(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】対象機器の状態を診断するための診断システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/20 20230101AFI20231220BHJP
【FI】
G06Q10/20
(21)【出願番号】P 2023516648
(86)(22)【出願日】2021-12-02
(86)【国際出願番号】 EP2021084053
(87)【国際公開番号】W WO2022122564
(87)【国際公開日】2022-06-16
【審査請求日】2023-03-13
(32)【優先日】2020-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山下 智彬
(72)【発明者】
【氏名】加藤 哲司
(72)【発明者】
【氏名】ロバート エリス
【審査官】山本 俊介
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-42624(JP,A)
【文献】特開2018-132794(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0066488(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0089206(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象機器(1)の状態を診断するためのコンピュータベースの診断システムであって、
前記対象機器(1)のセンサ(3)からセンサデータを受信し、前記センサデータに基づいて前記対象機器の前記状態の予備的評価を行い、前記状態の前記予備的評価が前記対象機器の保守または修理の必要性を示している場合、移動調査ロボット(5)が前記対象機器の調査を行うために、前記移動調査ロボットを前記対象機器に派遣する要求を発行するように構成されている、第1の診断サブシステム(2a)と、
前記移動調査ロボット(5)から、前記移動調査ロボットにより前記対象機器(1)の前記移動調査ロボットによる調査中に取得された追加のデータを受信し、前記追加のデータに基づいて前記対象機器の前記状態のさらなる評価を行い、前記状態の前記さらなる評価が前記対象機器の保守または修理の必要性を依然として示している場合、前記保守または修理を行うために前記対象機器に技術者(4)を派遣する要求を発行するように構成されている、第2の診断サブシステム(2b)と、
を含み、
前記第1の診断サブシステム(2a)が、技術者(4)の位置を提供する位置信号を受信するようにさらに構成されており、前記第1の診断サブシステムが、前記技術者の前記位置が前記対象機器(1)から所定の距離よりも離れている場合、前記移動調査ロボット(5)を派遣する要求を発行するが、そうでない場合、前記対象機器の調査を行う要求を前記技術者に発行することを特徴とする、診断システム。
【請求項2】
前記第1の診断サブシステム(2a)が、前記対象機器(1)のさらなるセンサから環境データを受信し、かつ/または前記対象機器の環境が比較的厳しいかまたは比較的穏やかであるかを判断するために独立した環境データを受信するようにさらに構成されており、前記第1の診断サブシステムが、前記環境が比較的穏やかである場合には、前記移動調査ロボット(5)を派遣する前記要求を発行するが、そうではなく、前記環境が比較的厳しい場合には、技術者(4)に対して前記対象機器の調査を行う要求を発行する、請求項1に記載の診断システム。
【請求項3】
前記第1の診断サブシステム(2a)が、前記対象機器(1)の保守または修理の前記必要性が相対的に高いかまたは相対的に低いかを判断するようにさらに構成され、前記第1の診断サブシステムが、前記必要性が相対的に低い場合には、前記移動調査ロボット(5)を派遣する前記要求を発行するが、そうではなく、前記必要性が相対的に高い場合には、前記対象機器の調査を行う要求を技術者(4)に発行する、請求項1または2に記載の診断システム。
【請求項4】
前記追加のデータが、写真またはビデオ画像データである、請求項1に記載の診断システム。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載の診断システムと、移動調査ロボット(5)との組合せ。
【請求項6】
前記移動調査ロボット(5)が無人航空機である、請求項5に記載の組合せ。
