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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】窒化物半導体紫外線発光素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/16 20100101AFI20231220BHJP
   H01L 33/32 20100101ALI20231220BHJP
【FI】
H01L33/16
H01L33/32
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022531322
(86)(22)【出願日】2020-06-24
(86)【国際出願番号】 JP2020024827
(87)【国際公開番号】W WO2021260849
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000226242
【氏名又は名称】日機装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114476
【弁理士】
【氏名又は名称】政木 良文
(72)【発明者】
【氏名】平野 光
(72)【発明者】
【氏名】長澤 陽祐
【審査官】小濱 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/102557(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/013729(WO,A1)
【文献】特開2016-88803(JP,A)
【文献】特開2006-60164(JP,A)
【文献】特開2002-16000(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 33/00-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウルツ鉱構造のAlGaN系半導体からなるn型層、活性層、及びp型層が上下方向に積層された発光素子構造部を備えてなるピーク発光波長が300nm~327nmの範囲内にある窒化物半導体紫外線発光素子であって、
前記n型層がn型AlGaN系半導体で構成され、
前記n型層と前記p型層の間に配置された前記活性層が、GaN系半導体で構成された1層以上の井戸層を含む量子井戸構造を有し、
前記p型層がp型AlGaN系半導体で構成され、
前記n型層と前記活性層内の各半導体層が、(0001)面に平行な多段状のテラスが形成された表面を有するエピタキシャル成長層であり、
前記n型層が、前記n型層内で一様に分散して存在する局所的にAlNモル分率の低い層状領域であって、AlGaN組成比が整数比のAlGaとなっているn型AlGaN領域を含む複数の第1Ga富化領域を有し、
前記n型層の上面と直交する第1平面上での前記第1Ga富化領域の各延伸方向が、前記n型層の前記上面と前記第1平面との交線に対して傾斜しており、
前記n型層内の前記層状領域以外のn型本体領域のAlNモル分率が54%~66%の範囲内にあることを特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項2】
前記井戸層の前記多段状のテラスの隣接するテラス間の境界領域の厚みが、c軸方向に2ユニットセル~4ユニットセルの範囲内において、前記井戸層に対して前記上下方向に隣接する2つの前記AlGaN系半導体層のAlNモル分率が、50%~100%の範囲内において、前記ピーク発光波長が300nm~327nmの範囲内になるように設定されていることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項3】
前記活性層が、2層以上の前記井戸層を含む多重量子井戸構造を有し、
2層の前記井戸層間にAlGaN系半導体で構成されたバリア層が存在することを特徴とする請求項1または2に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項4】
前記バリア層が、AlNモル分率が50%~90%の範囲内にあるAlGaN系半導体で構成され、
2層の前記井戸層間に位置する前記バリア層の内、少なくとも最も前記p型層側の前記バリア層の前記多段状のテラスの隣接するテラス間の境界領域部分が、同じ前記バリア層内で局所的にAlNモル分率の低い第2Ga富化領域となっていることを特徴とする請求項3に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項5】
前記バリア層の前記第2Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGa、AlGa、AlGa、または、AlGaとなっているAlGaN領域が存在することを特徴とする請求項4に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項6】
サファイア基板を含む下地部を、さらに備え、
前記サファイア基板は、(0001)面に対して所定の角度だけ傾斜した主面を有し、当該主面の上方に前記発光素子構造部が形成されており、
少なくとも前記サファイア基板の前記主面から前記活性層の表面までの各半導体層が、(0001)面に平行な多段状のテラスが形成された表面を有するエピタキシャル成長層であることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載の窒化物半導体紫外線発光素子。
【請求項7】
ウルツ鉱構造のAlGaN系半導体からなるn型層、活性層、及びp型層が上下方向に積層された発光素子構造部を備えてなるピーク発光波長が300nm~327nmの範囲内にある窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法であって、
(0001)面に対して所定の角度だけ傾斜した主面を有するサファイア基板を含む下地部の上に、n型AlGaN系半導体の前記n型層をエピタキシャル成長し、前記n型層の表面に(0001)面に平行な多段状のテラスを表出させる第1工程と、
前記n型層の上に、GaN系半導体で構成された井戸層を1層以上含む量子井戸構造の前記活性層をエピタキシャル成長し、前記井戸層の表面に(0001)面に平行な多段状のテラスを表出させる第2工程と、
前記活性層の上に、p型AlGaN系半導体の前記p型層をエピタキシャル成長により形成する第3工程を有し、
前記第1工程において、前記n型層のAlNモル分率の目標値を54%~66%の範囲内に設定して、前記n型層内で一様に分散して存在する局所的にAlNモル分率の低い層状領域であって、AlGaN組成比が整数比のAlGaとなっているn型AlGaN領域を含む複数の第1Ga富化領域を斜め上方に向かって延伸するように成長させることを特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法。
【請求項8】
前記井戸層の前記多段状のテラスの隣接するテラス間の境界領域の厚みを、c軸方向に2ユニットセル~4ユニットセルの範囲内において、前記井戸層に対して前記上下方向に隣接する2つの前記AlGaN系半導体層のAlNモル分率を、50%~100%の範囲内において、前記ピーク発光波長が300nm~327nmの範囲内になるように設定し、
前記第2工程において、前記井戸層を成長させ、
前記第1工程、前記第2工程、及び、前記第3工程の内の少なくとも1つの工程において、前記井戸層に対して前記上下方向に隣接する2つの前記AlGaN系半導体層を成長させることを特徴とする請求項7に記載の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法。
【請求項9】
前記第2工程において、GaN系半導体で構成された前記井戸層とAlGaN系半導体で構成されたバリア層を交互にエピタキシャル成長により積層し、前記バリア層と前記井戸層の各表面に(0001)面に平行な多段状のテラスが表出した、前記井戸層を2層以上含む多重量子井戸構造の前記活性層を形成することを特徴とする請求項7または8に記載の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法。
【請求項10】
前記第2工程において、前記バリア層のAlNモル分率の目標値を55%~90%の範囲内に設定して、2層の前記井戸層間に位置する前記バリア層の内、少なくとも最も前記p型層側の前記バリア層の前記テラス間の境界領域部分に同じ前記バリア層内で局所的にAlNモル分率の低い第2Ga富化領域を形成することを特徴とする請求項9に記載の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法。
【請求項11】
前記第2工程において、
1)前記バリア層のAlNモル分率の目標値を51%~66%の範囲内に設定して、前記第2Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGaとなっているAlGaN領域を成長させる、または、
2)前記バリア層のAlNモル分率の目標値を68%~74%の範囲内に設定して、前記第2Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGaとなっているAlGaN領域を成長させる、または、
3)前記バリア層のAlNモル分率の目標値を76%~82%の範囲内に設定して、前記第2Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGaとなっているAlGaN領域を成長させる、または、
4)前記バリア層のAlNモル分率の目標値を85%~90%の範囲内に設定して、前記第2Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGaとなっているAlGaN領域を成長させることを特徴とする請求項10に記載の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウルツ鉱構造のAlGaN系半導体からなるn型層、活性層、及びp型層が上下方向に積層された発光素子構造部を備えてなるピーク発光波長が300nm~327nmの範囲内にある窒化物半導体紫外線発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、窒化物半導体発光素子は、サファイア等の基板上にエピタキシャル成長により複数の窒化物半導体層からなる発光素子構造を形成したものが多数存在する。窒化物半導体層は、一般式Al1-x-yGaInN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)で表される。
【0003】
発光ダイオードの発光素子構造は、n型窒化物半導体層とp型窒化物半導体層の2つのクラッド層の間に、窒化物半導体層よりなる活性層が挟まれたダブルへテロ構造を有している。活性層がAlGaN系半導体の場合、AlNモル分率(Al組成比とも言う)を調整することにより、バンドギャップエネルギを、GaNとAlNが取り得るバンドギャップエネルギ(約3.4eVと約6.2eV)を夫々下限及び上限とする範囲内で調整でき、発光波長が約200nmから約365nmまでの紫外線発光素子が得られる。具体的には、p型窒化物半導体層からn型窒化物半導体層に向けて順方向電流を流すことで、活性層においてキャリア(電子及び正孔)の再結合による上記バンドギャップエネルギに応じた発光が生じる。当該順方向電流を外部から供給するために、p型窒化物半導体層上にp電極が、n型窒化物半導体層上にn電極が、夫々設けられている。
【0004】
活性層がAlGaN系半導体の場合、活性層を挟むn型窒化物半導体層とp型窒化物半導体層は、活性層より高AlNモル分率のAlGaN系半導体で構成される。しかし、高AlNモル分率のp型窒化物半導体層は、p電極と良好なオーミック接触を形成することが困難なため、p型窒化物半導体層の最上層に低AlNモル分率のp型AlGaN系半導体(具体的にはp-GaN)からなるp電極と良好なオーミック接触可能なp型コンタクト層を形成することが一般的に行われている。このp型コンタクト層は、AlNモル分率が活性層を構成するAlGaN系半導体より小さいため、活性層からp型窒化物半導体層側に向けて出射された紫外線は該p型コンタクト層で吸収され、素子外部に有効に取り出すことができない。このため、活性層がAlGaN系半導体の一般的な紫外線発光ダイオードは、図13に模式的に示すような素子構造を採用し、活性層からn型窒化物半導体層側に向けて出射された紫外線を素子外部に有効に取り出している(例えば、下記の特許文献1及び2等参照)。
【0005】
図13に示すように、一般的な紫外線発光ダイオードは、サファイア基板等の基板100上にAlGaN系半導体層101(例えば、AlN層)を堆積して形成されたテンプレート102上に、n型AlGaN系半導体層103、活性層104、p型AlGaN系半導体層105、及び、p型コンタクト層106を順番に堆積し、活性層104とp型AlGaN系半導体層105とp型コンタクト層106の一部を、n型AlGaN系半導体層103が露出するまでエッチング除去し、n型AlGaN系半導体層103の露出面にn電極107を、p型コンタクト層106の表面にp電極108を夫々形成して構成される。
【0006】
また、活性層内でのキャリア再結合による発光効率(内部量子効率)を高めるために、活性層を多重量子井戸構造とすること、活性層上に電子ブロック層を設けること等が実施されている。
