(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】補強金具及び木造軸組構造物
(51)【国際特許分類】
E04B 1/58 20060101AFI20231221BHJP
E04B 1/26 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
E04B1/58 G
E04B1/26 F
(21)【出願番号】P 2019098335
(22)【出願日】2019-05-27
【審査請求日】2022-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】596036692
【氏名又は名称】株式会社タツミ
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【氏名又は名称】吉井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(74)【代理人】
【氏名又は名称】吉井 将太郎
(72)【発明者】
【氏名】山口 紳一郎
(72)【発明者】
【氏名】田所 洋介
(72)【発明者】
【氏名】吉田 邦生
(72)【発明者】
【氏名】久積 綾那
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭一
(72)【発明者】
【氏名】清水 信孝
(72)【発明者】
【氏名】御手洗 達也
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-107368(JP,A)
【文献】特開2002-276029(JP,A)
【文献】特開2017-020336(JP,A)
【文献】登録実用新案第3083287(JP,U)
【文献】登録実用新案第3041247(JP,U)
【文献】特開2021-050513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/58
E04B 1/26
E04H 9/02
E04B 2/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造軸組構造物における柱材、横架材及び両者間の筋交いに固定し、前記筋交いを補強する補強金具であって、前記柱材に固定される柱材固定部と、前記横架材に固定される横架材固定部と、前記筋交いに固定される筋交い固定部とを備え、前記柱材固定部と前記筋交い固定部とは
、入隅状に略直交するものであり、柱材側変形部を介して連設されており、この柱材側変形部は、前記柱材固定部を前記柱材に固定した
状態で、前記柱材固定部が固定される柱材固定面から離れる方向に向か
うように、前記柱材固定部に折曲状態で突設された平板状の第一折曲面部と、前記筋交い固定部を前記筋交いに固定した
状態で、前記筋交い固定部が固定される筋交い固定面から離れる方向に向か
うように、前記筋交い固定部に折曲状態で突設され前記第一折曲面部と縦方向稜線部を介して連設される平板状の第二折曲面部とからなり、前記筋交いに軸方向の引張力が作用した際に曲げ変形及びせん断変形が生じるように構成されていることを特徴とする補強金具。
【請求項2】
前記柱材固定部、前記横架材固定部、前記筋交い固定部及び前記柱材側変形部は、一枚の金属板材から
形成さ
れ、さらに、前記柱材固定部、前記横架材固定部及
び前記筋交い固定部は、夫々
、平板状
であり、
また、前記柱材側変形部は
、一側端縁が前記柱材固定部に連設され他側端縁が前記筋交い固定部に連設されていることを特徴とする請求項1記載の補強金具。
【請求項3】
前記第一折曲面部は、前記柱材固定部の一側縁部に折曲突出形成さ
れ、前記第二折曲面部は、前記筋交い固定部の一側縁部に折曲突出形成さ
れていることを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の補強金具。
【請求項4】
前記柱材側変形部
は、前記柱材固定部が前記横架材固定部よりも上方に位置するように固定された状態において、前記縦方向稜線部が鉛直方向に延び
、前記第一折曲面部が正面視方形状となるように構成されていることを特徴とする請求項3記載の補強金具。
【請求項5】
前記柱材側変形部は
、前記柱材固定部が前記横架材固定部よりも上方に位置するように固定された状態において、前記第一折曲面部が、
平行に対向する上縁と下縁を有し、前記上縁よりも前記下縁が長
く、さらに、前記縦方向稜線部
が下方に向かうに従い前記柱材固定部に対して離れる傾斜辺となる正面視直角台形状となるように構成されていることを特徴とする請求項3記載の補強金具。
【請求項6】