【請求項7】
前記移動調査ロボット(5)が、写真またはビデオデータの形式で前記追加のデータを取得する1つまたは複数のカメラ(6)を搭載する、請求項5または6に記載の組合せ。
【請求項8】
前記1つまたは複数のカメラ(6)が、前記移動調査ロボット(5)によって前記対象機器(1)の周囲照明を調節するように前記対象機器の上に配置可能である、遮光構造体(7)内に位置している、請求項7に記載の組合せ。
【請求項9】
前記移動調査ロボット(5)が、前記遮光構造体内に前記対象機器(1)の標準化された照明を提供するように、前記遮光構造体(7)内に1つまたは複数の光源(8)を搭載する、請求項8に記載の組合せ。
【請求項10】
前記移動調査ロボット(5)が、前記対象機器(1)からの前記1つまたは複数のカメラ(6)の所定の距離を課す手段を含む、請求項7~9のいずれか一項に記載の組合せ。
【請求項11】
前記移動調査ロボット(5)が、前記対象機器(1)に取り付けられたコード(13)を読み取るように構成されているコードリーダを含む、請求項5~10のいずれか一項に記載の組合せ。
【請求項12】
前記対象機器の前記状態を評価するのに好適なセンサデータを取得するセンサが備え付けられている対象機器(1)の保守または修理を行うための、請求項5~11のいずれか一項に記載の組合せの使用。
【請求項13】
対象機器(1)の保守または修理を実施するコンピュータベースの方法であって、前記対象機器に、前記対象機器の状態を評価するのに好適なセンサデータを取得するセンサ(3)が備え付けられており、
前記対象機器(1)のセンサ(3)からセンサデータを受信することと、
技術者(4)の位置を提供する位置信号を受信することと、
前記センサデータに基づいて、前記対象機器(1)の前記状態の予備的評価を行うことと、
前記状態の前記予備的評価が前記対象機器(1)の保守または修理の必要性を示している場合、および、前記技術者(4)の前記位置が前記対象機器(1)から所定の距離よりも離れている場合、移動調査ロボット(5)が前記対象機器の調査を行うために、前記移動調査ロボットを前記対象機器に派遣することと、
前記移動調査ロボット(5)から、前記移動調査ロボットにより前記対象機器(1)の前記移動調査ロボットによる調査中に取得された追加のデータを受信することと、
前記追加のデータに基づいて前記対象機器(1)の前記状態のさらなる評価を行うことと、
前記状態の前記さらなる評価が前記対象機器(1)の保守または修理の必要性を依然として示している場合、前記保守または修理を行うために前記対象機器に技術者(5)を派遣する要求を発行することと、
を含む方法。
【請求項14】
コンピュータ上で実行されると前記コンピュータに請求項13に記載の方法を実施させるコードを含むコンピュータプログラムを格納する、コンピュータ可読媒体。
【請求項15】
コンピュータ上で実行されると前記コンピュータに請求項13に記載の方法を実施させるコードを含む、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年12月7日に出願された欧州特許第20212220.6号の優先権を主張し、その内容および要素は、すべての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、対象機器の状態を診断するための診断システムに関する。
【背景技術】
【0003】
図1は、対象機器101の保守および修理に使用される従来の診断システム102を概略的に示す。対象機器は、機器のさまざまな測定可能なパラメータを検知する1つまたは複数のセンサ103を有し、センサデータは診断システムに送信される。このデータは、システムによって、機器の状態が悪化して、保守または修理が必要となっているか否かを判断するために使用される。たとえば、データをルックアップテーブルと比較するか、または、対象機器の解析モデルもしくは学習モデルに適用することができる。判断が肯定的である場合、システムは、保守技術者104を出動させて対象機器に出向いて適切な保守または修理行為を行う要求を、たとえばアラームの形式で発行する。
【0004】
こうした診断および保守または修理の手法は、鉄道、建設、自動車、エネルギー生産および供給、建造物および工場、水など、多くの産業で使用されている。
【0005】
