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特許7406722フレキシブル基板の製造方法及びフレキシブル基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】フレキシブル基板の製造方法及びフレキシブル基板
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20231221BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20231221BHJP
   C23C 14/58 20060101ALI20231221BHJP
   B32B 7/023 20190101ALI20231221BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20231221BHJP
【FI】
H01B13/00 503B
H01B5/14 A
C23C14/58 A
C23C14/58 C
B32B7/023
B32B7/025
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020007708
(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公開番号】P2021114452
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮川 展明
(72)【発明者】
【氏名】横森 岳彦
【審査官】北嶋 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-244941(JP,A)
【文献】特開2012-248424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
H01B 5/14
C23C 14/58
B32B 7/023
B32B 7/025
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
300nm以上380nm以下の波長の光に対して、透過率が50%以上を示す高分子材料からなる透明性基材を準備する工程(A)と、
前記透明性基材の主面上に、透明導電膜を形成する工程(B)と、
前記透明性基材の前記主面上に形成された前記透明導電膜に対して、希ガスフラッシュランプから出射される少なくとも300nm以上380nmの波長帯の成分を含むフラッシュ光を照射し、前記透明導電膜を焼成処理する工程(C)とを含むことを特徴とするフレキシブル基板の製造方法。
【請求項2】
前記工程(A)で準備する前記透明性基材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、シクロオレフィンポリマ、アクリル系樹脂のいずれかを含む材料で構成されていることを特徴とする請求項1に記載のフレキシブル基板の製造方法。
【請求項3】
前記工程(B)で形成される前記透明導電膜は、Snの含有率が5質量%より高いITOであることを特徴とする請求項1又は2に記載のフレキシブル基板の製造方法。
【請求項4】
前記工程(B)は、前記透明性基材の主面上に、前記透明導電膜を成膜させる工程であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のフレキシブル基板の製造方法。
【請求項5】
前記工程(C)は、前記透明導電膜の表面抵抗値が150Ω/cm2以下となるような照射エネルギーで、前記フラッシュ光を1回だけ照射する工程であることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のフレキシブル基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル基板の製造方法及びフレキシブル基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォンやタブレットの普及により、画面を指で触って操作する、いわゆるタッチパネルがユーザーインターフェースとして主流となっており、透明な基版上に透明な電極や導電部を形成する技術の開発が盛んに行われている。例えば、下記特許文献1には、透明な基材上に金属ナノワイヤを含むインクを塗布して透明導電部を形成する導電基材が記載されている。
【0003】
さらに、近年では、柔軟性のあるフィルム状の基材に形成された、いわゆる、フレキシブルディスプレイの開発が進められており、フレキシブルディスプレイに対応したタッチパネルを製造する技術も併せて検討がされている。
【0004】
例えば、下記特許文献2には、透明なフィルム基材上に透明導電膜を塗布し、加熱処理することで透明導電性シートを製造する方法が記載されている。そして当該加熱処理には、フラッシュランプを用いてもよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-91627号公報
