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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】車両用音生成装置
(51)【国際特許分類】
   G10K 15/04 20060101AFI20231221BHJP
   B60L 50/16 20190101ALI20231221BHJP
   B60L 3/00 20190101ALI20231221BHJP
【FI】
G10K15/04 302J
B60L50/16
B60L3/00 N
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020007343
(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公開番号】P2021113942
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】三浦 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】阿草 敬祐
【審査官】堀 洋介
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1535013(KR,B1)
【文献】特開平07-322402(JP,A)
【文献】特開平10-277263(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0046234(US,A1)
【文献】特開2005-134885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G10K 15/04
B60L 50/16
B60L 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータ及び/又はエンジンを含む回転動力源を用いて走行する車両に搭載された車両用音生成装置であって、
前記回転動力源の回転数に応じた1又は複数の周波数を設定し、前記1又は複数の周波数を有する1又は複数の要素音を含む合成音を表す合成音信号を生成する音制御部と、
前記音制御部が生成した合成音信号に基づいて、前記合成音を出力する音出力部と、を備え、
前記音制御部は、前記合成音の音圧が基準音圧成分と変動音圧成分を含むように、前記合成音を設定し、
前記基準音圧成分は、前記回転動力源の回転数の増加に応じて、前記基準音圧成分の大きさが増加するように設定され、
前記変動音圧成分は、前記回転動力源の回転数の増加に応じて、前記変動音圧成分の大きさが前記回転数の所定の増加量を周期として所定の振幅内で変動するように設定されており、
前記音制御部は、前記車両のアクセル開度が第1閾値以上のとき、前記基準音圧成分に少なくとも1つの前記変動音圧成分を重畳して前記合成音を生成する、車両用音生成装置。
【請求項2】
前記音制御部は、前記車両のアクセル開度が前記第1閾値以上の場合にのみ、前記1又は複数の要素音の音圧に前記変動音圧成分を含めるように構成されている、請求項1に記載の車両用音生成装置。
【請求項3】
前記変動音圧成分の前記周期は、700~1200rpmに設定されている、請求項1又は2に記載の車両用音生成装置。
【請求項4】
前記変動音圧成分の前記所定の振幅は、前記基準音圧成分の大きさの8~13%に設定されている、請求項1~3のいずれかに記載の車両用音生成装置。
【請求項5】
前記変動音圧成分は、第1変動音圧成分と第2変動音圧成分を含み、
前記第2変動音圧成分の周期は、前記第1変動音圧成分の周期よりも小さく設定されている、請求項1~4のいずれかに記載の車両用音生成装置。
【請求項6】
前記第2変動音圧成分の周期は700~1200rpmである、請求項5に記載の車両用音生成装置。
【請求項7】
