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特許7406620関節炎治療のためのHLA-DR/CIIペプチド複合体
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】関節炎治療のためのHLA-DR/CIIペプチド複合体
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/02 20060101AFI20231220BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231220BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20231220BHJP
   A61P 19/00 20060101ALI20231220BHJP
   A61P 27/16 20060101ALI20231220BHJP
   C07K 19/00 20060101ALN20231220BHJP
   C07K 14/705 20060101ALN20231220BHJP
   C07K 14/78 20060101ALN20231220BHJP
【FI】
A61K38/02
A61P29/00
A61P19/02
A61P19/00
A61P27/16
C07K19/00 ZNA
C07K14/705
C07K14/78
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022506538
(86)(22)【出願日】2020-08-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-10-07
(86)【国際出願番号】 EP2020072280
(87)【国際公開番号】W WO2021028347
(87)【国際公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-04-19
(31)【優先権主張番号】19191077.7
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500242786
【氏名又は名称】フラウンホファー ゲセルシャフト ツール フェールデルンク ダー アンゲヴァンテン フォルシュンク エー.ファオ.
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100138210
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 達則
(74)【代理人】
【識別番号】100182730
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 浩明
(72)【発明者】
【氏名】ヌー-グエン ド
(72)【発明者】
【氏名】ビルマ ウルボナビシウテ
(72)【発明者】
【氏名】シルビア ツィエンツィアラ
(72)【発明者】
【氏名】リカルド ホルムダール
(72)【発明者】
【氏名】ハーラルト ブルクハルト
【審査官】植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2010/0168390(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0227516(US,A1)
【文献】国際公開第2018/087597(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/
C07K 19/
C07K 14/
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト患者における慢性炎症性疾患の治療における使用のための、
(a)少なくともα1ドメインを含む、HLA-DRα鎖の細胞外領域;
(b)少なくともβ1ドメインを含む、HLA-DRβ鎖の細胞外領域;及び、
(c)コラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)、当該CIIペプチドは、任意で、リンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖の、好ましくはHLA-DRβ鎖のN-端側へ融合される
を含む、組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体を含有する組成物であって;
ここでCIIペプチドが、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPXG、AGFKGEXGPKG、AGFKGXQGPKG、AGFKXEQGPKG、AGFKGEXGPXG、AGFKGXQGPXG及びAGFKXEQGPXGからなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、並びに、
ここでHLA-DR/CIIペプチド複合体が、HLA-DRα鎖及び/又はHLA-DRβ鎖を含むポリペプチドのC-末端にコンドロイチン-結合ペプチドを含む、組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体を含有する組成物。
【請求項2】
(a)コンドロイチン-結合ペプチドが、その遊離型であり;
(b)組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体が、その組成物中のコンドロイチン-結合ペプチドを介して多量体化されず;及び/又は、
(c)組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体が、その組成物中のコンドロイチン-結合ペプチドを介して更なる分子に結合されていない:請求項1記載の組成物
【請求項3】
(a)HLA-DRα鎖の細胞外領域が、α1及びα2ドメインを含み;並びに/又は、
(b)HLA-DRβ鎖の細胞外領域が、β1及びβ2ドメインを含む:請求項1又は2記載の組成物
【請求項4】
前記CIIペプチドが、リンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖、好ましくはHLA-DRβ鎖のN-端側へ融合されている、請求項1~3のいずれか一項記載の組成物
【請求項5】
前述の少なくともα1ドメインが、DRA*0101に由来し、並びに少なくともβ1ドメインが、DRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、DRB1*1402及びDRB1*1303からなる群から選択されるHLA-DRアレルに、好ましくはDRB1*0401に由来する、請求項1~4のいずれか一項記載の組成物
【請求項6】
前記CIIペプチドが、AGFKGEQGPKG、好ましくはAGFKGEQGPKGEP、より好ましくはGIAGFKGEQGPKGEPのアミノ酸配列を含む、請求項1~5のいずれか一項記載の組成物
【請求項7】
前記コンドロイチン-結合ペプチドが、5~20個のアミノ酸、好ましくは6~12個のアミノ酸を含む、請求項1~6のいずれか一項記載の組成物
【請求項8】
前記コンドロイチン-結合ペプチドが、ポリヒスチジンタグ、好ましくは少なくともヘキサヒスチジンタグである、請求項1~7のいずれか一項記載の組成物
【請求項9】
(a)少なくともα1ドメインを含むHLA-DRα鎖の細胞外領域;及び
(b)少なくともβ1ドメインを含むHLA-DRβ鎖の細胞外領域が、単独の融合ポリペプチドとして発現され;並びに、任意に
(c)コラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)が、リンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖の、好ましくはHLA-DRβ鎖のN-端側へ融合されている、請求項1~8のいずれか一項記載の組成物
【請求項10】
(a)少なくともα1ドメインを含むHLA-DRα鎖の細胞外領域を含む第一のポリペプチド;
(b)少なくともβ1ドメインを含むHLA-DRβ鎖の細胞外領域を含む第二のポリペプチド;
(c)コラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)、当該CIIペプチドは、任意で、リンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖、好ましくはHLA-DRβ鎖のN-端側へ融合される;並びに
(d)ここでHLA-DRα鎖が、そのC-末端で、ロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第一の機能ドメインへ融合され、及びHLA-DRβ鎖が、そのC-末端で、ロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第二の相補的機能ドメインへ融合されている、請求項1~8のいずれか一項記載の組成物
【請求項11】
前記第一の機能ドメイン及び第二の相補的機能ドメインが:
(a)酸性及び塩基性ロイシンジッパーヘテロ二量体化ドメイン;並びに/又は
(b)jun-fosロイシンジッパーモチーフ:である、請求項10記載の組成物
【請求項12】
前記組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体が、未修飾及び/又は1もしくは複数の翻訳後修飾されたリジン残基(複数可)を伴うCIIペプチドを含み、好ましくはここで
(a)CIIペプチドは、未修飾のリジン残基を伴うCIIペプチドからなるか;
(b)CIIペプチドは、ヒドロキシリジン(Hyl)である第一のリジンを伴うCIIペプチドからなるか;
(c)CIIペプチドは、ガラクトシル-ヒドロキシリジンである第一のリジンを伴うCIIペプチドからなるか;
(d)CIIペプチドは、未修飾のリジン残基を伴うCIIペプチド、及びガラクトシル-ヒドロキシリジンである第一のリジンを伴うCIIペプチドからなるか;
(e)CIIペプチドは、ガラクトシル-ヒドロキシリジンである第一のリジンを伴うCIIペプチドを含むか;
(f)CIIペプチドは、未修飾のリジン残基を伴うCIIペプチド、及びガラクトシル-ヒドロキシリジンである第一のリジンを伴うCIIペプチドを含むか;
(g)CIIペプチドは、未修飾のリジン残基を伴うCIIペプチド、並びにガラクトシル-ヒドロキシリジン及び/又はヒドロキシリジン(Hyl)である第一のリジンを伴うCIIペプチドを含むか;あるいは
(h)CIIペプチドは、未修飾のリジン残基を伴うCIIペプチド、並びにO-グリコシル化されたヒドロキシリジン及び/又はヒドロキシリジン(Hyl)である第一のリジンを伴うCIIペプチドを含み;並びに
ここで、翻訳後修飾されたCIIペプチドにおける任意の第二のリジンは、未修飾、ヒドロキシリジン、ガラクトース-ヒドロキシリジン及び/又はグルコシル-ガラクトシル-ヒドロキシリジン;好ましくは未修飾、ヒドロキシリジン、ガラクトース-ヒドロキシリジン、より好ましくは未修飾である、請求項1~11のいずれか一項記載の組成物
【請求項13】
前記組成物が、グルコシル-ガラクトシル-ヒドロキシリジン修飾を伴うCIIペプチドを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体を含まない、請求項12記載の組成物
【請求項14】
前記慢性炎症性疾患が、関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎、強直性脊椎炎、若年性特発性関節炎、再発性多発性軟骨炎、全身性紅斑性狼瘡、ライム病、メニエール病、内耳自己免疫病(AIED)、又はスチル病である、請求項1~13のいずれか一項記載の組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、ヒト患者における関節炎などの、慢性炎症性疾患を治療するための、HLA-DRα鎖及び/又はHLA-DRβ鎖を含むポリペプチドのC-末端にコンドロイチン-結合ペプチドを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体であって、ここでCIIペプチドは、リンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖のN-端側へ融合されている複合体に関する。CIIペプチド中のリジン、特にCIIペプチド中の第一のリジンは、翻訳後修飾されてよい。本発明は更に、哺乳類細胞において該HLA-DR/CIIペプチド複合体を生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
技術的背景
関節リウマチ(RA)は、欧州において400万~700万人が罹患している大きい健康上の懸念を呈する一般的な重度の疾患である。これは、疼痛、進行性の軟骨及び骨の破壊に関連した、関節の異常な自己免疫炎症により引き起こされ、機能障害に繋がり、適切に治療されない場合は、最終的に不動/疾病(invalidity)に至る。今日の薬物治療は、臨床診断の確定時に直ちに開始され、症例の60~70%において効果があるが、この疾患からの治癒は達成されない。薬物治療は、炎症の共通のエフェクター経路を主に標的化し、これにより感染症リスクの増大に関連した、広範な免疫抑制効果を引き起こす。
【0003】
RAの免疫遺伝学は、疾患の開始及び/又は永続化におけるT細胞活性化の異常な経路についての重要な役割を示唆している。T細胞活性化プロセスにおいて、CD4 T細胞は、ヒト主要組織適合性複合体(MHC)クラスII(ヒト白血球抗原-DRアイソタイプ(HLA-DR)など)と複合体化された抗原性ペプチド断片により結合され(engaged)、プロフェッショナル抗原提示細胞により提供される共刺激シグナルとの関連でそれらの活性化に繋がる。疾患の病態形成におけるCD4 T細胞の役割を裏付ける最も強力な証拠は、RAと、MHCクラスII分子HLA-DRのペプチド結合ポケットのβ鎖上のアミノ酸コンセンサスモチーフQ/R R/K R A A(アミノ酸位置70-74、いわゆる「共有抗原配列」)をコードしているHLA-DRB1遺伝子座の特定のアレルの間の遺伝的関連である(Gregersen PKら、Arthritis Rheum. 1987;30:1205-1213)。RAにおけるT細胞の病態形成での役割に関する説得力のある証拠は、更に、中等度から重度の疾患の炎症性滑膜浸潤物におけるそれらの頻繁な検出能により提供され、これは特異的自己抗体反応の成熟を促進するための、局所的免疫反応におけるB細胞とのそれらの協力を示している。更に、損なわれたCD4 CD25(hi)制御性T細胞(Treg)機能が、RAの病態形成に関与していることが示唆されている。従ってRAにおける制御不全の慢性的に活性化されたT細胞コンパートメントは、治療的免疫調節介入のための重要な標的を表している。
【0004】
RAは、現在では、臨床的発症の数年前には始まると考えられている。最強の危険因子としてHLA-DRB1遺伝子座における前述の共有されたエピトープをコードしているアレルによる多元発生的疾患としてのRAは、各自素因を持つ個体において発生する。しかし、依然疾患-規定された環境因子及び/又は生活習慣因子(喫煙)もまた、最大20年間の前臨床期間について、関節炎の傾向があるが依然健康な個体において持続し得る、IgG(リウマチ因子)及びシトルリン化されたタンパク質(ACPA)に対する抗体産生に関連した自己免疫応答の引き金に関与している。臨床的発病近くで、II型コラーゲン(CII)及びシトルリン化されたCIIに対する免疫応答が、検出可能である(Burkhardt Hら、Eur J Immunol. 2005; 35:1643-52)。CIIは、関節軟骨中の主要タンパク質成分である。DRB1*0401アレルを保持するRA患者(白人のRA患者の50%)は、三重螺旋CII領域のアミノ酸配列259-273に対応する主要CIIエピトープに特異的に反応するそれらのレパトア内にT細胞を収容することが明らかにされている。T細胞受容体(TCR)の活性化に重要なT細胞決定因子は、264位での生理的にガラクトシル化されたヒドロキシリジン残基に左右されることが説明されている(Baecklund J.ら、Proc Natl Acad Sci U S A. 2002; 99:9960-5)。しかし、ヒトにおけるこの依存性は、確立されたマウスモデルと比べて厳格さが低く、並びにネイキッドの翻訳後修飾されないCIIペプチド及び翻訳後修飾されたCIIペプチドを認識する自己反応性T細胞は、RAヒト患者において、CII免疫処置されたマウスと比べ、より大きい相対程度で検出されるように見える。
【0005】
RAに関して最も一般的に使用される動物モデルは、マウスのコラーゲン誘導関節炎(CIA)である。実験的関節炎は、MHCクラスII依存性であり、マウスのクラスIIアレルAqに関連し、並びにガラクトシル化されたCII259-273エピトープのT細胞認識に左右される(Holmdahl R.ら、Ageing Res Rev. 2002;1: 135-47)。CIAは、創薬において抗関節炎の効力を持つ新規化合物の治療効率を試験するための、標準モデルとして使用される。従って、多種多様なプロトコールが、抗原特異的免疫寛容を誘導するために開発されており、並びにワクチン接種により関節炎を予防及び治癒する候補抗原の一種は、CIIである。今のところ何らかの認め得る副作用を伴わない、成体マウスにおける最も効率的なプロトコールは、結合ポケット中の主要抗原CIIペプチド、すなわちガラクトシル化されたCII259-273ペプチドを伴うMHCクラスII分子Aqの細胞外ドメインからなる組換えタンパク質複合体、又はAq/galCII複合体の静脈内注射により、免疫寛容を誘導することである(Dzhambazov Bら、J Immunol 2006; 176: 1525-1533)。関節炎発症前であるが、CIIによる免疫処置後のAq/galCII複合体の注射は、関節炎の発症のほぼ完全な予防に繋がり、及び慢性再発性関節炎のマウスの治療は、この炎症活性のダウンレギュレーションに繋がる。寛容原性のAq/galCII作用は、その抗関節炎力は処置されたマウスからナイーブレシピエントへT細胞により伝達されるので、ドミナントである。
【0006】
264位にガラクトシル化を伴わないCIIペプチドを含むAqの複合体は、無作用で有り続けた。この驚くほど選択的な制御作用の理由は、おそらく、ガラクトシル化されたCIIは、軟骨においてのみ発現される(Baecklund J.ら、Proc Natl Acad Sci U S A. 2002; 99:9960-5)のに対し、グリコシル化されないCIIは、胸腺においても発現される(Chin R. K.ら、J Immunol. 2006;177: 290-7)という事実に関連しているであろう。従って、グリコシル化されないCIIに対するT細胞反応は、中枢性寛容により調節されるのに対し、ガラクトシル化された抗原に対するT細胞反応は、末梢性寛容機序により調節される。従ってRA病態形成における主要な駆動力としての、特に可動関節の構造成分に対する生理的に末梢の自己寛容の混乱が示唆され、且つその再建(reestablishment)は、寛容原性治療戦略の開発にとって論理的根拠となる。このアプローチは、傍観者抑制による関節炎発症性(arthritogenic)T細胞応答をダウンレギュレーションする免疫制御性T細胞を誘導するような先行する遺伝子型決定により、DRB1*0401アレルのキャリアとして確定されたバイオマーカーで選択されたヒトRA患者へのDR4/CII複合体の非経口的投与からなる。従来の治療アプローチとは対照的に、この作用機序は、関節炎発症性適応免疫応答の選択的免疫調節からなるが、防御免疫は影響を受けないままである。これは、DRB1*0401陽性患者など、特定のHLAアレルを伴う患者に限定された、個人別の又はHLA-限定された治療アプローチである。加えて、CIA治療の前臨床データは、DR4/galCII複合体は、確定されたRAにおける治療効果、並びにRAを発症するリスクがある個体、すなわち疾患兆候前の個体における予防作用を実現する可能性があることを示唆している。従ってこの作用様式は、既に確立されたRAの療法とは基本的に異なる。
【0007】
WO2007/058587A1は、「自己抗原性ペプチド及びMHC結合モチーフを伴う担体を含む化合物」に関連し、且つこれは、(a)ペプチド、及び(b)担体を含む化合物であって、ここで該ペプチドは、少なくともモチーフX-X-X-X-X-X-Xを有し、並びにここで少なくとも1個のアミノ酸残基Xはグリコシル化されている、化合物を開示している。更にこのペプチドは、ペプチド結合タンパク質に連結されており、及び該担体は、少なくともMHC結合モチーフを含み、ここでこの連結は共有的であってよい。しかしこのペプチドは、同じ宿主細胞によりMHCIIタンパク質と一緒には発現されないか、又はリンカーペプチドを介して、MHCIIタンパク質へ連結される。
【0008】
より新しい証拠は、ヒトにおいてもまた、翻訳後修飾を伴わないMHCII/CIIペプチド複合体は、免疫寛容を誘導する活性があることを裏付けている。従ってCIIペプチド中のリジンの翻訳後修飾は、ヒトにおいてもまた恐らく最も利点があるにも関わらず、これは厳密に必要とはされない。
【0009】
MHCII複合体は、複合体の精製を簡単にするために、ポリヒスチジンタグを保有するように通常調製される。ポリヒスチジンタグは、その生化学的特性の先行する知識がない事実上あらゆるタンパク質の精製を可能にする、タンパク質精製のツールとして使用される親和性タグである。しかし治療的適用のために、このタグは、典型的には、例えばプロテアーゼ及び切断部位を使用し、融合タンパク質から除去されなければならない。従って本発明者らの最良の知識として、ヒトの慢性炎症性疾患の治療において使用するための治療薬としてのMHCII/CIIペプチド複合体においてポリヒスチジンタグに関連した作用はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明の概要
本発明は、ヒト患者における慢性炎症性疾患、特に慢性炎症性関節疾患及び/又は関節炎の治療における使用のための、(a)少なくともα1ドメインを含む、HLA-DRα鎖の細胞外領域;(b)少なくともβ1ドメインを含む、HLA-DRβ鎖の細胞外領域;及び、(c)リンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖、好ましくはHLA-DRβ鎖のN-端側へ、任意に融合された、コラーゲンIIペプチド(CIIペプチド):を含む組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体を含有する組成物であって;ここでCIIペプチドが、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPXG、AGFKGEXGPKG、AGFKGXQGPKG、AGFKXEQGPKG、AGFKGEXGPXG、AGFKGXQGPXG及びAGFKXEQGPXGからなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、並びにここでHLA-DR/CIIペプチド複合体が、HLA-DRα鎖及び/又はHLA-DRβ鎖を含むポリペプチドのC-末端にコンドロイチン-結合ペプチドを含む、組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体を含有する組成物に関する。好ましくは、慢性炎症性疾患の治療において使用するための組成物は、関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎、強直性脊椎炎、若年性特発性関節炎、再発性多発性軟骨炎、全身性紅斑性狼瘡、ライム病、メニエール病、内耳自己免疫病(AIED)、又はスチル病からなる群から選択される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
特定の実施態様において、コンドロイチン-結合ペプチドは、その遊離型である。このことは、組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体は、その組成物中のコンドロイチン-結合ペプチドを介して多量体化されず、及び/又は、組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体は、その組成物中のコンドロイチン-結合ペプチドを介して更なる分子に結合されていないことを意味する。コンドロイチン-結合ペプチドは、5~20個のアミノ酸、好ましくは6~12個のアミノ酸を含んでよい。一実施態様において、コンドロイチン結合ペプチドは、ポリヒスチジンタグ、好ましくは少なくともヘキサヒスチジンタグである。
【0012】
特定の実施態様において、HLA-DRα鎖の細胞外領域は、α1及びα2ドメインを含み;並びに/又は、HLA-DRβ鎖の細胞外領域は、β1及びβ2ドメインを含む。別の実施態様において又は加えて、CIIペプチドは、リンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖、好ましくはHLA-DRβ鎖のN-端側へ融合されている。特定の実施態様において、CIIペプチドは、アミノ酸配列AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPX1G、AGFKGEX2GPKG、AGFKGX3QGPKG、AGFKX4EQGPKG、AGFKGEX2GPX1G、AGFKGX3QGPX1G及びAGFKX4EQGPX1Gを含み、ここでXは、Kを除くタンパク質原性のアミノ酸のいずれか、好ましくはR、A、G又はQ、より好ましくはRであり;Xは、Qを除くタンパク質原性のアミノ酸のいずれか、好ましくはA、R、H又はGであり;Xは、Eを除くタンパク質原性のアミノ酸のいずれか、好ましくはA、D、Q又はGであり;並びに、Xは、Gを除くタンパク質原性のアミノ酸のいずれか、より好ましくはA、S、V又はLである。好ましくはX、X又はXは、Kではない。特定の実施態様において、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG又はAGFKGEQGPX1G、好ましくはAGFKGEQGPKGEP又はAGFKGEQGPX1GEP、より好ましくはGIAGFKGEQGPKGEP又はGIAGFKGEQGPX1GEPのアミノ酸配列を含む。
