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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】原子の冷却・捕捉方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 3/00 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
G02F3/00
【請求項の数】 36
(21)【出願番号】P 2023526357
(86)(22)【出願日】2021-10-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-11-02
(86)【国際出願番号】 EP2021079961
(87)【国際公開番号】W WO2022090381
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-06-19
(31)【優先権主張番号】2017157.5
(32)【優先日】2020-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500125788
【氏名又は名称】ユニバーシティ、オブ、サウサンプトン
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF SOUTHAMPTON
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ドラゴミール、アンドレイ-アウレル
(72)【発明者】
【氏名】ヒムズワース、マシュー デイビッド
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-328199(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104036841(CN,A)
【文献】特開2012-58547(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0289629(US,A1)
【文献】FIORETTI, A. et al.,An optical trap for cold rubidium molecules,OPTICS COMMUNICATIONS,2004年12月21日,Vol. 243,pp. 203-208
【文献】HYODO, M. et al.,Mirror magneto-optical trap using circularly polarized light-emitting fibers,APPLIED OPTICS,2006年05月20日,Vol. 45, No. 15,pp. 3629-3633
【文献】IMHOF, E. et al.,Two-dimensional grating magneto-optical trap,PHYSICAL REVIEW A,Vol. 96,pp. 033636-1 - 0336936-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/00-1/125
G02F 1/21-3/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子の捕捉及び冷却のための光学トラップであって、前記光学トラップは、
冷却遷移と呼ばれる原子種の電子遷移の励起を介して原子種の原子を冷却することができる真空雰囲気を提供するように動作可能な真空チャンバーと、
いずれも前記冷却遷移の周波数より低く離調された周波数を持つ、それぞれ第1から第6のビーム幅のレーザー光の第1から第6のビームを生成するように構成されたレーザー源と、
光学装置であって、
前記第1、第2及び第3のビームを方向づけて、それぞれ第1、第2及び第3の入射ビーム経路に沿って前記真空チャンバーを横断して伝播するように構成され、前記第1、第2及び第3の入射ビーム経路が、それぞれが基準軸に対して45°のアライメント角度を成す互いに直交する配置から逸脱し、代わりに、前記基準軸に対して5°と40°との間のそれぞれ第1、第2及び第3のアライメント角度を持ち、
前記第4、第5及び第6のビームを方向づけて、前記第1、第2及び第3のビームの前記ビーム経路にほぼ沿って、ただし3つの対向ビームペアを形成するように反対の伝播方向に、前記真空チャンバーを横断して伝播するように構成され、各対向ビームペアのビームが、それらのビーム経路が一致するそれぞれの経路から、それぞれ第1、第2及び第3のずれ角だけ逸脱し、前記第1、第2及び第3のずれ角並びに前記第1から第6のビーム幅が、前記第1から第6のビームのすべてが横断する前記真空チャンバー内の交差領域を定める値を持つ、前記光学装置と、
を備える、光学トラップ。
【請求項2】
前記レーザー源が1つのレーザーから成り、その出力ビームが分割されて前記第1から第3のビームを生成する、請求項1に記載の光学トラップ。
【請求項3】
前記レーザー源が3つのレーザーから成り、それぞれが前記第1から第3のビームの1つを生成する、請求項1に記載の光学トラップ。
【請求項4】
前記光学トラップが、前記第1、第2及び第3のビームが前記真空チャンバーを横断して伝播した後で、前記第1、第2及び第3のビームを反射して、前記第1、第2及び第3のビームがそれぞれ前記第4、第5及び第6のビームとして前記真空チャンバーを横断して伝播して戻るように配置された第1、第2及び第3の反射器をさらに備える、請求項1、2又は3に記載の光学トラップ。
【請求項5】
前記レーザー源が6つのレーザーから成り、それぞれが前記第1から第6のビームの1つを生成する、請求項1に記載の光学トラップ。
【請求項6】
各対向ビームペアについて、前記2つのビーム幅と、前記2つのビームの間のずれ角とがいっしょに構成され、前記交差領域においてビーム領域が小さいほうのビームのビーム領域の少なくとも半分が、ビーム領域が大きいほうのビームのビーム領域と交差するようにする、請求項1から5のいずれか一項に記載の光学トラップ。
【請求項7】
前記ずれ角が以下の条件:
前記ずれ角のそれぞれが0.1°より大きい、
前記ずれ角のそれぞれが2°より小さい、
前記ずれ角の少なくとも1つが0.5°より大きい、
前記ずれ角の少なくとも2つが0.5°より大きい、
の1つ又は複数に従う、請求項1から6のいずれか一項に記載の光学トラップ。
【請求項8】
前記第1から第6のビームが前記真空チャンバーに入る時にそれらにそれぞれ定められた偏光状態を備えるように配置された偏光構成要素をさらに備える、請求項1から7のいずれか一項に記載の光学トラップ。
【請求項9】
前記原子種が、効率的な冷却が行われるように励起される必要がある、リポンプ遷移と呼ばれるさらなる電子遷移を有し、前記レーザー源又はさらなるレーザー源が、リポンプ遷移の周波数で調整されたさらなる周波数でさらなるレーザー光を生成するように構成されている、請求項1から8のいずれか一項に記載の光学トラップ。
【請求項10】
前記光学装置が、前記第1から第6のビームのそれぞれが前記レーザー光と前記さらなるレーザー光の両方を含むように、前記レーザー光と前記さらなるレーザー光とを結合するように動作可能なビーム結合器をさらに備える、請求項9に記載の光学トラップ。
【請求項11】
前記第1から第6のビームが、前記真空チャンバーを横断する時に、少なくともほぼコリメートされる、請求項1から10のいずれか一項に記載の光学トラップ。
【請求項12】
前記光学トラップが磁場発生器を含まない、請求項1から11のいずれか一項に記載の光学トラップ。
【請求項13】
前記第1、第2及び第3のアライメント角度が20°と40°との間である、請求項1から12のいずれか一項に記載の光学トラップ。
【請求項14】
前記第1、第2及び第3のアライメント角度が25°と35°との間である、請求項1から12のいずれか一項に記載の光学トラップ。
【請求項15】
前記3つの対向ビームペアが前記基準軸を中心として放射状に少なくともほぼ等間隔で配置される、請求項1から14のいずれか一項に記載の光学トラップ。
【請求項16】
原子のレーザー冷却及び捕捉の方法であって、前記方法は、
冷却遷移と呼ばれる原子種の電子遷移の励起を介して真空雰囲気中でレーザー冷却される原子種の原子を収容する真空チャンバーを提供することと、
前記冷却遷移の周波数より低く離調された周波数でレーザー光を提供することと、
それぞれ第1、第2及び第3のビーム幅を持つ前記レーザー光の第1、第2及び第3のビームを提供することと、
それぞれ第1から第6のビーム幅と、前記冷却遷移の周波数より低く離調された周波数とを持つレーザー光の第1から第6のビームを提供することと、
前記第1、第2及び第3のビームを方向づけて、それぞれ第1、第2及び第3の入射ビーム経路に沿って前記真空チャンバーを横断して伝播するようにし、前記第1、第2及び第3の入射ビーム経路が、それぞれが基準軸に対して45°のアライメント角度を成す互いに直交する配置から逸脱し、代わりに、前記基準軸に対して5°と40°との間のそれぞれ第1、第2及び第3のアライメント角度を持つことと、
前記第4、第5及び第6のビームを方向づけて、それぞれ前記第1、第2及び第3のビームのビーム経路にほぼ沿って、ただし3つの対向ビームペアを形成するように反対の伝播方向に、前記真空チャンバーを横断して伝播するようにし、各対向ビームペアのビームが、それらのビーム経路が一致するそれぞれの経路から、それぞれ第1、第2及び第3のずれ角だけ逸脱し、前記第1、第2及び第3のずれ角並びに前記第1から第6のビーム幅が、前記第1から第6のビームのすべてが横断する前記真空チャンバー内の交差領域を定める値を持つことと、
を含む、方法。
【請求項17】
前記原子種が、効率的な冷却が行われるように励起される必要がある、リポンプ遷移と呼ばれるさらなる電子遷移を有し、
前記方法が、前記リポンプ遷移の周波数で調整されたさらなる周波数でさらなるレーザー光を提供し、前記第1から第6のビームが前記さらなるレーザー光を含むことをさらに含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記レーザー冷却が磁場の存在なしで行われる、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
前記第1、第2及び第3のビームが前記真空チャンバーを横断して伝播した後で、前記第1、第2及び第3のビームを反射して、前記第1、第2及び第3のビームがそれぞれ第4、第5及び第6のビームとして前記真空チャンバーを横断して伝播して戻るように、第1、第2及び第3の反射器が配置される、請求項16から18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記第1、第2及び第3のアライメント角度が25°と35°との間である、請求項16から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
