(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ハイフローシステム
(51)【国際特許分類】
A61M 16/00 20060101AFI20231221BHJP
A61M 16/06 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
A61M16/00 305A
A61M16/06 A
(21)【出願番号】P 2022124563
(22)【出願日】2022-08-04
【審査請求日】2022-08-04
(73)【特許権者】
【識別番号】523402936
【氏名又は名称】カフベンテックジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094536
【氏名又は名称】高橋 隆二
(73)【特許権者】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094536
【氏名又は名称】高橋 隆二
(74)【代理人】
【識別番号】100129805
【氏名又は名称】上野 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100189315
【氏名又は名称】杉原 誉胤
(72)【発明者】
【氏名】小野寺 悠
(72)【発明者】
【氏名】石山 智之
(72)【発明者】
【氏名】早坂 達哉
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 博人
(72)【発明者】
【氏名】中根 正樹
(72)【発明者】
【氏名】川前 金幸
【審査官】岡本 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-129088(JP,A)
【文献】特開2022-002739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/00
A61M 16/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイフローセラピーに用いられるハイフローシステムであって、
酸素と空気を混合したガスを生成し供給するフロージェネレータと、
前記フロージェネレータのガス送気口に接続されたガス供給管と、
一端部が前記ガス供給管に接続され且つ他端部がユーザの鼻部に装着された鼻カニューレと、
ユーザの口及び鼻との間に空隙部を形成した状態で口及び鼻を覆うマスクとを有し、
前記マスクは、呼気口が設けられているとともに、前記鼻カニューレのチューブが気密に挿通され、前記ユーザの口及び鼻との間の空隙部に、当該ユーザに装着された当該鼻カニューレの鼻腔管が配置され、
前記呼気口には、前記空隙部の圧力を調整する圧力調整ユニットが取り付けられ、前記空隙部の圧力が所定圧力に維持されるようになっていることを特徴とするハイフローシステム。
【請求項2】
前記圧力調整ユニットは、
前記マスクの呼気口に取り付けられるT字管アダプタと、
前記T字管アダプタの先端部に接続される圧力調整バルブと、
前記T字管アダプタの分岐管部に接続されるエルボ管コネクタと、
前記エルボ管コネクタの先端部に接続された、ユーザの呼吸を確保するための安全弁とを有し、
前記圧力調整バルブが、前記空隙部の圧力を所定圧力に維持するようになっていることを特徴とする請求項1に記載のハイフローシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイフローシステム及び圧力調整ユニットに関し、例えば、ユーザの鼻部に装着した鼻カニューレを介して、当該ユーザに酸素と空気を混合したガスを供給する、ハイフローセラピーに用いられるハイフローシステム及び当該ハイフローシステムに用いられる圧力調整ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ユーザ(患者)の鼻部に装着した鼻カニューレを介して、ユーザ(患者)に高流量で高濃度の酸素を含むガスを供給するハイフローセラピー(高流量酸素療法)が広まっている。例えば、特許文献1には、ハイフローセラピーに用いられる高流量ガス送気装置が開示されている。
【0003】
特許文献1に記載の高流量ガス送気装置は、装置本体と、装置本体に接続されてユーザにガスを送気するための呼吸回路(送風管)とを備えている。また、呼吸回路の端部には、ユーザの鼻部に装着される鼻カニューレが接続され、その鼻カニューレからユーザに、高流量の「酸素を含むガス」が送気されるようになっている。
【0004】
