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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】アニリン誘導体を含有する皮膚用外用剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4545 20060101AFI20231221BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20231221BHJP
   A61K 47/06 20060101ALI20231221BHJP
   A61K 9/06 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
A61K31/4545
A61K47/10
A61K47/06
A61K9/06
A61P31/20
A61P31/22
A61P1/00
A61P17/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2023561089
(86)(22)【出願日】2023-05-01
(86)【国際出願番号】 JP2023017077
【審査請求日】2023-10-03
(31)【優先権主張番号】P 2022075963
(32)【優先日】2022-05-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】505272984
【氏名又は名称】株式会社キノファーマ
(73)【特許権者】
【識別番号】000158219
【氏名又は名称】岩城製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102015
【弁理士】
【氏名又は名称】大澤 健一
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲夫
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 花江
(72)【発明者】
【氏名】秋山 由佳
(72)【発明者】
【氏名】明石 大希
(72)【発明者】
【氏名】栗本 翔太
【審査官】井上 政志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-7274(JP,A)
【文献】国際公開第2020/218518(WO,A1)
【文献】CDK9 Inhibitor FIT-039 Supresses Viral Oncogenes E6 and E7 and Has a Therapeutic Effect on HPV-Induc,Clinical Cancer Research,2018年09月15日,Volumne 24, Issue 18,4518-4528
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/4545
A61K 47/10
A61K 47/06
A61K 9/06
A61P 31/20
A61P 31/22
A61P 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I):
【化1】
[式中、WはSまたはOを表す]
で表されるアニリン誘導体もしくはその薬理学的に許容可能な塩、またはそれらの水和物からなる群より選ばれる化合物を有効成分として含有し、さらに、炭素数16~20の一価の高級アルコールまたは合成スクワランを含有する皮膚用外用剤。
【請求項2】
前記有効成分が、下記式(I-a):
【化2】
で表されるアニリン誘導体もしくはその薬理学的に許容可能な塩、またはそれらの水和物からなる群より選ばれる化合物である、請求項1に記載の皮膚用外用剤。
【請求項3】
前記炭素数16~20の一価の高級アルコールが、分岐構造を有する一価の高級アルコールである請求項2に記載の皮膚用外用剤。
【請求項4】
前記分岐構造を有する一価の高級アルコールが、2-オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール、またはイソステアリルアルコールである請求項3に記載の皮膚用外用剤。
【請求項5】
前記有効成分が、約0.5重量%~約20重量%にて含まれる、請求項1~4のいずれか一つに記載の皮膚用外用剤。
【請求項6】
前記炭素数16~20の一価の高級アルコールまたは合成スクワランが、約1重量%~約40重量%にて含まれる、請求項1~4のいずれか一つに記載の皮膚用外用剤。
【請求項7】
前記有効成分と炭素数16~20の一価の高級アルコールまたは合成スクワランの重量比が、1:80~20:1である、請求項1~4のいずれか一つに記載の皮膚用外用剤。
【請求項8】
剤形が油脂性軟膏剤である、請求項1~4のいずれか一つに記載の皮膚用外用剤。
【請求項9】
前記油脂性軟膏剤が、前記有効成分の結晶が軟膏基剤に分散していることを特徴とする、請求項8に記載の皮膚用外用剤。
【請求項10】
DNAウイルス性疾患の治療、改善および/または進行抑制のために用いられることを特徴とする請求項1~4のいずれか一つに記載の皮膚用外用剤。
