(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】低光弾性定数ガラス、光ファイバおよび光ファイバの製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 3/091 20060101AFI20231221BHJP
C03B 37/014 20060101ALI20231221BHJP
C03C 3/076 20060101ALI20231221BHJP
C03C 3/083 20060101ALI20231221BHJP
C03C 3/089 20060101ALI20231221BHJP
C03C 3/14 20060101ALI20231221BHJP
C03C 3/145 20060101ALI20231221BHJP
C03C 13/04 20060101ALI20231221BHJP
G02B 6/02 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C03C3/091
C03B37/014 Z
C03C3/076
C03C3/083
C03C3/089
C03C3/14
C03C3/145
C03C13/04
G02B6/02 356A
G02B6/02 376A
(21)【出願番号】P 2018086368
(22)【出願日】2018-04-27
【審査請求日】2020-10-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 第58回ガラスおよびフォトニクス材料討論会講演要旨集、133-134頁、公益社団法人日本セラミックス協会、2017年11月2日 〔刊行物等〕第58回ガラスおよびフォトニクス材料討論会、名古屋国際会議場(名古屋市)、2017年11月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000240477
【氏名又は名称】Orbray株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134979
【氏名又は名称】中井 博
(74)【代理人】
【識別番号】100167427
【氏名又は名称】岡本 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 全
(72)【発明者】
【氏名】板谷 雅之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓太
(72)【発明者】
【氏名】武部 博倫
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 勝
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】金 公彦
【審判官】立木 林
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-042556(JP,A)
【文献】特開2001-102661(JP,A)
【文献】特開2006-111461(JP,A)
【文献】国際公開第2010/116439(WO,A1)
【文献】Robin George Orman,Characterisation of novel antimony(III) oxide-containing glasses,A Thesis Submitted for the Degree of PhD at the University of Warwick,UK,2010年01月,p.75,102
【文献】E.C. Power et al,Zero stress-optic bismuth oxide-based glass,Journal of Non-Crystalline Solids,2017年11月5日,Vol.479,p.82-89
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00-14/00
C03B 37/027
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分Aと成分Bとを混合し、900-1200℃に加熱して溶融した後急速に冷却する溶融急冷法で製造された、鉛を含まない低光弾性定数ガラスであって、
前記成分Aが、三酸化ビスマスまたは三酸化アンチモンであり、
前記成分Bが、二酸化ケイ素または酸化ホウ素であり、
前記低光弾性定数ガラスの原料組成が、
