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特許7406767光ファイバケーブルセンシングシステム、光ファイバケーブルセンシング方法、及び光ファイバケーブル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】光ファイバケーブルセンシングシステム、光ファイバケーブルセンシング方法、及び光ファイバケーブル
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/353 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
G01D5/353 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020123617
(22)【出願日】2020-07-20
(65)【公開番号】P2022020231
(43)【公開日】2022-02-01
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】飯田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】村山 英晶
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-102691(JP,A)
【文献】特開2007-187578(JP,A)
【文献】国際公開第2019/235152(WO,A1)
【文献】特開2017-199001(JP,A)
【文献】国際公開第2020/116032(WO,A1)
【文献】特開2016-102689(JP,A)
【文献】特開2016-102690(JP,A)
【文献】特開2012-42389(JP,A)
【文献】特開2009-68877(JP,A)
【文献】特開平3-157605(JP,A)
【文献】国際公開第2020/027223(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/083989(WO,A1)
【文献】特開平7-49221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/26-5/38
G01B 11/16
G01M 11/00-11/02
G01J 9/00
G02B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
M本(Mは3以上の整数)のシングルモード光ファイバを格納し、前記シングルモード光ファイバの撚りピッチがAである光ファイバケーブルと、
前記シングルモード光ファイバの一端側に接続され、前記シングルモード光ファイバのうち、任意のN本(NはM未満の整数)のシングルモード光ファイバの前記一端に試験光を入射し、前記N本のシングルモード光ファイバの前記一端に戻ってくる散乱光から前記N本のシングルモード光ファイバ毎に曲げを表す物理量の長手方向分布を測定する測定器と、
を備え、
前記撚りピッチAは、
A>Δz
を満たし、かつ前記光ファイバケーブルの敷設時に付与される曲げ及びねじれの長さより長いことを特徴とする光ファイバケーブルセンシングシステム。
ただし、Δzは前記測定器の距離分解能である。
【請求項2】
前記測定器は、前記物理量として歪み量、曲げ損失、又は偏波変動を測定することを特徴とする請求項1に記載の光ファイバケーブルセンシングシステム。
【請求項3】
光ファイバケーブルにM本(Mは3以上の整数)のシングルモード光ファイバを
A>Δz
を満たし、かつ前記光ファイバケーブルの敷設時に付与される曲げ及びねじれの長さより長い撚りピッチAで格納すること、
前記シングルモード光ファイバの一端側に測定器を接続すること、
前記測定器から、前記シングルモード光ファイバのうち、任意のN本(NはM未満の整数)のシングルモード光ファイバの前記一端に試験光を入射すること、及び
前記N本のシングルモード光ファイバの前記一端に戻ってくる散乱光から前記N本のシングルモード光ファイバ毎に曲げを表す物理量の長手方向分布を前記測定器で測定すること、
を特徴とする光ファイバケーブルセンシング方法。
ただしΔzは前記測定器の距離分解能ある。
【請求項4】
M本(Mは3以上の整数)のシングルモード光ファイバを格納した光ファイバケーブルであって、前記シングルモード光ファイバの撚りピッチAが
A>Δz
を満たし、かつ当該光ファイバケーブルの敷設時に付与される曲げ及びねじれの長さより長いことを特徴とする光ファイバケーブル。
