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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】抗体を回避するウイルスベクター
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/35 20060101AFI20231221BHJP
   C12N 15/864 20060101ALI20231221BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231221BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231221BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231221BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231221BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231221BHJP
   C07K 14/015 20060101ALI20231221BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20231221BHJP
   A61K 35/76 20150101ALI20231221BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C12N15/35 ZNA
C12N15/864 100Z
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K14/015
C12N15/09 110
A61K35/76
A61P1/16
A61P35/00
A61P35/04
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2020552403
(86)(22)【出願日】2019-04-03
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 US2019025617
(87)【国際公開番号】W WO2019195449
(87)【国際公開日】2019-10-10
【審査請求日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】62/652,111
(32)【優先日】2018-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/776,814
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】62/819,388
(32)【優先日】2019-03-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】322005747
【氏名又は名称】ギンコ バイオワークス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】マッコイ,ダニエル
(72)【発明者】
【氏名】ベリー,ギャレット イー.
【審査官】小林 薫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/058892(WO,A2)
【文献】国際公開第2017/180854(WO,A1)
【文献】特表2017-534601(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0192823(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0104120(US,A1)
【文献】特表2005-512533(JP,A)
【文献】Proc. Natl. Acad. Sci.,2017年,pp.E4812-E4821
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 7/08
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組換えアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質であって、前記AAVカプシドタンパク質が、第1の置換、第2の置換及び第3の置換を有する配列番号49の配列を含み、前記第1の置換が、配列番号49の454~460番目の残基に対応するアミノ酸を配列番号9と置き換えることであり前記第2の置換が、配列番号49の585~590番目の残基に対応するアミノ酸を配列番号17と置き換えることであり、前記第3の置換が、配列番号49の493~500番目の残基に対応するアミノ酸を配列番号10、12、14及び15のいずれか1つと置き換えることである、組換えAAVカプシドタンパク質。
【請求項2】
前記第3の置換が、配列番号49の493~500番目のアミノ酸を配列番号10と置き換えることを含む、請求項1に記載の組換えAAVカプシドタンパク質。
【請求項3】
配列番号380のアミノ酸配列を含む、請求項に記載の組換えAAVカプシドタンパク質。
【請求項4】
前記第3の置換が、配列番号49の493~500番目のアミノ酸を配列番号15と置き換えることを含む、請求項1に記載の組換えAAVカプシドタンパク質。
【請求項5】
配列番号785のアミノ酸配列を含む、請求項に記載の組換えAAVカプシドタンパク質。
【請求項6】
前記第3の置換が、配列番号49の493~500番目のアミノ酸を配列番号14と置き換えることを含む、請求項1に記載の組換えAAVカプシドタンパク質。
【請求項7】
配列番号384のアミノ酸配列を含む、請求項に記載の組換えAAVカプシドタンパク質。
【請求項8】
前記第3の置換が、配列番号49の493~500番目のアミノ酸を配列番号12と置き換えることを含む、請求項1に記載の組換えAAVカプシドタンパク質。
【請求項9】
配列番号784のアミノ酸配列を含む、請求項12に記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【請求項10】
請求項1に記載の組換えAAVカプシドタンパク質及び前記AAVカプシドに封入されたカーゴ核酸を含む、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター。
【請求項11】
前記カーゴ核酸が治療用タンパク質又はRNAをコードする、請求項1に記載のAAVベクター。
【請求項12】
前記カーゴ核酸が、5’逆位末端反復配列(5’ITR)、治療用タンパク質又はRNAをコードする異種核酸配列、及び3’ITRを含む、請求項1に記載のAAVベクター。
【請求項13】
前記カーゴ核酸が、遺伝子編集分子をコードする、請求項1に記載のAAVベクター。
【請求項14】
前記遺伝子編集分子が、ヌクレアーゼ又はガイドRNAである、請求項1に記載のAAVベクター。
【請求項15】
前記遺伝子編集分子が、Cas9ヌクレアーゼ又はCpf1ヌクレアーゼである、請求項1に記載のAAVベクター。
【請求項16】
カーゴ核酸分子をex vivoで細胞に導入する方法であって、前記細胞と、請求項1に記載のAAVベクターを接触させることを含む、方法。
【請求項17】
請求項14に記載のAAVベクターを含む、医薬組成物。
【請求項18】
治療有効量の請求項1に記載のAAVウイルスベクターを含む、治療の必要な患者の治療のための医薬組成物。
【請求項19】
前記患者が、肝疾患又は肝臓障害である、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記肝臓疾患又は肝臓障害が、発性胆汁性肝硬変、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、自己免疫性肝炎、B型肝炎、C型肝炎、アルコール性肝疾患、線維症、黄疸、原発性硬化性胆管炎(PSC)、バッド-キアリ症候群、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病、アルコール性線維症、非アルコール性線維症、肝脂肪変性、ジルベール症候群、胆道閉鎖症、α1-アンチトリプシン欠乏症、アラジール症候群、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症、血友病B、遺伝性血管浮腫(HAE)、家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)(HoFH)、家族性高コレステロール血症(ヘテロ接合体)(HeFH)、フォンギールケ病(GSD I)、血友病A、メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症、ホモシスチン尿症、フェニルケトン尿症(PKU)、チロシン血症I型、アルギナーゼI欠損症、アルギニノコハク酸リアーゼ欠損症、カルバモイルリン酸合成酵素1欠損症、シトルリン血症1型、シトリン欠損症、クリグラー-ナジャール症候群1型、シスチン症、ファブリー病、グリコーゲン貯蔵病Ib、LPL欠損症、N-アセチルグルタミン酸合成酵素欠損症、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症、オルニチントランスロカーゼ欠損症、原発性高シュウ酸尿症I型、ADA SCID、肝臓癌、又は肝転移である、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
請求項1に記載の組換えAAVカプシドタンパク質をコードする、ポリヌクレオチド。
【請求項22】
請求項2に記載のポリヌクレオチドを含む、発現ベクター。
【請求項23】
請求項2に記載のポリヌクレオチドを含む、細胞。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年3月15日に出願した米国特許仮出願第62/819,388号、2018年12月7日に出願した米国特許仮出願第62/776,814号、2018年4月3日に出願した米国特許仮出願第62/652,111号に基づく優先権を主張するものであり、各仮出願は、参照により、その全体が、あらゆる目的で、本明細書に援用される。
【0002】
本開示は、アデノ随伴ウイルス(AAV)に由来する改変カプシドタンパク質、ならびにそのカプシドタンパク質を含むウイルスカプシド及びウイルスベクターに関するものである。特には、本開示は、形質導入効率の低下なしに、中和抗体を回避する表現型を付与する目的で、ウイルスベクターに組み込むことができる改変AAVカプシドタンパク質、及びそのカプシドタンパク質を含むカプシドに関するものである。
【0003】
配列表
本願には、ASCII形式で電子的に提出した配列表が含まれ、その配列表は、参照により、その全体が本明細書に援用される。2019年4月3日に作成した前記ASCIIコピーは、STRD-_006_03WO_SeqList_ST25.txtという名称であり、約2MBのサイズである。
【背景技術】
【0004】
AAVベクターまたは組み換えAAVベクターと天然の状態で遭遇すると産生される宿主由来の既存抗体は、ワクチンとしてのAAVベクター及び/または遺伝子療法でのAAVベクターの初回投与及び反復投与の妨げとなる。血清学的な研究により、世界全体のヒト集団において、抗体保有率が高いことが明らかとなり、約67%の人が、AAV1に対する抗体を有し、72%が、AAV2に対する抗体を有し、約40%が、AAV5~AAV9に対する抗体を有する。
【0005】
さらに、遺伝子療法では、遺伝子サイレンシングまたは組織変性を伴う特定の臨床的シナリオでは、導入遺伝子の長期的な発現を維持するために、AAVベクターの投与が複数回必要になることがある。これらの問題を避けるためには、抗体による認識を回避する組み換えAAVベクター(AAVe)が必要となる。このようなベクターは、a)AAVベースの遺伝子療法に適する適用可能な患者コホートを拡大し、及びb)AAVベースの遺伝子療法ベクターの反復投与を複数回可能にするのを助けることとなる。
【0006】
本開示は、1つ以上のアミノ酸置換を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質を含む方法及び組成物であって、その置換によって、これらの改変カプシドタンパク質を含むAAVベクターに、宿主抗体を回避する能力が導入する方法及び組成物を提供する。
【発明の概要】
【0007】
本開示は、1つ以上のアミノ酸改変を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質であって、その1つ以上のアミノ酸改変が、そのAAVカプシドタンパク質の1つ以上の抗原部位を改変するAAVカプシドタンパク質を提供する。そのAAVカプシドタンパク質をAAVベクターに組み込むいくつかの実施形態では、その1つ以上の抗原部位の改変により、中和抗体が回避される。
【0008】
いくつかの実施形態では、本開示は、組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質であって、そのカプシドタンパク質が、そのAAVカプシドタンパク質の抗原部位に置換を含み、その置換が、配列番号9、10、11、12、13、14、15、16、17、297、298、299または411~421のうちのいずれか1つの配列を有する組み換えAAVカプシドタンパク質を提供する。いくつかの実施形態では、その組み換えAAVカプシドタンパク質は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh8、AAVrh10、AAVrh32.33、AAVrh74、トリAAVまたはウシAAVから選択したAAVセロタイプのものである。いくつかの実施形態では、そのAAVカプシドタンパク質は、キメラAAVカプシドタンパク質である。
【0009】
いくつかの実施形態では、本開示は、組み換えAAVカプシドタンパク質であって、配列番号18~80、300~612または783~785のうちのいずれか1つとの配列同一性が少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%または100%であるアミノ酸配列を含む組み換えAAVカプシドタンパク質を提供する。
【0010】
本開示は、本開示のAAVカプシドタンパク質のうちの1つ以上をコードするヌクレオチド配列、またはそのヌクレオチド配列を含む発現ベクターも提供する。本開示は、本開示の1つ以上のヌクレオチド配列または発現ベクターを含む細胞も提供する。
【0011】
本開示は、本開示のAAVカプシドタンパク質を含むAAVカプシドも提供する。さらに本発明で提供するのは、本開示のAAVカプシドを含むウイルスベクター、ならびに薬学的に許容される担体に本開示のAAVカプシドタンパク質、AAVカプシド及び/またはウイルスベクターを含む組成物である。
【0012】
加えて、本開示は、核酸を細胞に、AAVカプシドに対する抗体の存在下で導入する方法であって、その細胞と、本開示のウイルスベクターを接触させることを含む方法を提供する。その細胞は、対象内の細胞であることができ、いくつかの実施形態では、その対象は、ヒト対象であることができる。
【0013】
いくつかの実施形態では、治療の必要な患者の治療方法であって、その患者に、本開示のAAVウイルスベクターを治療有効量投与することを含む方法を提供する。
【0014】
下に示されている詳細な説明では、上記及びその他の態様についてさらに詳しく述べられている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】Aは、ライブラリーの多様性、指向性進化及び新規な抗原フットプリントの濃縮の解析結果を示すバブルプロットである。Illumina MiSeqプラットフォームを用いて、親AAVライブラリーに対して高スループットシーケンシングを行った。カスタムPerlスクリプトによる解析後、濃縮されたアミノ酸配列をプロットした。各バブルは、別個のカプシドアミノ酸配列を表し、バブルの半径は、それぞれのライブラリーにおけるそのバリアントのリード数に比例する。y軸は、log(底=2)に変換した絶対リード数を表している。データは、見やすいように、x軸沿いに拡散されている。Bは、ライブラリーの多様性、指向性進化及び新規な抗原フットプリントの濃縮の解析結果を示すバブルプロットである。Illumina MiSeqプラットフォームを用いて、進化させたAAVライブラリーに対して高スループットシーケンシングを行った。カスタムPerlスクリプトによる解析後、濃縮されたアミノ酸配列をプロットした。各バブルは、別個のカプシドアミノ酸配列を表し、バブルの半径は、それぞれのライブラリーにおけるそのバリアントのリード数に比例する。y軸は、log(底=2)に変換した絶対リード数を表している。データは、見やすいように、x軸沿いに拡散されている。ユニーククローンの割合の低下(93.4%)によって、第1ラウンドの進化後に、多くの「不適合な」配列が除去されたことが直接的に示されている。
図2】Aは、第1ラウンドの進化における親(インプット)ライブラリーを示すバブルプロットである。Bは、第1ラウンドの進化におけるアウトプットライブラリーを示すバブルプロットであり、このアウトプットライブラリーは、第2ラウンドの進化におけるインプットライブラリーとして使用した。Cは、第2ラウンドの進化におけるアウトプットライブラリーを示すバブルプロットであり、このアウトプットライブラリーは、第3ラウンドの進化におけるインプットライブラリーとして使用した。Dは、第3ラウンドの進化におけるアウトプットライブラリーを示すバブルプロットであり、ユニーククローンが全体的に、Aに示されている親ライブラリーと比較して97.3%減少している。注目すべきことに、Aには、図1Aと同じデータ、Bには、図1Bと同じデータが示されているが、そのデータは、総リードに対する割合に正規化したものであり、第2ラウンド以降の進化にわたって縦方向の比較が可能になっている。
図3】組み換えAAV(AAV-SB1、AAV-SB2、AAV-SB3、AAV-SB4、AAV-SB5)に10,000vg/細胞の用量で感染させた後のヒト肝細胞(HepG2、Huh7)におけるルシフェラーゼ発現量である。
図4】ヒト静注用免疫グロブリン(IVIG)による組み換えAAV(AAV-SB1、AAV-SB2、AAV-SB3、AAV-SB4、AAV-SB5)の中和を、親AAV8の中和と比較したものである。データは、IVIGで処理した後の形質導入を、IVIGによる処理を行わなかった形質導入に対する割合として表されている。
図5】様々な用量のIVIG(0~4mg/mL)によって処理した後の親AAV8及びAAV-SB1の形質導入率(%)(すなわち中和度)を示す曲線である。
図6】Aは、示されているカプシドで中和されたドナー試料及び中和されなかったドナー試料(合計100個の試料)の割合(%)である。Bは、年齢群ごとのセロポジティブドナー試料の内訳である。
図7】親AAV8またはAAV-SB1のいずれかに3×1012vg/mLの用量で感染させた後の正常なマウスから得た肝臓の代表的な免疫組織化学(IHC)像である。
図8】GFPをパッケージングした親AAV8ベクター、AAV-SB1ベクターまたはAAV-SB6ベクターをMOI40,000で形質導入してから48時間後のU87細胞の代表的な蛍光顕微鏡像である。参照のために、代表的な光学顕微鏡像も示されている。
【発明を実施するための形態】
【0016】
別段の定義のない限り、本明細書で用いられているすべての技術用語及び科学用語は、本開示が属する分野の当業者によって一般に理解される意味と同じ意味である。本明細書における詳細な説明で用いられている専門用語は、特定の実施形態を説明するためのものに過ぎず、限定するものとは意図されてはいない。
【0017】
本明細書で言及されているすべての刊行物、特許出願、特許、GenBankまたはその他のアクセッション番号、及びその他の参照文献は、参照により、その全体が本明細書に援用される。
【0018】
本開示及び添付の請求項におけるAAVカプシドタンパク質のすべてのアミノ酸位置の指定は、VP1カプシドサブユニットのナンバリングに関するものである。本明細書に記載されている改変は、AAV cap遺伝子に挿入されると、VP1、VP2及び/またはVP3カプシドサブユニットにおける改変をもたらし得ることを当業者は理解するであろう。あるいは、それらのカプシドサブユニットを独立して発現させて、カプシドサブユニット(VP1、VP2、VP3、VP1+VP2、VP1+VP3またはVP2+VP3)のうちの1つまたは2つのみにおいて改変を行うこともできる。
【0019】
定義
本発明の説明及び添付の請求項では、下記の用語が用いられている。
【0020】
文脈上明らかに別段に示されている場合を除き、「a」、「an」及び「the」という単数形には、複数形も含まれるように意図されている。
【0021】
さらに、「約」という用語は、本明細書で使用する場合、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドの配列の長さの量、用量、時間、温度などのような測定可能な値に言及するときには、指定の量の±20%、±10%、±5%、±1%、±0.5%またはさらには±0.1%の変動を含むように意図されている。
【0022】
また、本明細書で使用する場合、「及び/または」とは、列挙された関連項目のうちの1つ以上のあらゆる考え得る組み合わせ、及び択一形式(「または」)で解釈するときには、組み合わせを除外したものを指すとともに、それらを含む。
【0023】
文脈上、別段に示されている場合を除き、本明細書に記載されている様々な特徴は、いずれかに組み合わせて使用できるように具体的に意図されている。
【0024】
さらに、本開示では、いくつかの実施形態において、本明細書に定められているいずれかの特徴または特徴の組み合わせを除外または省略できるように企図されている。さらに例示すると、例えば、明細書で、特定のアミノ酸をA、G、I、L及び/またはVから選択できることが示されている場合には、そのアミノ酸を、これらのアミノ酸(複数可)のいずれのサブセット、例えば、A、G、IまたはL、A、G、IまたはV、AまたはG、Lのみなどからも、このような各サブコンビネーションが本明細書に明示的に定められているかのように選択できることも示す。さらに、このような文言では、所定のアミノ酸のうちの1つ以上を排除できることも示す。例えば、特定の実施形態では、そのアミノ酸は、A、GまたはIでないか、Aではないか、GまたはVではないなどであり、このような考え得る各排除項目は、本明細書に明示的に定められているのと同等である。
【0025】
本明細書で使用する場合、「低下する(reduce)」、「低下する(reduces)」、「低下」という用語、及び類似の用語は、少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約35%、約50%、約75%、約80%、約85%、約90%、約95%、約97%またはこれを超える割合低下することを意味する。
【0026】
本明細書で使用する場合、「増強する(enhance)」、「増強する(enhances)」、「増強」という用語、及び類似の用語は、少なくとも約10%、約15%、約20%、約25%、約50%、約75%、約100%、約150%、約200%、約300%、約400%、約500%またはこれを超える割合増加することを示す。
【0027】
本明細書で使用する場合、「パルボウイルス」という用語には、自律複製するパルボウイルス及びディペンドウイルスを含むParvoviridae科が含まれる。自律性パルボウイルスには、Protoparvovirus属、Erythroparvovirus属、Bocaparvovirus属及びDensovirusサブファミリーのメンバーが含まれる。例示的な自律性パルボウイルスとしては、マウスの微小ウイルス、ウシパルボウイルス、イヌパルボウイルス、ニワトリパルボウイルス、ネコ汎白血球減少症ウイルス、ネコパルボウイルス、ガチョウパルボウイルス、H1パルボウイルス、マスコビーダックパルボウイルス、B19ウイルス、及び現在知られているかまたは今後発見されるいずれかの他の自律性パルボウイルスが挙げられるが、これらに限らない。他の自律性パルボウイルスは、当業者に知られている。例えば、BERNARD N.FIELDS et al,VIROLOGY,volume 2,chapter 69(4th ed.,Lippincott-Raven Publishers;Cotmore et al.Archives of Virology DOI 10.1007/S00705-013-1914-1)を参照されたい。
【0028】
本明細書で使用する場合、「アデノ随伴ウイルス」(AAV)という用語には、AAV1型、AAV2型、AAV3型(3A型及び3B型を含む)、AAV4型、AAV5型、AAV6型、AAV7型、AAV8型、AAV9型、AAV10型、AAV11型、AAV12型、AAV13型、AAVrh32.33型、AAVrh8型、AAVrh10型、AAVrh74型、AAVhu.68型、トリAAV、ウシAAV、イヌAAV、ウマAAV、ヒツジAAV、ヘビAAV、フトアゴヒゲトカゲAAV、AAV2i8、AAV2g9、AAV-LK03、AAV7m8、AAV Anc80、AAV PHP.B及び現在知られているかまたは今後発見されるいずれかの他のAAVが含まれるが、これらに限らない。例えば、BERNARD N.FIELDS et al.,VIROLOGY,volume 2,chapter 69(4th ed.,Lippincott-Raven Publishers)を参照されたい。多くのAAVセロタイプ及びクレードが同定されている(例えば、Gao et al,(2004)J.Virology 78:6381-6388、Moris et al,(2004)Virology 33-:375-383及び表2を参照されたい)。
【0029】