原子の捕捉及び冷却のための光学トラップであって、前記光学トラップは、
冷却遷移と呼ばれる原子種の電子遷移の励起を介して原子種の原子を冷却することができる真空雰囲気を提供するように動作可能な真空チャンバーと、
前記冷却遷移の周波数より低く離調された周波数でレーザー光を生成するように構成されたレーザー源と、
前記レーザー光を操作して、それぞれ第1、第2及び第3のビーム幅を持つ第1、第2及び第3のビームを生成し、前記第1、第2及び第3のビームを方向づけて、それぞれ第1、第2及び第3の入射ビーム経路に沿って前記真空チャンバーを横断して伝播するように構成され、前記第1、第2及び第3の入射ビーム経路が、それぞれが基準軸に対して45°のアライメント角度を成す互いに直交する配置から逸脱し、代わりに、前記基準軸に対して20°と40°との間のそれぞれ第1、第2及び第3のアライメント角度を有する、光学装置と、
前記第1、第2及び第3のビームを反射して、それぞれ第1、第2及び第3の反射ビーム経路でそれらの入射ビーム経路に沿って前記真空チャンバーを横断して伝播して戻るように配置され、前記第1、第2及び第3の反射ビーム経路が、各反射ビーム経路がその入射ビーム経路と一致する再帰反射から、それぞれ第1、第2及び第3のずれ角だけ逸脱し、前記第1、第2及び第3のずれ角並びにビーム幅が、前記第1、第2及び第3のビームがそれらの入射ビーム経路とそれらの反射ビーム経路に沿って伝播する時に横断する前記真空チャンバー内の交差領域を定める値を持つ、第1、第2及び第3の反射器と、
を備える、光学トラップ。
【請求項22】
前記ずれ角が以下の条件:
前記ずれ角のそれぞれが0.1°より大きい、
前記ずれ角のそれぞれが2°より小さい、
前記ずれ角の少なくとも1つが0.5°より大きい、
前記ずれ角の少なくとも2つが0.5°より大きい、
の1つ又は複数に従う、請求項21に記載の光学トラップ。
【請求項23】
前記第1、第2及び第3の反射器が、前記基準軸及び入射ビーム経路と反射ビーム経路との各ペアが少なくともほぼ共通の平面内にあるように、構成され、それによって、第1、第2及び第3のそのような平面を定める、請求項21又は22に記載の光学トラップ。
【請求項24】
前記第1、第2及び第3の平面が、前記基準軸に沿って見た時にほぼ等角度間隔で配置される、請求項23に記載の光学トラップ。
【請求項25】
前記第1、第2及び第3のビームが前記真空チャンバーに入る時に前記第1、第2及び第3のビームにそれぞれ定められた偏光状態を備えるように配置された偏光構成要素をさらに備える、請求項21から24のいずれか一項に記載の光学トラップ。
【請求項26】
前記第1、第2及び第3の反射器が、前記第1、第2及び第3のビームの前記定められた偏光状態が反射時に保たれるように構成される、請求項25に記載の光学トラップ。
【請求項27】
前記原子種が、効率的な冷却が行われるように励起される必要がある、リポンプ遷移と呼ばれるさらなる電子遷移を有し、前記レーザー源又はさらなるレーザー源が、前記リポンプ遷移の周波数で調整されたさらなる周波数でさらなるレーザー光を生成するように構成される、請求項21から26のいずれか一項に記載の光学トラップ。
【請求項28】
前記光学装置が、前記第1、第2及び第3のビームのそれぞれが前記レーザー光と前記さらなるレーザー光の両方を含むように、前記レーザー光と前記さらなるレーザー光とを結合するように動作可能なビーム結合器をさらに備える、請求項27に記載の光学トラップ。
【請求項29】
前記第1、第2及び第3のビームが、前記真空チャンバーを横断する時に、少なくともほぼコリメートされる、請求項21から28のいずれか一項に記載の光学トラップ。
【請求項30】
前記光学トラップが磁場発生器を含まない、請求項21から29のいずれか一項に記載の光学トラップ。
【請求項31】
前記第1、第2及び第3のアライメント角度が25°と35°との間である、請求項1から30のいずれか一項に記載の光学トラップ。
【請求項32】
前記第1、第2及び第3のビームが前記基準軸を中心として放射状に等間隔で配置される、請求項1から31のいずれか一項に記載の光学トラップ。
【請求項33】
原子のレーザー冷却及び捕捉の方法であって、前記方法は、
冷却遷移と呼ばれる原子種の電子遷移の励起を介して真空雰囲気中でレーザー冷却される原子種の原子を収容する真空チャンバーを提供することと、
前記冷却遷移の周波数より低く離調された周波数でレーザー光を提供することと、
それぞれ第1、第2及び第3のビーム幅を持つ前記レーザー光の第1、第2及び第3のビームを提供することと、
前記第1、第2及び第3のびビームを方向づけ、それぞれ第1、第2及び第3の入射ビーム経路に沿って前記真空チャンバーを横断して伝播するようにし、前記第1、第2及び第3の入射ビーム経路が、それぞれが基準軸に対して45°のアライメント角度を成す互いに直交する配置から逸脱し、代わりに、前記基準軸に対して25°と35°との間のそれぞれ第1、第2及び第3のアライメント角度を持つことと、
前記第1、第2及び第3のビームを反射して、それぞれ第1、第2及び第3の反射ビーム経路でそれらの入射ビーム経路に沿って前記真空チャンバーを横断して伝播して戻るようにし、前記第1、第2及び第3の反射ビーム経路が、各反射ビーム経路がその入射ビーム経路と一致する再帰反射から、それぞれ第1、第2及び第3のずれ角だけ逸脱し、前記第1、第2及び第3のずれ角並びにビーム幅が、前記第1、第2及び第3のビームがそれらの入射ビーム経路とそれらの反射ビーム経路に沿って伝播する時に横断する前記真空チャンバー内の交差領域を定める値を持つことと、
を含む、方法。
【請求項34】
前記原子種が、効率的な冷却が行われるように励起される必要がある、リポンプ遷移と呼ばれるさらなる電子遷移を有し、
前記方法が、前記リポンプ遷移の周波数で調整されたさらなる周波数でさらなるレーザー光を提供し、前記第1、第2及び第3のビームが前記さらなるレーザー光を含むことをさらに含む、
請求項33に記載の方法。
【請求項35】
前記第1、第2及び第3のビームが少なくともほぼコリメートされる、請求項33又は34に記載の方法。
【請求項36】
前記レーザー冷却が磁場の存在なしで行われる、請求項33、34又は35に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザー光による原子の冷却及び捕捉に関する。
【背景技術】
【0002】
1980年代後半のレーザー冷却・捕捉の初期の開発時に、多くの研究グループが、捕捉された原子の温度が当時ドップラー冷却によって課されると考えられていた限界をはるかに下回っていることを発見した。これらの発見を確かめるために、1988年にLettら(非特許文献1)は、温度を求める方法を注意深く研究した。それらの発見は当時、その時に理解されていたドップラー限界モラセス冷却と比較して、「スーパーモラセス」と呼ばれていた。翌年、2つの研究グループが独立して、追加の冷却効果の背後にあるメカニズムとして偏光勾配冷却(シシュフォス冷却とも呼ばれる)を特定する理論的説明を提出した(非特許文献2および非特許文献3)。これらの理論は、偏光に依存する原子の状態の変調によって追加のエネルギーを散乱させるために、原子の内部構造に依拠していた。上記の効果は研究され、現在では完全に理解されている。しかしながら、スーパーモラセス効果をめぐって不確実なこの同じ時期に、もう一つの観察が行われており、それはほとんど研究されていない。Chuら(非特許文献4)によって、対向するレーザービームがわずかにずれると、モラセス中に集められる原子の数が著しく一桁以上も増加し、数秒間捕捉されたままになることが指摘された。この効果のいくつかの側面は、「レーストラックモード」(非特許文献5)によって説明することができる。しかしながら、この観察は、ほとんど研究されていないようである。可能性のある一つの理論的説明が示されており(非特許文献6)、これは、カピッツァ振り子(又は倒立振り子)に着想を得た、渦の力を伴うが、実験的に検証されていないモデルに基づいている。磁場が存在しない場合の同様の予想外の原子の冷却・捕捉は、他の文献でも報告されている(非特許文献7および非特許文献8)。これらの両文献で報告されているトラップは、3本のデカルト軸に沿って直角に配置された3つの対向ビームペアを有する。非特許文献7のトラップは、うまく動作するために、直線偏光、非常に良好な真空、大直径(≧10mm)のレーザービームを必要としている。対向ビームペアを生成するために、各入射ビームは正確な再帰反射からわずかに離れた角度で反射され、0.5°~1°の範囲のずれで良好なパフォーマンスが得られている。仮定された捕捉メカニズムは、双極子力(非特許文献9)であった。非特許文献7と同様に、非特許文献8のトラップも、大直径のビームと、わずかにずらされた対向ビームペアを用いている。非特許文献8のトラップは、直線偏光又は円偏光で動作している。その動作は、磁場が消滅する前に標準的な磁気光学トラップ(MOT)からの負荷を必要としている。つまり、蒸気から直接、冷却された原子雲を形成することはできていない。著者らは、そのようなトラップをもたらす可能性のあるいくつかの理論的プロセスを検討し、特に、そのプロセスが超格子双極子トラップに関連している可能性があることを示唆した。
【0003】
光場のみ、つまり磁場なしの原子の冷却・捕捉が予想外である理由は、以下のように示されるアーンショーの定理(非特許文献10)の光学的な同等物による。
【0004】
【数1】
上式において、Fは、スカラー分極率を持つ粒子に対する散乱力である。本質的に、自由区間には光場の発生源も吸収源もないため、散乱力だけではすべての次元で双極子に安定した復元力を生み出すことはできない。この制限は、一般的には、ゼーマンシフト(MOTのように)又はACシュタルクシフト(双極子トラップのように)によって原子の内部状態を操作することによって克服される。
【0005】
Bouyerら(非特許文献11)が開発した光学トラップは、光ポンピング依存トラップ(TROOP)と呼ばれ、目的に合わせて設計されたオール光学トラップである。TROOPは、各デカルト軸に沿ってアライメントされた直交円偏光のコリメートされていないビーム、つまり発散ビームを用い、不均衡なレーザーパワーと光ポンピングによって、空間的に変化する、したがって位置に依存する力を生み出す。MOTや双極子トラップと同様に、TROOPも内部状態の操作に基づいている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】P. D. Lett, R. N. Watts, C. I. Westbrook, W. D. Phillips, P. L. Gould, and H. J. Metcalf, Observation of atoms laser cooled below the doppler limit, Physical review letters 61, 169 (1988).
