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特許7406581油脂中にED-71およびそのエポキシ体を含む油分分散体を含む医薬組成物
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  • 特許-油脂中にED-71およびそのエポキシ体を含む油分分散体を含む医薬組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】油脂中にED-71およびそのエポキシ体を含む油分分散体を含む医薬組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/593 20060101AFI20231220BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20231220BHJP
   A61K 9/28 20060101ALI20231220BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20231220BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20231220BHJP
   A61P 19/10 20060101ALI20231220BHJP
【FI】
A61K31/593
A61K9/14
A61K9/28
A61K47/26
A61K47/38
A61P19/10
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022018843
(22)【出願日】2022-02-09
(62)【分割の表示】P 2020527627の分割
【原出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2022065053
(43)【公開日】2022-04-26
【審査請求日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2018121761
(32)【優先日】2018-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100122644
【弁理士】
【氏名又は名称】寺地 拓己
(74)【代理人】
【識別番号】100188374
【弁理士】
【氏名又は名称】一宮 維幸
(72)【発明者】
【氏名】杉本 健二
(72)【発明者】
【氏名】新居 啓司
(72)【発明者】
【氏名】篠倉 潔
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特許第6905538(JP,B2)
【文献】特開2006-298774(JP,A)
【文献】特開2005-103148(JP,A)
【文献】特開平10-182687(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ED-71および(1R,2R,3R,5Z)-2-(3-ヒドロキシプロポキシ)-7,8-エポキシ-9,10(19)-セココレスタ-5,10-ジエン-1,3,25-トリオールを含む医薬組成物および脱酸素剤が包装形態内に気密状態で封入された製品の製造方法であって、
ED-71の油脂溶液と水溶性高分子の水溶液とを含む水中油型乳化液を調製する工程、
水中油型乳化液を賦形剤に付着または吸着させる工程、
水中油型乳化液を乾燥させる工程、および
前記工程で得られたED-71および(1R,2R,3R,5Z)-2-(3-ヒドロキシプロポキシ)-7,8-エポキシ-9,10(19)-セココレスタ-5,10-ジエン-1,3,25-トリオールを含む医薬組成物を脱酸素剤と包装形態内に気密状態で封入する工程
を含み、
ここで前記水溶性高分子は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースから選択され、
前記製品中の(1R,2R,3R,5Z)-2-(3-ヒドロキシプロポキシ)-7,8-エポキシ-9,10(19)-セココレスタ-5,10-ジエン-1,3,25-トリオールの含有量が1.2%以下である、前記方法。
【請求項2】
水中油型乳化液と賦形剤との重量比が、1:4~1:20である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
賦形剤が、糖または糖アルコール類から選択される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
賦形剤がマンニトールである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ED-71および(1R,2R,3R,5Z)-2-(3-ヒドロキシプロポキシ)-7,8-エポキシ-9,10(19)-セココレスタ-5,10-ジエン-1,3,25-トリオールを含む医薬組成物および脱酸素剤が包装形態内に気密状態で封入された製品であって、
賦形剤中または賦形剤の表面に、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースから選択される水溶性高分子を含む被覆剤で被覆された粒子を含み、
当該粒子は、ED-71の油脂溶液を含み、
(1R,2R,3R,5Z)-2-(3-ヒドロキシプロポキシ)-7,8-エポキシ-9,10(19)-セココレスタ-5,10-ジエン-1,3,25-トリオールの含有量が1.2%以下である、前記製品。
【請求項6】
賦形剤が、糖または糖アルコール類から選択される、請求項5に記載の製品。
【請求項7】
賦形剤がマンニトールである、請求項6に記載の製品。
【請求項8】
HPMCフィルムでコーティングされたコーティング錠である、請求項5~7のいずれか1項に記載の製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂中に(5Z,7E)-(1R,2R,3R)-2-(3-ヒドロキシプロポキシ)-9,10-セココレスタ-5,7,10(19)-トリエン-1,3,25-トリオール(以下、ED-71または化合物1とも称する)および(1R,2R,3R,5Z)-2-(3-ヒドロキシプロポキシ)-7,8-エポキシ-9,10(19)-セココレスタ-5,10-ジエン-1,3,25-トリオール(以下、ED-71エポキシドとも称する)を含む医薬組成物およびその製造方法、ED-71の酸化または分解を抑制する方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
ED-71(一般名:エルデカルシトール)は、骨形成作用を有する活性型ビタミンDの合成誘導体であり、経口投与による骨粗鬆症治療剤として製造販売されている。
【0003】
ED-71は、他のビタミンD誘導体と同様に、ソフトカプセル剤として製剤化することができる。特許文献1には、ED-71の中鎖脂肪酸トリグリセリド(以下MCTとも称する)溶液をゼラチン剤皮内に封入したシームレスソフトカプセルが開示されている。また特許文献1には、当該溶液にdl-α-トコフェロールなどの抗酸化剤を添加することにより、ED-71の分解物であるタキステロール体およびトランス体の生成が抑制されることも開示されている。
【0004】
現在のところ、ソフトカプセル以外のED-71製剤として市販されているものは知られていない。特許文献2には、骨粗鬆症に適用できるストロンチウム塩とビタミンD誘導体との合剤が開示されており、ビタミンD誘導体の一例としてエルデカルシトールが挙げられている。また特許文献2には、当該合剤を錠剤とすることができることが記載されている。しかしながら、その記載は一般的な錠剤としての記載に過ぎず、ストロンチウム塩以外の特定の添加剤をED-71製剤に配合した場合の効果については開示されていない。
【0005】
特許文献3には、例えば、1α-(OH)-Dおよびポリビニルピロリドンをエタノールに溶解後、無水乳糖を添加し、撹拌後、エタノールを減圧留去して得られる反応生成物を、さらに粉砕することで得られた1α-(OH)-D組成物が記載されている。
【0006】
特許文献4には、ED-71の固体分散体(固体のED-71と固体の添加剤とを混和させた組成物)および油分分散体(ED-71の油脂溶液の粒子を賦形剤中に分散させた組成物)を含む医薬組成物ならびにその製造方法が記載されている。
【0007】
特許文献5には、特定のビタミンD誘導体を3-クロロ過安息香酸と反応させることにより、その7,8-エポキシドが得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2005/074943A1
【文献】CN102688249A
【文献】WO90/09796A
【文献】PCT/JP2017/047156(2018年7月5日、WO2018/124260として公開)
【文献】特開昭58-216179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
骨粗鬆症治療剤として市販されているエディロール(登録商標)カプセル0.5μgおよび同0.75μgは、球形のソフトカプセル剤のみであり、新たな製剤による機能的に優れたED-71製剤の開発が求められていた。また、球形のソフトカプセル剤を非球形にすることで、よりつまみ易くなり、また、転がりにくくなるといった使用性に関する需要が存在した。ED-71の投与が必要な患者の利便性のため、ソフトカプセル以外の剤形の非球形のED-71製剤の開発が求められていた。
【0010】
本発明者らは、そのような製剤として、ED-71の油脂溶液の粒子を賦形剤中に分散させた油分分散体(oil dispersion)から製造した製剤の開発を進めたところ、ED-71の油脂溶液をそのまま用いて調製した油分分散体を用いると、充分な品質の製剤を製造することができないという課題が見出された。さらにこの課題を解決するために研究を重ねた結果、ED-71の油脂溶液の粒子を特定の添加剤によって被覆するとの着想を得たが、用いる添加剤の多くにより、ED-71の安定性が低下するという新たな課題が見出された。この新たな課題に対し、本発明者らは、添加剤として水溶性高分子であるヒドロキシプロピルメチルセルロースまたはヒドロキシプロピルセルロースを用いることにより、充分な品質の製剤(特に錠剤)を製造することが可能となることを見出した(特許文献4)。
【0011】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、ED-71の油分分散体を含む新規医薬組成物およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ED-71の油分分散体を含む錠剤を製造する過程で、ED-71のごく一部(数%以下)がED-71エポキシドに変換されることを新たに見出した。本発明者らは、この発見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち本発明は、より具体的には以下の[1]~[12]を提供するものである。
