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特許7406679ウイルス感染阻止剤及びウイルス感染阻止製品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ウイルス感染阻止剤及びウイルス感染阻止製品
(51)【国際特許分類】
   A01N 41/04 20060101AFI20231221BHJP
   A01N 25/10 20060101ALI20231221BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20231221BHJP
   A01N 37/04 20060101ALI20231221BHJP
   A01N 37/10 20060101ALI20231221BHJP
   A01N 37/40 20060101ALI20231221BHJP
   A01N 37/06 20060101ALI20231221BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
A01N41/04 Z
A01N25/10
A01P1/00
A01N37/04
A01N37/10
A01N37/40
A01N37/06
A01N61/00 D
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2022557972
(86)(22)【出願日】2022-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2022010983
(87)【国際公開番号】W WO2022191322
(87)【国際公開日】2022-09-15
【審査請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2021040825
(32)【優先日】2021-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510087564
【氏名又は名称】積水マテリアルソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103975
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】西原 和也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 太郎
(72)【発明者】
【氏名】川村 大地
【審査官】水島 英一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-015694(JP,A)
【文献】特開2012-140613(JP,A)
【文献】特開2012-126677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N,A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基の塩を有する化合物と、有機酸(但し、スルホン酸基の塩を有する有機酸を除く)とを含み、
上記スルホン酸基の塩を有する化合物は、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、及び線状高分子の側鎖にスルホン酸基の塩を有する重合体からなる群から選ばれた少なくとも1種の化合物を含み、
上記有機酸は、粒子状であり、
上記有機酸は、分子中にカルボキシ基(-COOH)を有することを特徴とするウイルス感染阻止剤。
【請求項2】
有機酸は、25℃における水への溶解度が20g/L以下であることを特徴とする請求項1に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項3】
有機酸は、複数個のカルボキシ基を有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項4】
有機酸は、25℃におけるpKaが5.5以下であることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項5】
有機酸は、25℃におけるpKaが4.6以下であることを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項6】
有機酸は、高分子であり且つ重量平均分子量が3000以上であることを特徴とする請求項1~5の何れか1項に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項7】
有機酸D90粒子径が2~25μmであることを特徴とする請求項1~6の何れか1項に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項8】
スルホン酸基の塩を有する化合物は、芳香環を有していることを特徴とする請求項1~7の何れか1項に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項9】
スルホン酸基の塩を有する化合物又は有機酸は、粒子の表面に存在していることを特徴とする請求項1~8の何れか1項に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項10】
スルホン酸基の塩を有する化合物又は有機酸は、粒子の表面に付着していることを特徴とする請求項1~8の何れか1項に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項11】
粒子は、樹脂粒子又は無機粒子であることを特徴とする請求項9又は請求項10に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項12】
樹脂粒子は、アクリル系樹脂又はスチレン系樹脂を含有することを特徴とする請求項11に記載のウイルス感染阻止剤。
【請求項13】
基材と、
上記基材に含まれた、請求項1~13の何れか1項に記載のウイルス感染阻止剤とを含有していることを特徴とするウイルス感染阻止製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルス感染阻止剤及びウイルス感染阻止製品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、季節性インフルエンザウイルスの流行に加え、新型コロナウイルス(COVID-19)が世界的に大流行している。
【0003】
又、高病原性のトリインフルエンザウイルスが変異してヒト間で感染が確認されており、更に、致死率のきわめて高いサーズウイルスも懸念されており、ウイルスへの不安感は高まる一方である。
【0004】
これらの問題に対して、特許文献1には、合成樹脂100重量部に対しスルホン酸系界面活性剤を0.5重量部以上含む抗ウイルス性合成樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-128395号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記抗ウイルス性合成樹脂組成物は、スルホン酸系界面活性剤を合成樹脂中に含有させているにすぎず、スルホン酸系界面活性剤は、十分な抗ウイルス性(ウイルス感染阻止効果)を有しておらず、ウイルス感染阻止効果に優れたウイルス感染阻止剤が所望されている。
