(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】HLA-A*0201陽性無喫煙習慣患者又は元軽度喫煙患者における肺癌を処置するための潜在性TERTエピトープを標的するワクチンの使用
(51)【国際特許分類】
A61K 39/00 20060101AFI20231221BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20231221BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20231221BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20231221BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20231221BHJP
C07K 7/06 20060101ALN20231221BHJP
【FI】
A61K39/00 H ZNA
A61P31/12
A61P35/00
G01N33/53 Y
G01N33/543 545Z
C07K7/06
(21)【出願番号】P 2019561949
(86)(22)【出願日】2018-05-04
(86)【国際出願番号】 EP2018061609
(87)【国際公開番号】W WO2018206462
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-05-06
(32)【優先日】2017-05-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】523304663
【氏名又は名称】クリプティック ファーマシューティカルズ リミテッド
【氏名又は名称原語表記】KRIPTIC PHARMACEUTICALS LIMITED
【住所又は居所原語表記】One Spencer Dock,North Wall Quay,DUBLIN 1,IRELAND
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】コスマトプロス,コスタンティノス
(72)【発明者】
【氏名】メネ-ジャメ,ジャンヌ
【審査官】濱田 光浩
(56)【参考文献】
【文献】特許第5435938(JP,B2)
【文献】Japanese Journal of Lung Cancer ,Vol. 46, No. 6,p. 715-721
【文献】[最新医療]がん経験者 喫煙で二次原発がん発症リスクが上昇,再発転移がん治療情報,2014年12月29日,https://www.akiramenai-gan.com/qol/life/50852/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61P 31/12
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
喫煙を習慣としたことが無い者(無喫煙習慣者)又は25年未満の間の喫煙者(軽度喫煙者)であり、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)を発現する非小細胞肺癌(NSCLC)を有するHLA-A*0201陽性患者における癌の処置に用いるための、配列番号1の潜在性TERT572ペプチドに対するCTL応答を誘導する配列番号2のペプチドを含む組成物。
【請求項2】
TERTを発現する
非小細胞肺癌(NSCLC)を有するHLA-A
*0201陽性患者であって、配列番号2のペプチドを既にワクチン投与されている無喫煙習慣者又は軽度喫煙者である患者における癌の処置に用いるための、配列番号1のペプチドを含む組成物。
【請求項3】
無喫煙習慣者又は軽度喫煙者であり、TERTを発現する
非小細胞肺癌(NSCLC)を有するHLA-A*0201陽性患者における癌の処置に用いるための
、配列番号1及び配列番号2のペプチドの組合せ
医薬であって、配列番号2のペプチドを前記患者に投与して配列番号1のペプチドに対するCTL応答を誘導した後、配列番号1のペプチドを前記CTL応答が誘導された患者に投与する、組合せ医薬。
【請求項4】
前記患者が無喫煙習慣者又は25年未満の間喫煙者であった元喫煙者(元軽度喫煙者)である、請求項1若しくは2に記載の組成物又は請求項3に記載の組合せ
医薬。
【請求項5】
前記患者が非喫煙者又はNSCLC診断の少なくとも5年前に禁煙した元喫煙者である、請求
項1~4のいずれか1項に記載の組成物又は組合せ
医薬。
【請求項6】
前記患者が第一選択の化学療法を受けており、配列番号2のペプチドのワクチン投与前に安定疾病を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物又は組合せ
医薬。
【請求項7】
前記患者が非免疫原性腫瘍を有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の組成物又は組合せ
医薬。
【請求項8】
ワクチン投与前の患者の血液試料において、配列番号1のペプチドに特異的なCTL応答及び/又は配列番号3のペプチドに特異的なCTL応答及び/又は配列番号5のペプチドに特異的なCTL応答が検出できないとき、腫瘍が非免疫原性とみなされる、請求項7に記載の組成物又は組合せ
医薬。
【請求項9】
前記患者の血液試料が、白金ベースの第一選択化学療法の終了後2週間未満で採取されたものである、請求項8に記載の組成物又は組合せ
