(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】イオンビーム照射システム、イオンビーム純度測定方法、イオンビーム純度測定装置、およびイオンビーム純度測定プログラム
(51)【国際特許分類】
G21K 5/04 20060101AFI20231221BHJP
G01T 1/29 20060101ALI20231221BHJP
A61N 5/10 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
G21K5/04 A
G21K5/04 C
G01T1/29 B
A61N5/10 H
(21)【出願番号】P 2021542848
(86)(22)【出願日】2020-08-21
(86)【国際出願番号】 JP2020031680
(87)【国際公開番号】W WO2021039647
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2023-02-20
(31)【優先権主張番号】P 2019156922
(32)【優先日】2019-08-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】100135781
【氏名又は名称】西原 広徳
(72)【発明者】
【氏名】水島 康太
(72)【発明者】
【氏名】岩田 佳之
【審査官】藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-176814(JP,A)
【文献】特開2013-187057(JP,A)
【文献】特開2015-179632(JP,A)
【文献】特開2018-004455(JP,A)
【文献】特開平5-144408(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21K 5/04
G01T 1/29
A61N 5/10
H05H 3/00-15/00
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子を加速してイオンビームとする加速器と、
前記加速器で加速された前記イオンビームを照射する照射装置と、
前記加速器および前記照射装置を制御する制御装置とを備えたイオンビーム照射システムであって、
前記加速器で加速された前記イオンビームの線量を検出する線量検出装置と、
前記線量検出装置を通過した前記イオンビームの電流を検出する電流検出装置と、
前記線量検出装置の線量検出値と前記電流検出装置の電流検出値に基づいて前記イオンビームの純度を測定する測定処理部とを備えた
イオンビーム照射システム。
【請求項2】
前記電流検出装置は、前記線量検出装置を通過した前記イオンビームのうち80%以上を検出できる位置に配置された
請求項1記載のイオンビーム照射システム。
【請求項3】
前記電流検出装置は、ファラデーカップにより構成されている
請求項2記載のイオンビーム照射システム。
【請求項4】
前記測定処理部は、前記線量検出装置により所定時間継続して検出した線量検出値を積分して線量積分値を算出し、前記電流検出装置により所定時間継続して検出した電流検出値を積分して電流積分値を算出して、前記線量積分値と前記電流積分値に基づいて前記イオンビームの純度を判定する構成である
請求項1、2、または3記載のイオンビーム照射システム。
【請求項5】
前記測定処理部は、前記線量積分値を電流積分値で除算して前記純度を判定する構成である
請求項4記載のイオンビーム照射システム。
【請求項6】
前記加速器はイオン種の異なるイオンビームを切り替えて加速するものであり、
前記制御装置は前記イオンビームのイオン種を切り替えるものであるイオンビーム照射システムであって、
前記制御装置は、前記測定処理部の測定結果が予め決められた許容値以下の場合に前記照射装置を動作させるように制御する構成である
請求項1から5のいずれか1つに記載のイオンビーム照射システム。
【請求項7】
荷電粒子を加速してイオンビームとする加速器と、前記加速器で加速された前記イオンビームを照射する照射装置と、前記加速器および前記照射装置を制御する制御装置とを備えたイオンビーム照射システムを用い、
前記加速器で加速された前記イオンビームの線量を線量検出装置により検出し、
前記線量検出装置を通過した前記イオンビームの電流を電流検出装置により検出し、
前記線量検出装置の線量検出値と前記電流検出装置の電流検出値に基づいて前記イオンビームの純度を測定処理部により測定する