xBi
2
0
3
(100-x)SiO
2
、xBi
2
0
3
(100-x)B
2
O
3
、xSb
2
0
3
(100-x)SiO
2
、およびxSb
2
0
3
(100-x)B
2
O
3
のいずれかであり、
前記原料組成中のxが40mol%以上60mol%以下であり、
光弾性定数が、
-0.66~1.001×10
-12
Pa
-1
である
ことを特徴とする低光弾性定数ガラ
ス。
【請求項2】
成分Aと成分Bとを混合し、900-1200℃に加熱して溶融した後急速に冷却する溶融急冷法で製造された、鉛を含まない低光弾性定数ガラスであって、
前記成分Aが、三酸化ビスマスまたは三酸化アンチモンであり、
前記成分Bが、二酸化ケイ素または酸化ホウ素のいずれか一方と、三酸化アルミニウムとからなり、
前記低光弾性定数ガラスの原料組成が、
xBi
2
0
3
(100-x-y)SiO
2
yAl
2
O
3
、xBi
2
0
3
(100-x-y)B
2
O
3
yAl
2
O
3
、xSb
2
0
3
(100-x-y)SiO
2
yAl
2
O
3
、およびxSb
2
0
3
(100-x-y)B
2
O
3
yAl
2
O
3
のいずれかであり、
前記原料組成中のxが40mol%以上60mol%以下であり、
前記原料組成中のyが1mol%以上5mol%以下であり、
光弾性定数が、
-0.464~1.520×10
-12
Pa
-1
である
ことを特徴とする低光弾性定数ガラス。
【請求項3】
コアガラスおよび/またはクラッドガラスの材料
が低光弾性定数ガラスであ
り、
前記低光弾性定数ガラスが、
成分Aと成分Bとを混合し、900-1200℃に加熱して溶融した後急速に冷却する溶融急冷法で製造された、鉛を含まない低光弾性定数ガラスであって、
前記成分Aが、三酸化ビスマスまたは三酸化アンチモンであり、
前記成分Bが、二酸化ケイ素または酸化ホウ素であり、
前記低光弾性定数ガラスの原料組成が、
xBi
2
0
3
(100-x)SiO
2
、xBi
2
0
3
(100-x)B
2
O
3
、xSb
2
0
3
(100-x)SiO
2
、およびxSb
2
0
3
(100-x)B
2
O
3
のいずれかであり、
前記原料組成中のxが40mol%以上60mol%以下であり、
光弾性定数が、
-0.66~1.001×10
-12
Pa
-1
である
ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項4】
コアガラスおよび/またはクラッドガラスの材料が低光弾性定数ガラスであり、
前記低光弾性定数ガラスが、
成分Aと成分Bとを混合し、900-1200℃に加熱して溶融した後急速に冷却する溶融急冷法で製造された、鉛を含まない低光弾性定数ガラスであって、
前記成分Aが、三酸化ビスマスまたは三酸化アンチモンであり、
前記成分Bが、二酸化ケイ素または酸化ホウ素のいずれか一方と、添加成分Zを含有しており、
前記添加成分Zが、
三酸化二アルミニウム、三酸化二ランタン、五酸化二ニオブ、五酸化タンタル、三酸化二ガリウム、二酸化テルル、および酸化タリウムから選ばれる1種の化合物であり、
前記低光弾性定数ガラスの原料組成が、
xBi
2
0
3
(100-x-y)SiO
2
yZ、xBi
2
0
3
(100-x-y)B
2
O
3
yZ、xSb
2
0
3
(100-x-y)SiO
2
yZ、およびxSb
2
0
3
(100-x-y)B
2
O
3
yZのいずれかであり、
前記原料組成中のxが40mol%以上60mol%以下であり、
前記原料組成中のyが1mol%以上5mol%以下であり、
光弾性定数が、
-0.464~1.520×10
-12
Pa
-1
である
ことを特徴とする光ファイバ。
【請求項5】
クラッドガラスは、
三酸化ビスマスまたは三酸化アンチモンの含有量が40mol%以上60mol%以下である
ことを特徴とする請求項
3または4記載の光ファイバ。
【請求項6】
コアガラスおよびクラッドガラスの材料
が、前記低光弾性定数ガラスであ
り、
コアガラスおよびクラッドガラスに含まれる酸化ホウ素の含有量が同量である
ことを特徴とする請求項
3、4または5記載の光ファイバ。
【請求項7】
請求項
3乃至6のいずれかに記載の光ファイバの製造方法であっ
て、
低光弾性定数ガラスを含むガラスを使用してプリフォームを形成し、
粘度が10
4-10
7Pa・sとなる温度に維持した状態のプリフォームを延伸する方法
であり、
前記低光弾性定数ガラスが、