前記車両のアクセル開度が前記第1閾値以上、且つ前記第1閾値より大きい第2閾値未満の場合、前記合成音は前記第1変動音圧成分を含み、前記車両のアクセル開度が前記第2閾値以上の場合、前記合成音は前記第1変動音圧成分及び前記第2変動音圧成分を含む、請求項5に記載の車両用音生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用音生成装置に係り、特に車両走行中に所定の音を出力する車両用音生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電動モータによって駆動される電動車両(例えば、電動二輪車)において、モータ回転数に応じて所定の周波数の音をドライバに向けて出力する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の電動車両では、モータ回転数が大きいほど、高い周波数の音が発生されるようになっている。詳しくは、特許文献1では、モータ回転数の高速域よりも低速域において、モータ回転数の変化に対する周波数の変化率が大きく設定されている。これにより、特許文献1では、ドライバに対して提供した音の周波数の変化により、モータ回転速度域等の車両状態の変化をドライバに伝達するようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-62320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明の発明者は、特許文献1の技術では、ドライバが車両状態の変化を必ずしも精度よく認識しないことを見出した。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、ドライバに対して車両状態の変化を認識し易いように音を発生させることが可能な車両用音生成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明は、電動モータ及び/又はエンジンを含む回転動力源を用いて走行する車両に搭載された車両用音生成装置であって、回転動力源の回転数に応じた1又は複数の周波数を設定し、1又は複数の周波数を有する1又は複数の要素音を含む合成音を表す合成音信号を生成する音制御部と、音制御部が生成した合成音信号に基づいて、合成音を出力する音出力部と、を備え、音制御部は、合成音の音圧が基準音圧成分と変動音圧成分を含むように、合成音を設定し、基準音圧成分は、回転動力源の回転数の増加に応じて、基準音圧成分の大きさが増加するように設定され、変動音圧成分は、回転動力源の回転数の増加に応じて、変動音圧成分の大きさが回転数の所定の増加量を周期として所定の振幅内で変動するように設定されており、音制御部は、車両のアクセル開度が第1閾値以上のとき、基準音圧成分に少なくとも1つの変動音圧成分を重畳して合成音を生成することを特徴としている。
【0007】
このように構成された本発明によれば、回転動力源の回転数に応じて合成音の音圧が変化する。合成音は、回転数に応じた基準音圧成分と変動音圧成分とを有している。本発明では、ドライバは、回転数の増加に応じて基準音圧成分の大きさ(音圧)が増加するため、回転動力源の作動状況を感覚的に把握することができる。それに加えて、本発明では、揺らぎ成分としての変動音圧成分が基準音圧成分に重畳することにより、ドライバは基準音圧成分の変化をより敏感に感じ取ることができる。これにより、本発明では、回転動力源を含む車両のパワートレインの作動状態をドライバに認識し易くさせることができる。
【0008】
また、本発明において好ましくは、1又は複数の要素音の各々の音圧が基準音圧成分と変動音圧成分を含む。また、本発明において好ましくは、各要素音の基準音圧成分は、回転動力源の回転数の増加に応じて、各要素音の基準音圧成分の大きさが増加するように設定され、各要素音の変動音圧成分は、回転動力源の回転数の増加に応じて、各要素音の変動音圧成分の大きさが回転数の所定の増加量を周期として所定の振幅内で変動するように設定されている。
【0009】
また、本発明において好ましくは、音制御部は、車両のアクセル開度が第1閾値以上の場合にのみ、1又は複数の要素音の音圧に変動音圧成分を含めるように構成されている。
このように構成された本発明によれば、ドライバがアクセルを踏み込んで、車両を加速させているときに、合成音に揺らぎ(変動音圧成分)を付加することができる。これにより、本発明によれば、車両の加速時に、ドライバにパワートレインの作動状態を認識させ易くすることができる。
【0010】
また、本発明において好ましくは、音制御部は、アクセル開度が高いほど、より短い周期の変動音圧成分を含めて合成音を設定するように構成されている。
【0011】
また、本発明において好ましくは、変動音圧成分の周期は、700~1200rpmに設定されている。本発明のように、合成音に付加する音圧の揺らぎ成分の周期が700~1200rpmであると、ドライバの操作精度が向上することが実験結果より明らかとなった。また、本発明において好ましくは、回転動力源の回転数は、少なくとも0~6000rpmの範囲にわたって変化する。
【0012】
