(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】赤外線測定画像解析装置及び赤外線測定画像解析方法
(51)【国際特許分類】
G06T 1/00 20060101AFI20231221BHJP
G01N 25/18 20060101ALI20231221BHJP
G01N 25/72 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
G06T1/00 300
G01N25/18 A
G01N25/72 Y
(21)【出願番号】P 2020137846
(22)【出願日】2020-08-18
【審査請求日】2022-08-08
(73)【特許権者】
【識別番号】522070673
【氏名又は名称】株式会社赤外線高精度技術利用機構
(74)【代理人】
【識別番号】100100398
【氏名又は名称】柴田 茂夫
(72)【発明者】
【氏名】小畠 武志
【審査官】▲徳▼田 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-123003(JP,A)
【文献】特開2011-122859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 1/00
G01N 25/18
G01N 25/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定装置により測定された赤外線測定画像について画像解析を行う画像解析ソフトウェアを格納するプロフラム格納部と、
前記赤外線測定画像を前記測定装置の測定記憶部又は測定画像データベースから高精度温度分解能で画像データを読み取る測定画像データ読取部と、
前記
測定画像データ読取部で読み取られた画像データに基づいて、前記画像解析ソフトウェアを用いて、調査対象である構築物の表面及び内部層の3次元温度分布及び異常部分の3次元位置を前記高精度温度分解能で演算する構築物内部状態演算部と、
演算された前記構築物の表面の及び内部層の3次元温度分布及び異常部分の3次元位置を解析画像データベースに書き込む解析画像書込部と、
演算された前記構築物の表面及び内部層の温度分布及び異常部分の位置を2次元又は3次元表示する表示部とを備え;
前記高精度温度分解能は、0.001℃乃至0.05℃であることを特徴とする;
赤外線測定画像解析装置。
【請求項2】
前記画像解析ソフトウェアは前記測定画像データ読取部で読み取った測定画像を高精度化するプログラムと、前記高精度化された画像を彩色するためのカラーパレットとを備え、
前記構築物内部状態演算部は、前記高精度化されかつ前記カラーパレットで彩色された画像データに基づいて演算を行うことを特徴とする;
請求項1に記載の赤外線測定画像解析装置。
【請求項3】
前記画像解析ソフトウェアは、調査対象としての構築物を材料特性が異なる層の積層体とするモデルを用い、前記異常部分は層の熱伝導抵抗を変化させるものとして画像解析を行うことを特徴とする
;
請求項1又は請求項2に記載の赤外線測定画像解析装置。
【請求項4】
前記画像解析ソフトウェアは、前記構築物内の異常部分の深さを、前記
異常部分の挿入による前記異常部分がある層の温度変化に基づいて求めることを特徴とする
;
請求項3に記載の赤外線測定画像解析装置。
【請求項5】
測定装置により測定された赤外線測定画像について画像解析を行う画像解析ソフトウェアを予めプロフラム格納部に格納しておく、画像解析ソフトウェア格納工程と、
前記赤外線測定画像を前記測定装置の記憶部又は測定画像データベースから高精度温度分解能で画像データを読み取る測定画像データ読取工程と、
前記
測定画像データ読取工程で読み取られた画像データに基づいて、前記画像解析ソフトウェアを用いて、調査対象である構築物の表面及び内部層の3次元温度分布及び異常部分の3次元位置を前記高精度温度分解能で演算する構築物内部状態演算工程と、
演算された前記構築物の表面及び内部層の3次元温度分布及び異常部分の3次元位置を解析画像データベースに書き込む解析画像書込工程と、
演算された前記構築物の表面及び内部層の温度分布及び異常部分の位置を2次元又は3次元表示する表示工程とを備え;
前記高精度温度分解能は、0.001℃乃至0.05℃であることを特徴とする;
赤外線測定画像解析方法。
【請求項6】
前記画像解析ソフトウェアは、前記測定画像データ読取工程で読み取った画像を高精度化するプログラムと、前記高精度化された画像を彩色するためのカラーパレットとを備え、