【文献】P. J. Ungar, D. S. Weiss, E. Riis, and S. Chu, Optical molasses and multilevel atoms: theory, JOSA B 6, 2058 (1989).
【文献】J. Dalibardand C. Cohen-Tannoudji, Laser cooling below the doppler limit by polarization gradients: simple theoretical models, JOSA B 6, 2023 (1989).
【文献】S. Chu, M. Prentiss, A. Cable, and J. Bjorkholm, Laser cooling and trapping of atoms, in Laser Spectroscopy VIII (Springer, 1987) pp. 58-63.
【文献】T. Walker, D. Sesko, and C. Wieman, Collective behavior of optically trapped neutral atoms, Physical Review Letters 64, 408 (1990).
【文献】V. Bagnato, N. Bigelow, G. Surdutovich, and S. Zilio, Dynamical stabilisation: a new model for supermolasses, Optics letters 19, 1568 (1994).
【文献】A. Hoepe, D. Haubrich, H. Schadwinkel, F. Strauch, and D. Meschede, Optical trapping in a cesiumcell with linearly polarized light and at zero magnetic field, EPL (Europhysics Letters) 28, 7 (1994).
【文献】S. Sharma, B. Acharya, A. De Silva, N. Parris, B. Ramsey, K. Romans, A. Dorn, V. de Jesus, and D. Fischer, All-optical atom trap as a target for motrims-like collision experiments, Physical Review A 97, 043427 (2018).
【文献】A. Rauschenbeutel, H. Schadwinkel, V. Gomer, and D. Meschede, Standing light fields for cold atoms with intrinsically stable and variable time phases, Optics communications 148, 45 (1998).
【文献】A. Ashkinand J. P. Gordon, Stability of radiationpressure particle traps: an optical Earnshaw theorem, Optics letters 8, 511 (1983).
【文献】P. Bouyer, P. Lemonde, M. B. Dahan, A. Michaud, C. Salomon, and J. Dalibard, An atom trap relying on optical pumping, EPL (Europhysics Letters) 27, 569 (1994).
【文献】R. Roy, J. Rushton, A. Dragomir, M. Aldous, and M. Himsworth, A misaligned magneto-optical trap to enable miniaturized atom chip systems, Scientific reports 8, 10095 (2018).
【文献】V. Negnevitskyand L. D. Turner, Wideband laser locking to an atomic reference with modulation transfer spectroscopy, Optics express 21, 3103 (2013).
【文献】M. Aldous, J. Woods, A. Dragomir, R. Roy, and M. Himsworth, Carrier frequency modulation of an acousto-optic modulator for laser stabilisation, Optics Express 25, 12830 (2017).
【文献】C. Gabbanini, A. Evangelista, S. Gozzini, A. Lucchesini, A. Fioretti, J. Mueller, M. Colla, and E. Arimondo, Scaling laws in magneto-optical traps, EPL (Europhysics Letters) 37, 251 (1997).
【文献】G. Gattobigio, T. Pohl, G. Labeyrie, and R. Kaiser, Scaling laws for large magneto-optical traps, Physica Scripta81, 025301 (2010).
【文献】G. W. Hoth, E. A. Donley, and J. Kitching, Atom number in magneto-optic traps with millimeterscale laser beams, Optics letters 38, 661 (2013).
【文献】V. Letokhovand V. Minogin, Cooling, trapping, and storage of atoms by resonant laser fields, JOSA 69, 413 (1979).
【発明の概要】
【0007】
本開示の第1の態様によれば、原子を捕捉及び冷却するための光学トラップが提供され、この光学トラップは、
冷却遷移と呼ばれる原子種の電子遷移の励起を介して原子種の原子を冷却することができる真空雰囲気を提供するように動作可能な真空チャンバーと、
冷却遷移の周波数より低く離調された周波数でレーザー光を生成するように構成されたレーザー源と、
レーザー光を操作して、それぞれ第1,第2及び第3のビーム幅を持つ第1、第2及び第3のビームを生成し、第1、第2及び第3のビームを方向づけて、それぞれ第1、第2及び第3の入射ビーム経路に沿って真空チャンバーを横断して伝播するように構成され、第1、第2及び第3の入射ビーム経路が、それぞれが基準軸に対して45°のアライメント角度を成す互いに直交する配置から逸脱し、代わりに、基準軸に対して25°と35°との間のそれぞれ第1、第2及び第3のアライメント角度を持つ、光学装置と、
第1、第2及び第3のビームを反射して、それぞれ第1、第2及び第3の反射ビーム経路でそれらの入射ビーム経路に沿って真空チャンバーを横断して伝播して戻るように配置され、第1、第2及び第3の反射ビーム経路が、各反射ビーム経路がその入射ビーム経路と一致する再帰反射から、それぞれ第1,第2及び第3のずれ角だけ逸脱し、第1、第2及び第3のずれ角並びにビーム幅が、第1,第2及び第3のビームがそれらの入射ビーム経路とそれらの反射ビーム経路に沿って伝播する時に横断する真空チャンバー内の交差領域を定める値を持つ、第1、第2及び第3の反射器と、
を備える。
【0008】
本開示の第2の態様によれば、原子のレーザー冷却及び捕捉の方法が提供され、この方法は、
冷却遷移と呼ばれる原子種の電子遷移の励起を介して真空雰囲気中でレーザー冷却される原子種の原子を収容する真空チャンバーを提供することと、
冷却遷移の周波数より低く離調された周波数でレーザー光を提供することと、
それぞれ第1、第2及び第3のビーム幅を持つレーザー光の第1,第2及び第3のビームを提供することと、
第1、第2及び第3のびビームを方向づけて、それぞれ第1、第2及び第3の入射ビーム経路に沿って真空チャンバーを横断して伝播するようにし、第1、第2及び第3の入射ビーム経路が、それぞれが基準軸に対して45°のアライメント角度を成す互いに直交する配置から逸脱し、代わりに、基準軸に対して25°と35°との間のそれぞれ第1、第2及び第3のアライメント角度を持つことと、
第1、第2及び第3のビームを反射して、それぞれ第1、第2及び第3の反射ビーム経路でそれらの入射ビーム経路に沿って真空チャンバーを横断して伝播して戻るようにし、第1、第2及び第3の反射ビーム経路が、それぞれの反射ビーム経路がその入射ビーム経路と一致する再帰反射から、それぞれ第1、第2及び第3のずれ角だけ逸脱し、第1、第2及び第3のずれ角並びにビーム幅が、第1、第2及び第3のビームがそれらの入射ビーム経路とそれらの反射ビーム経路に沿って伝播する時に横断する真空チャンバー内の交差領域を定める値を持つことと、
を含む。
【0009】
このアプローチによって、オール光学トラップ、すなわち磁場の存在に依存しないトラップを提供することが可能である。本発明によって利用される冷却効果には磁場が使用されないため、もちろん該当する光学トラップは、真空チャンバー内に磁場を発生させる必要がなく、磁気コイル又は他の形の磁場発生器を設ける必要がない。ゼーマン減速器も必要ない。
【0010】
本発明を具現化する光学トラップは、レーザー冷却が磁場の存在なしに行われるため、磁場発生器を含む必要がない。