イオンビーム純度測定方法。
【請求項8】
加速器で加速されたイオンビームの線量を検出する線量検出装置と、
前記線量検出装置を通過した前記イオンビームの電流を検出する電流検出装置と、
前記線量検出装置の線量検出値と前記電流検出装置の電流検出値に基づいて前記イオンビームの純度を測定する測定処理部とを備えた
イオンビーム純度測定装置。
【請求項9】
コンピュータを、
加速器で加速されたイオンビームの線量を検出するイオンビーム線量検出手段と、
前記イオンビーム線量検出手段を通過した前記イオンビームの電流を検出するイオンビーム電流検出手段と、
前記イオンビーム線量検出手段の線量検出値と前記イオンビーム電流検出手段の電流検出値に基づいて前記イオンビームの純度を測定する測定処理部として機能させる
イオンビーム純度測定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、加速されたイオンビームの純度を測定できるようなイオンビーム照射システム、イオンビーム純度測定方法、イオンビーム純度測定装置、およびイオンビーム純度測定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、荷電粒子(イオン)を加速したイオンビームが様々な用途で用いられている。
その用途の一つである粒子線治療では、目的のイオン種以外の不純物イオンは照射するビームから取り除かれている必要がある。イオン源から取り出された直後のビームは、多種類のイオンを含んでいる。このため、必要なイオン種だけを選別して通過させる必要がある。
【0003】
このように必要なイオン種を選別する方法として、分析マグネットを有する質量分析装置を用いて不純物イオンを取り除くイオン種確認方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、例えば、CO2ガスをイオン化して取り出した12C3+ビームに16O4+イオンが混ざった状態などのように、目的のイオン種と質量電荷比の等しい不純物イオンがビームに混ざった場合には、通常の質量分析装置では目的イオンと不純物イオンを分離することができない。このため、例えば、12C2+ビームを用いたり、導入ガスをCH4にするなど、目的イオンと質量電荷比が等しい不純物イオンが残留ガスから生じにくい条件を選択する必要があった。
【0005】
基本的には、目的のイオンビームに不純物イオンが混ざらないようなイオン源の運転条件を選ぶことが重要で理想的である。しかし、例えば、粒子線治療のマルチイオン照射など1台のイオン源から複数イオン種のビームを短時間に切り替えて供給するような利用に対しては、上述の理想的な運転条件を満たすことは難しくなる。具体的には、複数の導入ガスが用いられるために残留ガスから生じるイオン種が増え、供給ビームが軽い核種(例えば、Heなど)の場合には、選択できる電荷状態の条件が少ないため、目的イオンと質量電荷比が等しい不純物イオンの混入が避けられなくなる。
【0006】
イオンビームに混ざった質量電荷比の等しい不純物イオンは、質量分析装置で取り除かれることなく目的イオンとともに加速器によって加速され、粒子線治療の場合は患者に照射されてしまう。必要なイオン種にあわせてイオン源の台数を増やせばそのような問題を防ぐことも可能だが、コストアップにつながってしまう。
【0007】
イオンビームに混ざった不純物イオンは、粒子線治療での線量誤差を生む原因となる。このため、そのような可能性のある運転を行う場合には、目的イオンに対する不純物イオンの比率が許容値以下であることを監視する必要がある。
【0008】
しかし、従来技術では、目的イオンと質量電荷比の等しい不純物イオンを分離することが難しく、不純物イオンの比率を測定することは容易ではなかった。
【0009】
一方で、質量電荷比の等しい不純物イオンを分離する方法として、イオンビームを加速した後に膜を通してイオン種ごとに異なるエネルギー損失を生じさせ、偏向磁石を用いて分離する技術が提案されている(特許文献2参照)。
【0010】
しかし、この方法は、イオンビームに含まれる目的イオンに対しても大きなエネルギー損失を与えることとなる。この方法は、加速したエネルギーを無駄に減らして、なおかつ散乱によるビーム広がりも起こすため、ビームロスの増加やビーム品質の低下が避けられない。また、不純物イオンを確実に分離するためにはイオンビームを偏向磁石で曲げてから長い距離を飛ばさなければいけないため、長いビーム輸送空間が必要となるというデメリットもあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開平4-149948号公報
