(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-19
(45)【発行日】2023-12-27
(54)【発明の名称】シート固定装置、シート剥離装置及びシートの剥離方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20231220BHJP
【FI】
H01L21/68 P
(21)【出願番号】P 2023540081
(86)(22)【出願日】2022-12-15
(86)【国際出願番号】 JP2022046167
(87)【国際公開番号】W WO2023127518
(87)【国際公開日】2023-07-06
【審査請求日】2023-06-29
(31)【優先権主張番号】P 2021213106
(32)【優先日】2021-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113365
【氏名又は名称】高村 雅晴
(74)【代理人】
【識別番号】100209336
【氏名又は名称】長谷川 悠
(74)【代理人】
【識別番号】100218800
【氏名又は名称】河内 亮
(72)【発明者】
【氏名】柳井 威範
(72)【発明者】
【氏名】中村 利美
(72)【発明者】
【氏名】小宮 未希子
(72)【発明者】
【氏名】北畠 有紀子
(72)【発明者】
【氏名】松浦 宜範
【審査官】渡井 高広
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-192184(JP,A)
【文献】特開2020-121855(JP,A)
【文献】特開2016-197623(JP,A)
【文献】特開2013-232642(JP,A)
【文献】特開2001-118916(JP,A)
【文献】特開2020-113603(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0394505(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0235000(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複層シートを固定するためのシート固定装置であって、
前記複層シートを載置可能な平坦面を有する板状部材、前記板状部材における前記複層シートの外周部と対応する位置に設けられる吸着孔、及び前記板状部材における前記吸着孔の外側に沿って設けられる段差部を有する、前記複層シートを支持するための支持ステージと、
前記吸着孔を介して前記複層シートを前記支持ステージに向けて吸引可能な吸引手段と、
を備え、
前記平坦面は、JIS B0621-1984で規定される平面度が0.30mm以下であ
り、
前記吸着孔は、前記支持ステージを平面視した場合に、前記複層シートの輪郭に沿った形状を有しており、かつ、前記複層シートを前記支持ステージ上に載置した場合に、前記複層シートの外周部を吸引可能であり、前記複層シートの外周部は、前記複層シートの周縁から中心に向かって0mm以上30mm以下の領域であり、
前記段差部は、前記複層シートを前記支持ステージ上に載置した際に、前記複層シートとは接しない部分に設けられる、シート固定装置。
【請求項2】
前記吸着孔と前記段差部との距離が30mm以下である、請求項1に記載のシート固定装置。
【請求項3】
前記吸着孔が凹部を有し、該凹部には前記板状部材を貫通する少なくとも1つの貫通孔が設けられる、請求項1又は2に記載のシート固定装置。
【請求項4】
前記支持ステージを平面視した場合に、前記吸着孔が、前記複層シートの輪郭に沿った形状を有しており、かつ、前記吸着孔には、前記吸着孔を複数の吸着領域に区画するように、前記複層シートの輪郭と平行に設けられる隔壁が存在する、請求項1又は2に記載のシート固定装置。
【請求項5】
前記支持ステージを平面視した場合に、前記吸着孔の形状が、円形状、円弧状、直線状及び多角形状からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載のシート固定装置。
【請求項6】
前記支持ステージが複数の前記吸着孔を有しており、前記複数の吸着孔が、全体として、円、円弧、直線又は多角形をもたらす集合体として構成される、請求項1又は2に記載のシート固定装置。
【請求項7】
前記支持ステージが、前記複層シートの外周部を前記吸着孔上に位置決めするための位置決めピンを前記平坦面の上面側に有する、請求項1又は2に記載のシート固定装置。
【請求項8】
前記平坦面の算術平均粗さRaが0.01μm以上0.50μm以下である、請求項1又は2に記載のシート固定装置。
【請求項9】
前記板状部材のビッカース硬さが10HV以上3000HV以下である、請求項1又は2に記載のシート固定装置。
【請求項10】
前記板状部材が、ステンレス鋼、Al合金、炭素工具鋼、合金工具鋼、高速度工具鋼及びTi合金からなる群から選択される少なくとも1種で構成される、請求項1又は2に記載のシート固定装置。
【請求項11】
前記段差部の少なくとも前記吸着孔側の端部が丸みを帯びている、請求項1又は2に記載のシート固定装置。
【請求項12】
前記支持ステージが、前記吸着孔とは別に、複数の補助吸着孔をさらに備える、請求項1又は2に記載のシート固定装置。
【請求項13】
前記吸引手段が、前記板状部材の前記平坦面と反対の側に配置される下部ステージを備えており、前記下部ステージが、前記吸着孔と連通する気体流路を備えている、請求項1又は2に記載のシート固定装置。
【請求項14】
前記吸引手段が、前記板状部材の前記平坦面と反対の側に配置される下部ステージを備えており、前記下部ステージが、前記吸着孔及び前記補助吸着孔と連通する気体流路を備えている、又は前記吸着孔と連通する気体流路と、前記補助吸着孔と連通する気体流路とを別個に備えている、請求項12に記載のシート固定装置。
【請求項15】
前記吸引手段が、前記気体流路に接続される吸引ポンプをさらに備えている、請求項13に記載のシート固定装置。
【請求項16】
複層シートを剥離するためのシート剥離装置であって、
請求項1又は2に記載のシート固定装置と、
前記支持ステージに隣接して設けられる、又は前記支持ステージの段差部に設けられる、前記複層シートに接触して応力を加えるための応力負荷手段であって、前記複層シートに接触しながら前記平坦面の上方に移動可能な可動接触部を有する、応力負荷手段と、
を備えた、シート剥離装置。
【請求項17】
前記可動接触部がピン形状又はフック形状を有する、請求項16に記載のシート剥離装置。
【請求項18】
請求項16に記載のシート剥離装置を用いたシートの剥離方法であって、
少なくとも第1層及び第2層を備える複層シートを、前記第1層の表面が前記支持ステージの平坦面と接するように載置する工程と、
前記吸引手段により、前記吸着孔を介して前記複層シートを前記支持ステージに向けて吸引し、それにより前記複層シートを前記支持ステージに固定する工程と、
前記応力負荷手段により、前記可動接触部を前記段差部から前記複層シートの第2層に接触させ、前記第1層と前記第2層とが離間する方向に応力を加えることにより、前記第2層を前記第1層から引き剥がす工程と、
を含み、
前記可動接触部と前記複層シートとの接触領域の最大長さが2mm以上500mm以下である、シートの剥離方法。
【請求項19】
前記可動接触部と前記複層シートとの接触領域の面積が5mm
2以上120mm
2以下である、請求項18に記載のシートの剥離方法。
【請求項20】
前記複層シートを前記支持ステージに載置する前に、前記複層シートの第1層の表面及び/又は前記支持ステージの平坦面にグリスを塗布する工程をさらに含む、請求項18に記載のシートの剥離方法。
【請求項21】