【0007】
本発明は、優れたウイルス感染阻止効果を発揮することができるウイルス感染阻止剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のウイルス感染阻止剤は、スルホン酸基の塩を有する化合物と、有機酸とを含むことを特徴とする。
【0009】
本発明のウイルス感染阻止製品は、
基材と、
上記基材に含まれた、上記ウイルス感染阻止剤とを含有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明のウイルス感染阻止剤は、スルホン酸基の塩を有する化合物と有機酸とを含有していることから、エンベロープを有するウイルス及びエンベロープを有しないウイルスの双方に対して優れたウイルス感染阻止効果を有し、様々な種類のウイルスに対してウイルス感染阻止効果を発揮する。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のウイルス感染阻止剤は、スルホン酸基の塩を有する化合物と有機酸とを有効成分として含む。
【0012】
[スルホン酸基の塩を有する化合物]
スルホン酸基の塩を有する化合物は、分子中にスルホン酸基の塩を有している。スルホン酸基の塩を有する化合物は、スルホン酸基の塩(-SO3X:Xは、金属元素又はNH4 +)を含む分子構造部分に由来してウイルス感染阻止効果を発揮する。スルホン酸基の塩を有する化合物は、特に、エンベロープを有するウイルスに対して優れたウイルス感染阻止効果を有する。なお、スルホン酸基の塩を有する化合物は、カルボキシ基(-COOH)、チオール基(-SH)及びヒドロキシ基(-OH)を有していてもよい。
【0013】
スルホン酸基の塩としては、特に限定されず、例えば、ナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、スルホン酸マグネシウム塩、スルホン酸バリウム塩などが挙げられ、ナトリウム塩が好ましい。
【0014】
スルホン酸基の塩を有する化合物は、有機化合物であることが好ましい。本発明において、有機化合物であるとは、分子中に少なくとも1個(好ましくは2個以上)の炭素を含み且つ炭素-水素結合(C-H結合)を含む化合物をいう。
【0015】
スルホン酸基の塩を有する化合物が有機化合物であると、後述する有機酸との親和性が向上し、スルホン酸基の塩を有する化合物と有機酸とが近づき、スルホン酸基の塩を有する化合物と有機酸との間の相互作用が向上し、エンベロープを有しないウイルス(ノンエンベロープウイルス)及びエンベロープを有するウイルス(エンベロープウイルス)の双方に対するウイルス感染阻止効果が向上する。
【0016】
更に、ウイルス感染阻止剤を樹脂粒子の表面に付着させて用いる場合、スルホン酸基の塩を有する化合物が有機化合物であると、スルホン酸基の塩を有する化合物は、炭素-水素結合部分に代表される有機鎖部分(疎水性部分)において疎水性を有している。スルホン酸基の塩を有する化合物は、有機鎖部分が樹脂粒子と優れた親和性を有する一方、樹脂粒子に対して有機鎖部分よりも親和性の低いスルホン酸基の塩が外側を向き易くなり、ウイルス感染阻止効果をより効果的に発揮することができる。
【0017】
スルホン酸基の塩を有する化合物は、芳香環を有していることが好ましい。スルホン酸基の塩を有する化合物が芳香環を有していると、有機酸との親和性が向上し、スルホン酸基の塩を有する化合物と有機酸とが近づき、スルホン酸基の塩を有する化合物と有機酸との間の相互作用が向上し、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスの双方に対するウイルス感染阻止効果が向上する。
【0018】
ウイルス感染阻止剤又はこれを構成しているスルホン酸基の塩を有する化合物を樹脂粒子の表面に付着させて用いる場合、スルホン酸基の塩を有する化合物が芳香環を有していると、芳香環と樹脂粒子を構成している合成樹脂との親和性によって、スルホン酸基の塩を有する化合物は樹脂粒子表面に強固に付着した状態を維持し、スルホン酸基の塩を有する化合物の脱落を抑制し、ウイルス感染阻止剤は長期間に亘って優れたウイルス感染阻止効果を持続することができる。
【0019】
芳香環は、単環状の芳香環であっても、単環状の芳香環が複合して縮合(縮合芳香環)していてもよい。芳香環としては、特に限定されず、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニル、フェノキシフェニルなどが挙げられ、ベンゼン環及びナフタレン環が好ましい。芳香環は、芳香環及び縮合芳香環の何れか1個又は複数個の水素原子が引き抜かれ、他の原子と共有結合により結合している。
【0020】
スルホン酸基の塩を有する化合物において、スルホン酸基は、芳香環に直接又は間接的に結合していることが好ましく、芳香環に直接、結合していることがより好ましい。スルホン酸基の塩を有する化合物の芳香環と有機酸との親和性によって、スルホン酸基の塩を有する化合物と有機酸とが近づき、スルホン酸基の塩を有する化合物のスルホン酸基の塩と有機酸との相乗効果を向上させることができ、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスの双方に対するウイルス感染阻止効果を向上させることができる。
【0021】
スルホン酸基の塩を有する化合物において、スルホン酸基の塩が間接的に芳香環に結合している場合、スルホン酸基の塩は、炭素数が1~4のアルキレン基(好ましくは、メチレン基又はエチレン基)を介して芳香環に結合していることが好ましい。スルホン酸基の塩を有する化合物中の芳香環と有機酸との親和性を維持しながら、アルキレン基に起因してスルホン酸基の塩が芳香環から適度に離間した状態となり、スルホン酸基の塩をより露出させた状態に配向させることができ、ウイルス感染阻止剤は、優れたウイルス感染阻止効果を奏する。
【0022】
スルホン酸基の塩を有する化合物としては、分子中に、スルホン酸基の塩を1つ以上有しておれば、特に限定されず、例えば、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸エステル塩、線状高分子の側鎖にスルホン酸基の塩を有する重合体などが挙げられる。
【0023】
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩としては、例えば、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウム、ドデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、ドデシルベンゼンスルホン酸マグネシウム、ドデシルベンゼンスルホン酸バリウム、トリデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、トリデシルベンゼンスルホン酸アンモニウム、テトラデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、テトラデシルベンゼンスルホン酸アンモニウムなどが挙げられ、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0024】
