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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】活力のある歯髄の再生
(51)【国際特許分類】
   A61L 27/20 20060101AFI20231221BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20231221BHJP
   A61L 27/22 20060101ALI20231221BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20231221BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61K 31/573 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 1/02 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 5/40 20060101ALI20231221BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231221BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20231221BHJP
   A61K 38/18 20060101ALI20231221BHJP
   A61K 31/52 20060101ALI20231221BHJP
   A61K 38/22 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
A61L27/20
A61L27/52
A61L27/22
A61L27/54
A61K45/00
A61K31/573
A61P1/02
A61P9/00
A61P25/00
A61P29/00
A61P37/02
A61P5/40
A61P43/00 105
A61P43/00 111
A61K38/19
A61K38/18
A61K31/52
A61K38/22
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020550177
(86)(22)【出願日】2019-03-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 US2019023132
(87)【国際公開番号】W WO2019183201
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-03-01
(31)【優先権主張番号】62/645,364
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504279968
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ ピッツバーグ - オブ ザ コモンウェルス システム オブ ハイヤー エデュケイション
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】タボアス, ジュアン エム.
(72)【発明者】
【氏名】レイ, ハーバート エル.
(72)【発明者】
【氏名】チェン, ジンミン
(72)【発明者】
【氏名】ドネリー, パトリック ユージーン
(72)【発明者】
【氏名】スウェンソン, タイラー
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-505970(JP,A)
【文献】特開2005-213449(JP,A)
【文献】特開2005-211477(JP,A)
【文献】国際公開第2011/048803(WO,A1)
【文献】Tissue Engineering: Part A,2010年,16(10),3023-3031
【文献】International Dental Journal,2009年,59,pp.297-304
【文献】J Endod.,2017年,43,pp.1279-1287
【文献】J Endod.,2009年,35(6),858-865
【文献】Int Endod J.,2003年,36,868-875
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯内療法後に活力のある歯組織をインサイチュで再生する方法において使用するための、ヒドロゲル足場を含む組成物であって、前記方法は、生来の歯髄が根管から除去された後に、患者における歯の根管にヒドロゲル足場を導入する工程であって、ここで前記ヒドロゲル足場は無細胞である工程を包含し、前記ヒドロゲル足場が、ヘパリンを含む、組成物。
【請求項2】
前記ヒドロゲル足場が、ヘパリンおよびゼラチンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ヒドロゲル足場が、インサイチュで架橋することができるメタクリル化ゼラチンおよびヘパリンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
前記ヒドロゲル足場は、前記患者の内在する細胞の根管への浸潤を引き起こす、化学走性の生体因子、血管形成性の生体因子、神経原性の生体因子、または免疫調節性の生体因子の1つまたは複数を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ヒドロゲル足場は、薬物および生体因子を含まず、前記方法は、
前記ヒドロゲル足場とは別個に、炎症を阻害するかまたは前記患者の内在する細胞の前記根管への浸潤を促進する、化学走性、血管形成性、神経原性、および免疫調節性の生体因子を投与する工程