前記第一折曲面部は、前記筋交い固定部と平行に設けられていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の補強金具。
【請求項7】
前記柱材側変形部は、
前記柱材固定部が前記横架材固定部よりも上方に位置するように固定された状態において、上縁部及び下縁部のいずれか一方若しくは双方に切欠き部が設けられていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の補強金具。
【請求項8】
前記柱材固定部が設けられている柱材固定部側と、前記横架材固定部が設けられている横架材固定部側とが
、前記筋交い固定部
の長手方向中心を通る分割線を基準にして
正面視線対称に形成されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の補強金具。
【請求項9】
前記横架材固定部と前記筋交い固定部とは
、入隅状に略直交するものであり、横架材側変形部を介して連設されており、この横架材側変形部は、前記横架材固定部を前記横架材に固定した
状態で、前記横架材固定部が固定される横架材固定面から離れる方向に向か
うように、前記横架材固定面に折曲状態で突設された平板状の第三折曲面部と、前記筋交い固定部を前記筋交いに固定した
状態で、前記筋交い固定部が固定される筋交い固定面から離れる方向に向か
うように、前記筋交い固定部に折曲状態で突設され前記第三折曲面部と横方向稜線部を介して連設される平板状の第四折曲面部とからなり、前記筋交いに軸方向の引張力が作用した際に曲げ変形及びせん断変形が生じるように構成されていることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の補強金具。
【請求項10】
前記横架材固定部と前記筋交い固定部とは
、出隅状に略直交するものであり、横架材側変形部を介して連設されており、この横架材側変形部は、前記横架材固定部を前記横架材に固定した
状態で、前記横架材固定部が固定される横架材固定面から離れる方向に向か
うように、前記横架材固定面に折曲状態で突設された平板状の第五折曲面部と、前記筋交い固定部を前記筋交いに固定した
状態で、前記筋交いと重合する面が存する裏面方向に向か
うように、前記筋交い固定部に折曲状態で突設され前記第五折曲面部と横方向稜線部を介して連設される平板状の第六折曲面部とからなり、前記筋交いに軸方向の引張力が作用した際に曲げ変形及びせん断変形が生じるように構成されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の補強金具。
【請求項11】
柱材と横架材との間に筋交いが設けられ、この筋交いが補強金具で補強された木造軸組構造物であって、前記補強金具は、前記柱材に固定される柱材固定部と、前記横架材に固定される横架材固定部と、前記筋交いに固定される筋交い固定部とを備え、前記柱材固定部と前記筋交い固定部とは
、入隅状に略直交するものであり、柱材側変形部を介して連設されており、この柱材側変形部は、
前記柱材固定部を前記柱材に固定した状態で、前記柱材固定部が固定される柱材固定面から離れる方向に向か
うように、前記柱材固定部に折曲状態で突設された平板状の第一折曲面部と、
前記筋交い固定部を前記筋交いに固定した状態で、前記筋交い固定部が固定される筋交い固定面から離れる方向に向か
うように、前記筋交い固定部に折曲状態で突設され前記第一折曲面部と縦方向稜線部を介して連設される平板状の第二折曲面部とからなり、前記筋交いに軸方向の引張力が作用した際に曲げ変形及びせん断変形が生じるように構成されていることを特徴とする木造軸組構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造軸組構造物における筋交いを補強するための補強金具及び木造軸組構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、木造軸組工法を用いた建築物は、耐震性の向上を目的として一定の割合で柱材間に筋交いを入れることが義務付けられている。
【0003】
この筋交いは、一般的には、釘や鎹を用いて柱材と梁や土台などの横架材との仕口部付近に接合固定されるが、この釘や鎹だけの固定では大きな揺れが生じた場合に、筋交いが外れてしまうおそれがある。
【0004】
そのため、従来、このような筋交いが外れてしまうことを防止するため、補強金具(筋交い金具や筋交い金物とも言う。)を用いて筋交いを補強することも行われている。
【0005】
この筋交いを補強する補強金具として、例えば特許文献1に示すようなものがある。
【0006】
