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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】シールド導電路
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/6592 20110101AFI20231221BHJP
   H01R 13/56 20060101ALN20231221BHJP
【FI】
H01R13/6592
H01R13/56
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020085129
(22)【出願日】2020-05-14
(65)【公開番号】P2021180115
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小島 佑介
(72)【発明者】
【氏名】村田 敦
(72)【発明者】
【氏名】浜田 和明
【審査官】山下 寿信
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-170934(JP,A)
【文献】国際公開第2018/159351(WO,A1)
【文献】特開2015-226383(JP,A)
【文献】特開2002-216916(JP,A)
【文献】特開2011-023245(JP,A)
【文献】国際公開第2020/129623(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/129624(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/137860(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/029201(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/6592
H01R 13/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内導体と、前記内導体を包囲する外導体とを有するシールド端子と、
前記内導体の後端部に固着された芯線と、前記芯線を包囲する編組線と、前記編組線を包囲するシースとを有するシールド電線と、
前記シースの前端部外周に取り付けられたスリーブとを備え、
前記シールド電線の前端部においては、前記シースの前端から延出した前記編組線が後方へ折り返されて前記スリーブの外周に被せられ、前記外導体の後端部の圧着部が、前記編組線の折返部の外周を包囲した状態で前記スリーブにカシメ付けられており、
前記スリーブの前端が、前後方向において、前記シースの前端よりも前方に位置しているシールド導電路。
【請求項2】
内導体と、前記内導体を包囲する外導体とを有するシールド端子と、
前記内導体の後端部に固着された芯線と、前記芯線を包囲する編組線と、前記編組線を包囲するシースとを有するシールド電線と、
前記シースの前端部外周に取り付けられたスリーブとを備え、
前記シールド電線の前端部においては、前記シースの前端から延出した前記編組線が後方へ折り返されて前記スリーブの外周に被せられ、前記外導体の後端部の圧着部が、前記編組線の折返部の外周を包囲した状態で前記スリーブにカシメ付けられており、
前記スリーブの前端が、前後方向において、前記シースの前端と同じ位置か、前記シースの前端よりも前方に位置し、
前記スリーブの前端部には、前方に向かって径寸法が大きくなる拡径部が形成され、
前記圧着部に、前記拡径部と整合するテーパ部が形成されているシールド導電路。
【請求項3】
前記拡径部の後端が前記シースの前端よりも後方に位置している請求項2に記載のシールド導電路。
【請求項4】
内導体と、前記内導体を包囲する外導体とを有するシールド端子と、
前記内導体の後端部に固着された芯線と、前記芯線を包囲する編組線と、前記編組線を包囲するシースとを有するシールド電線と、
前記シースの前端部外周に取り付けられたスリーブとを備え、
前記シールド電線の前端部においては、前記シースの前端から延出した前記編組線が後方へ折り返されて前記スリーブの外周に被せられ、前記外導体の後端部の圧着部が、前記編組線の折返部の外周を包囲した状態で前記スリーブにカシメ付けられており、
前記スリーブの前端が、前後方向において、前記シースの前端よりも前方に位置し、
前記スリーブには、前記シースの前端を前記スリーブの外周面側へ露出させる切欠部が形成されているシールド導電路。
【請求項5】