医薬。
【請求項10】
前記患者が転移性癌を有する、請求項1~9のいずれか1項に記載の組成物又は組合せ
医薬。
【請求項11】
前記患者が男性である、請求項1~10のいずれか1項に記載の組成物又は組合せ
医薬。
【請求項12】
前記患者が非扁平上皮(NSQ)NSCLCを有する、請求項1~11のいずれか1項に記載の組成物又は組合せ
医薬。
【請求項13】
前記患者がECOG>0、好ましくはECOG=1を有する、請求項1~12のいずれか1項に記載の組成物又は組合せ
医薬。
【請求項14】
TERT陽性NSCLCを有するHLA-A*0201陽性無喫煙習慣患者又は軽度喫煙患者が、配列番号1及び2のペプチドのワクチン投与による免疫療法処置に対して良好なレスポンダーとなる可能性があるかをインビトロで決定する方法であって、腫瘍の免疫原性を評価することを含み、腫瘍が非免疫原性であるとき、患者は前記免疫療法処置に対して良好なレスポンダーである可能性がある、方法。
【請求項15】
前記腫瘍の免疫原性を、ワクチン投与前の前記患者の血液試料において、配列番号1のペプチドに特異的なCTL応答を測定することにより、及び/又は配列番号3のペプチドに特異的なCTL応答を測定することにより、及び/又は配列番号5のペプチドに特異的なCTL応答を測定することにより評価し、前記CTL応答が検出できないとき腫瘍は非免疫原性である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
配列番号1のペプチドに特異的なCTL応答及び/又は配列番号3のペプチドに特異的なCTL応答及び/又は配列番号5のペプチドに特異的なCTL応答を、酵素結合免疫スポット(ELISpot) IFNgアッセイにより測定する、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
(i)ELISpotアッセイを行うための試薬及びプレートと、(ii)配列番号1、配列番号3及び配列番号5からなる群より選択されるペプチドと、(iii)陰性対照としての無関係のペプチドとを含む、請求項14~16のいずれか1項に記載の方法を行うためのキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌免疫療法の分野、より具体的には抗腫瘍ワクチン投与の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
癌免疫療法は、腫瘍抗原に由来し、HLAクラスI分子により腫瘍細胞表面にて提示されるペプチドを認識する細胞傷害性Tリンパ球(CTL)を刺激することを意図する。CTL標的ペプチドは、MHC分子に関する親和性に依存して、優性又は潜在性であり得る。
腫瘍関連抗原(TAA)は、頻繁に腫瘍細胞及び正常組織の両方により発現されるのに対し、ネオ抗原は腫瘍特異的であり、ほとんどの場合で患者特異的である。腫瘍が幅広く発現する抗原を依然として標的しつつTAAに対しては寛容となる問題を回避するために、本発明者らは、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)の潜在性ペプチド、すなわちHLA-A*0201分子に関して低親和性を示し、不安定なペプチド/HLA-I複合体を形成するペプチドを標的するワクチン(Vx-001)を提案した(Menez-Jamet J.ら、2016)。HLA-I親和性と免疫原性との強い相関性に鑑みて、この潜在性ペプチドは本質的に非免疫原性である。よって、癌ワクチンとして用いるため、この潜在性ペプチドは免疫原性が増強されるように最適化された。
【0003】
よって、Vx-001は2つの9アミノ酸ペプチドで構成される:腫瘍細胞が発現するWT潜在性TERT572 (RLFFYRKSV、配列番号1)及びその最適化バリアントTERT572Y (YLFFYRKSV、配列番号2)。これら2つのペプチドは、アジュバントであるMontanide ISA51(登録商標)VG(高純度鉱物油(Drakeol 6VR)と界面活性剤(モノオレイン酸マンニド)との混合物)とともに、別々に投与される。最適化免疫原性TERT572Yは、大きな免疫応答を引き起こすために、最初の2回のワクチン接種で投与される。WT TERT572は、その後のワクチン接種で、TERT572Yで刺激された全てのT細胞のうち、HLA-A*0201と関連する腫瘍細胞の表面に提示されるWT TERT572に関して最高の特異性を有するものを選択するために投与される。
【0004】
腺癌、扁平上皮癌及び大細胞癌を含む非小細胞肺癌(NSCLC)は、最も一般的な型の肺癌であり、肺癌症例の約80%に相当する。これは、世界中で年間およそ1.2百万の新たな症例の原因となる。
肺癌症例の大多数(85%)は長期喫煙による。肺癌の危険因子としての喫煙の関連は、1950年代から確立されている。
にもかかわらず、ある個体についてのタバコへの曝露を測定することは、自明ではない。なぜなら、全ての喫煙者が同じ量で喫煙をするわけではなく、喫煙者は長年の間に喫煙習慣を変動させることが多いからである。更に、タバコ中の変異原に対する感受性は、ある程度個別に異なる。よって、客観的パラメータにより癌患者を階層化するための喫煙関連危険因子を定量化する幾つかの方法が提案されている。
【0005】