しかしながら、この方法を実施するコスト、特に人的コストは、高くなる可能性がある。特に、不適切なまたは曖昧なセンサデータによって引き起こされる機器の故障を回避するために、保守または修理が最終的に不要であることが判明した場合であっても、保守技術者を出動させるようにシステムをセットアップすることにより、過剰補償をする必要がある、すなわち、多数の「誤検出」を受け入れる必要がある場合がある。また、センサの性能またはセンサデータの送信に一時的に影響を及ぼす外部/環境要因によって、誤検出が引き起こされる場合もある。
【0006】
本発明は、上記考慮事項に鑑みて考案されたものである。
【発明の概要】
【0007】
第1の態様では、本発明は、対象機器の状態を診断するためのコンピュータベースの診断システムを提供し、本診断システムは、
対象機器のセンサからセンサデータを受信し、センサデータに基づいて対象機器の状態の予備的評価を行い、状態の予備的評価が対象機器の保守または修理の必要性を示している場合、移動調査ロボットが対象機器の調査を行うために、移動調査ロボットを対象機器に派遣する要求を発行するように構成されている、第1の診断サブシステムと、
移動調査ロボットから、移動調査ロボットにより対象機器の移動調査ロボットによる調査中に取得された追加のデータを受信し、追加のデータに基づいて対象機器の状態のさらなる評価を行い、状態のさらなる評価が対象機器の保守または修理の必要性を依然として示している場合、保守または修理を行うために対象機器に技術者を派遣する要求を発行するように構成されている、第2の診断サブシステムと、
を含む。
【0008】
移動調査ロボットを派遣し、それによって取得された追加のデータを使用して対象機器の状態のさらなる評価を行うことにより、誤検知と、人間の技術者が保守または修理を行う必要がある状況とを、より適切に区別することができる。このように、人的資源をより有効に利用することができ、コストを削減することができる。
【0009】
対象機器は、たとえば、上述した産業における任意の機器であり得る。本システムは、技術者が出向くのに時間がかかる、対象機器の個々の部分が空間的に分散している状況において、特に有益である。本システムは、対象機器が、人間が不必要に出向くのことが減らされるべきであるような、潜在的に危険な場所にある状況においても、利点を有する。鉄道に関して、対象機器は、ポイントのセット、架線および/または軌道回路などの鉄道インフラであり得る。特に、ポイントのセットは、鉄道網に多く存在し、空間的に広く分散しているとともに、人が実際に出向くのが潜在的に危険である可能性がある。
【0010】
第1の診断サブシステムは、対象機器のさらなるセンサから環境データを受信し、かつ/または対象機器の環境が比較的厳しいかまたは比較的穏やかであるかを判断するために独立した環境データを受信するようにさらに構成することができ、第1の診断サブシステムは、環境が比較的穏やかである場合には、移動調査ロボットを派遣する要求を発行するが、そうではなく、環境が比較的厳しい場合には、技術者に対して対象機器の調査を行う要求を発行することができる。環境データは、たとえば、気象データおよび/または動作データであり得る。たとえば、気象データは、移動調査ロボットがその追加のデータを取得することを困難にする可能性がある風または降水が、対象機器の付近にあるか否かを示すことができる。動作データは、移動調査ロボットがその追加のデータを取得することを困難にする可能性がある動作、たとえば交通移動が、対象機器の付近で発生しているか否かを示すことができる。いずれの場合も、移動調査ロボットに頼ることなく、対象機器に技術者を直ちに派遣することが好ましい場合がある。
【0011】
第1の診断サブシステムは、技術者の位置を提供する位置信号を受信するようにさらに構成することができ、第1の診断サブシステムは、技術者の位置が対象機器から所定の距離よりも離れている場合、移動調査ロボットを派遣する要求を発行するが、そうでない場合、対象機器の調査を行う要求を技術者に発行することができる。したがって、保守または修理を行うための時間的な遅延を短縮することができる。
【0012】
第1の診断サブシステムは、対象機器の保守または修理の必要性が相対的に高いかまたは相対的に低いかを判断するようにさらに構成することができ、第1の診断サブシステムは、必要性が相対的に低い場合には、移動調査ロボットを派遣する要求を発行するが、そうではなく、必要性が相対的に高い場合には、対象機器の調査を行う要求を技術者に発行することができる。したがって、事故につながる可能性のある対象機器1の重大な故障を、回避する可能性が高くなる。
【0013】
