(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】細胞培養方法
(51)【国際特許分類】
C12P 21/08 20060101AFI20231220BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20231220BHJP
C07K 1/22 20060101ALI20231220BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20231220BHJP
C12N 5/10 20060101ALN20231220BHJP
【FI】
C12P21/08 ZNA
C07K16/18
C07K1/22
C12N15/13
C12N5/10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022109106
(22)【出願日】2022-07-06
(62)【分割の表示】P 2021141016の分割
【原出願日】2018-05-29
【審査請求日】2022-08-04
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】514232085
【氏名又は名称】ユーシービー バイオファルマ エスアールエル
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ベン ヤヒア、バッセム
(72)【発明者】
【氏名】マルフェッテ、レティシア
(72)【発明者】
【氏名】コチャノウスキ、ナディーン
(72)【発明者】
【氏名】レナー、ギル
(72)【発明者】
【氏名】デュラン、サンドリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】イェーツ、アンドリュー ジェフリー
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-525204(JP,A)
【文献】特表2010-508853(JP,A)
【文献】特表2015-514090(JP,A)
【文献】特表2020-521490(JP,A)
【文献】特表2016-513478(JP,A)
【文献】国際公開第2017/194646(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C12P
C07K
UniProt/GeneSeq
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換え宿主細胞により産生段階において産生されるバッチ中の抗体又はその抗原結合断片の集団の不均質を減少させる方法であって、以下を含む方法:
a.培地で抗体又はその抗原結合断片を産生できるチャイニーズハムスター卵巣(CHO)宿主細胞を培養する;
b.産生段階を通じて培養を進行させる、ここで抗体又はその抗原結合断片が前記細胞によって産生され、前記産生段階中に、培養物が
・産生される抗体又はその抗原結合断片の予想される総量の12.06重量%~28.03重量%の総量までのシステイン又はシスチン;及び
・産生される抗体又はその抗原結合断片の予想される総量の8.84重量%~32.06重量%の総量までのトリプトファン、
で補充される;及び
c.細胞培養培地から抗体又はその抗原結合断片を回収する、
ここで、抗体又はその抗原結合断片が以下である:
1)a.配列番号1で定義される配列を有するCDR-H1;配列番号2で定義される配列を有するCDR-H2;配列番号3で定義される配列を有するCDR-H3;配列番号4で定義される配列を有するCDR-L1;配列番号5で定義される配列を有するCDR-L2及び配列番号6で定義される配列を有するCDR-L3を含む抗体又はその抗原結合断片;又は
b.配列番号7で定義される配列を有する軽可変領域と、配列番号8で定義される配列を有する重可変領域とを含む抗体又はその抗原結合断片;又は
c.配列番号7で定義される配列を有する軽可変領域と、配列番号11で定義される配列を有する重鎖とを含む抗体又はその抗原結合断片;又は
2)配列番号9で定義される配列を有する軽鎖と配列番号10で定義される配列を有する重鎖とを含む抗体。
【請求項2】
培養物が、産生される抗体又はその抗原結合断片の予想される総量の12.06重量%~25重量%の総量まで、又は産生される抗体又はその抗原結合断片の予想される総量の12.06重量%~20重量%の総量で、システイン又はシスチンで補充される、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
培養物が、産生される抗体又はその抗原結合断片の予想される総量の8.84重量%~30重量%の総量まで、産生される抗体又はその抗原結合断片の予想される総量の8.84重量%~25重量%の総量まで、又は産生される抗体又はその抗原結合断片の予想される総量の8.84重量%~20重量%の総量で、トリプトファンで補充される、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
方法中に提供されるシステイン又はシスチンの総量が2.9~12g/(10
12細胞)、2.9~7g/(10
12細胞)、又は5.6~7g/(10
12細胞)であり、ここで細胞は産生段階の終了時に予想される積分生細胞数を指す、請求項1~
3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
方法中に提供されるトリプトファンの総量が2.5~7g/(10
12細胞)、又は2.5~3.5g/(10
12細胞)であり、ここで細胞は産生段階の終了時に予想される積分生細胞数を指す、請求項1~
4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
培養物中のシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量が、細胞培養培地にシステイン又はシスチン及びトリプトファンを:
a.産生段階の開始時に、
b.産生段階中の任意の時点で1回又は複数回、
c.産生段階中の継続的な添加を通して、又は
d.a.、b.及びc.の任意の組み合わせで
添加することにより達成される、請求項1~
5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記方法が、バッチプロセス又は流加プロセスである、請求項1~
6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
システイン又はシスチン及びトリプトファンが、産生段階中の毎日の添加により提供される、請求項1~
7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
システイン又はシスチンを翌日に添加する前に、システイン又はシスチンの添加を5.6~7g/(10
12細胞)のレベルに減少させることによって、培養物中のシステイン又はシスチンを枯渇させ、ここで前記細胞は産生段階の終了時に予想される積分生細胞数を指す、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
産生の後期段階中に、すなわち、細胞が既に最大生存細胞密度に達したとき、トリプトファンが翌日添加される前に、培養物中のトリプトファンを枯渇させる、請求項
8又は
9に記載の方法。
【請求項11】
細胞培養培地中のシステイン又はシスチン濃度が産生段階中の任意の時点で0.9g/Lを超えない、又は、細胞培養培地中のシステイン又はシスチン濃度が産生段階中の任意の時点で0.3g/Lを超えない、請求項1~
10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
細胞培養培地中のトリプトファン濃度が産生段階中の任意の時点で0.6g/Lを超えない、又は、細胞培養培地中のトリプトファン濃度が産生段階中の任意の時点で0.3g/Lを超えない、請求項1~
11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
産生段階が少なくとも7日間、又は少なくとも14日間実施される、請求項1~
12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
産生段階の後半の任意の時点で:
・培養物中のシステイン又はシスチンの量が、産生される抗体又はその抗原結合断片の予想される量の12.06重量%~28.03%である;及び
・培養物中のトリプトファンの量が、産生される抗体又はその抗原結合断片の予想される量の8.84重量%~32.06%である、請求項1~
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
産生段階中の任意の時点で:
・培養物中のシステイン又はシスチンの量が、産生される抗体又はその抗原結合断片の予想される量の12.06重量%~28.03%である;及び
・培養物中のトリプトファンの量が、産生される抗体又はその抗原結合断片の予想される量の8.84重量%~32.06%である、請求項1~
14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
産生段階が、50L以上、100L以上、500L以上、1000L以上、2000L以上、5000L以上、10000L以上、又は20,000L以上の容量のバイオリアクター中で行われる、請求項1~
15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
方法は、抗体又はその抗原結合断片を細胞培養培地から回収するステップ、及び抗体又はその抗原結合断片を精製するさらなるステップを含む、請求項1~
16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
精製がプロテインAクロマトグラフィーを含む、請求項
17に記載の方法。
【請求項19】
精製された抗体又はその抗原結合断片を製剤化するステップをさらに含む、請求項
17又は
18に記載の方法。
【請求項20】
抗体又はその抗原結合断片が、1つ以上のアミノ酸及び界面活性剤を含む液体製剤に製剤化され、該製剤が該1つ以上のアミノ酸として、5mM~100mMの濃度、又は10mM~50mMの濃度のヒスチジン、及び/又は100mM~500mMの濃度のプロリンを、5~7.4、5~6.5、又は5~6のpHで含み、該界面活性剤が、0.001%~0.1%(w/v)の濃度の、0.005%~0.1%の濃度の、0.01%~0.1%の濃度の、又は0.01%~0.05%の濃度のポリソルベート80である、請求項
19に記載の方法。
【請求項21】
製剤は、5.2~6.0のpHで、30mMの濃度でヒスチジンを、及び250mMの濃度でプロリンを含む、請求項
20に記載の方法。
【請求項22】
界面活性剤は、0.03%の濃度である、請求項
20又は
21に記載の方法。
【請求項23】
抗体又はその抗原結合断片が10mg/ml~250mg/mlの濃度で、20mg/ml~250mg/mlの濃度で、50mg/ml~250mg/mlの濃度で、又は、120mg/ml~160mg/mlの濃度で製剤化される、請求項
20又は
21に記載の方法。
【請求項24】
抗体又はその抗原結合断片が140mg/mlの濃度で製剤化される、請求項
20~
23のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
前記方法は産生される抗体又はその抗原結合断片の不均質を減少させるものであり、ここで前記不均質の減少とは
a.電荷の不均質;及び/又は
b.アミノ酸酸化、異性化、断片化、他の共有結合付加物糖化、脱アミド、システイニル化;及び/又は
c.抗体又はその抗原結合断片の異なるバッチ間の、色又は色の強度;及び/又は
d.高分子量種(HMWS);及び/又は
e.抗体又はその抗原結合断片不安定性、
を減少させることを含む、請求項1~
24のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組換えタンパク質、特に抗体の製造の分野に属する。より具体的には、本発明は、商業規模の製造中に不均質を減少させたタンパク質を発現するための細胞培養法に関する。
【背景技術】
【0002】
治療用抗体などの治療用タンパク質としての組換えタンパク質の開発には、産業規模での組換えタンパク質の産生が必要である。これを達成するために、様々な発現系は、原核生物系及び真核生物系の両方を使用することができる。過去20年間にわたって、治療薬として承認された大多数の治療用タンパク質が哺乳動物細胞培養物を介して製造され、そのような系は、ヒトに使用するための組換えポリペプチドを大量に生産するための好ましい発現系となっている。
【0003】
しかし、哺乳動物の細胞培養には大きな課題がある。産生される組換えタンパク質の力価は、酵母及び昆虫細胞に基づく系のような他の真核生物産生系と比べて、一般的に非常に低い。
過去30年にわたって、多くの努力が細胞培養と組換えポリペプチド発現の基本パラメータを確立するために捧げられ、細胞培養培地の組成の変化を通して最適な細胞増殖への到達(Hecklau C.、et al.J Biotech 218(2016)53-63;Zang Li.et al.Anal.Chem 83(2011)5422-5430参照)及び操作条件、及び大型バイオリアクターの開発に多くの研究の焦点が絞られてきた。
【0004】
収量はまだ哺乳動物細胞の非常に重要な側面であるが、近年では、開発と生産規模のすべての段階で、製品の品質と方法の一貫性を制御することに焦点がシフトしている。哺乳動物の細胞培養によって産生される治療用タンパク質は、さまざまなレベルの不均質を示す。そのような不均質は、限定されないが、異なるグリコシル化パターン、脱アミド化又は酸化、異なる電荷又はサイズ変異体から生じる差異を含む。組換えタンパク質の不均質は、例えば同じ製造方法で製造された同じタンパク質の異なるバッチ間で、製品の色の違いにもつながる可能性がある。そのような不均質、特に対象とする組換えタンパク質の色の違いは、治療用タンパク質が高濃度で製剤化されるとより明らかになる。近年、治療用タンパク質の皮下送達に向けた着実な傾向があり、治療用タンパク質を高濃度で製剤化する必要がある。高濃度は凝集体レベルの増加と関連している(Purdie J.ら、Biotechnology Progress、2016、32、998~1008)。酸性種のレベルの増加のような荷電変異体の増加はタンパク質の安定性に影響を及ぼし得る(Banks D.D.ら、Pharmaceutical Science、2009、98、4501-10)が、その一方で濃縮治療用タンパク質の色がより強くなり得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