【文献】特開2010-146757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、フレキシブルディスプレイに対応したタッチパネルは、樹脂等の透明で柔軟性のある高分子材料からなる基材の主面上に、例えば、ITO(酸化インジウムスズ)等の透明導電材料が塗布されることで、透明導電膜によるセンサ素子や信号線が形成される。
【0007】
また、ITO等の透明導電材料は、加熱処理等の焼成処理を施すことで、表面抵抗値が下がることが知られている。したがって、上述のように、透明なフィルム基材上に形成された透明導電膜を塗布した後に、加熱処理が行われる。
【0008】
そこで、本発明者は、上記特許文献2に記載のように、フラッシュランプによる焼成処理(以下、「フラッシュランプアニール」、あるいは単に「焼成処理」という。)を検討したところ、以下のような課題が存在することを見出した。
【0009】
フラッシュランプアニールには、例えば、キセノンなどを封入した希ガスフラッシュランプが用いられる。図1は、キセノンフラッシュランプから出射されるフラッシュ光のスペクトルを示すグラフである。図1に示すように、キセノンフラッシュランプから出射されるフラッシュ光は、200nm付近から、800nm以上の領域までの波長帯の光を含んでいる。
【0010】
フラッシュランプから出射されるフラッシュ光は、透明導電膜に照射されるとともに、透明導電膜が塗布されているフィルム状の基材にも照射されることになる。したがって、フラッシュ光に含まれる波長帯の中に、基材を構成する高分子材料の吸収率が高い波長帯が含まれていると、基材もフラッシュ光のエネルギーを吸収して、瞬間的に高い温度まで加熱されることになる。基材がフラッシュ光のエネルギーを吸収し、高い温度まで加熱されると、基材自体が熱膨張や溶融、あるいは、化学反応によってC24やCO等のガス(「アウトガス」とも称される。)を発生させてしまうことがある。これにより、基材自体の表面にしわや表面荒れが発生してしまう。また、基材や塗布された透明導電膜は、基材の変形に合わせて伸縮することができず、結果として剥離や亀裂等のダメージを与えてしまい、局所的な狭小配線や断線を発生させてしまう。
【0011】
本発明は、上記課題に鑑み、透明性基材や透明導電膜のダメージの発生を抑えたフレキシブル基板の製造方法及び、透明導電膜をより低抵抗化しつつ信頼性が向上されたフレキシブル基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のフレキシブル基板の製造方法は、
300nm以上380nm以下の波長の光に対して、透過率が50%以上を示す高分子材料からなる透明性基材を準備する工程(A)と、
前記透明性基材の主面上に、透明導電膜を形成する工程(B)と、
前記透明性基材の前記主面上に形成された前記透明導電膜に対して、希ガスフラッシュランプから出射される少なくとも300nm以上380nmの波長帯の成分を含むフラッシュ光を照射し、前記透明導電膜を焼成処理する工程(C)とを含むことを特徴とする。
【0013】
透明導電膜に用いられる代表的な材料として、例えば、上述したITOやZnO、IGZO等がある。こういった、透明導電膜として用いられる材料の多くは、約400nmよりも短い光に対して、急激に光の吸収率が増加するという特徴を有している。したがって、これらの透明導電膜の焼成処理には、少なくとも300nm以上380nm以下の波長帯の光が含まれていることが、エネルギー効率の観点で好ましい。なお、希ガスフラッシュランプとは、管体の内部に希ガスを含む気体が封入されており、管体に形成された電極間に電圧パルスを印加することでフラッシュ光を発生させる放電管であり、希ガスには、例えば、キセノンがある。
【0014】
しかし、透明性基材が、吸収率が高い材料で形成されていた場合は、基材がフラッシュ光のエネルギーを吸収し、高い温度まで加熱され、基材自体が熱膨張や溶融、あるいは、化学反応によってガス(「アウトガス」とも称される。)を発生させてしまうことがある。
【0015】
そこで、上記方法とすることで、透明導電膜の焼成処理に用いられる300nm以上380nm以下の波長帯の光エネルギーの透明性基材による損失が、少なくとも50%以下に抑えられる。さらに、透明性基材による光エネルギーの吸収が抑制されるため、透明性基材が膨張したり、溶融したりすることが少なくなり、化学反応に寄与することも抑制される。したがって、透明性基材の変形やアウトガスの発生が抑制され、透明性基材や透明導電膜へのダメージを抑制することができる。
【0016】
また、透明導電膜の焼成処理は、低いエネルギーの光照射や低温加熱を長時間にわたって行うよりも、高いエネルギーを瞬間的に加えて、短時間で処理した方が、焼成後の表面抵抗値が小さくなる。したがって、上記方法によれば、より表面抵抗値が低い透明導電膜を形成することができる。なお、高いエネルギーを瞬間的に加えて、短時間で完了させた場合の方が、焼成後の透明導電膜の表面抵抗値が小さくなることについては、「発明を実施するための形態」の項目において、実験結果を参照しながら示す。