また、上記のようなハイフローシステムに用いられる装置は、本願出願人のカフベンテック株式会社も販売しており、カフベンテック株式会社が提供するWebサイト(非特許文献1)の製品情報を紹介するWebページにも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】カフベンテック株式会社Webサイト,「製品情報>ハイフローセラピーを提示したWebページ」、[2022年6月27日検索]、インターネット <URL https://www.c-ventec.jp/project-cat/flo/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来技術のハイフローセラピーに用いられる装置(特許文献1に記載の高流量ガス送気装置や非特許文献1に記載の装置)は、PEEP(呼吸終末陽圧)が「2~4cmH20程度」しかかからないため、適応患者が制限されるという課題を有している。現状ではHFNCで対応困難なPEEPを要する肺の状態が悪い患者に対してはPEEPを負荷できるNon-Invasive Positive Pressure Ventilation (NPPV)を使用することになる。しかしながらNPPVではHFNCで得られる死腔の洗い流し効果による換気量を減らし肺への負担を減らす効果が無い。ゆえにHFNC使用下に換気量を減らし肺への負担を減らしつつ、臨床的に効果の見込めるPEEPを負荷及び制御できるようになればより肺保護的な呼吸管理が可能となる。加えて現状の医療現場では、肺の状態が悪い患者に対して、患者に身体的負担がかかる人工呼吸器を利用する必要があった。また、人工呼吸器は、医療従事者の業務負担も大きいという課題も有している。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、ハイフローセラピーに用いられるハイフローシステムであって、死腔の洗い流し効果により換気量を減らしながら臨床的に意義のあるPEEPをかけることができ、多くの肺機能状態の患者に適用できるハイフローシステムを提供することにある。また、本発明は、前記ハイフローシステムに用いられる圧力調整ユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明は、ハイフローセラピーに用いられるハイフローシステムであって、酸素と空気を混合したガスを生成し供給するフロージェネレータと、前記フロージェネレータのガス送気口に接続されたガス供給管と、一端部が前記ガス供給管に接続され且つ他端部がユーザの鼻部に装着された鼻カニューレと、ユーザの口及び鼻との間に空隙部を形成した状態で口及び鼻を覆うマスクとを有し、前記マスクは、呼気口が設けられているとともに、前記鼻カニューレのチューブが気密に挿通され、前記ユーザの口及び鼻との間の空隙部に、当該ユーザに装着された当該鼻カニューレの鼻腔管が配置され、前記呼気口には、前記空隙部の圧力を調整する圧力調整ユニットが取り付けられ、前記空隙部の圧力が所定圧力に維持されるようになっていることを特徴とする。
【0010】
このように、本発明のハイフローシステムによれば、マスクに設けられた呼気口に、マスクとユーザの口及び鼻との間に形成された空隙部の圧力を調整する圧力調整ユニットが接続され、空隙部の圧力が所定圧力に維持されるようになっている。
この構成によれば、本発明のハイフローシステムによりガスを供給されるユーザに対して設定した任意のPEEPをかけることができる。その結果、本発明によれば、従来技術のハイフローセラピーに用いられる装置(特許文献1に記載の高流量ガス送気装置や非特許文献1に記載の装置)と比べて、適応患者が広がることが期待できる。また、本発明のハイフローシステムは、肺の状態が重症化する患者にも使えるため、患者(ユーザ)及び医療従事者の両者の負担となる人工呼吸器への移行を減らすことが期待できる。
【0011】
また、前記圧力調整ユニットは、前記マスクの呼気口に取り付けられるT字管アダプタと、前記T字管アダプタの先端部に接続される圧力調整バルブと、前記T字管アダプタの分岐管部に接続される、ユーザの吸気流量がハイフローシステムから供給される医療ガスの流量を上回った際にマスク内が陰圧になって吸気困難になる事を回避するための安全弁とを有し、前記圧力調整バルブが、前記空隙部の圧力を所定圧力に維持するようになっていることが望ましい。
