IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 積水化学工業株式会社の特許一覧 ▶ 積水マテリアルソリューションズ株式会社の特許一覧

特許7406678ウイルス感染阻止粒子及びウイルス感染阻止製品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ウイルス感染阻止粒子及びウイルス感染阻止製品
(51)【国際特許分類】
   A01N 41/04 20060101AFI20231221BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20231221BHJP
   A01N 25/12 20060101ALI20231221BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20231221BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
A01N41/04 Z
A01N25/10
A01N25/12
A01P1/00
C08L101/00
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022557954
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2022010975
(87)【国際公開番号】W WO2022191321
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2021040824
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510087564
【氏名又は名称】積水マテリアルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】西原 和也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太郎
(72)【発明者】
【氏名】川村 大地
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-036431(JP,A)
【文献】特開2017-179293(JP,A)
【文献】特開2017-186555(JP,A)
【文献】特開2015-017078(JP,A)
【文献】特開2016-128395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂粒子と、
上記樹脂粒子の表面に存在し且つスルホン酸基及び/又はスルホン酸基誘導体を有するスルホン酸化合物を含むウイルス感染阻止剤とを含有し、
上記樹脂粒子は、一次粒子の平均粒子径が1μm以上、20μm以下であり、
上記スルホン酸化合物は、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、線状高分子の側鎖にスルホン酸由来基を有する重合体からなる群から選ばれる少なくとも何れか1種のスルホン酸化合物を含むことを特徴とするウイルス感染阻止粒子。
【請求項2】
スルホン酸化合物は、樹脂粒子の表面に付着していることを特徴とする請求項1に記載のウイルス感染阻止粒子。
【請求項3】
樹脂粒子に対するスルホン酸化合物の存在量は、樹脂粒子100質量部に対して1質量部以上、100質量部以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止粒子。
【請求項4】
樹脂粒子は、樹脂粒子(一次粒子)同士が凝集一体化してなる凝集粒子を含むことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のウイルス感染阻止粒子。
【請求項5】
スルホン酸化合物は、芳香環を有していることを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載のウイルス感染阻止粒子。
【請求項6】
一次粒子の樹脂粒子の平均粒子径が10μm以下であることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載のウイルス感染阻止粒子。
【請求項7】
凝集粒子の平均粒子径が20~75μmであることを特徴とする請求項4に記載のウイルス感染阻止粒子。
【請求項8】
ウイルス感染阻止粒子中における凝集粒子の含有量が30%以上であることを特徴とする請求項4に記載のウイルス感染阻止粒子。
【請求項9】
基材と、
上記基材に含まれた、請求項1~8の何れか1項に記載のウイルス感染阻止粒子とを含有していることを特徴とするウイルス感染阻止製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス感染阻止粒子及びウイルス感染阻止製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、季節性インフルエンザウイルスの流行に加え、新型コロナウイルス(COVID-19)が世界的に大流行している。
【0003】
又、高病原性のトリインフルエンザウイルスが変異してヒト間で感染が確認されており、更に、致死率のきわめて高いサーズウイルスも懸念されており、ウイルスへの不安感は高まる一方である。
【0004】
これらの問題に対して、特許文献1には、合成樹脂100重量部に対しスルホン酸系界面活性剤を0.5重量部以上含む抗ウイルス性合成樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-128395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記抗ウイルス性合成樹脂組成物は、スルホン酸系界面活性剤を合成樹脂中に含有させているにすぎないため、スルホン酸系界面活性剤を合成樹脂中にサイズを調整しながら分散させることができない。そのため、スルホン酸系界面活性剤が合成樹脂中においてサイズが不均一な塊状となって存在し、スルホン酸系界面活性剤とウイルスとの接触を十分に確保することができず、スルホン酸系界面活性剤の抗ウイルス性を十分に発揮させることができないという問題点を有する。