この特許文献1に示される筋かい固定金具(以下、従来例と称す。)は、筋かいの一面に当接固定される筋かい当接部と、鉛直材の一面に当接固定される鉛直材当接固定部と、横架材の一面に当接固定される横架材当接固定部とがそれぞれ互いに垂直になるように一枚の金属板により折曲形成され、それぞれの当接固定部には複数の取付用孔が設けられていて、この取付用孔を介して釘やビスなどの固定部材で各当接固定部を固定対象の柱材に当接固定することで、筋かいを鉛直材及び横架材の接合部に強固に固定することができるように構成されているものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来例のような構造の補強金具を用いて筋交いを補強した場合、筋交いの耐力が過度に上がってしまい、例えば筋交いに大きな軸方向の引張力が作用した際に、この引張力の応力が筋交いに固定される補強金具の固定(接合)部付近に集中して、筋交いに割裂が生じたり、補強金具を筋交いに固定している固定部材(釘やビスなど)が抜け出したりして、筋交いによる補強作用が著しく低下してしまうため、大きな応力が繰り返し作用するような状況になった際に、十分な耐震性を保持することができなくなるおそれがある。
【0009】
本発明は、このような現状に鑑みなされたものであり、筋交いに軸方向の引張力が作用しても、この筋交いに固定される補強金具の固定(接合)部付近への応力の集中を緩和し、筋交いの割裂や固定部材の抜け出しを抑制し、筋交いの補強作用を保持しながら、繰り返し地震が作用した場合も十分な耐震性を保持することができる画期的な補強金具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0011】
木造軸組構造物における柱材30、横架材31及び両者間の筋交い32に固定し、前記筋交い32を補強する補強金具であって、前記柱材30に固定される柱材固定部1と、前記横架材31に固定される横架材固定部2と、前記筋交い32に固定される筋交い固定部3とを備え、前記柱材固定部1と前記筋交い固定部3とは、入隅状に略直交するものであり、柱材側変形部4を介して連設されており、この柱材側変形部4は、前記柱材固定部1を前記柱材30に固定した状態で、前記柱材固定部1が固定される柱材固定面から離れる方向に向かうように、前記柱材固定部1に折曲状態で突設された平板状の第一折曲面部4aと、前記筋交い固定部3を前記筋交い32に固定した状態で、前記筋交い固定部3が固定される筋交い固定面から離れる方向に向かうように、前記筋交い固定部3に折曲状態で突設され前記第一折曲面部4aと縦方向稜線部4cを介して連設される平板状の第二折曲面部4bとからなり、前記筋交い32に軸方向の引張力が作用した際に曲げ変形及びせん断変形が生じるように構成されていることを特徴とする補強金具に係るものである。
【0012】
また、前記柱材固定部1、前記横架材固定部2、前記筋交い固定部3及び前記柱材側変形部4は、一枚の金属板材から形成され、さらに、前記柱材固定部1、前記横架材固定部2及び前記筋交い固定部3は、夫々、平板状であり、また、前記柱材側変形部4は、一側端縁が前記柱材固定部1に連設され他側端縁が前記筋交い固定部3に連設されていることを特徴とする請求項1記載の補強金具に係るものである。
【0013】
また、前記第一折曲面部4aは、前記柱材固定部1の一側縁部に折曲突出形成され、前記第二折曲面部4bは、前記筋交い固定部3の一側縁部に折曲突出形成されていることを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の補強金具に係るものである。
【0014】
また、前記柱材側変形部4は、前記柱材固定部1が前記横架材固定部2よりも上方に位置するように固定された状態において、前記縦方向稜線部4cが鉛直方向に延び、前記第一折曲面部4aが正面視方形状となるように構成されていることを特徴とする請求項3記載の補強金具に係るものである。
【0015】
また、前記柱材側変形部4は、前記柱材固定部1が前記横架材固定部2よりも上方に位置するように固定された状態において、前記第一折曲面部4aが、平行に対向する上縁と下縁を有し、前記上縁よりも前記下縁が長く、さらに、前記縦方向稜線部4cが下方に向かうに従い前記柱材固定部1に対して離れる傾斜辺となる正面視直角台形状となるように構成されていることを特徴とする請求項3記載の補強金具に係るものである。
【0016】
また、前記第一折曲面部4aは、前記筋交い固定部3と平行に設けられていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の補強金具に係るものである。
【0017】