【文献】特開2018-4455号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
この発明は、上述した問題に鑑み、目的のイオン種と質量電荷比の等しい不純物イオンを検出できるイオンビーム照射システム、イオンビーム純度測定方法、イオンビーム純度測定装置、およびイオンビーム純度測定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明の一態様は、荷電粒子を加速してイオンビームとする加速器と、前記加速器で加速された前記イオンビームを照射する照射装置と、前記加速器および前記照射装置を制御する制御装置とを備えたイオンビーム照射システムであって、前記加速器で加速された前記イオンビームの線量を検出する線量検出装置と、前記線量検出装置を通過した前記イオンビームの電流を検出する電流検出装置と、前記線量検出装置の線量検出値と前記電流検出装置の電流検出値に基づいて前記イオンビームの純度を測定する測定処理部とを備えたイオンビーム照射システムである。
【発明の効果】
【0014】
この発明により、目的のイオン種と質量電荷比の等しい不純物イオンを検出できるイオンビーム照射システム、イオンビーム純度測定方法、イオンビーム純度測定装置、およびイオンビーム純度測定プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】イオンビーム照射システムの構成を示すブロック図。
【
図2】測定装置および制御装置の構成を示す機能ブロック図。
【
図4】イオンビームの電流平均線量比を示すグラフ。
【
図5】実施例2のイオンビーム照射システムの構成を示すブロック図。
【
図6】実施例3のイオンビーム照射システムの構成を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面と共に説明する。
【実施例1】
【0017】
図1は、イオンビーム照射システム1の構成を示すブロック図である。
イオンビーム照射システム1は、イオン源2と、質量分析装置3と、線形加速器4(加速器)と、円形加速器5(加速器)と、偏向磁石6と、測定装置7と、照射装置8と、これらを接続してイオンビームを搬送する真空搬送路9と、これらを制御する制御装置10を有している。
【0018】
イオン源2は、原子から電子を取り除いてイオンを生成する装置である。詳述すると、イオン源2は、真空中に導入したガスに対して、プラズマ放電をさせる、あるいは電子ビームを照射することにより、導入したガスの原子から電子を取り除いてイオン化し、所定の方向に射出するイオンビームを生成する装置である。このイオン源2は、導入するガスを複数種類の中から切り替えて使用することができ、酸素イオン、炭素イオン、ヘリウムイオンを生成するなど、異なる複数種類のイオンを生成できるように構成されている。これにより、任意のイオン種に切り替えて生成することができる。
【0019】
質量分析装置3は、イオン分離電磁石(図示せず)と、イオン分離電磁石によって形成される磁場印加領域の出口に設けられたイオンビームを分離するスリット(図示せず)とを有しており、イオン分離電磁石に流す電流値を調節することで磁場を調節し、目的のイオンと質量電荷比の等しいイオンだけを分離して取り出す。これにより、イオンビームの純度を高めている。
【0020】
線形加速器4は、加速器の一種であり、イオン源2から供給されるイオンを電磁場によって所定エネルギーまで加速し、円形加速器5に供給する。
【0021】
円形加速器5は、線形加速器4から入射したイオンを電磁場によって周回軌道上でさらに加速して高エネルギーにする。この実施例では、円形加速器5は、数MeV/n以上のエネルギーへと加速する構成であり、例えばシンクロトロンにより構成されている。この円形加速器5には、射出部(図示省略)が設けられており、この射出部からイオンビーム(荷電粒子ビーム)を取り出して真空搬送路9へイオンビームを送り出す。
【0022】
偏向磁石6は、イオンビームの搬送方向を変更することができ、例えば、照射装置8へイオンビームを搬送させる、あるいは測定装置7へイオンビームを搬送させることができる。
【0023】