培地の組成(Kshirsagar R.ら、Biotechnology and Bioengineering、109:10、2523-2532(2012);US2013/0281355;WO2013/158275)及び増殖条件などの細胞培養条件は、pHと温度を含めて(US8,765,413)、治療用タンパク質、特に不均質を最小限にした治療用抗体の製造のためのさらに改良された細胞培養法を提供することが依然として必要である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、組換えタンパク質の産生段階中に細胞培養培地におけるシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量を減少させることによって上記の必要性に応えるものである。
以下の特定の実施態様は、以下に番号付けされるように説明される:
【0007】
実施態様1:組換えタンパク質の製造方法であって、以下を含む方法:
a.培地で組換えタンパク質を産生できる宿主細胞を培養する;
b.産生段階を通じて培養を進行させる、ここで組換えタンパク質が前記細胞によって産生され、前記産生段階中に、培養物が
・産生される組換えタンパク質の予想される総量の10重量%~30重量%の総量までのシステイン又はシスチン;及び/又は
・産生される組換えタンパク質の予想される総量の8重量%~35重量%の総量までのトリプトファン、
で補充される;及び
c.任意に、細胞培養培地から組換えタンパク質を回収する。
【0008】
実施態様2:培養物が産生される組換えタンパク質の予想される総量の12重量%~28重量%の総量まで、例えば産生される組換えタンパク質の予想される総量の、12重量%~25重量%、例えば12重量%~20重量%の総量までのシステイン又はシスチンで補充される、実施態様1に記載の方法。
【0009】
実施態様3:培養物が産生される組換えタンパク質の予想される総量の8重量%~30重量%の総量まで、例えば産生される組換えタンパク質の予想される総量の、8重量%~25重量%、例えば8重量%~20重量%の総量のトリプトファンで補充される、実施態様1又は2に記載の方法。
【0010】
実施態様4:方法中に提供されるシステイン又はシスチンの総量が2.9~12g/(1012細胞)、例えば2.9~7g/(1012細胞)、例えば5.6~7g/(1012細胞)であり、ここで細胞は産生段階の終了時に予想される積分生細胞数を指す、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
【0011】
実施態様5:方法中に提供されるトリプトファンの総量が2.5~7g/(1012細胞)、例えば2.5~3.5g/(1012細胞/L)であり、ここで細胞は産生段階の終了時に予想される積分生細胞数を指す、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
【0012】
実施態様1a:組換えタンパク質の製造方法であって、以下を含む方法:
a.培地で組換えタンパク質を産生できる宿主細胞を培養する;
b.産生段階を通じて培養を進行させる、ここで組換えタンパク質が前記細胞によって産生され、前記産生段階中に、培養物が
・産生される組換えタンパク質の総量の10重量%~30重量%の総量までのシステイン又はシスチン;及び/又は
・産生される組換えタンパク質の総量の8重量%~35重量%の総量までのトリプトファン、で補充される;及び
c.任意に、細胞培養培地から組換えタンパク質を回収する。
【0013】
実施態様2a:培養物が産生される組換えタンパク質の総量の12重量%~28重量%の総量まで、例えば産生される組換えタンパク質の総量の、12重量%~25重量%、例えば12重量%~20重量%の総量までのシステイン又はシスチンで補充される、実施態様1に記載の方法。
【0014】
実施態様3a:培養物が産生される組換えタンパク質の総量の8重量%~30重量%の総量まで、例えば産生される組換えタンパク質の総量の、8重量%~25重量%、例えば8重量%~20重量%の総量までのトリプトファンで補充される、実施態様1又は2に記載の方法。
【0015】
実施態様4a:方法中に提供されるシステイン又はシスチンの総量が2.9~12g/(1012細胞)、例えば2.9~7g/(1012細胞)、例えば5.6~7g/(1012細胞)であり、ここで細胞は産生段階の終わりでの積分生細胞数を指す、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
【0016】
実施態様5a:方法中に提供されるトリプトファンの総量が2.5~7g/(1012細胞)、例えば2.5~3.5g/(1012細胞/L)であり、ここで細胞は産生段階の終わりでの積分生細胞数を指す、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
【0017】
実施態様6:培養物中のシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの総量が、細胞培養培地にシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンを:
a.産生段階の開始時に、
b.産生段階中の任意の時点で1回又は複数回、
c.産生段階中の継続的な添加を通して、又は
d.a.、b.及びc.の任意の組み合わせで
添加することにより達成される、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
【0018】
実施態様7:前記方法が、流加(fed-batch)プロセスなどのバッチプロセスである、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
実施態様8:システイン又はシスチン及び/又はトリプトファンが、産生段階中の毎日の添加により提供される、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
【0019】
実施形態9:システイン又はシスチンを翌日に添加する前に、例えば、システイン又はシスチンの添加を5.6~7g/(1012細胞)のレベルに減少させることによって、培養物中のシステイン又はシスチンを枯渇させ、ここで前記細胞は産生段階の終了時に予想される積分生細胞数を指す、実施態様8に記載の方法。
【0020】
実施態様9a:システイン又はシスチンを翌日に添加する前に、例えば、システイン又はシスチンの添加を5.6~7g/(1012細胞)のレベルに減少させることによって、培養物中のシステイン又はシスチンを枯渇させ、ここで前記細胞は産生段階の終了時での積分生細胞数を指す、実施態様8に記載の方法。
【0021】
実施態様10:産生の後期段階中に、すなわち、細胞が既に最大生存細胞密度に達したとき、トリプトファンが翌日添加される前に、培養物中のトリプトファンを枯渇させる、実施態様8又は9に記載の方法。
【0022】
実施態様11:細胞培養培地中のシステイン又はシスチン濃度が産生段階中の任意の時点で0.9g/Lを超えない、好ましくは、産生段階中の任意の時点で細胞培養培地中のシステイン又はシスチン濃度が0.3g/Lを超えない、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
【0023】
実施態様12:細胞培養培地中のトリプトファン濃度が産生段階中の任意の時点で0.6g/Lを超えない、好ましくは、細胞培養培地中のトリプトファン濃度が産生段階中の任意の時点で0.3g/Lを超えない、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
【0024】
実施態様13:産生段階が少なくとも7日間、好ましくは少なくとも14日間、実施される方法。
【0025】
実施態様14:産生段階の後半の任意の時点で:
・培養物中のシステイン又はシスチンの量が、産生される組換えタンパク質の予想される量の10重量%~30%である;及び/又は
・培養物中のトリプトファンの量が、産生される組換えタンパク質の予想される量の8重量%~35%である、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
【0026】
実施態様15:産生段階中の任意の時点で:
・培養物中のシステイン又はシスチンの量が、産生される組換えタンパク質の予想される量の10重量%~30%である;及び/又は
・培養物中のトリプトファンの量が、産生される組換えタンパク質の予想される量の8重量%~35%である、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
【0027】
実施態様14a:産生段階の後半の任意の時点で:
・培養物中のシステイン又はシスチンの量が、産生される組換えタンパク質の量の10重量%~30%である;及び/又は
・培養物中のトリプトファンの量が、産生される組換えタンパク質の量の8重量%~35%である、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
【0028】
実施態様15a:産生段階中の任意の時点で:
・培養物中のシステイン又はシスチンの量が、産生される組換えタンパク質の量の10重量%~30%である;及び/又は
・培養物中のトリプトファンの量が、産生される組換えタンパク質の量の8重量%~35%である、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
【0029】
実施態様16:前記宿主細胞は、哺乳動物細胞、好ましくはCHO細胞である、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
【0030】
実施態様17:組換えタンパク質は、抗体又はその抗原結合断片である、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
【0031】
実施態様18:抗体又はその抗原結合断片が以下である、実施態様17に記載の方法:
1)a.配列番号1で定義される配列を有するCDR-H1;配列番号2で定義される配列を有するCDR-H2;配列番号3で定義される配列を有するCDR-H3;配列番号4で定義される配列を有するCDR-L1;配列番号5で定義される配列を有するCDR-L2及び配列番号6で定義される配列を有するCDR-L3を含む抗体又はその抗原結合断片;又は
b.配列番号7で定義される配列を有する軽可変領域と、配列番号8で定義される配列を有する重可変領域とを含む抗体又はその抗原結合断片;又は
c.配列番号7で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する軽可変領域と、配列番号8で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する重可変領域とを含む抗体又はその抗原結合断片;
d.配列番号7で定義される配列を有する軽可変領域と、配列番号11で定義される配列を有する重鎖とを含む抗体又はその抗原結合断片;又は
e.配列番号7で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する軽可変領域と、配列番号11で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する重鎖とを含む抗体又はその抗原結合断片;又は
2)配列番号9で定義される配列を有する軽鎖と配列番号10で定義される配列を有する重鎖とを含む抗体;又は
3)配列番号9で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する軽鎖と、配列番号10で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する重鎖とを含む抗体。
【0032】
実施態様19:産生段階が、好ましくは50L以上、100L以上、500L以上、1000L以上、2000L以上、5000L以上、10000L以上、又は20,000L以上の容量のバイオリアクター中で行われる、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
【0033】
実施態様20:方法は、組換えタンパク質を細胞培養培地から回収するステップ、及び組換えタンパク質を精製するさらなるステップを含む、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
【0034】
実施態様21:精製がプロテインAクロマトグラフィーを含む、実施態様20に記載の方法。
【0035】
実施態様22:精製された組換えタンパク質を製剤化するステップをさらに含む、実施態様20又は21に記載の方法。
【0036】
実施態様23:組換えタンパク質が、1つ以上のアミノ酸及び界面活性剤を含む液体製剤に製剤化される、実施態様22に記載の方法。
【0037】
実施態様24:製剤がヒスチジン及び/又はプロリンを含む、実施態様23に記載の方法。
【0038】
実施態様25:製剤が5mM~100mMの濃度で、例えば10mM~50mMの濃度でヒスチジンを、及び/又は100mM~500mMの濃度でプロリンを、5~7.4、例えば5~6.5、例えば5~6のpHで含む、実施態様24に記載の方法。
【0039】
実施態様26:製剤は、5.2~6.0、好ましくは約5.6のpHで、30mMの濃度でヒスチジンを、及び250mMの濃度でプロリンを含む、実施態様25に記載の方法。
【0040】
