(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】工業炉
(51)【国際特許分類】
F27B 5/04 20060101AFI20231221BHJP
B30B 11/02 20060101ALI20231221BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20231221BHJP
F27B 5/18 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
F27B5/04
B30B11/02 A
B22F3/14 B
F27B5/18
(21)【出願番号】P 2020035022
(22)【出願日】2020-03-02
【審査請求日】2022-06-08
(73)【特許権者】
【識別番号】591159619
【氏名又は名称】島津産機システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【氏名又は名称】上村 喜永
(74)【代理人】
【識別番号】100094248
【氏名又は名称】楠本 高義
(72)【発明者】
【氏名】森元 陽介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼間 洋祐
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-066606(JP,A)
【文献】特開平03-193803(JP,A)
【文献】特開昭59-174300(JP,A)
【文献】特開平04-224100(JP,A)
【文献】特開2010-201436(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 5/00- 7/12
F27B 17/00-19/04
B22F 1/00- 8/00
B30B 11/00-11/34
B30B 15/10-15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器状の炉体と、
前記炉体の内部空間で被処理物に圧力をかけるパンチと、
前記パンチを移動させるプレスシリンダと、
第1モータと、
前記第1モータを駆動させるインバータ装置と、
液体を貯留するタンクと、
前記第1モータによって駆動され、タンクに貯留された液体を吐出する第1ポンプと、
前記第1ポンプからプレスシリンダまで接続され、途中で低圧ラインと高圧ラインの並列になった第1供給ラインと、
前記低圧ラインにおいて液体の通過と停止を切り替える低圧制御弁と、
前記高圧ラインにおいて液体の通過と停止を切り替える高圧制御弁と、
前記高圧ラインに設けられた増圧シリンダと、
を備え
、
前記低圧ラインから前記高圧ラインに、前記第1ポンプからの液体の流れる前記第1供給ラインを切り替えたとき、前記増圧シリンダの増圧比の分だけ前記第1ポンプの液体の吐出圧力を小さくする、工業炉。
【請求項2】
前記増圧シリンダからタンクに液体を流す液体逃がしラインと、
前記液体逃がしラインにおける液体の通過と停止を切り替え、前記増圧シリンダのシリンダ内の液体量を調整することで該シリンダ内のピストン位置を調整する逃がし制御弁と、
を備えた請求項1の工業炉。
【請求項3】
第2モータと、
前記第2モータによって駆動され、タンクに貯留された液体を吐出する第2ポンプと、
前記第2ポンプからプレスシリンダ
の第1供給ラインとは反対側に液体を供給する第2供給ラインと、
前記第2供給ラインにおける液体の通過と停止を切り替える背圧制御弁と、
を備えた請求項1または2の工業炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、粉体からなる被処理物を高温かつ高圧下で焼結して高密度かつ高純度の素材を製造する工業炉が開発されている。たとえば、下記の特許文献1は、被処理物を押圧するパンチ、パンチを上下動させるプッシャーを備える。プッシャーはプレスシリンダのピストンロッドと一体になっていて、プレスシリンダによって上下動される。プレスシリンダは液圧装置によって駆動される。
【0003】
たとえば
図7の液圧装置200がプレスシリンダに対して液体(作動油)の供給と排出をする。液圧装置200は、プッシャーを上下動させるプレスシリンダ202、ポンプ204、そのポンプ204を駆動させるモータ206、プレスシリンダ202に供給する液体の流れを制御する切り替え弁208、ポンプ204からプレスシリンダ202に液体を供給するための供給ライン210、プレスシリンダ202に対して液体を低圧で供給するための低圧制御部212、プレスシリンダ202に対して液体を高圧で供給するための高圧制御部214を備える。