前記
構築物内部状態演算工程は、前記高精度化されかつ前記カラーパレットで彩色された画像データに基づいて演算を行うことを特徴とする;
請求項5に記載の赤外線測定画像解析方法。
【請求項7】
前記画像解析ソフトウェアは、調査対象としての構築物を材料特性が異なる層の積層体とするモデルを用い、前記異常部分は層の熱伝導抵抗を変化させるものとして画像解析を行うことを特徴とする;
請求項5又は請求項6に記載の赤外線測定画像解析方法。
【請求項8】
前記画像解析ソフトウェアは、前記構築物内部層の異常部分の深さを、前記
異常部分の挿入による前記異常部分がある層の温度変化に基づいて求めることを特徴とする;
請求項7に記載の赤外線測定画像解析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は赤外線測定画像解析装置及び赤外線測定画像解析方法に関する。詳しくは、高精度解析が可能な赤外線測定画像解析装置及び赤外線測定画像解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、赤外線測定装置に使用可能な温度センサ(半導体素子)の精度が向上し、最小温度検知差0.02℃までの分別が可能になった。そこで、発明者は、この温度センサの精度を活かすための高分解能の画像解析方法を開発した(特許文献1参照)。特許文献1によれば、通常の赤外線カメラで測定された構築物の画像について、分解能0.013℃の高精度な構築物表面の放射温度分布素子座標図(センサの素子座標に対応して表面の放射温度分布が示された図)が取得される。また、現在の温度センサでは小数点下6桁の分別が可能になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、高精度な構築物表面の放射温度分布素子座標図が取得可能な旨が開示されているが、未だ、発明者以外にかかる高精度の放射温度分布素子座標図を開示する者が見当たらない。それは、単なる放射温度分布の計測から、構築物内部層の欠陥が解るはずがないという考えに拘泥する者が多いからであり、また、複雑で目に見えない構築物内部層を精度の高い近似モデルで、解析画像を比較的容易に得られるモデルを見出すことが難しいからである。そして、構築物内部層の欠陥を見出すことに挑戦した者もいたが、結局あきらめてしまった歴史があった。また、特許文献1では、構築物内部に空孔・水漏れ・ひび割れ等の異常状態が存在する場合に、上記の高精度な構築物表面及び内部層の温度分布にどのような変化が現れるかについては、触れられていない。また、商談では解析結果を示せば納得してもらえる場合が多いので、発明者は解析の技術内容を公開していない。
本願では、異常状態と温度分布とを関連付けた画像解析について説明する。そして、構築物内部層の欠陥を見出すための1つのモデルを開示する。これにより、自然災害が多発し、社会インフランテーションの老朽化が進んだ我が国での災害予防に大いに役立つことが期待される。
【0005】
本発明は、構築物の表面及び内部層の異常状態(センサの複数素子により、例えば熱伝導抵抗に異物、空洞、水漏れ等の異常があると検出された状態をいう。センサの複数素子によりとは、可視光ではRGB3素子で色を検出すると同様に、赤外線でも複数素子で温度を検出し、例えばウィーンの変位則を用いて温度に変換する)と構築物の表面及び内部層の温度分布とを関連付けた画像解析を可能とする赤外線測定画像解析装置及び赤外線測定画像解析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様に係る赤外線測定画像解析装置10は、例えば
図1に示すように、
測定装置30により測定された赤外線測定画像について画像解析を行う画像解析ソフトウェアを格納するプロフラム格納部11と、
赤外線測定画像を測定装置30の測定記憶部31又は測定画像データベース20から高精度温度分解能で読み取る測定画像データ読取部12と、
測定画像データ読取部12で読み取られた画像データに基づいて、画像解析ソフトウェアを用いて、調査対象である構築物40の表面及び内部層の3次元温度分布及び異常部分41の3次元位置を高精度温度分解能で演算する構築物内部状態演算部13と、
演算された構築物40の表面の及び内部層の3次元温度分布及び異常部分41の3次元位置を解析画像データベース21に書き込む解析画像書込部14と、
演算された構築物40の表面及び内部層の温度分布及び異常部分41の位置を2次元又は3次元表示する表示部15とを備え;