特定の実施形態では、ずれ角は、以下の条件の1つ又は複数に従う。
【0011】
ずれ角のそれぞれが0.1°より大きい、
ずれ角のそれぞれが2°より小さい、
ずれ角の少なくとも1つが0.5°より大きい、
ずれ角の少なくとも2つが0.5°より大きい。
【0012】
特定の実施形態では、第1、第2及び第3のアライメント角度は互いに等しい。他の実施形態では、第1、第2及び第3のアライメント角度のうちの少なくとも2つが互いに異なる。
【0013】
第1、第2及び第3の反射器は、基準軸及び入射ビーム経路と反射ビーム経路との各ペアが少なくともほぼ共通の平面にあり、それによって第1、第2及び第3のそのような平面を定めるように構成することができる。第1、第2及び第3の平面は、基準軸に沿って見た時にほぼ等角度間隔にすることができる。
【0014】
特定の実施形態では、偏光構成要素は、第1、第2及び第3のビームが真空チャンバーに入る時にそれらにそれぞれ定められた偏光状態を備えるように配置される。第1、第2及び第3の反射器は、第1、第2及び第3のビームの定められた偏光状態が反射時に保たれる(例えば、円偏光又は直線偏光)ように構成することができる。
【0015】
特定の原子種では、リポンプ遷移と呼ばれるさらなる電子遷移があり、効率的な冷却が行われるように励起する必要がある。そのような場合には、レーザー源又はさらなるレーザー源は、リポンプ遷移の周波数で調整されたさらなる周波数でさらなるレーザー光を生成するように構成される。その際、光学装置は、第1、第2及び第3のビームのそれぞれがレーザー光とさらなるレーザー光の両方を含むように、レーザー光とさらなるレーザー光とを結合するように動作可能なビーム結合器をさらに備えることができる。
【0016】
好ましくは、第1、第2及び第3のビームは、真空チャンバーを横断する時に少なくともほぼコリメートされる。近似コリメーションは、ビーム発散によって特徴づけることができ、そこでは、ビーム発散Θ=0はコリメートされたビームに対応し、本発明に関する近似コリメーションはビーム発散Θ≦1、2、3,4、5、6、7、8、9又は10度とすることができる。
【0017】
主要な実施形態では、第1、第2及び第3のアライメント角度は基準軸に対して25°と35°との間の角度を成すが、他の実施形態は、この範囲を超えるアライメント角度を有する。例えば、下限は基準軸に対して20°、21°、22°、23°又は24°と低くすることができ、上限は基準軸に対して36°、37°、38°、39°又は40°と高くすることができる。
【0018】
本開示のさらなる態様によれば、原子を捕捉及び冷却するための光学トラップが提供され、この光学トラップは、
冷却遷移と呼ばれる原子種の電子遷移の励起を介して原子種の原子を冷却することができる真空雰囲気を提供するように動作可能な真空チャンバーと、
いずれも冷却遷移の周波数より低く離調された周波数を持つ、それぞれ第1から第6のビーム幅のレーザー光の第1から第6のビームを生成するように構成されたレーザー源と、
光学装置であって、
第1、第2及び第3のビームを方向づけて、それぞれ第1、第2及び第3の入射ビーム経路に沿って真空チャンバーを横断して伝播するように構成され、第1、第2及び第3の入射ビーム経路が、それぞれが基準軸に対して45°のアライメント角度を成す互いに直交する配置から逸脱し、代わりに、基準軸に対して5°と40°との間のそれぞれ第1、第2及び第3のアライメント角度を持ち、
第4、第5及び第6のビームを方向づけて、それぞれ第1、第2及び第3のビームのビーム経路にほぼ沿って、ただし3つの対向ビームペアを形成するように反対の伝播方向に、真空チャンバーを横断して伝播するように構成され、各対向ビームペアのビームが、それらのビーム経路が一致するそれぞれの経路から、それぞれ第1、第2及び第3のずれ角だけ逸脱し、第1、第2及び第3のずれ角並びに第1から第6のビーム幅が、第1から第6のビームのすべてが横断する真空チャンバー内の交差領域を定める値を持つ、光学装置と、
を備える。
【0019】
冷却ビームを生成し、適切に方向づけるための選択肢はいくつもある。例えば、冷却レーザー源は、1つのレーザーで構成することができる。その出力ビームが分割されて、第1から第3のビームが生成される。あるいは、冷却レーザーは、3つのレーザーで構成することができる。それぞれが第1から第3のビームの1つを生成する。第1、第2及び第3の反射器を設け、第1、第2及び第3のビームが真空チャンバーを横断して伝播した後で、第1、第2及び第3のビームを反射するように配置し、第1、第2及び第3のビームがそれぞれ第4、第5及び第6のビームとして真空チャンバーを横断して伝播して戻るようにすることができる。レーザー源は、それぞれが第1から第6のビームの1つを生成する6つのレーザーで構成することもでき、この場合には、反射器は必要ない。
【0020】
特定の実施形態では、各対向ビームペアについて、2つのビーム幅と、2つのビームの間のずれ角とがいっしょに構成され、交差領域においてビーム領域が小さいほうのビームのビーム領域の少なくとも半分が、ビーム領域が大きいほうのビームのビーム領域と交差するようにする。ビーム幅は1/eの値として定義され、円形断面のビームの場合にはビーム直径、楕円形断面のビームの場合には長軸と短軸の2つの値になる。
【0021】
特定の実施形態では、ずれ角は、以下の条件の1つ又は複数に従う。
ずれ角のそれぞれが0.1°より大きい、
ずれ角のそれぞれが2°より小さい、
ずれ角の少なくとも1つが0.5°より大きい、
ずれ角の少なくとも2つが0.5°より大きい。
【0022】
偏光構成要素は、第1から第6のビームが真空チャンバーに入る時に第1から第6のビームにそれぞれ定められた偏光状態を備えるように配置することができる。
特定の実施形態では、原子種は、リポンプ遷移と呼ばれるさらなる電子遷移を有し、効率的な冷却が行われるように励起する必要がある。その際、上記のレーザー源又はさらなるレーザー源は、リポンプ遷移の周波数で調整されたさらなる周波数でさらなるレーザー光を生成するように構成される。その際、第1から第6のビームのそれぞれがレーザー光とさらなるレーザー光の両方を含むように、レーザー光とさらなるレーザー光とを結合するように動作可能なビーム結合器を備えることができる。
【0023】
第1から第6のビームは、真空チャンバーを横断する時に少なくともほぼコリメートされる。近似コリメーションは、ビーム発散によって特徴づけることができ、そこでは、ビーム発散Θ=0はコリメートされたビームに対応し、本発明に関する近似コリメーションはビーム発散Θ≦1、2、3,4、5、6、7、8、9又は10度とすることができる。
【0024】
上記の設計による光学トラップは、磁場発生器を必要としないという点で、従来技術と異なる。
第1、第2及び第3のアライメント角度は、20°と40°との間、より具体的には25°と35°との間にすることができる。
【0025】
本開示のさらなる態様によれば、原子のレーザー冷却及び捕捉の方法が提供され、この方法は、
冷却遷移と呼ばれる原子種の電子遷移の励起を介して真空雰囲気中でレーザー冷却される原子種の原子を収容する真空チャンバーを提供することと、
冷却遷移の周波数より低く離調された周波数でレーザー光を提供することと、
それぞれ第1、第2及び第3のビーム幅を持つレーザー光の第1,第2及び第3のビームを提供することと、
それぞれ第1から第6のビーム幅と冷却遷移の周波数より低く離調された周波数を持つレーザー光の第1から第6のビームを提供することと、
第1、第2及び第3のびビームを方向づけ、それぞれ第1、第2及び第3の入射ビーム経路に沿って真空チャンバーを横断して伝播するようにし、第1、第2及び第3の入射ビーム経路が、それぞれが基準軸に対して45°のアライメント角度を成す互いに直交する配置から逸脱し、代わりに、基準軸に対して5°と40°との間のそれぞれ第1、第2及び第3のアライメント角度を持つことと、
第4、第5及び第6のビームを方向づけ、それぞれ第1、第2及び第3のビームのビーム経路にほぼ沿って、ただし3つの対向ビームペアを形成するように反対の伝播方向に、真空チャンバーを横断して伝播するようにし、各対向ビームペアのビームが、それらのビーム経路が一致するそれぞれの経路から、それぞれ第1、第2及び第3のずれ角だけ逸脱し、第1、第2及び第3のずれ角並びに第1から第6のビーム幅が、第1から第6のビームのすべてが横断する真空チャンバー内の交差領域を定める値を持つことと、
を含む。
【0026】
要約すると、3つのレーザービームペアを有し、これらを方向づけて、真空チャンバー内の共通の交差領域で交差するようにする、原子のレーザー冷却及び捕捉のための光学トラップが提供され、そこでは、各ペアが2つの対向ビームによって形成される。各ビームペアが基準軸zに対して45°の角度χを成す互いに直交する配置は有さず、代わりに、これらの角度は5°≦χ≦40°である。さらに、各ビームペアにおいて、対向ビームは、従来の磁気光学トラップのように共通の経路に正確にはアライメントされず、それぞれのずれ角[α、β、κ]、一般的には0.1°~2°だけわずかにずらされる。ただし、ずれ角とビーム幅は、すべての6つのビームに共通の交差領域が維持されるように選択される。これによって、磁場の存在なしで原子のレーザー冷却及び捕捉が行われるオール光学トラップが提供される。
【0027】
ここでは、添付の図面を参照しながら、あくまで例として、本発明をさらに記述する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明を具現化する光学トラップで用いられるレーザービームの形状を示した概略斜視図である。