測定装置7は、イオンビームの純度を監視する装置であり、線量検出装置13(第1モニタ)と電流検出装置14(第2モニタ)がこの順でビーム進行方向に直列に接続されて構成されている。この測定装置7は、偏向磁石6と照射装置8の間の真空搬送路9が拡張された真空容器11内に設けられている。このように、測定装置7の線量検出装置13と電流検出装置14を、真空搬送路9が含まれる真空容器11内に設けることで、偏向磁石6によってイオンビームの搬送先を照射装置8と測定装置7(線量検出装置13、電流検出装置14)に切り替えるための偏向角度を小さくできることから、偏向磁石6の小型化ができるとともに、偏向磁石6から測定装置7(線量検出装置13、電流検出装置14)および照射装置8までの距離を短くすることができる。
【0024】
線量検出装置13は、電圧が印加されている2つの電極間を通過するイオンビームによる電離電流を検出する電離箱、または、イオンビームに励起されることにより発光するシンチレータなど、イオンビームの線量を測定する装置で構成されている。すなわち、この線量検出装置13は、イオンビームのエネルギーロス(dE/dx)に依存する線量を、イオンビームを停止させずに通過させて測定することができる。この線量検出装置13の出力は、イオン電荷の2乗に略比例した信号となる。
【0025】
電流検出装置14は、荷電粒子(イオン)を捕捉するファラデーカップ、または、ビーム電流が周りに作る磁場を利用して高い透磁率を持つコアの飽和特性により直流電流を検出するDCCT(DC Current Transformer)など、線量検出装置13を通過したイオンビームの電流を測定する装置で構成されている。この電流検出装置14と前段の線量検出装置13によるイオンビームの検出は、ほぼ同時に行われる。なお、この実施例のように、偏向磁石6によってイオンビームを照射装置8とは異なる方向へ偏向させて測定する場合、ファラデーカップのようにイオンビームを停止させて電流を測定する装置とすることが好ましい。この場合、電流検出装置14の後段にビームダンプを設置することが不要となり、かつ、低いビーム電流も高精度で測定することができる。この電流検出装置14の出力は、イオンビームのイオン電荷に略比例した信号となる。
【0026】
照射装置8は、イオンビームのXY方向(イオンビームの進行方向に対する垂直平面方向)の位置をX方向スキャニング磁石とY方向スキャニング磁石で制御し、イオンビームのZ方向(イオンビームの進行方向)の停止位置をエネルギー変更部(例えばレンジシフタ)により制御し、スキャニングモニタにより照射スポット別のイオンビームの照射線量を計測する。すなわち、照射装置8は、イオンビームの照射スポットの3次元位置の制御と照射線量を計測するスキャニング照射装置として機能する。このスキャニング照射装置は、イオンビームが細く絞られたペンシルビームを3次元的に走査し、腫瘍を塗りつぶすようにして治療を行う。なお、照射装置8は、このようにイオンビームとして細いペンシルビームを利用するスポットスキャニング方式に限らず、幅の広いイオンビームを用いてコリメータで照射範囲(照射面積)を成形し、補償フィルタでイオンビームの深さ方向の到達範囲を調整する方式など、適宜の方式によりイオンビームの照射を調整する装置で構成することができる。
【0027】
この照射装置8の後段には、イオンビーム照射システム1が粒子線治療システムとして用いられる場合であれば治療対象の患者がおり、イオンビーム照射システム1が適宜の物質を生成するシステムや検査システムとして利用される場合にはイオンビーム照射対象のターゲットが存在している。
【0028】
真空搬送路9は、イオン源2から質量分析装置3へ、質量分析装置3から線形加速器4へ、線形加速器4から円形加速器5へ、円形加速器5から偏向磁石6へ、偏向磁石6から照射装置8へと、イオンおよびイオンビームを電磁石により搬送する。
【0029】
制御装置10は、CPU(中央演算処理装置)と記憶部とを有している。この制御装置10は、複数種イオンビーム照射制御処理等を実行する。
【0030】
複数種イオンビーム照射制御処理は、イオン源2から取り出すイオン種を切り替え、適切な電流値での加速を行い、照射装置8により照射スポットを変更していく制御を行う処理である。
【0031】
この複数種イオンビーム照射制御処理には、イオン源2から供給されるイオン種に応じ電流値変更パターンデータから適切な電流値変更パターンを読み出し、この電流値変更パターンに従って線形加速器4および円形加速器5の電磁石に流す電流値を制御する加速電流値制御処理が含まれている。
【0032】
図2は、測定装置7および制御装置10の構成を示す機能ブロック図である。