第一の方法は、「箱・年」単位を用いて、ある人が長期間にわたって喫煙した量を測定することからなる。箱・年は、毎日20本1年間の喫煙と定義される。1個体の「箱・年」数は、1日に喫煙した箱数に、その人が毎日この量の喫煙をした年数を乗じることにより算出される。例えば、1箱・年は、1年間1日当たり20本(1箱)の喫煙、又は半年間1日当たり40本の喫煙、又は2年間1日当たり10本の喫煙などと等しい。よって、このパラメータは、喫煙期間だけでなく喫煙強度も考慮する。
他の方法は、各個体における喫煙の結果を反映する喫煙分子サインの同定に基づく。最近の研究で、Rizviらは、腫瘍細胞におけるトランスバージョン変異の量に基づく分子喫煙サインの存在を証明した(Rizvi NA.ら、2015)。このパラメータは、個体の喫煙量ではなく喫煙の影響に着目して、トランスバージョン高(TH、喫煙サイン)腫瘍をトランスバージョン低(TL、無喫煙サイン)腫瘍と区別する。
EGFR及び/又はKRAS遺伝子における変異の量及び/又は性質に基づく別の分子喫煙サインがDoganらにより記載された(Dogan Sら、2012)。この刊行物で、著者らは、肺癌において、EGFR変異は、喫煙者の腫瘍よりも無喫煙習慣者(never-smokers)の腫瘍でかなり頻繁に存在するのに対し、KRAS中の変異は喫煙者でより頻繁に存在することを報告した。著者らは、箱・年とは無関係に、非喫煙年数が増加するとEGFR変異の確率が上昇することを観察した。著者らはまた、喫煙者で最も頻繁なG>Tトランスバージョン変異(KRAS G12C)はが女性でより頻繁であり、これら女性は、同じ変異を有する男性よりも若年であることを示した。このことから、女性は、男性よりタバコ発癌物質に対する感受性が高いことが示唆される。
【0006】
肺癌症例の約10~15%は、喫煙経験がないか又は軽度の喫煙経験を有する人に生じる。喫煙に関連しない肺癌は、環境、ホルモン、月経周期及びウイルス感染を含む他の危険因子によることがある。
重要なことに、喫煙に関連しない肺癌は、喫煙に関連する肺癌より悪い予後を有する。
喫煙は腫瘍変異の高負荷と高度に関連するが、喫煙に関連しない肺癌は、腫瘍変異レベルが低いことを特徴とする(Rizvi NA.ら、2015)。この理由から、喫煙誘導肺癌とは対照的に、無喫煙習慣者又は軽度喫煙者の肺癌は、免疫チェックポイント阻害薬に感受性でない。
【0007】
Vx-001は、無作為化第IIb相臨床試験において、4サイクルの白金ベース化学療法後に疾病管理を経験した転移又は再発ステージI~IIIのNSCLC患者で試験された。
患者は、TERTを発現する腫瘍を有してHLA-A*0201陽性である必要があった。この試験の主目的は全生存率であった。この試験の結果は、全体的には統計学的に有意でなかったが、患者の喫煙歴の分析及びワクチンに対する特異的免疫応答(免疫モニタリングデータ)、年齢などのような他の特徴を考慮した詳細な結果分析によって、患者の階層化が導かれ、Vx-001のワクチン投与が有益であると判明した患者のカテゴリーが同定された。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、別々に投与される2つのペプチド(配列番号1及び配列番号2)で構成されるワクチンであるVx-001の投与に応答する可能性がより高い患者の選択に関する。
本発明は、無喫煙習慣者又は軽度喫煙者(すなわち、25年未満又は30年未満の間の喫煙者)であり、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)を発現する非小細胞肺癌(NSCLC)を有するHLA-A*0201陽性患者における癌を処置するための、このワクチン及びその各構成成分の使用に関する。患者は、軽度喫煙者である場合、好ましくは元軽度喫煙者、すなわちNSCLC診断前に禁煙した軽度喫煙者である。
本発明はまた、TERTを発現するNSCLCを有するHLA-A*0201陽性無喫煙習慣患者又は軽度喫煙患者が、Vx-001に応答する可能性がより高いかを決定するセラノスティクス法であって、腫瘍が非免疫原性であるとき、患者は良好なレスポンダーである可能性がより高い、セラノスティクス法に関する。
本発明の別の態様は、セラノスティクス法を行うためのキットである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】自然免疫あり(左)又はなし(右)の患者の異なる腫瘍抗原に対する応答。
【
図3】全ての評価した患者の臨床転帰(OS及びTTF)。
【
図4】29名のプラシーボ及び26名のワクチン投与の無喫煙習慣者及び元軽度喫煙者(25年未満の間喫煙している)の臨床転帰;11.2対16.2 mo;p=0.07;HR=0.59 (0.32~1.06)。
【
図5】自然免疫なしの無喫煙習慣者及び元軽度喫煙者(25年未満の間喫煙している)の臨床転帰。16名のプラシーボ及び17名のワクチン投与;7.9対20.7 mo;p=0.0007;HR=0.29 (0.13~0.67)。
【
図6】第一選択化学療法後に安定疾病(SD)を有して試験に参加した無喫煙習慣者及び元軽度喫煙者(25年未満の間喫煙している)の臨床転帰。14名のプラシーボ及び15名のワクチン投与。12.4対24.7 m;p=0.004;HR=0.33 (0.14~0.78)。
【
図7】男性の無喫煙習慣者及び元軽度喫煙者(25年未満の間喫煙している)の臨床転帰。18名のプラシーボ及び14名のワクチン投与。11.1対24.7 m. p=0.01;HR=0.37 (0.16~0.81)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