直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩のアルキル基の炭素数は、10以上が好ましく、11以上がより好ましく、12以上がより好ましい。直鎖アルキルベンゼンスルホン酸のアルキル基の炭素数は、25以下が好ましく、20以下がより好ましく、18以下がより好ましい。アルキル基の炭素数が上記範囲であると、アルキル基に由来した疎水性部分と有機酸との親和性によって、スルホン酸基の塩を有する化合物と有機酸とが近づき、スルホン酸基の塩を有する化合物のスルホン酸基の塩と有機酸との相乗効果を向上させることができ、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスの双方に対するウイルス感染阻止効果を向上させることができる。
【0025】
α-オレフィンスルホン酸塩としては、例えば、C12~C18のオレフィンスルホン酸ナトリウム、C12~C18のオレフィンスルホン酸カルシウム、C12~C18のオレフィンスルホン酸アンモニウム、C12~C18のオレフィンスルホン酸マグネシウム、C12~C18のオレフィンスルホン酸バリウムなどが挙げられ、C14のテトラデセンスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0026】
α-オレフィンスルホン酸塩のα-オレフィンの炭素数は、12以上が好ましく、14以上が好ましい。α-オレフィンスルホン酸塩のα-オレフィンの炭素数は、22以下が好ましく、18以下がより好ましい。α-オレフィンの炭素数が上記範囲であると、スルホン酸基の塩を有する化合物のα-オレフィン鎖に由来した疎水性部分と有機酸との親和性によって、スルホン酸基の塩を有する化合物と有機酸とが近づき、スルホン酸基の塩を有する化合物のスルホン酸基の塩と有機酸との相乗効果を向上させることができ、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスの双方に対するウイルス感染阻止効果を向上させることができる。
【0027】
アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩としては、例えば、アルキル基がC6~C18のアルキルフェニルエーテルのナトリウム塩、カルシウム塩、アンモニウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩などが挙げられ、C12のドデシルジフェニルエーテルスルホン酸ナトリウムが好ましい。
【0028】
アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩のアルキル基の炭素数は、8以上が好ましく、10以上がより好ましい。アルキルジフェニルエーテルスルホン酸塩のアルキル基の炭素数は、24以下が好ましく、18以下がより好ましい。アルキル基の炭素数が上記範囲であると、スルホン酸基の塩を有する化合物のアルキル基に由来した疎水性部分と有機酸との親和性によって、スルホン酸基の塩を有する化合物と有機酸とが近づき、スルホン酸基の塩を有する化合物のスルホン酸基の塩と有機酸との相乗効果を向上させることができ、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスの双方に対するウイルス感染阻止効果を向上させることができる。
【0029】
線状高分子の側鎖にスルホン酸基の塩を有する重合体において、線状高分子としては、特に限定されず、例えば、ビニル重合体、ポリエステル、ポリウレタンが好ましく、ビニル重合体が好ましい。
【0030】
線状高分子の側鎖にスルホン酸基の塩を有する重合体としては、特に限定されず、例えば、スチレンスルホン酸塩成分を含有する重合体、スチレンスルホン酸塩単独重合体、スチレン-スチレンスルホン酸塩共重合体、ポリスチレンのベンゼン環をスルホン化した化合物のスルホン酸塩、スチレン成分を含む重合体のベンゼン環をスルホン化した化合物のスルホン酸塩などが挙げられる。
【0031】
又、線状高分子の側鎖にスルホン酸基の塩を有する重合体は、スルホン酸基の塩を有する単量体の単独重合体又は共重合体が好ましい。スルホン酸基の塩を有する単量体としては、例えば、p-スチレンスルホン酸ナトリウム、m-スチレンスルホン酸ナトリウム、o-スチレンスルホン酸ナトリウム、p-スチレンスルホン酸カルシウム、m-スチレンスルホン酸カルシウム、o-スチレンスルホン酸カルシウム、p-スチレンスルホン酸アンモニウム、m-スチレンスルホン酸アンモニウム、o-スチレンスルホン酸アンモニウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸カルシウムなどが挙げられ、スチレンスルホン酸ナトリウムが好ましく、ウイルスとの反応性において立体障害が少ないことから、p-スチレンスルホン酸ナトリウムがより好ましい。
【0032】
なお、スルホン酸基の塩を有する単量体は、他の単量体と共重合体を構成していてもよい。共重合可能な単量体としては、例えば、アルキルアクリレート、アルキルメタクリレート、ビニルアルキルエーテル、酢酸ビニル、エチレン、プロピレン、ブチレン、ブタジエン、ジイソブチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、2-ビニルナフタレン、スチレン、アクリロニトリル、アクリル酸、アクリル酸ナトリウム、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、アクリルアミド、メタクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、ビニルトルエン、キシレンスルホン酸、ビニルピリジン、ビニルスルホン酸、ビニルアルコール、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ナトリウム、メタクリル酸ヒドロキシエチルなどが挙げられるが、スチレンが好ましい。
【0033】
線状高分子の側鎖にスルホン酸基の塩を有する重合体は、汎用の方法で製造することができ、例えば、スルホン酸基の塩を有する単量体をラジカル重合する方法、スルホン酸基の塩を有する単量体とこの単量体と共重合可能な単量体とをラジカル重合する方法、スルホン酸基の塩を有する単量体成分を含む重合体のスルホン酸をアルカリ(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウムなど)を用いて中和する方法などが挙げられる。
【0034】
[有機酸]
ウイルス感染阻止剤は、有機酸を含有している。ウイルス感染阻止剤が有機酸を含有していることによって、スルホン酸基の塩を有する化合物におけるスルホン酸基の塩の遊離を促進させてノンエンベロープウイルスに対するウイルス感染阻止効果を向上させ、ウイルス感染阻止剤のエンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスに対するウイルス感染阻止効果を向上させることができる。
【0035】
更に、スルホン酸基の塩を有する化合物は、ノンエンベロープウイルスのカプシド(タンパク質の殻)を弱体化させ、有機酸によるノンエンベロープウイルスに対するウイルス感染阻止効果を向上させることができる。
【0036】