このように、本発明の圧力調整ユニットは、比較的単純な部品により構成されており、大幅なコストアップを招くことなく、従来技術のハイフローセラピーの課題を解消できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ハイフローセラピーに用いられるハイフローシステムであって、死腔の洗い流し効果により換気量を減らしながら臨床的に意義のあるPEEPをかけることができ、多くの肺機能状態の患者に適用できるハイフローシステムを提供することができる。また、本発明によれば、前記ハイフローシステムに用いる圧力調整ユニットを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態のハイフローシステムの構成を示した模式図である。
【
図2】本発明の実施形態のハイフローシステムを構成するマスクから圧力調整ユニットを取り外した状態を示した模式図である。
【
図3】本発明の実施形態のハイフローシステムを構成するマスクの内側に形成された空隙部の圧力を調整する圧力調整ユニットの構成を説明するための模式図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態のハイフローシステムについて図面に基づいて説明する。
【0016】
《ハイフローシステムの全体構成》
先ず、本実施形態のハイフローシステムの全体構成について
図1、2を用いて説明する。
【0017】
本実施形態のハイフローシステムは、患者(ユーザ)に「酸素と空気を混合したガス(加圧ガス)」を生成し供給する加温加湿機能内蔵フロージェネレータ(以下、単に「フロージェネレータ」)50と、フロージェネレータ50のガス送気口51に接続されたガス供給管55と、一端部がガス供給管55に接続され且つ他端部がユーザの鼻部に装着された鼻カニューレ100と、ユーザの口及び鼻との間に空隙部を形成した状態で口及び鼻を覆うマスク200とを備えている。
また、マスク200は、呼気口213が設けられているとともに、鼻カニューレ100のチューブ101が気密に挿通され、ユーザの口及び鼻との間の空隙部に、ユーザに装着された鼻カニューレ100の鼻腔管が配置されている。
【0018】
また、マスク200の呼気口213には、マスク200とユーザとの間に形成された空隙部の圧力を調整する圧力調整ユニットWが取り付けられ、上記の空隙部の圧力が所定圧力に維持されるようになっている。
なお、上記のフロージェネレータ50及び鼻カニューレ100は、周知技術であるため、以下では説明を簡略化する。
【0019】
フロージェネレータ50は、装置全体の動作を制御する制御部(制御回路基板)と、ユーザからの操作を受け付ける操作部と、「酸素と空気を混合したガス(医療ガス)」を発生させるブロワ部と、ブロワ部が発生させたガスを加温加湿する加温加湿部と、加温加湿したガス(加圧ガス)が送気される送気口51と、各部(制御部、操作部、ブロワ部、加温加湿部)に電力を供給する電源部とを有している。
【0020】
また、送気口51には、フロージェネレータ50が発生し送気したガスの流路となるガス供給管55が接続され、このガス供給管55の先端部に鼻カニューレ100のチューブ101が接続されるようになっている。
なお、フロージェネレータ50には、例えば、本願出願人のカフベンテック株式会社が販売している「ハイフローセラピー VUN-001」を用いることができる。
【0021】
鼻カニューレ100は、フロージェネレータ50に接続されたガス供給管55に接続されるチューブ101と、チューブ101に接続された鼻腔管(図示せず)とを備えており、ユーザの鼻部に鼻腔管が装着されようになっている。そして、フロージェネレータ50から送気されるガス(高濃度の酸素を含む医療ガス)は、「ガス供給管55、チューブ101及び鼻腔管」を介してユーザに供給される。
【0022】
マスク200は、ユーザの顔部に当接させた状態で装着される略環状の密封性クッション部210と、密封性クッション部210の上端部から延設されている略ドーム状の本体部212とを備え、その外周部に、ヘッドバンドHBが取り付けられ、このヘッドバンドHBにより、マスク200がユーザの顔部に固定されるようになっている。
また、マスク200は、ユーザに装着されると、ユーザの口及び鼻との間に空隙部を形成した状態で口及び鼻を覆うようになっている。
なお、密封性クッション部210及び本体部212は、例えば、合成樹脂等により形成されている。
【0023】
また、マスク200の本体部212は、その中央部に、両端が貫通している中空円筒状の呼気口213が突設しているとともに、呼気口213の左右両側に、鼻カニューレ100のチューブ101を気密に挿通させるためのシーリング部215が設けられている。このシーリング部215には、鼻カニューレ100のチューブ101が気密に挿通され、ユーザの口及び鼻との間の空隙部に、鼻カニューレ100の鼻腔管が配置され、ユーザの鼻部に鼻腔管が装着される。
なお、フロージェネレータ50の設置可能な位置に応じて、左右のシーリング部215のうちの一方に、鼻カニューレ100のチューブ101が挿通される。