【0017】
上記製造方法において、
前記工程(A)で準備する前記透明性基材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、シクロオレフィンポリマ、アクリル系樹脂のいずれかを含む材料で構成されていても構わない。
【0018】
上記の材料は、300nm以上380nm以下の波長帯の光に対して、50%以上の透過率を示す。また、上記の材料は、300nm以上380nm以下の光が照射された場合に、アウトガスを発生させてしまうカルボニル基等の組成が少ない、若しくは存在しない材料であり、アウトガスの発生を抑え、より透明性基材や透明導電膜へのダメージを抑制することができる。
【0019】
上記製造方法において、
前記工程(B)で形成される前記透明導電膜は、Snの含有率が5質量%より高いITOであっても構わない。
【0020】
樹脂等からなるフィルム状の透明性基材は、ガラス等の基材と比較すると熱に弱く、上述したような課題が発生しやすいため、透明導電膜の材料であるITOを焼成するための温度を十分に上げることができない。したがって、フィルム状の透明性基材を用いる場合には、低い温度でも焼成処理できるようにするため、Snの含有率を低下させたITOを用いることが一般的に行われている。
【0021】
しかし、本発明の方法によれば、透明導電膜であるITOをフラッシュ光によって高温処理することができるため、Sn含有率を低下させたITOを用意する必要がなくなる。
【0022】
上記製造方法において、
前記工程(B)は、前記透明性基材の主面上に、透明導電膜を成膜させる工程であっても構わない。
【0023】
上記製造方法において、
前記工程(C)は、前記透明導電膜の表面抵抗値が150Ω/cm2以下となるような照射エネルギーで、前記フラッシュ光を1回だけ照射する工程であっても構わない。
【0024】
上記方法とすることで、工程にかかる時間を短縮させることができ、さらに、透明導電膜の表面抵抗値を大きく低下させることができる。なお、高いエネルギーで照射回数が少ない方が、焼成後の透明導電膜の表面抵抗値が小さくなることについては、「発明を実施するための形態」の項目において、実験結果を参照しながら示す。
【0025】
本発明のフレキシブル基板は、
300nm以上380nm以下の波長帯の光に対して透過率が50%以上を示す高分子材料からなる透明性基材と、
前記透明性基材の主面上に形成された、表面抵抗値が150Ω/cm2以下であり、Snの含有率が5質量%より高いITOからなる透明導電膜とを備えることを特徴とする。
【0026】
前記透明性基材は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、シクロオレフィンポリマ、アクリル系樹脂のいずれかを含む材料で構成されていても構わない。
【0027】
上記構成とすることで、製造時において透明性基材や透明導電膜に剥離や亀裂が生じる可能性が低いため、高品質なフレキシブル基板とすることができる。さらに、透明導電膜の表面抵抗値が低くなるように構成することができるため、信号伝達における電圧降下や信号の劣化が抑制されたデバイスを構成することができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、透明性基材や透明導電膜のダメージの発生を抑えたフレキシブル基板の製造方法及び、透明導電膜をより低抵抗化しつつ信頼性が向上されたフレキシブル基板が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】キセノンフラッシュランプから出射されるフラッシュ光のスペクトルを示すグラフである。
図2】フレキシブル基板の一実施形態の構造を模式的に示す断面図である。
図3A】本発明のフレキシブル基板の製造方法を説明するための、一工程における模式的な断面図である。
図3B】本発明のフレキシブル基板の製造方法を説明するための、一工程における模式的な断面図である。
図3C】本発明のフレキシブル基板の製造方法を説明するための、一工程における模式的な断面図である。
図4A】本発明に適用可能な透明性基材の材料となる各素材の透過率を示すグラフである。
図4B】本発明に適用できない透明性基材の材料となる各素材の透過率を示すグラフである。
図5】透明導電膜の各材料であるITO、ZnO、IGZOの光に対する透過率を示すグラフである。
図6】実施例1のフレキシブル基板における、照射エネルギー毎の、照射回数に対する表面抵抗値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明のフレキシブル基板の製造方法及びフレキシブル基板について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図面は、いずれも模式的に図示されたものであり、図面上の寸法比や個数は、実際の寸法比や個数と必ずしも一致していない。