追加のデータは、写真またはビデオ画像データであり得る。
【0014】
第2の診断サブシステムは、対象機器の状態に関する第2の診断サブシステムによるさらなる評価を第1の診断サブシステムと共有するようにさらに構成することができる。そして、第1の診断サブシステムは、そのさらなる評価を使用して、第1の診断システムによる予備的評価を行う能力を向上させることができる。たとえば、第1の診断サブシステムは、センサデータとルックアップテーブルのエントリとの比較に基づいて、または対象機器のモデルに基づいて、第1の診断サブシステムによる予備的評価を行うことができる。さらなる評価の結果を使用して、こうしたルックアップテーブルを更新するか、またはモデルをより良く調整することができる。
【0015】
第2の態様では、本発明は、第1の態様の診断システムと、移動調査ロボットとの組合せを提供する。
【0016】
移動調査ロボットは、たとえば、無人航空機であり得る。こうした車両は、機動性が高い可能性があり、それにより、車両は、対象機器が稼働中であっても、対象機器に容易に接近することができる。
【0017】
好都合には、移動調査ロボットは、写真またはビデオデータの形式で追加のデータを取得する1つまたは複数のカメラを搭載することができる。
【0018】
1つまたは複数のカメラは、移動調査ロボットによって対象機器の周囲照明を調節するように対象機器の上に配置可能である、遮光構造体内に位置することができる。さらに、移動調査ロボットは、遮光構造体内に対象機器の標準化された照明を提供するように、遮光構造内に1つまたは複数の光源を搭載することができる。このように、標準化されかつ再現可能な照明条件を達成することができ、その結果、格納されている画像に対してより比較可能な標準化された画像を得ることができる。
【0019】
移動調査ロボットは、対象機器からの1つまたは複数のカメラの所定の距離を課す手段を含むことができる。
【0020】
移動調査ロボットは、対象機器に取り付けられたコードを読み取るように構成されているコードリーダを含むことができる。コードは、調査ロボットに対象機器の識別情報を提供することができる。さらに、または代替的に、コードは、調査ロボットがその調査に適用することができる情報、たとえば、標準化されかつ再現可能な画像を生成するのに役立つ情報を、調査ロボットに提供することができる。
【0021】
第3の態様では、本発明は、対象機器の状態を評価するのに好適なセンサデータを取得するセンサが備え付けられている対象機器の保守または修理を行うための、第2の態様の組合せの使用を提供する。
【0022】
たとえば、対象機器の保守または修理を行う方法であって、対象機器には、対象機器の状態を評価するのに好適なセンサデータを取得するセンサが備え付けられている、方法は、
第2の態様の組合せを提供することと、
第1の診断サブシステムを使用して、対象機器のセンサからセンサデータを受信し、センサデータに基づいて、対象機器の状態の予備的評価を行い、状態の予備的評価が対象機器の保守または修理の必要性を示している場合、移動調査ロボットが対象機器の調査を行うために、移動調査ロボットを対象機器に派遣することと、
移動調査ロボットにより、対象機器の移動調査ロボットによる調査中に追加のデータを取得することと、
第2の診断サブシステムを使用して、移動調査ロボットから上記追加のデータを受信し、追加のデータに基づいて対象機器の状態のさらなる評価を行い、状態のさらなる評価が対象機器の保守または修理の必要性を依然として示している場合、保守または修理を行うために対象機器に技術者を派遣する要求を発行することと、
を含む。
【0023】
第4の態様では、本発明は、対象機器の保守または修理を実施するコンピュータベースの方法であって、対象機器に、対象機器の状態を評価するのに好適なセンサデータを取得するセンサが備え付けられている、方法を提供し、本方法は、
対象機器のセンサからセンサデータを受信することと、
センサデータに基づいて、対象機器の状態の予備的評価を行うことと、
状態の予備的評価が対象機器の保守または修理の必要性を示している場合、移動調査ロボットが対象機器の調査を行うために、移動調査ロボットを対象機器に派遣することと、
移動調査ロボットから、移動調査ロボットにより対象機器の移動調査ロボットによる調査中に取得された追加のデータを受信することと、
追加のデータに基づいて対象機器の状態のさらなる評価を行うことと、