請求項1又は2に記載のシート固定装置を用いて複層シートの一方の面を固定し、その反対側の層を剥離する工程を含む、シートの剥離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート固定装置、シート剥離装置及びシートの剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリント配線板の実装密度を上げて小型化するために、プリント配線板の多層化が広く行われるようになってきている。このような多層プリント配線板は、携帯用電子機器の多くで、軽量化や小型化を目的として利用されている。そして、この多層プリント配線板には、層間絶縁層の更なる厚さの低減、及び配線板としてのより一層の軽量化が要求されている。
【0003】
このような要求を満たす技術として、コアレスビルドアップ法を用いた多層プリント配線板が採用されている。コアレスビルドアップ法とは、いわゆるコア基板を用いることなく、絶縁層と配線層とを交互に積層(ビルドアップ)して多層化する方法である。コアレスビルドアップ法においては、支持体と多層プリント配線板との剥離を容易に行えるように、キャリア、剥離層及び金属層を備えたキャリア付金属箔を使用することが提案されている。例えば、特許文献1(特開2005-101137号公報)には、キャリア付銅箔のキャリア面に絶縁樹脂層を貼り付けて支持体とし、キャリア付銅箔の極薄銅層側にフォトレジスト加工、パターン電解銅めっき、レジスト除去等の工程により第一の配線導体を形成した後、ビルドアップ配線層を形成し、キャリア付支持基板を剥離し、極薄銅層を除去することを含む、半導体素子搭載用パッケージ基板の製造方法が開示されている。
【0004】
ところで、このような剥離層を有する積層シートから一層又は複数の層を剥離する際、シートの一方の面を吸引して固定する吸着チャック(吸着ステージ、真空チャックともいう)を用いることで、その反対側の層の剥離を容易とする手法が知られている。例えば、特許文献2(特許第6468682号公報)には、被剥離物の形成された第1の基板に第2の基板を張り合わせて、第1の基板を必要とする大きさ及び形状に分断し、さらに、第1の基板を、部分的に吸着能力に差のある吸着チャックで吸着固定し、第2の基板を第1の基板から剥離する方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3(特開2006-68592号公報)には、基板載置ステージ上面に多数の真空源につながる吸引孔及び圧気源につながる噴出孔が形成されること、及び基板載置ステージは平面視で複数の同心状領域に分けられ、領域ごとに吸引及び噴出が独立して行われることを特徴とする、基板載置ステージが開示されている。この基板載置ステージによれば、ガラス基板等の基板を、ステージとの間にエアを介在させずに水平に固定することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-101137号公報
【文献】特許第6468682号公報
【文献】特開2006-68592号公報
【発明の概要】
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載される剥離方法又は特許文献3に記載される基板載置ステージでは、シート端部の吸引力が不十分なことがあり、とりわけシートが樹脂、金属箔、デバイス、あるいはこれらの複合層等の所定の剛性を有する材料で構成される場合、吸着及び剥離工程において、シートとステージとの間でリーク等の不具合が発生することがあった。
【0008】
本発明者らは、今般、所定の平坦面を有する支持ステージに対して、複層シートの外周部と対応する位置に吸着孔を設けるとともに、吸着孔の外側に沿って段差部を設けることにより、複層シートの一方の面を固定してその反対側の層を剥離する際に、複層シートと支持ステージとの間のリークの発生を抑制して密着力を確保可能な、シート固定装置を提供できるとの知見を得た。
【0009】
したがって、本発明の目的は、複層シートの一方の面を固定してその反対側の層を剥離する際に、複層シートと支持ステージとの間のリークの発生を抑制して密着力を確保可能な、シート固定装置を提供することにある。
【0010】
本発明によれば、以下の態様が提供される。
[態様1]
複層シートを固定するためのシート固定装置であって、
前記複層シートを載置可能な平坦面を有する板状部材、前記板状部材における前記複層シートの外周部と対応する位置に設けられる吸着孔、及び前記板状部材における前記吸着孔の外側に沿って設けられる段差部を有する、前記複層シートを支持するための支持ステージと、
前記吸着孔を介して前記複層シートを前記支持ステージに向けて吸引可能な吸引手段と、
を備え、
前記平坦面は、JIS B0621-1984で規定される平面度が0.30mm以下である、シート固定装置。
[態様2]
前記吸着孔と前記段差部との距離が30mm以下である、態様1に記載のシート固定装置。
[態様3]
前記吸着孔が凹部を有し、該凹部には前記板状部材を貫通する少なくとも1つの貫通孔が設けられる、態様1又は2に記載のシート固定装置。
[態様4]
前記支持ステージを平面視した場合に、前記吸着孔が、前記複層シートの輪郭に沿った形状を有しており、かつ、前記吸着孔には、前記吸着孔を複数の吸着領域に区画するように、前記複層シートの輪郭と平行に設けられる隔壁が存在する、態様1~3のいずれか一つに記載のシート固定装置。
[態様5]
前記支持ステージを平面視した場合に、前記吸着孔の形状が、円形状、円弧状、直線状及び多角形状からなる群から選択される少なくとも1種である、態様1~4のいずれか一つに記載のシート固定装置。
[態様6]
前記支持ステージが複数の前記吸着孔を有しており、前記複数の吸着孔が、全体として、円、円弧、直線又は多角形をもたらす集合体として構成される、態様1~5のいずれか一つに記載のシート固定装置。
[態様7]
前記支持ステージが、前記複層シートの外周部を前記吸着孔上に位置決めするための位置決めピンを前記平坦面の上面側に有する、態様1~6のいずれか一つに記載のシート固定装置。
[態様8]
前記平坦面の算術平均粗さRaが0.01μm以上0.50μm以下である、態様1~7のいずれか一つに記載のシート固定装置。
[態様9]
前記板状部材のビッカース硬さが10HV以上3000HV以下である、態様1~8のいずれか一つに記載のシート固定装置。
[態様10]
前記板状部材が、ステンレス鋼、Al合金、炭素工具鋼、合金工具鋼、高速度工具鋼及びTi合金からなる群から選択される少なくとも1種で構成される、態様1~9のいずれか一つに記載のシート固定装置。
[態様11]
前記段差部の少なくとも前記吸着孔側の端部が丸みを帯びている、態様1~10のいずれか一つに記載のシート固定装置。
[態様12]
前記支持ステージが、前記吸着孔とは別に、複数の補助吸着孔をさらに備える、態様1~11のいずれか一つに記載のシート固定装置。
[態様13]
前記吸引手段が、前記板状部材の前記平坦面と反対の側に配置される下部ステージを備えており、前記下部ステージが、前記吸着孔と連通する気体流路を備えている、態様1~12のいずれか一つに記載のシート固定装置。
[態様14]
前記吸引手段が、前記板状部材の前記平坦面と反対の側に配置される下部ステージを備えており、前記下部ステージが、前記吸着孔及び前記補助吸着孔と連通する気体流路を備えている、又は前記吸着孔と連通する気体流路と、前記補助吸着孔と連通する気体流路とを別個に備えている、態様12又は13に記載のシート固定装置。
[態様15]
前記吸引手段が、前記気体流路に接続される吸引ポンプをさらに備えている、態様13又は14に記載のシート固定装置。
[態様16]
複層シートを剥離するためのシート剥離装置であって、
態様1~15のいずれか一つに記載のシート固定装置と、
前記支持ステージに隣接して設けられる、又は前記支持ステージの段差部に設けられる、前記複層シートに接触して応力を加えるための応力負荷手段であって、前記複層シートに接触しながら前記平坦面の上方に移動可能な可動接触部を有する、応力負荷手段と、
