(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】電子制御装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/20 20060101AFI20231220BHJP
F01N 11/00 20060101ALI20231220BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20231220BHJP
B60K 6/485 20071001ALI20231220BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20231220BHJP
B60W 10/30 20060101ALI20231220BHJP
B60W 20/16 20160101ALI20231220BHJP
【FI】
F01N3/20 K
F01N11/00
B01D53/94 ZAB
B60K6/485 ZHV
B60W10/08 900
B60W10/30 900
B60W20/16
(21)【出願番号】P 2022532280
(86)(22)【出願日】2021-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2021004716
(87)【国際公開番号】W WO2021260999
(87)【国際公開日】2021-12-30
【審査請求日】2022-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2020108561
(32)【優先日】2020-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 広人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 邦彦
【審査官】木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-231709(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140211(WO,A1)
【文献】特開2015-202832(JP,A)
【文献】特開平5-328521(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/20
F01N 11/00
B01D 53/94
B60K 6/485
B60W 10/08
B60W 10/30
B60W 20/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、前記内燃機関をモータリング可能な電動機と、前記内燃機関の排気通路に設置され、通電することにより加熱する機能を有し、排気ガスを浄化する触媒と、前記触媒の下流に設置された下流温度センサと、を備えたエンジンシステムを制御する電子制御装置において、
前記内燃機関を前記電動機によりモータリングさせる制御部と、
前記内燃機関をモータリングした際の前記下流温度センサの検出情報に基づいて前記触媒の温度を推定する第1の推定処理を実施する推定部と、を有する
電子制御装置。
【請求項2】
前記推定部は、前記内燃機関の始動前、且つ、前記第1の推定処理を実施する前に、前回の電源遮断時の前記触媒の推定温度と前回の電源遮断時からの経過時間から前記触媒の温度を推定する第2の推定処理を実施する
請求項1に記載の電子制御装置。
【請求項3】
前記推定部は、前記第2の推定処理により推定した初期推定温度が、所定の温度範囲外であるときは、前記第1の推定処理により前記触媒の温度を推定する
請求項2に記載の電子制御装置。
【請求項4】
前記推定部は、前回の電源遮断時の前記触媒の推定温度、又は、前回の電源遮断時からの経過時間が不定の場合は、前記初期推定温度を所定の温度範囲外となるように推定する
請求項3に記載の電子制御装置。
【請求項5】
前記推定部は、前記第2の推定処理により推定した初期推定温度が、所定の温度範囲内であるときは、前記触媒の抵抗値に基づいて前記触媒の温度を推定する第3の推定処理を実施する
請求項2に記載の電子制御装置。
【請求項6】
前記推定部は、前記第1の推定処理または前記第3の推定処理を実施した後、前記触媒の温度変化の推定値を積算することで前記触媒の温度を推定する第4の推定処理を実施する
請求項5に記載の電子制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、前記第4の推定処理を実施した後、前記内燃機関が所定時間連続して停止している場合に、前記内燃機関をモータリングし、
前記推定部は、当該内燃機関をモータリングした際に前記第1の推定処理を実施する