成分Aと成分Bとを混合し、900-1200℃に加熱して溶融した後急速に冷却する溶融急冷法で製造された、鉛を含まない低光弾性定数ガラスであって、
前記成分Aが、三酸化ビスマスまたは三酸化アンチモンであり、
前記成分Bが、二酸化ケイ素または酸化ホウ素であり、
前記低光弾性定数ガラスの原料組成が、xBi
2
0
3
(100-x)SiO
2
、xBi
2
0
3
(100-x)B
2
O
3
、xSb
2
0
3
(100-x)SiO
2
、およびxSb
2
0
3
(100-x)B
2
O
3
のいずれかであり、
前記原料組成中のxが40mol%以上60mol%以下であり、
光弾性定数が、-0.66~1.001×10
-12
Pa
-1
である
ことを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項8】
請求項3乃至6のいずれかに記載の光ファイバの製造方法であって、
低光弾性定数ガラスを含むガラスを使用してプリフォームを形成し、
粘度が10
4
-10
7
Pa・sとなる温度に維持した状態のプリフォームを延伸する方法であり、
前記低光弾性定数ガラスが、
成分Aと成分Bとを混合し、900-1200℃に加熱して溶融した後急速に冷却する溶融急冷法で製造された、鉛を含まない低光弾性定数ガラスであって、
前記成分Aが、三酸化ビスマスまたは三酸化アンチモンであり、
前記成分Bが、二酸化ケイ素または酸化ホウ素のいずれか一方と、添加成分Zを含有しており、
前記添加成分Zが、三酸化二アルミニウム、三酸化二ランタン、五酸化二ニオブ、五酸化タンタル、三酸化二ガリウム、二酸化テルル、および酸化タリウムから選ばれる1種の化合物であり、
前記低光弾性定数ガラスの原料組成が、
xBi
2
0
3
(100-x-y)SiO
2
yZ、xBi
2
0
3
(100-x-y)B
2
O
3
yZ、xSb
2
0
3
(100-x-y)SiO
2
yZ、およびxSb
2
0
3
(100-x-y)B
2
O
3
yZのいずれかであり、
前記原料組成中のxが40mol%以上60mol%以下であり、
前記原料組成中のyが1mol%以上5mol%以下であり、
光弾性定数が、-0.464~1.520×10
-12
Pa
-1
である
ことを特徴とする光ファイバの製造方法。
【請求項9】
延伸前のプリフォームを上記の温度に10-15分間維持した後、プリフォームを延伸する
ことを特徴とする請求項7
または8記載の光ファイバの製造方法。
【請求項10】
5-20gの錘をプリフォームの一端に懸架して延伸する
ことを特徴とする請求項7
、8または9記載の光ファイバの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低光弾性定数ガラス、光ファイバおよび光ファイバの製造方法に関する。さらに詳しくは、鉛を含まない低光弾性定数ガラス、低光弾性定数ガラスを使用した光ファイバおよび光ファイバの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートグリッド、スマートメーター、鉄道等の電力設備の監視などを行う電流測定装置として、光ファイバをセンサに用いた光ファイバ電流センサによる電流計測技術が実用化されている。この技術は、光ファイバ内を導波する直線偏光の回転角(ファラデー回転角)を測定して電流値(磁場)を得る方式であり、光ファイバ電流センサは、電流が流れる導体の周りに生じる磁場と平行方向に巻き回されて用いられる。
【0003】
本来、ガラスの屈折率は等方的であるが、応力が加わった際にガラス内部に異方的な屈折率分布を生じる。この現象は光弾性効果と称され、ガラスを用いた光学デバイスの特性に影響を与える。特に、光ファイバ電流センサのような偏光を利用した光学デバイスにおいて、偏光制御が著しく困難になることが知られている。このため、光ファイバ電流センサに使用される光ファイバには、低光弾性定数(望ましくはゼロ光弾性定数)のガラス材料が使用される。
【0004】
ところで、光ファイバ電流センサを実用化する上では、上述したような事情から、非常に低い光弾性定数(<±0.005×10-12Pa-1)を有する光ファイバガラス材料の開発が必要である。そこで、低光弾性定数を有する光ファイバ用のガラス材料として、高濃度(>40mol%)に酸化鉛(PbO)を含むケイ酸ガラス(PbO-SiO2)が開発されている。
【0005】