ただし、Δzは、前記シングルモード光ファイバの一端側に接続され、前記シングルモード光ファイバのうち、任意のN本(NはM未満の整数)のシングルモード光ファイバの前記一端に試験光を入射し、前記N本のシングルモード光ファイバの前記一端に戻ってくる散乱光から前記N本のシングルモード光ファイバ毎に曲げを表す物理量の長手方向分布を測定する測定器の距離分解能である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、敷設された光ファイバケーブルの位置を推定する光ファイバケーブルセンシングシステム、光ファイバケーブルセンシング方法、及び当該光ファイバケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
敷設された光ファイバケーブルは3次元空間の曲線の軌跡として表現することができる。3次元空間の曲線の軌跡は、曲率κと捩率τを取得し、フレネ・セレの公式を利用して解析することができる。ここで、曲率κとは、曲線がどの方向にどれくらい曲がっているかを表現する値である。捩率τとは、曲がり方向の基準となる初期座標(地球の天地を基準とした絶対座標)に対してどれくらい回転しているかを表現する値である。なお、「絶対座標」とは、例えば、地球を球としたときの任意接面に平行な平面を直交するx軸とz軸で表現し、当該xz平面の垂線をy軸で表現した座標である。
【0003】
曲線の任意位置で取得した曲率κと捩率τをフレネ・セレの公式に代入することで任意位置での位置ベクトルT(s)を取得でき、位置ベクトルT(s)を積分することで曲線の軌跡ベクトルr(s)を得ることができる。
【0004】
図1は、光ファイバケーブルの位置を推定する方法を説明するイメージである。図1のように、「捻れによる回転Ω」と「曲がりによる方向ベクトルr」がわかれば、光ファイバケーブルケーブルの位置を推定することができる。ここで、「捻れによる回転Ω」とは、初期位置rに対してz軸(光ファイバケーブルの中心軸方向)を中心にΩ回転することを意味する。「曲がりによる方向ベクトルr」は前記軌跡ベクトルr(s)である。また、図1のr(jは0以上の整数)は光ファイバケーブルの長手方向の位置、Lは光ファイバケーブルの区間を意味する。x’軸とy’軸は光ファイバケーブルケーブルの基準軸であり、絶対座標のx軸とy軸に対してΩ回転している。
【0005】
このように曲線軌跡を解析する場合、FBG(Fiber Bragg Grating)が付与されたマルチコア光ファイバを用いて曲率κと捩率τを算出する手法が知られている(例えば、非特許文献1及び2を参照。)。FBGによりファイバ曲げによって反射光の波長が変わる(ブラッグ波長がシフトする)ので、OFDR(Optical Frequency Domain Reflectometry)で各コアの長手方向の歪み分布を測定する。そして、同一地点における各コアの歪みから得られる断面方向の歪み分布に基づいて曲率κと捩率τを算出する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】“Shape sensing using multi-core fiber optic cable and parametric curve solution”, Optics Express, Vol.20, No.3, pp.2967-2973
【文献】“Bend measurement using Bragg gratings in multicore fiber”, Electronics letters, vol.36, no.2, pp.120-121
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
FBGを付与したマルチコア光ファイバをセンサー媒体として使用する従来の手法には次のような課題がある。
まず、FBGを付与したマルチコア光ファイバは特殊な構造のため長尺化が難しく、且つ光損失が大きいため、従来の手法は長距離の曲線軌跡を解析することが困難である。
さらに、歪みに対する感度を向上させるためには、FBGを付与したマルチコア光ファイバのコアピッチを大きくする必要があるが、機械的強度や伝送特性担保の観点から、コアピッチを大きくすることが難しい。現状ではコアピッチが数十μmに限定される。つまり、従来の手法は測定精度の向上が困難である。
また、測定手段であるOFDRは測定距離が短く(数十m~数百m)、長距離を測定することが困難である。
【0008】