【0013】
本発明に従う使用のための組成物において、少なくともα1ドメインは、好ましくはDRA*0101に由来し、並びに少なくともβ1ドメインは、DRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、DRB1*1402及びDRB1*1303からなる群から選択されるHLA-DRアレル、好ましくはDRB1*0401に由来する。
【0014】
少なくともα1ドメインを含むHLA-DRα鎖の細胞外領域;及び、少なくともβ1ドメインを含むHLA-DRβ鎖の細胞外領域は、単独の融合ポリペプチドとして発現されてよく;並びに、任意に、コラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)は、リンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖、好ましくはHLA-DRβ鎖のN-端側へ融合されている。あるいは、このα及びβ鎖は、個別のポリヌクレオチドとして発現されてよく、ここでHLA-DR複合体は、少なくともα1ドメインを含むHLA-DRα鎖の細胞外領域を含む第一のポリペプチド;少なくともβ1ドメインを含むHLA-DRβ鎖の細胞外領域を含む第二のポリペプチド;及び、リンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖、好ましくはHLA-DRβ鎖のN-端側へ任意に融合された、コラーゲンIIペプチド(CIIペプチド):を含み;並びにここで、HLA-DRα鎖は、そのC-末端で、ロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第一の機能ドメインへ融合され、及びHLA-DRβ鎖は、そのC-末端で、ロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第二の相補的機能ドメインへ融合されている。ロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第一及び/又は第二の機能ドメインには、更に、コンドロイチン-結合ペプチドが続く。第一の機能ドメイン及び第二の相補的機能ドメインは、酸性及び塩基性のロイシンジッパーヘテロ二量体化ドメイン、好ましくはjun-fosロイシンジッパーモチーフであってよい。
【0015】
本発明に従う使用のための組成物中に含まれる組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体は、未修飾の及び/又は1又は複数の翻訳後修飾されたリジン残基(複数可)を伴うCIIペプチドを含む。一実施態様において、CIIペプチドは、未修飾のリジン残基を伴うCIIペプチドからなるか、CIIペプチドは、ヒドロキシリジン(Hyl)である第一のリジンを伴うCIIペプチドからなるか、CIIペプチドは、ガラクトシル-ヒドロキシリジンである第一のリジンを伴うCIIペプチドからなるか、又はCIIペプチドは、未修飾のリジン残基を伴うCIIペプチド、及びガラクトシル-ヒドロキシリジンである第一のリジンを伴うCIIペプチドからなる。別の実施態様において、CIIペプチドは、ガラクトシル-ヒドロキシリジンである第一のリジンを伴うCIIペプチドを含むか;CIIペプチドは、未修飾のリジン残基を伴うCIIペプチド、及びガラクトシル-ヒドロキシリジンである第一のリジンを伴うCIIペプチドを含むか;CIIペプチドは、未修飾のリジン残基を伴うCIIペプチド、並びにガラクトシル-ヒドロキシリジン及び/又はヒドロキシリジン(Hyl)である第一のリジンを伴うCIIペプチドを含むか;あるいは、CIIペプチドは、未修飾のリジン残基を伴うCIIペプチド、並びにO-グリコシル化されたヒドロキシリジン及び/又はヒドロキシリジン(Hyl)である第一のリジンを伴うCIIペプチドを含む。翻訳後修飾されたCIIペプチドにおける任意の第二のリジンは、未修飾、ヒドロキシリジン、ガラクトース-ヒドロキシリジン及び/又はグルコシル-ガラクトシル-ヒドロキシリジンであってよく;好ましくは未修飾、ヒドロキシリジン、ガラクトース-ヒドロキシリジン、より好ましくは未修飾であってよい。好ましい実施態様において、本組成物は、グルコシル-ガラクトシル-ヒドロキシリジン修飾を伴うCIIペプチドを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体を含有しない。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1:HLA-DR/CIIペプチド複合体の概略図。共有結合したCII259-273ペプチドを伴うMHCII分子。BirA:ビオチン化部位、HIS:ポリ(6×)ヒスチジンタグ、JUN/FOS:ロイシンジッパーの相補的ドメイン(ヘテロ二量体化ドメイン)、TEV:タバコエッチウイルス(TEV)システインプロテアーゼ切断部位、リンカー:Gly-Serリンカーペプチド、トロンビン切断部位、strep-タグ、CIIペプチド259-273。
【0017】
図2図2:HEK293細胞(上側)、S2昆虫細胞において(中央)、及び抗-CD3抗体刺激(下側)産生された、Aq/rCII(259-273)複合体(組換え、インサイチュでグリコシル化されたAq/rCII)に反応した、Aq-拘束性T細胞ハイブリドーマクローンのIL-2(FU)分泌。使用したマウスT細胞ハイブリドーマクローンは、以下の特異性を有する:HCQ3(CII、Gal-HK264)、HCQ.4(CII、未修飾及びHK264)、HCQ.11(Glc-Gal-HK264)、HM1R.2(CII、Gal-HK264及びGal-HK264+270)、HP3(Aq-拘束性、ペプシン-ペプチド)、ここでKは、リジンの略語であり、並びにHKは、ヒドロキシリジンの略語である。
【0018】
図3図3:マウスCIAモデルにおけるHEK293細胞において産生されたインサイチュでグリコシル化されたAq/rCIIを使用する治療的ワクチン接種。A)用量-反応-曲線:ナイーブマウスは、関節炎を誘導するためにCIIにより免疫処置し、並びに35日目に追加免疫を受け取った。マウスは、HLA-DR/CIIペプチド複合体の異なる用量で処置した:10、50又は100μg(n=9)。関節炎マウスの数は、100μg処置群において、対照と比べ、有意に低い(p<0.05、カイ二乗)。B)HLA-DR/CIIペプチド複合体を投与するために、浸透圧ポンプを、35日目の追加免疫後、7日間埋め込み、このワクチンの連続投与を確実にした(例えば、100μg:15μg/24hを7日間)。
【0019】
図4図4:グリコシル化拘束性ヒトT細胞ハイブリドーマの活性化。ヒトT細胞ハイブリドーマ細胞は、抗原-特異的様式で、ヒトHLA-DR/CIIペプチド複合体(DR4/hCII)による刺激時に、活性化された。ヒトT細胞ハイブリドーマmDR1.1及び3H8の認識は、CIIペプチドのグリコシル化プロファイルによって決まる。A)T細胞ハイブリドーマクローンmDR1.1は、HLA-DR4により提示されたガラクトシル化されたK264により、活性化され;B)他方、T細胞ハイブリドーマクローン3H8は、HLA-DR4により提示された未修飾CIIエピトープにより活性化される。これら2種の異なるT細胞ハイブリドーマクローンの反応性は、合成ガラクトシル化された又は未修飾のCIIペプチド(各々、DR4/galCII及びDR4/nCII)、及び天然にグリコシル化されたHLA-DR/CIIペプチド複合体(DR4/hCII)が負荷された、ヒトHLA-DR/CIIペプチド複合体を使用することにより、比較した。IL-2の分泌は、ELISAにより測定した。
【0020】
図5図5:関節リウマチのHLA-DRB1*0401患者の末梢血中の抗原特異性T細胞の検出。A)ビオチン化されたDR4/galCIIペプチド複合体を、蛍光色素(PE、APC)とコンジュゲートしたストレプトアビジンと共にインキュベーションした。これらの四量体を使用し、K264でのガラクトシル化を伴うCII259-273ペプチドに特異的なT細胞を検出した。RA患者及び健常ドナーのPBMC中の抗原特異性(CII259-273、K264gal)T細胞は、フローサイトメトリーを使用し検出した。B)検出に、DR4/galCIIペプチド四量体、DR4/nCIIペプチド四量体又はDR4/hCIIペプチド四量体を使用する、抗原特異性T細胞の頻度の比較。CD4 T細胞集団内の四量体陽性T細胞の頻度は、フローサイトメトリーにより測定した。
【0021】
図6図6:ヒトT細胞活性化。HLA-DRB1*0401のRA患者の末梢血中の抗原特異性T細胞の検出。T細胞は、galCII時に活性化され、未修飾CIIペプチド刺激により、より少ない程度に活性化される。CD154のアップレギュレーションは、フローサイトメトリーにより測定した(有意性:p-値=0.0332、マンホイットニー検定)。
【0022】
図7-1】図7:インビトロにおいて刺激されたHLA-DRB1*0401陽性RA患者(n=20)由来のPBMCによる、サイトカイン放出のLegendplex(商標)分析。標準TR1細胞分化条件(TR1)及び陰性対照(CO)による刺激と比較した、DR4/nCIIペプチド複合体又はDR4/galCIIペプチド複合体でのインビトロ刺激による、IL-2、IL-17f、IFN-γ、IL-10、IL-17a、及びTNF-αの放出の特異的誘導が示されている。
図7-2】図7:インビトロにおいて刺激されたHLA-DRB1*0401陽性RA患者(n=20)由来のPBMCによる、サイトカイン放出のLegendplex(商標)分析。標準TR1細胞分化条件(TR1)及び陰性対照(CO)による刺激と比較した、DR4/nCIIペプチド複合体又はDR4/galCIIペプチド複合体でのインビトロ刺激による、IL-2、IL-17f、IFN-γ、IL-10、IL-17a、及びTNF-αの放出の特異的誘導が示されている。
【0023】
図8図8:His-タグを伴う又は伴わない複合体の比較。(A)DR4-特異的抗体及びペルオキシダーゼ-結合した二次抗体を使用し、DR4/nCII、対、DR4/nCII Tev-切断された複合体の等モル溶液による、マイクロタイターウェルのコーティング有効性を比較するELISA。マイクロタイタープレートへのコーティングに使用されたDR4/nCII溶液の指定されたタンパク質濃度[μg/ml]での、405nmの吸収が示されている。(B)指定された濃度での、マイクロタイターウェルへのコーティング前のDR4/nCII、対、DR4/nCII Tev-切断された複合体による、3H8ハイブリドーマ細胞の活性化。マイクロタイタープレートへのコーティングのために使用したDR4/nCII溶液の指定されたタンパク質濃度[μg/ml]での、活性化後の上清中のIL-2濃度が、示されている。
【0024】
図9-1】図9:T細胞活性化に対するDR4/hCIIペプチド複合体中のHis-タグ、並びに、A)コンドロイチン硫酸(CS)、B)ヒアルロナン、C)ヘパラン硫酸(HS)とのそれらの相互作用の影響:コンドロイチン硫酸によりブロックされたか又はプレコーティングされたかのいずれかのマイクロタイターウェル中の溶質相中の指定された濃度での、DR4/hCII、対、DR4/hCIIΔHis、及び同じく(A)においてはDR4/hCII_DEDによる、3H8ハイブリドーマ細胞におけるIL-2反応の誘導。活性化後の上清中のIL-2濃度が示されている。
図9-2】図9:T細胞活性化に対するDR4/hCIIペプチド複合体中のHis-タグ、並びに、A)コンドロイチン硫酸(CS)、B)ヒアルロナン、C)ヘパラン硫酸(HS)とのそれらの相互作用の影響:コンドロイチン硫酸によりブロックされたか又はプレコーティングされたかのいずれかのマイクロタイターウェル中の溶質相中の指定された濃度での、DR4/hCII、対、DR4/hCIIΔHis、及び同じく(A)においてはDR4/hCII_DEDによる、3H8ハイブリドーマ細胞におけるIL-2反応の誘導。活性化後の上清中のIL-2濃度が示されている。
【0025】
図10図10:指定された濃度でマイクロタイターウェルにプレコーティングされたDR4/hCII、対、DR4/hCIIΔHis、対、DR4/hCII_DEDによる、3H8ハイブリドーマ細胞の活性化。マイクロタイタープレートへのコーティングに使用したDR4/nCII溶液の指定されたタンパク質濃度[μg/ml]での、活性化後の上清中のIL-2濃度が示されている。
【0026】
図11図11:3H8ハイブリドーマ細胞におけるIL-10反応の刺激に対する、DR4/hCIIペプチド複合体中のHis-タグ、並びに、溶質相中のコンドロイチン硫酸(CS)とのそれらの相互作用の影響:プラスチック表面がブロックされたマイクロタイターウェル中の、コンドロイチン硫酸(2.5mg/ml)を伴う又は伴わない(w/o)、溶質相中の指定された濃度でのDR4/nCIIによる3H8ハイブリドーマ細胞の活性化。マイクロタイタープレートのコーティングに使用されたDR4/nCII溶液の指定されたタンパク質濃度[μg/ml]での、活性化後の上清中のIL-10濃度が示されている。
【0027】
図12図12:インビボにおいてコラーゲンIIに対するDTH反応により誘導された耳膨潤に対する、His-タグを含むか又は欠くかのいずれかのAq/galCIIペプチド複合体の治療効果の比較。ポリヒスチジンタグを伴う(His)及び伴わない(w/oHis)Aq/galCII構築体の作用は、その結合溝に連結されたマウスの変異されたCLIPペプチド(CLIPmt)を含むAq/mCLIPmt対照構築体と比較して示している(*は、p値<0.05を示し、及び**は、p値<0.01を示す)。
【0028】
図13図13:組換えDR4/hCII複合体におけるCII-ペプチドの翻訳後修飾における異質性。質量分析により分析した指定されたK位置の各位置での検出可能な修飾の百分率を、示している。[OH=ヒドロキシリジン、Hex=ガラクトシル-ヒドロキシリジン、DiHex=グルコシル-ガラクトシル-ヒドロキシリジン、Ub=ユビキチン、POH=ヒドロキシプロリン]。
【0029】
図14-1】図14:Plod3遺伝子(LH3)ノックダウンExpi293細胞の作製。(A)多機能コラーゲン-修飾酵素LH3により媒介された、リジンから、ヒドロキシリジン、Gal-ヒドロキシリジン、及びGlc-Galヒドロキシルへと段階的移行の概略的表現。(B)ウェスタンブロットによるPLOD3の検出。Plod3特異的sh-RNAをコードしているレンチウイルス1×10個により形質導入された様々なExpi293 HEK細胞クローンからの溶解液を、SDS-PAGEに装加し、且つPLOD3を、抗-PLOD3抗体を使用するウェスタンブロットで検出した。PLOD3は、理論的分子量84kDaを有する。クローン#4、#18及び#20を、更なる増殖のために使用した。(C)質量分析によるグリカン分析。plod3遺伝子をノックダウンするようshRNAによりレンチウイルスを形質導入した後、質量分析によるグリカン分析を、ガラクトシルヒドロキシリシル残基のグルコシル化の減少を調べるために行った。一番上に示したコラーゲンII型エピトープ(配列番号:1)内の両方のリジン(K264及びK270)を、分析した。グルコ-ガラクトシルヒドロキシリシル残基(DiHex)の明確な減少が、明らかにされる。Unmod=未修飾、OH=水酸化された、DiOH=ジヒドロキシル化された、Hex=ガラクトシル化されたヒドロキシリシル、DiHex=グルコ-ガラクトシルヒドロキシリシル。
図14-2】図14:Plod3遺伝子(LH3)ノックダウンExpi293細胞の作製。(A)多機能コラーゲン-修飾酵素LH3により媒介された、リジンから、ヒドロキシリジン、Gal-ヒドロキシリジン、及びGlc-Galヒドロキシルへと段階的移行の概略的表現。(B)ウェスタンブロットによるPLOD3の検出。Plod3特異的sh-RNAをコードしているレンチウイルス1×10個により形質導入された様々なExpi293 HEK細胞クローンからの溶解液を、SDS-PAGEに装加し、且つPLOD3を、抗-PLOD3抗体を使用するウェスタンブロットで検出した。PLOD3は、理論的分子量84kDaを有する。クローン#4、#18及び#20を、更なる増殖のために使用した。(C)質量分析によるグリカン分析。plod3遺伝子をノックダウンするようshRNAによりレンチウイルスを形質導入した後、質量分析によるグリカン分析を、ガラクトシルヒドロキシリシル残基のグルコシル化の減少を調べるために行った。一番上に示したコラーゲンII型エピトープ(配列番号:1)内の両方のリジン(K264及びK270)を、分析した。グルコ-ガラクトシルヒドロキシリシル残基(DiHex)の明確な減少が、明らかにされる。Unmod=未修飾、OH=水酸化された、DiOH=ジヒドロキシル化された、Hex=ガラクトシル化されたヒドロキシリシル、DiHex=グルコ-ガラクトシルヒドロキシリシル。
【0030】
図15図15:β鎖を含む配列のC-端側に交互に正帯電されたアミノ酸タグを伴う、Aq/gal264CII構築体。A)H2ANタグ(N-端側H2A配列;ヒストンNT;配列番号:34)、H2ACタグ(C-端側H2A配列;ヒストンCT;配列番号:40)、及びNHタグ(修飾されたHis;配列番号:35)の配列が、示されている。B)ヒト及びマウスのヒストンH2Aの配列アラインメントが、示されている。マッチは、(*)により示し、及びミスマッチは、(:)により示した。ボックスは、ヒストンNT及びCT配列の位置を示している。
【0031】
図16図16:Aqβ鎖のC-端側に交互に正帯電されたアミノ酸タグを伴う、Aq/gal264CII構築体を試験するための、ハイブリドーマアッセイ。His-タグ又は交互に正帯電されたアミノ酸タグを伴う構築体を、上側に示し、TCSは、図1のように、β鎖前のリンカーが続くトロンビン切断を表し、並びにS-タグは、ストレプトアビジン-タグを表している。交互に正帯電されたアミノ酸タグを伴うAq/gal264CIIペプチド複合体(Aq/galCII(修飾されたHis))、Aq/galCII(ヒストンCT)、Aq/galCII(ヒストンNT)は、マイクロタイターウェルのプラスチック表面に、異なる濃度でコーティングされた。HCQ.3 T細胞ハイブリドーマが添加され、並びにIL-2分泌が、特異的細胞活性化の測定値として、ELISAにより決定された。His-タグ付けしたAq/galCII(His)は、陽性対照として働き、及びいかなるタグも付けていないAq/galCII(w/oHis)は、陰性対照として働いた。
【0032】
図17図17:インビボにおいてコラーゲンIIに対するDTH反応により誘導された耳膨潤に対する、His-タグを伴う又は伴わないAq/galCIIペプチド複合体、及びヒストンNT-タグを伴うAq/galCIIペプチド複合体の治療効果の比較。ポリヒスチジンタグを伴う(His)及び伴わない(ΔHis)及びヒストンNT-タグを伴うAq/galCII構築体の作用を、その結合溝中に連結されたマウスCLIPペプチド(CLIPmt)を含むAq/mCLIPmt対照構築体と比較して示している。
【発明を実施するための形態】
【0033】
好ましい実施態様の詳細な説明
全般的態様「含んでいる」又は「含まれる」は、より具体的な態様「からなる」を包含する。更に、単数形及び複数形は、限定的な様式では使用されない。本明細書において使用される単数形「ある(a、an及びthe)」は、単数のみを指定することを明確に言及しない限りは、単数及び複数の両方を指定する。
【0034】
用語「タンパク質」は、「アミノ酸配列」又は「ポリペプチド」と互換的に使用され、並びに任意の長さのアミノ酸のポリマーを指す。これらの用語はまた、非限定的に、グリコシル化、アセチル化、リン酸化、糖化又はタンパク質プロセシングを含む反応を通じて、翻訳後修飾されたタンパク質も含む。例えば、他のタンパク質への融合、アミノ酸配列の置換、欠失もしくは挿入などの修飾及び変更をポリペプチドの構造に行う一方で、その分子はその生物学的機能活性を維持することができる。例えば、特定のアミノ酸配列置換は、ポリペプチド又はその基礎となる核酸コード配列に行うことができ、並びにタンパク質は、同じ特性を得ることができる。
【0035】
用語「ポリペプチド」は、典型的には、20個より多いアミノ酸の配列を指し、用語「ペプチド」は、長さが最大20個のアミノ酸の配列を意味する。しかしこれらの用語は、互換的に使用されてよい。タンパク質は、二量体などの多量体を形成してよく、ここで二量体は、ヘテロ二量体又はホモ二量体であってよい。本発明に従うHLA-DR/CIIペプチド複合体は、MHCクラスIIα鎖の細胞外領域及びMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域を含み、これは典型的には、それらの鎖の一方のN-端側に融合されたコラーゲンIIペプチドを収容するための結合溝を形成する、ヘテロ二量体を形成する。しかし当業者は、ヘテロ二量体を形成する2つのタンパク質は、任意に可動性リンカーを介して互いに連結されたドメインを伴う単独のポリペプチド鎖を形成する融合タンパク質、すなわち一本鎖ヘテロ二量体としても作製され得ることを理解するであろう。
【0036】
「融合タンパク質」は、2種以上の当初は個別の天然又は修飾されたタンパク質の完全な配列又はその配列の任意の部分を含むタンパク質として定義される。融合タンパク質は、2種以上の当初は個別の天然もしくは異種タンパク質、又はその一部を当初コードしている、2種以上の遺伝子もしくはcDNA、又はそれらの一部を融合することによる、組換えDNA技術を使用する遺伝子操作アプローチにより、構築されることができる。これは結果的に、当初のタンパク質の各々に由来する機能特性を持つ融合タンパク質を生じる。従って、ペプチド又はタンパク質は、ペプチド結合又は好ましくはリンカーペプチドにより、別のタンパク質に連結される。
【0037】
用語「ゲノムDNA」又は「ゲノム」は、互換的に使用され、並びに宿主生物の遺伝性の遺伝子情報を指す。ゲノムDNAは、核のDNA(染色体DNAとも称される)を含むが、他の細胞小器官(例えばミトコンドリア)のものも含む。
【0038】
本明細書において使用される用語「遺伝子」は、機能性産物として発現されることによるか、又は遺伝子発現の調節により、生物の形質に影響を及ぼす、遺伝性のゲノム配列のDNA遺伝子座を指す。遺伝子及びポリヌクレオチドは、ゲノム配列の中にイントロン及びエクソンを、又は開始コドン(メチオニンコドン)及び翻訳終止コドンを含むオープンリーディングフレーム(ORF)などのcDNAに含まれるようなコード配列だけを含んでよい。遺伝子及びポリヌクレオチドはまた、転写開始、翻訳及び転写の終止など、それらの発現を調節する領域も含むことができる。従って、プロモーターなどの調節エレメントも含む。
【0039】
本明細書において使用される用語「核酸」、「ヌクレオチド」、及び「ポリヌクレオチド」は、互換的に使用され、並びに5’末端から3’末端に読み進む、デオキシリボヌクレオチド塩基又はリボヌクレオチド塩基の一本鎖又は二本鎖ポリマーを指し、並びに二本鎖DNA(dsDNA)、一本鎖DNA(ssDNA)、一本鎖RNA(ssRNA)、二本鎖RNA(dsRNA)、ゲノムDNA、cDNA、cRNA、組換えDNA又は組換えRNA、及び例えば修飾された骨格を含むものなどのそれらの誘導体を含む。好ましくは、ポリヌクレオチド、特に哺乳類のゲノムへ安定して組み込まれるポリヌクレオチドは、DNA又はcDNAである。本発明に従うポリヌクレオチドは、異なる様式(例えば、化学合成により、遺伝子クローニングによりなど)で調製されることができ、並びに様々な形態(例えば、線状又は分岐状、一本鎖又は二本鎖、もしくはそのハイブリッド、プライマー、プローブなど)をとることができる。用語「ヌクレオチド配列」又は「核酸配列」は、個別の一本鎖の又は二重鎖のいずれかとしての、核酸のセンス鎖及びアンチセンス鎖の両方を指す。
【0040】
本明細書において使用される用語「組換えポリヌクレオチド」は、例えば、CHO細胞又はHEK293細胞などの、レシピエントとは異なる細胞、生物又は異なる種に由来したか、又は組換え技術を用いレシピエントへ導入された、ポリヌクレオチドを指す。本発明の状況において、当業者は、これは、DNA又はcDNAを指すことを理解するであろう。組換えポリヌクレオチドはまた、導入遺伝子又は異種ポリヌクレオチドも指してよい。従ってこれは、組換えタンパク質をコードしている遺伝子又はオープンリーディングフレーム(ORF)であってよい。HEK293細胞又はCHO細胞などの、哺乳類細胞の状況において、「組換えポリヌクレオチド」は、異なる細胞に由来した又は人工的に合成されたポリヌクレオチドを指す。用語「組換え」は、分子クローニングなど、遺伝子組換えの実験室での方法により形成された、ポリペプチド分子又はポリ核酸分子などの分子を指す。そのような方法は、複数の給源からの遺伝物質を一緒にするか、又は天然に存在しない配列を作出する。核酸の一部分に関して使用される場合、「組換え」はまた、天然において互いに同じ関係では認められない2種以上の配列を含むポリヌクレオチド、又は該ポリヌクレオチドによりコードされたポリペプチドも含む。従って組換えはまた、同じ細胞株に由来するが、典型的にはそれが認められない位置でゲノムに挿入されている遺伝子もしくは導入遺伝子、又はそれらの一部、あるいは典型的にはそれが認められない生物の細胞へ導入された遺伝子などの、ポリヌクレオチド配列を指す。
【0041】