また、本発明において好ましくは、変動音圧成分の所定の振幅は、基準音圧成分の大きさの8~13%に設定されている。本発明のように、合成音に付加する音圧の揺らぎ成分の振幅が基準音圧成分の大きさの8~13%であると、ドライバの操作精度が向上することが実験結果より明らかとなった。
また、本発明において好ましくは、変動音圧成分は、第1変動音圧成分と第2変動音圧成分を含み、第2変動音圧成分の周期は、第1変動音圧成分の周期よりも小さく設定されている。
また、本発明において好ましくは、第2変動音圧成分の周期は700~1200rpmである。
また、本発明において好ましくは、車両のアクセル開度が第1閾値以上、且つ第1閾値より大きい第2閾値未満の場合、合成音は第1変動音圧成分を含み、車両のアクセル開度が第2閾値以上の場合、合成音は第1変動音圧成分及び第2変動音圧成分を含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明の車両用音生成装置によれば、ドライバに対して車両状態の変化を認識し易いように音を発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態の車両用音生成装置の説明図である。
図2】本発明の実施形態の車両用音生成装置の構成図である。
図3A】本発明の実施形態の基準音圧マップである。
図3B】本発明の実施形態の第1変動音圧マップである。
図3C】本発明の実施形態の第2変動音圧マップである。
図4】本発明の実施形態の合成音の説明図である。
図5】本発明の実施形態の音生成処理のフローチャートである。
図6A】本発明の実施形態の車両用音生成装置を用いた実験結果のデータである。
図6B】本発明の実施形態の車両用音生成装置を用いた実験結果のデータである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
まず、図1及び図2を参照して、本発明の車両用音生成装置の構成を説明する。図1は車両用音生成装置の説明図、図2は車両用音生成装置の構成図である。
【0016】
図1及び図2に示すように、本実施形態の車両用音生成装置1は、車両2に搭載された音制御装置10と、車室内のドライバに対して所定の音を出力するスピーカ20と、車両2の状態を検出する各種センサ群30とを備えている。
【0017】
車両2は、回転動力源としての電動モータ3を備えた電動車両(EV)である。車両2は、内燃機関(ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等)を備えていないため、走行中にいわゆるエンジン音が生じない。電動モータ3は作動音を生じるが、モータ作動音は、エンジン音に比べて小さい。このため、車内のドライバは、モータ作動音をほとんど認識することができない。本実施形態では、ドライバが電動モータ3を含む車両2のパワートレインの作動状況を把握することができるように、車両用音生成装置1は、電動モータ3の作動状況に応じた音を発生するように構成されている。
【0018】
音制御装置10は、プロセッサである制御部12,各種プログラム及びデータベースを記憶するメモリ(記憶部14),データ入出力装置等を備えたコンピュータ装置である。データベースには、音圧マップMT,MD1,MD2が含まれる。音制御装置10は、車内通信回線を介して、他の車載装置と通信可能に接続されている。音制御装置10は、センサ群30からの車両情報に基づいて、プロセッサがプログラムを実行することにより、スピーカ20に対して、音情報(周波数、音圧等)を含む音信号Ssを出力するように構成されている。
【0019】
スピーカ20は、増幅器(アンプ)を備えた音出力部である。スピーカ20は、音制御装置10から音信号Ssを受け取り、音信号Ssを所定の増幅率で増幅して、音信号Ssに基づく合成音SCを出力する。なお、スピーカ20は、車室内に設けられていなくてもよく、スピーカ20が発生する合成音SCをドライバが認識することができればよい。
【0020】
センサ群30は、電動モータ3のモータ回転数を検出するモータ回転数センサ31と、電動モータ3のモータトルクを検出するモータトルクセンサ32と、車両2の車速を検出する車速センサ33と、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ34を含む。これらセンサ群30は、車内通信回線を通して、検出した車両情報を示す信号を送信する。音制御装置10は、車内通信回線を介して、センサ群30から各種の車両情報信号を受け取ることができる。
【0021】