このように、ウイルス感染阻止剤は、スルホン酸基の塩を有する化合物と有機酸とを含有していることによって、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスに対するウイルス感染阻止効果を向上させている。
【0037】
有機酸は、スルホン酸基の塩を有する化合物における一部又は全てのスルホン酸基の塩の遊離を促進させることができる有機化合物であればよく、高分子でもよい。有機酸は、分子中に、カルボキシ基(-COOH)、スルホン酸基(-SO3H)、チオール基(-SH)又はヒドロキシ基(-OH)を有しており、これらの官能基の一種のみを有していてもよいし、複数種の官能基を有していてもよい。有機酸は、スルホン酸基の塩を有する化合物における一部又は全てのスルホン酸基の塩の遊離をより効果的に維持又は促進させることができ、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスに対するウイルス感染阻止効果をより向上させることができるので、カルボキシ基を有していることが好ましい。
【0038】
有機酸は、分子内にカルボキシ基(-COOH)、スルホン酸基(-SO3H)、チオール基(-SH)及びヒドロキシ基(-OH)からなる群から選ばれた官能基を複数個有していることが好ましく、カルボキシ基を複数個有していることがより好ましい。有機酸が上記官能基を複数個有していると、スルホン酸基の塩を有する化合物における一部又は全てのスルホン酸基の塩の遊離をより確実に維持又は促進させることができ、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスに対するウイルス感染阻止効果をより向上させることができる。なお、有機酸は、スルホン酸基の塩を含有していないことが好ましい。
【0039】
有機酸としては、分子中に、カルボキシ基(-COOH)、スルホン酸基(-SO3H)、チオール基(-SH)又はヒドロキシ基(-OH)を有しておれば、特に限定されず、例えば、アジピン酸(溶解度:14g/L)、安息香酸(溶解度:3.4g/L)、ラウリン酸(溶解度:0g/L)、アゼライン酸(溶解度:2.4g/L)、セバシン酸(溶解度:0.25g/L)、ドデカン二酸(溶解度:0g/L)、フマル酸(溶解度:6.3g/L)、フタル酸(溶解度:7.2g/L)、イソフタル酸(溶解度:0.13g/L)、テレフタル酸(溶解度:0.017g/L)、メチレンジサリチル酸(溶解度:0g/L)、cis-Δ4-テトラヒドロフタル酸(溶解度:0g/L)、カプロン酸(溶解度:11g/L)、エナント酸(溶解度:2.4g/L)、カプリル酸(溶解度:0.68g/L)、ペラルゴン酸(溶解度:0.28g/L)、カプリン酸(溶解度:0.15g/L)、ラウリン酸(溶解度:0.0048g/L)、ミリスチン酸(溶解度:0g/L)、パルミチン酸(溶解度:0g/L)、ステアリン酸(溶解度:0g/L)、ミリストレイン酸(溶解度:0g/L)、オレイン酸(溶解度:0g/L)、リシノール酸(溶解度:0g/L)、サリチル酸(溶解度:2.0g/L)、没食子酸水和物(溶解度:11g/L)、ベンジル酸(溶解度:1.4g/L)、4-アミノ安息香酸(溶解度:6g/L)、トリグリコラミン酸(溶解度:1.3g/L)、ポリアクリル酸(溶解度:250g/L以上)などが挙げられ、アジピン酸、フマル酸、フタル酸、安息香酸が好ましく、アジピン酸及び安息香酸がより好ましい。なお、有機酸は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。なお、括弧内に記載した溶解度は、有機酸における25℃での水への溶解度である。
【0040】
有機酸における25℃での水への溶解度は、20g/L以下が好ましく、18g/L以下がより好ましい。有機酸における25℃での水への溶解度が20g/L以下であると、スルホン酸基の塩を有する化合物の疎水性の向上に起因して、有機酸との親和性が向上し、スルホン酸基の塩を有する化合物と有機酸とが近づき、スルホン酸基の塩を有する化合物のスルホン酸基の塩と有機酸との相乗効果を向上させることができ、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスの双方に対するウイルス感染阻止効果を向上させることができる。なお、有機酸における25℃での水への溶解度は、水1Lに溶解する有機酸の質量をいう。
【0041】
有機酸における25℃での水への溶解度は、0.1g/L以上が好ましく、1g/L以上がより好ましい。有機酸における25℃での水への溶解度が0.1g/L以上であると、唾や痰などウイルスが存在するタンパク質水溶液が接触した時に、スルホン酸基の塩を有する化合物におけるスルホン酸基の塩の遊離を促進し、ノンエンベロープウイルスに対するウイルス感染阻止効果が向上する。
【0042】
有機酸は、25℃におけるpKaが5.5以下であることが好ましく、4.6以下であることがより好ましく、3.8以下であることがより好ましい。有機酸の25℃におけるpKaが5.5以下であると、スルホン酸基の塩と有機酸との相乗効果によりエンベローブウイルスに対するウイルス感染阻止効果が向上し、3.8以下であると、更にスルホン酸基の塩の遊離を促進することで、プロトンによるたんぱく質変性を起こさせ、エンベロープウイルスだけでなくノンエンベロープウイルスに対するウイルス感染阻止効果が向上する。なお、有機酸のpKaは、25℃において、滴定によって測定された値をいう。具体的には、有機酸と水酸化ナトリウムを使用して25℃において滴定を行い、半当量点(中和が完結する量の半量を滴下した点)での25℃におけるpHを測定することで、pKaを求めることができる。
【0043】
有機酸が高分子である場合、有機酸の重量平均分子量は、3000以上が好ましく、5000以上が好ましく、10000以上がより好ましく、100000以上がより好ましい。有機酸の重量平均分子量が3000以上であると、ウイルス感染阻止剤の白化及び黄変を低減することができ、基材表面にウイルス感染阻止剤を付着させた場合に、基材の外観を損なうことなく、ウイルス感染阻止効果をより効果的に発現させることができると共に、有機酸1分子当たりのウイルスとの吸着点が増大し、有機酸とウイルスとの相互作用が強くなり、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を向上させることができる。
【0044】
有機酸の重量平均分子量は、1000000以下が好ましく、900000以下がより好ましく、800000以下がより好ましく、500000以下がより好ましい。有機酸の重量平均分子量が1000000以下であると、ウイルス感染阻止剤の黄変を低減することができ、基材表面にウイルス感染阻止剤を付着させた場合に、基材の外観を損なうことなく、ウイルス感染阻止効果をより効果的に発現させることができると共に、有機酸の凝集性が低減され、結果として有機酸とウイルスとが相互作用しやすい形態となり、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。
【0045】
なお、本発明において、高分子の重量平均分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって測定されたポリスチレン換算した値である。
【0046】
例えば、下記測定装置及び測定条件にて測定することができる。