また、前記柱材側変形部4は、前記柱材固定部1が前記横架材固定部2よりも上方に位置するように固定された状態において、上縁部及び下縁部のいずれか一方若しくは双方に切欠き部6が設けられていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の補強金具に係るものである。
【0018】
また、前記柱材固定部1が設けられている柱材固定部側と、前記横架材固定部2が設けられている横架材固定部側とが、前記筋交い固定部3の長手方向中心を通る分割線Lを基準にして正面視線対称に形成されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の補強金具に係るものである。
【0019】
また、前記横架材固定部2と前記筋交い固定部3とは、入隅状に略直交するものであり、横架材側変形部5を介して連設されており、この横架材側変形部5は、前記横架材固定部2を前記横架材31に固定した状態で、前記横架材固定部2が固定される横架材固定面から離れる方向に向かうように、前記横架材固定面に折曲状態で突設された平板状の第三折曲面部5aと、前記筋交い固定部3を前記筋交い32に固定した状態で、前記筋交い固定部3が固定される筋交い固定面から離れる方向に向かうように、前記筋交い固定部3に折曲状態で突設され前記第三折曲面部5aと横方向稜線部5cを介して連設される平板状の第四折曲面部5bとからなり、前記筋交い32に軸方向の引張力が作用した際に曲げ変形及びせん断変形が生じるように構成されていることを特徴とする請求項1~8のいずれか1項に記載の補強金具に係るものである。
【0020】
また、前記横架材固定部2と前記筋交い固定部3とは、出隅状に略直交するものであり、横架材側変形部5を介して連設されており、この横架材側変形部5は、前記横架材固定部2を前記横架材31に固定した状態で、前記横架材固定部2が固定される横架材固定面から離れる方向に向かうように、前記横架材固定面に折曲状態で突設された平板状の第五折曲面部5dと、前記筋交い固定部3を前記筋交い32に固定した状態で、前記筋交い32と重合する面が存する裏面方向に向かうように、前記筋交い固定部3に折曲状態で突設され前記第五折曲面部5dと横方向稜線部5fを介して連設される平板状の第六折曲面部5eとからなり、前記筋交い32に軸方向の引張力が作用した際に曲げ変形及びせん断変形が生じるように構成されていることを特徴とする請求項1~7のいずれか1項に記載の補強金具に係るものである。
【0021】
また、柱材30と横架材31との間に筋交い32が設けられ、この筋交い32が補強金具10で補強された木造軸組構造物であって、前記補強金具10は、前記柱材30に固定される柱材固定部1と、前記横架材31に固定される横架材固定部2と、前記筋交い32に固定される筋交い固定部3とを備え、前記柱材固定部1と前記筋交い固定部3とは、入隅状に略直交するものであり、柱材側変形部4を介して連設されており、この柱材側変形部4は、前記柱材固定部1を前記柱材30に固定した状態で、前記柱材固定部1が固定される柱材固定面から離れる方向に向かうように、前記柱材固定部1に折曲状態で突設された平板状の第一折曲面部4aと、前記筋交い固定部3を前記筋交い32に固定した状態で、前記筋交い固定部3が固定される筋交い固定面から離れる方向に向かうように、前記筋交い固定部3に折曲状態で突設され前記第一折曲面部4aと縦方向稜線部4cを介して連設される平板状の第二折曲面部4bとからなり、前記筋交い32に軸方向の引張力が作用した際に曲げ変形及びせん断変形が生じるように構成されていることを特徴とする木造軸組構造物に係るものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明は上述のように構成したから、筋交いに軸方向の引張力が作用しても、筋交いの移動に追従すると共に、この筋交いに固定される補強金具の固定(接合)部付近への応力の集中が緩和され、筋交いの割裂や固定部材の抜け出しが抑制されて、筋交いの補強作用を保持しながら、繰り返し地震が作用した場合も十分な耐震性を保持することができる画期的な補強金具となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図3】実施例1を示す平面図、正面図及び右側面図である。
【
図6】実施例3を示す
図5と別角度の斜視図である。
【
図9】実施例5を示す
図8と別角度の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0025】