請求項6に記載の電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気管には、排気ガスを浄化するための触媒が設けられている。内燃機関の始動直後は、触媒の温度が低いことがあり、触媒は、温度が低いと効果を発揮しない。したがって、内燃機関の始動直後は、浄化されない排気ガスが大気に放出されることがある。また、内燃機関の停止中は、触媒の温度を維持できない。そのため、ハイブリッド車であっても、触媒の温度を維持するために内燃機関を停止できないという問題があった。
【0003】
そこで、内燃機関の停止中であっても触媒の温度を維持するために、電流を流して加熱することのできる電気加熱式触媒(Electrically Heated Catalyst、以下、「EHC」と称する)の搭載が検討されている。特許文献1には、EHCの制御システムが開示されている。特許文献1に開示されたEHCの制御システムは、EHCの抵抗値に温度依存性があることを前提として、通電時の電圧・電流から求めた抵抗値を用いてEHCの温度を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、EHCは、材質によって温度の変化に対する抵抗値の変化が小さいものもある。そのため、電圧・電流の測定誤差や特性のばらつきが生じると、抵抗値からEHCの温度を特定することが困難になる。
【0006】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであり、EHCの温度を高精度に推定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の電子制御装置は、内燃機関と、内燃機関をモータリング可能な電動機と、内燃機関の排気通路に設置され、通電することにより加熱する機能を有し、排気ガスを浄化する触媒と、触媒の下流に設置された下流温度センサと、を備えたエンジンシステムを制御する。電子制御装置は、内燃機関を電動機によりモータリングさせる制御部と、内燃機関をモータリングした際の下流温度センサの検出情報に基づいて触媒の温度を推定する第1の推定処理を実施する推定部とを有する。
【発明の効果】
【0008】
上記構成の電子制御装置によれば、EHCの温度を高精度に推定できる。
なお、上述した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電子制御装置が制御対象とするシステム全体の概略構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る電子制御装置の機能ブロックの構成例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る電子制御装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【
図4】触媒温度Tと触媒抵抗Rとの相関特性(温度-抵抗特性)を示すグラフである。
【
図5】電子制御装置の電源投入時処理の例を示すフローチャートである。
【
図6】前回最終推定値とECU休止時間によるEHC温度の推定を説明する図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る電子制御装置が周期的に行う処理の例を示すフローチャートである。
【
図8】本発明の一実施形態に係る電子制御装置によるEHC温度推定処理の例を示すフローチャートである。
【
図9】吸気温度、EHC下流温度、及びEHC温度の関係を説明する図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係る電子制御装置によるEHC通電制御処理の例を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の一実施形態に係る電子制御装置によるEHC温度制御に係る動作を説明する図(その1)である。
【
図12】本発明の一実施形態に係る電子制御装置によるEHC温度制御に係る動作を説明する図(その2)である。
【
図13】本発明の一実施形態に係る電子制御装置によるEHC温度制御に係る動作を説明する図(その3)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
1.実施形態
以下、本発明の一実施形態に係る電子制御装置について、
図1~
図12を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0011】
[電子制御装置が制御対象とするシステム構成]
まず、本発明の一実施形態に係る電子制御装置が制御対象とするエンジンシステム全体の構成例について説明する。
図1は、電子制御装置が制御対象とするシステム全体の概略構成図である。
【0012】