【0004】
低圧制御部212は供給ライン210につながった低圧ライン216、その低圧ライン216における液体の通過と停止を切り替えるための低圧制御弁218、低圧ライン216における液体の流量を制御する比例制御弁220を備える。高圧制御部214は供給ライン210につながった高圧ライン222、その高圧ライン222における液体の通過と停止を切り替えるための高圧制御弁224、高圧ライン222における液体の流量を制御する比例制御弁226を備える。
【0005】
液圧装置200は、ポンプ204から吐出された液体の圧力を検出する圧力センサ228、供給ライン210の液体の圧力が所定値以上にならないようにするためのリリーフ弁230、液体が一気にタンク232に排出されることを防止する絞り234を備える。
【0006】
ポンプ204から供給ライン210を通じてプレスシリンダ202に液体を供給するときに、低圧制御部212または高圧制御部214を駆動させる。最初に、低圧制御弁218が開けられ、高圧制御弁224が閉じられているとする。低圧制御部212の低圧制御弁218および比例制御弁220を駆動させ、プレスシリンダ202に供給する液体の圧力を徐々に上げていく。プレスシリンダ202に供給する液体の圧力が所定値になれば、低圧制御弁218を閉じ、高圧制御弁224を開ける。高圧制御部214の高圧制御弁224および比例制御弁226を駆動させることで、プレスシリンダ202に供給する液体の圧力を所定値から徐々に高めていく。このように、低圧制御部212の後に高圧制御部214に切り替え、プレスシリンダ202に供給する液体の圧力を徐々に高めていく(
図8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、低圧制御部212から高圧制御部214に切り替えるとき、液圧の変化によってサージ圧240が生じる場合がある(
図8)。このサージ圧240によって被処理物に対して一気に高圧が印加される。サージ圧によって被処理物が破損するおそれがある。
【0009】
そこで本発明の目的は、被処理物に対してサージ圧を発生させずに所定の圧力を印加できる工業炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以上の課題を解決すべく、本発明に係る熱処理炉は、以下に述べるような構成を有する。
【0011】
本発明の工業炉は、容器状の炉体と、前記炉体の内部空間で被処理物に圧力をかけるパンチと、前記パンチを移動させるプレスシリンダと、第1モータと、前記第1モータを駆動させるインバータ装置と、液体を貯留するタンクと、前記第1モータによって駆動され、タンクに貯留された液体を吐出する第1ポンプと、前記第1ポンプからプレスシリンダまで接続され、途中で低圧ラインと高圧ラインの並列になった第1供給ラインと、前記低圧ラインにおいて液体の通過と停止を切り替える低圧制御弁と、前記高圧ラインにおいて液体の通過と停止を切り替える高圧制御弁と、前記高圧ラインに設けられた増圧シリンダとを備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高圧ラインに増圧シリンダを用いて第1モータの液体の吐出量を制御することで、低圧ラインから高圧ラインに切り替えるときに発生する圧力サージを防止できる。被処理物に対して異常高圧が印加されないため、被処理物に対して最後まで所定の処理を行える。処理途中の被処理物の破損を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】プレスシリンダを駆動させる液圧装置の構成を示す図である。
【
図3】
図2の液圧装置を用いた場合のプレスシリンダに供給する液体の圧力と時間の関係を示すグラフである。
【
図4】2つのパンチを用いた工業炉の構成を示す図である。
【
図5】
図4の工業炉のプレスシリンダを駆動させる液圧装置の構成を示す図である。
【
図6】1つのポンプでプレスシリンダを駆動させる液圧装置の構成を示す図である。
【
図7】従来の工業炉のプレスシリンダを駆動させる液圧装置の構成を示す図である。
【
図8】
図7の液圧装置を用いた場合のプレスシリンダに供給する液体の圧力と時間の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態について図面を参照して説明する。複数の実施形態を説明し、異なる実施形態であっても同一の部材に対して同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0015】
[実施形態1]