測定装置7内では、まず線量検出装置13をイオンビームが通過し、通過したイオンビームが電流検出装置14に入射する。このとき、電流検出装置14に入射するイオンビームは、線量検出装置13を通過したイオンビームの80%以上とすることができ、90%以上とすることが好ましく、95%以上とすることがより好ましい。
【0033】
線量検出装置13の後段には、信号増幅器21、ローパスフィルタ22、および測定処理部31がこの順で設けられている。
電流検出装置14の後段には、信号増幅器26、ローパスフィルタ27、および測定処理部31がこの順で設けられている。
【0034】
信号増幅器21,26は、IVアンプまたは光電子増倍管などで構成され、信号を増幅する。
ローパスフィルタ22,27は、アナログ回路またはデジタル回路で構成され、信号のうち所定の周波数よりも高周波の成分を遮断(若しくは減衰)する。
【0035】
信号増幅器21,26のアンプゲインは、前段の線量検出装置13または電流検出装置14の特性、ノイズ条件、および測定するイオンビームの強度範囲によって適宜定められている。
【0036】
ローパスフィルタ22,27の周波数応答は、前段の線量検出装置13または電流検出装置14の特性、ノイズ条件、および測定するイオンビームの強度範囲によって適宜定められている。
【0037】
測定処理部31は、CPU(中央演算装置)や一時記憶部等を備えた適宜の測定用制御装置により構成され、記憶部32に記憶されたイオンビーム純度測定プログラム32a等のプログラムに従って動作する。
【0038】
測定処理部31は、イオンビーム純度測定プログラム32aに従って、線量検出装置13の信号が信号増幅器21により増幅されローパスフィルタ22で高周波カットされた調整後線量信号と、電流検出装置14の信号が信号増幅器26により増幅されローパスフィルタ27で高周波カットされた調整後電流信号を用いて演算し、イオンビームの純度を求めるイオンビーム純度測定処理を実行する。このイオンビーム純度測定処理は、偏向磁石6によりイオンビームを所定のタイミングで測定装置7へ誘導し、イオンビームの純度を測定する処理である。
【0039】
また、測定処理部31は、イオンビーム純度測定処理で測定した純度が要求純度より低い場合にイオンビームが照射装置8へ到達しないように偏向磁石6によって経路変更し、イオンビームの照射を中断するイオンビーム照射中断処理も実行する。この中断とは、イオンビームそのものは円形加速器5から取り出されて搬送されてきているものの、偏向磁石6によって照射装置8へ到達しないように経路変更することで適宜のストッパー等に照射停止させ、イオンビームが照射装置8からイオンビームが照射されない状態をいう。
【0040】
これらの処理の詳細についてはフローチャートとともに後述する。測定処理部31に接続されている記憶部32(記憶媒体)には、イオンビームの純度を測定するイオンビーム純度測定プログラム32aが記憶されている。
【0041】
図3は、測定装置7の測定処理部31(制御部)がイオンビーム純度測定プログラム32aに従って実行する動作のフローチャートである。
測定処理部31は、計測リトライ回数Nに「0」を代入してリセットし(ステップS1)、イオンビーム条件を設定する(ステップS2)。このイオンビーム条件は、測定処理部31が加速器制御部33および照射制御部35から測定するイオンビームの核種、およびエネルギーなどに関する情報を受信し、この受信した情報によって定められる。
【0042】
測定処理部31は、線量検出装置13で検出して増幅等した調整後線量信号V1と、電流検出装置14で検出して増幅等した調整後電流信号V2を取得する(ステップS3)。
【0043】
測定処理部31は、調整後線量信号V1と調整後電流信号V2をそれぞれ時間積分してΣV1とΣV2を求める(ステップS4)。この時間積分は、所定時間で取得した調整後線量信号V1と調整後電流信号V2をその時間で積分することによって、イベント毎の検出ではなく所定時間のイオンビーム全体を検出できるようにしている。この時間積分により、信号ノイズの影響を十分に減らして測定精度を高めることができる。
【0044】
測定処理部31は、規格化係数K1に(ΣV1)を乗算した値を、規格化係数K2に(ΣV2)を乗算した値で除算して、イオンビームの電流平均線量Dを算出する。さらに、あらかじめ算出または測定した理想的条件での電流平均線量Drefを平均線量Dから減算し、その絶対値ΔDを算出する(ステップS5)。
【0045】