電子制御装置が制御対象とするシステムは、内燃機関1、電動発電機2、トランスミッション3、ECU(Electronic Control Unit)4、EHC5、バッテリ6、EHC電流遮断装置7、電動発電機制御回路8、電圧・電流センサ9、触媒下流温度センサ10、回転センサ11、吸気温度センサ12を備えている。
【0013】
内燃機関1には、回転センサ11が設けられている。回転センサ11は、内燃機関1に設けられたクランクシャフトの回転と位相を検出する。また、内燃機関1には、吸気流路13および排気流路14が連通している。吸気流路13には、吸気圧センサ15、吸気温度センサ12が設置されている。吸気圧センサ15は、吸気流路13に流入する空気の量(流入量)を検出する。吸気温度センサ12は、吸気流路13に流入する空気の温度を検出する。
【0014】
排気流路14には、EHC5、触媒下流温度センサ10が設置されている。EHC5には、電極が設置されている。EHC5は、電極間に電流を流すことで発熱し、排気ガス中の有害物質を浄化する。触媒下流温度センサ10は、EHC5の下流に配置されている。
触媒下流温度センサ10は、EHC5を通過した空気の温度を検出する。
【0015】
電動発電機2は、内燃機関1とトランスミッション3との間に設けられている。電動発電機2は、電動発電機制御回路8により制御される。電動発電機2は、内燃機関1を駆動する。また、電動発電機2は、内燃機関1の始動後に発電運転を行う。電動発電機2により発電された電力(発電電力)は、高圧用のバッテリ6に充電される。電動発電機2は、バッテリ6から電力が供給されることにより、駆動力を発生させる。トランスミッション3は、内燃機関1の駆動力、電動発電機2の駆動力、又は内燃機関1と電動発電機2の駆動力を適切なトルクと回転速度に変速する。
【0016】
ECU4は、本発明の電子制御装置の一具体例を示す。ECU4は、各種のデータ処理を実行する演算回路である。ECU4は、回転センサ11、電圧・電流センサ9、触媒下流温度センサ10、吸気温度センサ12の検出情報に基づいて、EHC電流遮断装置7を制御する。EHC電流遮断装置7は、EHC5に対する通電のON・OFFを切り替える。電圧・電流センサ9は、EHC5に供給する電力の電圧及び電流を検出する。
【0017】
ECU4は、電動発電機制御回路8にモータリング要求を出力する。電動発電機制御回路8は、モータリング要求を受けると、電動発電機2を制御し、電動発電機2の駆動力によって内燃機関を回転駆動させる。さらに、ECU4には、図示しない各種センサと、図示しない各種アクチュエータが接続されている。ECU4は、図示しない各種センサの検出情報に基づいて、図示しない各種アクチュエータの駆動を制御し、内燃機関1の出力を制御する。
【0018】
[ECUの機能ブロックの構成例]
次に、ECU4の機能構成例について説明する。
図2は、ECU4の機能ブロックの構成例を示す図である。
【0019】
ECU4は、推定部41及び制御部42を備える。
推定部41は、エンジンシステムに設けられた様々なセンサ(例えば、電圧・電流センサ9、触媒下流温度センサ10、吸気温度センサ12等)の検出情報を取得して、EHC5の温度(以下、「EHC温度」と称する)を推定する。
【0020】
制御部42は、推定部41により推定されたEHC温度に基づいて、EHC5に対する通電を制御する。また、制御部42は、内燃機関1をモータリングさせるための指令を出す。電動発電機制御回路8にモータリング要求を出力する。このため、制御部42は、EHC電流遮断装置7及び電動発電機制御回路8に制御信号を出力する。
【0021】
[ECUのハードウェア構成]
次に、ECU4のハードウェア構成例について説明する。
図3は、ECU4のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【0022】
ECU4は、A/D変換部52、中央演算装置であるCPU(Central Processing Unit)53、ROM(Read Only Memory)54、RAM(Random Access Memory)55、タイマ回路56及びドライバ回路57を備えている。CPU53は、ROM54(記憶部の一例)に格納されたプログラムをRAM55に展開して実行することで前述した機能を実現する。ECU4は、例えばマイクロコンピューターにより構成される。
【0023】
A/D変換部52は、センサ類から出力された信号がアナログ信号50の場合に、デジタル信号に変換し、CPU53に出力する。CPU53は、A/D変換部52から出力されたデジタル信号を取り込み、ROM54等の記憶媒体に記憶された制御ロジック(プログラム)を実行することによって、多種多様な演算、診断及び制御等を実行する。なお、CPU53の演算結果、及びA/D変換部52の変換結果は、RAM55に一時的に記憶される。
【0024】