図1に示す工業炉10は、容器状の炉体12、被処理物14に圧力をかけるパンチ18、そのパンチ18を移動させるプレスシリンダ20、そのプレスシリンダ20を駆動させるための液圧装置22を備える。
【0016】
[炉体]
炉体12は円筒形状になっており、その両端を蓋で開閉できるようにしたものである。蓋が閉じられると、炉体12の内部空間24は密閉された空間になる。炉体12の内部空間24は加圧されたり、減圧されたりする。炉体12の耐圧はたとえば約10MPaであり、各種設計によって変更される。
【0017】
炉体12の内部空間24に断熱体26が配置されている。断熱体26はグラファイトフェルトまたはグラファイトフォイルなどの耐熱性材料で構成される。断熱体26によって形成された内部空間28にヒーター30が配置されている。ヒーター30としてグラファイト製のロッドヒーターが挙げられる。断熱体26はヒーター30の熱が外部に放熱されることを防止する。たとえば、被処理物14は約1300~2300℃の温度で処理される。断熱体26はこのような温度に耐えられる材料を選択する。
【0018】
炉体12の内部空間24および断熱体26の内部空間28にガスを導入するためのガス源(図示省略)および炉体12の内部空間24および断熱体26の内部空間28からガスを排気するポンプ(図示省略)を備える。被処理物14は所定ガス雰囲気で処理される。たとえば、ガスは窒素、アルゴン、水素、一酸化炭素、ヘリウム、メタンなどである。複数のガスが同時に炉体12の内部空間24および断熱体26の内部空間28に導入されてもよい。炉体12にファンを設け、炉体12の内部空間24および断熱体26の内部空間28の中でガスが均一に混ざるようにしてもよい。
【0019】
[パンチ]
パンチ18はスペーサ34の情報から降下する。スペーサ34の上に被処理物14が配置されており、パンチ18とスペーサ34で被処理物14を挟み込み、さらに、パンチ18が被処理物14に対して所定の圧力を印加する。パンチ18にプッシャー38が固定されており、プッシャー38が上下動させられることで、パンチ18が上下動する。
【0020】
[プレスシリンダ]
プレスシリンダ20は液圧(油圧)シリンダである。プレスシリンダ20はシリンダに対して液体(作動油)を供給または排出されることでシリンダ内のピストンが直線運動する。ピストンにピストンロッドが取り付けられている。ピストンがシリンダの中を直線運動することで、ピストンロッドと一体になったプッシャー38が昇降する。
【0021】
[液圧装置]
プレスシリンダ20のピストンは
図2に示す液圧装置22によって駆動される。液圧装置22は、第1モータ40、液体を吐出する第1ポンプ42、第1ポンプ42からプレスシリンダ20に液体を供給するための第1供給ライン44、プレスシリンダ20のピストンの位置を調節するための背圧制御部46を備える。
【0022】
[第1モータ]
第1モータ40は第1ポンプ42を駆動させる。第1モータ40はインバータ装置48から入力される信号によって駆動している。制御装置50に第1供給ライン44の液体の圧力を検出する圧力センサ52の値が入力される。その圧力センサ52の値によって制御装置50からインバータ装置48に信号を送る。第1モータ40は吐出される液体の圧力が所定値になるように制御される。
【0023】
[第1ポンプ]
第1ポンプ42はタンク54に溜められた液体をプレスシリンダ20に向けて吐出する。吐出される液体の圧力が一定値以上にならないように、第1供給ライン44とタンク54の間にリリーフ弁56を設けてもよい。
【0024】
[第1供給ライン]
第1供給ライン44は第1ポンプ42からプレスシリンダ20までつながっており、第1ポンプ42で吐出された液体をプレスシリンダ20まで送る配管である。第1供給ライン44の途中は低圧ライン58と高圧ライン60の並列になっている。低圧ライン58はプレスシリンダ20に供給する液体の圧力が低圧のときに使用され、高圧ライン60はプレスシリンダ20に供給する液体の圧力が高圧のときに使用される。この低圧と高圧は相対的な圧力であり、たとえば約2000kNを低圧と高圧の境界とする。低圧ライン58と高圧ライン60は同時に使用されることは無く、いずれかのライン58、60が使用されてプレスシリンダ20に液体が供給される。
【0025】
低圧ライン58は低圧制御弁62が設けられる。低圧制御弁62は低圧ライン58の液体の通過と停止を切り替える。低圧制御弁62は、ソレノイドを励磁しないとチェック弁が選択された状態であり、ソレノイドを励磁することで弁が開いた状態になる。低圧制御弁62を開けることで低圧ライン58からプレスシリンダ20に液体が供給できる。
【0026】
