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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】乗物用座席
(51)【国際特許分類】
   B60N 2/72 20060101AFI20231221BHJP
   B60N 2/68 20060101ALI20231221BHJP
   B60N 2/22 20060101ALI20231221BHJP
   A47C 7/28 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
B60N2/72
B60N2/68
B60N2/22
A47C7/28 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020050395
(22)【出願日】2020-03-22
(65)【公開番号】P2021146957
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】390021577
【氏名又は名称】東海旅客鉄道株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】309034490
【氏名又は名称】天龍工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096116
【弁理士】
【氏名又は名称】松原 等
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】菅沢 正浩
(72)【発明者】
【氏名】原 悠介
(72)【発明者】
【氏名】山辺 正樹
(72)【発明者】
【氏名】五藤 大季
【審査官】沼田 規好
(56)【参考文献】
【文献】実開平07-035166(JP,U)
【文献】特開2014-087557(JP,A)
【文献】特開2006-122309(JP,A)
【文献】特開2008-149859(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0189078(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/72
B60N 2/68
B60N 2/22
A47C 7/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
座席の幅方向寸法を規定する左右の座フレームと、左右の座フレームの後部間を接続する後部ビームパイプとを備え、
前記左右の座フレームのそれぞれの前端部にはコイルスプリングの一端を張架させるための第一の接続部材を備え、
前記座フレームの前後方向中心部近傍に背もたれフレームの回転中心が設けられ、
背もたれフレームは、後部ビームパイプ近傍に屈曲点を有し、
背もたれフレームは、前記屈曲点から前側は水平方向に延び、後側は上方向に延びる略L字型構造で構成され、
背もたれフレームの回転中心直上から前記屈曲点の水平方向をなす区間に、コイルスプリングの一端を係合させるための第二の接続部材を備え、
布状の長方形形状をなすクッション支持部材が、コイルスプリングのもう一方の端部に係合して、第一の接続部材及び第二の接続部材と接続され、
前記クッション支持部材上にクッションを積載することで座が構成され、
前記第一の接続部材は、背もたれフレームのリクライニング角度とは無関係に、位置が一定であり、
前記第二の接続部材は、背もたれフレームのリクライニング角度増加に伴い、後部が下方向に傾動し、
前記第二の接続部材に配されるコイルスプリングの最前の1本は、前記背もたれフレームの回転中心直上の前方もしくは後方20mm以内に配置されている
ことを特徴とする乗物用座席。
【請求項2】
背もたれフレームには布状の長方形形状をなす背もたれ支持部材がコイルスプリングを介して備えられ、前記背もたれ支持部材の下端部は、前記クッション支持部材と一体となるように固定されている請求項1記載の乗物用座席。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗物(バス、鉄道車輌、航空機、船舶等)用の座席に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道、バス、航空機などの乗物を用いる、多様な公共交通手段が運用されているが、これら公共交通手段のうち、長距離を移動する乗物に搭載される座席は、移動時間が長時間にわたり、車内で睡眠する要求も存在することから、快適に着座できること、場合によっては睡眠をとることも可能な程度の身体的自由度が必要となる。
【0003】