実施態様27:界面活性剤は、好ましくは、0.001%~0.1%(w/v)、例えば、0.005%~0.1%、例えば、0.01%~0.1%、例えば0.01%~0.05%、例えば0.03%の濃度の、ポリソルベート80である、実施態様23~26のいずれか一項記載の方法。
【0041】
実施態様28:組換えタンパク質が抗体であり、抗体が10mg/ml~250mg/ml、例えば20mg/ml~250mg/ml、例えば50mg/ml~250mg/ml、例えば、120mg/ml~160mg/ml、例えば140mg/mlの濃度で製剤化される、実施態様23~27のいずれか一項に記載の方法。
【0042】
実施態様29:前記方法は産生される組換えタンパク質の不均質を減少させるものであり、ここで前記不均質の減少とは
a.電荷の不均質、好ましくは酸性ピーク群(APG)を減少させること;及び/又は
b.アミノ酸酸化、異性化、断片化、他の共有結合付加物糖化、脱アミド、システイニル化を減少させること;及び/又は
c.例えば組換えタンパク質の異なるバッチ間で、色又は色の強度を減少させること;及び/又は
d.高分子量種(HMWS)を減少させること;及び/又は
e.組換えタンパク質不安定性を減少させること、
を含む、先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法。
【0043】
実施態様30:組換えタンパク質を製造する方法であって、
a.培地中に組換えタンパク質を産生できる宿主細胞を培養する;
b.産生段階を通じて培養を進行させる、ここで組換えタンパク質は細胞によって産生され、細胞培養培地はシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンで補充されており、ここで
・方法中に提供されたシステイン又はシスチンの総量は、2.9~7g/(1012細胞)、例えば、5.6~7g/(1012細胞)である、ここで細胞は、産生段階の終了時に予想される積分生細胞数を指す、及び/又は
・方法中に提供されたトリプトファンの総量は、2.5~3.5g/(1012細胞)である、ここで、細胞は、産生段階の終了時に予想される積分生細胞数を指す、及び
c.任意に、細胞培養培地から組換えタンパク質を回収する、
を含む、上記方法。
【0044】
実施態様30a:組換えタンパク質を製造する方法であって、
a.培地中に組換えタンパク質を産生できる宿主細胞を培養するステップ;
b.産生段階を通じて培養を進行させるステップ、ここで組換えタンパク質は細胞によって産生され、細胞培養培地はシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンで補充されており、ここで
・方法中に提供されたシステイン又はシスチンの総量は、2.9~7g/(1012細胞)、例えば、5.6~7g/(1012細胞)である、ここで細胞は、産生段階の終了時での積分生細胞数である、及び/又は
・方法中に提供されたトリプトファンの総量は、2.5~3.5g/(10個の12細胞)である、ここで、細胞は、産生段階の終了時での積分生細胞数である、及び
c.任意に、細胞培養培地から組換えタンパク質を回収するステップ、
を含む、上記方法。
【0045】
実施態様31:方法が、実施態様2~29のいずれか一項に記載のさらなる特徴の一つ以上を有する、実施態様30に記載の方法。
【0046】
実施態様32:組換えタンパク質の産生段階中の細胞培養培地中に存在する
a.システイン又はシスチン及び/又は
b.トリプトファン
の総量を制限することを含む、組換え宿主細胞により産生段階において産生されるバッチ中の組換えタンパク質の集団の不均質を減少させる方法。
【0047】
実施態様33:前記方法は、実施態様2~29のいずれか一項に記載のさらなる特徴の一つ以上を有する、実施態様32に記載の方法。
【0048】
実施態様34:先行する実施態様のいずれか一項に記載の方法により得られ得る又は得られる組換えタンパク質調製物。
【0049】
実施態様35:抗体を含む医薬組成物であって、該組成物が実施態様23から28のいずれか一項に記載のさらなる特徴の1つ以上を有し、好ましくは抗体が実施態様18に記載の抗体である、上記医薬組成物。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【
図1】産生される組換えタンパク質の重量パーセントあたりのバイオリアクターで行われた産生段階全体で添加されたアミノ酸システイン又はシスチン及びトリプトファンの総量を測定するための計算分析の説明。
【0051】
【
図2】それぞれ、40mg/mLに正規化されたb
*値(a)及び酸性ピーク群(APG)変異体(b)に対する産生された総mAb1のトリプトファン及びシステイン又はシスチンの添加総量重量%(g/g)の影響。
【0052】
【
図3】それぞれ、40mg/mLに正規化されたb
*値(a)及び酸性ピーク群(APG)変異体(b)に対する産生された総mAb1重量(g/g)のトリプトファンとシステイン又はシスチンの添加総量重量%の影響、並びにAPG上のシステイン又はシスチン(c)及びトリプトファン(d)の最大濃度の相関の欠如。
【0053】
【
図4】産生された総mAb1のシステイン又はシスチン及びトリプトファンの添加総量重量%(g/g)の関数としての組換えモノクローナル抗体mAb1の酸性ピーク群(APG)変異体の多重線形回帰モデル。
【0054】
【
図5】産生された総組換えmAb1のシステイン又はシスチン及びトリプトファンの添加総量重量%(g/g)の関数としての組換えモノクローナル抗体mAb1のメインピーク群変異体の多重線形回帰モデル。
【0055】
【
図6】産生された総組換えmAb1のシステイン又はシスチンの添加総量重量%(g/g)の関数としての組換えモノクローナル抗体mAb1の高分子量種(HMWS)変異体の多重線形回帰モデル。
【0056】
【
図7】産生された総組換えmAb1のシステイン又はシスチン及びトリプトファンの添加総量重量%(g/g)の関数としての組換えモノクローナル抗体mAb1の40mg/mL変異体に正規化されたb
*値の多重線形回帰モデル。
【0057】
【
図8】(a)高分子量種(HMWS)及び(b)40mg/mLに正規化されたb
*値(c)酸性ピーク群(APG)及び(d)主ピーク群変異体に対する産生された総組換えmAb1のシステイン又はシスチン及びトリプトファンの添加総量重量%(g/g)の影響の等高線プロット。黒い破線の四角形は、産生された総組換えmAb1の理想のシステイン又はシスチン及びトリプトファンの添加総量重量%(g/g)に対応し、その目的はAPG、HMWS、40mg/mLに正規化されたb
*値を減少させ、メインピーク群変異体を増加させるためであり、これは、システイン又はシスチンについては産生される総mAb1の12.06~28.03重量%(g/g)の添加量に相当し、トリプトファンについては産生される総mAb1の8.84~32.06重量%(g/g)の添加量に相当する。
【0058】
【
図9】細胞培養体積(CSV)に正規化された積分生細胞数(IVCC)に対する細胞培養体積(CSV)重量のシステイン又はシスチン及びトリプトファンの添加総量重量%の影響。CSV重量のシステイン又はシスチン及びトリプトファンの添加総量重量%の関数としてCSVに正規化された累積IVCCの多重線形回帰モデルを(a)に示す。CSVに正規化された累積IVCCに対する、CSV重量のシステイン又はシスチン及びトリプトファンの添加総量重量%の影響の等高線図を(b)に示す。
【0059】
【
図10】CSV重量の産生段階中に細胞培養培地に添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量重量%の、HPLC法で測定した最終mAb1力価(mAbHPLC)に及ぼす影響。CSV重量のシステイン又はシスチン及びトリプトファンの添加総量重量%の関数としての最終mAb1HPLC力価の多重線形回帰モデルを(a)に示す。最終mAbHPLC力価に対する、CSV重量のシステイン又はシスチン及びトリプトファンの添加総量重量%の影響の等高線図を(b)に示す。
【0060】
【
図11】14日間の産生の間のIVCCの産生段階の終了時のIVCC
*10
-1
2あたりの、産生段階中の細胞培養培地に添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量の影響の等高線図が(a)に示されている。最終mAbHPLC力価での産生段階の終了時のIVCC
*10
-12あたりの、産生段階中の細胞培養培地に添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量の影響を示す等高線図を(b)に示す。産生段階の終了時にIVCC
*10
-12あたりのバイオリアクターで行われた産生段階を通して添加されたアミノ酸システイン又はシスチン及びトリプトファンの量を測定するための計算分析の説明は、(c)に示されている。
【0061】
【
図12】CSVに正規化されたIVCC上に対する、産生段階を通じて細胞培養培地で到達したシステイン又はシスチン及びトリプトファンの最大濃度の影響の等高線図。
【0062】
【
図13】表6に記載される条件について添加したシステイン又はシステインの総量及びIVCCごとに添加されたシステイン又はシステインの総量。
【0063】
【
図14】細胞増殖及びmAb力価に対するシステイン又はシスチン枯渇の影響。生細胞濃度(VCC)プロファイル(a)、mAb力価(b)、及びフィード添加前のCys濃度(c)は、3つの実験条件の関数として示されている:産生段階を通してのシステイン又はシスチンの枯渇なし[枯渇なし‐(フィード中の34.35g/L Cys)]並びに6日目から流加産生の終了まで毎日のシステイン又はシスチン枯渇、及び飼料中のCys濃度17.17g/L及び6.87g/Lの2つの条件。
【0064】
【
図15】(a)mAb2の40mg/mL変異体に正規化されたAPG及びb
*値に対する、(b)mAb3のAPG変異体に対する、及び(c)APG、BPG(塩基性ピークグループ)及びmAb4のメイングループ変異体に対する、産生された総組換え抗体重量のシステイン又はシスチン及びトリプトファンの添加総量重量%の影響。
【0065】
【
図16】総組換えmAb1、mAb2、mAb3及びmAb4産生重量のシステイン又はシスチン及びトリプトファンの添加総量重量%のAPGに対する影響。(a)では、mAb1、mAb2、mAb3、及びmAb4のAPG変異体を、産生された総組換えmAb1、mAb2、mAb3、及びmAb4重量のシステイン又はシスチン添加総量重量%に対してプロットした。(b)では、組換えモノクローナル抗体mAb1、mAb2及びmAb3のAPG変異体並びに組換え多重特異性抗体、mAb4の多重線形回帰モデルを、産生された総組換えmAb重量のシステイン又はシスチン及びトリプトファンの添加総量重量%の関数としてプロットした。
【0066】
【
図17】mAb1抗体を発現するDG44 CHO細胞株のデータに基づいて、酸性ピークグループ(APG)レベルを予測するために方程式を作成した(表3)。
【0067】
【
図18】mAb1抗体を発現するDG44 CHO細胞株の実験的酸性ピークグループ(APG)レベル(APGexp)と予測APGレベル(APGpred)の比較。2Lバイオリアクターで交互接線流(ATF)技術を使用して、灌流産生プロセスでデータを生成した。APGの予測は、
図17の式に基づく。
【発明を実施するための形態】
【0068】
発明の詳細な説明
本発明は、組換えタンパク質製造方法における産生段階中の細胞培養培地中で使用されるシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの総量使用を制限することにより、産生される組み換えタンパク質の不均質を減少させるという知見に基づいている。従って、本発明は培地中で発現される抗体又はその抗原結合断片の不均質を減少させるための細胞培養培地における限られた量のシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの使用を開示する。
【0069】
不均質を減少させることは、好ましくは以下に関するものである:
a.電荷、好ましくは酸性ピーク群(APG)不均質;及び/又は
b.アミノ酸酸化、異性化、断片化、他の共有結合付加物糖化、脱アミド、システイニル化;及び/又は
c.色又は色の強度(40mg/mLに正規化されたb*値);及び/又は
d.高分子量種(HMWS)の形成;及び/又は
e.組換えタンパク質での安定性,及び/又は
f.それらの組み合わせ。
【0070】
本明細書で使用される「不均質」という用語は、個々の分子間の差、例えば同じ製造プロセスによって、又は同じ製造バッチ内で生成された分子の集団における組換えタンパク質間の違いを指す。不均質は、例えば発現タンパク質の翻訳後修飾のために、組換えタンパク質の不完全な又は不均質な修飾から生じる可能性がある。そのような修飾は、脱アミノ化反応及び/又は酸化反応及び/又は糖化反応などの小分子の共有結合付加及び/又は異性化反応及び/又は断片化反応及び/又は他の反応の結果であり得、糖化パターンの変動も含む。そのような不均質の化学物理的発現は、電荷変異体プロファイル、色又は色強度、及び分子量プロファイルを含むがこれらに限定されない、得られる組換えタンパク質調製物に様々な特性をもたらす。
【0071】
本発明に係る用語「産生段階」とは、細胞が組換えタンパク質を発現する(すなわち産生する)場合、組換えタンパク質を製造する方法の間の細胞培養の段階を含む。産生段階は、所望の生成物の力価が増加するときに開始し、細胞又は細胞培養液又は上清の収穫で終わる。通常、産生段階の開始時に、細胞培養物はバイオリアクターに移される。収穫は、組換えタンパク質、例えば組換え抗体をその後の工程で回収し精製するために、例えば産生容器から細胞培養液をから除去する工程である。本明細書で使用する場合の「初期細胞培養重量」という用語は、産生段階の開始時の培養物の重量、典型的にはバイオリアクターの接種時の重量を指す。
【0072】
第1の態様において、本発明は組換えタンパク質の製造方法であって、以下を含む方法を提供する:
a.培地で組換えタンパク質を産生できる宿主細胞を培養する;
b.前記産生段階を通じて培養を進行させる、ここで組換えタンパク質が前記細胞によって産生され、前記産生段階中に、培養物が