本発明は、柱材固定部1、横架材固定部2及び筋交い固定部3を備え、これらが夫々、柱材30、横架材31及び筋交い32に接合固定される三点止めになっているから、筋交い32が柱材30及び横架材31の夫々に対して固定されることとなり、柱材30若しくは横架材31との二点止めの場合に比べて筋交い32を強固に補強し、耐力壁構面外方向への過度な変形を抑制することができる。
【0026】
また、本発明は、柱材固定部1と筋交い固定部3とを連設している柱材側変形部4に縦方向稜線部4cを形成し、筋交い32に軸方向の引張力が作用した際に、この柱材側変形部4に曲げ変形とせん断変形との二種類の異なる変形が生じるようにしたから、曲げ変形によって筋交い32の移動に追従すると共に、筋交い固定部3周辺の面内張力を緩和し、ビスや釘などの固定部材20周辺の過度な応力集中を避けることで、木材の割裂を抑制でき、さらに、曲げ変形だけでなく、せん断変形を生じさせることで、補強金具、すなわち、筋交い金物として必要な初期剛性も確保される。
【0027】
しかも、本発明は、柱材固定部1、横架材固定部2及び筋交い固定部3を夫々、柱材30、横架材31及び筋交い32の所定位置に接合固定すると、柱材側変形部4の第一折曲面部4aと第二折曲面部4bによって形成される縦方向稜線部4cが、筋交い固定部3の筋交い32との接合面と非同一面に位置するから、筋交い32に軸方向の引張力が作用した際に、柱材側変形部4が面外変形するので、筋交い固定部3の筋交い32との固定部付近への応力の集中が一層緩和され、この固定部付近における筋交い32の割裂やこの筋交い固定部3を筋交い32に固定するための固定部材20の抜け出しが一層確実に抑制されて、筋交いの補強作用を保持しながら、繰り返し地震が作用した場合も十分な耐震性を保持することができる画期的な補強金具となる。
【実施例1】
【0028】
本発明の具体的な実施例1について
図1~3に基づいて説明する。
【0029】
本実施例は、木造軸組構造物における筋交い32の補強に用いられる筋交い用補強金具(筋交い金物或いは筋交い金具とも言う。)であり、
図1に示すように、柱材30に固定される柱材固定部1と、横架材31に固定される横架材固定部2と、筋交い32に固定される筋交い固定部3とを備え、これらを夫々、柱材30、横架材31及び筋交い32に固定する三点止めタイプに構成されているものである。
【0030】
具体的には、柱材固定部1、横架材固定部2及び筋交い固定部3は、
図2に示すように、夫々、平板状に形成されており、本実施例においては、一枚の金属板材を折曲してこれらを一体的に形成した構成とされている。
【0031】
より具体的には、筋交い固定部3は、
図3に示すように、所定位置にビスや釘などの固定部材20を挿通するための通孔7が複数形成された正面視右下がり傾斜する帯板状に形成されると共に、柱材固定部1が連設される側の端縁が柱材30の長手方向に沿う真っ直ぐな垂直縁に形成され、横架材固定部2が連設される側の端縁が横架材31の長手方向に沿う真っ直ぐな水平縁に形成されている。なお、
図1~3については正面視右下がり傾斜する帯板状に形成した場合について示したが、正面視左下りのように構成を同じくして向きが異なっても問題ない。
【0032】
また、柱材固定部1及び横架材固定部2は、夫々、所定位置にビスや釘などの固定部材20を挿通するための通孔7が複数形成された方形平板状に形成され、柱材固定部1は、板面が筋交い固定部3の板面に対して概ね直交状態となるようにして筋交い固定部3の垂直縁側に連設され、横架材固定部2は、板面が筋交い固定部3の板面に対して概ね直交状態となるようにして筋交い固定部3の水平縁側に連設されている。
【0033】
さらに具体的には、本実施例は、柱材固定部1と横架材固定部2とが同形状に形成されると共に、筋交い固定部3が長手方向中心を通る略45°の軸線L(分割線)を境にして柱材固定部側と横架材固定部側とが線対称形状に形成されており、正面視右上がり傾斜状態に設けられる筋交い32と、正面視右下がり傾斜状態に設けられる筋交い32とのいずれの傾斜状態の筋交い32に区別なく使用することができるように構成されている。
【0034】
また、本実施例は、図示するように、柱材固定部1と筋交い固定部3とが、例えば地震などで筋交い32に軸方向の引張力が作用した際に変形する柱材側変形部4を介して一体的に連設され、横架材固定部2と筋交い固定部3とが、同様に筋交い32に軸方向の引張力が作用した際に変形する横架材側変形部5を介して一体的に連設されている。
【0035】
この柱材固定部1と筋交い固定部3とを連設する柱材側変形部4は、柱材固定部1にこの柱材固定部1の柱材30との接合面側と反対側に向かって折曲状態に突設される第一折曲面部4aと、筋交い固定部3にこの筋交い固定部3の筋交い32との接合面側と反対側に向かって折曲状態に突設され第一折曲面部4aと連設される第二折曲面部4bと、この第一折曲面部4aと第二折曲面部4bとの連設部に形成される縦方向稜線部4cとからなる構成とされている。
