ヨウ素含有量」とは、偏光子(PVA系樹脂フィルム)中に含まれるすべてのヨウ素の量を意味する。より具体的には、偏光子中においてヨウ素はヨウ素イオン(I-)、ポリヨウ素イオン(I3
-、I5
-)等の形態で存在するところ、本明細書におけるヨウ素含有量は、これらの形態をすべて包含したヨウ素の量を意味する。ヨウ素含有量は、例えば、蛍光X線分析の検量線法により算出することができる。なお、ポリヨウ素イオンは、偏光子中でPVA-ヨウ素錯体を形成した状態で存在している。このような錯体が形成されることにより、可視光の波長範囲において吸収二色性が発現し得る。具体的には、PVAと三ヨウ化物イオンとの錯体(PVA・I3
-)は470nm付近に吸光ピークを有し、PVAと五ヨウ化物イオンとの錯体(PVA・I5
-)は600nm付近に吸光ピークを有する。結果として、ポリヨウ素イオンは、その形態に応じて可視光の幅広い範囲で光を吸収し得る。一方、ヨウ素イオン(I-)は230nm付近に吸光ピークを有し、可視光の吸収には実質的には関与しない。したがって、PVAとの錯体の状態で存在するポリヨウ素イオンが、主として偏光子の吸収性能に関与し得る。
【0014】
偏光子の単体透過率(Ts)は、好ましくは30.0%~43.0%であり、より好ましくは35.0%~41.0%である。偏光子の偏光度は、好ましくは99.9%以上であり、より好ましくは99.95%以上であり、さらに好ましくは99.98%以上である。単体透過率を低く設定し偏光度を高くすることにより、コントラストを高くすることができ、黒表示をより黒く表示できるので、優れた画質の画像表示装置を実現することができる。なお、単体透過率は、積分球付き分光光度計で測定した値である。単体透過率は、JIS Z8701の2度視野(C光源)により測定して視感度補正を行なったY値であり、例えば、積分球付き分光光度計(日本分光株式会社製、製品名:V7100)を用いて測定することができる。
【0015】
B-2.PVA系樹脂フィルム
PVA系樹脂フィルムを形成するPVA系樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体が挙げられる。ポリビニルアルコールは、ポリ酢酸ビニルをケン化することにより得られる。エチレン-ビニルアルコール共重合体は、エチレン-酢酸ビニル共重合体をケン化することにより得られる。PVA系樹脂のケン化度は、通常85モル%以上100モル%未満であり、好ましくは95.0モル%~99.95モル%、さらに好ましくは99.0モル%~99.93モル%である。ケン化度は、JIS K 6726-1994に準じて求めることができる。このようなケン化度のPVA系樹脂を用いることによって、耐久性に優れた偏光子を得ることができる。ケン化度が高すぎる場合には、ゲル化してしまうおそれがある。
【0016】
PVA系樹脂フィルムの厚みは、特に制限はなく、所望の偏光子の厚みに応じて設定され得る。PVA系樹脂フィルムの厚みは、例えば、10μm~200μmである。
【0017】
1つの実施形態においては、PVA系樹脂フィルムは、基材上に形成されたPVA系樹脂層であってもよい。基材とPVA系樹脂層との積層体は、例えば、上記PVA系樹脂を含む塗布液を基材に塗布する方法、基材にPVA系樹脂フィルムを積層する方法により得ることができる。基材としては、任意の適切な樹脂基材を用いることができ、例えば、熱可塑性樹脂基材を用いることができる。
【0018】
B-3.保護層
保護層としては、任意の適切な樹脂フィルムが用いられる。樹脂フィルムの形成材料としては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂、ジアセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル系樹脂」とは、アクリル系樹脂および/またはメタクリル系樹脂をいう。
【0019】