【0007】
一方、n型AlGaN系半導体層で構成されるクラッド層内においてGaの偏析による組成変調が生じ、クラッド層表面に対して斜め方向に延伸する局所的にAlNモル分率の低い層状領域が形成されることが報告されている(例えば、下記の特許文献3、非特許文献1,2等参照)。局所的にAlNモル分率の低いAlGaN系半導体層はバンドギャップエネルギも局所的に小さくなるため、特許文献3では、当該クラッド層内のキャリアが層状領域に局在化し易くなり、活性層に対して低抵抗の電流経路を提供することができ、紫外線発光ダイオードの発光効率の向上が図れることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2014/178288号公報
【文献】国際公開第2016/157518号公報
【文献】国際公開第2019/159265号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Y. Nagasawa, et al., "Comparison of AlxGa1?xN multiple quantum wells designed for 265 and 285nm deep-ultraviolet LEDs grown on AlN templates having macrosteps", Applied Physics Express 12, 064009 (2019)
【文献】K. Kojima, et al., "Carrier localization structure combined with current micropaths in AlGaN quantum wells grown on an AlN template with macrosteps", Applied Physics letter 114, 011102 (2019)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
AlGaN系半導体で構成される紫外線発光素子は、サファイア基板等の基板上に、例えば、有機金属化合物気相成長(MOVPE)法等の周知のエピタキシャル成長法によって作製される。しかしながら、紫外線発光素子を生産する場合、紫外線発光素子の特性(発光波長、ウォールプラグ効率、順方向バイアス等の特性)は、結晶成長装置のドリフトの影響を受けて変動するため、安定した歩留まりでの生産は必ずしも容易ではない。
【0011】
結晶成長装置のドリフトは、トレーやチャンバの壁等の付着物が原因で、結晶成長部位の実効温度が変化すること等に起因して生じる。このため、ドリフトを抑制するために、従来は、成長履歴を検討して、経験者が設定温度や原料ガスの組成を微妙に変化させる、或いは、一定期間の成長スケジュールを固定して、清掃等のメンテナンスも一定期間で同じように実施する等の工夫をしているが、ドリフトを完全に排除をすることは難しい。
【0012】
本発明は、上述の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、結晶成長装置のドリフト等に起因する特性変動の抑制された安定的に生産可能な窒化物半導体紫外線発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するために、ウルツ鉱構造のAlGaN系半導体からなるn型層、活性層、及びp型層が上下方向に積層された発光素子構造部を備えてなるピーク発光波長が300nm~327nmの範囲内にある窒化物半導体紫外線発光素子であって、
前記n型層がn型AlGaN系半導体で構成され、
前記n型層と前記p型層の間に配置された前記活性層が、GaN系半導体で構成された1層以上の井戸層を含む量子井戸構造を有し、
前記p型層がp型AlGaN系半導体で構成され、
前記n型層と前記活性層内の各半導体層が、(0001)面に平行な多段状のテラスが形成された表面を有するエピタキシャル成長層であり、
前記n型層が、前記n型層内で一様に分散して存在する局所的にAlNモル分率の低い層状領域であって、AlGaN組成比が整数比のAlGaとなっているn型AlGaN領域を含む複数の第1Ga富化領域を有し、
前記n型層の上面と直交する第1平面上での前記第1Ga富化領域の各延伸方向が、前記n型層の前記上面と前記第1平面との交線に対して傾斜しており、
前記n型層内の前記層状領域以外のn型本体領域のAlNモル分率が54%~66%の範囲内にあることを特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子を提供する。
【0014】
更に、本発明は、上記目的を達成するために、ウルツ鉱構造のAlGaN系半導体からなるn型層、活性層、及びp型層が上下方向に積層された発光素子構造部を備えてなるピーク発光波長が300nm~327nmの範囲内にある窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法であって、
(0001)面に対して所定の角度だけ傾斜した主面を有するサファイア基板を含む下地部の上に、n型AlGaN系半導体の前記n型層をエピタキシャル成長し、前記n型層の表面に(0001)面に平行な多段状のテラスを表出させる第1工程と、
前記n型層の上に、GaN系半導体で構成された井戸層を1層以上含む量子井戸構造の前記活性層をエピタキシャル成長し、前記井戸層の表面に(0001)面に平行な多段状のテラスを表出させる第2工程と、
前記活性層の上に、p型AlGaN系半導体の前記p型層をエピタキシャル成長により形成する第3工程を有し、
前記第1工程において、前記n型層のAlNモル分率の目標値を54%~66%の範囲内に設定して、前記n型層内で一様に分散して存在する局所的にAlNモル分率の低い層状領域であって、AlGaN組成比が整数比のAlGaとなっているn型AlGaN領域を含む複数の第1Ga富化領域を斜め上方に向かって延伸するように成長させることを特徴とする窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法を提供する。
【0015】
尚、AlGaN系半導体とは、一般式Al1-xGaN(0≦x≦1)で表されるが、バンドギャップエネルギがGaNとAlNが取り得るバンドギャップエネルギを夫々下限及び上限とする範囲内であれば、BまたはIn等の3族元素またはP等の5族元素等の不純物を微量に含んでいてもよい。また、GaN系半導体とは、基本的にGaとNで構成される窒化物半導体であるが、Al、BまたはIn等の3族元素またはP等の5族元素等の不純物を微量に含んでいてもよい。また、AlN系半導体とは、基本的にAlとNで構成される窒化物半導体であるが、Ga、BまたはIn等の3族元素またはP等の5族元素等の不純物を微量に含んでいてもよい。従って、本願では、GaN系半導体及びAlN系半導体は、それぞれAlGaN系半導体の一部である。
【0016】
更に、n型またはp型AlGaN系半導体は、ドナーまたはアクセプタ不純物としてSiまたはMg等がドーピングされたAlGaN系半導体である。本願では、p型及びn型と明記されていないAlGaN系半導体は、アンドープのAlGaN系半導体を意味するが、アンドープであっても、不可避的に混入する程度の微量のドナーまたはアクセプタ不純物は含まれ得る。また、第1平面は、前記n型層の製造過程で具体的に形成された露出面や他の半導体層との境界面ではなく、前記n型層内を上下方向に平行に延伸する仮想的な平面である。更に、本明細書において、AlGaN系半導体層、GaN系半導体層、及びAlN系半導体層は、それぞれ、AlGaN系半導体、GaN系半導体、及びAlN系半導体で構成された半導体層である。
【0017】
上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子、または、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法によれば、以下に説明するように、第1に、n型層内の第1Ga富化領域に形成される後述する準安定AlGaNを利用すること、第2に、GaN系半導体で構成された井戸層を利用することで、結晶成長装置のドリフト等に起因する特性変動が抑制され、ピーク発光波長が300nm~327nmの範囲内にある窒化物半導体紫外線発光素子を安定的に生産できることが期待される。
【0018】
先ず、AlGaN組成比が所定の整数比で表される「準安定AlGaN」について説明する。
【0019】
通常、AlGaN等の三元混晶は、ランダムに3族元素(AlとGa)が混合している結晶状態であり、「ランダム・ノンユニフォーミティ(random nonuniformity)」で近似的に説明される。しかし、AlとGaの共有結合半径が異なるため、結晶構造中においてAlとGaの原子配列の対称性が高いほうが、一般的に安定な構造となる。
【0020】
ウルツ鉱構造のAlGaN系半導体は、対称性のないランダム配列と安定な対称配列の2種類の配列が存在し得る。ここで、一定の比率で、対称配列が支配的となる状態が現れる。後述するAlGaN組成比(AlとGaとNの組成比)が所定の整数比で表される「準安定AlGaN」において、AlとGaの周期的な対称配列構造が発現する。
【0021】
当該周期的な対称配列構造では、結晶成長面へのGa供給量が僅かに増減しても、対称性が高いためにエネルギ的に安定な混晶モル分率となり、質量移動(mass transfer)し易いGaが極端に増える場所の増殖を防ぐことができる。つまり、n型層内の第1Ga富化領域に形成される「準安定AlGaN」の性質を利用することで、AlGaN系半導体として、結晶成長装置のドリフト等に起因する混晶モル分率の変動が生じても、後述するように活性層に対して低抵抗の電流経路を提供する第1Ga富化領域における混晶モル分率の変動が局所的に抑制される。この結果、n型層から活性層内への安定したキャリア供給が実現でき、デバイス特性の変動が抑制される結果、所期の特性を奏する窒化物半導体紫外線発光素子を安定的に生産できることが期待される。
【0022】
次に、AlとGaが(0001)面内で周期的な対称配列となり得るAlGaN組成比について説明する。
【0023】
図1に、AlGaNのc軸方向に1ユニットセル(2単原子層)の模式図を示す。図1において、白丸は3族元素の原子(Al,Ga)が位置するサイトを示し、黒丸は5族元素の原子(N)が位置するサイトを示している。
【0024】
図1において六角形で示される3族元素のサイト面(A3面、B3面)、及び、5族元素のサイト面(A5面、B5面)は、何れも(0001)面に平行である。A3面とA5面(総称してA面)の各サイトには、六角形の各頂点に6つ、六角形の中心に1つのサイトが存在する。B3面とB5面(総称してB面)についても同様であるが、図1では、B面の六角形内に存在する3つのサイトだけを図示している。A面の各サイトはc軸方向に重なっており、B面の各サイトはc軸方向に重なっている。しかし、B5面の1つのサイトの原子(N)は、B5面の上側に位置するA3面の3つのサイトの原子(Al,Ga)と、B5面の下側に位置するB3面の1つのサイトの原子(Al,Ga)と4配位結合を形成し、B3面の1つのサイトの原子(Al,Ga)は、B3面の上側に位置するB5面の1つのサイトの原子(N)と、B3面の下側に位置するA5面の3つのサイトの原子(N)と4配位結合を形成しているため、図1に示すように、A面の各サイトは、B面の各サイトとはc軸方向に重なっていない。
【0025】
図2は、A面の各サイトとB面の各サイトとの間の位置関係を、c軸方向から見た平面図として図示したものである。A面及びB面ともに、六角形の6つの各頂点は、隣接する他の2つの六角形により共有され、中心のサイトは他の六角形とは共有されないため、1つの六角形内には、実質的に3原子分のサイトが存在する。従って、1ユニットセル当たり、3族元素の原子(Al,Ga)のサイトが6つ、5族元素の原子(N)のサイトが6つ存在する。従って、GaNとAlNを除く整数比で表されるAlGaN組成比としては、以下の5つのケースが存在する。
1)AlGa
2)AlGa(=AlGa)、
3)AlGa(=AlGa)、
4)AlGa(=AlGa)、
5)AlGa
【0026】
図3に、上記5つの組み合わせの3族元素のA3面とB3面を模式的に示す。Gaが黒丸、Alが白丸で示されている。
【0027】
図3(A)に示すAlGaの場合、A3面の6つの頂点サイトとB3面の6つの頂点サイトと1つの中心サイトにGaが位置し、A3面の1つの中心サイトにAlが位置している。
【0028】
図3(B)に示すAlGaの場合、A3面及びB3面の3つの頂点サイトと1つの中心サイトにGaが位置し、A3面及びB3面の3つの頂点サイトにAlが位置している。
【0029】
図3(C)に示すAlGaの場合、A3面の3つの頂点サイトと1つの中心サイトとB3面の3つの頂点サイトにGaが位置し、A3面の3つの頂点サイトとB3面の3つの頂点サイトと1つの中心サイトにAlが位置している。
【0030】
図3(D)に示すAlGaの場合、A3面及びB3面の3つの頂点サイトにGaが位置し、A3面及びB3面の3つの頂点サイトと1つの中心サイトにAlが位置している。これは、図3(B)に示すAlGaの場合のAlとGaの位置を入れ替えたものに等しい。
【0031】