を備えた、シート剥離装置。
[態様17]
前記可動接触部がピン形状又はフック形状を有する、態様16に記載のシート剥離装置。
[態様18]
態様16又は17に記載のシート剥離装置を用いたシートの剥離方法であって、
少なくとも第1層及び第2層を備える複層シートを、前記第1層の表面が前記支持ステージの平坦面と接するように載置する工程と、
前記吸引手段により、前記吸着孔を介して前記複層シートを前記支持ステージに向けて吸引し、それにより前記複層シートを前記支持ステージに固定する工程と、
前記応力負荷手段により、前記可動接触部を前記段差部から前記複層シートの第2層に接触させ、前記第1層と前記第2層とが離間する方向に応力を加えることにより、前記第2層を前記第1層から引き剥がす工程と、
を含み、
前記可動接触部と前記複層シートとの接触領域の最大長さが2mm以上500mm以下である、シートの剥離方法。
[態様19]
前記可動接触部と前記複層シートとの接触領域の面積が5mm2以上120mm2以下である、態様18に記載のシートの剥離方法。
[態様20]
前記複層シートを前記支持ステージに載置する前に、前記複層シートの第1層の表面及び/又は前記支持ステージの平坦面にグリスを塗布する工程をさらに含む、態様18又は19に記載のシートの剥離方法。
[態様21]
態様1~15のいずれか一つに記載のシート固定装置を用いて複層シートの一方の面を固定し、その反対側の層を剥離する工程を含む、シートの剥離方法。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明のシート固定装置の一例を示す斜視図である。
【
図2A】
図1に示されるシート固定装置の支持ステージが有する板状部材を示す上面図である。
【
図2B】
図2Aに示される板状部材における、破線で囲まれた部分の拡大図である。
【
図3A】
図1に示されるシート固定装置の吸引手段が備える下部ステージを示す斜視図である。
【
図4】吸着孔と段差部とが離れた位置に設けられたシート固定装置を用いて複層シートを固定及び剥離する工程を示す模式図である。
【
図5】吸着孔と段差部とが近い位置に設けられたシート固定装置を用いて複層シートを固定及び剥離する工程を示す模式図である。
【
図6】吸着孔が隔壁により複数の吸着領域に区画されたシート固定装置を用いて複層シートを固定及び剥離する工程を示す模式図である。
【
図7】本発明のシートの剥離方法を示す工程流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
シート固定装置
図1に本発明のシート固定装置の一例を示す。
図1に示されるシート固定装置10は、支持ステージ20と、吸引手段40とを備える。
図1及び
図2Aに示されるように、支持ステージ20は、板状部材22、並びに板状部材22に設けられる吸着孔24及び段差部26を有する。板状部材22は、複層シートを載置可能な平坦面Fを有する。この平坦面Fは、JIS B0621-1984で規定される平面度が0.30mm以下である。吸着孔24は、板状部材22における複層シートの外周部と対応する位置に設けられる。段差部26は、板状部材22における吸着孔24の外側に沿って設けられる、平坦面Fから窪んだ部分である。吸引手段40は、吸着孔24を介して複層シートを支持ステージ20に向けて吸引可能とする。
図1に示されるシート固定装置10では、複層シートが円形状のウエハである場合に用いられる円弧状の吸着孔24と、複層シートが矩形状のパネルである場合に用いられるL字状の吸着孔24とがそれぞれ板状部材22に設けられている。また、それぞれの吸着孔24の外側に沿って、円弧状又はL字状の段差部26が板状部材22に設けられている。すなわち、シート固定装置10は、支持ステージ20が複層シートを支持し、吸引手段40により複層シートを支持ステージ20に向けて吸引することで、複層シートを固定するものである。このように、所定の平坦面Fを有する支持ステージ20に対して、複層シートの外周部と対応する位置に吸着孔24を設けるとともに、吸着孔24の外側に沿って段差部26を設けることにより、複層シートの一方の面を固定してその反対側の層を剥離する際に、複層シートと支持ステージ20との間のリークの発生を抑制して密着力を確保可能な、シート固定装置を提供できる。
【0013】
図4及び5に、第1層62、剥離層64及び第2層66を備えた複層シート60の第1層62側の面をシート固定装置10,110に載置及び固定した後、第2層66を剥離する工程を示した模式図を示す。
図4(i)に示されるように、吸着孔124が複層シート60の端部から離れた位置に設けられるシート固定装置110では、吸着孔124を介して第1層62に加わる吸引力が大きい箇所(つまり剥離が開始する作用点)と、段差部126から第2層66を剥離する際に、第2層66の端部に対して加わる力点との距離が長くなる。このため、複層シート60に加えた力が分散してしまい、
図4(ii)に示されるように、複層シート60が支持ステージ20との密着がされず、リークの発生につながりやすい。その結果、複層シート60の固定が不十分か、全く固定がされない状態となる。
【0014】
これに対して、本発明のシート固定装置10は、複層シート60の外周部と対応する位置に吸着孔24が設けられているため、
図5(i)に示されるように、第1層62の端部付近を局所的に強く吸引することができる。このため、吸着孔24の外側に沿って設けられた段差部26から第2層66を剥離する際、第1層62を強く吸引する作用点と、第2層66の端部に加わる力点との距離が短くなる。その結果、複層シート60の端部に局所的に力を加えることが可能となり、
図5(ii)に示されるように、第2層66をスムーズに剥離することができる。このように、本発明によれば、複層シート60の一方の面を固定してその反対側の層を剥離する際に、複層シート60と支持ステージ20との間のリークを抑制し、密着力を確保することができる。その結果、複層シート60の固定面と反対側の層を、破損等を生じさせずに容易に剥離することが可能となる。したがって、本発明の好ましい態様によれば、シート固定装置10を用いて複層シート60の一方の面を固定し、その反対側の層を剥離する工程を含む、シートの剥離方法が提供される。
【0015】
また、複層シート60の第1層62が薄い場合、又は第2層66が高い剛性を有する場合、複層シート60から第2層66を剥離するのが困難となりうる。この点、上述のとおり本発明のシート固定装置10を用いて複層シート60を固定することで、複層シート60の端部に局所的に力を加えることができるため、このような複層シート60であっても容易に剥離を行うことが可能となる。したがって、シート固定装置10は、ガラス、セラミックス、シリコン等で構成される剛性キャリア上に、配線層、半導体素子及び/又は樹脂層を有する配線基板が形成された配線基板付キャリア、すなわち複層シートの固定用途に特に適している。
【0016】
配線基板付キャリア(複層シート)は、剛性キャリア上に、所望により設けられる中間層(すなわち任意の層)、剥離層、及び金属層を備えたキャリア付金属箔を含むものであるのが好ましく、キャリア付金属箔の金属層上に配線基板が形成されているのが特に好ましい。この場合、配線基板が第1層62となり、剛性キャリアが第2層66となるのが典型的である。キャリア付金属箔の好ましい態様については後述するものとする。
【0017】
シート固定装置10(及び後述するシート剥離装置50)は、第1層62と第2層66とを好ましくは0.1kgf以上10kgf以下、より好ましくは0.5kgf以上8kgf以下、さらに好ましくは1kgf以上5kgf以下の力で剥離可能な複層シート60(例えば直径300mmのウエハ)の固定及び剥離用途に適している。
【0018】