高精度温度分解能は、0.001℃乃至0.05℃であることを特徴とする。
【0007】
ここにおいて、「赤外線測定画像解析装置」、「赤外線測定画像」と「撮像」、「撮影」を用いず、「測定」を用いるのは、赤外線でセンサに記録され、出力されるのが、CSV形式の温度データだからである。
測定画像データベース20と解析画像データベース21は物理的に異なるデータベース内に構築されても良く、物理的に同一データベース内に構築されても良い。また、構築物内部状態演算部13におけると構築物40の表面及び内部層の温度分布の演算と異常部分41の位置の演算は相互に関連して一体的に行われても良い。
また、表面の温度分布とは詳しくは放射温度分布である。そして、表面及び内部層の温度分布とは表面の放射温度分布及び内部層の温度分布をいい、3次元温度分布とは表面の3次元放射温度分布及び内部層の3次元温度分布をいう。
【0008】
また、温度分解能0.013℃が実現されたことを前述した。このことは、0.013℃以上の分解能での解析等が可能なことを意味するが、そのうち0.013℃乃至0.05℃が実用的である。また、特許文献1では、温度の計測値間をさらに細かく分割して分解能を向上させているが、この方法により、0.02℃を2分割することにより0.01℃の温度分解能が実現可能である。さらに、バイオ研究のナノ領域では赤外線で0.000001℃の温度分解能が提示されているので、本願の画像解析においても0.001℃の温度分解能がゆとりを持って実現可能と言える。
【0009】
このように構成すると、構築物の表面及び内部層の異常状態と構築物の表面及び内部層の温度分布とを関連付けた画像解析を可能とする赤外線測定画像解析装置を提供できる。
【0010】
本発明の第2の態様に係る赤外線測定画像解析装置10は、第1の態様において、
画像解析ソフトウェアは測定画像データ読取部12で読み取った測定画像を高精度化するプログラムと、高精度化された画像を彩色するためのカラーパレット17とを備え、
構築物内部状態演算部13は、高精度化されかつカラーパレット17で彩色された画像データに基づいて演算を行うことを特徴とする。
【0011】
ここにおいて、測定画像を高精度化するプログラムは温度精度及び位置精度を高精度化するものである(特許文献1参照)。
このように構成すると、画像の高精度化と彩色により、構築物内部層の異常部分の存在と状況を解りやすく表現できる。
【0012】
本発明の第3の態様に係る赤外線測定画像解析装置10は、第1又は第2の態様において、画像解析ソフトウェアは、調査対象としての構築物40を材料特性が異なる層の積層体とするモデルを用い、異常部分41は層の熱伝導抵抗を変化させるものとして画像解析を行うことを特徴とする。
【0013】
このように構成すると、構築物の表面及び内部層の異常状態と表面及び内部層の温度分布とを解りやすく結び付けられる。
【0014】
本発明の第4の態様に係る赤外線測定画像解析装置10は、第3の態様において、画像解析ソフトウェアは、構築物40内の異常部分41の深さを、異常部分41挿入による異常部分41がある層の温度変化に基づいて求めることを特徴とする。
【0015】
このように構成すると、構築物内部層の異常部分の深さを比較的容易に求めることができる。
【0016】
本発明の第5の態様に係る赤外線測定画像解析方法は、例えば
図2に示すように、
測定装置30により測定された赤外線測定画像について画像解析を行う画像解析ソフトウェアを予めプロフラム格納部11に格納しておく、画像解析ソフトウェア格納工程(S001)と、
赤外線測定画像を測定装置30の測定記憶部31又は測定画像データベース20から高精度温度分解能で画像データを読み取る測定画像データ読取工程(S002)と、
測定画像データ読取部12で読み取られた画像データに基づいて、画像解析ソフトウェアを用いて、調査対象である構築物40の表面及び内部層の3次元温度分布及び異常部分41の3次元位置を高精度温度分解能で演算する構築物内部層状態演算工程(S003)と、
演算された構築物40の表面及び内部層の3次元温度分布及び異常部分41の3次元位置を解析画像データベース21に書き込む解析画像書込工程(S004)と、
演算された構築物40の表面及び内部層の温度分布及び異常部分41の位置を2次元又は3次元表示する表示工程(S005)とを備え;
高精度温度分解能は、0.001℃乃至0.05℃であることを特徴とする。
【0017】
ここにおいて、高精度温度分解能を、0.001℃乃至0.05℃とするのは、第1の態様について説明したと同様である。