【請求項11】
前記DNAウイルス性疾患が、ヒトパピローマウイルスに起因する疣贅、尖圭コンジローマ、外陰上皮内腫瘍、肛門上皮内腫瘍および膣上皮内腫瘍、単純ヘルペスウイルスに起因する口唇ヘルペス、性器ヘルペスおよびカポジ水痘様発疹症、ヒトヘルペスウイルス8型に起因するカポジ肉腫、ならびに水痘帯状疱疹ウイルスに起因する水疱瘡および帯状疱疹、ウシパピローマウイルスに起因する牛乳頭腫症からなる群より選ばれる疾患である、請求項10に記載の皮膚用外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アニリン誘導体またはその塩を含有する皮膚用外用剤に関する。本発明はまた、アニリン誘導体を皮膚局所に送達するための経皮送達システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、パピローマウイルス科に属し、環状の二本鎖DNAをゲノムとして持つDNAウイルスである。HPVは、接触感染により伝播する。HPVは、上皮や粘膜に感染し、感染した宿主細胞においてHPVタンパク質が発現されることにより、ウイルスが複製される。特に非構造タンパク質であるE6タンパク質およびE7タンパク質は、宿主細胞のp53遺伝子やpRB遺伝子等のがん抑制遺伝子を分解することにより異常な細胞増殖を惹起し、尋常疣贅、扁平疣贅、足底疣贅等の疣贅、ヒトの子宮頸がん、尖圭コンジローマ、咽頭の乳頭腫など様々な疾病の原因となることが明らかとなっている。HPVは、現在までに100種類を超える型が知られており、その発がん性によって、疣贅、尖圭コンジローマ、乳頭腫等の良性腫瘍の原因となる低リスク型、および、子宮頸がん等の悪性腫瘍の原因となる高リスク型に分類される。
【0003】
ヒトパピローマウイルス(HPV)性疣贅の治療は、主にレーザー治療(レーザー蒸散)や液体窒素を用いた凍結療法、電気焼灼、外科的切除等の外科的治療などが行われている。しかしながら、HPVのウイルス遺伝子が表皮基底細胞に残存しやすく、頻繁に再発するため患者の大きな負担となっている。また、同じくHPVによって生じる尖圭コンジローマの治療は、イミキモドを有効成分とするベセルナ(登録商標)クリーム(持田製薬株式会社製)が使用されているが、重度の炎症反応を起こし、びらん、潰瘍、表皮剥離、発熱などの副作用が現れることがある。そのため、過量な投与をしないよう注意喚起されている。
【0004】
パピローマウイルスに対して抗ウイルス作用を示す化合物として、N-[5-フルオロ-2-(1-ピペリジニル)フェニル]-4-ピリジンチオアミドが知られている(特許文献1:WO2005/063293、特許文献2:WO2009/020198、非特許文献1:Yamamoto M et al., J Clin Invest, 2014, 124(8), 3479-3488)。N-[5-フルオロ-2-(1-ピペリジニル)フェニル]-4-ピリジンチオアミドは、宿主細胞のリン酸化酵素を標的とし、ヒトパピローマウイルス(HPV)のE6遺伝子およびE7遺伝子の発現を抑制し、かつ、p53遺伝子を安定化させることにより抗ウイルス作用を発揮すると知られている。このようなチオアミド誘導体を用いたHPV性疣贅や尖圭コンジローマの皮膚外用治療薬が期待されている。
【0005】
ヒトパピローマウイルス(HPV)性疣贅の治療薬として、N-[5-フルオロ-2-(1-ピペリジニル)フェニル]-4-ピリジンチオアミドを単位面積(1cm2)あたり50~500μg含有し1日1回反復貼付することを特徴とするHPV性疣贅に対する貼付剤が報告されている(特許文献3:特開2021-059500号公報)。
【0006】
また、上記の化合物は、単純ヘルペスウイルスやヒトヘルペスウイルス8型に対する抗ウイルス効果(特許文献2、非特許文献1、特許文献4:特開2021-046360号公報)や、ウシパピローマウイルスに対する抗ウイルス効果(特許文献5:WO2021/246332)が報告されている。
【0007】
しかしながら、上記チオアミド誘導体は水に難溶性であるとともに溶解後の安定性は悪く、また、皮膚外用剤には有機溶媒等の刺激性がある物質は好まれないことなどから、上記チオアミド誘導体を有効成分として含有する外用製剤を製造することが困難である。さらには、外用製剤として製造できた場合であっても上記有効成分が十分に皮膚を透過せずに、十分な表皮への吸収が得られない場合がある。そのため、チオアミド誘導体を含有する、主薬安定性および経皮吸収性が高い、ヒトパピローマウイルス(HPV)性疣贅や尖圭コンジローマに適した皮膚外用剤は未だ報告がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2005/063293
【文献】WO2009/020198
【文献】特開2021-059500号公報
【文献】特開2021-046360号公報
【文献】WO2021/246332
【非特許文献】
【0009】
【文献】Yamamoto M et al., J Clin Invest, 2014, 124(8), 3479-3488