図2】安定した冷却レーザービームを提供するための光学的構成を示す図である。
図3】安定したリポンプレーザービームを提供するための光学的構成を示す図である。
図4】光学トラップの構成を示す図である。
図5図1図4の光学トラップの実験結果を示したグラフである。グラフは、捕捉された原子の数Nの変化を、赤方離調周波数δの関数として、プロットしている。0.9mW、1.6mW、4.5mW、6.3mWと、総ビームパワーの値が異なる場合である。
図6A-6B】図1図4の光学トラップの実験結果を示したグラフである。グラフは、原子雲の長軸(図6A)と短軸(図6B)に沿って拡散する原子の平均温度Tを、冷却レーザーの赤方離調周波数δの関数として、示している。1.6mW、4.2mW、6.3mWと、総ビームパワーの値が異なる場合である。
図7】シミュレーション結果を示したグラフであり、実験結果については図5に対応している。
図8A-8C】冷却及び捕捉が進行する時の原子の分布のxy平面における断面を示す図である。各ドットは単一の原子を表し、3つの断面は冷却・捕捉プロセス中のt=0ms、t=5ms、t=10msの各時の原子位置を示し、t=0は開始時である。
図9】本発明の実施形態のように互いに小さな角度θを成す2つの対向ビームの間の干渉の概略図である。2つの対向ビームの伝播方向を二等分する角度の垂線に対して角度φで進む原子がある。
図10】第1の代替実施形態の概略図である。
図11】第2の代替実施形態の概略図である。
図12】第3の代替実施形態の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、85Rb原子の冷却を例として、本発明を説明する。本発明は、光学的に冷却することが可能な任意の原子種に使用することができる。原則的に、周期表の1族又は2族のどの原子も光学的冷却に適している。実際にこれまで、Rb、Cs、Li、Sr、Ca、K、及びFrの原子種で光学的冷却が実証されている。Srの場合ではさらに、リポンプが不要であり、リポンプに関連して以下に記述する対応装置が省略されることに留意されたい。
【0030】
図1は、本発明の実施形態による光学トラップで用いられるレーザービームの形状を示した概略斜視図である。2つの円は、z軸に垂直な、垂直にオフセットされた2つの平面を示している。様々なビーム経路が、それらの主光軸に対応するそれぞれの直線によって、概略的に示されており、矢印はビームの伝播方向を示している。表示を容易にするために、ビームの有限のビーム断面は図示していない。
【0031】
3つのレーザービームは、それぞれの入射ビーム経路(下向きの矢印のある線)に沿って円偏光でいっしょに進み、三脚のような配置を形成する。入射ビーム経路は、z軸を中心に放射状に等間隔で配置されているため、z軸に沿って見た時に、互いにγ=120°の角度を成す。放射状の等間隔の配置が正確でない場合もある。例えば、120°の放射状の配置から、±1°、±2°、±3°、±4°、±5°、±6°、±7°、±8°、±9°、±10°までの逸脱を可能にすることができる。3つの入射ビーム経路は、z軸から傾斜角χだけ離してアライメントされる。χ=30°とした、共通の傾斜角が示されているが、他の実施形態では、等しくない傾斜角を用いることができる。このように、各入射ビーム経路は、z軸を含む平面内にあり、z軸に対して傾斜角χを成す。これらの3つの平面のそれぞれは、他の2つの平面に対して120°の角度を成して、3つのビームを等角度間隔の配置にする。以下の説明では、レーザービームはコリメートされていると仮定する。実際には、コリメートされた、又は少なくともごくわずかに発散若しくは収束するビームが必要になる。各ビームは、入射ビーム経路から反射ビーム経路に反射され、反射は下の円の平面で行われる。各反射は、ビームの偏光状態(円偏光、直線偏光など)を維持するように行われる。円偏光の維持は、1/4波長板と誘電体ミラーの組み合わせによって達成することができる。3つの反射ビーム経路(上向きの矢印のある線)は、再帰反射からそれぞれの角度[α、β、κ]だけずれて離れている。再帰反射とは、反射ビーム経路がその入射ビーム経路と一致する場合である。いずれの場合でも、ずれの傾きはz軸に向かっている。つまり、各反射ビーム経路は、その入射ビームと同じ前述の平面内にあるが、z軸に対する傾斜角は小さくなっている。角度[α、β、κ]は、一般に互いに異なっていてもよいが、それらのすべての角度が同じであること、又はそれらのうちの2つの角度が同じであることも可能である。
【0032】
さらなる幾何学的観察として、すべての6つのビーム経路がそれぞれの点でz軸と交差することに留意されたい。図1は、共通の交差点を持つ入射ビーム経路を示しているが、その一方で、ずれ角は一般に等しくないため、3つの反射ビーム経路は一般に、入射ビームが交差する共通点のそれぞれわずか上にある異なる点でz軸と交差する。ずれ角[α、β、κ]と有限のビーム幅によって、ビームがそれらの入射ビーム経路とそれらの反射ビーム経路に沿って横断する領域である交差領域ができる。6つのビーム構成要素は、ビーム交差領域で互いに干渉する。この干渉によって、交差領域に、冷却された原子雲が形成される。
【0033】
本発明の実施形態による光学トラップが効率的に動作するためには、すべてのビームが少なくともほぼコリメートされること、そして、ビーム直径、傾斜角及びずれ角が、すべての6つのビーム構成要素が共通の領域(ビーム交差領域)で交差するように、いっしょに選択されることが必要であると考えられる。
【0034】
共通の傾斜角30°でこれまでに行われた実験では、効率的な冷却・捕捉によって蒸気から直接、ビーム交差領域に雲を形成するのに、ずれ角は一般的に0.1~2°で、5mmほどのビーム直径と組み合わせていた。そこでは、ビーム直径は、ガウシアンフィッティングの1/eの値とされる。用いることのできるずれ角の範囲はビーム直径に依存し、ビーム直径が大きいほどずれ角が大きくできることに注意されたい。良好なパフォーマンスのためには、ずれ角のうちの少なくとも2つが互いに異なっている必要があるようである。
【0035】
特に、以下のずれ角の組み合わせで、非常に良好なパフォーマンスが見られる。第1のビーム経路ペアは、ビーム交差領域で入射ビームと反射ビームがビーム幅の約半分だけ離されるようなずれ角を持つ。第2のビーム経路ペアは、非常に小さい値に設定された、おそらく第1のビームペアのずれ角の1/5~1/20のずれ角を持つ。第3のビーム経路ペアは、第1のビーム経路ペアとほぼ同じ又はそれよりいくらか大きい、おそらく1~2倍のずれ角を持つ。
【0036】
重要な実験観察は、蒸気からの冷却された原子雲の形成が、これらの幾何学的パラメーター又は離調のレベルに全く敏感でないということである。むしろ、蒸気からの雲の形成につながるパラメーターの組み合わせを見つけることは容易であり、ひとたび雲の形成が起きれば、バラメーターの組み合わせを最適化することは容易である。それらのパラメーターの1つを調節すれば、冷却パフォーマンスが少しずつ単調に改善又は悪化するからである。したがって、実験的には、段階的又は連続的な方法で一度に1つのパラメーターを調節し(例えば、各ずれ角を順番に、又は冷却の離調レベル)、雲の形成を改善し(例えば、温度、形状又は密度の点で)、密で、冷たい、ほぼ球形の雲を形成するのに最適なパラメーターの組み合わせを見つけるのが、単純明快である。
【0037】
単純な三角法から、入射ビーム経路と反射ビーム経路を交差点でビーム幅の半分だけ離れさせるようにするずれ角の値は、ずれ角θが以下の時に満たされる。
【0038】
【数2】
上式において、rはビームの半径、すなわちビームの直径の半分であり、lは反射面から交差点までの距離である。
【0039】
これまでの実験によって、光学トラップのパフォーマンスは、原子数(~1°)、雲の密度(1011原子/cm)、雲の温度(<50μK)の点で、従来のMOTのパフォーマンスに匹敵することが示されている。ビーム交差領域に形成される原子雲は一般的に、ミリメートルサイズで、やや細長い形状(ほぼ楕円体)をしており、楕円の長軸がビーム経路の1つに沿っている。雲の形状と雲の体積は、ずれ角[α、β、κ]の1つ又は複数の大きさを段階的に調節することによって、実験的に操作できる。この効果を利用し、雲のサイズとそのアスペクト比を段階的に小さくすることによって、最適なずれ角の組み合わせを見つけ、通常望まれるように、球に近い形状の小さくて密な雲を形成することができる。
【0040】
図2図4は、85Rbの蒸気を用いて実験的に光学トラップの動作を実証するために使用されるシステムの様々な部分を示した概略図である。
図2及び図3は、それぞれ安定した冷却レーザービームとリポンプレーザービームを提供するための光学的構成を示している。これらの両方の安定化設計が既知であること、そしてまた、当業者が他の適切と考えられる安定化設計を知っていることにも留意されたい。図4は、光学トラップの真空チャンバーの周辺のシステム構成を示している。
【0041】
図2を参照すると、冷却の構成100は、分布帰還ダイオード(DFB)レーザーであるレーザー源102に基づいている。DFBの中心波長は780nm、線幅は~0.6MHz、出力範囲は20~80mWである。冷却レーザーは、変調移行分光法(非特許文献13)を用いて、85Rb遷移に安定化される。
【0042】
52S1/2 F=3 → 52P3/2 F'=4