本明細書で使用される「組換えポリヌクレオチド」、「組換え遺伝子」又は「組換え配列」は、標的細胞又は宿主細胞へ、直接に、又は好ましくは「発現ベクター」、好ましくは哺乳類の発現ベクターを使用することにより、導入され得る。ベクターを構築するために使用される方法は、当業者に周知である。ベクターは、プラスミドベクター、コスミド、人工/ミニ-染色体(例えばACE)、又はレトロウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス及び単純ヘルペスウイルスなどのウイルスベクターを含み得るが、これらに限定されるものではない。真核生物の発現ベクターは、典型的には、複製起点などの細菌におけるベクターの増殖を促進する原核生物の配列、及び細菌における選択のための抗生物質耐性遺伝子も含むであろう。そこへポリヌクレオチドが機能的に連結されるクローニング部位を含む、多種多様な真核生物の発現ベクターが、当該技術分野において周知である。通常発現ベクターはまた、該発現マーカーを保有する宿主細胞の選択を可能にする、選択マーカーをコードしている発現カセットも含む。
【0042】
用語「サイトカイン」は、細胞により放出され、且つ例えば、分泌細胞の周囲の細胞の挙動に影響するなど、細胞内メディエーターとして作用する、小型タンパク質を指す。サイトカインは、T細胞、B細胞、NK細胞及びマクロファージなどの、免疫細胞又は他の細胞により分泌され得る。サイトカインは、自己分泌シグナル伝達、傍分泌シグナル伝達及び内分泌シグナル伝達など、細胞内シグナル伝達事象に関与し得る。これらは、非限定的に免疫、炎症、及び造血を含む、広範な生物学的プロセスを媒介し得る。サイトカインは、ケモカイン、インターフェロン、インターロイキン、リンホカイン又は腫瘍壊死因子であり得る。
【0043】
本明細書において使用される用語「発現」は、宿主細胞内での核酸配列の転写及び/又は翻訳を指す。宿主細胞における関心対象の遺伝子産物の発現のレベルは、細胞中に存在する対応するRNAの量、又は選択された配列によりコードされたポリペプチドの量のいずれかを基に決定され得る。例えば、選択された配列から転写されたRNAは、ノーザンブロットハイブリダイゼーション、リボヌクレアーゼRNAプロテクション、細胞RNAへのインサイチュハイブリダイゼーション、又はqPCRなどのPCRにより、定量することができる。選択された配列によりコードされたタンパク質は、例えば、ELISA、ウェスタンブロッティング、放射免疫測定、免疫沈降、タンパク質の生物活性のアッセイ、タンパク質の免疫染色とそれに続くFACS分析、又はホモジニアス時間分解蛍光(HTRF)アッセイによるなどの、様々な方法により、定量することができる。miRNA又はshRNAなどの、非コードRNAの発現のレベルは、qPCRなどのPCRにより定量することができる。
【0044】
用語「遺伝子産物」は、RNAポリヌクレオチド及び遺伝子もしくはDNAポリヌクレオチドによりコードされたポリペプチドの両方を指す。
【0045】
本明細書において使用される用語「タンパク質原性のアミノ酸」は、翻訳時にタンパク質への生合成により組み込まれる全てのアミノ酸を指す。用語「タンパク質原性」とは、タンパク質の作製を意味する。真核生物において21種の遺伝的にコードしているアミノ酸、すなわち標準の遺伝暗号の20種及びセレノシステインであるタンパク質原性のアミノ酸が存在する。標準の遺伝暗号の20種のアミノ酸は、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、システイン、グルタミン酸、グルタミン、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リジン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン及びバリンである。
【0046】
本明細書において使用される用語「翻訳後修飾」又は「翻訳後修飾された」は、細胞において生成される際に生じ得る、CIIペプチド中のリジン残基の天然の修飾を指す。リジン残基の翻訳後修飾は、ヒドロキシリジン(Hyl)を生じるか、又はO-グリコシル化されたHyl、例えばガラクトシル-ヒドロキシリジン又はグルコシルガラクトシル-ヒドロキシリジン、好ましくはガラクトシル-ヒドロキシリジンであることができる。
【0047】
本明細書において使用される用語「ドメイン」は、タンパク質の残りの部分とは無関係な三次元構造を有する、折り畳まれたタンパク質構造を指す。一般にドメインは、タンパク質の個別の機能特性に寄与し、並びに多くの場合において、そのタンパク質及び/又はドメインの残りの部分の機能を失うことなく、他のタンパク質へ付加、除去又は転移され得る。例えば、MHCIIα鎖のα1ドメイン及びMHCIIβ鎖のβ1ドメインは各々、一緒にMHCII分子のペプチド結合溝を形成する折り畳まれたポリペプチドドメインである。
【0048】
ヒトにおける慢性炎症性疾患の治療における使用のためのコンドロイチン-結合ペプチドを含む組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体を含有する組成物
一態様において、本発明は、ヒト患者における慢性炎症性疾患の治療において使用するための、少なくともα1ドメインを含むHLA-DRα鎖の細胞外領域;少なくともβ1ドメインを含むHLA-DRβ鎖の細胞外領域;及び、任意にリンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖、好ましくはHLA-DRβ鎖のN-端側へ融合されている、コラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)を含む組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体を含有する組成物を提供し、ここでCIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPXG、AGFKGEXGPKG、AGFKGXQGPKG、AGFKXEQGPKG、AGFKGEXGPXG、AGFKGXQGPXG及びAGFKXEQGPXGからなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、並びにここでHLA-DR/CIIペプチド複合体は、HLA-DRα鎖及び/又はHLA-DRβ鎖を含むポリペプチドのC-末端にコンドロイチン-結合ペプチドを含む。一実施態様において、CIIペプチドは、リンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖のN-端側に融合されている。一実施態様において、CIIペプチドは、HLA-DRβ鎖のN-端側に融合されている。
【0049】
一実施態様において、コンドロイチン-結合ペプチドは、インビボにおいて、組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体のコンドロイチンへの結合を媒介する。理論に結びつけられるものではないが、このコンドロイチン-結合ペプチドは、組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体の、軟骨、好ましくは関節軟骨内のコンドロイチンへの結合を媒介してよい。あるいは又は加えて、このコンドロイチン-結合ペプチドは、組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体の、免疫細胞、特にT細胞上の及び/又はリンパ節もしくは滑液のような他の組織のマトリクス内の細胞表面上、コンドロイチン又はコンドロイチン-様構造などの、負帯電した糖への結合を媒介してよい。帯電したグリコサミノグリカンは、関節の能動免疫が媒介した慢性関節炎時に、軟骨マトリクス及び/又は滑膜裏層細胞のいずれかから、滑液へ高濃度で放出される(およそ4mg/100ml;Seppala POら、Clin Chim Acta 1975; 36: 549-553)。
【0050】
驚くべきことに、図1に示されたようなHLA-DRβ鎖の1つを含むポリペプチド鎖のC-末端及びヘテロ二量体化ドメインのC-端側に付加されたHLA-DR/CIIペプチド複合体中のHis-タグは、インビトロにおけるHLA-DR/CIIペプチド複合体の作用を改善することが示された。更に驚くべきことに、His-タグは、組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体の細胞外マトリクス成分コンドロイチンへの結合を促進すること、並びにコンドロイチン硫酸によりコーティングされたマイクロタイタープレートにおいて、His-タグ付き複合体のみが、可溶性型のT細胞ハイブリドーマに十分なIL-2反応を誘導することができることがわかった。理論により結びつけられるものではないが、組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体の細胞外マトリクス成分コンドロイチン硫酸への結合は、改善された空間配向及び/又は多量体化に繋がり、結果的にTCR認識のためのペプチド結合基の提示の改善に繋がる。この知見は、His-タグを伴わない複合体と比較した、His-タグ付き複合体の投与後の、CII誘導した遅延型過敏症(DTH)モデルにおける低下した膨潤を明らかにしている、インビボデータにより確認されている。従って理論により結びつけられるものではないが、His-タグは、コンドロイチンなどの、細胞表面又は組織表面上の負帯電した分子との相互作用のために、増大した結合力による、組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体の、TCRへの結合に重要であり、これは複合体の多量体化及び/又は正確な配向に繋がり、複合体のTCRとの相互作用を促進し得る。加えてこのコンドロイチン相互作用はまた、コンドロイチンに結合するか及び/又はコンドロイチン部分それ自身を含むかのいずれかであり得るT細胞膜上の共刺激分子、例えばCD44又はCD74、タンパク質チロシンホスファターゼPTPσなどの結合を補助することもある。
【0051】
コンドロイチンはまた本明細書ではコンドロイチン硫酸とも称されるが、これは、糖質、N-アセチルガラクトサミン及びグルクロン酸が交互である鎖からなる硫酸化されたグリコサミノグリカン(GAG)である。これは、プロテオグリカンの一部として、タンパク質に付着されることが多いことがわかっている。プロテオグリカンは、細胞外マトリクス(ECM)の主要成分である。コンドロイチン硫酸はまた、軟骨の重要な構造成分でもある。これは更に、滑液滲出液もしくはリンパ液などの細胞外体液中に、並びに例えば関節軟骨もしくは滑膜などの組織中に存在する。従って、His-タグは、関節炎時に最も影響を受ける体の部位である関節構造、又はリンパ節への局在化を支援し、従ってインビボにおけるこの複合体の有利な分布を媒介し得る。当業者は、この能力は、ヘキサヒスチジンタグ又は好ましくはヘプタヒスチジンタグなどのポリヒスチジンタグに限定されるものではなく、任意のコンドロイチン結合ペプチドにより媒介されることができることを理解するであろう。
【0052】
従って、本発明に従う使用のための組成物は、少なくとも1つのコンドロイチン-結合ペプチド、好ましくはコンドロイチン-及びヒアルロン酸(ヒアルロナンとも称される)結合ペプチドを含む、HLA-DR/CIIペプチド複合体を含有する。好ましくは、このコンドロイチン-結合ペプチドは、この複合体の少なくとも1つのポリペプチド鎖のC-末端に位置する。一実施態様において、HLA-DR/CIIペプチド複合体は、少なくとも1つのC-端側コンドロイチン-結合ペプチドを含む。コンドロイチン-結合ペプチドは、当該技術分野において公知であり、且つ非限定的に、アミノ酸配列EKRIWFPYRRF(配列番号:31)、YKTNFRRYYRF(配列番号:32)又はVLIRHFRKRYY(配列番号:33)を有するペプチドを含む(Butterfield KCら、Biochemistry, 2010 Feb 23;49(7):1549-55)。一実施態様において、このコンドロイチン結合ペプチドは、5~20個のアミノ酸、好ましくは6~20個のアミノ酸、好ましくは6~12個のアミノ酸、より好ましくは6~12個、更により好ましくは6~12個のアミノ酸を含む。同じく正帯電したヒストンペプチド、特にアミノ酸配列SGRGKQGGKARAKAKTRSSR(配列番号:34)を含むペプチドなどのヒトH2Aヒストンのペプチドが、本明細書において確定されている。用語コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸は、本明細書において互換的に使用され、従ってコンドロイチン-結合ペプチドは、コンドロイチン硫酸結合ペプチドと称されてもよい。ヒアルロナンへの結合を増大するために、結合コンセンサスモチーフを含む例証的配列は、以下のように規定される:B(X7)B、ここでBは、R又はKのいずれかであり、並びにX7は、酸性残基を含まず、及び少なくとも1個の塩基性アミノ酸を含む(Yang Bら、EMBO J. 1994 Jan 15;13(2):286-96)。本明細書において明らかにしたように、HLA-DR/CIIペプチド複合体はまた、his-タグを介して、コンドロイチン硫酸に結合することもできる。従ってコンドロイチン-結合ペプチドは、ポリヒスチジンタグ、好ましくはヘキサヒスチジンタグ、又はコンドロイチンへの結合親和性を増大する任意の他のアミノ酸配列、例えばEKRIWFPYRRF(配列番号:31)、YKTNFRRYYRF(配列番号:32)又はVLIRHFRKRYY(配列番号:33)などであってよい。用語His-タグは、本明細書において、ポリヒスチジン-タグと同義的に使用され、並びに少なくとも6個の連続するヒスチジン残基を有するタグ(少なくともヘキサヒスチジン-タグ)を指す。好ましくは、このHis-タグは、少なくともヘプタヒスチジン-タグである。
【0053】
一実施態様において、(a)C-端側コンドロイチン-結合ペプチドは、その遊離型であり;(b)組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体は、この組成物中のコンドロイチン-結合ペプチドを介して、多量体化されず;(c)組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体は、この組成物中のコンドロイチン-結合ペプチドを介して、更なる分子に結合されないか;あるいは、(a)、(b)又は(c)の任意の組合せである。従ってこのコンドロイチン-結合ペプチドは、インビボにおいてはコンドロイチンへ結合していない。
【0054】
用語「HLA-DR/CIIペプチド複合体」は、ペプチド結合溝を形成するヒトMHC IIタンパク質の細胞外ドメイン(HLA-DRアイソタイプ)又はその一部、及びコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)を含む、可溶性複合体を指し、ここでこのペプチドは、任意にα鎖又はβ鎖のいずれかのN-端側へ融合(すなわち連結)される。好ましくはCIIペプチドは、α鎖又はβ鎖のいずれかのN-端側へ、並びにより好ましくはMHCクラスIIβ鎖のN-端側へ融合される。あるいは、HLA-DRタンパク質は、クラスII結合インバリアント鎖ペプチド(CLIP)などの、サロゲートペプチドにより生成されることができ、プロテアーゼ切断部位(例えばトロンビン切断部位)を含むリンカーペプチドにより、β鎖又はα鎖の、好ましくはβ鎖の細胞外部分のN-端側へ融合され;該プロテアーゼ切断部位を認識するプロテアーゼ(例えばトロンビン)を用いてCLIPを切断し;並びに、翻訳後修飾された又は未修飾のCIIペプチドにより、HLA-DRタンパク質を負荷し、HLA-DR/CIIペプチド複合体を形成する。HLA-DRタンパク質は、α鎖の細胞外ドメインを形成するα1ドメイン及びα2ドメイン、並びにβ鎖の細胞外ドメインを形成するβ1ドメイン及びβ2ドメインを含む。用語「細胞外ドメイン」及び「細胞外領域」は、本明細書において同義的に使用される。α1ドメイン及びβ1ドメインは、ペプチド結合溝、すなわちCIIペプチドなどのペプチドと相互作用及び結合する部位を形成する。従ってHLA-DR/CIIペプチド複合体は、少なくともHLA-DRタンパク質のα1ドメイン及びβ1ドメインを含む。好ましくはHLA-DR/CIIペプチド複合体は、HLA-DRタンパク質のα1ドメイン、α2ドメイン、β1ドメイン及びβ2ドメインを含む。
【0055】
ヒトのRAに関して、MHCクラスII分子HLA-DRのペプチド結合ポケットのβ鎖上のアミノ酸コンセンサスモチーフ(Q/R R/K R A A)(アミノ酸位置70-74、いわゆる「共有されたエピトープ」)をコードしているHLA-DRB1遺伝子座の特定のアレルとの遺伝的関連が存在する。RAと関連するHLA-DRB1アレルの例は、QKRAA-コーディングアレル:HLA_DRB1*0401及び0409、QRRAA-コーディングアレル:HLA_DRB1*0404、0405、0408、0101、0102及び1402、RRRAA-コーディングアレル:HLA_DRB1*1001、並びにDKRAA-コーディングアレル:HLA_DRB1*1303である。従ってMHCクラスIIα鎖の細胞外領域及びMHCクラスIIβ鎖の細胞外領域は、HLA-DRに由来し、好ましくは少なくともα1ドメインは、DRA*0101に由来し、及び少なくともβ1ドメインは、DRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、DRB1*1402及びDRB1*1303、好ましくはDRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001及びDRB1*1402、より好ましくはDRB1*0401、DRB1*0404及びDRB1*0405からなる群から選択されるHLA-DRアレルに由来する。より好ましくは、α1ドメイン及びα2ドメインは、DRA*0101に由来し、並びにβ1ドメイン及びβ2ドメインは、DRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、DRB1*1402及びDRB1*1303、好ましくはDRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001及びDRB1*1402、より好ましくはDRB1*0401、DRB1*0404及びDRB1*0405からなる群から選択されるHLA-DRアレルに由来する。
【0056】
本発明に従う使用のための組成物中の組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体は、未修飾のCIIペプチド及び/又は翻訳後修飾されたCIIペプチド、より具体的には未修飾もしくは1又は複数の翻訳後修飾されたリジン(複数可)を伴う、好ましくは翻訳後修飾された第一のリジンを伴う、CIIペプチドを含む。本明細書において使用される用語「翻訳後修飾された」又は「翻訳後修飾されたCIIペプチド」は、ヒドロキシリジン(Hyl)、ガラクトシル-ヒドロキシリジン又はグルコシル-ガラクトシル-ヒドロキシリジンから選択された第一の及び任意に第二のリジン残基への修飾、すなわち細胞内のコラーゲン中のリジン残基の翻訳後修飾により入手可能な修飾を保有するCIIペプチドを指す。従ってこの修飾が、翻訳後修飾、すなわち細胞内で得られることは、必須ではなく、インビトロにおいては酵素的手段又は合成的手段により恐らく得られるであろう。
【0057】
翻訳後修飾されたCIIペプチドは、CIIペプチドの少なくとも1つのリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)であり、及び/又はO-グリコシル化されたHylであるCIIペプチドを含む。好ましくは、CIIペプチドの第一のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)であり、及び/又はO-グリコシル化されたHylである。本組成物中のHLA-DR/CIIペプチド複合体は、同じCIIペプチドを含んでよい。従って一実施態様において、CIIペプチドは、未修飾のリジン残基を伴うCIIペプチドからなるか;又は、CIIペプチドは、ヒドロキシリジン(Hyl)である第一のリジンを伴うCIIペプチドからなるか;又は、CIIペプチドは、ガラクトシル-ヒドロキシリジンである第一のリジンを伴うCIIペプチドからなる。本組成物中のHLA-DR/CIIペプチド複合体はまた、CIIペプチドの混合物を含んでもよい。これは、未修飾のCIIペプチド及び翻訳後修飾されたCIIペプチドの混合物によるHLA-DRタンパク質の負荷によるか、あるいは未修飾又は翻訳後修飾されたCIIペプチドによるHLA-DR複合体の負荷及びその後のHLA-DR/CIIペプチド複合体との混合により、達成されてよい。当業者は、翻訳後修飾されたCIIペプチドは、典型的にはインビトロにおいて合成的又は酵素的のいずれかにより生成されることを理解するであろう。あるいはこれは、コラーゲン中のリジン残基へ翻訳後修飾を追加することが可能である細胞株を使用し、インビボにおいてリンカーペプチドによりHLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖のN-端側へ融合されたCIIペプチドを伴うHLA-DR/CIIペプチド複合体を調製することにより達成されてよい。従って別の実施態様において、CIIペプチドは、未修飾のリジン残基を伴うCIIペプチド及びガラクトシル-ヒドロキシリジンである第一のリジンを伴うCIIペプチドからなるか;CIIペプチドは、ガラクトシル-ヒドロキシリジンである第一のリジンを伴うCIIペプチドを含むか;CIIペプチドは、未修飾のリジン残基を伴うCIIペプチド及びガラクトシル-ヒドロキシリジンである第一のリジンを伴うCIIペプチドを含むか;CIIペプチドは、未修飾のリジン残基を伴うCIIペプチド、並びにガラクトシル-ヒドロキシリジン及び/又はヒドロキシリジン(Hyl)である第一のリジンを伴うCIIペプチドを含むか;あるいは、CIIペプチドは、未修飾のリジン残基を伴うCIIペプチド、並びにO-グリコシル化されたヒドロキシリジン及び/又はヒドロキシリジン(Hyl)である第一のリジンを伴うCIIペプチドを含む。この実施態様において、翻訳後修飾されたCIIペプチド中の任意の第二のリジンは、未修飾、ヒドロキシリジン、及び/又はO-グリコシル化されたヒドロキシリジンであるか;より具体的には未修飾、ヒドロキシリジン、ガラクトース-ヒドロキシリジン及び/又はグルコシル-ガラクトシル-ヒドロキシリジンであるか;好ましくは、未修飾、ヒドロキシリジン、ガラクトース-ヒドロキシリジン、より好ましくは未修飾であってよい。一実施態様において、CIIペプチド又は翻訳後修飾されたCIIペプチド中の任意の第二のリジンは、グルコシル-ガラクトシル-ヒドロキシリジンではない。一実施態様において、本組成物は、グルコシル-ガラクトシル-ヒドロキシリジン修飾を伴う、すなわち第一又は任意の第二のリジンではない、CIIペプチド含むHLA-DR/CIIペプチド複合体は含まない。
【0058】
このCIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPXG、AGFKGEXGPKG、AGFKGXQGPKG、AGFKXEQGPKG、AGFKGEXGPXG、AGFKGXQGPXG及びAGFKXEQGPXGからなる群から選択されるアミノ酸配列を含む。特定の実施態様において、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPX1G、AGFKGEX2GPKG、AGFKGX3QGPKG、AGFKX4EQGPKG、AGFKGEX2GPX1G 及びAGFKGX3QGPX1G、AGFKX4EQGPX1Gのアミノ酸配列を含み、ここでXは、Kを除くタンパク質原性のアミノ酸のいずれか、好ましくはR、A、G又はQ、より好ましくはRであり;Xは、Qを除くタンパク質原性のアミノ酸のいずれか、好ましくはA、R、H又はGであり;Xは、Eを除くタンパク質原性のアミノ酸のいずれか、好ましくはA、D、Q又はGであり;並びに、Xは、Gを除くタンパク質原性のアミノ酸のいずれか、より好ましくはA、S、V又はLである。好ましくは、X、X又はXは、Kではない。特定の実施態様において、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG又はAGFKGEQGPX1G、好ましくはAGFKGEQGPKGEP又はAGFKGEQGPX1GEP、より好ましくはGIAGFKGEQGPKGEP又はGIAGFKGEQGPX1GEPのアミノ酸配列を含む。CIIペプチドGIAGFKGEQGPKGEPは、三重螺旋CII領域のアミノ酸259-273に対応している。HLA-DRの結合ポケットへの結合に適しているCIIペプチドは、長さ10~20個のアミノ酸であり、好ましくはCIIペプチドは、長さ11~15個のアミノ酸であり、より好ましくはCIIペプチドは、長さ13~15個のアミノ酸である。一実施態様において、CIIペプチドは、アミノ酸配列AGFKGEQGPKG、より好ましくはAGFKGEQGPKGEP、及び更により好ましくはGIAGFKGEQGPKGEPを含む。あるいは、CIIペプチドは、11個、好ましくは12個、より好ましくは13個及び最も好ましくは15個の連続アミノ酸GIAGFKGEQGPKGEPを含む。一実施態様において、第二のK(K270)は、好ましくはRへ、変異され得る。従ってCIIペプチドが、アミノ酸配列AGFKGEQGPXG、AGFKGEQGPXGEP及びGIAGFKGEQGPXGEPを含む実施態様も、同じく包含され、ここでXは、K以外の任意のタンパク質原性のアミノ酸であり、好ましくはXは、R、A、G又はQであり、より好ましくはXは、Rである。従って一実施態様において、CIIペプチドは、アミノ酸配列AGFKGEQGPRG、AGFKGEQGPRGEP及びGIAGFKGEQGPRGEPを含む。本発明により包含されるCIIペプチドは、表1に明らかにしている:
表1:
【表1】
【0059】
本発明に従う使用のための組成物中のHLA-DR/CIIペプチド複合体は、未修飾のCIIペプチド及び/又は翻訳後修飾されたCIIペプチドを含む。翻訳後修飾されたCIIペプチドは、CIIペプチドの少なくとも第一のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)であるか、及び/又はO-グリコシル化されたHylである、CIIペプチドを含む。好ましくは、ヒドロキシリジン(Hyl)及び/又はガラクトシル-ヒドロキシリジン、より好ましくはガラクトシル-ヒドロキシリジンである。CIIペプチドの第一のリジン(K)残基は、三重螺旋のCII領域のアミノ酸配列の264位である、GIAGFKGEQGPKGEP中の第一のKに対応している(配列番号:1から12の4位のアミノ酸、及び配列番号:13-15の6位のアミノ酸に対応している)。従って本明細書において使用される「第一のリジン残基」はまた、K264として、又は264位のリジンとして称されてよい。CIIペプチド中の任意の第二のリジン(K)残基は、三重螺旋CII領域のアミノ酸配列の270位の、GIAGFKGEQGPKGEP中の第二のKに対応している(配列番号:1、3-5又は10の10位のアミノ酸、及び配列番号:13の12位のアミノ酸に対応している)。従って本明細書において使用される「第二のリジン残基」又は「更なるリジン残基」はまた、K270として又は270位のリジンとして称されてよい。使用のための組成物中のHLA-DR/CIIペプチド複合体は、未修飾のCIIペプチド及び翻訳後修飾されたCIIペプチド(Hyl、gal-Hyl及びglc-gal-Hyl、好ましくはHyl及びgal-Hyl、より好ましくはgal-Hyl)を含む、すなわち翻訳後修飾を伴う又は伴わない異なるCIIペプチドを含む複合体の混合物であってよいか、あるいは未修飾のCIIペプチドを有するか又はHylもしくはgal-Hyl修飾のいずれか、好ましくはgal-Hyl修飾を有する、翻訳後修飾されたCIIペプチド修飾を有するHLA-DR/CIIペプチド複合体、すなわち翻訳後修飾を伴う又は伴わない同じCIIペプチドを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体からなってよい。好ましい実施態様において、本発明に従う使用のための組成物中のHLA-DR/CIIペプチド複合体は、未修飾のCIIペプチド及び翻訳後修飾されたCIIペプチドを含み、ここで少なくとも第一のリジン残基は、ヒドロキシリジン及び/又はガラクトシル-ヒドロキシリジンである。用語「ガラクトシル-ヒドロキシリジン」は、G-Hyl又はGal-Hylと称されてもよく、並びにグルコシルガラクトシル-ヒドロキシリジンへの修飾は排除している。
【0060】
本発明に従うCIIペプチド配列中のリジン残基、特に第一のリジン残基、すなわち264位のリジン残基のコラーゲン特異的翻訳後ガラクトシル化は、TCRを介したT細胞認識に関与し、結果的に薬理学的効果に関与することができる。270位のリジン残基は、DR4分子の結合溝の縁に配置され、及びそのガラクトシル-ヒドロキシリジン修飾は、TCR認識には余り重要ではないと考えられる。従って第二の又は更なるリジン残基(K270に対応する)は、未修飾、ヒドロキシリジン又はガラクトシル-ヒドロキシリジンのいずれか、好ましくは未修飾であってよい。gal264エピトープを認識するT細胞ハイブリドーマのTCRは、K270R変異により影響を受けないことが、示されている。好ましい実施態様において、特に複合体がコラーゲン内のリジン残基を翻訳後修飾することが可能である細胞株内でインビボにおいて生成される場合、CIIペプチドは第一のリジン残基のみを含み、並びにいずれかの更なる任意のK(任意の第二のKなど)は変異され、好ましくはR、A、G又はQへ変異され、より好ましくはRへ変異される。従ってアミノ酸配列AGFKGEQGPRG、好ましくはAGFKGEQGPRGEP及びより好ましくはGIAGFKGEQGPRGEPを含むCIIペプチドもまた、本発明により包含される。第二のリジンの変異は、生成物の異質性を低下する利点を有し、従って正確に修飾されたペプチドの割合は、より高くなる。更に、ガラクトシル-ヒドロキシリジンは、宿主産生細胞内でインビボにおいてグルコシル化され、グルコシル-ガラクトシル-ヒドロキシリジン(Glc-Gal-Hyl、又はGG-Hyl)を形成し、これは恐らく、特にK270位の二糖(Glc-Gal)の嵩高性のためにTCR認識に負の作用を有するであろう。従ってK270変異、特にK270Rは、この位置では二糖修飾は結合することができないので、更なる結合との干渉を回避する。
【0061】
一実施態様において、コラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)は、リンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖のN-端側に、好ましくはMHCクラスIIβ鎖のN-端側に融合される。このことは、宿主産生細胞内のCIIペプチドのそれぞれの翻訳後修飾を含む複合体全体の生成を可能にする。用語「リンカーペプチド」は、複数のアミノ酸残基からなるポリペプチドを指す。リンカーペプチドは、そのペプチドが、MHCII複合体により形成されたペプチド結合ポケットへ結合することを可能にするのに十分に長く且つ可動性である限りは、任意のペプチドであってよい。好適なリンカーペプチドの例は、Gly-Serリンカーである。本発明に従い、CIIペプチド、リンカーペプチド並びにMHCIIα鎖及びMHCIIβ鎖の少なくとも1つの細胞外領域は、1つのポリペプチドとして発現され、且つ1つのポリヌクレオチドによりコードされる。本明細書において使用される用語「へ融合される」は、「へ連結される」を意味し、ここで連結は、任意にリンカーペプチドを使用するペプチド結合を介しており、従って融合タンパク質が作製される。あるいは、HLA-DRタンパク質は、トロンビン切断部位などの、プロテアーゼ切断部位を含むリンカーペプチドを介してHLA-DR鎖の1本へ連結されている、CLIPペプチドなどの、代理ペプチドにより、生成される。従って生成後このペプチドは、タンパク質分解性に切断され、並びに典型的にはインビトロにおいて合成的又は酵素的に調製される、未修飾又はガラクトシル化されたCIIペプチド(すなわち、K264位にgal-Hylを保有するCIIペプチド)は、インビトロにおいてこの複合体上に負荷される。従って代わりの実施態様において、未修飾及び/又は翻訳後修飾されたCIIペプチドは、HLA-DRタンパク質上に配置され、HLA-DR/CIIペプチド複合体を形成する。この合成による未修飾又はガラクトシル化されたペプチドは、HLA-DR分子へ共有的に連結され得るが、この連結は、リンカーペプチドを介してはいない。この状況において、翻訳後修飾は、CIIペプチド中の少なくとも1つのリジン残基の、Hyl、gal-Hyl又はglc-gal-Hylへの修飾に関連し、ここでこの修飾は、インビボにおいてコラーゲン中のリジン残基を翻訳後修飾することが可能である宿主産生細胞内のHLA-DR/CIIペプチド複合体に、あるいはインビトロにおいて合成的又は酵素的にHLA-DRタンパク質上に配置されているCIIペプチドへ、付加されてよい。
【0062】
実施例において使用され並びに図1に示されたような、HLA-DRβ鎖のN-端側へ融合されたCIIペプチドを含み、シグナルペプチドを伴わない、HLA-DR/CIIペプチド複合体(配列番号:16及び配列番号:17)は、リンカーとCIIペプチドの間に酵素切断部位(トロンビン切断部位、図1)を依然含んでいるが、これは、必ずしもではなく、治療的生成物から除去されることが好ましい。このリンカーペプチドは、この生成物の安定性を向上し、並びにペプチド喪失を防止することができる。従って好ましくは、本発明に従うHLA-DR/CIIペプチド複合体は、CIIペプチドとHLA-DRβ鎖(又はHLA-DRα鎖)の細胞外領域の間のアミノ酸配列中に、酵素(タンパク質分解性)切断部位を含まない。更に治療的目的のためには、本組成物を構成するHLA-DR/CIIペプチド複合体は、図1に示され且つ「実施例」において使用される例証的複合体中に存在する、(1)精製のためのストレプトアビジン-タグ(SAWSHPQFEK、配列番号:30)、(2)HLA-DRα/HLA-DRβ鎖とヘテロ二量体化ドメインの間の切断部位(例えば、TEV切断部位)、並びに/又は(3)大腸菌ビオチンリガーゼ(BirA)の認識部位(例えば、AviTag):を含まない。これらのエレメントは、インビトロ及びインビボにおいてこの複合体の機能に作用を及ぼさないことが示された(データは示さず)。本発明に従う例証的最小のHLA-DR/CIIペプチド複合体は、配列番号:18及び配列番号:19のアミノ酸配列によりコードされてよい。当業者は、このペプチド配列は、請求項に包含されるように変動してよく、並びにHis-タグは、本明細書に開示されたコンドロイチン結合ペプチドなどの、交互に正帯電されたペプチドにより置き換えられてよいことを理解するであろう。
【0063】
下記実施例において使用される例証的複合体の配列は、以下の通りである:
1)DR4-構築体:
・DR4構築体α鎖(配列番号:16)、シグナルペプチド、後続のDRA*0101細胞外α鎖領域(下線付き)、TEV切断部位(太字)、cFosドメイン(太字及び下線付き)、及びビオチン化部位(BirA、イタリック及び下線付き)を含む配列:
MKLCILLAVVAFVGLSLGIKEEHVIIQAEFYLNPDQSGEFMFDFDGDEIFHVDMAKKETVWRLEEFGRFASFEAQGALANIAVDKANLEIMTKRSNYTPITNVPPEVTVLTNSPVELREPNVLICFIDKFTPPVVNVTWLRNGKPVTTGVSETVFLPREDHLFRKFHYLPFLPSTEDVYDCRVEHWGLDEPLLKHWEFDASGGGENLYFQGGGGSLTDTLQAETDQLEDEKSALQTEIANLLKEKEKLEFILAAHGGGGSGLNDIFEAQKIEWHE
・最小のDR4構築体α鎖(配列番号:18)、シグナルペプチド、後続のDRA*0101細胞外α鎖領域(下線付き)、及びcFosドメイン(太字及び下線付き)を含む配列:
MKLCILLAVVAFVGLSLGIKEEHVIIQAEFYLNPDQSGEFMFDFDGDEIFHVDMAKKETVWRLEEFGRFASFEAQGALANIAVDKANLEIMTKRSNYTPITNVPPEVTVLTNSPVELREPNVLICFIDKFTPPVVNVTWLRNGKPVTTGVSETVFLPREDHLFRKFHYLPFLPSTEDVYDCRVEHWGLDEPLLKHWEFDASGGGGGGSLTDTLQAETDQLEDEKSALQTEIANLLKEKEKLEFILAAH
・hCII259-273ペプチドを伴うDR4構築体β鎖(配列番号:17)、シグナルペプチド、その直後のStrep-タグ(太字及び二重下線付き)、及びCIIペプチド259-273(イタリック及び下線)、各端がグリシンリンカーにより挟まれたトロンビン切断部位(太字及び点線)、DRB*0401細胞外領域(下線付き)、TEV切断部位(太字)、cJunドメイン(太字及び下線付き)、及びHis-タグ(イタリック)を含む配列:
MKLCILLAVVAFVGLSLGSAWSHPQFEKGIAGFKGEQGPKGEPSGGGSLVPRGSGGGGSGDTRPRFLEQVKHECHFFNGTERVRFLDRYFYHQEEYVRFDSDVGEYRAVTELGRPDAEYWNSQKDLLEQKRAAVDTYCRHNYGVGESFTVQRRVYPEVTVYPAKTQPLQHHNLLVCSVNGFYPGSIEVRWFRNGQEEKTGVVSTGLIQNGDWTFQTLVMLETVPRSGEVYTCQVEHPSLTSPLTVEWRARSGGGENLYFQGGGGSRIARLEEKVKTLKAQNSELASTANMLREQVAQLKQKVMNHHHHHHH
・hCII259-273ペプチドを伴う最小DR4構築体β鎖(配列番号:19)、シグナルペプチド、直後のCIIペプチド259-273(イタリック及び下線)、DRB*0401細胞外領域(下線付き)、cJunドメイン(太字及び下線付き)、及びHis-タグ(イタリック)を含む配列:
MKLCILLAVVAFVGLSLGGIAGFKGEQGPKGEPSGGGSGGGGSGDTRPRFLEQVKHECHFFNGTERVRFLDRYFYHQEEYVRFDSDVGEYRAVTELGRPDAEYWNSQKDLLEQKRAAVDTYCRHNYGVGESFTVQRRVYPEVTVYPAKTQPLQHHNLLVCSVNGFYPGSIEVRWFRNGQEEKTGVVSTGLIQNGDWTFQTLVMLETVPRSGEVYTCQVEHPSLTSPLTVEWRARSGGGGGGSRIARLEEKVKTLKAQNSELASTANMLREQVAQLKQKVMNHHHHHHH
2)DR4-hCLIPmut構築体:
・上記のDR4構築体α鎖(配列番号:16)
・hCLIPmutを伴うDR4構築体β鎖(配列番号:20)、シグナルペプチド、直後のStrep-タグ(太字及び二重下線付き)、及び変異したhCLIPペプチド(イタリック及び下線)、各端がグリシンリンカーにより挟まれたトロンビン切断部位(太字及び点線)、DRB*0401細胞外領域(下線付き)、TEV切断部位(太字)、cJunドメイン(太字及び下線付き)、及びHis-タグ(イタリック)を含む配列:
MKLCILLAVVAFVGLSLGSAWSHPQFEKPVSKARMATGALAQASGGGSLVPRGSGGGGSGDTRPRFLEQVKHECHFFNGTERVRFLDRYFYHQEEYVRFDSDVGEYRAVTELGRPDAEYWNSQKDLLEQKRAAVDTYCRHNYGVGESFTVQRRVYPEVTVYPAKTQPLQHHNLLVCSVNGFYPGSIEVRWFRNGQEEKTGVVSTGLIQNGDWTFQTLVMLETVPRSGEVYTCQVEHPSLTSPLTVEWRARSGGGENLYFQGGGGSRIARLEEKVKTLKAQNSELASTANMLREQVAQLKQKVMNHHHHHHH
3)Aq-rCII構築体:
・Aq構築体α鎖(配列番号:21)、シグナルペプチド、後続のAq細胞外α鎖領域(下線付き)、TEV切断部位(太字)、cFosドメイン(太字及び下線付き)、及びビオチン化部位(BirA、イタリック及び下線付き)を含む配列:
MKLCILLAVVAFVGLSLGEDDIEADHVGFYGIVVYQSPGDIGQYTHEFDGDEWFYVDLDKKETVWMLPEFGQLTSFDPQGGLQNIATGKHNLGGWTKRSNFTPATNEAPQATVFPKSPVLLGQPNTLICFVDNIFPPVINITWLRNSKSVTDGVYETSFLVNRDHSFHKLSYLTFIPSDDDIYDCKVEHWGLDEPVLKHWEPEIPATMSELTETVSGGGENLYFQGGGGSLTDTLQAETDQLEDEKSALQTEIANLLKEKEKLEFILAAHGGGGSGLNDIFEAQKIEWHE
・ラットCII259-273ペプチドを伴うAq構築体β鎖(配列番号:22)、シグナルペプチド、直後のStrep-タグ(太字及び二重下線付き)、及びCIIペプチド259-273(イタリック及び下線)、各端がグリシンリンカーにより挟まれたトロンビン切断部位(太字及び点線)、Aq細胞外領域(下線付き)、TEV切断部位(太字)、cJunドメイン(太字及び下線付き)、及びHis-タグ(イタリック)を含む配列:
MKLCILLAVVAFVGLSLGSAWSHPQFEKGIAGFKGEQGPKGETSGGGSLVPRGSGGGGSERHFVAQLKGECYFTNGTQRIRSVNRYIYNREEWVRFDSDVGEYRAVTELGRPDAEYWNSQPEILERTRAEVDTVCRHNYEGVETHTSLRRLEQPNVAISLSRTEALNHHNTLVCSVTDFYPAKIKVRWFRNGQEETVGVSSTQLIRNGDWTFQVLVMLEMTPHQGEVYTCHVEHPSLKSPITVEWRAQSESARSKSGGGENLYFQGGGGSRIARLEEKVKTLKAQNSELASTANMLREQVAQLKQKVMNHHHHHHH
・His-タグを伴わずラットCII259-273ペプチドを伴うAq構築体β鎖(配列番号:23)、シグナルペプチド、直後のStrep-タグ(太字及び二重下線付き)、及びCIIペプチド259-273(イタリック及び下線)、各端がグリシンリンカーにより挟まれたトロンビン切断部位(太字及び点線)、Aq細胞外領域(下線付き)、TEV切断部位(太字)、及びcJunドメイン(太字及び下線付き)を含む配列:
MKLCILLAVVAFVGLSLGSAWSHPQFEKGIAGFKGEQGPKGETSGGGSLVPRGSGGGGSERHFVAQLKGECYFTNGTQRIRSVNRYIYNREEWVRFDSDVGEYRAVTELGRPDAEYWNSQPEILERTRAEVDTVCRHNYEGVETHTSLRRLEQPNVAISLSRTEALNHHNTLVCSVTDFYPAKIKVRWFRNGQEETVGVSSTQLIRNGDWTFQVLVMLEMTPHQGEVYTCHVEHPSLKSPITVEWRAQSESARSKSGGGENLYFQGGGGSRIARLEEKVKTLKAQNSELASTANMLREQVAQLKQKVMNH
4)Aq-mCLIPmt構築体:
・上記のAq構築体α鎖(配列番号:21)
・mCLIPペプチドを伴うAq構築体β鎖(配列番号:24)、シグナルペプチド、直後のStrep-タグ(太字及び二重下線付き)、及びmCLIPmtペプチド(イタリック及び下線)、各端がグリシンリンカーにより挟まれたトロンビン切断部位(太字及び点線)、Aq細胞外領域(下線付き)、TEV切断部位(太字)、cJunドメイン(太字及び下線付き)、及びHis-タグ(イタリック)を含む配列:
MKLCILLAVVAFVGLSLGSAWSHPQFEKPVSQARMATPLLMRPSGGGSLVPRGSGGGGSERHFVAQLKGECYFTNGTQRIRSVNRYIYNREEWVRFDSDVGEYRAVTELGRPDAEYWNSQPEILERTRAEVDTVCRHNYEGVETHTSLRRLEQPNVAISLSRTEALNHHNTLVCSVTDFYPAKIKVRWFRNGQEETVGVSSTQLIRNGDWTFQVLVMLEMTPHQGEVYTCHVEHPSLKSPITVEWRAQSESARSKSGGGENLYFQGGGGSRIARLEEKVKTLKAQNSELASTANMLREQVAQLKQKVMNHHHHHHH
・His-タグを伴わずmCLIPペプチドを伴うAq構築体β鎖(配列番号:25)、シグナルペプチド、直後のStrep-タグ(太字及び二重下線付き)、及びmCLIPmtペプチド(イタリック及び下線)、各部位でグリシンリンカーにより挟まれたトロンビン切断部位(太字及び点線)、Aq細胞外領域(下線付き)、TEV切断部位(太字)、cJunドメイン(太字及び下線付き)を含む配列:
MKLCILLAVVAFVGLSLGSAWSHPQFEKPVSQARMATPLLMRPSGGGSLVPRGSGGGGSERHFVAQLKGECYFTNGTQRIRSVNRYIYNREEWVRFDSDVGEYRAVTELGRPDAEYWNSQPEILERTRAEVDTVCRHNYEGVETHTSLRRLEQPNVAISLSRTEALNHHNTLVCSVTDFYPAKIKVRWFRNGQEETVGVSSTQLIRNGDWTFQVLVMLEMTPHQGEVYTCHVEHPSLKSPITVEWRAQSESARSKSGGGENLYFQGGGGSRIARLEEKVKTLKAQNSELASTANMLREQVAQLKQKVMNH
本明細書に開示された構築体の個々のエレメントの更なるアミノ酸配列を、以下に提供している:
・cFosドメイン(配列番号:26):LTDTLQAETDQLEDEKSALQTEIANLLKEKEKLEFILAAH
・cJunドメイン(配列番号:27):RIARLEEKVKTLKAQNSELASTANMLREQVAQLKQKVMNH
・修飾されたヒトCLIP-ペプチド(配列番号:28):PVSKARMATGALAQA
・ラットCII-ペプチド259-273(配列番号:29):GIAGFKGEQGPKGET
・ストレプトアビジン-タグ(配列番号:30):SAWSHPQFEK。
【0064】
一実施態様において、少なくともα1ドメインを含むHLA-DRα鎖の細胞外領域及び少なくともβ1ドメインを含むHLA-DRβ鎖の細胞外領域は、単独の融合ポリペプチド(一本鎖ヘテロ二量体)として発現され;並びに、任意にコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)は、リンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖の、好ましくはHLA-DRβ鎖のN-端側に融合される。一実施態様において、HLA-DR/CIIペプチド複合体は、多量体化ドメイン又はヘテロ二量体化ドメイン、特にIgGドメインは含まない。一実施態様において、各HLA-DR/CIIペプチド複合体は、HLA-DRα鎖の1つの細胞外領域及びHLA-DRβ鎖の1つの細胞外領域のみを含む。
【0065】
代わりの実施態様において、HLA-DR/CII複合体は、少なくともα1ドメインを含むHLA-DR/CIIα鎖の細胞外領域を含む第一のポリペプチド;少なくともβ1ドメインを含むHLA-DR/CIIβ鎖の細胞外領域を含む第二のポリペプチド;及び、任意にリンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖の、好ましくましくはHLA-DRβ鎖のN-端側へ融合された、コラーゲンIIペプチド(CIIペプチド):を含み;並びにここで、HLA-DRα鎖は、ロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第一の機能ドメインへ、そのC-末端で融合され、及びMHCクラスIIβ鎖は、ロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第二の相補的機能ドメインへ、そのC-末端で融合されている。第一の機能ドメイン及び第二の相補的機能ドメインは、酸性及び塩基性のロイシンジッパーヘテロ二量体化ドメイン、好ましくはjun-fosロイシンジッパーモチーフであってよい。一実施態様において、このjun-fosロイシンジッパーモチーフは、配列番号:26のアミノ酸配列を有するcFosドメイン、及び配列番号:27のアミノ酸配列を有するcJunドメインを含む。当業者は、第一及び/又は第二のポリペプチドは、ロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの機能ドメインのC-端側に、ポリヒスチジンタグなどの、コンドロイチン-結合ペプチドを含むことを理解するであろう。一実施態様において、HLA-DR/CIIペプチド複合体は、更なる多量体化ドメイン又はヘテロ二量体化ドメインを含まず、特にIgGドメインを含まない。一実施態様において、各HLA-DR/CIIペプチド複合体は、HLA-DRα鎖の1つの細胞外領域及びHLA-DRβ鎖の1つの細胞外領域のみを含む。
【0066】
当業者は、本発明に従う使用のための組成物は、特にコラーゲン中のリジン残基を翻訳後修飾することが可能である宿主産生細胞において生成される場合、CIIペプチドの、特にCIIペプチドの第一及び任意に第二のリジン残基の異なる翻訳後修飾、並びに未修飾のCIIペプチドを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体の異質性の混合物中に、HLA-DR/CIIペプチド複合体を含み得ることを理解するであろう。この異質性の混合物は、第一のリジンにK、Hyl、G-Hyl又はGG-Hylを、及び任意の第二のリジンに独立してK、Hyl、G-Hyl又はGG-Hylを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体を含んでよい(ここで、K=リジン、Hyl=ヒドロキシリジン、G-Hyl=ガラクトシル-ヒドロキシリジン、GG-Hyl=グルコシルガラクトシルヒドロキシリジン)。
【0067】
従って一実施態様において、本発明に従い使用するための組成物は、CIIペプチドの第一のリジン残基がガラクトース-ヒドロキシリジンであるCIIペプチドを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体を含有し、並びに更にCIIペプチドの第一のリジン残基が、未修飾、ヒドロキシリジン(Hyl)又はグルコシルガラクトシル-ヒドロキシリジン(GG-Hyl)である、好ましくは未修飾又はヒドロキシリジン(Hyl)であり、及びCIIペプチドの任意の第二のリジン残基が、独立して未修飾、ヒドロキシリジン(Hyl)、ガラクトシル-ヒドロキシリジン(G-Hyl)又はグルコシルガラクトシル-ヒドロキシリジン(GG-Hyl)である、好ましくは未修飾、ヒドロキシリジン(Hyl)、ガラクトシル-ヒドロキシリジン(G-Hyl)であるCIIペプチドを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体を含有する。一実施態様において、本組成物は、グルコシル-ガラクトシル-ヒドロキシリジン(GG-Hyl)修飾されたHLA-DR/CIIペプチド複合体、すなわち第一及び/又は任意に第二のリジン残基がグルコシル-ガラクトシル-ヒドロキシリジンである、O-グリコシル化されたCIIペプチドを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体は、含有しない。