前記圧着部には、前記シースに対して食い込むように当接する食い込み部が形成されている請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のシールド導電路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シールド導電路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内導体端子を外導体端子で包囲した端子金具と、シールド電線とを接続する構造が開示されている。シールド電線は、芯線と、芯線を包囲する編組線と、編組線を包囲する外被とを有する。シールド電線の前端部においては、外被の外周にリング部材が外嵌され、編組線の前端部が後方へ折り返されてリング部材の外周に被せられている。外導体端子の後端部のバレル部が、編組線の外周に密着した状態でリング部材にカシメ付けられ、カシメ付けられたリング部材が外被の外周に密着することによって、外導体端子がシールド電線の前端部に固着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2015-226383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、自動車の伝送回路では伝送速度の高速化が求められている。高速伝送における通信性能の向上と安定化を図るためには、シールド電線の変形を防止して芯線と編組線との間隔を一定に保ち、インピーダンス整合を図る必要がある。外導体端子のバレル部をリング部材に強くカシメ付けると、シールド電線が径方向に潰れるように変形することになる。通信性能の低下を回避するためには、バレル部のカシメ付け力を抑える必要がある。
【0005】
しかし、バレル部のカシメ力を弱くすると、シールド電線が後方へ引っ張られたときに、外被の外周面とリング部材の内周面との間で滑りが生じ、シールド電線が、外導体端子及び内導体端子に対して後方へ相対変位する。そのため、内導体端子と芯線との接続部分に負荷が集中して芯線が内導体端子から抜けたり、芯線が断線したりするおそれがある。そのため、端子金具とシールド電線の接続信頼性を優先すると、通信性能が低下することになる。
【0006】
本開示のシールド導電路は、上記のような事情に基づいて完成されたものであって、通信性能の低下を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のシールド導電路は、
内導体と、前記内導体を包囲する外導体とを有するシールド端子と、
前記内導体の後端部に固着された芯線と、前記芯線を包囲する編組線と、前記編組線を包囲するシースとを有するシールド電線と、
前記シースの前端部外周に取り付けられたスリーブとを備え、
前記シールド電線の前端部においては、前記シースの前端から延出した前記編組線が後方へ折り返されて前記スリーブの外周に被せられ、前記外導体の後端部の圧着部が、前記編組線の折返部の外周を包囲した状態で前記スリーブにカシメ付けられており、
前記スリーブの前端が、前後方向において、前記シースの前端と同じ位置か、前記シースの前端よりも前方に位置している。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、通信性能の低下を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例1のシールド導電路の斜視図である。
図2図2は、シールド導電路の断面図である。
図3図3は、アッパシェルの斜視図である。
図4図4は、ロアシェルの斜視図である。
図5図5は、シールド電線に取り付ける前の状態のスリーブの斜視図である。
図6図6は、シールド電線にスリーブを外嵌した状態をあらわす平面図である。
図7図7は、実施例2においてシールド電線のスリーブを外嵌した状態をあらわす平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
本開示のシールド導電路は、
(1)内導体と、前記内導体を包囲する外導体とを有するシールド端子と、前記内導体の後端部に固着された芯線と、前記芯線を包囲する編組線と、前記編組線を包囲するシースとを有するシールド電線と、前記シースの前端部外周に取り付けられたスリーブとを備え、前記シールド電線の前端部においては、前記シースの前端から延出した前記編組線が後方へ折り返されて前記スリーブの外周に被せられ、前記外導体の後端部の圧着部が、前記編組線の折返部の外周を包囲した状態で前記スリーブにカシメ付けられており、前記スリーブの前端が、前後方向において、前記シースの前端と同じ位置か、前記シースの前端よりも前方に位置している。
【0011】