冷却レーザー102からのビームは、まず光アイソレーター104と半波長板106を通る。偏光ビームスプリッター(PBS)108がビーム内に配置され、ビームを2つのブランチに分割する。ビームパワーの小さな一部を持つ1つのブランチは、レーザー安定化システムを制御するための入力として使用され(垂直ブランチ)、メインビームと呼ばれる光パワーの残りは、最終的に入射ビームをトラップに提供する(直進ブランチ)。安定化ブランチは、ミラー118を介して、ビームを再び2つに分割するさらなるPBS120に供給される。安定化ブランチは、ミラー118を介してさらなるPBS120に供給され、PBS120はビームを再び2つに分割する。PBS120からの直通ブランチは、蒸気セル122に直接つながり、ポンプ・プローブ方式のプローブビームを形成し、プローブビームは、レーザー102の周波数を持つ。このように、プローブビームは、図面の右から左に蒸気セル122を横断する。PBS120から偏向されたブランチは、ポンプビームを生成するために使用される。ポンプビームブランチは、さらなるミラー138と140によって、音響光学変調器(AOM)142に向けられる。AOM142は入力ビームを回折し、0次回折ビームと2つの1次回折ビームを出力する。これらの3つのビームは、ミラー148から反射され、AOM142を通過して戻る際に、単一のビームに再結合される。1/4波長板146がAOM142とミラー148との間に配置され、所望の円偏光を提供する。結合された反射ビームは、ミラー140と138,PBS120の直進通過、ミラー126と130及びさらなるPBS124によるさらなるルーティング、そして半波長板128の通過を経て、図面の左から右に、すなわちプローブビームの反対方向にポンプビームとして蒸気セル122を横断する。このように、これらの構成要素は集合して飽和吸収分光装置を形成し、蒸気セルに含まれるルビジウム原子での4波混合からエラー信号を生成する。蒸気セルでは、蒸気セル122を横断するポンプビームとプローブビームのそれぞれが、他方に対して周波数がわずかにずれたサブドップラースペクトルを生成する。生じるスペクトルを減算することによって、フォトダイオード出力からエラー信号が生成される。レーザー安定化に使用される1次回折ビームは、周波数ω=ω+ωAOMのメインキャリアーと、周波数ω=ω+ωmodのサイドバンドで構成される。AOM142を通る二重パスは、メインキャリアービームをさらに変調し、このビームは、今度はω=ω+2ωAOMの周波数を持ち、サイドバンドは±ωmodでオフセットされる。実験的構成では、ポンプビームは、ωshift=160MHzの周波数シフトを持ち、追加の変調はωmod=2π×0.3MHzである。原子が速度vで蒸気セル内を移動することを考慮すると、原子はωprobe=ω-kvの周波数でプローブビームと相互作用する。ポンプビームの場合では、原子はωpump=ω+2ωAOM+kvの周波数で相互作用する。ここでは、±kはポンプビームとプローブビームの波数ベクトルである。原子が両方のビームに同時に共鳴した時のみ、スペクトルが生成される。したがって、相互作用する原子は、v=ωAOM/kの速度でプローブビームに向かって進む原子のみである。エラー信号は1次回折ビームの2つのサイドバンドから生成されるため、エラー信号からのフィードバックは、ω+ωAOMの出力周波数で、すなわち必要なものからωAOMだけシフトして、レーザー102を安定させる。このシフトを逆にするために、さらなるAOM110がメインレーザービームの経路に配置される。そして、AOM110から周波数ωで出力される1次回折ビームは、ミラー112と114を介して、光ファイバーカップラー116に供給され、光を光ファイバー117に結合する。光ファイバー117は、トラップに冷却レーザービームを都合よく送達するために用いられる。共鳴周波数より低いレーザー離調(いわゆ赤方離調)量δは、この場合には85Rbの冷却遷移からであるが、Γの単位で便利に表され、Γ=2π×6MHzは85Rbの自然減衰率である。システムの例では、離調δ=-1.5Γである。エラー信号は、蒸気セル122の左側の出力から、PBS24(直進経路)、集束レンズ132及びフォトダイオード134を介して、抽出される。そして、フォトダイオード134からの電気信号出力は、増幅されて、適切な復調電子機器136で復調され、エラー信号を生成する。次いで、エラー信号は、比例積分微分(PID)コントローラーを介してフィードバックループでフィードバックされ、エラー信号を変調としてレーザーの駆動信号に加えることによってレーザー102を制御する。
【0043】
図3を参照すると、リポンプレーザーの構成200は、冷却レーザー源102とペアを形成するように適合されたレーザー源202に基づいている。すなわち、この例では、同じ仕様の別のDFBである。リポンプレーザーは、キャリアー変調分光法(非特許文献14)を用いて、以下の85Rb遷移に安定化される。
【0044】
52S1/2 F=2 → 5P3/2 F'=3
リポンプレーザー202は、冷却レーザーと同様のアプローチを用いて安定化されるが、信号を復調するための専用の復調電子機器は必要ない(非特許文献14)。リポンプレーザービームは、光アイソレーター204と半波長板206を通る。そして、PBS208を用いて、リポンプレーザービームを2つに分割する。ビームパワーの小さな一部を持つ1つのビームは、レーザー安定化システムを制御するための入力として使用され(垂直ブランチ)、メインビームと呼ばれる光パワーの残りは、最終的にトラップの入射ビームを供給する(直進ブランチ)。レーザー安定化のためのブランチは、ミラー218を介して、AOM242に供給され、AOM242は、上の冷却レーザー安定化の構成で説明したように、その本来の周波数の上に追加の変調が適用される。AOM242に加えられる変調は、周波数ωmod=17MHzの方形波の形をしている。これによって、AOMからの1次回折ビームが、周波数ω=ω+ωAOM+ωmodとω=ω+ωAOM-ωmodの2つの成分に分割され、これらはそれぞれ、Rb蒸気を含む蒸気セル222に基づく飽和吸収分光装置のためのポンプビームとプローブビームを形成する。プローブビームは、PBS220を通過し、蒸気セル222を図面の左から右に横断する。ポンプビームは、PBS220及び適切なミラー226と230による偏向、並びに半波長板228の通過、最後にさらなるPBS224による偏向を介してルーティングされ、蒸気セル222を図面の右から左に、すなわちプローブビームの反対方向に横断する。蒸気セル222からPBS224の直進ブランチを介して出力されたプローブビームは、レンズ232によって4分割フォトダイオード234上に集束される。(4分割フォトダイオード234の代わりとして、バランスフォトダイオード又は2つの別々のフォトダイオードを使用することができる。)エラー信号は、蒸気セル222のプローブビーム出力から、PBS224(直進経路)、集束レンズ232及びフォトダイオード234を介して得られる。蒸気セルでは、蒸気セル222を横断するポンプビームとプローブビームのそれぞれが、他方に対して周波数がわずかにずれたサブドップラースペクトルを生成する。生じるスペクトルを減算することによって、フォトダイオードのセグメント出力からエラー信号を生成することができる。次いで、エラー信号は、比例積分微分(PID)コントローラーを介してフィードバックループでフィードバックされ、エラー信号を変調としてレーザーの駆動信号に加えることによってレーザー202を制御する。エラー信号は1次回折ビームの2つのサイドバンドから生成されるため、エラー信号からのフィードバックは、ω+ωAOMの出力周波数で、すなわち必要なものからωAOMだけシフトして、リポンプレーザーを安定させる。このシフトを逆にするために、冷却レーザー安定化システムと同様に、さらなるAOM210がメインレーザービームの経路に配置される。そして、AOM210から周波数ωで出力される1次回折ビームは、ミラー212と214を介して、光ファイバーカップラー216に供給され、光ファイバーカップラー216は、ビームを光ファイバー217に結合する。光ファイバー217は、トラップにリポンプレーザービームを都合よく送達するために用いられる。このリポンプ安定化システムの利点は、複雑な電子機器を必要としないため、携帯用の低電力システムに適していることである。
【0045】
上記の共鳴からの冷却レーザー及びリポンプレーザーの離調は、AOMを用いて達成される。代替案として、単一のレーザー源に基づく方式を用い、そのレーザービームを使用して、電気光学変調器(EOM)で冷却ビームとリポンプビームの両方を生成することができる。EOMは、反応して結晶の屈折率の線形シフトを示す結晶に低周波電場を印加することによってビームの位相を変調する装置である。
【0046】
図2図3を参照しながら上で説明した安定化の後、冷却ビームとリポンプビームは単一のビームに結合され、図1に示されたビーム形状で光学トラップに送達される。
図4は、構成例で使用された光学トラップ300の実験的構成を示している。冷却ビームとリポンプビームは、それぞれの光ファイバー117、217を介して、光学トラップの構成300に送達される。冷却ビームとリポンプビームは、まず2入力1出力ファイバーカップラー301で結合される。実験では、これは冷却:リポンプのパワー比を3:1として行われた。次いで、結合されたビームは、1入力3出力ファイバースプリッター302によって等しいパワーの3つの成分に分割される。スプリッター302のそれぞれの出力側は、光ファイバー304,306、308の3つのセクションである。これらの結合及び分割機能は、光ファイバーにおいて、望むように偏光を保つように気をつけながら、適切な結合器とスプリッターを用いて、例えば、非偏光又は偏光を保つ結合器、スプリッター及びファイバーを用いて、達成することができる。あるいは、結合及び分割のために自由空間光学素子を用いることもできる。光ファイバー304、306、308は、図1を参照しながら上で説明したように入射ビーム経路にビーム形状を提供するように配置されたそれぞれの光ファイバーカップラー310、312、314で終端する。