図3(E)に示すAlGaの場合、A3面の1つの中心サイトにGaが位置し、A3面の6つの頂点サイトとB3面の6つの頂点サイトと1つの中心サイトにAlが位置している。これは、図3(A)に示すAlGaの場合のAlとGaの位置を入れ替えたものに等しい。
【0032】
図3(A)~(E)の各図において、六角形の6つの頂点の何れか1つに中心が移動した別の六角形を想定すると、A3面の6つの頂点サイトにAlまたはGaが位置していることと、A3面の3つの頂点サイトと1つの中心サイトにAlまたはGaが位置していることと等価であり、A3面の1つの中心サイトにAlまたはGaが位置していることは、A3面の3つの頂点サイトにAlまたはGaが位置していることと等価であることが分かる。B3面についても同様である。また、図3(A),(C)及び(E)の各図において、A3面とB3面は入れ替わってもよい。
【0033】
図3(A)~(E)の各図において、A3面とB3面の何れにおいても、AlとGaの原子配列は対称性が維持されている。また、六角形の中心を移動させても、AlとGaの原子配列は対称性が維持されている。
【0034】
更に、図3(A)~(E)のA3面とB3面において、六角形のサイト面をハニカム状に繰り返して配置すると、(0001)面に平行な方向、例えば、[11-20]方向、[10-10]方向に各サイトを見ると、AlとGaが周期的に繰り返されて位置しているか、AlとGaの何れか一方が連続して位置している状態が出現する。従って、何れも、周期的で対称的な原子配列となることが分かる。
【0035】
ここで、上記1)~5)のAlGaN組成比に対応するAlNモル分率x1(x1=1/6,1/3,1/2,2/3,5/6)のAlx1Ga1-x1Nを、説明の便宜上、「第1の準安定AlGaN」と称する。第1の準安定AlGaNは、AlとGaの原子配列が周期的な対称配列となり、エネルギ的に安定なAlGaNとなる。
【0036】
次に、図1に示す六角形で示されるサイト面を2ユニットセル(4単原子層)に拡張すると、3族元素のサイト面(A3面、B3面)と5族元素のサイト面(A5面、B5面)がそれぞれ2面ずつ存在することになり、2ユニットセル当たり、3族元素の原子(Al,Ga)のサイトが12個、5族元素の原子(N)のサイトが12個存在することになる。従って、GaNとAlNを除く整数比で表されるAlGaN組成比としては、上記1)~5)のAlGaN組成比以外に、以下の6つの組み合わせが存在する。
6) AlGa1112(=GaN+AlGa)、
7) AlGa12(=AlGa=AlGa+AlGa)、
8) AlGa12(=AlGa+AlGa)、
9) AlGa12(=AlGa+AlGa)、
10)AlGa12(=AlGa=AlGa+AlGa)、
11)Al11Ga12(=AlGa+AlN)。
【0037】
しかし、これら6)~11)の6つのAlGaN組成比は、その前後に位置する第1の準安定AlGaN、GaN及びAlNの内の2つのAlGaN組成比を組み合わせたものとなるため、c軸方向の対称性が乱れる可能性が高いため、第1の準安定AlGaNより安定度は低下するが、A3面及びB3面内でのAlとGaの原子配列の対称性は、第1の準安定AlGaNと同じであるので、ランダムな非対称配列状態のAlGaNよりは安定度は高い。ここで、上記6)~11)のAlGaN組成比に対応するAlNモル分率x2(x2=1/12,1/4,5/12,7/12,3/4,11/12)のAlx2Ga1-x2Nを、説明の便宜上、「第2の準安定AlGaN」と称する。以上より、第1及び第2の準安定AlGaNは、結晶構造中におけるAlとGaの原子配列の対称性により安定な構造となる。以下、第1及び第2の準安定AlGaNを「準安定AlGaN」と総称する。
【0038】
AlGaNを一定の結晶品質を維持して成長させるには、1000℃以上の高温で結晶成長を行う必要がある。しかしながら、Gaは、結晶表面のサイトに原子が到達した後も、1000℃以上では動き回ることが想定される。一方、Alは、Gaと異なり、表面に吸着し易く、サイトに入った後の移動も、多少は動くと考えられるが制限が強い。
【0039】
従って、準安定AlGaNであっても、上記1)のAlGa、上記6)のAlGa1112、及び、上記7)のAlGaは、何れもAlNモル分率が25%以下で、Gaの組成比が高いため、1000℃付近の成長温度では、Gaの移動が激しく、原子配列の対称性が乱れ、AlとGaの原子配列はランダムな状態に近くなり、上述の安定度が、他の準安定AlGaNと比べて低下すると考えられる。
【0040】
次に、「第1Ga富化領域」について説明する。上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子及び窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法においては、n型層と活性層内の各半導体層が、(0001)面に平行な多段状のテラスが形成された表面を有するエピタキシャル成長層であるため、n型層内では、質量移動し易いGaは、テラス領域上を移動して、隣接するテラス間の境界領域に集中することで、テラス領域に比べてAlNモル分率の低い領域が形成される。当該境界領域が、n型層のn型AlGaN層のエピタキシャル成長とともに、(0001)面に対して斜め上方に向かって延伸することで、局所的にAlNモル分率の低い層状領域がn型層内で一様に分散して形成される。ここで、Gaの質量移動量が十分に大きいと、当該層状領域が、AlGaN組成比がAlGaである準安定AlGaNのn型AlGaN領域を含む第1Ga富化領域となり得る。
【0041】
具体的には、n型層のn型本体領域のAlNモル分率(n型層のAlNモル分率の目標値で近似される)が54%~66%の範囲内にあるので、n型本体領域からのGaの質量移動によって形成される層状領域に含まれ得る直近の準安定AlGaNは、AlGaN組成比がAlGaの準安定AlGaNとなり、且つ、n型本体領域と層状領域のAlNモル分率の差が5%以上となる。よって、n型層の当該層状領域の大半において、Gaの質量移動量が十分に大きくなり、AlGaN組成比がAlGaである準安定AlGaNのn型AlGaN領域を含む第1Ga富化領域が安定的に形成される。つまり、第1Ga富化領域が、層状領域内において支配的に存在し、結果として、n型層中に一様に分散して存在する。但し、AlGaNの結晶成長はランダムな過程であるので、Gaの質量移動量もランダムに変動し得るため、層状領域内において、AlGaN組成比がAlGaである準安定AlGaNのn型AlGaN領域を含まない、つまり、AlNモル分率が50%より大きい局所的にAlNモル分率の低い領域も形成され得る。
【0042】
第1Ga富化領域内に、AlGaN組成比がAlGaである準安定AlGaNが存在することで、第1Ga富化領域内へのGa供給量の変動が、当該準安定AlGaNにおいて吸収される。つまり、第1Ga富化領域内において、Ga供給量が増加すると準安定AlGaNが増加し、Ga供給量が減少すると準安定AlGaNが減少し、結果として、第1Ga富化領域内のAlNモル分率の変動が抑制される。従って、第1Ga富化領域内において、結晶成長装置のドリフト等に起因するGa供給量の変動を吸収して、AlGaN組成比がAlGa(AlNモル分率が50%)の準安定AlGaNが安定的に形成される。つまり、当該Ga供給量の変動に対して、第1Ga富化領域内のAlNモル分率の変動が抑制される。
【0043】
但し、上述したように、AlGaNの結晶成長においては、通常、ランダムな非対称配列の状態と、規則的な対称配列の状態が混在し得るため、第1Ga富化領域内においては、規則的な対称配列状態にあるAlNモル分率が50%の準安定AlGaNの領域が安定的に形成されるとともに、AlNモル分率が50%から僅かに(例えば、0~3%程度)変動した領域が混在する。従って、第1Ga富化領域内のAlNモル分率は、AlGaN組成比がAlGaである準安定AlGaNのAlNモル分率(50%)の近傍に集中して分布する。
【0044】
更に、n型層のn型本体領域のAlNモル分率が54%~66%の範囲内にあるので、第1Ga富化領域とn型本体領域の間のAlNモル分率差は、安定的に4%以上が確保される。従って、n型層内のキャリアは、n型本体領域よりバンドギャップエネルギの小さい第1Ga富化領域内に局在化し、n型層内において電流は優先的に第1Ga富化領域を安定的に流れることができ、窒化物半導体紫外線発光素子の特性変動の抑制が図れる。尚、上述したように、層状領域の一部には、第1Ga富化領域に至らないAlNモル分率が50%より大きい局所的にAlNモル分率の低い領域も形成され得るため、当該領域とn型本体領域の間のAlNモル分率差が4%以上となる場合は、n型層内のキャリアは、当該領域内でも十分に局在化し、電流は、第1Ga富化領域内と同様に当該領域内を流れることができる。
【0045】
次に、「井戸層」について説明する。n型層と活性層内の各半導体層が、(0001)面に平行な多段状のテラスが形成された表面を有するエピタキシャル成長層であるため、井戸層の多段状のテラスの隣接するテラス間の境界領域が、隣接するテラス間を連結する(0001)面に対して傾斜した傾斜領域となる(上記非特許文献1及び2参照)。尚、当該傾斜領域は多数のステップ(1ユニットセルの段差)及びマクロステップ(複数ユニットセルの段差)が集合している構造であり、傾斜領域に階段状に表出する(0001)面は、多段状のテラスのテラス面とは区別される。
【0046】
ステップフロー成長におけるテラスエッジの側面の横方向への成長に伴い、井戸層上面のテラスが、井戸層下面のテラスに対して横方向に移動するため、井戸層の当該傾斜領域の膜厚は、傾斜領域以外のテラス領域の膜厚より厚くなる。この結果、当該傾斜領域のバンドギャップエネルギはテラス領域より小さくなり、n型層の第1Ga富化領域と同様に、キャリアの局在化が起き易くなる。このため、井戸層での発光は、当該傾斜領域でテラス領域より顕著になる。上記非特許文献1及び2では、AlGaN系半導体の井戸層に対する同様の内容が報告されている。尚、AlGaN系半導体の井戸層では、上記膜厚変調に加えて組成変調も生じて、バンドギャップエネルギはテラス領域より更に小さくなるが、組成変調の生じないGaN系半導体の井戸層でも、同様のキャリアの局在化は生じ得る。尚、井戸層及びバリア層の各テラス領域とは、c軸方向に各層の上面のテラスと下面のテラスに挟まれた領域である。従って、井戸層及びバリア層の各テラス領域以外が各層の境界領域(傾斜領域)となる。
【0047】
また、活性層のエピタキシャル成長によって形成される多段状のテラスは、n型層のエピタキシャル成長によって形成される多段状のテラスに連続して形成される。従って、第1Ga富化領域内の電流経路に沿って井戸層に供給されるキャリア(電子)は、井戸層において発光の集中している隣接するテラス間の境界領域(傾斜領域)に集中的に供給される。
【0048】
従って、層状領域内において支配的に存在する第1Ga富化領域内に、AlNモル分率が50%の準安定AlGaNであるn型AlGaN領域が安定的に形成されることで、井戸層の傾斜領域への安定したキャリア供給が可能となり、窒化物半導体紫外線発光素子の発光効率等の特性変動の抑制が図れる。
【0049】
更に、n型層のn型本体領域のAlNモル分率の上限、及び、n型層のAlNモル分率の目標値の上限が、66%に規定されているため、n型層内において、AlGaN組成比がAlGaの準安定AlGaNが支配的に形成されることはない。仮に、当該上限が67%以上であると、n型本体領域にAlGaの準安定AlGaNが安定的に形成され、当該AlGaの準安定AlGaNから、第1Ga富化領域内に、AlGaの準安定AlGaNを安定的に形成するためのGaを十分に供給することが困難となり、第1Ga富化領域内に形成されるn型AlGaN系半導体のAlNモル分率がランダムに変動することになり、所期の効果が期待できなくなる。
【0050】
更に、n型層のほぼ全体のAlNモル分率が50%以上であり、活性層の井戸層で発光したピーク発光波長が300nm~327nmの紫外線がn型層を透過するため、紫外線発光をn型層側から取り出す素子構造を取り得る。
【0051】
ところで、300nm~327nmのピーク発光波長を実現するには、井戸層をAlGaN系半導体で構成し、AlNモル分率を例えば33%未満の範囲で調整する方法が一般的である。しかし、この場合、Gaの組成比が大きいため、Gaの偏析による組成変動が大きく、発光波長の変動、発光スペクトルの広帯域化、ピーク波長の分離等の発光特性の劣化が問題となり、所期のピーク発光波長を安定的に実現するのが困難であった。
【0052】
しかし、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子によれば、井戸層がGaN系半導体で構成されているため、Gaの偏析による組成変動が生じ得ないため、結晶成長装置のドリフト等に起因する特性変動の抑制が図れる。つまり、発光波長においても特性変動の抑制が図れる。
【0053】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子は、前記井戸層の前記多段状のテラスの隣接するテラス間の境界領域の厚みが、c軸方向に2ユニットセル~4ユニットセルの範囲内において、前記井戸層に対して前記上下方向に隣接する2つの前記AlGaN系半導体層のAlNモル分率が、50%~100%の範囲内において、前記ピーク発光波長が300nm~327nmの範囲内になるように設定されていることが好ましい。