このように構成すると、構築物の表面及び内部層の異常状態と構築物の表面及び内部層の温度分布とを関連付けた画像解析を可能とする赤外線測定画像解析方法を提供できる。
【0018】
本発明の第6の態様に係る赤外線測定画像解析方法は、第5の態様において、
画像解析ソフトウェアは、測定画像データ読取部12で読み取った画像を高精度化するプログラムと、高精度化された画像を彩色するためのカラーパレット17とを備え、
構築物内部状態演算部12は、高精度化されかつカラーパレットで彩色された画像データに基づいて演算を行うことを特徴とする。
【0019】
このように構成すると、画像の高精度化と彩色により、構築物内部層の異常部分の存在と状況を解りやすく表現できる。
【0020】
本発明の第7の態様に係る赤外線測定画像解析方法は、第5又は第6の態様において、
前記画像解析ソフトウェアは、調査対象としての構築物を材料特性が異なる層の積層体とするモデルを用い、異常部分41は層の熱伝導抵抗を変化させるものとして画像解析を行うことを特徴とする。
【0021】
このように構成すると、構築物の表面及び内部層の異常状態と表面及び内部層の温度分布とを解りやすく結び付けられる。
【0022】
本発明の第8の態様に係る赤外線測定画像解析装置10は、第7の態様において、画像解析ソフトウェアは、構築物40内の異常部分41の深さを、異常部分41挿入による異常部分41がある層の温度変化に基づいて求めることを特徴とする。
【0023】
このように構成すると、構築物内部層の異常部分の深さを比較的容易に求めることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、構築物の表面及び内部層の異常状態と構築物の表面及び内部層の温度分布とを関連付けた画像解析を可能とする赤外線測定画像解析装置及び赤外線画像解析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施例1に係る赤外線測定画像解析装置の構成例を示す図である。
【
図2】実施例1に係る赤外線測定画像解析方法のフロー例を示す図である。
【
図3】赤外線調査解析診断装置により測定された測定画像(急傾斜コンクリート土留め擁壁:従来例(上)及び高精度カラーパレット使用(下))の例である。
【
図4】構築物内において異常部分が無い場合の深さと温度との関係を示す図の例である。
【
図5】構築物内において異常部分が有る場合の深さと温度との関係を示す図の例である。
【
図6】構築物内の領域P(x、y)を説明するための図である。
【
図7】赤外線調査解析診断装置により測定された測定画像(コンクリート高架道路:可視光画像(左上)、従来例(左下)、高精度カラーパレット使用(右))の例である。
【
図8A】赤外線調査解析診断装置により測定された測定画像(コンクリートトンネル内壁:高精度カラーパレット使用(左上)、従来例(左下)、高精度カラーパレット使用(側壁裏面空隙拡大図、右上)、高精度カラーパレット使用(右下)、(左上と右下はカラーパレットすなわち表示温度範囲が異なる。)の例である。
【
図8B】赤外線調査解析診断装置により測定された測定画像(コンクリートトンネル内壁:高精度カラーパレット使用(左、漏水部分)、高精度カラーパレット使用(右、側壁裏面の空隙)の例である。
【
図9】測定画像の例を示す図(3次元画像)である。
【
図10】構築物内の領域P(x、y)で異常部分が重なる場合の深さと温度との関係を示す図である。
【
図11】構築物の材料が均一の場合の層の材料特性の変化を示す例の図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において互い
に同一又は相当する部材には同一あるいは類似の符号を付し、重複した説明は省略する。
【実施例1】
【0027】
図1に実施例1に係る赤外線測定画像解析装置10の構成例を示す。本実施例に係る赤外線測定画像解析装置10は、プログラム格納部11、測定画像データ読取部12、構築物内部状態演算部13、解析画像書込部14及び表示部15を備える。
【0028】
プログラム格納部11は、測定装置30により測定された赤外線測定画像データについて画像解析を行う画像解析ソフトウェアを予め格納しておく。測定装置30は調査対象である構築物40の測定画像を取得し、取得した赤外線測定画像データは、まず、測定装置30の測定記憶部31に保存される。測定記憶部31の赤外線測定画像データは有線通信又は無線通信により測定画像データベース20に送信される。