1つの実施形態においては、上記(メタ)アクリル系樹脂として、グルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル系樹脂が用いられる。グルタルイミド構造を有する(メタ)アクリル系樹脂(以下、グルタルイミド樹脂とも称する)は、例えば、特開2006-309033号公報、特開2006-317560号公報、特開2006-328329号公報、特開2006-328334号公報、特開2006-337491号公報、特開2006-337492号公報、特開2006-337493号公報、特開2006-337569号公報、特開2007-009182号公報、特開2009-161744号公報、特開2010-284840号公報に記載されている。これらの記載は、本明細書に参考として援用される。
【0020】
基材とPVA系樹脂層との積層体を用いて偏光子を製造する場合には、基材を剥離せずにそのまま保護層として用いてもよい。また、基材を剥離して偏光子に保護層を貼り合わせてもよい。
【0021】
保護層の厚みは、好ましくは5mm以下であり、より好ましくは1mm以下であり、さらに好ましくは1μm~500μmであり、最も好ましくは5μm~150μmである。なお、表面処理が施されている場合、保護層の厚みは、表面処理層の厚みを含めた厚みである。
【0022】
保護層は、任意の適切な接着層(接着剤層、粘着剤層)を介して偏光子に貼り合わせられる。
【0023】
C.表面保護フィルム
図示例のように、表面保護フィルム10は、偏光板20の粘着剤層30と反対側に剥離可能に仮着される。より詳細には、表面保護フィルム10は基材フィルムと粘着剤層とを含み、該粘着剤層を介して表面保護フィルム10と偏光板20とが貼り合わされる。
【0024】
C-1.基材フィルム
表面保護フィルムの基材フィルムは、任意の適切な樹脂フィルムで構成され得る。樹脂フィルムの形成材料としては、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重合体樹脂等が挙げられる。好ましくは、エステル系樹脂(特に、ポリエチレンテレフタレート系樹脂)である。このような材料であれば、弾性率が十分に高く、搬送および/または貼り合わせ時に張力をかけても変形が生じにくいという利点がある。
【0025】
基材フィルムの厚みは、好ましくは38μm以上であり、より好ましくは48μm以上である。基材フィルムの厚みの上限は、例えば128μmであり得る。このような厚みであれば、搬送および/または貼り合わせ時に張力をかけても変形が生じにくいという利点を有する。
【0026】
C-2.粘着剤層
上記表面保護フィルムにおける粘着剤層を形成する粘着剤としては、任意の適切な粘着剤が採用され得る。粘着剤のベース樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、シリコーン系樹脂が挙げられる。耐薬品性、浸漬時における処理液の浸入を防止するための密着性、被着体への自由度等の観点から、アクリル系樹脂が好ましい。粘着剤に含まれ得る架橋剤としては、例えば、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アジリジン化合物が挙げられる。粘着剤は、例えばシランカップリング剤を含んでいてもよい。粘着剤の配合処方は、目的に応じて適切に設定され得る。
【0027】
上記粘着剤層の厚みは、好ましくは2μm以上であり、より好ましくは5μm以上である。厚みの上限は、例えば40μmである。
【0028】
C-3.表面保護フィルムの特性
表面保護フィルムの厚みは40μm以上であり、好ましくは50μm以上である。表面保護フィルムの厚みの上限は、例えば130μmであり得る。なお、表面保護フィルムの厚みとは、基材フィルムと粘着剤層の厚みの合計をいう。表面保護フィルムの厚みがこのような範囲であることにより、搬送性に優れた光学積層体が得られ得る。表面保護フィルムの厚みが40μmより薄いと、搬送性が不十分になり得る。
【0029】
表面保護フィルムの剥離力は、0.10N/25mm~0.50N/25mmであり、好ましくは0.10N/25mm~0.35N/25mmである。表面保護フィルムの剥離力がこのような範囲であることにより、表面保護フィルムおよびセパレーターの剥離性に優れた光学積層体が得られ得る。表面保護フィルムの剥離力が0.10N/25mmより小さいとセパレーターの剥離の際に表面保護フィルム浮きが起こり得る。さらに、0.50N/25mmより大きいと、表面保護フィルムの剥離の際にデラミが発生し得る。