本実施形態では、ROM54として、内容の書き換えが可能なEEPROM(Electrically Erasable and Programmable Read Only Memory)等の不揮発メモリを用いている。
ROM54には、内燃機関1が停止する前に最後に推定されたEHC5の推定温度が記憶される。
【0025】
CPU53の演算結果は、ドライバ回路57から制御信号58として出力される。これにより、CPU53の演算結果は、EHC電流遮断装置7及び電動発電機制御回路8等の制御対象の制御に用いられる。また、CPU53は、タイマ回路56を用いて、ECU4が休止してから電源が投入されるまでの経過時間(ECU休止時間)の計時を行う。
【0026】
入力信号がデジタル信号51の場合は、直接CPU53に送られる。CPU53は、必要な演算、診断及び制御等を実行する。例えば、回転センサ11、不図示の吸気カム角センサ及び排気カム角センサの信号は、High/Low信号として、CPU53へ送られる。
【0027】
[EHCの温度と触媒抵抗との相関特性]
次に、触媒温度Tと触媒抵抗Rとの相関特性について説明する。
図4は、触媒温度Tと触媒抵抗Rとの相関特性(温度-抵抗特性)を示すグラフである。
【0028】
図4に示すように、EHC5の温度である触媒温度Tと、EHC5の抵抗値である触媒抵抗値Rとは相関がある。触媒温度Tと触媒抵抗値Rの相関特性を示すグラフの傾きは、温度により異なる。傾きの大きい領域では、触媒抵抗値Rの測定誤差やばらつきが生じても、算出する触媒温度Tの誤差が小さい。したがって、傾きの大きい領域では、触媒抵抗値Rに基づいて算出した触媒温度Tを用いてEHC5の通電制御を行うことが可能である。
【0029】
一方、傾きの小さな領域では、触媒抵抗値Rの測定誤差やばらつきにより、算出する触媒温度Tの誤差が大きくなる。したがって、傾きの小さな領域において、触媒抵抗値Rに基づいて算出した触媒温度Tを用いてEHC5の通電制御を行うと、EHC5の昇温不足や過昇温となる恐れがある。
【0030】
[電源投入時処理]
次に、ECU4の電源投入時処理について説明する。
図5は、ECU4の電源投入時処理の例を示すフローチャートである。
【0031】
まず、ECU4に電源が投入されると、ECU4は、ECU4の休止時間を読み込む(S301)。この処理において、ECU4は、タイマ回路56を用いて、ECU4が休止してから電源が投入されるまでの経過時間(以下、「ECU休止時間」と称する)の計時し、その計時結果を取得する。
【0032】
次に、ECU4は、前回のECU4の動作中に最後に推定したEHC5の推定温度(以下、「前回最終推定値」と称する)を読み込む(S302)。前回最終推定値、例えば、不揮発性ストレージに保存されている。不揮発性ストレージとしては、例えば、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)、フレキシブルディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R、磁気テープ又は不揮発性のメモリ等が用いられる。次に、ECU4は、ECU休止時間と前回最終推定値によりEHC温度Teを推定する(S303)。
【0033】
S303におけるEHC温度Teの推定は、本発明に係る第2の推定処理に対応する。
また、S303において推定されたEHC温度Teは、本発明に係る初期推定温度に対応する。S303におけるEHC温度Teの推定は、前回最終推定値、ECU休止時間、EHC温度の関係から算出する。
図6は、前回最終推定値とECU休止時間によるEHC温度の推定を説明する図である。
図6に示すように、前回最終推定値が高いほど、推定するEHC温度Teが高くなる。また、ECU休止時間が短いほど、推定するEHC温度Teが高くなる。
【0034】
次に、ECU4は、S303において推定したEHC温度Teに基づいて、測温用の通電が可能であるか否かを判定する(S304)。この処理において、ECU4は、推定したEHC温度Teが予め定められた所定の温度範囲内である場合に、測温用の通電が可能である(YES)と判定する。また、ECU4は、推定されたEHC温度が予め定められた所定の温度範囲外である場合に、測温用の通電が可能でない(NO)と判定する。
【0035】
所定の温度範囲は、
図4を用いて説明した傾きの大きい領域に応じて決定する。すなわち、S304の処理では、触媒抵抗値Rに基づいて算出する触媒温度Tの誤差が小さくなる場合は、EHC5に通電して、触媒抵抗値Rに基づいて触媒温度Tを算出することを決定する。一方、触媒抵抗値Rに基づいて算出する触媒温度Tの誤差が大きくなる場合は、触媒抵抗値Rに基づいた触媒温度Tの算出を行わない(別の推定を行う)ことを決定する。
【0036】