ここで、規格化係数K1、K2は、イオンビーム条件、モニタ特性(測定装置7の特性)、および回路のアンプゲインから決定される。具体的には、予め理想的な条件で実測した結果によりK1/K2として適切な値を算出し、これによって決定したK1およびK2を規格化係数として採用する。
【0046】
また、この規格化係数K1、K2は、演算処理がデジタル回路の内部で行われることからデータ値のオバーフローを起こさないように考慮しつつ、イオンビームの電流平均線量Dが必要な分解能を得られるように定める。測定条件によっては規格化係数K1、K2のうち、どちらか一方、または双方を1としてもよい。また、K1/K2を1つの規格化係数として扱ってもよい。このステップS3~S5が、イオンビームの純度を測定するイオンビーム純度測定処理となる。
【0047】
測定処理部31は、差の絶対値ΔDが許容値Y以下であれば(ステップS6:Yes)、患者への照射を可能とし、以降の照射装置8からのイオンビームの照射(患者の腫瘍への照射等)を許容する。
【0048】
測定処理部31は、差の絶対値ΔDが許容値Yを超えていれば(ステップS6:No)、イオンビームの照射を中断または停止させる処理に移行し、計測リトライ回数Nをカウントアップする(ステップS7)。
【0049】
測定処理部31は、計測リトライ回数Nが上限値M以内であれば(ステップS8:Yes)、イオンビームの照射を一旦中断し(ステップS10)、ある決められた時間Tをタイマーで計測して待機状態とする(ステップS11)。
【0050】
その後、測定処理部31は、イオン源2から再度イオンビームを出力し、線形加速器4や円形加速器5などの粒子加速器で加速した後に照射してイオンビームの純度を再計測し(ステップS12)、ステップS3に処理を戻して繰り返す。
【0051】
計測リトライ回数Nの上限値M以内にイオンビームの純度が許容範囲内に入れば(ステップS8:Yes → ステップS6:Yes)、患者への照射は可能となる。このとき、偏向磁石6に信号を送り、イオンビームの搬送方向を測定装置7から照射装置8へ切り替え、イオンビーム照射システム1の制御装置10が照射装置8からのイオンビームの照射を実行する。
【0052】
計測リトライ回数Nが上限値Mを超えれば(ステップS8:No)、その時点でイオンビームの照射を停止し(ステップS9)、処理を終了する。この場合は、円形加速器5からのイオンビームの取り出しを停止するなど、適宜の形でイオンビームの照射を停止する。
【0053】
このようにして、許容範囲外のイオンビームの純度を測定処理部31が検出した場合に、すぐさまイオンビームの照射を停止せず、イオンビームの不純物が減るまでイオンビームが照射装置8へ到達しないよう偏向磁石6で搬送方向を切り替えた状態を維持しつつ、イオンビームの純度の計測を自動的にリトライすることができる。
【0054】
図4は、イオンビームの電流平均線量比D/D
refを示すグラフである。このグラフの例では、
4He
2+ビームに
12C
6+、
14N
7+、
16O
8+がそれぞれ不純物イオンとして混ざった条件で得られるイオンビームの電流平均線量比D/D
refを計算から予想した結果を示している。
【0055】
4He2+のみを含む理想的なイオンビームは、電流平均線量比D/Drefが100%になる。これに対して、12C6+が不純物イオンとして1%混ざった状態ではD/Drefが+5.9%に上昇するため、容易に検出できる。
【0056】
以上の構成および動作により、目的のイオン種と質量電荷比の等しい不純物イオンが混ざっていてもこれを検出することができる。したがって、例えば、12C2+ビームを用いる、導入ガスをCH4にするなど、目的イオンと質量電荷比が等しい不純物イオンが残留ガスから生じにくい条件を選択する必要がなく、導入ガス等の自由度が高まる。
【0057】
特に、イオン源2が複数種類のイオン種を取り出せるものであり、イオン種を切り替えて利用するような場合に、イオン源2に残留していた以前のイオン種がイオンビームに混入していればこれを検出し、イオンビームが所望の純度になるまでイオンビームを照射しないといったことができる。
【0058】
また、イオンビームの純度が低く許容範囲外の場合(ステップS6:No)に、所定時間の待機をして再度イオンビームの純度を測定する処理を繰り返すため、イオン種の切り替え直後には多かった不純物イオンが時間の経過とともに減っていくような状況のもとで、イオンビームの純度が許容範囲内に入るまで自動的に待機して、イオンビームの純度が許容範囲内に入れば照射を開始するといったことができる。これにより、イオンビーム照射の停止回数を最小限にでき、効率的な粒子線治療装置の運転が可能となる。