一方、長距離区間の移動時間を短縮するために、高速度で移動する航空機や高速鉄道なども運用されているが、この場合、乗車時間は長くても数時間の範囲に限定されるが、このような交通手段においても安全性を確保する目的から、乗客は常時着座状態であることが要求される。
【0004】
このように、長時間、あるいは高速度で移動する乗物では、乗車時間のほとんどを着座状態で過ごすことになるため、その乗物に搭載される座席には快適性が要求される。乗客が快適に着座するために、背もたれのリクライニングに連動して座面や肘掛け、フットレストなどが連動して可動する座席の搭載例は多数存在するが、リクライニングに連動する座面の沈み込みは座席の基本構成からの変更として実装可能なため、特に効果が高い。
【0005】
先行技術として、特許文献1のリクライニング動作を例にとって説明を行う。図8は該文献のリクライニング動作の概略を示すもので、リクライニング動作の要点となる背もたれ91、リンク92、座枠93、クッション94、フレーム95、前後のビームパイプ96A、96Bを抽出して図示するものである。(a)は、アップライト状態を、(b)はリクライニング状態を表している。
【0006】
背もたれ91のリクライニング動作に伴い、座枠93が連動して傾動し、その上に積載されたクッション94の傾きが変化することで、乗客にリクライニング時の快適性を提供することがこの座席のリクライニング動作の目的である。
【0007】
背もたれ91のリクライニング中心Pは、座面後端よりも前方に位置し、背もたれ91はL字型形状で構成され、屈曲点Qからリンク92を介し接続された座枠93の後端の点Rを押し下げる。座枠93は中心近傍のSに傾斜の回転動作軸を備え、Rが押し下げられた分、Sを中心に座枠93全体が傾斜する。この動作に対し、座枠93の前端部はSの回転に伴って上方に移動する。座枠93全体がチルトする動作によって、リクライニングに連動してクッション94の後端が沈み込む。
【0008】
この先行技術には、以下の問題点(1)、(2)、(3)、(4)が存在する。
(1)座枠93をチルトさせるために、座枠93の傾斜中心点Sを定める必要があり、この実施形態では座枠93の中央近傍を傾斜中心点Sとしているため、乗客の大腿部を持ち上げる方向に余分な力が必要となる。
(2)背もたれをリクライニングさせるために必要な力が、座枠93およびクッション9を持ち上げる力の分だけ余計に必要になり、ロックダンパー(図示せず)の容量がそれに耐えうる大きめのものが必要になる。
(3)座枠93、ならびにその上に積載されているクッション94の前端部が持ち上げられることから、クッション94の沈み込みに対する快適性の一方、リクライニング動作を行う際に、乗客は膝を持ち上げられる動作に対し違和感を覚える可能性がある。
(4)座枠93の傾動支点となる座標Sが受ける力が大きくなり、回転中心近傍を補強するか、他の構造物に力を逃す必要がある。このため、前部ビームパイプ96Aが座標Sの近傍に配置される構成となり、鉄道用座席として必要となる座席の回転機構搭載や座面下に十分なスペースの確保等様々な要因で薄型化が困難になる。
【0009】
以上の結果として、この座席におけるリクライニング機構は重くなる傾向があり、軽量化が追求される乗物用座席としてはこの特許よりも簡略化された機構が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4570121号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術による座席は、座枠を独立して有していること、リクライニングに連動して傾きを実現するためのリンク機構が必要となることから、可動部品点数が多くなる、また座枠全体を傾動させることからリクライニング動作に必要な力が大きなものとなり、ロックダンパーなどリクライニングに必要な部品も大型のものが必要となる。したがって、リクライニングに連動する座面沈み込み機構を実現するために、座席は重くなる。
また、リクライニング動作を行う際に、クッションの前端部が持ち上げられることから、乗客は膝を持ち上げられて違和感を覚える可能性がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
先行技術文献で取り上げたリクライニング機構は座席重量の増加を伴うものであるため、本発明者らは、軽量化、簡略化を実現するために、以下のような事項を検討した。
(1)背もたれの回転中心を、座面の中心近傍に配置する。
(2)座面全体を動かすのではなく、クッション支持部材が下方向に引っ張られるような動作によって、座面が沈み込む。
(3)クッション支持部材と背もたれ支持部材を縫合などの手段で連結し、うける重量負荷を分散させる。