a.産生される組換えタンパク質の予想される総量の10重量%~30重量%の総量までのシステイン又はシスチン;及び/又は
b.産生される組換えタンパク質の予想される総量の8重量%~35重量%の総量までのトリプトファン、
で補充される;及び
c.任意に、細胞培養培地から組換えタンパク質を回収する。
【0073】
それは本発明の以下の説明から明らかなように、培養は、システイン又はシスチン及び/又はトリプトファンで補充される;そのような補充は以下とともにで実行できる:
1.システイン;又は
2.シスチン;又は
3.システイン及びシスチン;又は
4.システイン及びトリプトファン;又は
5.シスチン及びトリプトファン;又は
6.システイン、シスチン、及びトリプトファン;又は
7.トリプトファン。
【0074】
本明細書で使用される場合、表現「システイン又はシスチンの総量」又は「総量~までのシステイン又はシスチン」とは、a)シスチンが方法のために使用されない場合はシステイン単独の総量、b)システインが方法のために使用されない場合はシスチン単独の総量、又はc)両方の化合物が方法に使用されている場合はシステイン+シスチンの総量を指す。細胞培養培地中のシステイン及びシスチンは一定の平衡にあり、そこではシステインの2分子が酸化するとシスチンの1分子となり、還元するとシステインの2分子に戻る。
【0075】
本明細書では、システイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの総量は、産生される組換えタンパク質の総量の割合として表され得る。本明細書で使用される「重量%」という用語は、重量の割合を指す。「総」(「合計」)とは、産生段階の終了時に決定される総量、すなわち産生段階の過程で添加されるシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの総量、及び産生段階の過程で産生される組換えタンパク質の総量を指し、産生される組換えタンパク質の総量は産生段階の終了時に測定される。
【0076】
図1は、産生される組換えタンパク質の重量%あたりのシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの総量の計算方法を示す。添加されるシステイン又はシスチン又はトリプトファンの総量は、フィード速度(又はフィード体積)及びそのフィード中のシステイン又はシスチン又はトリプトファンの濃度と、培地中のシステイン又はシスチン又はトリプトファンの濃度の関数として計算され、添加されたフィードの体積ごとにフィードが添加される(
図1、A)。産生される組換えタンパク質の量は、細胞培養培地の最終体積と最終組換えタンパク質力価の関数として計算される(
図1、B)。これらの2つの計算されたパラメーターの比率は、産生される組換えタンパク質の量あたりのシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの合計量である(
図1、C)。
【0077】
宿主細胞は、システイン又はシスチン及びトリプトファンをすでに含んでいてもいなくてもよい細胞培養培地中で初期は(工程aにおいて)増殖させることができる。細胞培養培地にすでにシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの初期量が含まれている場合、総量にはこの初期量が含まれる。
【0078】
本発明の方法の一つの実施態様では、培養物が、産生される組換えタンパク質の予想される総量の12.06重量%~28.03重量%の総量まで、例えば産生される組換えタンパク質の予想される総量の、12重量%~25重量%、例えば12重量%~25重量%、例えば12重量%~20重量%の総量までのシステイン又はシスチンで補充される。
【0079】
本発明の方法の別の実施態様において、培養物が、産生される組換えタンパク質の予想される総量の8.84重量%~32.06重量%の総量まで、例えば産生される組換えタンパク質の予想される総量の、8重量%~30重量%、例えば8重量%~25重量%、例えば8重量%~20重量%の総量までのトリプトファンで補充される。
【0080】
あるいは、システイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの総量は、産生段階の終了時の積分生細胞数に対する方法中に添加される総量として表されてもよい。
【0081】
一つの実施態様では、方法中に提供されるシステイン及び/又はシスチンの総量が2.9~12g/(1012細胞)、例えば2.9~7g/(1012細胞)、例えば5.6~7g/(1012細胞)であり、ここで細胞は産生段階の終了時に予想される積分生細胞数を指す。別の実施態様では、方法中に提供されるトリプトファンの総量が2.5~7g/(1012細胞)、例えば2.5~3.5g/(1012細胞)であり、ここで細胞は産生段階の終了時に予想される積分生細胞数を指す。
【0082】
当業者は、産生段階などの特定の段階で細胞培養物に添加される及び/又は存在するシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの量を測定する方法を知っていることを理解されたい。例えば、これは本明細書の実施例に記載されているように行うことができる。同様に、当業者は、細胞培養によって産生される組換えタンパク質の総量を測定し、したがって、本発明の教示を適用して所望の技術的効果を達成する方法を知っているであろう。たとえば、これは、分析前に-80°Cで保存した細胞培養上清サンプルにForteBio Octetモデルアナライザー(ForteBio、Inc.、Menlo Park、CA)又はプロテインA高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用するような、本明細書の実施例に記載されているように行うことができる。
【0083】
産生される組換えタンパク質の予想される総量あたりのシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの量が特定の範囲内に保たれる本発明による方法を設計するために、1つ又は複数の初期実験を行って特定の培養条件下で特定の宿主細胞によって産生される組換えタンパク質のおおよそのレベルを決定することが必要とされ得る。産生される組換えタンパク質のおおよその総レベルがわかれば、産生される組換えタンパク質の予想される総量あたりのシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの量が特定の範囲内に保たれる本発明による方法を設計することができる。
【0084】
産生段階で細胞培養培地中のシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの総量に到達するために、さまざまな戦略を採用することができる。一つの実施態様では、総量は、産生段階の開始直後にシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンを添加することにより、例えば一度だけ、又は既に産生細胞培養培地に含まれるようにして到達することができる。別の実施態様では、総量は、産生段階中、添加、例えば毎日の添加又は連続添加の和によって到達することができる。さらに別の実施態様では、総量は、産生段階の開始時に細胞培養液中で初期システイン/システイン及び/又はトリプトファン濃度の組み合わせにより、及び添加により到達することができる。
【0085】
したがって、本発明の方法の一つの実施態様では、細胞培養培地中のシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの総量が、細胞培養培地にシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンを:
a.産生段階の開始時に、
b.産生段階中の任意の時点で1回又は複数回、
c.産生段階中の継続的な添加を通して、又は
d.a.、b.及びc.の任意の組み合わせで
添加することにより達成される。
【0086】
好ましい実施態様では、システイン又はシスチン及び/又はトリプトファンを産生段階の開始時に添加し、産生段階中毎日のボーラス添加を介して添加される。好ましくは、産生段階は少なくとも7日間、より好ましくは、7日間より長く、例えば10日間、より好ましくは14日間以上持続する。
【0087】
好ましい実施態様では、細胞培養培地中のシステイン又はシスチン濃度が産生段階中の任意の時点で0.9g/Lを超えない、好ましくは、細胞培養培地中のシステイン又はシスチン濃度が産生段階中の任意の時点で0.3g/Lを超えない。
【0088】
さらに、好ましい実施態様では、細胞培養培地中のトリプトファン濃度が産生段階中の任意の時点で0.6g/Lを超えない、好ましくは、細胞培養培地中のトリプトファン濃度が産生段階中の任意の時点で0.3g/Lを超えない。
【0089】
一つの実施態様では、システイン又はシスチンを細胞培養培地に毎日添加し、及び6日目に細胞培養培地中のシステイン又はシスチンを0.3g/Lの最大濃度に増加し、そして7日目から14日目に細胞培養培地中のシステイン又はシスチンを最大濃度0.9g/Lに増加する。
【0090】
いくつかの実施態様において、システイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの量は、産生段階の終了時に全産生段階にわたって計算する場合の特定の範囲内だけでなく、産生段階の部分中の任意の時点で、又は全産生段階のどの時点であってもよい。したがって、一つの実施態様において、産生段階の後半の任意の時点で(例えば14日間の産生段階の7~14日目):
・培養物中のシステイン又はシスチンの量が、産生される組換えタンパク質の予想される量の10重量%~30%である;及び/又は
・培養物中のトリプトファンの量が、産生される組換えタンパク質の予想される量の8重量%~35%である。
【0091】
別の実施態様では、産生段階中の任意の時点で:
・培養物中のシステイン又はシスチンの量が、産生される組換えタンパク質の予想される量の10重量%~30%である;及び/又は
・培養物中のトリプトファンの量が、産生される組換えタンパク質の予想される量の8重量%~35%である。
【0092】
システイン又はシスチンを毎日の添加により細胞に提供する場合、翌日の添加が提供される前にシステイン又はシスチンを培地中で枯渇させてもよい。一つの実施態様では、システイン又はシスチンを翌日に添加する前に、例えばシステイン又はシスチン添加を5.6~7g/[1012細胞]のレベルに減少させることによって、システイン又はシスチンを培養物中で枯渇させる。第二の実施態様では、トリプトファンは、産生の後期段階中、細胞培養の間、すなわち、細胞がすでに最大生存細胞密度に達したとき、例えば14日間の産生段階で8日目以降に枯渇し始めながら、培養物中で枯渇させる。
【0093】
理論に束縛されるものではないが、システイン又はシスチンが枯渇しているにもかかわらず、産生段階における細胞はシステイン又はシスチンが奪われたままではなく、一旦枯渇が生じるとシステイン又はシスチンに変換され得る不活性代謝産物として、添加を介して、細胞培養培地中で利用可能なシステイン又はシスチンを保存することを目的とした内部メカニズムを持っていると仮定される。
【0094】
さらなる独立した態様において、本発明は、組換えタンパク質の製造方法であって、以下を含む方法に関する:
a.培地で組換えタンパク質を産生できる宿主細胞を培養する;
b.産生段階を通じて培養を進行させる、ここで組換えタンパク質が前記細胞によって産生され、前記細胞培養培地がシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンで補充され、ここで
・方法中に提供されるシステイン又はシスチンの総量が2.9~7g/(1012細胞)、例えば5.6~7g/(1012細胞)であり、ここで細胞は、産生段階の終了時に予想される積分生細胞数を指す、及び/又は
・方法中に提供されるトリプトファンの総量が2.5~3.5g/(1012細胞)であり、ここで細胞は、産生段階の終了時に予想される積分生細胞数を指す、及び
c.任意に、細胞培養培地から組換えタンパク質を回収する。
【0095】
この方法の一つの実施態様において、細胞培養培地が、産生される組換えタンパク質の予想される総量の12重量%~28重量%の総量まで、例えば産生される組換えタンパク質の予想される総量の、12重量%~25重量%、例えば12重量%~20重量%の総量までのシステイン又はシスチンで補充される。
【0096】
この方法の別の実施態様において、細胞培養培地が、産生される組換えタンパク質の予想される総量の8重量%~30重量%の総量まで、例えば産生される組換えタンパク質の予想される総量の、8重量%~25重量%、例えば8重量%~20重量%の総量までのトリプトファンで補充される。
【0097】
この方法の別の実施態様では、細胞培養培地中のシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの総量が、細胞培養培地にシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンを:
a.産生段階の開始時に、
b.産生段階中の任意の時点で1回又は複数回、
c.産生段階中の継続的な添加を通して、又は
d.a.、b.及びc.の任意の組み合わせで
添加することにより達成される。
【0098】
この方法の別の実施態様では、方法は、流加プロセスなどのバッチプロセスである。この方法の別の実施態様では、システイン又はシスチン及び/又はトリプトファンが、産生段階中の毎日の添加により提供される。
【0099】
この方法の別の実施態様では、システイン又はシスチンを翌日に添加する前に、例えば、システイン又はシスチンの添加を5.6~7g/[1012細胞]のレベルに減少させることによって細胞培養培地中のシステイン又はシスチンを枯渇させる。
【0100】
この方法の別の実施態様では、産生の後期段階で、すなわち、細胞が既に最大生存細胞密度に達したとき、トリプトファンが翌日添加される前に、細胞培養培地中のトリプトファンを枯渇させる。
【0101】