支持ステージ20における吸着孔24と段差部26との距離は30mm以下であるのが好ましく、より好ましくは10mm以下、さらに好ましくは0.3mm以上5mm以下、特に好ましくは0.5mm以上1.5mm以下である。このような範囲であると、複層シート60の一方の面に位置する層(第1層62)を強く吸引する箇所と、その反対側の層(第2層66)に加わる力点との距離がより一層短くなり、複層シート60と支持ステージ20との間のリークの発生をより一層効果的に抑制できる。ここで、吸着孔24と段差部26との距離とは、段差部26の内端面(吸着孔24に最も近い側面)から、吸着孔24の外端面(段差部26に最も近い側面)までの距離を指す(
図5(i)参照)。換言すれば、上記距離は、吸着孔24と段差部26とを隔てる壁の厚さに相当する。また、
図6(i)に示されるように、吸着孔24が隔壁Dによって複数の吸着領域Rに区画される場合、上記距離は、段差部26の内端面から、段差部26に最も近い吸着領域Rの外端面までの距離を指す。
【0019】
吸着孔24は、上述のとおり板状部材22における複層シート60の外周部と対応する位置に設けられる。本明細書における複層シート60の外周部とは、典型的には複層シート60の周縁から中心に向かって0mm以上30mm以下の領域を意味し、より典型的には1mm以上20mm以下、さらに典型的には2mm以上10mm以下の領域を意味する。
【0020】
吸着孔24は、支持ステージ20を平面視した場合に、複層シート60の輪郭に沿った形状を有しているのが好ましい。また、吸着孔24には、
図2Bに示されるように、吸着孔24を複数の吸着領域Rに区画するように、複層シート60の輪郭と平行に設けられる隔壁Dが存在するのが好ましい。
図6に、吸着孔24が隔壁Dで区画されたシート固定装置10を用いて複層シート60を固定及び剥離する工程を模式的に示す。
図6(i)に示されるシート固定装置10は、吸着孔24が隔壁Dによって複数の吸着領域Rに区画されており、各々の吸着領域Rにて第1層62の吸着が行われる。この点、複層シート60の第2層66を剥離する際、第1層62の剛性が第2層66との分離によって変化することで、第1層62が吸着孔24側に撓むおそれがある。具体的には、第1層62(例えば配線基板)はモールド等の樹脂を含む層でありうることから、第1層62の弾性率は第2層66(例えば剛性キャリア)の弾性率よりも低いのが典型的である。例えば、第1層62の弾性率は第2層66の弾性率の1.0倍未満、より典型的には0.7倍未満、さらに典型的には0.5倍未満である。したがって、第2層66を剥離する際に、この弾性率の差に起因して、第1層62が吸着孔24側に吸引される形で撓みが発生しうる。この点、吸着孔24を複数の吸着領域Rに区画する、つまりスリット状に隔壁D及び吸着孔24を設けることにより、各々の吸着領域Rに第1層62の吸着が分散されることで、
図6(ii)に示されるように第1層62の撓みを抑制しながら第2層66を剥離することができる。
【0021】
シート固定装置10が複数種類の複層シート60を固定することを対象とする場合、板状部材22は各々の複層シート60の輪郭に対応する吸着孔24を有するのが好ましい。例えば、
図2Aに示される板状部材22には、複層シート60が円形状のウエハである場合に用いられる第1吸着孔24aと、複層シート60が矩形状のパネルである場合に用いられる第2吸着孔24bとがそれぞれ設けられている。また、固定対象である複層シート60の形状が多角形である場合、
図2Aに示される第2吸着孔24bのように、吸着孔24は複層シート60の角部分の輪郭に沿った形状を有しているのが、複層シート60の固定及び剥離を容易とする観点から好ましい。
【0022】
吸着孔24の形状は、支持ステージ20を平面視した場合に、円形状、円弧状、直線状及び多角形状からなる群から選択される少なくとも1種であるのが好ましく、より好ましくは円弧状、直線状及び多角形状からなる群から選択される少なくとも1種、さらに好ましくは円弧状及び/又は直線状である。吸着孔24は、隔壁によってハニカム形状を有していてもよい。
【0023】
吸着孔24の短手方向(円形状又は円弧状の場合は半径方向)の幅は0.5mm以上30mm以下であるのが好ましく、より好ましくは1mm以上20mm以下、さらに好ましくは1.5mm以上10mm以下、特に好ましくは2mm以上5mm以下である。こうすることで、複層シート60を吸着する際の撓みの発生をより一層抑制することができる。また、吸着孔24の長手方向(円形状又は円弧状の場合は円周方向)の長さは、複層シート60の全周(円形状又は円弧状の場合は円周)の長さを100%として、5%以上80%以下であるのが好ましく、より好ましくは10%以上60%以下、さらに好ましくは20%以上50%以下である。なお、吸着孔24が複数の吸着領域Rに区画される場合、吸着領域Rごとに上記幅及び/又は長さを満たすのが好ましい。また、吸着孔24が、
図2Aに示されるL字状の第2吸着孔24bのように、2以上の辺で構成される形状を有する場合、各辺の長手方向の長さを足し合わせた長さが上記長さを満たすのが好ましい。
【0024】
吸着孔24は凹部を有し、該凹部には板状部材22を貫通する少なくとも1つの貫通孔が設けられていてもよい。貫通孔の形状は、吸着孔24の表面形状と一致していてもよく一致していなくてもよい。すなわち、凹部に設けられる貫通孔の表面サイズ(孔径)は、吸着孔24の表面サイズより小さいものであってよい。
【0025】
支持ステージ20が複数の吸着孔24を有しており、これら複数の吸着孔24が、全体として、円、円弧、直線又は多角形をもたらす集合体として構成されるものであってもよい。すなわち、吸着孔24単独では複層シート60の輪郭に沿っていない形状であっても、吸着孔24全体として複層シート60の輪郭に沿う形状であれば、撓みを抑制しながら複層シート60の吸引及び固定を行うことができる。
【0026】
板状部材22が有する平坦面Fは、JIS B0621-1984で規定される平面度が0.30mm以下であり、好ましくは0.01mm以上0.10mm以下、さらに好ましくは0.03mm以上0.07mm以下である。こうすることで、支持ステージ20に複層シートを載置及び吸引した際に、撓みを抑制しながら複層シート60を固定することができる。平坦面Fの平面度は、市販の三次元測定機を用いて測定することができる。
【0027】
平坦面Fは、JIS B 0601-2001に準拠して測定される算術平均粗さRaが0.01μm以上0.50μm以下であるのが好ましく、より好ましくは0.02μm以上0.40μm以下、さらに好ましくは0.05μm以上0.30μm以下である。このような範囲であると、複層シートを固定する際に、シートの撓みをより効果的に抑制することができる。算術平均粗さRaは、平坦面Fにおける所定の測定長さ(例えば130μm)の表面プロファイルを市販のレーザー顕微鏡で測定することにより算出することができる。
【0028】
板状部材22のビッカース硬さは10HV以上3000HV以下であるのが好ましく、より好ましくは10HV以上2000HV以下、さらに好ましくは20HV以上800HV以下、特に好ましくは40HV以上400HV以下である。こうすることで、複層シート等との接触及び擦れに伴う摩耗を効果的に防止することができる。なお、本明細書においてビッカース硬さはJIS Z2244-2009に記載される「ビッカース硬さ試験」に準拠して測定されるものである。
【0029】
板状部材22は、ステンレス鋼、Al合金、炭素工具鋼(JIS G4401-2009に規定される、鉄に炭素、ケイ素及びマンガンを所定量含有させた炭素鋼)、合金工具鋼(JIS G4404-2015に規定される、炭素工具鋼にタングステン、クロム、バナジウム等を少量添加した工具鋼)、高速度工具鋼(JIS G4403-2015に規定される、炭素工具鋼にタングステン、クロム、バナジウム、モリブデン等を多量に添加した工具鋼)及びTi合金からなる群から選択される少なくとも1種で構成されるのが好ましく、より好ましくはステンレス鋼、Al合金、炭素工具鋼、合金工具鋼及び高速度工具鋼からなる群から選択される少なくとも1種、さらに好ましくはステンレス鋼及び/又はAl合金で構成される。Al合金の好ましい例としては、JIS H4000-2014に規定される、Alを99%以上含むA1000系、AlにMgを添加したA5000系(例えばA5052)、A6000系が挙げられる。複層シート等との接触及び擦れに伴う摩耗防止の観点から、Al合金は硬質アルマイト処理被膜を有するものであってもよい。