【0029】
測定画像データ読取部12は、測定記憶部31又は測定画像データベース20から赤外線測定画像データを読み取り、赤外線測定画像解析装置10の記憶領域に保存する。
構築物内部状態演算部13は、測定画像データ読取部12で読み取られた画像データに基づいて、画像解析ソフトウェアを用いて、調査対象である構築物40の表面及び内部層の温度分布及び異常部分(以下、異物ともいう)41の位置を演算する。解析画像書込部14は、構築物40の表面及び内部層の温度分布及び異常部分41の位置を解析画像データベース21に書き込む。表示部15は、構築物40の表面及び内部層の温度分布及び異常部分41の位置を2次元又は3次元表示する。測定画像データ読取部12、構築物内部状態演算部13及び解析画像書込部14の温度分解能は、例えば0.001℃乃至0.05℃と高性能である。これにより、表示部15の温度分解能も、0.001℃乃至0.05℃と高性能になる。これにより、構築物40内部層の温度分布も高性能に表現できる。
【0030】
図2に、実施例1に係る赤外線測定画像解析方法のフロー例を示す。まず、測定装置30により測定された赤外線測定画像データについて画像解析を行う画像解析ソフトウェアを予めプロフラム格納部11に格納しておく(S001)。測定画像はまず測定装置30の測定記憶部31に保存され、有線通信又は無線通信により測定画像データベース20に保存される。測定画像データ読取部12は、測定記憶部31又は測定画像データベース20の赤外線測定画像データを読み取り、赤外線測定画像解析装置10の記憶領域に保存する(S002)。
【0031】
構築物内部状態演算部13は、測定画像データ読取部12で読み取られた画像データに基づいて、画像解析ソフトウェアを用いて、調査対象である構築物40の表面及び内部層の温度分布及び異常部分41の位置を演算する(S003)。解析画像書込部14は、演算された構築物40の表面及び内部層の温度分布及び異常部分41の位置を解析画像データベース21に書き込む(S004)。表示部15は、演算された構築物40の表面及び内部層の温度分布及び異常部分41の位置を2次元又は3次元表示する(S005)。なお、本実施例では、異常部分は異常熱伝導抵抗発生部分として取り扱う。
【0032】
図3に、急傾斜コンクリート土留め擁壁の赤外線測定画像の例を示す。
図3(上)に従来例を、
図3(下)に、高精度カラーパレット使用の本実施例を示す。これらは、河川を挟んだ500mの対岸から記録した堤防の赤外線熱放射分布画像である。本実施例によれば、温度表示が高分解度のため、従来見えなかった〔空隙の形と深さ〕、〔裏込め部地盤の水分含浸形態〕、〔地盤の流動状態〕、〔コンクリート柱・梁列老朽劣化〕等の存在が浮き彫りされるように見えてくる。
図3(下)の擁壁において、格子状枠の上段の左から3,4番目の枠内では擁壁裏面に空洞が隠れており、中段の左から4番目の枠内では裏込め土の深くに保水状態が認められる。
【0033】
本実施例では、画像解析対象としての構築物40を材料特性が異なる複数層の積層体とするモデルを用い、異常部分(異物、ここでは異常熱伝導抵抗発生部分)41は層の熱抵抗を変化させるものとして画像解析を行うものとする。ここでは、複数層の積層体からなる壁の例について説明する。各層の材料又は材料特性が異なるものとする。層数はNであり、壁の外側から1番目の層、2番目の層とし、・・・、最も内側の層をN番目の層とする。
【0034】
壁の外側の温度をT
o、内側の温度をT
iとし、j番目の層の外側の温度をT
jo、内側の温度をT
jiとすると、
【数1】
となる。
【0035】
図4に構築物内において異常部分が無い場合の深さと温度との関係を示す。壁内部の深さzと温度Tの関係を示す。壁の外側の位置をz
o、内側の位置をz
iとし、j番目の層の外側の位置をz
jo、内側の位置をz
jiとすると、
【数2】
となる。
各層の温度勾配は材料特性(熱伝導度〔1/熱抵抗〕、層厚z
jo-z
ji、xy領域の広さ、温度、湿度等)の関数となる。一般に温度・湿度が高くなると熱伝導度は高くなる。なお、層厚は熱膨張率の関数となる。なお、壁内部の温度勾配を直線で表したが、空気層については曲線で表した。
ところで、異常部分(異物、ここでは異常熱伝導抵抗発生部分)がj=k番目の層にあると、k番目の層の材料特性(主として熱伝導抵抗)が変化し、温度勾配が変わる。
【0036】
図5に構築物内において異物が有る場合の深さと温度との関係を示す。異物の挿入により第j番目の層の温度差T