車両情報信号は、モータ回転数信号SR、モータトルク値信号ST、車速信号SV、アクセル開度信号SAを含む。音制御装置10(プロセッサ)は、モータ回転数信号SRから回転数Rを読み取り、モータトルク値信号STからモータトルク値Tを読み取り、車速信号SVから車速Vを読み取り、アクセル開度信号SAからアクセル開度Acを読み取る。
【0022】
次に、図3A図3C図4を参照して、本実施形態の車両用音生成装置の音生成処理について説明する。図3A図3Cはそれぞれ基準音圧マップ,第1変動音圧マップ,第2変動音圧マップであり、図4は合成音の説明図である。
【0023】
制御部12は、回転数Rに基づいて周波数を設定し、設定した周波数に対応する音圧を、記憶部14に記憶された基準音圧マップMT,第1変動音圧マップMD1,第2変動音圧マップMD2を用いて設定し、設定した周波数及び音圧を有する要素音を表す合成音信号Ssを生成する。
【0024】
制御部12は、1次周波数(基本周波数)である回転数Rに対して、以下の式に基づいて、設定周波数fを決定する。
f(Hz)=k×R(Hz) (式1)
kは、任意の大きさを有する係数である。係数kは、例えば、1.6、2、2.24、2.4、2.67、3.33、4、5.33、8から選択される。
【0025】
なお、本実施形態では、制御部12は合成音SCを生成するために単一の周波数を設定する。このため、合成音SCを生成するための要素音が1つである。しかしながら、代替的に、制御部12は、複数の周波数を設定し、複数の要素音に基づいて合成音SCを生成してもよい。この場合、式1に基づいて異なる係数kn(n=1,2,3・・・)の値によって、異なる周波数fn(n=1,2,3・・・)が決定される。係数knは、例えば、上述の1.6、2、2.24、2.4、2.67、3.33、4、5.33、8から選択される。
【0026】
図3Aに示すように、基準音圧マップMTは、回転数Rの増加に応じて、基準音圧の大きさが単調に増加するように設定されている。具体的には、基準音圧マップMTは、回転数Rの増加と共に基準音圧成分Sbが線形的に増加するように設定される。図3Aの例では、回転数Rが約1000rpmから約6200rpmに増加するとき、基準音圧成分Sbは約50dBから約70dBに線形的に増加する。
【0027】
図3Bに示すように、第1変動音圧マップMD1は、回転数Rの増加に応じて、第1変動音圧成分Sf1の大きさが音圧0dBを基準として変動するように設定されている。具体的には、第1変動音圧マップMD1は、回転数Rの増加と共に第1変動音圧成分Sf1が略正弦波状に変化するように設定される。図3Bの例では、回転数Rが約1000rpmから約6200rpmに増加するときに、第1変動音圧成分は、約2500rpmの周期p1,約5dBの振幅a1で変化する。
【0028】
図3Cに示すように、第2変動音圧マップMD2は、回転数Rの増加に応じて、第2変動音圧成分の大きさが音圧0dBを基準として変動するように設定されている。具体的には、第2変動音圧マップMD2は、回転数Rの増加と共に第2変動音圧成分Sf2が高周波成分を伴いながら略正弦波状に変化するように設定される。図3Cの例では、回転数Rが約1000rpmから約6200rpmに増加するときに、第2変動音圧成分Sf2は、約700rpm~1200rpmの周期p2,約5dBの振幅a2で変動する。
【0029】
第2変動音圧マップMD2は、第1変動音圧マップMD1よりも周期の短い変動音圧成分を有するように設定されている。よって、第1変動音圧マップMD1は、長周期の変動音圧成分(Sf1)を規定し、第2変動音圧マップMD2は、短周期の変動音圧成分(Sf2)を規定している。また、第2変動音圧マップMD2は、主として約700rpm~1200rpmの変動周期を有するが、更なる短周期の変動音圧成分を有している。更なる短周期の変動音圧成分は、約50~約100rpmの周期,約1~2dBの振幅を有する。
【0030】
なお、本実施形態では、2つの変動音圧マップMD1,MD2が用いられているが、代替的に、3以上の変動音圧マップMDn(n=3,4,・・・)を用いてもよい。この場合、複数の変動音圧マップは、例えば、約1000rpm,約500rpm,約200rpm,約100rpm,約50rpm,約10rpm,約5rpmの変動音圧成分Sfnの周期を有するように設定することができる。
【0031】