【0054】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法は、前記井戸層の前記多段状のテラスの隣接するテラス間の境界領域の厚みを、c軸方向に2ユニットセル~4ユニットセルの範囲内において、前記井戸層に対して前記上下方向に隣接する2つの前記AlGaN系半導体層のAlNモル分率を、50%~100%の範囲内において、前記ピーク発光波長が300nm~327nmの範囲内になるように設定し、
前記第2工程において、前記井戸層を成長させ、前記第1工程、前記第2工程、及び、前記第3工程の内の少なくとも1つの工程において、前記井戸層に対して前記上下方向に隣接する2つの前記AlGaN系半導体層を成長させることが好ましい。
【0055】
これらの好適な実施態様により、井戸層をGaN系半導体で構成して、300nm~327nmのピーク発光波長が具体的に実現される。
【0056】
尚、井戸層に対して上下方向に隣接する2つのAlGaN系半導体層とは、活性層が井戸層の1層だけで構成されている場合は、n型層とp型層が相当する。例えば、p型層がAlNモル分率の異なる複数層のp型AlGaN系半導体で構成されている場合は、井戸層と接するp型AlGaN系半導体層が相当する。また、活性層が1層以上の井戸層と当該1層以上の井戸層のn型層側またはp型層側に接するバリア層を含む場合、或いは、活性層が2層以上の井戸層と、隣接する2層の井戸層の間に挿入されたバリア層を含む場合は、当該バリア層が、上記2つのAlGaN系半導体層の少なくとも一方に相当する。更に、井戸層が1層以上の場合において、n型層寄りの井戸層とn型層が接している場合、n型層は、第1Ga富化領域内にAlGaN組成比が整数比のAlGaとなっているn型AlGaN領域が存在するので、AlNモル分率が50%~100%の範囲内という条件は満足している。
【0057】
尚、これらの好適な実施態様において、井戸層の境界領域の厚みに対するc軸方向に2ユニットセル~4ユニットセルの範囲、及び、井戸層に対して上下方向に隣接する2つのAlGaN系半導体層のAlNモル分率に対する50%~100%の範囲は、井戸層の境界領域の厚みと当該2つのAlGaN系半導体層のAlNモル分率をそれぞれ当該範囲内において適切に設定することで、300nm~327nmの範囲内にあるピーク発光波長が実現できることを示すもので、それぞれ当該範囲内の全域において、300nm~327nmの範囲内にあるピーク発光波長が実現できることを保証するものではない。この点については、後述する。
【0058】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子は、前記活性層が、2層以上の前記井戸層を含む多重量子井戸構造を有し、2層の前記井戸層間にAlGaN系半導体で構成されたバリア層が存在することが好ましい。
【0059】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法は、前記第2工程において、GaN系半導体で構成された前記井戸層とAlGaN系半導体で構成されたバリア層を交互にエピタキシャル成長により積層し、前記バリア層と前記井戸層の各表面に(0001)面に平行な多段状のテラスが表出した、前記井戸層を2層以上含む多重量子井戸構造の前記活性層を形成することが好ましい。
【0060】
これらの好適な実施態様により、活性層が多重量子井戸構造となり、井戸層が1層だけの場合に比べて発光効率の向上が期待できる。
【0061】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子は、前記バリア層が、AlNモル分率が50%~90%の範囲内にあるAlGaN系半導体で構成され、2層の前記井戸層間に位置する前記バリア層の内、少なくとも最も前記p型層側の前記バリア層の前記多段状のテラスの隣接するテラス間の境界領域部分が、同じ前記バリア層内で局所的にAlNモル分率の低い第2Ga富化領域となっていることがより好ましい。
【0062】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法は、前記第2工程において、前記バリア層のAlNモル分率の目標値を55%~90%の範囲内に設定して、2層の前記井戸層間に位置する前記バリア層の内、少なくとも最も前記p型層側の前記バリア層の前記テラス間の境界領域部分に同じ前記バリア層内で局所的にAlNモル分率の低い第2Ga富化領域を形成することがより好ましい。
【0063】
これらの好適な実施態様により、バリア層においても、n型層の第1Ga富化領域と同様に、第2Ga富化領域においてキャリアの局在化が生じ得る。従って、n型層から井戸層において発光の集中している隣接するテラス間の境界領域(傾斜領域)に向けてキャリア(電子)を供給する際に、n型層の第1Ga富化領域とバリア層の第2Ga富化領域を経由して、効率的に行うことができる。
【0064】
ここで、井戸層が2層以上の多重量子井戸構造では、最もp型層側の井戸層において発強度が大きいため、当該井戸層のn型層側のバリア層において、第2Ga富化領域が形成されていることで、上述のキャリアの井戸層への供給がより効率的に行うことができる。
【0065】
更に、上記好適な実施態様の窒化物半導体紫外線発光素子は、前記バリア層の前記第2Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGa、AlGa、AlGa、または、AlGaとなっているAlGaN領域が存在することが好ましい。
【0066】
更に、上記好適な実施態様の窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法は、前記第2工程において、
1)前記バリア層のAlNモル分率の目標値を54%~66%の範囲内に設定して、前記第2Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGaとなっているAlGaN領域を成長させる、または、
2)前記バリア層のAlNモル分率の目標値を68%~74%の範囲内に設定して、前記第2Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGaとなっているAlGaN領域を成長させる、または、
3)前記バリア層のAlNモル分率の目標値を76%~82%の範囲内に設定して、前記第2Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGaとなっているAlGaN領域を成長させる、または、
4)前記バリア層のAlNモル分率の目標値を85%~90%の範囲内に設定して、前記第2Ga富化領域内に、AlGaN組成比が整数比のAlGaとなっているAlGaN領域を成長させることが好ましい。
【0067】
これらの好適な実施態様により、バリア層の第2Ga富化領域内に準安定AlGaNが存在することで、n型層の第1Ga富化領域と同様に、第2Ga富化領域のAlNモル分率の変動が抑制され、安定的に準安定AlGaNの領域が第2Ga富化領域内に形成される。従って、バリア層の第2Ga富化領域によって奏される効果が、より安定的に実現される。
【0068】
更に、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子は、サファイア基板を含む下地部を、さらに備え、前記サファイア基板は、(0001)面に対して所定の角度だけ傾斜した主面を有し、当該主面の上方に前記発光素子構造部が形成されており、少なくとも前記サファイア基板の前記主面から前記活性層の表面までの各半導体層が、(0001)面に平行な多段状のテラスが形成された表面を有するエピタキシャル成長層であることが好ましい。
【0069】
上記好適な実施態様により、オフ角を有するサファイア基板を用いて、サファイア基板の主面から活性層の表面までの各層の表面に多段状のテラスが表出するようにエピタキシャル成長を行うことができ、上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子を実現できる。
【発明の効果】
【0070】
上記特徴の窒化物半導体紫外線発光素子、及び、窒化物半導体紫外線発光素子の製造方法によれば、結晶成長装置のドリフト等に起因する特性変動の抑制されたピーク発光波長が300nm~327nmの範囲内にある窒化物半導体紫外線発光素子を安定的に提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】AlGaNのウルツ鉱結晶構造を模式的に示す図。
図2図1に示すウルツ鉱結晶構造のc軸方向から見たA面の各サイトとB面の各サイトとの間の位置関係を示す平面図。
図3】整数比で表されるAlGaN組成比の5つの組み合わせのそれぞれにおけるA3面とB3面でのAlとGaの配置を模式的に示す図。
図4】本発明の実施形態に係る窒化物半導体紫外線発光素子の構造の一例を模式的に示した要部断面図。
図5図4に示す窒化物半導体紫外線発光素子の活性層の積層構造の一例を模式的に示した要部断面図。
図6】GaN井戸層とAlGaNバリア層からなる量子井戸構造の発光波長と、井戸層の膜厚及びバリア層のAlNモル分率との関係を示すグラフ。
図7図4に示す窒化物半導体紫外線発光素子を図4の上側から見た場合の構造の一例を模式的に示した平面図。
図8】n型クラッド層内の断面構造を示すHAADF-STEM像。
図9図8に示すHAADF-STEM像中に、n型クラッド層内の断面TEM-EDXのライン分析を行う5箇所の測定領域A~Eを示す図。
図10A図9に示す測定領域Aにおける、n型クラッド層内の断面TEM-EDXのライン分析によるAlNモル分率とGaNモル分率の計測結果を示す図。
図10B図9に示す測定領域Bにおける、n型クラッド層内の断面TEM-EDXのライン分析によるAlNモル分率とGaNモル分率の計測結果を示す図。
図10C図9に示す測定領域Cにおける、n型クラッド層内の断面TEM-EDXのライン分析によるAlNモル分率とGaNモル分率の計測結果を示す図。
図10D図9に示す測定領域Dにおける、n型クラッド層内の断面TEM-EDXのライン分析によるAlNモル分率とGaNモル分率の計測結果を示す図。
図10E図9に示す測定領域Eにおける、n型クラッド層内の断面TEM-EDXのライン分析によるAlNモル分率とGaNモル分率の計測結果を示す図。
図11】n型クラッド層内のCL法によるAlNモル分率の測定領域を示すSEM像。
図12図11に示す各測定領域において測定した10点のCLスペクトルから算出される第1及び第2のCLスペクトルを示す図。
図13】一般的な紫外線発光ダイオードの素子構造の一例を模式的に示した要部断面図。
【発明を実施するための形態】
【0072】
本発明の実施形態に係る窒化物半導体紫外線発光素子(以下、単に「発光素子」と略称する。)につき、図面に基づいて説明する。尚、以下の説明で使用する図面の模式図では、説明の理解の容易のために、要部を強調して発明内容を模式的に示しているため、各部の寸法比は必ずしも実際の素子と同じ寸法比とはなっていない。以下、本実施形態では、発光素子が発光ダイオードの場合を想定して説明する。
【0073】
[第1実施形態]
<発光素子の素子構造>
図4に示すように、本実施形態の発光素子1は、サファイア基板11を含む下地部10と、複数のAlGaN系半導体層21~25、p電極26、及び、n電極27を含む発光素子構造部20とを備える。発光素子1は、実装用の基台(サブマウント等)に発光素子構造部20側(図4における図中上側)を向けて実装される(フリップチップ実装される)ものであり、光の取出方向は下地部10側(図4における図中下側)である。尚、本明細書では、説明の便宜上、サファイア基板11の主面11a(または、下地部10及び各AlGaN系半導体層21~25の上面)に垂直な方向を「上下方向」(または、「縦方向」)と称し、下地部10から発光素子構造部20に向かう方向を上方向、その逆を下方向とする。また、上下方向に平行な平面を「第1平面」と称す。更に、サファイア基板11の主面11a(または、下地部10及び各AlGaN系半導体層21~25の上面)に平行な平面を「第2平面」と称し、該第2平面に平行な方向を「横方向」と称す。
【0074】
下地部10は、サファイア基板11と、サファイア基板11の主面11a上に直接形成されたAlN層12を備えて構成される。サファイア基板11は、主面11aが(0001)面に対して一定の範囲内(例えば、0度から6度程度まで)の角度(オフ角)で傾斜し、主面11a上に多段状のテラスが表出している微傾斜基板である。
【0075】
AlN層12は、サファイア基板11の主面からエピタキシャル成長したAlN結晶で構成され、このAlN結晶はサファイア基板11の主面11aに対してエピタキシャルな結晶方位関係を有している。具体的には、例えば、サファイア基板11のc軸方向(<0001>方向)とAlN結晶のc軸方向が揃うように、AlN結晶が成長する。尚、AlN層12を構成するAlN結晶は、微量のGaやその他の不純物を含んでいてもよいAlN系半導体層であってもよい。本実施形態では、AlN層12の膜厚として、2μm~3μm程度を想定している。尚、下地部10の構造及び使用する基板等は、上述した構成に限定されるものではない。例えば、AlN層12とAlGaN系半導体層21の間に、AlNモル分率が当該AlGaN系半導体層21のAlNモル分率以上のAlGaN系半導体層を備えていてもよい。
【0076】
発光素子構造部20のAlGaN系半導体層21~25は、下地部10側から順に、n型クラッド層21(n型層)、活性層22、電子ブロック層23(p型層)、p型クラッド層24(p型層)、及び、p型コンタクト層25(p型層)を順にエピタキシャル成長させて積層した構造を備えている。