この方法の別の実施態様において、細胞培養培地中のシステイン又はシスチン濃度が産生段階中の任意の時点で0.9g/Lを超えない、好ましくは、産生段階中の任意の時点で細胞培養中のシステイン又はシスチン濃度が0.3g/Lを超えない。
【0102】
この方法の別の実施態様では、細胞培養中のトリプトファン濃度が産生段階中の任意の時点で0.6g/Lを超えない、好ましくは、産生段階中の任意の時点で細胞培養中のトリプトファン濃度が0.3g/Lを超えない。
【0103】
この方法の別の実施態様では、産生段階は少なくとも7日間、好ましくは少なくとも14日間実施される。
【0104】
この方法の一つの実施態様では、産生段階の後半の任意の時点で:
a.細胞培養培地中のシステイン又はシスチンの量が、産生される組換えタンパク質の予想される量の10重量%~30%である;及び/又は
b.細胞培養培地中のトリプトファンの量が、産生される組換えタンパク質の予想される量の8重量%~35%である。
【0105】
この方法の別の実施態様では、産生段階中の任意の時点で:
a.システイン又はシスチンの量が、産生される組換えタンパク質の予想される量の10重量%~30%である;及び/又は
b.トリプトファンの量が、産生される組換えタンパク質の予想される量の8重量%~35%である。
【0106】
この方法の別の実施態様では、宿主細胞は哺乳動物細胞、好ましくはCHO細胞である。
【0107】
この方法の別の実施態様では、組換えタンパク質は、抗体又はその抗原結合断片である。
【0108】
この方法の別の実施態様では、産生段階が、好ましくは50L以上、100L以上、500L以上、1000L以上、2000L以上、5000L以上、10000L以上、又は20000L以上の容量のバイオリアクター中で行われる。
【0109】
この方法の一つの実施態様では、方法は、細胞培養培地から組換えタンパク質を回収するステップと、組換えタンパク質を精製するさらなるステップとを含む。
【0110】
この方法のさらなる実施態様では、精製はプロテインAクロマトグラフィーを含む。
【0111】
この方法のさらなる実施態様において、方法は、精製された組換えタンパク質を処方するステップをさらに含む。
【0112】
この方法の一つの実施態様では、組換えタンパク質は、1つ以上のアミノ酸及び界面活性剤を含む液体製剤に製剤化される。
【0113】
この方法のさらなる実施態様では、製剤はヒスチジン及び/又はプロリンを含む。
【0114】
この方法のさらに別の実施態様では、製剤が5mM~100mMの濃度で、例えば10mM~50mMの濃度でヒスチジンを、及び/又は100mM~500mMの濃度でプロリンを、5~7.4、例えば5~6.5、例えば5~6、例えば5.5~6のpHで含む。
【0115】
この方法のさらに別の実施態様では、製剤は、5.2~6.0、例えば約5.6のpHで、30mMの濃度でヒスチジン及び250mMの濃度でプロリンを含む。
【0116】
この方法のさらなる実施態様において、界面活性剤は、好ましくは、0.001%~0.1%(w/v)、例えば、0.005%~0.1%、例えば、0.01%~0.1%、たとえば0.01%~0.05%、例えば0.03%の濃度の、ポリソルベート80である。
【0117】
この方法のさらなる別の実施態様では、組換えタンパク質が抗体であり、抗体が10mg/ml~250mg/ml、例えば20mg/ml~250mg/ml、例えば50mg/ml~250mg/ml、例えば、120mg/ml~160mg/ml、例えば約140mg/mlの濃度で製剤化されている
【0118】
この方法の別の実施態様では、方法は産生される組換えタンパク質の不均質を減少させるものであり、ここで前記不均質の減少とは
a.電荷の不均質、好ましくは酸性ピーク群(APG)を減少させること;及び/又は
b.アミノ酸酸化、異性化、断片化、他の共有結合付加物糖化、脱アミド、システイニル化を減少させること;及び/又は
c.例えば組換えタンパク質の異なるバッチ間で、色又は色の強度を減少させること;及び/又は
d.高分子量種(HMWS)を減少させること;及び/又は
e.組換えタンパク質不安定性を減少させること、
を含む。
【0119】
さらに独立した態様において、本発明は、組換えタンパク質の産生段階中の細胞培養培地中に存在する
a.システイン又はシスチン及び/又は
b.トリプトファン
の総量を制限することを含む、組換え宿主細胞により産生段階において産生されるバッチ中の組換えタンパク質の集団の不均質を減少させる方法に関する。
【0120】
一つの実施態様では、本方法は以下を含む:
a.培地で組換えタンパク質を産生できる宿主細胞を培養する;
b.産生段階を通じて培養を進行させる、ここで組換えタンパク質が前記細胞によって産生され、前記産生段階中に、培養物が
・産生される組換えタンパク質の予想される総量の10重量%~30重量%の総量までのシステイン又はシスチン;及び/又は
・産生される組換えタンパク質の予想される総量の8重量%~35重量%の総量までのトリプトファン、
で補充される;及び
c.任意に、細胞培養培地から組換えタンパク質を回収する。
【0121】
本方法の一つの実施態様において、培養物が、産生される組換えタンパク質の予想される総量の12重量%~28重量%の総量まで、例えば産生される組換えタンパク質の予想される総量の、12重量%~25重量%、例えば12重量%~20重量%の総量までのシステイン又はシスチンで補充される。
【0122】
本方法の別の実施態様では、培養物が、産生される組換えタンパク質の予想される総量の8重量%~30重量%の総量まで、例えば産生される組換えタンパク質の予想される総量の、8重量%~25重量%、例えば8重量%~20重量%の総量までのトリプトファンで補充される。
【0123】
本方法の別の実施態様では、方法中に提供されるシステイン又はシスチンの総量が2.9~12g/(1012細胞)、例えば2.9~7g/(1012細胞)、例えば5.6~7g/(1012細胞)であり、ここで細胞は産生段階の終了時に予想される積分生細胞数を指す。
【0124】
本方法の別の実施態様では、方法中に提供されるトリプトファンの総量が2.5~7g/(1012細胞)、例えば2.5~3.5g/(1012細胞)であり、ここで細胞は産生段階の終了時に予想される積分生細胞数を指す。
【0125】
本方法の別の実施態様では、細胞培養培地中のシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの総量が、細胞培養培地にシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンを:
a.産生段階の開始時に、
b.産生段階中の任意の時点で1回又は複数回、
c.産生段階中の継続的な添加を通して、又は
d.a.、b.及びc.の任意の組み合わせで
添加することにより達成される。
【0126】
本方法の別の実施態様では、方法は、流加プロセスなどのバッチプロセスである。
【0127】
本方法の別の実施態様において、システイン又はシスチン及び/又はトリプトファンは、産生段階中の毎日の添加により提供される。
【0128】
本方法の別の実施態様において、システイン又はシスチンを翌日に添加する前に、例えば、システイン又はシスチンの添加を5.6~7g/[1012細胞]のレベルに減少させることによって細胞培養培地中のシステイン又はシスチンを枯渇させる。
【0129】
本方法の別の実施態様では、産生の後期段階中に、すなわち、細胞が既に最大生存細胞密度に達したとき、トリプトファンが翌日添加される前に、細胞培養培地中のトリプトファンを枯渇させる。
【0130】
本方法の別の実施態様では、細胞培養培地中のシステイン又はシスチン濃度が産生段階中の任意の時点で0.9g/Lを超えない、好ましくは、細胞培養培地中のシステイン又はシスチン濃度が産生段階中の任意の時点で0.3g/Lを超えない。
【0131】
本方法の別の実施態様では、細胞培養培地中のトリプトファン濃度が産生段階中の任意の時点で0.6g/Lを超えない、好ましくは、細胞培養培地中のトリプトファン濃度が産生段階中の任意の時点で0.3g/Lを超えない。
【0132】
本方法の別の実施態様では、産生段階は少なくとも7日間、好ましくは少なくとも14日間実施される。
【0133】
本方法の別の実施態様では、産生段階の後半の任意の時点で:
・培養物中のシステイン又はシスチンの量が、産生される組換えタンパク質の予想される量の10重量%~30%である;及び/又は
・培養物中のトリプトファンの量が、産生される組換えタンパク質の予想される量の8重量%~35%である。
【0134】
本方法の別の実施態様では、産生段階中の任意の時点で:
・培養物中のシステイン又はシスチンの量が、産生される組換えタンパク質の予想される量の10重量%~30%である;及び/又は
・培養物中のトリプトファンの量が、産生される組換えタンパク質の予想される量の8重量%~35%である。
【0135】
本方法の別の実施態様では、宿主細胞は哺乳動物細胞、好ましくはCHO細胞である。
【0136】
本方法の別の実施態様では、組換えタンパク質は抗体又はその抗原結合断片である。
【0137】
本方法の別の実施態様では、産生段階が、好ましくは50L以上、100L以上、500L以上、1000L以上、2000L以上、5000L以上、10000L以上、又は20000L以上の容量のバイオリアクター中で行われる。
【0138】
この方法の一つの実施態様では、方法は、細胞培養培地から組換えタンパク質を回収するステップと、組換えタンパク質を精製するさらなるステップとを含む。
【0139】
この方法のさらなる実施態様では、精製はプロテインAクロマトグラフィーを含む。
【0140】
この方法のさらなる実施態様において、方法は、精製された組換えタンパク質を製剤化するさらなるステップを含む。
【0141】
この方法の一つの実施態様では、組換えタンパク質は、1つ以上のアミノ酸及び界面活性剤を含む液体製剤に製剤化される。
【0142】
この方法のさらなる実施態様では、製剤はヒスチジン及び/又はプロリンを含む。
【0143】
この方法のさらに別の実施態様では、製剤は5mM~100mMの濃度で、例えば10mM~50mMの濃度でヒスチジンを、及び/又は100mM~500mMの濃度でプロリンを、5~7.4、例えば5~6.5、例えば5~6、例えば5.5~6のpHで含む。
【0144】
この方法のさらに別の実施態様では、製剤は、5.2~6.0、例えば約5.6のpHで、30mMの濃度でヒスチジンを、及び250mMの濃度でプロリンを含む。
【0145】
この方法のさらなる実施態様では、界面活性剤は、好ましくは、0.001%~0.1%(w/v)、例えば、0.005%~0.1%、例えば、0.01%~0.1%、たとえば0.01%~0.05%、例えば0.03%の濃度の、ポリソルベート80である。
【0146】
この方法のさらに別の実施態様では、組換えタンパク質が抗体であり、抗体が10mg/ml~250mg/ml、例えば20mg/ml~250mg/ml、例えば50mg/ml~250mg/ml、例えば、120mg/ml~160mg/ml、例えば140mg/mlの濃度で製剤化されている。
【0147】
この方法の別の実施態様において、方法は産生される組換えタンパク質の不均質を減少させるものであり、ここで前記不均質の減少とは:
a.電荷の不均質、好ましくは酸性ピーク群(APG);及び/又は
b.アミノ酸酸化、異性化、断片化、他の共有結合付加物糖化、脱アミド、システイニル化;及び/又は
c.例えば組換えタンパク質の異なるバッチ間の、色又は色の強度;及び/又は
d.高分子量種(HMWS);及び/又は
e.組換えタンパク質不安定性、
を減少させることを含む。
【0148】
さらなる態様において、本発明は、本発明の方法により得られ得る又は得られる組換えタンパク質調製物(製剤)に関する。一つの実施態様では、その製剤はバルク製剤である。他の実施態様では、例えば、方法がタンパク質産物を製剤化するさらなるステップを含む場合、得られる製剤は製剤化されたタンパク質製剤、例えば患者への投与に適した製剤である。
【0149】
組換えタンパク質、好ましくはそのようにして得られる前記製剤における抗体又はその抗原結合断片は、同じ方法で得られる同じ組換えタンパク質に関して減少した不均質を示すが、ここで産生段階中のシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンの総量は、本発明で説明されるように限定されない。
【0150】
さらに別の態様では、本発明は、抗体を含む医薬組成物に関し、組成物は、1つ以上のアミノ酸及び界面活性剤の液体製剤組成物である。
【0151】
一つの実施態様では、医薬組成物はヒスチジン及び/又はプロリンを含む。
【0152】
さらなる実施態様では、医薬組成物はヒスチジン及び/又はプロリンを含む。
【0153】
さらなる実施態様において、医薬組成物は、5mM~100mMの濃度で、例えば10mM~50mMの濃度でヒスチジンを、及び/又は100mM~500mMの濃度でプロリンを、5~7.4、例えば5~6.5、例えば5~6、例えば5.5~6のpHで含む。
【0154】
さらなる実施態様において、医薬組成物は、5.2~6.0、例えば約5.6のpHで、30mMの濃度でヒスチジンを、及び250mMの濃度でプロリンを含む。
【0155】
医薬組成物のさらなる実施態様において、界面活性剤は、好ましくは、0.001%~0.1%(w/v)、例えば、0.005%~0.1%、例えば、0.01%~0.1%、たとえば0.01%~0.05%、例えば0.03%の濃度の、ポリソルベート80である。
【0156】
医薬組成物のさらなる実施態様において、抗体は、10mg/ml~250mg/ml、例えば20mg/ml~250mg/ml、例えば50mg/ml~250mg/ml、例えば、120mg/ml~160mg/ml、例えば約140mg/mlの濃度で製剤化される。
【0157】
医薬組成物のさらなる実施態様では、抗体は以下である:
1)a.配列番号1で定義される配列を有するCDR-H1;配列番号2で定義される配列を有するCDR-H2;配列番号3で定義される配列を有するCDR-H3;配列番号4で定義される配列を有するCDR-L1;配列番号5で定義される配列を有するCDR-L2及び配列番号6で定義される配列を有するCDR-L3を含む抗体又はその抗原結合断片;又は