ゲルパミエーションクロマトグラフ:Waters社製 商品名「2690 Separations Model」
カラム:昭和電工社製 商品名「GPC KF-806L」
検出器:示差屈折計
サンプル流量:1mL/min
カラム温度:40℃
溶出液:THF
【0047】
有機酸は、粒子状であってもよい。粒子状の有機酸のD90粒子径は、2μm以上が好ましく、2.5μm以上がより好ましく、3μm以上がより好ましく、3.5μm以上がより好ましい。有機酸のD90粒子径は、25μm以下が好ましく、22μm以下がより好ましく、20μm以下がより好ましく、18μm以下がより好ましく、16μm以下がより好ましく、14μm以下がより好ましく、12μm以下がより好ましい。D90粒子径が2μm以上であると、有機酸全体の表面積が小さくなり、ウイルス感染阻止剤の凝集性が低減され、有機酸とウイルスとが相互作用しやすい形態となり、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。D90粒子径が25μm以下であると、ウイルス感染阻止剤の凝集を防止し且つ表面積を増加させてウイルスとの接触を容易にして、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を向上させることができると共に、有機酸が有する官能基[カルボキシ基(-COOH)、スルホン酸基(-SO3H)、チオール基(-SH)及び/又はヒドロキシ基(-OH)]同士の相互作用による有機酸の結晶化による白化を概ね防止することができる。
【0048】
粒子状の有機酸のD90粒子径は、後述するように、レーザー散乱法による体積基準の粒度分布における頻度の累積(粒径が小さい粒子からの累積)が90%となる粒子径(90%累積粒子径)である。有機酸のD90粒子径を好ましくは2~25μmに調整し、有機酸中において粒子径が大きい粒子の粒子径を所定範囲に調整することによって、有機酸に粗大粒子が含まれることを低減している。有機酸は、分子中に官能基[カルボキシ基(-COOH)、スルホン酸基(-SO3H)、チオール基(-SH)及び/又はヒドロキシ基(-OH)]を有しているが、有機酸の粒子径を上記範囲に調整することによって、有機酸に存在する上記官能基の量を調整し、ウイルス感染阻止剤に優れたウイルス感染阻止効果を付与していると共に、有機酸の有する上記官能基同士の相互作用による有機酸の結晶化による白化を低減化している。
【0049】
粒子状の有機酸のD50粒子径は、0.5μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましく、1.5μm以上がより好ましく、2.0μm以上がより好ましい。粒子状の有機酸のD50粒子径は、14μm以下が好ましく、12μm以下がより好ましく、11μm以下がより好ましい。
【0050】
粒子状の有機酸において、D50粒子径を上述の範囲内(好ましくは、0.5~14μm)に且つD90粒子径を2~25μmとすることによって、有機酸中に、D50粒子径から大きく離れた粒子径を有する粗大粒子が含まれることを低減し、有機酸の粒子径をより適正な大きさとすることができる。
【0051】
そして、有機酸の粒子径をより適正な範囲に調整することによって、有機酸表面に存在する上記官能基の量をより適正に調整し、ウイルス感染阻止剤に優れたウイルス感染阻止効果をより効果的に付与していると共に、有機酸の有する上記官能基同士の相互作用による有機酸の結晶化による白化をより効果的に低減している。
【0052】
有機酸のD90粒子径及びD50粒子径はそれぞれ、レーザー散乱法による体積基準の粒度分布における頻度の累積(粒径が小さい粒子からの累積)が90%及び50%となる粒子径(90%累積粒子径及び50%累積粒子径)をいう。有機酸が複数種類の有機酸を含む場合、有機酸のD90粒子径及びD50粒子径は、有機酸全体を基準として測定された値とする。
【0053】
有機酸は、1気圧(1013.25hPa)及び25℃において固体であることが好ましい。有機酸が1気圧及び25℃において固体であると、加工された塗膜などのウイルス感染阻止製品の表面に出やすくなり、ウイルスと接触しやすくなって、ウイルス感染阻止効果が向上する。
【0054】
ウイルス感染阻止剤において、有機酸の含有量は、スルホン酸基の塩を有する化合物100質量部に対して5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、20質量部以上がより好ましい。有機酸の含有量が5質量部以上であると、スルホン酸基の塩を有する化合物における一部のスルホン酸基の塩の遊離をより確実に維持又は促進させることができ、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスに対するウイルス感染阻止効果をより向上させることができる。
【0055】
ウイルス感染阻止剤において、有機酸の含有量は、スルホン酸基の塩を有する化合物100質量部に対して8000質量部以下が好ましく、6000質量部以下がより好ましく、4000質量部以下がより好ましい。有機酸の含有量が8000質量部以下であると、スルホン酸基の塩を有する化合物と有機酸との相乗効果によって、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスに対するウイルス感染阻止効果をより向上させることができる。
【0056】
[ウイルス感染阻止剤]
ウイルス感染阻止剤は、スルホン酸基の塩を有する化合物と有機酸(スルホン酸基を有する化合物を除く)とを有効成分として含有してなるが、ウイルス感染阻止剤の製造方法は、特に限定されず、スルホン酸基の塩を有する化合物と有機酸(スルホン酸基を有する化合物を除く)とを汎用の要領で均一に混合してウイルス感染阻止剤を製造することができる。
【0057】
なお、ウイルス感染阻止効果とは、ウイルスの細胞への感染力をなくし或いは低下させ又は感染しても細胞中で増殖できなくする効果をいう。このようなウイルスの感染性の有無を確認する方法としては、例えば、繊維製品ではISO18184やJIS L1922、繊維製品以外のプラスチックや非多孔質表面の製品では、ISO21702が挙げられる。抗菌製品技術協議会(SIAA)は、抗ウイルス加工剤の安全性と一定の抗ウイルス効果の基準を満たす製品に抗ウイルス加工マークを認証しており、抗ウイルス効果の基準は、ISO21702の評価においてブランク品(抗ウイルス加工剤の無添加品)のウイルス感染価の常用対数値と加工品(抗ウイルス加工剤の添加品)のウイルス感染価の常用対数値との差(抗ウイルス活性値)が2.0以上である。ウイルス感染阻止剤は抗ウイルス加工剤の成分として使用され、樹脂中に練り込まれたり、塗料などの表面コーティング剤に添加して使用され、上記の評価方法で評価される。
【0058】
本発明においては、例えば、以下の条件でウイルス感染阻止効果を評価した際に、ブランク品と加工品とのウイルス感染価の常用対数値の差(抗ウイルス活性値)が2.0以上である製品をウイルス感染阻止剤として定義する。その際、評価するウイルスの種類を問わず、少なくとも1種のウイルスにおいて、ブランク品と加工品とのウイルス感染価の常用対数値の差(抗ウイルス活性値)が2.0以上となるものをウイルス感染阻止剤として扱う。
【0059】