【0077】
本実施形態では、サファイア基板11の主面11aから順番にエピタキシャル成長した下地部10のAlN層12、発光素子構造部20のn型クラッド層21と活性層22内の各半導体層は、サファイア基板11の主面11aに由来する(0001)面に平行な多段状のテラスが形成された表面を有する。尚、p型層の電子ブロック層23、p型クラッド層24、及び、p型コンタクト層25については、活性層22上にエピタキシャル成長により形成されるため、同様の多段状のテラスが形成され得るが、必ずしも同様の多段状のテラスが形成された表面を有していなくてもよい。
【0078】
尚、図4に示すように、発光素子構造部20の内、活性層22、電子ブロック層23、p型クラッド層24、及び、p型コンタクト層25は、n型クラッド層21の上面の第2領域R2上に積層された部分が、エッチング等によって除去され、n型クラッド層21の上面の第1領域R1上に形成されている。そして、n型クラッド層21の上面は、第1領域R1を除く第2領域R2において露出している。n型クラッド層21の上面は、図4に模式的に示すように、第1領域R1と第2領域R2間で高さが異なっている場合があり、その場合は、n型クラッド層21の上面は、第1領域R1と第2領域R2において個別に規定される。
【0079】
n型クラッド層21は、n型AlGaN系半導体で構成され、n型クラッド層21内に、n型クラッド層21内で局所的にAlNモル分率の低い層状領域が一様に分散して存在する。当該層状領域には、上述したように、AlGaN組成比が整数比のAlGaとなっているn型AlGaN領域(つまり、AlNモル分率が50%のn型の準安定AlGaN)を含む第1Ga富化領域21aが、支配的に存在する。図4では、層状領域内において第1Ga富化領域21aが支配的に存在している一例として、層状領域が全て第1Ga富化領域21aとなっている場合を模式的に示している。n型クラッド層21内の層状領域以外の領域を、n型本体領域21bと称す。
【0080】
本実施形態では、n型本体領域21bのAlNモル分率は54%~66%の範囲内に調整されている。n型クラッド層21の膜厚として、一般的な窒化物半導体紫外線発光素子で採用されている膜厚と同様に、1μm~2μm程度を想定しているが、当該膜厚は、2μm~4μm程度であってもよい。以下において、説明を簡潔にするために、第1Ga富化領域21a内に存在するAlGaN組成比が整数比のAlGaとなっている準安定AlGaNのn型AlGaN領域を、便宜的に「準安定n型領域」と称する。また、第1Ga富化領域21a内に存在する準安定n型領域以外のAlNモル分率が50%(2分の1)に対して僅かに変動した領域を「準安定近傍n型領域」と称する。ここで、準安定n型領域は、複数の層状の第1Ga富化領域21a内において、必ずしも層状に連続して存在している必要はなく、準安定近傍n型領域によって分断されて断続的に存在してもよい。
【0081】
活性層22は、GaN系半導体で構成される2層以上の井戸層220と、AlGaN系半導体またはAlN系半導体で構成される1層以上のバリア層221を交互に積層した多重量子井戸構造を備える。最下層の井戸層220とn型クラッド層21の間には、バリア層221を必ずしも設ける必要はない。また、最上層の井戸層220と電子ブロック層23の間に、バリア層221またはバリア層221より薄膜でAlNモル分率の高いAlGaN層またはAlN層を設けても構わない。
【0082】
図5に、活性層22における井戸層220及びバリア層221の積層構造の一例を模式的に示す。図5では、井戸層220が3層の場合を例示する。図5に示される井戸層220及びバリア層221におけるテラスTが多段状に成長する構造は、上記非特許文献1及び2に開示されているように、公知の構造である。隣接するテラスT間の境界領域BAは、上述したように、(0001)面に対して傾斜した傾斜領域となっている。本実施形態では、1つのテラスTの奥行(隣接する境界領域BA間の距離)は数10nm~数100nmが想定される。
【0083】
本実施形態では、井戸層220からの紫外線発光のピーク発光波長が300nm~327nmの範囲内となるように、井戸層220の多段状のテラスの隣接するテラス間の境界領域(傾斜領域)の厚みを、c軸方向に2ユニットセル~4ユニットセルの範囲内で、更に、バリア層221のAlNモル分率を50%~100%の範囲内に調整している。
【0084】
図6は、井戸層がGaNで、バリア層がAlGaNまたはAlNで構成された量子井戸構造モデルに対して、バリア層のAlNモル分率が66.7%(AlGaN)と、100%(AlN)の2通りについて、井戸層の膜厚を4ML(単原子層)~10MLの範囲内で変化させて得られる発光波長のシミュレーション結果(ピーク発光波長に相当)をグラフ化したものである。
【0085】
図6より、井戸層の膜厚が4ML~8ML(2ユニットセル~4ユニットセル)の範囲内では、バリア層のAlNモル分率が大きくなるほど、また、井戸層の膜厚が小さくなるほど、井戸層への量子閉じ込め効果が大きくなり、発光波長が短波長化していることが分かる。また、当該範囲内において、発光波長が、概ね270nm~325nmの範囲で変化することが分かる。従って、発光波長を325nmより僅かに長波長化して327nmとしたい場合は、バリア層のAlNモル分率を66.7%より僅かに小さくすることで実現し得る。図6より、井戸層220の傾斜領域の膜厚を2ユニットセル~4ユニットセルの範囲内、及び、バリア層221のAlNモル分率を50%~100%の範囲内で調整することで、300nm~327nmの範囲内のピーク発光波長が実現し得ることが分かる。
【0086】
井戸層220における紫外線発光は、隣接するテラスT間の境界領域(傾斜領域)BAで顕著に発生するため、井戸層220の膜厚条件は、当該傾斜領域BAにおいて満足することが重要である。尚、井戸層220のテラス領域TAの膜厚は、傾斜領域BAと同様に、2ユニットセル~4ユニットセルの範囲内に調整するのが好ましいが、テラスT上の一部に六角形状の微小な突起部(ヒロック)等が存在し膜厚が部分的に4ユニットセルを超えていてもよい。また、バリア層221の膜厚は、テラス領域TA及び傾斜領域BAを含めて、例えば、6nm~8nmの範囲内で調整するのが好ましい。
【0087】
バリア層221は、上述したように、n型クラッド層21及び井戸層220と同様に、(0001)面に平行な多段状のテラスが形成された表面を有し、更に、n型クラッド層21と同様にAlGaN系半導体で構成される。ここで、バリア層221は、AlNモル分率が100%のAlN系半導体で構成される場合が含まれるが、ピーク発光波長及び井戸層220の傾斜領域の膜厚に応じて、AlNモル分率が100%でないAlGaN系半導体で構成される場合がある。従って、図5に模式的に示すように、バリア層221が、AlNモル分率が100%でないAlGaN系半導体で構成される場合は、n型クラッド層21と同様に、バリア層221内で局所的にAlNモル分率の低い第2Ga富化領域221aが、バリア層221の隣接するテラスT間の境界領域(傾斜領域)BAまたはその近傍に形成され得る。ここで、バリア層221内の第2Ga富化領域221a以外の領域を、便宜的に、バリア本体領域221bと称す。バリア本体領域221bは、主として、バリア層221内のテラス領域TAに存在する。バリア層221の第2Ga富化領域221aを含む全体のAlNモル分率は、一例として、上述した50%~100%の範囲内の一部である50%~90%の範囲内とすると、第2Ga富化領域221aにおけるキャリアの局在化の効果を十分に確保するために、第2Ga富化領域221aとバリア本体領域221bのAlNモル分率差を4~5%以上とするのが好ましいが、1%程度でも、キャリアの局在化の効果は期待し得る。よって、本実施形態では、バリア本体領域221bのAlNモル分率は、51%~90%の範囲内とする。
【0088】
電子ブロック層23は、p型AlGaN系半導体で構成される。p型クラッド層24は、p型AlGaN系半導体で構成される。p型コンタクト層25は、p型AlGaN系半導体またはp型GaN系半導体で構成される。p型コンタクト層25は、典型的にはGaNで構成される。尚、活性層22、電子ブロック層23、p型クラッド層24、及び、p型コンタクト層25等の各層の膜厚は、発光素子1の発光波長特性及び電気的特性に応じて適宜決定される。また、p型クラッド層24は、p型層の寄生抵抗を低減するために省略しても構わない。
【0089】
p電極26は、例えばNi/Au等の多層金属膜で構成され、p型コンタクト層25の上面に形成される。n電極27は、例えばTi/Al/Ti/Au等の多層金属膜で構成され、n型クラッド層21の第2領域R2内の露出面上の一部の領域に形成される。尚、p電極26及びn電極27は、上述の多層金属膜に限定されるものではなく、各電極を構成する金属、積層数、積層順などの電極構造は適宜変更してもよい。図7に、p電極26とn電極27の発光素子1の上側から見た形状の一例を示す。図7において、p電極26とn電極27の間に存在する線BLは、第1領域R1と第2領域R2の境界線を示しており、活性層22、電子ブロック層23、p型クラッド層24、及び、p型コンタクト層25の外周側壁面と一致する。
【0090】
本実施形態では、図7に示すように、第1領域R1及びp電極26の平面視形状は、一例として、櫛形形状のものを採用しているが、第1領域R1及びp電極26の平面視形状及び配置等は、図7の例示に限定されるものではない。
【0091】
p電極26とn電極27間に順方向バイアスを印加すると、p電極26から活性層22に向けて正孔が供給され、n電極27から活性層22に向けて電子が供給され、供給された正孔及び電子の夫々が活性層22に到達して再結合することで発光する。また、これにより、p電極26とn電極27間に順方向電流が流れる。
【0092】
n型クラッド層21の第1Ga富化領域21aは、図4中において、1つの層が2重線で模式的に示されているように、複数層が上下方向に離間して存在する。また、上下方向に平行な1つの第1平面(例えば、図4に示されている断面)で、第1Ga富化領域21aの少なくとも一部の延伸方向が横方向(第1平面と第2平面との交線の延伸方向)に対して傾斜している。尚、図4に示す第1平面上では、第1Ga富化領域21aの各層は、模式的に平行な線(2重線)で図示されているが、該延伸方向と横方向の成す傾斜角は、各第1Ga富化領域21a間で、必ずしも同じではなく、同じ第1Ga富化領域21a内でも位置によって変化し得るため、第1平面上の第1Ga富化領域21aは必ずしも直線状に延伸しているとは限らない。また、該傾斜角は、第1平面の向きによっても変化する。従って、第1Ga富化領域21aの一部が、第1平面上において、他の第1Ga富化領域21aと交差、または、他の第1Ga富化領域21aから分岐することもあり得る。第1Ga富化領域21aの延伸方向と横方向の成す傾斜角が位置によって変化している点、及び、第1Ga富化領域21aがn型クラッド層21内で一様に分散して存在している点は、図8に示すHAADF-STEM像に明確に示されている。
【0093】
また、第1Ga富化領域21aは、図4中の第1平面上では、夫々、1本の線(2重線)で示されているが、該第1平面に垂直な方向にも、第2平面に平行または傾斜して延伸しており、2次元的な広がりを有している。従って、複数の第1Ga富化領域21aは、n型クラッド層21内の複数の第2平面上では、縞状に観察され得る。
【0094】
第1Ga富化領域21aは、上述のように、n型クラッド層21内において局所的にAlNモル分率の低い層状領域である。つまり、第1Ga富化領域21aのAlNモル分率が、n型本体領域21bのAlNモル分率に対して相対的に低くなっている。また、第1Ga富化領域21aとn型本体領域21bの境界近傍において、両領域のAlNモル分率が漸近的に連続している場合、両領域間の境界は明確に規定できない。
【0095】
従って、斯かる場合には、n型クラッド層21全体の平均的なAlNモル分率、例えば、後述するn型クラッド層21の成長条件(有機金属化合物気相成長法で使用する原料ガスやキャリアガスの供給量及び流速)の前提となるAlNモル分率を基準として、AlNモル分率が当該基準値より低い部分を、相対的に第1Ga富化領域21aとして規定することができる。更に、上記規定方法以外にも、例えば、後述するHAADF-STEM像に基いて、明度変化の大きい部分を、両層の境界と規定することもできる。但し、本願発明において、両層の境界の定義自体は重要ではなく、第1Ga富化領域21aの存在自体を把握できれば十分である。
【0096】
実際、第1Ga富化領域21aは、n型本体領域21bからのGaの質量移動に伴い形成されるものであるので、n型本体領域21bからのGaの供給量に応じて、第1Ga富化領域21a内の平均的なAlNモル分率は変化し、第1Ga富化領域21a内においてもAlNモル分率は必ずしも一様ではない。しかし、本実施形態では、第1Ga富化領域21a内に、準安定n型領域が安定的に形成されるため、上記Gaの供給量に少々の変動があっても、当該変動が準安定n型領域によって吸収され、第1Ga富化領域21a内のAlNモル分率の変動は抑制される。このため、個々の第1Ga富化領域21a内のAlNモル分率の極小値は、準安定n型領域のAlNモル分率である50%またはその近傍値となる。但し、上述したように、第1Ga富化領域21a内には、準安定n型領域とともに、準安定近傍n型領域も存在し、準安定近傍n型領域もn型本体領域21bからのGaの質量移動に伴い形成されるため、通常、準安定近傍n型領域のAlNモル分率は、準安定n型領域のAlNモル分率より高くなり、第1Ga富化領域21a内の平均的なAlNモル分率は、準安定n型領域のAlNモル分率より僅かに高くなる。