【0036】
具体的には、柱材側変形部4は、方形平板状に形成される第一折曲面部4aが柱材固定部1の一側縁部から略直角に折曲突出形成され、方形平板状に形成される第二折曲面部4bが筋交い固定部3の一側縁部から略直角に折曲突出形成され、この第一折曲面部4aと第二折曲面部4bとが略90°の角度をなして連設される
図3に示すような平面視(上方側から見て)L字状の折曲板状に形成され、この第一折曲面部4aと第二折曲面部4bとの間に形成される鉛直方向に延びる折曲角部を前記縦方向稜線部4cとした構成とされている。
【0037】
すなわち、言い換えると、本実施例の柱材側変形部4は、一枚の方形状金属板材を折曲角が略90°となるように二つ折りして形成される平面視L字状の折曲板状体であり、この二つ折りした一面を第一折曲面部4a、他面を第二折曲面部4bとすると共に、この二つ折りにより形成された折り曲げ部を縦方向稜線部4cとした構成とされている。なお、柱材側変形部4は、前述したような平面視L字状の折曲板状のほか、例えば、第一折曲面部4aと第二折曲面部4bとが鈍角若しくは鋭角をなして連設される平面視く字状や、さらに第一折曲面部4aと第二折曲面部4bとの幅寸法が異なる平面視へ字状の折曲板状に形成しても良い。
【0038】
また、横架材固定部2と筋交い固定部3とを連設する横架材側変形部5は、横架材固定部2にこの横架材固定部2の横架材31との接合面側と反対側に向かって折曲状態に突設される第三折曲面部5aと、筋交い固定部3にこの筋交い固定部3の筋交い32との接合面側と反対側に向かって折曲状態に突設され第三折曲面部5aと連設される第四折曲面部5bと、この第三折曲面部5aと第四折曲面部5bとの連設部に形成される横方向稜線部5cとからなる構成とされている。
【0039】
具体的には、横架材側変形部5は、方形平板状に形成される第三折曲面部5aが横架材固定部2の一側縁部から略直角に折曲突出形成され、方形平板状に形成される第四折曲面部5bが筋交い固定部3の一側縁部から略直角に折曲突出形成される柱材側変形部4と同形状の平面視L字状の折曲板状に形成され、この第三折曲面部5aと第四折曲面部5bとが略90°の角度をなして連設される平面視L字状の折曲板状に形成され、この第三折曲面部5aと第四折曲面部5bとの間に形成される鉛直方向に延びる折曲角部を前記横方向稜線部5cとした構成とされている。
【0040】
言い換えると、本実施例の横架材側変形部5は、一枚の方形状金属板材を折曲角が略90°となるように二つ折りして形成される平面視L字状の折曲板状体であり、この二つ折りした一面を第三折曲面部5a、他面を第四折曲面部5bとすると共に、この二つ折りにより形成された折り曲げ部を横方向稜線部5cとした構成とされている。なお、横架材側変形部5は、前述したような平面視L字状の折曲板状のほか、例えば、第三折曲面部5aと第四折曲面部5bとが鈍角若しくは鋭角をなして連設される平面視く字状や、さらに第三折曲面部5aと第四折曲面部5bとの幅寸法が異なる平面視へ字状の折曲板状に形成しても良い。
【0041】
すなわち、本実施例は、柱材固定部1と筋交い固定部3とを連設する柱材側変形部4を形成している第一折曲面部4a及び第二折曲面部4b並びにこの第一折曲面部4aと第二折曲面部4bとにより形成される縦方向稜線部4cと、横架材固定部2と筋交い固定部3とを連設する横架材側変形部5を形成している第三折曲面部5a及び第四折曲面部5b並びにこの第三折曲面部5aと第四折曲面部5bとにより形成される横方向稜線部5cとが、夫々、柱材固定部1、横架材固定部2及び筋交い固定部3の面外に配設される構成として、
図1に示すような取り付け状態において、筋交い32に軸方向の引張力が作用した際に、柱材側変形部4の第一折曲面部4a、第二折曲面部4b及び縦方向稜線部4c、並びに横架材側変形部5の第三折曲面部5a、第四折曲面部5b及び横方向稜線部5cが夫々面外変形して、筋交い32の動きに追従すると共に、筋交い固定部3に作用する面内張力を緩和し、過度な耐力上昇を抑制すると共に、筋交い固定部3の筋交い32との固定部分への応力の集中を緩和し、この応力集中による筋交い32の割裂や筋交い固定部3を筋交い32に固定している固定部材20の抜け出しの発生を抑制するように構成されている。
【0042】
また、本実施例は、柱材側変形部4及び縦方向稜線部5の夫々の上縁部及び下縁部のいずれか一方若しくは双方に切欠き部6が設けられていて、この切欠き部6により柱材側変形部4及び縦方向稜線部5が、より一層高い張力緩和作用を発揮し、終局時の顕著な耐力上昇を抑制するように構成されている。