第一の実施形態によると、本発明は、無喫煙習慣者又は軽度喫煙者であり、TERTを発現するNSCLCを有するHLA-A*0201陽性患者における抗腫瘍CTL応答を誘導するための、最適化ペプチドTERT572Y(配列番号2のペプチド)の使用に関する。
この抗癌免疫療法を行う場合、TERT572Yのワクチン投与は、潜在性ペプチドTERT572(配列番号1)に対するCTL応答を誘導する。
配列番号2のペプチドの初回ワクチン投与により誘導されたCTL応答は、好ましくは、次いで、配列番号1のペプチドのワクチン投与により維持(又は増幅)される。
本明細書で用いる場合、「処置する」及び「処置」との用語は、1種以上の療法の施行に起因する進行の遅延、クオリティー・オブ・ライフの改善のような重篤度の低減及び/又は生存率の増加をいう。
【0011】
本発明はまた、TERTを発現するNSCLCを有するHLA-A*0201陽性患者であって、配列番号2のペプチドを少なくとも1回(好ましくは2回)既にワクチン投与されている無喫煙習慣者又は軽度喫煙者である患者における肺癌を処置するための天然型ペプチドTERT572(配列番号1のペプチド)の使用に関する。この免疫療法処置の枠内で、配列番号1のペプチドは、患者への配列番号2のペプチドのワクチン投与により開始されたCTL免疫応答を維持する。
本発明はまた、無喫煙習慣者又は軽度喫煙者であり、TERTを発現するNSCLCを有するHLA-A*0201陽性患者における肺癌の処置における、Vx-001、すなわち配列番号1及び配列番号2のペプチドの組合せの使用に関する。既に記載したように、Vx-001の2つのペプチドは別々に投与される。先ず、腫瘍抗原TERTに対する、より正確には配列番号1の潜在性TERT572ペプチドに対するCTL応答が、患者への配列番号2のペプチドのワクチン投与により誘導された後、患者への配列番号1のペプチドのワクチン投与により維持される。
【0012】
本明細書で用いる場合、「喫煙者」は、1日/週/月の喫煙量にかかわらず、喫煙している個体(現喫煙者)又はもはや喫煙していないが、以前に喫煙経験があった個体(元喫煙者)をいう。喫煙期間は、その個体の生涯における唯一の期間又はその個体が喫煙習慣を中断したときは複数期間の和に相当し得る。
「無喫煙習慣者」(「非喫煙者」ともいう)は、生涯に20本未満の喫煙経験しかない個体である。
本明細書において、「軽度喫煙者」は、最長30年間、好ましくは最長25年間喫煙者である個体である。このパラメータは、2つの理由から、本明細書において前記のように定義した:(i)第IIb相試験のコホートにおける患者の喫煙履歴に関して唯一の入手可能な情報は、恒常的喫煙の年数であったことと、(ii)このパラメータにより、Vx-001-ワクチン投与に対する応答が有意に異なう2つの患者集団(一方は無喫煙習慣者+元軽度喫煙者であり、他方は元重度喫煙者及び現喫煙者である)の階層化に至ったことである。患者が依然として喫煙しているか否かを考慮せずに、喫煙期間のみを考慮すると、更により有意な結果が得られた。このことにより、処置により良好に応答する無喫煙習慣者+軽度喫煙者と、処置が有効でない重度喫煙者とに分けられる。
【0013】
もちろん、「軽度喫煙者」のこの定義は、タバコへの曝露を測定する任意の他のパラメータを用いて変更できる。別のコホートの結果を用いて、当業者は、「軽度喫煙者」の定義を、タバコへの曝露を測定するそのような他の様式に適応できる。タバコへの曝露を測定する非限定的な例は、以下の通りである:
- 喫煙箱・年:上記のように、このパラメータは、喫煙期間だけでなく、喫煙強度も考慮に入れる。当然、当業者は、NSCLC患者コホートについて、本発明の枠内で軽度喫煙者と重度喫煙者とを区別するための適切な箱・年閾値を決定できる。
- 腫瘍細胞におけるトランスバージョン変異の量に基づく分子喫煙サイン:上記のように、Rizviら(2015)は、トランスバージョン高(TH、喫煙サイン)とトランスバージョン低(TL、無喫煙サイン)腫瘍とを区別した。もちろん、集団を区別する閾値(腫瘍において観察されるトランスバージョンの量)は、無喫煙習慣者及び軽度喫煙者のカテゴリーに(中間のトランスバージョン変異数を有する)喫煙者を含めて、より多くのトランスバージョンを示す患者についての重度喫煙サインを決定するように適応させることができる。軽度喫煙者と重度喫煙者とを区別するこの様式は、(バイアスがかかっている場合がある)患者の申告、及びタバコ誘導変異に対する個々の感受性から独立しているので、有利である。
- EGFR及び/又はKRAS遺伝子中の変異の量及び/又は性質に基づく分子喫煙サイン:上記のように、Doganら(2012)は、EGFR及びKRASのような或る特定の遺伝子の分析に基づく分子喫煙サインを規定して、タバコにより頻繁に引き起こされる変異を有するNSCLC患者と、タバコから独立した変異を有する患者(無喫煙習慣患者+軽度喫煙患者)とを区別できることを記載した。このような分子サインは、もちろん、当業者がより精緻化することができ、NSCLC患者を分別して、本発明に従ってVx-001ワクチン投与に応答する可能性がより高い患者を同定ように適応できる。
【0014】
本発明の特定の実施形態によると、Vx-001は、無喫煙習慣者又は25年未満(又は最大25年)の間喫煙者であった元喫煙者である患者に投与される。
別の特定の実施形態によると、患者は、無喫煙習慣者又はNSCLC診断の少なくとも5、少なくとも7、少なくとも10若しくは少なくとも15年前に禁煙した元喫煙者である。