【0007】
本発明は、優れたウイルス感染阻止効果を発揮することができるウイルス感染阻止粒子を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のウイルス感染阻止粒子は、
樹脂粒子と、
上記樹脂粒子の表面に存在し且つスルホン酸基及び/又はスルホン酸基誘導体を有するスルホン酸化合物を含むウイルス感染阻止剤とを含有することを特徴とする。
【0009】
本発明のウイルス感染阻止製品は、
基材と、
上記基材に含まれたウイルス感染阻止粒子とを含有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のウイルス感染阻止粒子は、樹脂粒子の表面に、スルホン酸化合物を含むウイルス感染阻止剤が存在するので、合成樹脂や繊維製品などの基材中にウイルス感染阻止剤のサイズを容易に調整しながら分散させることができ、ウイルス感染阻止剤とウイルスとの接触を十分に確保することができる。従って、本発明のウイルス感染阻止粒子は、優れたウイルス感染阻止効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のウイルス感染阻止粒子は、樹脂粒子と、樹脂粒子の表面に存在し且つスルホン酸基及び/又はスルホン酸基誘導体を有するスルホン酸化合物を含むウイルス感染阻止剤とを含有している。即ち、本発明のウイルス感染阻止粒子は、樹脂粒子の表面に、スルホン酸基及び/又はスルホン酸基誘導体を有するスルホン酸化合物を有効成分として含むウイルス感染阻止剤が存在する。
【0012】
従来のスルホン酸系界面活性剤を合成樹脂中に含有させた場合、塊状となって存在することが多いと考えられる。合成樹脂とスルホン酸系界面活性剤を混合する工程において、塊状のスルホン酸系界面活性剤を解砕させたとしても、サイズを調整しながら解砕することは難しく、極端に大きい粒子及び極端に小さい粒子を含み、不均一なサイズで解砕される。
【0013】
結果として、従来のスルホン酸系界面活性剤を合成樹脂中に分散させて得られるウイルス感染阻止製品では、該製品の表面には、ウイルスとの接触を行うために十分な高さを有するスルホン酸系界面活性剤の塊と、ウイルスとの接触を行うためには不十分な高さのスルホン酸系界面活性剤の塊とが存在することになり、十分なウイルス感染阻止効果を発揮することができない場合があると考えられる。
【0014】
本発明は、ウイルス感染阻止剤を樹脂粒子の表面に存在させておくことによって、ウイルス感染阻止粒子を用いて得られるウイルス感染阻止製品が優れたウイルス感染阻止効果を発揮することを見出した。
【0015】
この原理は定かではないが、以下のような原理によるものであると推測される。本発明のウイルス感染阻止粒子は、ウイルス感染阻止剤を樹脂粒子の表面に存在させている。合成樹脂中にウイルス感染阻止粒子を含有させた場合、合成樹脂とウイルス感染阻止粒子との混合工程において、ウイルス感染阻止粒子は、一次粒子又は凝集状態で混合されることが多いと考えられる。上記混合工程において、ウイルス感染阻止粒子が一時的に過度に凝集した塊状になったとしても、凝集状態を構成している一次粒子同士の相互作用が弱いため容易に解砕することができる。結果として、ウイルス感染阻止粒子を合成樹脂中で均一で且つ適切なサイズで存在させることができる。従って、ウイルス感染阻止製品の表面に、ウイルスとの接触を行うために十分高さを有するウイルス感染阻止粒子を数多く存在させることができ、優れたウイルス感染阻止効果を発揮すると推察される。従って、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を十分に発揮させることができる。
【0016】
ウイルス感染阻止剤を樹脂粒子の表面に予め存在させておくことによって、ウイルス感染阻止剤を過度に凝集した塊状となることなく、後述する基材に均一に分散させることができる。従って、ウイルス感染阻止剤の表面積を大きくすることができ、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を十分に発揮させることができる。
【0017】
[樹脂粒子]
ウイルス感染阻止剤を表面に存在(好ましくは、付着)させる樹脂粒子としては、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を阻害しなければ、特に限定されない。樹脂粒子を構成している合成樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ABS樹脂;スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)などの合成ゴムなどが挙げられ、スチレン系樹脂が好ましい。
【0018】
スチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンなどのスチレン系モノマーをモノマー単位として含む単独重合体又は共重合体、スチレン系モノマーと、このスチレン系モノマーと共重合可能な一種又は二種以上のビニルモノマーとをモノマー単位として含む共重合体などが挙げられる。
【0019】
スチレン系モノマーと共重合可能なビニルモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなど)、メタクリル酸エステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなど)などのアクリル系モノマー、無水マレイン酸、アクリルアミドなどが挙げられる。
【0020】
樹脂粒子を構成している合成樹脂は、芳香環を含有していることが好ましい。芳香環が、樹脂粒子の表面に存在しているスルホン酸化合物の疎水性部分を引き付け、親水性を有するスルホン酸基及び/又はスルホン酸基誘導体を外方に配向させる作用を奏し、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果をより効果的に発揮させることができる。
【0021】