本開示の構成によれば、通信性能の低下を回避するために圧着部によるカシメ力を低下させると、シールド電線に後方への引張力が作用したときに、シールド電線が外導体に対して後方へ相対変位しようとする。しかし、シールド電線の相対変位の開始時又は開始直後に、編組線のうち折返部の前端の屈曲部がスリーブの前端に引っ掛かるので、シールド電線の後方への相対変位が阻止される。したがって、シールド端子とシールド電線の接続状態を保ちながら、通信性能の低下を防止することができる。
【0012】
(2)前記スリーブの前端部には、前方に向かって径寸法が大きくなる拡径部が形成されていることが好ましい。この構成によれば、シールド電線に後方への引張力が作用したときに、スリーブが圧着部に対して後方へ相対変位しようとしても、拡径部の外周が圧着部に引っ掛かることによって、圧着部に対するスリーブの後方への相対変位が防止される。
【0013】
(3)(2)において、前記拡径部の後端が前記シースの前端よりも後方に位置していることが好ましい。この構成によれば、シールド電線に後方への引張力が作用したときに、シースの前端部が拡径部の内周面に引っ掛かることによって、シールド電線の後方への相対変位を防止することができる。
【0014】
(4)前記圧着部には、前記シースに対して食い込むように当接する食い込み部が形成されていることが好ましい。この構成によれば、シールド端子に対するシールド電線の後方への相対変位を、食い込み部の食い込み作用によって防止することができる。
【0015】
(5)前記スリーブの前端が前記シースの前端よりも前方に位置しており、前記スリーブには、前記シースの前端を前記スリーブの外周面側へ露出させる切欠部が形成されていることが好ましい。この構成によれば、スリーブの前端とシースの前端との位置関係を、切欠部を通して確認することができる。
【0016】
[本開示の実施形態の詳細]
[実施例1]
本開示のシールド導電路Aを具体化した実施例1を、図1図6を参照して説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。本実施例1において、前後の方向については、図1,3,4における斜め左下方、及び図2,6における左方を、前方と定義する。上下の方向については、図1,3,4にあらわれる向きを、そのまま上方、下方と定義する。
【0017】
本実施例1のシールド導電路Aは、シールド電線10と、シールド電線10に外嵌されたスリーブ20と、シールド電線10の前端部にスリーブ20を用いて接続されたシールド端子25とを備えている。
【0018】
シールド電線10は、複数本の被覆電線11を円形断面の絶縁部材(図示省略)内に埋設し、絶縁部材の外周をシールド機能を発揮する編組線15で包囲し、編組線15を円筒形のシース18で包囲したものである。図2に示すように、シールド電線10の前端部においては、シース18と絶縁部材が除去されて、複数本の被覆電線11が、個別に屈曲可能な状態で絶縁部材の前方へ露出している。各被覆電線11の前端部では、絶縁被覆13が除去されて導電性の芯線12の前端部が露出している。編組線15は、金属製の素線を編んだものであり、可撓性を有する筒状部材である。編組線15の前端部は、シース18の前端18Fよりも前方へ延出した状態で露出している。
【0019】
シース18の前端部外周には、金属等の導電性を有するスリーブ20が外嵌されている。図5に示すように、スリーブ20は厚さが一定の板状部材からなる。スリーブ20は、軸線を前後方向に向けた円筒形をなすように曲げ加工され、シース18の前端部に対しシース18を全周に亘って包囲するように外嵌されている。スリーブ20の前端20Fはシース18の前端18Fよりも前方に位置する。つまり、スリーブ20の前端20F部はシース18の前端18Fよりも前方へ突出している。
【0020】
円筒形に曲げ加工されたスリーブ20は、定径部21と拡径部22とを有する。定径部21は、内径及び外径の寸法が軸線方向の全長に亘って一定の円筒形をなす。拡径部22は、定径部21の前端から前方へ延出している。拡径部22は、内径寸法及び外径寸法が前方に向かって次第に増大するようなテーパ状、即ち円錐台状をなしている。前後方向(シールド電線10の軸線方向)において、定径部21の全領域は、シース18の前端18Fよりも後方の領域に配置されている。拡径部22の後端22Rはシース18の前端18Fよりも後方に位置し、拡径部22の前端22F(即ち、スリーブ20の前端20F)はシース18の前端18Fよりも前方に位置する。
【0021】