【0015】
下記の実験の部に記載する好ましい実施形態によると、患者は、先ず、配列番号2のペプチドを2回ワクチン投与され、次いで、配列番号1のペプチドを4回ワクチン投与され、これらワクチン投与の間隔は3週間である(「誘導相」)。もちろん、当業者(医師又は臨床研究者)は、異なるワクチン投与プロトコールを選択できる。可能なバリエーションは、CTL応答を誘導するための配列番号2の初期ワクチン投与の数(1、2又はそれ以上)、ワクチン投与間隔(例えば、1~4週間又はそれ以上)、誘導相における配列番号1のワクチン投与数(1~10又はそれ以上)、及びワクチンの処方を含む。具体的には、Montanideとは異なるアジュバントを試験でき、場合により、プロトコールの適応が必要になる可能性がある。
【0016】
別の実施形態によると、上記の誘導相の後、患者は、配列番号1のペプチドを更にワクチン投与され、TERTに対するCTL応答が維持される(「安定化相」)。この更なるワクチン投与は、例えば、3か月ごとに行うことができる。更なるワクチン投与は、再発まで行うことができる。もちろん、当業者(医師又は臨床研究者)は、安定化相について異なるプロトコールを選択できる。可能なバリエーションは、ワクチン投与の間隔に関するもの(例えば、ワクチン投与は、毎月、2か月ごと又は特に長期の寛解の後はより低い頻度、例えば6か月ごとに行うことができる)、及び用いるペプチドを含む。実際、医師は、CTL応答を定期的にモニタリングし、応答の低下が観察されたとき、配列番号2のペプチドを再び患者にワクチン投与することを選択できる。換言すれば、医師は、患者の応答及び状態に応じて安定化相を適応できる。
【0017】
本発明の別の特定の実施形態によると、患者は、配列番号2のペプチドの最初のワクチン接種前に、第一選択化学療法、例えば白金ベースの化学療法、例えばシスプラチンベースの化学療法を受けている。この場合、患者は、好ましくは、配列番号2のペプチドのワクチン投与の前/際に、非進行性疾病、より好ましくは安定疾病を有する。
本発明の枠内で、他の治療スキームが企図される。例えば、Vx-001は、TERTを発現するNSCLCを有するHLA-A*0201陽性無喫煙習慣者又は軽度喫煙者において、化学療法の前又は最中に投与できる。TERTを発現する非免疫原性腫瘍を有するHLA-A*0201陽性非喫煙者又は軽度喫煙者について、第一選択のVx-001処置も有利に企図できる。この場合、腫瘍の免疫原性状態は、診断時に、例えば酵素結合免疫スポット(ELISpot) IFNgアッセイを用いて腫瘍抗原特異的CTLを検出することにより又は任意のその他の方法、例えばTIL検出若しくは遺伝子発現プロファイリングにより決定される。
【0018】
下記の実験の部に記載するように、本発明者らは、Vx-001ワクチン投与前にいくつかの腫瘍抗原に対するCTL応答を測定した。そのようにすることにより、本発明者らは、Vx-001を用いる免疫療法の開始前にTERT572に対するCTL応答を有する患者は、他の腫瘍エピトープに対するCTL応答も有することを示した。よって、本発明者らは、いくらかの患者は、免疫原性腫瘍を有する患者もいれば、非免疫原性腫瘍を有する(腫瘍抗原に対する著しいCTL応答を有さない)患者もいると仮定した。本発明者らはまた、非免疫原性腫瘍を有する無喫煙習慣者及び元軽度喫煙者は、免疫原性腫瘍を有する無喫煙習慣者及び元軽度喫煙者より、Vx-001に対して著しく良好に応答することを示した。よって、本発明の好ましい実施形態は、TERTを発現する非免疫原性NSCLCを有するHLA-A*0201陽性無喫煙習慣患者又は元軽度喫煙患者のNSCLCの処置における、Vx-001又はその構成成分の使用である。
本明細書において、「免疫原性腫瘍」は、腫瘍抗原に対して著しいCTL応答を誘発する腫瘍をいう。本発明を実施する場合、腫瘍の免疫原性は、患者の血液試料中のTERT572 (配列番号1)に特異的なCTLの数及び/又はTERT540 (配列番号3)に特異的なCTLの数及び/又は別の腫瘍抗原に特異的なCTLの数を測定することにより評価できる。例えば、腫瘍の免疫原性は、大多数の腫瘍により発現される普遍的な腫瘍抗原であるサバイビンに対するCTL応答を測定することにより評価できる(Andersen及びThor、2002)。本発明において考慮するHLA-A*0201陽性患者では、この応答は、患者の血液試料中で、エピトープたるサバイビン96 (配列番号5)に特異的なCTLの数を測定することにより検出できる。
【0019】
これに対して、TERT572(配列番号1)、TERT540(配列番号3)及び/又はサバイビン96(配列番号5)に特異的なCTL応答が患者の血液試料において検出されないとき、腫瘍は「非免疫原性」とみなす。下記の実験の部に記載するIFNg ELISpotアッセイを用いて、TERT572ペプチド又は任意の他の腫瘍エピトープに特異的なT細胞を検出できる。もちろん、下記の実験の部に記載するように、腫瘍抗原たる試験ペプチドに対する応答と、無関係のペプチドに対する応答との間に著しい差がない場合、試験腫瘍ペプチドに特異的な応答がない、すなわち腫瘍は非免疫原性であるとみなす。
或いは、腫瘍の免疫原性は、腫瘍からの生検における腫瘍浸潤リンパ球(TIL)のレベルを測定することにより、例えばイムノスコアを用いて(Pages F.ら、2009)、又は遺伝子プロファイリング法を用いて腫瘍の遺伝子発現のプロファイルを決定することにより(Galon J.ら、2013、Rizvi NA.ら、2015、Wang, E.ら、2013)評価できる。