【0031】
[構造]
図2は、フレキシブル基板1の一実施形態の構造を模式的に示す断面図である。フレキシブル基板1は、透明性基材10の主面10a上に、透明導電膜11が形成された構成である。透明導電膜11は、デバイスの構造や、人の視認性の観点から、5nm以上10μm以下の厚さで形成されていることが好ましい。
【0032】
透明性基材10は、可視光に対して透明性を有する、高分子材料からなるフィルム状の基材である。より具体的な材料の種類は、製造方法の説明において後述する。
【0033】
透明導電膜11は、可視光に対して透明性を有し、導電性を有する材料で構成された膜である。透明導電膜11についても、より具体的な材料の種類は、製造方法の説明において後述する。
【0034】
[製造方法]
以下、透明導電膜11を有するフレキシブル基板1の製造方法の一例につき、図3A図3Cを参照して説明する。
【0035】
(ステップS1)
図3Aに示すように、柔軟性と、可視光に対して透明性とを有するフィルム状の透明性基材10が準備される。透明性基材10は、次のステップS2で形成される透明導電膜11を形成するための下地層を構成する。
【0036】
一般的に透明性基材10の材料は、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテル系樹脂、ポリイミド(PI)、トリアセチルセルロース(TAC)、シクロオレフィンポリマ(COP)、シクロオレフィンコポリマ(COC)、アクリル系樹脂(PMMA)、ポリウレタン系樹脂(PU)、ポリビニル系樹脂(PVA)、ポリエーテルサルホン(PES)、セルロースナノファイバ等が挙げられる。
【0037】
本発明に係る透明性基材10の材料は、後述するステップS3において、300nm以上380nm以下の波長帯の光が照射された場合に、300nm以上380nm以下の波長帯の光に対して、50%以上の透過率を示す材料を用いる。透明性基材の透過率が50%以下の場合は、材料内で化学変化を誘引させてアウトガスを発生させてしまうためである。具体的な材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、シクロオレフィンポリマ(COP)、アクリル系樹脂(PMMA)等を用いることが好ましい。
【0038】
このステップS1が工程(A)に対応する。
【0039】
(ステップS2)
図3Bに示すように、透明性基材10の主面10a上に透明導電膜11が形成される。なお、図3B及び図3Cは、透明導電膜11の焼成処理前後の違いを表すために、図2のハッチングとは異なるハッチングで表示をしている。
【0040】
透明導電膜11の具体的な材料は、例えば、ITO、ZnO、IGZO等を用いることができる。なお、本実施形態においては、高温での焼成処理が可能であるため、高温処理できるガラス基材のデバイスに用いられるITOと同様に、Snの含有率が5質量%よりも高いITOを使用することができる。
【0041】
Snの含有率が高くなると抵抗値が下がり、10質量%程度が最も抵抗値が低くなるが、その一方で高温での焼成が必要となる。しかしながら、高分子材料からなる透明性基材を用いる場合は高温での焼成が困難となる。例えば、基材がPETフィルムでは高温焼成ができないため、Snの含有率を5質量%以下に抑えた低温処理用の透明導電膜が使われることが多い。
【0042】
なお、Snの含有率が10質量%の透明導電膜は、例えば200℃を30分以上の保持時間で焼成することが必要な処理条件となる。PETフィルムにおいては、長時間の高温に耐えうる温度は150℃付近であり、最適なSnの含有率にすることができず、Snの含有率の低い低温処理用のITOが用いられる。
【0043】
本実施形態においては、ステップS3で後述するように、フラッシュランプ20によって、瞬間的な光加熱によって焼成工程を行う。したがって、透明導電膜11を形成するITOは、Snの含有率が5質量%以下の低温処理用のITOを用意する必要が無く、ガラス等の高耐熱基材に用いられるものと同じものを用いることができる。より具体的には、Snの含有率が5質量%より高いITOが好ましく、より好ましくはSnの含有率が7~20質量%のITOを用いるのが良い。例えば、上述のようにSn含有率が10質量%のITOを用いることができる。
【0044】
透明性基材10の主面上に、透明導電膜11を形成する方法としては、直接塗布する方法や、蒸着、スパッタリングといった方法がある。透明性基材10に透明導電膜11を塗布する方法は、塗布の仕方によって、膜の密度にムラが生じる場合や、塗布後に溶媒を揮発させる工程で透明導電膜11が伸縮し、透明性基材10にストレスをかけてしまう場合がある。したがって、透明導電膜11の形成する方法は、蒸着やスパッタリングであることが好ましい。
【0045】