をさらに包含する、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記ヒドロゲル足場は、スポンジ足場内に保持され、前記スポンジ足場は、前記根管へと前記ヒドロゲル足場とともに導入される、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記方法は、抗炎症薬レジメンで前記患者を処置する工程をさらに包含する、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記患者を前記抗炎症レジメンで処置する工程は、コルチコステロイドまたは非ステロイド系抗炎症薬での処置を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項9】
前記方法は、前記ヒドロゲル足場および前記スポンジ足場を導入した後に、歯の修復手順を行う工程をさらに包含する、請求項に記載の組成物。
【請求項10】
前記ヒドロゲル足場は、前記根管へと注入され、前記根管内の空間全体を実質的に充填する、請求項1~のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記方法は、前記歯の根尖を開けて、細胞浸潤が起こる管を提供する工程をさらに包含する、請求項1~1のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項12】
前記ヒドロゲル足場は、膿瘍が除去された歯根の根尖周囲腔を充填する、請求項1~1のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
移植可能な材料であって、前記材料は、
ヒドロゲル足場;ならびに
歯内療法後に活力のある歯組織をインサイチュで再生するために、患者の内在する細胞の根管への浸潤を引き起こし得る、化学走性の生体因子、血管形成性の生体因子、神経原性の生体因子、または免疫調節性の生体因子の1つまたは複数、
を含み、前記ヒドロゲル足場が、ヘパリンを含む、移植可能な材料。
【請求項14】
前記ヒドロゲル足場に加えてスポンジ足場をさらに含み、ここで前記ヒドロゲル足場は、前記スポンジ足場によって保持される、請求項1に記載の移植可能な材料。
【請求項15】
前記ヒドロゲル足場が、ヘパリンおよびゼラチンを含む、請求項1または請求項1に記載の移植可能な材料。
【請求項16】
前記ヒドロゲル足場は、インサイチュで架橋することができるメタクリル化ゼラチンおよびヘパリンを含む、請求項1または請求項1に記載の移植可能な材料。
【請求項17】
前記ヒドロゲル足場は、薬物結合部分を含む、請求項1~1のいずれか1項に記載の移植可能な材料。
【請求項18】
前記スポンジ足場は、熱架橋ゼラチンを含む、請求項1~1のいずれか1項に記載の移植可能な材料。
【請求項19】
前記生体因子は、ケモカイン、サイトカイン、リンホカイン、増殖因子、神経調節因子、免疫調節性因子、および化学アゴニストを含む、請求項118のいずれか1項に記載の移植可能な材料。
【請求項20】
前記生体因子は、パルモルファミン、フィルグラスチムおよび/またはエポエチンアルファを含む、請求項119のいずれか1項に記載の移植可能な材料。
【請求項21】
前記生体因子は根尖周囲腔における歯内療法によって引き起こされる急性炎症反応を抑制する、請求項1~2のいずれか1項に記載の移植可能な材料。
【請求項22】
前記移植可能な材料は、無細胞である、請求項1~2のいずれか1項に記載の移植可能な材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の引用
本出願は、2018年3月20日出願の米国仮出願第62/645,364号(これは本明細書に参考として援用される)に基づく利益を主張する。
【0002】
政府支援に関する謝意
本発明は、NSFによって授与された助成金番号IIP-1149702の下で政府の支援を得て行われた。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
分野
本出願は、特に、根管手順後の治療として、活力のある歯髄の再生のための技法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
根管処置(RCT)は、感染した歯髄を伴う歯および根尖歯周組織を修復するために歯科クリニックで行われる歯内手順である。RCTにおける目的は、炎症したまたは感染した歯髄を除去することによって根尖性歯周炎を防止しかつ治癒させること、および不活性材料(シーラーおよび充填材)で空隙を塞ぐ(充填する)ことによって、細菌汚染を防止することである。歯は、歯冠(crown)(歯冠(corona)、最上部)にある歯冠腔および歯根(根)の中にある根管からなり、この管を経て血管および神経が髄室へと入る。歯根の先端は、根尖であり、根尖周囲腔は、その先端の周りの歯根の外側にある、歯根膜、骨および髄からなる組織である。根管処置の間に、感染した歯髄は除去され(歯冠のおよび/または根の)、根尖周囲腔が必要であればプロービングされ、根管は殺菌剤溶液で洗浄される。その殺菌した根管空間は、形が整えられ、不活性材料で充填されて、再感染が防止される。
【0005】
米国歯科医師会の歯科診療調査によれば、米国において毎年1500万件の根管処置が行われている。RCTの平均成功率は70%である。急性のRCTの失敗は、根管および根尖における細菌の持続、不適切なもしくは無理な歯根充填、不適切な歯冠シール、処置されていない主根管および腹根管、医原性の手順の誤り、機器使用の複雑さ、および/または他の理由によって引き起こされ得る。
【0006】
これらの失敗の理由の中で、細菌の持続および不適切なまたは無理な歯根充填は、主要な原因である(>65%)。根管治療の最も一般的な従来の充填材であるガタパーチャ歯内充填ポイント(本明細書中以降、ガタパーチャという)の使用は、これらの2つの理由と必然的に相関する。ガタパーチャは、20% ガタパーチャマトリクス(樹木樹脂に由来するラッテクスエラストマー)、66% 酸化亜鉛、11% 重金属の硫酸塩、および3% ワックスおよび/または樹脂からなる生体不活性熱可塑性材料から作製される。
【0007】