【0020】
本発明者らは、腫瘍に対するCTL応答が化学療法後に検出される患者もいることを見出した。この理由は、おそらく、化学療法後の腫瘍細胞溶解が、これら患者において抗腫瘍免疫応答を誘導し得るほどの大量の腫瘍エピトープの放出を導くというものであろう。これら腫瘍特異的CTLは、化学療法直後に高く検出され得、その後、CTLの量は減少する。本発明者らの仮説は、このCTL応答が、抗PD(L)1処置のような他の免疫療法に対して完全に応答性である免疫原性腫瘍を有する患者に現れるというものである。よって、白金ベースの第一選択化学療法のような化学療法処置を受けた患者について、腫瘍の免疫原性状態は、好ましくは、前記化学療法の終了後2週間未満、例えば化学療法の終了後7日未満で評価する。
【0021】
本発明の特定の実施形態によると、白金ベースの第一選択化学療法の終了後2週間未満、好ましくは7日未満に採取された患者血液試料においてTERT572(配列番号1)に特異的なCTL応答が検出できない場合、腫瘍は非免疫原性とみなされる。
本発明の別の特定の実施形態によると、白金ベースの第一選択化学療法の終了後2週間未満、好ましくは7日未満に採取された患者血液試料においてTERT540(配列番号3)に特異的なCTL応答が検出できない場合、腫瘍は非免疫原性とみなされる。
本発明の別の特定の実施形態によると、白金ベースの第一選択化学療法の終了後2週間未満、好ましくは7日未満に採取された患者血液試料において、サバイビン96(配列番号5)に特異的なCTL応答が検出できない場合、腫瘍は非免疫原性とみなされる。
【0022】
本発明の別の特定の実施形態によると、患者は転移性癌を有する。臨床試験の結果は、実際、無喫煙習慣者及び軽度喫煙者のうち、転移性NSCLC(ステージIV)を有する患者が、再発ステージI~IIIのNSCLCの患者より、処置に対してより良好に応答することを示す。
本発明の別の特定の実施形態によると、患者は男性である。臨床試験の結果は、実際、無喫煙習慣者及び元軽度喫煙者のうち、男性患者が処置に対してより良好に応答することを示す。これら結果は、無喫煙習慣者+全軽度喫煙者(現喫煙者及び25年未満の間喫煙していた喫煙者を含む)を考慮した場合、更により有意であった(表7)。
本発明の別の特定の実施形態によると、患者は非扁平上皮(NSQ)NSCLCを有する。実際、臨床試験の結果は、無喫煙習慣者及び軽度喫煙者のうち、非扁平上皮(NSQ)NSCLCの患者が処置に対してより良好に応答することを示す。
本発明の別の特定の実施形態によると、患者はECOG>0、好ましくはECOG=1を有する。臨床試験の結果は、実際、無喫煙習慣者及び軽度喫煙者のうち、ECOG=1の患者が、ECOG=0の患者より、処置に対してより良好に応答することを示す。
【0023】
別の態様によると、本発明は、TERT陽性NSCLCを有するHLA-A*0201陽性無喫煙習慣患者又は軽度喫煙患者が、配列番号1及び2のペプチドのワクチン投与による免疫療法処置に対して良好なレスポンダーとなる可能性がより高いかをインビトロで決定する方法であって、腫瘍の免疫原性を評価することを含み、腫瘍が非免疫原性であるとき、患者は前記免疫療法処置に対して良好なレスポンダーである可能性が高い、方法に関する。
この方法を行う場合、腫瘍の免疫原性は、前記個体の血液試料において、配列番号1のペプチドに特異的なCTL応答を測定することにより、及び/又は配列番号3のペプチドに特異的なCTL応答を測定することにより、及び/又は配列番号5のペプチドに特異的なCTL応答を測定することにより評価でき、前記CTL応答が検出できないとき、腫瘍は非免疫原性である。
上記の方法の特定の実施形態によると、配列番号1のペプチド又は配列番号3のペプチド又は配列番号5のペプチド又は任意のその他の関連する腫瘍特異的ペプチドに特異的なCTL応答は、酵素結合免疫スポット(ELISpot) IFNgアッセイにより検出される。
本方法の別の特定の実施形態によると、腫瘍の免疫原性は、第一選択化学療法の終了後2週間未満、好ましくは第一選択化学療法の終了後7日未満で評価する。
もちろん、本発明によるセラノスティクス法を行う場合、腫瘍の免疫原性を評価するために任意の他の方法を用いることができる。具体的には、腫瘍からの生検中のTILの量を測定することにより、又は遺伝子プロファイリングにより行うことができる。
【0024】
本発明は、(i)ELISpotアッセイを行うための試薬及びプレートと、(ii)配列番号1、配列番号3及び配列番号5から選択されるペプチドと、(iii)陰性対照としての無関係のペプチドとを含む、上記のセラノスティクス法を行うためのキットにも関する。
本発明による別のキットは、腫瘍細胞における分子喫煙サインを検出するための材料を含む。例えば、このようなキットは、EGFR及びKRASのような或る遺伝子中の特異的変異を検出するためのDNAプローブを含み得る。
本発明による別のキットは、腫瘍の免疫原性を評価するための試薬と、腫瘍細胞における分子喫煙サインを検出するための材料とを含む。
【0025】
本発明の他の特徴は、本発明の枠内で行われ、本発明の範囲を限定することなく必要な実験的サポートを与える以下の臨床試験及び生物学的アッセイについての記載を通しても明らかになる。
【実施例】
【0026】
実験結果
材料及び方法
研究設計及び参加者