jo-T
jiが変化する。その変化量はΔT
j=ΔT
ji+ΔT
joである。また、層全体の温度差T
o-T
iが変化する。その変化量はΔT=ΔT
i+ΔT
oである。
まず、異物が1個で第k番目の層にある場合について考えると、第k番目の層の温度変化は、層全体の温度変化と等しいから、
ΔT
k=ΔT・・・(式3)
となる。
したがって、各層(j=1~N)の変化量ΔT
jを計算し、ΔT
j=ΔT となった層が、異物のある層である。これにより、異物のある層を求めるため、すなわち、異物の深さを求めるための1つの式が見出された。
【0037】
また、いずれかの層(j=1~N)に異物がある場合に、N通りのケース(k=1~N)がある。どのケースについても、Tjo-Tji(Tko-Tkiを含む)及びΔT=ΔTkが既知なので、異物が有る位置P(x、y)の表面外側の温度To(x、y)から表面内側の温度Ti(x、y)までの一連の温度の変化が解る。ここでは、この一連の温度の変化のデータを「1セットの温度データ」と称することとする。課題はNセットの温度データのうち、どれが正解かを求めることである。
【0038】
異物が有る位置P(x、y)の表面外側の温度To(x、y)と異物の無い位置P(x0、y0)の表面外側の温度To(x0、y0)はそれぞれ、測定画像の色から求まるので、その差ΔTo(x、y)も求まる。
ΔTo(x、y)=To(x、y)-To(x0、y0)・・(式4)
となる。
表面内側でも、同様な式が成立する。すなわち、異物の無い位置P(x0、y0)の温度Ti(x0、y0)と異物の有る位置P(x、y)の表面内側の温度Ti(x、y)のとの差をΔTi(x、y)とすると、
ΔTi(x、y)=Ti(x0、y0)-Ti(x、y)・・(式5)
となる。
また、
ΔT=ΔTi(x、y)+ΔTo(x、y)・・・(式6)
となる。
次にどのセットが正しいかを探る。
【0039】
図6は、構築物内の領域P(x、y)を説明するための図である。構築物40の測定画像をxy座標で表し、深さをz座標で表す。異物の大きさは、異物無しの場合の色彩から変化した色彩の面積から求まる。色彩の変化が最大の位置が異物のxy座標の中心位置P
C(x、y)である。個別的にはxy方向とz方向で寸法が異なる場合があり得るが、ここでは簡便のため、同じとして(例えば、異常部分41を球形とみなして)取り扱うこととする。
【0040】
領域P(x、y)の隣の4つの領域をP(x-1、y)、P(x+1、y)、P(x、y-1)、P(x、y+1)とし、上記5つの領域の各層(j=1~N)の温度をT
j(x、y)、T
j(x-1、y)、T
j(x+1、y)、T
j(x、y-1)、T
j(x、y+1)とすると、領域P(x、y)と隣の4つの領域との間に流れる熱流は、
【数3】
となる。
そして、画像の全領域において、この熱流が最小になるように、T
j(x、y)が定められる。
【0041】
ここで、近似的には、各領域P(x、y)において、
(式7)の熱流が最小になるように、Tj(x、y)が導かれる。
この場合、各領域P(x、y)について、Tj(x、y)を定める式が成立する。ただし、他の領域の関数を含むので、画像全領域で連立方程式を解くことになるのであるが、各領域毎に、(式3)を満たすNセットの温度データと熱流を最小にする(式7)が成立するので、結果として、正しい1セットの温度データを求められる。なお、領域P(x、y)について、(式7)を計算するには、領域P(x、y)と周囲の4領域について、各N通りの温度セットについて、すなわちN5通りの「1セットの温度データ」の組み合わせにおける熱流をそれぞれ計算して、熱流が最小になるものを選択すればよい。
画像を構成する各領域についてもそれぞれ計算して画像全領域で整合が取れなかった場合には、各領域について最小になったデータセットを選択して、画像全領域での熱流を再計算し、最終的に画像全領域で熱流が最小になる「1セットの温度データ」の組み合わせを求めれば良い。そして、「1セットの温度データ」の組み合わせにより、調査対象としての構築物40の2次元画像及び3次元画像を表現可能になる。
【0042】
結果として、一般的には、異常部分41が外側表面近くでは、
ΔTo(x、y)>ΔTi(x、y)・・・(式8)、
異常部分41が内側表面近くでは、
ΔTo(x、y)<ΔTi(x、y)・・・(式9)
となる。
以上により、異物の位置P(x、y)及び深さP(z)が求まる。また、3次元の温度分布が求まる。
【0043】