このステップS2が工程(B)に対応する。
【0046】
(ステップS3)
図3Cに示すように、透明性基材10上に形成された透明導電膜11に対して、フラッシュランプ20からフラッシュ光L1が一回だけ照射され、透明導電膜11の焼成処理が行われる。ここで、フラッシュランプ20から出射されるフラッシュ光L1の光強度は、1回の照射で透明導電膜11の表面抵抗値が150Ω/cm2以下となるように設定されることが好ましい。この光強度と表面抵抗値との関係は、後述する実験の結果において説明する。
【0047】
上記に対応するため、フラッシュランプ20は、300nm以上380nm以下の波長帯の光を含むフラッシュ光L1を出射するランプの一例として希ガスフラッシュランプを用いることができ、瞬間的に高い光出力が得られるキセノンフラッシュランプであることが好ましい。なお、フラッシュランプ20が出射する光は、300nm以上380nm以下の波長帯以外の光が含まれていても構わない。また、図3Cには、一本のフラッシュランプ20が記載されているが、複数本のフラッシュランプ20が配置された装置を用いても構わない。
【0048】
300nm以上380nm以下の波長帯のフラッシュ光L1が、透明性基材10に照射されると、光エネルギーの多くは、ITOからなる透明導電膜11に吸収されて、透明導電膜11の焼成処理に消費される。この時、全ての光がITOによって吸収されるわけではないため、300nm以上380nm以下の波長帯の光のうちの一部は、透明性基材10にも照射される。
【0049】
しかし、上述のように、本実施形態において、透明性基材10は、300nm以上380nm以下の波長帯の光に対して、50%以上の透過率を示し、当該波長帯の光が照射されても、アウトガスを発生しにくい材料が選択されている。したがって、透明性基材10は、若干加熱されるものの、焼成処理時の変形や剥離、亀裂等の発生が抑制される。
【0050】
図4Aは、本発明に適用可能な透明性基材の材料となる各素材の透過率を示すグラフである。具体的には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、アクリル系樹脂(PMMA)、トリアセチルセルロース(TAC)、シクロオレフィンポリマ(COP)について、各基材の透過スペクトルを測定した結果が示される。これらの基材は全て、300nm以上の波長域において高い透過率を有し、当該波長域において70%~80%以上の透過率が維持されている。
【0051】
一方で図4Bは、本発明に適用できない透明性基材の材料となる各素材の透過率を示すグラフである。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シクロオレフィンコポリマ(COC)、ポリイミド(PI)、ポリビニル系樹脂(PVA)、ポリエーテルサルホン(PES)、ポリウレタン系樹脂(PU)について透過スペクトルを測定した結果が示される。図4Bに示されるとおり、300nm以上380nm以下の波長帯の光に対して透過率が低い。そのため透明導電膜で吸収されなかった300nm以上380nm以下の波長帯の光の大部分が透明性基材で吸収され、基材への熱的負荷が生じやすい。これにより焼成処理時の基材の変形や剥離、亀裂等の発生を抑制することが困難となる。
【0052】
一方の側面に透明性基材10、他方の側面に透明導電膜11が形成されている構成の場合には、透明導電膜11が形成されている面が、フラッシュランプ20側に面するように配置して焼成処理を行うことが好ましい。このようにフラッシュ光L1を照射することで、透明導電膜11が少なくとも300nm以下の波長帯の光のほとんどを吸収し、フィルタとして機能するため、透明性基材10に当該波長帯の光が到達しにくくなる。したがって、透明性基材10に吸収される光エネルギーの量が抑えられるため、透明性基材10の変形や、アウトガスの発生が抑制される。
【0053】
なお、透明導電膜11の各材料であるITO、ZnO、IGZOのそれぞれ光に対する透過率は、図5に示すように、300nm以上380nm以下の波長帯で、急激に光の透過率が低下するという特徴を有している。
【0054】
アウトガスの発生要因は様々考えられるが、透明性基材10の材料の組成に含まれるカルボニル基が要因の一つとして考えられる。カルボニル基は、下記の反応式のように、400nm以下の波長の紫外線が照射されると、結合が切断されてエチレンガス(C24)や一酸化炭素(CO)等のガスを生成する。このエチレンガスや一酸化炭素等がアウトガスとして、透明性基材10の内部や、透明性基材10と透明導電膜11との間に蓄積し、透明性基材10や透明導電膜11にダメージを与える原因となっていると考えられる。
【0055】
【化1】
【0056】
【化2】
【0057】
このステップS3が工程(C)に対応する。
【0058】
[実施例]
以下の実施例により本発明を、さらに具体的に説明するが、本発明の権利範囲はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0059】
