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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】振動減衰材
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/10 20060101AFI20231221BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20231221BHJP
   F16F 7/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C08J5/10
F16F15/02 Q
F16F7/00 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020039691
(22)【出願日】2020-03-09
(65)【公開番号】P2021138888
(43)【公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-06-27
(73)【特許権者】
【識別番号】503027931
【氏名又は名称】学校法人同志社
(73)【特許権者】
【識別番号】000132161
【氏名又は名称】株式会社スギノマシン
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100116159
【弁理士】
【氏名又は名称】玉城 信一
(72)【発明者】
【氏名】大窪 和也
(72)【発明者】
【氏名】小武内 清貴
(72)【発明者】
【氏名】野村 知正
(72)【発明者】
【氏名】西田 信雄
(72)【発明者】
【氏名】杉野 岳
(72)【発明者】
【氏名】大坪 雅之
(72)【発明者】
【氏名】森本 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】小倉 孝太
(72)【発明者】
【氏名】近藤 兼司
(72)【発明者】
【氏名】峯村 淳
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-214671(JP,A)
【文献】特開2019-001872(JP,A)
【文献】特開2019-210434(JP,A)
【文献】特開2011-012094(JP,A)
【文献】特開2012-041413(JP,A)
【文献】特開2016-089148(JP,A)
【文献】特開2015-227396(JP,A)
【文献】特開2019-1872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16
15/08-15/14
B29C41/00-41/36
41/46-41/52
70/00-70/88
C08J5/04-5/10
5/24
F16F7/00-7/14
15/00-15/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロースナノファイバーと炭素繊維とマトリックス樹脂とを含み、前記セルロースナノファイバーの平均繊維長が50~80μmであり、
前記マトリックス樹脂100質量部に対して、前記セルロースナノファイバーを0.07~0.4質量部含み、
損失係数ηが0.015超であり、
前記マトリックス樹脂を形成する樹脂が熱硬化性樹脂である振動減衰材。
【請求項2】
前記炭素繊維の繊維体積含有率(Vf)は、30~60%である請求項1に記載の振動減衰材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動減衰材に関する。
【背景技術】
【0002】
比強度及び比剛性に優れたCFRPは、航空宇宙,スポーツやレジャー用途自動車をはじめとする様々な分野への使用が拡大している。一方、その振動減衰性は、損失係数ηが0.001~0.005であり、金属部材の0.002~0.006と同程度で振動減衰性に乏しい。そのため、用途や使用態様によっては、振動の影響を受けて機器の誤作動や故障といった種々の弊害が生じることがあった。
【0003】
振動減衰性を向上させるため、例えば、特許文献1では、複数の連続した炭素繊維が配列した炭素繊維束と、その表面に付着したカーボンナノチューブとを備え、所定の弾性率を有する炭素繊維強化成形体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2018/151053号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1で使用されるカーボンナノチューブは、発がん性が報告されておりその取扱いにおいて課題があるため、あまり実用的であるとはいえない。