図2に示すように、シールド電線10の前端部のうち芯線12の露出領域よりも後方の領域においては、編組線15の前端部が、シース18の前端18Fの近傍で後方へ反転するように屈曲され、編組線15のうち屈曲部16よりも後方の折返部17が、スリーブ20の外周を覆っている。編組線15の屈曲部16は、スリーブ20の前端20Fに当接して引っ掛かる位置、又は、スリーブ20の前端20Fに対し前方から近接して対向する位置に配置されている。
【0022】
シールド端子25は、各被覆電線11の芯線12の前端部に個別に接続した内導体26と、複数の内導体26を収容した誘電体27と、誘電体27の外周を包囲した状態で誘電体27に取り付けられた外導体28とを備えて構成されている。外導体28は、機能的には、外導体28の前端部を構成する角筒状のシェル本体部29と、シェル本体部29の後端に連って外導体28の後端部を構成する円筒状の圧着部30とを備えて構成されている。外導体28は、部品構成的には、金属板材に曲げ加工等を施したアッパシェル31と、金属板材に曲げ加工等を施したロアシェル32を上下に合体して構成されている。
【0023】
図3に示すように、アッパシェル31は、下面開放の箱形をなすアッパ側本体部33と、基板部34と、第1カシメ部35と、第2カシメ部36とを有する単一部品である。基板部34と第1カシメ部35と第2カシメ部36は圧着部30を構成する。基板部34は、アッパ側本体部33の後端縁から後方へ延出した形態であり、上方へ膨らむように湾曲したアーチ形をなしている。
【0024】
圧着部30(外導体28)がシールド電線10に圧着されていない状態において、第1カシメ部35は、基板部34の右側縁部から周方向に沿って斜め右下方へ延出した形態である。第1カシメ部35の延出端部には、前後方向に間隔を空けた一対の第1係止部37が形成されている。圧着部30(外導体28)がシールド電線10に圧着されていない状態において、第2カシメ部36は、基板部34の左側縁部から周方向に沿って斜め左下方へ延出した形態である。第2カシメ部36の延出端部には、第2係止部38が形成されている。
【0025】
圧着部30の後端縁には、複数(本実施例1では4つ)の食い込み部39が形成されている。食い込み部39は、圧着部30の後端縁部の一部を内側(シールド電線10の外周面に向かう方向)へ突起状に曲げた形態である。基板部34の後端縁には左右一対の食い込み部39が形成され、第1カシメ部35の後端縁と第2カシメ部36の後端縁には、夫々、1つずつの食い込み部39が形成されている。
【0026】
ロアシェル32は、上面開放の箱形をなすロア側本体部40と、規制部41とを有する単一部品である。規制部41は、ロア側本体部40の後端縁から後方へ片持ち状に延出した形態であり、圧着部30を構成する。
【0027】
次に、シールド導電路Aの組付けについて説明する。アッパシェル31とロアシェル32を上下に合体させるように組み付けると、アッパ側本体部33とロア側本体部40が誘電体27を挟むように上下に合体され、角筒状のシェル本体部29が構成される。シェル本体部29内には、誘電体27の全体と被覆電線11の露出領域とが収容される。外導体28とシールド電線10が圧着されていない状態において、圧着部30の基板部34と規制部41が、シールド電線10の前端部を上下に挟むように位置する。
【0028】
この状態で、圧着部30とシールド電線10の前端部をアプリケータ(図示省略)にセットして圧着を行う。圧着工程では、第1カシメ部35と第2カシメ部36が編組線15の折返部17の外周に押し付けられるように変形させられ、第1係止部37と第2係止部38が、互いに周方向において反対側から規制部41に係止する。第1係止部37と第2係止部38の係止作用によって、圧着部30が、編組線15の折返部17及びスリーブ20の外周にカシメ付けられ、シールド電線10に圧着される。
【0029】
圧着状態では、編組線15の折返部17が圧着部30の内周面とスリーブ20の外周面との間に挟み付けられ、外導体28と編組線15が導通可能に接続されると同時に、外導体28及びシールド端子25と、シールド電線10とが前後方向への相対変位を規制状態に固着される。また、食い込み部39が、シース18の外周のうちスリーブ20の後方直近の位置に食い込む。この食い込み部39の食い込みにより、シールド電線10の圧着部30に対する前後方向への相対変位と周方向への相対変位が防止される。以上により、外導体28の組付けが完了すると同時に、シールド端子25とシールド導電路Aの接続が完了する。
【0030】