本明細書で使用する場合、「キメラAAV」という用語は、2つ以上の異なるセロタイプのAAVに由来する領域、ドメイン、個々のアミノ酸を有するカプシドタンパク質を含むAAVを指す。いくつかの実施形態では、キメラAAVは、第1のAAVセロタイプに由来する第1の領域、及び第2のAAVセロタイプに由来する第2の領域から構成されるカプシドタンパク質を含む。いくつかの実施形態では、キメラAAVは、第1のAAVセロタイプに由来する第1の領域、第2のAAVセロタイプに由来する第2の領域、及び第3のAAVセロタイプに由来する第3の領域から構成されるカプシドタンパク質を含む。いくつかの実施形態では、キメラAAVは、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11及び/またはAAV12のうちの2つ以上に由来する領域、ドメイン、個々のアミノ酸を含んでよい。例えば、キメラAAVは、下(表1)に示されているように、第1及び第2のAAVセロタイプに由来する領域、ドメイン及び/または個々のアミノ酸を含んでよく、表中、AAVX+Yは、AAVX及びAAVYに由来する配列を含むキメラAAVを示す。
【表1】
【0030】
複数のAAVセロタイプに由来する個々のアミノ酸または領域を1つのカプシドタンパク質に含めることによって、複数のAAVセロタイプに別々に由来する複数の所望の特性を有するカプシドタンパク質を得ることができる。
【0031】
様々なセロタイプのAAV及び自律性パルボウイルスのゲノム配列、ならびに天然型の末端反復配列(TR)、Repタンパク質及びカプシドサブユニットの配列は、当該技術分野において知られている。このような配列は、文献、またはGenBankのような公共データベースで入手できる。例えば、GenBankアクセッション番号NC_002077、NC_001401、NC_001729、NC_001863、NC_001829、NC_001862、NC_000883、NC_001701、NC_001510、NC_006152、NC_006261、AF063497、U89790、AF043303、AF028705、AF028704、J02275、J01901、J02275、X01457、AF288061、AH009962、AY028226、AY028223、NC_001358、NC_001540、AF513851、AF513852、AY530579を参照されたい(これらの開示内容は、参照により、パルボウイルス及びAAVの核酸配列及びアミノ酸配列を教示する目的で、本明細書に援用される)。例えば、Srivistava et al.,(1983)J.Virology 45:555、Chiorini et al,(1998)J Virology 71:6823、Chiorini et al.,(1999)J.Virology 73:1309、Bantel-Schaal et al.,(1999)J Virology 73:939、Xiao et al,(1999)J Virology 73:3994、Muramatsu et al.,(1996)Virology 221:208、Shade et al,(1986)J.Virol.58:921、Gao et al,(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 99:11854、Moris et al,(2004)Virology 33:375-383、国際公開第00/28061号、同第99/61601号、同第98/11244号、及び米国特許第6,156,303号も参照されたい(これらの開示内容は、参照により、パルボウイルス及びAAVの核酸配列及びアミノ酸配列を教示する目的で、本明細書に援用される)。表2も参照されたい。自律性パルボウイルス及びAAVのカプシド構造は、BERNARD N.FIELDS et al.,VIROLOGY,volume 2,chapters 69&70(4th ed.,Lippincott-Raven Publishers)にさらに詳細に説明されている。AAV2(Xie et al.,(2002)Proc.Nat.Acad.Sci.99:10405-10)、AAV9(DiMattia et al.,(2012)J.Virol.86:6947-6958)、AAV8(Nam et al,(2007)J.Virol.81:12260-12271)、AAV6(Ng et al.,(2010)J.Virol.84:12945-12957)、AAV5(Govindasamy et al.(2013)J.Virol.87,11187-11199)、AAV4(Govindasamy et al.(2006)J.Virol.80:11556-11570)、AAV3B(Lerch et al.,(2010)Virology 403:26-36)、BPV(Kailasan et al.,(2015)J.Virol.89:2603-2614)、ならびにCPV(Xie et al,(1996)J.Mol.Biol.6:497-520及びTsao et al,(1991)Science 251:1456-64)の結晶構造の説明も参照されたい。
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【0032】
「トロピズム」という用語は、本明細書で使用する場合、ウイルスが特定の細胞または組織に優先的に侵入し、任意に、その後、そのウイルスゲノムに含まれる配列(複数可)の発現(例えば、転写及び任意に翻訳)をその細胞内で行うこと、例えば、組み換えウイルスでは、目的の異種核酸(複数可)の発現を行うことを指す。
【0033】
ウイルスゲノムからの異種核酸配列の転写は、例えば、誘導性プロモーターまたは別段に調節される核酸配列では、トランス作用因子の非存在下では開始しない場合があることは当業者には明らかであろう。rAAVゲノムの場合には、そのウイルスゲノムからの遺伝子発現は、安定に組み込まれたプロウイルス、組み込まれないエピソーム、及びそのウイルスが細胞内で取り得るいずれかの他の形態から行うことができる。
【0034】
本明細書で使用する場合、「全身性トロピズム」及び「全身性形質導入」(ならびに同等の用語)とは、それぞれ、本開示のウイルスカプシドまたはウイルスベクターが、全身の組織(例えば、脳、肺、骨格筋、心臓、肝臓、腎臓及び/または膵臓)に対してトロピズムを示すか、または形質導入することを示す。実施形態では、筋肉組織(例えば、骨格筋、横隔膜筋及び心筋)の全身性形質導入が観察される。別の実施形態では、骨格筋組織の全身性形質導入が行われる。例えば、特定の実施形態では、全身の本質的にすべての骨格筋が形質導入される(ただし、形質導入の効率は、筋肉の種類によって変動し得る)。特定の実施形態では、四肢筋、心筋及び横隔膜筋の全身性形質導入が行われる。任意に、本開示のウイルスカプシドまたはウイルスベクターは、全身経路(例えば、静脈内、関節内またはリンパ管内のような全身経路)を介して投与する。
【0035】
あるいは、別の実施形態では、本開示のカプシドまたはウイルスベクターは、局部(例えば、フットパッド、筋肉内、皮内、皮下、局所)送達する。
【0036】
別段に示されていない限り、「効率的な形質導入」もしくは「効率的なトロピズム」、または類似の用語は、好適なコントロールを参照することによって判断することができる(例えば、コントロールの形質導入またはトロピズムの少なくとも約50%、約60%、約70%、約80%、約85%、約90%、約95%またはこれを超える割合)。特定の実施形態では、本開示のウイルスベクターは、骨格筋、心筋、横隔膜筋、膵臓(膵島β細胞を含む)、脾臓、胃腸管(例えば、上皮及び/または平滑筋)、中枢神経系の細胞、肺、関節細胞及び/または腎臓に対して、効率的な形質導入を行うか、または効率的なトロピズムを有する。好適なコントロールは、所望のトロピズムプロファイルを含む様々な要因によって決定されることになる。例えば、AAV8及びAAV9は、骨格筋、心筋及び横隔膜筋に形質導入する効率性が高いが、高効率で肝臓に形質導入する問題点もある。したがって、AAV8またはAAV9の骨格筋、心筋及び/または横隔膜筋への効率的な形質導入を示すが、肝臓への形質導入効率がかなり低いウイルスベクターを特定することができる。さらに、対象とするトロピズムプロファイルは、複数の標的組織に対するトロピズムを反映するものであり得るので、好適なベクターには、いくつかのトレードオフが存在し得ることは明らかであろう。例示としては、本開示のウイルスベクターは、AAV8またはAAV9よりも、骨格筋、心筋及び/または横隔膜筋に形質導入する効率が低くなり得るが、しかしその一方で、肝臓への形質導入レベルが低いので、非常に望ましいことがある。
【0037】
同様に、ウイルスが、標的組織に対して「効率的な形質導入を行わない」か、もしくは「効率的なトロピズムを有さない」か、または類似の状況については、好適なコントロールを参照することによって判断できる。特定の実施形態では、本開示のウイルスベクターは、肝臓、腎臓、性腺及び/または生殖細胞に対して効率的な形質導入を行わない(すなわち、効率的なトロピズムを有さない)。特定の実施形態では、組織(複数可)(例えば肝臓)への望ましくない形質導入は、所望の標的組織(複数可)(例えば、骨格筋、横隔膜筋、心筋及び/または中枢神経系の細胞)への形質導入のレベルの約20%以下、約10%以下、約5%以下、約1%以下、約0.1%以下である。
【0038】
本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」という用語には、別段に示されていない限り、ペプチド及びタンパク質の両方が含まれる。
【0039】
「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチド塩基の配列であり、RNA、DNAまたはDNA-RNAハイブリッドの配列であってよい(天然及び非天然のヌクレオチドの両方を含む)が、代表的な実施形態では、一本鎖DNA配列または二本鎖DNA配列のいずれかである。
【0040】
本明細書で使用する場合、「単離」ポリヌクレオチド(例えば、「単離DNA」または「単離RNA」)とは、天然の生物またはウイルスの少なくともいくつかの他の構成要素、例えば、細胞もしくはウイルスの構造的な構成要素、または一般的にそのポリヌクレオチドと関連して見られる他のポリペプチドもしくは核酸から少なくとも部分的に分離されたポリヌクレオチドを意味する。代表的な実施形態では、「単離」ヌクレオチドは、出発物質と比較して、少なくとも約10倍、約100倍、約1000倍、約10,000倍またはそれを上回る倍率で濃縮されている。
【0041】
同様に、「単離」ポリペプチドとは、天然の生物またはウイルスの少なくともいくつかの他の構成要素、例えば、細胞もしくはウイルスの構造的な構成要素、または一般的にそのポリペプチドと関連して見られる他のポリペプチドもしくは核酸から少なくとも部分的に分離されたポリペプチドを意味する。代表的な実施形態では、「単離」ポリペプチドは、出発物質と比較して、少なくとも約10倍、約100倍、約1000倍、約10,000倍またはそれを上回る倍率で濃縮されている。
【0042】
本明細書で使用する場合、ウイルスベクターを「単離する」もしくは「精製する」(または文法的に同等な語)とは、出発物質中の少なくともいくつかの他の構成要素から、ウイルスベクターを少なくとも部分的に分離することを意味する。代表的な実施形態では、「単離」ウイルスベクターまたは「精製」ウイルスベクターは、出発物質と比較して、少なくとも約10倍、約100倍、約1000倍、約10,000倍またはそれを上回る倍率で濃縮されている。
【0043】
「治療用ポリペプチド」とは、細胞もしくは対象のタンパク質の不在または欠損に起因する症状を緩和し、軽減し、予防し、遅延し及び/または安定させることができるポリペプチドであり、及び/または別段の形で対象に利益、例えば抗がん作用、もしくは移植生存性の向上をもたらすポリペプチドである。
【0044】
「治療する」、「治療すること」、「~の治療」という用語(及びその文法的変形表現)とは、対象の状態の重症度を低下させ、少なくとも部分的に改善させ、もしくは安定させること、及び/または少なくとも1つの臨床症状をいくらか緩和、軽減、減少もしくは安定化させること、及び/または疾患または障害の進行の遅延が見られることを意味する。
【0045】
「予防する」、「予防すること」及び「予防」(ならびにその文法的変形表現)とは、対象における疾患、障害及び/または臨床症状(複数可)の発生を予防及び/または遅延すること、及び/または疾患、障害及び/または臨床症状(複数可)の発生の重症度を、本開示の方法を行わない状態で見られる重症度よりも低下させることを指す。予防は、完全な予防、例えば、疾患、障害及び/または臨床症状(複数可)が完全に見られないことであることができる。予防は、部分的であり、対象における疾患、障害及び/または臨床症状(複数可)の発生、及び/または発生の重症度が、本開示を行わない状態で見られるものよりも低くなるような予防であることもできる。
【0046】
「治療有効量」とは、本明細書で使用する場合、疾患または疾患の臨床症状のうちの少なくとも1つを治療するために対象に投与したときに、疾患またはその症状の治療を行うのに充分である量を指す。「治療有効量」は、例えば、疾患及び/またはその疾患の症状、疾患及び/または疾患もしくは障害の症状の重症度、治療対象の患者の年齢、体重及び/または健康状態、ならびに処方医の判断に応じて変動し得る。いずれかの所定の場合における適切な量は、当業者が確認し得るか、または常法的な実験によって決定できる。
【0047】
本明細書で使用する場合、「ウイルスベクター」、「ベクター」または「遺伝子送達ベクター」という用語は、核酸送達ビヒクルとして機能するとともに、ビリオン内にパッケージングされたベクターゲノム(例えばウイルスDNA[vDNA])を含むウイルス(例えばAAV)粒子を指す。あるいは、いくつかの文脈では、「ベクター」という用語は、そのベクターゲノム/vDNAのみを指す目的で用いられる場合もある。
【0048】
「rAAVベクターゲノム」または「rAAVゲノム」とは、1つ以上の異種核酸配列を含むAAVゲノム(すなわちvDNA)である。rAAVベクターでは概して、ウイルスの生成には、シス位の末端反復配列(複数可)(TR(複数可))のみが必要となる。他のすべてのウイルス配列は、必須ではなく、トランス位に供給し得る(Muzyczka,(1992)Curr.Topics Microbiol.Immunol.158:97)。典型的には、ベクターに効率的にパッケージングできる導入遺伝子のサイズを最大化するために、rAAVベクターゲノムは、1つ以上のTR配列のみを保持することになる。構造タンパク質及び非構造タンパク質のコード配列は、(例えば、プラスミドのようなベクターによるか、またはその配列をパッケージング細胞に安定的に組み込むことによって)トランス位に供給してもよい。実施形態では、rAAVベクターゲノムは、少なくとも1つのTR配列(例えば、AAV TR配列)、任意に2つのTR(例えば、2つのAAV TR)を含み、その2つのTRは典型的には、ベクターゲノムの5’末端及び3’末端に位置して、異種核酸を挟み込むことになるが、その異種核酸に隣接する必要はない。それらのTRは、同じであることも、互いと異なることもできる。
【0049】
「末端反復配列」または「TR」という用語には、ヘアピン構造を形成して、逆位末端反復配列として機能する(すなわち、複製、ウイルスパッケージング、組み込み及び/またはプロウイルスレスキューなどのような所望の機能を媒介する)いずれのウイルス末端反復配列または合成配列も含まれる。TRは、AAV TRであることも、非AAV TRであることもできる。例えば、他のパルボウイルス(例えば、イヌパルボウイルス(CPV)、マウスパルボウイルス(MVM)、ヒトパルボウイルスB-19)のTR配列またはいずれかの他の好適なウイルス配列(例えば、SV40複製起点として機能するSV40ヘアピン)のような非AAV TR配列をTRとして使用でき、その配列は、トランケーション、置換、欠失、挿入及び/または付加によってさらに改変できる。さらに、TRは、Samulskiらの米国特許第5,478,745号に記載されているような「ダブルD配列」など、部分的または完全に合成によるものであることができる。
【0050】
「AAV末端反復配列」または「AAV TR」は、いずれかのAAVに由来してよく、そのAAVとしては、セロタイプ1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、または現在知られているかもしくは今後発見されるいずれかの他のAAVが挙げられるが、これらに限らない(例えば、表2を参照されたい)。AAV末端反復配列は、天然型の末端反復配列を有する必要はない(例えば、挿入、欠失、トランケーション及び/またはミスセンス変異によって、天然型のAAV TR配列を改変してよい)。ただし、その末端反復配列が、所望の機能、例えば、複製、ウイルスパッケージング、組み込み及び/またはプロウイルスレスキューなどを媒介することを条件とする。
【0051】
本開示のウイルスベクターはさらに、「標的化」ウイルスベクター(例えば、指向型トロピズムを有するベクター)、及び/または国際公開第00/28004号及びChao et al,(2000)Molecular Therapy 2:619に記載されているような「ハイブリッド」パルボウイルス(すなわち、ウイルスTR及びウイルスカプシドが、異なるパルボウイルスに由来するウイルス)であることができる。
【0052】
本開示のウイルスベクターはさらに、国際公開第01/92551号(その開示内容は、参照により、その全体が本明細書に援用される)に記載されているような二本鎖パルボウイルス粒子であることができる。したがって、いくつかの実施形態では、二本鎖(デュプレックス)ゲノムを本開示のウイルスカプシドにパッケージングできる。さらに、本開示のウイルスカプシドまたはゲノムエレメントは、挿入、欠失及び/または置換を含む他の改変を含むことができる。
【0053】
本明細書で使用する場合、「アミノ酸」という用語には、いずれの天然アミノ酸、その改変形態及び合成アミノ酸が含まれる。
【0054】
天然の左旋性(L-)アミノ酸は、表3に示されている。
【表3】
【0055】
あるいは、アミノ酸は、改変アミノ酸残基(非限定的な例は、表4に示されている)であることができ、及び/または翻訳後修飾(例えば、アセチル化、アミド化、ホルミル化、ヒドロキシル化、メチル化、リン酸化もしくは硫酸塩化)によって改変されているアミノ酸であることができる。
【表4-1】
【表4-2】
【0056】
さらに、非天然(non-naturally occurring)アミノ酸は、(Wang et al.,Annu Rev Biophys Biomol Struct.35:225-49(2006)に記載されているような)「非天然(unnatural)」アミノ酸であることができる。有益なことに、これらの非天然アミノ酸を用いて、対象とする分子を本開示のAAVカプシドタンパク質に化学的に連結することができる。
【0057】
改変AAVカプシドタンパク質、ならびにその改変AAVカプシドタンパク質を含むウイルスカプシド及びウイルスベクター
本開示は、アミノ酸配列に改変(例えば置換)を含むAAVカプシドタンパク質(VP1、VP2及び/またはVP3)、ならびにその改変AAVカプシドタンパク質を含むウイルスカプシド及びウイルスベクターを提供する。本明細書に記載されている改変によって、その改変AAVカプシドタンパク質を含むウイルスベクターに、1つ以上の所望の特性(中和抗体を回避する能力が挙げられるが、これに限らない)を付与できることを本発明者は発見した。すなわち、本開示は、従来のAAVベクターに付随するいくつかの制限に対処するものである。
【0058】
したがって、一態様では、本開示は、1つ以上のアミノ酸置換を含むアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質であって、その1つ以上の置換によって、そのAAVカプシドタンパク質の1つ以上の抗原部位が改変されるAAVカプシドタンパク質を提供する。その1つ以上の抗原部位の改変によって、その1つ以上の抗原部位への抗体の結合が阻害され、及び/または前記AAVカプシドタンパク質を含むウイルス粒子の感染性の中和が阻害される。その1つ以上のアミノ酸置換は、AAVカプシドタンパク質を含むAAV-抗体複合体のペプチドエピトープマッピング及び/または低温電子顕微鏡による試験によって特定された1つ以上の抗原フットプリントに位置することができる。いくつかの実施形態では、その1つ以上の抗原部位は、共通の抗原モチーフ、WO2017/058892(参照により、その全体が本明細書に援用される)に記載されているようなすなわちCAMである。いくつかの実施形態では、その抗原部位は、AAVカプシドタンパク質の可変領域(VR)、VR-I、VR-II、VR-III、VR-IV、VR-V、VR-VI、VR-VII、VR-VIII、VR-IXなどにある。いくつかの実施形態では、1つ以上の抗原部位は、AAVカプシドタンパク質のHIループにある。
【0059】
いくつかの実施形態では、その改変された抗原部位によって、抗体が、AAVカプシドと結合するか、またはAAVカプシドを認識もしくは中和するのを防ぐことができ、その抗体は、IgG(IgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3を含む)、IgM、IgEまたはIgAである。
【0060】
いくつかの実施形態では、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh8、AAVrh10、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh32.22、ウシAAVまたはトリAAVのカプシドタンパク質が、下記の表5に定められている領域のうちの1つ以上に、アミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態では、そのアミノ酸置換は、配列番号9、10、11、12、13、14、15、16、17、297、298、299及び411~421からなる群から選択されている。いくつかの実施形態では、そのアミノ酸置換は、配列番号9、10、11、12、13、14、15、16、17、297、298、299または411~421との配列相同性が少なくとも95%、95%、96%、97%、98%または99%である。
【表5-1】
【表5-2】
【表5-3】
【表5-4】
【0061】
いくつかの実施形態では、そのアミノ酸置換では、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAVrh8、AAVrh10、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh32.22、ウシAAVまたはトリAAVというセロタイプのうちのいずれか1つに由来するAAVカプシドタンパク質におけるいずれかの6個、7個または8個のアミノ酸が置き換えられている。例えば、そのアミノ酸置換では、上で列挙したAAVセロタイプのうちのいずれかにおける280~286番目、279~293番目、294~300番目、301~307番目、308~314番目、315~321番目、322~328番目、329~335番目、336~342番目、343~349番目、350~356番目、357~363番目、364~370番目、371~377番目、378~384番目、385~391番目、392~398番目、399~405番目、406~412番目、143~149番目、420~426番目、427~433番目、434~440番目、441~447番目、448~454番目、455~461番目、462~468番目、469~475番目、476~482番目、483~489番目、490~496番目、497~503番目、504~510番目、511~517番目、518~524番目、525~531番目、532~538番目、539~545番目、546~552番目、553~559番目、560~566番目、567~573番目、574~580番目、581~587番目、588~594番目、595~601番目、602~608番目、609~615番目、616~622番目、623~629番目、630~636番目、637~643番目、644~650番目、651~657番目、658~664番目、665~671番目、672~678番目、679~685番目、686~692番目、693~699番目のアミノ酸(VP1ナンバリング)が置き換えられていてよい。いくつかの実施形態では、そのアミノ酸置換では、上で列挙したAAVセロタイプのうちのいずれかにおける294~301番目、302~309番目、310~317番目、318~325番目、326~333番目、334~331番目、342~349番目、350~357番目、358~365番目、366~373番目、374~381番目、382~389番目、390~397番目、398~405番目、406~413番目、414~421番目、422~429番目、430~437番目、438~445番目、446~453番目、454~461番目、462~469番目、470~477番目、478~485番目、486~493番目、494~501番目、502~509番目、210~517番目、518~525番目、526~533番目、534~541番目、542~549番目、550~557番目、558~565番目、566~573番目、574~581番目、582~589番目、590~597番目、598~605番目、506~613番目、614~621番目、622~629番目、630~637番目、638~645番目、646~653番目、654~661番目、662~669番目、670~677番目、678~685番目、686~693番目、694~701番目のアミノ酸(VP1ナンバリング)が置き換えられていてよい。いくつかの実施形態では、そのアミノ酸置換では、上で列挙したAAVセロタイプのうちのいずれかにおける400~405番目、406~411番目、412~417番目、418~423番目、424~429番目、430~435番目、436~441番目、442~447番目、448~453番目、454~459番目、460~465番目、466~471番目、472~477番目、478~483番目、484~489番目、490~495番目、484~489番目、490~495番目、496~501番目、502~507番目、508~513番目、514~519番目、520~525番目、526~531番目、532~537番目、538~543番目、544~549番目、550~555番目、556~561番目、562~567番目、568~573番目、574~579番目、580~585番目、586~591番目、592~597番目、598~603番目、604~609番目、610~615番目、616~621番目、622~627番目、628~633番目、634~639番目、640~645番目、646~651番目、652~657番目、658~663番目、664~669番目、670~675番目、676~681番目、682~687番目、688~693番目、694~699番目、700~705番目のアミノ酸(VP1ナンバリング)が置き換えられていてよい。