Vx-001-201研究は、フランス、ドイツ、スペイン、イタリア、ギリシャ、ポーランド、ルーマニア及びチェコ共和国の70の施設で行われた無作為化二重盲検多施設研究である。主な適格性判断基準は、a)非小細胞肺癌(NSCLC)、b)ステージIV又は再発ステージI~III、c)RECIST 1.1判断基準による白金ベースの第一選択化学療法後の疾病管理、d)HLA-A*0201陽性かどうか、e)テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)を発現する腫瘍、f)ECOG 0又は1、g)脳転移なしであった。
研究は、ヘルシンキ宣言並びに全ての適用可能な規則及び倫理的要求に従って行われた。研究は、その地方の法規に従って各研究施設を担当する独立の倫理委員会により承認された。全ての患者は、書面によるインフォームドコンセントを提出した。
評価項目
a) 主要評価項目:無作為化からの全生存率(OS)
b) 副次的評価項目:
- 無作為化からの治療成功期間(TTF)
- 12か月でのOS
c) 主探索目的
- ワクチン誘導特異的免疫応答の評価
- ワクチン特異的免疫応答と臨床応答との間の相関
【0027】
手順及びワクチン投与プロトコール
全ての選択基準を満たす患者を、第一選択化学療法の終了後4週間以内に無作為化した。
ワクチン投与プロトコールは、3週間間隔での6回のワクチン投与からなった。最適化Vx-001/TERT572Yを最初の2回のワクチン投与で用い、天然Vx-001/TERT572をその後の4回のワクチン投与で用いた。6回目のワクチン投与後に疾病管理が継続した患者は、3か月ごとにVx-001/TERT572の追加ワクチン投与を受けた。ワクチン投与は、疾病進行時に停止した(
図1)。
免疫応答は、1回目のワクチン投与前(ベースライン)、3回目のワクチン投与前(W6)及び6回目のワクチン投与後(W18)に評価した。追加ワクチン投与を受けた患者は、6か月ごとに免疫応答についてモニタリングした。
【0028】
統計解析
標本サイズを算出するために、我々は、プラシーボ群のメジアンOSを9.8か月と推定し、Vx-001群のメジアンOSを15.2か月と予想した。よって、83%の検出力及び0.05の片側アルファを達成するために、(最終解析時での10%の脱落者を含めて)220名の患者を無作為化する必要があった。
プラシーボ:Vx-001比は、1:1であった。
主要及び副次的評価項目を、a)NSCLC、b)ステージIV又は再発ステージI~III及びc)第一選択化学療法後の疾病管理、d)HLA-A*0201が陽性であるか並びにe)TERT発現腫瘍の5つの主判断基準のうち3つを満たす全ての患者で構成される最大の解析対象集団において解析した。
我々は、Kaplan-Meier法を用いて、各群におけるOS及びTTFを推定し、Cox比例ハザード回帰モデルを用いて、処置効果に対するOS及びTTFに関するハザード比(HR)を推定した。
【0029】
免疫モニタリング
免疫応答を、IFNg ELISpotアッセイを用いて測定して、TERT572ペプチドに特異的なT細胞を検出した。末梢血単核細胞(PBMC)は、ワクチン投与前、W6(3回目のワクチン投与前)、W18(6回目のワクチン投与の3週間後)及び追加ワクチン投与を受けた患者についてはその後6か月ごとに採取した血液試料から単離した。PBMCは、-160℃にて保存し、研究を盲検解除するときに試験した。2×105PBMC/ウェルを、抗IFNg抗体(Diaclone)で被覆したプレートにおいて、AIMV血清フリー培地中(6連で)、TERT572又は陰性対照としての無関係のペプチド又は陽性対照としてのCEFペプチドプール又は特異的陽性対照としてのフィトヘマグルチニン(PHA)を用いて一晩刺激した。PBMCの存在は、PHAの存在下でスポット数を測定することにより評価した。PBMCの質を、次いで、CEFペプチドプール(一般的なウイルス、インフルエンザ、HPV及びCMVからの多対立エピトープペプチドの混合物)に対する応答を測定することにより評価した。試料がCEFに対して応答した場合、又は同じ患者の全ての試料がCEFに応答しない場合(患者の病歴に起因するCEF反応性が存在しないことを示す)、当該試料を考慮に入れた。スポット数は、カウンタを用いて定量し、各条件について6つの値の平均を算出した。a)陰性対照平均値とTERT572又はCEF群平均値との間に10スポットを超える差があった場合、及びb)陰性対照平均値とTERT572又はCEF群平均値との間の統計的有意差(p<0.05)があった場合、血液試料はTERT572又はCEFに応答するとみなした。ワクチン投与前のTERT572応答がない患者は、研究プロトコール中にTERT572に対する応答が検出された場合、免疫レスポンダーとみなした。ワクチン投与前のTERT572反応性を有する患者は、(i)このTERT572反応性がワクチン投与後に増幅された(少なくとも2倍)か、又は(ii)患者が先ずワクチン投与前のTERT572反応性を喪失し、新しいTERT572反応性がワクチン投与プロトコールにおいて後で検出された場合にのみ、免疫レスポンダーとみなした。
他のTERTペプチド及び他の抗原に対する免疫応答も、IFNg ELISpotアッセイを用いて測定した。T細胞を検出するために用いたペプチドを、以下の表1に記載する。
【0030】
【0031】
結果
患者
1407名の患者をスクリーニングし、221名の患者を無作為化した。スクリーニング不適格症例の主な理由は次の通りであった、a)患者がHLA-A*0201陰性であった、b) TERT発現評価に適切な生検材料がなかった、及びc)疾病が第一選択化学療法後に進行した。