ウイルス感染阻止剤50mgを無溶剤型の紫外線硬化性アクリル系樹脂(日立化成社製 商品名「テスラック2328」)950mg中に供給して均一に混合し塗料を作製する。得られた塗料をポリエステルフィルム上に塗布した後、UVコンベア装置アイグランテージ[アイグラフィックス株式会社製、照射器反射板:コールドミラー集光型、UVランプ:H03-L31(発光長250mm)]を用いて、塗料に照射光量512mJ/cm2の紫外線を当てて紫外線硬化性アクリル系樹脂を硬化させ、膜厚が15μmの塗膜を形成し、試験塗膜とする。
【0060】
得られた試験塗膜の抗ウイルス試験をISO21702に準拠して行う。反応後のウイルス懸濁液について、プラック法により試験塗膜のウイルス感染価を算出する。ウイルス感染阻止剤を含有させないこと以外は上記と同様の要領でブランク塗膜を作製し、このブランク塗膜に基づいて上記と同様の要領でウイルス感染価(常用対数値)(PFU/cm2)を算出する。ブランク塗膜のウイルス感染価から試験塗膜のウイルス感染価を引くことによって、ウイルス感染価の常用対数値の差(抗ウイルス活性値)を算出する。
【0061】
他にも「医・薬科ウイルス学」(1990年4月初版発行)に記載されているようなプラック法や赤血球凝集価(HAU)測定法などが挙げられる。
【0062】
ウイルス感染阻止剤は、スルホン酸基の塩を有する化合物と有機酸(スルホン酸基を有する化合物を除く)との相乗効果によって、各種ウイルスに対してウイルス感染阻止効果を有し、エンベロープウイルス及びノンエンベロープウイルスの双方に対して優れたウイルス感染阻止効果を発揮する。
【0063】
エンベロープウイルスとしては、例えば、インフルエンザウイルス(例えばA型、B型等)、風疹ウイルス、エボラウイルス、コロナウイルス[例えば、SARSウイルス、新型コロナウイルス(SARS―CoV―2)]、麻疹ウイルス、水痘・帯状疱疹ウイルス、単純ヘルペスウイルス、ムンプスウイルス、アルボウイルス、RSウイルス、肝炎ウイルス(例えば、B型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス等)、黄熱ウイルス、エイズウイルス、狂犬病ウイルス、ハンタウイルス、デングウイルス、ニパウイルス、リッサウイルスなどが挙げられる。
【0064】
ノンエンベロープウイルスとしては、例えば、アデノウイルス、ノロウイルス、ロタウイルス、ヒトパピローマウイルス、ポリオウイルス、エンテロウイルス、コクサッキーウイルス、ヒトパルボウイルス、脳心筋炎ウイルス、ポリオウイルス、ライノウイルスなどが挙げられる。
【0065】
ウイルス感染阻止剤は、これを構成するスルホン酸基の塩を有する化合物又は有機酸を樹脂粒子の表面に存在させて用いることが好ましい。ウイルス感染阻止剤は、これを構成するスルホン酸基の塩を有する化合物又は有機酸を樹脂粒子の表面に付着(担持)させて用いることが好ましい。又、ウイルス感染阻止剤は、これを構成するスルホン酸基の塩を有する化合物及び有機酸を粒子の表面に付着(担持)させて用いることがより好ましい。ウイルス感染阻止剤を構成しているスルホン酸基の塩を有する化合物又は有機酸を少なくとも粒子の表面に付着させておくことによって、ウイルス感染阻止剤を塊状となることなく、後述する基材に均一に分散させることができる。従って、ウイルス感染阻止剤の表面積を大きくすることができ、ウイルス感染阻止剤とウイルスとの接触を十分に確保し、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を十分に発揮させることができる。
【0066】
ウイルス感染阻止剤、スルホン酸基の塩を有する化合物又は有機酸を表面に付着させる粒子としては、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を阻害しなければ、特に限定されない。ウイルス感染阻止剤、スルホン酸基の塩を有する化合物又は有機酸を表面に付着させる粒子としては、樹脂粒子及び無機粒子が好ましい。樹脂粒子を構成している合成樹脂としては、例えば、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ABS樹脂;スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)などの合成ゴムなどが挙げられ、アクリル系樹脂又はスチレン系樹脂を含むことが好ましく、スチレン系樹脂を含むことがより好ましく、ポリスチレンを含むことがより好ましい。なお、合成樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0067】
樹脂粒子中におけるアクリル系樹脂の含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%以上がより好ましい。
【0068】
樹脂粒子中におけるスチレン系樹脂の含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上がより好ましく、100質量%以上がより好ましい。
【0069】
スチレン系樹脂としては、特に限定されず、例えば、スチレン、メチルスチレン、エチルスチレン、i-プロピルスチレン、ジメチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンなどのスチレン系モノマーをモノマー単位として含む単独重合体又は共重合体、スチレン系モノマーと、このスチレン系モノマーと共重合可能な一種又は二種以上のビニルモノマーとをモノマー単位として含む共重合体などが挙げられる。
【0070】
スチレン系モノマーと共重合可能なビニルモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸エステル(アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなど)、メタクリル酸エステル(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチルなど)などのアクリル系モノマー、無水マレイン酸、アクリルアミドなどが挙げられる。
【0071】
樹脂粒子を構成している合成樹脂は、芳香環を含有していることが好ましい。芳香環が、樹脂粒子の表面に付着しているスルホン酸基の塩を有する化合物の疎水性部分を引き付け、親水性を有するスルホン酸基の塩を外方に配向させる作用を奏し、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果をより効果的に発揮させることができる。
【0072】
無機粒子を構成している無機材料としては、特に限定されず、例えば、シリカ、シリカゲル、ゼオライト、ハイドロタルサイト、炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、珪藻土、カオリン、タルク、水酸化アルミニウム、酸化チタン、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化マンガン、酸化鉄、酸化アルミニウム、硫酸バリウム、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、リン酸ジルコニウム、炭化ジルコニウム、ガラス、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、炭化ケイ素、活性炭、トバモライト、モンモリロナイト、ベントナイト、鉄、スズ、アルミニウム、亜鉛、銅、チタン、ニッケル、各種合金などが挙げられる。なお、無機材料は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0073】