長期のRCTの失敗は、細菌再感染、充填材の収縮、および歯冠シールの失敗のような相互に関連する事象によって引き起こされ得る。繰り返すと、ガタパーチャの使用は、これらと相関する。
【0008】
ガタパーチャは、根管処置の失敗に本質的に寄与する。なぜならそれは、再生能力を有しない材料での活力のない空間の充填だからである。歯髄の活力は、長期の予後によって重要である。なぜならそれは、細菌感染を防止し、防御感覚を提供するからである。生きている歯髄組織は、歯の髄室への細菌侵入の防止に寄与する、細管を経る外側への間質液の流れを生成する。感染が起こる場合、活力のある組織は、免疫細胞の天然の防御作用が細菌を取り除くことを可能にする。さらに、活力のある組織は、歯が高い負荷(例えば、小さな氷砂糖を噛む)を経験する場合、不快感または疼痛を知覚し得、その結果、噛むという行動は、歯に亀裂が入ることを防止するために遅れずに止められ得る。ガタパーチャは、活力のある歯髄組織のこれらの防御特性を提供できない。さらに、ガタパーチャは、時間を経ると収縮し、充填材と根管壁との間に間隙を残して、細菌侵入の路を提供してしまう。ガタパーチャはまた、半剛性であり、根管の形を整えることを要し、しばしば曲がりくねった複雑な副歯根を充填することができず、根が再感染しやすくなる。活力のある組織は、天然の免疫学的応答を維持するために、ならびに象牙細管、副根管、および歯冠修復の失敗を経る細菌浸潤を防止するために必要とされる。
【0009】
根管処置が失敗した場合、歯内の再処置は、感染を除去するために必要である。その手順の間に、古い充填材は除去され、根管腔は再度殺菌され、次いで、新たな閉塞材料で充填される。歯内の再処置は、失敗しやすい。歯科医は、代表的には、再処置の失敗が起こった場合、抜歯するよう勧める。
【0010】
初回の根管処置の成功率を上げるために、代替の充填材が開発されてきた。ポリマーから作製される吸収性の充填材が利用可能であるが、これらはまた、収縮しやすく、歯科医にはあまり人気がない。全てのこれらの充填材は、望ましくないことに、充填材と歯の根管壁との間の空隙に達するには、シーラーの使用を要する。
【0011】
再生アプローチは、根管処置の代替手段として提唱されてきた。血管再生は、根管の1つの再生治療である。それは、プロービング(これは根を血液で満たす)によって、根尖周囲腔(その先端における根の外側の組織)において出血を誘導することからなる。この臨床治療は、いかなる足場材料も生体因子をも使用しない。それは、小児においていくらか成功して行われている。なぜなら彼らの歯は、依然として成長中であり、高い治癒可能性を有するからである。しかし、このアプローチは、若い成人および老齢の患者には適していない。なぜなら彼らの歯は、もはや成長していないからである。血管再生根管処置の転帰は、成人においては不良である。歯科医は、根管処置転帰を改善する製品を求めている。代替の調査中の臨床アプローチは、自家由来の血小板リッチ血漿を充填することを含むが、結果は不良であり、この治療は、訓練、装置および認可の点から、開業医に顕著な一般諸経費を要求する。
【0012】
動物における代替の調査中のアプローチは、生体材料、細胞、および薬物の組み合わせで充填することを含む。しかし、抜髄、殺菌および根尖周囲腔プロービングは、歯の内部の組織形成を損なう、根尖周囲腔における炎症応答を誘発する。これは、無細胞治療にとってより大きな影響がある。これらのアプローチは、根尖周囲腔から歯への細胞移動および歯における活力のある組織形成を促進すると同時に、炎症応答を導く必要性に対処していない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
要旨
根管治療後に、歯冠および根の髄室(chamber)内の活力のある歯組織のインサイチュでの再生のための移植可能な材料および方法が、本明細書で開示される。根管を処置した後、いくつかの実施形態において、上記根管は、ヒドロゲル足場および/またはスポンジ足場を含む無細胞の材料で充填される。いくつかの方法において、上記ヒドロゲル足場は、患者の内在する細胞の上記根管への浸潤を引き起こす、化学走性、血管形成性、神経原性、および/または免疫調節性の生体因子を含み得る。他の方法において、これら生体因子または薬物のうちの1種またはこれより多くは、上記ヒドロゲル足場には存在せず、上記患者に別個に投与され得る。開示される技法は、歯を生き返らせることができ、根管の中で生きている組織(神経組織、血管組織、および他の生来の組織を含む)を再生し、歯を保全し、さらなる損傷から歯を防御することができる。
【0014】
開示される技法の前述のおよび他の目的、特徴および利点は、添付の図面を参照して進められる以下の詳細な説明からより明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A図1Aは、根管治療後に、歯冠腔および歯の髄室内の活力のある歯組織のインサイチュでの再生のための、本明細書で開示される方法を図示する。上記方法は、スポンジ足場材料ありまたはなしでヒドロゲル材料を移植する前の、抜髄および殺菌を含み得る。
【0016】
図1B図1Bは、ヒドロゲル材料が、スポンジ/足場材料なしで移植された歯根環境を示す。
【0017】
図1C図1Cは、ヒドロゲル材料がスポンジ/足場材料とともに移植された歯根環境を示す。
【0018】
図2図2は、上記ヒドロゲル足場の1つのポリマー構成要素(ゼラチン)の核磁気共鳴画像化(nMRI)を示し、上記ゼラチンが、メタクリレート化され、光(光架橋性)および/またはペルスルフェートで生成したラジカルを介して架橋可能にすることを示す。
【0019】
図3図3は、ポリマーからスポンジ足場を製造するにあたって使用されるポロゲンの画像を示す。
【0020】
図4図4は、スポンジ足場の孔のうちの70%超が、400μmより大きいことを示す水銀多孔度測定アッセイをまとめるプロットである。
【0021】
図5図5は、孔間の相互接続性の開口部を示すスポンジ足場の内部構造のマイクロCT画像である。
【0022】