【0024】
また、マスク200の呼気口213に、マスク200の内周面とユーザの口及び鼻との間に形成された空隙部の圧力を調整する圧力調整ユニットWが接続されて取り付けられている。この圧力調整ユニットWにより、マスク200・内側面とユーザの口及び鼻との間に形成された空隙部の圧力が所定圧力に維持される。本実施形態のハイフローシステムは、この構成により、ガスを供給されるユーザに対して高い値のPEEPをかけることができる。
【0025】
具体的には、本実施形態のハイフローシステムによれば、後述するように、従来技術のハイフローシステムと比べて、高い値のPEEPをかけることができる。そのため、本実施形態のハイフローシステムは、従来技術のハイフローセラピーに用いられる装置(特許文献1に記載の高流量ガス送気装置や非特許文献1に記載の装置)と比べて、適応患者が広がることが期待できる。例えば、本実施形態のハイフローシステムによれば、COVID-19やうっ血性心不全等の患者にも適用することができると思料される。
【0026】
《圧力調整ユニットW》
次に、本実施形態のハイフローシステムを構成する圧力調整ユニットWについて、上述した
図1、2と、
図3を参照しながら説明する。
ここで、
図3は本実施形態のハイフローシステムを構成するマスクの内側に形成された空隙部の圧力を調整する圧力調整ユニットの構成を説明するための模式図である。
【0027】
圧力調整ユニットWは、マスク200の呼気口213に着脱自在に取り付けられるようになっている。
具体的には、圧力調整ユニットWは、マスク200の呼気口213に取り付けられるT字管アダプタ3と、T字管アダプタ3の先端部3a2(
図3参照)に接続される圧力調整バルブ1と、T字管アダプタ3の分岐管部3bの自由端3b1に接続されるエルボ管コネクタ7と、エルボ管コネクタ7の先端部に接続された、ユーザの呼吸を確保するための安全弁5とを有している。
【0028】
圧力調整バルブ1は、マスク200の呼気口213に接続されたT字管アダプタ3に接続され、T字管アダプタ3を介して、マスク200・内側面とユーザの口及び鼻との間に形成された空隙部と連通するようになっている。また、圧力調整バルブ1は、マスク200・内側面とユーザの口及び鼻との間に形成された空隙部の圧力が所定値になるように調整する機能を有している。
例えば、圧力調整バルブ1には、可変式のPEEPバルブを用いることができる。
【0029】
T字管アダプタ3は、中空管状の本管部3aと、本管部3aに対して略垂直方向に分岐する中空管状の分岐管部3bとを備えている(
図3参照)。
そして、本管部3aの後端部3a1が、マスク200の呼気口213の筒内に挿嵌されて、呼気口213に接続されるようになっている。また、本管部3aの先端部3a2の筒内に、圧力調整バルブ1の後端部が挿嵌され、圧力調整バルブ1に接続されるようになっている。
また、T字管アダプタ3は、分岐管部3bの自由端3b1が、エルボ管コネクタ7の一端部の筒内に挿嵌され、エルボ管コネクタ7に接続されるようになっている。
【0030】
また、安全弁5は、一方向に空気を流す一方弁により構成され、T字管アダプタ3に接続されるようになっている。すなわち、安全弁5は、T字管アダプタ3を介して、マスク200・内側面とユーザの口及び鼻との間に形成された空隙部と連通するようになっている。
そして、安全弁5は、ユーザの吸気流量がハイフローシステムから供給されるガス(医療ガス)の流量を上回った際にマスク200内が陰圧になって吸気困難になる事を回避するために、マスク200の内部の空隙部に向けて一方向に空気を流すようになっている。
【0031】
《実施例・比較例》
次に、実際に、本実施形態のハイフローシステムにより、気道及び自発呼吸を再現したモデルにガスを供給した際の、PEEPを測定するとともに(実施例)、実施例に対する比較例として、本実施形態のハイフローシステムから「マスク200及び圧力調整ユニットW」を取り外したハイフローシステム(従来技術のシステム)により気道及び自発呼吸を再現したモデルにガスを供給した際の、PEEPを測定する性能試験を行った。
また、この性能試験では、「正常肺の気道・呼吸モデルに対する測定」と、「拘束性肺の気道・呼吸モデルに対する測定」と、「閉塞性肺の気道・呼吸モデルに対する測定」を行った。
【0032】
なお、フロージェネレータ50には、本願出願人のカフベンテック株式会社が販売している「ハイフローセラピー VUN-001」を用いた。
また、マスク200には、本願出願人のカフベンテック株式会社が販売している「アンチ・インフェクション・マスク」を用いた。
【0033】
《正常肺の気道・呼吸モデルに対する測定》