【0006】
以上から、本発明は上記に鑑みなされたものであり、優れた振動減衰性を発揮する実用的な振動減衰材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討したところ、特定の平均繊維長のセルロースナノファイバーを振動減衰材中に含有させることで当該課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、下記のとおりである。
[1] セルロースナノファイバーと炭素繊維とマトリックス樹脂とを含み、前記セルロースナノファイバーの平均繊維長が30~100μmである振動減衰材。
[2] 前記マトリックス樹脂100質量部に対して、前記セルロースナノファイバーを0.05~1質量部含む[1]に記載の振動減衰材。
[3] 前記マトリックス樹脂を形成するの樹脂が熱硬化性樹脂である[1]又は[2]に記載の振動減衰材。
[4] 前記炭素繊維の繊維体積含有率(Vf)は、30~60%である[1]~[3]のいずれかに記載の振動減衰材。
[5] 損失係数ηが0.015超である[1]~[4]のいずれかに記載の振動減衰材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた振動減衰性を発揮する実用的な振動減衰材を提供することができる。特に、セルロースナノファイバーは植物由来であるため、セルロースナノファイバーを使用した本発明の振動減衰材はカーボンナノチューブ等を用いるよりも安全で環境負荷を小さくすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態(本実施形態)に係る振動減衰材は、セルロースナノファイバー(以下、「CNF」ということがある)と炭素繊維とマトリックス樹脂とを含む。そして、上記CNFの平均繊維長が30~100μmとなっている。CNFの平均繊維長が30~100μmとなっていることで、CFRPよりも優れた振動減衰性を発揮させることができる。この優れた振動減衰性が発揮される理由については、不明な点もあるが、下記のように推察される。すなわち、本発明者らによれば、振動減衰材中のCNFは、その平均繊維長が30~100μmの範囲にあるとCNF同士が適度に絡み合った網目状構造が形成されており、この網目状構造が存在する場合に、優れた振動減衰性が確認された。このことから、この適度に絡み合った網目状構造が形成されやすい、平均繊維長が30~100μmのCNFの存在が優れた振動減衰性を発揮すると推察した。
【0010】
以下、本実施形態に係る振動減衰材について、具体的に説明する。
(CNF)
本実施形態に係るCNFは、既述のとおり、平均繊維長が30~100μmとなっている。平均繊維長が30μm未満では、適度に絡み合った網目状構造が形成されづらいことが確認されており、そのため、優れた振動減衰性が得られにくい。また、平均繊維長が100μmを超えると、CNFの分散性が低下することがある。
【0011】
平均繊維長は、40~90μmであることが好ましく、50~80μmであることがより好ましい。当該平均繊維長は、電子顕微鏡写真から複数の繊維(通常10本以上)の長さを測定し、その平均を計算することにより算出することができる。
【0012】
本実施形態に係るCNFの平均径は、1~100nm程度であることが好ましく、2~70nmであることが好ましい。CNFの平均径(幅)は、電子顕微鏡写真により複数の繊維(通常10本以上)の直径を測定し、その平均を計算することにより算出することができる。
【0013】
CNFとなるセルロース原料は、リグニンやヘミセルロースを除去した結晶セルロースが好ましい。CNFは、特開2012-051991等の公知の方法により製造してもよいし、市販のものを入手してもよい。
【0014】
振動減衰材中のCNFの含有量は、マトリックス樹脂100質量部に対して0.05~1質量部であることが好ましく、0.07~0.45質量部であることがより好ましく、0.07~0.4質量部であることがさらに好ましい。含有量が0.05~1質量部であることで、適度に絡み合った網目状構造をより良好に形成することができる。
【0015】
(炭素繊維)
本実施形態に係る炭素繊維としては、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、セルロース系炭素繊維、気相成長系炭素繊維、これらの黒鉛化繊維などが挙げられ、コストと取扱い性の観点から、PAN系またはピッチ系の炭素繊維が好ましい。
【0016】