【0062】
いくつかの実施形態では、その置換により、AAVカプシド配列に欠失が導入される。例えば、6個のアミノ酸の配列に置換されて、天然型のアミノ酸カプシド配列の7個のアミノ酸が置き換えられるか、7個のアミノ酸の配列に置換されて、天然型のアミノ酸カプシド配列の8個のアミノ酸が置き換えられるか、8個のアミノ酸の配列に置換されて、天然型のアミノ酸カプシド配列の9個のアミノ酸が置き換えられるか、または9個のアミノ酸の配列に置換されて、天然型のアミノ酸カプシド配列の10個のアミノ酸が置き換えられる。いくつかの実施形態では、その置換により、AAVカプシド配列への挿入が導入される。例えば、6個のアミノ酸の配列に置換されて、天然型のアミノ酸カプシド配列の5個のアミノ酸が置き換えられるか、7個のアミノ酸の配列に置換されて、天然型のアミノ酸カプシド配列の6個のアミノ酸が置き換えられるか、8個のアミノ酸の配列に置換されて、天然型のアミノ酸カプシド配列の7個のアミノ酸が置き換えられるか、または9個のアミノ酸の配列に置換されて、8個のアミノ酸が置き換えられる。
【0063】
本開示のカプシドタンパク質は、中和抗体を回避する表現型を有するAAVウイルス粒子またはAAVウイルスベクターに存在するAAVカプシドが生成されるように改変されている。本開示のAAVウイルス粒子またはAAVウイルスベクターは、中和抗体を回避する表現型に加えて、形質導入効率が向上または維持された表現型も有することもできる。
【0064】
いくつかの実施形態では、1つ以上の抗原部位の1つ以上の置換では、第1のAAVセロタイプのカプシドタンパク質に由来する1つ以上の抗原部位を、前記第1のAAVセロタイプとは異なる第2のAAVセロタイプのカプシドタンパク質に導入できる。
【0065】
本開示のAAVカプシドタンパク質は、AAV1、AAV2、AAV3、AAV3B、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh.8、AAVrh.10、AAVrh.32.33、AAVrh74、ウシAAV、トリAAV、または現在知られているかもしくは今後特定されるいずれかの他のAAVから選択したAAVセロタイプのカプシドタンパク質であることができる。いくつかの実施形態では、そのAAVカプシドタンパク質は、キメラカプシドタンパク質である。
【0066】
本明細書には、本開示の改変AAVカプシドタンパク質のいくつかの例が示されている。下記の例では、そのカプシドタンパク質は、記載されている具体的な置換を含むことができ、いくつかの実施形態では、記載されている置換よりも少ないかまたは多い置換を含むことができる。本明細書で使用する場合、「置換」とは、単一アミノ酸置換、または2つ以上のアミノ酸の置換を指してよい。例えば、いくつかの実施形態では、本開示のカプシドタンパク質は、単一アミノ酸置換を少なくとも1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個など含むことができる。いくつかの実施形態では、本開示のカプシドタンパク質は、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個または12個の連続するアミノ酸の1つ以上の置換など、複数の連続するアミノ酸の1つ以上の置換を含むことができる。
【0067】
さらに、本明細書に記載されている実施形態のうち、アミノ酸残基が、野生型または天然型のアミノ酸配列に存在するアミノ酸残基以外のいずれかのアミノ酸残基によって置換されている実施形態では、前記いずれかの他のアミノ酸残基は、当該技術分野において知られているいずれの天然または非天然のアミノ酸残基であることもできる(例えば、表3及び4を参照されたい)。いくつかの実施形態では、その置換は、保存的置換であることができ、いくつかの実施形態では、その置換は、非保存的置換であることができる。
【0068】
いくつかの実施形態では、AAVカプシドタンパク質は、1つ以上のアミノ酸置換を含み、そのアミノ酸置換は、表6.1に列挙されている配列から選択されている。
【表6-1】
【0069】
いくつかの実施形態では、本開示のAAVカプシドタンパク質は、第1のアミノ酸置換及び第2のアミノ酸置換を含み、その第1のアミノ酸置換及び第2のアミノ酸置換はそれぞれ、そのAAVカプシドタンパク質の異なる抗原部位を改変する。いくつかの実施形態では、その第1のアミノ酸置換及び第2のアミノ酸置換はそれぞれ、配列番号9、10、11、12、13、14、15、16、17、297、298、299及び411~421から選択されている。
【0070】
いくつかの実施形態では、本開示のAAVカプシドタンパク質は、第1の酸置換、第2のアミノ酸置換及び第3のアミノ酸置換を含み、その第1のアミノ酸置換、第2のアミノ酸置換及び第3のアミノ酸置換はそれぞれ、そのAAVカプシドタンパク質の異なる抗原部位を改変する。いくつかの実施形態では、その第1のアミノ酸置換、第2のアミノ酸置換及び第3のアミノ酸置換はそれぞれ、配列番号9、10、11、12、13、14、15、16、17、297、298、299及び411~421から選択されている。いくつかの実施形態では、その第1のアミノ酸置換は、配列番号9を含み、第2のアミノ酸置換は、配列番号10、11、12、13、14、15、16、297、298、299または411~421のうちの1つを含み、第3のアミノ酸置換は、配列番号17を含む。いくつかの実施形態では、その第1のアミノ酸置換は、配列番号9を含み、第2のアミノ酸置換は、配列番号10のうちの1つを含み、第3のアミノ酸置換は、配列番号17を含む。いくつかの実施形態では、その第1のアミノ酸置換は、配列番号9を含み、第2のアミノ酸置換は、配列番号14のうちの1つを含み、第3のアミノ酸置換は、配列番号17を含む。
【0071】
いくつかの実施形態では、本開示のAAVカプシドタンパク質は、配列番号18~80、300~410、422~612または783~785のうちのいずれか1つの配列を含む。いくつかの実施形態では、本開示のAAVカプシドタンパク質は、配列番号18~80、300~410、422~612または783~785のうちのいずれか1つの配列を含む。いくつかの実施形態では、本開示のAAVカプシドタンパク質は、配列番号18~80、300~410、422~612または783~785のうちのいずれか1つとの配列相同性が少なくとも95%、95%、96%、97%、98%または99%である。
【0072】
いくつかの実施形態では、本開示のAAVカプシドタンパク質は、配列番号49を含む。いくつかの実施形態では、本開示のAAVカプシドタンパク質は、配列番号49との配列相同性が少なくとも95%、95%、96%、97%、98%または99%である。いくつかの実施形態では、本開示のAAVカプシドタンパク質は、配列番号49の454~460番目のアミノ酸に及ぶ領域を配列番号9と置き換えることによって改変されている。いくつかの実施形態では、本開示のAAVカプシドタンパク質は、配列番号49の493~500番目のアミノ酸に及ぶ領域を配列番号10、11、12、13、14、15、16、297、298、299または411~421のうちの1つと置き換えることによって改変されている。いくつかの実施形態では、本開示のAAVカプシドタンパク質は、配列番号49の585~590番目のアミノ酸に及ぶ領域を配列番号17と置き換えることによって改変されている。いくつかの実施形態では、本開示のAAVカプシドタンパク質は、配列番号49の454~460番目のアミノ酸に及ぶ領域を配列番号9と置き換え、配列番号49の493~500番目のアミノ酸に及ぶ領域を配列番号10、11、12、13、14、15、16、297、298、299または411~421のうちの1つと置き換え、配列番号49の585~590番目のアミノ酸に及ぶ領域を配列番号17と置き換えることによって改変されている。
【0073】
本明細書に記載されているAAVカプシドのいずれも、HIループに改変(例えば、置換または欠失)をさらに含んでよい。HIループは、βストランドのβH及びβIの間にある、AAVカプシド表面上の突出ドメインであって、各ウイルスタンパク質(VP)サブユニットから延びて、隣接する5回軸VPの一部を覆っている突出ドメインである。いくつかの実施形態では、AAVカプシドは、HIループに1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個または8個のアミノ酸置換を含む。いくつかの実施形態では、そのAAVカプシドは、HIループに、P661R、T662S、Q666G、S667Dという置換のうちの1つ以上を含み、このナンバリングは、野生型AAV8カプシド(配列番号6)に対応するものである。いくつかの実施形態では、そのAAVカプシドは、HIループに、P659R、T660S、A661T、K664Gという置換のうちの1つ以上を含み、このナンバリングは、野生型AAV9カプシド(配列番号7)に対応するものである。
【0074】
いくつかの実施形態では、AAVカプシドタンパク質は、1個、2個、3個または4個のアミノ酸置換を含み、各置換によって、AAVカプシドタンパク質の異なる抗原部位が改変され、そのアミノ酸置換のうちの少なくとも1つによって、そのカプシドタンパク質のHIループが改変される。
【0075】
いくつかの実施形態では、AAVカプシドタンパク質は、第1、第2、第3及び第4のアミノ酸置換を含む。実施形態では、その第1のアミノ酸置換、第2のアミノ酸置換及び第3のアミノ酸置換はそれぞれ、配列番号9、10、11、12、13、14、15、16、17、297、298、299及び411~421から選択されており、その第4のアミノ酸置換により、そのカプシドタンパク質のHIループが改変されている。いくつかの実施形態では、その第1のアミノ酸置換は、配列番号9を含み、第2のアミノ酸置換は、配列番号10、11、12、13、14、15、16、297、298、299または411~421のうちの1つを含み、第3のアミノ酸置換は、配列番号17を含み、第4のアミノ酸置換により、そのカプシドタンパク質のHIループが改変されている。いくつかの実施形態では、そのAAVカプシドは、HIループに、P661R、T662S、Q666G、S667D(そのナンバリングは、野生型AAV8カプシド(配列番号6)に対応するものである)、またはP659R、T660S、A661T、K664G(そのナンバリングは、野生型AAV9カプシド(配列番号7)に対応するものである)という置換のうちの1つ以上を含む。
【0076】
いくつかの実施形態では、AAVカプシドタンパク質は、表6.2に示されているように、第1の置換、第2の置換、及び任意に、第3の置換を含んでよい。
【表6-2】
【表6-3】
【表6-4】
【0077】
いくつかの実施形態では、組み換えカプシドタンパク質は、配列番号6(AAV8)または配列番号7(AAV9)と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%少なくとも99%または100%同一である配列を有し、表6.2に示されているように、第1の置換、第2の置換、及び任意に、第3の置換を含む。
【0078】
いくつかの実施形態では、組み換えカプシドタンパク質は、配列番号6(AAV8)と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一である配列を有し、G455S、G456N、G456S、T457G、T457N、A458R、A458G、N459G、N459R、T460V、T460G、N459R、Q461V、T494N、T494V、T494M、T494G、T494S、T494A、T494R、T494Y、T495L、T495S、T495T、T495S、T495V、T495F、T495R、T495P、G496A、G496S、G496N、G496H、G496T、G496N、G496R、G496L、Q497E、Q497G、Q497A、Q497L、Q497S、Q497R、Q497A、Q497N、Q497E、Q497E、N498D、N498S、N498G、N498M、N499F、N499H、N499G、N499K、N499T、N499P、N499M、N500K、N500S、N500E、N500N、N500Q、N500G、N500V、N500I、N500T、S501Y、S501A、S501G、S501Q、S501L、S501T、S501V、S501G、S501I、L586V、Q587M、Q588E、Q589P、N590T、T591Rというアミノ酸置換のうちの1つ以上を含む。いくつかの実施形態では、組み換えカプシドタンパク質は、配列番号6(AAV8)と少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一である配列を有し、T494Y、T495P及び/またはG496Lというアミノ酸置換を含む。
【0079】
いくつかの実施形態では、組み換えカプシドタンパク質は、配列番号380、384、783、784または785の配列の少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%同一である配列を有する。
【0080】
本開示は、本開示のAAVカプシドタンパク質のうちの1つ以上をコードするヌクレオチド配列またはそのヌクレオチド配列を含む発現ベクターも提供する。そのヌクレオチド配列は、DNA配列であっても、RNA配列であってもよい。本開示は、本開示の1つ以上のヌクレオチド配列または発現ベクターを含む細胞も提供する。
【0081】
また、提供するのは、本開示のAAVカプシドタンパク質を含むAAVカプシドである。さらに、本発明で提供するのは、本開示のAAVカプシドを含むウイルスベクター、ならびに薬学的に許容される担体に、本開示のAAVカプシドタンパク質、AAVカプシド及び/またはウイルスベクターを含む組成物である。
【0082】
いくつかの実施形態では、その1つ以上の抗原部位の改変によって、その1つ以上の抗原部位への抗体の結合が阻害される。いくつかの実施形態では、その1つ以上の抗原部位の改変によって、そのAAVカプシドタンパク質を含むウイルス粒子の感染性の中和が阻害される。
【0083】
本明細書に記載されているように、多くのAAVに由来するカプシドタンパク質の核酸配列及びアミノ酸配列が、当該技術分野において知られている。したがって、天然型のAAVカプシドタンパク質のアミノ酸位置「に対応する」アミノ酸は、いずれの他のAAVにおいても、(例えば、配列アラインメントを用いることによって)容易に判断できる。
【0084】
本開示では、現在知られているかまたは今後発見されるいずれかのAAVのカプシドタンパク質を改変することによって、改変カプシドタンパク質を作製できることが企図されている。
【0085】
さらに、改変を施すAAVカプシドタンパク質は、天然のAAVカプシドタンパク質(例えば、AAV2、AAV3a、AAV3b、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10もしくはAAV11のカプシドタンパク質、または表2に示されているAAVのうちのいずれか)であることができるが、それらに限らない。AAVカプシドタンパク質に対する様々な操作が、当該技術分野において知られていること、及び本開示が、天然のAAVカプシドタンパク質の改変に限定されないことを当業者は理解するであろう。例えば、改変を施すカプシドタンパク質は、天然のAAV(例えば、天然のAAVカプシドタンパク質、例えば、AAV2、AAV3a、AAV3b、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、または現在知られているかもしくは今後発見されるいずれかの他のAAVに由来するもの)と比較して、すでに改変を有してもよい。いくつかの実施形態では、そのカプシドタンパク質は、キメラカプシドタンパク質であってよい。いくつかの実施形態では、そのカプシドタンパク質は、AAV2i8、AAV2g9、AAV-LK03、AAV7m8、AAV Anc80、AAV PHP.Bのように、操作されたAAVであってよい。このようなAAVカプシドタンパク質も、本開示の範囲内である。
【0086】
したがって、特定の実施形態では、改変を施すAAVカプシドタンパク質は、天然のAAVに由来することができるが、そのカプシドタンパク質に挿入及び/または置換された1つ以上の外来配列(例えば、天然型のウイルスにとって外来性である配列)をさらに含み、及び/または1つ以上のアミノ酸の欠失によって改変されている。
【0087】
したがって、具体的なAAVカプシドタンパク質(例えば、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10もしくはAAV11のカプシドタンパク質、または表2に示されているAAVのうちのいずれかに由来するカプシドタンパク質など)に言及するときには、天然型のカプシドタンパク質、及び本開示の改変以外の改変を有するカプシドタンパク質を含むように意図されている。このような改変には、置換、挿入及び/または欠失が含まれる。特定の実施形態では、そのカプシドタンパク質は、天然型のAAVカプシドタンパク質配列と比較して、そのタンパク質に挿入されたアミノ酸(本開示の挿入以外の挿入)を1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個または20個、20個未満、30個未満、40個未満、50個未満、60個未満または70個未満含む。実施形態では、そのカプシドタンパク質は、天然型のAAVカプシドタンパク質配列と比較して、アミノ酸置換(本開示によるアミノ酸置換以外のアミノ酸置換)を1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個または20個、20個未満、30個未満、40個未満、50個未満、60個未満または70個未満含む。本開示の実施形態では、そのカプシドタンパク質は、天然型のAAVカプシドタンパク質配列と比較して、アミノ酸の欠失(本開示のアミノ酸欠失以外のアミノ酸欠失)を1個、2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個、11個、12個、13個、14個、15個、16個、17個、18個、19個または20個、20個未満、30個未満、40個未満、50個未満、60個未満または70個未満含む。
【0088】
2つ以上のアミノ酸配列の間の配列の類似性または同一性を求める方法は、当該技術分野において知られている。配列の類似性または同一性は、当該技術分野において知られている標準的な技法を用いて求めてよく、その技法としては、Smith & Waterman,Adv.Appl.Math.2,482(1981)の局所配列同一性アルゴリズム、Needleman & Wunsch,J Mol.Biol.48,443(1970)の配列同一性アラインメントアルゴリズム、Pearson & Lipman,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85,2444(1988)の類似性検索方法、これらのアルゴリズムのコンピューターによるインプリメンテーション(Wisconsin Genetics Software PackageのGAP、BESTFIT、FASTA及びTFASTA、Genetics Computer Group,575 Science Drive,Madison,WI)、Devereux et al.,Nucl.Acid Res.12,387-395(1984)に記載されているベストフィット配列プログラム、または検証によるものが挙げられるが、これらに限らない。
【0089】
別の好適なアルゴリズムは、Altschul et al.,J Mol.Biol.215,403-410,(1990)及びKarlin et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90,5873-5787(1993)に記載されているBLASTアルゴリズムである。特に有用なBLASTプログラムは、Altschul et al.,Methods in Enzymology,266,460-480(1996)、http://blast.wustl/edu/blast/README.htmlから得たWU-BLAST-2というプログラムである。WU-BLAST-2では、いくつかの検索パラメーターが使用され、それらは任意に、デフォルト値に設定する。それらのパラメーターは、動的な値であり、特定の配列の組成、及び対象とする配列を検索する特定のデータベースの組成に応じて、プログラム自体によって構築されるが、それらの値を調整して、感度を向上させてもよい。
【0090】
さらには、追加の有用なアルゴリズムは、Altschul et al,(1997)Nucleic Acids Res.25,3389-3402に報告されているようなGapped BLASTである。
【0091】
本開示は、本開示の改変AAVカプシドタンパク質を含むか、本開示の改変AAVカプシドタンパク質から本質的になるか、または本開示の改変AAVカプシドタンパク質からなるウイルスカプシドも提供する。特定の実施形態では、そのウイルスカプシドは、パルボウイルスカプシドであり、そのパルボウイルスカプシドはさらに、自律性パルボウイルスカプシドまたはディペンドウイルスカプシドであってよい。任意に、そのウイルスカプシドは、AAVカプシドである。特定の実施形態では、そのAAVカプシドは、AAV1、AAV2、AAV3a、AAV3b、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh8、AAVrh10、AAVrh32.33、ウシAAVカプシド、トリAAVカプシド、または現在知られているかもしくは今後特定されるいずれかの他のAAVである。AAVセロタイプの非限定的なリストは、表2に示されており、本開示のAAVカプシドは、表2に列挙されているいずれのAAVセロタイプであることも、1つ以上の挿入、置換及び/または欠失によって、上記のうちのいずれかから得たものであることもできる。その改変ウイルスカプシドは、例えば米国特許第5,863,541号に記載されているように、「カプシドビヒクル」として使用できる。その改変ウイルスカプシドにパッケージングして、細胞に移入できる分子としては、異種のDNA、RNA、ポリペプチド、有機小分子、金属またはこれらを組み合わせたものが挙げられる。
【0092】
異種分子は、AAV感染の際に天然では見られない分子、例えば、野生型AAVゲノムによってはコードされない分子として定義する。さらに、治療上有用な分子を宿主標的細胞に移入するために、その分子をそのキメラウイルスカプシドの外側と結合させることができる。このような結合分子としては、DNA、RNA、有機小分子、金属、糖鎖、脂質及び/またはポリペプチドを挙げることができる。本開示の一実施形態では、その治療上有用な分子は、カプシドタンパク質に共有結合している(すなわち、コンジュゲートまたは化学的にカップリングしている)。分子を共有結合する方法は、当業者に知られている。
【0093】
本開示の改変ウイルスカプシドには、その新規カプシド構造に対する抗体を産生させる用途も見られる。さらなる代替用途として、本開示の改変ウイルスカプシドに外来のアミノ酸配列を挿入して、細胞に対する抗原提示が行われるように、例えば、対象に投与して、その外来のアミノ酸配列に対する免疫応答を引き起こすようにしてよい。
【0094】
別の実施形態では、対象とするポリペプチドまたは機能性RNAをコードする核酸を送達するウイルスベクターを投与する前及び/またはその投与と同時に(例えば、それぞれの投与から数分もしくは数時間以内に)、本開示のウイルスカプシドを投与して、特定の細胞部位をブロックできる。例えば、本発明のカプシドを送達して、肝細胞上の細胞受容体をブロックでき、その後またはそれと同時に、送達ベクターを投与でき、それによって、肝細胞への形質導入を減少させ、他の標的(例えば、骨格筋、心筋及び/または横隔膜筋)への形質導入を増大させ得る。
【0095】
代表的な実施形態によれば、改変ウイルスカプシドは、本開示による改変ウイルスベクターの前及び/またはそのウイルスベクターと当時に、対象に投与できる。さらに、本開示は、本発明の改変ウイルスカプシドを含む組成物及び医薬製剤を提供し、任意に、その組成物は、本開示の改変ウイルスベクターも含む。
【0096】
本開示は、本開示の改変ウイルスカプシド及びカプシドタンパク質をコードする核酸(任意に単離核酸)も提供する。さらに、本開示の核酸を含むベクター、本開示の核酸及び/またはベクターを含む細胞(in vivoまたは培養液中)を提供する。一例として、本開示は、(a)本開示の改変AAVカプシド、及び(b)少なくとも1つの末端反復配列を含む核酸であって、そのAAVカプシドに封入された核酸を含むウイルスベクターを提供する。
【0097】