S304において、測温用の通電が可能であると判定したとき(S304がYES判定の場合)、ECU4は、EHC5への通電を開始する(S305)。この処理が終了すると、ECU4は、電源投入時処理を終了する。一方、S304において、測温用の通電が可能でないと判定したとき(S304がNO判定の場合)、ECU4は、電動発電機制御回路8に対して測温用モータリングを要求する(S306)。S306の処理後、ECU4は、電源投入時処理を終了する。
【0037】
なお、不揮発性ストレージの異常などによって前回最終推定値あるいはECU休止時間が不定の場合は、EHC温度Teを所定の温度範囲外となるように推定する。これにより、S304がNO判定となり、測温用の通電が禁止され、モータリングによる温度推定が行われる。その結果、EHC5の過昇温を防止して、EHC5の溶損を抑制することができる。
【0038】
[周期処理]
次に、ECU4の周期処理について説明する。
図7は、ECU4が周期的に行う処理の例を示すフローチャートである。
【0039】
ECU4の周期処理は、例えば0.1秒毎に行われる。まず、ECU4は、各種センサの検出情報を取得する(S501)。各種センサの検出情報としては、回転センサ11により検出される回転速度Ne、吸気圧センサ15により検出される吸気管圧力Pm、吸気温度センサ12により検出される吸気温度Taがある。さらに、各種センサの検出情報としては、触媒下流温度センサ10により検出されるEHC下流温度Td、電圧・電流センサ9により検出される電圧Vb及び電流Ieがある。
【0040】
次に、ECU4は、EHC温度推定処理を行う(S502)。S502の処理において、ECU4は、EHC5の抵抗値に基づいてEHC5の温度を推定したり、EHC下流温度Tdに基づいてEHC5の温度を推定したりする。EHC温度推定処理については、後で
図8を参照して詳しく説明する。
【0041】
次に、ECU4は、EHC通電制御処理を行う(S503)。S503の処理において、ECU4は、S502の処理において推定したEHC5の推定温度(EHC推定温度)と、EHC5の目標温度に基づいてEHC5の通電を制御する(通電のON・OFFを行う)。EHC通電制御処理については、後で
図10を参照して詳しく説明する。
【0042】
[EHC温度推定処理]
次に、EHC温度推定処理について説明する。
図8は、ECU4によるEHC温度推定処理の例を示すフローチャートである。
【0043】
まず、ECU4は、電圧Vb及び電流IeからEHC5の抵抗値(EHC抵抗値Re)を算出する(S601)。次に、ECU4は、算出したEHC抵抗値ReからEHC5の温度を推定可能であるか否かを判定する(S602)。
【0044】
S602において、ECU4は、EHC抵抗値ReがEHC温度と相関のある所定範囲内であり、且つ、算出したEHC抵抗値Reの変動が小さく安定している場合に、EHC抵抗値ReからEHC5の温度を推定可能である(YES)と判定する。上記の2つの条件の少なくとも一方を満たせない場合に、ECU4は、EHC抵抗値ReからEHC5の温度を推定可能でない(NO)と判定する。
【0045】
S602において、EHC抵抗値ReからEHC5の温度を推定可能であると判定したとき(S602がYES判定の場合)、ECU4は、EHC抵抗値ReからEHC温度Teを推定する(S603)。S603におけるEHC温度Teの推定は、本発明に係る第3の推定処理に対応する。このEHC温度Teの推定は、温度-抵抗特性のテーブルを予めROM54に記憶しておき、これを検索することで行う。S603の処理後、ECU4は、後述のS611の処理を行う。
【0046】
S602において、EHC抵抗値ReからEHC5の温度を推定可能でないと判定したとき(S602がNO判定の場合)、ECU4は、モータリング中であるか否かを判定する(S604)。S604において、モータリング中でないと判定したとき(S604がNO判定の場合)、ECU4は、後述のS608の処理を行う。
【0047】
S604において、モータリング中であると判定したとき(S604がYES判定の場合)、ECU4は、回転速度Neが所定値以上、且つ、回転速度Neの変動が小さいか否かを判定する(S605)。S605において、回転速度Neが所定値以上、且つ、回転速度Neの変動が小さいではないと判定したとき(S605がNO判定の場合)、ECU4は、後述のS608の処理を行う。
【0048】
S605において、回転速度Neが所定値以上、且つ、回転速度Neの変動が小さいと判定したとき(S605がYES判定の場合)、ECU4は、EHC下流温度TdからEHC温度Teを推定する(S606)。S606におけるEHC温度Teの推定は、本発明に係る第1の推定処理に対応する。このEHC温度Teの推定は、予めROM54に記憶したEHC下流温度Td、吸気温度Ta、EHC温度Teの関係から算出する。
【0049】
図7は、EHC下流温度Td、吸気温度Ta、及びEHC温度Teの関係を説明する図である。