【0097】
一方、n型本体領域21bは、第1Ga富化領域21aに対してGaを供給することで、n型本体領域21b内のGaが質量移動した後の箇所は相対的にAlNモル分率が高くなる。更に、n型本体領域21b内において、第1Ga富化領域21aの形成に至らない程度のGaの質量移動も発生し得るため、n型本体領域21b内においても、AlNモル分率はある程度変動する。しかし、上述したように、n型クラッド層21内のキャリアは、n型本体領域21bよりバンドギャップエネルギの小さい第1Ga富化領域21a内に局在化し、n型クラッド層21内において電流は優先的に第1Ga富化領域21aを安定的に流れるため、n型本体領域21b内のAlNモル分率が少々変動しても、発光素子1の特性変動は、第1Ga富化領域21aによって抑制される。
【0098】
<発光素子の製造方法>
次に、図4に例示した発光装置1の製造方法の一例について説明する。
【0099】
先ず、有機金属化合物気相成長(MOVPE)法により、下地部10に含まれるAlN層12及び発光素子構造部20に含まれる窒化物半導体層21~25を、サファイア基板11上に順番にエピタキシャル成長させて積層する。このとき、n型クラッド層21にはドナー不純物として例えばSiをドーピングし、電子ブロック層23、p型クラッド層24、及び、p型コンタクト層25にはアクセプタ不純物として例えばMgをドーピングする。
【0100】
本実施形態では、少なくともAlN層12、n型クラッド層21、及び、活性層22(井戸層220、バリア層221)の各表面に(0001)面に平行な多段状のテラスを表出させるために、サファイア基板11は、主面11aが(0001)面に対して一定の範囲内(例えば、0度から6度程度まで)の角度(オフ角)で傾斜し、主面11a上に多段状のテラスが表出している微傾斜基板を使用する。
【0101】
斯かるエピタキシャル成長の条件として、上述の微傾斜基板の(0001)サファイア基板11の使用に加えて、例えば、多段状のテラスが表出し易い成長速度(具体的に例えば、成長温度、原料ガスやキャリアガスの供給量や流速等の諸条件を適宜設定することで、当該成長速度を達成する)等が挙げられる。尚、これらの諸条件は、成膜装置の種類や構造によって異なり得るため、成膜装置において実際に幾つかの試料を作製して、これらの条件を特定すればよい。
【0102】
n型クラッド層21の成長条件として、成長開始直後に、AlN層12の上面に形成された多段状のテラス間の段差部(境界領域)にGaの質量移動によって第1Ga富化領域21aの成長開始点が形成され、引き続き、n型クラッド層21のエピタキシャル成長に伴い、第1Ga富化領域21aが、Gaの質量移動に伴う偏析によって斜め上方に向かって成長できるように、成長温度、成長圧力、及び、ドナー不純物濃度が選択される。
【0103】
具体的には、成長温度としては、Gaの質量移動の生じ易い1050℃以上で、良好なn型AlGaNが調製可能な1150℃以下が好ましい。また、成長温度が1170℃を超えると、Gaの質量移動が過剰となり、第1の準安定AlGaNといえども、AlNモル分率がランダムに変動し易くなるため、AlNモル分率が50%の準安定AlGaNが安定的に形成し辛くなるため、好ましくない。成長圧力としては、75Torr以下が良好なAlGaNの成長条件として好ましく、成膜装置の制御限界として10Torr以上が現実的であり好ましい。ドナー不純物濃度は、1×1018~5×1018cm-3程度が好ましい。尚、上記成長温度及び成長圧力等は、一例であって、使用する成膜装置に応じて適宜最適な条件を特定すればよい。
【0104】
有機金属化合物気相成長法で使用する原料ガス(トリメチルアルミニウム(TMA)ガス、トリメチルガリウム(TMG)ガス、アンモニアガス)やキャリアガスの供給量及び流速は、n型クラッド層21全体の平均的なAlNモル分率Xaを目標値として設定される。ここで、n型本体領域21bの平均的なAlNモル分率をXb(=54%~66%)とし、AlNモル分率が50%の準安定n型領域とAlNモル分率が50%より僅かに高い準安定近傍n型領域の存在する第1Ga富化領域21aの平均的なAlNモル分率をXc(>50%)とし、n型本体領域21bから第1Ga富化領域21aへのGaの質量移動を考慮すると、Xb>Xa>Xcとなるが、n型クラッド層21全体に占める第1Ga富化領域21aの体積比率が小さいため、近似的にXa=Xbとして設定することができる。
【0105】
第1Ga富化領域21a内には、AlNモル分率が50%の準安定n型領域が安定的に存在しており、n型クラッド層21のAlNモル分率の目標値Xaが54%~66%であるので、準安定n型領域のAlNモル分率50%とn型本体領域21bの平均的なAlNモル分率Xbとの差(Xb-50%)は安定的に4%以上が確保され、n型層内のキャリアは、n型本体領域21bよりバンドギャップエネルギの小さい第1Ga富化領域21a内に局在化する。更に、目標値Xaの上限が66%であるので、n型本体領域21b内において、AlGaN組成比がAlGaの準安定AlGaNが支配的に形成されることはない。仮に、目標値Xaの上限が67%以上であると、n型本体領域21b内にAlGaの準安定AlGaNが安定的に形成され、当該AlGaの準安定AlGaNから、第1Ga富化領域内に、AlGaの準安定AlGaN(準安定n型領域)を安定的に形成するためのGaを十分に供給することが困難となる。従って、目標値Xaの上限を66%に設定することで、第1Ga富化領域21aにAlNモル分率が50%の準安定n型領域を安定的に形成することが可能となる。
【0106】
尚、ドナー不純物濃度は、n型クラッド層21の膜厚に対して、必ずしも上下方向に均一に制御する必要はない。例えば、n型クラッド層21内の所定の薄い膜厚部分の不純物濃度が、上記設定濃度より低く、例えば、1×1018cm-3未満、更に好ましくは、1×1017cm-3以下に制御された低不純物濃度層であってもよい。当該低不純物濃度層の膜厚としては、0nmより大きく200nm以下程度が好ましく、10nm以上100nm以下程度がより好ましく、更に、20nm以上50nm以下程度がより好ましい。また、当該低不純物濃度層のドナー不純物濃度は、上記設定濃度より低ければよく、アンドープ層(0cm-3)が一部に含まれていてもよい。更に、該低不純物濃度層の一部または全部は、n型クラッド層21の上面から下方側に100nm以内の深さの上層域に存在することが好ましい。
【0107】
上記要領で、第1Ga富化領域21aとn型本体領域21bを有するn型クラッド層21が形成されると、n型クラッド層21の上面の全面に、引き続き、有機金属化合物気相成長(MOVPE)法等の周知のエピタキシャル成長法により、活性層22(井戸層220、バリア層221)、電子ブロック層23、p型クラッド層24、及び、p型コンタクト層25等を形成する。
【0108】
活性層22の形成において、c軸方向に2ユニットセル~4ユニットセルの範囲内で、紫外線発光のピーク発光波長が300nm~327nmの範囲内となるように予め設定された膜厚となるように、TMAガスを供給せずに、上述した多段状のテラスが表出し易い成長条件で、井戸層220を成長させる。更に、n型クラッド層21と同様の要領で、バリア本体領域221bに対して設定されたAlNモル分率(51%~90%または100%)を目標値として、多段状のテラスが表出し易い成長条件で、バリア層221を成長させる。
【0109】
次に、反応性イオンエッチング等の周知のエッチング法により、上記要領で積層した窒化物半導体層21~25の第2領域R2を、n型クラッド層21の上面が露出するまで選択的にエッチングして、n型クラッド層21の上面の第2領域R2部分を露出させる。そして、電子ビーム蒸着法などの周知の成膜法により、エッチングされていない第1領域R1内のp型コンタクト層25上にp電極26を形成するとともに、エッチングされた第領域R2内のn型クラッド層21上にn電極27を形成する。尚、p電極26及びn電極27の一方または両方の形成後に、RTA(瞬間熱アニール)等の周知の熱処理方法により熱処理を行ってもよい。
【0110】
尚、発光素子1は、一例として、サブマウント等の基台にフリップチップ実装された後、シリコーン樹脂や非晶質フッ素樹脂等の所定の樹脂(例えば、レンズ形状の樹脂)によって封止された状態で使用され得る。
【0111】
<n型クラッド層の断面観察及び組成分析結果>
次に、n型クラッド層21の断面観察用の試料を作製し、該試料からn型クラッド層21の上面に垂直(または略垂直)な断面を有する試料片を収束イオンビーム(FIB)で加工し、該試料片を走査型透過電子顕微鏡(STEM)で観察した結果を、図面を参照して説明する。
【0112】
該試料は、上述したn型クラッド層21等の作製要領に従って、上述のサファイア基板11とAlN層12からなる下地部10上に、n型クラッド層21と、活性層22と、n型クラッド層21より高AlNモル分率のAlGaN層と、試料表面保護用のAlGaN層と、保護用樹脂膜を順番に堆積して作製した。尚、該試料の作製においては、主面が(0001)面に対してオフ角を有するサファイア基板11を用いてAlN層12の表面に多段状のテラスが表出した下地部10を使用した。尚、該試料の作製において、n型クラッド層21の膜厚は2μmとし、n型クラッド層21のAlNモル分率の目標値を58%とした。更に、ドナー不純物濃度が約3×1018cm-3となるように、ドナー不純物(Si)の注入量を制御した。
【0113】
図8に、上記試料片の断面の高角散乱環状暗視野(HAADF)-STEM像を示す。図8は、該試料片のAlN層12の上層部からn型クラッド層21上面までを含むn型クラッド層21の全体を観察するHAADF-STEM像である。
【0114】
HAADF-STEM像は、原子量に比例したコントラストが得られ、重い元素は明るく表示される。よって、n型クラッド層21内の第1Ga富化領域21aとn型本体領域21bは、AlNモル分率の低い第1Ga富化領域21aの方が、n型本体領域21bより明るく表示される。HAADF-STEM像は、通常のSTEM像(明視野像)よりAlNモル分率の差の観察には適している。
【0115】
図8より、n型クラッド層21内に、局所的にAlNモル分率の低い層状領域である複数の第1Ga富化領域21aが上下方向に分散して存在し、第1Ga富化領域21aのそれぞれが、HAADF-STEM像の画面(試料片の断面、第1平面に相当)上において、n型クラッド層21の上面と該第1平面との交線に対して傾斜した方向に延伸していることが分かる。第1Ga富化領域21aのそれぞれは、線状に斜め上方に向けて延伸しているが、必ずしも直線状に延伸しておらず、上記交線に対する傾斜角は、同じ第1Ga富化領域21a内でも位置によって変化していることが分かる。また、図8に示す断面(第1平面に相当)において、第1Ga富化領域21aの一部が、他の第1Ga富化領域21aと交差、または、他の第1Ga富化領域21aから分岐していることも観察される。
【0116】
本実施形態では、上記試料片のn型クラッド層21内の組成分析を2種類の分析方法(エネルギ分散型X線分光法(断面TEM-EDX)のライン分析とCL(カソードルミネッセンス)法)で行った。
【0117】
EDX法による組成分析(EDX測定)では、先ず、図8に示すHAADF-STEM像のほぼ全域をカバーする全体測定領域において、電子線プローブ(直径:約2nm)を縦方向(上下方向)及び横方向(第2平面に平行な方向)に走査して、512×512のマトリクス状に、縦方向及び横方向に約4nm間隔で分布した各プローブ箇所における検出データ(Al及びGaの各組成に対応するX線強度)を取得した。
【0118】
次に、全体測定領域に分散して存在する第1Ga富化領域21aに対して、EDX測定によるライン分析を行うために、図9に示すように、全体測定領域内に概ね正方形状(約420nm×約420nm)の5箇所の測定領域A~Eを設定した。図9は、図8のHAADF-STEM像に、各測定領域A~Eを示す矩形枠を重ねて示している。5箇所の各測定領域は、HAADF-STEM像上で確認された少なくとも1本の第1Ga富化領域21aが横断するように設定されてる。また、各測定領域の傾きは、測定領域内の少なくとも1本の第1Ga富化領域21aの延伸方向が、ライン分析の走査方向と直交するように、測定領域毎に設定されている。測定領域A~Eの各傾き(全体測定領域の縦方向と各測定領域の縦方向の成す角度)は、約20°でほぼ等しいが、厳密には必ずしも同じではない。ここで、全体測定領域の縦方向及び横方向とは別に、図9の各測定領域A~E内において、説明の便宜上、ライン分析の走査方向を縦方向とし、走査方向と直交する方向を横方向とする。各測定領域内に示されている中央の縦線は走査方向を示し、同中央の横線は、上記少なくとも1本の第1Ga富化領域21aが存在していると想定される場所を示し、後述する組成分析結果におけるライン分析の走査位置の原点(0nm)となっている。尚、走査方向を示す縦線には矢印が付されており、AlN層12の方向を指している。尚、走査位置は、中央の縦線上に、上記原点を挟んで上下方向に、約5nm間隔で、測定領域A~E別に、合計が49~88点の範囲内で設定されている。