一方、敷設された光ファイバケーブルはマルチコア光ファイバではなく、汎用的なシングルモード光ファイバで構成されている。このため、上述したようなマルチコア光ファイバを用いた曲線軌跡解析を行うことが困難であるという課題もある。
【0009】
そこで、本発明は、前記課題を解決するために、汎用的なシングルモード光ファイバで構成されている光ファイバケーブルで曲線軌跡解析を行うことができる光ファイバケーブルセンシングシステム、光ファイバケーブルセンシング方法、及びその光ファイバケーブルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る光ファイバケーブルセンシングシステムは、センシングケーブルである光ファイバケーブルの撚りピッチの範囲を限定することとした。
【0011】
具体的には、本発明に係る光ファイバケーブルセンシングシステムは、
M本(Mは3以上の整数)のシングルモード光ファイバを格納し、前記シングルモード光ファイバの撚りピッチがAである光ファイバケーブルと、
前記シングルモード光ファイバのうち、任意のN本(NはM未満の整数)のシングルモード光ファイバに試験光を入射し、前記N本のシングルモード光ファイバ毎に曲げを表す物理量の長手方向分布を測定する測定器と、
を備え、
A>Δz
を満たすことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る光ファイバケーブルセンシング方法は、
光ファイバケーブルにM本(Mは3以上の整数)のシングルモード光ファイバを撚りピッチAで格納すること、
前記シングルモード光ファイバのうち、任意のN本(NはM未満の整数)のシングルモード光ファイバに試験光を入射すること、及び
前記N本のシングルモード光ファイバ毎に曲げを表す物理量の長手方向分布を測定器で測定すること、
を特徴とする。
ただし、A>Δz(Δzは前記測定器の距離分解能)である。
【0013】
さらに、本発明に係る光ファイバケーブルは、M本(Mは3以上の整数)のシングルモード光ファイバを格納し、前記シングルモード光ファイバの撚りピッチAが
A>Δz
を満たすことを特徴とする。
ただし、Δzは前記シングルモード光ファイバのうち、任意のN本(NはM未満の整数)のシングルモード光ファイバに試験光を入射し、前記N本のシングルモード光ファイバ毎に曲げを表す物理量の長手方向分布を測定する測定器の距離分解能である。
【0014】
光ファイバケーブルの撚りピッチAを上述の範囲とすることで、距離分解能が低い(測定間隔が長い)測定器を用いてもシングルモード光ファイバの撚りピッチと小さな歪を長距離にわたって測定することができる。従って、本発明は、汎用的なシングルモード光ファイバで構成されている光ファイバケーブルで曲線軌跡解析を行うことができる光ファイバケーブルセンシングシステム、光ファイバケーブルセンシング方法、及びその光ファイバケーブルを提供することができる。
【0015】
本発明に係る光ファイバケーブルセンシングシステムの前記測定器の距離分解能Δzが前記撚りピッチAに略等しいことを特徴とする。前記測定器の測定限界Δεを超える物理量εを測定することができる。
【0016】
本発明に係る光ファイバケーブルセンシングシステムの前記測定器は、前記物理量として歪み量、曲げ損失、又は偏波変動を測定することを特徴とする。
例えば、OFDRを測定器とすれば歪み量を測定できる。2モード領域となる波長1μm帯の光を利用し、高次モードの散乱光を観測することで高感度な測定を行う1μ-OTDRを測定器とすれば曲げ損失を測定できる。偏波状態ごとに測定を行うP-OTDRを測定器とすれば偏波変動を測定できる。
【0017】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、汎用的なシングルモード光ファイバで構成されている光ファイバケーブルで曲線軌跡解析を行うことができる光ファイバケーブルセンシングシステム、光ファイバケーブルセンシング方法、及びその光ファイバケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】光ファイバケーブルの位置を推定する方法を説明するイメージである。
図2】本発明に係る光ファイバケーブルセンシングシステムを説明する図である。
図3】本発明に係る光ファイバケーブルセンシングシステムを用いて光ファイバケーブルが有するシングルモード光ファイバの1つを測定している図である。
図4】本発明に係る光ファイバケーブルセンシングシステムが測定するシングルモード光ファイバの光ファイバケーブル断面内の位置を説明する図である。
図5】本発明に係る光ファイバケーブルセンシングシステムが算出したケーブル断面歪み分布の一例である。