図7にコンクリート高架道路の赤外線測定画像の例を示す。
図7(左上)に可視画像を、
図7(左下)に従来例を、
図7(右)に高精度カラーパレット使用の本実施例を示す。
図3と同様に、空隙、水分含浸形態が示されている。図中の矢印は、異常を示唆する箇所である。温度表示が高分解度のため、従来見えなかった異常状態が浮き彫りされるように見えてくる。高精度カラーパレットとは、赤外線画像の上限温度値と下限温度値の間に例えば256諧調RGBが割り当てられる。なお、状況(環境・材料等)に応じて多種のカラーパレットが使用される。
【0044】
図8A及び
図8Bに本実施例によるコンクリートトンネル内壁の赤外線測定画像の例を示す。
図8A(左下)に従来例を、
図8A(左上)及び
図8A(右下)に高精度カラーパレット使用の例(この2つはカラーパレットの温度表示範囲を変えたものである)を、
図8A(右上)に高精度カラーパレット使用の側壁裏面の空隙の拡大図を、
図8B(左)に高精度カラーパレット使用の漏水部分の画像を、
図8B(右)に高精度カラーパレット使用の側壁裏面の空隙の画像を示す。図中の矢印は、異常を示唆する箇所である。
図3と同様に、温度表示が高分解度のため、従来見えなかった異常状態が浮き彫りされるように見えてくる。
【0045】
図9は三次元化された赤外線測定画像の例を示す図である。
図9は、上段:鉄道、下段:道路の赤外線測定画像を3次元処理した画像である。元画像を360度回転して、任意の方向から見ることができる。また、構築物表面から垂直方向に延びている針状部分に、表面から垂直方向の気体の温度が示されている。3次元処理により、構築物内部に垂直方向の温度も表現できる。
【0046】
調査対象の構築物が壁のように両側(外側・内側)が開放された物であれば、両側表面の測定画像を取得できるので、両側表面の測定画像から異常部分(異常熱伝導抵抗発生部分)の深さを求めることが容易になる。すなわち、ΔTo(x、y)及びΔTi(x、y)が求まるので、
ΔT=ΔTo(x、y)+ΔTi(x、y)=ΔTj=ΔToj(x、y)+ΔTij(x、y)・・・(式10)
となる第j層を求めれば良い。
また、複数個の異常部分が重なっている場合(実施例2参照)にはΔT=ΣΔTj となる複数の第j層を求めれば良い。
【0047】
これに対し、トンネルのように片側(内側)表面の測定が困難な場合には、熱流が最小になるように、Tj(x、y)を解いていかねばならない。また、トンネル内側の土中(又は岩中)温度については、ある程度の深さの所では一様な温度として近似計算しても良い。気体の温度についても、表面からある程度の距離の所では一様な温度として近似計算しても良い。
また、より測定画像に近づける可能性があるモデルやパラメータが想定された時には、モデルやパラメータを変えて演算を繰り返し、異常部分(異常熱伝導抵抗発生部分)の近似解の精度を高めていくことができる。
異常熱伝導抵抗発生部分の特定については、空隙、水濡れ、ひび割れ、コンクリート中性化等、蓄積されたデータを参照して、判断に役立てられる。データが多量になれば、AI(人工知能、Artificial Intelligence)の利用も可能になる。
【0048】
以上により、本実施例によれば、構築物の表面の及び内部層の異常状態と構築物の表面及び内部層の温度分布とを関連付けた画像解析を可能とする赤外線測定画像解析装置及び赤外線測定画像解析方法を提供できる。
【実施例2】
【0049】
図10に、構築物内の領域P(x、y)で異物が重なる場合の深さと温度との関係を示す。
図10は、異物が第j番目と第j+1番目の層に有る場合の例で、この2層で温度勾配が増加している。
実施例1では、同じ領域(x、y)で、異物の重複が無い場合の例について説明したが、重複がある場合には、
異物がm個重複する場合は、重複しない場合の(式3)に代えて、
【数4】
となる。
したがって、各層の変化量ΔT
jを計算し、(式11)が成立するm個のΔT
jの組み合わせが見出された層が、異物のある層である。これにより、異物のある層の候補、すなわち、異物(m個)の深さを含む1セットの温度データが選択される。温度データのセット数は、
NC
m(N個からm個を選ぶ組み合わせの数)=N!/m!(N-m)!である。
従って、実施例1における(式7)を計算する際のN
5通りに代えて、領域P(x、y)及び隣の4つの領域P(x-1、y)、P(x+1、y)、P(x、y-1)、P(x、y+1)の異物の有る層の数を、m1、m2、m3、m4、m5とすると、
NC
m1×
NC
m2×
NC