[1]ED-71および(1R,2R,3R,5Z)-2-(3-ヒドロキシプロポキシ)-7,8-エポキシ-9,10(19)-セココレスタ-5,10-ジエン-1,3,25-トリオールを含む医薬組成物の製造方法であって、
ED-71の油脂溶液と水溶性高分子の水溶液とを含む水中油型乳化液を調製する工程、
水中油型乳化液を賦形剤に付着または吸着させる工程、および
水中油型乳化液を乾燥させる工程、
を含み、
ここで前記水溶性高分子は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースから選択される、前記方法。
[2]水中油型乳化液と賦形剤との重量比が、1:4~1:20である、[1]に記載の方法。
[3]賦形剤が、糖または糖アルコール類から選択される、[1]または[2]に記載の方法。
[4]賦形剤がマンニトールである、[3]に記載の方法。
[5]ED-71および(1R,2R,3R,5Z)-2-(3-ヒドロキシプロポキシ)-7,8-エポキシ-9,10(19)-セココレスタ-5,10-ジエン-1,3,25-トリオールを含む医薬組成物であって、
賦形剤中または賦形剤の表面に、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースから選択される水溶性高分子を含む被覆剤で被覆された粒子を含み、
当該粒子は、ED-71の油脂溶液を含む、前記医薬組成物。
[6]賦形剤が、糖または糖アルコール類から選択される、[5]に記載の医薬組成物。
[7]賦形剤がマンニトールである、[6]に記載の医薬組成物。
[8]HPMCフィルムでコーティングされたコーティング錠である、[5]~[7]のいずれかに記載の医薬組成物。
【0014】
さらに本発明は、以下の[9]および[10]を提供する。
[9][5]~[8]のいずれかに記載の医薬組成物および脱酸素剤が包装形態内に気密状態で封入された製品。
[10]包装形態が、瓶包装またはピロー包装である、[9]に記載の製品。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、油分分散体において、添加剤との接触(配合変化)に起因するED-71の分解を抑制することができる。また油分分散体を用いてソフトカプセル以外の種々の剤形のED-71製剤を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ED-71の油分分散体を含む錠剤を製造する製造フローの概略図である。
図2】水溶性高分子の2%水溶液を中鎖脂肪酸トリグリセリドと混合した際の乳化状態を示す写真である。左から、HPMC、HPC、PVP、およびPOVA-COAT。
図3】『[製造例]油分分散体錠剤』で得られた錠剤の、液体クロマトグラフィーでの分析結果である。
図4】ED-71の紫外可視スペクトルである。
図5】ED-71エポキシド(化合物2)の紫外可視スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明において、ED-71は下記式(I)、好ましくは下記式(Ia)で表される化合物である。
【0018】
【化1】
【0019】
ED-71は、例えば特開平10-72432号に記載された方法に従い、(1R,2R,3R)-2-(3-ヒドロキシプロポキシ)-コレスタ-5,7-ジエン-1,3,25-トリオールを出発物質として、紫外線照射および熱異性化反応後、逆相HPLCで精製し、濃縮後、酢酸エチルで結晶化させることにより得ることができる。
【0020】
本発明において、ED-71エポキシドは下記式(II)で表される化合物である。
【0021】
【化2】
【0022】
ED-71エポキシドにおいては、エポキシ部分(7および8位)の立体は特定されていないが、それらが特定された下記式(IIa)および(IIb)で表される化合物、ならびにそれらが任意の割合で混合された下記式(IIc)で表される化合物も、ED-71エポキシドに含まれる。ED-71エポキシドとしては、下記式(IIa)および(IIb)で表される化合物のいずれか、すなわち(1R,2R,3R,5Z,7ξ,8ξ)-2-(3-ヒドロキシプロポキシ)-7,8-エポキシ-9,10(19)-セココレスタ-5,10-ジエン-1,3,25-トリオール(以下、化合物2とも称する)が好ましい。
化合物(II)、(IIa)、(IIb)および(IIc)における14位の立体は、それぞれ化合物(Ia)と同じであるのが好ましい。
【0023】
【化3】
【0024】
ED-71の油分分散体
ED-71およびED-71エポキシドを含む医薬組成物ならびにその製造方法
本発明は、ED-71の油分分散体ならびにED-71およびED-71エポキシドを含む油分分散体に関する。本明細書中、ED-71の油分分散体とは、ED-71の油脂溶液の粒子が賦形剤中に分散した組成物をいう。同様に、ED-71およびED-71エポキシドを含む油分分散体とは、ED-71およびED-71エポキシドを含む油脂の粒子が賦形剤中に分散した組成物をいう。
【0025】
本発明は、そのようなED-71およびED-71エポキシドを含む油分分散体を含む医薬組成物を提供する。具体的には、ED-71およびED-71エポキシドを含む医薬組成物であって、賦形剤中または賦形剤の表面に、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースから選択される水溶性高分子を含む被覆剤で被覆された粒子を含み、当該粒子は、ED-71およびED-71エポキシドの油脂溶液を含む、前記医薬組成物を提供する。
【0026】
また本発明は、そのような医薬組成物の製造方法を提供する。具体的には、ED-71およびED-71エポキシドを含む医薬組成物の製造方法であって、(i)ED-71の油脂溶液と水溶性高分子の水溶液とを含む水中油型乳化液を調製する工程、(ii)水中油型乳化液を賦形剤に付着または吸着させる工程、および(iii)水中油型乳化液を乾燥させる工程、を含み、ここで前記水溶性高分子は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースから選択される、前記方法を提供する。この方法により、賦形剤中でED-71およびED-71エポキシドを含む油脂の粒子が水溶性高分子に被覆された状態となり、ED-71およびED-71エポキシドの油分分散体を用いた製剤(特に錠剤)の製造が可能となる。なお、ED-71エポキシドは、工程(i)の開始時には含まれていないか、含まれていたとしても、好ましくは含量0.1%以下の少量であるが、主に工程(iii)において、ED-71の変換(酸化)により生成し、油脂に含まれる。製剤分野において、有効成分を含む油脂溶液を賦形剤に含浸させる方法は既に知られているが、油脂溶液ではなく水中油型乳化液を用いること、また賦形剤に付着または吸着させた後に水中油型乳化液を乾燥させ、水層中の成分で油脂溶液を被覆する方法は従来知られていなかった。
【0027】
工程(i)に関して、本発明に用いる油脂としては、中鎖脂肪酸トリグリセリド(以下、「MCT」とも記す)、トリカプリリン、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、植物油などが挙げられる。ここで、植物油としては、ヤシ油、オリーブ油、菜種油、落花生油、コーン油、大豆油、綿実油、ぶどう油、紅花油などが挙げられる。これらのうち、不飽和脂肪酸を含んでいない、MCT、トリカプリリン、カプロン酸、カプリル酸、またはカプリン酸が好ましく、MCTが特に好ましい。
【0028】
工程(i)における油脂溶液中のED-71の濃度は、対象とする疾患または症状、投与形態、投与経路などに応じて適宜決定することができるが、例えば0.001~0.3重量%であり、好ましくは0.005~0.1重量%であり、より好ましくは0.01~0.05重量%である。
【0029】
工程(i)における油脂溶液には、さらに抗酸化剤を添加してもよい。本発明における抗酸化剤としては、例えば、亜硝酸塩(例えば亜硝酸ナトリウム)、亜硫酸塩(例えば亜硫酸ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム)、チオ硫酸塩(例えばチオ硫酸ナトリウム)、アルファチオグリセリン、1,3-ブチレングリコール、チオグリコール酸およびその塩(例えばチオグリコール酸ナトリウム)、チオリンゴ酸塩(例えばチオリンゴ酸ナトリウム)、チオ尿素、チオ乳酸、エデト酸塩(例えばエデト酸ナトリウム)、ジクロルイソシアヌール酸塩(例えばジクロルイシアヌール酸カリウム)、クエン酸、システインおよびその塩(例えば塩酸システイン)、ベンゾトリアゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、エリソルビン酸およびその塩(例えばエリソルビン酸ナトリウム)、アスコルビン酸およびそのエステル化合物(例えばL-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、パルミチン酸アスコルビン酸)、リン脂質(例えば大豆レシチン)、金属キレート剤およびその塩(例えば、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム)、酒石酸およびその塩(例えばロッシェル塩)、ポリフェノール類(例えばカテキン)、グルタチオン、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル、天然ビタミンE、酢酸トコフェロール、濃縮混合トコフェロール、トコフェロール同族体(例えばd-α-トコフェロール、dl-α-トコフェロール、5,8-ジメチルトコール、7,8-ジメチルトコール、δ-メチルトコール、5,7,8-トリメチルトコトリエノール、5,8-ジメチルトコトリエノール、7,8-ジメチルトコトリエノール、8-メチルトコトリエノール)などが挙げられる。この中でも、酢酸トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、天然ビタミンE、dl-α-トコフェロール、d-α-トコフェロール、濃縮混合トコフェロール、パルミチン酸アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピルが好ましく、dl-α-トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、または没食子酸プロピルがより好ましく、dl-α-トコフェロールまたはジブチルヒドロキシトルエンがさらにより好ましい。
【0030】