図6図6A~6Bは、生体材料の細胞適合性を例証する画像である。これらの画像において、細胞を、スポンジ足場との共培養に供したところ、毒性効果は、24時間を超えても観察されなかった。図6Aは1時間におけるもの、図6Bは24時間におけるものである。緑色=生細胞、赤色=死細胞。
【0023】
図7図7は、スポンジ足場およびヒドロゲルの機械的特性の表である。
【0024】
図8図8~10は、開示される技法での根管治療(RCT)を示す画像である。
図9】同上。
図10】同上。
【0025】
図11図11は、ひよこ漿尿膜(CAM)を示す。
【0026】
図12図12は、活力を奪ったヒト根管の2mm厚スライスを示す。
【0027】
図13図13は、歯のスライスの根管開口の中に配置されたスポンジまたはヒドロゲル足場を図示する。
【0028】
図14図14は、CAM上で培養されているスポンジ/ヒドロゲル足場で充填された歯のスライスを示す。
【0029】
図15図15は、サイトカイン/増殖因子を負荷せず、CAM上で1週間培養したヒドロゲル足場の画像である。
【0030】
図16図16は、サイトカイン/増殖因子を負荷し、CAM上で1週間培養したヒドロゲル足場の画像である。この画像では、広範な細胞浸潤、線維性組織形成、および血管形成が見てとれる。
【0031】
図17図17および18は、円筒に切断され、歯根スライスの穴へと挿入されたスポンジ足場の画像である。図17は、サイトカイン/増殖因子なしの緩衝化生理食塩水溶液でドープされ、CAM上で1週間培養したスポンジを示す。その一方で、図18は、サイトカイン/増殖因子を含む生理食塩水溶液でドープされ、CAM上で1週間培養したスポンジを示す。
図18図17および18は、円筒に切断され、歯根スライスの穴へと挿入されたスポンジ足場の画像である。図17は、サイトカイン/増殖因子なしの緩衝化生理食塩水溶液でドープされ、CAM上で1週間培養したスポンジを示す。その一方で、図18は、サイトカイン/増殖因子を含む生理食塩水溶液でドープされ、CAM上で1週間培養したスポンジを示す。
【発明を実施するための形態】
【0032】
詳細な説明
開示される技法は、歯内療法、または根管治療(RTC)後に、活力のある歯髄をインサイチュで再生する移植可能な材料および方法を包含する。根管処置はしばしば、再感染および傷害を生じ、これが、再処置が通常は抜歯で終わる理由である。これは、その処置した歯に活力がないことが理由である;その処置した歯は、再感染および傷害を感知/報告できない。成人において歯を生き返らせる臨床上の方法は存在しない。開示される材料および方法は、従来の閉塞(充填材)材料に置き換わり、上記処置した根管および髄室の中の生きている組織の形成を促進する。開示される技法の特定の利益は、若い成人に対する、彼らの天然の歯を保存することによるものである。再処置および抜歯の必要性の低減は、患者の生涯にわたってヘルスケアに顕著な節約を提供する。
【0033】
いくつかの実施形態において、上記材料/デバイスは、多孔性スポンジ足場(例えば、熱架橋ゼラチン)およびヒドロゲル足場(例えば、メタクリル化ゼラチンおよびヘパリンのインサイチュ架橋)を含む。上記ヒドロゲル足場は、化学走性、血管形成性、神経原性、および/または免疫調節性の生体因子(例えば、フィルグラスチム(名称Neupogen(別名CSF3)の下で販売される組換え顆粒球コロニー刺激因子であるG-CSF)および/またはエポエチンアルファ(Epogenとして販売される組換えエリスロポイエチンであるEPO)を含み得る。化学走性、血管形成性、神経原性、および/または免疫調節性の効果を有する他の因子としては、サイトカイン(インターロイキン(例えば、IL-4、IL-10、IL-13)、リンホカイン(例えば、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF、別名CSF2)、Leukineとして販売される組換えSargramostim)、ケモカイン(例えば、CCL17、CCL22、SDF-1(別名CXCL12))、増殖因子(例えば、ANG、BMP、FGF、Hedge Hog、P1GF、PDGF、VEGF、TGF-β)、神経調節因子(例えば、BDNF、CGRP、NGF、ノルエピネフリン、サブスタンスP、VIP)、コルチコステロイド(例えば、デキサメタゾン、コルチゾン、プレドニゾン、プロピオン酸フルチカゾン)、および化学アゴニスト/アンタゴニスト(例えば、パルモルファミン、タクロリムス、ラパマイシン)が挙げられる。上記ヒドロゲル構成要素は、これらの因子に対して透過性を制御することによって、およびそれらに結合するように指向することによって、上記生体因子の送達を促進し得る。基本的な因子は、正に荷電したヒドロゲル構成要素(例えば、コラーゲン、ゼラチン)と複合体化する。これらの因子のうちの多くは、ヘパリン、ヘパラン硫酸、ケラチン硫酸、コンドロイチン硫酸およびデルマタン硫酸 ヒドロゲル構成要素に結合するグリコサミノグリカン上の硫酸化部分のための結合モチーフを有する。
【0034】
他の方法において、上記生体因子および薬物のうちのいくつかまたは全ては、上記ヒドロゲル足場には存在せず、必要な場合に、上記患者に、移植した材料とは別個に投与され得る。
【0035】
いくつかの例示的方法において、上記材料は、以下のとおりのプロセスにおいて移植され得る。1工程では、歯内療法の後に、上記ヒドロゲル材料が、処置した根管に注入される。上記ヒドロゲルは低粘性であり、ガタパーチャのような従来の充填材によって達成されできない複雑な副歯根を充填する。上記ヒドロゲルは、形が整えられていない根管に従う。これは、積極的なおよび音波/超音波洗浄のような代わりのデブリドマン/除去手順と適合性である(すなわち、形が整えられていない根管を充填する)。これは、細菌侵入を防止する根管壁に沿って間隙を最小限にないし全く残さない。選択肢的なその後の工程において、上記スポンジ足場は、ヒドロゲルを根管へと、および構造的支持のために髄室へと(必要であれば)さらに流すために、歯根へと配置され得る。歯の修復手順は、次いで、上記プロセスを完了させるために行われ得る。上記EPOおよびフィルグラスチムは、開示される技法とともに代替として使用され得る、種々の化学走性、血管形成性/神経原性および免疫調節性の因子の中から選択される例示的材料である。