図7に示すように、吸気温度Taが低いほど、推定するEHC温度Teが高くなる。また、EHC下流温度Tdが高いほど、推定するEHC温度Teが高くなる。S606の処理後、ECU4は、測温用モータリング要求を解除する(S607)。
【0050】
一方、S604、S605がNO判定の場合、ECU4は、EHC5の温度変化からEHC温度Teを推定する(S608)。S608におけるEHC温度Teの推定は、本発明に係る第4の推定処理に対応する。このEHC温度Teの推定は、まず、EHC5の温度変化分を推定する。EHCの温度変化分は、具体的には、排気ガスとの熱交換、外気への放熱、触媒の反応熱、通電による加熱である。次に、これらEHCの温度変化分を既に推定されたEHC温度Te(前回推定したEHC温度Te)に対して加算することでEHC温度Teを推定する。
【0051】
なお、内燃機関1の停止中におけるEHC5の温度変化分は、外気への放熱、及び通電による加熱のみとなる。また、同時にEHC下流温度Tdを推定し、実測値と比較することで、EHC温度Teを修正してもよい。EHC下流温度Tdの推定は、EHC5に入る前の排気ガスの温度と、前回推定したEHC温度Teに基づいて算出する。
【0052】
次いで、ECU4は、内燃機関1の停止継続時間が所定値に達したか否かを判定する(S609)。S609において、内燃機関1の停止継続時間が所定値に達してないと判定したとき(S609がNO判定の場合)、ECU4は、後述のS611の処理を行う。
【0053】
S609において、内燃機関1の停止継続時間が所定値に達したと判定したとき(S609がYES判定の場合)、ECU4は、測温用モータリングを電動発電機制御回路8に対して要求する(S610)。内燃機関1の停止中は、触媒下流温度センサ10の検出情報をEHC5の推定温度に反映できず、誤差が積算されてしまう。そのため、測温用モータリングを行い、誤差の積算を防止する。
【0054】
S603、S607、S610の処理後、又はS609がNO判定の場合、ECU4は、推定したEHC温度Teを不揮発性ストレージに保存する(S611)。不揮発メモリに保存されたEHC温度Teは、ECU4の電源投入時の処理において前回最終推定値として使用される。S611の処理後、ECU4は、EHC温度推定処理を終了する。
【0055】
[EHC通電制御処理]
次に、EHC通電制御処理について説明する。
図10は、ECU4によるEHC通電制御処理の例を示すフローチャートである。
【0056】
まず、ECU4は、EHC5の目標温度を設定する(S801)。EHC5の目標温度は、触媒機能が活性化する温度を設定すればよい。なお、内燃機関1の温度が低く、排気ガスの温度が低いことが見込まれる場合には、目標温度を、触媒機能が活性化する温度よりも高めに設定することが望ましい。
【0057】
次に、ECU4は、測温用モータリングを要求中であるか否かを判定する(S802)。S802において、測温用モータリングを要求中であると判定したとき(S802がYES判定の場合)、ECU4は、後述のS805の処理を行う。
【0058】
一方、S802において、測温用モータリングを要求中でないと判定したとき(S802がNO判定の場合)、ECU4は、EHC温度推定処理(
図8参照)において推定したEHC温度Teが目標温度よりも低いか否かを判定する(S803)。S803において、推定したEHC温度Teが目標温度以上であると判定したとき(S803がNO判定の場合)、ECU4は、後述のS805の処理を行う。
【0059】
一方、S803において、推定したEHC温度Teが目標温度よりも低いと判定したとき(S803がYES判定の場合)、ECU4は、EHC電流遮断装置7を制御し、EHC5の通電を行う(S804)。S804の処理後、ECU4は、EHC通電制御処理を終了する。
【0060】
S802がYES判定、又はS803がNO判定の場合、ECU4は、EHC電流遮断装置7を制御し、EHC5の通電を停止する(S805)。S805の処理後、ECU4は、EHC通電制御処理を終了する。このように、測温用モータリング要求中(S802がYES判定)は、推定するEHC温度Teに誤差を含む場合があるため、溶損防止のためにEHC5の通電を停止する。
【0061】
なお、EHC5の目標温度としては、ヒステリシスをもたせるようにして、通電と通電停止が短期間に繰り返されないように構成してもよい。また、EHC推定温度と目標温度の差に応じてEHCに印加する電圧を変更してもよい。また、EHC通電制御としては、Duty制御を採用し、Duty値を変更する構成であってもよい。
【0062】
[EHCの温度制御]
次に、EHC5の温度制御に係る動作について説明する。
図11は、EHC5の温度制御に係る動作を説明する図(その1)である。
【0063】