また、本実施形態では、2つの変動音圧マップMD1,MD2の振幅a1,a2が、同じ回転数Rにおいて、基準音圧マップMTにより規定される基準音圧成分Sbの大きさの約8~13%となるように設定されている。したがって、生成される合成音SCにおいて、基準音圧成分Sbが支配的である。このため、本実施形態では、ドライバは、回転数Rが増加するとき、基準音圧成分Sbの音圧増加によって全体的に合成音SCの音圧が増加するように認識する。
【0032】
また、代替的に、複数の要素音により合成音SCを生成する場合、複数の要素音に対して、同一の基準音圧マップ,1又は複数の変動音圧マップを用いてもよいし、各要素音に対してそれぞれ設けられた基準音圧マップ,1又は複数の変動音圧マップを用いてもよい。
【0033】
制御部12は、選択された周波数の要素音の音圧を、基準音圧マップMT,第1変動音圧マップMD1,第2変動音圧マップMD2のうち1又は複数の音圧マップを用いて設定し、設定された音圧を有する要素音に基づいて合成音SCを表す音信号Ssを生成する。選択された周波数を有する要素音(合成音SC)の音圧は、回転数Rに応じて、図4に示す特性線L1,L2,L3で表される音圧に設定される。
【0034】
特性線L1は、基準音圧マップMTにより規定される特性線と同じである。この場合、合成音SCは、回転数Rの増加と共に単調に増加する基準音圧成分Sbのみを含む。
【0035】
特性線L2は、基準音圧マップMTと第1変動音圧マップMD1により規定される2つの特性線を合成(加算)した特性線である。したがって、特性線L2は、基準音圧成分Sbに長周期の変動音圧成分Sf1が重畳されている。
【0036】
特性線L3は、基準音圧マップMT,第1変動音圧マップMD1,及び第2変動音圧マップMD2により規定される3つの特性線を合成(加算)した特性線である。したがって、特性線L3は、基準音圧成分Sbに長周期の変動音圧成分Sf1と短周期の変動音圧成分Sf2が重畳されている。なお、代替的に、特性線L3の代わりに、基準音圧成分Sbに短周期の変動音圧成分Sf2のみが重畳された特性線を用いてもよい。
【0037】
次に、図5を参照して、本実施形態の車両用音生成装置の音生成処理の流れについて説明する。図5は、音生成処理のフローチャートである。
【0038】
車両用音生成装置1は、音制御装置10(制御部12)が、音生成処理において車両情報に基づいて1又は複数の周波数の要素音の合成音SC(疑似モータ作動音、又は、疑似エンジン作動音)を生成し、スピーカ20が、この合成音SCをドライバに対して出力するように構成されている。車両用音生成装置1は、図5に示す音生成処理を所定時間毎(例えば、10ms毎)に繰り返し実行する。
【0039】
まず、音生成処理において、制御部12は、車内通信回線を介して、車両情報を取得する(ステップS1)。上述のように、制御部12は、回転数R,モータトルク値T,車速V,アクセル開度Ac等を取得する。
【0040】
次いで、制御部12は、周波数設定処理を行う(ステップS2)。周波数設定処理では、回転数Rに基づいて、式1を用いて周波数f(又は複数の周波数fn)を設定する。
【0041】
次いで、制御部12は、ステップS4,S5において、記憶部14に記憶されている基準音圧マップMT,第1変動音圧マップMD1,第2変動音圧マップMD2から使用する1又は複数のマップを選択する。具体的には、制御部12は、アクセル開度Acに基づいて、使用する1又は複数のマップを選択する。
【0042】
アクセル開度Acが第1閾値(本例では、20%)未満の場合(S4;No)、音制御装置10(制御部12)は、基準音圧マップMTのみを用いて各要素音の音圧を設定する(ステップS8)。図4の例では、特性線L1に基づいて、現在の回転数Rに対する各要素音の音圧が設定される。
【0043】
また、アクセル開度Acが第1閾値以上(S4;Yes)且つ第2閾値(本例では、50%)未満の場合(S5;No)、制御部12は、基準音圧マップMTと第1変動音圧マップMD1を用いて、各要素音の音圧を設定する(ステップS7)。図4の例では、特性線L2に基づいて、現在の回転数Rに対する各要素音の音圧が設定される。
【0044】
また、アクセル開度Acが第1閾値以上(S4;Yes)且つ第2閾値以上の場合(S5;Yes)、制御部12は、基準音圧マップMT,第1変動音圧マップMD1及び第2変動音圧マップMD2を用いて、各要素音の音圧を設定する(ステップS6)。図4の例では、特性線L3に基づいて、現在の回転数Rに対する各要素音の音圧が設定される。
【0045】
ステップS6~S8において各要素音の音圧が設定されると、制御部12は、設定された音圧を有する合成音SCを生成するための音信号Ssを生成し、スピーカ20に音信号Ssを出力する(ステップS9)。スピーカ20は、音信号Ssを受信し合成音SCを出力する(ステップS10)。