油脂溶液への抗酸化剤の添加量は、特に限定されないが、抗酸化剤として使用可能な最大使用量以下の量(例えば、医薬品添加物事典(薬事日報社,2000)に記載されている承認前例の最大使用量以下、食品添加物公定書(日本食品添加物協会,1999)に記載されている使用制限量以下の量など)を通常用いることができる。
【0031】
好ましい態様において、dl-α-トコフェロールは、油脂溶液中に0.01重量%以上(例えば1重量%以上)、10重量%以下(例えば5重量%以下)の濃度で添加される。ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル等の添加量についても、上記のdl-α-トコフェロールと同様である。
【0032】
本発明に用いる被覆剤は、水溶性高分子を含む。水溶性高分子は、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースから選択される。多くの添加剤は、ED-71の油脂溶液に添加するとED-71の安定性を低下させるが、ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースは、ED-71の安定性を低下させない。またヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースを用いた場合、水中油型乳化液の乳化状態を長期にわたり維持することができる。
【0033】
ここで本発明の医薬組成物においてED-71の安定性が低下しないことは、本発明の医薬組成物から錠剤を製造し、これを遮光して1、3、または6箇月間40℃で保存した後の、ED-71の残存率を調べることにより確認される。ED-71の残存率は、保存試料と初期試料について、高速液体クロマトグラフィー法(測定波長265nm)によりED-71とその異性体であるプレ体(化学名:6Z-(1R,2R,3R)-2-(3-ヒドロキシプロポキシ)-9,10-セココレスタ-5(10),6,8(9)-トリエン-1,3,25-トリオール;本明細書中、Pre ED-71とも称する)のピーク面積を測定し、以下の計算式により算出される。
ED-71の表示量に対する含有量の比(%)=(ED-71標準品の秤取量/ED-71標準品中のED-71ピーク面積合計)×初期試料または保存試料中のED-71ピーク面積合計×(初期試料または保存試料全体の重量/測定に使用した試料の重量)/表示量×100
(ED-71ピーク面積合計=ED-71ピーク面積+1.98×Pre ED-71のピーク面積)
ED-71の残存率(%)=保存試料中のED-71の表示量に対する含有量の比(%)/初期試料中のED-71の表示量に対する含有量の比(%)×100
【0034】
なお、上記式における各用語の意味は以下の通りである。
・「表示量」:1錠あたりの理論含量
・「ED-71標準品」:ED-71の原薬
・「ED-71標準品の秤取量/ED-71標準品中のED-71ピーク面積合計」:単位ピーク面積あたりのED-71標準品の重量(ピーク面積から測定試料中のED-71の含有量を算出するための値)
【0035】
ヒドロキシプロピルメチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロースは、製剤上許容されるグレードのものであればよい。
本発明におけるヒドロキシプロピルメチルセルロースは、例えば、商品名TC-5として信越化学工業から購入できる。
【0036】
また本発明において、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)とは、医薬品添加物事典2016(編集:日本医薬品添加物協会;発行:(株)薬事日報社;ISBN978-4-8408-1329-7)において、成分番号002303として収載されているヒドロキシプロピルセルロースを指し、同事典において成分番号002440として収載されている低置換度ヒドロキシプロピルセルロースとは異なる物である。本発明に用いるヒドロキシプロピルセルロースでは、モル置換度(MS)(HPCの繰り返し単位(グルコース環)のヒドロキシ基がヒドロキシプロポキシ基に置換された割合を示す)が、通常2~3、好ましくは2.5~3、より好ましくは3である。一方、低置換度ヒドロキシプロピルセルロースにおけるモル置換度は、0.2~0.4である。本発明におけるヒドロキシプロピルセルロースは、例えば、商品名Klucelとしてアイエスピー・ジャパンから、および商品名ヒドロキシプロピルセルロースとして日本曹達から、それぞれ購入できる。
【0037】
本発明における被覆剤は、水溶性高分子以外の添加剤を含んでもよく、例えば、安定化剤や抗酸化剤を含んでもよい。
【0038】
工程(i)における水溶液中の水溶性高分子の濃度は、ED-71の量に応じて適宜決定されるが、例えば1~15重量%であり、好ましくは2~10重量%であり、より好ましくは3~6重量%、より好ましくは4~6重量%、さらにより好ましくは5~6重量%である。工程(i)における水溶液は、水溶性高分子以外の添加剤を含んでもよく、例えば、安定化剤や抗酸化剤を含んでもよい。
【0039】
水中油型乳化液は、製剤分野において一般的に用いられる方法により調製することができるが、機械的乳化法により調製することが好ましい。機械的乳化法は、例えば、ケミカルスターラー、ボルテックスミキサー、ホモミクサー、ホモジナイザー、ハイドロシェア、コロイドミル、フロージェットミクサー、超音波発生機、ガラスビーズを用いる湿式粉砕機、多孔質膜を用いる膜乳化機、電気的エネルギーを用いる電気乳化装置などを用いる方法が挙げられる。ホモジナイザーとしては、例えばT-50 Ultra Turrax(IKA製)を用いることができる。
【0040】
ED-71の油脂溶液と水溶性高分子の水溶液との比率(重量比、o/w比)は、水中油型乳化液を調製することができる範囲であればよく、通常1:1.5~1:20であり、好ましくは1:2~1:20、または1:2~1:4である。好ましい態様において、水溶性高分子の水溶液中の水溶性高分子の濃度が3~6重量%、4~6重量%、または5~6重量%である場合、ED-71の油脂溶液と水溶性高分子の水溶液との比率は1:1.5~1:20、1:2~1:20、または1:2~1:4である。
【0041】
またED-71の油脂溶液と水溶性高分子との比率(重量比)は、ED-71の油脂溶液の粒子を水溶性高分子に被覆された状態とすることができる範囲であればよく、通常1:0.05~1:10、好ましくは1:0.1~1:1、または1:0.1~1:0.3である。好ましい態様において、水溶性高分子の水溶液中の水溶性高分子の濃度が3~6重量%、4~6重量%、または5~6重量%である場合、ED-71の油脂溶液と水溶性高分子との比率(重量比)は、1:0.05~1:10、1:0.1~1:1、または1:0.1~1:0.3である。
当該粒子は、好ましくは球形である。その粒子径は、通常0.01~100μm、好ましくは0.1~10μmである。
【0042】
工程(ii)に関して、本発明に用いる賦形剤としては、例えば、トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、コムギコデンプン、コメデンプン、部分アルファー化デンプン、アルファー化デンプン、有孔デンプンなどのデンプン類、無水乳糖、乳糖水和物、果糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトール、エリスリトールなどの糖または糖アルコール類、無水リン酸水素カルシウム、結晶セルロース、沈降炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウムなどが挙げられ、好ましくは糖または糖アルコール類、さらに好ましくはマンニトール、無水乳糖、乳糖水和物、さらに好ましくはマンニトールである。
【0043】
工程(ii)において用いる水中油型乳化液と賦形剤との比率(重量比)は、賦形剤の種類などによって変わり得るが、通常1:1~1:100、好ましくは1:4~1:20の範囲である。特に、賦形剤がマンニトールである場合、重量比が通常1:4~1:20の範囲であれば、錠剤などの製剤の製造に用い得る好ましい造粒末を得ることができる。
【0044】
水中油型乳化液の賦形剤への付着または吸着は、製剤分野において一般的に用いられる方法により行うことができ、例えば、賦形剤に乳化液を噴霧しながら造粒する方法、賦形剤に乳化液を加えて混合撹拌する方法などが挙げられる。このような方法は、例えば、高速撹拌造粒機(POWREX製VG-600CT)、混合攪拌機(品川工業所製DM型)などを用いて行うことができる。なお、付着または吸着には、含浸(多孔質の賦形剤において、水中油型乳化液を孔内に浸潤させること)も含まれる。
【0045】
工程(iii)において、賦形剤に付着または吸着した水中油型乳化液が乾燥され、それにより水溶性高分子の水溶液から水が除かれ、油脂溶液が直接水溶性高分子で被覆された粒子が形成されると考えられる。このようにして得られる油分分散体は、ED-71の油脂溶液を含む粒子を含み、錠剤などの製剤の製造に用いた場合に良好な製造性(例えば、流動性や圧縮成形性)を示す。
【0046】
水中油型乳化液の乾燥は、製剤分野において一般的に用いられる方法により行うことができ、例えば、流動乾燥、凍結乾燥、通気乾燥、噴霧乾燥、静置乾燥、撹拌乾燥、気流乾燥、真空乾燥、マイクロ波乾燥、赤外線・遠赤外線乾燥などが挙げられる。また乾燥は、加熱または冷却と共に行ってもよい。乾燥は、例えば、流動層造粒乾燥機(POWREX製WSG-200pro)、真空乾燥機(日本乾燥機製コニカルドライヤ)などを用いて行うことができる。
【0047】
本発明の医薬組成物は、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤などの経口剤とすることができる。これらの経口剤は、製剤分野において用いられる方法により製造することができる。例えば錠剤の製造方法としては、以下のi)、ii)およびiii)の方法が挙げられる。
【0048】
i)ED-71およびED-71エポキシドを含む油分分散体を追加の添加剤(賦形剤2、崩壊剤、滑沢剤など)と共に混合した後、圧縮成形することによって、錠剤を製造する。
ii)ED-71およびED-71エポキシドを含む油分分散体を追加の添加剤(賦形剤2、結合剤など)と混合した後、溶媒(例えば、精製水、エタノール、またはその混合液)を添加または噴霧しながら造粒する。得られた造粒物に、適量の滑沢剤、必要に応じて崩壊剤などを加えて混合後、圧縮成形することによって、錠剤を製造する。
iii)ED-71およびED-71エポキシドを含む油分分散体を追加の添加剤(賦形剤2など)と混合した後、結合剤および必要に応じて他の添加剤を溶媒(例えば、精製水、エタノール、またはその混合液)に分散または溶解して得られる液を添加または噴霧しながら造粒する。得られた造粒物に、適量の滑沢剤、必要に応じて崩壊剤など加えて混合した後、圧縮成形することによって、錠剤を製造する。