その他の好適なベクターとしては、以下に限らないが、ウイルスベクター(例えば、アデノウイルス、AAV、ヘルペスウイルス、ワクシニア、ポックスウイルス、バキュロウイルスなど)、プラスミド、ファージ、YAC、BACなどが挙げられる。このような核酸、ベクター及び細胞は、例えば、本明細書に記載されているような改変ウイルスカプシドまたはウイルスベクターを作製するための試薬(例えば、ヘルパーパッケージングコンストラクトまたはパッケージング細胞)として使用できる。
【0098】
本開示によるウイルスカプシドは、当該技術分野において知られているいずれかの方法を用いて、例えば、バキュロウイルスから発現させることによって作製できる(Brown et al.,(1994)Virology 198:477-488)。
【0099】
本開示による、AAVカプシドタンパク質に対する改変は、「選択的」改変である。このアプローチは、AAVセロタイプ間での全サブユニットまたは大きなドメインのスワップによるこれまでの研究とは対照的である(例えば、国際公開第00/28004号及びHauck et al.,(2003)J.Virology 77:2768-2774を参照されたい)。特定の実施形態では、「選択的」改変によって、約20個以下、18個以下、15個以下、12個以下、10個以下、9個以下、8個以下、7個以下、6個以下、5個以下、4個以下または3個以下の連続するアミノ酸の挿入及び/または置換及び/または欠失が行われる。
【0100】
本開示の改変カプシドタンパク質及びカプシドは、現在知られているかまたは今後特定されるいずれかの他の改変をさらに含むことができる。
【0101】
例えば、本開示のAAVカプシドタンパク質及びウイルスカプシドは、別のウイルス、任意に、例えば、国際公開第00/28004号に記載されているような別のパルボウイルスまたはAAVに由来するカプシドサブユニットの全部または一部を含むことができる点で、キメラであることができる。
【0102】
本開示のいくつかの実施形態では、そのウイルスカプシドは、所望の標的組織(複数可)に存在する細胞表面分子と相互作用するように、そのウイルスカプシドを誘導するターゲティング配列(例えば、そのウイルスカプシドにおいて置換または挿入された配列)を含む標的化ウイルスカプシドであることができる(例えば、国際公開第00/28004号及びHauck et al.,(2003)J.Virology 77:2768-2774、Shi et al.,Humane Gene Therapy 17:353-361(2006)[AAVカプシドサブユニットの520位及び/または584位に、インテグリン受容体結合モチーフRGDを挿入することについて記載]、及び米国特許第7,314,912号[AAV2カプシドサブユニットのアミノ酸447位、534位、573位及び587位の後に、RGDモチーフを含むPIペプチドを挿入することについて記載]を参照されたい)。AAVカプシドサブユニットにおける他の位置のうち、挿入に耐えられる位置は、当該技術分野において知られている(例えば、Grifman et al.,Molecular Therapy 3:964-975(2001)に記載されている449位及び588位)。
【0103】
例えば、本開示のウイルスカプシドは、対象とする特定の標的組織(例えば、肝臓、骨格筋、心臓、横隔膜筋、腎臓、脳、胃、腸、皮膚、内皮細胞及び/または肺)に対するトロピズムが比較的非効率である場合がある。有益なことに、ターゲティング配列をこれらの低形質導入ベクターに組み込むことによって、そのウイルスカプシドに、所望のトロピズム、及び任意に、特定の組織(複数可)に対する選択的トロピズムを付与することができる。ターゲティング配列を含むAAVカプシドタンパク質、カプシド及びベクターは、例えば国際公開第00/28004号に記載されている。別の例としては、低形質導入ベクターを所望の標的組織(複数可)に再誘導する手段として、Wang et al.,Annu Rev Biophys Biomol Struct.35:225-49(2006)に記載されているような1つ以上の非天然アミノ酸を本開示のAAVカプシドサブユニットに、直交する部位で組み込むことができる。有益なことに、これらの非天然アミノ酸を用いて、対象とする分子をAAVカプシドタンパク質に化学的に連結することができ、その分子としては、グリカン(マンノース-樹状細胞ターゲティング)、所定の種類のがん細胞に標的化送達するためのRGD、ボンベシンまたは神経ペプチド、ファージディスプレイから選択されるRNAアプタマーまたはペプチドであって、成長因子受容体、インテグリンのような所定の細胞表面受容体に標的化されるRNAアプタマーまたはペプチドなどが挙げられるが、これらに限らない。
【0104】
アミノ酸を化学的に改変する方法は、当該技術分野において知られている(例えば、Greg T.Hermanson,Bioconjugate Techniques,1st edition,Academic Press,1996を参照されたい)。
【0105】
いくつかの実施形態では、そのターゲティング配列は、特定の種類の細胞(複数可)への感染を誘導するウイルスカプシド配列(例えば、自律性パルボウイルスカプシド配列、AAVカプシド配列またはいずれかの他のウイルスカプシド配列)であってよい。
【0106】
別の非限定的な例として、典型的にはHS受容体と結合しないカプシドサブユニット(例えば、AAV4、AAV5)に、ヘパリン結合ドメインまたはヘパラン硫酸結合ドメイン(例えば、呼吸器合胞体ウイルスヘパリン結合ドメイン)を挿入または置換して、その結果得られる変異体にヘパリン及び/またはヘパラン硫酸への結合性を付与してもよい。
【0107】
B19は、グロボシドをその受容体として用いて、初代赤血球前駆細胞に感染する(Brown et al,(1993)Science 262:114)。B19の構造は、8Å分解能で求められている(Agbandje-McKenna et al,(1994)Virology 203:106)。グロボシドに結合する、B19カプシドの領域は、399~406番目のアミノ酸の間(Chapman et al,(1993)Virology 194:419)、βバレル構造E及びFの間のループアウト領域(Chipman et al,(1996)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 93:7502)にマッピングされている。したがって、ウイルスカプシドまたはウイルスカプシドを含むウイルスベクターを赤血球系細胞にターゲティングするために、B19カプシドのグロボシド受容体結合ドメインを本開示のAAVカプシドタンパク質に置換してよい。
【0108】
いくつかの実施形態では、外来のターゲティング配列は、本開示の改変AAVカプシドタンパク質を含むウイルスカプシドまたはウイルスベクターのトロピズムを改変するペプチドをコードするいずれのアミノ酸配列であってもよい。特定の実施形態では、そのターゲティングペプチドまたはターゲティングタンパク質は、天然であってもよく、あるいは、完全または部分的に合成によるものであってもよい。例示的なターゲティング配列としては、RODペプチド配列、ブラジキニン、ホルモン、ペプチド成長因子(例えば、上皮細胞成長因子、神経成長因子、線維芽細胞成長因子、血小板由来成長因子、インスリン様成長因子I及びIIなど)、サイトカイン、メラニン細胞刺激ホルモン(例えば、α、βまたはγ)、神経ペプチド及びエンドルフィンなど、ならびに細胞をそれらの同種の受容体にターゲティングする能力を保持する、それらの断片など、細胞表面受容体及び糖タンパク質に結合するリガンド及びその他のペプチドが挙げられる。他の例示的なペプチド及びタンパク質としては、サブスタンスP、ケラチノサイト成長因子、神経ペプチドY、ガストリン放出ペプチド、インターロイキン2、ニワトリ卵白リゾチーム、エリスロポエチン、ゴナドリベリン、コルチコスタチン、β-エンドルフィン、Leu-エンケファリン、リモルフィン、α-ネオエンケファリン、アンジオテンシン、ニューマジン(pneumadin)、血管作用性腸ペプチド、ニューロテンシン、モチリン及び上記のようなものの断片が挙げられる。さらなる代替策として、毒素(例えば、破傷風毒素、またはα-ブンガロトキシンのようなヘビ毒素など)に由来する結合ドメインをカプシドタンパク質にターゲティング配列として置換することができる。さらなる代表的な実施形態では、本開示のAAVカプシドタンパク質は、Cleves(Current Biology 7:R318(1997))によって説明されたような「非古典的な」インポート/エクスポートシグナルペプチド(例えば、線維芽細胞成長因子-1及び-2、インターロイキン1、HIV-1 Tatタンパク質、ヘルペスウイルスVP22タンパク質など)をそのAAVカプシドタンパク質に置換することによって改変できる。所定の細胞による取り込みを誘導するペプチドモチーフ(例えば、FVFLP(配列番号83)ペプチドモチーフは、肝細胞による取り込みを誘発する)も含まれる。
【0109】
ファージディスプレイ技法及び当該技術分野において知られている他の技法を用いて、対象とするいずれかの種類の細胞を認識するペプチドを特定してよい。
【0110】
そのターゲティング配列は、受容体(例えば、タンパク質、糖鎖、糖タンパク質またはプロテオグリカン)を含む細胞表面結合部位にターゲティングするいずれかのペプチドをコードしてよい。細胞表面結合部位の例としては、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸及びその他のグリコサミノグリカン、ムチン、糖タンパク質及びガングリオシドに見られるシアル酸部分、MHC1糖タンパク質、膜糖タンパク質に見られる糖鎖成分(マンノース、N-アセチルガラクトサミン、N-アセチルグルコサミン、フコース、ガラクトースなどを含む)が挙げられるが、これらに限らない。
【0111】
特定の実施形態では、ヘパラン硫酸(HS)結合ドメインまたはヘパリン結合ドメインがウイルスカプシド(例えば、HS結合ドメインまたはヘパリン結合ドメインに置換しなければ、HSまたはヘパリンに結合しないAAVカプシド)に置換されている。HS/ヘパリンへの結合は、アルギニン及び/またはリシンに富む「塩基性パッチ」によって媒介されることは当該技術分野において知られている。例示的な実施形態では、BXXBというモチーフ(配列番号84)(「B」は、塩基性残基であり、Xは、中性及び/または疎水性である)に従う配列を用いることができる。非限定的な例として、BXXBは、RGNR(配列番号85)であることができる。別の非限定的な例として、BXXBによって、天然型のAAV2カプシドタンパク質におけるアミノ酸262位~265位、または別のAAVセロタイプのカプシドタンパク質における対応する位置(複数可)が置換されている。
【0112】
表7には、好適なターゲティング配列の他の非限定的な例が示されている。
【表7-1】
【表7-2】
【表7-3】
【表7-4】
【表7-5】
【表7-6】
【表7-7】
【0113】
さらなる実施形態として、そのターゲティング配列は、細胞への侵入を標的とする別の分子に化学的にカップリングするのに用いることができるペプチド(例えば、そのR基を介して化学的にカップリングできるアルギニン残基及び/またはリシン残基を含むことができるペプチド)であってよい。
【0114】
別の実施形態として、本開示のAAVカプシドタンパク質またはウイルスカプシドは、WO2006/066066に記載されているような変異を含むことができる。例えば、そのカプシドタンパク質は、天然型のAAV2カプシドタンパク質のアミノ酸263位、705位、708位及び/または716位における選択的アミノ酸置換、または別のAAVセロタイプに由来するカプシドタンパク質における対応する変更(複数可)を含むことができる。
【0115】
これに加えて、またはこの代わりに、代表的な実施形態では、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターは、AAV2カプシドタンパク質のアミノ酸264位のすぐ後ろに選択的アミノ酸挿入を含むか、または他のAAVに由来するカプシドタンパク質に、対応する変更を含む。「アミノ酸X位のすぐ後ろに」とは、その挿入が、示されているアミノ酸位置の直後にあることを意図している(例えば、「アミノ酸264位の後ろ」とは、265位での点挿入、またはさらに広範囲での挿入、例えば、265~268位での挿入などを示す)。
【0116】
さらに、代表的な実施形態では、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターは、PCT公開第WO2010/093784号に記載されているような改変(例えば、2i8)及び/またはPCT公開第WO2014/144229号に記載されているような改変(例えば、二重グリカン)のようなアミノ酸改変を含むことができる。
【0117】
本開示のいくつかの実施形態では、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターは、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターの由来元であるAAVセロタイプの形質導入効率と比較して、形質導入効率が同等であるかまたは向上していることができる。本開示のいくつかの実施形態では、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターは、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターの由来元であるAAVセロタイプの形質導入効率と比較して、形質導入効率が低下していることができる。本開示のいくつかの実施形態では、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターは、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターの由来元であるAAVセロタイプのトロピズムと比較して、トロピズムが同等であるかまたは向上していることができる。本開示のいくつかの実施形態では、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターは、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターの由来元であるAAVセロタイプのトロピズムと比較して、トロピズムが改変されているかまたは異なることができる。本開示のいくつかの実施形態では、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターは、脳組織に対するトロピズムを有するか、または脳組織に対するトロピズムを有するように操作されていることができる。本開示のいくつかの実施形態では、本開示のカプシドタンパク質、ウイルスカプシドまたはベクターは、肝臓組織に対するトロピズムを有するか、または肝臓組織に対するトロピズムを有するように操作されていることができる。
【0118】
上記の実施形態を用いて、異種の核酸を、本明細書に記載されているような細胞または対象に送達できる。例えば、本開示の改変ベクターを用いて、本明細書に記載されているように、ムコ多糖症(例えば、スライ症候群[β-グルクロニダーゼ]、ハーラー症候群[α-L-イズロニダーゼ]、シャイエ症候群[α-L-イズロニダーゼ]、ハーラー-シャイエ症候群[α-L-イズロニダーゼ]、ハンター症候群[イズロン酸スルファターゼ]、サンフィリポ症候群A型[ヘパランスルファミダーゼ]、サンフィリポ症候群B型[N-アセチルグルコサミニダーゼ]、サンフィリポ症候群C型[アセチル-CoA:α-グルコサミニドアセチルトランスフェラーゼ]、サンフィリポ症候群D型[N-アセチルグルコサミン6-スルファターゼ]、モルキオ症候群A型[ガラクトース-6-硫酸スルファターゼ]、モルキオ症候群B型[β-ガラクトシダーゼ]、マロトー-ラミー症候群[N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ]など)、ファブリー病(α-ガラクトシダーゼ)、ゴーシェ病(グルコセレブロシダーゼ)、またはグリコーゲン貯蔵病(例えば、ポンペ病[リソソーム酸性α-グルコシダーゼ])のようなリソソーム貯蔵障害を治療できる。
【0119】
いくつかのAAVカプシドタンパク質では、対応するアミノ酸位置が、ウイルスに部分的または完全に存在するか、あるいは、完全に見られないかに応じて、その対応する改変が挿入及び/または置換となることは、当業者には明らかであろう。本明細書の別の箇所で論じられているように、その対応するアミノ酸位置(複数可)は、周知の技法を用いれば、当業者には容易に明らかになるであろう。
【0120】
本開示には、本開示の改変カプシドタンパク質及びカプシドを含むウイルスベクターも含まれる。特定の実施形態では、そのウイルスベクターは、パルボウイルスベクター(例えば、パルボウイルスのカプシド及び/またはベクターゲノムを含むもの)、例えば、AAVベクター(例えば、AAVのカプシド及び/またはベクターゲノムを含むもの)である。代表的な実施形態では、そのウイルスベクターは、本開示の改変カプシドサブユニットを含む改変AAVカプシド、ならびにベクターゲノムを含む。
【0121】
例えば、代表的な実施形態では、そのウイルスベクターは、(a)本開示の改変カプシドタンパク質を含む改変ウイルスカプシド(例えば、改変AAVカプシド)、及び(b)末端反復配列(例えば、AAV TR)を含む核酸を含み、末端反復配列を含むその核酸は、その改変ウイルスカプシドに封入されている。その核酸は任意に、2つの末端反復配列(例えば、2つのAAV TR)を含むことができる。
【0122】
代表的な実施形態では、そのウイルスベクターは、対象とするポリペプチドまたは機能性RNAをコードする異種核酸を含む組み換えウイルスベクターである。組み換えウイルスベクターは、下にさらに詳細に説明されている。
【0123】
特定の実施形態では、本開示のウイルスベクターは、(i)その改変カプシドタンパク質を含まないウイルスベクターによる形質導入のレベルと比較して、肝臓への形質導入が低下しており、(ii)動物対象におけるそのウイルスベクターによる全身性形質導入が、その改変カプシドタンパク質を含まないウイルスベクターによって観察されるレベルと比較して向上しており、(iii)内皮細胞を越えた移動が、その改変カプシドタンパク質を含まないウイルスベクターによる移動のレベルと比較して増大し、及び/またはその改変カプシドタンパク質を含まないウイルスベクターによる移動のレベルと比較して、(iv)筋肉組織(例えば、骨格筋、心筋及び/または横隔膜筋)への形質導入が選択的に向上し、(v)肝臓組織への形質導入が選択的に向上し、及び/または(vi)脳組織(例えばニューロン)への形質導入が低下する。特定の実施形態では、そのウイルスベクターは、肝臓に対する全身性形質導入を有する。
【0124】
本開示の改変カプシドタンパク質、ウイルスカプシド及びウイルスベクターには、示されているアミノ酸が、天然型の状態における所定の位置にある(すなわち、変異体ではない)カプシドタンパク質、カプシド及びウイルスベクターは含まれないことは、当業者にはわかるであろう。
【0125】
ウイルスベクターの作製方法
本開示は、本発明のウイルスベクターの作製方法をさらに提供する。したがって、一実施形態では、本開示は、中和抗体を回避するAAVベクターの作製方法であって、a)AAVカプシドタンパク質上で3次元抗原フットプリントを形成する接触アミノ酸残基を特定すること、b)(a)で特定した接触アミノ酸残基のアミノ酸置換を含むAAVカプシドタンパク質のライブラリーを作製すること、c)(b)のAAVカプシドタンパク質のライブラリーに由来するカプシドタンパク質を含むAAV粒子を作製すること、d)感染及び複製が可能な条件で、(c)のAAV粒子と細胞を接触させること、e)少なくとも1回の感染サイクルを完了して、コントロールのAAV粒子と同等の力価まで複製できるAAV粒子を選択すること、f)感染及び複製が可能な条件で、(e)で選択したAAV粒子と、中和抗体及び細胞を接触させること、ならびにg)(f)の中和抗体によって中和されないAAV粒子を選択することを含む方法を提供する。接触アミノ酸残基の特定方法の非限定的な例としては、ペプチドエピトープマッピング及び/または低温電子顕微鏡法が挙げられる。
【0126】
3次元抗原フットプリント内の抗体接触残基の分解分析及び特定を行うことによって、その後、ランダム変異誘発、合理的変異誘発及び/または縮重変異誘発による改変を行って、さらなる選択及び/またはスクリーニングを通じて特定できる抗体回避性AAVカプシドを作製可能になる。
【0127】
したがって、さらなる実施形態では、本開示は、中和抗体を回避するAAVベクターの作製方法であって、a)AAVカプシドタンパク質上で3次元抗原フットプリントを形成する接触アミノ酸残基を特定すること、b)ランダム変異誘発、合理的変異誘発及び/または縮重変異誘発によって、(a)で特定した接触アミノ酸残基のアミノ酸置換を含むAAVカプシドタンパク質を作製すること、c)(b)のAAVカプシドタンパク質に由来するカプシドタンパク質を含むAAV粒子を作製すること、d)感染及び複製が可能な条件で、(c)のAAV粒子と細胞を接触させること、e)少なくとも1回の感染サイクルを完了して、コントロールのAAV粒子と同等の力価まで複製できるAAV粒子を選択すること、f)感染及び複製が可能な条件で、(e)で選択したAAV粒子と、中和抗体及び細胞を接触させること、ならびにg)(f)の中和抗体によって中和されないAAV粒子を選択することを含む方法を提供する。
【0128】
接触アミノ酸残基の特定方法の非限定的な例としては、ペプチドエピトープマッピング及び/または低温電子顕微鏡法が挙げられる。ランダム変異誘発、合理的変異誘発及び/または縮重変異誘発によって、接触アミノ酸残基のアミノ酸置換を含むAAVカプシドタンパク質を作製する方法は、当該技術分野において知られている。
【0129】
この包括的アプローチは、いずれのAAVカプシドの改変にも適用できるプラットフォーム技術をもたらす。このプラットフォーム技術を適用すると、形質導入効率を損なうことなく、元のAAVカプシドテンプレートに由来するAAV抗原バリアントが得られる。長所及び利点の1つとしては、この技術を適用すると、AAVベクターによる遺伝子療法に適用可能な患者コホートが拡大されることになる。
【0130】
一実施形態では、本開示は、ウイルスベクターの作製方法であって、(a)少なくとも1つのTR配列(例えばAAV TR配列)を含む核酸テンプレート、ならびに(b)その核酸テンプレートを複製して、AAVカプシドに封入するのに充分なAAV配列(例えば、本開示のAAVカプシドをコードするAAV rep配列及びAAV cap配列)を細胞に供給することを含む方法を提供する。任意に、その核酸テンプレートは、少なくとも1つの異種核酸配列をさらに含む。特定の実施形態では、その核酸テンプレートは、2つのAAV ITR配列を含み、それらのITR配列は、異種核酸配列(存在する場合)の5’側及び3’側に位置するが、その異種核酸配列に直接接触している必要はない。
【0131】
その核酸テンプレート、ならびにAAV rep配列及びcap配列は、AAVカプシド内にパッケージングされたその核酸テンプレートを含むウイルスベクターが細胞内で産生される条件で供給する。その方法は、その細胞からウイルスベクターを回収する工程をさらに含むことができる。そのウイルスベクターは、培地から、及び/または細胞を溶解させることによって回収できる。
【0132】
その細胞は、AAVウイルスの複製に対する許容性がある細胞であることができる。当該技術分野において知られているいずれの好適な細胞も用いてよい。特定の実施形態では、その細胞は、哺乳動物細胞である。別の選択肢として、その細胞は、複製欠損ヘルパーウイルスから欠損された機能をもたらすトランス相補性パッケージング細胞株、例えば、293細胞またはその他のE1aトランス相補性細胞であることができる。
【0133】
AAVの複製配列及びカプシド配列は、当該技術分野において知られているいずれかの方法によって供給してよい。現行のプロトコールでは典型的には、単一のプラスミド上でAAV rep/cap遺伝子を発現させる。AAVの複製配列及びパッケージング配列は、一緒に供給する必要はないが、一緒に供給するのが利便的なことがある。AAV rep配列及び/またはcap配列は、いずれかのウイルスベクターまたは非ウイルスベクターによって供給してもよい。例えば、rep/cap配列は、ハイブリッドアデノウイルスベクターまたはヘルペスウイルスベクターによって供給してよい(例えば、欠損アデノウイルスベクターのE1aまたはE3領域に挿入する)。EBVベクターを用いて、AAVのcap遺伝子及びrep遺伝子を発現させてもよい。この方法の長所の1つは、EBVベクターはエピソーマルベクターであるうえに、連続的な細胞分裂の全体を通じて、高いコピー数を維持することになる点である(すなわち、「EBVベースの核エピソーム」と称される染色体外エレメントとして、細胞に安定的に組み込まれる。Margolski,(1992)Curr.Top.Microbiol.Immun.158:67を参照されたい)。
【0134】
さらなる代替策として、rep/cap配列は、細胞に安定的に組み込んでもよい。
【0135】
典型的には、AAV rep/cap配列は、これらの配列のレスキュー及び/またはパッケージングを防ぐために、TRに挟まれない。
【0136】
核酸テンプレートは、当該技術分野において知られているいずれかの方法を用いて、細胞に供給できる。例えば、そのテンプレートは、非ウイルスベクター(例えばプラスミド)またはウイルスベクターによって供給できる。特定の実施形態では、その核酸テンプレートは、ヘルペスウイルスベクターまたはアデノウイルスベクターによって供給する(例えば、欠損アデノウイルスのE1aまたはE3領域に挿入する)。別の例示として、Palombo et al.,(1998)J.Virology 72:5025には、AAV TRに挟まれたレポーター遺伝子を有するバキュロウイルスベクターが記載されている。EBVベクターを用いて、rep/cap遺伝子との関連で上記したようなテンプレートを送達してもよい。