しかし、RoHS(Restriction of Hazardous Substances、危険物質に関する制限)、WEEE指令(Waste Electrical and Electronic Equipment Directive、WEEE Directive、廃電気・電子製品に関する指令)、J-MOSS(JIS C0950)などの欧州、日本など世界的な環境規制の影響により、エレクトロニクス分野のみならず、フォトニクス分野、ひいては自動運転式自動車においても、将来的な鉛フリー化が必須の課題となっている。そのため、光ファイバ電流センサについても、鉛フリーガラスファイバの開発が望まれており、その材料となる鉛フリーガラスの開発も求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】APL Materials, Vol. 3, 0461021-0461026 (2015)
【文献】Optics Materials Express, Vol. 7, 760-765 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鉛フリーのガラスとして、酸化スズを含むケイ酸ガラス(SnO-SiO2)がある。このケイ酸ガラス(SnO-SiO2)は耐水性に優れ、SnO=43.5mol%で非常に小さな光弾性定数(-0.002×10-12Pa-1)を有している。しかし、耐結晶化性に劣るという問題があり、ケイ酸ガラス(SnO-SiO2)を用いて低光弾性定数を有する光ファイバを製造することは難しい。
【0008】
本発明は上記事情に鑑み、低光弾性定数を有し耐結晶化性に優れた低光弾性定数ガラス、光ファイバおよび光ファイバの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の低光弾性定数ガラスは、三酸化ビスマスおよび三酸化アンチモンのいずれか一方を含む成分Aと、二酸化ケイ素および酸化ホウ素のいずれか一方または両方を含む成分Bと、を含有しており、前記成分Aと前記成分Bの配合比(モル比)が40:60~60:40であることを特徴とする。
さらに、成分Bに酸化ホウ素、三酸化アルミニウムまたは三酸化アンチモンが含まれる場合、その含有量が、成分Aと成分Bの全体量に対して20mol%以下であることが望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の低光弾性定数ガラスは、光弾性定数が低いので、光ファイバ電流センサ等に使用される光ファイバなどの材料に適している。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】(A)各成分を含む低光弾性定数ガラスの組成と光弾性定数との関係を示したグラフであり、(B)各成分を含む低光弾性定数ガラスの組成と光透過性との関係を示したグラフである。
【
図2】三酸化ビスマス、二酸化ケイ素および酸化ホウ素を含む本発明の低光弾性定数ガラスについて、(A)三酸化ビスマスのモル割合と光弾性定数との関係を示したグラフであり、(B)酸化ホウ素のモル割合と光透過性との関係を示したグラフである。
【
図3】各成分を含む低光弾性定数ガラスの組成と結晶における高分極イオンの酸素配位数との関係を予測した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の低光弾性定数ガラスは、光ファイバやレンズなどの材料として使用可能なガラスであって、光弾性定数が低いという特徴を有している。
【0013】
本発明の低光弾性定数ガラスは種々の用途で使用可能である。例えば、光ファイバ電流センサ等に使用される光ファイバなどにおけるコアガラスやクラッドガラス、液晶プロジェクタに使用されるレンズ、フィルタなどの材料として使用できる。
【0014】
<低光弾性定数ガラス>
本実施形態の低光弾性定数ガラスは、三酸化ビスマス(Bi2O3)および三酸化アンチモンSb2O3)のいずれか一方を含む成分Aと、二酸化ケイ素(SiO2)および酸化ホウ素(B2O3)のいずれか一方または両方を含む成分Bと、を含有している。そして、本実施形態の低光弾性定数ガラスは、成分に三酸化ビスマス(Bi2O3)または三酸化アンチモン(Sb2O3)が含まれているので、光弾性定数が低くなっている。したがって、本実施形態の低光弾性定数ガラスは、光ファイバ電流センサ等に使用される光ファイバなどの材料に適したものとなっている。
【0015】