【0043】
具体的には、本実施例は、柱材側変形部4の上縁部(外側縁部)と、縦方向稜線部5の外側縁部に夫々、切欠き部6が設けられ、この切欠き部6により揺れの終局時に生じる張力を一層緩和すると共に、この切欠き部6の形状(幅)や深さの変更により、本実施例自体の耐力及び剛性を適正値に調整することができるように構成されている。
【0044】
このように、本実施例は、柱材固定部1と筋交い固定部3とを縦方向稜線部4cを有し筋交い32に軸方向の引張力が作用した際に曲げ変形及びせん断変形の二種類の変形が生じる柱材側変形部4で連設すると共に、横架材固定部2と筋交い固定部3とを横方向稜線部5cを有し柱材側変形部4と同様に筋交い32に軸方向の引張力が作用した際に曲げ変形及びせん断変形の二種類の変形が生じる横架材側変形部5で連設し、さらに、この柱材側変形部4及び横架材側変形部5を、本実施例を柱材30、横架材31及び筋交い32に固定した際にこれらと接合固定される柱材固定部1、横架材固定部2及び筋交い固定部3の板面と異なる面上(非同一面)に配置されるように構成したから、良好な曲げ変形作用を発揮しながらも初期剛性が確保され、筋交い32を強固に補強し耐力壁構面外方向への過度な変形を抑制すると共に、筋交い32に軸方向の引張力が作用した際に柱材側変形部4及び横架材側変形部5が夫々良好に変形して、筋交い固定部3の筋交い32との固定部付近への応力集中を緩和し、この固定部付近における筋交い32の割裂やこの筋交い固定部3を筋交い32に固定するための固定部材20の抜け出しを抑制して、筋交い32の補強作用を保持しながら、繰り返し地震が作用した場合も十分な耐震性を保持することができる。
【0045】
さらに、本実施例は、線対称形状に形成されているから、正面視右上がり傾斜状態に設けられる筋交い32と、正面視右下がり傾斜状態に設けられる筋交い32との双方に区別なく使用することができ、右傾斜用、左傾斜用の二種類の補強金具を揃える必要がなく、また、使用の際も一々、右傾斜用、左傾斜用の確認する必要がないので、効率的に作業を行うことができるものとなる。
【0046】
しかも、本実施例は、柱材側変形部4及び横架材側変形部5の夫々に切欠き部6が設けられているから、この切欠き部6の効果により、切欠き部6が無い場合に比べてより高い張力緩和作用が発揮され、さらに、この切欠き部6の形状変更(切り欠き幅や切り欠き深さの変更)により適正な耐力や剛性に調整することができる極めて画期的な筋交い用補強金具となる。なお、
図1~3では筋交い固定部3中央に切欠き8を設け、固定部材20周辺のさらなる応力集中緩和の効果を狙ったものであるが、筋交い固定部3の中央の切欠き8が無い場合も十分な性能を発揮することができるため、筋交い固定部3の形状は本実施例の記載の限りではない。
【実施例2】
【0047】
本発明の具体的な実施例2について
図4に基づいて説明する。
【0048】
本実施例は、実施例1における柱材側変形部4及び横架材側変形部5を異なる構成とすると共に、柱材側変形部4及び横架材側変形部5に切欠き部6を設けない構成とした場合である。
【0049】
具体的には、本実施例の柱材側変形部4は、
図4に示すように、柱材固定部1の一側縁部から折曲突出形成される第一折曲面部4aが、上縁よりも下縁が長い直角台形状に形成され、この第一折曲面部4aに連設されると共に筋交い固定部3の一側縁部から折曲突出形成される第二折曲面部4bが第一折曲面部4aの傾斜辺部に沿って前下がり傾斜面に形成されて、この第一折曲面部4aと第二折曲面部4bとの境界部となる折曲角縁の縦方向稜線部4cが傾斜状態に形成されている。
【0050】
より具体的には、本実施例の柱材側変形部4は、前記縦方向稜線部4cが約10°の傾斜角で前下がり傾斜状態となるように形成されている。なお、前記縦方向稜線部4cの傾斜角度は、前下がり傾斜となるならば本実施例に記載の角度に限定されるものではなく、上記以外の傾斜角度としても問題ない。
【0051】
また、本実施例の横架材側変形部5は、
図4に示すように、前述した柱材側変形部4と同様の構成とされ、具体的には、横架材固定部2の一側縁部から折曲突出形成される第三折曲面部5aが、外側縁よりも内側縁が長い直角台形状に形成され、この第三折曲面部5aに連設されると共に筋交い固定部3の一側縁部から折曲突出形成される第四折曲面部5bが第三折曲面部5aの傾斜辺部に沿って外側に向かう下がり傾斜面に形成されて、この第三折曲面部5aと第四折曲面部5bとの境界部となる折曲角縁の横方向稜線部5cが傾斜状態に形成されている。
【0052】
より具体的には、本実施例の横架材側変形部5は、前記横方向稜線部5cが約10°の傾斜角で右下がり傾斜状態となるように形成されている。