【0049】
追加の添加剤としては、例えば、薬物の放出性を向上させる目的で界面活性剤やpH調整剤を、工程中の流動性を良くする目的で流動化剤を、安定性を上げる目的で安定化剤を、味や臭いを加える目的で矯味矯臭剤を、色を加える目的で着色剤を、それぞれ用いることができる。これらの使用量は、製剤100重量部に対して、通常0~99.999重量部であり、好ましくは50~99.5重量部、より好ましくは90~99重量部である。
【0050】
また錠剤は、追加の添加剤としてさらに抗酸化剤を含んでいてもよい。抗酸化剤は、i)、ii)およびiii)の製造法における任意の工程で添加できる。例えば、i)の製造法の場合、抗酸化剤を、他の添加剤と共に油分分散体と混合した後、圧縮成形することによって、錠剤を製造することができる。また、予め抗酸化剤が溶解されたED-71の油脂溶液を用いて油分分散体を調製し、これを他の添加剤と混合した後、圧縮成形することによって、錠剤を製造することもできる。
【0051】
本発明の医薬組成物(好ましくは錠剤)中のED-71の含有量は特に限定されないが、一態様において、単位製剤あたりのED-71量として0.05~5μgであり、好ましくは0.5~0.75μgである。
【0052】
賦形剤2としては、例えば、トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、コムギコデンプン、コメデンプン、部分アルファー化デンプン、アルファー化デンプン、有孔デンプンなどのデンプン類、乳糖水和物、果糖、ブドウ糖、マンニトール、ソルビトールなどの糖または糖アルコール類、無水リン酸水素カルシウム、結晶セルロース、沈降炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウムなどが挙げられる。好ましい態様において、賦形剤2は、デンプン類、乳糖水和物、結晶セルロース、または無水リン酸水素カルシウムである。
【0053】
崩壊剤としては、例えば、デンプングリコール酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスカルメロースナトリウム、クロスポビドン、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチなどが挙げられる。崩壊剤の使用量は、製剤100重量部に対して、好ましくは0.5~25重量部、さらに好ましくは1~15重量部である。
【0054】
結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ポビドン(ポリビニルピロリドン)、アラビアゴム末などが挙げられる。結合剤の使用量は、製剤100重量部に対して、好ましくは0.1~50重量部、さらに好ましくは0.5~40重量部である。
【0055】
滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、蔗糖脂肪酸エステル、フマル酸ステアリルナトリウム、軽質無水ケイ酸などが挙げられる。
【0056】
界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート80、ステアリン酸ポリオキシル40、ラウロマクロゴールなどが挙げられる。
【0057】
pH調整剤としては、例えば、酢酸、乳酸、クエン酸、リンゴ酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、リン酸、およびそれらのいずれかの塩が挙げられる。
【0058】
流動化剤としては、例えば、軽質無水ケイ酸、含水二酸化ケイ素などの二酸化ケイ素、タルクなどが挙げられる。ここで、軽質無水ケイ酸の具体例としては、例えばサイリシア320(商品名、富士シリシア化学(株))、アエロジル200(商品名、日本アエロジル(株))等が挙げられる。
【0059】
安定化剤としては、例えばメチルパラベン、プロピルパラベンなどのパラオキシ安息香酸エステル;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコールなどのアルコール;塩化ベンザルコニウム;フェノール、クレゾールなどのフェノール類;チメロサール;デヒドロ酢酸;およびソルビン酸が挙げられる。
【0060】
矯味矯臭剤としては、例えば、製剤分野において通常使用される甘味料、酸味料、香料などが挙げられる。
【0061】
着色剤としては、医薬品に添加することが許可されているものであれば、いかなるものでもよく、例えば食用黄色5号(サンセットイエロー、米国の食用黄色6号)、食用赤色2号、食用青色2号などの食用色素、食用レーキ色素、三二酸化鉄などが挙げられる。
【0062】
抗酸化剤としては、例えば、亜硝酸塩(例えば亜硝酸ナトリウム)、亜硫酸塩(例えば亜硫酸ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム)、チオ硫酸塩(例えばチオ硫酸ナトリウム)、アルファチオグリセリン、1,3-ブチレングリコール、チオグリコール酸およびその塩(例えばチオグリコール酸ナトリウム)、チオリンゴ酸塩(例えばチオリンゴ酸ナトリウム)、チオ尿素、チオ乳酸、エデト酸塩(例えばエデト酸ナトリウム)、ジクロルイソシアヌール酸塩(例えばジクロルイシアヌール酸カリウム)、クエン酸、システインおよびその塩(例えば塩酸システイン)、ベンゾトリアゾール、2-メルカプトベンズイミダゾール、エリソルビン酸およびその塩(例えばエリソルビン酸ナトリウム)、アスコルビン酸およびそのエステル化合物(例えばL-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、パルミチン酸アスコルビン酸)、リン脂質(例えば大豆レシチン)、金属キレート剤およびその塩(例えば、エチレンジアミン四酢酸、エチレンジアミン四酢酸カルシウム二ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム)、酒石酸およびその塩(例えばロッシェル塩)、ポリフェノール類(例えばカテキン)、グルタチオン、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピル、天然ビタミンE、酢酸トコフェロール、濃縮混合トコフェロール、トコフェロール同族体(例えばd-α-トコフェロール、dl-α-トコフェロール、5,8-ジメチルトコール、7,8-ジメチルトコール、δ-メチルトコール、5,7,8-トリメチルトコトリエノール、5,8-ジメチルトコトリエノール、7,8-ジメチルトコトリエノール、8-メチルトコトリエノール)などが挙げられる。この中でも、酢酸トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、天然ビタミンE、dl-α-トコフェロール、d-α-トコフェロール、濃縮混合トコフェロール、パルミチン酸アスコルビン酸、L-アスコルビン酸ステアリン酸エステル、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピルが好ましく、dl-α-トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、没食子酸プロピルがより好ましく、dl-α-トコフェロールがさらにより好ましい。
抗酸化剤の使用量は、製剤100重量部に対して、好ましくは0.001~10重量部、さらに好ましくは0.01~1重量部である。
【0063】
上記追加の添加剤は、2種以上を適宜の割合で混合して用いてもよい。
【0064】
錠剤から、さらに適当なコーティング用添加剤を用いて、糖衣コーティング錠あるいはフィルムコーティング錠を得ることもできる。コーティング用添加剤としては、糖衣基剤、コーティング剤、腸溶性フィルムコーティング基剤、徐放性フィルムコーティング基剤などが挙げられる。
【0065】
糖衣基剤としては、例えば白糖、エリスリトールなどの糖あるいは糖アルコールが挙げられ、さらに、タルク、沈降炭酸カルシウム、ゼラチン、アラビアゴム、プルラン、カルナバロウなどから選ばれる1種または2種以上を併用してもよい。
【0066】
コーティング剤としては、例えば、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、セラック、タルク、カルナウバロウ、パラフィンなどが挙げられる。
【0067】
腸溶性フィルムコーティング基剤としては、例えばヒドロキシプロピルメチルセルロース フタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロース アセテートサクシネート、カルボキシメチルエチルセルロース、酢酸フタル酸セルロースなどのセルロース系高分子;メタアクリル酸コポリマーL〔オイドラギットL(商品名)、エボニックデグサ社〕、メタアクリル酸コポリマーLD〔オイドラギットL-30D55(商品名)、エボニックデグサ社〕、メタアクリル酸コポリマーS〔オイドラギットS(商品名)、エボニックデグサ社〕などのアクリル酸系高分子;セラックなどの天然物などが挙げられる。
【0068】
徐放性フィルムコーティング基剤としては、例えばエチルセルロースなどのセルロース系高分子;アミノアルキルメタアクリレートコポリマーRS〔オイドラギットRS(商品名)、エボニックデグサ社〕、アクリル酸エチル・メタアクリル酸メチル共重合体懸濁液〔オイドラギットNE(商品名)、エボニックデグサ社〕などのアクリル酸系高分子;酢酸セルロースなどが挙げられる。
【0069】
上記したコーティング用添加剤は、その2種以上を適宜の割合で混合して用いてもよい。
【0070】
コーティング用添加剤には、溶出速度調節のために、水溶性物質、可塑剤などを必要に応じて加えても良い。水溶性物質には、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの水溶性高分子類、マンニトールなどの糖アルコール類、白糖や無水マルトースなどの糖類、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリソルベート、ラウリル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤などから選択される1種以上を用いることができる。可塑剤には、アセチル化モノグリセリド、クエン酸トリエチル、トリアセチン、セバシン酸ジブチル、セバシン酸ジメチル、中鎖脂肪酸トリグリセリド、クエン酸アセチルトリエチル、クエン酸トリブチル、クエン酸アセチルトリブチル、アジピン酸ジブチル、オレイン酸、オレイノールなどから選択される1種以上を用いることができる。
【0071】