【0036】
上記ヒドロゲルおよび足場構成要素は、天然に由来する材料を含み得る。天然に由来する材料としては、以下が挙げられ得る:脱細胞化マトリクス(例えば、Matrigel)、タンパク質(例えば、コラーゲン、ゼラチン、絹)、糖タンパク質(例えば、フィブリン、フィブリリン、フィブロネクチン、SIBLING(例えば、骨シアロタンパク質、象牙質シアロタンパク質、象牙質リンタンパク質、DMP1、オステオポンチン、トロンボスポンディン)、エラスチン、プロテオグリカン、および/またはグリコサミノグリカン(例えば、アルギネート、キトサン、コンドロイチン硫酸、デキストランケラチン硫酸、アグリカン、ヒアルロナン、ヘパリン、ヘパラン硫酸)。上記ヒドロゲルおよび足場構成要素はまた、例えば、細胞移動の速度およびヒドロゲル膨潤/収縮をさらに制御するために、人工材料を含み得る。人工材料としては、α-ヒドロキシエステル、ポリ(カプロラクトン)、PIPAAm、ポロキサマー、p(エチレングリコール)(PEG)、p(ビニルアルコール)(PVA)、ポリ(アクリル酸)(PAA)、およびポリ(ビニルピロリドン)が挙げられ得る。分解の際に局所的pHを変化させない人工材料は、細胞浸潤および組織形成を増強するために望ましい。これらのヒドロゲルおよび足場構成要素は、適切な架橋剤(例えば、テトラキス、ゲニピン、トランスグルタミナーゼ)を使用して、または改変を介して、例えば、光(光架橋性)および/または過硫酸塩(例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム)で生成したラジカルを介して架橋可能にするためにアクリレート化される活性部分を提供するために、ヒドロゲルをインサイチュで形成するように架橋され得る。過硫酸架橋速度は、アスコルベートの添加で制御され得る。
【0037】
上記移植された材料/デバイスは、根管の中の活力のある組織を再生し得、神経および歯の知覚を修復し得、および/または血管分布および象牙細管を経る外側へ向かう流体の流れを修復し得る。上記活力のある組織は、生来の歯髄組織に等しくなくてもよい(例えば、神経線維は、象牙芽細胞を欠いた異なるタイプのものである)。修復された知覚は、極端な温度および潜在的な再感染およびさらなる歯の損傷に対する防御を提供する。修復された血管分布は、逆行性の流体の流れを作り出すことによって、象牙細管を経て歯への細菌移動を防止する間質液圧を提供する。
【0038】
図1Aは、活力のある組織を再生するための本明細書で開示されるデバイスおよび方法を図示する。これらの方法は、スポンジ/足場材料ありまたはなしでヒドロゲル材料を移植し、次いで、活力のある組織の成長を可能にする前に、抜髄および殺菌を含み得る。上記移植可能な材料は、多孔性のスポンジ足場および無細胞のヒドロゲル材料を含み得る。これは、化学走性、血管形成性、神経原性、および免疫調節性の生体因子を含んでいても、含んでいなくてもよい。図1Bは、ヒドロゲル材料が、スポンジ/足場材料なしで移植された歯根環境の画像を含む。図1Cは、ヒドロゲル材料がスポンジ/足場材料とともに移植された歯根環境の画像を含む。患者にとって、この技法は、天然の歯および周りの天然の組織を保持する助けとなる。生きている歯髄は、閉塞の維持を助けることができ、細菌浸潤の防止を助けることができ、再感染との戦いを助けることができる。この技法はまた、全体的な処置コストを低減することを助け、根管関連の合併症を回避する。
【0039】
上記ヒドロゲル足場は、メタクリル化され、光架橋性になり得るポリマー構成要素(例えば、ゼラチンおよびヘパリン)を含み得る。架橋は、例えば、架橋の開始にわたって制御を提供する樹脂システムの光架橋の間に放射エネルギーシステムを使用して行われ得る。アクリレート部分はまた、例えば、ペルスルフェート化学物質によって上記ポリマーを放射エネルギーなしで架橋可能にし得、これは、複雑な根管および副根管を充填するために有用であり得る。開示されるヒドロゲル材料は、ガタパーチャのような従来の材料と比較して、小さな根管へと容易に流れて、増強された閉塞を提供し得る。上記ヒドロゲル材料はまた、根尖周囲腔へと容易に流れて、洗浄した膿瘍病変部を充填し得る。図2は、ゼラチンがメタクリル化されることを図示する、ゼラチンの核磁気共鳴画像を示す。
【0040】
上記スポンジ足場は、ポリマーから形成され得、図3は、ポリマーからスポンジ足場を製造するための例示的プロセスにおいて使用されるポロゲンの画像である。図4は、スポンジ足場の孔のうちの70%超が400ミクロンより大きいことを示す水銀多孔度測定アッセイをまとめるプロットである。図5は、孔間の相互接続性の開口部を示す例示的スポンジ足場の内部構造のマイクロCT画像である。いくつかの例では、上記スポンジは、流体の流れを作り出して、根管を充填するために、上記ヒドロゲルの後で挿入され、必要であれば、従来の歯冠用充填材(例えば、ミネラルトリオキシド凝集物(mineral trioxide aggregate)、MTA)のために構造的支持体を提供する。上記スポンジ足場は、例えば、ゼラチンから作製され得る。いくつかの実施形態において、上記スポンジは、図1Aにあるように、歯科用ファイルサイズと一致するように、種々のサイズのテーパー付けされた円錐形へと形を整えられ得る。上記スポンジはまた、部分的抜髄の前に使用されるような、歯冠部歯髄室を充填するために切断され得る印象材(wafer)として形を整えられ得る。
【0041】
図6Aおよび6Bは、開示される技法とともに使用される生体材料の細胞適合性を確認する画像である。図6Aおよび6Bにおいて、細胞をスポンジ足場との共培養に供したところ、毒性効果は、24時間を超えても観察されなかった。図6Aは1時間での細胞を示し、図6Bは24時間での細胞を示す。これらの画像では、緑色は生細胞を表し、赤色は死細胞を表す。両方の画像は、全て緑色の細胞を示し、赤色の細胞はない。