【0137】
別の代表的な実施形態では、核酸テンプレートは、複製型rAAVウイルスによって供給する。さらに別の実施形態では、その核酸テンプレートを含むAAVプロウイルスを細胞の染色体に安定的に組み込む。
【0138】
ウイルス力価を向上させるために、増殖性のAAV感染を促すヘルパーウイルスの機能(例えば、アデノウイルスまたはヘルペスウイルス)を細胞に供給できる。AAVの複製に必要なヘルパーウイルス配列は、当該技術分野において知られている。典型的には、これらの配列は、ヘルパーアデノウイルスベクターまたはヘルパーヘルペスウイルスベクターによって供給することになる。あるいは、Ferrari et al.,(1997)Nature Med.3:1295、ならびに米国特許第6,040,183号及び同第6,093,570号に記載されているように、そのアデノウイルスまたはヘルペスウイルスの配列を別の非ウイルスベクターまたはウイルスベクター(例えば、AAVの効率的な産生を促すヘルパー遺伝子のすべてを有する非感染性アデノウイルスミニプラスミドとしてのベクター)によって供給できる。
【0139】
さらに、ヘルパーウイルスの機能は、ヘルパー配列が染色体に組み込まれているかまたは安定な染色体外エレメントとして保持されているパッケージング細胞によってもたらしてよい。概して、そのヘルパーウイルス配列は、AAVビリオンにパッケージングできず、例えば、TRに挟まれていない。
【0140】
AAVの複製配列及びカプシド配列、ならびにヘルパーウイルス配列(例えば、アデノウイルス配列)を単一のヘルパーコンストラクトに供給するのが有益な場合のあることは当業者には明らかであろう。このヘルパーコンストラクトは、非ウイルスコンストラクトまたはウイルスコンストラクトであってよい。非限定的な実例の1つとして、そのヘルパーコンストラクトは、AAV rep/cap遺伝子を含むハイブリッドアデノウイルスまたはハイブリッドヘルペスウイルスであることができる。
【0141】
特定の一実施形態では、そのAAV rep/cap配列及びアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって供給する。このベクターはさらに、核酸テンプレートをさらに含むことができる。AAV rep/cap配列及び/またはrAAVテンプレートは、アデノウイルスの欠損領域(例えば、E1aまたはE3領域)に挿入できる。
【0142】
さらなる実施形態では、そのAAV rep/cap配列及びアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって供給する。この実施形態によれば、rAAVテンプレートは、プラスミドテンプレートとして供給できる。
【0143】
別の例示的な実施形態では、そのAAV rep/cap配列及びアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーベクターによって供給し、rAAVテンプレートは、細胞にプロウイルスとして組み込む。あるいは、rAAVテンプレートは、細胞内に染色体外エレメントとして(例えば、EBVベースの核エピソームとして)保持されるEBVベクターによって供給する。
【0144】
さらなる例示的な実施形態では、AAV rep/cap配列及びアデノウイルスヘルパー配列は、単一のアデノウイルスヘルパーによって供給する。rAAVテンプレートは、別個の複製型ウイルスベクターとして供給できる。例えば、rAAVテンプレートは、rAAV粒子または第2の組み換えアデノウイルス粒子によって供給できる。
【0145】
上記の方法によれば、ハイブリッドアデノウイルスベクターは典型的には、アデノウイルスの複製及びパッケージングに充分なアデノウイルスの5’シス配列及び3’シス配列(すなわち、アデノウイルスの末端反復配列及びPAC配列)を含む。そのAAV rep/cap配列、及び存在する場合にはrAAVテンプレートは、アデノウイルス骨格に組み込まれ、5’シス配列及び3’シス配列に挟まれて、これらの配列をアデノウイルスカプシドにパッケージングし得るようになっている。上記のように、そのアデノウイルスヘルパー配列及びAAV rep/cap配列は概して、TRによって挟まれておらず、これらの配列がAAVビリオンにパッケージングされないようになっている。Zhang et al.,((2001)Gene Ther.18:704-12)には、アデノウイルス遺伝子、ならびにAAVのrep遺伝子及びcap遺伝子の両方を含むキメラヘルパーが記載されている。
【0146】
AAVパッケージング法では、ヘルペスウイルスもヘルパーウイルスとして用いてよい。AAV Repタンパク質(複数可)をコードするハイブリッドヘルペスウイルスは有益なことに、拡張可能なAAVベクター産生スキームを促進し得る。AAV-2のrep遺伝子及びcap遺伝子を発現させるハイブリッド単純ヘルペスウイルスI型(HSV-1)ベクターが説明されてきている(Conway et al.,(1999)Gene Therapy 6:986及びWO00/17377)。
【0147】
さらなる代替策として、例えば、Urabe et al.,(2002)Human Gene Therapy 13:1935-43に記載されているように、バキュロウイルスベクターを用いて、本開示のウイルスベクターを昆虫細胞で産生させて、rep/cap遺伝子及びrAAVテンプレートを送達することができる。
【0148】
混入ヘルパーウイルスを含まないAAVベクターストックは、当該技術分野において知られているいずれかの方法によって得てよい。例えば、AAV及びヘルパーウイルスは、サイズに基づき、容易に区別し得る。AAVは、ヘパリン基質に対する親和性に基づき、ヘルパーウイルスから分離し得る(Zolotukhin et al.(1999)Gene Therapy 6:973)。欠失のある複製欠損ヘルパーウイルスを用いて、いずれの混入ヘルパーウイルスも、複製コンピテントとならないようにできる。AAVウイルスのパッケージングを媒介するのに必要なのは、アデノウイルス初期遺伝子の発現のみであるので、さらなる代替策として、後期遺伝子の発現を欠損したアデノウイルスヘルパーを用いてよい。後期遺伝子の発現を欠損したアデノウイルス変異体は、当該技術分野において知られている(例えば、アデノウイルス変異体ts100K及びts149)。
【0149】
組み換えウイルスベクター
本開示のウイルスベクターは、核酸を細胞にin vitro、ex vivo及びin vivoで送達するのに有用である。特に、本開示のウイルスベクターは有益なことに、哺乳動物を含む動物の細胞に核酸を送達または移入するのに用いることができる。したがって、いくつかの実施形態では、核酸(「カーゴ核酸」)を本開示のカプシドタンパク質に封入してよい。
【0150】
いくつかの実施形態では、本開示は、配列番号18~80、300~410、422~612または783~785のうちのいずれか1つとの配列同一性が少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%である組み換えカプシドタンパク質を含むAAVベクターを提供する。いくつかの実施形態では、AAVベクターは、配列番号380または384との配列同一性が少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%である組み換えカプシドタンパク質を含む。いくつかの実施形態では、AAVウイルスベクターは、配列番号18~80、300~410、422~612または783~785のうちのいずれか1つとの配列同一性が少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%である組み換えカプシドタンパク質を含み、そのカプシドタンパク質に封入されたカーゴ核酸をさらに含む。いくつかの実施形態では、AAVウイルスベクターは、配列番号380または384との配列同一性が少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%または100%である組み換えカプシドタンパク質を含み、そのカプシドタンパク質に封入されたカーゴ核酸をさらに含む。
【0151】
本開示のウイルスベクターで送達するカーゴ核酸配列は、対象とするいずれの異種核酸配列(複数可)であってもよい。対象とする核酸としては、治療用ポリペプチド(例えば、医学的または獣医学的用途のもの)または免疫原性ポリペプチド(例えば、ワクチン用のもの)を含むポリペプチドまたはRNAをコードする核酸が挙げられる。
【0152】
治療用ポリペプチドとしては、嚢胞性線維症膜貫通調節タンパク質(CFTR)、ジストロフィン(ミニジストロフィン及びマイクロジストロフィンを含む。例えば、Vincent et al,(1993)Nature Genetics 5:130、米国特許出願公開第2003/017131号、国際公開第2008/088895号、Wang et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97:1 3714-13719(2000)及びGregorevic et al.,Mol.Ther.16:657-64(2008)を参照されたい)、ミオスタチンプロペプチド、ホリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、IGF-1、apoA(apoA1、apoA2、apoA4、apoA-V)、apoB(apoB100、ApoB48)、apoC(apoCI、apoCII、apoCIII、apoCIV)、apoD、apoE、apoH、apoL、apo(a)のようなアポリポタンパク質、Ikappa Bドミナント変異体のような抗炎症性ポリペプチド、サルコスパン、ユートロフィン(Tinsley et al,(1996)Nature 384:349)、ミニユートロフィン、凝固因子(例えば、第VIII因子、第IX因子、第X因子など)、エリスロポエチン、アンギオスタチン、エンドスタチン、カタラーゼ、チロシンヒドロキシラーゼ、スーパオキシドジスムターゼ、レプチン、LDL受容体、リポタンパク質リパーゼ、プログラニュリン、オルニチントランスカルバミラーゼ、β-グロビン、α-グロビン、スペクトリン、α-1-アンチトリプシン、アデノシンデアミナーゼ、ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ、β-グルコセレブロシダーゼ、アミロイドβ、タウ、バッテニン、スフィンゴミエリナーゼ、リソソームヘキソサミニダーゼA、分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ、フラタキシン、RP65タンパク質、サイトカイン(例えば、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、インターロイキン-2、インターロイキン-4、αシヌクレイン、パーキン、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子、リンホトキシンなど)、ペプチド成長因子、神経栄養因子及び神経栄養ホルモン(例えば、ソマトトロピン、インスリン、インスリン様成長因子1及びインスリン様成長因子2、血小板由来成長因子、上皮細胞成長因子、線維芽細胞成長因子、神経成長因子、神経栄養因子3及び神経栄養因子4、脳由来神経栄養因子、骨形成タンパク質[RANKL及びVEGFを含む]、グリア由来成長因子、トランスフォーミング成長因子α及びトランスフォーミング成長因子βなど)、ハンチンチン、リソソーム酸性α-グルコシダーゼ、イズロン酸-2-スルファターゼ、N-スルホグルコサミンスルホヒドロラーゼ、α-ガラクトシダーゼA、受容体(例えば、腫瘍壊死成長因子可溶性受容体)、S100A1、ユビキチンタンパク質リガーゼE3、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、カルシウムハンドリングを調節する分子(例えば、SERCA2A、PP1の阻害剤1及びその断片[例えば、WO2006/029319及びWO2007/100465])、Gタンパク質共役型受容体キナーゼ2型のノックダウンを行う分子(トランケート型構成的活性型bARKctなど)、IRAPのような抗炎症性因子、抗ミオスタチンタンパク質、アスパルトアシラーゼ、モノクローナル抗体(一本鎖モノクローナル抗体を含む。例示的なMabは、Herceptin(登録商標)Mabである)、神経ペプチド及びその断片(例えば、ガラニン、神経ペプチドY(U.S.7,071,172を参照されたい))、バゾヒビン及びその他のVEGF阻害剤(例えば、バゾヒビン2[WO JP2006/073052を参照されたい])のような血管新生阻害剤が挙げられるが、これらに限らない。他の例示的な異種核酸配列は、自殺遺伝子産物(例えば、チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼ、ジフテリア毒素及び腫瘍壊死因子)、宿主の因子の転写を増大または阻害するタンパク質(例えば、転写エンハンサーエレメントまたは転写阻害エレメントに連結したヌクレアーゼ欠損Cas9、転写エンハンサーエレメントまたは転写阻害エレメントに連結したジンクフィンガータンパク質、転写エンハンサーエレメントまたは転写阻害エレメントに連結した転写活性化因子様(TAL)エフェクター)、がん療法で用いる薬剤に対する耐性を付与するタンパク質、腫瘍抑制遺伝子産物(例えば、p53、Rb、Wt-1)、TRAIL、FASリガンド、ならびに治療の必要な対象において治療作用を有するいずれかの他のポリペプチドをコードする。AAVベクターを用いて、モノクローナル抗体及び抗体断片、例えば、ミオスタチンに対する抗体または抗体断片を送達することもできる(例えば、Fang et al.,Nature Biotechnology 23:584-590(2005)を参照されたい)。ポリペプチドをコードする異種核酸配列には、レポーターポリペプチド(例えば、酵素)をコードする配列が含まれる。レポーターポリペプチドは当該技術分野において知られており、そのポリペプチドとしては、緑色蛍光タンパク質、β-ガラクトシダーゼ、アルカリホスファターゼ、ルシフェラーゼ及びクロラムフェニコールアセチルトランスフェラーゼ遺伝子が挙げられるが、これらに限らない。
【0153】
任意に、その異種核酸は、分泌ポリペプチド(例えば、その天然型の状態において分泌ポリペプチドであるか、または例えば、当該技術分野において知られているように、分泌シグナル配列と機能可能に会合することによって、分泌されるように操作したポリペプチド)をコードする。
【0154】
あるいは、本開示の特定の実施形態では、その異種核酸は、アンチセンス核酸、リボザイム(例えば、米国特許第5,877,022号に記載されているようなもの)、スプライセオソームの媒介によるトランススプライシングが行われるRNA(Puttaraju et al,(1999)Nature Biotech.17:246、米国特許第6,013,487号、米国特許第6,083,702号を参照されたい)、遺伝子サイレンシングを媒介する、siRNA、shRNAまたはmiRNAを含む干渉性RNA(RNAi)(Sharp et al,(2000)Science 287:2431を参照されたい)、及び「ガイド」RNAのようなその他の非翻訳RNA(Gorman et al.,(1998)Proc.Nat.Acad.Sci.USA 95:4929、Yuanらの米国特許第5,869,248号)などをコードしてもよい。例示的な非翻訳RNAとしては、多剤耐性(MDR)遺伝子産物に対するRNAi(例えば、腫瘍を治療及び/または予防するためのもの、及び/または化学療法による損傷を予防する目的で心臓に投与するためのもの)、ミオスタチンに対するRNAi(例えば、デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するもの)、VEGFに対するRNAi(例えば、腫瘍を治療及び/または予防するもの)、ホスホランバンに対するRNAi(例えば、心血管疾患を治療するためのもの。例えば、Andino et al.,J.Gene Med.10: 132-142(2008)及びLi et al.,Acta Pharmacol Sin.26:51-55(2005)を参照されたい)、ホスホランバンS16Eのような、ホスホランバン阻害分子またはドミナントネガティブ分子(例えば、心血管疾患を治療するためのもの。例えば、Hoshijima et al.Nat.Med.8:864-871(2002)を参照されたい)、アデノシンキナーゼに対するRNAi(例えば、てんかんに対するもの)、ならびに病原性の生物及びウイルス(例えば、B型及び/またはC型肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、CMV、単純ヘルペスウイルス、ヒトパピローマウイルスなど)に対するRNAiが挙げられる。
【0155】
さらに、選択的スプライシングを誘導する核酸配列を送達できる。実例として、U1またはU7核内低分子(sn)RNAプロモーターと併せて、ジストロフィンエキソン51の5’及び/または3’スプライス部位と相補的であるアンチセンス配列(またはその他の阻害配列)を送達して、このエキソンのスキッピングを誘導できる。例えば、アンチセンス/阻害配列(複数可)の5’側に位置するU1またはU7 snRNAプロモーターを含むDNA配列を本開示の改変カプシド内にパッケージングして、送達できる。
【0156】
いくつかの実施形態では、遺伝子編集を誘導する核酸配列を送達できる。例えば、その核酸は、ガイドRNAをコードしてよい。いくつかの実施形態では、そのガイドRNAは、crRNA配列及びtracrRNA配列を含むシングルガイドRNA(sgRNA)である。いくつかの実施形態では、その核酸は、ヌクレアーゼをコードしてよい。いくつかの実施形態では、そのヌクレアーゼは、ジンクフィンガーヌクレアーゼ、ホーミングエンドヌクレアーゼ、TALEN(転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ)、NgAgo(アルゴノートエンドヌクレアーゼ)、SGN(構造誘導型エンドヌクレアーゼ)、RGN(RNA誘導型ヌクレアーゼ)、またはそれらの改変バリアントもしくはトランケート型バリアントである。いくつかの実施形態では、そのRNA誘導型ヌクレアーゼは、Cas9ヌクレアーゼ、Cas12(a)ヌクレアーゼ(Cpf1)、Cas12bヌクレアーゼ、Cas12cヌクレアーゼ、TrpB様ヌクレアーゼ、Cas13aヌクレアーゼ(C2c2)、Cas13bヌクレアーゼ、またはそれらの改変バリアントもしくはトランケート型バリアントである。いくつかの実施形態では、そのCas9ヌクレアーゼは、S.pyogenesまたはS.aureusから単離したものまたはそれに由来するものである。
【0157】
いくつかの実施形態では、遺伝子ノックダウンを誘導する核酸配列を送達できる。例えば、その核酸配列は、siRNA、shRNA、マイクロRNAまたはアンチセンス核酸をコードしてよい。
【0158】
本開示のウイルスベクターは、宿主染色体上のとある座位と相同性を有し、その座位と組み換わる異種核酸も含んでよい。このアプローチを用いて、例えば、宿主細胞における遺伝的欠損を修正することができる。
【0159】
本開示は、例えばワクチン接種用の免疫原性ポリペプチドを発現させるウイルスベクターも提供する。その核酸は、対象とするいずれかの免疫原であって、当該技術分野において知られている免疫原をコードしてよく、その免疫原としては、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、サル免疫不全ウイルス(SIV)、インフルエンザウイルス、HIVまたはSIVのgagタンパク質、腫瘍抗原、がん抗原、細菌抗原、ウイルス抗原などに由来する免疫原が挙げられるが、これらに限らない。
【0160】
パルボウイルスをワクチンベクターとして使用することは、当該技術分野において知られている(例えば、Miyamura el al,(1994)Proc.Nat.Acad.Sci USA 91:8507、Youngらの米国特許第5,916,563号、Mazzaraらの米国特許第5,905,040号、米国特許第5,882,652号、Samulskiらの米国特許第5,863,541号を参照されたい)。その抗原は、パルボウイルスカプシドにおいて提示されてよい。
【0161】
あるいは、その抗原は、組み換えベクターゲノムに導入した異種核酸から発現させてよい。対象とするいずれかの免疫原であって、本明細書に記載されており及び/または当該技術分野において知られているような免疫原を、本開示のウイルスベクターによって供給できる。
【0162】
免疫原性ポリペプチドは、感染及び/または疾患に対する免疫応答を誘発し及び/またはそれらから対象を保護するのに適するいずれのポリペプチドであることもでき、その感染及び/または疾患としては、微生物、細菌、原虫、寄生虫、真菌及び/またはウイルスへの感染及びそれらの疾患が挙げられるが、これらに限らない。例えば、免疫原性ポリペプチドは、オルトミクソウイルス免疫原(例えば、インフルエンザウイルスヘマグルチニン(HA)表面タンパク質もしくはインフルエンザウイルス核タンパク質のようなインフルエンザウイルス免疫原、またはウマインフルエンザウイルス免疫原)、あるいはレンチウイルス免疫原(例えば、ウマ伝染性貧血ウイルス免疫原、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)またはサル免疫不全ウイルス(SIV)のエンベロープGP 160タンパク質、HIVまたはSIVのマトリックス/カプシドタンパク質、ならびにHIVまたはSIVのgag遺伝子産物、pol遺伝子産物及びenv遺伝子産物のようなSIV免疫原またはHIV免疫原)であることができる。その免疫原性ポリペプチドは、アレナウイルス免疫原(例えば、ラッサ熱ウイルスヌクレオカプシドタンパク質及びラッサ熱エンベロープ糖タンパク質のようなラッサ熱ウイルス免疫原)、ポックスウイルス免疫原(例えば、ワクシニアLI遺伝子産物もしくはL8遺伝子産物のようなワクシニアウイルス免疫原)、フラビウイルス免疫原(例えば、黄熱ウイルス免疫原もしくは日本脳炎ウイルス免疫原)、フィロウイルス免疫原(例えば、NP遺伝子産物及びGP遺伝子産物のようなエボラウイルス免疫原もしくはマールブルグウイルス免疫原)、ブニヤウイルス免疫原(例えば、RVFVウイルス免疫原、CCHFウイルス免疫原及び/またはSFSウイルス免疫原)、またはコロナウイルス免疫原(例えば、ヒトコロナウイルスエンベロープ糖タンパク質のような感染性ヒトコロナウイルス免疫原、ブタ伝染性胃腸炎ウイルス免疫原もしくはトリ伝染性気管支炎ウイルス免疫原)であることもできる。その免疫原性ポリペプチドはさらに、ポリオ免疫原、ヘルペス免疫原(例えば、CMV、EBV、HSVの免疫原)、ムンプス免疫原、麻疹免疫原、風疹免疫原、ジフテリア毒素もしくはその他のジフテリアの免疫原、百日咳抗原、肝炎(例えば、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎など)の免疫原、及び/または当該技術分野において現在知られているかもしくは今後免疫原として特定されるいずれかの他のワクチン免疫原であることができる。
【0163】
あるいは、その免疫原性ポリペプチドは、いずれかの腫瘍細胞抗原またはがん細胞抗原であることができる。任意に、その腫瘍抗原またはがん抗原は、がん細胞の表面上に発現するものである。
【0164】
例示的ながん細胞抗原及び腫瘍細胞抗原は、S.A.Rosenberg(Immunity 10:281(1991))に記載されている。他の例示的ながん抗原及び腫瘍抗原としては、BRCA1遺伝子産物、BRCA2遺伝子産物、gp100、チロシナーゼ、GAGE-1/2、BAGE、RAGE、LAGE、NY-ESO-1、CDK-4、β-カテニン、MUM-1、カスパーゼ-8、KIAA0205、HPVE、SART-1、FRAME、p15、メラノーマ腫瘍抗原(Kawakami et al.,(1994)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:3515、Kawakami et al.,(1994)J.Exp.Med.,180:347、Kawakami et al.,(1994)Cancer Res.54:3124)、MART-1、gp100、MAGE-1、MAGE-2、MAGE-3、CEA、TRP-1、TRP-2、P-15、チロシナーゼ(Brichard et al.,(1993)J Exp.Med.178:489)、HER-2/neu遺伝子産物(米国特許第4.968.603号)、CA125、LK26、FB5(エンドシアリン)、TAG72、AFP、CA19-9、NSE、DU-PAN-2、CA50、SPan-1、CA72-4、HCG、STN(シアリルTn抗原)、c-erbB-2タンパク質、PSA、L-CanAg、エストロゲン受容体、乳脂肪グロブリン、p53腫瘍抑制タンパク質(Levine,(1993)Ann.Rev.Biochem.62:623)、ムチン抗原(国際公開第90/05142号)、テロメラーゼ、核マトリックスタンパク質、前立腺酸性ホスファターゼ、パピローマウイルス抗原、及び/またはメラノーマ、腺癌、胸腺腫、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、肉腫、肺癌、肝臓癌、大腸癌、白血病、子宮癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、膀胱癌、腎臓癌、膵臓癌、脳腫瘍及び現在知られているかもしくは今後特定されるいずれかの他のがんもしくは悪性の病態、またはそれらの転移といったがんと結合することが現在知られているかまたは今後発見される抗原が挙げられるが、これらに限らない(例えば、Rosenberg,(1996)Ann.Rev.Med. 47:481-91を参照されたい)。
【0165】