高圧ライン60は高圧制御弁64および増圧シリンダ66を備える。高圧制御弁64は高圧ライン60の液体の通過と停止を切り替える。高圧制御弁64は、ソレノイドを励磁しないとチェック弁が選択された状態であり、ソレノイドを励磁することで弁が開いた状態になる。高圧制御弁64を開けることで増圧シリンダ66を介して高圧ライン60からプレスシリンダ20に液体が供給できる。
【0027】
第1供給ライン44におけるプレスシリンダ20に供給する液体の圧力を検出する圧力センサ68を備える。圧力センサ68の値が制御装置50に入力され、制御装置50が圧力値に応じて低圧制御弁62と高圧制御弁64のいずれかのソレノイドを励磁する(図示省略)。
【0028】
増圧シリンダ66は高圧制御弁64とプレスシリンダ20の間に備えられている。増圧シリンダ66は増圧比に応じてプレスシリンダ20に供給する液体の圧力を高めるためのシリンダである。増圧シリンダ66によって高圧ライン60の液体の圧力が低圧ライン58の液体の圧力よりも高くできる。
【0029】
高圧ライン60に逃がしライン70が接続されている。逃がしライン70は増圧シリンダ66とプレスシリンダ20の間からタンク54へ液体が流れるラインである。逃がしライン70には逃がし制御弁72と絞り74が設けられている。逃がし制御弁72は逃がしライン70の液体の通過と停止を切り替える。逃がし制御弁70は、ソレノイドを励磁しないとチェック弁が選択された状態であり、ソレノイドを励磁することで弁が開いた状態になる。逃がし制御弁70を開けることで高圧ライン60からタンク54に液体が流れる。
【0030】
増圧シリンダ66はピストンの位置を検出するセンサ(図示省略)を備える。たとえばそのセンサは磁石を利用してピストンの位置によって異なる磁束の変化を検出するセンサを利用できる。センサの出力は制御装置50に入力され、制御装置50がピストンの位置に応じて逃がし制御弁72のソレノイドの励磁を制御する(図示省略)。その制御が必要な理由について説明する。
【0031】
上記のように被処理物14が処理のために加熱されるため、被処理物14が熱によって膨張する場合がある。また、パンチ18なども熱膨張する場合がある。この膨張によってプレスシリンダ20のピストンが押し戻される。さらに増圧シリンダ66のピストンも押し戻されるが、増圧シリンダ66のピストンが第1ポンプ側まで押し戻されると、それ以上押し戻されない。プレスシリンダ20と増圧シリンダ66の間の液体の圧力が高まり、所望の圧力を被処理物14に印加できない。
【0032】
以上から、低圧ライン58から高圧ライン60に切り替えたとき、増圧シリンダ66のピストンがシリンダの中の中間位置になるようにする。具体的には、低圧ライン58から高圧ライン60に切り替えたときに、逃がし制御弁72を開けて逃がしライン70から液体がタンク54に流れるようにして、増圧シリンダ66のピストンがシリンダの中の中間位置に移動させる。その後、逃がし制御弁72を閉じて増圧シリンダ66からプレスシリンダ20に液体が供給されるようにする。増圧シリンダ66のピストンが押し戻されても、ピストンが移動できるため、プレスシリンダ20に適切な圧力で液体を供給できる。
【0033】
[背圧制御部]
背圧制御部46は、第1供給ライン44から供給された液体によって移動したプレスシリンダ20のピストンを押し戻す。背圧制御部46は、第2モータ76、第2モータ76によって駆動される第2ポンプ78、第2ポンプ78からプレスシリンダ20までつながった第2供給ライン80、第2供給ライン82に設けられた背圧制御弁84を備える。
【0034】
第2モータ76は第2ポンプ78を駆動させ、第2ポンプ78はタンク54の液体を吐出する。第2モータ76は第1モータ42と同様にインバータ装置によって駆動してもよい。第2ポンプ78から吐出される液体の圧力が一定値以上にならないように、第2供給ライン80とタンク54の間にリリーフ弁86を設けてもよい。
【0035】
第1供給ライン44と第2供給ライン80がプレスシリンダ20に接続されており、第1供給ライン44はピストンに対してピストンロッドの反対側に接続され、第2供給ライン80はピストンに対してピストンロッド側に接続されている。第1供給ライン44からプレスシリンダ20に液体が供給されるとピストンロッドがシリンダから押し出され、第2供給ライン80からプレスシリンダ20に液体が供給されるとピストンロッドはシリンダの中に収納される。両方の供給ライン44、80から液体を供給することで、ピストンの位置を微調整できる。
【0036】
背圧制御弁84は第2供給ライン80の液体の通過と停止を切り替える。背圧制御弁84は、ソレノイドを励磁しないとチェック弁が選択された状態であり、ソレノイドを励磁することで弁が開いた状態になる。背圧制御弁84を開けることで第2供給ライン80に液体が流れる。背圧制御弁84は制御装置50によって制御される。