図6】「曲げ軸」の定義を説明する図である。
図7】本発明に係る光ファイバケーブルセンシングシステムが行う演算を説明する図である。
図8】本発明に係る光ファイバケーブルセンシング方法を説明するフローチャートである。
図9】本発明に係る光ファイバケーブルセンシングシステムを説明する図である。
図10】本発明に係る光ファイバケーブルを説明する図である。
図11】本発明に係る光ファイバケーブルセンシング方法を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0021】
(実施形態1)
本発明の光ファイバケーブルセンシングシステムは、撚りピッチが限定された被測定光ファイバケーブルに格納された各シングルモード光ファイバについて測定された歪み(曲げ損や偏波変動でもよい)の長手方向分布のデータと測定対象とした各光ファイバのケーブル断面上の位置を示すデータとを入力する手段と、同一地点における各光ファイバの歪み(曲げ損や偏波変動でもよい)と当該光ファイバのケーブル断面上の位置とに基づいて当該地点における被測定光ファイバケーブルの曲率ベクトルκを数1を用いて算出する手段と、算出された曲率ベクトルκから当該地点における被測定光ファイバケーブルの捩率τを数2を用いて算出する手段とを備える。
【0022】
図2は、本実施形態の光ファイバケーブルセンシングシステム301を説明する図である。また、図3は、光ファイバケーブルセンシング装置10を用いて光ファイバケーブル20が有するシングルモード光ファイバの1つを測定している図である。光ファイバケーブル20はテープスロット型であり、スロット21の溝22に4芯の光ファイバテープ心線23が5セット挿入されている。光ファイバテープ心線23は4本のシングルモード光ファイバ24を4本並列させている。なお、本実施形態では、テープスロット型の光ファイバケーブル20で説明するが、光ファイバケーブルセンシング装置10が測定できる光ファイバケーブルはテープスロット型に限らない。
なお、シングルモード光ファイバとは、試験光の波長において光がシングルモードで伝搬する光ファイバという意味である。
【0023】
光ファイバケーブルセンシング装置10は、
光ファイバケーブル20に格納されたM本(Mは3以上の整数)のシングルモード光ファイバ24のうち、任意のN本(NはM未満の整数)のシングルモード光ファイバ24に試験光を入射し、N本のシングルモード光ファイバ24毎に曲げを表す物理量の長手方向分布を測定する測定器11と、
光ファイバケーブル20の長手方向の任意地点において、光ファイバケーブル20の断面におけるN本のシングルモード光ファイバ24のそれぞれの位置及び前記物理量から、光ファイバケーブル20の前記任意地点の曲率κを数1で算出し、光ファイバケーブル20の前記任意地点の捩率τを数2で算出する演算器12と、
を備える。
図3の例では、M=160である。
また、数1と数2については後述する。
【0024】
光ファイバケーブルセンシング装置10は、全てのシングルモード光ファイバ24を測定しなくてよい。図4は、光ファイバケーブルセンシング装置10が測定するシングルモード光ファイバ24の位置を説明する図である。光ファイバケーブルセンシング装置10は、溝22毎に最外周にある4本のシングルモード光ファイバ24と最内周にある4本のシングルモード光ファイバ24を測定する。つまり、図4の例では、N=64である。なお、図4図5に記載されるx軸とy軸は光ファイバケーブル20の中心軸をx=0、y=0として記載している。
【0025】
測定器11は、前記物理量として歪み量、曲げ損失、又は偏波変動を測定することを特徴とする。以下の説明では、前記物理量として歪み量を測定する場合を説明するが、他の物理量を測定しても同様に曲率κと捩率τを計算できる。測定器11は、光ファイバケーブル20内の各シングルモード光ファイバ24に対して、長手方向の歪み分布を測定する手段で位置zにおける歪み量を測定する。当該手段として、OFDRやB-OFDR(ブリルアン散乱光を観測することで歪み分布を測定するOFDR)が挙げられる。なお、当該手段としてB-OTDR(ブリルアン散乱光を観測することで歪み分布を測定するOTDR)を用いれば上記のOFDRに比べて長距離の測定が可能となる。
【0026】
演算器12は、光ファイバケーブル20の任意位置zにおける各シングルモード光ファイバ24の歪み量を3次元空間座標上(ケーブルの中心位置が座標0に相当)にマッピングし、ケーブル断面歪み分布を算出する。図5は、ケーブル断面歪み分布の一例である。図5の例では、第1象限のシングルモード光ファイバ24が縮み、第3象限のシングルモード光ファイバ24が伸びていることが読み取れる。ここから、光ファイバケーブル20は任意位置zにおいてx軸正側及びy軸正側に曲がっていることが予測される。