本実施形態のハイフローシステムを正常肺の気道・呼吸モデルに装着し、圧力調整バルブ1の調整圧力値(PEEP値)を「5cmH2О」に設定し、当該モデルに対して、流量が20(L/min)のガスと、流量が40(L/min)のガスと、流量が60(L/min)のガスを順番に供給し、それぞれ、供給するガスの流量毎に、PEEPを測定した(実施例1)。
また、本実施形態のハイフローシステムを正常肺の気道・呼吸モデルに装着し、圧力調整バルブ1の調整圧力値(PEEP値)を「10cmH2О」に設定し、当該モデルに対して、流量が20(L/min)のガスと、流量が40(L/min)のガスと、流量が60(L/min)のガスを順番に供給し、それぞれ、供給するガスの流量毎に、PEEPを測定した(実施例2)。
また、本実施形態のハイフローシステムから「マスク200及び圧力調整ユニットW」を取り外したハイフローシステム(従来技術のシステム)を正常肺の気道・呼吸モデルに装着し、当該モデルに対して、流量が20(L/min)のガスと、流量が40(L/min)のガスと、流量が60(L/min)のガスを順番に供給し、それぞれ、供給するガスの流量毎に、PEEPを測定した(比較例1)。
下記表1に、比較例1、実施例1、実施例2の測定値を示す。
【0034】
【0035】
正常肺の気道・呼吸モデルへのガス供給の際のPEEPの値は、上記の「表1」に示すように、比較例1の従来技術のハイフローシステムでは、20(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「0cmH2О」、40(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「1.36cmH2О(四捨五入)」、60(L/min)のガスのガスを供給した際のPEEPが「3.57cmH2О(四捨五入)」であった。
また、圧力調整バルブ1を「5cmH2О」に設定した実施例1のハイフローシステムでは、20(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「3.34cmH2О(四捨五入)」、40(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「5.69cmH2О(四捨五入)」、60(L/min)のガスのガスを供給した際のPEEPが「9.09cmH2О(四捨五入)」であった。
また、圧力調整バルブ1を「10cmH2О」に設定した実施例2のハイフローシステムでは、20(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「3.06cmH2О(四捨五入)」、40(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「9.52cmH2О(四捨五入)」、60(L/min)のガスのガスを供給した際のPEEPが「12.83cmH2О(四捨五入)」であった。
【0036】
このように、本実施形態のハイフローシステムによれば、正常肺の気道・呼吸モデルにガスを供給する際に、いずれの条件(圧力調整バルブ1の調整圧力値、供給するガス流量)においても、従来技術のハイフローシステムと比べて、モデルに高いPEEPをかけることができることが判る。
【0037】
《拘束性肺の気道・呼吸モデルに対する測定》
本実施形態のハイフローシステムを拘束性肺の気道・呼吸モデルに装着し、圧力調整バルブ1の調整圧力値(PEEP値)を「5cmH2О」に設定し、当該モデルに対して、流量が20(L/min)のガスと、流量が40(L/min)のガスと、流量が60(L/min)のガスとを順番に供給し、それぞれ、供給するガスの流量毎に、PEEPを測定した(実施例3)。
また、本実施形態のハイフローシステムを拘束性肺の気道・呼吸モデルに装着し、圧力調整バルブ1の調整圧力値(PEEP値)を「10cmH2О」に設定し、当該モデルに対して、流量が20(L/min)のガスと、流量が40(L/min)のガスと、流量が60(L/min)のガスとを順番に供給し、それぞれ、供給するガスの流量毎に、PEEPを測定した(実施例4)。
また、本実施形態のハイフローシステムから「マスク200及び圧力調整ユニットW」を取り外したハイフローシステム(従来技術のシステム)を拘束性肺の気道・呼吸モデルに装着し、当該モデルに対して、流量が20(L/min)のガスと、流量が40(L/min)のガスと、流量が60(L/min)のガスとを順番に供給し、それぞれ、供給するガスの流量毎に、PEEPを測定した(比較例2)。
そして、下記表2に、比較例2、実施例3、実施例4による測定値を示す。
【0038】
【0039】