なお、ウイルス感染阻止効果とは、ウイルスの細胞への感染力をなくし或いは低下させ又は感染しても細胞中で増殖できなくする効果をいう。このようなウイルスの感染性の有無を確認する方法としては、例えば、繊維製品ではISO18184やJIS L1922、繊維製品以外のプラスチックや非多孔質表面の製品では、ISO21702が挙げられる。抗菌製品技術協議会(SIAA)は、抗ウイルス加工剤の安全性と一定の抗ウイルス効果の基準を満たす製品に抗ウイルス加工マークを認証しており、抗ウイルス効果の基準は、ISO21702の評価においてブランク品(抗ウイルス加工剤の無添加品)のウイルス感染価の常用対数値と加工品(抗ウイルス加工剤の添加品)のウイルス感染価の常用対数値との差(抗ウイルス活性値)が2.0以上である。ウイルス感染阻止剤は抗ウイルス加工剤の成分として使用され、樹脂中に練り込まれたり、塗料などの表面コーティング剤に添加して使用され、上記の評価方法で評価される。
【0022】
本発明においては、例えば、以下の条件でウイルス感染阻止効果を評価した際に、ブランク品と加工品とのウイルス感染価の常用対数値の差(抗ウイルス活性値)が2.0以上である製品をウイルス感染阻止剤として定義する。その際、評価するウイルスの種類を問わず、少なくとも1種のウイルスにおいて、ブランク品と加工品とのウイルス感染価の常用対数値の差(抗ウイルス活性値)が2.0以上となるものをウイルス感染阻止剤として扱う。
【0023】
ウイルス感染阻止剤50mgを無溶剤型の紫外線硬化性アクリル系樹脂(日立化成社製 商品名「テスラック2328」)950mg中に供給して均一に混合し塗料を作製する。得られた塗料をポリエステルフィルム上に塗布した後、UVコンベア装置アイグランテージ[アイグラフィックス株式会社製、照射器反射板:コールドミラー集光型、UVランプ:H03-L31(発光長250mm)]を用いて、塗料に照射光量512mJ/cm2の紫外線を当てて紫外線硬化性アクリル系樹脂を硬化させ、膜厚が15μmの塗膜を形成し、試験塗膜とする。
【0024】
得られた試験塗膜の抗ウイルス試験をISO21702に準拠して行う。反応後のウイルス懸濁液について、プラック法により試験塗膜のウイルス感染価を算出する。ウイルス感染阻止剤を含有させないこと以外は上記と同様の要領でブランク塗膜を作製し、このブランク塗膜に基づいて上記と同様の要領でウイルス感染価(常用対数値)(PFU/cm2)を算出する。ブランク塗膜のウイルス感染価から試験塗膜のウイルス感染価を引くことによって、ウイルス感染価の常用対数値の差(抗ウイルス活性値)を算出する。
【0025】
他にも「医・薬科ウイルス学」(1990年4月初版発行)に記載されているようなプラック法や赤血球凝集価(HAU)測定法などが挙げられる。
【0026】
芳香環は、単環状の芳香環であっても、単環状の芳香環が複合して縮合(縮合芳香環)していてもよい。芳香環としては、特に限定されず、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル、フェノキシフェニルなどが挙げられ、ベンゼン環及びナフタレン環が好ましい。芳香環は、芳香環及び縮合芳香環の何れか1個又は複数個の水素原子が引き抜かれ、他の原子と共有結合により結合している。
【0027】
樹脂粒子は、一次粒子であってもよいが、一次粒子が凝集一体化して凝集粒子を形成していることが好ましい。凝集粒子とは、5個以上の一次粒子が凝集一体化している粒子をいう。なお、凝集粒子であるか否かの判断は、電子顕微鏡を用いて樹脂粒子の拡大写真(倍率500倍)を撮影し、写真上において、一次粒子が凝集一体化しているか否かを判断し、5個以上の一次粒子が凝集一体化しているものを凝集粒子とする。一次粒子が凝集一体化することによって凝集粒子を形成していると、凝集粒子の表面に十分な凹凸を形成することができる。凝集粒子に十分な凹凸が形成されていると、凝集粒子の表面積が大きくなり、凝集粒子の表面に、ウイルス感染阻止剤をその表面積が大きくなるように存在させることができ、ウイルス感染阻止剤とウイルスとの接触を十分なものとし、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を効果的に発揮させることができる。
【0028】
更に、樹脂粒子が凝集粒子であると、ウイルス感染阻止粒子を合成樹脂中に含有させて用いる場合、ウイルス感染阻止粒子が合成樹脂の表面に突出し易くなり、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を十分に発揮させることができる。このメカニズムは明確ではないが、凝集粒子表面の凹凸は、一次粒子の表面に形成されている凹凸とは異なり、一次粒子の表面の一部が連なることによって形成されている。従って、凝集粒子の表面の凹凸の凹部は、一次粒子表面の凹凸よりも深く、この凹部に合成樹脂が進入しにくいため、凝集粒子と合成樹脂との間の馴染み性が低下し、その結果、凝集粒子は合成樹脂の表面に突出し易くなると考えられる。
【0029】
樹脂粒子(一次粒子)の平均粒子径は、20μm以下が好ましく、10μm以下がより好ましく、5μm以下がより好ましく、4μm以下がより好ましい。樹脂粒子の平均粒子径は、1μm以上が好ましい。樹脂粒子の平均粒子径が20μm以下であると、ウイルスと接触可能なウイルス感染阻止剤の表面積が大きくなり好ましい。樹脂粒子の平均粒子径が1μm以上であると、ウイルス感染阻止粒子を合成樹脂中に含有させて用いる場合、ウイルス感染阻止粒子を合成樹脂の表面に突出させやすくなる。なお、一次粒子の樹脂粒子を「樹脂粒子(一次粒子)」と表記することがある。
【0030】
凝集粒子の平均粒子径は、10μm以上が好ましく、25μm以上がより好ましく、30μm以上がより好ましく、35μm以上がより好ましく、40μm以上がより好ましい。凝集粒子の平均粒子径は、90μm以下が好ましく、70μm以下がより好ましく、60μm以下がより好ましく、55μm以下がより好ましい。凝集粒子の平均粒子径が90μm以下であると、ウイルス感染阻止粒子を合成樹脂中に含有させて用いる場合、合成樹脂表面に突出する凝集粒子の表面積を大きくして、ウイルスと接触可能なウイルス感染阻止剤の表面積を大きくすることができ好ましい。樹脂粒子の平均粒子径が10μm以上であると、ウイルス感染阻止粒子を合成樹脂中に含有させて用いる場合、ウイルス感染阻止粒子を合成樹脂の表面に突出させやすくなる。
【0031】