本発明は、これらの事項を実現するためにさらに検討を重ねてなされたものであり、以下のような構成をとる。
【0013】
座席の幅方向寸法を規定する左右の座フレームと、左右の座フレームの後部間を接続する後部ビームパイプとを備え、
前記左右の座フレームのそれぞれの前端部にはコイルスプリングの一端を張架させるための第一の接続部材を備え、
前記座フレームの前後方向中心部近傍に背もたれフレームの回転中心が設けられ、
背もたれフレームは、後部ビームパイプ近傍に屈曲点を有し、
背もたれフレームは、前記屈曲点から前側は水平方向に延び、後側は上方向に延びる略L字型構造で構成され、
背もたれフレームの回転中心直上から前記屈曲点の水平方向をなす区間に、コイルスプリングの一端を係合させるための第二の接続部材を備え、
布状の長方形形状をなすクッション支持部材が、コイルスプリングのもう一方の端部に係合して、第一の接続部材及び第二の接続部材と接続され、
前記クッション支持部材上にクッションを積載することで座が構成され、
前記第一の接続部材は、背もたれフレームのリクライニング角度とは無関係に、位置が一定であり、
前記第二の接続部材は、背もたれフレームのリクライニング角度増加に伴い、後部が下方向に傾動する
ことを特徴とする乗物用座席。
【0014】
このように、背もたれのフレームを、L字型形状をなす水平方向延長部と、垂直方向に延びる背もたれとして機能する部分との連続構成とすることにより背もたれのリクライニング回転中心を、座フレーム前後方向のほぼ中央に位置させ、事項(1)を実現している。
さらに、座フレーム前端部に固定される第一の接続部材と、背もたれのフレームの水平方向延長部に固定される第二の接続部材を配置し、それぞれにコイルスプリングを介してクッション支持部材を張架する構成を有することで、リクライニング動作に連動して、第二の接続部材が背もたれフレームの水平方向延長部の下方への旋回動作に連動し、第二の接続部材に張架されたコイルスプリングの後方に位置するものが下方に移動する。
一方、第一の接続部材は座フレームに固定されているため、第一の接続部材に張架されたコイルスプリングの位置は変化しない。
その結果、クッション支持部材前端部は位置固定のまま、リクライニング角度が増加するのに合わせて、クッション支持部材は、全体的に後ろが沈み込む方向に傾く。
クッション支持部材に積載されるクッション前端部は上下に移動しない一方、後端部に沈み込む動作が背もたれのリクライニング動作と連動して起こり、事項(2)が実現される。
この構成では、先行文献に示すような座枠を有する座席のように座面前端部が持ち上がる動作は起こらない。そのため、リクライニング動作を行う際、乗客は先行文献のような膝が持ち上げられる違和感を感じないというメリットが存在する。
【0015】
本発明において、背もたれフレームには布状の長方形形状をなす背もたれ支持部材がコイルスプリングを介して備えられ、前記背もたれ支持部材の下端部は、前記クッション支持部材と一体となるように(縫合などの手段を用いて)固定されていることが好ましい。
その作用効果として、背もたれ支持部材とクッション支持部材を連結することで着座時に乗客の腰椎近傍で接する体重を、クッションの下部に存在するクッション支持部材に分散させる効果を有することから、事項(3)が実現される。
また、リクライニング動作に伴って背もたれは下方向に移動することから、クッション支持部材と背もたれ支持部材の張力は緩む方向に変化する。乗客が着席することで受ける体重はクッション、背もたれに適度に分散され、リクライニング角度が大きくなくても座面の沈み込み効果と合わせて、背もたれ支持部材が受ける張力が軽減されるため、背もたれ支持部材が、乗客の着座によって伸縮する量が、アップライト状態よりも大きくなり、腰椎や背中を包み込むような着座状態が実現する。
【0016】
また、本発明において、第二の接続部材に配されるコイルスプリングの最前の1本は、前記背もたれフレームの回転中心直上の前方もしくは後方20mm以内に配置されることが好ましい。
理想的には回転中心直上もしくは、後方にコイルスプリングを配置するのが、リクライニング動作に連動してコイルスプリングの上方移動が発生しないため都合がよい。
前後方向の負荷分散のため、コイルスプリングの配置位置が回転中心よりも前方になる場合においては、該当するコイルスプリングの持ち上がりをなるべく小さくする必要がある。
回転中心よりも20mm前方の範囲であれば、持ち上がりも5mm未満となることから、クッション支持部材の高さの変動抑制に関し、クッション支持部材と背もたれ部の第二の接続部材を張架するコイルスプリングの伸びが所定の範囲で収まる。位置変動が大きくないことから、第一の接続部材、第二の接続部材それぞれに張架するコイルスプリングの特性を一種類のもので揃えることが可能である。