(実施例1)
上記ステップS1~S3の各ステップを経て製造されたフレキシブル基板1を実施例1とした。利用した材料及び工程の詳細な条件は以下の通りである。
【0060】
《ステップS1》
透明性基材10として、主成分がCOPのフィルム基材を用いた。基板の厚さは、188μmとした。
【0061】
《ステップS2》
透明導電膜11の材料として、Snの含有率が10質量%のITOを用いて、蒸着によって透明性基材10に透明導電膜11を形成した。透明導電膜11は、50mm×50mmの範囲に、厚さが80nmとなるように形成した。
【0062】
《ステップS3》
図3Cに模式的に示すフラッシュランプ20を用い、300nm以上380nm以下の波長帯に光出力を示す、図1に例示されるようなスペクトルを有するフラッシュ光L1を照射した。フラッシュランプ20は、具体的には、発光長250mm,管径φ13,封入ガス圧450torrのランプを10本並べた装置を用いた。
【0063】
(比較例1)
実施例1とは異なる材料で構成された透明性基材10を用いて、上記ステップS1~S3の各ステップを経て製造された基板を比較例1とした。利用した材料及び工程の詳細な条件は以下の通りである。
【0064】
《ステップS1》
透明性基材10として、主成分がPETのフィルム基材を用いた。基板の大きさは、50mm×50mmとし、厚さは、125μmとした。
【0065】
《ステップS2》
透明導電膜11の材料として、Snの含有率が10質量%のITOを用いて、蒸着によって透明性基材10に透明導電膜11を形成した。透明導電膜11は、50mm×50mmの範囲に、厚さが80nmとなるように形成した。
【0066】
(比較例2)
実施例1、比較例1及び比較例2とは異なる材料で構成された透明性基材10を用いて、上記ステップS1~S3の各ステップを経て製造された基板を比較例2とした。利用した材料及び工程の詳細な条件は以下の通りである。
【0067】
《ステップS1》
透明性基材10として、主成分がガラスの基材を用いた。基板の大きさは、50mm×50mmとし、厚さは、1000μmとした。
【0068】
《ステップS2》
透明導電膜11の材料として、Snの含有率が10質量%のITOを用いて、蒸着によって透明性基材10に透明導電膜11を形成した。透明導電膜11は、50mm×50mmの範囲に、厚さが80nmとなるように形成した。
【0069】
(比較例3)
実施例1とは異なる材料で構成された透明性基材10を用い、比較例1とは異なる厚さの透明導電膜11を形成し、上記ステップS1~S3の各ステップを経て製造された基板を比較例2とした。利用した材料及び工程の詳細な条件は以下の通りである。
【0070】
《ステップS1》
透明性基材10として、主成分がPETの基材を用いた。基板の大きさは、50mm×50mmとし、厚さは、125μmとした。
【0071】
《ステップS2》
透明導電膜11の材料として、Snの含有率が5質量%のITOを用いて、蒸着によって透明性基材10に透明導電膜11を形成した。透明導電膜11は、50mm×50mmの範囲に、厚さが80nmとなるように形成した。
【0072】
[実験1]
上記の実施例1、比較例1m比較例2及び比較例3に対して、フラッシュ光L1の照射エネルギー(J/cm2)を変化させて透明導電膜11の焼成処理する実験を行った。フラッシュ光L1は、0.1J/cm2毎に照射エネルギーを上げて表面抵抗値を測定した。さらに、比較例1~3については、比較実験として、炉を用いて低温で長時間の加熱による焼成処理も行った。
【0073】
(結果)
フラッシュ光L1の照射エネルギー(J/cm2)を変化させて透明導電膜11の焼成処理の結果は、次のとおりである。実施例1では、透明性基材10にしわも表面荒れも発生しなかった。焼成処理前の表面抵抗値が45Ω/cm2の透明導電膜11に対して、照射エネルギー6.5J/cm2でフラッシュ光L1を照射させると、焼成処理後の透明導電膜11の表面抵抗値が最小の23Ω/cm2となった。
【0074】
比較例1は、照射エネルギーが3.2J/cm2以上になると、透明性基材10にしわが観察されるようになり、5.0J/cm2以上になると透明性基材10に表面荒れが生じ、透明導電膜11の一部には断裂が発生した。焼成処理前の表面抵抗値が45Ω/cm2の透明導電膜11に対して、照射エネルギー3.1J/cm2でフラッシュ光L1を照射させると、焼成処理後の透明導電膜11の表面抵抗値は37Ω/cm2となった。
【0075】
低温で長時間の加熱による焼成処理については、150℃で30分の処理を行うことにより、透明導電膜11の表面抵抗値は、45Ω/cm2から44Ω/cm2となった。
【0076】
比較例2は、透明性基材10がガラスのため、照射エネルギーを13J/cm2までは、しわや表面荒れが発生しなかった。焼成処理前の表面抵抗値が48Ω/cm2の透明導電膜11に対して、照射エネルギー12J/cm2でフラッシュ光L1を照射させると、焼成処理後の透明導電膜11の表面抵抗値が最小の22Ω/cm2となった。