樹脂粒子(一次粒子)の平均粒子径は、レーザ回折/散乱法により測定された体積基準の粒度分布における算術平均径をいう。樹脂粒子(一次粒子)の平均粒子径は、例えば、堀場製作所から商品名「LA-950V2」にて市販されているレーザ回折/散乱法による測定装置を用いて湿式測定によって測定することができる。
【0032】
凝集粒子の平均粒子径は、レーザ回折/散乱法により測定された体積基準の粒度分布における算術平均径をいう。凝集粒子の平均粒子径は、例えば、セイシン企業社から商品名「SEISHI LMS-30」にて市販されているレーザ回折/散乱法による測定装置を用いて乾式測定によって測定することができる。
【0033】
ウイルス感染阻止粒子中における凝集粒子の含有量は、30%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、50%以上がより好ましく、60%以上がより好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がより好ましく、95%以上がより好ましい。凝集粒子の含有量が30%以上であると、ウイルス感染阻止粒子を合成樹脂中に含有させて用いる場合、ウイルス感染阻止粒子を合成樹脂の表面に突出させやすくなる。
【0034】
ウイルス感染阻止粒子中における凝集粒子の含有量は、下記の要領にて測定される。ウイルス感染阻止粒子1gを試料として採取する。電子顕微鏡を用いて試料の500倍の電子顕微鏡写真を撮影する。電子顕微鏡写真において、一辺が10cmの正方形状の測定範囲を任意に定める。測定範囲内において、ウイルス感染阻止粒子の総数及び凝集粒子の個数を目視にて測定し、下記式に基づいて算出する。なお、ウイルス感染阻止粒子の総数とは、一次粒子及び凝集粒子の他に、一次粒子が2~4個凝集一体化してなる合着粒子も含めたウイルス感染阻止粒子の総個数である。なお、凝集粒子及び合着粒子を構成する一次粒子の個数は、ウイルス感染阻止粒子の総数に含めない。
ウイルス感染阻止粒子中における凝集粒子の含有量(%)
=100×(凝集粒子の個数)/(ウイルス感染阻止粒子の総数)
【0035】
[スルホン酸化合物]
ウイルス感染阻止粒子は、樹脂粒子の表面に、スルホン酸化合物を有効成分として含有するウイルス感染阻止剤を存在させて構成されている。スルホン酸化合物を有効成分として含むウイルス感染阻止剤は、樹脂粒子の表面に付着されていることが好ましい。スルホン酸化合物を有効成分として含むウイルス感染阻止剤は、樹脂粒子の表面に付着一体化されていることが好ましい。
【0036】
スルホン酸化合物は、分子中にスルホン酸基(-SO3H)及び/又はスルホン酸基誘導体(以下、スルホン酸基及びスルホン酸誘導体を併せて「スルホン酸由来基」ということがある)を有している。スルホン酸化合物は、スルホン酸基(-SO3H)及び/又はスルホン酸基誘導体を含む分子構造部分に由来してウイルス感染阻止効果を発揮する。
【0037】
スルホン酸基誘導体としては、特に限定されず、例えば、スルホン酸基の塩、-SO3CH3、-SO325などのエステル化体などが挙げられ、スルホン酸基の塩が好ましい。
【0038】
スルホン酸基の塩としては、特に限定されず、例えば、スルホン酸ナトリウム塩、スルホン酸カルシウム塩、スルホン酸アンモニウム塩、スルホン酸マグネシウム塩、スルホン酸バリウム塩などが挙げられ、スルホン酸ナトリウム塩が好ましい。
【0039】
スルホン酸化合物は、有機化合物であることが好ましい。本発明において、「有機化合物」とは、分子中に少なくとも1個(好ましくは2個以上)の炭素を含み且つ炭素-水素結合(C-H結合)を含む化合物をいう。
【0040】
スルホン酸化合物が有機化合物であると、スルホン酸化合物は、炭素-水素結合部分に代表される有機鎖部分(疎水性部分)において疎水性を有している。スルホン酸化合物は、有機鎖部分が樹脂粒子と優れた親和性を有する一方、樹脂粒子に対して有機鎖部分よりも親和性の低いスルホン酸由来基が外側を向き易くなり、ウイルス感染阻止効果をより効果的に発揮することができる。
【0041】
そして、スルホン酸化合物の親水性であるスルホン酸由来基が外側を向き易くなっているため、合成樹脂との馴染み性が低下し、その結果、合成樹脂の表面にあらわれやすくなり、スルホン酸化合物によるウイルス感染阻止効果をより効果的に発揮させることができる。
【0042】
スルホン酸化合物は、芳香環を有していることが好ましい。スルホン酸化合物が芳香環を有していると、樹脂粒子を構成している合成樹脂との親和性によって、スルホン酸化合物は樹脂粒子表面に強固に付着した状態を維持し、スルホン酸化合物の脱落を抑制し、ウイルス感染阻止粒子は長期間に亘って優れたウイルス感染阻止効果を持続することができる。なお、芳香環は、樹脂粒子において説明したものと同様であるので説明を省略する。樹脂粒子を構成している合成樹脂中の芳香環と、スルホン酸化合物中の芳香環は、同一であっても相違してもよい。
【0043】
スルホン酸化合物において、スルホン酸由来基は、芳香環に直接又は間接的に結合していることが好ましく、芳香環に直接、結合していることがより好ましい。スルホン酸化合物中の芳香環と、樹脂粒子を構成している合成樹脂との間の親和性によって、スルホン酸化合物中の芳香環が樹脂粒子の合成樹脂に引き付けられるが、この時、スルホン酸由来基は親水性を有していることから、芳香環は、スルホン酸由来基を外側に向けた状態で樹脂粒子を構成している合成樹脂に引き寄せられ、結果として、スルホン酸由来基は、外側を向いた状態となり易く、ウイルス感染阻止粒子は優れたウイルス感染阻止効果を奏する。
【0044】
スルホン酸化合物において、スルホン酸由来基が間接的に芳香環に結合している場合、スルホン酸由来基は、炭素数が1~4のアルキレン基(好ましくは、メチレン基又はエチレン基)を介して芳香環に結合していることが好ましい。スルホン酸化合物中の芳香環が樹脂粒子の合成樹脂に引きつけられた状態において、アルキレン基に起因してスルホン酸由来基が芳香環から離間した状態となり、スルホン酸由来基をより外側に露出された状態に配向させることができ、ウイルス感染阻止粒子は、優れたウイルス感染阻止効果を奏する。
【0045】
更に、樹脂粒子を構成している合成樹脂及びスルホン酸化合物が共に芳香環を有していると、樹脂粒子を構成している合成樹脂の芳香環と、スルホン酸化合物の芳香環とが互いに引きつけ合い、その結果、親水性であるスルホン酸由来基が外方により露出され易くなり、ウイルス感染阻止粒子のウイルス感染阻止効果をより向上させることができる。