【0027】
ここで、「曲げ軸」の定義を図6に示す。「曲げ軸」とは、“neutral axis”であって、任意位置zでの光ファイバケーブル20の中心軸に接する接線の接点における、曲率半径Rを持つ円の中心Ceを垂直に通る直線Axと平行であり、任意位置zにおける光ファイバケーブル20の中心Oを通る直線Nxである。
【0028】
演算器12は、図5のケーブル断面歪分布からシングルモード光ファイバの位置毎に歪量を取り出し、図7のように数1を利用して曲率κを計算し、数2を利用して捩率τを計算する。
【数1】
【数2】
ただし、
i:シングルモード光ファイバの番号
ε:シングルモード光ファイバのうちi番目のシングルモード光ファイバの任意地点zにおける物理量
:断面におけるi番目のシングルモード光ファイバと前記曲げ軸との距離
θ:断面におけるi番目のシングルモード光ファイバのx軸に対する角度オフセット
angle(v):ベクトルvのx軸に対する角度
θ:任意位置zにおける曲率κのベクトルのx軸に対する傾き
θ’(s):前記θの、光ファイバケーブルの中心弧長sに関する微分
である。
【0029】
歪み量εは、任意位置の曲率半径Rと光ファイバケーブル断面中心からシングルモード光ファイバまでの距離rを用いてε=r/Rで表現できる。ここで、光ファイバケーブル20の曲げ半径Rが1/κであり、歪みの差Δεが(距離の差)/Rに比例するから、曲げ軸を基準とすればε∝κrが成り立つ。
【数2A】
数1のΣの中の式は、各シングルモード光ファイバの歪を「ケーブル中心からの方向θを持ち、歪の大きさεを持つ歪ベクトル」として考え、その歪ベクトルの各成分を曲げ軸Nxからの距離rで規格化したもの、といえる。なお、光ファイバケーブル断面中心O(r=0)では歪がなく、軸Ax側で縮む歪が発生し、軸Axの反対側で伸びる歪が発生する。
【0030】
演算器12は、前記曲率κと前記捩率τを数3(フレネ・セレの公式)に代入して光ファイバケーブル20の中心軸軌跡r(s)を演算することで、敷設された光ファイバケーブルの位置を推定することができる。
【数3】
ただし、
T(s):位置ベクトル
:初期位置
:単位接ベクトル
:単位主法線ベクトル
:単位従法線ベクトル
d/ds:単位弧長当たりの変化量
である。
【0031】
演算器12は、歪み量、曲げ損失、及び偏波変動の少なくとも2つを前記物理量とし、前記物理量毎に算出した前記曲率κを統計処理した値、及び前記物理量毎に算出した前記捩率τを統計処理した値をそれぞれ新たな前記曲率κ及び前記捩率τとする。ここで、統計処理とは、それぞれの測定技術で測定した値を平均することや中央値を採ることを意味する。各種測定技術を用いることで曲がり推定精度を向上することができる。
演算器12は、シングルモード光ファイバ24の歪み量だけでなく、測定器11に曲げ損失や偏波変動も測定させ、それらの物理量を数1と数2に代入して曲率κ及び捩率τを計算できる。そして、このように複数の物理量から計算した曲率κ及び捩率τを平均化あるいは中央値をとることで、より正確な曲率κ及び捩率τを取得できる。
【0032】
図8は、光ファイバケーブルセンシング装置10が行う光ファイバケーブルセンシング方法を説明するフローチャートである。当該光ファイバケーブルセンシング方法は、
光ファイバケーブル20に格納されたM本(Mは3以上の整数)のシングルモード光ファイバ24のうち、任意のN本(NはM未満の整数)のシングルモード光ファイバ24に試験光を入射すること(ステップS01)、
N本のシングルモード光ファイバ24毎に曲げを表す物理量の長手方向分布を測定すること(ステップS02)、及び
光ファイバケーブル20の長手方向の任意地点において、光ファイバケーブル20の断面におけるN本のシングルモード光ファイバ24のそれぞれの位置及び前記物理量から、光ファイバケーブル20の前記任意地点の曲率κを数1で算出し、光ファイバケーブル20の前記任意地点の捩率τを数2で算出すること(ステップS03)、
を行う。
【0033】
演算器12はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0034】
(実施形態2)