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、アニリン誘導体を有効成分とし、主薬安定性および経皮吸収性が高い皮膚外用剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、アニリン誘導体であるN-[5-フルオロ-2-(1-ピペリジニル)フェニル]-4-ピリジンチオアミドを用い、主薬安定性および経皮吸収性が高く、刺激性が低い皮膚外用剤に関し鋭意検討した結果、アニリン誘導体を特定の吸収促進剤とともに用いることにより、主薬安定性が維持でき、かつ経皮吸収性がよい皮膚外用剤の成分の組合せを見出し、本発明を完成した。また、本発明の皮膚用外用剤は、好ましい一態様において、皮膚刺激性も低いと考えられる。
本発明の皮膚用外用剤は以下の態様を含む。
[1]下記式(I):
【0012】
【化1】
[式中、WはSまたはOを表す]
で表されるアニリン誘導体もしくはその薬理学的に許容可能な塩、またはそれらの水和物からなる群より選ばれる化合物を有効成分として含有し、さらに、炭素数16~20の一価の高級アルコールまたは合成スクワランを含有する皮膚用外用剤。
[2]前記有効成分が、下記式(I-a):
【0013】
【化2】
で表されるアニリン誘導体もしくはその薬理学的に許容可能な塩、またはそれらの水和物からなる群より選ばれる化合物である、上記[1]に記載の皮膚用外用剤。
[3]前記炭素数16~20の一価の高級アルコールが、分岐構造を有する一価の高級アルコールである上記[1]または[2]に記載の皮膚用外用剤。
[4]前記分岐構造を有する一価の高級アルコールが、2-オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール、またはイソステアリルアルコールである上記[3]に記載の皮膚用外用剤。
[5]前記有効成分が、約0.5重量%~約20重量%(好ましくは約0.5重量%~約15重量%、より好ましくは約1重量%~約10重量%)にて含まれる、上記[1]~[4]のいずれか一つに記載の皮膚用外用剤。
[6]前記炭素数16~20の一価の高級アルコールまたは合成スクワランが、約1重量%~約40重量%(好ましくは約2重量%~約30重量%、より好ましくは約5重量%~約20重量)にて含まれる、上記[1]~[5]のいずれか一つに記載の皮膚用外用剤。
[7]前記有効成分と炭素数16~20の一価の高級アルコールまたは合成スクワランの重量比が、1:80~20:1(好ましくは1:40~15:2、より好ましくは、1:20~2:1)である、上記[1]~[6]のいずれか一つに記載の皮膚用外用剤。
[8]剤形が油脂性軟膏剤である、上記[1]~[7]のいずれか一つに記載の皮膚用外用剤。
[9]前記油脂性軟膏剤が、前記有効成分の結晶が軟膏基剤に分散していることを特徴とする、上記[8]に記載の皮膚用外用剤。
[10]DNAウイルス性疾患の治療、改善および/または進行抑制のために用いられることを特徴とする上記[1]~[9]のいずれか一つに記載の皮膚用外用剤。
[11]前記DNAウイルス性疾患が、ヒトパピローマウイルス(HPV)に起因する疣贅、尖圭コンジローマ、外陰上皮内腫瘍、肛門上皮内腫瘍および膣上皮内腫瘍、単純へルペスウイルスに起因する口唇ヘルペス、性器ヘルペスおよびカポジ水痘様発疹症、水痘帯状疱疹ウイルスに起因する水疱瘡および帯状疱疹、ヒトヘルペスウイルス8型に起因するカポジ肉腫、ウシパピローマウイルス(BPV)に起因する牛乳頭腫症、ウシヘルペスウイルス1型に起因する牛伝染性膿疱性外膣炎および牛伝染性亀頭包皮炎、イヌパピローマウイルスに起因する乳頭腫、内反性乳頭腫および多中心性上皮内扁平上皮癌、ならびにネコパピローマウイルスに起因する乳頭腫、内反性乳頭腫および多中心性上皮内扁平上皮癌からなる群より選ばれる疾患である、上記[10]に記載の皮膚用外用剤。
[12](a)油脂性基剤(軟膏基剤)と、
(b)該基剤中に分散している(好ましくは結晶として分散している)上記式(I)または式(I-a)で表されるアニリン誘導体もしくはその薬理学的に許容可能な塩、またはそれらの水和物からなる群より選ばれる化合物と、
(c)該基剤中に分散している炭素数16~20の一価の高級アルコールまたは合成スクワランと、
を含む、経皮送達システム。
[13]前記炭素16~20の一価の高級アルコールが、2-オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール、またはイソステアリルアルコールである上記[12]に記載の経皮送達システム。
[14]前記化合物と前記炭素数16~20の一価の高級アルコールまたは合成スクワランの重量比が、1:80~20:1(好ましくは1:40~15:2、より好ましくは、1:20~2:1)である、上記[12]または[13]に記載の経皮送達システム。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、主薬安定性および経皮吸収性が高い皮膚外用剤が提供される。好ましい一態様においては、該皮膚用外用剤は刺激性が低い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の皮膚用外用剤(軟膏剤)の製造工程の概要を示した図である。