【0046】
スルホン酸化合物としては、分子中に、スルホン酸基及びスルホン酸誘導体の何れか一方又は双方を有しておれば、特に限定されず、例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、線状高分子の側鎖にスルホン酸由来基を有する重合体などが挙げられる。
【0047】
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸、デシルベンゼンスルホン酸、ウンデシルベンゼンスルホン酸、トリデシルベンゼンスルホン酸、テトラデシルベンゼンスルホン酸などが挙げられる。
【0048】
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム、ドデシルベンゼンスルホン酸バリウム、デシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、ウンデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、デシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、ウンデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ウンデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、トリデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、テトラデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、テトラデシルベンゼンスルホン酸アンモニウムなどが挙げられ、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0049】
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸及び直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩のアルキル基の炭素数は、10以上が好ましく、11以上がより好ましく、12以上がより好ましい。直鎖アルキルベンゼンスルホン酸のアルキル基の炭素数は、25以下が好ましく、20以下がより好ましく、18以下がより好ましい。アルキル基の炭素数が上記範囲であると、アルキル基に由来した疎水性部分と樹脂粒子との親和性によって互いに引きつけ合うことによって、親水性であるスルホン酸由来基が外側に向きやすくなり、その結果、ウイルス感染阻止粒子は優れたウイルス感染阻止効果を奏する。
【0050】
α-オレフィンスルホン酸としては、例えば、C12~C18のα-オレフィンスルホン酸などが挙げられ、C14のテトラデセンスルホン酸が好ましい。
【0051】
α-オレフィンスルホン酸塩としては、例えば、C12~C18のα-オレフィンスルホン酸ナトリウム、C12~C18のα-オレフィンスルホン酸カルシウム、C12~C18のα-オレフィンスルホン酸アンモニウム、C12~C18のα-オレフィンスルホン酸マグネシウム、C12~C18のα-オレフィンスルホン酸バリウムなどが挙げられ、C14のテトラデセンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0052】
α-オレフィンスルホン酸及びα-オレフィンスルホン酸塩のα-オレフィンの炭素数は、12以上が好ましく、14以上が好ましい。α-オレフィンスルホン酸及びα-オレフィンスルホン酸塩のα-オレフィンの炭素数は、22以下が好ましく、18以下がより好ましい。α-オレフィンの炭素数が上記範囲であると、スルホン酸化合物のα-オレフィン鎖に由来した疎水性部分と樹脂粒子との親和性によって、両者が互いに引きつけ合うことによって、親水性であるスルホン酸由来基が外側に向きやすくなり、その結果、ウイルス感染阻止粒子は優れたウイルス感染阻止効果を奏する。
【0053】
アルキルジフェニルエーテルスルホン酸としては、アルキル基がC6~C18のアルキルジフェニルエーテルスルホン酸などが挙げられ、C12のドデシルジフェニルエーテルスルホン酸が好ましい
【0054】
アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩としては、アルキル基がC6~C18のアルキルフェニルエーテルのナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩などが挙げられ、C12のドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0055】
アルキルジフェニルエーテルスルホン酸及びアルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩のアルキル基の炭素数は、8以上が好ましく、10以上がより好ましい。アルキルジフェニルエーテルスルホン酸及びアルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩のアルキル基の炭素数は、24以下が好ましく、18以下がより好ましい。アルキル基の炭素数が上記範囲であると、スルホン酸化合物のアルキル基に由来した疎水性部分と樹脂粒子との親和性によって、両者が互いに引きつけ合うことによって、親水性であるスルホン酸由来基が外側に向きやすくなり、その結果、ウイルス感染阻止粒子は優れたウイルス感染阻止効果を奏する。
【0056】
線状高分子の側鎖にスルホン酸由来基を有する重合体において、線状高分子としては、特に限定されず、例えば、ビニル重合体、ポリエステル、ポリウレタンが好ましく、ビニル重合体が好ましい。
【0057】