【0030】
表面保護フィルムの弾性率は2.00×109Pa以上であり、好ましくは2.50×109Pa以上である。表面保護フィルムの弾性率の上限は、8.00×109Paであり得る。表面保護フィルムの弾性率がこのような範囲であることにより、搬送性に優れた光学積層体が得られ得る。表面保護フィルムの弾性率が2.00×109Paより小さいと搬送中にフィルムのシワ、折れが発生する場合がある。
【0031】
D.粘着剤層
粘着剤層30は、代表的にはアクリル系粘着剤で構成され得る。図示例のように、粘着剤層30は、偏光板20の一方の面に形成され、液晶パネルと偏光板20とを貼着する目的で設けられる。
【0032】
粘着剤層の厚みは、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは50μm以下であり、さらに好ましくは30μm以下である。厚みの下限は、例えば1μmであり得る。
【0033】
E.セパレーター
図示例のように、セパレーター40は、粘着剤層30の偏光板20と反対側に剥離可能に仮着され得る。セパレーターは、実際の使用まで粘着剤層を保護するとともに、偏光板のロール形成を可能としている。
【0034】
セパレーターの形成材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系樹脂等のエステル系樹脂、ノルボルネン系樹脂等のシクロオレフィン系樹脂、ポリプロピレン等のオレフィン樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、これらの共重体樹脂が挙げられる。好ましくは、エステル系樹脂(特に、ポリエチレンテレフタレート系樹脂)である。
【0035】
セパレーターの厚みは35μm~80μmであり、好ましくは40μm~60μmである。セパレーターの厚みがこのような範囲であることにより、搬送性に優れ、かつ、セパレーターの剥離性に優れた光学積層体が得られ得る。セパレーターの厚みが35μmより薄いと、搬送性が不十分になり得る。さらに、セパレーターの厚みが80μmより厚いと、セパレーターの剥離の際にピックアップ不良が起こり得る。
【0036】
セパレーターの剥離力は0.28N/25mm未満であり、好ましくは0.10N/25mm未満である。セパレーターの剥離力がこのような範囲であることにより、セパレーターの剥離性に優れた光学積層体が得られ得る。セパレーターの剥離力が0.28N/25mm以上であるとセパレーターの剥離の際にピックアップ不良が起こり得る。
【0037】
F.光学積層体の製造方法
F-1.偏光子
本発明の実施形態による偏光子の製造方法は、PVA系樹脂フィルムを、少なくとも延伸および染色することを含む。代表的には、当該製造方法は、PVA系樹脂フィルムを準備する工程、延伸工程、染色工程、架橋工程、洗浄工程、および乾燥工程を含む。また、必要に応じて延伸工程の前に膨潤工程を有してもよい。PVA系樹脂フィルムが供される各工程は、任意の適切な順序およびタイミングで行われ得る。したがって、各工程を上記の順序で行ってもよく、上記とは異なる順序で行ってもよい。必要に応じて、1つの工程を複数回行ってもよい。さらに、上記以外の工程(例えば、不溶化工程)を任意の適切なタイミングで行ってもよい。なお、PVA系樹脂フィルムが基材上に形成されたPVA系樹脂層である場合、基材とPVA系樹脂層との積層体が上記の工程に供される。
【0038】
以下、各工程について説明するが、上記のとおり各工程は任意の適切な順序で行われ得、記載順序に限定されるものではない。
【0039】
(延伸工程)
延伸工程において、PVA系樹脂フィルムは、代表的には3倍~7倍に一軸延伸される。延伸方向は、フィルムの長手方向(MD方向)であってもよく、フィルムの幅方向(TD方向)であってもよい。延伸方法は、乾式延伸であってもよく、湿式延伸であってもよく、これらを組み合せてもよい。また、架橋工程、膨潤工程、染色工程等を行う際にPVA系樹脂フィルムを延伸してもよい。なお、延伸方向は、得られる偏光子の吸収軸方向に対応し得る。