【0042】
図7は、一軸圧縮試験(unconfined compression assay)に基づいて、照射滅菌した後の例示的ヒドロゲル、例示的な水和したスポンジ、および例示的な乾燥したスポンジに関して測定した機械的特性を列挙する表である。
【0043】
図8~10は、開示される技法を使用するとともに、例示的な根管治療処置(RCT)を図示する。この例では、RCTを、根尖にドリルで穴を開けることを含め、イヌの小臼歯および臼歯に対して行い、組織を3ヶ月後に分析した。左側の画像は、歯のCT画像のスライス画像である一方で、中心および右側の画像は、それぞれ、改変Mallory法で染色した左の歯根および右の歯根の組織学的切片である。上記組織学画像は、CT画像と並べて回転される。
【0044】
図8に図示されるように、従来のRCT処置は、成熟したイヌの小臼歯に対して開始し(歯冠の開口、歯髄組織の除去、根管の形を整える)、次いで、根管を左は充填せず、一時的な充填材(ミネラルトリオキシド凝集物、「MTA」)で開口をシールした。上記左の根管を、根尖(根の先端)を貫通して形を整えて、充填材なしの処置コントロールとして供した。上記右側の根管を、根尖を貫通して形を整えず、細胞浸潤および根尖周囲傷害および炎症のコントロールとして供した(ファイルは歯根から突き出ていなかったことから傷害はなく、より小さな副根管は、左の歯根の大きくファイリングされた根管に対して細胞移動に利用可能)。両方の歯根は、細胞浸潤および再生をほとんど示さない。左の歯根は根尖において肉芽組織を、および象牙質(根尖内分の左壁)に沿ってある種の細胞移動および組織形成を示すが、根管を充填する組織を再生しない。右の歯根はまた、象牙質表面に沿って組織を、および根管を充填するある種の組織を示すが、密度は低い。いずれの歯根にも血管は観察されなかった。
【0045】
図9に示される例では、RCT処置をイヌの小臼歯に開始し、次いで、根管を、ゼラチン、ヘパリン、およびPEGを含む開示されるヒドロゲル足場(スポンジ足場なし)で充填し、その開口を、MTAでシールした。上記ヒドロゲルを、パルモルファミンとともに負荷した。例示的な因子は、化学走性、血管形成性、神経原性、および免疫調節性の効果を有するもの(例えば、G-CSFおよびEPO)である。さらなる例示的な因子としては、FGF2、IL-4、NGF、タクロリムス、およびVEGFが挙げられる。上記デバイスは、両方の歯根内に、MTAシーラーまでの根管全体にわたって、活力のある組織を再生した。両方の歯根は、適切に象牙質壁および根管に沿って、線維性組織、骨、および血管を含む広範な再生組織成長を示す。残りのヒドロゲルは、特に左の歯根において明らかである。
【0046】
図10に示される例では、RCT処置を、イヌの小臼歯に開始し、次いで、根管を、開示されるヒドロゲル足場(スポンジ足場なし)で充填し、その開口を、MTAでシールした。この例では、上記ヒドロゲルには、ヒドロゲル材料自体以外には、化学走性、血管形成性、神経原性、および免疫調節性の効果を有する因子を負荷しなかった。結果は、左の歯根内部に、すなわち、コントロール群に類似して、象牙質壁に沿って、しかしより多くの再生組織が壁に沿って、いくつかの再生組織形成を示す。上記ヒドロゲルはなお、歯根に存在し、デバイス群におけるより少ない吸収を示す。右の歯根は、象牙質に沿ってより少ない細胞浸潤を示す。
【0047】
図11~14は、歯のスライスおよび/または移植された材料がひよこ漿尿膜(CAM)上で培養されるモデルを使用した開示される技法の組成物の適用を図示する。その例は、図11に示される。上記歯のスライスの活力を奪って滅菌した(次亜塩素酸ナトリウム)が、活性化されなかった(EDTA処置なし)。図12に示されるように、ヒトの歯の活力を奪い、根管(root channel)の形を整え、歯根を2.0mm厚スライスに切った。図13に図示されるように、これらの中空のスライスに、スポンジまたはヒドロゲル足場構成要素のいずれかを充填し、CAM上で7日間成長させた(図14に示されるとおり)。
【0048】
図15および図16に図示されるように、化学走性、血管形成性、神経原性、および免疫調節性の効果を有する因子ありおよびなしで成長させたヒドロゲル足場間には、明らかな差異が見てとれた。図15におけるヒドロゲル足場には因子を負荷しなかったが、図16におけるヒドロゲルには、CAM上に配置する前に、G-CSFおよびEPO因子を負荷した。広範な細胞浸潤、線維性組織形成、および血管形成が図16(サイトカイン/増殖因子を伴う)において明らかである。図15は、周囲(すなわち、ヒドロゲルと象牙質壁との間)でのみ、細胞浸潤および線維性組織を示す。
【0049】
図17および図18は、スポンジ足場が円筒に切断され、歯根スライスの穴へと挿入された例を図示する。図17は、サイトカイン/増殖因子なしの緩衝化生理食塩水溶液でドープされたスポンジを示す。その一方で、図18は、サイトカイン/増殖因子を含む生理食塩水溶液でドープされたスポンジを示す。サイトカイン/増殖因子なしでは、細胞浸潤はほとんど明らかでなかった(図17、最も上側は、CAMと接触した状態にあった)。その一方で血管形成およびより大きな細胞浸潤は、G-CSFおよびEPOで起こった(図18、最も下側は、CAMと接触した状態にあった)。上記ヒドロゲルは、上記スポンジ足場と比較して、増強された組織浸潤を示す。
【0050】