図2】本発明の皮膚用外用剤(軟膏剤)をラットに投与(塗布)し、表皮への組織移行性を確認した結果である。
図3】本発明の皮膚用外用剤(軟膏剤)をラットに投与(塗布)し、表皮への組織移行性を確認した結果である。
図4】本発明の皮膚用外用剤(軟膏剤)をラットに投与(塗布)し、表皮への組織移行性を確認した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を、例示的な実施態様を例として、本発明の実施において使用することができる好ましい方法および材料とともに説明するが、本発明は以下に記載の態様に限定されるものではない。なお、文中で特に断らない限り、本明細書で用いるすべての技術用語および科学用語は、本発明が属する技術分野の当業者に一般に理解されるのと同じ意味をもつ。また、本明細書に記載されたものと同等または同様の任意の材料および方法は、本発明の実施において同様に使用することができる。また、本発明に関連して本明細書中で引用されるすべての刊行物および特許は、例えば、本発明で使用できる方法や材料その他を示すものとして、本明細書中に引用されそして本明細書の一部を構成するものである。
【0017】
本明細書において、数値範囲を示す「A~B」の記載は、端点であるAおよびBを含む数値範囲を意味する。また、「AないしB」についても同様である。また本明細書において、「約」とは、±10%を許容する意味で用いる。なお、本明細書に記載される各成分の重量%は、外用剤(すなわち、製剤全量)の重量を100とした場合の、各成分の重量の割合を意味する。
【0018】
本発明の皮膚用外用剤は、有効成分(主薬成分)として、以下の式(I):
【0019】
【化3】
[式中、WはSまたはOを表す]
で表されるアニリン誘導体もしくはその薬理学的に許容可能な塩、またはそれらの水和物を含む。
【0020】
本発明の皮膚用外用剤は、好ましくは、有効成分(主薬成分)として、以下の式(I-a):
【0021】
【化4】
で表されるアニリン誘導体もしくはその薬理学的に許容可能な塩、またはそれらの水和物を含む。
【0022】
本明細書における「その薬理学的に許容可能な塩」とは、上記式(I)または式(I-a)で示される本発明に係る化合物と塩を形成し、かつ薬理学的に許容されるものであれば特に限定されず、例えば、無機酸塩、有機酸塩、無機塩基塩、有機塩基塩、酸性または塩基性アミノ酸塩などがあげられる。また、それらの水和物とは、非共有結合性分子間力によって結合する、化学量論的又は非化学量論的量の水をさらに含む、化合物又はその塩を意味する。
【0023】
本発明の皮膚用外用剤(以下、単に、外用剤という場合がある。)は、治療上有効な量の上記式(I)または式(I-a)で表されるアニリン誘導体もしくはその薬理学的に許容可能な塩、またはそれらの水和物である化合物(以下、単に、本発明の有効成分、化合物または主薬、という場合があり、これらは何れも同じ意味である)を含有する。治療上有効な量とは、疾患をもつ対象の患部に本発明の外用剤を塗布した場合、疾患の治療、改善、進行抑制のうち少なくとも一つの効果を生じるのに十分な量を意味する。あるいは、治療上有効な量とは、疾患をもつ対象の患部に本発明の外用剤を塗布した場合、患部におけるDNAウイルスの増殖を抑制できる量を意味する。これに限定されないが、例えば、外用剤の全重量に対し、本発明の有効成分を、下限として、約0.5重量%、好ましくは約1.0重量%、より好ましくは約2重量%、さらに好ましくは約3重量%、上限として、約20重量%、好ましくは約15重量%、より好ましく約10重量%の量にて含有する。0.5重量%より少ないと有効性が乏しくなり、一方、20重量%を超える量では製剤の性状が塗布剤として適するものではなくなるおそれがある。
【0024】
本発明の外用剤は、本発明の有効成分に加え、さらに、炭素数16~20の一価の高級アルコールまたは合成スクワランを含有する。本発明の外用剤は、炭素数16~20の一価の高級アルコールまたは合成スクワランを含有することにより、本発明の外用剤を皮膚に適用した際に、本発明の有効成分の表皮内への移行が促進される。すなわち、本発明の外用剤における炭素数16~20の一価の高級アルコールまたは合成スクワランは、本発明の有効成分の経皮吸収促進剤としての作用を有する。
【0025】
本発明の外用剤に含まれる炭素数16~20の一価の高級アルコールまたは合成スクワランは、高級アルコールまたは合成スクワランのみであってもよくまたは高級アルコールと合成スクワランの組合せであってもよい。また、高級アルコールは、1種のみでもまたは2種以上の組合せであってもよい。
【0026】