【0119】
EDX測定では、照射する電子線プローブの直径が約2nmと小さいため、空間分解能は高いが、各プローブ箇所から放射されるX線が微弱であるため、本実施形態のライン分析では、各走査位置において横方向に整列した複数のプローブ箇所から得られる検出データを累積して、各走査位置での検出データとしている。尚、「横方向に整列」するとは、電子線プローブの照射範囲が、各走査位置において上記縦線と交差し横方向に延伸する横線と重なっていることを意味する。
【0120】
従って、或る走査位置において、横方向に整列した複数のプローブ箇所の全てが、第1Ga富化領域21aの準安定n型領域内に位置している場合は、累積された検出データは、準安定n型領域のAlNモル分率を精度良く示すことになる。同様に、或る走査位置において、横方向に整列した複数のプローブ箇所の全てが、n型本体領域21b内に位置している場合は、累積された検出データは、n型本体領域21bのAlNモル分率を精度良く示すことになる。
【0121】
しかし、或る走査位置において、第1Ga富化領域21aの準安定n型領域の延伸方向が、ライン分析の走査方向と正確に直交していない場合、または、第1Ga富化領域21aの準安定n型領域の延伸方向が屈曲等して、直線状でない場合等、横方向に整列した複数のプローブ箇所の一部、または、各プローブ箇所のプローブ範囲(直径約2nm)の一部が、準安定n型領域以外の準安定近傍n型領域内またはn型本体領域21b内に位置している場合は、累積された検出データは、複数のプローブ箇所の平均的なAlNモル分率を示すことになり、準安定n型領域のAlNモル分率より高い値を示す。
【0122】
同様に、或る走査位置において、横方向に整列した複数のプローブ箇所の大半がn型本体領域21b内に位置しているとしても、複数のプローブ箇所の一部、または、各プローブ箇所のプローブ範囲(直径約2nm)の一部が、n型本体領域21b内のGaの質量移動によって生じたAlNモル分率が局所的に低いまたは高い領域、または、n型本体領域21b以外のAlNモル分率が局所的に低い領域(第1Ga富化領域21a以外の層状領域、第1Ga富化領域21a内の準安定n型領域または準安定近傍n型領域)内に位置している場合は、累積された検出データは、複数のプローブ箇所の平均的なAlNモル分率を示すことになり、n型本体領域21bの平均的なAlNモル分率(≒n型クラッド層21のAlNモル分率の目標値)より低いまたは高い値を示す。
【0123】
図10A図10Eに、EDX測定のライン分析により、図9に示す5箇所の測定領域A~Eにおけるn型クラッド層21内の組成分析を行った結果を示す。図10A図10Eに示す各測定領域A~Eの組成分析結果のグラフは、横軸が、各測定領域の中央の縦線に沿った走査位置を示し、縦軸が、AlNモル分率とGaNモル分率の測定結果を示している。横軸の走査位置の0nmは、各測定領域内に示されている中央の横線の位置(少なくとも1本の第1Ga富化領域21aが存在していると想定される場所)を示している。走査位置は、原点(0nm)より下側(AlN層12側)が正値で、上側(活性層22側)が負値で、それぞれ示されている。
【0124】
EDX測定では、上述したように、プローブ箇所から放射されるX線が微弱であるため、各走査位置において横方向にプローブ箇所の検出データ(各組成のX線強度)を累積しても、一般的に測定誤差は大きい。例えば、AlNモル分率が予め確定しているAlN層12のAlNモル分率(100%)を基準に較正を行った場合、各走査位置の検出データの測定誤差は、基準となるAlN層12近傍でも±2~3%程度はあり、更に、AlN層12から遠ざかるに従い、測定精度は更に低下する。このため、本実施形態では、AlN層12から離間した領域においても各走査位置における測定誤差を±2~3%程度に抑制するために、EDX測定に使用した試料片と同じ試料を用いて、ラザフォード後方散乱(RBS)分析法によるn型クラッド層21内のAlとGaの組成分析を行い、当該RBS分析結果を用いて、EDX測定で得られた結果を較正した。図10A図10Eに示す測定領域A~EのAlNモル分率とGaNモル分率は、当該較正した結果を示している。
【0125】
図10Aより、測定領域Aにおいては、走査位置が約-131nm~約-92nmの領域A1と走査位置が約-5nm~約10nmの領域A2に、第1Ga富化領域21aの存在が確認できる。領域A1内の9点の走査位置でのAlNモル分率は、49.4%~52.8%(49%~52%内は6点、49%~51%内は3点)で、領域A1内には、AlNモル分率が50.0%の走査位置も含まれている。領域A2内の4点の走査位置でのAlNモル分率は、51.3%~52.8%(50%~52%内は2点)である。
【0126】
図10Bより、測定領域Bにおいては、走査位置の約-116nm~約-73nmの領域B1と走査位置が約-5nm~約5nmの領域B2に、第1Ga富化領域21aの存在が確認できる。領域B1内の10点の走査位置でのAlNモル分率は、51.3%~52.8%(50%~52%内は4点)である。領域B2内の3点の走査位置でのAlNモル分率は、50.5%~51.9%(50%~52%内は3点)である。
【0127】
図10Cより、測定領域Cにおいては、走査位置の約-140nm~約-111nmの領域C1と走査位置が約-10nm~約48nmの領域C2に、第1Ga富化領域21aの存在が確認できる。領域C1内の7点の走査位置でのAlNモル分率は、51.1%~52.7%(50%~52%内は4点)である。領域C2内の13点の走査位置でのAlNモル分率は、51.1%~52.7%(50%~52%内は9点)である。
【0128】
図10Dより、測定領域Dにおいては、走査位置の約-160nm~約-140nmの領域D1、走査位置の約-73nm~約-58nmの領域D2、走査位置の0nm~約15nmの領域D3、及び、走査位置が約97nm~約106nmの領域D4に、第1Ga富化領域21aの存在が確認できる。領域D1内の5点の走査位置でのAlNモル分率は、49.1%~52.3%(49%~52%内は3点)であり、領域D1内には、AlNモル分率が49.8%の走査位置も含まれている。領域D2内の4点の走査位置でのAlNモル分率は、51.4%~52.7%(50%~52%内は3点)である。領域D3内の4点の走査位置でのAlNモル分率は、51.6%~52.2%(50%~52%内は2点)である。領域D4内の3点の走査位置でのAlNモル分率は、51.0%~51.3%(50%~52%内は3点)である。
【0129】
図10Eより、測定領域Eにおいては、走査位置の約-169nm~約-97nmの領域E1と、走査位置の約-5nm~約5nmの領域E2に、第1Ga富化領域21aの存在が確認できる。領域E1内の16点の走査位置でのAlNモル分率は、50.5%~52.5%(50%~52%内は11点、50%~51%内は6点)である。領域E2内の3点の走査位置でのAlNモル分率は、50.8%~52.6%(50%~52%内は2点)である。
【0130】
以上より、上述した各走査位置における±2~3%程度の測定誤差、及び、第1Ga富化領域21aに関して横方向に整列した複数のプローブ箇所の平均的なAlNモル分率が準安定n型領域のAlNモル分率より高い値を示す可能性を考慮すると、測定領域A~Eの各領域A1、A2、B1、B2、C1、C2、D1~D4、E1、E2の第1Ga富化領域21a内において、AlNモル分率50%の準安定n型領域の存在が確認できる。更に、第1Ga富化領域21aは、n型クラッド層21の上面に近い上方部分の測定領域A及びB、中央部分の測定領域C、AlN層12に近い下方部分の測定領域D及びEのそれぞれに存在し、n型クラッド層21内において一様に分散して存在していることが分かる。
【0131】
更に、図10A図10Eより、測定領域A~Eの各領域A1、A2、B1、B2、C1、C2、D1~D4、E1、E2に隣接するn型本体領域21b内のAlNモル分率が約55%~約58%の範囲内にあることが確認できる。上述したように、EDX測定に使用した試料のn型クラッド層21のAlNモル分率の目標値は58%であるので、各走査位置における±2~3%程度の測定誤差、及び、n型本体領域21bに関して横方向に整列した複数のプローブ箇所の平均的なAlNモル分率がn型本体領域21bの平均的なAlNモル分率より高いまたは低い値を示す可能性を考慮すると、図10A図10Eがn型本体領域21bのAlNモル分率を精度良く表していることが分かる。
【0132】
次に、n型クラッド層21内の第1Ga富化領域21aとn型本体領域21bのAlNモル分率の測定をCL(カソードルミネッセンス)法で行った結果を説明する。測定に使用した試料片は、図8に示すHAADF-STEM像の観察に使用した試料片と同様に作成した。
【0133】
図11は、上記試料片のn型クラッド層21内の断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。該断面内の点線で囲まれた測定領域(a~d)は、それぞれ測定用に照射した電子ビームの入射した領域を示す。測定領域a及びbは、AlN層12の上面から約1000nmの距離に位置し、測定領域c及びdは、AlN層12の上面から約350nmの距離に位置している。各測定領域内において、ビーム径50nm(直径)の電子ビームを横方向に移動し、50nm間隔で各1回、合計10回照射して、各照射でのCLスペクトルを測定した。
【0134】
図12は、各測定領域(a~d)での10個のCLスペクトルの内、波長分布が短波長寄りの2つのCLスペクトルを平均した第1のCLスペクトルと、波長分布が長波長寄りの2つのCLスペクトルを平均した第2のCLスペクトルを、測定領域(a~d)別に表示したものである。
【0135】
各測定領域(a~d)内の10個の電子ビーム中心の両端間の離間距離は450nmであるので、10個の照射領域内には、第1Ga富化領域21aとn型本体領域21bの両方が存在している。n型クラッド層21全体に占める第1Ga富化領域21aの体積比率が小さいため、第1のCLスペクトルは、主として、n型本体領域21bのCLスペクトルを示している。一方、第2のCLスペクトルには、第1Ga富化領域21aのCLスペクトルが含まれているが、第1Ga富化領域21aの延伸方向に垂直な断面での幅が、平均的に約20nm程度であるので、ビーム径50nmの照射範囲内には、n型本体領域21bが部分的に含まれ得る。よって、第2のCLスペクトルは、第1Ga富化領域21aのCLスペクトルとn型本体領域21bのCLスペクトルの合成スペクトルとなっている。しかし、仮に、波長分布が長波長寄りの2つのCLスペクトルの各電子ビームの中心が、第1Ga富化領域21aの幅方向の中央に位置している場合は、照射範囲内の中央部分の電子ビームは、エネルギレベルの低い第1Ga富化領域21aに集まって第1Ga富化領域21aを専ら励起する可能性が高く、第2のCLスペクトルは、主として、第1Ga富化領域21aのCLスペクトルを示すものと考えられる。
【0136】
ここで、第1のCLスペクトルを、波長分布が短波長寄りの2つのCLスペクトルの平均とし、第2のCLスペクトルを、波長分布が長波長寄りの2つのCLスペクトルの平均とした理由は、各測定領域での電子ビームの照射位置はランダムに設定しているため、最も短波長寄りと長波長寄りの各1つのCLスペクトルの照射範囲が、測定領域毎に異なるため、測定結果が測定領域毎に大きくばらつくこと、また、最も短波長寄りと長波長寄りの各1つのCLスペクトルを選別するのが困難な場合があり得ること等を考慮して、測定領域毎のバラツキを抑制するため、波長分布が短波長寄りと長波長寄りの各2つのCLスペクトルを機械的に選択して平均を取ることとした。
【0137】
先ず、各測定領域(a~d)の第1のCLスペクトルについて検討する。測定領域aでは、発光波長のピークが約260nm付近に存在している。測定領域bでは、発光波長の緩やかなピークが約260nm付近と約269nm付近の2箇所に存在している。測定領域cでは、発光波長のピークが約259nm付近に存在している。測定領域dでは、発光波長のピークが約258nm付近に存在している。
【0138】
各測定領域(a~d)の約258nm~約260nmのピーク波長は、AlNモル分率に換算すると、約59%~約61%に相当し、AlNモル分率に換算した約±3%程度の測定誤差を考慮すると、上記第1のCLスペクトルのCL波長とn型本体領域21bの平均的なAlNモル分率Xb(≒目標値58%)と概ね一致している。
【0139】
また、測定領域a、c及びdの第1のCLスペクトルでは、約258nm~約260nmのピーク波長以上の長波長成分は、同ピーク波長未満の短波長成分より多くなっており、各測定領域の第1のCLスペクトルに対応する2つの照射範囲内において、Gaの質量移動が生じていることが分かる。更に、測定領域bの第1のCLスペクトルの約269nmのピーク波長は、AlNモル分率に換算すると、約54%±3%に相当し、第1Ga富化領域21a内に存在するAlNモル分率が50%より僅かに高い準安定近傍n型領域からのCL波長と概ね一致しており、測定領域bの第1のCLスペクトルに対応する2つの照射範囲内の一部に、Gaの質量移動によって形成される第1Ga富化領域21aが含まれていることが分かる。
【0140】