【0040】
(膨潤工程)
膨潤工程は、通常、染色工程の前に行われる。膨潤工程は、例えば、PVA系樹脂フィルムを膨潤浴に浸漬することにより行われる。膨潤浴としては、通常、蒸留水、純水等の水が用いられる。膨潤浴は、水以外の任意の適切な他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、アルコール等の溶媒、界面活性剤等の添加剤、ヨウ化物等が挙げられる。ヨウ化物としては、例えば、ヨウ化カリウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化亜鉛、ヨウ化アルミニウム、ヨウ化鉛、ヨウ化銅、ヨウ化バリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化錫、ヨウ化チタンが挙げられる。好ましくは、ヨウ化カリウムが用いられる。膨潤浴の温度は、例えば、20℃~45℃である。また、浸漬時間は、例えば、10秒~300秒である。
【0041】
(染色工程)
染色工程は、PVA系樹脂フィルムを二色性物質で染色する工程である。好ましくは二色性物質を吸着させることにより行う。当該吸着方法としては、例えば、二色性物質を含む染色液にPVA系樹脂フィルムを浸漬させる方法、PVA系樹脂フィルムに当該染色液を塗工する方法、当該染色液をPVA系樹脂フィルムに噴霧する方法が挙げられる。好ましくは、染色液にPVA系樹脂フィルムを浸漬させる方法である。二色性物質が良好に吸着し得るからである。
【0042】
上記二色性物質としては、例えば、ヨウ素、二色性染料が挙げられる。好ましくは、ヨウ素である。二色性物質としてヨウ素を用いる場合、染色液としては、ヨウ素水溶液が好ましく用いられる。ヨウ素水溶液のヨウ素の含有量は、水100重量部に対して、好ましくは0.04重量部~5.0重量部である。ヨウ素の水に対する溶解度を高めるため、ヨウ素水溶液にヨウ化物を配合することが好ましい。ヨウ化物としては、ヨウ化カリウムが好ましく用いられる。ヨウ化物の含有量は、水100重量部に対して、好ましくは0.3重量部~15重量部である。
【0043】
染色液の染色時の液温は、任意の適切な値に設定することができ、例えば、20℃~50℃である。染色液にPVA系樹脂フィルムを浸漬させる場合、浸漬時間は、例えば、5秒~5分である。
【0044】
(架橋工程)
架橋工程においては、通常、架橋剤としてホウ素化合物が用いられる。ホウ素化合物としては、例えば、ホウ酸、ホウ砂が挙げられる。好ましくは、ホウ酸である。架橋工程においては、ホウ素化合物は、通常、水溶液の形態で用いられる。
【0045】
ホウ酸水溶液を用いる場合、ホウ酸水溶液のホウ酸濃度は、例えば、1重量%~15重量%であり、好ましくは1重量%~10重量%である。ホウ酸水溶液には、ヨウ化カリウム等のヨウ化物、硫酸亜鉛、塩化亜鉛等の亜鉛化合物をさらに含有させてもよい。
【0046】
架橋工程は、任意の適切な方法により行うことができる。例えば、ホウ素化合物を含む水溶液にPVA系樹脂フィルムを浸漬する方法、ホウ素化合物を含む水溶液をPVA系樹脂フィルムに塗布する方法、または、ホウ素化合物を含む水溶液をPVA系樹脂フィルムに噴霧する方法が挙げられる。ホウ素化合物を含む水溶液に浸漬することが好ましい。
【0047】
架橋に用いる溶液の温度は、例えば、25℃以上であり、好ましくは30℃~85℃、さらに好ましくは40℃~70℃である。浸漬時間は、例えば、5秒~800秒であり、好ましくは8秒~500秒である。
【0048】
(洗浄工程)
洗浄工程は、代表的には、架橋工程以降に行われ得る。洗浄工程は、代表的には、PVA系樹脂フィルムを洗浄液に浸漬させることにより行われる。洗浄液の代表例としては、純水が挙げられる。純水にヨウ化カリウムを添加してもよい。
【0049】
洗浄液の温度は、例えば5℃~50℃である。浸漬時間は、例えば1秒~300秒である。
【0050】
(乾燥工程)