状態のさらなる評価が対象機器の保守または修理の必要性を依然として示している場合、保守または修理を行うために対象機器に技術者を派遣する要求を発行することと、
を含む。
【0024】
したがって、第4の態様の方法は、第1の態様の診断システムに対応する。
【0025】
第5の態様では、本発明は、コンピュータ上で実行されるとコンピュータに第4の態様の方法を実施させるコードを含むコンピュータプログラムを提供する。
【0026】
第6の態様では、本発明は、第5の態様のコンピュータプログラムを格納する、コンピュータ可読媒体を提供する。
【0027】
本発明は、記載する態様および好ましい特徴の組合せが明らかに許容できないかまたは明示的に回避される場合を除き、こうした組合せ含む。
【0028】
ここで、本発明の原理を示す実施形態および実験について、添付の図を参照して考察する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】対象機器の保守および修理に使用される従来の診断システムを概略的に示す。
【
図2】対象機器の保守および修理に使用される本開示による診断システムを概略的に示す。
【
図3】
図2の診断システムの第1の診断サブシステムの変形例を概略的に示す。
【
図4】第1の診断サブシステムのさらなる変形例を概略的に示す。
【
図5】第1の診断サブシステムのさらなる変形例を概略的に示す。
【
図7】車輪付き調査ロボットの変形例を概略的に示す。
【
図9】ドローン型調査ロボットの変形例を概略的に示す。
【
図10】ドローン型移動調査ロボットが鉄道のポイントのセットを調査するために使用されている状態を概略的に示す。
【
図11】ドローン型調査ロボットのさらなる変形例を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
ここで、本発明の態様および実施形態について、添付の図を参照して考察する。さらなる態様および実施形態は、当業者には明らかとなろう。
【0031】
図2は、対象機器1の保守および修理に使用される本開示による診断システムを概略的に示す。診断システムは、第1の診断サブシステム2aと第2の診断サブシステム2bとを含む。対象機器自体に、対象機器に関連する状態パラメータを測定する1つまたは複数のセンサ3が備え付けられている。これらの測定値は、センサデータとして第1の診断サブシステムに中継される。
【0032】
第1の診断サブシステム2aは、受信したセンサデータに基づいて、対象機器1の状態の予備的評価を行う。特に、第1の診断サブシステム2aは、対象機器の状態が、対象機器の保守または修理の必要性を示す閾値を超えたか否かを判断する。閾値は、センサ測定値のうちの1つまたは複数に関連する(たとえば、第1の診断サブシステムのルックアップテーブルに格納された)単純な警告レベルであってもよく、または、たとえば、第1の診断サブシステムに格納されているかもしくは第1の診断サブシステムによって照会可能な対象機器のモデルに基づく、より高度な分析値であってもよい。
【0033】
上記状態の予備的評価が、対象機器の保守または修理の必要性を示しているとき、第1の診断サブシステム2aは、次いで、移動調査ロボット5が対象機器の調査を行うために、移動調査ロボット5を対象機器に派遣する要求を発行する。調査ロボットは、好都合には、
図2に示すように、たとえば写真またはビデオ画像データを取得する1つまたは複数のカメラが備え付けられている、無人航空機(または「ドローン」)であり得る。しかしながら、これは、調査ロボットが、車輪付きまたは無限軌道車などの異なるタイプであり得ること、および/または調査ロボットが画像データではなく他のタイプのデータを取得することができることを排除するものではない。
【0034】
ドローン5は、対象機器1に接近し、その1つまたは複数のカメラを使用して、対象機器の画像データの形式で対象機器から追加のデータを取得し、これを第2の診断サブシステム2bに中継し、それにより、第2の診断サブシステムは、この追加のデータに基づいて、対象機器の状態のさらなる評価を実施する。たとえば、第2の診断サブシステムは、追加のデータの画像と、健全な状態および/または悪化した状態の対象機器の格納された画像との比較が行われる、画像解析を実施することができる。その比較に基づいて、第2の診断サブシステムは、予備的評価を有効にするかまたは無効にし、すなわち、状態対象機器が対象機器の保守または修理の必要性を依然として示しているか否かを判断することができる。
【0035】