【0077】
低温で長時間の加熱による焼成処理については、200℃で60分の処理を行うことにより、透明導電膜11の表面抵抗値は、48Ω/cm2から27Ω/cm2となった。
【0078】
比較例3は、照射エネルギーが3.2J/cm2以上になると、透明性基材10にしわが観察されるようになり、3.4J/cm2以上になると透明性基材10に表面荒れが発生した。焼成処理前の表面抵抗値が200Ω/cm2の透明導電膜11に対して、照射エネルギー3.0J/cm2でフラッシュ光L1を照射させると、焼成処理後の透明導電膜11の表面抵抗値が162Ω/cm2となった。
【0079】
低温で長時間の加熱による焼成処理については、150℃で30分の処理を行うことにより、透明性基材10の表面抵抗値は、200Ω/cm2から35Ω/cm2となった。
【0080】
フラッシュランプ20による焼成処理を行った結果と、低温で長時間の加熱による焼成処理の結果をまとめると、以下の通りである。なお、表において、照射エネルギーの括弧内の数値は、透明性基材10にしわや表面荒れが確認された最小の照射エネルギーを示している。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
以上から、実施例1の構成によれば、少ないエネルギーで、かつ、フラッシュランプ20による短時間の焼成処理によって、透明導電膜11にしわや表面荒れを生じさせることなく低抵抗化できていることが確認される。
【0084】
[実験2]
実施例1の構成のフレキシブル基板1に対して、照射エネルギーを2J/cm2、3J/cm2、4J/cm2、5J/cm2、6J/cm2と変化させ、それぞれのエネルギーのフラッシュ光L1を、0回、1回、2回、3回、4回、5回、10回、20回と照射を繰り返す実験を行った。光の照射する時間間隔は、5sとした。
【0085】
(結果)
図6は、実施例1のフレキシブル基板1における、照射エネルギー毎の、照射回数に対する表面抵抗値の変化を示すグラフである。図6に示すように、高いエネルギーのフラッシュ光L1を照射することで、表面抵抗値の下がり具合が大きくなっていることがわかる。そして、数回の照射を繰り返しても、二回目以降の照射によって大きな表面抵抗値の低下は確認されない。
【0086】
以上から、フラッシュ光L1の照射は、透明導電膜11の表面抵抗値が期待する範囲まで低下するように照射エネルギーを調整し、1回の照射で完了させることが好ましいことがわかる。
【0087】
[実験3]
透明性基材10の材料となるポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド(PI)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマ(COP)、シクロオレフィンコポリマ(COC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリル系樹脂(PMMA)について、それぞれ照射エネルギーに応じて表面に現れるダメージについて実験を行った。
【0088】
(結果)
各材料へのダメージは下記の表のようになった。Aは変化なし、Bは熱伸縮に伴うしわの発生、さらにCはアウトガスによる表面荒れの発生を示している。なお、表において、t=10とは、厚みが10μmであることを示している。
【0089】
【表3】
【0090】
上記の表からわかるように、実験1において透明導電膜の最小の表面抵抗値が得られる7J/cm2の照射エネルギーで基材表面に変化が現れなかった素材は、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマ(COP)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリスチレン(PS)、アクリル系樹脂(PMMA)であった。
【0091】
[別実施形態]
以下、別実施形態につき説明する。
【0092】
〈1〉 上述したフレキシブル基板1の製造方法は、透明性基材10と透明導電膜11が一層毎にフラッシュ光L1を照射するだけでなく、透明性基材10と透明導電膜11の各層を多層化した基板に対してフラッシュ光L1を照射しても構わない。
【0093】
本発明のフレキシブル基板1の製造方法は、フラッシュ光L1の照射エネルギーを適宜調整することで、素材や形状に合わせて簡易的に最適な焼成処理を行うことができる。つまり、一層毎のフレキシブル基板1、あるいは、多層構造のフレキシブル基板1等に応じて、最適な焼成処理をすることができる。
【符号の説明】
【0094】
1 : フレキシブル基板
10 : 透明性基材
11 : 透明導電膜
20 : フラッシュランプ
L1 : フラッシュ光
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図5
図6