乾燥工程は、任意の適切な方法により行うことができる。乾燥方法としては、例えば、自然乾燥、送風乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥が挙げられる。加熱乾燥が好ましく用いられる。乾燥時間短縮の観点から、加熱乾燥を行う場合、加熱温度は、例えば、30℃~100℃である。別の実施形態においては、好ましくは50℃以下であり、より好ましくは45℃以下であり、さらに好ましくは40℃以下である。加熱温度の下限は、特に限定されないが加熱乾燥装置で設定し得る下限温度である。例えば30℃である。乾燥工程の加熱温度をこのような範囲にすることにより、偏光子の遊離ホウ酸含有量を所定範囲内に調整することができる。また、乾燥時間は、例えば、20秒~10分間である。1つの実施形態においては、2段階以上で加熱乾燥を行う。この場合、好ましくは、少なくともいずれかの段階の加熱温度が上記範囲内の温度である。加熱乾燥を行う場合に加熱温度を上記の範囲内とすることにより、非常に優れた耐熱性を有する偏光子が得られ得る。
【0051】
F-2.偏光板
上記F-1で得られた偏光子の表面(樹脂基材とは反対側の面)に、保護層としての樹脂フィルムを貼り合わせる。次いで、該樹脂基材を剥離することで、保護層/偏光子の構成を有する偏光板が得られ得る。必要に応じて、剥離面に別の保護層となる樹脂フィルムを貼り合わせてもよい。
【0052】
F-3.光学積層体
上記F-2で得られた偏光板の偏光子側に粘着剤層を形成し、該粘着剤層表面にセパレーターを剥離可能に仮着する。さらに、該偏光板の粘着剤層と反対側の面に、表面保護フィルムを剥離可能に仮着することにより、光学積層体100が得られ得る。
【実施例】
【0053】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。なお、各特性の測定方法は以下の通りである。
【0054】
(1)搬送性
偏光板の表面をガイドロールに接触させながら搬送する工程で、偏光板の折れ、キズ等が発生するかを目視で確認する。搬送速度は5m/min~30m/minとした。
〇:問題なく搬送できる。
△:搬送中ロールに巻き込まれるが、折れ、キズ等は発生しない。
×:搬送中ロールに巻き込まれ、折れ、キズ等が発生する。
(2)表面保護フィルムの剥離評価
表面保護フィルムの角にきっかけテープ(ニチバン社製、セロテープ(登録商標)CT-24)を貼り、表面保護フィルムを剥離する際の剥離状態を目視で確認する。
〇:問題なく表面保護フィルムを剥離できる。
△:まれにきっかけテープに表面保護フィルムが追従しない。成功率は80%~100%である。
×:きっかけテープに表面保護フィルムが追従しない。成功率は80%以下である。表面保護フィルムを剥離できても、セパレーターの浮き、偏光板のデラミが発生する。
(3)セパレーターの剥離評価
セパレーターの角にきっかけテープ(ニチバン社製、セロテープ(登録商標)CT-24)を貼り、セパレーターを剥離する際の剥離状態を目視で確認する。
〇:問題なくセパレーターを剥離できる。
△:まれにきっかけテープにセパレーターフィルムが追従しない。成功率は80%~100%である。
×:きっかけテープにセパレーターフィルムが追従しない。成功率は80%以下である。もしくは表面保護フィルム/偏光板の間で剥離する。
(4)表面保護フィルムの剥離力
上記光学積層体を25mm×150mmの大きさにカットし、セパレーターを剥離した後、粘着剤層面とガラスとが接するように貼り合わせた。表面保護フィルムを、粘着皮膜剥離解析装置(協和界面科学株式会社製、型式:VPA-2)を用いて90°方向に300mm/分の速度で剥離した際の応力(N/25mm)を測定した。測定温度は25℃とした。
(5)セパレーターの剥離力
上記光学積層体を25mm×150mmの大きさにカットし、両面テープ付ガラス(日東電工社製、No.500)に表面保護フィルム面と両面テープが接するように貼り合わせた。セパレーターを粘着皮膜剥離解析装置(協和界面科学株式会社製、型式:VPA-2)を用いて90°方向に300mm/分の速度で剥離した際の応力(N/25mm)を測定した。測定温度は25℃とした。