【0017】
以上の構成において、事項(1)~(3)が実現されるが、本発明で用いる構成としては全体に傾動する座枠を備えないため、軽量化を実現しつつ快適性を実現する。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の乗物用座席によれば、座席の軽量化を実現することができるとともに、リクライニング動作の際に乗客の膝が持ち上がらないため違和感がない。さらに、リクライニング動作に際のコイルスプリングの上方移動が発生しない又は僅かになる。
請求項2の乗物用座席によれば、さらに、着座時に乗客の腰椎近傍で接する体重をクッション支持部材に分散させることができ、また、腰椎や背中を包み込むような着座状態が実現する。

【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、二人掛け座席の概略を表す斜視図である。
図2図2は、クッション及び背もたれ部の内部構造を表す斜視図である。
図3図3は、リクライニング機構を構成する部品を示す斜視図である。
図4図4は、アップライト状態およびリクライニング状態の座面の拡大斜視図である。
図5図5は、アップライト状態およびリクライニング状態それぞれの側面図である。
図6図6は、アップライト状態およびリクライニング状態それぞれのコイルスプリング位置を示す側面図である。
図7図7は、回転中心より前方にあるコイルスプリングの突出量シミュレーションの図である。
図8図8は、従来の座枠を有するリクライニング連動座面チルト座席の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
座席の幅方向寸法を規定する左右の座フレームと、左右の座フレームの後部間を接続する後部ビームパイプとを備える。前記左右の座フレームのそれぞれの前端部にはコイルスプリングの一端を張架させるための第一の接続部材を備える。前記座フレームの前後方向中心部近傍に背もたれフレームの回転中心が設けられる。
背もたれフレームは、後部ビームパイプ近傍に屈曲点を有し、背もたれフレームは、前記屈曲点から前側は水平方向に延び、後側は上方向に延びる略L字型構造で構成される。
背もたれフレームの回転中心直上から前記屈曲点の水平方向をなす区間に、コイルスプリングの一端を係合させるための第二の接続部材を備え、布状の長方形形状をなすクッション支持部材が、コイルスプリングのもう一方の端部に係合して、第一の接続部材及び第二の接続部材と接続され、前記クッション支持部材上にクッションを積載することで座が構成される。
前記第一の接続部材は、背もたれフレームのリクライニング角度とは無関係に、位置が一定であり、前記第二の接続部材は、背もたれフレームのリクライニング角度増加に伴い、後部が下方向に傾動する。
【実施例
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施例の車両用座席について説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で各部の構成や形状を任意に変更して実施することもできる。
【0022】
本実施例の乗物用座席1は、図1に全体の外観を示すように、座2と、背もたれ10とを備え、中央部に配置された肘掛け4で各員の乗物用座席1が区切られた二人掛け構造を基本とする。
【0023】
図2は、一方の乗物用座席1から、クッション3、表皮材11を取り除き、内部構造を示したものである。
【0024】
座面の下部には座フレーム5が存在し、コイルスプリング7を介して布状の長方形形状をなすクッション支持部材6が備えられる。
クッション支持部材6の左右両端および前端部にはワイヤーが内蔵されておりその形状が維持される。また、このワイヤーはコイルスプリング7の一端を張架するために用いられる。クッション支持部材6の表面は伸縮性のある布状の部材で構成されているが、コイルスプリング7と合わせて床面から伝わる振動を除去する機能が主であり、乗客が着座することによる伸縮はほとんど発生しないものとする。
【0025】
また、背もたれ10は、背もたれフレーム15に、布状の長方形形状をなす背もたれ支持部材12がコイルスプリング14を介して備えられる。背もたれ10の上部を示す、上部補強構造20の前方に、頭部保護部材40がコイルスプリング51を介して備えられる。頭部保護部材40、背もたれ支持部材12が、表皮材11を介して乗客の頭部および背中を支える構造となっている。
クッション支持部材6と同様に、背もたれ支持部材12の左右両端及び上端部にはワイヤーが内蔵されており、形状の維持及びコイルスプリング14の一端を張架するために用いられる。