外導体28の圧着部30をシールド電線10の前端部に圧着すると、圧着部30がスリーブ20を僅かに縮径変形させるので、スリーブ20がシース18の外周部に対し圧着部30のうち第1カシメ部35及び第2カシメ部36よりも前方の部位には、スリーブ20の拡径部22と整合するテーパ部42が形成される。また、圧着部30がスリーブ20を僅かに縮径変形させるので、スリーブ20が、シース18の外周部に対して縮径変形させるように面接触する。スリーブ20によるシース18の縮径変形量は、インピーダンス整合に影響を及ぼない程度の量である。シース18の外周部のうち、拡径部22によって縮径変形させられている前端部領域は、拡径部22の内周面のテーパ形状と同様に、前方に向かって外径寸法が大きくなるようなテーパ形状なしている。
【0031】
圧着部30によるカシメ付け力を強くすると、スリーブ20によるシース18の縮径変形量が増大し、スリーブ20とシース18との間で前後方向の相対変位が生じ難くなるので、シールド電線10に対する圧着部30の固着力、つまり圧着部30による保持力が高くなる。しかし、その反面、シース18のうちスリーブ20によって縮径変形した部位と、縮径変形していない部位との間では、芯線12と編組線15の間の径方向の距離の差異が大きくなるので、インピーダンスの不整合が生じ、通信性能が低下する。
【0032】
本実施例のシールド導電路Aは、通信性能の低下を回避するために、圧着部30によるカシメ力を抑えているので、シールド端子25とシールド電線10との固着力低下が懸念される。その対策として、スリーブ20の前端20F部に拡径部22を形成し、シース18の前端部を拡径部22の内周面に密着させている。シールド電線10が後方へ引っ張られたときには、シース18の前端部が、拡径部22の内周面に対して前方から当接して引っ掛かりを生じることによって、シールド電線10がシールド端子25に対して後方へ相対変位することを防止できる。
【0033】
また、シールド電線10に付与される後方への引張力が、拡径部22に対するシース18の引っ掛かり力を上回った場合の対策として、圧着部30に形成した食い込み部39をシース18の外周部に食い込ませている。シールド電線10が後方へ引っ張られたときには、シース18が食い込み部39に引っ掛かることによって、シールド電線10がシールド端子25に対して後方へ相対変位することを防止できる。
【0034】
さらに、シールド電線10に対する後方への引張力が、食い込み部39による係止力を上回った場合の対策として、スリーブ20の前端20Fをシース18の前端18Fよりも前方に配置し、編組線15の屈曲部16が、スリーブ20の前端20Fに対して当接又は近接して対向するようにしている。かかる位置関係によれば、シールド電線10に対して後方への引張力が付与されると、編組線15の屈曲部16がスリーブ20の前端20Fに対して前方から当接する。編組線15の折返部17は、スリーブ20と圧着部30との間で挟み付けられているので、屈曲部16がスリーブ20の前端20Fに係止する固定側突起部によって、シールド電線10の後方への相対変位を確実に防止できる。
【0035】
本開示のシールド導電路Aは、シールド端子25とシールド電線10とスリーブ20とを備えている。シールド端子25は、内導体26と、内導体26を包囲する外導体28とを有する。シールド電線10は、内導体26の後端部に固着された芯線12と、芯線12を包囲する編組線15と、編組線15を包囲するシース18とを有する。スリーブ20は、シース18の前端部外周に取り付けられている。シールド電線10の前端部においては、シース18の前端18Fから延出した編組線15が後方へ折り返されてスリーブ20の外周に被せられている。外導体28の後端部の圧着部30は、編組線15の折返部17の外周を包囲した状態でスリーブ20にカシメ付けられている。スリーブ20の前端20Fは、前後方向において、シース18の前端18Fよりも前方に位置している。
【0036】
通信性能の低下を回避するために圧着部30によるカシメ力を低下させると、シールド電線10に後方への引張力が作用したときに、シールド電線10が外導体28に対して後方へ相対変位しようとする。しかし、シールド電線10の相対変位の開始時又は開始直後に、編組線15のうち折返部17の前端の屈曲部16がスリーブ20の前端20Fに引っ掛かるので、シールド電線10の後方への相対変位が阻止される。したがって、シールド端子25とシールド電線10の接続状態を保ちながら、通信性能の低下を防止することができる。
【0037】
圧着部30によるカシメ力を低下させた場合、圧着部30とスリーブ20との間の固着力よりも、スリーブ20とシース18との間の固着力が大きくなる可能性がある。この場合、シールド電線10に後方への引張力が作用したときに、スリーブ20が、シールド電線10と一体となって圧着部30に対して後方へ相対変位しようとする。しかし、スリーブ20の前端20F部には、前方に向かって径寸法が大きくなる拡径部22が形成されているので、拡径部22の外周が圧着部30に引っ掛かることによって、圧着部30に対するスリーブ20の後方への相対変位が防止される。