【0055】
[実施例1]
熱可塑性樹脂基材として、吸水率0.75%、Tg75℃の非晶質のイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート(IPA共重合PET)フィルム(厚み:100μm)を用いた。基材の片面に、コロナ処理を施し、このコロナ処理面に、ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(重合度1200、アセトアセチル変性度4.6%、ケン化度99.0モル%以上、日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマーZ200」)を9:1の比で含む水溶液を25℃で塗布および乾燥して、厚み11μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、テンター延伸機を用いて、140℃で積層体の長手方向と直交する方向に4.5倍空中延伸した(延伸処理)。
次いで、積層体を液温25℃の染色浴(ヨウ素濃度1.4重量%およびヨウ化カリウム濃度9.8重量%の水溶液)に12秒間浸漬させ、染色した(染色処理)。
次いで、積層体を液温25℃の洗浄浴(純水)に6秒間浸漬させた(第1洗浄処理)。
次いで、液温60℃の架橋浴(ホウ素濃度1重量%およびヨウ化カリウム濃度1重量%の水溶液)に16秒間浸漬させた(架橋処理)。
次いで、積層体を液温25℃の洗浄浴(ヨウ化カリウム濃度1重量%の水溶液)に3秒間浸漬させた(第2洗浄処理)。
次いで、積層体を40℃のオーブンで8秒間乾燥させた(第1乾燥処理)。
最後に、積層体を40℃のオーブンで13秒間乾燥させ(第2乾燥処理)、厚み1.2μmのPVA系樹脂層(偏光子)を有する積層体(偏光板)を得た。得られた偏光子のヨウ素含有量は18.6重量%、単体透過率は39.9%であった。
上記で得られた偏光板の偏光子側表面に粘着剤層を形成し、該粘着剤層表面にセパレーターを剥離可能に仮着した。さらに、偏光板の粘着剤層と反対側の面に、表面保護フィルムを剥離可能に仮着し、光学積層体を得た。得られた光学積層体を上記(1)~(3)の評価に供した。結果を表1に示す。
【0056】
[実施例2~12および比較例1~10]
表1に示すように、表面保護フィルムの厚み、剥離力および弾性率、ならびにセパレーターの厚みおよび剥離力を変更したこと以外は実施例1と同様にして、光学積層体を得た。得られた光学積層体を実施例1と同様の評価に供した。結果を表1に示す。
【表1】
【0057】
表1から明らかなように、本発明の実施例(特に、実施例1)の光学積層体は、搬送性に優れ、かつ、表面保護フィルムの剥離性およびセパレーターの剥離性において優れていることが分かる。
比較例1より、表面保護フィルムの厚みが40μm未満であると搬送性が不十分となることが分かる。比較例2および比較例5より、表面保護フィルムの剥離力が0.50N/25mmを超えると表面保護フィルムの剥離の際にデラミが発生することが分かり、比較例3および比較例4より、表面保護フィルムの剥離力が0.10N/25mm未満であるとセパレーター剥離の際に表面保護フィルムの浮きが発生することが分かる。比較例9より、表面保護フィルムの弾性率が2.00×109Pa以下であると、搬送中にシワが発生することがわかる。さらに、比較例6および比較例7より、セパレーターの厚みが35μm未満であると搬送性が不十分となることが分かり、比較例10より、セパレーターの厚みが80μmを超えるとセパレーター剥離の際にピックアップ不良が起こることがわかる。比較例8より、セパレーターの剥離力が0.28N/25mmを超えるとセパレーターの剥離の際にピックアップ不良が起こることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明の光学積層体は、画像表示装置に好適に用いられ得る。
【符号の説明】
【0059】
10 表面保護フィルム
20 偏光板
21 保護層
22 偏光子
30 粘着剤層
40 セパレーター
100 光学積層体