【0047】
構成例では、それぞれの光ファイバーカップラー310、312、314から出力される3つのビームは、断面においてほぼガウス型のパワー分布を持ち、それぞれコリメートレンズ(別個に図示せず)でコリメートされて、直径5.4mmにされる。ここでは、直径は1/eの値とされる。光ファイバー310、312、314から出力される3つのビームの光偏光状態は、それぞれのPBS316、318、320と1/4波長板322、324、326を用いて、円偏光に設定される。そして、3つのビームは、真空チャンバー350を横断する。真空チャンバーは、ビームの波長に対して透過性の窓を持つか、又は完全に透過性の材料、例えば適切なガラスでできている。真空チャンバー350を横断した後、各ビームは1/4波長板と誘電体ミラーの組み合わせ328/334、330/336、332/338によって反射され、そこでは、反射は再帰反射に近い、すなわち、図1を参照しながら上で説明したように、同じ経路に沿って戻るが、わずかにずれている反射である。そして、反射後、ビームは再び真空チャンバー350を横断する。
【0048】
図1を参照しながら論じたように、入射ビーム成分と反射ビーム成分のビーム幅(すなわち断面)が有限であるため、図4に点模様の楕円で概略的に示されたビームの交差領域Vが真空チャンバー350内に形成される。構成例では、真空チャンバー350は、3cm×3cm×10cmの寸法を持つ、反射防止コーティングされたガラスの真空セルによって形成される。真空チャンバー内のルビジウム原子は、冷却され、ビーム交差領域V内で雲へと集まる。
【0049】
真空チャンバー350は、真空チャンバー350と適切な真空コンジット348を介して流体連通するように配置された適切な真空ポンプ340、例えばイオンポンプの作用によって、真空雰囲気を提供するように動作可能である。真空空間のための真空バルブ346も設けられる。実験例では、真空セルは概して4×10-10mbar(4×10-8Pa)の真空に維持された。真空空間には、冷却される原子の原子源も含まれ、構成例では、原子源342がルビジウム原子を提供する。ルビジウム原子は、例えば、原子源の材料を加熱するために直流電流を供給するように動作可能な電気ヒーター要素344で、原子源の材料を加熱することによって、放出される。実験例では、ルビジウム蒸気は、アルカリ金属ディスペンサーによって供給され、アルカリ金属ディスペンサーは、トラップの動作時にバックグラウンド蒸気圧を5×10-9mbar(5×10-7Pa)に上げる。レーザー光による加熱などの他の形の加熱を用いることもできる。
【0050】
光学トラップの挙動を特徴づけるために、捕捉された原子の数Nとそれらの温度Tは、総ビームパワーPと85Rb冷却遷移からの冷却レーザーの赤方離調レベルδを含む様々なパラメーターの関数として測定される。以下では、総ビームパワーの記載値は、すべての3つの入射ビームのパワーの合計を表し、そこには、冷却構成要素とリポンプ構成要素の両方のパワーが含まれる。すでに上で述べたように、冷却構成要素とリポンプ構成要素のパワー比は3:1で、3つの入射ビームは等しいパワーを持つ。
【0051】
図5は、総ビームパワーの4つの異なる値(0.9mW、1.6mW、4.5mW、6.3mW)の場合で、捕捉された原子の平均数Nを、85Rbの冷却遷移を基準としたより低い周波数への離調δ(つまり、いわゆる赤方離調)の関数として示したグラフである。離調δはΓの単位で表され、そこでは、Γ=2π×6MHzであり、これは85Rbの自然減衰率である。原子数は、集光での損失が最小限であると考えられる単純な非拡大光学系を用い、フォトダイオード(図示せず)によって集められた原子雲からの蛍光を介して測定された。適切なルビジウム源を光学的又は電気的に10秒間加熱することによって、ルビジウム原子をトラップにロードした。グラフの各データポイントは、3回の測定の平均値であり、エラーバーは、3回の測定の範囲を示している。約1×10の雲中の最大原子数Nは、総ビームパワーが0.9mW、より低い周波数への離調δ=-1.2Γの場合に観察される。より一般的に、雲中の最大原子数は、強度の増加とともに非線形的に減少することがわかる。実験結果は、最大原子数が、MOTの挙動(非特許文献15および非特許文献16)と比較して、比較的低いパワーと小さい離調レベルで得られることを示している。捕捉された原子の数Nを、MOTのスケーリング則(非特許文献17)から同等のビーム直径dとビームパワーで予想されるものと比較すると、実験結果は、光学トラップが、同等のMOTよりほぼ1桁多い原子を捕捉する能力を持つことを示している。光学トラップのパフォーマンスは、d>2mmのMOTで見られるd3.6スケーリングに比例するNと比較して、dスケーリング予測に比例するNに近い。低いビームパワーで多数の原子を捕捉できることは、本発明の実施形態による光学トラップにとって重要な実用上の利点である。これによって、技術が、量子コンピューティングやその他の量子技術で必要とされる可能性があるような、例えば電池式デバイスや小型デバイスなどの低電力アプリケーションに本質的に適したものになるからである。
【0052】
図6A図6Bは、光学トラップの実験結果を示したグラフである。レーザービームパワーの3つの異なる値(1.6mW、4.2mW、6.3mW)の場合で、グラフは、原子の平均温度Tを、赤方離調周波数δの関数として示している。赤方離調周波数δはΓの単位で示され、x軸は図5と同様である。図6Aは、原子雲の長軸に沿って、つまり一般に入射/反射ビームの方向に沿って拡大する結果を示し、図6Bは、原子雲の横軸に沿って、つまりそれを横切る方向に拡大する結果を示している。原子雲の温度は、飛行時間法を用いて測定した。冷却ビームとリポンプビームを最大12ミリ秒消し、原子雲を拡大させた。そして、雲を照らし、高速度カメラで撮影した。各飛行時間測定後の原子雲の幅は、撮影した画像へのプロファイルへの2次元ガウシアンフィッティングによって求めた。雲が細長い形状をしているため、温度は雲の長軸と短軸の両方に沿って測定した。図6A図6Bに示された結果では、3回の飛行時間測定の平均値が1つのデータポイントになっている。これらの結果は、原子雲の温度が離調にはわずかしか依存せず、対象の離調範囲で10%ほどしか変化しないが、ビームパワーには強く依存することを示している。さらに、図6A図6Bと比較すると、雲の短軸に沿って移動する原子は、長軸に沿って移動する原子より一般に高温であることがわかる。つまり、ビーム方向に沿った冷却は、それを横切る冷却より効果的である。測定された最低温度は、雲の長軸に沿って広がる原子の場合で40μK、短軸の場合で120μKであった。両軸ともに、最低温度は、赤方離調値が最も低く(δ=-0.8Γ)、ビームパワーが最も小さい(1.6mW)場合に達成された。これらの結果はさらに、光学トラップが、MOTで見られる傾向と異なり、冷却遷移からの離調が低く、レーザーパワーが小さい場合に、最も効率的なようであることを示している。より一般的に、平均温度はビームパワーには強く依存するが、離調量にはわずかしか依存しないことがわかる。ただし、離調レベルが小さいほど温度が低くなるという弱い傾向は明らかにある。
【0053】
ここで、図5図6A及び図6Bの実験結果の背後にある物理的メカニズムについて論じる。図6A図6Bに見られる方向効果は、ビームの波数ベクトルに沿ってドップラーシフトが強くなり、モラセス冷却が大きくなるためであると考えられる。散乱から生じる冷却力と捕捉力の単純な解析モデリングだけでは3次元で安定したトラップを作り出せないため、非特許文献12に見られるような空間的に変化する強度の不均衡などのメカニズムは差し引いて考えることができる。空間的復元力は、ACシュタルクシフトによる可能性がある図5のピークのシフトにより、双極子力であると思われる。分布が均されているのは、状態が飽和しているためであると考えられる。通常、双極子トラップは、単一光子散乱による加熱の影響を減らすために、共鳴から遠く離して調整される。減った力に対抗するために、トラップビームの強度は飽和を十分に超えていなければならない。通常、双極子トラップは、共鳴から数ナノメートル離調され、数ワットの光パワーが回折限界スポットに集束されたレーザーを用いる。LetokhovとMinogin(非特許文献18)が示したように、レーザーを共鳴の近くに調整すると、トラップの深さは散乱光子による加熱と等しいが、光格子での冷却と捕捉は可能である。LetokhovとMinoginが提案した近共鳴双極子トラップは、トラップの深さがドップラー冷却限界のオーダーになるため、あまりに「漏れやすい」とみなされ、概ね無視されてきた。しかしながら、このトラップは、偏光勾配冷却が発見される10年近く前に提案されたものである。原子が双極子トラップに入る時に原子をサブドップラー温度まで効率よく冷却すれば(MOTで通常行うように)、原子はトラップに捕捉されて残るはずである。これが本発明の実施形態による光学トラップ内で機能しているプロセスでもあるならば、なぜバックグラウンド蒸気から直接、原子のそのような効率的な冷却が起き、実験結果で十分な量観察されるのかという疑問が生じる。格子ピッチが数十メートル/秒の速度で原子を冷却するのに十分なほど大きければ、非特許文献8の超格子の提案がその答えになる可能性がある。このことをよりよく理解するため、以下で論じるように、シミュレーションと単純化された解析モデルによって、各効果の規模を調べた。
【0054】
平均して最終的な原子数を得る前に、レーザーパワーと離調による最終的な(捕捉された)原子数の変動を、異なる初期のランダム化された原子配置で多数のシミュレーションを行うことによって調べる。シミュレーションでは、原子とレーザービームとの間の相互作用及びACシュタルク離調を考慮する。