次に、各測定領域(a~d)の第2のCLスペクトルについて検討する。測定領域aでは、発光波長の緩やかなピークが約262nm付近と約270nm付近の2箇所に存在している。測定領域bでは、発光波長の緩やかなピークが約270nm~約273nmの範囲に存在している。測定領域cでは、発光波長の緩やかなピークが約266nm~約269nmの範囲に存在し、更に、全体として台地状のピーク領域が、約261nm~約270nmの範囲に広がっている。測定領域dでは、発光波長の緩やかなピークが約259nm付近と約268nm付近に存在し、更に、全体として台地状のピーク領域が、約258nm~約269nmの範囲に広がっている。
【0141】
測定領域a及びbの約270nm~約273nmのピーク波長は、AlNモル分率に換算すると、約51%~約53%に相当し、AlNモル分率に換算した約±3%程度の測定誤差を考慮すると、第1Ga富化領域21a内に存在するAlNモル分率が50%の準安定n型領域に対応するCL波長(約275nm)と概ね一致している。また、測定領域a及びbの第2のCLスペクトルには、準安定n型領域に対応する約275nmのCL波長が、ピーク強度の約72~78%の発光強度で含まれている。但し、約270nm~約273nmのピーク波長は、準安定n型領域に対応するCL波長(約275nm)より約2~5nm短くなっている。更に、測定領域a及びbの各第2のCLスペクトルでは、発光波長の緩やかなピークまたは肩(起伏)が約262nm付近に存在している。これらは、測定領域a及びbの各第2のCLスペクトルが、第1Ga富化領域21a内の準安定n型領域と当該準安定n型領域より僅かにAlNモル分率の高い準安定近傍n型領域の各CLスペクトルと、n型本体領域21bのCLスペクトルの合成スペクトルとして現れていること示している。更に、測定領域aの第2のCLスペクトルでは、測定領域bと比べて、合成スペクトルに占めるn型本体領域21bのCLスペクトルの割合が大きくなっている。
【0142】
一方、測定領域c及びdの第2のCLスペクトルでは、台地状のピーク領域の長波長端が約269nm~約270nmであり、AlNモル分率に換算すると、約53%~約54%に相当する。AlNモル分率に換算した約±3%程度の測定誤差を考慮すると、第1Ga富化領域21a内に存在するAlNモル分率が50%の準安定n型領域に対応するCL波長(約275nm)と概ね一致している。また、測定領域c及びdの第2のCLスペクトルには、準安定n型領域に対応する約275nmのCL波長が、ピーク強度の約49~55%の発光強度で含まれている。これらは、測定領域c及びdの各第2のCLスペクトルが、測定領域a及びbと同様に、第1Ga富化領域21a内の準安定n型領域と準安定近傍n型領域の各CLスペクトルと、n型本体領域21bのCLスペクトルの合成スペクトルとして現れていること示している。測定領域c及びdの第2のCLスペクトルでは、測定領域a及びbと比べて、合成スペクトルに占めるn型本体領域21bのCLスペクトルの割合、及び、第1Ga富化領域21a内での準安定近傍n型領域の割合が、大きくなっている。
【0143】
以上、図12に示す各測定領域a~dにおける第1のCLスペクトルより、n型本体領域21bのAlNモル分率は、n型クラッド層21のAlNモル分率の目標値58%とほぼ一致していることが分かる。更に、各測定領域a~dにおける第2のCLスペクトルより、第1Ga富化領域21aには、AlNモル分率が50%の準安定n型領域が含まれていると同時に、準安定n型領域よりAlNモル分率の高い準安定近傍n型領域が存在していることが分かる。また、図12に示す各測定領域a~dにおける第1及び第2のCLスペクトルに示される分析結果は、分析法の違いによる空間分解能等に差があるものの、図10A図10Eに示されるEDX測定による分析結果と良く符合している。
【0144】
尚、図12に示す各測定領域a~dにおける第2のCLスペクトルからは、第1Ga富化領域21a内における準安定n型領域の存在比率が、n型クラッド層21内の位置に依存して変化する傾向が見受けられるが、不確定な部分も多いため詳細な検討は省略する。
【0145】
ここで、仮に、n型クラッド層21内のAlN層12に近い領域で準安定n型領域の存在比率が小さくなっているとしても、本発明の効果を必ずしも低減するものではない。上述したように、n型クラッド層21内のキャリア(電子)が第1Ga富化領域21a内に局在化することで、n型クラッド層21内において電流は優先的に第1Ga富化領域を安定的に流れることができ、発光素子の特性変動の抑制が図れる。しかし、発光領域である活性層22は、n型クラッド層21の上側に位置するので、上記局在化の効果は、n型クラッド層21の活性層22と接する上面近傍において顕著となる。従って、n型クラッド層21内のAlN層12に近い領域で上記局在化が不十分であっても、発光素子の特性変動の抑制は同様に図ることができる。更に、図4に示す素子構造では、順方向電流は、n型クラッド層21内の下層側より上層側を多く流れるため、n型クラッド層21内のAlN層12に近い領域で上記局在化が不十分であることの影響は殆ど無いと考えられる。
【0146】
[第2実施形態]
上記第1実施形態では、バリア層221が、AlNモル分率が100%でないAlGaN系半導体で構成される場合において、一例として、バリア層221の第2Ga富化領域221aを含む全体のAlNモル分率を50%~90%の範囲内とし、バリア本体領域221bのAlNモル分率を51%~90%の範囲内とし、第2Ga富化領域221aにおけるキャリアの局在化の効果を確保するために、第2Ga富化領域221aとバリア本体領域221bのAlNモル分率差を1%以上とすることを示した。
【0147】
第2実施形態では、第1実施形態におけるn型クラッド層21の第1Ga富化領域21aと同様に、バリア層221の第2Ga富化領域221aも、準安定AlGaNで構成するのが好ましい。ここで、バリア層221全体のAlNモル分率が50%~90%の範囲内であるので、第2Ga富化領域221aに適用可能な第1の準安定AlGaNは、AlGaN組成比が整数比のAlGa、AlGa、または、AlGaとなる。また、第2の準安定AlGaNのAlGa12とAlGaも第2Ga富化領域221aに適用可能と考えられるが、敢えて使用するのであれば、より安定度の高いAlGaが好ましい。尚、第2の準安定AlGaNのAl11Ga12は、Alの組成比が高過ぎるため、移動し易いGaが対称配列となるサイトに入るまでに、量的に多いAlがランダムにサイトに入ることで、AlとGaの原子配列が対称配列とならない可能性が高くなり、AlとGaの原子配列はランダムな状態に近くなり、上述の安定度が低下するため、第2Ga富化領域221aには適用困難と考えられる。
【0148】
第2Ga富化領域221aを準安定AlGaNのAlGa、AlGa、AlGa、または、AlGaで構成する場合、バリア本体領域221bのAlNモル分率は、第2Ga富化領域221aの4通りのAlNモル分率に各別に対応して、51%~66%、68%~74%、76%~82%、または、85%~90%の各範囲内とするのが好ましい。ここで、第2Ga富化領域221aを準安定AlGaNのAlGaで構成する場合において、安定度の低いAl11Ga12がランダムに混在するのを防止するために、バリア本体領域221bのAlNモル分率は90%を超えないように設定するのが好ましい。
【0149】
バリア層221の第2Ga富化領域221a及びバリア本体領域221bの製造方法は、上述したように、n型クラッド層21と同様の要領で、バリア本体領域221bに対して設定されたAlNモル分率を目標値として、多段状のテラスが表出し易い成長条件で、バリア層221を成長させる。
【0150】
第2Ga富化領域221a内に第1の準安定AlGaNであるAlGaを成長させる場合、n型クラッド層21のAlNモル分率の目標値Xaと同様に、バリア層221のAlNモル分率の目標値Xdを51%~66%の範囲内に設定する。同様の要領で、第2Ga富化領域221a内に第1の準安定AlGaNであるAlGaを成長させる場合は、バリア層221のAlNモル分率の目標値Xdを68%~74%の範囲内に設定し、第2Ga富化領域221a内に第2の準安定AlGaNであるAlGaを成長させる場合は、バリア層221のAlNモル分率の目標値Xdを76%~82%の範囲内に設定し、第2Ga富化領域221a内に第1の準安定AlGaNであるAlGaを成長させる場合は、バリア層221のAlNモル分率の目標値Xdを85%~90%の範囲内に設定する。
【0151】
従って、バリア層221のAlNモル分率の目標値Xdは、第2Ga富化領域221a内に形成する準安定AlGaN(目標準安定AlGaN)のAlNモル分率より1%以上、当該目標準安定AlGaNよりAlNモル分率の大きい直近の準安定AlGaNのAlNモル分率未満の範囲内に設定されている。このため、n型クラッド層21の第1Ga富化領域21aと同様に、第2Ga富化領域221a内に目標準安定AlGaNを安定的に形成することができるとともに、第2Ga富化領域221aとバリア本体領域221bのAlNモル分率差として1%以上が確保され、バリア層221内のキャリアは、バリア本体領域221bよりバンドギャップエネルギの小さい第2Ga富化領域221aに局在化する。
【0152】
第2Ga富化領域221aを安定度の高い準安定AlGaNで構成することにより、結晶成長装置のドリフト等に起因する混晶モル分率の変動が抑制され、バリア層221内においてキャリアの局在化が起こる第2Ga富化領域221aが、使用する準安定AlGaNに対応するAlNモル分率で安定的に形成される。この結果、n型クラッド層21内と同様に、バリア層221内においても、電流は優先的に第2Ga富化領域221aを安定的に流れることができ、更に、発光素子1の特性変動の抑制が図れる。
【0153】
[別実施形態]
以下に、上記第1及び第2実施形態の変形例について説明する。
【0154】
(1)上記第1及び第2実施形態では、活性層22は、GaN系半導体で構成される2層以上の井戸層220と、AlGaN系半導体またはAlN系半導体で構成される1層以上のバリア層221を交互に積層した多重量子井戸構造で構成されている場合を想定したが、活性層22は、井戸層220が1層だけの単一量子井戸構造であり、バリア層221(量子バリア層)を備えない構成としても良い。斯かる単一量子井戸構造に対しても、上記各実施形態で採用したn型クラッド層21による効果は同様に奏し得ることは明らかである。
【0155】
(2)上記実施形態では、n型クラッド層21の成長条件の一例として、有機金属化合物気相成長法で使用する原料ガスやキャリアガスの供給量及び流速は、n型クラッド層21を構成するn型AlGaN層全体の平均的なAlNモル分率に応じて設定されると説明した。つまり、n型クラッド層21全体の平均的なAlNモル分率が、上下方向に一定値に設定されている場合は、上記原料ガス等の供給量及び流速は一定に制御される場合を想定した。しかし、上記原料ガス等の供給量及び流速は必ずしも一定に制御されなくてもよい。
【0156】
(3)上記実施形態では、第1領域R1及びp電極26の平面視形状は、一例として、櫛形形状のものを採用しが、該平面視形状は、櫛形形状に限定されるものではない。また、第1領域R1が複数存在して、夫々が、1つの第2領域R2に囲まれている平面視形状であってもよい。
【0157】
(4)上記実施形態では、主面が(0001)面に対してオフ角を有するサファイア基板11を用いてAlN層12の表面に多段状のテラスが表出した下地部10を使用する場合を例示したが、当該オフ角の大きさや、オフ角を設ける方向(具体的には、(0001)面を傾ける方向であり、例えばm軸方向やa軸方向等)は、AlN層12の表面に多段状のテラスが表出して、第1Ga富化領域21aの成長開始点が形成される限りにおいて、任意に決定してもよい。
【0158】
(5)上記実施形態では、発光素子1として、図1に例示するように、サファイア基板11を含む下地部10を備える発光素子1を例示しているが、サファイア基板11(更には、下地部10に含まれる一部または全部の層)をリフトオフ等により除去してもよい。更に、下地部10を構成する基板は、サファイア基板に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明は、活性層がGaN系半導体で構成された1層以上の井戸層を含む量子井戸構造を有するピーク発光波長が300nm~327nmの範囲内にある窒化物半導体紫外線発光素子に利用可能である。
【符号の説明】
【0160】
1: 窒化物半導体紫外線発光素子
10: 下地部
11: サファイア基板
11a: サファイア基板の主面
12: AlN層
20: 発光素子構造部
21: n型クラッド層(n型層)
21a: 第1Ga富化領域(n型層)
21b: n型本体領域(n型層)
22: 活性層
220: 井戸層
221: バリア層
221a: 第2Ga富化領域
221b: バリア本体領域
23: 電子ブロック層(p型層)
24: p型クラッド層(p型層)
25: p型コンタクト層(p型層)
26: p電極
27: n電極
100: 基板
101: AlGaN系半導体層
102: テンプレート
103: n型AlGaN系半導体層
104: 活性層
105: p型AlGaN系半導体層
106: p型コンタクト層
107: n電極
108: p電極
BL: 第1領域と第2領域の境界線
BA: 境界領域(傾斜領域)
R1: 第1領域
R2: 第2領域
T: テラス
TA: テラス領域
図1
図2
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図10A
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