さらなる代替策として、その異種核酸は、細胞においてin vitro、ex vivoまたはin vivoで産生させるのが望ましいいずれかのポリペプチドをコードできる。例えば、本開示のウイルスベクターを培養細胞に導入して、発現した遺伝子産物をその細胞から単離してよい。
【0166】
対象とする異種核酸(複数可)は、適切な調節配列と機能可能に結合できることを当業者は理解するであろう。例えば、その異種核酸は、転写/翻訳調節シグナル、複製起点、ポリアデニル化シグナル、内部リボソーム侵入部位(IRES)、プロモーター及び/またはエンハンサーなどのような発現調節エレメントと機能可能に結合できる。
【0167】
さらに、対象とする異種核酸(複数可)の調節発現は、(例えば、WO2006/119137に記載されているように)例えば、所定の部位におけるスプライシング活性を選択的にブロックするオリゴヌクレオチド、小分子及び/またはその他の化合物の有無によって、異なるイントロンの選択的スプライシングを調節することによって、転写後レベルで行うことができる。
【0168】
所望のレベル及び組織特異的な発現に応じて、様々なプロモーター/エンハンサーエレメントを用いることができることは当業者には明らかであろう。そのプロモーター/エンハンサーは、所望の発現のパターンに応じて、構成的または誘導性のものであることができる。そのプロモーター/エンハンサーは、天然型または外来のものであることができ、天然または合成の配列であることができる。外来とは、転写開始領域が導入される野生型宿主において、その転写開始領域が見られないことが意図されている。
【0169】
特定の実施形態では、そのプロモーター/エンハンサーエレメントは、治療する標的の細胞または対象にとって天然型のものであることができる。代表的な実施形態では、そのプロモーター/エンハンサーエレメントは、異種核酸配列にとって天然型のものであることができる。そのプロモーター/エンハンサーエレメントは概して、対象とする標的細胞(複数可)において機能するように選択する。さらに、特定の実施形態では、そのプロモーター/エンハンサーエレメントは、哺乳動物プロモーター/エンハンサーエレメントである。そのプロモーター/エンハンサーエレメントは、構成的または誘導性のものであってよい。
【0170】
誘導性発現調節エレメントは典型的には、異種核酸配列(複数可)の発現に対する調節を行うのが望ましい用途において有益である。遺伝子送達に対する誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントは、組織に特異的または好ましいプロモーター/エンハンサーエレメントであることができ、筋肉に特異的または好ましいプロモーター/エンハンサーエレメント(心筋、骨格筋及び/または平滑筋に特異的または好ましいプロモーター/エンハンサーエレメントを含む)、神経組織に特異的または好ましいプロモーター/エンハンサーエレメント(脳に特異的または好ましいプロモーター/エンハンサーエレメントを含む)、眼に特異的または好ましいプロモーター/エンハンサーエレメント(網膜に特異的なプロモーター/エンハンサーエレメント及び角膜に特異的なプロモーター/エンハンサーエレメントを含む)、肝臓に特異的または好ましいプロモーター/エンハンサーエレメント、骨髄に特異的または好ましいプロモーター/エンハンサーエレメント、膵臓に特異的または好ましいプロモーター/エンハンサーエレメント、脾臓に特異的または好ましいプロモーター/エンハンサーエレメント、ならびに肺に特異的または好ましいプロモーター/エンハンサーエレメントが挙げられる。その他の誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントとしては、ホルモン誘導性エレメント及び金属誘導性エレメントが挙げられる。例示的な誘導性プロモーター/エンハンサーエレメントとしては、Tet on/offエレメント、RU486誘導性プロモーター、エクジソン誘導性プロモーター、ラパマイシン誘導性プロモーター及びメタロチオネインプロモーターが挙げられるが、これらに限らない。
【0171】
異種核酸配列(複数可)が標的細胞で転写されてから翻訳される実施形態では、概して、挿入されたタンパク質コード配列の効率的な翻訳のために、所定の開始シグナルが含まれる。これらの外来の翻訳調節配列は、開始コドンATG及び隣接配列を含んでよく、天然及び合成の両方である様々な供給源のものであることができる。
【0172】
本開示によるウイルスベクターは、分裂細胞及び非分裂細胞を含む広範な細胞内に異種核酸を送達する手段を提供する。本開示のウイルスベクターを用いて、例えば、in vitroでポリペプチドを作製するために、またはex vivo遺伝子療法を行うために、対象とする核酸を細胞にin vitroで送達できる。本開示のウイルスベクターは、さらに、核酸の送達が必要な対象に核酸を送達して、例えば、免疫原性ポリペプチド、治療用ポリペプチドまたは機能性RNAを発現させる方法において有用である。この方式では、そのポリペプチドまたは機能性RNAは、その対象において、in vivoで産生させることができる。その対象は、そのポリペプチドが欠損しているために、そのポリペプチドが必要であることができる。さらに、その方法は、そのポリペプチドまたは機能性RNAを対象において産生させることによって、何らかの有益な作用をもたらし得るという理由で行うことができる。
【0173】
本開示のウイルスベクターを用いて、対象とするポリペプチドまたは機能性RNAを培養細胞または対象で産生させることもできる(例えば、対象をバイオリアクターとして用いて、そのポリペプチドを産生させるか、または例えばスクリーニング法との関連で、機能性RNAが対象に及ぼす作用を観察する)。
【0174】
概して、治療用ポリペプチドまたは機能性RNAを送達するのが有益であるいずれかの病態を治療及び/または予防するために、本開示のウイルスベクターを用いて、ポリペプチドまたは機能性RNAをコードする異種核酸を送達することができる。例示的な病態としては、嚢胞性線維症(嚢胞性線維症膜貫通調節タンパク質)及びその他の肺疾患、血友病A(第VIII因子)、血友病B(第IX因子)、サラセミア(β-グロビン)、貧血(エリスロポエチン)及びその他の血液障害、アルツハイマー病(GDF、ネプリライシン)、多発性硬化症(β-インターフェロン)、パーキンソン病(グリア細胞株由来神経栄養因子[GDNF])、ハンチントン病(リピートを除去するRNAi)、カナバン病、筋萎縮性側索硬化症、てんかん(ガラニン、神経栄養因子)及びその他の神経障害、がん(エンドスタチン、アンギオスタチン、TRAIL、FASリガンド、インターフェロンを含むサイトカイン、VEGFに対するRNAiを含むRNAiまたは多剤耐性遺伝子産物、mir-26a[例えば、肝細胞癌に対するもの])、真性糖尿病(インスリン)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(ジストロフィン、ミニ-ジストロフィン、インスリン様成長因子I、サルコグリカン[例えば、α、β、γ]、ミオスタチンプロペプチドに対するRNAi、ホリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、抗炎症性ポリペプチド(Ikappa Bドミナント変異体など)、サルコスパン、ユートロフィン、ミニユートロフィン、エキソンスキッピングを誘導する、ジストロフィン遺伝子におけるスプライスジャンクションに対するアンチセンスまたはRNAi[例えば、WO/2003/095647を参照されたい]、エキソンスキッピングを誘導する、U7 snRNAに対するアンチセンス[例えば、WO/2006/021724を参照されたい]、及びミオスタチンまたはミオスタチンプロペプチドに対する抗体またはその抗体断片)ならびにベッカー型筋ジストロフィーを含む筋ジストロフィー、ゴーシェ病(グルコセレブロシダーゼ)、ハーラー病(α-L-イズロニダーゼ)、アデノシンデアミナーゼ欠損(アデノシンデアミナーゼ)、グリコーゲン貯蔵病(例えば、ファブリー病[α-ガラクトシダーゼ]及びポンペ病[リソソーム酸性α-グルコシダーゼ])ならびにその他の代謝障害、先天性肺気腫(α-1-アンチトリプシン)、レッシュ-ナイハン症候群(ヒポキサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ)、ニーマンピック病(スフィンゴミエリナーゼ)、テイ-サックス病(リソソームヘキソサミニダーゼA)、メープルシロップ尿症(分枝鎖ケト酸デヒドロゲナーゼ)、網膜変性疾患(ならびにその他の眼疾患及び網膜疾患、例えば、黄斑変性に対するPDGF及び/またはバゾヒビンもしくはその他のVEGF阻害剤、または例えば、I型糖尿病における網膜障害を治療/予防するたまのその他の血管新生阻害剤)、脳疾患(パーキンソン病[GDNF]、星状細胞腫[エンドスタチン、アンギオスタチン及び/またはVEGFに対するRNAi]、グリオブラストーマ[エンドスタチン、アンギオスタチン及び/またはVEGFに対するRNAi]を含む)、肝臓疾患、腎臓疾患、うっ血性心不全または末梢動脈障害(PAD)を含む心臓疾患(例えば、タンパク質ホスファターゼ阻害剤I(I-1)及びその断片(例えば、IIC)、serca2a、ホスホランバン遺伝子を調節するジンクフィンガータンパク質、Barkct、[32-アドレナリン受容体、2-アドレナリン受容体キナーゼ(BARK)、ホスホイノシチド-3キナーゼ(PI3キナーゼ)、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、Gタンパク質共役型受容体キナーゼ2型のノックダウンを行う分子(トランケート型構成的活性型bARKctなど)、カルサルシン、ホスホランバンに対するRNAi、ホスホランバン阻害分子、またはドミナントネガティブ分子(ホスホランバンS16Eなど)などの送達による)のような固形臓器の疾患、関節炎(インスリン様成長因子)、関節障害(インスリン様成長因子1及び/またはインスリン様成長因子2)、内膜肥厚(例えば、enos、inosの送達による)、心臓移植の生存率の向上(スーパオキシドジスムターゼ)、AIDS(可溶性CD4)、筋消耗(インスリン様成長因子I)、腎不全(エリスロポエチン)、貧血(エリスロポエチン)、関節炎(I RAP及びTNFa可溶性受容体のような抗炎症性因子)、肝炎(a-インターフェロン)、LDL受容体欠損(LDL受容体)、高アンモニア血症(オルニチントランスカルバミラーゼ)、クラッベ病(ガラクトセレブロシダーゼ)、バッテン病、SCA1、SCA2及びSCA3を含む脊髄小脳失調症、フェニルケトン尿(フェニルアラニンヒドロキシラーゼ)、自己免疫疾患などが挙げられるが、これらに限らない。本開示はさらに、臓器移植後に用いて、(例えば、サイトカインの産生をブロックする免疫抑制剤または阻害核酸を投与することによって)移植の成功率を上昇させ及び/または臓器移植もしくは補助療法のマイナスの副作用を軽減することができる。別の例として、例えば、骨折またはがん患者での外科的切除の後、骨形成タンパク質(BNP2、BNP7など、RANKL及び/またはVEGFを含む)を骨同種移植片とともに投与できる。
【0175】
いくつかの実施形態では、本開示のウイルスベクターを用いて、肝臓疾患または肝臓障害を治療及び/または予防するためのポリペプチドまたは機能性RNAをコードする異種核酸を送達できる。その肝臓疾患または肝臓障害は、例えば、原発性胆汁性肝硬変、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、自己免疫性肝炎、B型肝炎、C型肝炎、アルコール性肝疾患、線維症、黄疸、原発性硬化性胆管炎(PSC)、バッド-キアリ症候群、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病、アルコール性線維症、非アルコール性線維症、肝脂肪変性、ジルベール症候群、胆道閉鎖症、α-1-アンチトリプシン欠乏症、アラジール症候群、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症、血友病B、遺伝性血管浮腫(HAE)、家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)(HoFH)、家族性高コレステロール血症(ヘテロ接合体)(HeFH)、フォンギールケ病(GSD I)、血友病A、メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症、ホモシスチン尿症、フェニルケトン尿(PKU)、チロシン血症1型、アルギナーゼ1欠損症、アルギニノコハク酸リアーゼ欠損症、カルバモイルリン酸合成酵素1欠損症、シトルリン血症1型、シトリン欠損症、クリグラー-ナジャール症候群1型、シスチン症、ファブリー病、グリコーゲン貯蔵病1b型、LPL欠損症、N-アセチルグルタミン酸合成酵素欠損症、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症、オルニチントランスロカーゼ欠損症、原発性高シュウ酸尿症1型またはADA SCIDであってよい。
【0176】
本開示を用いて、人工多能性幹細胞(iPS)を作製することもできる。例えば、本開示のウイルスベクターを用いて、成人線維芽細胞、皮膚細胞、肝細胞、腎細胞、脂肪細胞、心臓細胞、神経細胞、上皮細胞、内皮細胞などのような非多能性細胞内に幹細胞関連核酸(複数可)を送達できる。
【0177】
幹細胞と関連する因子をコードする核酸は、当該技術分野において知られている。幹細胞及び多能性と関連するこのような因子の非限定的な例としては、Oct-3/4、SOXファミリー(例えば、SOX1、SOX2、SOX3及び/またはSOX15)、Klfファミリー(例えば、Klf1、KHZ Klf4及び/またはKlf5)、Mycファミリー(例えば、C-myc、L-myc及び/またはN-myc)、NANOG及び/またはLIN28が挙げられる。
【0178】
本開示を実施して、糖尿病(例えば、インスリン)、血友病(例えば、第IX因子または第VIII因子)、ムコ多糖症(例えば、スライ症候群[β-グルクロニダーゼ]、ハーラー症候群[α-L-イズロニダーゼ]、シャイエ症候群[α-L-イズロニダーゼ]、ハーラー-シャイエ症候群[α-L-イズロニダーゼ]、ハンター症候群[イズロン酸スルファターゼ]、サンフィリポ症候群A[ヘパランスルファミダーゼ]、サンフィリポ症候群B[N-アセチルグルコサミニダーゼ]、サンフィリポ症候群C[アセチル-CoA:α-グルコサミニドアセチルトランスフェラーゼ]、サンフィリポ症候群D[N-アセチルグルコサミン6-スルファターゼ]、モルキオ症候群A[ガラクトース-硫酸スルファターゼ]、モルキオ症候群B[β-ガラクトシダーゼ]、マロトー-ラミー症候群[N-アセチルガラクトサミン-4-スルファターゼ]など)、ファブリー病(α-ガラクトシダーゼ)、ゴーシェ病(グルコセレブロシダーゼ)、またはグリコーゲン貯蔵病(例えば、ポンペ病、リソソーム酸性α-グルコシダーゼ)のようなリソソーム貯蔵障害といった代謝障害を治療及び/または予防することもできる。
【0179】
遺伝子移入には、病態に対する療法を理解及び提供するためのかなりの用途がある。異常遺伝子がわかっており、その遺伝子がクローニングされている遺伝性疾患は数多く存在する。概して、上記の病態は、概ね劣性遺伝する欠乏状態(通常は酵素の欠乏状態)、及び調節タンパク質または構造タンパク質に関与し得るとともに、典型的には優性遺伝する不均衡状態という2つの種類に分類される。欠乏状態の疾患では、遺伝子移入を用いて、補充療法のために、正常遺伝子を罹患組織に導入すること、及びアンチセンス変異を用いて、疾患の動物モデルを作製することができる。不均衡状態では、遺伝子移入を用いて、モデル系において病態を作り出すことができ、そして、そのモデル系は、その病態を解消する取り組みにおいて利用できる。すなわち、本開示によるウイルスベクターによって、遺伝子疾患の治療及び/または予防が可能になる。
【0180】
本開示によるウイルスベクターを用いて、機能性RNAを細胞にin vitroまたはin vivoで供給してもよい。その機能性RNAは、例えば、非コードRNAであってよい。いくつかの実施形態では、細胞で機能性RNAを発現させると、その細胞による特定の標的タンパク質の発現を減少させることができる。したがって、機能性RNAを投与して、特定のタンパク質の発現を減少させる必要のある対象において、そのタンパク質の発現を減少させることができる。いくつかの実施形態では、細胞で機能性RNAを発現させると、その細胞による特定の標的タンパク質の発現を増加させることができる。したがって、機能性RNAを投与して、特定のタンパク質の発現を増加させる必要のある対象において、そのタンパク質の発現を増加させることができる。いくつかの実施形態では、機能性RNAの発現によって、細胞内の特定の標的RNAのスプライシングを調節できる。したがって、機能性RNAを投与して、特定のRNAのスプライシングを調節する必要のある対象において、そのRNAのスプライシングを調節できる。いくつかの実施形態では、細胞で機能性RNAを発現させると、その細胞による特定の標的タンパク質の機能を調節できる。したがって、機能性RNAを投与して、特定のタンパク質の機能を調節する必要のある対象において、そのタンパク質の機能を調節できる。機能性RNAは、遺伝子発現及び/または細胞生理作用を調節して、例えば、細胞もしくは組織の培養系を最適化するために、細胞にin vitroで、あるいはスクリーニング方法において投与することもできる。
【0181】
加えて、本開示によるウイルスベクターには、診断方法及びスクリーニング方法における用途があり、そのベクターによって、対象とする核酸を細胞培養系あるいはトランスジェニック動物モデルにおいて一過性または安定的に発現させる。
【0182】
本開示のウイルスベクターは、様々な非治療的目的でも用いることができ、当業者には明らかなように、遺伝子ターゲティング、クリアランス、転写、翻訳などを評価するためのプロトコールでの用途が挙げられるが、これらに限らない。本開示のウイルスベクターは、安全性(分散、毒性、免疫原性など)を評価する目的でも用いることができる。このようなデータは例えば、米国食品医薬品局が薬事認可プロセスの一部として、臨床効果の評価前に検討する。
【0183】
さらなる態様として、本開示のウイルスベクターを用いて、対象において免疫応答を引き起こしてもよい。この実施形態によれば、免疫原性ポリペプチドをコードする異種核酸配列を含むウイルスベクターを対象に投与でき、その免疫原性ポリペプチドに対して、能動免疫応答が対象によって発揮される。免疫原性ポリペプチドは、上記したようなものである。いくつかの実施形態では、防御免疫応答が誘導される。
【0184】
あるいは、本開示のウイルスベクターを細胞にex vivoで投与してよく、その改変細胞を対象に投与する。異種核酸を含むウイルスベクターをその細胞に導入し、その細胞を対象に投与し、免疫原をコードする異種核酸を発現させ、その対象において、その免疫原に対する免疫応答を誘導することができる。特定の実施形態では、その細胞は、抗原提示細胞(例えば樹状細胞)である。
【0185】
「能動免疫応答」または「能動免疫」は、「免疫原と遭遇後、宿主の組織及び細胞が関与すること」によって特徴付けられる。「能動免疫には、リンパ網内系組織における免疫担当細胞の分化及び増殖を伴い、これにより、抗体の合成もしくは細胞媒介性反応の発現、またはこれらの両方に至る。」Herbert B.Herscowitz,Immunophysiology:Cell Function and Cellular Interactions in Antibody Formation,in IMMUNOLOGY:BASIC PROCESSES 117(Joseph A.Bellanti ed.,1985)。別段に述べると、能動免疫応答は、感染またはワクチン接種によって免疫原に暴露された後、宿主によって発揮される。能動免疫は、受動免疫と対比でき、受動免疫は、能動免疫した宿主から、事前に形成した物質(抗体、移入因子、胸腺移植片、インターロイキン-2)を非免疫宿主に移入することを通じて獲得される。
【0186】
「防御」免疫応答または「防御」免疫は、本明細書で使用する場合、その免疫応答によって、疾患の発症を予防または低減するという点で、対象にいくつかの利点をもたらすことを示す。あるいは、防御免疫応答または防御免疫は、疾患の治療及び/または予防、特に、(例えば、がんもしくは腫瘍の形成を予防することによって、がんもしくは腫瘍を退縮させることによって、及び/または転移を予防することによって、及び/または転移性結節の成長を予防することによって)がんまたは腫瘍の治療及び/または予防において有用なことがある。その防御作用は、完全または部分的な作用であってもよい。ただし、治療の利点が、そのいずれかの問題点を上回ることを条件とする。
【0187】
特定の実施形態では、その異種核酸を含むウイルスベクターまたは細胞は、下記のように、免疫原性的に有効な量で投与することができる。
【0188】
本開示のウイルスベクターは、1つ以上のがん細胞抗原(もしくは免疫学的に類似の分子)、またはがん細胞に対する免疫応答を引き起こすいずれかの他の免疫原を発現させるウイルスベクターの投与によるがん免疫療法のために投与することもできる。例示として、がん細胞抗原をコードする異種核酸を含むウイルスベクターを投与することによって、対象において、そのがん細胞抗原に対して免疫応答を引き起こして、例えば、がん患者を治療し及び/または対象において、がんの発生を予防することができる。そのウイルスベクターは、本明細書に記載されているように、対象にin vivoで、またはex vivoの方法を用いることによって、投与してよい。
【0189】
あるいは、そのがん抗原は、ウイルスカプシドの一部として発現させるか、または別段の形で、(例えば、上記のように)ウイルスカプシドと結合することができる。
【0190】
別の代替策として、当該技術分野において知られているいずれかの他の治療用の核酸(例えばRNAi)またはポリペプチド(例えばサイトカイン)を投与して、がんを治療及び/または予防できる。
【0191】
本明細書で使用する場合、「がん」という用語には、腫瘍形成がんが含まれる。同様に、「がん性組織」という用語には、腫瘍が含まれる。「がん細胞抗原」には、腫瘍抗原が含まれる。
【0192】
「がん」という用語は、当該技術分野において理解されている意味であり、例えば、体の遠位部位に広がる(すなわち、転移する)可能性のある組織の無制御な増殖という意味である。例示的ながんとしては、メラノーマ、腺癌、胸腺腫、リンパ腫(例えば、非ホジキンリンパ腫、ホジキンリンパ腫)、肉腫、肺癌、肝臓癌、大腸癌、白血病、子宮癌、乳癌、前立腺癌、卵巣癌、子宮頸癌、膀胱癌、腎臓癌、膵臓癌、脳腫瘍、及び現在知られているかまたは今後特定されるいずれかの他のがんまたは悪性の病態が挙げられるが、これらに限らない。代表的な実施形態では、本開示は、腫瘍形成がんの治療及び/または予防方法を提供する。
【0193】
「腫瘍」という用語も、当該技術分野において、例えば、多細胞生物内の未分化細胞の異常な塊として理解されている。腫瘍は、悪性であることも良性であることもできる。代表的な実施形態では、本発明で開示されている方法を用いて、悪性腫瘍を予防及び治療する。
【0194】
「がんを治療すること」、「がんの治療」という用語、及び同等の用語は、そのがんの重症度を低下させるかもしくは少なくとも部分的に解消させるか、及び/またはその疾患の進行を遅らせ及び/または制御し、及び/またはその疾患を安定させることが意図されている。特定の実施形態では、これらの用語は、そのがんの転移を予防するか、低減するかもしくは少なくとも部分的に解消すること、及び/または転移性結節の成長を予防するか、低減するかもしくは少なくとも部分的に解消することを示す。
【0195】
「がんの予防」または「がんを予防すること」、及び同等の用語は、その方法が、がんの発症及び/または発症時の重症度を少なくとも部分的に解消、低減及び/または遅延することが意図されている。別段に述べると、対象におけるがんの発症の可能性もしくは確率を低下させ、及び/または発症を遅らせることができる。
【0196】
特定の実施形態では、がんの対象から細胞を取り出し、その細胞と、本開示によるがん細胞抗原を発現させるウイルスベクターとを接触させてよい。そして、その改変細胞を対象に投与し、それによって、がん細胞抗原に対する免疫応答を誘発する。この方法は有益なことに、充分な免疫応答を体内で発揮できない(すなわち、促進抗体を充分な量産生できない)免疫不全の対象に用いることができる。
【0197】
免疫応答は、免疫調節性サイトカイン(例えば、α-インターフェロン、β-インターフェロン、γ-インターフェロン、ω-インターフェロン、τ-インターフェロン、インターロイキン-1-α、インターロイキン-1β、インターロイキン-2、インターロイキン-3、インターロイキン-4、インターロイキン5、インターロイキン-6、インターロイキン-7、インターロイキン-8、インターロイキン-9、インターロイキン-10、インターロイキン-11、インターロイキン-12、インターロイキン-13、インターロイキン-14、インターロイキン-18、B細胞成長因子、CD40リガンド、腫瘍壊死因子-α、腫瘍壊死因子-β、単球走化性タンパク質-1、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子及びリンホトキシン)によって増強し得ることは当該技術分野において知られている。したがって、本開示のウイルスベクターと併せて、免疫調節性サイトカイン(好ましくはCTL誘導性サイトカイン)を対象に投与してよい。サイトカインは、当該技術分野において知られているいずれかの方法によって投与してよい。外因性サイトカインを対象に投与してもよく、あるいは、好適なベクターを用いて、サイトカインをコードする核酸を対象に送達して、そのサイトカインをin vivoで産生させてもよい。
【0198】
対象、医薬製剤及び投与経路