【0030】
板状部材22の厚さは剛性を保ち、かつ板状部材22の製造時における加工性や生産性を確保する観点から、3mm以上1000mm以下が好ましく、より好ましくは5mm以上500mm以下、さらに好ましくは10mm以上300mm以下である。
【0031】
段差部26は、上述したとおり板状部材22に設けられる平坦面Fから窪んだ部分であり、複層シート60を支持ステージ20上に載置した際に、複層シート60とは接しない部分である。このため、複層シート60を剥離する際、複層シート60の一方の面に位置する層(第1層62)をシート固定装置10に固定した状態で、段差部26から複層シート60の他方の面に位置する層(第2層66)の端部に応力を加えることが可能となる。
【0032】
段差部26は、
図2Aに示されるように溝状の領域を有するものであってもよい。段差部26の深さ(平坦面Fとの高低差)は、板状部材22が全体としての剛性を保ち、かつ複層シート60を剥離する際の容易さを確保する観点から、1mm以上200mm以下が好ましく、より好ましくは3mm以上100mm以下である。
【0033】
段差部26の少なくとも吸着孔24側の端部は丸みを帯びているのが、複層シート60への傷や吸着孔24の欠け等を防止する観点から好ましい。
【0034】
支持ステージ20は、
図1に示されるように、吸着孔24とは別に、複数の補助吸着孔28をさらに備えるのが好ましい。補助吸着孔28は、板状部材22における吸着孔24よりも中心側に設けられるのが好ましく、こうすることで複層シート60の端部付近のみならず中央部分を吸引及び固定することができる。もっとも、上述のとおりシート固定装置10は、複層シート60の端部付近を強く吸引することで剥離に伴う複層シート60の破損や複層シート及び支持ステージ20間のリークの発生等を抑制するため、補助吸着孔28を介した吸引力は、吸着孔24を介した吸引力よりも小さいことが望ましい。このような吸引力の制御は、補助吸着孔28の孔径を吸着孔24よりも小さくすることや、後述するとおり吸着孔24及び補助吸着孔28をそれぞれの気体流路を介して別々に吸引することにより好ましく行うことができる。補助吸着孔28の形状は特に限定されるものではないが、円形及び/又は多角形(例えば四角形)が好ましい。
【0035】
補助吸着孔28の外接円の直径は0.2mm以上50mm以下が好ましく、より好ましくは0.5mm以上30mm以下、さらに好ましくは1mm以上20mm以下である。また、複数の補助吸着孔28は、互いに異なる孔の面積を有するものであってもよい。例えば、
図2Aに示される補助吸着孔28は、吸着孔24近傍に存在する孔径の大きい第1補助吸着孔28aと、それ以外の箇所に存在する孔径の小さい第2補助吸着孔28bとを有している。こうすることで、複層シート60の端部付近の吸引力を、複層シート60の中心付近の吸引力に比べてより大きくなるように制御することが可能となる。
【0036】
支持ステージ20は、
図1に示されるように、複層シート60の外周部を吸着孔24上に位置決めするため、位置決めピン30を平坦面Fの上面側に有するのが好ましく、平坦面Fの上面側であって、補助吸着孔28より外側の周縁部にのみ有するのがより好ましい。確実な位置決めを行う観点から、位置決めピン30は円形状又は四角形状が好ましい。また、位置決めピン30はステンレス鋼、Al合金、炭素工具鋼、合金工具鋼、高速度工具鋼又はそれらの組合せで構成されるのが好ましく、特に好ましくはステンレス鋼又はAl合金で構成される。この位置決めピン30により、剥離の際に複層シート60を吸着孔24に適切に合わせることが、より容易かつ迅速に可能となる。すなわち工程時間の短縮につながる。
【0037】
吸引手段40は、板状部材22の平坦面Fと反対の側に配置される下部ステージ42を備えているのが好ましい。下部ステージ42は、
図3Aに示されるように、吸着孔24と連通する気体流路44を備えているのが安定的に吸引を行う観点から好ましい。
【0038】
支持ステージ20が補助吸着孔28をさらに備えている場合、下部ステージ42は、吸着孔24及び補助吸着孔28と連通する気体流路44を備えていてもよく、吸着孔24と連通する気体流路44と、補助吸着孔28と連通する気体流路44とを別個に備えていてもよい。
図3Bに示される下部ステージ42は、吸着孔24と連通する第1気体流路44a及び第2気体流路44bを備えるとともに、補助吸着孔28と連通する第3気体流路44c及び第4気体流路44dを備えている。このように複数の気体流路44を備えることで、気体流路ごとに吸引力を調整することが可能となり、吸着孔24の吸引力を補助吸着孔28の吸引力よりも大きく制御しやすくなる。また、気体流路の一部でリークが発生して吸引を行うことができない場合であっても、他の気体流路と連通する吸着孔24及び/又は補助吸着孔28では正常に吸引を行うことが可能となるため、リーク等による不具合の影響を最小限に留めることができる。
【0039】
下部ステージ42が気体流路44を有する場合、吸引手段40は、気体流路44に接続される吸引ポンプ(図示せず)をさらに備えているのが好ましい。特に、下部ステージが吸着孔24と連通する気体流路44と、補助吸着孔28と連通する気体流路44とを別個に備えている場合、吸引手段40は、吸着孔24と連通する気体流路44に接続される吸引ポンプと、補助吸着孔28と連通する気体流路44に接続される吸引ポンプとを別個に備えているのが好ましい。こうすることで、吸着孔24の吸引力を補助吸着孔28の吸引力よりも大きく制御しやすくなる。吸引ポンプの種類は、複層シートを吸引して支持ステージ20に固定可能である限り特に限定されないが、例えばロータリーポンプを用いることができる。あるいは、吸引手段40は、ブロワ又はコンプレッサを用いて吸引を行ってもよい。
【0040】
シート剥離装置
本発明の好ましい態様によれば、複層シートを剥離するためのシート剥離装置が提供される。
図7に本発明のシート剥離装置及びそれを用いたシートの剥離工程を示す。
図7(ii)~(iv)に示されるシート剥離装置50は、上述したシート固定装置10と、複層シート60に接触して応力を加えるための応力負荷手段とを備える。応力負荷手段は、支持ステージ20に隣接して設けられる、又は支持ステージ20の段差部26に設けられる。そして、応力負荷手段は、複層シート60に接触しながら平坦面Fの上方に移動可能な可動接触部52を有する。
【0041】
すなわち、シート剥離装置50は、上述したとおりシート固定装置10によって複層シート60の一方の面に位置する層(第1層62)を吸引及び固定することができる。そして、複層シート60の一方の面を固定した状態で、応力負荷手段によって可動接触部52が上方に移動することで、複層シート60の他方の面に位置する層(第2層66)と可動接触部52とが接触し、当該他方の面に位置する層が上方(吸引方向と逆方向)に押し上げられることで剥離される。
【0042】
応力負荷手段が有する可動接触部52は、ピン形状又はフック形状を有するのが好ましく、より好ましくはピン形状であって、上面視した場合に円弧形状を有するものが良い。また、可動接触部52は、複層シート60との接触領域が十分大きいことで複層シート60の破損をより効果的に抑制できる。この観点から、可動接触部52の複層シート60と接触する側の面は5mm2以上120mm2以下の面積を有するのが好ましく、より好ましくは10mm2以上80mm2以下である。
【0043】
シートの剥離方法