【0037】
[その他]
プレスシリンダ20からタンク54に液体を排出するための経路を設けてもよい。または、プレスシリンダ20からタンク54に液体を排出するとき、リリーフ弁56、86のリリーフ圧を制御して、低圧制御弁62および背圧制御弁84からリリーフ弁56、86を介してタンク54に液体が流れてもよい。
【0038】
[処理方法]
本願の工業炉10を用いた被処理物14に対する処理方法について説明する。(1)スペーサ34の上に被処理物14が設置し、パンチ18で被処理物14を押圧する。
【0039】
(2)炉体12の蓋を閉め、ヒーター30の温度を上げて断熱体26の内部空間28の温度を上げる。このとき、必要に応じて炉体12の内部空間24および断熱体26の内部空間28にガスを導入したり、炉体12の内部空間24および断熱体26の内部空間28からガスを排気する。
【0040】
(3)被処理物14に対する雰囲気温度が所定状態になれば、インバータ装置48によって第1モータ40を駆動させる。第1ポンプ42がタンク54に貯留された液体を吐出する。
【0041】
(4)低圧制御弁62を開け、高圧制御弁64を閉じ、逃がし制御弁70を閉じる。液体が低圧ライン58を通ってプレスシリンダ20に供給される。インバータ装置48によって徐々に液体の圧力が高くなるように第1モータ40を制御する(
図3の期間A)。
【0042】
(5)液体の圧力が所定圧力になれば、低圧制御弁62を閉じ、高圧制御弁66を開け、逃がし制御弁72を開ける。低圧ライン58から高圧ライン60に液体が流れるラインを切り替える。さらに、逃がし制御弁72が開けられているので、液体は高圧ライン60から逃がしライン70を通ってタンク54に戻される(
図3の期間B)。増圧シリンダ66のピストンが移動するが、プレスシリンダ20のピストンは移動しない。
【0043】
このように低圧ライン58から高圧ライン60に液体の流れるラインを切り替えたとき、増圧シリンダ66の増圧比の分だけ第1ポンプ42の液体の吐出圧力を小さくする。インバータ装置48が圧力センサ52の値を得て第1モータ42を制御することで、第1ポンプ42の液体の吐出圧力を制御する。第1ポンプ42の液体の吐出圧力が小さくなることで低圧ライン58から高圧ライン60にスムーズに切り替えることができ、サージ圧を防止できる。
【0044】
(6)増圧シリンダ66のピストンがシリンダの中間位置まで移動したとき、上記(5)の状態から逃がし制御弁72を閉じる。液体が高圧ライン60を通ってプレスシリンダ20に供給される。インバータ装置48によって徐々に液体の圧力が高くなるように第1モータ40を制御する(
図3の期間C)。第1モータ40で吐出された液体の圧力が増圧シリンダ66で増圧される。増圧シリンダ66の増圧によって、低圧ライン58よりも高圧ライン60の方の液体の圧力が高くなる。
【0045】
(7)プレスシリンダ20の液体が所定の圧力になれば、被処理物14に対する処理が終了するまでその圧力を維持する。
【0046】
上記(4)~(6)において、第2モータ76を駆動させ、第2ポンプ78から液体を吐出させる。背圧制御弁84を開け、プレスシリンダ20に対して液体を供給する。第1供給ライン44と第2供給ライン80からプレスシリンダ20に液体が供給される。第1供給ライン44から供給される液体によってプレスシリンダ20のピストンが移動されるときに、第2供給ライン80からも液体を供給してピストンを押すことで、ピストンの動きが遅くなり、ピストンの位置を微調整できる。また、ピストンが移動しすぎた場合に、ピストンの位置を押し戻すこともできる。
【0047】
被処理物14に対する処理が終了すれば、被処理物14を冷却させて被処理物14を取り出す。被処理物14を取り出す際、第2供給ライン80からプレスシリンダ20に液体を供給し、第1供給ライン44から液体を排出し、プレスシリンダ20の中にピストンロッドを収納させる。パンチ18が被処理物14から離れ、被処理物14を取り出すことができる。
【0048】
以上のように、本願は低圧ライン58から高圧ライン60に切り替えたとき、増圧シリンダ66の増圧比に応じて第1ポンプ42の液体の吐出量を少なくすることで、圧力サージを防止することができる。増圧シリンダ66のピストンの位置をシリンダの中間位置にした状態からプレスシリンダ20に高圧の液体を供給することで、被処理物14が熱によって膨張してプレスシリンダ20のピストンロッドを押し戻しても、増圧シリンダ66のピストンが第1ポンプ側に戻りきった状態にならず、適切な圧力で液体をプレスシリンダ20に供給できる。第2ポンプ78からプレスシリンダ20に液体を供給することで、プレスシリンダ20のピストンの動きを遅くさせ、ピストンの微妙な位置あわせも可能である。