31名の患者は、主選択基準を満たさなかった(25名の患者は、進行性疾病を有して研究に参加し、2名の患者はNSCLCでない腫瘍を有し、4名の患者は、転移性又は再発疾病を有さなかった)ので、最大の解析対象集団(FAS)の解析から除外した。表2は、FASの190名の患者の個体群統計を示す。
【0032】
【0033】
患者は、化学療法の終了後4週間以内に無作為化された。
【0034】
FAS患者における免疫応答
TERT572特異的免疫応答は、166名の評価可能な患者のうち45名(27.1%)でワクチン投与前に検出された(自然免疫)。自然免疫を有する患者のパーセンテージは、プラシーボ処置及びVx-001処置患者においてそれぞれ24.1%及び30.4%であった。
自然免疫は、TERT572に限定されず、他の腫瘍抗原にも拡張された。自然免疫を有する6名の患者及び自然免疫のない3名の患者のベースラインの血液試料を、NSCLCにおいて過剰発現される6つの更なる抗原に対して試験した。TERT572に対する自然免疫を有する全ての患者が、他の腫瘍抗原(例えばTERT988、TERT540、MAGE248、HER402、サバイビン96、NY-ESO96)に対して反応性のT細胞を有したが、TERT572に対する自然免疫のない患者は、他の腫瘍抗原に対して応答せず、稀に応答が検出されたが、非常に弱いものであった(
図2)。
これら結果から、自然免疫を有する患者は免疫原性腫瘍を有する一方、自然免疫のない患者は非免疫原性又は免疫原性が乏しい腫瘍を有することが強く示唆される。
【0035】
Vx-001処置患者において、TERT572特異的免疫応答を、ベースラインにて79名の患者、W6にて73名の患者、W18にて42名の患者、及び追加ワクチン投与を受けた16名の患者で評価した。全体では、免疫応答は、75名の患者において少なくともW6、W18又はその後に測定した。22名の患者がTERT572特異的免疫応答を示した(29.3%)。驚くべきことに、この応答は、扁平上皮(SQ)NSCLCより非扁平上皮(NSQ)において頻度が有意に高かった(36%対13.3%、p=0.037)。
ワクチン誘導免疫応答は、自然免疫を有する患者より自然免疫なしの患者において頻度が高かったが、統計学的には差はない(15%対36.2% p=0.14)。
【0036】
臨床応答
FAS患者の解析により、プラシーボ処置患者とVx-001処置患者との間でOSに有意差がないことが示された(11.3対14.3か月、p=0.86、HR=0.97、95% CI 0.70~1.34)。TTF(3.5対3.6か月、p=0.36、HR=0.88、95% CI 0.66~1.16)及び12か月生存率(49.5%対58%、p=0.24)のいずれも有意差はなかった(
図3)。
サブグループ分析は、Vx-001処置男性において12か月生存率が有意に高かった(43%対61%、p=0.05)が、Vx-001処置女性においてはそうでなかった以外は、試験したいずれのサブグループでもOS及び12か月生存率に有意差を示さなかった(表3)。更に、無喫煙習慣者又は元軽度喫煙者(≦25年)である患者において有意性が強い傾向があった(OS 11.2対16.2、p=0.07)(
図4)。
【0037】
【0038】
我々は、次いで、無喫煙習慣者又は元軽度喫煙者(≦25年)である患者集団についての解析に焦点を当てた。この患者集団は、免疫チェックポイント阻害薬での処置の利益を享受しない可能性が高い(Reck M.ら、2016、Zhang T.ら、2016)。表4は、この集団の個体群統計を示す。プラシーボとVx-001処置患者との間に、大きな不均衡はなかった。
【0039】
【0040】
表5は、異なるサブグループの臨床転帰を示す。Vx-001は、自然免疫なしの患者において生存を有意に延長した(7.9対20.7 mo、p=0.0007、HR=0.29、95% CI 0.13~0.67)(
図5)。この後者集団では、12か月生存率の有意な増加があった(18.7%対82.3% p=0.0004)。Vx-001は、安定疾病を有して本試験に参加した患者(12.4対24.7 mo、p=0.004、HR=0.33、95% CI 0.14~0.78)(
図6)及び男性(11.1対24.7 mo、p=0.01、HR=0.37、95% CI 0.16~0.81)(
図7)においても、生存を有意に延長した。
【0041】
【0042】
TTFに関して、Vx-001が有利である有意差が、自然免疫なしの患者において観察された(3.1対5.6 mo、p=0.006、HR=0.43 95% CI 0.20~0.92)。
【0043】
【0044】
表7は、無喫煙習慣患者又は軽度喫煙患者(≦25年間の喫煙習慣を有する現喫煙者又は禁煙者)の異なるサブグループの臨床転帰を示す。表4~6で調べた集団(無喫煙習慣者+元軽度喫煙者)と比較して、表7で調べた集団は、現喫煙者であるが軽度喫煙者である(<25年間の喫煙経験を有する)5名の更なる患者を含む。
これら結果は、Vx-001が、無喫煙習慣者/軽度喫煙者においてOSを有意に延長したことを示す。この臨床効果は、NSQ組織像を有し、転移性疾病を有し、ECOG1を有し、自然免疫がない男性の無喫煙習慣者/軽度喫煙者、及び安定疾病を有して本試験に参加した患者において更により強くなった。
【0045】
【0046】
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