炭素数16~20の一価の高級アルコールにおける炭化水素鎖(脂肪族)は、飽和炭化水素であっても不飽和炭化水素であってもよい。炭素数16~20の一価の高級アルコールは、好ましくは分岐鎖構造を有する。これに限定されないが、例えば、セチルアルコール(セタノール)、ヘプタデカノール、ステアリルアルコール、ノナデシルアルコール、アラキルアルコール(イコサノール)、パルミトイルアルコール、オレイルアルコール、2-オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール、イソステアリルアルコールを挙げることができ、好ましくは、セチルアルコール(セタノール)、ステアリルアルコール、オレイルアルコール、2-オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール、またはイソステアリルアルコールであり、より好ましくは、2-オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール、またはイソステアリルアルコールである。
【0027】
2-オクチルドデカノールは、以下の構造式を有する、炭素数20、分子量298.5の一価の分岐構造を有する高級アルコールである。
【0028】
【化5】
【0029】
ヘキシルデカノールは、以下の構造式を有する、炭素数16、分子量242.44の一価の分岐構造を有する高級アルコールである。
【0030】
【化6】
【0031】
イソステアリルアルコールは、以下の構造式を有する、炭素数18、分子量270.49の一価の分岐構造を有する高級アルコールである。
【0032】
【化7】
【0033】
合成スクワランは、以下の構造式を有する、炭素数30、分子量410.73の高級脂肪酸である。
【0034】
【化8】
【0035】
本発明の外用剤は、炭素数16~20の一価の高級アルコールまたは合成スクワランを、例えば、外用剤の全量に対し、下限として、約2重量%、好ましくは約3重量%、より好ましくは約5重量%の量にて、上限として、約40重量%、好ましくは約30重量%、より好ましく約20重量%の量にて含有する。含有量が、約2重量%より少ないと、有効成分の経皮吸収性が不十分となり、一方、約40重量%より多いと、結晶の析出が顕著となりまた製剤化が難しくなる。
【0036】
本発明の外用剤は、アニリン誘導体である有効成分に加え、炭素数16~20の一価の高級アルコールまたは合成スクワラン(以下、単に、本発明の吸収促進剤という場合がある)を含有することを特徴とするが、有効成分と吸収促進剤との配合比は、例えば、1:80~20:1、好ましくは、1:40~15:2、より好ましくは1:20~2:1、さらに好ましくは、1:10~2:1、もっとも好ましくは、1:5~1:1である。これらの配合比の範囲に調整することにより、有効成分の良好な経皮吸収性を達成できるとともに、皮膚用外用剤としての製剤化が容易となる。
【0037】
本発明の外用剤は、皮膚に適用(塗布)できる外用剤であれば特に制限がないが、好ましくは、油脂性基剤を用いた油脂性軟膏剤、さらに好ましくは、有効成分が軟膏基剤にほぼ均一に分散している分散型軟膏剤である。本発明の有効成分であるアニリン誘導体は、難溶性であることに加え、水に溶解すると不安定であるので、油脂性基剤を用いるのが好ましく、更には結晶状態で分散している結晶分散型軟膏剤であると、有効成分がより安定となりより好ましい。結晶分散型軟膏剤は調製が簡便であるという利点があるが、一方、薬物の吸収性が劣るという欠点を有する。本発明においては、有効成分であるアニリン誘導体を、炭素数16~20の一価の高級アルコールまたは合成スクワランと組み合わせて用いることにより、これらの欠点を克服し、主薬安定性および経皮吸収性が良好である皮膚用外用剤、特には軟膏剤が提供できる。
【0038】
以下、軟膏剤の剤形の本発明の皮膚用外用剤について記載する。しかし、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明の外用剤を油脂性軟膏剤として製造する場合は、30重量%以上の油脂性基剤を含むことが好ましい。油脂性軟膏剤における油脂性基剤の含有量は、より好ましくは、40~90重量%、さらに好ましくは50~90重量%、よりさらに好ましくは60~90重量%である。ここでいう油脂性基剤の含有量は、以下に例示するワセリンその他の油脂性基剤を合計した含有量を意味するが、本発明において吸収促進剤として機能する炭素数16~20の一価の高級アルコールや合成スクワランを含まない含有量を意味する。
【0039】
本発明において使用する油脂性基剤は、皮膚に付着し、有効成分を長く皮膚にとどめ、塗りやすく、皮膚に対する刺激性がなく、有効成分の安定性に影響しないものを使用できる。本発明においては、公知の油脂性基剤(軟膏基剤)を用いることができるが、好ましくはワセリンを挙げることができる。本発明におけるワセリンは、日本薬局方における黄色ワセリン、白色ワセリンのいずれであってもよいが、白色ワセリンが好ましい。また、油脂性基剤として、例えば、天然ロウ、石油ロウ、その他の炭化水素類等が例示できる。天然ロウとしては、ミツロウ(無漂白ミツロウ、非化学漂白サラシミツロウ、化学漂白サラシミツロウ等)、カルナウバロウ等が例示できる。石油ロウとしては、パラフィン、マイクロクリスタリンワックス等が例示できる。その他の炭化水素類としては、脂肪酸、脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステル、高級アルコール、炭化水素、シリコン系油、流動パラフィン等を挙げることができる。好ましくは、パラフィン、ワックス、およびミツロウからなる群より選択される炭化水素類が例示できる。