b.配列番号7で定義される配列を有する軽可変領域と、配列番号8で定義される配列を有する重可変領域とを含む抗体又はその抗原結合断片;又は
c.配列番号7で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する軽可変領域と、配列番号8で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する重可変領域とを含む抗体又はその抗原結合断片;
d.配列番号7で定義される配列を有する軽可変領域と、配列番号11で定義される配列を有する重鎖とを含む抗体又はその抗原結合断片;又は
e.配列番号7で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する軽可変領域と、配列番号11で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する重鎖を含む抗体又はその抗原結合断片;又は
2)配列番号9で定義される配列を有する軽鎖と配列番号10で定義される配列を有する重鎖とを含む抗体;又は
3)配列番号9で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する軽鎖と、配列番号10で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する重鎖とを含む抗体。
【0158】
宿主細胞と培養条件
組換えタンパク質、抗体又はその抗原結合断片は、好ましくは哺乳動物宿主細胞、最も好ましくはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を培養することにより産生され得る。
【0159】
用語「細胞培養」(「細胞培養物」)又はその文法的変形は、特定の期間、例えば産生段階での細胞培養培地で維持又は増殖される1つ以上の組換えタンパク質を発現(すなわち産生)するように適切に改変された及び/又は操作された、複数の宿主細胞、好ましくは哺乳動物宿主細胞を含むが、それらに限定されるものではない。
【0160】
哺乳動物細胞は、特にCHO細胞において、その増殖及び組換えタンパク質の発現をサポートする任意の培地で培養することができる。好ましくは、培地は、動物血清とペプトンなどの動物由来産物を含まない培地である。当業者が入手可能な様々な細胞培養培地が存在するが、各培地は、細胞増殖とタンパク質産生を可能にする適切な濃度で存在する、ビタミン、アミノ酸、ホルモン、成長因子、イオン、緩衝剤、ヌクレオシド、グルコース又は同等のエネルギー源の異なる組み合わせを含む。適切な媒体は、例えば、WO98/08934及びUS2006/0148074(両方ともその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている。本発明において使用することができ、又はシステイン/システイン及び/又はトリプトファン要件を満たすように修飾することができる、さらに好適な市販の培地としては、AmpliCHO CD媒体、Dynamis(商標)培地、EX-CELL(商標)Advanced(商標)CHO流加システム、CD FortiCHO(商標)培地、CP OptiCHO(商標)、最小必須培地(MEM)、BalanCD(商標)CHO増殖A培地、ActiPro(商標)、DMEM-ダルベッコ改変イーグル培地及びRPMI-1640培地が挙げられる。
【0161】
細胞培養物は、必要な生産の規模に応じて流加モードで操作してもしなくてもよい振盪フラスコ又はバイオリアクターなどの任意の適切な容器内で行うことができる。
【0162】
これらのバイオリアクターは、攪拌タンクリアクター又はエアリフトリアクターのいずれかであり得る。1,000Lを超えて50,000Lまで、好ましくは5,000L~20,000L、又は10,000Lの容量のさまざまな大規模バイオリアクターが利用可能である。あるいは、2L~100Lなどのより小さい規模のバイオリアクターも抗体又は抗体断片を製造するために使用できる。
【0163】
本発明の好ましい実施態様では、前の段階(すなわち、拡張段階)がどこで実行されるかに関係なく、産生段階は、バイオリアクター又は振盪フラスコ又はスピナーフラスコなどの他の懸濁培養容器で実行される。産生段階は流加モードで好ましくは動作させるが、任意の他のモード、例えばバッチ、灌流又はケモスタットモードを代替として使用することができる。灌流又はケモスタットの場合、使用されるシステイン又はシステイン及び/又はトリプトファンの総量の比率は、灌流流量対産生容器から産生される組換えタンパク質の除去速度に従って計算される。
【0164】
一つの実施態様では、方法は、組換えタンパク質を細胞培養培地から回収するステップ、及び組換えタンパク質を精製するさらなるステップを含む。
【0165】
さらなる態様において、精製はプロテインAクロマトグラフィーを含む。
【0166】
さらなる実施態様において、方法は精製された組換えタンパク質を製剤化するさらなるステップを含む。
【0167】
一つの実施態様において、組換えタンパク質は、1つ以上のアミノ酸及び界面活性剤を含む液体製剤に製剤化される。
【0168】
さらなる実施態様において、製剤はヒスチジン及び/又はプロリンを含む。
【0169】
さらに別の実施態様において、製剤が5mM~100mMの濃度で、例えば10mM~50mMの濃度でヒスチジンを、及び/又は100mM~500mMの濃度でプロリンを、5~7.4、例えば5~6.5、例えば5~6、例えば5.5~6のpHで含む。
【0170】
さらに別の実施態様では、製剤は、約5.6などの5.2から6.0の間のpHで、30mMの濃度のヒスチジン及び250mMの濃度のプロリンを含む。
【0171】
さらなる実施態様では、界面活性剤は、好ましくは、0.001%~0.1%(w/v)、例えば、0.005%~0.1%、例えば、0.01%~0.1%、たとえば0.01%~0.05%、例えば0.03%の濃度の、ポリソルベート80である。
【0172】
さらに別の実施態様では、組換えタンパク質が抗体であり、抗体が10mg/ml~250mg/ml、例えば20mg/ml~250mg/ml、例えば50mg/ml~250mg/ml、例えば、120ミリg/ml~160mg/ml、例えば約140mg/mlの濃度で製剤化されている。
【0173】
組換えタンパク質、例えば、抗体又はその抗原結合フラグメントは、哺乳動物細胞培養物、典型的にはCHO細胞培養物の上清中に典型的には見出される。CHO宿主細胞については、抗体又はその抗原結合断片は上清中に分泌され、当該上清が当技術分野で公知の方法により、典型的には遠心分離により回収され得る。
【0174】
本発明の方法を使用して産生することができる組換えタンパク質
本発明の方法は、例えば、糖タンパク質及び多量体タンパク質だけでなく、重要な三次構造を有するペプチド又はより大きなタンパク質を例えば含む、あらゆる種類の組換えポリペプチド又はタンパク質を産生するために使用できる。しかし、好ましくは、本発明の方法で産生される組換えタンパク質は、抗体又はその抗原結合断片である。本明細書で使用される「抗体」(単数又は複数)という用語は、例えば、モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体の両方、並びに単一特異性抗体、及び二重特異性抗体などの多重特異性抗体の両方を含む。
【0175】
「抗体」(単数又は複数)には、任意の種の、特に哺乳動物種の抗体、典型的には2つの重鎖及び2つの軽鎖を有する抗体、IgA1、IgA2、IgD、IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、IgG4、IgE、及びIgM及びその改変変異体を含む任意のアイソタイプのヒト抗体、非ヒト霊長類抗体、例えばチンパンジー、ヒヒ、アカゲザル又はカニクイザル由来の抗体、げっ歯類抗体、例えばマウス、ラット又はウサギ由来の抗体;ヤギ又はウマの抗体、及びそれらの誘導体、又はニワトリ抗体などの鳥類種の、又はサメ抗体などの魚種のものが含まれる。用語「抗体」(単数又は複数)はまた、少なくとも1つの重鎖及び/又は軽鎖抗体配列の第1部分が第1の種由来であり、重鎖及び/又は軽鎖抗体配列の第2部分が第2の種由来である「キメラ」抗体も指す。本明細書で関心のあるキメラ抗体には、非ヒト霊長類(例えば、ヒヒ、アカゲザル又はカニクイザルなどの旧世界ザル)由来の可変ドメイン抗原結合配列及びヒト定常領域配列を含む「霊長類化」抗体が含まれる。「ヒト化」抗体は、非ヒト抗体に由来する配列を含有するキメラ抗体である。ほとんどの部分について、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域由来の残基が、目的の特異性、親和性、及び活性を有する、非ヒト種(ドナー抗体)、例えばマウス、ラット、ウサギ、ニワトリ、又は非ヒト霊長類の超可変領域又は相補性決定領域(CDR)由来の残基で置換されたヒト抗体(レシピエント抗体)である。ほとんどの場合、CDRの外側のヒト(レシピエント)抗体の残基は;すなわち、フレームワーク領域(FR)では、対応する非ヒト残基によってさらに置換される。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にもドナー抗体にも見られない残基を含んでもよい。これらの変更は、抗体の性能をさらに向上させるために行われる。ヒト化は、ヒトにおける非ヒト抗体の免疫原性を低下させ、したがって、ヒト疾患の治療への抗体の適用を促進する。ヒト化抗体及びそれらを生成するいくつかの異なる技術は当技術分野で周知である。用語「抗体」(単数又は複数)は、ヒト化の代替として生成され得るヒト抗体も指す。例えば、免疫時に内因性ネズミ抗体の産生なしにヒト抗体の完全なレパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えばマウス)を製造することが可能である。例えば、キメラ及び生殖系列変異マウスにおける抗体重鎖結合領域(JH)遺伝子のホモ接合性欠失により、内因性抗体産生が完全に阻害されることが報告されている。そのような生殖細胞系変異マウスにおけるヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子アレイの移入は、特定の抗原に対するヒト生殖系列免疫グロブリン遺伝子を運ぶトランスジェニック動物の免疫化により、特定の抗原に対して特異性を有するヒト抗体の産生をもたらすであろう。そのようなトランスジェニック動物を製造するための技術及びそのようなトランスジェニック動物からヒト抗体を単離及び製造するための技術は、当技術分野で知られている。あるいは、トランスジェニック動物では;例えばマウスの場合、マウス抗体の可変領域をコードする免疫グロブリン遺伝子のみが、対応するヒト可変免疫グロブリン遺伝子配列に置き換えられる。抗体定常領域をコードするマウス生殖系列免疫グロブリン遺伝子は変化しないままである。このようにして、抗体エフェクターはトランスジェニックマウスの免疫系で機能し、その結果、B細胞の発達は本質的に変化せず、in vivoでの抗原攻撃に対する抗体応答の改善につながる可能性がある。関心のある特定の抗体をコードする遺伝子がそのようなトランスジェニック動物から単離されると、定常領域をコードする遺伝子を完全なヒト抗体を得るためにヒト定常領域遺伝子で置き換えることができる。本明細書で使用される「抗体」(単数又は複数)という用語は、非グリコシル化抗体も指す。
【0176】
本明細書で使用される「その抗原結合断片」という用語又はその文法的変形は、抗体断片を指す。抗体の断片は、当技術分野で知られている少なくとも1つの重鎖又は軽鎖免疫グロブリンドメインを含み、1つ又は複数の抗原に結合する。本発明による抗体断片の例には、Fab、Fab’、F(ab’)2、及びFv及びscFv断片;並びにダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ、ドメイン抗体(dAb)、例えばsdAb、VHH、又はラクダ抗体(例えば、Nanobodies(商標)などのラクダ又はラマ)及びVNAR断片、単鎖抗体、Fab-Fv又はFab-Fv-Fv構築物を含むがこれらに限定されない抗体断片又は抗体から形成された二重特異性、三重特異性、四重特異性又は多重特異性抗体を含む。上記で定義される抗体断片は当業界で公知である。
【0177】
特に好ましい実施態様では、本発明の方法により産生される抗体又はその抗原結合断片は以下である(表1):
1)a.配列番号1で定義される配列を有するCDR-H1;配列番号2で定義される配列を有するCDR-H2;配列番号3で定義される配列を有するCDR-H3;配列番号4で定義される配列を有するCDR-L1;配列番号5で定義される配列を有するCDR-L2及び配列番号6で定義される配列を有するCDR-L3を含む抗体又はその抗原結合断片;又は
b.配列番号7で定義される配列を有する軽可変領域と、配列番号8で定義される配列を有する重可変領域とを含む抗体又はその抗原結合断片;又は
c.配列番号7で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する軽可変領域と、配列番号8で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する重可変領域とを含む抗体又はその抗原結合断片;
d.配列番号7で定義される配列を有する軽可変領域と、配列番号11で定義される配列を有する重鎖とを含む抗体又はその抗原結合断片;又は
e.配列番号7で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する軽可変領域と、配列番号11で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する重鎖を含む抗体又はその抗原結合断片;又は
2)配列番号9で定義される配列を有する軽鎖と配列番号10で定義される配列を有する重鎖とを含む抗体;又は
3)配列番号9で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する軽鎖と、配列番号10で定義される配列に対して少なくとも80%の同一性又は類似性、好ましくは90%の同一性又は類似性を有する重鎖とを含む抗体。