線状高分子の側鎖にスルホン酸由来基を有する重合体としては、特に限定されず、例えば、スチレンスルホン酸成分を含有する重合体、スチレンスルホン酸誘導体成分を含有する重合体、スチレンスルホン酸成分を含有する重合体のスルホン酸誘導体、スチレンスルホン酸塩成分とスチレンスルホン酸誘導体成分とを含む共重合体、スチレンスルホン酸単独重合体、スチレンスルホン酸塩単独重合体、スチレンスルホン酸誘導体単独重合体、スチレン-スチレンスルホン酸塩共重合体、スチレン-スチレンスルホン酸共重合体、ポリスチレンのベンゼン環をスルホン化した化合物、ポリスチレンのベンゼン環をスルホン化した化合物のスルホン酸誘導体、スチレン成分を含む重合体のベンゼン環をスルホン化した化合物、スチレン成分を含む重合体のベンゼン環をスルホン化した化合物のスルホン酸誘導体などが挙げられる。
【0058】
又、線状高分子の側鎖にスルホン酸由来基を有する重合体は、スルホン酸由来基を有する単量体の単独重合体又は共重合体が好ましい。スルホン酸由来基を有する単量体としては、例えば、p-スチレンスルホン酸、m-スチレンスルホン酸、o-スチレンスルホン酸、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、m-スチレンスルホン酸ナトリウム、o-スチレンスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸カルシウム、m-スチレンスルホン酸カルシウム、o-スチレンスルホン酸カルシウム、p-スチレンスルホン酸アンモニウム、m-スチレンスルホン酸アンモニウム、o-スチレンスルホン酸アンモニウム、p-スチレンスルホン酸エチル、m-スチレンスルホン酸エチル、o-スチレンスルホン酸エチル、4-ビニル安息香酸、4-ビニル安息香酸ナトリウム、4-ビニル安息香酸メチル、4-ビニルアニリン、アミノスチレン塩酸塩、N-アセチルアミノスチレン、N-ベンゾイルアミノスチレン、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸カルシウムなどが挙げられ、スチレンスルホン酸ナトリウムが好ましく、ウイルスとの反応性において立体障害が少ないことから、p-スチレンスルホン酸ナトリウムがより好ましい。
【0059】
なお、スルホン酸由来基を有する単量体は、他の単量体と共重合体を構成していてもよい。共重合可能な単量体としては、例えば、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、ビニルアルキルエーテル、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、ジイソブチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、2-ビニルナフタレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸、マレイン酸、フマール酸、無水マレイン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ビニルトルエン、キシレンスルホン酸、ビニルピリジン、ビニルスルホン酸、ビニルアルコール、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ヒドロキシエチルなどが挙げられるが、スチレンが好ましい。
【0060】
線状高分子の側鎖にスルホン酸由来基を有する重合体は、汎用の方法で製造することができ、例えば、スルホン酸由来基を有する単量体をラジカル重合する方法、スルホン酸由来基を有する単量体とこの単量体と共重合可能な単量体とをラジカル重合する方法、スルホン酸由来基を有する単量体成分を含む重合体のスルホン酸をアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムなど)を用いて中和する方法などが挙げられる。
【0061】
ウイルス感染阻止粒子は、各種ウイルスに対してウイルス感染阻止効果を有するが、RNAウイルスに対して高いウイルス感染阻止効果を発現する。
【0062】
RNAウイルスとしては、例えば、ネコカリシウイルス、レオウイルス科(Reoviridae)の哺乳類オルトレオウイルス、コロラドダニ熱ウイルス、パラミクソウイルス科(Parmyxoviridae)のヒトパラインフルエンザウイルス1,3、麻疹ウイルス、ムンプスウイルス、ヒトパラインフルエンザウイルス2,4、ヘンドラウイルス、ニパウイルス、ヒトRS(Respiratory syncytial)ウイルス、ラブドウイルス科(Rhabdoviridae)の狂犬病ウイルス、水疱性口内炎ウイルス、フィロウイルス科(Filoviridae)のマ-ルブルグウイルス、ザイ-ルエボラウイルス、ス-ダンエボラウイルス、ボルナウイルス科(Bornaviridae)のボルナ病ウイルス、オルトミクソウイルス科(Orthomyxoviridae)のインフルエンザAウイルス、インフルエンザBウイルス、インフルエンザCウイルス、ブニヤウイルス科(Bunyaviridae)のLa Crosseウイルス、Rift Valley熱ウイルス、クリミア・コンゴ出血熱ウイルス、ハンタ-ンウイルス、Sin Nombreウイルス、アレナウイルス科(Arenaviridae)のラッサウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス、Juninウイルス、ピコルナウイルス科(Picornaviridae)のポリオウイルス、コクサッキーA群ウイルス、コクサッキーB群ウイルス、エコーウイルス、エンテロウイルス、ヒトライノウイルス、A型肝炎ウイルス、ヒトparechoウイルス1,2、カリシウイルス科(Caliciviridae)のNorwalkウイルス、サッポロウイルス、アストロウイルス科(Astroviridae)のヒトアストロウイルス、コロナウイルス科(Coronaviridae)のヒトコロナウイルス、SARS関連コロナウイルス、コロナウイルス(COVID-19)、フラビウイルス科(Flaviviridae)の日本脳炎ウイルス、黄熱ウイルス、デングウイルス、ダニ媒介性脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、C型肝炎ウイルス、トガウイルス科(Togaviridae)の東部ウマ脳炎ウイルス、チクングニヤウイルス、風疹ウイルス、レトロウイルス科(Retroviridae)のヒトT細胞白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス1などが挙げられる。