【0046】
次に、図6A及び図6Bを参照して、本実施形態の車両用音生成装置を用いた実験結果を説明する。図6A及び図6Bは、実験結果のデータである。
【0047】
図6A及び図6Bにおける実験では、車両用音生成装置1を搭載したマニュアルトランスミッションの車両2が用いられている。側道から高速道路への進入を想定し、複数のドライバが、ギヤ位置を1速から3速までシフトアップ操作しながら、車両2を速度ゼロから速度100km/hまで加速させた。その際、シフトアップ操作を行ったときのモータ回転数を記録した。各ドライバに対して、実験1と実験2をそれぞれ複数回行った。実験1では、基準音圧マップMTのみを用いて合成音SCを生成した。一方、実験2では、3つのマップ(MT,MD1及びMD2)を用いて合成音SCを生成した。なお、実験中、モータ回転数計や速度計は、ドライバから見えないように隠されていた。
【0048】
そして、実験1及び実験2において、各ドライバがギヤ位置を1速から2速へ切替えたときのモータ回転数のばらつきと、各ドライバがギヤ位置を2速から3速へ切り替えたときのモータ回転数のばらつきとをそれぞれ計算した。複数回のシフトアップ操作が行われたモータ回転数の範囲が狭いほど、ばらつきは小さい。図6Aは、1速から2速へのギヤ位切替え時のデータである。図6Bは、2速から3速へのギヤ位置切替え時のデータである。図6A及び図6Bは、複数人のドライバのデータの平均値を示している。
【0049】
図6A及び図6Bの縦軸は、シフトアップ操作時のモータ回転数のばらつきを無次元化した値である。シフトアップ操作のタイミングについて、各ドライバが適正と考えるタイミングは異なる。このため、本実施形態では、各ドライバがシフトアップ操作を行ったときモータ回転数のばらつきに注目している。
【0050】
図6A及び図6Bを参照すると、どちらも実験1よりも実験2の方が、モータ回転数のばらつきが小さくなっていることが分かる。すなわち、基準音圧マップMT(図3A)のみを用いた合成音SCをドライバに提供するよりも、基準音圧マップMTに加えて第1変動音圧マップMD1(図3B)及び第2変動音圧マップMD2(図3C)を用いた合成音SCをドライバに提供する方が、シフトアップ操作のタイミングのばらつきが有意に小さくなっている。
【0051】
言い換えると、上記実験により、ドライバに対して、モータ回転数の上昇と共に単調に又は線形的に周波数が増加する合成音SCをドライバに提供するよりも、モータ回転数の上昇と共に周波数が揺らぎながら増加する合成音SCをドライバに提供する方が、ドライバに対して、より均一なタイミングでのシフトアップ操作を促進可能であることが分かった。
【0052】
合成音SCに含まれる周波数揺らぎ成分(すなわち、Sf1,Sf2)がドライバの操作精度を向上する理由は明確には分からない。しかしながら、確率共鳴現象が1つの要因であると推察される。すなわち、音圧の揺らぎ(第1変動音圧マップMD1及び第2変動音圧マップMD2により生成される)が、確率共鳴現象におけるノイズとして機能して、基準音圧(基準音圧マップMTにより生成される)に対するドライバの感度が高まると推察される。
【0053】
本発明は、以下のように変更可能である。上記実施形態では、車両2は、電動車両(EV)であり内燃機関を備えていない。しかしながら、代替的な実施形態において、車両2は、回転動力源として内燃機関と電動モータの一方又は両方を備えた車両であってもよい。
【0054】
車両2が内燃機関のみを備える実施形態では、エンジン作動音に加えて、車両用音生成装置1により発生される音により、ドライバは、車両状態及び車両状態の変化をより明確に把握することができる。また、この代替的な実施形態では、合成音SCの周波数及び音圧を決定するために、内燃機関の回転数(エンジン回転数)を用いることができる。
【0055】
さらに、車両2が内燃機関と電動モータの両方を備える別の実施形態では、合成音SCの周波数及び音圧を決定するために、電動モータ及び内燃機関の一方又は両方の回転数を用いることができる。
【0056】
次に、本実施形態の車両用音生成装置1の作用について説明する。