また、錠剤を前記コーティング用添加剤でコーティングしてコーティング層を形成する方法としては、製剤分野において一般的な方法を用いることができ、例えば、パンコーティング法、流動コーティング法、転動コーティング法、流動転動コーティング法が挙げられる。これらの方法に用いるコーティング液は、前記コーティング用添加剤と、タルクと、溶媒(好ましくは、エタノール、またはエタノールと水との混合物)とを混合することにより得られる。このようなコーティング液の固形分濃度は、コーティング液全体の重量に対して5~15重量%の範囲であることが好ましい。
好ましい態様において、本発明の医薬組成物は、HPMCフィルムでコーティングされたコーティング錠である。
【0072】
本発明の医薬組成物の製剤化において、造粒は、実施例に記載した原理・装置に加え、押出し造粒、解砕・整粒、回転造粒、乾式造粒、湿式高剪断造粒、および流動層造粒の各原理により行うことができる。
【0073】
押出し造粒を原理とする造粒装置としては、例えばツインドームグラン、バスケットリューザー、半乾式/低水分造粒機ディスクペレッター、半乾式/小径造粒機ファイン・ディスクペレッター、ペレッターダブル、およびマルチグラン(以上、ダルトン製)、ならびにKEXエクストルーダおよびKRCニーダ(以上、栗本鐵工所)が挙げられる。
【0074】
解砕・整粒を原理とする造粒装置としては、例えばパワーミル(ダルトン製)、整粒機フィオーレFおよびランデルミル(以上、徳寿工作所製)、ノースクリーン整粒機ネビュラサイザー(奈良機械製作所製)、クイックミルQMY(セイシン企業製)、ロールグラニュレーター(マツボー製)、ニュースピードミル(岡田精工製)、ならびにMF型整粒機オシュレーターおよび解砕整粒機コニビット(以上、スイス・フレビット社製、アーステクニカにて販売)が挙げられる。
【0075】
回転造粒を原理とする造粒装置としては、例えばマルメライザー(ダルトン製)、ならびに遠心流動コーティング造粒機CFおよびグラニュレックスGX(以上、フロイント産業製)が挙げられる。
【0076】
乾式造粒を原理とする造粒装置としては、例えばローラーコンパクター(フロイント産業製)、ファーマパクタ(ホソカワミクロン製)、RCPローラーコンパクタ(栗本鐵工所製)、およびファーマコンパクター(マツボー製)が挙げられる。
【0077】
湿式高剪断造粒を原理とする造粒装置としては、例えばSPグラニュレーターおよびスパルタンリューザー(以上、ダルトン製)、バーチカルグラニュレーター(パウレック製)、GEAエアロマティックフィールダーマルチプロセッサー研究開発用ファーマコネクト(ユーロテクノ製)、ミキサー&グラニュレーター(NMG)(奈良機械製作所製)、破砕転動式ニューグラマシンSEG(セイシン企業製)、ニュースピードニーダー(岡田精工製)、ハイスピードミキサー(アドバンスシリーズ)、ダイナミックドライヤー、ハイフレックスグラル、およびマイクロウェーブグラニュレータードライヤー(以上、深江パウテック製、アーステクニカにて販売)、ならびにTM型造粒ミキサ(日本コークス工業製)が挙げられる。
【0078】
流動層造粒を原理とする造粒装置としては、例えばニューマルメライザー、旋回流動層、微少量流動層、およびスイングプロセッサー(以上、ダルトン製)、フローコーターコンテインメント、フローコーターUniversal、フローコーターFLO、およびスパイラフローSFC(以上、フロイント産業製)、アグロマスタ(ホソカワミクロン製)、GEAエアロマテイックフィールダーフレックスストリーム(ユーロテクノ製)、ならびにスプリュード(大川原製作所)が挙げられる。
【0079】
混合は、実施例に記載した原理・装置に加え、対流式(機械攪拌式)、拡散式(容器回転式)、および捏和・ニーダーの各原理により行われる。
【0080】
対流式(機械攪拌式)を原理とする混合装置としては、例えば混合攪拌機NDMタイプ、混合攪拌機XDMタイプ、混合攪拌機DMタイプ、試作・研究用混合攪拌機AM・XDM・DMタイプ、ラボ用混合攪拌機ツインミックス、パグミキサー、リボンミキサー、スパルタンミキサー、およびペーストミキサー(以上、ダルトン製)、サイクロミックス、およびナウタミキサー(以上、ホソカワミクロン製)、竪取付MAG-NEOシールミキサー(マグネオ技研製)、底面型スーパーマグミキサー、およびSミキサースーパーミックス(以上、佐竹化学機械工業製)、ジュリアミキサー、およびリボン混合機(以上、徳寿工作所製)、PXミキサー(セイシン企業製)、レーディゲミキサー(マツボー製)、FMミキサRCタイプ、およびMPミキサ(以上、日本コークス工業製)、ならびにリボコーン(大川原製作所製)が挙げられる。
【0081】
拡散式(容器回転式)を原理とする混合装置としては、例えばGEAブックシステムIBCブレンダー、およびGEAブックシステムNIR測定装置付IBCブレンダー(以上、ユーロテクノ製)、V型混合機、およびW型混合機(以上、徳寿工作所製)、V型ミキサー(奈良機械製作所製)、W型混合機SCM、およびV型混合機SVM(以上、セイシン企業製)、カプセルロッキングミキサー(愛知電機製)、ならびにボーレコンテナミキサーPM(寿工業製)が挙げられる。
【0082】
捏和・ニーダーを原理とする混合装置としては、例えばコンティーニュアースニーダー、およびバッチニーダー(以上、ダルトン製)、T.K.ハイビスミックス、およびT.K.ハイビスディスパーミックス(以上、プライミクス製)、ライストリッツ・エクストルーダー(奈良機械製作所製)、ならびにプラネタリーミキサー(淺田鉄工製)が挙げられる。
【0083】
その他の混合装置としては、例えばConti-TDS(ダルトン製)、ならびにミキシングトルクメーターST-3000II プロセスリアクターDDL・3000、および攪拌シミュレーションMixSim(以上、佐竹化学機械工業製)が挙げられる。
【0084】
上記の各原理の他、流動撹拌式、無撹拌式、および高速剪断式などの原理により混合することもできる。
【0085】
打錠は、単発式打錠および回転式打錠の各原理により行われるが、回転式打錠が効率性の観点で好ましい。
【0086】
回転式打錠を原理とする打錠装置名としては、実施例に記載のものに加え、例えば脱着式高速打錠機フェッテ(ボッシュパッケージングテクノロジー製)、高速打錠機COMPRIMA、および高速打錠機SYNTHESIS(以上、ミューチュアル製)、ロータリープレスMZ400(モリマシナリー製)、GEAコルトアモジュール型打錠機P型、S型、D型、およびGEAフアーマシステムパフォーマP(以上、ユーロテクノ製)、研究開発用小型回転式錠剤機、小型高速回転式錠剤機、中型高速回転式錠剤機、複式高速回転式錠剤機、回転盤脱着水洗回転式錠剤機、およびコンテインメント錠剤機(以上、菊水製作所製)、ならびにBX型 HX型強圧打錠機、CVX型回転盤着脱式打錠機、X型 AP型小型打錠機、X型 AP型中型打錠機、AP型大型打錠機、およびX型 AP型大型複式打錠機(以上、畑鐵工所製)が挙げられる。
【0087】
上記の打錠装置では単層錠が得られるが、例えばGEAコルトアモジュール型二層錠打錠機D型(ユーロテクノ製)、および多層錠剤機(菊水製作所製)などを用いて多層錠を製造することや、有核錠剤機(菊水製作所製)、およびAP・MS型 C型有核打錠機(畑鐵工所製)などを用いて有核錠を製造することもできる。
【0088】
コーティングは、実施例に記載した原理・装置に加え、パンコーティング(水平パン)、パンコーティング(傾斜パン)、および空気浮遊式(流動層)の各原理により行われる。
【0089】
パンコーティング(水平パン)を原理とするコーティング装置としては、例えばハイコーターFZ、アクアコーターAQC コンテインメント、およびアクアコーターAQC(以上、フロイント産業製)が挙げられる。
【0090】
パンコーティング(傾斜パン)を原理とするコーティング装置としては、例えばパウレックコーター PRC、およびドリアコーター DRC(以上、パウレック製)が挙げられる。
【0091】
空気浮遊式(流動層)を原理とするコーティング装置としては、例えばグラットパウダーコータ GPCG SPC、マルチプレックス、および複合型流動層 SFP(以上、パウレック製)が挙げられる。
【0092】
その他のコーティング装置としては、例えばハイブリダイゼーシヨンシステム(奈良機械製作所製)、およびメカノハイブリッド(日本コークスエ業製)が挙げられる。
【0093】
本発明の医薬組成物は、骨代謝回転を抑制して骨密度および骨強度を改善することにより治療または予防し得る疾患または症状(例えば骨粗鬆症)の治療または予防に有用である。
【0094】
本発明において、疾患または症状の治療または予防には、該疾患の発症の予防、増悪または進行の抑制または阻害、該疾患に罹患した個体が呈する一つ以上の症状の軽減または増悪もしくは進行の抑制、二次性疾患の治療または予防などが含まれる。
【0095】
本発明の医薬組成物が投与される対象は哺乳動物である。哺乳動物は、好ましくはヒトである。
【0096】
本発明の医薬組成物は、治療または予防に有効な量で対象に投与される。「治療または予防に有効な量」とは、特定の疾患、投与形態および投与経路につき治療または予防効果を奏する量を意味し、対象の種、疾患の種類、症状、性別、年齢、持病、その他の要素に応じて適宜決定される。投与経路は、通常は経口投与である。
【0097】
本発明の医薬組成物の投与量は、対象の種、疾患の種類、症状、性別、年齢、持病、その他の要素に応じて適宜決定され、ヒトの成人に対しては、通常、ED-71として1日あたり0.01~10μg、好適には0.5~0.75μgを投与することができる。
【0098】
また本発明は、本発明の医薬組成物の治療または予防有効量を、それを必要とする対象に投与することを含む、疾患または症状の治療または予防のための方法に関する。
【0099】
本発明における「治療または予防有効量」とは、特定の疾患または症状、投与形態および投与経路につき治療または予防効果を奏する量を意味し、対象の種、疾患または症状の種類、症状、性別、年齢、持病、その他の要素に応じて適宜決定される。
【0100】
本発明における「対象」は、例えば、哺乳動物であり、好ましくはヒトである。
【0101】
本発明における「投与すること」は、通常、経口投与を意味する。
【0102】
本発明における「疾患または症状」としては、骨代謝回転を抑制して骨密度および骨強度を改善することにより治療または予防し得る疾患または症状(例えば骨粗鬆症)が挙げられる。
【0103】
上述の通り、ED-71エポキシドは、主に工程(iii)(乾燥工程)で、ED-71からの変換によって生成し、調製された錠剤中では、ED-71と共に油脂溶液中に存在する。また、調製した錠剤は、そのまま放置すると、ED-71からED-71エポキシドへの変換がさらに徐々に進行するが、その進行は、脱酸素剤を共存させた容器(包装形態)中で、気密状態で保存することで抑えることができる。したがって、一態様において、本発明は、本発明の医薬組成物および脱酸素剤が包装形態内に気密状態で封入された製品を提供する。