なお、本明細書において、光弾性定数が低くなっているとは、光弾性定数が0近傍であることを意味している。とくに、光弾性定数が0.1×10-12Pa-1~-0.1×10-12Pa-1、好ましくは0.05×10-12Pa-1~-0.05×10-12Pa-1であることを意味している。とくに、本実施形態の低光弾性定数ガラスを光ファイバのコアガラスの材料として使用する場合には、光弾性定数が0.01×10-12Pa-1~-0.01×10-12Pa-1、好ましくは0.005×10-12Pa-1~-0.005×10-12Pa-1であることを意味している。
【0016】
<配合比>
本実施形態の低光弾性定数ガラスは、成分Aと成分Bの配合比(モル比)が40:60~60:40となるように調整されている。成分Aの割合が40よりも少なくなると、ガラスの光弾性係数を十分に小さくできなくなる一方、成分Aの割合が60より多くなると、ガラスの光弾性係数が負の側に大きくなる。したがって、成分Aと成分Bの配合比(モル比)が40:60~60:40が好ましい。
【0017】
<成分Aについて>
成分Aには、三酸化ビスマス(Bi2O3)や三酸化アンチモン(Sb2O3)以外に、後述する添加成分が含有されていてもよい。
【0018】
<成分Bについて>
成分Bには、二酸化ケイ素(SiO2)および/または酸化ホウ素(B2O3)以外に、後述する添加成分が含有されていてもよい。
【0019】
<酸化ホウ素(B
2O
3)>
本実施形態の低光弾性定数ガラスが三酸化ビスマス(Bi
2O
3)を含んでいる場合、可視光の波長域において、特定の波長域(500nm以下)では不透明になる。しかし、成分Bに酸化ホウ素(B
2O
3)が含まれていれば、可視光の波長域において透明となる波長域を広くすることができる。すると、白色光源に対する演色性が向上するという利点が得られる(
図2(B)参照)。
【0020】
なお、本実施形態の低光弾性定数ガラスが三酸化ビスマス(Bi2O3)を含んでいる場合、酸化ホウ素(B2O3)に加えて、三酸化アンチモン(Sb2O3)を加えても、可視光の波長域において透明となる波長域を広くすることができる。
【0021】
さらに、酸化ホウ素(B2O3)が添加されれば、本実施形態の低光弾性定数ガラスの耐水性を向上する効果が得られる。本明細書において、ガラスの耐水性は、40℃の蒸留水にガラスを24時間浸漬した後、蒸留水へのガラスの単位面積当たりの重量の減少量によって判断した値である。例えば、本実施形態の低光弾性定数ガラスによって光ファイバを製造した場合に要求される耐水性は、0.01×10-7kg・mm-2以下、好ましくは0.006×10-7kg・mm-2以下である。
【0022】
<三酸化二アルミニウム(Al2O3)>
本実施形態の低光弾性定数ガラスは、三酸化二アルミニウム(Al2O3)が添加されていてもよい。三酸化二アルミニウム(Al2O3)が添加されていれば、本実施形態の低光弾性定数ガラスにおける機械的強度を改善することができる。
【0023】
<製造温度>
本実施形態の低光弾性定数ガラスは、各成分を混合した状態で溶融して製造されるが、三酸化ビスマス(Bi2O3)を含んでいる場合、溶融する温度を調整することによっても、可視光の波長域において透明となる波長域を広くすることができる。例えば、溶融する温度を1100℃とした場合、製造された低光弾性ガラスは透明となる波長域が500nm以上となるが、溶融する温度を1000℃とした場合、製造された低光弾性ガラスは透明となる波長域を450nm以上とすることができる。
【0024】
また、成分Bが酸化ホウ素(B2O3)を含む場合には、溶融する温度を900℃とすることができ、その温度で製造された低光弾性ガラスは、透明となる波長域を400nm以上とすることができる。
【0025】
<添加成分>
上述したように、本実施形態の低光弾性定数ガラスには、化学的耐久性、熱的安定性、屈折率調整、高品位ガラス形成、耐水性、脱泡性などを向上させるために、必要に応じて、上述した三酸化二アルミニウム(Al2O3)以外に、以下のような添加成分が含まれていてもよい。例えば、三酸化二ランタン(La2O3)、五酸化二ニオブ(Nb2O5)、五酸化タンタル(Ta2O5)、三酸化二ガリウム(Ga2O3)、二酸化テルル(TeO2)、酸化タリウム(Tl2O)などを添加成分として挙げることができる。
【0026】
<本実施形態の低光弾性定数ガラスの製造方法>
次に、本実施形態の低光弾性定数ガラスの製造方法について説明する。
【0027】
まず、低光弾性ガラスを製造するには、成分Aおよび成分Bを調製する。具体的には、三酸化ビスマス(Bi2O3)や三酸化アンチモン(Sb2O3)に添加成分を適切な量だけ混合して成分Aを調製する。また、二酸化ケイ素(SiO2)や酸化ホウ素(B2O3)に三酸化アンチモン(Sb2O3)等の添加成分を適切な量だけ混合して成分Bを調製する。成分Aおよび成分Bが調製されると、成分Aと成分Bとを混合して坩堝等にいれて融解し、原料融液を調製する。