【0059】
また、1台のイオン源2から複数イオン種のビームを供給する運用をする際にも不純物を取り除ける(検知して照射しないことができる)から、使用可能な複数種類のイオン種のうち所望のイオン種を高い純度で有するイオンビームを照射できるイオンビーム照射システム1を低コストで実現することができる。
【0060】
また、粒子線治療のマルチイオン照射など1台のイオン源2から複数イオン種のビームを短時間に切り替えて供給するような利用に対して、イオンビームの純度を保てることにより、1台のイオン源2から複数イオン種のビームを供給する運用が可能となるため、従来は複数台のイオン源2が必要であったマルチイオン照射においてコストの低減を実現できる。
【0061】
また、イオンビームの純度を確認してから治療やターゲットへの照射を実行するといったことが可能になり、様々なイオン種のイオンビームを高い純度で様々な用途に使用できるイオンビーム照射システム1を提供できる。
【0062】
また、線量検出装置13の出力はイオン電荷の2乗に略比例した信号となり、また、電流検出装置14の出力はイオン電荷に略比例した信号となる。このため、2つの検出装置13,14(モニタ)の出力信号値の除算により、イオンビームの電流平均線量を算出することができ、目的イオンの理想的ビーム条件での電流平均線量と比較することによって、測定したイオンビームの「純度」を予測することが可能となる。
【0063】
また、線量検出装置13で線量を検出したイオンビームについて、そのまま次段の電流検出装置14で電流を検出する構成であるため、イオンビームの純度を精度よく測定することができる。特に、線量検出装置13を通過したイオンビームの80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上を電流検出装置14で検出するため、非常に精度の高い純度の測定を行うことができる。
このようにして、簡易な測定装置7と簡便な測定方法により、粒子線治療等に用いるイオンビームの純度を監視することが可能となる。
【0064】
なお、線量検出装置13および電流検出装置14の出力信号に対して、積分時間を十分に取り、温度気圧依存係数のような適切な補正を行う構成としてもよい。この場合、D/Drefを±1%程度の精度でも安定に検出することが可能となる。
【実施例2】
【0065】
図5は、実施例2のイオンビーム照射システム101の構成を示すブロック図である。
【0066】
イオンビーム照射システム101は、測定装置107が実施例1と異なる構成となっている。
すなわち、測定装置107は、真空搬送路9の外である大気中に設置されている。偏向磁石6は、イオンビームを十分に偏向して分岐路111から大気中に取り出し、この大気中に取り出されたイオンビームを測定装置107が測定する。
【0067】
測定装置107は、線量検出装置113と電流検出装置114がこの順でビーム進行方向に直列に接続されている。線量検出装置113と電流検出装置114は、実施例1と同様に、電離箱とファラデーカップとする、あるいはシンチレータとDCCTとするなど、適宜の構成とすることができる。
【0068】
その他の構成および動作については、実施例1と同一であるため、同一要素に同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0069】
この実施例2においても、実施例1と同一の作用効果を奏することができる。
また、偏向磁石6で大きくイオンビームを偏向する必要があるものの、線量検出装置113および電流検出装置114の点検や交換を簡易に行えるというメリットがある。
【実施例3】
【0070】
図6は、実施例3のイオンビーム照射システム201の構成を示すブロック図である。
【0071】
イオンビーム照射システム201は、実施例1と比較して、測定装置207の構成と、偏向磁石6が設けられていない点が異なっている。
【0072】
測定装置207は、円形加速器5と照射装置8の間の真空搬送路9の途中に設けられた真空容器211内に設けられている。
測定装置207は、線量検出装置213と電流検出装置214がこの順でビーム進行方向に直列に配置されている。
【0073】
線量検出装置213は、実施例1の線量検出装置13と同じく電離箱やシンチレータ等の非破壊で線量を検出する装置で構成されている。
電流検出装置214は、DCCTのようにイオンビーム電流を非破壊で測定できる検出装置により構成されている。