【0104】
脱酸素剤としては、例えば、ワンダーキープ(登録商標)(パウダーテック)、オキシムーブ(登録商標)(南通大江化学)、モデュラン(日本化薬フードテクノ)、キーピット(ドレンシー)、ウェルパック(タイセイ)、オキシーター(登録商標)(ウエノフードテクノ)、ケプロン(ケプロン)、鮮度保持剤(凸版印刷)、サンソレス(博洋)、サンソカット(登録商標)(アイリス・ファインプロダクツ)、エージレス(登録商標)ZM(三菱ガス化学、ZM-1)、エバーフレッシュ(鳥繁産業、QJ-30他)、バイタロンPH(常盤産業、PH-100SL他)、セキュール(登録商標)(ニッソー樹脂、AP-250他)などが挙げられ、好ましくはエージレスZMである。
【0105】
「包装形態」とは、気密状態とすることが可能なものであり、例えば、瓶包装、ピロー包装、ブリスターパック包装、アンプル包装等を挙げることができ、好ましくは、瓶包装およびピロー包装である。また、本発明の医薬組成物は、そのまま、またはPTP包装(プレススルーパック包装)されて、包装形態内に気密状態で封入されており、好ましくは、そのままの組成物が気密状態で瓶包装内に封入されるか、PTP包装された組成物が気密状態でピロー包装内に封入されている。
【0106】
瓶包装の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂、ガラス、陶器、ホウロウ、金属等が挙げられ、好ましくは熱可塑性樹脂およびガラスである。瓶包装の材質としては単層のものに限定されるものではなく、例えば、同じ熱可塑性樹脂であっても、複数種類の材質による多層構造としてもよい。瓶包装の蓋部は、気密状態にすることが可能であればいずれの形態でもよく、例えば、スクリューキャップが挙げられる。蓋部の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂、金属(例えば鉄、ブリキ、ステンレスなど)が挙げられ、好ましくは金属である。また、蓋部および瓶包装が熱可塑性樹脂製の場合、シール(好ましくはアルミ製シール)付のプラボトル包装が好ましい。
【0107】
「ピロー包装」とは、本発明の医薬組成物がそのまま、またはPTP包装された状態で、フィルムで袋状に覆われた後、気体を入れたまま気密状態にされた包装形態を意味する。ピロー包装の材質としては、例えば、アルミラミネートフィルムまたは熱可塑性樹脂等、あるいはそれらの組み合せが挙げられ、好ましくはアルミラミネートフィルムである。
【0108】
「気密」とは、日常の取扱いをし、または通常の保存状態において、液体の侵入のおそれがない状態を意味する。また、気密は、程度により、気体の侵入が抑制された状態を含む。気密の程度は、瓶包装の場合、例えば「閉栓トルク」を用いて数値化することができる。数値としては、例えば、100~300N・cmが挙げられ、好ましくは150~250N・cm、さらに好ましくは200~220N・cmである。気密状態は、密封状態であってもよい。
【0109】
「密封」とは、日常の取扱いをし、または通常の保存状態において、気体又は微生物の侵入のおそれのない状態を意味する。
【0110】
PTP包装、およびブリスターパック包装の材質としては、例えば、熱可塑性樹脂等の樹脂類、金属類、各種塗料、各種接着剤等が挙げられ、熱可塑性樹脂が好ましい。
【0111】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル(PVC)、無延伸ポリプロピレン(CPP)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ三フッ化塩化エチレン(PCTFE)、環状オレフィン共重合体(COC)、ポリエチレン(PE;高密度、中密度および低密度)、ポリカーボネート(PC)、ポリアミド(PA)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-メタアクリレート共重合体、ポリスチレン(PS)、ポリエステル(PET)、ポリアクリル酸(PAA)、エチレン-ビニルアルコール共重合体等が挙げられ、好ましくは、ポリ塩化ビニル、無延伸ポリプロピレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ三フッ化塩化エチレン、環状オレフィン共重合体およびエチレン-ビニルアルコール共重合体である。これらを単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。PTP包装の蓋材としては、例えば、アルミニウム箔、アルミニウム箔を熱可塑性樹脂製のフィルムでラミネートしたラミネートフィルム等を挙げることができる。PTP包装またはブリスターパック包装の作製方法は、公知の方法を用いればよい。本発明におけるピロー包装、PTP包装、またはブリスターパック包装の包装材は、単層のものに限定されるものではなく、複数の層を貼りあわせた多層のフィルム状としてもよい。多層フィルムは、外層または中間層に酸素の透過を抑制するバリア層を有し、内層または中間層として脱酸素機能を持つ吸収層を有することができる。脱酸素機能を持つ吸収層としては、例えば脱酸素機能を発揮する脱酸素剤を練り込んだ樹脂などがある。
【0112】
また遮光性の高い包装形態が好ましく、例えば金属製のキャップ付きの褐色ガラス瓶包装などが挙げられる。
【0113】
本発明の医薬組成物および脱酸素剤を気密状態で包装形態内に封入する際に、包装形態内の気体を酸素以外の気体(例えば窒素ガス、二酸化炭素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス、ネオンガス、クリプトンガス、キセノンガス、ラドンガス)と置換してもよい。
【0114】
ED-71エポキシドは、空気と接触する乾燥工程(工程(iii))を経て調製した本発明の医薬組成物(好ましくは錠剤)中で、その存在を完全には排除することが難しく、また、存在することが許される物質であるが、その含量は、ED-71の有効性の観点からは、少ない方が好ましい。具体的には、含量は5%以下が好ましく、さらに好ましくは2%以下、さらに好ましくは1.2%以下である。好ましい含量の具体例としては、0.5%が挙げられる。含量の下限は例えば0.1%以下であってもよい。なお、ED-71エポキシドの「含量」は、下記実施例の試験例3に記載した条件で液体クロマトグラフィーにより分析した場合に220nmのプロファイルから得られるピーク面積に基づいて算出される、本発明の医薬組成物中のED-71、ED-71エポキシド、ED-71の熱異性体であるPre ED-71、およびその他のED-71類縁物質の合計含量に対するED-71エポキシドの含量の割合(%)を意味し、以下の計算式によって算出される。
ED-71エポキシドの含量(%)=(Aimp-2×RRF)/(A+Aimp-2×RRF+A×RRF+Σ(A×RRF))×100
:ED-71のピーク面積
:Pre ED-71のピーク面積
imp-2:ED-71エポキシドのピーク面積
:その他のED-71類縁物質のピーク面積
RRF:ED-71に対する相対感度係数;Pre ED-71、1.79;ED-71エポキシド、1.72;その他のED-71類縁物質、1.00
【0115】
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0116】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明する。
【実施例
【0117】
本実施例では、以下の略号を用いる。
EtOH:エタノール
HPMC:ヒドロキシプロピルメチルセルロース
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン
MCT:中鎖脂肪酸トリグリセリド
HPC:ヒドロキシプロピルセルロース
PVP:ポリビニルピロリドン
PVA copolymer:ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体
【0118】
実施例1:配合変化1
50 mgのED-71を2.5 mLのEtOHに溶解させED-71のエタノール溶解液を調製した。BHT(Merck)を1 g、およびdl-α-tocopherol(特殊用、和光純薬工業)を2 g、97 gのMCT(O.D.O.C、日清オイリオ)中に溶解させMCT液を調製した。調製したMCT液にED-71のエタノール溶解液を0.5 mL加え、ボルテックスミキサーで撹拌した。さらに減圧下にて留去し、ED-71油脂溶液を調製した。調製したED-71油脂溶液150 mgにヒドロキシプロピルメチルセルロースを300 mg加え、ED-71組成物(実施例1)を調製した。調製したED-71組成物を60℃に調整した恒温槽内に大気存在下で保存し、14日後および28日後にED-71の残存率(%)を調べた。
対照物としては上記のED-71油脂溶液単独(対照例1)を用いた。
また実施例1のヒドロキシプロピルメチルセルロースの代わりに第1表に記載した添加剤(300 mg)を用いて、実施例1と同様の方法でED-71組成物を調製し、60℃における安定性を実施例1と同様に調べた。
【0119】
結果を第1表に示す。第1表より明らかな通り、実施例1の組成物は対照例1の油脂液単独と同等またはそれ以上に安定であり、また対照例2~34の組成物よりも高温条件下では安定であった。
【0120】
【表1-1】
【0121】
【表1-2】
【0122】
【表1-3】
【0123】
実施例2:配合変化2
実施例1のヒドロキシプロピルメチルセルロースの代わりに第2表に記載した添加剤を用いて、実施例1と同様の方法で実施例2および対照例35のED-71組成物を製し、60℃における安定性を実施例1と同様に調べ、対照例1と比較した。結果を第2表に示す。実施例2の組成物は対照例1と同等またはそれ以上に安定であり、また第1表に示した対照例2~34の組成物よりも高温条件下では安定であることが示された。なお、対照例35の組成物ではED-71の安定性の低下は見られなかったものの、メグルミンを添加剤として使用した場合には後述する油分分散体錠剤の製造過程において必要となる乳化状態を維持することができないなどの理由から、メグルミンは油分分散体錠剤の製造のための添加剤には適さないことが判明した。
【0124】
【表2】
【0125】
[試験例1]エマルション安定化試験
後述するように、油分分散体錠剤の製造過程においてはED-71のMCT溶液と水溶性高分子の水溶液との乳化状態を維持する必要がある。そこで、MCTと水溶性高分子との乳化液を調製し、乳化状態を調べた。