【0049】
[実施形態2]
図4の工業炉90のように上下にパンチ18を備えてもよい。下側のパンチ18に被処理物14が設置され、2つのパンチ18が被処理物14を挟み込んで押圧する。この場合、
図5の液圧装置92のように、2つのプレスシリンダ20を備え、各プレスシリンダ20がプッシャー38を上下動させる。各プレスシリンダ20に対する第1供給ライン44および第2供給ライン80などは実施形態1と同様であり、説明を省略する。
【0050】
[実施形態3]
図6の液圧装置100は切り替え弁102を備える。切り替え弁102はプレスシリンダ20への液体の流れを切り替える弁である。切り替え弁102は2つのソレノイドを備えており、両方のソレノイドを励磁していない状態で液体が流れないようになっている。一方のソレノイドが励磁されると弁が切り替えられ、第1供給ライン44からプレスシリンダ20に液体を供給し、プレスシリンダ20から第2供給ライン80に液体が排出される。他方のソレノイドが励磁されると弁が切り替えられ、第2供給ライン80からプレスシリンダ20に液体を供給し、プレスシリンダ20から第1供給ライン44に液体が排出される。プレスシリンダ20から排出された液体は切り替え弁102から排出するライン104を通ってタンク54に流れる。タンク54に液体を排出するライン104に絞り106を設け、液体が一気に排出されないようにしてもよい。
【0051】
(第1項)一態様に係る工業炉は、容器状の炉体と、前記炉体の内部空間で被処理物に圧力をかけるパンチと、前記パンチを移動させるプレスシリンダと、第1モータと、前記第1モータを駆動させるインバータ装置と、液体を貯留するタンクと、前記第1モータによって駆動され、タンクに貯留された液体を吐出する第1ポンプと、前記第1ポンプからプレスシリンダまで接続され、途中で低圧ラインと高圧ラインの並列になった第1供給ラインと、前記低圧ラインにおいて液体の通過と停止を切り替える低圧制御弁と、前記高圧ラインにおいて液体の通過と停止を切り替える高圧制御弁と、前記高圧ラインに設けられた増圧シリンダとを備える。
【0052】
第1項に記載の工業炉によれば、高圧ラインの増圧シリンダの増圧比に応じて第1ポンプの液体の吐出量を制御することで、低圧ラインから高圧ラインに切り替えるときに発生する圧力サージを防止できる。
【0053】
(第2項)工業炉は前記増圧シリンダからタンクに液体を流す逃がしラインと、前記逃がしラインにおける液体の通過と停止を切り替え、前記増圧シリンダのシリンダ内の液体量を調整することで該シリンダ内のピストン位置を調整する逃がし制御弁とを備える。
【0054】
第2項に記載の工業炉によれば、逃がしラインから液体をタンクに戻し、増圧シリンダのピストンの位置を調整することで、被処理物が膨張して増圧シリンダのピストンが押し戻されたときに、増圧シリンダのピストンが第1ポンプ側に戻りきることを防止できる。具体的には、逃がしラインから液体を戻し、ピストンの位置を第1ポンプ側のシリンダ末端と密着しない位置に調整する。さらに好ましくはピストンの位置をシリンダの中央に調整するのが好適である。
【0055】
(第3項)工業炉は第2モータと、前記第2モータによって駆動され、タンクに貯留された液体を吐出する第2ポンプと、前記第2ポンプからプレスシリンダまで液体を供給する第2供給ラインと、前記第2供給ラインにおける液体の通過と停止を切り替える背圧制御弁とを備える。
【0056】
第3項に記載の工業炉によれば、第1供給ラインと第2供給ラインからプレスシリンダに液体を供給することで、プレスシリンダのピストンの位置を微調整できる。
【0057】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。
【符号の説明】
【0058】
10、90:工業炉
12:炉体
14:被処理物
18:パンチ
20:プレスシリンダ
22,92,100:液圧装置
24:炉体の内部空間
26:断熱体
28:断熱体の内部空間
30:ヒーター
34:スペーサ
36:ベース
38:プッシャー
40、76:モータ
42、78:ポンプ
44:第1供給ライン
46:背圧制御部
48:インバータ装置
50:制御装置
52、68:圧力センサ
54:タンク
56、86:リリーフ弁
58:低圧ライン
60:高圧ライン
62:低圧制御弁
64:高圧制御弁
66:増圧シリンダ
70:逃がしライン
72:逃がし制御弁
74:絞り
80:第2供給ライン
84:背圧制御弁
102:切り替え弁