【0068】
HLA-DR/CIIペプチド複合体の異種性の混合物中にHLA-DR/CIIペプチド複合体を含有する本発明に従う使用のための組成物において、本組成物は好ましくは、この混合物又は組成物中の総HLA-DR/CIIペプチド複合体のCIIペプチドの第一のリジン(K264)でG-Hylを、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%又は少なくとも50%含むHLA-DR/CIIペプチド複合体を含有する。更に本組成物は、この混合物又は組成物中の総HLA-DR/CIIペプチド複合体の未修飾のCIIペプチドが、90%を超えない、80%を超えない、70%を超えない、60%を超えない、又は50%を超えないHLA-DR/CIIペプチド複合体を含有する。特定の実施態様において、本組成物は、この混合物又は組成物中の総HLA-DR/CIIペプチド複合体のCIIペプチド中GG-Hylを、好ましくは20%未満、10%未満、5%未満、より好ましくは1%未満含むHLA-DR/CIIペプチド複合体を含有する。ここで百分率は、HLA-DR/CIIペプチド複合体中の総CIIペプチドの、HLA-DR/CIIペプチド複合体中のCIIペプチドの割合を指す。特に好ましい実施態様において、該第二のリジン残基(K270)は、変異され、例えばアルギニンに変異される(K270R)。更なる実施態様において、(任意の)第二のリジンは、グルコシルガラクトシル-ヒドロキシリジン(GG-Hyl)へ翻訳後修飾されず、未修飾のリジン、ヒドロキシリジン又はガラクトシル-ヒドロキシリジンとして存在する。
【0069】
当業者は、本発明に従う使用のための組成物は、代わりに、未修飾のCIIペプチド又は、特にCIIペプチドの第一のリジン残基の同じCIIペプチドの翻訳後修飾を含むHLA-DR/CIIペプチド複合体の均質性の混合物中にHLA-DR/CIIペプチド複合体を含有し得ることを理解するであろう。均質性の混合物は、CIIペプチドの第一のリジンにK、Hyl、G-Hyl又はGG-Hylを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体を含み得る(ここで、K=リジン、Hyl=ヒドロキシリジン、G-Hyl=ガラクトシル-ヒドロキシリジン、GG-Hyl=グルコシルガラクトシル-ヒドロキシリジン)。好ましくは、HLA-DR/CIIペプチド複合体は、修飾を含まないか、又は存在するとしても、CIIペプチドの第二のリジンには少なくともGG-Hylを含まない。HLA-DR/CIIペプチド複合体の均質性の混合物は、合成的に調製された未修飾又は翻訳後修飾されたCIIペプチドによる、HLA-DRタンパク質の負荷により実現され得る。あるいは、HLA-DR/CIIペプチド複合体は、コラーゲン中のリジン残基の翻訳後修飾が可能である宿主産生細胞株を使用し、並びに翻訳後修飾に感受性のある様式でこの複合体を認識する抗体を使用する親和性クロマトグラフィーを使用するか、あるいは親和性リガンドとして該HLA-DR/CII複合体に特異的なTCR(又はその断片)を使用し、各HLA-DR/CIIペプチド複合体を精製することにより、作製され得る。
【0070】
更なる態様において、本発明は、ヒト患者における慢性炎症性疾患の治療において使用するための本明細書に開示された方法により得られた又は得ることができる組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体を提供し、ここでHLA-DR/CIIペプチド複合体を作製する方法は、(i)少なくともα1ドメインを含むHLA-DRα鎖の細胞外領域を含むポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド;(ii)少なくともβ1ドメインを含むHLA-DRβ鎖の細胞外領域を含むポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド;並びに、(iii)リンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖のN-端側に融合されたコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)をコードしているポリヌクレオチド:により、哺乳類細胞をトランスフェクションすることであって、ここでCIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPXG、AGFKGEXGPKG、AGFKGXQGPKG、AGFKXEQGPKG、AGFKGEXGPXG、AGFKGXQGPXG及びAGFKXEQGPXGからなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、並びにここでHLA-DR/CIIペプチド複合体は、HLA-DRα鎖及び/又はHLA-DRβ鎖を含むポリペプチドのC-末端に、コンドロイチン-結合ペプチドを含むこと;(b)この哺乳類細胞を、HLA-DR/CIIペプチド複合体を生成するのに適した条件下で培養すること;並びに、(c)未修飾及び/又は翻訳後修飾されたCIIペプチドを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体を含む細胞上清及び任意に細胞を収集すること:を含む。翻訳後修飾されたCIIペプチドにおいて、CIIペプチドの少なくとも第一のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)又はO-グリコシル化されたHylであってよい。好ましくは、少なくとも第一のリジン残基は、ヒドロキシリジン又はガラクトシル-ヒドロキシリジン、より好ましくはガラクトシル-ヒドロキシリジンである。翻訳後修飾されたCIIペプチドを含む該組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体が、特に包含され、ここでCIIペプチドの第一のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)であるか又はO-グリコシル化されたHylである。従って一実施態様において、O-グリコシル化されたCIIペプチドを含む組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体は、本明細書記載の方法により得られる。
【0071】
特定の実施態様において、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPX1G、AGFKGEX2GPKG、AGFKGX3QGPKG、AGFKX4EQGPKG、AGFKGEX2GPX1G及びAGFKGX3QGPX1G、AGFKX4EQGPX1Gのアミノ酸配列を含み、ここでXは、Kを除くタンパク質原性のアミノ酸のいずれか、好ましくはR、A、G又はQ、より好ましくはRであり;Xは、Qを除くタンパク質原性のアミノ酸のいずれか、好ましくはA、R、H又はGであり;Xは、Eを除くタンパク質原性のアミノ酸のいずれか、好ましくはA、D、Q又はGであり;並びに、Xは、Gを除くタンパク質原性のアミノ酸のいずれか、より好ましくはA、S、V又はLである。好ましくはX、X又はXは、Kではない。特定の実施態様において、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG又はAGFKGEQGPX1G、好ましくはAGFKGEQGPKGEP又はAGFKGEQGPX1GEP、より好ましくはGIAGFKGEQGPKGEP又はGIAGFKGEQGPX1GEPのアミノ酸配列を含む。
【0072】
また更なる態様において、本発明は、本明細書記載の方法により得られたCIIペプチドを含む組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体を含有する組成物を提供する。
【0073】
本発明に従う使用のための組成物は、医薬組成物である。従って本発明はまた、本明細書記載の組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体を含む組成物及び医薬として許容し得る賦形剤を含有する医薬組成物も開示している。本組成物又は医薬組成物は、任意の投与経路により、好ましくは皮下(s.c.)又は静脈内(i.v.)に投与されてよい。一実施態様において、本組成物又は医薬組成物は、皮下に埋め込まれた浸透圧ポンプを使用し、投与される。本発明に従う使用のための組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体を含有する組成物又は医薬組成物は、凍結乾燥されるか、又は水溶液であってよい。医薬として許容し得る賦形剤は、担体、並びに安定剤を含んでよい。
【0074】
本発明に従う使用のための組成物は、慢性炎症性疾患、特に関節炎又は他の慢性炎症性関節疾患の治療のためである。好ましくは、本組成物は、医薬として許容し得る賦形剤を更に含有する医薬組成物である。一実施態様において、本組成物は、関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎、強直性脊椎炎、若年性特発性関節炎、再発性多発性軟骨炎、全身性紅斑性狼瘡、ライム病、メニエール病、内耳自己免疫病(AIED)、又はスチル病からなる群から選択される慢性炎症性疾患の治療における使用のためである。一実施態様において、本発明に従う使用のための組成物は、関節リウマチ、変形性関節症、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、若年性特発性関節炎又はスチル病からなる群から選択される関節炎の型を、好ましくは関節リウマチ、変形性関節症又は乾癬性関節炎を、より好ましくは関節リウマチを治療するためである。特定の実施態様において、本発明に従う組成物は、メトトレキセート及び/又は常用の合成(小型分子)の疾患修飾性抗リウマチ薬(DMARD)に対し不適切に反応する対象の治療のための、生物学的DMARD(例えば、抗-TNF抗体、抗-CTLA4抗体(アバタセプト)、抗-IL-6抗体、抗-CD20抗体(リツキシマブ))に不適切に反応する対象の治療のための、標的化された合成DMARD(例えばJAK-インヒビター)に対し不適切に反応する対象の治療のための、関節リウマチの第一選択治療である。代わりの実施態様において、本発明に従う組成物は、筋骨格症状の新たな発症を伴う抗-ccp抗体陽性の喫煙者など、関節リウマチの発症のリスクが高い患者における予防的治療のためである。
【0075】
好ましくは、本組成物は、皮下又は静脈内に、より好ましくは皮下に投与される。本組成物は、約10μg~約250μg、好ましくは20~200μg、より好ましくは50μg~100μgの単回用量で投与されてよい。一実施態様において、治療は、負荷相及び維持相を含む。負荷相は、連続する日の3~10回、好ましくは6回の逐次適用を含んでよい。維持用量は、毎週又は3~14日毎に、好ましくは毎週、隔週、毎月、隔月又はより高い頻度で投与されてよい。
【0076】
組換えHLA-DR/CIIペプチド複合体の作製方法
本発明に従う使用のためのHLA-DR/CIIペプチド複合体は、β鎖又はα鎖の細胞外部分のN-端側に融合されたCIIペプチドにより、インビボにおいて(すなわち、哺乳類細胞株内で)、あるいは代わりにβ鎖又はα鎖の細胞外部分のN-端側へ融合された代理ペプチドにより、及びその後の代理ペプチドの切断及びCIIペプチドの負荷により、調製されてよい。CIIペプチドが、哺乳類細胞において、HLA-DRタンパク質と一緒に発現されるならば、生成に使用される哺乳類細胞に応じて、CIIペプチドは、翻訳後修飾されるか又は未修飾であってよい。CIIペプチドがHLA-DRタンパク質に負荷される場合、CIIペプチドは、インビトロにおいて合成的又は酵素的に調製され、並びに未修飾及び/又は翻訳後修飾されたCIIペプチドとして複合体上に負荷されてよい。
【0077】
より具体的には、本発明に従う使用のためのHLA-DR/CIIペプチド複合体は、(i)少なくともα1ドメインを含むHLA-DRα鎖の細胞外領域を含むポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド;(ii)プロテアーゼ切断部位(例えば、トロンビン切断部位)を含むリンカーペプチドにより、β鎖又はα鎖、好ましくはβ鎖の細胞外部分のN-端側へ融合した代理ペプチドとして、クラスII結合インバリアント鎖ペプチド(CLIP)を含む、少なくともβ1ドメインを含むHLA-DRβ鎖の細胞外領域を含むポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド:により、哺乳類細胞をトランスフェクションすることであって;ここで、HLA-DRタンパク質は、HLA-DRα鎖及び/又はHLA-DRβ鎖を含むポリペプチドのC-末端にコンドロイチン-結合ペプチドを含むこと;(b)この哺乳類細胞を、HLA-DR/CIIペプチド複合体を生成するのに適した条件下で培養すること;(c)HLA-DRタンパク質を含む細胞上清及び任意に細胞を収集すること;(d)該プロテアーゼ切断部位を認識するプロテアーゼ(例えばトロンビン)を使用し、CLIPを切断すること;並びに、このHLA-DRタンパク質に未修飾及び/又は翻訳後修飾されたCIIペプチドを負荷し、HLA-DR/CIIペプチド複合体を形成することであって、ここでCIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPXG、AGFKGEXGPKG、AGFKGXQGPKG、AGFKXEQGPKG、AGFKGEXGPXG、AGFKGXQGPXG及びAGFKXEQGPXGからなる群から選択されるアミノ酸配列を含むこと:を含む、CIIペプチドを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体を作製する方法により、調製されてよい。翻訳後修飾されたCIIペプチドにおいて、CIIペプチドの少なくとも第一のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)及び/又はO-グリコシル化されたHylであってよい。好ましくは翻訳後修飾されたCIIペプチドの少なくとも第一のリジン残基は、ヒドロキシリジン及び/又はガラクトシル-ヒドロキシリジン、より好ましくはガラクトシル-ヒドロキシリジンである。従って、このペプチドの生成後に、タンパク質分解性の切断が続き、並びに合成的に調製されたガラクトシル化されたペプチド(すなわち、K264位にgal-Hylを保有するCIIペプチド)及び/又は未修飾のCIIペプチドは、インビトロにおいてこの複合体上に負荷される。この合成ガラクトシル化されたペプチド及び/又は未修飾は、HLA-DRタンパク質へ共有的に連結されてよいが、この連結は、リンカーペプチドを介さない。
【0078】
あるいは、本発明に従う使用のための組成物は、(i)少なくともα1ドメインを含むHLA-DRα鎖の細胞外領域を含むポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド;(ii)少なくともβ1ドメインを含むHLA-DRβ鎖の細胞外領域を含むポリペプチドをコードしているポリヌクレオチド;並びに、(iii)リンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖のN-端側へ融合されたコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)をコードしているポリヌクレオチド:により、哺乳類細胞をトランスフェクションすることであって;ここで、CIIペプチドが、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPXG、AGFKGEXGPKG、AGFKGXQGPKG、AGFKXEQGPKG、AGFKGEXGPXG、AGFKGXQGPXG及びAGFKXEQGPXGからなる群から選択されるアミノ酸配列を含み、並びにここでHLA-DR/CIIペプチド複合体が、HLA-DRα鎖及び/又はHLA-DRβ鎖を含むポリペプチドのC-末端にコンドロイチン-結合ペプチドを含むこと;(b)この哺乳類細胞を、HLA-DR/CIIペプチド複合体を生成するのに適した条件下で培養すること;並びに、(c)未修飾及び/又は翻訳後修飾されたCIIペプチドを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体を含む細胞上清及び任意に細胞を収集すること:を含む、CIIペプチドを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体を作製する方法により調製されてよい。翻訳後修飾されたCIIペプチドにおいて、CIIペプチドの少なくとも第一のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)又はO-グリコシル化されたHylであってよい。好ましくは、少なくとも第一のリジン残基は、ヒドロキシリジン又はガラクトシル-ヒドロキシリジン、より好ましくはガラクトシル-ヒドロキシリジンである。
【0079】
本方法は、更に、HLA-DR/CIIペプチド複合体のCIIペプチドのグリコシル化プロファイルを分析する工程を含む。グリコシル化プロファイルを分析する方法は、当該技術分野において周知であり、並びに、質量分析などの方法を含む。HLA-DR/CIIペプチド複合体を作製する方法は、HLA-DR/CIIペプチド複合体は、細胞培養皿又は発酵槽中の細胞株内で生成されるという意味において、インビトロ方法においてである。更に本方法は、初代細胞よりもむしろ、哺乳類細胞株の使用を含む。
【0080】
特定の実施態様において、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG、AGFKGEQGPX1G、AGFKGEX2GPKG、AGFKGX3QGPKG、AGFKX4EQGPKG、AGFKGEX2GPX1G、AGFKGX3QGPX1G及びAGFKX4EQGPX1Gのアミノ酸配列を含み、ここでXは、Kを除くタンパク質原性のアミノ酸のいずれか、好ましくはR、A、G又はQ、より好ましくはRであり;Xは、Qを除くタンパク質原性のアミノ酸のいずれか、好ましくはA、R、H又はGであり;Xは、Eを除くタンパク質原性のアミノ酸のいずれか、好ましくはA、D、Q又はGであり;並びに、Xは、Gを除くタンパク質原性のアミノ酸のいずれか、より好ましくはA、S、V又はLである。好ましくはX、X又はXは、Kではない。特定の実施態様において、CIIペプチドは、AGFKGEQGPKG又はAGFKGEQGPX1G、好ましくはAGFKGEQGPKGEP又はAGFKGEQGPX1GEP、より好ましくはGIAGFKGEQGPKGEP又はGIAGFKGEQGPX1GEPのアミノ酸配列を含む。
【0081】
好ましくは、少なくともα1ドメインは、DRA*0101由来であり、並びに少なくともβ1ドメインは、DRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、DRB1*1402及びDRB1*1303、好ましくはDRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001及びDRB1*1402、より好ましくはDRB1*0401、DRB1*0404及びDRB1*0405、更により好ましくはDRB1*0401からなる群から選択されるHLA-DRアレル由来である。より好ましくは、α1ドメイン及びα2ドメインは、DRA*0101由来であり(α1及び2ドメイン:配列番号:16のアミノ酸19-200)、並びにβ1ドメイン及びβ2ドメインは、DRB1*0401、DRB1*0404及びDRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001、DRB1*1402及びDRB1*1303、好ましくはDRB1*0401、DRB1*0404、DRB1*0405、DRB1*0408、DRB1*0409、DRB1*0101、DRB1*0102、DRB1*1001及びDRB1*1402、より好ましくはDRB1*0401、DRB1*0404及びDRB1*0405、更により好ましくはDRB1*0401からなる群から選択されるHLA-DRアレル由来である(β1及び2ドメイン:配列番号:17のアミノ酸60-250)。
【0082】
実施例において使用される具体的HLA-DR/CIIペプチド複合体は、以下のように略記され:DR4/hCII(天然にグリコシル化された、ヒト)、DR4/nCII(ネイキッド又は未修飾、ヒト)、DR4/galCII(ガラクトシル化された(K264でGal-Hyl)、ヒト)、ここで使用されるCIIペプチドは、アミノ酸配列GIAGFKGEQGPKGEP(配列番号:13)を有する。実施例において使用される各々のマウスMHCII/CII複合体は、以下のように略記され:Aq/rCII(天然にグリコシル化された、ラットCII)、Aq/nCII(ネイキッド又は未修飾、ラットCII)、Aq/galCII(ガラクトシル化された(K264でGal-Hyl)、ラット)、ここで使用されるラットCIIペプチドは、アミノ酸配列GIAGFKGEQGPKGET(配列番号:29)を有する。
【0083】
コラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)は、リンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖のN-端側に、好ましくはHLA-DRβ鎖のN-端側に融合されてよい。用語「リンカーペプチド」は、複数のアミノ酸残基からなるポリペプチドを指す。リンカーペプチドは、このペプチドが、MHCII複合体により形成されたペプチド結合ポケットへ結合することを可能にするのに十分に長く且つ柔軟である限りは、任意のペプチドであってよい。好適なリンカーの例は、Gly-Serリンカーである。CIIペプチド、リンカーペプチド並びに少なくとも1つのMHCIIα鎖及びMHCII鎖の細胞外領域は、1つのポリペプチドとして発現され、且つ1つのポリヌクレオチドによりコードされる。この文脈中の用語「へ融合される」は、「へ連結する」を意味し、ここで連結は、任意にリンカーペプチドを使用し、ペプチド結合を介しており、従って融合タンパク質が作製される。
【0084】
このHLA-DR/CIIペプチド複合体は、少なくとも1つのコンドロイチン-結合ペプチド、好ましくはコンドロイチン-及びヒアルロン酸(同じくヒアルロナンとも称される)結合ペプチドを含む。好ましくはコンドロイチン-結合ペプチドは、この複合体の少なくとも1つのポリペプチド鎖のC-末端に配置される。一実施態様において、HLA-DR/CIIペプチド複合体は、少なくとも1つのC-端側のコンドロイチン-結合ペプチドを含む。コンドロイチン-結合ペプチドは、当該技術分野において公知であり、且つアミノ酸配列EKRIWFPYRRF(配列番号:31)、YKTNFRRYYRF(配列番号:32)又はVLIRHFRKRYY(配列番号:33)を有するペプチドを含むが、これらに限定されるものではない(Butterfield KCら、Biochemistry, 2010 Feb 23;49(7):1549-55)。同じく正帯電したヒストンペプチド、特に配列SGRGKQGGKARAKAKTRSSR(配列番号:34)を含むペプチドなどのヒトH2Aヒストンのペプチドが、本明細書において同定される。一実施態様において、コンドロイチン結合ペプチドは、5~20個のアミノ酸、好ましくは6~20個のアミノ酸、より好ましくは6~12個のアミノ酸を含む。好ましくは、コンドロイチン結合ペプチドは、5個以上、好ましくは6個以上、より好ましくは7個以上の正帯電したアミノ酸を含む。加えて又は独立して、コンドロイチン結合ペプチドは、少なくとも2個の連続する正帯電したアミノ酸、好ましくは少なくとも3個の連続する正帯電したアミノ酸を含む。同じくより塩基性のアミノ酸、例えばリジン(pK10.5)及びアルギニン(pK12.5)などは、特に交互に正帯電されたアミノ酸について、ヒスチジン(pK6.0)のコンドロイチン結合作用を改善するように見える。しかし、非常に塩基性のペプチドを含むことによる、そのタンパク質の生化学的特徴の変化を避けるように、注意すべきである。一実施態様において、コンドロイチン-結合ペプチドは、好ましくは少なくとも6個の連続ヒスチジン残基(少なくともヘキサヒスチジン-タグ)を有する、より好ましくは少なくとも7個の連続ヒスチジン残基(少なくともヘプタヒスチジン-タグ)を有する、ポリヒスチジン-タグである。
【0085】
用語コンドロイチン及びコンドロイチン硫酸は、本明細書において互換的に使用され、従ってコンドロイチン-結合ペプチドはまた、コンドロイチン硫酸結合ペプチドとも称されてよい。ヒアルロナンへの結合を増大するために、結合コンセンサスモチーフを含む例証的配列は、以下のように規定され:B(X7)B、ここでBは、R又はKのいずれかであり、X7は、酸性残基を含まず、少なくとも1個の塩基性アミノ酸を含む(Yang Bら、EMBO J. 1994 Jan 15;13(2):286-96)。本明細書に開示されたように、HLA-DR/CIIペプチド複合体はまた、his-タグを介して、コンドロイチン硫酸に結合することができる。従って、コンドロイチン-結合ペプチドは、ポリヒスチジン-タグ又はコンドロイチンへの結合親和性を増大する任意の他のアミノ酸配列、例えばEKRIWFPYRRF(配列番号:31)、YKTNFRRYYRF(配列番号:32)、VLIRHFRKRYY(配列番号:33)又はSGRGKQGGKARAKAKTRSSR(配列番号:34)などであってよい。ポリヒスチジンタグは、ヘキサヒスチジン-タグ(6xHis、HHHHHH;配列番号:41)、より好ましくはヘプタヒスチジン-タグ(7xHis;HHHHHHH;配列番号:42)、少なくとも7個の連続するヒスチジンを含むヒスチジンタグ、又は少なくとも6個のヒスチジンを含む修飾されたヒスチジンタグ、例えばヒスチジン及びグルタミンを交互に含むHQタグ、ヒスチジン及びアスパラギンを交互に含むHNタグ、もしくはアミノ酸配列KDHLIHNVHKEEHAHAHNK(配列番号:36)を含むHATタグなどであってよい。HLA-DR/CIIペプチド複合体がヘテロ二量体化ドメインを含む場合、コンドロイチン-結合ペプチドは、ヘテロ二量体化ドメインのC-端側である。コンドロイチン及びヒアルロン酸は両方共、軟骨の重要な成分である。