【0028】
ついで、坩堝等の内部で融解している原料融液を攪拌、曝気などにより均一に混合した後、その原料融液を成形型に流し込んで、成形型中で原料融液を冷却する。すると、所定の形状に成形された本実施形態の低光弾性定数ガラスを得ることができる。
【0029】
<本実施形態の光ファイバ>
本実施形態の光ファイバは、上述した本実施形態の低光弾性定数ガラスを使用して形成されたものである。具体的には、コアガラスとクラッドガラスの両方の原料、または、コアガラスとクラッドガラスのいずれか一方の原料が本実施形態の低光弾性定数ガラスによって形成されたものである。
【0030】
本実施形態の低光弾性定数ガラスが上述したような光弾性定数を有しているので、本実施形態の光ファイバも上述したような光弾性定数になる。したがって、本実施形態の光ファイバを光ファイバ電流センサに適用した場合、高精度の電流計測を実現することができる。
【0031】
本実施形態の光ファイバは、コアガラスおよび/またはクラッドガラスが上述した本実施形態の低光弾性定数ガラスを使用して形成されていればよいが、三酸化ビスマスまたは三酸化アンチモンの含有量が40mol%以上60mol%以下となっていることが望ましい。すると、長尺ファイバ(1~2m)においても低光弾性効果が維持されるという利点が得られる。
【0032】
とくに、コアガラスおよびクラッドガラスの両方が本実施形態の低光弾性定数ガラスを使用して形成されており、しかも、酸化ホウ素が含有されている場合には、コアガラスおよびクラッドガラスに含まれる酸化ホウ素の含有量が同量であることが望ましい。この場合には、コアガラス・クラッドガラス間の屈折率調節が容易になるという利点が得られる。
なお、酸化ホウ素の含有量が同量とは、各ガラスの全量に対する酸化ホウ素のモル濃度(mol%)が同じであることを意味している。ここでいう「同じ」とは完全に一致する場合だけでなく、若干の差(例えば、±1mol%程度)がある場合も含んでいる。
【0033】
<本実施形態の光ファイバの製造方法>
上述した本実施形態の光ファイバは、上述したようなものとなるように、本実施形態の低光弾性定数ガラスを使用して製造されていればよく、その製造方法はとくに限定されない。例えば、公知の製造方法であるMCVD法(Modified chemical vapor deposition method)やOVD法(Outside vapor deposition method)、VAD法(Vapor phase axial deposition method、気相軸付け法)を使用して製造すればよい。また、以下のような方法でも製造することができる。
【0034】
まず、本実施形態の低光弾性定数ガラスを使用して、互いに屈折率の異なるコア用ガラス材料とクラッド用ガラス材料を作製する。なお、コア用ガラス材料の屈折率がクラッド用ガラス材料の屈折率よりも大きくなるように両ガラスを製造する。
【0035】
これらのガラス材料に対して機械加工を施して、コア用ガラス材料とクラッド用ガラス材料を、それぞれ外径の異なる円柱状に加工する。
【0036】
ついで、クラッド用ガラス材料の中央部に、クラッド用ガラス材料の長さ方向に沿って、コア用ガラス材料が収容可能な穴を形成する。そして、ロッドインチューブ法により、クラッド用ガラス材料に形成した穴の中に、コア用ガラス材料を収容すれば、プリフォームが形成される。
【0037】
続いて、プリフォームを外周部からヒータ等によって加熱し、粘度が104-107Pa・sとなる温度に加熱する。つまり、プリフォーム全体がガラス転移温度以上の温度となるように加熱して、プリフォームを軟化させる。
【0038】
プリフォームが十分に軟化すると、プリフォームの端部を引っ張るなどの方法で線状(つまりファイバ状)に延伸すれば、光ファイバが製造される。
【0039】
<温度維持時間>
プリフォームをその粘度が104-107Pa・sとなる温度に加熱する際に、加熱開始から延伸を開始するまでの間、プリフォームを一定時間所定の温度で維持することが望ましい。すると、プリフォームを加熱した際にスムースに延伸できるし、製造された光ファイバの性質(光弾性定数や直径、断面形状等)を均質にしやすくなる。この場合、所定の温度(プリフォーム全体がガラス転移温度以上となる温度)で維持する時間はとくに限定されないが、10-15分間程度が好ましい。