【0063】
[ウイルス感染阻止粒子]
ウイルス感染阻止粒子は、樹脂粒子の表面に、スルホン酸化合物を含むウイルス感染阻止剤を存在させてなる。
【0064】
本発明においては、例えば、以下の条件でウイルス感染阻止効果を評価した際に、ブランク品と加工品とのウイルス感染価の常用対数値の差(抗ウイルス活性値)が2.0以上である粒子をウイルス感染阻止粒子として定義する。その際、評価するウイルスの種類を問わず、少なくとも1種のウイルスにおいて、ブランク品と加工品とのウイルス感染価の常用対数値の差(抗ウイルス活性値)が2.0以上となるものをウイルス感染阻止粒子として扱う。
【0065】
ウイルス感染阻止粒子中のウイルス感染阻止剤が50mgとなる量のウイルス感染阻止粒子を無溶剤型の紫外線硬化性アクリル系樹脂 (日立化成社製 商品名「テスラック2328」)950mg中に供給して均一に混合し塗料を作製する。得られた塗料をポリエステルフィルム上に塗布した後、UVコンベア装置アイグランテージ[アイグラフィックス株式会社製、照射器反射板:コールドミラー集光型、UVランプ:H03-L31(発光長250mm )]を用いて、塗料に照射光量512mJ/cm2の紫外線を当てて紫外線硬化性アクリル系樹脂を硬化させ、膜厚が15μmの塗膜を形成し、試験塗膜とする。
【0066】
得られた試験塗膜の抗ウイルス試験をISO21702に準拠して行う。反応後のウイルス懸濁液について、プラック法により試験塗膜のウイルス感染価を算出する。ウイルス感染阻止剤を含有させないこと以外は上記と同様の要領でブランク塗膜を作製し、このブランク塗膜に基づいて上記と同様の要領でウイルス感染価(常用対数値)(PFU/cm2)を算出する。ブランク塗膜のウイルス感染価から試験塗膜のウイルス感染価を引くことによって、ウイルス感染価の常用対数値の差(抗ウイルス活性値)を算出する。
【0067】
ウイルス感染阻止剤中におけるスルホン酸化合物の含有量は、50質量%以上が好ましく、60質量%以上がより好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより好ましく、99質量%以上がより好ましく、100質量%がより好ましい。
【0068】
樹脂粒子に対するスルホン酸化合物の存在量は、樹脂粒子100質量部に対して1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、7質量部以上がより好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がより好ましく、30質量部以上がより好ましく、40質量部以上がより好ましい。スルホン酸化合物の存在量が1質量部以上であると、樹脂粒子上のウイルス感染阻止剤の量が多くなるため、ウイルス感染阻止粒子に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。
【0069】
樹脂粒子に対するスルホン酸化合物の存在量は、樹脂粒子100質量部に対して100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、60質量部以下がより好ましく、55質量部以下がより好ましく、40質量部以下がより好ましい。スルホン酸化合物の存在量が100質量部以下であると、ウイルス感染阻止剤が樹脂粒子の表面に効率的に存在し、ウイルス感染阻止剤の表面積を大きくすることができ、ウイルス感染阻止粒子に優れウイルス感染阻止効果を発現させることができる。
【0070】
スルホン酸化合物は、樹脂粒子の表面に存在しているが、樹脂粒子表面にスルホン酸化合物を存在させる要領は、特に限定されず、例えば、スルホン酸化合物自体の接着力によってもよいし、バインダー樹脂を用いて樹脂粒子の表面にスルホン酸化合物を接着してもよいが、スルホン酸化合物のスルホン酸由来基のウイルス感染阻止効果を効果的に発揮させることができるので、スルホン酸化合物自体の接着力によって、スルホン酸化合物が樹脂粒子の表面に付着していることが好ましい。
【0071】
樹脂粒子(一次粒子)が凝集一体化して凝集粒子を形成している場合、樹脂粒子同士は、スルホン酸化合物によって一体化されていることが好ましい。樹脂粒子(一次粒子)同士がスルホン酸化合物によって一体化されていると、樹脂粒子(一次粒子)間に侵入したウイルスをウイルス感染阻止剤によって効果的に不活性化することが可能となり、ウイルス感染阻止粒子のウイルス感染阻止効果を向上させることができる。
【0072】
ウイルス感染阻止粒子は、ウイルス感染阻止効果を付与したい基材に含有させて用いられ、ウイルス感染阻止粒子を含有する基材は、ウイルス感染阻止製品としてウイルス感染阻止効果を発現する。
【0073】
ウイルス感染阻止粒子を含有させる基材としては、ウイルス感染阻止粒子を含有させることができれば、特に限定されず、例えば、合成樹脂成形体、塗料、壁紙、化粧シート、床材、繊維製品(織物、不織物、編物)、車輛(例えば、車、飛行機、船など)用の内用品及び内装材(シート、チャイルドシート及びこれらを構成している発泡体など)、キッチン用品、ベビー用品、建築内装材などが挙げられる。
【0074】
塗料としては、従来公知の塗料が用いられ、例えば、油性塗料(例えば、調合ペイント、油ワニスなど)、セルロース塗料、合成樹脂塗料などが挙げられる。塗料には、その物性を損なわない範囲内において、顔料、可塑性、硬化剤、増量剤、充填剤、老化防止剤、増粘着、界面活性剤などの添加剤が含有されていてもよい。なお、塗料中にウイルス感染阻止粒子を含有させる方法としては、例えば、ウイルス感染阻止粒子と塗料とを分散装置に供給して均一に混合する方法などが挙げられる。なお、分散装置としては、例えば、ハイスピードミル、ボールミル、サンドミルなどが挙げられる。
【0075】
建築内装材とは、特に限定されず、例えば、床材、壁紙、天井材、塗料、ドアノブ、スイッチ、スイッチカバー、ワックスなどを挙げることができる。
【0076】
車輛内用品及び車輛内装材とは、特に限定されず、例えば、シート、チャイルドシート、シートベルト、カーマット、シートカバー、ドア、天井材、フロアマット、ドアトリム、インパネ、コンソール、グローブボックス、吊り革、手すりなどを挙げることができる。
【0077】