【0086】
本明細書において使用されるトランスフェクトするとは、当該技術分野において公知のトランスフェクション法を使用し、DNAを哺乳類細胞へ導入することを意味する。本明細書において使用される用語「トランスフェクション」又は「トランスフェクトする」は、真核細胞へのウイルス-媒介した遺伝子導入を説明するために使用されることが多い、「形質導入」及び「形質導入する」を含む。これらのポリヌクレオチドは、DNA又はRNA、好ましくはDNAであってよい。トランスフェクションは、一過性トランスフェクション又は安定したトランスフェクションであってよい。好ましくはこのポリヌクレオチドは、ベクター内、好ましくは発現ベクター内に存在する。
【0087】
安定した組込み法は、当該技術分野において周知である。簡単に述べると、安定した組込みは、少なくとも1つの組換えポリヌクレオチド又は少なくとも1つの組換えポリヌクレオチドを含むベクターを、哺乳類の宿主細胞へ一過性に導入することにより、通常達成され、これは、該組換えポリヌクレオチド(複数可)の哺乳類細胞ゲノムへの安定した組込みを促進する。典型的には、この組換えポリヌクレオチドは、相同なアーム、すなわち組込み部位の上流及び下流の領域に相同な配列により隣接される。組換えポリヌクレオチドを哺乳類細胞へ導入するためのベクターは、例えば、プラスミド、レトロウイルス、コスミド、EBV-由来エピソームなど、非常に多種多様な好適なベクター系から選択されてよい。様々なシャトルベクター、例えば大腸菌及びシュードモナス種など複数の宿主微生物において自立複製し得るベクターが使用されてよい。それらの哺乳類の宿主細胞への導入前に、環状ベクターは、哺乳類細胞ゲノムへの組込みを促進するために、線状化されてよい。ベクターの哺乳類細胞への導入の方法は、当該技術分野において周知であり、ウイルス送達などの生物学的方法による;例えば、陽イオンポリマー、リン酸カルシウム、陽イオン脂質又は陽イオンアミノ酸を使用する化学的方法による;例えば、電気穿孔法又は微量注入など、物理的方法による、トランスフェクションを含む。
【0088】
哺乳類細胞のゲノムへ安定して組込まれた組換えポリヌクレオチドは、発現カセットの一部であってよい。発現カセットは、RNA及び/又はタンパク質などの遺伝子産物をコードしている異種ポリヌクレオチドを少なくとも1つ含み、プロモーター及び任意に遺伝子産物(複数可)の発現を制御する更なる手段へ機能的に連結される、そのような手段は、エンハンサー、終結シグナル、ポリアデニル化シグナル、及び典型的にはポリアデニル化部位を含む3’非翻訳領域を含むが、これらに限定されるものではない。プロモーターは、弱いプロモーター、又は関心対象の遺伝子産物の高いレベルの発現を支援する強いプロモーターであってよい。該プロモーターは、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、SV40(サル空胞ウイルス40)プロモーター、RSV(ラウス肉腫ウイルス)プロモーター、アデノウイルスプロモーター(例えば、アデノウイルス主要後期プロモーター(AdMLP))、CHEF-1(CHO-由来伸長因子-1)プロモーター、ポリオーマ、及び強い哺乳類のプロモーター、例えば未変性免疫グロブリン及びアクチンプロモーター、又は少なくとも1種の異種ポリヌクレオチドの天然プロモーターを含むが、これらに限定されるものではない。好ましくは、プロモーターは、CMVプロモーター又はSV40プロモーター、最も好ましくはCMVプロモーターである。ポリアデニル化シグナルの例は、BGHポリA、SV40後期又は初期ポリA;あるいは、免疫グロブリン遺伝子の3’UTRなどを、使用することができる。当業者は、3’非翻訳領域は、例えばARE(アデニレート-ウリジレートリッチエレメント)などの、不安定なエレメントを除去することにより、高レベルの発現を支援するように操作され得ることを、更に理解するであろう。
【0089】
この遺伝子産物は更に、例えばジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、グルタミン合成酵素(GS)など、増幅可能な遺伝子選択マーカーの制御下に配置されてよい。増幅可能な選択マーカー遺伝子は、分泌型治療的タンパク質発現カセットと同じ発現ベクター上に存在することができる。あるいは、増幅可能な選択マーカー遺伝子及び分泌型治療的タンパク質発現カセットは、異なる発現ベクター上に存在するが、非常に近接して宿主細胞のゲノムへ組込まれることができる。同時に共トランスフェクトされる2種以上のベクターは、例えば宿主細胞のゲノムへ非常に近接して組込まれることが多い。その後分泌型治療的タンパク質発現カセットを含む遺伝子領域の増幅は、増幅物質(例えば、DHFRのためのMTX又はGSのためのMSX)を培養培地へ添加することにより、媒介される。
【0090】
宿主細胞又は産生細胞(producer)中の遺伝子産物の十分に高い安定したレベルは、例えば発現ベクターへ異種ポリヌクレオチドの複数のコピーをクローニングすることにより、達成され得る。組換えポリヌクレオチドの発現ベクターへの複数のコピーのクローニング及び前述の分泌型治療的タンパク質発現カセット(HLA-DR/CIIペプチド複合体をコードしている)の増幅は、更に組合せられてよい。
【0091】
少なくともα1ドメインを含むHLA-DRα鎖の細胞外領域をコードしているポリヌクレオチドは、1つのベクター(第一のポリヌクレオチド)に、及び少なくともβ1ドメインを含むHLA-DR鎖の細胞外領域をコードしているポリヌクレオチド(第二のポリヌクレオチド)は、別のベクターに存在してよく、ここでコンドロイチン-結合ペプチドは、更に、第一又は第二のいずれかのポリヌクレオチドによりコードされ、HLA-DRα鎖及び/又はHLA-DRβ鎖を含むポリペプチドのC-末端にコンドロイチン-結合ペプチドを提供する。あるいはこの第一及び第二のポリヌクレオチドは、同じベクター上の個別の発現カセットの一部であってよい。第一及び第二のポリヌクレオチドはまた、少なくともα1ドメインを含むHLA-DRα鎖の細胞外領域;少なくともβ1ドメインを含むHLA-DRβ鎖の細胞外領域;及び、任意に更に、リンカーペプチドにより、HLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖の、好ましくはHLA-DRβ鎖のN-端側に融合されたコラーゲンIIペプチド(CIIペプチド)を含む単独の融合ポリペプチドをコードしている単独のポリヌクレオチドを形成してよく、ここでこのHLA-DR/CIIペプチド複合体は、融合ポリペプチド(一本鎖ヘテロ二量体)のポリペプチドのC-末端に、コンドロイチン-結合ペプチドを含む。
【0092】
あるいは、HLA-DRタンパク質が2つのポリペプチドとして発現される場合、HLA-DRα鎖は、そのC-末端(C-端側に)で、ロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第一の機能ドメインへ融合され、並びにHLA-DRβ鎖は、そのC-末端で、ロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの第二の相補的機能ドメインへ融合される。第一の機能ドメイン及び第二の相補的機能ドメインは、酸性及び塩基性のロイシンジッパーヘテロ二量体化ドメイン、好ましくはjun-fosロイシンジッパーモチーフであってよい。第一及び/又は第二のポリヌクレオチドは、更に、ロイシンジッパーヘテロ二量体化モチーフの機能ドメインのC-末端に、ポリヒスチジンタグなどの、コンドロイチン-結合ペプチドをコードしている(複数可)。
【0093】
哺乳類細胞は、HLA-DR/CIIペプチド複合体の生成に適した条件下で培養され、細胞上清及び/又は細胞が収集され、ここで細胞上清及び/又は細胞は、未修飾及び/又は翻訳後修飾されたCIIペプチドを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体を含む(複数可)。翻訳後修飾されたCIIペプチドにおいて、CIIペプチドの第一のリジン残基は、ヒドロキシリジン(Hyl)又はO-グリコシル化されたヒドロキシリジンであってよく、好ましくは第一のリジン残基は、ヒドロキシリジン又はガラクトシル-ヒドロキシリジン、より好ましくはガラクトシル-ヒドロキシリジンである。この方法は更に、HLA-DR/CIIペプチド複合体のCIIペプチドのグリコシル化プロファイルを分析する工程を含んでよい。グリコシル化プロファイルを分析する方法は、当該技術分野において周知であり、質量分析などの方法を含む。
【0094】
原則として、HEK293細胞及びCHO細胞を含む、高収率のタンパク質生成に適した任意の哺乳類細胞は、HLA-DR/CIIペプチド複合体の生成に使用されてよい。CIIペプチドがリンカーペプチドによりHLA-DRα鎖又はHLA-DRβ鎖のN-端側に融合され、及びCIIペプチドが翻訳後修飾される場合、哺乳類細胞株は、それがリジンのヒドロキシリジン(Hyl)への水酸化、及びHylのガラクトシルヒドロキシリジン(Gal-Hyl)へのガラクトシル化を含む、コラーゲン中のリジン残基を翻訳後修飾するための酵素を含む限りは、適している。リジンの文脈において本明細書で使用される用語「ガラクトシル化された」とは、リジンが、ガラクトシル化の前に、ヒドロキシリジンへ水酸化されることを含む。これらの酵素は、細胞内に内在性に存在するか、又は細胞において組換え発現されてよい。好ましくは、哺乳類細胞は、リジン水酸化酵素(EC 1.14.11.4)及びコラーゲンガラクトシル基転移酵素(EC 2.4.1.50)、好ましくはリジン水酸化酵素1(LH1)及び/又はリジン水酸化酵素2(LH2)、並びにコラーゲンガラクトシル基転移酵素GLT25D1及び/又はGLT25D2、好ましくはGLT25D1を含む。これらの酵素は、コラーゲンを翻訳後修飾する。従ってこれらの酵素は恐らく、コラーゲンを産生する細胞株、例えば腎細胞、線維芽細胞、又は破骨細胞の中、特に例えばHEK293細胞もしくはその誘導体などの腎細胞の中に存在するであろう。HEK293細胞は、接着細胞として又は浮遊液中で成長し得る。本発明に従う方法に適したHEK293細胞の例は、HEK293細胞又はHEK293F細胞、例えばExpi293F細胞(Gibco、カタログ番号A14527、カタログ番号100044202で寄託されたcGMPとしても入手可)である。他の好適なHEK293細胞は、HEK293T細胞及び/又はそれらの浮遊細胞を含む。同じくMHCIIタンパク質により提示される小型ペプチドも、これらの細胞において翻訳後修飾され得ることは驚くべきことであった。これらのペプチドは、コラーゲンから誘導されるが、これらはMHCII複合体内の全体的に異なる(非天然の)環境において存在する。本発明者らは、これに関して、天然のMHCIIタンパク質は、APCにおいて消化される細胞外(翻訳後修飾された)タンパク質由来のペプチドを負荷されることに注目する。従ってこの修飾は、エンドサイトーシスされたタンパク質上に既に存在し、且つ細胞内的では追加されない。更に、インサイチュでグリコシル化された場合に生成された異質性の生成物は、治療に適していることは、驚くべきことである。好適な細胞は、好適な抗体を使用するウェスタンブロットによるか又はRNA発現によるかにより、又はII型コラーゲンもしくはHLA-DR/CIIペプチド複合体をグリコシル化するそれらの能力により機能的になど、コラーゲン中のリジン残基の翻訳後修飾に必要とされる酵素に関して、容易にスクリーニングすることができる。遺伝子もしくはタンパク質の発現又は酵素活性及びグリコシル化プロファイルを検出する方法は、当該技術分野において周知である。好適な哺乳類細胞の例は、腎細胞、線維芽細胞又は破骨細胞であり、好ましくはHEK293細胞又は細胞株である。HEK293細胞は、リジン水酸化酵素PLOD1及びPLOD2(各々、LH1及びLH2をコードしている)、ガラクトシル基転移酵素GLT25D1及びGLT25D2並びに更にはPLOD3(LH3をコードしている)を発現することが、先に説明されている。
【0095】
タンパク質生成に一般に使用されるCHO細胞は、試験されており、且つコラーゲン又は本明細書記載のHLA-DR/CIIペプチド複合体においてガラクトシルヒドロキシリジン(Gal-Hyl)を生じるよう、リジン残基で翻訳後修飾を十分に追加することはできない。しかし、哺乳類細胞はまた、リジン水酸化酵素及びコラーゲンガラクトシル基転移酵素を発現するように、遺伝子操作された細胞であってもよい。好ましくは哺乳類細胞は、リジン水酸化酵素1(LH1)及び/又はリジン水酸化酵素2(LH2)並びにコラーゲンガラクトシル基転移酵素GLT25D1及び/又はGLT25D2、好ましくはGLT25D1を組換え的に発現するように遺伝子操作される。GLT25D2は、ごくわずかな細胞型においてのみ発現され、従って恐らく通常のコラーゲン修飾には余り寄与しないであろう。任意の哺乳類細胞は、リジン水酸化酵素及びコラーゲンガラクトシル基転移酵素、好ましくはリジン水酸化酵素1(LH1)及び/又はリジン水酸化酵素2(LH2)並びにコラーゲンガラクトシル基転移酵素GLT25D1及び/又はGLT25D2を組換え的に発現するように、遺伝子操作されてよい。好ましくは、説明されたように遺伝子操作された哺乳類細胞は、CHO細胞、より好ましくはCHO-DG44細胞、CHO-K1細胞、CHO-DXB11細胞、CHO-S細胞、CHOグルタミン合成酵素(GS)-欠損細胞又はこれらの細胞のいずれかの誘導体である。
【0096】
当業者は、コラーゲンにおけるリジン残基の翻訳後修飾が可能である、すなわちコラーゲン中のリジン残基を翻訳後修飾する酵素を含む、哺乳類細胞において生成されたHLA-DR/CIIペプチド複合体は、特にCIIペプチドの第一及び任意に第二のリジン残基での、CIIペプチドの異なる翻訳後修飾を含む、HLA-DR/CIIペプチド複合体の異質性混合物であることを理解するであろう。この異質性混合物は、第一のリジンにK、Hyl、G-Hyl又はGG-Hylを、並びに任意の第二のリジンに独立してK、Hyl、G-Hyl又はGG-Hylを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体を含む(ここで、K=リジン、Hyl=ヒドロキシリジン、G-Hyl=ガラクトシルヒドロキシリジン、GG-Hyl=グルコシルガラクトシル-ヒドロキシリジン)。
【0097】
従って、収集された細胞上清及び任意に収集された細胞は、CIIペプチドの第一のリジン残基はHyl又はgal-Hylである、CIIペプチドを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体を含み、並びに更にCIIペプチドの第一のリジン残基は、未修飾又はグルコシルガラクトシル-ヒドロキシリジン(GG-Hyl)、好ましくは未修飾であり、並びにCIIペプチドの任意の第二のリジン残基は、独立して、未修飾、ヒドロキシリジン(Hyl)、ガラクトシル-ヒドロキシリジン(G-Hyl)又はグルコシルガラクトシル-ヒドロキシリジン(GG-Hyl)、好ましくは未修飾、ヒドロキシリジン(Hyl)又はガラクトシル-ヒドロキシリジン(G-Hyl)である、CIIペプチドを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体を含む。好ましくは収集された細胞上清及び任意に収集された細胞は、第二のリジン残基は、グルコシルガラクトシル-ヒドロキシリジンである、HLA-DR/CIIペプチド複合体は含まない。より好ましくは、収集された細胞上清及び任意に収集された細胞は、グルコシルガラクトシル-ヒドロキシリジン(GG-Hyl)修飾されたHLA-DR/CIIペプチド複合体、すなわち第一及び/又は任意に第二のリジン残基は、グルコシルガラクトシル-ヒドロキシリジンである、O-グリコシル化されたCIIペプチドを含むHLA-DR/CIIペプチド複合体は含まない。HLA-DR/CIIペプチド複合体の混合物はまた、HLA-DRタンパク質上に未修飾及び翻訳後修飾されたCIIペプチドを負荷することにより、達成されてもよい。当業者は、様々な比が達成されることを理解するであろう。
【0098】
HLA-DR/CIIペプチド複合体(HLA-DRタンパク質との融合タンパク質としてのCIIペプチド負荷又はCIIペプチド発現により調製される)の異質性の混合物は、この混合物中又は組成物中の総HLA-DR/CIIペプチド複合体のCIIペプチドの第一のリジン(K264)に、G-Hylを、少なくとも5%、少なくとも10%、少なくとも20%、少なくとも30%、少なくとも40%又は少なくとも50%含む。更に、HLA-DR/CIIペプチド複合体の異質性の混合物は、この混合物中又は組成物中の総HLA-DR/CIIペプチド複合体の未修飾のCIIペプチドを、90%を超えない、80%を超えない、70%を超えない、60%を超えない、又は50%を超えないで含む。好ましくは、HLA-DR/CIIペプチドの異質性の混合物は、この混合物中又は組成物中の総HLA-DR/CIIペプチド複合体のCIIペプチド中、GG-Hylを、20%未満、10%未満、5%未満、及びより好ましくは1%未満、個別に又は追加して含む。ここで百分率は、HLA-DR/CIIペプチド複合体中の総CIIペプチドの、HLA-DR/CIIペプチド複合体中のCIIペプチドの割合を指す。第二のリジン残基(K270)は、変異されてよく、例えば、アルギニン(K270R)へ変異されてよい。このことは、HLA-DRタンパク質との融合タンパク質として発現されたCIIペプチドのこの位置での翻訳後修飾を回避し、並びにTCR結合との可能性のある相互干渉を回避する。好ましくは、(任意の)第二のリジンは、グルコシルガラクトシル-ヒドロキシリジン(GG-Hyl)へは翻訳後修飾されず、及び未修飾のリジン、ヒドロキシリジン又はガラクトシルヒドロキシリジンとして存在し、好ましくは未修飾で存在する。
【0099】
HLA-DR/CIIペプチド複合体の混合物の異質性及び嵩高なグルコシルガラクトシルヒドロキシリジン形成を減少するために、哺乳類細胞が、ガラクトシルヒドロキシリシルグルコシル転移酵素(EC 2.4.1.66)活性を欠いているかどうかは、更に利点がある。一実施態様において、哺乳類細胞は、従って、ガラクトシルヒドロキシリシルグルコシル転移酵素活性を欠いている。好ましくは、哺乳類細胞は、リジン水酸化酵素3(LH3)を欠いている。LH3は、リジン水酸化酵素(LH)、ガラクトシル基転移酵素(GT)及びガラクトシルヒドロキシリシルグルコシル転移酵素(GGT)の活性を含む、多機能酵素であり、ここでこの酵素の主要機能は、GGT活性であるように見える。LH3活性は、ノックダウン又はノックアウトアプローチを使用し、欠失又は減少され得る。酵素発現は、例えばsiRNA又はshRNAなどのRNA干渉を使用し、減少されることができる。
【0100】
用語「RNA干渉」(RNAi)は、タンパク質合成の全般的抑制を伴わずに、遺伝子発現(タンパク質合成)を配列-特異的又は遺伝子特異的に抑制することを指す。RNAiは、RNA-誘導サイレンシング複合体(RISC)によるメッセンジャーRNA(mRNA)の分解、転写されたmRNAの翻訳の防止が関与し得る。RNAiにより引き起こされる遺伝子発現の抑制は、一過性であり得るか、又はこれは、より安定、永久的でさえあり得る。RNAiは、miRNA、siRNA又はshRNAにより媒介され得る。好ましくは、本発明に従うRNAiは、遺伝子-特異的である(1つの遺伝子のみが標的化される)。遺伝子-特異的RNAiは、siRNA又はshRNAにより媒介され得る。
【0101】
本明細書において使用される用語「低分子干渉」又は「短分子干渉RNA」又は「siRNA」は、所望の遺伝子に標的化され並びにそれと相同性を共有する遺伝子の発現を阻害することが可能であるヌクレオチドのRNA二重鎖を指す。これは、長い二本鎖RNA(dsRNA)又はshRNAから形成される。このRNA二重鎖は典型的には、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26又は27個の塩基対を形成し、且つ2個のヌクレオチドの3’オーバーハングを有する、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28又は29個のヌクレオチドの2つの相補的1本鎖RNAを含み、好ましくはRNA二重鎖は、17-25個の塩基対を形成し、且つ2個のヌクレオチドの3’オーバーハングを有する、19-27個のヌクレオチドの2つの相補的1本鎖RNAを含む。siRNAは、遺伝子に「標的化され」、ここでsiRNAの二重鎖部分のヌクレオチド配列は、標的化された遺伝子のmRNAのヌクレオチド配列に対し相補的である。siRNA又はその前駆体は、常に細胞へ外来性に、例えば直接的に、又は該siRNAをコードしている配列を有するベクターのトランスフェクションにより導入され、並びに内在性miRNA経路は、siRNAの正確なプロセシング及び標的mRNAの切断又は分解のために、利用される。この二重鎖RNAは、単独の構築体から細胞において発現されることができる。
【0102】
本明細書において使用される用語「shRNA」(低分子ヘアピン型RNA)は、siRNAの一部が、ヘアピン構造(shRNA)の部分である、RNA二重鎖を指す。shRNAは、細胞内で、機能性siRNAへプロセシングされ得る。この二重鎖部分に加えて、ヘアピン構造は、二重鎖を形成する2つの配列間に配置されたループ部分を含んでよい。このループの長さは、変動し得る。一部の実施態様において、ループは、長さ4、5、6、7、8、9、10、11、12、13又は14個のヌクレオチドである。ヘアピン構造はまた、3’又は5’オーバーハング部分も含むことができる。一部の態様において、オーバーハングは、長さ0、1、2、3、4又は5個のヌクレオチドの3’又は5’オーバーハングである。本発明の一態様において、ベクターに含まれるヌクレオチド配列は、センス領域、ループ領域及びアンチセンス領域を含む低分子ヘアピンRNAの発現のための鋳型として働く。発現後、センス領域及びアンチセンス領域は、二重鎖を形成する。shRNAは、常に外来的に、例えば該shRNAをコードしている配列を有するベクターのトランスフェクションにより導入され、並びに内在性miRNA経路は、siRNAの正確なプロセシング及び標的mRNAの切断又は分解のために、利用される。shRNAをコードしている配列を有するベクターの使用は、標的遺伝子の抑制が典型的には長期間安定している点で、化学的に合成されたsiRNAの使用に勝る利点を有する。
【0103】
典型的には、siRNA及びshRNAは、完全な配列相補性(すなわち、低分子干渉RNAのRNA二重鎖のアンチセンス鎖と標的mRNAの間の完全な塩基対形成)により、mRNA抑制を媒介し、従ってそれらの標的について特異的である。RNA二重鎖のアンチセンス鎖はまた、RNA二重鎖の活性鎖と称されてもよい。本明細書において使用される完全な塩基対形成の完全な配列相補性は、低分子干渉RNAのRNA二重鎖のアンチセンス鎖は、少なくとも15連続ヌクレオチド、少なくとも16連続ヌクレオチド、少なくとも17連続ヌクレオチド、少なくとも18連続ヌクレオチド及び好ましくは少なくとも19連続ヌクレオチドについて、標的mRNAと少なくとも89%の配列同一性を有するか、又は好ましくは少なくとも15連続ヌクレオチド、少なくとも16連続ヌクレオチド、少なくとも17連続ヌクレオチド、少なくとも18連続ヌクレオチド及び好ましくは少なくとも19連続ヌクレオチドについて、標的mRNAと少なくとも93%の配列同一性を有することを意味する。より好ましくは、低分子干渉RNAのRNA二重鎖のアンチセンス鎖は、少なくとも15連続ヌクレオチド、少なくとも16連続ヌクレオチド、少なくとも17連続ヌクレオチド、少なくとも18連続ヌクレオチド及び好ましくは少なくとも19連続ヌクレオチドについて、標的mRNAと100%の配列同一性を有する。
【0104】
あるいは、この酵素は、発現されないか、又はこの遺伝子は、変異もしくは欠失されることがある。従ってこの哺乳類細胞は、ガラクトシルヒドロキシリシルグルコシル転移酵素活性を欠いている。特定の実施態様において、この哺乳類細胞は、多機能酵素LH3を欠いている。例えば、この遺伝子は、サイレンシングされるか、又は十分に発現されないことがある。他の特定の実施態様において、哺乳類細胞は、ガラクトシルヒドロキシリシルグルコシル転移酵素活性を欠いている変異体LH3酵素を含む。
【0105】
この哺乳類細胞はまた、低下したガラクトシルヒドロキシリシルグルコシル転移酵素活性を有するか又は活性を有さないように、遺伝子操作されてもよい。LH3をコードしているPLOD3遺伝子は、変異もしくは欠失されてよく;並びに/又は、LH3酵素は、ガラクトシルヒドロキシリシルグルコシル転移酵素活性を欠いている変異されたLH3酵素であってよい。遺伝子を欠失又は変異する方法は、当該技術分野において周知であり、且つ配列特異的DNA編集酵素の使用を含んでよい。本明細書において使用される「配列特異的DNA編集酵素」又は「部位特異的ヌクレアーゼ」は、指定されたヌクレオチド配列(認識部位)でDNAの切断ができるタンパク質である。該切断は、2本の相補的DNA鎖の一方又は両方において生じ、その結果例えば、標的化された変異誘発、特異的ゲノムDNA配列の標的化された欠失を可能にするか、又は異種ポリヌクレオチドにより、切断された標的DNAの位置指定された組換えを生じる。該編集酵素の配列特異性は、その編集酵素内の1もしくは複数の配列特異的DNA結合タンパク質ドメインから、又はこれをガイドポリヌクレオチドと少なくとも部分的相補性を伴うDNA配列に向ける該ガイドポリヌクレオチド(例えばガイドRNA)に結合する酵素から、生じ得る。従って該編集酵素の認識部位は、DNA結合タンパク質ドメインの操作によるか、又は代替のガイドポリヌクレオチドの使用により変更され得る。複数の配列特異的DNA編集酵素が、当該技術分野において公知であり、その非限定的例は、ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)、メガヌクレアーゼ、転写活性化様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)及びCRISPR結合ヌクレアーゼがある。