HPMC(TC-5R、信越化学)、HPC(SSL、信越化学)、PVP(K90、BASF)、POVA-COAT(F、大同化成工業製)を精製水に溶解し、それぞれ2%および5%の水溶液を調製した。各液20 mLをプラスチック製の50 mL遠沈管にそれぞれ加えた。そこにオイルレッド(オイルレッドO、ナカライテスク)を0.1 g/Lで溶解し赤色に着色した中鎖脂肪酸トリグリセリドを各10 mL加えた。
ホモジナイザーにて約10,000 rpmで1分間撹拌して乳化させた後、2時間後および24時間後の乳化液の上部への油層の分離の有無を判定した。
【0126】
結果を第3表に示す。また水溶性高分子の2%水溶液を用いた場合の24時間後の遠沈管内の乳化状態(写真)を図2に示す。HPMC、HPC、およびPVA copolymerでは水層と油層との分離が生じなかったのに対して、PVPでは分離が生じた。
【0127】
【表3】
【0128】
実施例3~11:エマルション調製時におけるED-71の安定性
100 mgのED-71を5.0 mLのEtOHに溶解させED-71のエタノール溶解液を調製した。BHT(Merck)を1 g、およびdl-α-tocopherol(特殊用、和光純薬工業)を2 g、97 gのMCT(O.D.O.C、日清オイリオ)中に溶解させMCT液を調製した。調製したMCT液にED-71のエタノール溶解液を0.5 mL加え、ボルテックスミキサーで撹拌し、ED-71溶解MCT液とした。第4表に示した水溶性高分子溶液をそれぞれ調製した。第5表に記載の割合でED-71溶解MCT液および水溶性高分子溶液を混合し、ホモジナイザーを用いて5400rpmで1分間撹拌して乳化させ、ED-71含有エマルションを調製した。調製したED-71含有エマルションをED-71原薬量としておよそ1μgとなるように秤取し、真空乾燥機にて減圧留去し、得られたサンプルを残存率測定に用いた(実施例3~11)。サンプルを60℃に調整した恒温槽内に大気存在下で保存し、調製直後のED-71含量値、14日後および25日後のED-71の含量値および残存率(%)を調べた。なお、各含量値はED-71溶解MCT液をED-71原薬量としておよそ1μgとなるように秤取し、真空乾燥機にて減圧留去したサンプルを標準品として算出した。ED-71の含量値および残存率は、以下の計算式により求めた。
ED-71の含量値(%)=サンプル中のED-71ピーク面積合計/標準品中のED-71ピーク面積合計(ED-71ピーク面積合計=ED-71ピーク面積+1.98×Pre ED-71のピーク面積)
ED-71の残存率(%)=加速サンプルの含量値平均/調製直後のサンプルの含量値平均
【0129】
結果を第5表に示す。第5表より分かる通り、水溶性高分子の濃度が低い処方(1%)ではED-71の含量値のバラつきが大きいことが分かった。これは、水溶性高分子の濃度が低い処方では調製後エマルションの分離が見られ、サンプリングしたエマルション中のED-71の秤取量にバラつきが見られたことが原因であると考えられる。水溶性高分子の濃度が5%または6%のサンプルでは結果のバラつきが小さく、かつ25日後のED-71残存率はいずれも95%以上を示した。水溶性高分子の濃度が高い処方(10%または15%)ではバラつきは小さいものの25日後のサンプルでは90%前後までED-71残存率が低下した。
1%~15%のHPMCまたはHPCを含有する水溶性高分子溶液の濃度としては、5~6%がED-71のエマルション中での安定化のためには好ましい。
【0130】
【表4】
【0131】
【表5】
【0132】
[製造例]油分分散体錠剤
dl-α-トコフェロール(和光純薬工業) 0.142 kgおよびBHT(Merck) 0.284 kgをMCT(日清オイリオ) 9.025 kgに溶解し、ここにエルデカルシトール(ED-71) 1.1813 gのエタノール(99.5%)(今津薬品工業)(0.078kg)溶液を加えたのち、エタノールを減圧下留去した(溶液1)。
ヒプロメロース(HPMC)(TC-5R、信越化学工業)1.134 kgを精製水 17.766 kgに溶解させた(溶液2)。
3kgの溶液1に6kgの溶液2を加え、ホモジナイザー(IKA製T-50 Ultra Turrax;回転数9,600 rpm)で10分間撹拌した。この操作を3回繰り返して乳化液を得た。
【0133】
目開き850μmの振動篩で篩過したマンニトール(Merck)165.6kgを高速撹拌造粒機(POWREX製VG-600CT)中、ブレード56 rpm,クロススクリュー1500 rpmの条件で撹拌しながら、乳化液を噴霧添加し、15分間練合し、造粒末を得た。
【0134】
得られた造粒末を、9.5 mm(角穴)のスクリーンがセットされた湿式整粒機(POWREX製U-20)を300 rpmで運転しながら篩過しつつ、流動層造粒乾燥機(POWREX製WSG-200pro)に移し、乾燥した(サンプル1)。
【0135】
乾燥された造粒末に対し、直径2 mmのスクリーンがセットされた乾式整粒機(POWREX製U-20)を800 rpmで運転し、整粒した。
整粒品は、それぞれ目開き850μmの篩で篩過したマンニトール3.0 kgおよびクロスカルメロースナトリウム(DFE pharma)3.6 kgの混合物と15分間混合し、さらに、それぞれ目開き850μmの篩で篩過したマンニトール6.6 kgおよびステアリン酸カルシウム(Merck)0.72 kgの混合物と3分間混合後(サンプル2)、約7.5 kNの圧力で、打錠機(IMA製COMPRIMA)にて打錠して錠剤とした(サンプル3)。打錠の際、1錠当たりのエルデカルシトール含量が、0.75μgとなるように錠剤重量を調整した。
【0136】
得られた錠剤全てをコーティング機(パウレック製PRC-450)内に投入し、60℃にて、HPMC 6.480 kgの水(74.520 kg)溶液を噴霧して乾燥し、さらに、ヒプロメロース4.950 kg、タルク(Merck)1.350 kg、酸化チタン(石原産業)2.664 kg、および三二酸化鉄(癸巳化成)0.036 kgの水(65.167 kg)懸濁液を噴霧して乾燥し、2層のフィルムでコーティングされた錠剤を得た(サンプル4;1錠当たりのエルデカルシトール含量は0.75μg)。
【0137】
なお、1錠当たりのエルデカルシトール含量が0.5μgの錠剤を調製する際は、2層目はヒプロメロース4.950 kg、タルク(Merck)1.350 kg、酸化チタン(石原産業)2.502 kg、三二酸化鉄(癸巳化成)0.018 kgおよび黄色三二酸化鉄(癸巳化成)0.180 kgの水(65.167 kg)懸濁液を噴霧してコーティングした。
製造フロー概略図を図1に示す。
【0138】
[試験例2]加速安定性試験
『[製造例]油分分散体錠剤』で得られた錠剤(1錠当たりのエルデカルシトール含量が0.5μgおよび0.75μgの2種類)を高密度ポリエチレンボトル容器(NC-130、伸晃化学)に500錠ずつ投入した。ポリプロピレンキャップ(SK-200B、伸晃化学)でボトルを閉栓し、40℃/75%RHに調整した恒温槽内に保存し、1箇月後、3箇月後、および6箇月後にED-71の残存率を調べた。
【0139】
ED-71の残存率は、以下の方法により測定した。
錠剤5錠を30mL遠沈管に投入した。水:アセトニトリル(20:80)を7mL加えて30分間超音波照射した。超音波照射中は10分毎に1回撹拌を行った。上澄みを孔径0.20μmのポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルターでろ過し、最初の約1mLを廃棄し、残りのろ液をサンプル溶液とした。別途、ED-71標準品を用いて約0.6μg/mLの濃度となるように水:アセトニトリル(20:80)で溶解し、サンプル溶液の調製と同様の方法で標準溶液を調製した。サンプル溶液および標準溶液を高速液体クロマトグラフィー法(Waters製Alliance、測定波長265nm)で測定し、サンプル中のED-71含有量を定量した。
【0140】
以下の計算式によりED-71の残存率を求めた。
ED-71の残存率(%)=表示量に対する加速サンプル中のED-71含有量の比(%)/表示量に対する未加速サンプル中のED-71含有量の比(%)×100
なお、表示量とは、一錠当たりに含有することが意図されているED-71の重量(0.5μgまたは0.75μg)を指す。
【0141】
【表6】
【0142】
『[製造例]油分分散体錠剤』で得られた錠剤は、ICHガイドライン(Q1A)に定められた加速条件において安定であることが示された。
【0143】
[試験例3]純度試験
『[製造例]油分分散体錠剤』で得られた錠剤20個を小型粉砕機LM-Plus(大阪ケミカル社製)で粉砕し、粉砕した試料1.6gを量りとった。酢酸エチルとヘキサンを1:1の体積比で混合した混合溶液40mLを加えて撹拌し、20分間超音波照射した。3000rpmで5分間遠心後、上澄みをメンブランフィルター(DISMIC-25HP PTFE 0.2μm HYDROPHILIC、ADVANTEC社製)でろ過した。ろ液を固相抽出カートリッジ(InertSepTM NH FF 500mg/3mL、GL Sciences社製)に注入し、酢酸エチルとヘキサンを1:1の体積比で混合した混合溶液10mLで洗浄後、6mLのエタノールを通液し溶出させた。溶出された液をエバポレータで留去・乾固させた後、水とアセトニトリルを1:1の体積比で混合した混合溶液100μLを加え再溶解し試料溶液とした。液体クロマトグラフィーはACQUITY UPLC H-Class(Waters社製)を用い、以下の分析条件により純度試験を行った。
カラム:Kinetex Evo C18(2.6μm、4.6mm×100mm、Phenomenex社製)
カラム温度:30℃
移動相:水(A)およびアセトニトリル(B)
流速:1.0mL/分
検出器:フォトダイオードアレイ
検出波長:210nm~400nm
溶出法:濃度勾配を表7に示すとおり設定した。
【0144】
【表7】
【0145】
結果を図3に示す。ED-71(保持時間約10.4分)およびその熱異性体であるPre ED-71(保持時間約8.3分)が検出されていることに加え、未知ピークが保持時間約5.2分に検出された。この未知ピークは、後に化合物2由来のピークであることが判明した。
【0146】
[試験例4]錠剤製造における各工程での化合物2の含量測定
上記製造例におけるサンプル1~4について、化合物2の含量測定を行った。サンプル3およびサンプル4は、試験例3と同様に、サンプル1およびサンプル2は、粉砕工程を省いた以外は試験例3と同様に、純度試験に付した。
【0147】
化合物2の含量は、試験例3に記載した条件での液体クロマトグラフィーによる分析から得られた220nmのプロファイルから、試料溶液中のED-71、化合物2、ED-71の熱異性体であるPre ED-71、およびその他のED-71類縁物質のピーク面積を求め、以下の計算式により算出した。なお、化合物2、Pre ED-71、およびその他のED-71類縁物質のピーク面積は、ED-71に対する相対感度係数(RRF)により補正した。