【0026】
図3では、図2からさらに頭部保護部材40、背もたれ支持部材12、クッション支持部材6を取り除いてリクライニング動作に関わる構造を示すものである。
【0027】
座フレーム5は、座席の幅方向寸法を規定する左右の座フレーム5A、5Bを備えている。左右の座フレーム5A、5Bの前部間は前部ビームパイプ8で接続され、後部間は後部ビームパイプ9で接続されている。
【0028】
背もたれフレーム15は、左右の背もたれフレーム15A、15Bを備えている。左右の背もたれフレーム15A、15Bは、後部ビームパイプ9近傍に屈曲点を有し、屈曲点から前側は水平方向に延び、後側は上方向に延びる略L字型構造で構成されている。そして、背もたれフレーム5の回転中心Cは、座フレーム5の前後方向中心部近傍に設けられ、背もたれフレーム15A、15Bの前記水平方向をなす区間の前部付近が、回転中心Cにおいて座フレーム5A、5Bに回転可能に軸着されている。
【0029】
また、左右の背もたれフレーム15A、15Bの前記上方向に延びる部分により、背もたれ15の縦方向の構造が規定されている。背もたれフレーム15A,15Bを横方向に連結する第一補強部材16、第二補強部材17、上部補強構造20によって背もたれ10の構造が形成されている。
【0030】
左右の座フレーム5A、5Bの前端付近に、第一の接続部材34A、34Bが左右それぞれに設けられている。
また、背もたれフレーム15A、15Bの回転中心C直上から前記屈曲点の水平方向をなす区間に、第二の接続部材35A、35Bが左右それぞれに設けられている。
第一の接続部材34A、34B、第二の接続部材35A、35Bに備えられるスリットは、コイルスプリング7の一端を係合して張架するために設けられており、コイルスプリング7の反対側の端部は、クッション支持部材6の側部に設けられたワイヤーに係合される。
【0031】
コイルスプリング7は、第一の接続部材34A、34Bの前部のスリットに係合したコイルスプリング7a及び後部のスリットに係合したコイルスプリング7bと、第二の接続部材35A、35Bの前部のスリットに係合したコイルスプリング7c及び後部のスリットに係合したコイルスプリング7dとからなる。コイルスプリング7cは、背もたれの回転中心Cよりも前方20mm以内に配置されている。コイルスプリング7dは、背もたれの回転中心Cよりも70~140mm後方に配置されている。
【0032】
図4は、リクライニング動作に伴う座面の沈み込み動作を示しており、クッション3が積載されるクッション支持部材6の傾きが、リクライニング動作に連動して起こることを示すものである。
【0033】
(a)アップライト状態において、左右の座フレーム5A、5Bに固定された第一の接続部材34A、34B、および、背もたれフレーム15A、15Bに固定された第二の接続部材35A、35Bの高さは一定であり、第一の接続部材34A、34Bとクッション支持部材6の間に接続されるコイルスプリング7a、7b、第二の接続部材35A、35Bとクッション支持部材6の間に接続されるコイルスプリング7c、7dは一定の高さに並ぶ。
このとき、クッション支持部材6は水平であり、クッション3についても初期状態として堆積される。
【0034】
(b)リクライニング状態では、背もたれの回転中心Cを中心座標として背もたれフレーム15A、15Bが後方に傾動し、第二の接続部材35A、35Bは背もたれの角度と連動して後方が低くなる状態に傾く。その結果、位置がアップライト状態と変動しない第一の接続部材34A、34Bは位置が保持され、コイルスプリング7a、7bの高さも変化しない。一方、第二の接続部材35A、35Bに張架されるコイルスプリング7c、7dは、回転中心Cより前方に配置された7cは上方に僅かに持ちあがり、後方に配置された7dは下方に沈み込む。
その結果、クッション支持部材6は先端部を回転中心として、背もたれが存在する後方に向かって下方向に傾く状態となり、この上に積載されるクッション3がリクライニングと連動して沈み込む状態となる。
【0035】
図5では側面図によりアップライト状態、リクライニング状態での状態変化を示すものであり、座フレーム5A、背もたれフレーム15Aおよび関連する部品を右側面図として示したものである。図4で説明したように、第一の接続部材34A、第二の接続部材35Aの高さは同一位置にあり、クッション3は水平に積載される。
【0036】
背もたれの回転中心C、および背もたれ表面の、任意の位置をAと定義し、背もたれフレーム15Aの下端部をBとして三角形ABCを仮想的に形成すると、(a)アップライト状態から(b)リクライニング状態に移行する際、三角形ABCはその形状を保ったまま、回転中心Cを中心として旋回する。
【0037】