図9は、本実施形態の光ファイバケーブルセンシングシステム301の実施例を説明する図である。光ファイバケーブルセンシングシステム301は、前述した光ファイバケーブルセンシング装置10と光ファイバケーブル20で構成される。光ファイバケーブル20は、市街地50の道路51の下に埋設されている。光ファイバケーブル20からシングルモード光ファイバ24の一つを分岐して光通信契約をしたユーザ宅へ引き込まれる。あるいは、シングルモード光ファイバ24に接続されている光スプリッタを介してユーザ宅へ引き込んでもよい。
【0035】
光ファイバケーブルセンシングシステム301は、このように地下に埋設されている通信用の光ファイバケーブル20の位置を通信会社の局舎15側から推定するためのシステムである。このような通信用の光ファイバケーブル20にはマルチコア光ファイバではなく汎用的なシングルモード光ファイバが採用されており、従前のマルチコア光ファイバによる3Dセンシング技術をそのまま適用することはできない。さらに、光ファイバケーブル20は長距離にわたって埋設されていることが多く、全長にわたって光ファイバケーブル20の位置を測定できることが求められる。
そして、光ファイバケーブル20の位置を把握するためには、マンホール等の設備毎に光ファイバケーブル20に発生する曲げを検出(曲げによって光ファイバに発生する歪を検出)する必要がある。しかし、光ファイバケーブル20の光ファイバには、通常撚りが付与されており、この撚りによる歪も光ファイバに発生する。このため、この撚りによる歪が曲げ検出の雑音となることが課題であった。
【0036】
そこで、光ファイバケーブルセンシングシステム301は、光ファイバケーブル20を図10のような構造とすることとした。
すなわち、光ファイバケーブル20は、M本(Mは3以上の整数)のシングルモード光ファイバ24を格納し、シングルモード光ファイバ24の撚りピッチAが
A>Δz
を満たすことを特徴とする。
ただし、Δzは、シングルモード光ファイバ24のうち、任意のN本(NはM未満の整数)のシングルモード光ファイバ24に試験光を入射し、前記N本のシングルモード光ファイバ毎に曲げを表す物理量の長手方向分布を測定する測定器11の距離分解能である。
撚りピッチは、シングルモード光ファイバ24がスロット21の溝22に沿ってスロット21の周囲を1周する距離(m)である。例えば、Aは10mである。
【0037】
より詳細に説明する。なお、以下の説明で記載する「ケーブルスケール」とは、通信用光ファイバケーブルを屋外配線したときに設備(マンホール等)毎に付与される曲げや捩じれにより発生する歪の範囲(長さ)であり、数m程度の値である。敷設された光ファイバケーブルには、この「ケーブルスケール」の歪が、設備間隔で発生している。
光ファイバケーブル20の曲げ半径や捩じれ等の知りたいケーブルスケールでシングルモード光ファイバ24に加わる歪範囲長をL(m)とする。シングルモード光ファイバ24の歪Εは測定器11で測定できる物理量εに対して
ε∝Ε×(LまたはΔzの小さいほう)
と表現できる。物理量εの単位は無次元(変化量/変化する前の長さ)である。
このため、例えば、歪Εが大きくても、歪が起きている範囲Lが距離分解能Δzより小さい場合、測定器11で決まる測定可能な物理量限界値Δεより小さくなり測定できない可能性がある。つまり、光ファイバケーブルセンシングシステム301が測定できる歪の限界量ΔΕは、歪の加わっている長さLと測定分解能Δzと測定性能Δεで決定される。
【0038】
ここで、光ファイバケーブル20の曲げで、比較的大きなRという範囲にΕという弱めの歪がシングルモード光ファイバ20に加わっていると仮定する。この場合、測定される物理量εは、前述のように、
ε=Ε×(RとΔzの小さいほう)
となる。通常、測定器11は曲げを複数点で観測できるのでR>Δzなので、
ε=ΕΔz
である。
【0039】
このとき、曲げの歪Εが小さくても、測定器11の距離分解能ΔzをRに近いより大きな値に(測定間隔を長く)することで、物理量εを物理量限界値Δεより大きくすることができ、光ファイバケーブルセンシングシステム301はΕを測定することができる。
【0040】
このように、光ファイバケーブルセンシングシステム301は光ファイバケーブル20の撚りピッチAを長くすることで次のような効果を得ることができる。
(1)距離分解能が低い(測定間隔が粗い)測定器11を使用しても撚りピッチを測定でき、その結果から撚りピッチを識別することができる。つまり、撚りに基づく歪Εは小さいが、ピッチAを長くすること(例えば、ピッチAを市販されている光ファイバケーブルのピッチより長くすること)で物理量εを物理量限界値Δεより大きくして測定可能(撚りによる歪であることを判別することができる)とする。