本発明の好ましい態様によれば、シート剥離装置を用いたシートの剥離方法が提供される。この方法は、(1)所望により行われる複層シートのトリミング、(2)複層シートの載置、(3)複層シートの吸引及び固定、及び(4)複層シートの剥離の各工程を含む。以下、
図7を参照しながら、工程(1)~(4)の各々について説明する。
【0044】
(1)複層シートのトリミング(任意工程)
少なくとも第1層62及び第2層66を備える複層シート60を用意する。所望により、複層シート60は、第1層62と第2層66との間に介在して両者の剥離を容易とする剥離層64を備えていてもよく、これらの層以外の他の層を有するものであってもよい。
【0045】
図7(i)に示されるように、複層シート60の第2層66は、第1層62と比べて側方に突出した加圧可能領域Pを有するのが好ましい。このため、複層シート60の固定に先立ち、第1層62の外周部をトリミングしておくのが好ましい。トリミング方法は、公知の手法を採用すればよく、特に限定されない。
【0046】
複層シート60は、剛性を有する剛性シートであることが好ましい。こうした観点から、複層シート60の弾性率(ヤング率)は、30GPa以上600GPa以下であるのが好ましく、より好ましくは40GPa以上400GPa以下、さらに好ましくは50GPa以上250GPa以下である。複層シートのビッカース硬さは20HV以上2500HV以下であるのが好ましく、より好ましくは30HV以上2000HV以下、さらに好ましくは40HV以上800HV以下である。複層シート60の第1層62及び第2層66は互いに同一の材料で構成されるものであってもよく、異なる材料で構成されるものであってもよい。第1層62及び第2層66が異なる材料で構成される場合、少なくとも第2層66が上記弾性率及び/又はビッカース硬さを有するのが好ましい。
【0047】
複層シート60は、上述したとおり、ガラス、セラミックス、シリコン等で構成される剛性キャリア上に、配線層、半導体素子及び/又は樹脂層を有する配線基板が形成された配線基板付キャリアであるのが特に好ましい。この場合、配線基板が第1層62となり、剛性キャリアが第2層66となるのが典型的である。
【0048】
(2)複層シートの載置
複層シート60を、第1層62の表面が支持ステージ20の平坦面Fと接するように載置する(
図7(ii)参照)。このとき、第1層62の側端と段差部26の内端面とが一致する、つまり段差部26の吸着孔24に最も近い側面に沿って第1層62の側端が位置するように、かつ、第2層66の端部又は加圧可能領域Pが段差部26の上方に位置するように、複層シート60を載置するのが好ましい。このように複層シート60を載置し、かつ、吸着孔24と段差部26との距離を上述したとおり短くする(例えば1mm)ように支持ステージ20をデザインすることが特に好ましい。こうすることにより、第1層62(例えば配線基板)と支持ステージ20との間のリーク発生を極めて効果的に抑制しつつ、第2層66(例えば剛性キャリア)を剥離することができる。
【0049】
複層シート60を支持ステージ20に載置する前に、複層シート60の第1層62の表面及び/又は支持ステージ20の平坦面Fにグリスを塗布するのが好ましい。このグリスは、JIS K2220-2013に準拠して測定される、25℃における混和ちょう度が10以上1000以下であるのが好ましく、より好ましくは50以上700以下である。また、グリスは、99℃で22時間加熱した場合の揮発分が10%以上70%以下であるのが好ましく、より好ましくは30%以上50%以下である。グリスの好ましい例としては、シリコーン系グリス、ポリグリコール系グリス、合成炭化水素油系グリス及びそれらの組合せが挙げられる。
【0050】
(3)複層シートの吸引及び固定
図7(iii)に示されるように、吸引手段40により、吸着孔24を介して複層シート60を支持ステージ20に向けて吸引する。こうすることで、複層シート60を支持ステージ20に固定することができる。
【0051】
シート剥離装置50を用いた複層シート60の好ましい吸引及び固定方法については、シート固定装置10に関して上述した好ましい態様がそのまま当てはまる。
【0052】
(4)複層シートの剥離
図7(iv)に示されるように、応力負荷手段により、可動接触部52を段差部26から複層シート60の第2層66に接触させ、第1層62と第2層66とが離間する方向(吸引方向と逆方向)に応力を加える。これにより、複層シート60の第2層66を第1層62から引き剥がすことができる。
【0053】
複層シート60に加える応力は、複層シート60のサイズ等に応じて適宜調整することができる。例えば、複層シート60が直径300mmのウエハである場合、複層シート60に加える応力は0.1kgf以上10kgf以下が好ましく、0.5kgf以上8kgf以下がより好ましく、1kgf以上5kgf以下がさらに好ましい。こうすることにより、複層シート60の第2層66を第1層62からよりスムーズに引き剥がすことができる。なお、上記応力は、市販のフォースゲージを用いて測定することができる。
【0054】
なお、この引き剥がしの前に、複層シート60の剥離層64の近傍に切込みを入れることが好ましく、これにより剥離の開始時にかかる応力を軽減し、よりスムーズに剥離を進めることができる。すなわち切込みの角から第1層62、剥離層64及び第2層66の中央部側に向かって回転刃(例えば直径45mm、刃厚0.3mm、刃角度21°、材質:タングステン)を挿入する。このとき、複層シート60を断面視した場合における、複層シート60の主面に対する回転刃の挿入角度θを15°とする。また、例えば回転刃の複層シート60への差し込み幅を2mmとする。こうして、第1層62と第2層66との間に好ましく隙間を形成できる。
【0055】
可動接触部52を複層シート60の第2層66に接触させる際、可動接触部52と複層シート60との接触領域の最大長さを2mm以上500mm以下、好ましくは5mm以上300mm以下、より好ましくは10mm以上100mm以下とする。こうすることで、複層シート60に加わる単位長さ当たりの応力を小さくすることができ、複層シート60の破損をより効果的に抑制できる。なお、本明細書における接触領域の最大長さとは、接触領域内の最も離れた2点間の距離を意味し、典型的には接触領域の長手方向の長さを意味する。同様の観点から、可動接触部52と複層シート60との接触領域の面積は5mm2以上120mm2以下であるのが好ましく、より好ましくは10mm2以上80mm2以下、さらに好ましくは30mm2以上70mm2以下である。
【0056】
キャリア付金属箔
上述したとおり、本発明の方法において固定及び/又は剥離対象となる複層シート60は、剛性キャリア、所望により中間層、剥離層、及び金属層を順に備えたキャリア付金属箔を含むのが好ましい。
【0057】