拘束性肺の気道・呼吸モデルへのガス供給の際のPEEPの値は、上記の「表2」に示すように、比較例2の従来技術のハイフローシステムでは、20(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「0.51cmH2О(四捨五入)」、40(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「1.95cmH2О(四捨五入)」、60(L/min)のガスのガスを供給した際のPEEPが「4.25cmH2О(四捨五入)」であった。
また、圧力調整バルブ1を「5cmH2О」に設定した実施例3のハイフローシステムでは、20(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「4.33cmH2О(四捨五入)」、40(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「6.97cmH2О(四捨五入)」、60(L/min)のガスのガスを供給した際のPEEPが「10.11cmH2О(四捨五入)」であった。
また、圧力調整バルブ1を「10cmH2О」に設定した実施例4のハイフローシステムでは、20(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「5.27cmH2О(四捨五入)」、40(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「10.79cmH2О(四捨五入)」、60(L/min)のガスのガスを供給した際のPEEPが「13.94cmH2О(四捨五入)」であった。
【0040】
このように、本実施形態のハイフローシステムによれば、拘束性肺の気道・呼吸モデルにガスを供給する際に、いずれの条件(圧力調整バルブ1の調整圧力値、供給するガス流量)においても、従来技術のハイフローシステムと比べて、モデルに高いPEEPをかけることができることが判る。
【0041】
《閉塞性肺の気道・呼吸モデルに対する測定》
本実施形態のハイフローシステムを閉塞性肺の気道・呼吸モデルに装着し、圧力調整バルブ1の調整圧力値(PEEP値)を「5cmH2О」に設定し、当該モデルに対して、流量が20(L/min)のガスと、流量が40(L/min)のガスと、流量が60(L/min)のガスとを順番に供給し、それぞれ、供給するガスの流量毎に、PEEPを測定した(実施例5)。
また、本実施形態のハイフローシステムを閉塞性肺の気道・呼吸モデルに装着し、圧力調整バルブ1の調整圧力値(PEEP値)を「10cmH2О」に設定し、当該モデルに対して、流量が20(L/min)のガスと、流量が40(L/min)のガスと、流量が60(L/min)のガスとを順番に供給し、それぞれ、供給するガスの流量毎に、PEEPを測定した(実施例6)。
また、本実施形態のハイフローシステムから「マスク200及び圧力調整ユニットW」を取り外したハイフローシステム(従来技術のシステム)を閉塞性肺の気道・呼吸モデルに装着し、当該モデルに対して、流量が20(L/min)のガスと、流量が40(L/min)のガスと、流量が60(L/min)のガスとを順番に供給し、それぞれ、供給するガスの流量毎に、PEEPを測定した(比較例3)。
そして、下記表2に、実施例5、実施例6、比較例3による測定値を示す。
【0042】
【0043】
閉塞性肺の気道・呼吸モデルへのガス供給の際のPEEPの値は、上記の「表3」に示すように、比較例3の従来技術のハイフローシステムでは、20(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「0.59cmH2О(四捨五入)」、40(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「1.87cmH2О(四捨五入)」、60(L/min)のガスのガスを供給した際のPEEPが「4.25cmH2О(四捨五入)」であった。
また、圧力調整バルブ1を「5cmH2О」に設定した実施例5のハイフローシステムでは、20(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「4.67cmH2О(四捨五入)」、40(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「7.05cmH2О(四捨五入)」、60(L/min)のガスのガスを供給した際のPEEPが「10.45cmH2О(四捨五入)」であった。