【0106】
好ましくは、ガラクトシルヒドロキシリシルグルコシル転移酵素活性を欠くように遺伝子操作された哺乳類細胞は、HEK293細胞又は細胞株である。HLA-DR/CII複合体を生成するためのガラクトシルヒドロキシリシルグルコシル転移酵素を減少することから恩恵がある細胞株の例は、Expi293F細胞(Gibco、カタログ番号A14527、カタログ番号100044202で寄託されたcGMPとしても入手可)である。ガラクトシルヒドロキシリシルグルコシル転移酵素活性はまた、培養時にカルミン酸を使用しても阻害される。
【0107】
哺乳類細胞は、好ましくは、無血清条件下で、及び任意に動物起源の何らかのタンパク質/ペプチドを含まない培地中で、樹立され、馴化され、及び完全に培養される。PreproGow(商標)HEK293培地(PREPROTECH, USA)、Expi293(商標)発現培地(Thermo Fisher, USA)、ハムのF12(Sigma, ダイゼンホーフェン, 独国)、RPPMI(Sigma)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;Sigma)、最小必須培地(MEM;Sigma)、イスコフ改変ダルベッコ培地(IMDM;Sigma)、CD-CHO(Invitrogen, カールスバッド, CA)、無血清CHO培地(Sigma)、及び無タンパク質CHO培地(Sigma)などの市販の培地は、好適な栄養液の例である。任意の培地には、様々な化合物を必要に応じて補充することができ、その非限定的例は、組換えホルモン及び/又は他の組換え成長因子(例えばインスリン、トランスフェリン、上皮細胞成長因子、インスリン様成長因子など)、塩類(例えば塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム、リン酸塩など)、緩衝液(例えばHEPESなど)、ヌクレオシド(例えばアデノシン、チミジンなど)、グルタミン、グルコース又は他の同等のエネルギー源、抗生物質並びに微量元素である。任意の他の必要な補充物質もまた、当業者に公知である好適な濃度で含まれてよい。選択可能な遺伝子を発現するよう遺伝的に改変された細胞の成長及び選択のために、好適な選択物質が、培養培地に添加される。
【実施例
【0108】
実施例
被験物質及び製剤
Aq/galCII又はDR4/galCII(合成Gal-ペプチド:GIAGFK(Gal-Hyl)GEQGPKGEPが負荷された)及びAq/nCII又はDR4/nCII(未修飾のペプチド:GIAGFKGEQGPKGEP;配列番号:13が負荷された):Aq-mCLIPmtタンパク質は、一過性トランスフェクションにより、HEK293細胞株(Expi293F細胞、Gibco、カタログ番号A14527)又はCHO細胞において発現させ(図4)、His-タグを使用する固定された金属イオンアフィニティクロマトグラフィー(IMAC)及びサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の組合せを用いて精製した。その後、共有結合したプレ-ペプチドを、トロンビン切断、及び過剰なGal-ペプチド又は未修飾ペプチドの付加により置き換えた。最後に、SECを行い、切断されたプレ-ペプチド及び過剰なGal-ペプチド又は未修飾ペプチドを除去した。Gal-ペプチド:GIAGFK(Gal-Hyl)GEQGPKGEP)は、論文Diogo, D.ら、 Curr Opin Rheumatol. 2014; 26: 85-92;Gregersen PKら、Arthritis Rheum. 1987;30:1205-1213;Duke Oら、Clin Exp Immunol. 1982;49:22-30に記載されたように、合成し、精製し、且つ特徴決定した。
【0109】
天然にグリコシル化されたマウスAq/rCII及びヒトDR4/hCII:天然にグリコシル化されたマウスAq/rCII及びヒトDR4/hCIIタンパク質を、一過性トランスフェクションにより、HEK293細胞株(Expi293F細胞、Gibco、カタログ番号A14527)において発現させ、His-タグを使用する固定された金属イオンアフィニティクロマトグラフィー(IMAC)及びサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)の組合せを用いて精製した。インビボにおける実験のために、MHCII-ペプチド複合体を、無菌PBS(Gibco)中、所望の濃度に希釈し、DynaGard 0.2μmシリンジチップフィルターを使用し濾過し、100μlタンパク質溶液を、無菌技術を使用しALZETマイクロ-浸透圧ポンプ(DURECT社、モデル1007D、0.5μl/h、7日間)に充填した。このポンプは、手術用手袋で操作した。物質の即時ポンプ輸送を確実にするために、予め充填したポンプを、埋め込み前にPBS中に、4℃で一晩配置した。
【0110】
より具体的には、5’及び3’末端に、KpnI及びXhoI制限部位を持つ、図1に描いたようなこの複合体の2本の鎖をコードしているcDNAを、Eurofinsで、合成した。合成したcDNAを、制限酵素KpnI及びXhoI(FastDigest(商標)、ThermoFisher Scientific)を用いて消化した。消化されたDNA断片を、個別に、哺乳類の発現ベクターpCEP4(Life technologies)へクローニングし、その後同じ制限酵素により消化した。配列を検証した後、複合体の2本の鎖をコードしている2種の組換えプラスミドを、FectoPRO(商標)DNAトランスフェクション試薬(Polyplus transfection)により、Expi393F(商標)細胞へ、同時トランスフェクションした。上清を、トランスフェクション後6日目に収集した。この組換えタンパク質を最初に、5ml HisTrap Excel(GE Healthcare Life Sciences)アフィニティカラムを用い、引き続きSuperdex 200pg(GE Healthcare life Sciences)上のサイズ排除クロマトグラフィーにより捕獲した。この組換えタンパク質を、単独のピークとして精製し、濃縮し、10kDaのMWCOを持つAmicon遠心分離装置を用い、ビオチン化緩衝液(20mMトリス-HCl、50mM NaCl、pH8.0)に対し透析した。ビオチン-タンパク質リガーゼを使用するビオチン化は、製造業者(Avidity)の指示に従い行い、この反応を30℃で2h実行した。遊離のビオチンを、Superdex 200pgカラム上のサイズ排除クロマトグラフィーにより除去した。
【0111】
動物
雄のQBマウス(B10.Q×BALB/c、n=9)F1、12~16週齢を、この実験において使用した。B10.Qマウスの樹立系統は、J. Klein(テュービンゲン, 独国)により当初提供され、及びBALB/cマウスは、The Jackson Laboratoryから購入した。全てのマウスは、Medical Inflammation Research(Karolinska Institute)の動物施設において繁殖させ且つ飼育した。使用した全ての動物は、標準齧歯類餌を摂食させ、水は自在に摂取させた。実験バイアスを最小化するために、異なる実験群を、一緒に飼育した。地域の倫理委員会は、全ての動物実験を承認した(Stockholms Norra Djurforsoksetiska Namnd、ストックホルム、スウェーデン)。全てのインビボ関節炎実験は、倫理に関する番号N213/14及びN35/16により対象とされた。動物の麻酔は、イソフルラン吸入により達成させたのに対し、屠殺は、COにより行った。
【0112】
関節炎の誘導及び臨床評価
ラットII型コラーゲン(rCII)は、論文Chavele KM及びEhrenstein MR、FEBS Lett. 2011;585:3603-10に記載されたように、Swarm軟骨肉腫(Swarmラット軟骨肉腫、SRC)から、限定されたペプシン消化、及び更なる精製により、調製した。調製したrCIIは、使用時まで4℃で貯蔵した。コラーゲン-誘導関節炎(CIA)を誘導するために、各マウスに、CFA(Difco)中に1:1で乳化したrCIIの100μgを総容積100μlで、尾の根元に、注射した。35日後、マウスに、IFA(Difco)中に1:1で乳化したラットCIIの50μgを総容積50μlで、ブースター注射した。臨床的関節炎の発症は、各脚中の炎症関節の数を基に、動物の目視によるスコア化により行い、これは免疫処置後2週間に開始し、実験終了時まで続けた。1匹のマウスにつき最大60のスコアになるよう各脚について1~15の範囲である、論文Klareskog Lら、Annu Rev Immunol. 2008;26:651-75に記載された拡大されたスコア化プロトコールを、使用した。マウスは、免疫処置後90日間にわたり、1週間に2~4回検査した。
【0113】
治療プロトコール
様々な量の天然にグリコシル化されたAq/rCII(n=9)又はPBS(対照群、n=9)のいずれかを拡散するALZETマイクロ-浸透圧ポンプを、免疫処置後7日目に、QBマウスの皮下に埋め込んだ。外科的埋め込み手技時には、無菌技術を使用した。皮下留置のために、肩甲骨の間の皮膚に小さい切開を作製し、小さいポケットを形成し、切開から離れた流量モデレーターポインティングを備えるポンプを、ポケットに挿入した。皮膚の切開を、創傷クリップを用いて閉鎖した。
【0114】
臨床的関節炎の治療について、マウスにおける100μgの単回の皮下注射は、7連続日の15μg/日の皮下ポンプ注入と、ほぼ同等に効果があった。しかし、治療したマウスのリンパ節T細胞のFACS分析により証明されるように、延長された治療は、制御性TR1細胞の誘導についてより効果があるように見えた。
【0115】
DTH
ラットCII/CFA(rCII)により予備免疫処置したQBマウスには、免疫処置後8日目に、左耳へ、リン酸緩衝食塩水(PBS)中に溶解したrCIIの10μgを、皮内注射した。対照のために、右耳に、溶媒を注射し、且つ耳の膨潤を、動物の治療について盲検化された治験責任医師が、キャリパーを使用し、24時間後に測定した。治療は、rCIIによる免疫処置後4日目に埋め込まれた浸透圧ポンプを用い、Aq/ペプチド複合体100μgの24時間適用により行った。群:Aq/mCLIPmt(n=6)、His-タグを伴う(His、n=5)及び伴わない(w/oHis、n=5)Aq/galCII。
【0116】
T細胞ハイブリドーマアッセイ
MHCII/ペプチド複合体を、無菌PBS中に希釈し、且つ4℃で一晩のインキュベーションによりプレート上にコーティングするか、又はT細胞ハイブリドーマへ可溶性型で直接添加した。次にMHCII/ペプチド複合体でコーティングされたプレートを、無菌PBSで2回洗浄し、未結合の複合体を除去し、並びに1個のウェルにつき、5%FCS、100IU/mlペニシリン、及び100μg/mlストレプトマイシンを補充したDMEMの200μl中の5×10個T-ハイブリドーマ細胞を添加した。T細胞ハイブリドーマ3H8並びに各々GalOK264及び未修飾CII259-273(K264)に特異的なmDR1.1を、使用した。24時間後、培養上清中のIL-2又はIL-10(一部の実験において)を、サンドイッチELISA(BioLegend)により測定した。マウスrIL-2又はrI-10は各々、陽性対照及び標準として利用した。
【0117】
T-ハイブリドーマ細胞を使用する刺激実験を、マイクロタイターウェルにおいて以下の異なる条件下で行った:1)組換えDR4/CII-ペプチド複合体により予備-コーティングされたウェル、2)ヒアルロナン(Sigma Aldrich(#H7630))又はコンドロイチン硫酸(Sigma Aldrich(#C9819))によりコーティングされ、引き続きこれにDR4/CII-ペプチド複合体を液体相で添加したウェル。このデザインは、DR4/CII-ペプチド複合体によるT細胞活性化に対する両成分の可能性のある相互作用の影響を試験するために選択し、並びにDR4/CII-ペプチド複合体の、組織及び排液しているリンパ系中の細胞外マトリクス(ECM)において生理的に発現される結合組織成分との相互作用を模倣している、又は3)罹患組織コンパートメントの体液、例えば関節滲出液又はリンパ液における、T細胞機能の変更に関するモデルとして、T-ハイブリドーマ細胞へのそれらの影響を調べるために、溶質ECM成分ヒアルロナン、コンドロイチン硫酸又はヘパリン硫酸、並びにDR4/CII-ペプチド複合体が添加されたブロックされた表面を伴うウェル。
【0118】
MHCII四量体染色による抗原特異性T細胞の検出
MHCII/ペプチド四量体複合体は、PE-標識したストレプトアビジン及びAPC-標識したストレプトアビジン(Biolegend)の組換えタンパク質へのモル比1:4での添加、及び+4℃で1時間のインキュベーションにより、新たに調製した。ペプチド-特異性Tリンパ球を同定するために、細胞を、DR4/ペプチド四量体複合体(20μg/ml)と共に、小型-分子タンパク質チロシンキナーゼ阻害剤である50nMダサチニブの存在下、+37℃で1時間インキュベーションし、引き続き細胞表面マーカーについて染色した。生存度染色溶液(Zombie NIR; Biolegend)を、分析から死滅細胞を排除するために捕捉する直前に添加した。試料を、FacsDiVaソフトウェア(BD Biosciences)を使用し、LSR Fortessaフローサイトメーターを使用することにより捕捉し、データはFlowJoソフトウェア(v10, FlowJo LLC)により解析した。
【0119】
CIIペプチド刺激時のヒトT細胞の活性化
PBMCを解凍し、TexMACS(Biolegend)中、1.5×10個細胞/ウェルで一晩安置した。細胞を、抗-CD28抗体1μg/ml(BioLegend)と一緒にした各ペプチド変種GIAGFKGEQGPKGEP(配列番号:13)及びGIAGFK(Gal-Hyl)GEQGPKGEP)の濃度50μg/mlにより、7時間刺激した。陽性対照及びCD154アッセイ感度の決定のために、ブドウ球菌性エンテロトキシンB(SEB)を1μg/ml(Sigma-Aldrich)で、個別の培養物に添加した。刺激後、細胞を、LIVE/DEAD識別マーカー(BioLegend)により処理し、その後ポジティブゲーティングに関してCD3及びCD4の表面発現について、並びにB細胞の排除に関してCD19について染色した。バックグラウンドレベルを、刺激していない細胞(抗-CD28抗体で処理)により決定し、更にCII-刺激した培養物から減算した。試料を、FacsDiVaソフトウェア(BD Biosciences)を使用し、LSR Fortessaフローサイトメーターを使用することにより捕捉し、データはFlowJoソフトウェア(v10, FlowJo LLC)により解析した。
【0120】
HLA-DRB1*0401-陽性RA患者の末梢血由来のT細胞のインビトロにおける刺激/分化
インビトロアッセイを行い、数日間の延長されたインキュベーション期間にわたるDR4/CII-モノマーにより刺激時の、制御性T細胞機能の誘導/分化、例えばTr1表現型関連サイトカインIL-10のアップレギュレーションを分析した。従ってPBMCを、密度勾配遠心分離により単離し、TexMACS(MiltenyiBiotec, カタログ番号130-097-196)中の1.2×10個細胞/mLの細胞を、1μg/mL抗-CD3抗体(Biolegend、カタログ番号317304)及び100ng/mLのIL-27(Peprotech、カタログ番号200-38B)(陽性対照、Tr1)、3.6μg/mLのDR4/nCII、3.6μg/mLのDR4/galCII、3.6μg/mLのDR4/hCIIにより、8日間刺激するか、又は刺激せずに放置した(陰性対照、w/o)。刺激は、2つ組で行った。8日目に、培養上清を収集し、製造業者のプロトコールに従い、マルチプレックスビーズ-ベースのLEGENDplex(商標)アッセイにおいてヒトサイトカインの検出のための特注のパネルを使用し、放出されたサイトカインについて分析した。
【0121】
結果
実施例1:HEK293細胞における機能活性Aq/rCIIの生成
先行する実験において、合成ガラクトシル化されたCII259-273ペプチドが負荷されたAq分子の2回の静脈内注射は、マウスを、関節炎の発症から保護することができることは証明されている。しかし、ガラクトシル化されたCII259-273の合成は、時間と経費の両方がかかる。加えて、この合成ペプチドの組換えMHCクラスII分子への負荷は、些細なことではなく、且つ費用効果も悪い。従って、インサイチュにおける水酸化その後のガラクトシル化によりCII-ペプチドの264位でのリジン側鎖の適切な翻訳後修飾を保証する、宿主細胞においてMHCII鎖の1本に融合された共有結合されたCII259-273ペプチドを含むMHCII分子(図1)の一工程生成を可能にする、生合成プロセスを確立することは、意味のある利点であろう。しかし、翻訳後コラーゲンペプチド修飾は、それぞれの酵素活性、すなわち、リジン水酸化酵素活性及びコラーゲンβガラクトシル基転移酵素活性の存在に左右される。例えば、大腸菌-産生したタンパク質は通常そのような修飾を示さず、並びに一部の昆虫細胞は、リジン残基を水酸化する能力を有する一方で、これらはヒドロキシリジンのO-結合型グリコシル化を含むCII-ペプチドを産生しない。更に、必要とする酵素活性を提供する宿主細胞は実際に、非-コラーゲン性MHCIIタンパク質配列のフレーム内のCII-ペプチドの選択的アミノ酸位置での必要とされる修飾を提供することが可能であるかどうかは不明であった。
【0122】
以下において、最初に、Aq/rCII(259-273)複合体は、HEK293細胞において発現され得ること、及び精製された複合体は、共有結合されたCIIペプチド(CII259-273)を含み、そこでリジンは264位で翻訳後修飾されることが示されている。本発明者らは、CIIペプチド内のリジン側鎖の修飾の種類、並びに精製されたインサイチュガラクトシル化されたAq/rCII(259-273)複合体は、ガラクトシル化されたCII259-273ペプチドが負荷された組換えAq分子について認められるものと類似した様式で、CIAマウスモデルにおいて保護的であるかどうかを分析した。HEK293-生成されたAq/rCII(259-273)複合体の治療能を試験するために、本発明者らは、免疫処置の1週間後に皮下に埋め込まれた浸透圧ポンプを使用した。浸透圧ポンプは、静脈内注射に勝る利点があり、その理由はAq/rCII(259-273)複合体は、一定レベルで循環中に留まり、且つインビボにおいてより長期間にわたり免疫寛容の誘導が得られるからである。24時間、7日間又は6週間にわたりそれらの内容物を放出する3種の異なる型のポンプを比較すると、合成ガラクトシル化されたCII-ペプチドが負荷されたAq-分子を含む場合に、3種のポンプ全て、関節炎からの保護を媒介することがわかった(データは示さず)。しかし、7日間持続放出するポンプを使用すると、このポンプは、24時間ポンプと比べ、制御能を伴うCII-特異性T細胞の発達により強力に関連した保護を媒介することがわかった(データは示さず)。理論により結びつけられるものではないが、低投与量での遅い放出速度は、制御性T細胞の発達を生じるのに対し、高投与量でのより早い放出は、病原性T細胞の枯渇を生じ得る。しかし、観察された差異はまた、長期間の曝露によっても説明され、これは、循環から除去される前にAq/rCII(259-273)複合体と相互作用するCII-特異性T細胞の可能性-これは低い頻度で起こる-を増大する。以下に説明された実験は、7日間にわたりそれらの内容物を放出する浸透圧ポンプを使用し行った。
【0123】
Aq/rCII(259-273)複合体がHEK293細胞において生成された場合に、どの翻訳後修飾が存在するかを評価するために、CII259-273エピトープに対し異なる特異性を持つAq-拘束性T細胞ハイブリドーマクローンを、精製された複合体によりインビトロにおいて刺激した(図2)。
【0124】
対照MHCII/CII複合体は、S2昆虫細胞において生成され、これはリジン側鎖のO-結合型グリコシル化に関して、翻訳後修飾を生じる能力が強力に損なわれている。予想されるように、264位で未修飾又は水酸化されたリジンを伴うCII259-273ペプチドを認識するHCQ.4クローンのみが、S2昆虫細胞において生成されるAq/rCII(259-273)複合体に反応した。対照的に、全てのCII-特異性クローンが、HEK293細胞において生成されたAq/rCII(259-273)複合体に反応した。使用したT細胞ハイブリドーマクローンの他の特異性は、以下の通りである:HCQ3(CII、Gal-HK264)、HCQ.4(CII、未修飾及びHK264)、HCQ.11(Glc-Gal-HK264)、HM1R.2(CII、Gal-HK264及びGal-HK264+270)、HP3(Aq-拘束、ペプシン-ペプチド)。これは、HEK293細胞において生成される場合に、264位が実際、翻訳後修飾され始めることを示している。更に、264位が、未修飾及び/又は水酸化されたリジン、並びに単糖及び二糖の両方のグリコシル化されたリジンを含む場合、生じる複合体は、異質性である。ペプシン-ペプチドに特異的であるAq-拘束性クローンHP3は、いずれのAq/rCII(259-273)複合体に対しても、反応しなかった。
【0125】
実施例2:マウスCIAモデルにおいてインサイチュグリコシル化されたAq/rCII
アジュバント中のCIIにより免疫処置されたマウスは、3種の異なる量のHEK293-生成したAq-rCII(259-273)複合体を負荷した浸透圧ポンプを、7日後(初回免疫の35日後に追加免疫した後)、及び関節炎の発症後、埋め込んだ。陰性対照として、マウスには、PBSのみを負荷したポンプを埋め込んだ。図3Aに示したように、Aq-rCII(259-273)複合体は、投与量に依存した様式で、保護をもたらし、並びに最高量のAq-rCII(259-273)複合体(100μg)により治療されたマウスは、関節炎の発症から完全に保護された。中間量のAq-rCII(259-273)複合体(50μg)で治療されたマウスは、若干の保護を示したのに対し、最低量(10μg)の治療は、頻繁に関節炎を生じ、これはPBS-治療した対照と同等であった。
【0126】
実施例3:HEK293細胞における機能活性DR4/hCIIの生成
本発明者らは、宿主細胞のインサイチュグリコシル化機構を使用し、機能性マウスMHCII/CII複合体(Aq/rCII)を、HEK293細胞において調製することができることを証明した。本発明者らは次に、ヒトMHCII/CII複合体は、その細胞のインサイチュグリコシル化機構を使用し、HEK293細胞において調製することができるかどうかを調べた。これらの複合体は、HEK293細胞において先に説明したように調製した。対照複合体は、CHO細胞において発現され、並びに未修飾ペプチド(DR4/nCII)又はガラクトシル化されたペプチド(DR4/galCII)が負荷された。2つの活性化拘束性ヒトT細胞ハイブリドーマ(3H8:未修飾のCII-エピトープ、mDR1.1:ガラクトシル化されたCII-エピトープ)を使用し、未修飾ペプチド又はガラクトシル化されたペプチドのいずれかを負荷されたDR4/ペプチド複合体と比べ、天然にグリコシル化されたDR4/ペプチド複合体(DR4/hCII)のガラクトシル化状態をチェックした。図4Aに示したように、T細胞ハイブリドーマmDR1.1は、DR4/galCII複合体による刺激時に活性化を獲得したのに対し、DR4/nCIIによる刺激は、ほぼ陰性であり続けた。DR4/galCII及びDR4/nCIIとの比較において、DR4/共有結合したCII(DR4/hCII)は、ガラクトシル化状態に関して、異質性の生成物である。これは、DR4/hCII複合体を含有する組成物は、264位にガラクトシル化された及び未修飾のリジン残基を持つペプチドを含むことを意味する。DR4/hCIIで刺激された細胞の活性化レベルは、DR4/galCII複合体と比べわずかに低く、DR4/nCII複合体に非常に類似している(図4B、3H8細胞を使用)。
【0127】
実施例4:ヒトにおけるCIIペプチド特異性T細胞の検出
この目的は、RA患者及び健常ドナーの末梢血(PBMC)中の抗原特異性T細胞を直接検出する四量体ベースの方法を確立することであった。従って、ビオチン化されたDR4/CIIペプチド複合体を、ストレプトアビジン-PE又はストレプトアビジン-APCのいずれかと共にインキュベーションした。四量体の非特異的結合を減少するために、2種の蛍光色素による二重四量体染色を行った。DR4/galCII四量体を使用し抗原特異性T細胞(CII259-273、K264gal)を、RA-患者、並びに健常ドナーにおいて検出した(図5A)。更に、未修飾のCIIペプチドに対し特異性を持つT細胞を、DR4/nCII四量体を用いて検出することができる(図5B)。抗原特異性T細胞の平均頻度は、天然にグリコシル化されたDR4/hCII四量体を使用すると、DR4/galCII四量体又はDR4/nCII四量体と比べ、より高かった(図5B)。末梢血中の抗原-特異性T細胞の頻度は極めて低い(0.01~0,1%)ので、観察された数は、予想された通りである。