【0040】
<温度維持時間>
プリフォームを延伸してファイバ状とする方法はとくに限定されず、製造された光ファイバの性質(光弾性定数や直径、断面形状等)が均質になるように延伸できるのであれば、どのような方法を使用してもよい。例えば、プリフォームの一端に5-20gの錘を懸架して延伸してもよい。この方法を採用すれば、連続的に,かつ断線せずに紡糸できるという利点が得られる。
【実施例】
【0041】
本発明の低光弾性ガラスについて、各成分を変化させた場合における性質の変化について確認した。
【0042】
実験に使用するサンプルガラスは溶融急冷法で作製した。つまり、秤量した原料(10-18g)を混合し、電気炉内でふた付のアルミナ坩堝を用いて1000-1200℃に加熱して1時間溶融した。その後、冷却した風をファンによってアルミナ坩堝に当てて急速に冷却した後、460-500℃で焼きなましを行って残留応力を除去してサンプルガラスを製造した。
【0043】
なお、Sn2+を含むサンプルガラスを製造する際には、原料などの酸化を防ぐためにArガスをフローした電気炉内で溶融した。
【0044】
サンプルガラスの原料の組成は、xRO-(100-x)SiO2およびxR’203-(100-x)SiO2(x=40-60mo1%、R=Sn、Pb、およびR’=Sb、Bi)、xSb203-(100-x)B2O3(x=40-60mo1%)、である。
原料には、SnO(99.5%:株式会社高純度化学研究所製)、Sb203(99.9%:株式会社高純度化学研究所製)、PbO(99.9%:株式会社高純度化学研究所製)、Bi203(99.9%:株式会社高純度化学研究所製)、SiO2(99.9%:株式会社高純度化学研究所製) 、およびB2O3(99.9%:株式会社高純度化学研究所製)を使用した。
【0045】
各サンプルガラスの光弾性定数は、製造したサンプルガラスを直径10または20mm、長さ10mmに形成し、表面を研磨されたサンプルをデジタル表示式一軸圧縮試験機(関西機器製製:型番KS-205B)を使用して測定した。
各サンプルガラスの分光透過スペクトルは、製造したサンプルガラスを厚さ1mmまたは1-5μmに形成したサンプルを分光光度計(日立製:型番 U-4100)を用いて測定した。
【0046】
【0047】
まず、表1、表2および
図1(A)に示すように、成分Bが二酸化ケイ素(SiO
2)であるケイ酸ガラスのサンプルガラスでは、Sn、Pb、Sb、Biのモル比が増加するに従って光弾性定数が低下しており、Sb、BiについてはxR’
20
3の割合が40%以上では、光弾性定数が0近傍に維持されていることが確認できる。
【表1】
【表2】
【0048】
また、表3に示すように、成分Bが酸化ホウ素(B
2O
3)であるホウ酸ガラスのサンプルガラスでは、Sbのモル比が増加するに従って光弾性定数が低下していることが確認できる。
【表3】
【0049】
また、
図1(B)に示すように、Sn、Pb、Sb、Biのモル比によって、各波長における透過率が変化することが確認できる。
【0050】
そして、
図2(A)に示すように、三酸化ビスマス(Bi
2O
3)と酸化ホウ素(B
2O
3)を含むケイ酸ガラスのサンプルガラスでも、融解温度が1100℃ではBi
20
3の割合が52.5-55%では光弾性定数が0近傍に維持されており、融解温度が1000℃ではBi
20
3の割合が50%近傍では光弾性定数が0近傍に維持されることが確認された。
【0051】
さらに、
図2(B)に示すように、三酸化ビスマス(Bi
2O
3)を含むケイ酸ガラスのサンプルガラスは、融解温度を低くしたり、酸化ホウ素(B
2O
3)を成分に含むようにすれば、可視光域での光透過性を高くすることができることが確認された。
【0052】
また、表4、5に示すように、三酸化アンチモン(Sb
2O
3)を含むサンプルガラス(ケイ酸ガラスとホウ酸ガラスの両方)では、三酸化二アルミニウム(Al
2O
3)を添加することによって、熱的に安定なガラスを得ることが確認できた。
【表4】
【表5】
【0053】
また、
図3に示すように、各成分を含む低光弾性定数ガラスの組成と結晶における高分極イオンの酸素配位数との関係を予測したところ、低光弾性定数ガラスでは高分極イオンに付随する酸素の配位数が小さいことが予想された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の低光弾性定数ガラスは、光ファイバやレンズの材料として適している。