炭素繊維の平均繊維径は1μm以上であり、好ましくは1~100μmであり、より好ましくは3~50μmであり、更に好ましくは4~20μmである。平均繊維径がこの範囲であると、加工が容易であり、得られる炭素繊維強化複合材料の弾性率及び強度が優れたものとなる。
また、炭素繊維の繊維長は、特に限定されないが、1mm~50mmであることが好ましい。炭素繊維は、公知の方法により製造してもよいし、市販の炭素繊維を入手してもよい。
【0017】
炭素繊維の形態としては、例えば、単にモノフィラメント又はマルチフィラメントを一方向または交互の交差するように並べたもの、編織物等の布帛、不織布又はマット等の種々の形態が挙げられる。これらのうち、モノフィラメント、布帛、不織布又はマットの形態が好ましい。
【0018】
振動減衰材中の炭素繊維の繊維体積含有率(Vf)は、30~60%であることが好ましく、35~55%であることがより好ましい。Vfが上記範囲にあることで、振動減衰性を有しながら、炭素繊維に起因する良好な比強度及び比剛性が得られる。
【0019】
(マトリックス樹脂)
本実施形態に係るマトリックス樹脂を形成する樹脂としては、熱硬化性樹脂であることが好ましい。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリイソシアネート樹脂、ポリイソシアヌレート樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、およびポリイミド樹脂からなる群から選択される少なくとも一種が挙げられる。上記の中でも、エポキシ樹脂は、他の樹脂に比べて炭素繊維との密着性が高く、かつ弾性率も高いため好ましい。
なお、当該樹脂が熱硬化性樹脂である場合、この熱硬化性樹脂が硬化することでマトリックス樹脂が形成される。
【0020】
振動減衰材中のマトリックス樹脂の含有量は、30~70質量%であることが好ましく、40~60質量%であることがより好ましい。
【0021】
本実施形態に係る振動減衰材には、本発明の効果を損なわない範囲で、安定剤、離型剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、難燃助剤、滴下防止剤、滑剤、蛍光増白剤、蓄光顔料、蛍光染料、流動改質剤、耐衝撃性改良剤、結晶核剤、無機または有機の抗菌剤、光触媒系防汚剤、赤外線吸収剤、フォトクロミック剤などの添加剤、炭素繊維以外の充填材等が適宜含有されていてもよい。
【0022】
本実施形態に係る振動減衰材は、例えば、(1)炭素繊維のウェブからなるシート状基材を形成した後、該シート状基材に、既述の樹脂とCNFを含有したCNF含有樹脂組成物を含浸させる方法、(2)上記CNF含有樹脂組成物と炭素繊維とを押出機に投入して、炭素繊維を分散させて炭素繊維強化樹脂組成物を得て、これを溶融状態で塊状またはシート状に押出した後、所定の形状に賦形する方法等により製造することができる。
【0023】
なお、CNF含有樹脂組成物には、適宜硬化剤が添加される。硬化剤としては、酸無水物類(酸無水物系硬化剤)、アミン類(アミン系硬化剤)、ポリアミド樹脂、イミダゾール類(イミダゾール系硬化剤)、ポリメルカプタン類(ポリメルカプタン系硬化剤)、フェノール類(フェノール系硬化剤)、ポリカルボン酸類、ジシアンジアミド類、有機酸ヒドラジド等が挙げられる。また、硬化剤の含有量は、樹脂に含まれる硬化剤との反応性基の量に応じて適宜調整される。
【0024】
本実施形態に係る振動減衰材は、炭素繊維からなる層を複数積層し、CNF含有樹脂組成物を各層に含浸させて得られるような積層構造を有していてもよい。炭素繊維からなる層の数は、2以上が好ましく、2~10がより好ましく、4~9がさらに好ましい。
【0025】
また、本実施形態に係る振動減衰材は、損失係数ηが0.015超であることが好ましく、0.016以上であることがより好ましく、0.017以上であることがさらに好ましい。なお、損失係数ηは大きいほど好ましいが、実際的には0.025以下であり、0.023以下であることが好ましい。損失係数ηが0.015超であることで、良好な弾性率及び強度を有しながら、実用的な振動減衰特性が得られやすくなる。
【0026】
以上のような本実施形態に係る振動減衰材は、各種構造体において機械的な揺れ若しくは騒音を防止するために、例えば、自動車の室内床下等、鉄道車両、船舶、航空機、電気機器、建築構造物、建設機器等にも広く利用することができる。その際の使用形態としては、各種構造物への適用場所などにもよるが、シート状や線状といった形態が挙げられる。
【実施例
【0027】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
[材料]
・炭素繊維