また、圧力調整バルブ1を「10cmH2О」に設定した実施例6のハイフローシステムでは、20(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「5.61cmH2О(四捨五入)」、40(L/min)のガスを供給した際のPEEPが「10.62cmH2О(四捨五入)」、60(L/min)のガスのガスを供給した際のPEEPが「13.85cmH2О(四捨五入)」であった。
【0044】
このように、本実施形態のハイフローシステムによれば、従来技術のハイフローシステムと比べて、閉塞性肺の気道・呼吸モデルにガスを供給する際に、いずれの条件(圧力調整バルブ1の調整圧力値、供給するガス流量)においても、モデルに高いPEEPをかけることができることが判る。
【0045】
上述した実施例(実施例1~6)及び比較例(比較例1~3)に示すように、本実施形態によれば、従来技術のものと比べて、高いPEEPをかけることができることが確認された。
具体的には、従来技術のハイフローシステムでは、流量が20(L/min)のガスを供給する際のPEEPが「0.6cmH2О」未満であったが、本実施形態のハイフローシステムでは、流量が20(L/min)のガスを供給する際のPEEPが「3~5.6cmH2О」であった。
また、従来技術のハイフローシステムでは、流量が40(L/min)のガスを供給する際のPEEPが「2cmH2О」未満であったが、本実施形態のハイフローシステムでは、流量が40(L/min)のガスを供給する際のPEEPが「5.6~10.6cmH2О」であった。
また、従来技術のハイフローシステムでは、流量が60(L/min)のガスを供給する際のPEEPが「4.3cmH2О」未満であったが、本実施形態のハイフローシステムでは、流量が60(L/min)のガスを供給する際のPEEPが「9~13.9cmH2О」であった。
【0046】
したがって、本実施形態のハイフローシステムによれば、従来技術のハイフローセラピーに用いられる装置(特許文献1に記載の高流量ガス送気装置や非特許文献1に記載の装置)と比べて、適応患者を広げることが期待できる。
また、本実施形態のハイフローシステムは、肺の状態が重症化する患者にも使えるため、患者及び医療従事者の両者に負担となる人工呼吸器への移行を減らすことが期待できる。
【0047】
さらに、本実施形態では、ユーザ(患者)の口及び鼻をマスク200で覆っているので、ユーザにガスを供給している際に、CОVID-19等の直接的又は間接的な飛沫感染及びエアロゾル感染を効果的に減らすことができ、医療従事者の安全を確保することができるという作用効果も得られる。
【0048】
以上説明したように、本実施形態によれば、死腔の洗い流し効果により換気量を減らしながら臨床的に意義のあるPEEPをかけることができ、多くの肺機能状態の患者に適用できるハイフローシステムを提供することができる。
【0049】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内において種々の変更が可能である。
例えば、上述した実施形態では、マスク200の呼気口213に取り付けられる圧力調整ユニットWに、圧力調整バルブ1と、ユーザが呼吸できなくなることを防止するための安全弁3が設けられていたが、特にこれに限定されるものではない。例えば、圧力調整ユニットWには、圧力調整バルブ1だけを設ける構成にして、マスク200の別の場所に安全弁3を装着するようにしても良い。
【符号の説明】
【0050】
W…圧力調整ユニット
1…圧力調整バルブ
3…T字管アダプタ
5…安全弁
7…エルボ管コネクタ
50…加温加湿機能内蔵フロージェネレータ
51…送気口
55…ガス供給管
200…マスク
210…密封性クッション部
212…本体部
213…呼気口
215…シーリング部
HB…ヘッドバンド
100…鼻カニューレ
101…チューブ
【要約】
【課題】ハイフローセラピーに用いられるハイフローシステムであって、高いPEEPをかけることができ、多くの肺機能状態の患者に適用できるハイフローシステムを提供する。
【解決手段】ハイフローシステムであって、酸素と空気を混合したガスを生成するフロージェネレータ50と、フロージェネレータ50に接続されたガス供給管55と、一端部がガス供給55に接続され且つ他端部がユーザの鼻部に装着された鼻カニューレ100と、ユーザの口及び鼻との間に空隙部を形成した状態で口及び鼻を覆うマスク200とを有し、マスク200は、呼気口213が設けられ、鼻カニューレ100のチューブ101が気密に挿通され、ユーザの口及び鼻との間の空隙部に、鼻カニューレ100の鼻腔管が配置され、呼気口213に、空隙部の圧力を調整する圧力調整ユニットWが取り付けられ、空隙部の圧力が所定圧力に維持されるようになっている。
【選択図】
図1