【0128】
活性化されたCD4 T細胞もまた、T細胞活性化のマーカーとしてCD154(CD40L)表面染色を使用するフローサイトメトリーにより、galCIIペプチド刺激後のHLA-DRB1*0401 RA患者のPBMCにおいて検出された(図6)。陽性対照として、細胞はまた、スーパー抗原SEBと共にインキュベーションし、これは活性化マーカーCD154の強力なアップレギュレーションに繋がった(データは示さず)。対照的に、共刺激性CD28に対する抗体のみと共にインキュベーションした細胞は、主に陰性であった(データは示さず)。末梢血中抗原-特異性T細胞集団の予想された頻度は極めて低いので、0.01~0,1%のCD154 T細胞の検出(親集団:CD3/CD4生存T細胞)は、満足できるものである。T細胞は、未修飾の(ネイキッド)CIIペプチドを使用し、少なく活性化されるという事実は、注目に値することである。DR4/galCII又はDR4/nCII四量体染色を使用する抗原特異性T細胞の数は、HLA-DRB1*0401 RA患者のPBMC中で類似していたので(図5)、ペプチド活性化後に認められた差異は、それぞれのT細胞の活性又は機能状態の差異によるものであるように見える。
【0129】
実施例5:HLA-DRB1*0401陽性RA患者の末梢血由来のT細胞のインビトロにおける刺激/分化
8日間の延長されたインキュベーション期間にわたるDR4/CII-モノマーによる刺激時の、制御性T細胞機能の誘導/分化、例えばTr1表現型関連サイトカインIL-10のアップレギュレーションを調べるために、インビトロ試験を行った。従って、遺伝子型判定されたHLA-DRB1*0401陽性RA患者から単離されたPBMCを、Tr1細胞誘導条件下、抗-CD3及びIL-27抗体で(陽性対照、Tr1)、DR4/nCII(3.6μg/mL)で、DR4/galCII(3.6μg/mL)で、又は刺激なし(陰性対照、K1)のいずれかで、8日間刺激した。刺激は、2つ組で行った。8日目に、培養上清を収集し、製造業者のプロトコールに従い、マルチプレックスビーズ-ベースのLEGENDplex(商標)アッセイフォーマットにおいてヒトサイトカインに関する特注のパネルを使用し、サイトカイン放出について分析した。図7において示した結果は、DR4/nCII及びDR4/galCIIの、RA患者由来のPBMC中の抗炎症性サイトカインIL-10の放出を誘導する能力、及び従来のTR1誘導条件で8日間インキュベーションした陽性対照と比べて更にわずかに高いレベルを明確に明らかにしている。前炎症性サイトカイン、例えばTNF-α、IL-2、IL-17a、IL-17f、又はIFN-γの増大した誘導に繋がる経路の同時の活性化の証拠は存在しない。
【0130】
実施例6:DR4/CIIペプチド複合体中のHis-タグ:薬理作用への貢献
ポリヒスチジン-タグ(His-タグ)、ビオチン化部位、TEV切断部位、トロンビン切断部位及びstrep-タグの、この組換え複合体のT細胞活性化特性への貢献を含む、MHCII/CII複合体に直接的に必須ではない配列は、この構築体から省略することができるかどうかが調べられている。典型的には、DR4/CIIペプチド複合体、並びに抗-CD3抗体(陽性対照)は、標準ハイブリドーマ活性化アッセイにおいて、マイクロタイターウェルのプラスチック表面にコーティングされる。最初の実験において、本発明者らは、IL-2分泌により測定したT-ハイブリドーマ細胞(3H8)に対する活性化に対する、His-タグのタンパク質分解性の切断の作用を調べるために、マイクロタイターウェルにコーティングされた非切断のDR4/hCIIペプチド複合体と比べて、DR4/nCIIペプチド複合体の内部TEV-切断部位を使用した。タンパク質分解性切断の有効性は、ウェスタンブロット分析により管理した。更に切断及び非切断の複合体の等モル溶液を使用するマイクロタイターウェルの同等のコーティング有効性を、DR4-特異的抗体及びペルオキシダーゼ-結合した二次抗体を使用するELISAにより確認した(図8)。これはまた、この複合体は、解離せず、且つヘテロ二量体として存在することを確認している。本発明者らのデータは、Tハイブリドーマ細胞のTCRにより認識されたDR4/nCII複合体の機能ドメインは、プラスチック表面に対する類似の有効性でコーティングされるが、Tハイブリドーマ細胞の活性化において、切断された構築体の強力な低下を示している(図8)。ジッパー切断は、この複合体の解離に繋がる高い可能性がある。ジッパーは、生合成プロセス時のこの複合体の形成に、主に必要とされるのに対し、形成されたMHCII-ペプチド-複合体それ自身は、両鎖の可変領域により形成された結合溝に結合したペプチドの安定化作用のために、少なくともインビトロにおいてかなり安定している。
【0131】
本発明者らは、非切断DR4/nCII複合体中のHis-タグは、プラスチック表面上の帯電した接触領域と優先的に接触することにより、T細胞に対しペプチド結合溝を露出する多量体化されたアラインメントの表面上の複合体の正確な配向に必要とされると結論付けた。この結論を確認するために、MHCクラスIIβ鎖のカルボキシ-末端のHis-タグ(6×His)のみを欠いているが、その他の点ではDR4/hCII複合体と同一である、すなわちJUN/FOSヘテロ二量体化ドメインを含む、DR4/hCIIΔHis複合体を作製した(図1と比較)。ヒスチジンの正帯電した機能性イミダゾール基による静電相互作用の関与に関する追加の対照として、His-タグが負帯電したアミノ酸残基Asp-Glu-Asp(DED)のトリプレットと置き換えられた、DR4/hCII複合体の更に変異した組換えバリアント(DR4/hCII_DED)を調製した。同じく本発明者らは、非生理的物質プラスチックを、細胞表面上、滑膜滲出液又はリンパ液などの細胞外体液、並びに関節軟骨もしくは滑膜などの組織中に存在する、帯電した細胞外マトリクス(ECM)成分(コンドロイチン硫酸、ヘパリン硫酸、ヒアルロナン)と交換した。この目的のために、本発明者らは、最初に、マイクロタイターウェルを、コンドロイチン硫酸、ヘパリン硫酸及びヒアルロナン溶液の高濃度溶液(10mg/ml)により、コーティングした。これらのコーティングされた表面を、十分に洗浄し、且つ3H8ハイブリドーマ細胞のインビトロ刺激実験を、DR4/CIIペプチド複合体の液相への添加により行い、出力(read-out)として上清中のIL-2濃度を使用した。対照のために、ECM-成分が存在しないブロックされた表面を持つマイクロタイタープレートにおいて、並行実験を行った。図9Aに示された結果は、これらの条件下で、His-タグを含む複合体のみが、強力なIL-2反応を誘導したこと、並びにT細胞を活性化するその能力は、マイクロタイターウェルの表面にコーティングされたコンドロイチン硫酸に決定的に左右されるように見えるのに対し、ヒアルロナン(HA)の影響は、より少なく公表され続け(図9B)、及びヘパリン硫酸についてはほとんど検出不可能である(図9C)ことを明らかにしている。可溶性DR4/hCII_DED対照複合体は、マイクロタイターウェルのコンドロイチン硫酸コーティングされた表面の存在下においてIL-2反応を誘導しなかった(図9A)。しかしHis-タグ付き複合体の観察された作用は、ポリヒスチジンタグの正帯電したイミダゾール基を介したポリ硫酸化された陰イオン性グリコサミノグリカンの静電相互作用により、簡単に説明することはできず、その理由は、ヘパラン硫酸は同様に、高度の負帯電した硫酸基を含むが、可溶性His-タグ付きDR4/hCII複合体により刺激された3H8ハイブリドーマ細胞のIL-2反応を有意に促進するようには見えないからである。従ってこれらの結果は、ポリヒスチジンタグのコンドロイチン硫酸マトリクスとの特異的相互作用は、溶解されたDR4/hCII複合体により刺激された3H8ハイブリドーマ細胞のIL-2反応を増大することを示唆している。
【0132】
3つの異なる濃度(0.01mg/ml、0.1mg/ml及び1mg/ml)でのプラスチック表面への異なるDR4/hCII構築体の直接コーティングを使用する並行Tハイブリドーマ細胞刺激実験において、Tev-切断されたDR4/nCII複合体により得られた最初の結果が確認された。DR4/hCIIΔHis複合体並びに変異されたDR4/hCII_DED複合体によるIL-2反応を誘導する能力は、コーティングに0.1mg/ml及び1mg/mlを使用すると、強力に減少される。しかしコーティング1mg/mlを使用すると、1/10のコーティング濃度での未修飾の複合体(DR4/hCII)と同等のレベルの反応が、認められた(図10)。
【0133】
しかし、これらの実験はまた、全ての構築体は、3H8ハイブリドーマ細胞のTCR活性化の必要要件として、DR4-結合溝中に機能性ペプチドを収容することも明らかにしている。従って、本発明者らの研究は、DR4/CII複合体中のHis-タグは、この複合体の活性を改善することの明白な証拠を提供している。理論により結びつけられるものではないが、His-タグは、ECM成分コンドロイチン硫酸との相互作用への影響を介して、TCR認識のためのペプチド結合溝の改善された空間的配向を提供するように見える。加えて図11に示した後続の研究は、His-タグを含むDR4/CII複合体の、ブロックされたプラスチック表面を持つマイクロタイターウェルの固相中のコンドロイチン硫酸又はヒアルロナンとの相互作用は、Tハイブリドーマ細胞によりIL-10反応を刺激するその能力を増強することができることを明らかにしている。
【0134】
このインビトロデータは、DR4/CII複合体中のHis-タグの、その免疫調節の薬理学的作用に関する重要な機能的役割を裏付けている。更に、Aq発現しているQBマウスにおけるT細胞依存型CII-誘導型過敏反応のモデルを使用するインビボ試験を行った。CII-予備免疫処置したマウスは、一方の耳への皮内CII注射により、免疫処置後8日目に、T細胞依存型炎症性膨潤の発達を引き起こし、これは対側の耳へ適用されたビヒクルトリガーにより制御された。DTH反応の誘導の前に、これらのマウスは、免疫処置後4日目に、24時間の皮下ポンプ注入により、その結合溝内に、His-タグ含有Aq/galCII複合体、His-タグを欠くAq/galCIIΔHis複合体、又は連結された対照ペプチド[クラスII結合インバリアント鎖:CLIP]を含む対照のAq/CLIP複合体のいずれかを受け取った。図12に示した結果は、実験的CII-特異的DTH-反応により誘導されたT細胞に依存した耳膨潤の治療的減少に対する、His-タグの機能性影響に関する、明らかな証拠を提供している。従って本発明者らの研究は、T細胞に対する免疫調節治療効果に関するポリヒスチジン配列を含むMHCII/CIIペプチド複合体の改善された機能を一貫して明らかにしており、このことはインビボにおいて細胞表面、組織成分及び体液上の標的化された構造の状況において豊富に利用可能であるECM成分との相互作用に対するその影響を介して最も媒介されそうである。
【0135】
実施例7:HEK細胞におけるDR4/galCII複合体の組換え生成の妨げ
組換えDR4-複合体の結合溝中のペプチドのCII配列の翻訳後修飾は、異なる酵素によるいくつかの逐次工程に関与している。これらのコラーゲン-特異的翻訳後修飾は、264位及び270位のリジン残基に優先的に影響を及ぼす。最初の工程は、リジン水酸化酵素により媒介されたリジン水酸化であり、それに続けてガラクトシル基転移酵素により媒介される水酸化されたリジンへのガラクトシル転移である。更に、単独のグルコース残基が、ガラクトシル化されたヒドロキシリジンへ付加されてよい。これらの工程は全て、HEK細胞においてなど、コラーゲンの翻訳後機構により、細胞内で生合成プロセス時に起こり、これによりインビボにおいて軟骨中の天然のECM-タンパク質と同等の異質性組換え生成物に繋がる。ヒトにおいて、この混合物は、免疫が媒介した関節疾患を抑制するために、IL-10などの抗炎症性メディエーターを産生する制御性細胞への調節に関する全レパトアから動員することができる可能性のあるT細胞のスペクトルを増大する目的のために恐らく利点があるであろう。ガラクトシル化されたCII(DR4/galCII)又は未修飾CII(DR4/nCII)のいずれかのペプチドを含む組換えDR4/CII複合体に対する反応における、RA患者の末梢血由来のT細胞のIL-2及びIL-10反応のインビトロ活性化に関する研究は、この方向での実験的裏付けを提供する。しかし、HEK細胞において生成されたCR4/hCIIのいくつかのバッチの質量分析は、かなりの量の組換えタンパク質が、両方のリジン残基に高度な二糖(Glc-Gal-Hyl)含量を示すことを明らかにし(図13)、これは恐らく、それによりTCR認識が妨害される、嵩高な糖構造によるペプチド結合溝の占拠に起因したTCR認識の欠点であろう。
【0136】
特に残基264での組換えDR4/hCII構築体のCIIペプチド配列中のリジン残基のコラーゲン特異的翻訳後ガラクトシル化は、TCRを介したT細胞認識及び生じる薬理学的作用に重要である。270位のリジン残基は、DR4分子の結合溝の端に位置するので、その糖修飾は一般に、TCR認識には関与しないとみなされる。異質性並びに270位の水酸化されたリジン残基(K270)への糖付着によるDR4結合溝におけるCII-ペプチドのTCR-認識との負の干渉のための可能性のあるリスクを低下するために、K270は、アルギニン残基(R)へ変異されてよい。この変異は、抗原-特異的T細胞ハイブリドーマのTCRへの結合に影響を及ぼさないことが先に示されている。
【0137】
更により関連があるのは、264位のガラクトシル化されたヒドロキシリジンへのグルコース残基の最終的な転移の防止である。嵩高で可動性の二糖(Glc-Gal)は、TCR結合と干渉し得るので、この糖部分は恐らく、TCR認識に対する負の作用を有するであろう。RA患者の末梢血由来のT細胞のインビトロ刺激は、未修飾の(nCII)及びモノガラクトシル化されたペプチド(galCII)は、認識され得ることを示している。グルコース残基のガラクトシル化されたヒドロキシリジンへの転移を触媒する反応は、ガラクトシルヒドロキシリシルグルコシル転移酵素(同義名:プロコラーゲンリシル水酸化酵素(hydroylase)3(LH3))である。LH3は、言及されたリジン修飾の最初の工程の前に触媒することも可能である多機能酵素であり、すなわち、水酸化は、ヒドロキシリジン(Hyl)を生じ、及びガラクトシル転移は、ガラクトシル-ヒドロキシリジン(Gal-Hyl)を生じる(図14A)。しかし、その非還元活性は、ガラクトシルヒドロキシリジンへの最終のグルコース転移である。
【0138】
従って本発明者らは、LH3酵素をノックダウンするように、Expi293F細胞を遺伝子操作した。CIIペプチドにおいてガラクトシルヒドロキシリジンへの最終のグルコシル転移が選択的に欠損されているDR4/hCII複合体を生成するためのHEK細胞株は、組換え生成されたDR4/hCII複合体の有効性を改善するために有利であると予想される。これは、HEK293 LH3ノックアウト細胞を作製することにより、例えばCRISPR/CAS遺伝子編集アプローチを使用する、リジン水酸化酵素3遺伝子をコードしているplod3遺伝子へ遺伝子破壊する変異を導入することにより、実現することができる。
【0139】
最初の工程において、本発明者らは、組換え発現系の改善により増大した特異的T細胞活性化活性を伴う異質性の低い生成物を得るためのこの戦略の可能性を調べるために、特異的shRNAのレンチウイルスのトランスフェクションによりノックダウンされたplod3を伴うExpi293F細胞を作製した。形質導入のために、Expi293細胞を、12-ウェルプレート中に200,000個細胞/ウェルを使用し、播種し、引き続きこれらのプレートを37℃、8%CO及び120rpmで3時間振盪した。レンチウイルス粒子200uL(Sigmaからの特別注文したレンチウイルス粒子)を、10uL PEIproトランスフェクション試薬(Polyplus)と混合し、前記細胞へ添加し、且つ37℃、120rpm及び8%COで播種し、更に4時間インキュベーションした。新鮮な培地1mLを添加し、3日間インキュベーションを継続し、その後形質導入効率を分析した。
【0140】
Plod3を標的化するshRNAによるレンチウイルス形質導入の3日後、これらの細胞を、2つの部分に分けた。第1部分に、形質導入されなかった細胞を死滅させるためにピューロマイシンを、最終濃度2ug/mLとなるよう添加し、並びに他方部分は、形質導入効率をチェックするために、フローサイトメトリーにより分析した。これらの細胞を、形質導入されなかった細胞が死滅するまで抗生物質選択圧下に置き、並びに形質導入された細胞を、生存率が90%を上回るまで、約18日間分裂させた。これらの安定して形質導入された混合されたプールを、500mLまで増殖し、前述のようにDR4/hCIIによりトランスフェクションした。精製後、質量分析によるグリカン分析を行い、plod3ノックダウンExpi293F細胞及びExpi293F対照細胞におけるガラクトシルヒドロキシリシル残基のグルコシル化の減少を調べた。II型コラーゲンエピトープ内の両方のリジン(K264及びK270)を分析した。グルコ-ガラクトシルヒドロキシリシル残基(DiHex)の明らかな減少が、Expi293のKO細胞において可視化された(図14C)。
【0141】
その一方で、安定して形質導入された細胞を、希釈し、且つミニプール作製のために、96-ウェルプレート上に播種した。播種のプロセスにおいて、これらの細胞は、選択圧の下で成長させ、40のミニプールを単離した。これらの細胞を増殖させ、PLOD3発現を、細胞溶解液においてウェスタンブロットにより決定し、Plod3の効率的ノックダウンを証明した。1×10個レンチウイルス形質導入されたExpi293Fミニプール由来の溶解液を、SDS-PAGE上に装加した。成功したノックダウンのウェスタンブロット分析を、抗-PLOD3抗体(Thermo Fisher PAS-48435)及び二次抗-ウサギHRP抗体を用いて行った。PLOD3は、理論的分子量84kDaを有する。クローン#4、#18及び#20は、効率的Plod3ノックダウンを示し、従って更なる増殖及び実験に使用した。クローン18は、生存率の低下のために喪失し、クローン4及び20を、更なる生成のために選択し、グリカン分析が進行中である。
【0142】
実施例8:β鎖を含む配列のC-端側に交互に正帯電したアミノ酸-タグを伴うAq/gal264 CII構築体
先に示したように、DR4/nCII複合体中のHis-タグは、T細胞に対しペプチド結合溝を露出している多量体化されたアラインメント中の表面上のこの複合体の正確な配向を可能にするように見え、並びにHis-タグの有益な作用は、DTHモデルでインビボにおいて確認されている。従って本発明者らは、類似の作用を媒介する代替タグについて探索した。この探索に関する基本的な考察は、この構築体中で使用した6×His-配列は、非天然構造であることであり、従って本発明者らは、免疫-調節性MHCII/CIIペプチド複合体においてHis-タグと置き換わることができるヒト自己-タンパク質における配列を探索した。従って、機能的に等効力の自己-構造によるHis-タグ置き換えは、可能性のある免疫原性の低下を目的としている。中でも、機能的に関連のある塩基性アミノ酸残基の比較的高い含有量及び自己免疫認識を恐らく減らす進化で保存された構造を持つ候補となる自己-タンパク質は、ヒストンファミリーのタンパク質であった。
【0143】
従って例えばコンドロイチン硫酸における、負帯電した硫酸化された糖構造との可能性のある相互作用のために塩基性アミノ酸残基を含む自己タンパク質における配列に関する本発明者らの探索において、本発明者らは、マウスとヒトの間で保存されたN-端側(SGRGKQGGKARAKAKTRSSR;配列番号:34)、並びにカルボキシ-端側(HKAKGK)の各候補領域の両方でヒトヒストン2 A1の配列において同定した(図15)。代替C-端側タグを使用し、AQ/gal264CII-ペプチド複合体を特異的に認識するT細胞ハイブリドーマHCQ.3の活性化を、図16に示している。本発明者らは、T細胞活性化特性に対するHis-タグの置き換えとして、図16の上側に描いたような、Aq-複合体のβ鎖を含む配列のC-末端に結合した様々な代替配列の影響を調べた。ヒストンNT-タグ(SGRGKQGGKARAKAKTRSSR)及びヒストンCT-タグ(HKAKGK)に加え、6個の交互のNHモチーフを含む修飾されたHis-タグ(NHNHNHNHNHNH、配列番号:35)を試験した。この目的のために、ハイブリドーマ刺激アッセイを、標準条件下で行った:Aq/gal264 CIIペプチド複合体は、マイクロタイターウェルのプラスチック表面にコーティングし、且つ特異的細胞活性化の測定として、IL-2分泌をELISAにより決定する。His-タグ付きAq/gal264CII(His)を、陽性対照として使った。図16に示したように、ヒストンNT-タグ付きバリアントは、濃度範囲0.01~1μg/mLで、陽性対照と同等である、T細胞刺激活性を示した。ヒストンCT-タグバリアント、並びに修飾されたHis-タグは、HCQ.3細胞の活性化の効果は低かったが、His-タグを欠き及び何らかの置き換えを伴わない構築体と比べると、依然小さい作用を示した。従って各HIS-タグ付き複合体と比較した、Aq/galCII複合体の融合構築体中の両方のヒストン2A1配列の予備的インビトロ試験は、N-端側配列(NT):SGRGKQGGKARAKAKTRSSRは、His-タグと同等に機能的であるのに対し、ヒストン2A1のC-端側配列(CT)は、小さい作用を示すのみであり、並びに修飾されたヒストンタグは、中間の作用を示したことを明らかにした。本発明者らは、正帯電したアミノ酸の数は重要であり(少なくとも6個の正帯電したアミノ酸)及び連続する正帯電したアミノ酸はより有益であることを推測した。交互に正帯電したアミノ酸の場合、リジン(pK10.5)及びアルギニン(pK12.5)などのより塩基性のアミノ酸は、ヒスチジン(pK6.0)よりも好ましいように見える。
【0144】
一貫して、Aq発現しているQBマウスでのT細胞-依存型CII-誘導した過敏反応のモデルにおける予備的インビボ試験は、His-タグがH2A1-由来のNT-配列により置き換えられているMHCII/CII複合体の機能的に等効力の免疫調節の薬理学的作用を明らかにした。CII-予備免疫処置されたマウスは、一方の耳への皮内CII注射により、免疫処置後8日目に、T細胞依存型炎症性膨潤を引き起こし、これは対側の耳へ適用されたビヒクルトリガーにより制御された。DTH反応の誘導の前に、このマウスは、免疫処置後4日目に、24時間のsc.ポンプ注入により、その結合溝内に、His-タグ含有Aq/gal264 CII複合体(Aq/galCII-His)、His-タグを欠くAq/gal264 CII複合体(Aq/galCII-ΔHis)、又はH2A1-由来の配列を含むAq/gal264 CII複合体(Aq/galCII-ヒストンNT)のいずれかを受け取った。その結合溝中で連結された対照ペプチドを含むHisタグ付きAq-複合体[クラスII結合インバリアント鎖:CLIP]を、陰性対照として本試験に含んだ。図17に示したように、これらの結果は、治療的Aq/gal264 CII複合体中のHis-タグとNT-配列の機能的同等性を明らかにしている。
【0145】
配列表:
配列番号:1 AGFKGEQGPKG
配列番号:2 AGFKGEQGPXG
配列番号:3 AGFKGEX2GPKG
配列番号:4 AGFKGX3QGPKG
配列番号:5 AGFKX4EQGPKG
配列番号:6 AGFKGEX2GPX1G
配列番号:7 AGFKGX3QGPX1G
配列番号:8 AGFKX4EQGPX1G
配列番号:9 AGFKGEQGPRG
配列番号:10 AGFKGEQGPKGEP
配列番号:11 AGFKGEQGPX1GEP
配列番号:12 AGFKGEQGPRGEP
配列番号:13 GIAGFKGEQGPKGEP
配列番号:14 GIAGFKGEQGPX1GEP
配列番号:15 GIAGFKGEQGPRGEP
配列番号:16 DR4構築体α鎖
配列番号:17 hCII259-273ペプチドを伴うDR4構築体β鎖
配列番号:18 最小DR4構築体α鎖
配列番号:19 hCII259-273ペプチドを伴う最小DR4構築体β鎖
配列番号:20 hCLIPmutを伴うDR4構築体β鎖
配列番号:21 Aq構築体α鎖
配列番号:22 ラットCII259-273ペプチドを伴うAq構築体β鎖
配列番号:23 His-タグを持たないラットCII259-273ペプチドを伴うAq構築体β鎖
配列番号:24 mCLIPペプチドを伴うAq構築体β鎖
配列番号:25 His-タグを持たないmCLIPペプチドを伴うAq構築体β鎖
配列番号:26 cFosドメイン
配列番号:27 cJuneドメイン
配列番号:28 修飾されたヒトCLIP-ペプチド
配列番号:29 ラットCII-ペプチド259-273
配列番号:30 ストレプトアビジン-タグ
配列番号:31 EKRIWFPYRRF
配列番号:32 YKTNFRRYYRF
配列番号:33 VLIRHFRKRYY
配列番号:34 SGRGKQGGKARAKAKTRSSR
配列番号:35 NHNHNHNHNHNH
配列番号:36 KDHLIHNVHKEEHAHAHNK
配列番号:37 H2A1_ヒト
配列番号:38 H2A1P_マウス
配列番号:39 SAWSHPQFEKGIAGFKGEQGPKGEPSGGGS
配列番号:40 H2ACタグ
配列番号:41 6×His
配列番号:42 7×His
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9-1】
図9-2】
図10
図11
図12
図13
図14-1】
図14-2】
図15
図16
図17
【配列表】
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