図1Bおよび図1Cは、開示される技法を使用する例示的RCTを図示し、ここで歯根を、ゼラチンおよびヘパリンを3 対 2の質量比で含む開示されるヒドロゲル(8% w/v)で充填した。これらの例では、上記ヒドロゲルには、ヒドロゲル材料自体以外は、化学走性、血管形成性、神経原性、および免疫調節性の効果を有する因子を負荷しなかった。この例では、イヌを、RCTの前日に2mg/kg デキサメタゾンで1回処置した。上記RCTを、根尖にドリルで穴を開けることを含め、上記イヌの小臼歯および臼歯に対して行い、組織を3ヶ月後に分析した。染色は、Goldner’s trichromeである。図1Bは、上記ヒドロゲル材料がスポンジ/足場材料なしで移植された歯根環境の画像を含む。図1Cは、ヒドロゲル材料がスポンジ/足場材料とともに移植された歯根環境の画像を含む。上記薬物非含有ヒドロゲルは、根尖周囲腔からの前駆細胞の移動を促進し、血管形成を刺激し、線維性および石化組織を再生した。上記石化した組織は、形を整えた根管壁(これはそれ自体が石化していない象牙前質/類骨で覆われている)を覆った、再生は、MTAシーラーまで起こった。感染性または異栄養生石灰化は、処置した歯において起こらなかった。患者にとって、この技法は、天然の歯および周りの天然の組織を保持する助けになる。生きている歯髄は、閉塞を維持する助けにすることができ、細菌浸潤を防止する助けとすることができ、再感染と戦う助けとすることができる。この技法はまた、全体的な処置費用を低減する助けとなり、根管関連の合併症を回避する。
【0051】
開示される技法は、歯根への細胞材料の移植に依拠するのではなく、患者の根尖周囲腔からの歯根への内在する細胞の浸潤を促進するために、生体活性因子を利用する無細胞治療であり得る。患者の内在する細胞の歯根への浸潤の促進は、髄室および根管における活力のある組織の再生の改善を生じ、上記再生した組織は、長期の活力のためにより良好に位置する。なぜならそれは、他から供給された移植した細胞の生成物とは対照的に、患者自体の内在する細胞の生成物だからである。開示される無細胞治療がまた、「いつでも使える(off-the-shelf)」処置として提供され、使用され得る。
【0052】
開示される技法は、歯の準備のための特定の方法を包含し得る。例えば、いくつかの方法において、歯の根尖は、細胞浸潤が起こるための管を提供するために開かれなければならない。これは、難題であり得る。なぜなら歯科専門家は、ファイルまたは他の従来のツールをあまりにも深くまで歯槽骨へと容易に挿入することができ、その結果、超急性炎症プロセスを発生させてしまうからである。順行性歯内処置(非外科的、例えば、根管への接近は、歯の咬合面を介する)において、根管は、ファイルで通常の様式できれいにされ、根尖は、ロータリー-ファイルまたは手持ち歯内ファイルで開かれる。解剖学的根尖は、根管長測定器で特定され、解剖学的根尖は、サイズ50ファイル(0.5mm)へと開かれる。代表的な準備は、解剖学的根尖から0.5~1.0mm短いか、または解剖学的根尖までちょうど0.2~0.25mmの狭い準備である。空隙は、殺菌のためにNaClの1% 溶液で洗浄され、次いで、根管は、上記ヒドロゲルおよびスポンジの配置の前に、象牙質から増殖因子を放出させるために、EDTA(例えば、17% w/v)で処置され得る。次いで、上記ヒドロゲルおよびスポンジは、根管および必要であれば、根尖周囲腔へと配置される。逆行式の歯内処置(外科的、例えば、持続性の感染、根の中に残った壊れたツール、大きな根尖膿瘍の処置のため)で歯を処置する場合、根管は、ファイルを使用して通常の様式できれいにされ、全層歯肉弁が根尖膿瘍にアクセスするために上げられ、上記膿瘍は掻爬され、歯根の根尖側1/3が除去される。これは、根尖を開き、感染した歯根表面および膿瘍のある組織を除去する。根管は洗浄され、処置される。次いで、上記ヒドロゲルおよびスポンジが根管の中におよび骨欠損の中に配置され、上記歯肉弁が縫合糸で閉じられる。
【0053】
さらに、開示される技法を用いると、流動可能なヒドロゲルおよびスポンジ挿入手順は、感染がはびこる可能性がある空間を最小限にし、組織の内殖および再生を最大化して、形が整えられていない根管を含む歯の根管を特に良好に充填し得る。開示される技法はまた、温/冷覚および圧覚に応答し得る生きている神経を伴う組織を再生し得るという利点を有し、これは、さらなる損傷から歯を防御する助けとなる。
【0054】
本明細書で開示される方法のうちのいくつかにおいて、化学走性、血管形成性、神経原性、および免疫調節性の生体因子ならびに/または他の薬物は、上記移植されるヒドロゲル/足場の中に含まれ得、そこから送達され得る。代替として、またはさらに、いくつかの方法では、これらの生体因子/薬物のうちのいくらかまたは全てが、上記移植されるヒドロゲル/足場から排除され得る。いくつかのこのような方法では、これらの生体因子/薬物は、上記ヒドロゲル/足場とは別個に、患者に投与され得る。例えば、いくつかの方法において、短期間の免疫抑制レジメンが手術前に患者に投与され得、これは、活力のある組織の再生に対して増強効果を有し得る。いくつかの方法において、抗炎症を含む全ての薬物は、上記ヒドロゲルに存在せず、代わりに、上記方法は、デキサメタゾンまたは他のコルチコステロイド薬物療法、および/または他の薬物の免疫抑制レジメンを、上記ヒドロゲルとは別個に患者に送達する工程を包含し得る。
【0055】
この記載の目的で、本開示の実施形態のある種の局面、利点および新規な特徴が、本明細書で記載される。開示された方法、装置、およびシステムは、如何様にしても限定として解釈されるべきではない。代わりに、本開示は、単独で、ならびに種々の組み合わせ、および互いとの部分組み合わせにおいて、種々の開示される実施形態の全ての新規なおよび自明でない特徴および局面に関する。上記方法、装置、およびシステムは、任意の具体的局面または特徴またはその組み合わせに限定されず、開示される実施形態は、任意の1またはこれより多くの具体的利点が存在するかまたは課題が解決されることを要求しない。
【0056】
開示される技法の特定の局面、実施形態、または例とともに記載される特性、材料、値、部分、および他の特長は、不適合でなければ、本明細書で記載される任意の他の局面、実施形態、または例に適用可能であることが理解されるべきである。本明細書(任意の添付の請求項、要約書および図面を含む)で開示される特徴全て、および/またはそのように開示される任意の方法もしくはプロセスの工程全ては、このような特徴および/または工程のうちの少なくともいくつかが相互に排他的である組み合わせを除いて、任意の組み合わせにおいて組み合わされ得る。本発明は、いかなる前述の実施形態の詳細にも制限されない。本発明は、本明細書で開示される特徴(任意の添付の請求項、要約書および図面を含む)のうちの任意の新規な1つ、もしくは任意の新規な組み合わせ、またはそのように開示される任意の方法もしくはプロセスの工程のうちの任意の新規な1つ、もしくは任意の新規な組み合わせに拡がる。