ECU4に電源が投入されると、ECU休止時間と前回最終推定値によりEHC5の温度を推定する。そして、推定したEHC5の温度によって通電によるEHC5の温度推定が可能であるか否かを判定する。通電によるEHC5の温度推定が不可能であると判定されると、
図11に示すように、測温用モータリングが開始される(時刻a)。
【0064】
測温用モータリングにより、内燃機関1の回転速度が安定した時点で触媒下流温度センサ10の検出情報を基にして、EHC5の温度を推定する(時刻b)。時刻bにおいて、EHC5の推定温度には、段差が生じている。これは、時刻aにおけるEHC5の推定温度よりも、時刻bにおけるEHC5の推定温度の方が高精度であるためである。
【0065】
時刻bにおいて、EHC5の推定温度が目標EHC温度に達していない場合は、EHC5に通電が開始される。なお、目標EHC温度は、目標EHC温度上限から目標EHC温度下限までの所定の範囲に設定されている。時刻bの後は、EHC5の温度変化分を積算することでEHC温度を推定する。EHC5の推定温度が目標EHC温度上限に達すると、EHC5への通電を終了する(時刻c)。これにより、EHC5の推定温度は、徐々に下がる。
【0066】
そして、EHC5の推定温度が目標EHC温度下限に達すると、EHC5に通電が開始される(時刻d)。その後、EHC5の推定温度が目標EHC温度上限に達すると、EHC5への通電を終了する(時刻e)。このように、EHC5の推定温度と目標EHC温度(上限・下限)に基づいて、フィードバック制御が実行される。なお、運転者の要求やバッテリの残量不足などにより内燃機関1が始動した(時刻f)後においても、逐次、EHC5の温度の推定と、EHC5への通電の判定を行う。
【0067】
図12は、EHC5の温度制御に係る動作を説明する図(その2)である。
ECU4に電源が投入されると、ECU休止時間と前回最終推定値によりEHC5の温度を推定する。そして、推定したEHC5の温度によって通電によるEHC5の温度推定が可能であるか否かを判定する。通電によるEHC5の温度推定が可能であると判定されると、
図12に示すように、EHC5に通電が開始される(時刻a2)。
【0068】
そして、電圧・電流センサ9から得られる電圧・電流により触媒抵抗Rを算出し、触媒抵抗RからEHC5の温度を推定する(時刻b2)。時刻b2において、EHC5の推定温度が目標EHC温度に達していない場合は、EHC5への通電が維持される。EHC5の推定温度が目標EHC温度上限に達すると、EHC5への通電を終了する(時刻c)。
時刻c以降は、
図11を用いて説明した動作と同じである。
【0069】
図13は、EHC5の温度制御に係る動作を説明する図(その3)である。
ECU4に電源が投入されると、ECU休止時間と前回最終推定値によりEHC5の温度を推定する。そして、推定したEHC5の温度によって通電によるEHC5の温度推定が可能であるか否かを判定する。通電によるEHC5の温度推定が不可能であると判定されると、
図13に示すように、測温用モータリングが開始される(時刻a)。
【0070】
測温用モータリングにより、内燃機関1の回転速度が安定した時点で触媒下流温度センサ10の検出情報を基にして、EHC5の温度を推定する(時刻b)。時刻b以降は、EHC5の推定温度と目標EHC温度(上限・下限)に基づいて、フィードバック制御が実行される。これにより、EHC5への通電と通電停止が繰り返され、EHC5の推定温度が所定の範囲内に収まる。
【0071】
しかし、内燃機関1が停止している場合には、排気流路14に空気が流れない。そのため、触媒下流温度センサ10は、EHC5を通過した空気の温度を検出できない。したがって、触媒下流温度センサ10の検出情報をEHC5の温度推定に反映できない。このため、内燃機関1が停止している場合は、EHC5の通電による加熱と、外気への放熱を積算してEHC5の推定温度を算出する。
【0072】
EHC5の通電による加熱と、外気への放熱を積算してEHC5の推定温度を算出すると、図の実線と破線に示すように、EHC5の推定温度(実線)とEHC5の実温度(破線)との間には、徐々に誤差が蓄積してしまう。そこで、内燃機関1が停止して(時刻i)から所定時間が経過した時点(時刻j)において、測温用モータリングを開始する。そして、触媒下流温度センサ10の検出情報を基にして、EHC5の温度を推定する(時刻k)。これにより、EHC5の推定温度を実温度に一致させる或いは近づける。
【0073】
2.まとめ