剛性キャリアは、ガラス、多結晶シリコン、単結晶シリコン又はセラミックスで構成されるのが好ましい。例えば、剛性キャリアはガラス板、セラミックス板、シリコンウェハ、金属板等といった剛性を有する支持体として機能しうるものであるのが好ましい。剛性キャリアを構成するセラミックスの好ましい例としては、アルミナ、ジルコニア、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、その他各種ファインセラミックス等が挙げられる。より好ましくは、半導体素子を搭載する際の加熱に伴うコアレス支持体の反り防止の観点から、熱膨張係数(CTE)が25ppm/K未満(典型的には1.0ppm/K以上23ppm/K以下)の材料であり、そのような材料の例としては、上述したようなガラス、シリコン及びセラミックス等が挙げられる。また、ハンドリング性やチップ実装時の平坦性確保の観点から、剛性キャリアはビッカース硬度が100HV以上であるのが好ましく、より好ましくは150HV以上2500HV以下である。これらの特性を満たす材料として、剛性キャリアはガラス、シリコン又はセラミックスで構成されるのが好ましく、より好ましくはガラス又はセラミックスで構成され、特に好ましくはガラスで構成される。ガラスから構成される剛性キャリアとしては、例えばガラス板が挙げられる。ガラスを剛性キャリアとして用いた場合、軽量で、熱膨脹係数が低く、絶縁性が高く、剛直で表面が平坦なため、金属層の表面を極度に平滑にできる等の利点がある。また、剛性キャリアがガラスである場合、微細回路形成に有利な表面平坦性(コプラナリティ)を有している点、配線製造工程におけるデスミアや各種めっき工程において耐薬品性を有している点等の利点がある。剛性キャリアを構成するガラスの好ましい例としては、石英ガラス、ホウケイ酸ガラス、無アルカリガラス、ソーダライムガラス、アルミノシリケートガラス、及びそれらの組合せが挙げられ、より好ましくは無アルカリガラス、ソーダライムガラス、及びそれらの組合せであり、特に好ましくは無アルカリガラスである。無アルカリガラスは、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、及び酸化カルシウムや酸化バリウム等のアルカリ土類金属酸化物を主成分とし、更にホウ酸を含有する、アルカリ金属を実質的に含有しないガラスのことである。この無アルカリガラスは、0℃から350℃までの広い温度帯域において熱膨脹係数が3ppm/K以上5ppm/K以下の範囲で低く安定しているため、加熱を伴うプロセスにおけるガラスの反りを最小限にできるとの利点がある。剛性キャリアの厚さは100μm以上2000μm以下が好ましく、より好ましくは300μm以上1800μm以下、さらに好ましくは400μm以上1100μm以下である。剛性キャリアがこのような範囲内の厚さであると、ハンドリングに支障を来さない適切な強度を確保しながら配線の薄型化、及び電子部品搭載時に生じる反りの低減を実現することができる。
【0058】
所望により設けられる中間層は、1層構成であってもよいし、2層以上の構成であってもよい。中間層が2層以上の層で構成される場合には、中間層は、剛性キャリア直上に設けられた第1中間層と、剥離層に隣接して設けられた第2中間層とを含む。第1中間層は、剛性キャリアとの密着性を確保する点から、Ti、Cr、Al及びNiからなる群から選択される少なくとも1種の金属で構成される層であるのが好ましい。第1中間層は、純金属であってもよいし、合金であってもよい。第1中間層の厚さは5nm以上500nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上300nm以下、さらに好ましくは18nm以上200nm以下、特に好ましくは20nm以上100nm以下である。第2中間層は、剥離層との剥離強度を所望の値に制御する点から、Cuで構成される層であるのが好ましい。第2中間層の厚さは5nm以上500nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上400nm以下、さらに好ましくは15nm以上300nm以下、特に好ましくは20nm以上200nm以下である。第1中間層と第2中間層との間には、別の介在層が存在していてもよく、介在層の構成材料の例としては、Ti、Cr、Mo、Mn、W及びNiからなる群から選択される少なくとも1種の金属とCuとの合金等が挙げられる。一方、中間層が1層構成の場合には、上述した第1中間層を中間層としてそのまま採用してもよいし、第1中間層及び第2中間層を、1層の中間合金層で置き換えてもよい。この中間合金層は、Ti、Cr、Mo、Mn、W、Al及びNiからなる群から選択される少なくとも1種の金属の含有量が1.0at%以上であり、かつ、Cu含有量が30at%以上である銅合金で構成されるのが好ましい。中間合金層の厚さは5nm以上500nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上400nm以下、さらに好ましくは15nm以上300nm以下、特に好ましくは20nm以上200nm以下である。なお、上述した各層の厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。中間層を構成する金属は原料成分や成膜工程等に起因する不可避的不純物を含んでいてもよい。また、中間層の成膜後に大気に暴露される場合、それに起因して混入する酸素の存在は許容される。中間層は、いかなる方法で製造されたものであってもよいが、金属ターゲットを用いたマグネトロンスパッタリング法により形成された層であるのが膜厚分布の均一性を具備できる点で特に好ましい。
【0059】
剥離層は、剛性キャリア、及び存在する場合には中間層の剥離を可能ないし容易とする層である。剥離層は、有機剥離層及び無機剥離層のいずれであってもよい。有機剥離層に用いられる有機成分の例としては、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物、カルボン酸等が挙げられる。窒素含有有機化合物の例としては、トリアゾール化合物、イミダゾール化合物等が挙げられる。一方、無機剥離層に用いられる無機成分の例としては、Cu、Ti、Al、Nb、Zr、Cr、W、Ta、Co、Ag、Ni、In、Sn、Zn、Ga、Moの少なくとも一種類以上を含む金属酸化物若しくは金属酸窒化物、又は炭素等が挙げられる。これらの中でも、剥離層は主として炭素を含んでなる層であるのが剥離容易性や層形成性の点等から好ましく、より好ましくは主として炭素又は炭化水素からなる層であり、さらに好ましくは硬質炭素膜であるアモルファスカーボンからなる層である。この場合、剥離層(すなわち炭素含有層)はXPSにより測定される炭素濃度が60原子%以上であるのが好ましく、より好ましくは70原子%以上、さらに好ましくは80原子%以上、特に好ましくは85原子%以上である。炭素濃度の上限値は特に限定されず100原子%であってもよいが、98原子%以下が現実的である。剥離層は不可避的不純物(例えば雰囲気等の周囲環境に由来する酸素、炭素、水素等)を含みうる。また、剥離層には後に積層される金属層等の成膜手法に起因して、剥離層として含有された金属以外の種類の金属原子が混入しうる。剥離層として炭素含有層を用いた場合にはキャリアとの相互拡散性及び反応性が小さく、300℃を超える温度でのプレス加工等を受けても、金属層と接合界面との間での高温加熱による金属元素の相互拡散を防止して、キャリアの引き剥がし除去が容易な状態を維持することができる。剥離層はスパッタリング等の気相法により形成された層であるのが剥離層中の過度な不純物を抑制する点、他の層の連続生産性の点などから好ましい。剥離層として炭素含有層を用いた場合の厚さは1nm以上20nm以下が好ましく、より好ましくは1nm以上10nm以下である。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0060】
剥離層は、金属酸化物層及び炭素含有層のそれぞれの層を含むか、又は金属酸化物及び炭素の双方を含む層であってもよい。特に、キャリア付金属箔が中間層を含む場合、炭素含有層が剛性キャリアの安定的な剥離に寄与するとともに、金属酸化物層によって中間層及び金属層に由来する金属元素の加熱に伴う拡散をより効果的に抑制することができ、結果として例えば350℃以上もの高温で加熱された後においても、安定した剥離性を保持することが可能となる。金属酸化物層はCu、Ti、Al、Nb、Zr、Cr、W、Ta、Co、Ag、Ni、In、Sn、Zn、Ga、Mo及びそれらの組合せで構成される金属の酸化物を含む層であるのが好ましい。金属酸化物層は金属ターゲットを用い、酸化性雰囲気下でスパッタリングを行う反応性スパッタリング法により形成された層であるのが、成膜時間の調整によって膜厚を容易に制御可能な点から特に好ましい。金属酸化物層の厚さは0.1nm以上100nm以下であるのが好ましい。金属酸化物層の厚さの上限値としては、より好ましくは60nm以下、さらに好ましくは30nm以下、特に好ましくは10nm以下である。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。このとき、剥離層として金属酸化物層及び炭素層が積層される順は特に限定されない。また、剥離層は、金属酸化物層及び炭素含有層の境界が明瞭には特定されない混相(すなわち金属酸化物及び炭素の双方を含む層)の状態で存在していてもよい。