有効である場合、保守または修理を行うために対象機器1まで行くように、技術者に派遣要求が送信される。さらなる評価の結果が有効であっても無効であっても、その結果は、第1の診断サブシステム2aと共有することができ、それにより、第1の診断サブシステム2aは、その結果を有利に使用して、たとえば対象機器の第1の診断サブシステム2aによるモデルを改良し、それによって第1の診断サブシステムの精度を向上させることができる。
【0036】
本システムのさらなる利点は、誤検知の発生を低減させることができ、それにより、人的資源をより有効に利用することができる、ということである。これにより、人件費を削減することができる。
【0037】
本システムは、特に、保守または修理を必要とする可能性がある対象機器の複数の要素が、空間的に分散しており、そのため出向くのに時間がかかり、かつ/または潜在的に危険な場所にある場合に、実装することが有利である。
【0038】
図3は、第1の診断サブシステム2aの変形例を概略的に示しており、ここでは、このサブシステムは、センサデータだけでなく、対象の周囲の環境に関する環境データ、たとえば、気象状態、動作状態等も受信する。この環境データを用いて、第1の診断サブシステムは、環境が比較的穏やかであるかまたは比較的厳しいかを判定し、厳しい場合には、ドローン5にではなく、技術者4に直接派遣要求を発行することができる。ドローンが対象機器に接近することが困難である場合であっても、機器点検を可能な限り早急に行うことができるという利点がある。
【0039】
図4は、第1の診断サブシステム2aのさらなる変形例を概略的に示す。この変形例では、技術者5は、GPSセンサなどの位置情報デバイスを携帯しており、この位置情報デバイスが、技術者の位置を第1の診断サブシステムに通知する。第1の診断サブシステムは、技術者の位置が対象機器から所定の距離の範囲内であると判断すると、この場合もまた、ドローン5ではなく、技術者4に直接派遣要求を発行することができる。このように、保守または修理を行うための時間的な遅延を短縮することができる。
【0040】
図5は、第1の診断サブシステム2aのさらなる変形例を概略的に示す。この変形例では、第1の診断サブシステムは、対象機器の保守または修理の必要性が比較的高いかまたは比較的低いかを判断し、すなわち、緊急閾値を適用することができる。閾値を超えた場合、第1の診断サブシステムは、この場合もさらに、ドローン5ではなく技術者4に直接派遣要請を発行することができる。このように、事故につながる可能性のある対象機器1の重大な故障が、回避される可能性が高くなる。
【0041】
上述したように、写真またはビデオ画像データを取得する1つまたは複数のカメラが備え付けられている移動調査ロボット5。
図6は、カメラ6を有する調査ロボットの車輪付きバージョンを概略的に示す。しかしながら、それに加えて、調査ロボットは、カメラを包囲する暗幕の形態の遮光構造体7と、同様に暗幕の内側に位置する光源8とを有する。この暗幕および光源により、カメラが標準化されかつ再現可能な照明条件下でその画像を撮影することができ、そのため、そうした画像が格納された画像とより比較可能となることにより、目視検査の精度が向上する。このように、画質に影響を与える可能性のある外部要因(明るさ、降水、障害物など)の影響を低減させるかまたは排除することができる。
【0042】
図6において、遮光構造体7は、可撓性の暗幕の形態であり、それにより、移動調査ロボット5が対象機器1の上を妨害されずに移動することができる。しかしながら、他の遮蔽構造体を採用することもできる。たとえば、
図7は、遮蔽構造体7が剛壁ボックスとして形成されており、それが、開放した底部と、調査ロボットが同様に対象機器の上を妨害されずに移動することができるようにする、壁の下縁の周囲の可撓性フリンジ7aとを有する、車輪付き調査ロボットの変形例を概略的に示す。
【0043】
図8は、ドローン形態の移動調査ロボット5を概略的に示す。
図7の車輪付き調査ロボットと同様に、移動調査ロボット5は、カメラ6と、可撓性ベース構造体7aを有するボックス様の遮光構造体7と、光源8とを有する。ドローン型調査ロボットの利点は、その高い機動性であり、それにより、ドローン型調査ロボットは、対象機器に容易に接近および離脱することができ、対象機器が稼働中であっても画像取込みが容易になる。
図9は、より大きい直径の遮蔽構造体7を有するドローン型調査ロボットの変形例を上部に、遮蔽構造体の断面フットプリントを下部に示し、遮蔽構造体は、プロペラのダウンドラフトとの干渉を回避するためにドローンのプロペラの下に妨げのない空間を提供するように構成されている。