粒子のD50粒子径は、0.1μm以上が好ましく、1μm以上がより好ましい。粒子のD50粒子径は、30μm以下が好ましく、15μm以下がより好ましい。粒子のD50粒子径が0.1μm以上であると、粒子の表面積が小さくなり、ウイルス感染阻止剤の凝集性が低減され、ウイルス感染阻止剤とウイルスとが相互作用しやすい形態となり、ウイルス感染阻止効果が向上する。粒子のD50粒子径が30μm以下であると、ウイルス感染阻止剤の凝集を防止し且つ表面積を増加させてウイルスとの接触を容易にして、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果が向上する。
【0074】
粒子のD50粒子径はそれぞれ、レーザー散乱法による体積基準の粒度分布における頻度の累積(粒径が小さい粒子からの累積)が50%となる粒子径(50%累積粒子径)をいう。粒子が複数種類の粒子を含む場合、粒子のD50粒子径は、粒子全体を基準として測定された値とする。
【0075】
樹脂粒子に対するウイルス感染阻止剤の付着量は、樹脂粒子100質量部に対して1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、7質量部以上がより好ましく、10質量部以上がより好ましい。ウイルス感染阻止剤の付着量が1質量部以上であると、樹脂粒子の表面にウイルス感染阻止剤を均一に付着させることができ、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果をより効果的に発揮させることができる。
【0076】
樹脂粒子に対するウイルス感染阻止剤の付着量は、樹脂粒子100質量部に対して50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がより好ましい。ウイルス感染阻止剤の付着量が50質量部以下であると、ウイルス感染阻止剤同士の結合が行われず、効率的に樹脂粒子表面にウイルス感染阻止剤が配置されウイルス感染阻止効果が向上する。
【0077】
樹脂粒子に対するスルホン酸基の塩を有する化合物の付着量は、樹脂粒子100質量部に対して1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、7質量部以上がより好ましく、10質量部以上がより好ましい。スルホン酸基の塩を有する化合物の付着量が1質量部以上であると、樹脂粒子の表面にスルホン酸基の塩を有する化合物を均一に付着させることができ、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果をより効果的に発揮させることができる。
【0078】
樹脂粒子に対するスルホン酸基の塩を有する化合物の付着量は、樹脂粒子100質量部に対して50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がより好ましい。スルホン酸基の塩を有する化合物の付着量が50質量部以下であると、スルホン酸基の塩を有する化合物同士の結合が行われず、効率的に樹脂粒子表面にスルホン酸基の塩を有する化合物が配置されウイルス感染阻止効果が向上する。
【0079】
樹脂粒子表面へのウイルス感染阻止剤、スルホン酸基の塩を有する化合物又は有機酸の付着要領は、特に限定されず、例えば、ウイルス感染阻止剤、スルホン酸基の塩を有する化合物又は有機酸自体の接着力によってもよいし、バインダー樹脂を用いて樹脂粒子の表面にウイルス感染阻止剤、スルホン酸基の塩を有する化合物又は有機酸を接着してもよいが、ウイルス感染阻止剤のウイルス感染阻止効果を効果的に発揮させることができるので、ウイルス感染阻止剤に含まれているスルホン酸基の塩を有する化合物自体の接着力によって、ウイルス感染阻止剤が樹脂粒子の表面に付着していることが好ましい。
【0080】
ウイルス感染阻止剤は、ウイルス感染阻止効果を付与したい基材に含有させて用いられ、ウイルス感染阻止剤を含有する基材は、ウイルス感染阻止製品としてウイルス感染阻止効果を発現する。
【0081】
ウイルス感染阻止剤を含有させる基材としては、ウイルス感染阻止剤を含有させることができれば、特に限定されず、例えば、合成樹脂成形体、塗料、壁紙、化粧シート、床材、繊維製品(織物、不織物、編物)、車輛(例えば、車、飛行機、船など)用の内用品及び内装材(シート、チャイルドシート及びこれらを構成している発泡体など)、キッチン用品、ベビー用品、建築内装材などが挙げられる。
【0082】
塗料としては、従来公知の塗料が用いられ、例えば、油性塗料(例えば、調合ペイント、油ワニスなど)、セルロース塗料、合成樹脂塗料などが挙げられる。塗料には、その物性を損なわない範囲内において、顔料、可塑性、硬化剤、増量剤、充填剤、老化防止剤、増粘着、界面活性剤などの添加剤が含有されていてもよい。なお、塗料中にウイルス感染阻止剤を含有させる方法としては、例えば、ウイルス感染阻止剤と塗料とを分散装置に供給して均一に混合する方法などが挙げられる。なお、分散装置としては、例えば、ハイスピードミル、ボールミル、サンドミルなどが挙げられる。
【0083】
建築内装材とは、特に限定されず、例えば、床材、壁紙、天井材、塗料、ドアノブ、スイッチ、スイッチカバー、ワックスなどを挙げることができる。
【0084】
車輛内用品及び車輛内装材とは、特に限定されず、例えば、シート、チャイルドシート、シートベルト、カーマット、シートカバー、ドア、天井材、フロアマット、ドアトリム、インパネ、コンソール、グローブボックス、吊り革、手すりなどを挙げることができる。
【実施例
【0085】
以下に、本発明を実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0086】
[カルボキシ基含有化合物1~5の作製]
表1に示した所定量のアクリル酸及びアクリル酸メチルを混合してアクリルモノマー溶液を得た。得られたアクリルモノマー溶液に、ラジカル重合開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキサン-1-イルフェニルケトン(IGM Resins B.V.社製 商品名「Omnirad 184」)を表1に示した所定量添加して溶解させて原料組成物を作製した。
【0087】
原料組成物をポリエチレンフィルム上にワイヤーバーコーター♯14を用いて塗工し、厚み35μmの塗工層を形成した。UVコンベア装置(アイグラフィックス社製 商品名「ECS301G1」)を用いて25℃にて塗工層に波長365nmの紫外線を積算光量が2000mJ/cm2となるように照射してラジカル重合を行って、ウイルス感染阻止化合物として、カルボキシ基含有化合物(線状高分子の側鎖にカルボキシ基を有するポリマー)1~5を得た。
【0088】
【表1】
【0089】
[有機酸の粒子の作製]
表2に示した有機酸をロールプレス装置(セイシン企業社 商品名「150型」)を用いて回転数25rpm、押力25tの運転条件にて粗粉砕後、ジェットミル装置(日清エンジニアリング社製 商品名「SJ-500」)を用いて、表2に示した供給速度及び圧縮空気圧力0.75MPaの運転条件下にて粉砕して有機酸の粒子を得た。なお、オレイン酸は、融点が室温(25℃)以下のため、粒子化できなかった。