【0040】
本発明における軟膏基剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。例えば、ワセリンとその他の油分との混合物を使用することができる。使用することができるその他の油分としては、固形状、半固形状または液状の何れでもよい。本発明の外用剤に含まれる炭素数16~20の一価の高級アルコールを、ここでいうその他の油分として用いることもできる。
【0041】
本発明の皮膚用外用剤は、アニリン誘導体に加え、1種または2種以上の添加剤と混合することによっても調製することもできる。必要に応じて添加される添加剤としては、皮膚用化粧料や外用医薬品の製剤に一般的に用いられる、水(精製水、温泉水、深層水等)、アルコール、油剤、界面活性剤、金属セッケン、ゲル化剤、粉体、アルコール類、水溶性高分子、皮膜形成剤、樹脂、紫外線防御剤、包接化合物、抗菌剤、香料、消臭剤、塩類、pH調整剤、抗酸化剤(安定化剤)、清涼剤、動物・微生物由来抽出物、植物抽出物、血行促進剤、収斂剤、抗脂漏剤、美白剤、抗炎症剤、活性酸素消去剤、細胞賦活剤、保湿剤、キレート剤、角質溶解剤、酵素、ホルモン類、ビタミン類、および高級アルケン酸(例えば、オレイン酸等)のような上記した以外の吸収促進剤などが挙げられる。軟膏剤の調製は、常法に従って行うことができ、前記添加剤の配合量も本発明の効果を損なわない範囲で、常法に従って決定することができる。
【0042】
本発明の軟膏剤はさらに、他の皮膚の疾患に有効な薬剤を含んでいてもよい。例えば、グリチルレチン酸等の抗炎症剤、クロルフェニラミンマレイン酸塩等の抗ヒスタミン剤、アルニカチンキ等の生薬成分等を挙げることができ、本発明の効果を損なわない範囲で他の皮膚の疾患に有効な薬剤を配合することができる。
【0043】
本発明の軟膏剤は、有効成分であるアニリン誘導体が、本発明の吸収促進剤とともに、軟膏基剤中に分散した構造を有し、好ましくは、アニリン誘導体は、結晶として、軟膏基剤中に分散した構造を有する。このような構造を有する本発明の軟膏剤も一般的な軟膏剤の製造法に従って製造することができる。例えば、(1)基剤成分(白色ワセリン、サラシミツロウ、高級アルコール)、必要に応じて界面活性剤や脂肪酸エステルなどの分離抑制剤と基剤成分を加温および撹拌下で均一に混合することにより、油相を調製する。ついで(2)当該油相に、薬物、必要に応じて基剤成分(流動パラフィン、白色ワセリン)と薬剤を加温および撹拌下で均一に混合したものを添加し、混合することにより、所望の軟膏剤を得ることができる。必要に応じて、他の添加剤(pH調整剤等)を、薬剤とともに添加する。撹拌混合には、例えばホモミキサー、パドルミキサー、その組み合わせ等を用いることができる。複数種の軟膏基剤を用いる場合には、予め混合しておくこともできる。
【0044】
本発明の軟膏剤は、利用可能なあらゆるチューブ(例えば、アルミチューブ、アルミラミネートチューブ、樹脂(例えば、ポリエチレン)チューブ)ばかりでなく、プラスティックジャー容器、ガラス容器等に封入して用いることができる。
【0045】
本発明の有効成分であるアニリン誘導体は、DNA型ウイルスに対して抗ウイルス活性を有する。従って、本発明の皮膚用外用剤(特には、軟膏剤)は、DNAウイルス性疾患の治療、改善、および/または進行抑制のために用いることができる。本発明の有効成分が抗ウイルス活性を示すウイルスとしては、これに限定されないが、例えば、ヒトアデノウイルス、B型肝炎ウイルス、ヒトヘルペスウイルス(例えば、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、EBウイルス、ヒトヘルペスウイルス8型、水痘帯状疱疹ウイルス)、天然痘ウイルス、ポリオーマウイルス、ウシヘルペスウイルス(例えば、ウシヘルペスウイルス1型)、ヒトパピローマウイルス(HPV)、ウシパピローマウイルス、イヌパピローマウイルスおよびネコパピローマウイルスを挙げることができる。好ましくは、HPV、単純ヘルペスウイルス、ヒトヘルペスウイルス8型、ウシパピローマウイルス、水痘帯状疱疹ウイルスであり、より好ましくは、HPVである。
【0046】
本発明の皮膚用外用剤(特には、軟膏剤)は、これに限定されないが、ヒトパピローマウイルス(HPV)、ヒトヘルペスウイルス、ウシパピローマウイルス、ウシヘルペスウイルス、イヌパピローマウイルスまたはネコパピローマウイルスに起因する疾患に用いられる。ヒトの疾患については、本発明の皮膚用外用剤は、好ましくは、HPVに起因する疾患、例えば、疣贅、尖圭コンジローマ、外陰上皮内腫瘍、肛門上皮内腫瘍または膣上皮内腫瘍、単純ヘルペスウイルスに起因する口唇ヘルペスや性器ヘルペスやカポジ水痘様発疹症、ヒトヘルペスウイルス8型に起因するカポジ肉腫、水痘帯状疱疹ウイルスに起因する水疱瘡および帯状疱疹などに好ましく用いられ、より好ましくは、HPVにより引き起こされる疾患に用いられる。本発明の皮膚用外用剤は、HPVによる疣贅または尖圭コンジローマに特に好ましく用いられる。ウシの疾患については、本発明の皮膚用外用剤は、好ましくは、ウシパピローマウイルスに起因する疾患、例えば、牛乳頭腫症、ウシヘルペスウイルス1型に起因する疾患、例えば、牛伝染性鼻気管炎や牛伝染性膿疱性外膣炎などに好ましく用いられる。イヌの疾患については、本発明の皮膚用外用剤は、好ましくは、イヌパピローマウイルスに起因する乳頭腫、内反性乳頭腫および多中心性上皮内扁平上皮癌などに好ましく用いられる。ネコの疾患については、本発明の皮膚用外用剤は、好ましくは、ネコパピローマウイルスに起因する乳頭腫、内反性乳頭腫および多中心性上皮内扁平上皮癌などに好ましく用いられる。