以上説明したように、上述した実施形態の電子制御装置(ECU4)は、内燃機関(内燃機関1)と、内燃機関をモータリング可能な電動機(電動発電機2)と、内燃機関の排気通路(排気流路14)に設置され、通電することにより加熱する機能を有し、排気ガスを浄化する触媒(EHC5)と、触媒の下流に設置された下流温度センサ(触媒下流温度センサ10)と、を備えたエンジンシステムを制御する。電子制御装置は、内燃機関を電動機によりモータリングさせる制御部(制御部42)と、内燃機関をモータリングした際の下流温度センサの検出情報に基づいて触媒の温度を推定する第1の推定処理を実施する推定部(推定部41)とを有する。これにより、下流温度センサに触媒を通過した空気を供給できるため、下流温度センサの検出情報から触媒の温度を高精度に推定することができる。また、内燃機関の回転は、燃料を供給しないモータリングであるため、触媒の温度が低くて浄化能力が低い場合であっても、未燃ガスを大気に放出する恐れがない。
【0074】
また、上述した実施形態の電子制御装置(ECU4)における推定部(推定部41)は、内燃機関(内燃機関1)の始動前、且つ、第1の推定処理を実施する前に、前回の電源遮断時の触媒(EHC5)の推定温度と前回の電源遮断時からの経過時間から触媒の温度を推定する第2の推定処理を実施する。これにより、内燃機関の始動前であり、第1の推定処理を実施する前(電源投入時)の触媒の温度を推定することができる。また、触媒への通電を行わずに触媒の温度を推定することができる。
【0075】
また、上述した実施形態の電子制御装置(ECU4)における推定部(推定部41)は、第2の推定処理により推定した初期推定温度が、所定の温度範囲外であるときは、第1の推定処理により触媒(EHC5)の温度を推定する。これにより、触媒の抵抗値の測定誤差やばらつきが生じることで算出する触媒の温度の誤差が大きくなる場合に、触媒の抵抗値から触媒の温度を推定しなくても、下流温度センサの検出情報から触媒の温度を高精度に推定することができる。
【0076】
また、上述した実施形態の電子制御装置(ECU4)における推定部(推定部41)は、前回の電源遮断時の触媒(EHC5)の推定温度、又は、前回の電源遮断時からの経過時間が不定の場合は、初期推定温度を所定の温度範囲外となるように推定する。これにより、触媒の抵抗値から触媒の温度を推定しないため、触媒への通電を停止することができる。その結果、触媒の過昇温を防止して、触媒の溶損を抑制することができる。
【0077】
また、上述した実施形態の電子制御装置(ECU4)における推定部(推定部41)は、第2の推定処理により推定した初期推定温度が、所定の温度範囲内であるときは、触媒(EHC5)の抵抗値に基づいて触媒の温度を推定する第3の推定処理を実施する。これにより、触媒の抵抗値の測定誤差やばらつきが生じても算出する触媒の温度の誤差が小さくなる場合に、触媒の抵抗値から触媒の温度を推定することができる。
【0078】
また、上述した実施形態の電子制御装置(ECU4)における推定部(推定部41)は、第1の推定処理または第3の推定処理を実施した後、触媒(EHC5)の温度変化の推定値を積算することで触媒の温度を推定する第4の推定処理を実施する。これにより、第1の推定処理または第3の推定処理を実施した後も触媒の温度を推定することができる。
その結果、第4の推定処理により推定した触媒の温度を基にしてフィードバック制御を行うことができ、触媒の温度を所定の範囲内に収めることができる。
【0079】
また、上述した実施形態の電子制御装置(ECU4)における制御部(制御部42)は、第4の推定処理を実施した後、内燃機関(内燃機関1)が所定時間連続して停止している場合に、内燃機関をモータリングし、推定部(推定部41)は、内燃機関をモータリングした際に第1の推定処理を実施する。これにより、触媒(EHC5)の推定温度を触媒の実温度に一致させる或いは近づけることができる。
【0080】
以上、本発明の電子制御装置の実施形態について、その作用効果も含めて説明した。しかしながら、本発明の電子制御装置は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。また、上述した実施形態は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
【0081】
例えば、上述した実施形態では、内燃機関1とトランスミッション3との間に電動発電機2を設ける構成とした。しかし、本発明に係る電子制御装置が制御対象とするエンジンシステムとしては、内燃機関をモータリング可能な電動機(モータ)を備えていればよい。
【符号の説明】
【0082】
1…内燃機関、 2…電動発電機、 3…トランスミッション、 4…ECU(電子制御装置)、 5…EHC、 6…バッテリ、 7…EHC電流遮断装置、 8…電動発電機制御回路、 9…電圧・電流センサ、 10…触媒下流温度センサ、 11…回転センサ、 12…吸気温度センサ、 13…吸気流路、 14…排気流路、 15…吸気圧センサ、 41…推定部、 42…制御部、 50…アナログ信号、 51…デジタル信号、 52…A/D変換部、 53…CPU、 54…ROM、 55…RAM、 56…タイマ回路、 57…ドライバ回路、 58…制御信号