ウイルス感染阻止粒子は、例えば、基材を構成している合成樹脂に練り込むなどの方法によって上記基材に含有させて用いられてもよい。ウイルス感染阻止粒子は、塗料に含有させて用いられてもよい。ウイルス感染阻止粒子は、合成樹脂を用いて基材表面に付着一体化させて用いられてもよい。
【0078】
ウイルス感染阻止粒子は、合成樹脂中にサイズを容易に調整しながら分散させることができるので、塗料や基材を構成している合成樹脂に練り込む場合を含めて、基材中に、調整されたサイズ又は均一なサイズで分散させることができる。従って、基材中において、ウイルスとの接触を行なうために十分な高さのウイルス感染阻止粒子を製品の表面に数多く存在させることができ、ウイルス感染阻止製品に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。
【0079】
特に、ウイルス感染阻止粒子を構成している樹脂粒子が凝集粒子を形成している場合には、ウイルス感染阻止粒子を合成樹脂の表面に突出させ易くなり、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を十分に発揮させることができる。
【実施例
【0080】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0081】
(実施例1~18)
水100質量部に、表1に示したスルホン酸化合物を100質量%で含むウイルス感染阻止剤、及び、表1に示した平均粒子径を有する樹脂粒子(一次粒子)を表1に示した添加量となるように供給し、スプレードライヤーを用いて表1に示したアトマイザー回転速度にて粉体化し、樹脂粒子の表面にウイルス感染阻止剤の全量を付着(担持)させてウイルス感染阻止粒子を得た。
【0082】
(比較例1)
スルホン酸化合物の代わりにポリオキシエチレンラウリルエーテルを100質量%で含むウイルス感染阻止剤を水100質量部に対して5質量部となるように用いたこと以外は、実施例1と同様にしてウイルス感染阻止粒子を得た。
【0083】
(比較例2)
表1に示したスルホン酸化合物を100質量%で含むウイルス感染阻止剤を水100質量部に対して5質量部供給し、スプレードライヤーを用いて表1に示したアトマイザー回転速度にて粉体化してウイルス感染阻止粒子を得た。ウイルス感染阻止粒子は、スルホン酸化合物が塊状になって形成されていたため、スルホン酸化合物の表面積が小さくなっていた。
【0084】
得られたウイルス感染阻止粒子について、ウイルス感染阻止粒子中に含まれている凝集粒子の平均粒子径(μm)、及び、ウイルス感染阻止粒子中における凝集粒子の含有量(%)を上記要領で測定し、その結果を表1に示した。
【0085】
得られたウイルス感染阻止粒子について、インフルエンザウイルスを用いて抗ウイルス試験を行い、その結果を表1に示した。
【0086】
(抗ウイルス試験)
ウイルス感染阻止剤50mgを無溶剤型の紫外線硬化性アクリル系樹脂(日立化成社製 商品名「テスラック2328」)950mg中に供給して、攪拌装置(KINEMATICA社製 商品名「ポリトロンホモジナイザーPT3100D」)を用いて15000rpmにて30秒間均一に混合し塗料を作製した。得られた塗料をポリエステルフィルム上に塗布した後、UVコンベア装置アイグランテージ(アイグラフィックス株式会社製、照射器反射板:コールドミラー集光型、UVランプ:H03-L31(発光長250mm))を用いて、塗料に照射光量512mJ/cm2の紫外線を照射して紫外線硬化性アクリル系樹脂を硬化させて膜厚が15μmの塗膜を形成した。なお、ウイルス感染阻止粒子については、ウイルス感染阻止剤50mgの代わりに、ウイルス感染阻止粒子中のウイルス感染阻止剤が50mgとなる量のウイルス感染阻止粒子を用いるように変更した。
【0087】
得られた塗膜の表面を一辺が10cmの平面正方形状の不織布(日本製紙クレシア社製 商品名「キムワイプ S-200」)に1mLの水を染み込ませ、塗膜表面を不織布で10往復させて拭き取り、試験塗膜とした。
【0088】
得られた試験塗膜の抗ウイルス試験をISO21702に準拠して行った。反応後のウイルス懸濁液について、プラック法により試験塗膜のウイルス感染価を算出した。
【0089】
ウイルス感染阻止粒子を含有させないこと以外は上記と同様の要領でブランク塗膜を作製し、このブランク塗膜に基づいて上記と同様の要領でウイルス感染価(常用対数値)(PFU/cm2)を算出した。ブランク塗膜のウイルス感染価(常用対数値)は、6.5PFU/cm2であった。
【0090】
ブランク塗膜のウイルス感染価から試験塗膜のウイルス感染価を引くことによって抗ウイルス活性値を算出した。
【0091】
実施例で行った抗ウイルス試験では、「発明を実施するための形態」にて記載したウイルス感染価の測定方法において、水を染み込ませた不織布で塗膜の表面を拭き取っている。拭き取った後の塗膜を試験塗膜としている。
【0092】
塗膜の表面を上記不織布で拭き取ることによって、塗膜の有するウイルス感染阻止効果が低下する。即ち、実施例では、より厳しい条件にてウイルス試験を行っている。実施例で得られた抗ウイルス活性値は、「発明を実施するための形態」に記載の測定方法で得られた抗ウイルス活性値よりも低くなる。従って、実施例の抗ウイルス試験で得られた抗ウイルス活性値が2以上である場合、ウイルス感染阻止粒子は、ウイルス感染阻止効果を有していると判断できる。
【0093】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明のウイルス感染阻止粒子は、合成樹脂や繊維製品などの基材中にウイルス感染阻止剤のサイズを容易に調整しながら分散させることができ、ウイルス感染阻止剤とウイルスとの接触を十分に確保することができる。従って、本発明のウイルス感染阻止粒子は、優れたウイルス感染阻止効果を有するウイルス感染阻止製品を製造することができる。
【0095】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年3月12日に出願された日本国特許出願第2021-040824号に基づく優先権を主張し、この出願の開示はこれらの全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。