【0047】
本発明の皮膚用外用剤(特には、軟膏剤)を適用できる対象は、DNA型ウイルスに起因する疾患を発症する哺乳動物であれば制限がない。対象は、これに限定されないが、例えば、ヒト、サル、マウス、ラット、イヌ、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、ネコ、ウサギ、ハムスター、モルモットを挙げることができ、好ましくは、ヒト、イヌ、ウシ、ネコ、ウサギを挙げることができ、さらに好ましくはヒトまたはウシ、特に好ましくはヒトを挙げることができる。対象はまた、好ましくは、上記したウイルスに起因する疾患を発症する哺乳動物であり、より好ましくは、パピローマウイルス、ヒトヘルペスウイルスに起因する疾患を発症する哺乳動物であり、特に好ましくは、ヒトパピローマウイルスに起因する疾患を発症する哺乳動物である。
【0048】
本発明の皮膚用外用剤(特には、軟膏剤)は、抗ウイルス剤として対象の皮膚の患部に使用することができる。本発明の皮膚用外用剤は、これを1日1回~数回、適量を患部に塗布する。
【0049】
本発明の皮膚用外用剤(特には、軟膏剤)はまた、レーザー治療(レーザー蒸散)や液体窒素を用いた凍結療法、電気焼灼、外科的切除等の外科的治療を含む治療の処置をした皮膚の患部に使用することにより、再発の防止に用いることができる。
【実施例
【0050】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
(実施例1)軟膏剤の製造
軟膏剤の製造工程の概略を図1に示す。一価の高級アルコールである2-オクチルドデカノールおよび合成スクワランは添加剤であり、RKP00156は主薬である。
(1)基剤相の調製
秤取した白色ワセリン、サラシミツロウ、モノステアリン酸グリセリン、および一価の高級アルコールまたは合成スクワランを、乳化機を用い、パドルおよびホモジナイザーにより、加温しながら撹拌し、基剤相を調製した。
【0052】
(2)主薬分散相の調製
主薬として、以下の式(I-a)で示される化合物(化合物I-a):
【0053】
【化9】
を用いた(以下、上記化合物をRKP00156と記す場合がある。)。主薬、流動パラフィンおよび白色ワセリンを加温しながら均一に混合し、主薬分散相を調製した。主薬の分散は、目視により確認した。
【0054】
(3)軟膏剤の調製
基剤相に、主薬分散相を加え、内容物が均一になったところで、徐々に冷却し容器に充填する前の軟膏を調製した。
【0055】
上記の工程により、以下の表1に示す組成からなる、主薬(化合物I-a)を5%含有する軟膏剤(実施例1~実施例7)を製造した。実施例1~6において用いた一価の高級アルコールは、以下の通りである。炭素数が16~20の一価の高級アルコールは、実施例2~4である。
実施例1:ブチルオクタノール(炭素数12、分子量186.3)
実施例2:2-オクチルドデカノール(炭素数20、分子量298.5)
実施例3:ヘキシルデカノール(炭素数16、分子量242.44)
実施例4:イソステアリルアルコール(炭素数18、分子量270.49)
実施例5:デシルテトラデカノール(炭素数24、分子量354.66)
実施例6:ドデシルヘキサデカノール(炭素数28、分子量410.76)
【0056】
【表1】
【0057】
比較例として、同様にして、以下の表2に示す組成からなる、主薬を5%含有する軟膏剤(比較例1~比較例3)を製造した。比較例1は吸収促進剤を含まない。比較例2と比較例3は、軟膏剤で一般に用いられる吸収促進剤である、中鎖脂肪酸トリグリセリド(比較例2)とミリスチン酸イソプロピル(比較例3)を含有させた。
【0058】
【表2】
【0059】
(試験例1)表皮への組織移行性の確認
軟膏剤の主薬のラット表皮への組織移行性を以下のようにして確認した。
SD系ラット(雄、7週齢)を用い、軟膏剤の塗布の前日に、ラットの背部を毛刈りした。動物を麻酔下にて、毛刈り済みの背部の皮膚3cm×3cmの範囲に軟膏剤50μL(約5mg/cm)を均一になるように塗布した。軟膏剤の塗布は、被覆するフィルムにあらかじめ塗り広げておき、ラット背部皮膚に貼り付けることにより行った。塗布後、直ちに投与部位をフィルムで被覆し、さらに粘着性伸縮包帯を巻いて固定した(いわゆる、密封包帯法で行った)。投与後、0、3、および6時間後に、イソフルラン麻酔下にて、後大静脈より採血後、放血によって動物を安楽死させ、粘着性伸縮包帯およびフィルムを剥がした。フィルムを剥がした部分を乾いた脱脂綿等で拭き取りを行った後、お湯で濡らした脱脂綿で2回拭き取り、70%アルコール綿花でさらに4回拭き取った。その後、塗布した部分をカミソリで剃り、3回テープストリッピングした後、塗布部分の皮膚を採取した。採取した皮膚を表皮と真皮にわけ、それぞれの組織から主薬である化合物I-aを抽出し、LC/MS/MSで濃度を測定し、各組織への組織移行性を確認した。結果を図2に示す。