本開示によるウイルスベクター及びカプシドは、獣医学的用途及び医学的用途の両方で使用される。好適な対象には、トリ及び哺乳動物の両方が含まれる。本明細書で使用する場合、「トリ」という用語には、ニワトリ、カモ、ガチョウ、ウズラ、シチメンチョウ、キジ、オウム、インコなどが含まれるが、これらに限らない。本明細書で使用する場合、「哺乳動物」という用語には、ヒト、ヒト以外の霊長類動物、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ネコ、イヌ、ウサギなどが含まれるが、これらに限らない。ヒト対象には、新生児、乳児、若年者、成人及び高齢者の対象が含まれる。いくつかの実施形態では、ヒト対象は、生後6カ月未満、2歳未満、5歳未満、10歳未満、10~18歳、19~29歳、30~35歳、36~40歳または40歳超であることができる。
【0199】
代表的な実施形態では、対象は、本明細書に記載されている方法「が必要な」者である。
【0200】
特定の実施形態では、薬学的に許容される担体中の本開示のウイルスベクター及び/またはカプシド及び/またはカプシドタンパク質及び/またはウイルス粒子、ならびに任意に、他の薬剤、医薬剤、安定剤、緩衝剤、担体、アジュバント、希釈剤などを含む医薬組成物を提供する。注射用では、その担体は典型的には、液体となる。他の投与方法では、その担体は、固体または液体のいずれかであってよい。吸入投与では、その担体は、吸入可能なものとなり、任意に、固体または液体の微粒子形態であることができる。
【0201】
「薬学的に許容される」とは、毒性でないかまたは別段の形で望ましくないものではない材料を意味し、すなわち、その材料は、いずれかの望ましくない生体作用を引き起こすことなく、対象に投与し得る。
【0202】
本開示の一態様は、核酸を細胞にin vitroで移入する方法である。本開示のウイルスベクターを細胞内に、適切な多重感染度で、特定の標的細胞に適する標準的な形質導入方法に従って導入してよい。投与するウイルスベクターの力価は、標的細胞の種類及び数、ならびにその特定のウイルスベクターに応じて変動し得るとともに、当業者が過度の実験なしに求めることができる。代表的な実施形態では、少なくとも約103感染単位、任意に少なくとも約105感染単位をその細胞に導入する。
【0203】
本開示のウイルスベクターを導入する細胞(複数可)は、いずれの種類のものであることもでき、神経細胞(末梢神経系及び中枢神経系の細胞、特に、ニューロン及びオリゴデンドロサイトのような脳細胞を含む)、肺細胞、眼細胞(網膜細胞、網膜色素上皮細胞及び角膜細胞を含む)、上皮細胞(例えば、腸上皮細胞及び呼吸上皮細胞)、筋肉細胞(例えば、骨格筋細胞、心筋細胞、平滑筋細胞及び/または横隔膜筋細胞)、樹状細胞、膵臓細胞(膵島細胞を含む)、肝細胞、心筋細胞、骨細胞(例えば骨髄幹細胞)、造血幹細胞、脾臓細胞、ケラチノサイト、線維芽細胞、内皮細胞、前立腺細胞、生殖細胞などが挙げられるが、これらに限らない。代表的な実施形態では、その細胞は、いずれかの前駆細胞であることができる。さらなる可能性として、その細胞は、幹細胞(例えば、神経幹細胞、肝臓幹細胞)であることができる。さらなる代替策として、その細胞は、がん細胞または腫瘍細胞であることができる。さらに、その細胞は、上に示したように、供給源がいずれの種であることもできる。
【0204】
本開示のウイルスベクターは、改変細胞を対象に投与する目的で、細胞内にin vitroで導入できる。特定の実施形態では、対象から細胞を取り出し、ウイルスベクターをその細胞に導入してから、その細胞を対象に投与して戻す。ex vivoで操作するために、対象から細胞を取り出した後、対象に導入して戻す方法は、当該技術分野において知られている(例えば、米国特許第5,399,346号を参照されたい)。あるいは、組み換えウイルスベクターを、ドナー対象に由来する細胞、培養細胞または、いずれかの他の好適な供給源に由来する細胞に導入でき、その細胞を、必要な対象(すなわち「レシピエント」対象)に投与する。
【0205】
ex vivoでの核酸送達に適する細胞は、上記のようなものである。対象に投与する細胞の投与量は、対象の年齢、状態及び種、細胞の種類、その細胞によって発現させる核酸、投与経路などによって変動することになる。典型的には、1回当たり、少なくとも約102~約108個の細胞または少なくとも約103~約106個の細胞を薬学的に許容される担体中で投与することになる。特定の実施形態では、ウイルスベクターを形質導入した細胞を対象に、治療有効量で、製剤用担体と組み合わせて投与する。
【0206】
いくつかの実施形態では、本開示のウイルスベクターを細胞に導入し、その細胞を対象に投与して、送達されたポリペプチド(例えば、導入遺伝子として発現させたかまたはカプシド内のポリペプチド)に対する免疫原性反応を誘導することができる。典型的には、免疫原性的に有効な量のポリペプチドを発現する量の細胞を、薬学的に許容される担体と組み合わせて投与する。「免疫原性的に有効な量」は、医薬製剤が投与される対象において、そのポリペプチドに対する能動免疫応答を誘発するのに充分である発現ポリペプチドの量である。特定の実施形態では、投与量は、防御免疫応答(上で定義したような応答)を引き起こすのに充分な量である。その免疫原性ポリペプチドを投与する利点が、そのいずれかの問題点を上回る限りは、付与される防御の程度は、完全または恒久的なものである必要はない。
【0207】
したがって、本開示は、核酸を細胞に投与する方法であって、その細胞と、本開示のウイルスベクター、ウイルス粒子及び/または組成物とを接触させること含む方法を提供する。
【0208】
本開示のさらなる態様は、本開示のウイルスベクター、ウイルス粒子及び/またはウイルスカプシドを対象に投与する方法である。したがって、本開示は、核酸を対象に送達する方法であって、その対象に、本開示のウイルス粒子、ウイルスベクター及び/または組成物を投与することを含む方法も提供する。本開示によるウイルスベクター、ウイルス粒子及び/またはカプシドを投与する必要のあるヒト対象または動物へのそれらの投与は、当該技術分野において知られているいずれかの手段による投与であることができる。任意に、本開示のウイルスベクター、ウイルス粒子及び/またはカプシドは、治療上有効な用量で、薬学的に許容される担体中で送達する。好ましい実施形態では、治療有効量のウイルスベクター、ウイルス粒子及び/またはカプシドを送達する。
【0209】
さらに、本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドを投与して、(例えばワクチンとして)免疫原性反応を誘導できる。典型的には、本開示の免疫原性組成物は、免疫原性的に有効な量のウイルスベクター及び/またはカプシドを、薬学的に許容される担体と組み合わせて含む。任意に、その投与量は、防御免疫応答(上で定義したような応答)を引き起こすのに充分な量である。その免疫原性ポリペプチドを投与する利点が、そのいずれかの問題点を上回る限りは、付与される防御の程度は、完全または恒久的なものである必要はない。対象及び免疫原は、上記のようなものである。
【0210】
対象に投与するウイルスベクター及び/またはカプシドの投与量は、投与経路、治療及び/または予防する疾患または状態、個々の対象の状態、その特定のウイルスベクターまたはカプシド、ならびに送達する核酸などによって左右され、常法で決定できる。治療作用をもたらすための例示的な用量は、少なくとも約105形質導入単位、約106形質導入単位、約107形質導入単位、約108形質導入単位、約109形質導入単位、約1010形質導入単位、約1011形質導入単位、約1012形質導入単位、約1013形質導入単位、約1014形質導入単位、約1015形質導入単位、任意に約108~1013形質導入単位の力価である。
【0211】
特定の実施形態では、様々な時間的間隔、例えば、1日、1週間、1カ月、1年などにわたって、2回以上の投与(例えば、2回、3回、4回またはこれを上回る回数の投与)を用いて、所望のレベルの遺伝子発現をもたらしてよい。
【0212】
例示的な投与経路としては、経口経路、直腸経路、経粘膜経路、鼻腔内経路、吸入(例えば、エアゾールによる)経路、口腔内(例えば舌下)経路、膣経路、髄腔内経路、眼内経路、経皮経路、子宮内(または卵内)経路、非経口経路(例えば、静脈内経路、皮下経路、皮内経路、筋肉内経路[骨格筋、横隔膜筋及び/または心筋への投与を含む]、皮内経路、胸膜内経路、脳内経路及び関節内経路)、局所経路(例えば、気道表面を含む皮膚表面及び粘膜表面の両方への経路、ならびに経皮投与)、リンパ内経路など、そして、直接組織または器官に注射する経路(例えば、肝臓、骨格筋、心筋、横隔膜筋または脳への注射経路)が挙げられる。投与は、腫瘍に対するもの(例えば、腫瘍またはリンパ節の中または近辺への投与)であることもできる。いずれの所定の場合においても、最も好適な経路は、治療及び/または予防する状態の性質及び重症度、ならびに用いられている特定のベクターの性質に左右されることになる。
【0213】
本開示による骨格筋への投与としては、四肢(例えば、上腕、前腕、上脚部及び/または下脚部)、背部、頸部、頭部(例えば舌)、胸部、腹部、骨盤/会陰及び/または指の骨格筋への投与が挙げられるが、これらに限らない。好適な骨格筋としては、小指外転筋(手)、小指外転筋(足)、母指外転筋、第五中足骨外転筋、短母指外転筋、長母指外転筋、短内転筋、母趾内転筋、長内転筋、大内転筋、母指内転筋、肘筋、前斜角筋、膝関節筋、上腕二頭筋、大腿二頭筋、上腕筋、腕橈骨筋、頬筋、烏口腕筋、皺眉筋、三角筋、口角下制筋、下唇下制筋、顎二腹筋、背側骨間筋(手)、背側骨間筋(足)、短橈側手根伸筋、長橈側手根伸筋、尺側手根伸筋、小指伸筋、指伸筋、短趾伸筋、長趾伸筋、短母趾伸筋、長母趾伸筋、示指伸筋、短母指伸筋、長母指伸筋、橈側手根屈筋、尺側手根屈筋、短小指屈筋(手)、短小趾屈筋(足)、短趾屈筋、長趾屈筋、深指屈筋、浅指屈筋、短母趾屈筋、長母趾屈筋、短母指屈筋、長母指屈筋、前頭筋、腓腹筋、おとがい舌骨筋、大殿筋、中殿筋、小殿筋、薄筋、頸腸肋筋、腰腸肋筋、胸腸肋筋、腸骨筋、下双子筋、下斜筋、下直筋、棘下筋、棘間筋、横突間筋、外側翼突筋、外側直筋、広背筋、口角挙筋、上唇挙筋、上唇鼻翼挙筋、上眼瞼挙筋、肩甲挙筋、長回旋筋、頭最長筋、頸最長筋、胸最長筋、頭長筋、頸長筋、虫様筋(手)、虫様筋(足)、咬筋、内側翼突筋、内側直筋、中斜角筋、多裂筋、顎舌骨筋、下頭斜筋、上頭斜筋、外閉鎖筋、内閉鎖筋、後頭筋、肩甲舌骨筋、小指対立筋、母指対立筋、眼輪筋、口輪筋、掌側骨間筋、短掌筋、長掌筋、恥骨筋、大胸筋、小胸筋、短腓骨筋、長腓骨筋、第三腓骨筋、梨状筋、底側骨間筋、足底筋、広頸筋、膝窩筋、後斜角筋、方形回内筋、円回内筋、大腰筋、大腿方形筋、足底方形筋、前頭直筋、外側頭直筋、大後頭直筋、小後頭直筋、大腿直筋、大菱形筋、小菱形筋、笑筋、縫工筋、最小斜角筋、半膜様筋、頭半棘筋、頸半棘筋、胸半棘筋、半腱様筋、前鋸筋、短回旋筋、ヒラメ筋、頭棘筋、頸棘筋、胸棘筋、頭板状筋、頸板状筋、胸鎖乳突筋、胸骨舌骨筋、胸骨甲状筋、茎突舌骨筋、鎖骨下筋、肩甲下筋、上双子筋、上斜筋、上直筋、回外筋、棘上筋、側頭筋、大腿筋膜張筋、大円筋、小円筋、胸郭筋、甲状舌骨筋、前脛骨筋、後脛骨筋、僧帽筋、上腕三頭筋、中間広筋、外側広筋、内側広筋、大頬骨筋及び小頬骨筋、ならびに当該技術分野において知られているようないずれかの他の好適な骨格筋が挙げられるが、これらに限らない。
【0214】
本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドは、骨格筋に静脈内投与、動脈内投与、腹腔内投与、四肢灌流(任意に、脚及び/または腕への温熱四肢灌流。例えば、Arruda et al.,(2005)Blood 105: 3458-3464を参照されたい)、及び/または直接筋肉内注射によって送達できる。特定の実施形態では、本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドを対象(例えば、DMDのような筋ジストロフィーである対象)の肢(腕及び/または脚)に、四肢灌流、任意に温熱四肢灌流によって(例えば、静脈内または関節内投与によって)投与する。本開示の実施形態では、本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドは有益なことに、「ハイドロダイナミック」法を用いずに投与できる。先行技術のベクターの組織送達(例えば筋肉への送達)は、ハイドロダイナミック法(例えば、大量の静脈内/静脈内投与)によって増大させることが多く、この技法は、血管系内の圧力を上昇させ、ベクターが内皮細胞バリアを通過する能力を促進するものである。特定の実施形態では、ハイドロダイナミック法を用いずに、例えば、大量注入及び/または血管内圧の上昇なしに(例えば、正常収縮期圧よりも高い圧力なしに、例えば、正常収縮期圧に対する血管内圧の上昇率が5%以下、10%以下、15%以下、20%以下、25%以下)、本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドを投与できる。このような方法は、浮腫、神経損傷及び/またはコンパートメント症候群など、ハイドロダイナミック法と関連する副作用を軽減または回避し得る。心筋への投与としては、左心房、右心房、左心室、右心室及び/または中隔への投与が挙げられる。本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドは、静脈内投与、大動脈内投与のような動脈内投与、直接心臓注射(例えば、左心房、右心房、左心室、右心室への直接注射)及び/または冠状動脈灌流によって、心筋に送達できる。
【0215】
横隔膜筋への投与は、静脈内投与、動脈内投与及び/または腹膜内投与を含むいずれかの好適な方法によるものであることができる。
【0216】
標的組織への送達は、本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドを含むデポ剤を送達することによって行うこともできる。代表的な実施形態では、本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドを含むデポ剤を骨格筋、心筋及び/または横隔膜筋の組織に埋め込むか、あるいはその組織と、本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドを含むフィルムまたはその他のマトリックスを接触させることができる。このような埋め込み型のマトリックスまたは物質は、米国特許第7,201,898号に記載されている。
【0217】
特定の実施形態では、本開示によるウイルスベクター及び/またはウイルスカプシドは、(例えば、筋ジストロフィー、心疾患[例えば、PADまたはうっ血性心不全]を治療及び/または予防する目的で)骨格筋、横隔膜筋及び/または心筋に投与する。
【0218】
代表的な実施形態では、本開示を用いて、骨格筋、心筋及び/または横隔膜筋の障害を治療及び/または予防する。
【0219】
代表的な実施形態では、筋ジストロフィーの治療及び/または予防が必要な対象の筋ジストロフィーの治療及び/または予防方法であって、本開示のウイルスベクターを治療または予防に有効な量、哺乳動物の対象に投与することを含み、そのウイルスベクターが、ジストロフィン、ミニジストロフィン、マイクロジストロフィン、ミオスタチンプロペプチド、ホリスタチン、アクチビンII型可溶性受容体、IGF-1、抗炎症性ポリペプチド(Ikappa Bドミナント変異体など)、サルコスパン、ユートロフィン、マイクロジストロフィン、ラミニン-a2、α-サルコグリカン、β-サルコグリカン、γ-サルコグリカン、δ-サルコグリカン、IGF-1、ミオスタチンもしくはミオスタチンプロペプチドに対する抗体もしくは抗体断片、及び/またはミオスタチンに対するRNAiをコードする異種核酸を含む方法を提供する。特定の実施形態では、そのウイルスベクターは、本明細書の別の箇所に記載されているように、骨格筋、横隔膜及び/または心筋に投与できる。
【0220】
あるいは、本開示を実施して、核酸を骨格筋、心筋または横隔膜筋に送達でき、その筋肉は、通常は血中を循環するポリペプチド(例えば酵素)もしくは機能性RNA(例えば、RNAi、マイクロRNA、アンチセンスRNA)を産生させるか、または他の組織に全身送達するためのプラットフォームとして用いて、障害(例えば、糖尿病[例えば、インスリン]、血友病[例えば、第IX因子もしくは第VIII因子]、ムコ多糖障害[例えば、スライ症候群、ハーラー症候群、シャイエ症候群、ハーラー-シャイエ症候群、ハンター症候群、サンフィリポ症候群A、B、C、D、モルキオ症候群、マロトー-ラミー症候群など]、ゴーシェ病[グルコセレブロシダーゼ]もしくはファブリー病[α-ガラクトシダーゼA]などのリソソーム貯蔵障害、またはポンペ病[リソソーム酸性αグルコシダーゼ]などのグリコーゲン貯蔵病のような代謝障害)を治療及び/または予防する。代謝障害を治療及び/または予防するための他の好適なタンパク質は、本明細書に記載されている。対象とする核酸を発現させるためのプラットフォームとして、筋肉を使用することは、米国特許出願公開第2002/0192189号に記載されている。
【0221】
したがって、一態様として、本開示は、代謝障害の治療及び/または予防が必要な対象の代謝障害の治療及び/または予防方法であって、本開示のウイルスベクターを治療または予防に有効な量、対象の骨格筋に投与することを含み、そのウイルスベクターが、ポリペプチドをコードする異種核酸を含み、その代謝障害が、そのポリペプチドの欠乏及び/または欠損によるものである方法をさらに含む。例示的な代謝障害、及びポリペプチドをコードする異種核酸は、本明細書に記載されている。任意に、そのポリペプチドは、分泌される(例えば、その天然型の状態において分泌ポリペプチドであるか、または例えば、当該技術分野において知られているような分泌シグナル配列と機能可能に結合することによって、分泌されるように操作されたポリペプチドである)。本開示のいずれの特定の理論にも限定されずに、この実施形態によれば、骨格筋への投与により、ポリペプチドを体循環に分泌させ、標的組織(複数可)に送達させることができる。ウイルスベクターを骨格筋に送達する方法は、本明細書にさらに詳細に記載されている。
【0222】
本開示を実施して、アンチセンスRNA、RNAiまたはその他の機能性RNA(例えばリボザイム)のような非コードRNAを全身送達のために産生させることもできる。
【0223】
本開示は、先天性心不全またはPADの治療及び/または予防の必要な対象の先天性心不全またはPADの治療及び/または予防方法であって、本開示のウイルスベクターを治療または予防に有効な量、哺乳動物の対象に投与することを含み、そのウイルスベクターが、例えば、筋小胞体Ca2+-ATPase(SERCA2a)、血管新生因子、ホスファターゼ阻害剤1(I-1)及びその断片(例えばI1C)、ホスホランバンに対するRNAi、ホスホランバン阻害分子またはホスホランバンS16Eのようなドミナントネガティブ分子、ホスホランバン遺伝子を調節するジンクフィンガータンパク質、β-2-アドレナリン受容体、β-2-アドレナリン受容体キナーゼ(BARK)、PI3キナーゼ、カルサルシン、β-アドレナリン受容体キナーゼ阻害剤(PARKct)、タンパク質ホスファターゼ1の阻害剤1及びその断片(例えば、I1C)、S100A1、パルブアルブミン、アデニリルシクラーゼ6型、Gタンパク質共役型受容体キナーゼ2型のノックダウンを行う分子(トランケート型構成的活性型bARKctなど)、Pim-1、PGC-Iα、SOD-1、SOD-2、EC-SOD、カリクレイン、HIF、サイモシン-p4、mir-1、mir-133、mir-206、mir-208及び/またはmir-26aをコードする異種核酸を含む方法も提供する。
【0224】
液体の溶液もしくは懸濁液、注射前に液体に溶解または懸濁させるのに適する固体形態、または乳剤のいずれかとして、注射剤を従来の形態で調製できる。あるいは、本開示のウイルスベクター及び/またはウイルスカプシドを全身形式ではなく局所で、例えば、デポ製剤または徐放性製剤で投与し得る。さらに、本開示のウイルスベクター及び/またはウイルスカプシドは、(例えば、米国特許出願公開第2004-0013645-A1号に記載されているように)外科的に埋め込むマトリックスに結合した状態で送達できる。
【0225】
本明細書に開示されているウイルスベクター及び/またはウイルスカプシドは、対象の肺に、いずれかの好適な手段によって、任意に、そのウイルスベクター及び/またはウイルスカプシドから構成される吸入可能な粒子のエアゾール懸濁剤を投与することによって投与でき、その懸濁剤を対象が吸入する。その吸入可能な粒子は、液体であることも固体であることもできる。本開示のウイルスベクター及び/またはウイルスカプシドを含む液体粒子のエアゾールは、当業者に知られているように、圧力によるエアゾールネブライザーまたは超音波ネブライザーなどのいずれかの好適な手段によって作製し得る。例えば、米国特許第4,501,729号を参照されたい。本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドを含む固体粒子のエアゾールも同様に、いずれかの固体粒子医薬エアゾール発生装置を用いて、医薬分野において知られている技法によって作製し得る。
【0226】
本開示のウイルスベクター及びウイルスカプシドは、CNSの組織(例えば、脳、眼)に投与でき、有益なことに、そのウイルスベクターまたはカプシドを、本開示の非存在下で観察される分布よりも広く分布させ得る。
【0227】
特定の実施形態では、本明細書に記載されている送達ベクターを投与して、遺伝子障害、神経変性障害、精神障害及び腫瘍を含むCNS疾患を治療してよい。例示的なCNS疾患としては、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、カナバン病、リー病、レフサム病、トゥレット症候群、原発性側索硬化症、筋萎縮性側索硬化症、進行性筋萎縮症、ピック病、筋ジストロフィー、多発性硬化症、重症筋無力症、ビンスワンガー病、脊髄またな頭部の損傷による外傷、テイサックス病、レッシュ-ナイハン病、てんかん、脳梗塞、気分障害を含む精神障害(例えば、抑うつ症状、双極性気分障害、持続性気分障害、二次性気分障害)、統合失調症、薬物依存症(例えば、アルコール依存症及びその他の物質依存)、神経症(例えば、不安、強迫性障害、身体表現性障害、解離性障害、悲嘆、分娩後抑うつ症状)、精神病(例えば、幻覚及び妄想)、認知症、パラノイア、注意欠陥障害、精神性的障害、睡眠障害、疼痛性障害、摂食または体重障害(例えば、肥満症、悪液質、神経性無食欲症及び過食症)、ならびにCNSのがん及び腫瘍(例えば、下垂体腫瘍)が挙げられるが、これらに限らない。
【0228】
CNSの障害としては、網膜、後索及び視神経の関与する眼科障害(例えば、網膜色素変性症、糖尿病性網膜障害及びその他の網膜変性疾患、ぶどう膜炎、加齢性黄斑変性、緑内障)が挙げられる。
【0229】
すべてではないが、大半の眼科疾患及び眼科障害は、(1)血管新生、(2)炎症及び(3)変性という3つの種類の適応のうちの1つ以上と関連する。本開示の送達ベクターを用いて、抗血管新生因子、抗炎症性因子、細胞変性を遅らせるか、細胞温存を促すか、または細胞の成長を促す因子、及び上記を組み合わせたものを送達できる。
【0230】
糖尿病性網膜障害は例えば、血管新生によって特徴付けられる。糖尿病性網膜障害は、1つ以上の抗血管新生因子を眼内(例えば硝子体内)または眼周囲(例えばテノン領域下)のいずれかに送達することによって治療できる。1つ以上の神経栄養因子を眼内(例えば硝子体内)または眼周囲のいずれかに同時送達してもよい。
【0231】
ぶどう膜炎は、炎症を伴う。本開示の送達ベクターを眼内(例えば、硝子体または前眼房)に投与することによって、1つ以上の抗炎症性因子を投与することができる。
【0232】
これに対して、網膜色素変性症は、網膜変性によって特徴付けられる。代表的な実施形態では、網膜色素変性症は、1つ以上の神経栄養因子をコードする送達ベクターの眼内(例えば、硝子体)投与によって治療できる。
【0233】
加齢性黄斑変性は、血管新生及び網膜変性の両方を伴う。この障害は、1つ以上の神経栄養因子をコードする本発明の送達ベクターを眼内(例えば、硝子体)に投与し、及び/または1つ以上の抗血管新生因子をコードする本発明の送達ベクターを眼内もしくは眼周囲(例えば、テノン領域下)に投与することによって治療できる。
【0234】
緑内障は、眼圧の上昇及び網膜神経節細胞の消失によって特徴付けられる。緑内障の治療には、本発明の送達ベクターを用いて、興奮毒性による損傷から細胞を保護する1つ以上の神経保護剤を投与することが含まれる。このような薬剤としては、眼内、任意に硝子体内に送達されるN-メチル-D-アスパルテート(NMDA)アンタゴニスト、サイトカイン及び神経栄養因子が挙げられる。
【0235】
別の実施形態では、本開示を用いて、発作を治療して、例えば、発作の発症、発生または重症度を低減してよい。発作に対する治療的処置の有効性は、行動的手段(例えば、振戦、眼もしくは口のチック)及び/または脳波的手段(大半の発作には、固有の脳波異常がある)によって評価できる。したがって、本開示を用いて、経時的な重積発作を特徴とするてんかんを治療することもできる。
【0236】
代表的な一実施形態では、本開示の送達ベクターを用いて、ソマトスタチン(またはその活性断片)を脳に投与して、下垂体腫瘍を治療する。この実施形態によれば、ソマトスタチン(またはその活性断片)をコードする送達ベクターは、下垂体への微量注入によって投与する。同様に、このような治療を用いて、先端巨大症(下垂体からの成長ホルモンの異常分泌)を治療できる。ソマトスタチンの核酸配列(例えば、GenBankアクセッション番号J00306)及びアミノ酸配列(例えば、GenBankアクセッション番号P01166、プロセッシングされた活性ペプチドであるソマトスタチン-28及びソマトスタチン-14を含む)は、当該技術分野において知られている。
【0237】
特定の実施形態では、本開示のベクターは、米国特許第7,071,172号に記載されているような分泌シグナルを含むことができる。
【0238】