【0178】
この明細書全体を通して、相補性決定領域(「CDR」)はKabatの定義に従って定義される。Kabatの定義は、抗体の残基に番号を付けるための標準であり、CDR領域を識別するために通常使用される(Kabat et al.、(1991)、第5版、NIH publication No.91-3242)。
【0179】
【0180】
組換えタンパク質又は好ましい抗体又はその抗原結合断片は、典型的には、タンパク質又は抗体ヌクレオチド配列をコードするベクターを含む宿主細胞によって産生され得る。
【0181】
抗体又はその抗原結合断片は、重鎖又は軽鎖タンパク質のみを含んでもよく、その場合、重鎖又は軽鎖タンパク質コード配列のみを使用して細胞をトランスフェクトする必要がある。重鎖と軽鎖の両方を含む産物の産生のために、細胞に2つのベクター、軽鎖タンパク質をコードする第1ベクターと重鎖タンパク質をコードする第2ベクターをトランスフェクトしてもよい。あるいは、軽鎖及び重鎖タンパク質をコードする配列を含む単一のベクターを使用してもよい。
【0182】
好ましい実施態様において、本発明は、抗体又はその抗原結合断片タンパク質を産生するための方法であって、以下を含む方法を提供する:
a.培地で抗体又はその抗原結合断片を産生できるCHO細胞を培養する;
b.抗体又はその抗原結合断片が細胞によって産生される産生段階を通じて培養を進行させる、ここで、前記産生段階の間に、培養物は、産生される抗体又はその抗体結合断片の予想される総量の10重量%~30重量%の総量までシステイン又はシスチンで補充される、及び
c.任意に、細胞培養培地から抗体又はその抗原結合断片を回収する、
ここで、方法中に提供されるシステイン又はシスチンの総量は、2.9~12g/(1012細胞)、例えば2.9~7g/(1012細胞)、例えば5.6~7g/(1012細胞)である、ここで細胞は産生段階の終了時に予想される積分生細胞数を意味する、
ここで、システイン又はシスチンは、産生段階で毎日添加することにより提供される、
ここで、細胞培養培地中のシステイン又はシスチン濃度は、産生段階のいずれの時点でも0.9g/Lを超えず、好ましくは、細胞培養培地中のシステイン又はシスチン濃度は、産生段階のいずれの時点でも0.3g/Lを超えない、
ここで、前記抗体又はその抗原結合断片は、好ましくは:
1)配列番号1で定義される配列を有するCDR-H1;配列番号2で定義される配列を有するCDR-H2;配列番号3で定義される配列を有するCDR-H3;配列番号4で定義される配列を有するCDR-L1;配列番号5で定義される配列を有するCDR-L2及び配列番号6で定義される配列を有するCDR-L3を含む;又は
2)配列番号7で定義される配列を有する軽可変領域と、配列番号8で定義される配列を有する重可変領域とを含む。
【0183】
さらなる好ましい実施態様では、本発明は、抗体又はその抗原結合断片を製造する方法であって、以下を含む方法を提供する:
a.培地で抗体又はその抗原結合断片を産生できるCHO細胞を培養する;
b.抗体又はその抗原結合断片が細胞によって産生される産生段階を通じて培養を進行させる、ここで、前記産生段階の間に、細胞培養培地が
・産生される抗体又はその抗原結合断片の予想される総量の10重量%~30重量%の総量までのシステイン又はシスチン;及び/又は
・産生される抗体又はその抗原結合断片の予想される総量の8重量%~35重量%の総量までのトリプトファン
で補充される、及び
c.任意に、細胞培養培地から抗体又はその抗原結合断片を回収する、
ここで、方法中に提供されるシステイン又はシスチンの総量は、2.9~12g/(1012細胞)、例えば2.9~7g/(1012細胞)、例えば5.6~7g/(1012細胞)であり、細胞は産生段階の終了時に予想される積分生細胞数を意味し、
ここで、方法中に提供されるトリプトファンの総量は、2.5~7g/(1012細胞)、例えば2.5~3.5g/(1012個/L)であり、ここで、細胞は産生段階の終了で予想される積分生細胞数を意味し、
ここで、システイン又はシスチン及び/又はトリプトファンは、産生段階での毎日の添加により提供され、
ここで、細胞培養培地中のシステイン又はシスチン濃度は、産生段階中のいずれの時点でも0.9g/Lを超えず、好ましくは、細胞培養培地中のシステイン又はシスチン濃度は、産生段階中のいずれの時点でも0.3g/Lを超えない、
ここで、細胞培養中のトリプトファン濃度は、産生段階のどの時点でも0.6g/L 培地を超えない、好ましくは、細胞培養培地のトリプトファン濃度は、産生中の任意の時点で0.3g/Lを超えない段階、及び
ここで、前記抗体又はその抗原結合断片は、好ましくは:
1)配列番号1で定義される配列を有するCDR-H1;配列番号2で定義される配列を有するCDR-H2;配列番号3で定義される配列を有するCDR-H3;配列番号4で定義される配列を有するCDR-L1;配列番号5で定義される配列を有するCDR-L2及び配列番号6で定義される配列を有するCDR-L3;又は
2)配列番号7で定義される配列を有する軽可変領域と、配列番号8で定義される配列を有する重可変領域とを含む。
【0184】
以下、添付の図面に示される実施態様を参照して、例により本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0185】
略語
mAb:モノクローナル抗体;MFCS:マルチ発酵制御システム;Cys:システイン又はシスチン;Trp:トリプトファン
【0186】
材料及び方法
細胞株、細胞培養及び実験手順
CHO-DG44細胞株を使用した。マルチ発酵制御システム(Sartorius Stedim Biotech)によって制御される供給塔(C‐DCUII、Sartorius Stedim Biotech)を備えた2L攪拌タンクガラス製バイオリアクター中で、シスチン(0.05g/L)及びトリプトファン(0.2g/L)を含有する化学的に定義される動物フリーの接種培地で、標準的な操作条件(pH7、温度36.8°C)の下、細胞を培養した。それぞれがmAb1、mAb2、mAb3及びmAb4と呼ばれるモノクローナル抗体(mAb)を産生する4つの異なる産生細胞株を使用した。mAb1は、配列番号9で定義される配列を有する軽鎖と配列番号10で定義される配列を有する重鎖を含む抗FcRn抗体である。
【0187】
産生は14日間、流加実験モードで行われた。この段階の間、モノクローナル抗体が培地中に分泌される。サンプルを毎日採取して、生存細胞密度(VCD)、生存率、オフラインpH、pCO2、浸透圧、グルコース‐乳酸濃度、アミノ酸濃度及びmAb濃度(-80°Cでストック)を決定した。消泡剤は、泡の蓄積を制御するために、必要に応じて毎日手動で添加した。接種から72時間後、所定の割合で連続栄養補給を開始した。連続栄養補給培地は、システイン/シスチン又はトリプトファンを含まない。この時点で、システイン/シスチン及びトリプトファンを、以下の実施例に記載されている量を有するボーラスフィードとして10日間毎日添加した。実施例に記載のシステイン/シスチン及びトリプトファンの量は、接種媒体に既に存在するこれらのアミノ酸の初期の量を考慮して、接種から72時間後に開始するボーラス添加の総量である。グルコース濃度が6g/Lを下回った場合(6日目以降)にグルコースボーラスフィードを培養液に添加し、グルコース濃度を毎日測定した。アミノ酸分析のサンプルは、フィード添加前に採取した。フィード後の濃度は、フィード組成に基づいて計算し、フィード添加前の栄養素濃度を測定した。
【0188】
分析方法
細胞は、トリパンブルー排除に基づいて作動するVI‐CELL(登録商標)XR(Beckman‐Coulter,Inc.,Brea,CA)自動細胞計数装置を使用して計数した。
NOVA400BioProfile自動分析装置(Nova Biomedical,Waltham,MA)を使用して、培養培地中のグルコース及び乳酸レベルを測定した。
【0189】
モデル2020凝固点浸透圧計(Advanced Instruments,Inc.,Norwood、MA)を浸透圧測定に使用した。モデルBioProfilepHOx(登録商標)血液ガス分析装置(Nova Biomedical Corporation,Waltham,MA)を使用して、オフラインのガス及びpH測定を実行した。
【0190】
代謝物濃度は、CedexBioHTシステム(Roche)を使用して毎日決定した。
製品力価分析は、ForteBio Octetモデルアナライザー(ForteBio,Inc.,Menlo Park、CA)又はプロテインA高圧液体クロマトグラフィー(HPLC)を使用して、分析前に-80°Cで保存した細胞培養上清サンプルで行った。
【0191】
アミノ酸は、Amicon‐Ultra‐0.5mL遠心フィルター(Merck Millipore,Billerica,MA)を用いて限外濾過した後、逆相UPLC(Waters AccQ・Tagultra法)によって分析した。
【0192】
プロテインA精製(AKTA Xpressシステム)を使用して、細胞培養上清サンプルのmAbを精製した。精製mAbのメイン、酸性(酸性ピーク群APG)及び塩基性(塩基性ピーク群BPG)アイソフォームの相対的割合をイメージキャピラリー電気泳動(ProteinSimple iCE3)によって決定した。精製されたmAbの高分子量種(HMWS)、モノマー及び低分子量種(LMWS)レベルを、サイズ排除クロマトグラフィー(SE‐UPLC)によって決定した。
【0193】
濃縮したmAb1とmAb2の製剤の色強度は、透過分光光度計(UltrascanPro)を用いて濃縮したタンパク質A溶出液中で測定し、Commission Internationale de L’eclairage(CIL)スケールと比較した。数値結果は、40mg/mLの濃度に正規化した。
【0194】
エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI‐MS)を精製されたmAb1について行った。ペプチドマッピングを抗体への翻訳後修飾を識別するために行った。SASソフトウェアJMP11を使用して統計分析を行った。
【0195】
例1
2リットルのバイオリアクターに、0.35×106細胞/mLの播種密度でmAb1を産生するCHO細胞を接種した。細胞培養を通して到達されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンのさまざまな最大濃度、及び産生された総mAb1重量のシステイン又はシスチン(Cys)及びトリプトファン(Trp)重量%のさまざまな総量で、材料と方法のセクションに記載されているように8つの実験条件を流加プロセスでテストした(表2a)。第一の目的は、システイン又はシスチン及びトリプトファンの組換えmAb1の不均質への影響を評価することであった。第二の目的は、細胞培養を通じて到達された高濃度のシステイン又はシスチン及び/又はトリプトファンによる、及び/又は産生された総mAb重量の総添加量重量%による影響があったかどうかを識別することであった。
【0196】
【0197】
材料と方法のセクションで説明したように、組換えタンパク質の電荷変異体と色強度を測定した。データは一方向Anova統計分析により分析され、線形適合とp値<0.05は許容可能とみなされた。
【0198】
図2bに示すように、mAb1における酸性ピーク群電荷変異体(APG%)の増加と産生された総mAb1あたり添加されたシステイン又はシスチンの総量重量%(g/g)の増加との間に相関関係があった。
mAb1の色強度に対して、mAb1色強度(40mg/mLに正規化されたb
*値)の増加と産生された総mAb1あたり添加されたトリプトファンの総量重量%(g/g)の増加との間に相関があった(
図2a)。
【0199】
しかし、データをトリプトファン又はシステイン又はシスチンの最大濃度に関して分析した場合、色又はAPGには影響がなかった(
図2c及び2d)。
【0200】
mAb1の不均質に影響を及ぼすのは、産生される総mAb1重量当たりのシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量であって、流加設定(fed-batch setting)における産生段階を通して到達されるシステイン又はシスチン及びトリプトファンの最大濃度ではないことを確認するために、高濃度の2つのアミノ酸に到達するために3日目にシステイン又はシスチン及びトリプトファンをさまざまにボーラス添加して8つの実験条件をテストした(表2b)。産生された総mAb1重量の同じ添加量重量%(g/g)のシステイン又はシスチン及びトリプトファンを得るために、フィード戦略を適合させた。流加条件で示されているように、mAb1の酸性ピーク群電荷変異体の増加(APG%)と、産生された総mAb1あたりのシステイン又はシスチンの添加総量重量%(g/g)の増加との間に相関関係があり(
図3b)、及びmAb1色強度(40mg/mLに正規化されたb
*値)と、産生された総mAb1あたりのトリプトファンの添加総量重量%(g/g)との増加の間に相関関係がある(
図3a)。しかし、APG電荷変異体及びシステイン又はシスチン及びトリプトファンの最大濃度(g/L)には相関がなかった(それぞれ
図3c及び3d)。これらの結果は、産生された総mAb1重量の重量%(g/g)あたり細胞培養中に添加されたシステイン及びトリプトファンの総量が、APG電荷変異体及び色強度に影響することを確認するものである。システイン又はシスチン及びトリプトファンの最大濃度は、APG電荷変異体及び色強度に影響がない。
【0201】
【0202】
結論
産生された総組み換えmAb1のCys及びTrpの添加総量重量%(g/g)は、mAb1電荷変異体との色強度に影響を与える。これに反して、細胞培養培地中のシステイン又はシスチン及びトリプトファンの最大濃度は、mAb1の質に影響しなかった。
【0203】
例2
細胞培養中の、産生される総mAbのシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量重量%(g/g)の影響をさらに調べるために、2Lバイオリアクター実行で48の実験条件(表3)を方法のセクションで記載するように準備した。mAb1電荷変異体、凝集体(HMWS)、色強度、力価、及び生細胞増殖を分析した。