三菱ケミカル(株)製のPAN系平織り炭素繊維束(TR3110M:縦、横原束ともにTR30S 3L(引張強度:4.12GPa、引張弾性率:234GPa、伸度:1.8%))
・熱硬化性樹脂
三菱ケミカル(株)製のJER828(エポキシ当量190)
・硬化剤
三菱ケミカル(株)製の変性脂環族アミン系のJERキュア113
・CNF
CNF-A:平均繊維長68μm、平均径20nmの粉末状CNF((株)スギノマシン製)
CNF-B:平均繊維長6μm、平均径20nmの粉末状CNF((株)スギノマシン製)
CNF-C:平均繊維長22μm、平均径20nmの粉末状CNF((株)スギノマシン製)
CNF-D:平均繊維長126μm、平均径20nmの粉末状CNF((株)スギノマシン製)
【0029】
[実施例1]
(CNF含有樹脂組成物の作製)
熱硬化性樹脂及びCNF-Aのそれぞれに含まれる気泡をバキューム装置(-95kPa)によって30分間真空脱泡した。
脱泡後の熱硬化性樹脂100質量部と脱泡後のCNF-A0.1質量部とを混合して混合液とし、これを汎用のプロセスホモジナイザー((株)エスエムテー製PH91)を用いて10,000rpmの条件下で30分撹拌してCNF含有樹脂組成物を得た。
【0030】
(振動減衰材の作製)
得られたCNF含有樹脂組成物について10分間真空脱泡し、熱硬化性樹脂100質量部に対して、硬化剤33質量部を混合した。その後、当該樹脂組成物を用いて8枚の炭素繊維をハンドレイアップ法により積層し、80℃で1時間、150℃で3時間、0.86MPaの条件の下で加圧硬化させ、加圧状態のまま徐冷し、厚み2mm,繊維体積含有率Vfが45%の振動減衰材を作製した。作製した振動減衰材について、下記評価を行った。
【0031】
[評価]
(動的粘弾性試験)
動的粘弾性試験としてJISK7244に基づき評価した。作製した振動減衰材からダイヤモンドカッタによって50mm×16mm×2mmの短冊状試験片に加工し、これを試験に供した。試験には動的粘弾性特性評価装置(DMA7100,(株)日立ハイテクノロジーズ)を用いた。両持ち曲げとし、試験片中央部に正弦波加振荷重(10μm)を与えた。加振周波数を10Hzとし、5℃/minの一定昇温速度で室温から220℃まで加熱した。それぞれの試験片の粘弾性応答を測定し、貯蔵弾性率E’、損失弾性率E”からtanδ(=E”/E’)を求めた。結果を表1に示す。
【0032】
[実施例2]
脱泡後のCNF-Aを0.1質量部から0.3質量部に変更した以外は実施例1と同様にして振動減衰材を作製し、既述の動的粘弾性試験による評価と下記の評価を行った。結果を表1に示す。
【0033】
[評価]
(振動試験)
機械加工により、作製した振動減衰材から短冊状試験片(180mm×10mm×2mm)に切り出し、曲げ振動の減衰特性を評価した。片持ち試験片の片側を治具により固定した。先端側から120mmの位置にひずみゲージを接着した。梁の先端に初期変位5mmを加え,変形を解放することで振動中のひずみの変化を測定した。減衰自由振動波形より最大振幅(正ピーク)から30点の減衰率を平均化し、対数減衰率Δを求めた。
その後、式:η=Δ/πにより損失係数ηを算出し、試験片自体の減衰特性を評価した。結果を表1に示す。
【0034】
[比較例1]
CNFを含有しなかった以外は実施例1と同様にして振動減衰材を作製し、既述の評価(動的粘弾性試験及び振動試験)を行った。結果を表1に示す。
【0035】
[比較例2]
CNF-AをCNF-Bに変更した以外は実施例1と同様にして振動減衰材を作製し、既述の評価(振動試験)を行った。結果を表1に示す。
【0036】
[比較例3]
CNF-AをCNF-Bに変更し、含有量を0.1質量部から0.3質量部に変更した以外は実施例1と同様にして振動減衰材を作製し、既述の評価(動的粘弾性試験及び振動試験)を行った。結果を表1に示す。
【0037】
[比較例4]
CNF-AをCNF-Cに変更した以外は実施例1と同様にして振動減衰材を作製し、既述の評価(振動試験)を行った。結果を表1に示す。
【0038】
[比較例5]
CNF-AをCNF-Cに変更し、含有量を0.1質量部から0.3質量部に変更した以外は実施例1と同様にして振動減衰材を作製し、既述の評価(動的粘弾性試験及び振動試験)を行った。結果を表1に示す。
【0039】
[比較例6]
CNF-AをCNF-Dに変更した以外は実施例1と同様にして振動減衰材を作製し、既述の評価(振動試験)を行った。結果を表1に示す。
【0040】
[比較例7]
CNF-AをCNF-Dに変更し、含有量を0.1質量部から0.3質量部に変更した以外は実施例1と同様にして振動減衰材を作製し、既述の評価(動的粘弾性試験及び振動試験)を行った。結果を表1に示す。
【0041】
【表1】