【0038】
拡径部22の後端22Rは、シース18の前端18Fよりも後方に位置している。この構成によれば、シールド電線10に後方への引張力が作用したときに、シース18の前端部が拡径部22の内周面に引っ掛かることによって、シールド電線10の後方への相対変位を防止することができる。
【0039】
圧着部30には、シース18に対して食い込むように当接する食い込み部39が形成されているので、シールド端子25に対するシールド電線10の後方への相対変位を、食い込み部39の食い込み作用によって防止することができる。
【0040】
スリーブ20の前端20Fはシース18の前端18Fよりも前方に位置している。そのため、スリーブ20をシース18に被せた状態では、シース18に対するスリーブ20の前後方向に位置関係が分からない。その対策として、スリーブ20の前端20F部には、シース18の前端18Fをスリーブ20の外周面側へ露出させる切欠部23が形成されている。
【0041】
図6に示すように、切欠部23は、前後方向に長い長円形に開口し、開口縁が全周に亘って連なった窓孔状をなしている。したがって、切欠部23は、スリーブ20の前端20Fには開口していない。スリーブ20の外周側から切欠部23を覗いたときに、シース18の前端18Fが切欠部23の開口領域内に位置するようにすれば、スリーブ20の前端20Fとシース18の前端18Fとの位置関係を、切欠部23を通して確認することができる。これにより、スリーブ20をシース18に対して適正な位置に配置することができる。
【0042】
[実施例2]
本開示を具体化した実施例2を、図7を参照して説明する。本実施例2のシールド導電路Bは、スリーブ50に形成した切欠部51を上記実施例1とは異なる構成としたものである。その他の構成については上記実施例1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0043】
本実施例2の切欠部51は、前後方向に細長く開口している。切欠部51の前端は、スリーブ50の前端50Fに開口している。したがって、スリーブ50の前端50Fの位置を、前後方向においてシース18の前端18Fと同じ位置に配置する場合でも、切欠部51において、スリーブ50の前端50Fとシース18の前端18Fとの位置関係を確認することができる。
【0044】
[他の実施例]
本発明は、上記記述及び図面によって説明した実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示される。本発明には、特許請求の範囲と均等の意味及び特許請求の範囲内でのすべての変更が含まれ、下記のような実施形態も含まれることが意図される。
上記実施例では、スリーブの前端部に拡径部を形成したが、スリーブは拡径部を有しない形態であってもよい。
上記実施例では、拡径部の後端が前記シースの前端よりも後方に位置しているが、スリーブの前端がシースの前端よりも前方に位置している場合において、拡径部の後端が、シースの前端よりも前方に位置、又はシースの前端と同じ位置に配置されていてもよい。
上記実施例では、圧着部に食い込み部を形成したが、圧着部は、食い込み部を有しない形態であってもよい。
上記実施例では、スリーブに切欠部を形成したが、スリーブは切欠部を有しない形態であってもよい。
上記実施例では、スリーブが、平板状をなし、シールド電線に対して巻き付けるように取り付けるオープンタイプのものであるが、スリーブは、円筒形に成形されたクローズドタイプのものであってもよい。
上記実施例では、スリーブの前端がシースの前端よりも前方に配置されているが、スリーブの前端が、前後方向においてシースの前端と同じ位置に配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10…シールド電線
11…被覆電線
12…芯線
13…絶縁被覆
15…編組線
16…屈曲部
17…折返部
18…シース
18F:シースの前端
20…スリーブ
20F:スリーブの前端
21…定径部
22…拡径部
22F:拡径部の前端
22R:拡径部の後端
23…切欠部
25…シールド端子
26…内導体
27…誘電体
28…外導体
29…シェル本体部
30…圧着部
31…アッパシェル
32…ロアシェル
33…アッパ側本体部
34…基板部
35…第1カシメ部
36…第2カシメ部
37…第1係止部
38…第2係止部
39…食い込み部
40…ロア側本体部
41…規制部
42…テーパ部
50…スリーブ
50F:スリーブの前端
51…切欠部
A…シールド導電路
B…シールド導電路
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7