【0090】
[カルボキシ基含有化合物2の粒子が表面に付着した樹脂粒子の作製]
カルボキシ基含有化合物2の粒子5質量部とD50粒子径4μmを有するポリスチレン粒子(一次粒子)10質量部とを水100質量部に供給し、スプレードライヤーを用いてアトマイザー回転速度20000rpmにて粉体化し、ポリスチレン粒子の表面にカルボキシ基含有化合物2の粒子全量を付着(担持)させた後、ジェットミル装置(日清エンジニアリング社製 商品名「SJ-500」)を用いて、原料供給速度1kg/h、圧縮空気圧力0.75MPaの運転条件下にて粉砕し、カルボキシ基含有化合物2の粒子が表面に付着した樹脂粒子を得た。なお、表2において、「カルボキシ基含有化合物2の粒子が表面に付着した樹脂粒子」は、「樹脂粒子付着カルボキシ基含有化合物2」と表記した。
【0091】
[カルボキシ基含有化合物2の粒子が表面に付着した無機粒子の作製]
カルボキシ基含有化合物2の粒子5質量部とD50粒子径6μmを有するシリカ粒子(一次粒子)10質量部を水100質量部に供給し、スプレードライヤーを用いてアトマイザー回転速度20000rpmにて粉体化し、シリカ粒子の表面にカルボキシ基含有化合物2の粒子全量を付着(担持)させた後、ジェットミル装置(日清エンジニアリング社製 商品名「SJ-500」)を用いて、原料供給速度1kg/h、圧縮空気圧力0.75MPaの運転条件下にて粉砕し、カルボキシ基含有化合物2の粒子が表面に付着したシリカ粒子を得た。なお、表2において、「カルボキシ基含有化合物2の粒子が表面に付着したシリカ粒子」は、「無機粒子付着カルボキシ基含有化合物2」と表記した。
【0092】
(実施例1~11、16~20及び比較例1)
表2に示した塩化合物100質量部と、表2に示した有機酸の粒子900質量部とを均一に混合してウイルス感染阻止剤を作製した。なお、オレイン酸は、融点が室温(25℃)以下であったため、粒子化せずに用いた。
【0093】
(実施例12~15)
表2に示した塩化合物50質量部及びD50粒子径が4μmのポリスチレン粒子(一次粒子)150質量部を水800質量部に供給し、スプレードライヤー(アトマイザー回転速度:20000rpm)で粉体化して、ポリスチレン粒子の表面に塩化合物の全量を付着(担持)させた。塩化合物が付着(担持)されたポリスチレン粒子100質量部と、表2に示した有機酸の粒子900質量部とを均一に混合してウイルス感染阻止剤を作製した。
【0094】
(実施例21)
表2に示した塩化合物100質量部と、表2に示した樹脂粒子付着カルボキシ基含有化合物2の粒子900質量部とを均一に混合してウイルス感染阻止剤を作製した。
【0095】
(実施例22)
表2に示した塩化合物100質量部と、表2に示した無機粒子付着カルボキシ基含有化合物2の粒子900質量部とを均一に混合してウイルス感染阻止剤を作製した。
【0096】
(比較例2)
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム100質量部をウイルス感染阻止剤とした。
【0097】
(比較例3)
アジピン酸の粒子100質量部をウイルス感染阻止剤とした。
【0098】
得られたウイルス感染阻止剤について、インフルエンザウイルス(エンベロープウイルス)及びネコカリシウイルス(ノンエンベロープウイルス)を用いて抗ウイルス試験を行い、その結果を表3に示した。
【0099】
ウイルス感染阻止剤に含まれている有機酸について、1気圧下での融点、25℃での水への溶解度、25℃でのpKa、分子量(高分子の場合は重量平均分子量)、D90粒子径及びD50粒子径を表2に示した。なお、表2において、「1気圧下での融点」及び「25℃での水への溶解度」は、単に「融点」及び「溶解度」と表記した。
【0100】
(抗ウイルス試験)
ウイルス感染阻止剤50mgを無溶剤型の紫外線硬化性アクリル系樹脂(日立化成社製 商品名「テスラック2328」)950mg中に供給して均一に混合し塗料を作製した。得られた塗料をポリエステルフィルム上に塗布した後、UVコンベア装置アイグランテージ[アイグラフィックス株式会社製、照射器反射板:コールドミラー集光型、UVランプ:H03-L31(発光長250mm)]を用いて、塗料に照射光量512mJ/cm2の紫外線を当てて紫外線硬化性アクリル系樹脂を硬化させて膜厚が15μmの塗膜を形成した。なお、ウイルス感染阻止剤をポリスチレン粒子又はシリカ粒子に付着(担持)させている場合は、ウイルス感染阻止剤が50mgとなるように調整した。
【0101】
得られた塗膜の表面を一辺が10cmの平面正方形状の不織布(日本製紙クレシア社製 商品名「キムワイプ S-200」)に1mLの水を染み込ませ、塗膜表面を不織布で10往復させて拭き取り、試験塗膜とした。
【0102】
得られた試験塗膜の抗ウイルス試験をISO21702に準拠して行った。反応後のウイルス懸濁液について、プラック法により試験塗膜のウイルス感染価を算出した。
【0103】
ウイルス感染阻止剤を含有させないこと以外は上記と同様の要領でブランク塗膜を作製し、このブランク塗膜に基づいて上記と同様の要領でウイルス感染価(常用対数値)(PFU/cm2)を算出した。ブランク塗膜のウイルス感染価(常用対数値)は、6.5PFU/cm2であった。
【0104】
ブランク塗膜のウイルス感染価から試験塗膜のウイルス感染価を引くことによって抗ウイルス活性値を算出した。
【0105】
実施例で行った抗ウイルス試験では、「発明を実施するための形態」にて記載したウイルス感染価の測定方法において、水を染み込ませた不織布で塗膜の表面を拭き取っている。拭き取った後の塗膜を試験塗膜としている。
【0106】
塗膜の表面を上記不織布で拭き取ることによって、塗膜の有するウイルス感染阻止効果が低下する。即ち、実施例では、より厳しい条件にてウイルス試験を行っている。実施例で得られた抗ウイルス活性値は、「発明を実施するための形態」に記載の測定方法で得られた抗ウイルス活性値よりも低くなる。従って、実施例の抗ウイルス試験で得られた抗ウイルス活性値が2以上である場合、ウイルス感染阻止剤は、ウイルス感染阻止効果を有していると判断できる。
【0107】
(ヘイズ値)
抗ウイルス試験の時と同様の要領で試験塗膜を作製した。得られた試験塗膜のヘイズをJIS K 7361に準拠して評価した。室温25℃及び相対湿度40%の環境下にて、ヘイズメータ(村上色彩技術研究所社製 商品名「HM-150」)を用いてヘイズ値(%)を測定した。
【0108】
【表2】
【0109】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明のウイルス感染阻止剤は、スルホン酸基の塩を有する化合物と有機酸とを含有していることから、エンベロープを有するウイルス及びエンベロープを有しないウイルスの双方に対して優れたウイルス感染阻止効果を有し、様々な種類のウイルスに対してウイルス感染阻止効果を発揮する。
【0111】
本発明のウイルス感染阻止剤を基材に含有させることによって、基材に優れたウイルス感染阻止効果を付与することができる。
【0112】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2021年3月12日に出願された日本国特許出願第2021-040825号に基づく優先権を主張し、この出願の開示はこれらの全体を参照することにより本明細書に組み込まれる。