【0057】
開示される方法のうちのいくつかの操作は、便宜上の提示のために、特定の連続した順序で記載されているが、特定の順序が特定の文言によって要求されなければ、この記載様式が再配置を包含することは、理解されるべきである。例えば、連続して記載される操作は、いくつかの場合には、再配置されてもよいし、同時に行われてもよい。さらに、単純化する目的で、添付の図面は、開示される方法が他の方法とともに使用され得る種々の方法を示していなくてもよい。
【0058】
本明細書で使用される場合、用語「1つの、ある(a)」、「1つの、ある(an)」、および「少なくとも1(at least one)」とは、特定された要素のうちの1またはこれより多くを包含する。すなわち、特定の要素のうちの2つが存在する場合、これらの要素のうちの一方はまた、存在し、従って「1つの」要素(an element)が、存在する。用語「複数の(a plurality of)」および「複数の(plural)」は、特定された要素のうちの2つまたはこれより多くを意味する。本明細書で使用される場合、要素のリストのうちの少なくとも2つの間で使用される用語「および/または(and/or)」は、そのリストにされた要素のうちのいずれか1つまたはこれより多くを意味する。例えば、語句「A、B、および/またはC(A, B, and/or C)」は、「A」、「B」、「C」、「AとB」、「AとC」、「BとC」、または「AとBとC」を意味する。本明細書で使用される場合、用語「連結された(coupled)」とは概して、物理的にもしくは化学的に連結され(coupled)ているか、または連結され(linked)ていることを意味し、具体的な矛盾する文言がない上記連結された項目の間の中間要素の存在を排除しない。
【0059】
開示される技法の原理が適用され得る多くの可能な実施形態に鑑みれば、例証される実施形態が例示に過ぎず、本開示の範囲を限定すると解釈されるべきでないことは、理解されるべきである。むしろ、本開示の範囲は、少なくとも以下の請求項と同程度に広い。従って、本発明者らは、以下の請求項の範囲内に入る全てのものを特許請求する。
本発明は、例えば、以下の項目を提供する。
(項目1)
歯内療法後に活力のある歯組織をインサイチュで再生する方法であって、前記方法は、生来の歯髄が根管から除去された後に、患者における歯の根管にヒドロゲル足場を導入する工程であって、ここで前記ヒドロゲル足場は無細胞である工程を包含する方法。
(項目2)
前記ヒドロゲル足場は、前記患者の内在する細胞の根管への浸潤を引き起こす、化学走性、血管形成性、神経原性、および免疫調節性の生体因子を含む、項目1に記載の方法。
(項目3)
前記ヒドロゲル足場は、薬物および生体因子を含まず、前記方法は、
前記ヒドロゲル足場とは別個に、炎症を阻害するかまたは前記患者の内在する細胞の前記根管への浸潤を促進する、化学走性、血管形成性、神経原性、および免疫調節性の生体因子を投与する工程
を包含する、項目1に記載の方法。
(項目4)
前記ヒドロゲル足場は、スポンジ足場内に保持され、前記スポンジ足場は、前記根管へと前記ヒドロゲル足場とともに導入される、項目1~3のいずれか1項に記載の方法。
(項目5)
抗炎症薬レジメンで前記患者を処置する工程をさらに包含する、項目1~4のいずれか1項に記載の方法。
(項目6)
前記患者を前記抗炎症レジメンで処置する工程は、コルチコステロイドまたは非ステロイド系抗炎症薬での処置を含む、項目5に記載の方法。
(項目7)
前記ヒドロゲル足場および前記スポンジ足場を導入した後に、歯の修復手順を行う工程をさらに包含する、項目1~6のいずれか1項に記載の方法。
(項目8)
前記ヒドロゲル足場は、前記根管へと注入され、前記根管内の空間全体を実質的に充填する、項目1~7のいずれか1項に記載の方法。
(項目9)
前記歯の根尖を開けて、細胞浸潤が起こる管を提供する工程をさらに包含する、項目1~8のいずれか1項に記載の方法。
(項目10)
前記ヒドロゲル足場は、膿瘍のある歯根の根尖周囲腔を充填する、項目1~9のいずれか1項に記載の方法。
(項目11)
移植可能な材料であって、前記材料は、
ヒドロゲル足場;ならびに
歯内療法後に活力のある歯組織をインサイチュで再生するために、患者の内在する細胞の根管への浸潤を引き起こし得る、化学走性、血管形成性、神経原性、および免疫調節性の生体因子、
を含む移植可能な材料。
(項目12)
前記ヒドロゲル足場に加えてスポンジ足場をさらに含み、ここで前記ヒドロゲル足場は、前記スポンジ足場によって保持される、項目11に記載の移植可能な材料。
(項目13)
前記ヒドロゲル足場は、メタクリル化ゼラチンおよびヘパリンのインサイチュ架橋を含む、項目11または項目12に記載の移植可能な材料。
(項目14)
前記ヒドロゲル足場は、薬物結合部分を含む、項目11~13のいずれか1項に記載の移植可能な材料。
(項目15)
前記スポンジ足場は、熱架橋ゼラチンを含む、項目12~14のいずれか1項に記載の移植可能な材料。
(項目16)
前記生体因子は、ケモカイン、サイトカイン、リンホカイン、増殖因子、神経調節因子、免疫調節性因子、および化学アゴニストを含む、項目11~15のいずれか1項に記載の移植可能な材料。
(項目17)
前記生体因子は、コルチコステロイド、パルモルファミン、フィルグラスチムおよび/またはエポエチンアルファを含む、項目11~16のいずれか1項に記載の移植可能な材料。
(項目18)
前記生体因子は、前記根尖周囲腔における歯内療法によって引き起こされる急性炎症反応を抑制する、項目11~17のいずれか1項に記載の移植可能な材料。
(項目19)
前記移植可能な材料は、無細胞である、項目11~18のいずれか1項に記載の移植可能な材料。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18