m3×
NC
m4×
NC
m5 通りが用いられる。
【0050】
その他の関係式は実施例1と同様で、最終的に、温度分布及び異常部分の位置、深さが求まる。
以上により、異物の位置P(x、y)及び深さP(z)が求まる。また、3次元の温度分布が求まる。また、本実施例によれば、実施例1と同様に、構築物の表面及び内部層の異常状態と構築物の表面の及び内部層の温度分布とを関連付けた画像解析を可能とする赤外線測定画像解析装置及び赤外線測定画像解析方法を提供できる。
【実施例3】
【0051】
図11に、構築物の材料が均一の場合の層の材料特性の変化を示す。
実施例1及び実施例2では、各層の材料特性が異なる場合の例を説明したが、実施例3では構築物の材料特性が均一の場合の例について説明する。
壁の外側の温度To、内側の温度Tiには差があるものとする。壁をN個の層に分けると、各層の温度が異なるので、熱伝導率が層毎にことなり、熱伝導抵抗も異なる。したがって、各層の温度勾配が異なる。そして、ΔT
kが変化する。
温度に代えて各層の湿度が異なる場合も熱伝導率が層毎にことなり、熱伝導抵抗も異なる。したがって、各層の温度勾配が異なる。そして、ΔT
kが変化する。
その他の関係式は実施例1と同様である。
以上により、異物の位置P(x、y)及び深さP(z)が求まる。また、3次元の温度分布が求まる。また、本実施例によれば、実施例1と同様に、構築物の表面及び内部層の異常状態と構築物の表面及び内部層の温度分布とを関連付けた画像解析を可能とする赤外線測定画像解析装置及び赤外線測定画像解析方法を提供できる。
【実施例4】
【0052】
以上の実施例では、壁の外側及び内側が平面であり、各層がこれらの平面に平行である例について説明したが、本実施例では壁の外側又は内側に凹凸がある場合の例を説明する。
構築物の表面に凹凸がある場合の構築物内の等温線は、電極に凹凸がある場合の等電位線と同様になる。そして、熱流が流れる線は電気力線と同様になる。これら凹凸のある等温線と熱流が流れる線を用いて、等温線に添うように層構造を再構成し、疑似的な平面に書き直して温度解析することにより、異物の位置P(x、y)及び深さP(z)が求まる。また、3次元の温度分布が求まる。
以上により、本実施例によれば、実施例1と同様に、構築物の表面及び内部層の異常熱伝導抵抗発生状態と構築物の表面及び内部層の温度分布とを関連付けた画像解析を可能とする赤外線測定画像解析装置及び赤外線測定画像解析方法を提供できる。
【0053】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、実施の形態は以上の例に限られるもの
ではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更を加え得ることは明白である。
例えば、以上の実施例では、主として各層(積層体)が平坦な例を扱ったが、各層が曲面の場合にも適用可能である。この場合、等温線は曲面に沿って形成されるが、各層の外側面と内側面に温度勾配があり、異物の混入により温度勾配に変化が生じるという点は各層が平坦な例と同様である。また、以上の実施例では、構造体が壁の例を扱ったが、構造体が柱の場合にも適用可能である。異物がない場合の等温線に沿って各層を形成し、異物の混入により温度勾配に変化が生じるようにすれば良い。また、以上の実施例では、異物が球状の例について説明したが、異物の形状と熱伝導抵抗との対応付けがきちんとできるのであれば、解析可能である。また、異物が多くかつ複雑になればモデルから離れるが、大量のデータを扱うことによって、精度良い解析を維持できるし、AIの利用も考えられる。その他、気象環境、立地環境、構築物の構造・材料等に応じて、材料特性等のパラメータを適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、赤外線測定画像解析、例えばトンネル、橋梁、高速道路、堤防、建物等の赤外線測定画像解析、その他、溶鉱炉、移動体、動物、植物等の赤外線測定画像解析に利用可能である。また、インフランテーションの画像解析は災害予防にも利用可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 赤外線測定画像解析装置
11 プログラム格納部
12 測定画像データ読取部
13 構築物内部状態演算部
14 解析画像書込部
15 表示部
20 測定画像データベース
21 解析画像データベース
30 測定装置
31 測定記憶部
40 構築物
41 異常部分(異物)