【0053】
上記以外の構成は実施例1と同様である。
【0054】
このように構成される本実施例は、実施例1に比べて、より高い張力緩和作用を発揮することができる筋交い用補強金具となる。
【実施例3】
【0055】
本発明の具体的な実施例3について
図5,6に基づいて説明する。
【0056】
本実施例は、実施例1における横架材側変形部5を異なる構成とした場合である。
【0057】
具体的には、実施例1は、柱材側変形部4と横架材側変形部5とを同形状に形成し、約45°の軸線に対して線対称形状となるように構成されているが、本実施例は、横架材側変形部5が柱材側変形部4と非対称形状(異形状)に形成されている。
【0058】
より具体的には、本実施例の横架材側変形部5は、第三折曲面部5aを柱材側変形部4の第一折曲面部4aに比べて広大面に形成し、横方向稜線部5cが実施例1と比べて上方に配設されると共に、傾斜状態に形成されるように構成されており、本実施例においては、この横架材側変形部5は、横方向稜線部5cが約45°の右上がり傾斜状態となるように構成されている。
【0059】
上記以外の構成は実施例1と同様である。
【0060】
このように柱材側変形部4と横架材側変形部5とを異なる形状にした非対称形状とした場合でも、実施例1と同様の優れた張力緩和作用を発揮することができる筋交い用補強金具となる。
【0061】
また、横架材側変形部5を柱材側変形部4と異なる形状とすることで、横方向稜線部5cの角度や幅を変更して、耐力及び剛性を調整することが可能となる。
【実施例4】
【0062】
本発明の具体的な実施例4について
図7に基づいて説明する。
【0063】
本実施例は、実施例3における柱材側変形部4を異なる構成とした場合である。
【0064】
具体的には、本実施例の柱材側変形部4は、実施例2における柱材側変形部4と同様の構成とされている。
【0065】
すなわち、本実施例の柱材側変形部4は、柱材固定部1の一側縁部から折曲突出形成される第一折曲面部4aが、上縁よりも下縁が長い直角台形状に形成され、この第一折曲面部4aに連設されると共に筋交い固定部3の一側縁部から折曲突出形成される第二折曲面部4bが第一折曲面部4aの傾斜辺部に沿って前下がり傾斜面に形成されて、この第一折曲面部4aと第二折曲面部4bとの境界部となる折曲角縁の縦方向稜線部4cが傾斜状態に形成されている。
【0066】
より具体的には、本実施例の柱材側変形部4は、前記縦方向稜線部4cが約10°の傾斜角で前下がり傾斜状態となるように形成されている。
【0067】
上記以外の構成は、実施例3と同様である。
【0068】
このように構成される本実施例は、実施例3に比べて、さらに高い張力緩和作用を発揮することができる筋交い用補強金具となる。
【実施例5】
【0069】
本発明の具体的な実施例5について
図8,9に基づいて説明する。
【0070】
本実施例は、実施例3における横架材側変形部5を異なる構成とした場合である。
【0071】
具体的には、本実施例の横架材側変形部5は、横架材固定部2にこの横架材固定部2の横架材31との接合面側と反対側に向かって折曲状態に突設される第五折曲面部5dと、筋交い固定部3にこの筋交い固定部3の筋交い32との接合面側と反対側に向かって折曲状態に突設され第五折曲面部5dと連設される第六折曲面部5eと、この第五折曲面部5dと第六折曲面部5eとの連設部に形成される横方向稜線部5fとからなる構成とされている。
【0072】
すなわち、本実施例は、横架材側変形部5の
第六折曲面部
5eが柱材側変形部4の第二折曲面部4bと反対方向(180°反転した方向)に向けて折曲突出形成され、これにより、
図8,9に示すように、
第五折曲面部
5d、
第六折曲面部
5e、横方向稜線部
5f及び横架材固定部2が筋交い固定部3より後側に配設される構成とされている。
【0073】
上記以外の構成は実施例3と同様である。
【0074】
このように構成される本実施例は、
図8に示すように、重ねた状態で保管することが可能となり、例えば、輸送の際に場所をとらず、輸送効率が向上する実用的な筋交い用補強金具となる。
【0075】
尚、本発明は、実施例1~5に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0076】
1 柱材固定部
2 横架材固定部
3 筋交い固定部
4 柱材側変形部
4a 第一折曲面部
4b 第二折曲面部
4c 縦方向稜線部
5 横架材側変形部
5a 第三折曲面部
5b 第四折曲面部
5c 横方向稜線部
5d 第五折曲面部
5e 第六折曲面部
5f 横方向稜線部
6 切欠き部
10 補強金具
30 柱材
31 横架材
32 筋交い
L 分割線