【0061】
同様に、高温での熱処理後においても安定した剥離性を保持する観点から、剥離層は、金属層に隣接する側の面がフッ化処理面及び/又は窒化処理面である金属含有層であってもよい。金属含有層にはフッ素の含有量及び窒素の含有量の和が1.0原子%以上である領域(以下、「(F+N)領域」と称する)が10nm以上の厚さにわたって存在するのが好ましく、(F+N)領域は金属含有層の金属層側に存在するのが好ましい。(F+N)領域の厚さ(SiO2換算)は、XPSを用いてキャリア付金属箔の深さ方向元素分析を行うことにより特定される値とする。フッ化処理面ないし窒化処理面は、反応性イオンエッチング(RIE:Reactive ion etching)、又は反応性スパッタリング法により好ましく形成することができる。一方、金属含有層に含まれる金属元素は、負の標準電極電位を有するのが好ましい。金属含有層に含まれる金属元素の好ましい例としては、Cu、Ag、Sn、Zn、Ti、Al、Nb、Zr、W、Ta、Mo及びそれらの組合せ(例えば合金や金属間化合物)が挙げられる。金属含有層における金属元素の含有率は50原子%以上100原子%以下であることが好ましい。金属含有層は1層から構成される単層であってもよく、2層以上から構成される多層であってもよい。金属含有層全体の厚さは、10nm以上1000nm以下であることが好ましく、より好ましくは30nm以上500nm以下、さらに好ましくは50nm以上400nm以下、特に好ましくは100nm以上300nm以下である。金属含有層自体の厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0062】
あるいは、剥離層は、炭素層等に代えて、金属酸窒化物含有層であってもよい。金属酸窒化物含有層の剛性キャリアと反対側(すなわち金属層側)の表面は、TaON 、NiON、TiON、NiWON及びMoONからなる群から選択される少なくとも1種の金属酸窒化物を含むのが好ましい。また、剛性キャリアと金属層との密着性を確保する点から、金属酸窒化物含有層の剛性キャリア側の表面は、Cu、Ti、Ta、Cr、Ni、Al、Mo、Zn、W、TiN及びTaNからなる群から選択される少なくとも1種を含むのが好ましい。こうすることで、金属層表面の異物粒子数を抑制して回路形成性を向上し、かつ、高温で長時間加熱された後においても、安定した剥離強度を保持することが可能となる。金属酸窒化物含有層の厚さは5nm以上500nm以下であるのが好ましく、より好ましくは10nm以上400nm以下、さらに好ましくは20nm以上200nm以下、特に好ましくは30nm以上100nm以下である。この厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。
【0063】
金属層は金属で構成される層である。金属層は、1層構成であってもよいし、2層以上の構成であってもよい。金属層が2層以上の層で構成される場合には、金属層は、剥離層の剛性キャリアと反対の面側に、第1金属層から第m金属層(mは2以上の整数)までの各金属層が順に積層した構成とすることができる。金属層全体の厚さは1nm以上2000nm以下であることが好ましく、好ましくは100nm以上1500nm以下、より好ましくは200nm以上1000nm以下、さらに好ましくは300nm以上800nm以下、特に好ましくは350nm以上500nm以下である。金属層の厚さは、層断面を透過型電子顕微鏡のエネルギー分散型X線分光分析器(TEM-EDX)で分析することにより測定される値とする。以下、金属層が第1金属層及び第2金属層の2層で構成される例について説明する。
【0064】
第1金属層は、キャリア付金属箔に対してエッチングストッパー機能や反射防止機能等の所望の機能を付与するものであることが好ましい。第1金属層を構成する金属の好ましい例としては、Ti、Al、Nb、Zr、Cr、W、Ta、Co、Ag、Ni、Mo及びそれらの組合せが挙げられ、より好ましくはTi、Zr、Al、Cr、W、Ni、Mo及びそれらの組合せ、さらに好ましくはTi、Al、Cr、Ni、Mo及びそれらの組合せ、特に好ましくはTi、Mo及びそれらの組合せである。これらの元素は、フラッシュエッチング液(例えば銅フラッシュエッチング液)に対して溶解しないという性質を有し、その結果、フラッシュエッチング液に対して優れた耐薬品性を呈することができる。したがって、第1金属層は、後述する第2金属層よりもフラッシュエッチング液によってエッチングされにくい層となり、それ故エッチングストッパー層として機能しうる。また、第1金属層を構成する上述の金属は光の反射を防止する機能も有するため、第1金属層は、画像検査(例えば自動画像検査(AOI))において視認性を向上させるための反射防止層としても機能しうる。第1金属層は、純金属であってもよいし、合金であってもよい。第1金属層を構成する金属は原料成分や成膜工程等に起因する不可避的不純物を含んでいてもよい。また、上記金属の含有率の上限は特に限定されず、100原子%であってもよい。第1金属層は物理気相堆積(PVD)法により形成された層であるのが好ましく、より好ましくはスパッタリングにより形成された層である。第1金属層の厚さは、1nm以上500nm以下であることが好ましく、より好ましくは10nm以上400nm以下、さらに好ましくは30nm以上300nm以下、特に好ましくは50nm以上200nm以下である。
【0065】
第2金属層を構成する金属の好ましい例としては、第4族、第5族、第6族、第9族、第10族及び第11族の遷移元素、Al、並びにそれらの組合せ(例えば合金や金属間化合物)が挙げられ、より好ましくは第4族及び第11族の遷移元素、Al、Nb、Co、Ni、Mo、並びにそれらの組合せ、さらに好ましくは第11族の遷移元素、Ti、Al、Mo、及びそれらの組合せ、特に好ましくはCu、Ti、Mo、及びそれらの組合せ、最も好ましくはCuである。第2金属層は、いかなる方法で製造されたものでよく、例えば、無電解金属めっき法及び電解金属めっき法等の湿式成膜法、スパッタリング及び真空蒸着等の物理気相堆積(PVD)法、化学気相成膜、又はそれらの組合せにより形成した金属箔であってよい。特に好ましい第2金属層は、極薄化によるファインピッチ化に対応しやすい観点から、スパッタリング法や真空蒸着等の物理気相堆積(PVD)法により形成された金属層であり、最も好ましくはスパッタリング法により製造された金属層である。また、第2金属層は、粗化処理をしていない金属層が好ましいが、配線パターン形成に支障を来さないかぎり予備的粗化処理やソフトエッチング処理や洗浄処理、酸化還元処理により二次的な粗化処理が施されたものであってもよい。ファインピッチ化に対応する観点から、第2金属層の厚さは10nm以上1000nm以下であることが好ましく、より好ましくは20nm以上900nm以下、さらに好ましくは30nm以上700nm以下、さらにより好ましくは50nm以上600nm以下、特に好ましくは70nm以上500nm以下、最も好ましくは100nm以上400nm以下である。このような範囲内の厚さの金属層はスパッタリング法により製造されるのが成膜厚さの面内均一性や、シート状やロール状での生産性の観点で好ましい。
【0066】
金属層が1層構成の場合には、上述した第2金属層を金属層としてそのまま採用することが好ましい。一方、金属層がn層(nは3以上の整数)構成である場合には、金属層の第1金属層から第(n-1)金属層までを上述した第1金属層の構成とすることが好ましく、金属層の最外層、すなわち第n金属層を上述した第2金属層の構成とすることが好ましい。