【0204】
【0205】
図4に示すように、産生される総mAb1の産生段階を通して添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量重量%(g/g)は酸性電荷変異体群(APG%)に影響する。産生された総mAb1あたり14日の産生段階を通して添加されたシステイン又はシスチンの総量の約50重量%(g/g)の飽和効果がある。システイン又はシスチン及びトリプトファンの影響は相互作用なしで累積的である。産生された総mAb1の14日の産生段階を通して添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量の割合重量%(g/g)を減らすと、産生されるmAb1の酸性ピークの割合が減少する。
【0206】
図5は、産生された総mAb1重量のシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量(14日間の細胞培養中に添加)重量%のメインピーク群への影響を示す。APG%で見られるように、システイン又はシスチン及びトリプトファンの影響は累積し、相互作用はない。産生される総mAb1重量の14日の産生段階を通して添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量重量%を減らすと、産生される組換えmAbのメインピークの割合が増加する。
【0207】
図6は、高分子量種(HMWS)で産生される総mAb1の14日の産生段階を通して添加されたシステイン又はシスチンの総量重量%(g/g)の影響を示す。産生される総mAb1の14日の産生段階を通して添加されたシステイン又はシスチンの総量重量%(g/g)の約50%の飽和効果がある。システイン又はシスチンの総量を減らすと、産生される組換えmAbのHMWSの割合が減少する。添加されたTrpの総量の影響は、HMWSで観察されない。
【0208】
図7に示す結果は、産生される総mAb1の14日の産生段階を通して添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量重量%(g/g)の、組換えmAb1の色強度(40mG/mLに正規化されたb値)に対する影響を説明する。14日の産生段階を通して添加されるシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量を減らすと、産生される組換えmAb1の色強度が低下する。産生された総mAb1の14日の産生段階を通して添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量重量%(g/g)との間に相互作用効果がある。
【0209】
図8は、APG、HMWS、色強度の最低値、及びメインピーク群の最高値を達成するために産生される総mAb‐1の14日の産生段階を通じて添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量の割合重量%(g/g)の最適範囲を示す等高線図を示す。添加されるシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量はシステイン又はシスチンについては産生される総mAb1の12.06~28.03重量%(g/g)で加え、トリプトファンについては総mAb1の8.84~32.06重量%(g/g)で加える。
【0210】
14日の産生段階を通して累積積分生細胞数(IVCC)が計算され、細胞培養体積(CSV)によって正規化された。
図9に示す結果は、CSVの初期重量ごとに細胞培養液に添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量の割合がIVCCに及ぼす影響を示す。初期CSV重量当たり細胞培養培地に添加されるシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量の割合の最適範囲があり、それはシステイン又はシスチンについては0.08%~0.24%であり、トリプトファンについては0.07%~0.15%の。相乗効果はなく、累積効果のみが観察されました(
図9a及び9b)。
【0211】
図の10a及び10bは、初期CSV重量当たり細胞培養培地に添加するシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量の割合の、mAb1力価に対する影響を示す。CSV重量当たり細胞培養培地に添加するシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量の割合の最適範囲があり、それはCSV重量のシステイン又はシスチンについて0.08%~0.24%であり、トリプトファンについて0.07%~0.15%重量%。相互作用効果はない。
【0212】
図11a及び11bに示す等高線プロットは、産生段階の終了時にIVCC*10
-12当たり細胞培養培地に添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量の最適範囲を示し、それはCysについては2.9~12gであり、Trpについては2.5~7gである。
【0213】
例3
組換えモノクローナル抗体は、材料及び方法で説明されているように、産生された総組換えmAb1のさまざまなシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総添加量重量%での3回の流加実験条件で特徴付けられる(表4)。
【0214】
【0215】
質量分光分析は、システイン又はシスチン及びトリプトファンの濃度増加の結果として、非変性及び変性条件における、グリコシル化mAb1についての質量スペクトルで観察された最も強いピークの質量シフトを示した。これらの観察は、修飾がグリコシル化パターンの変化にリンクされていないという結論につながる。マニュアルデコンボリューション後の質量スペクトルの軽鎖、重鎖及びハーフマー(halfmer)(一つの重鎖プラス一つの軽鎖)の分析は、mAb1の可能な糖化が、産生された総mAb重量の14日の産生段階を通して添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの高い総量重量%で起こることを示唆している。おそらくより多くの付加物、すなわちmAb1への小分子の添加を観察することができる。システイン又はシスチン及びトリプトファンの添加総量が増加すると、軽鎖のシステイン付加も増加する。表5は、ペプチドマッピングで得られた、テストされた3つの実験条件に対するmAb1の特性の概要を示す。結果は、産生される総mAb重量の14日の産生段階を通して添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量重量%を増やすと、重鎖のスレオニン19でメチオニン酸化が増加し、重鎖のスレオニン33で脱アミド化が起こることを示す。さらに、mAb1のAPG%及びBPG%変異体は、産生される総mAb重量の14日の産生段階を通して添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量重量%の増加とともに劇的に増加するが、メインピークは、産生された総mAb重量の14日の産生段階を通して添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量重量%の減少とともに増加する。
【0216】
【0217】
例4
mAb1を発現するDG44 CHO細胞株の増殖に対するシステイン又はシスチン及びトリプトファンの阻害濃度を識別するために、3日目にシステイン又はシスチン及びトリプトファンの種々のボーラス添加を、これらのアミノ酸の高濃度に到達する目的で試験した(表2b)。産生される総mAb1重量の同じ添加量重量%のシステイン又はシスチン及びトリプトファンを得るために、フィード戦略を適合させた。
図12は、それぞれ0.3g/Lから0.9g/Lまで及び0.6g/Lの高濃度のシステイン又はシスチン及びトリプトファンが著しく細胞増殖を減少させることを示す(CSVにより正規化された14日の産生段階を通しての累積IVCC)。
【0218】
例5
システイン又はシスチンの枯渇は、mAb1を発現するCHO細胞株の増殖と産生性に影響を与える可能性があるという仮説が立てた。2Lバイオリアクター中の9の実験条件を分析した(表6a):産生段階プロセスを通じてシステイン又はシスチンの枯渇のない3つの対照条件、6日目に毎日の枯渇を開始し、流加産生プロセスの終了まで6.87g/Lのフィードでシステイン又はシスチン濃度を継続する2つの実験条件、及び6日目にシステイン又はシスチンを枯渇させ、フィード中17.17g/Lのシステイン又はシスチン濃度を有する4つの実験条件である。システイン又はシスチンが毎日添加されるため、枯渇は周期的である。フィード戦略は表6bに記載されている。システイン又はシステインの添加総量及びIVCCごとのシステイン又はシステインの添加総量
図13に示す。フィード添加前のCys濃度を
図14cに示す。
図14aに示すように、フィード中のシステイン又はシスチン濃度が約17.17g/Lである場合、6日目のシステイン又はシスチンの枯渇は細胞増殖に影響を与えない。理論に縛られることを望まないが、システイン又はシスチン関連の代謝物は細胞内に蓄積及び保存され、システイン又はシスチンが枯渇すると利用可能になると考えられる。ただし、mAb1の細胞株の産生性は、システイン又はシステインの枯渇の影響を受ける(
図14b)。
【0219】
【0220】
【0221】
例6
総組換えmAbの産生段階を通して添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量重量%を制御することによって引き起こされる不均質の減少の影響は、mAb1を排除するものではない。システイン又はシスチン及びトリプトファンの総量についての実験は、組換え抗体も産生する他の三つのCHO細胞株でテストした(表7)。
図15aに示すように、APG電荷変異体と色強度の増加は、総mAb2の添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量重量%の増加と相関している。mAb3のAPG電荷変異体を分析すると、同様の結果が得られた(15b)。最後に、APG及びBPG電荷変異体の増加とメインピークの減少は、総mAb4のシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量重量%の増加と相関した(15c)。これらの結果はmAb1について得られた結果を確認するものである。
【0222】
【0223】
例7
産生された総組換えmAb重量の14日の産生を通して添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量重量%の影響を、ここでテストした4つの異なるモノクローナル抗体のデータに基づいて分析した(表3及び7)。
図16(a及びb)に示すように、APG電荷変異体増加は、分析したすべての4つの抗体について、産生された組換え抗体総重量の添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファン総量重量%の増加に相関している。この結果は、産生された組換え抗体総重量の添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファン総量重量%と抗体の不均質との間の関係が、特異的な抗体に限定されず、任意の抗体に適用されることを確認するものである。
【0224】
例8
液体医薬製剤
モノクローナル抗体mAb1の医薬製剤を流加モードで大規模に、すなわち2000Lステンレススチールのバイオリアクター中で、材料及び方法に記載の標準操作条件下で、表9で特定されているように添加した、種々のシステイン又はシスチン及びトリプトファン総量を用いて製造した。抗体サンプルの緩衝液を透析濾過緩衝液(33mM His及び250mM Pro、pH5.6)と少なくとも7回(7透析体積)交換し、続いて、30kDaの分子量カットオフ(MWCO)を有する膜を使用して限外濾過を行った。抗体の濃度(140mg/ml+/-14mg/ml)が達成されたら、必要な濃度(最終濃度に基づいて0.03%w/v)でポリソルベート80を添加した。UVA280を使用して、抗体の濃度を測定した。
【0225】
表8に、製剤化されたmAb1の電荷変異体の外観を示す。表8及び9で「より高いCys添加」と定義される2つの産生では、表8及び9で「より低いCys添加」として定義される他の3つの産生よりも、産生された総組換えmAb1のシステイン又はシスチンの総添加量重量%がより多い。APG電荷変異体の増加は産生された総組換えmAb1の添加されたシステイン又はシスチンの総量重量%の増加に相関している。
【0226】
【0227】
【0228】
例9
酸性ピーク群(APG)レベルを予測するモデルは、mAb1抗体を発現するDG44CHO細胞株のデータ(表3)に基づいて開発された(
図17)。APGは、Michealis Menten速度論を用いて産生された総組換えmAb重量の14日の産生を通して重量%に添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファンの総量重量%の関数として表される。
【0229】
モデルを灌流製造に適用するために、各灌流製造日は新しい製造バッチとして定義された。したがって、使用されるシステイン又はシステイン及び/又はトリプトファンの総量の比率は、製造容器から産生される組換えタンパク質の除去率に対する灌流流量に従って計算される。交互タンジェンシャルフロー(ATF)技術を使用して、2Lバイオリアクターで灌流製造を行った。
図18に示すように、APG電荷変異体の予測は実験データとよく適合している。この結果は、産生された組換え抗体総重量の添加されたシステイン又はシスチン及びトリプトファン総量重量%と抗体の不均質との間の関係が、他の産生モード、例えば灌流、バッチ又はケモスタットモード製造に拡張できることを確認するものである。
【配列表フリーテキスト】
【0230】
配列番号1~11 <223>ヒト化
【配列表】