化合物2の含量(%)=(Aimp-2×RRF)/(A+Aimp-2×RRF+A×RRF+Σ(A×RRF))×100
:ED-71のピーク面積
:Pre ED-71のピーク面積
imp-2:化合物2のピーク面積
:その他の類縁物質のピーク面積
RRF:Pre ED-71、1.79;化合物2、1.72;その他の類縁物質、1.00
【0148】
結果を表8に示す。サンプル1(乾燥末)中に含まれる化合物2の含量は0.5%であり、その後の製造工程で得られたサンプル2~3でも顕著な増加は認められなかった。したがって、化合物2は主に乾燥工程までに生成している可能性が示唆された。
【0149】
【表8】
【0150】
ED-71の紫外可視スペクトル(図4)に示されるとおり、ED-71は分子内にトリエン構造を持つため、265nmにおいて紫外線吸収が極大化する。一方、化合物2の紫外可視スペクトル(図3)では、ED-71のトリエン構造に起因する265nmの特徴的なピークは認められなかった。この結果から、化合物2は、トリエン構造が破壊されたED-71の分解物である可能性が示唆された。ED-71が属するビタミンDは酸化により分解されやすいことが知られている。乾燥工程では、試料は乾燥塔内で熱風による流動化状態にある。流動層内で滞留する試料は空気中の酸素と接触する機会が増えるため、酸化を受けやすい環境にあると言える。以上から、化合物2の生成には、製造過程におけるED-71の酸化が関与していると推定された。
【0151】
[試験例5]ED-71の空気酸化による化合物2の調製およびその構造決定
構造決定のため、化合物2を大量調製した。
ED-71(60μg)の、水:アセトニトリル=1:1混合溶液(10mL)をバイアルに加え、酸化を促進させるためマグネチックスターラーにより大気開放下30℃で16時間激しく撹拌した。揮発し液量が減少したため、撹拌後、3mLのアセトニトリルを追加で加えた。試験例3と同様の分析条件で分析した結果、サンプル1(乾燥末)、サンプル2(混合末)、サンプル3(素錠)およびサンプル4(フィルムコート錠)の全てで検出された化合物2と同一の保持時間に同等の紫外可視スペクトルを持つピークが検出された。このピークを分取し、液体クロマトグラフ質量分析計LCMS-IT-TOF(島津製作所社製)および核磁気共鳴装置Agilent DD2 600MHz NMR Spectrometer(アジレント・テクノロジー社製)により構造を決定した。
MS m/z:529.3528(M-Na)
H-NMR(500MHz、アセトニトリル-d)δ:0.74(s、3H)、0.94(d、3H)、1.00-1.43(m、18H)、1.55-1.87(m、8H)、1.96-1.99(m、1H)、2.33(d、1H)、2.45(dd、1H)、3.18(dd、1H)、3.60-3.64(m、1H)、3.64-3.67(m、2H)、3.75-3.80(m、1H)、3.82(d、1H)、4.14-4.17(m、1H)、4.19-4.22(m、1H)、5.00(t、1H)、5.23(dd、1H)、5.36(t、1H)
【0152】
LC/MSにより得られた分子量から、化合物2はED-71の酸素付加体であることが推定された。また、各種NMR測定の結果から、化合物2はED-71のトリエン部位に酸素が付加したエポキシ体であることが示唆された。以上より、化合物2を(1R,2R,3R,5Z,7ξ,8ξ)-2-(3-ヒドロキシプロポキシ)-7,8-エポキシ-9,10(19)-セココレスタ-5,10-ジエン-1,3,25-トリオールと同定した。
【0153】
[試験例6]化合物2の化学合成
本試験例において、プロトン核磁気共鳴スペクトル(H-NMRスペクトル)は、クロロホルム-dまたはアセトニトリル-d中、内部標準としてテトラメチルシラン存在下または非存在下、ECP500(JEOL製)を用いて測定した。また、得られた化合物2の、液体クロマトグラフィーによる純度分析は、試験例3と同様に行った。
【0154】
6-1:方法1
【0155】
【化4】
【0156】
(1R,2R,3R,5Z,7E)-2-(3-ヒドロキシプロポキシ)-9,10-セココレスタ-5,7,10(19)-トリエン-1,3,25-トリオール(化合物1、504.4mg、1.03mmol)および炭酸水素ナトリウム(170.4mg、2.03mmol)のジクロロメタン(15mL)懸濁液に3-クロロ過安息香酸(74.2%、251.4mg、1.08mmol)を-70℃で加え、3時間かけて10℃まで昇温した。反応混合物を-30℃に冷却し、3-クロロ過安息香酸(25.4mg、0.109mmol)を加え、0.5時間かけて1℃付近まで昇温した。反応混合物に5%炭酸水素ナトリウム水溶液(5mL)を加え、室温まで昇温し、ジクロロメタン(5mL)で抽出した。水層をジクロロメタン(10mL)で再度抽出し、抽出液を合わせて無水硫酸ナトリウムで乾燥した。固体をろ過により除去し、ジクロロメタン(10mL)で洗浄した。ろ液を減圧下濃縮し、シリカゲルクロマトグラフィー(ジクロロメタン:エタノール、1:0→19:1→12:1、v/v)により得られる化合物2を含む分画を濃縮した。得られた残渣をアセトン(5mL)に溶解後、濃縮乾固して(1R,2R,3R,5Z,7ξ,8ξ)-2-(3-ヒドロキシプロポキシ)-7,8-エポキシ-9,10(19)-セココレスタ-5,10-ジエン-1,3,25-トリオール(化合物2、342.3mg、純度90.4面積%)を得た。得られた化合物2のH-NMRスペクトルは、試験例5で得られた化合物と一致した。
【0157】
6-2:方法2
【0158】
【化5】
【0159】
工程1:((1R,2R,3R,5Z,7E)-25-ヒドロキシ-1,3-ビス[(メトキシカルボニル)オキシ]-2-{3-[(メトキシカルボニル)オキシ]プロポキシ}-9,10-セココレスタ-5,7,10(19)-トリエン(化合物3))
(1R,2R,3R,5Z,7E)-2-(3-ヒドロキシプロポキシ)-9,10-セココレスタ-5,7,10(19)-トリエン-1,3,25-トリオール(化合物1、4.008g、8.17mmol)のジクロロメタン(40mL)懸濁液に1-メチルイミダゾール(3.6mL、44.9mmol)を加え氷浴で冷却した。反応混合物に、クロロギ酸メチル(3.1mL、40.8mmol)を10℃以下で滴下し、室温で15時間撹拌後、減圧下溶媒を留去した。残渣に水(40mL)を加え、ヘプタン(10mL)と酢酸エチル(30mL)の混合液にて抽出した。抽出液を水(40mL)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(40mL)で洗浄し、珪藻土、無水硫酸ナトリウムに通した後、減圧下溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘプタン:ジクロロメタン:酢酸エチル、1:1:0→5:5:2→3:3:2、v/v/v)により精製し、化合物3(5.3863g)を得た。
【0160】
工程2:((1R,2R,3R,5Z,7ξ,8ξ)-25-ヒドロキシ-1,3-ビス[(メトキシカルボニル)オキシ]-2-{3-[(メトキシカルボニル)オキシ]プロポキシ}-7,8-エポキシ-9,10-セココレスタ-5,10(19)-ジエン(化合物4))
工程1で得られた化合物3(5.3863g、8.10mmol)および炭酸水素ナトリウム(1.3694g、16.3mmol)のジクロロメタン(81mL)懸濁液に3-クロロ過安息香酸(74.2%、1.9917g、8.56mmol)を0℃で加え、同温にて3.5時間撹拌した。反応混合物に5%炭酸水素ナトリウム水溶液(40mL)を加え室温に昇温した後水層を除去した。有機層は珪藻土、無水硫酸ナトリウムに通した後、減圧下溶媒を留去した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘプタン:ジクロロメタン:酢酸エチル、1:1:0→3:3:2→1:1:2、v/v/v)により精製し、化合物4(4.2359g)を得た。
【0161】
工程3:((1R,2R,3R,5Z,7ξ,8ξ)-2-(3-ヒドロキシプロポキシ)-7,8-エポキシ-9,10(19)-セココレスタ-5,10-ジエン-1,3,25-トリオール(化合物2))
工程2で得られた化合物4(4.1369g、6.08mmol)、炭酸カリウム(0.8406g、6.08mmol)およびメタノール(61mL)の混合物を室温で3時間撹拌した。反応液をジクロロメタン(183mL)で希釈し、シリカゲルでろ過した。シリカゲルをジクロロメタン-メタノール(3:1、100mL)で洗浄し、ろ液をあわせて減圧下にて濃縮した。得られた残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ジクロロメタン:アセトン、1:0→1:1→1:2、v/v)により精製し、化合物2(2.7679g、純度97.0面積%)を得た。得られた化合物2のH-NMRスペクトルは、試験例5で得られた化合物と一致した。
【0162】
[試験例7]長期保存時における錠剤中の化合物2の増加抑制
化合物2はED-71の酸化物であるため、包装中に脱酸素剤を加えることにより、製造した錠剤の保管中に起き得る化合物2の増加を抑制できる可能性がある。この仮説を検証するため、サンプル4(フィルムコート錠)について、褐色ガラス瓶中、脱酸素剤の非存在下および存在下、保存温度25℃、相対湿度75%下での保存後の化合物2の含量を評価した。
【0163】
まず、サンプル4(500錠)を褐色ガラス瓶(第一硝子社製、PS-10K(茶))に充填し、スチールキャップ(荒木工業社製、No.10-13(L))を閉めて気密状態にした。保存温度25℃、相対湿度75%にて19箇月間保管した後のサンプル4における化合物2の含量を、試験例3と同様に測定し、脱酸素剤非存在下での化合物2の含量とした。
次に、サンプル4(500錠)を褐色ガラス瓶に充填し、脱酸素剤(三菱ガス化学社製、エージレスZM、ZM-1)を加え、スチールキャップを閉めて閉栓トルク200~220N・cmで気密状態にした。保存温度25℃、相対湿度75%にて19箇月間保管した後のサンプル4における化合物2の含量を、試験例3と同様に測定し、脱酸素剤存在下での化合物2の含量とした。
【0164】
結果を表9に示す。
【0165】
【表9】
【0166】
脱酸素剤の非存在下では、化合物2が1.5%まで増加した。一方、脱酸素剤の存在下では、化合物2の量は0.4%であり、脱酸素剤の添加により保管期間中の増加を抑制できた。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明により、ED-71の分解が抑制された、ソフトカプセル以外の剤形のED-71製剤の提供が可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5