【0044】
図10は、ドローン型移動調査ロボット5が、鉄道のポイントのセット(鉄道の分岐器としても知られる)である対象機器の一要素を調査するために使用されている状態を概略的に示す。各ポイントのセットは、一対の静止したストックレール10と一対の可動のトングレール11とを有する。操作ロッド12が、トングレールを接合し、それぞれのストックレールに向かってまたはストックレールから離れれるようにタンデムにそれらを移動させて、ポイントを変更する。ポイントは、鉄道車両の軌道を変更するために使用され、そのため、機器のセーフティクリティカルな要素である。鉄道網にわたって多くのポイントが配置されており、ポイントを良好な動作状態で維持するための保守コストは高い。加えて、鉄道網では鉄道車両が運転されているため、技術者による手作業でのポイントの点検は危険である可能性がある。したがって、手作業によるポイント点検の回数を減らすために、上述した診断システムを使用することは特に有利である可能性がある。ドローンは、
図10に示すように、ストックレール/トングレールの対の上に、その対および操作ロッドの状態を評価するために、位置決めすることが可能である。
【0045】
任意選択的に、
図10に示すように、移動調査ロボット5は、対象機器に取り付けられたQRコードなどの識別コード13を読み取り、それにより、移動調査ロボットに対象機器を明らかにするように構成された、(たとえば、カメラ6に一体化された)コードリーダを含んでもよい。調査ロボットによって取得された追加のデータを、第2の診断サブシステム2bに送信されるときに識別情報に関連付け、それにより、サブシステムがデータを系統立てるのに役立つようにすることもできる。さらに、または代替的に、コードは、調査ロボットがその調査に適用することができる、たとえば、調査ロボットが標準化されかつ再現可能な画像を生成するのに役立つ、スタンドオフ情報などの情報を、調査ロボットに提供することができる。
【0046】
図11は、ドローン型移動調査ロボット5のさらなる変形例を示し、ここでは、ドローンは、機器からのカメラ6の正確なスタンドオフを確実にするために対象機器にドッキングすることができる、垂下している測定ロッド14を有する。
【0047】
前述の説明に、または以下の特許請求の範囲に、または添付図面に開示し、それらの具体的な形態で、または開示した機能を実施する手段、または開示した結果を得るための方法もしくはプロセスに関して表現した特徴は、適宜、別個に、またはそうした特徴の任意の組合せで、その多様な形態で本発明を具現化するために利用することができる。
【0048】
本発明について、上述した例示的な実施形態に関連して説明したが、この開示が与えられれば、当業者には、多くの等価な変更形態および変形形態が明らかになるであろう。したがって、上に示した本発明の例示的な実施形態は、限定的ではなく例示的なものであるとみなされる。本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、記載した実施形態に対するさまざまな変更を行うことができる。
【0049】
本明細書で使用した任意のセクション見出しは、単に構成上の目的のものであり、記載する主題を限定するものとして解釈されるべきではない。
【0050】
本明細書を通じて、続く特許請求の範囲を含め、文脈において別段の必要がない限り、「備える(comprise)」および「含む(include)」という語、並びに「備える(comprises)」、「備える(comprising)」および「含む(including)」などの変形は、述べられている完全体もしくはステップ、または完全体もしくはステップの群を含むことを意味し、他のいかなる完全体もしくはステップ、または完全体もしくはステップの群も排除することを意味しないものと理解されよう。
【0051】
本明細書および添付の特許請求の範囲で用いる場合の単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」、および「その(the)」は、文脈において明確な別段の指示がない限り、複数の対象物を含むことが留意されなければならない。
【符号の説明】
【0052】
1 対象機器
3 センサ
5 移動調査ロボット
2a 第1の診断サブシステム
4 技術者
2b 第2の診断サブシステム
6 カメラ
7 遮光構造体
8 光源
13 コード