本実施形態の車両用音生成装置1は、電動モータ3及び/又はエンジンを含む回転動力源を用いて走行する車両2に搭載され、回転動力源(電動モータ3)の回転数Rに応じた1又は複数の周波数fnを設定し、1又は複数の周波数fnを有する1又は複数の要素音を含む合成音SCを表す合成音信号Ssを生成する音制御部(音制御装置10)と、音制御部が生成した合成音信号Ssに基づいて、合成音SCを出力する音出力部(スピーカ20)と、を備え、音制御部は、合成音SCの音圧が基準音圧成分Sbと変動音圧成分Sf1,Sf2を含むように、合成音SCを設定し、基準音圧成分Sbは、回転動力源(電動モータ3)の回転数Rの増加に応じて、基準音圧成分Sbの大きさが増加するように設定され、変動音圧成分Sf1,Sf2は、回転動力源(電動モータ3)の回転数Rの増加に応じて、変動音圧成分Sf1,Sf2の大きさが回転数Rの所定の増加量を周期p1,p2として所定の振幅a1,a2内で変動するように設定されている。
【0057】
本実施形態では、回転動力源(電動モータ3)の回転数Rに応じて合成音SCの音圧が変化する。合成音SCは、回転数Rに応じた基準音圧成分Sbと変動音圧成分Sf1,Sf2とを有している。本実施形態では、ドライバは、回転数Rの増加に応じて基準音圧成分Sbの大きさ(音圧)が増加するため、回転動力源(電動モータ3)の作動状況を感覚的に把握することができる。それに加えて、本実施形態では、揺らぎ成分としての変動音圧成分Sf1,Sf2が基準音圧成分Sbに重畳することにより、ドライバは基準音圧成分Sbの変化をより敏感に感じ取ることができる。これにより、本実施形態では、回転動力源(電動モータ3)を含む車両2のパワートレインの作動状態をドライバに認識し易くさせることができる。
【0058】
また、本実施形態では、1又は複数の要素音の各々の音圧が基準音圧成分Sbと変動音圧成分Sf1,Sf2を含む。また、本実施形態では、各要素音の基準音圧成分Sbは、回転動力源(電動モータ3)の回転数Rの増加に応じて、各要素音の基準音圧成分Sbの大きさが増加するように設定され、各要素音の変動音圧成分Sf1,Sf2は、回転動力源(電動モータ3)の回転数Rの増加に応じて、各要素音の変動音圧成分Sf1,Sf2の大きさが回転数Rの所定の増加量を周期p1,p2として所定の振幅a1,a2内で変動するように設定されている。
【0059】
また、本実施形態では、音制御部(音制御装置10)は、車両2のアクセル開度Acが所定値(第1閾値又は第2閾値)以上の場合にのみ(S4;Yes、又はS5;Yes)、1又は複数の要素音の音圧に変動音圧成分Sf1,Sf2を含めるように構成されている。
この構成により、本実施形態では、ドライバがアクセルを踏み込んで、車両2を加速させているときに、合成音SCに揺らぎ(変動音圧成分Sf1,Sf2)を付加することができる。これにより、本実施形態では、車両2の加速時に、ドライバにパワートレインの作動状態を認識させ易くすることができる。
【0060】
また、本実施形態では、音制御部(音制御装置10)は、アクセル開度Acが高いほど(S5;Yes)、より短い周期の変動音圧成分Sf2を含めて合成音を設定するように構成されている。本実施形態では、アクセル開度Acが第1閾値以上で第2閾値未満の場合(S4;Yes且つS5;No)、合成音SCは第1変動音圧成分Sf1を含むが(第2変動音圧成分Sf2を含まない)、アクセル開度Acが第2閾値以上の場合(S5;Yes)、合成音SCは第2変動音圧成分Sf2を含む。
【0061】
また、本実施形態では、具体的には、変動音圧成分Sf2の周期p2は、700~1200rpmに設定されている。本実施形態のように、合成音SCに付加する音圧の揺らぎ成分Sf2の周期p2が700~1200rpmであると、ドライバの操作精度が向上することが実験結果より明らかとなった。また、本実施形態では、回転動力源(電動モータ3)の回転数Rは、少なくとも0~6000rpmの範囲にわたって変化する。
【0062】
また、本実施形態では、具体的には、変動音圧成分Sf2の所定の振幅a2は、基準音圧成分Sbの大きさの8~13%に設定されている。本実施形態のように、合成音SCに付加する音圧の揺らぎ成分Sf2の振幅a2が基準音圧成分Sbの大きさの8~13%であると、ドライバの操作精度が向上することが実験結果より明らかとなった。
【符号の説明】
【0063】
1 車両用音生成装置
2 車両
3 電動モータ
10 音制御装置
12 制御部
14 記憶部
20 スピーカ
L1,L2,L3 特性線
MD1 第1変動音圧マップ
MD2 第2変動音圧マップ
MT 基準音圧マップ
Sb 基準音圧成分
Sf1 第1変動音圧成分
Sf2 第2変動音圧成分
Ss 合成音信号
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5
図6A
図6B