【0060】
本発明の有効成分(化合物I-a)の経皮吸収において、中鎖脂肪酸トリグリセリド(比較例2)は効果がなく、ミリスチン酸イソプロピル(比較例3)は僅かに経皮吸収を促進したが、不十分なものであった。それに比べ、一価の高級アルコールまたは合成スクワランを添加した本発明の軟膏剤(実施例1~7)は、本発明の有効成分の経皮吸収が優位に促進され、特に、2-オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール、イソステアリルアルコール、または合成スクワランを含有した軟膏剤は、顕著な経皮吸収促進効果を示した。
【0061】
(実施例2)経皮吸収促進剤の添加量の検討(1)
主薬の経皮吸収における、吸収促進剤の添加量の影響を以下のようにして確認した。吸収促進剤として、2-オクチルドデカノール、ヘキシルデカノール、または合成スクワランを用い、以下の表3に示す添加量に変更して、実施例1と同様にして軟膏剤(実施例8~実施例11)を製造した。
【0062】
【表3】
【0063】
製造した軟膏剤を用いて、試験例1と同様にして、主薬のラットの組織移行性を検討した。結果を図3に示す。吸収促進剤の濃度依存的に、経皮吸収の促進効果が確認された。
【0064】
(実施例3)経皮吸収促進剤の添加量の検討(2)
軟膏剤の製造における一価の高級アルコールの添加量について検討を行った。吸収促進剤として2-オクチルドデカノールを用い、配合割合を20%~50%にて軟膏剤を製造し、製造した軟膏剤の粘性を測定した。配合割合および製造した各軟膏剤の粘度を以下の表4に示す。
【0065】
【表4】
【0066】
2-オクチルドデカノールの添加量依存的に、軟膏剤が低粘度化した。40%までの配合割合の軟膏剤は半固形状であったが、50%配合したものは粘性の高い液状であった。よって、吸収促進剤は、40%までは配合できることが確認された。また、製造された軟膏剤を皮膚に塗布して、使用感を確認した。製造された製剤の物性評価(性状、粘度、結晶成長度、塗布感)の結果、2-オクチルドデカノールの添加量は、20%以下が最も好ましかった。
【0067】
(試験例2)皮膚刺激性の検討
ラットに、実施例1と同様にして製造した、以下の表5に示す組成からなる、主薬を3%、5%、10%含む軟膏(用量:1日当たり15、25、50mg/body)(実施例17~19)及びプラセボ軟膏、0.5gを1日1回、90日間背部皮膚に経皮投与したところ、いずれの軟膏も投与部位に変化は認められず、皮膚刺激性はなかった。また、健常人の背部皮膚に軟膏剤(主薬を5%及び10%含む2用量)(実施例18及び19)及びプラセボ軟膏、0.5gを1日2回、12時間間隔での7日間反復経皮投与したところ、いずれの軟膏も投与部位の皮膚刺激性は認められなかった。
【0068】
【表5】
【0069】
さらに、表1に示す実施例3と実施例7の組成の主薬を5%含む軟膏を健常人の正常皮膚に塗付したところ、3時間後と6時間後に投与部位に刺激性は認められなかった。
【0070】
(実施例4)経皮吸収促進剤の組合せの検討
実施例1と同様にして、以下の表6に示す組成からなる、主薬を5%含有する軟膏剤(実施例20と21を製造した。
【0071】
【表6】
【0072】
試験例1と同様にして、製造した軟膏剤からラット表皮中への主薬の移行性を確認した。結果を図4に示す。吸収促進剤として、一価の高級アルコールと合成スクワランを組み合わせて用いた場合も本発明の効果が確認された。
【0073】
本願は、2022年5月2日に、日本に出願された特願2022-75963号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。特願2022-75963号の内容は本明細書中に引用されそして本明細書の一部を構成するものである。
【0074】
上記の詳細な記載は、本発明の目的および対象を単に説明するものであり、添付の特許請求の範囲を限定するものではない。添付の特許請求の範囲から離れることなしに、記載された実施態様に対しての、種々の変更および置換は、本明細書に記載された教示より当業者にとって明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明により、アニリン誘導体を主薬とする皮膚用外用薬が提供された。本発明の皮膚用外用薬は、主薬安定性が維持でき、かつ経皮吸収性がよい。
【要約】
本発明は、アニリン誘導体を主薬と含み、主薬安定性および経皮吸収性が高い皮膚外用剤を提供すること目的とする。本発明により、下記式(I):
[式中、WはSまたはOを表す]で表されるアニリン誘導体もしくはその薬理学的に許容可能な塩、またはそれらの水和物からなる群より選ばれる化合物を有効成分として含有し、さらに、炭素数16~20の一価の高級アルコールまたは合成スクワランを含有する皮膚用外用剤が提供される。
図1
図2
図3
図4