【0074】
この実施例3の場合、測定装置207と照射装置8の間の真空搬送路9内に図示省略するビームダンプを開閉可能に設置しておくことが好ましい。そして、実施例1にて
図3とともに説明した動作において、ステップS10のビーム照射を中断する際に、ビームダンプを閉状態にしてイオンビームを遮断し、イオンビームの照射を行う際にはビームダンプを開状態にする動作を実施する。
【0075】
その他の構成および動作については、実施例1と同一であるため、同一要素に同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0076】
この実施例3においても、実施例1と同一の作用効果を奏することができる。
電離箱やシンチレータのような線量検出器である線量検出装置213を透過してもイオンビームが受ける影響は小さいため、患者やターゲットへのイオンビームの照射中でも常にイオンビームの純度を監視することができる。
【0077】
なお、イオンビームの照射中にイオンビームの純度が許容値を下回っていることを検出した場合は、即座に測定処理部31(
図2参照)から加速器制御部33(
図2参照)を介して加速器電磁石電源(図示せず)に指令を送り、イオンビームの照射を停止する構成としてもよい。
【0078】
この実施例3の構成では、イオンビームの純度に異常があった場合でも、測定処理部31が検知するまではイオンビームの照射が継続されるものの、測定処理部31が異常を検知するためにかかる時間は短いため、それによる影響は少ないと考えられる。
【0079】
なお、本発明は、上述した実施例に限らず、様々な形態をとることができる。
例えば、実施例1,2では、イオンビームを偏向磁石6によって全部偏向させて測定し、測定中に照射装置8へイオンビームを到達させない構成としたが、これに限らず、偏向磁石6によって一部のイオンビームは測定装置7,107へ向かって偏向させ、残りのイオンビームはそのまま照射装置8へ到達する構成としてもよい。この場合、偏向磁石6から照射装置8の間に開閉可能なビームダンプを備え、照射装置8からイオンビームを照射するときはビームダンプを開状態として照射し、照射装置8からイオンビームを照射させないときはビームダンプを閉状態にしてイオンビームを遮断すればよい。この場合も実施例1,2と同一の作用効果を奏することができる。
更に、イオン源と加速器が一体となったレーザ加速の場合は、本発明におけるイオン源と加速器とを含むと定義されるため、当然本発明の技術範囲に含まれる。
【0080】
また、実施例1の測定装置7または実施例2の測定装置107と、実施例3の測定装置207を両方備える構成とすることもできる。この場合、イオンビーム照射前と照射中の純度をどちらも検出することが可能となるため、より確実性の高い監視機構を構成できる。
【0081】
また、測定装置7,107,207は、円形加速器5としてシンクロトロンを備えたイオンビーム照射システム1,101,201に用いることが好適であるが、それ以外にもイオンビームを加速する種々の加速器(粒子加速器)に利用することができる。
【0082】
また、
図3に示したフローチャートにおいて、ステップS1を省略し、ステップS6にてNoへ進んだ後のステップS7~S12の処理をイオンビームの照射を停止する処理に変更し、イオンビームの照射停止後は処理を終了する構成としてもよい。
【0083】
この場合、イオンビームの純度が高くなってから自動的に照射を開始するといった処理はできないものの、イオンビームの純度を測定してビームを停止することができるため、十分な作用効果を奏することができる。
【0084】
また、この発明は、イオン種を切り替えて取り出せるイオン源を用いるものに限らず、荷電粒子を加速したイオンビームを照射できるイオンビーム照射システムで、かつ、不純物が混じり得る適宜のイオンビーム照射システムに利用することができる。特に、目的のイオン種と質量電荷比の等しい不純物イオンが混ざり得るイオンビーム照射システムにおいて、不純物イオンを精度よく検出でき、イオンビームの純度を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
この発明は、加速器によって加速したイオンビームを照射する産業に利用することができる。
【符号の説明】
【0086】
1…イオンビーム照射システム
2…イオン源
4…線形加速器
5…円形加速器
8…照射装置
10…制御装置
13…線量検出装置
14…電流検出装置
31…測定処理部