本開示の代表的な実施形態では、本開示のウイルスベクター及び/またはウイルスカプシドをCNS(例えば、脳または眼)に投与する。本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドは、脊髄、脳幹(延髄、橋)、中脳(視床下部、視床、視床上部、下垂体、黒質、松果体)、小脳、終脳(線条体、後頭葉、側頭葉、頭頂葉及び前頭葉を含む大脳、皮質、大脳基底核、海馬、ならびに扁桃体)、辺縁系、新皮質、線条体、大脳、そして下丘に導入してよい。本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドは、網膜、角膜及び/または視神経など、眼の異なる領域にも投与してよい。
【0239】
本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドは、その送達ベクターをさらに分散させて投与するために、脳脊髄液に(例えば腰椎穿刺によって)送達してよい。本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドはさらに、血液脳関門が脆弱化している状況(例えば、脳腫瘍または脳梗塞)では、CNSに血管内投与してよい。
【0240】
本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドは、CNSの所望の領域(複数可)に、当該技術分野において知られているいずれかの経路によって投与でき、その経路としては、髄腔内送達、眼内送達、脳内送達、脳室内送達、静脈内送達(例えば、マンニトールのような糖の存在下)、鼻腔内送達、耳内送達、眼内送達(例えば、硝子体内送達、網膜下送達、前眼房送達)及び眼周囲(例えば、テノン領域下)送達、ならびに運動ニューロンへの逆行送達を伴う筋肉内送達が挙げられるが、これらに限らない。特定の実施形態では、本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドは、液体製剤で、CNSにおける所望の領域または区画への直接注射(例えば、定位注射)によって投与する。別の実施形態では、本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドは、局所塗布によって所望の領域に、またはエアゾール製剤の鼻腔内投与によって供給してもよい。眼への投与は、液滴の局所点眼によってもよい。さらなる代替策として、本開示のウイルスベクター及び/またはカプシドは、固体の徐放性製剤として投与してもよい(例えば、米国特許第7,201,898号を参照されたい)。
【0241】
さらなる追加の実施形態では、本開示のウイルスベクターは、運動ニューロンに関わる疾患及び障害(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(SMA)など)を治療及び/または予防するための逆行輸送用に用いることができる。例えば、本開示のウイルスベクターは、そのベクターをニューロンに移動させる起点となり得る筋肉組織に送達できる。
【0242】
番号の付された実施形態
下記の番号の付された実施形態は、本開示の範囲に含まれる。
【0243】
1.組み換えアデノ随伴ウイルス(AAV)カプシドタンパク質であって、そのカプシドタンパク質が、そのAAVカプシドタンパク質の抗原部位に置換を含み、その置換が、配列番号9、10、11、12、13、14、15、16、17、297、298、299または411~421のうちのいずれか1つの配列を有する組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0244】
2.その置換が、配列番号9、10、14または17のうちのいずれか1つの配列を含む、実施形態1に記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0245】
3.そのAAVカプシドタンパク質が、第1のアミノ酸置換及び第2のアミノ酸置換含み、その第1のアミノ酸置換及び第2のアミノ酸置換がそれぞれ、そのAAVカプシドタンパク質の異なる抗原部位を改変し、その第1のアミノ酸置換及び第2のアミノ酸置換がそれぞれ、配列番号9、10、11、12、13、14、15、16、17、297、298、299または411~421のうちのいずれか1つを含む、実施形態1または2に記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0246】
4.そのAAVカプシドタンパク質が、第1の酸置換、第2のアミノ酸置換及び第3のアミノ酸置換を含み、その第1のアミノ酸置換、第2のアミノ酸置換及び第3のアミノ酸置換がそれぞれ、そのAAVカプシドタンパク質の異なる抗原部位を改変し、その第1のアミノ酸置換、第2のアミノ酸置換及び第3のアミノ酸置換がそれぞれ、配列番号9、10、11、12、13、14、15、16、17、297、298、299または411~421のうちのいずれか1つを含む、実施形態1または2に記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0247】
5.その第1のアミノ酸置換が、配列番号9を含み、第2のアミノ酸置換が、配列番号10、11、12、13、14、15、16、297、298、299または411~421のうちのいずれか1つを含み、第3のアミノ酸置換が、配列番号17を含む、実施形態4に記載の組み換えAAVカプシド。
【0248】
その第1のアミノ酸置換が、配列番号9を含み、第2のアミノ酸置換が、配列番号10を含み、第3のアミノ酸置換が、配列番号17を含む、実施形態5に記載の組み換えAAVカプシド。
【0249】
7.その第1のアミノ酸置換が、配列番号9を含み、第2のアミノ酸置換が、配列番号14を含み、第3のアミノ酸置換が、配列番号17を含む、実施形態5に記載の組み換えAAVカプシド。
【0250】
8.そのカプシドのHIループを改変する置換をさらに含む、実施形態1~7のいずれか1つに記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0251】
9.P661R、T662S、Q666G、S667Dであって、そのナンバリングが、野生型AAV8カプシド(配列番号6)に対応する置換、または
P659R、T660S、A661T、K664Gであって、そのナンバリングが、野生型AAV9カプシド(配列番号7)に対応する置換
という、HIループにおける置換のうちの1つ以上を含む、実施形態8に記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0252】
10.AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV6、AAV7、AAV8、AAV9、AAV10、AAV11、AAV12、AAVrh.8、AAVrh.10、AAVrh32.33、AAVrh74、ウシAAV及びトリAAVから選択したAAVセロタイプのものである、実施形態1~9のいずれか1つに記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0253】
11.キメラAAVカプシドタンパク質である、実施形態1~9のいずれか1つに記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0254】
12.2つ以上のAAVセロタイプに由来する配列を含む、実施形態11に記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0255】
13.3つ以上のAAVセロタイプに由来する配列を含む、実施形態12に記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0256】
14.配列番号18~80、300~410、422~612または783~785のうちのいずれか1つとの配列同一性が少なくとも90%であるアミノ酸配列を含む、実施形態1~10のいずれか1つに記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0257】
15.配列番号18~80、300~410、422~612または783~785のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を含む、実施形態14に記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0258】
16.配列番号380または配列番号384のアミノ酸配列を含む、実施形態15に記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0259】
17.その1つ以上の抗原部位の改変により、その1つ以上の抗原部位への抗体の結合が阻害される、実施形態1~16のいずれか1つに記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0260】
18.その1つ以上の抗原部位の改変により、前記AAVカプシドタンパク質を含むウイルス粒子の感染性の中和が阻害される、実施形態1~17のいずれか1つに記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0261】
19.配列番号49のアミノ酸配列を含む組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0262】
20.配列番号49の454~460番目のアミノ酸に及ぶ領域を配列番号9と置き換えることによって改変されている、実施形態19に記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0263】
21.配列番号49の493~500番目のアミノ酸に及ぶ領域を配列番号10、11、12、13、14、15、16、297、298、299または411~421のうちのいずれか1つと置き換えることによって改変されている、実施形態19または20のいずれか1つに記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0264】
22.配列番号49の585~590番目のアミノ酸に及ぶ領域を配列番号17と置き換えることによって改変されている、実施形態19~21のいずれか1つに記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0265】
23.配列番号49の454~460番目のアミノ酸に及ぶ領域を配列番号9と置き換え、配列番号49の493~500番目のアミノ酸に及ぶ領域を配列番号10、11、12、13、14、15、16、297、298、299または411~421のうちのいずれか1つと置き換え、配列番号49の585~590番目のアミノ酸に及ぶ領域を配列番号17と置き換えることによって改変されている、実施形態19~22のいずれか1つに記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0266】
24.その改変により、そのAAVカプシドタンパク質への抗体の結合が阻害される、実施形態19~23のいずれか1つに記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0267】
25.その改変により、そのAAVカプシドタンパク質を含むウイルス粒子の感染性の中和が阻害される、実施形態19~24のいずれか1つに記載の組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0268】
26.配列番号18~80、300~410、422~612または783~785のうちのいずれか1つのアミノ酸配列を含む組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0269】
27.配列番号380または配列番号384のアミノ酸配列を含む組み換えAAVカプシドタンパク質。
【0270】
28.実施形態1~27のいずれか1つに記載の組み換えAAVカプシドタンパク質をコードするヌクレオチド配列。
【0271】
29.DNA配列である、実施形態28に記載のヌクレオチド配列。
【0272】
30.RNA配列である、実施形態28に記載のヌクレオチド配列。
【0273】
31.実施形態28~30のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列を含む発現ベクター。
【0274】
32.実施形態28~30のいずれか1つに記載のヌクレオチド配列または実施形態31に記載の発現ベクターを含む細胞。
【0275】
33.実施形態1~27のいずれか1つに記載の組み換えカプシドタンパク質を含むAAVウイルスベクター。
【0276】
34.そのカプシドタンパク質に封入されたカーゴ核酸をさらに含む、実施形態33に記載のAAVウイルスベクター。
【0277】
35.そのカーゴ核酸が、治療用のタンパク質またはRNAをコードする、実施形態34に記載のAAVウイルスベクター。
【0278】
36.そのカーゴ核酸が、遺伝子編集分子をコードする、実施形態34~35のいずれか1つに記載のAAVウイルスベクター。
【0279】
37.その遺伝子編集分子が、ヌクレアーゼである、実施形態36に記載のAAVウイルスベクター。
【0280】
38.その遺伝子編集分子が、Cas9ヌクレアーゼである、実施形態37に記載のAAVウイルスベクター。
【0281】
39.その遺伝子編集分子が、Cpf1ヌクレアーゼである、実施形態37に記載のAAVウイルスベクター。
【0282】
40.その遺伝子編集分子が、シングルガイドRNAである、実施形態36に記載のAAVウイルスベクター。
【0283】
41.実施形態33~40のいずれか1つに記載のAAVウイルスベクターを含む医薬組成物。
【0284】
42.薬学的に許容される担体をさらに含む、実施形態41に記載の医薬組成物。
【0285】
43.実施形態32に記載の細胞または実施形態31に記載の発現ベクターを含む医薬組成物。
【0286】
44.薬学的に許容される担体をさらに含む、実施形態43に記載の医薬組成物。
【0287】
45.治療の必要な患者の治療方法であって、その患者に、実施形態33~40のいずれか1つに記載のAAVウイルスベクターまたは実施形態41~44のいずれか1つに記載の医薬組成物を治療有効量投与することを含む方法。
【0288】
46.その患者が、肝臓疾患または肝臓障害である、実施形態45に記載の方法。
【0289】
47.その肝臓疾患または肝臓障害が、原発性胆汁性肝硬変、非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、自己免疫性肝炎、B型肝炎、C型肝炎、アルコール性肝疾患、線維症、黄疸、原発性硬化性胆管炎(PSC)、バッド-キアリ症候群、ヘモクロマトーシス、ウィルソン病、アルコール性線維症、非アルコール性線維症、肝脂肪変性、ジルベール症候群、胆道閉鎖症、α1-アンチトリプシン欠乏症、アラジール症候群、進行性家族性肝内胆汁うっ滞症、血友病B、遺伝性血管浮腫(HAE)、家族性高コレステロール血症(ホモ接合体)(HoFH)、家族性高コレステロール血症(ヘテロ接合体)(HeFH)、フォンギールケ病(GSD I)、血友病A、メチルマロン酸血症、プロピオン酸血症、ホモシスチン尿症、フェニルケトン尿症(PKU)、チロシン血症I型、アルギナーゼI欠損症、アルギニノコハク酸リアーゼ欠損症、カルバモイルリン酸合成酵素1欠損症、シトルリン血症1型、シトリン欠損症、クリグラー-ナジャール症候群1型、シスチン症、ファブリー病、グリコーゲン貯蔵病Ib、LPL欠損症、N-アセチルグルタミン酸合成酵素欠損症、オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症、オルニチントランスロカーゼ欠損症、原発性高シュウ酸尿症I型またはADA SCIDである、実施形態46に記載の方法。
【0290】
48.その肝臓疾患または肝臓障害が、肝臓癌または肝転移である、実施形態46に記載の方法。
【0291】
49.その患者が、哺乳動物である、実施形態45~48のいずれか1つに記載の方法。
【0292】
50.その患者が、ヒトである、実施形態49に記載の方法。
【0293】
51.核酸分子の細胞への導入方法であって、その細胞と、実施形態33~40のいずれか1つに記載のAAVウイルスベクターを接触させることを含む方法。
【0294】
52.医薬として使用するための、実施形態33~40のいずれか1つに記載のAAVウイルスベクター。
【0295】
53.治療方法で使用するための、実施形態33~40のいずれか1つに記載のAAVウイルスベクター。
【実施例
【0296】
下記の実施例は、例示目的で含まれているに過ぎず、限定するようには意図されていない。
【0297】
実施例1.抗体を回避するAAVベクターのコンビナトリアルな操作及び選択
抗体を回避するAAV変異体の作製方法は、以下のとおりである。第1の工程は、例えば低温電子顕微鏡法を用いて、そのAAVカプシド表面上の立体構造的な3D抗原エピトープを特定することを含む。続いて、縮重プライマーを用いて、抗原モチーフ内の、選択された残基に対して、変異誘発を行い、各コドンをヌクレオチドNNKによって置換し、遺伝子断片をギブソンアセンブリー及び/または多段階PCRによって連結する。変異した抗原モチーフの縮重ライブラリーを含むカプシドコード遺伝子を野生型AAVゲノムにクローニングして、DNA配列をコードする元のCapを置き換え、プラスミドライブラリーを作製する。そして、プラスミドライブラリーを293プロデューサー細胞株に、アデノウイルスヘルパープラスミドとともにトランスフェクションして、AAVライブラリー(すなわち、上記の変異AAVカプシドを含むAAVのライブラリー)を作製し、続いて、そのライブラリーで選択を行うことができる。AAVライブラリーの作製がうまくいったか、DNAシーケンシングで確認する。
【0298】
中和抗体(NAb)を回避できる新たなAAV株について選択を行うために、ヒト以外の霊長類動物において、AAVライブラリーに複数ラウンド感染させる。各段階に、対象とする組織を動物対象から単離する。対象とする組織から採取した細胞溶解物をシーケンシングして、抗体による中和を回避するAAV分離株を特定する。ヒト以外の霊長類動物において感染を複数ラウンド行った後、各変異誘発領域に由来する単離配列をすべての順列及び組み合わせで組み合わせる。それぞれの感染ラウンド、組織の単離及びシーケンシングは、本明細書では、進化ラウンドと称する。
【0299】
非限定的な具体例として、AAVカプシドタンパク質上の共通の抗原モチーフに対して、上記のように変異誘発を行った。続いて、ヒト以外の霊長類動物において、その変異カプシドを含む組み換えAAVの縮重ライブラリーへの第1のラウンドの感染を行った(図1A図2A)。感染から7日後に、肝臓を採取し、シーケンシングして、単一の組み換えAAV分離株を特定した(図1B図2B)。
【0300】
続いて、第1ラウンドの進化の際に単離したAAV(図2B)を第2のヒト以外の霊長類動物に再導入した。感染から7日後に、肝臓を採取し、シーケンシングして、単一の組み換えAAV分離株を特定した(図2C)。
【0301】
続いて、第2ラウンドの進化の際に単離したAAV(図2C)を第3のヒト以外の霊長類動物に再導入した。感染から7日後に、肝臓を採取し、シーケンシングして、単一の組み換えAAV分離株を特定した(図2D)。
【0302】
各進化ラウンド後に、肝臓試料において、様々な組み換えAAV分離株が特定された。様々な分離株の明細は、表8及び上記の表6.1に示されている。
【表8】
【0303】
実施例2.組み換えAAVベクターを培養細胞に形質導入する。
実施例1において肝臓から単離した様々なAAVベクターが概ね、感染性を有し、培養細胞に形質導入できるかを確認するために、GFP導入遺伝子をパッケージングした様々なAAVベクターを調製した(AAV8、AAV-SB1(配列番号380)、AAV-SB6(配列番号437))。これらのAAVベクターと、標準的な培養条件下で維持したU87細胞(初代グリオブラストーマ細胞株)を接触させた。それらの細胞は、多重感染度(MOI)40,000vg/細胞で感染させた。48時間後、蛍光顕微鏡を用いて、それらの細胞を画像化した。
【0304】
図8に示されているように、試験を行ったすべてのAAVベクターは、無事にU87培養細胞に形質導入でき、その結果、そのベクターにパッケージングされた導入遺伝子(GFP)が、それらの細胞内で発現された。このデータにより、これらの組み換えAAVベクターが、感染性を有し、それらのベクターを用いて、対象とする細胞に導入遺伝子を送達できることが確認される。
【0305】
実施例3.肝臓を標的とする組み換えAAVのin vitroでの特徴付け
in vivoでの進化後、上記の実施例1で特定された置換のうちの1つ以上を含む5つの組み換えカプシドタンパク質、すなわち、SB1(配列番号380)、SB2(配列番号384)、SB3(配列番号783)、SB4(配列番号784)、SB5(配列番号785)をin vitroでの特徴付けのために選択した。上記の組み換えカプシドタンパク質を含むとともに、ルシフェラーゼ導入遺伝子をパッケージングした組み換えAAVベクターを調製した。これらのAAVベクター(AAV-SB1、AAV-SB2、AAV-SB3、AAV-SB4及びAAV-SB5)は、親AAV8株に由来するものであった。
【0306】
その5つの組み換えAAVベクターと、HepG2細胞及びHuh7細胞を培養下、多重感染度(MOI)10,000vg/細胞で接触させた。その後、それらの細胞を溶解させ、その溶解物と、生物発光基質を接触させ、RFUを測定した。図3に示されているように、5つのすべてのAAVで、ヒト肝細胞に対するトロピズムがin vitroにおいて、親AAV8株と比較して向上し、AAV-SB1では、ルシフェラーゼ発現量の対数増加値が最大で2であった。
【0307】
親AAV8に対して、抗体の中和回避性が向上するのを調べるために、U87ヒトグリオブラストーマ細胞に形質導入する前に、上記の5つのAAV-ルシフェラーゼコンストラクトを0.25mg/mLのヒト静注用免疫グロブリン(IVIG)の存在下または非存在下でインキュベートした。図4に示されているのは、形質導入率(%)(ルシフェラーゼ発現量によって測定)を、IVIGの非存在下でインキュベーションした場合と比較したものである。AAV-SB1、AAV-SB2及びAAV-SB5では、IVIGの存在下において、親AAV8と比較して、形質導入効率が特に大きく向上した。さらに、様々な用量のIVIGによる分析によって、AAV-SB1を中和するには、親AAV8よりも高濃度のIVIGが必要であることが示された(図5)。
【0308】
勘案すると、これらのデータにより、親AAV8セロタイプと比較して、組み換えAAVのin vitroにおける肝細胞へのトロピズムが有意に向上し、抗体回避性が向上することが確認される。
【0309】
実施例4.AAV中和抗体のヒト血清スクリーニング
ドナー血清の100個の試料に対する中和アッセイにおいて、親AAV8、AAV-SB1、AAV-SB2、ならびに肝臓を標的とする他の3つのカプシド(AAV5、HSC15及びLK03)を試験した。1:5の希釈率の血清の存在下での各AAVのU87細胞への形質導入効率と、血清の非存在下での形質導入効率を比較した(ルシフェラーゼ発現レベルによって測定)。AAVベクターのルシフェラーゼ発現量が、血清の非存在下でのルシフェラーゼレベルの50%未満まで低下した血清試料では、中和されたものとみなした。
【0310】
図6Aには、示されているAAVが中和された試料の割合(%)が示されている(強力な中和:形質導入率20%未満、中度の中和:形質導入率20~50%)。中和された試料が最も少なかったのはAAV-SB1であり(15%)、それに対して、親AAV8カプシドでは、25%の試料が中和された。他のカプシドの中では、中和された試料の数が最も多かったのはLK03であり(40%)、最も少なかったのはAAV5であった(20%)。留意すべきことに、AAV-SB01に対してセロポジティブであった試料はいずれも、1つを除き、他のカプシドのすべてに対してセロポジティブであった。その1つの例外は、形質導入効率が49.58%であった(50%のカットオフ値をわずかに下回った)。
【0311】
示されているカプシドに対してセロポジティブであるドナーの年齢群ごとの内訳が、下の図6Bに示されている。セロポジティブなドナーの数が最も多い30~35歳群、及び数が最も少ない36~40歳群では、類似の年齢群間分布パターンが見られる。
【0312】
実施例5.組み換えAAVの正常なマウスにおける生体内分布
この試験は、ヒト以外の霊長類動物(NHP)における肝臓に対するカプシドトロピズムの進化が、マウスにおける肝臓に対するトロピズムに影響を及ぼすのかを評価する目的で行った。このことは、利用可能なマウスモデルにおいて、概念実証試験を実施するために重要である。正常なBI/6マウスにおいて、小規模な試験を行った。試験デザインは、下記の表9に示されている。マウスに、2つの用量のうちの1つをIV注射し、注射から30日後に、GFP発現に関する免疫組織化学(IHC)解析、及びqPCRによるベクターゲノム(vg)の定量のために、組織を採取した。
【表9】
【0313】
マウスの肝臓に対するAAV-SB1-GFPのトロピズムは、親AAV8ベクターのトロピズムと同様であることが確認された。IHC染色(図7)により、AAV8及びAAV-SB1では、GFP発現レベルが同程度であったが、雌雄間では異なるようであることが示された。下記の表10には、組織ごとに、全DNA 1μg当たりのvgコピー数が示されている。列ごとに、異なるマウスが示されている。
【表10】
*腓腹筋
BLOD - 検出限界未満
【0314】
上記は、本発明を例示するものであり、本発明を限定するものとして解釈すべきではない。本発明は、下記の請求項によって定義され、請求項の均等物も本発明に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【配列表】
0007406677000001.app