(2)撚りピッチAよりも小さい且つ大きなケーブルスケールに相当する範囲Lの歪であれば距離分解能Δzを限りなく粗くすることで、より小さい歪も測定できるようになる。つまり、測定器11が物理量εを歪Εと距離分解能Δzとの積として測定するので、ΔzをピッチAに近づけることで物理量εを物理量限界値Δεより大きくし、測定困難であるような小さい歪みも検出可能となる。
例えば、撚りピッチAは、次のように設定することが好ましい。
撚りピッチAは、敷設時に光ファイバケーブルに付与される曲げやねじれの長さよりも長くする。つまり、撚りピッチAを知りたい曲げ(設備毎に発生する曲げ)の曲げ半径よりも大きい値に設定することで、光ファイバセンシング装置10は、撚りピッチAよりも大きい曲げ半径の緩やかなカーブを検出しなくなり、設備で発生する曲げだけを検出できるようになる。具体的には、撚りピッチA≧10mとすることが好ましい。撚りピッチA=10mにすれば10mも大きい曲げ半径の緩やかカーブを非検出とすることができる。
【0041】
従って、光ファイバケーブルセンシングシステム301は、光ファイバケーブル20のケーブル構造をケーブルスケールに合わせた測定を実現するように設計できることが特徴である。つまり、光ファイバケーブル20の撚りによる歪を、光ファイバケーブルセンシング装置10が検出できない程度にまで撚りピッチAを長くすることで、設備毎に光ファイバケーブル20に発生する曲げのみを検出できるようにしたことを特徴とする。
【0042】
図11は、光ファイバケーブルセンシングシステム301で行うケーブルセンシング方法を説明する図である。ケーブルセンシング方法は、
光ファイバケーブル20にM本(Mは3以上の整数)のシングルモード光ファイバ24を撚りピッチA(ただし、A>Δz)で格納し、光ファイバケーブルセンシング装置10の測定器11に接続すること(ステップS00)、
シングルモード光ファイバ24のうち、任意のN本(NはM未満の整数)のシングルモード光ファイバに試験光を入射すること(ステップS01)、及び
前記N本のシングルモード光ファイバ毎に曲げを表す物理量の長手方向分布を測定器11で測定すること(ステップS02)、
を行う。
【0043】
まず、所望のケーブルスケールと測定器11の距離分解能Δzと測定分解能Δεに基づいて、光ファイバケーブルの撚りピッチAを決定する。そして、撚りピッチAの光ファイバケーブル20を測定器11に接続する(ステップS00)。
【0044】
そして、光ファイバケーブルセンシングシステム301は、実施形態1で説明したように、測定器11が、光ファイバケーブル20に格納されたM本(Mは3以上の整数)のシングルモード光ファイバ24のうち、任意のN本(NはM未満の整数)のシングルモード光ファイバ24に試験光を入射し(ステップS01)、N本のシングルモード光ファイバ24毎に曲げを表す物理量の長手方向分布を測定する(ステップS02)。そして、実施形態1で説明したように、演算器12が、光ファイバケーブル20の長手方向の任意地点において、光ファイバケーブル20の断面におけるN本のシングルモード光ファイバ24のそれぞれの位置及び前記物理量から、光ファイバケーブル20の前記任意地点の曲率κを数1で算出し、光ファイバケーブル20の前記任意地点の捩率τを数2で算出する(ステップS03)。
【0045】
さらに、演算器12は、数3で中心軌跡r(s)を演算し、光ファイバケーブル20の軌跡を解析する。
【0046】
(他の実施形態)
なお、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施可能である。要するにこの発明は、上位実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0047】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0048】
光ファイバケーブルセンシング装置10はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【符号の説明】
【0049】
10:光ファイバケーブルセンシング装置
11:測定器
12:演算器
20:光ファイバケーブル
21:スロット
22:溝
23:光ファイバテープ心線
24:シングルモード光ファイバ
50:市街地
51:道路
301:光ファイバケーブルセンシングシステム
図1
図2
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図9
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図11