(b)リクライニング状態においては、背もたれフレーム15Aが回転中心Cを中心として後方に傾動することから、第二の接続部材35Aの上面部は、後方に傾いた状態に変化する。この際、回転中心Cよりも後ろ側に配置されるコイルスプリング7dの位置が下がることは、仮想的に図示された三角形ABCの、辺BCの傾きが(a)アップライト状態の時よりも(b)リクライニング状態の時の方が低い位置に示されることからも明らかである。
【0038】
図6は、(a)アップライト状態、(b)リクライニング状態それぞれのコイルスプリングの高さを模式的に示したものである。(a)アップライト状態においては第一の接続部材34Aに張架されるコイルスプリング7aおよび7b、第二の接続部材35Aに張架されるコイルスプリング7cおよび7dの高さは一定であり、これによってもたらされるクッション支持部材6は水平状態となり、その上に積載されるクッション3は水平である。
【0039】
(b)リクライニング状態では、第一の接続部材34Aに張架されるコイルスプリング7aおよび7bの位置は一定であるが、第二の接続部材35Aが、後方が低くなる方向に回転傾動するため、回転中心Cよりも前方に位置するコイルスプリング7cは上方向に持ち上がり、後方に位置するコイルスプリング7dは下方向に移動する。全体としてはコイルスプリング7cおよび7dの伸びによりクッション支持部材6は後方が沈み込む方向に傾き、その上に積載されるクッション3は後方が沈み込む状態となる。
【0040】
第二の接続部材35Aに張架されるコイルスプリング7cは背もたれの回転中心Cよりも前方に配置されるものに関してはリクライニングに伴い上方向に持ち上がるが、その変動量を評価したものが図7である。
【0041】
回転中心Cから第二の接続部材35Aの表面までの垂直方向距離をdと定義し、そこから前方にオフセット距離sだけ離れた位置にある座標Aに、コイルスプリング7cを設置するものとする。背もたれフレーム15Aが角度θだけ回転することで、座標AからA′へと、距離一定を保ったまま回転する。その際の高さの変動量をtと定義する。
【0042】
垂直方向距離dがオフセット距離sに比べて十分大きく、リクライニング最大角度よりも小さい角度でtが最大値を示す場合においては、最終的には座標Aはtの最大値を経過して、場合によっては初期状態よりも低い位置に到達することがある。
【0043】
垂直方向距離dとオフセット距離sの比率がそれほど大きくない場合には、リクライニング最大角度でtは最大値をとり、アップライト状態から常に増加する状態となる。リクライニング最大角度は一定であるから、オフセット距離sの増加に対し、近似的に比例増加する。
【0044】
図7のグラフは、リクライニング最大角度15°、垂直方向距離dを30mm、40mm、50mm、60mmにした場合の、オフセット距離sに対するtの最大値をプロットした結果を示しており、d=40mmの場合ではリクライニング最大角度15°が、回転中心Cの垂直方向と一致するオフセット距離s=10.72mmであり、この時のtは1.41mmとなる。以降、オフセット距離sを増加させていった時、s=20mmでもtの値は4mm未満であることから、回転中心Cまでの距離dに比べて小さい値の範囲にある場合においてはそれほど影響のある変動とはならない。もちろん、s=0として回転中心の直上にあれば、当該位置のコイルスプリング7は高さが変動しないので理想的ではある。
【0045】
ここではオフセット距離sが20mmの値を許容範囲として、その時のtの最大値が4mm未満であることから、前後20mmを特に回転中心Cの前方にある場合の許容範囲とする。
【0046】
また、リクライニング動作に伴い第二の接続部材35Aに張架されるコイルスプリング7dは、回転中心Cよりも例えば100mm後方に位置する。この条件において、図7の条件と同様にリクライニング最大角度は15°であるから、コイルスプリング7dの位置はアップライト状態と比較して25mm低くなる。
【符号の説明】
【0047】
1 乗物用座席
2 座
3 クッション
4 肘掛け
5 座フレーム
6 クッション支持部材
7 コイルスプリング
7a,7b,7c,7d コイルスプリング
8 前部ビームパイプ
9 後部ビームパイプ
10 背もたれ
11 表皮材
12 背もたれ支持部材
14 コイルスプリング
15 背もたれフレーム
15A 背もたれフレーム 右側
15B 背もたれフレーム 左側
16 第一補強部材
17 第二補強部材
20 上部補強構造
34A,34B 第一の接続部材
35A,35B 第二の接続部材
40 頭部保護部材
51 コイルスプリング
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8