【0055】
図7は、それらのシミュレーション結果を示したグラフである。Γの単位で示された赤方離調δに対する原子数Nのプロットという形式である。図5に示された実験結果と同じ、レーザーパワーの4つの異なる値(0.9mW、1.6mW、4.5mW、6.3mW)の場合である。各データセットは、各位置での6回の繰り返しの平均から作成された20個のポイントから成る。最大時間は、1マイクロ秒の時間ステップdt=1×10-6で、t=10msであった。図7に見られるように、シミュレーション結果は、ビームパワーが低く、離調値が低いほど、最終的な原子数が大きくなり、実験結果と同じ一般的な傾向に従っている。
【0056】
図8A図8B及び図8Cは、冷却と捕捉が進行する時の原子の分布のxy平面における2D断面の形で、シミュレーションのさらなる様相を示している。図示した領域は、雲が形成されると予想されるビーム交差領域の断面にあたる、すなわち真空セルの断面よりはるかに小さい。シミュレーション結果は、ビームパワーが0.9mW、離調値δ=-1.25Γの例である。図8A図8B及び図8Cは、それぞれt=0ms、t=5ms、t=10msの原子の分布を示している。ここでは、t=0は、ビームが捕捉チャンバーに導入される時間である。冷却・捕捉後のt=10ms及び同プロセスの途中のt=5msの原子の分布は、原子が中心から外れたところで非球状の雲へと集まっているという点で、実験結果に見られる一般的な挙動と一致している。
【0057】
光学トラップで生成された光場は、速度依存と位置依存の両方の復元力を提供し、トラップの中心近くにサブドップラー温度の原子の密な雲が形成される。実験結果とシミュレーションは、入射ビームと再帰反射ビームのずれが、本発明の実施形態による無磁場光学トラップの効率的な動作の鍵であることを示している。ここで、なぜこのようなことが起こりうるのか論じる。
【0058】
図9は、本発明の実施形態による光学トラップのように互いに小さな角度θを成す一対の対向ビームの間の干渉の概略図である。すなわち、θはα、β、κのいずれかの代わりである。このように2つの対向ビームがわずかにずれている場合には、概略的に示されているように、一連の干渉縞がビームの波数ベクトルに対してほぼ直角に伸びる縞で形成される。2つの対向ビームが真空中にあると仮定すると、縞間隔(又は「ピッチ」)pは次式で与えられる。
【0059】
【数3】
上式において、λは光の波長、θはビームの間の角度、φは干渉縞に垂直な角度である。
【0060】
縞模様を垂直に、つまりφ=0°の軌道で通過する原子は、原子に伝達される正味の運動量が原子の速度に逆らわないため、冷却力を受けないが、縞模様を他の角度で、つまりφ≠0°で通過する原子は、散乱力を受ける。軌道角度φを大きくすると、見かけの縞間隔も大きくなる。ビームのずれ角がθ=1°で、原子がφ=45°の軌道に沿って移動すると仮定すると、実効縞間隔は、φ=0°の軌道と比べて、20倍大きくなる。この垂直定在波に対して偏光勾配がまだ有効であれば、捕捉速度の同様の増加が予想される。このように、対向ビームのずれによって形成された縞を通過する原子は、偏光勾配冷却を受け、捕捉速度が大きくなる。これによって、なぜ実験結果でそのような多数の原子の効率的な冷却が観察されるのか説明することができる。
【0061】
物理学の理解によれば、冷却された原子雲の形成には、すべての3つの対向ビーム成分ペアのずれが必要になることにさらに注意されたい。
実験結果は、本発明の実施形態による光学トラップが、ビーム偏光、ビームパワー、赤方離調レベル、傾斜角、ずれ角を含むパラメーターの変化など、広いパラメーター空間の下で動作できることを示した。
【0062】
これまでに実験的に調べられたパラメーター空間では、以下のずれ角の範囲で、冷却された原子の密な雲の一貫して信頼できる形成が達成されることがわかった。
α≒0°(ただし、α<>0°、以下の議論を参照)
1°≦β≦2°
0°<κ≦0.5°
実験者の観点から、反射ミラーは再帰反射用に調節される、つまり、αは0°に設定されるが、これは上記の物理学の理解で加減されなければならない。そのため、αが公称で0°に設定された時に良好なパフォーマンスが観察されても、実際にはわずかなずれ(又はおそらくビームの完全なコリメーションからの逸脱)があるはずであると仮定される。
【0063】
偏光やビームパワーなどのパラメーターを変更すると、以下のアライメント手順で密な原子雲が確実に生成されることがわかった。
・反射ビームが公称で入射ビームの再帰反射となるように、第1のビームを設定する(α≒0°)
・入射ビームスポットと反射ビームスポットが交差点でビーム幅の約半分だけ離れるように、第2のビームをずらして設定する、そして
・第2のビームと同じ量だけ、又は第2のビームより若干大きく、例えば、交差点でビーム幅の半分から1倍だけずれるように、第3のビームを設定する
このアライメント方法は、蒸気から直接雲を形成するのに非常に信頼できることが証明された。
【0064】
実用上の都合で、パラメーター空間を制限するために、これまでに行われた体系的な実験は、ビームの数(3つ)、ビームの形状(傾斜角30°)、偏光(円偏光)が固定され、ビームパワー、ビームのすれ角、冷却ビームの赤方離調レベル、リポンプビームの赤方離調レベルだけが体系的に変更される、制限されたパラメーター空間にほとんど限られていた。
【0065】
そうは言うものの、以下の領域で、より広くパラメーター空間を調べるために、実験を拡張した。
傾斜角の変化の影響を調べた。最初のコメントとして、45°の傾斜角が、互いに直交する軸に沿って伸びる3つの対向ビームペア、つまりデカルト構成を備えた従来の光学的冷却の形に対応することに留意されたい。さらに、図1を参照すると、傾斜角χ=30°が傾斜角60°と正確に等価であることがわかる。傾斜角χ=30°と傾斜角60°は直交から±15°ずれており、χ=30°から60°に変更しても、三脚の90°回転が起きただけだからである。(また、χ>45°の場合には、ずれ角α、β、κの符号は本文書の他の箇所で与えられている値と逆になる。)そのため、直交ビーム、すなわちχ=45°からの角度偏差Δχで傾斜角に言及する。角度偏差Δχ=25°(すなわち、図1に示されている傾斜角χが20°)で雲の形成が観察されたが、冷却、密度、原子数の点で質が非常に悪かった。このことから、Δχ=25°の角度偏差は、機能する限界に近いと思われる。10°≦Δχ≦20°(すなわち、図1に示されている傾斜角の範囲が25°≦χ≦35°)の範囲の角度偏差では、一貫して良好なパフォーマンスが観察された。
【0066】
さらに、ビームの(円偏光だけでなく)直線偏光でも効果が発生することがわかった。
さらに、原理上、各入射ビーム経路の傾斜角は互いに異なることが可能である。ただし、実験では、このパラメーターの変化を体系的に調べていない。
【0067】
効果が安定しており、それによって効率的な冷却と捕捉が観察されたパラメーター空間が大きいため、これまでに行われた実験でまだ、原子数(最大)、原子の密度(最高)、原子の温度(最低)に関して最適な条件を見つけていない、又は効率的に動作する限界を調べていない可能性がある。上記のパラメーターの他の組み合わせ、例えば傾斜角とずれ角によっても、よい結果又はよりよい結果が得られる可能性がある。さらなる実施形態で、3つより多いビーム、例えば、4つ、5つ又は6つのビームを使用できることにも留意されたい。
【0068】
本開示の範囲から逸脱することなく、前述の例示的な実施形態に多くの改良や変更が行えることは、当業者にとって明らかであろう。
リポンプを必要とする実施形態では、リポンプ光は、上述のように各々の冷却ビームと共伝播するように導入する必要はない。リポンプ光は、冷却ビームの1つだけ、又は冷却ビームの他のサブセットと共伝播するように追加することができる。リポンプ光は、冷却ビームのビーム経路から独立した1つ又は複数のビーム経路に沿って交差領域に向けることもできる。すなわち、冷却ビームとの共伝播は必要ない。
【0069】
さらに、上で説明したように、主要な実施形態では、第1、第2及び第3のアライメント角度は基準軸と25°と35°との間の角度を成すが、他の実施形態は、この範囲を超えるアライメント角度を有する。例えば、下限は、5°、6°、7°、8°、9°、10°、11°、12°、13°、14°、15°、16°、17°、18°又は19°、又はすでに上で述べたように20°、21°、22°、23°、24°と低くてもよい。上で述べたように、上限は、基準軸に対して36°、37°、38°、39°又は40°と高くてもよい。
【0070】
上の記述では、冷却レーザービームのずれ角のいくつかの具体的な好ましい範囲が述べられている。しかしながら、機能するずれ角の範囲は、ビーム幅、それぞれのビームの経路長、及びビームパワーの関数になるのが実状である。いかなるビームパワーでも、交差領域内に各対向ビームペアの十分な交差が残っていなければならない。したがって、ずれ角の好ましい範囲の別の定義は、以下のように定式化することができる。各対向ビームペアについて、2つのビーム幅と、2つのビームの間のずれ角とがいっしょに構成され、交差領域においてビーム領域が小さいほうのビームのビーム領域の少なくとも半分が、ビーム領域が大きいほうのビームのビーム領域と交差するようにする。両方のビームが同じビーム領域を持つ特別な場合には、この定義は以下のように単純化される。各対向ビームペアについて、2つのビーム幅と、2つのビームの間のずれ角とがいっしょに構成され、交差領域においてビーム領域の少なくとも半分が交差するようにする。
【0071】
上述の実施形態では、単一のレーザーがその出力ビームを3つの成分に分割され、冷却のための第1、第2及び第3のビームを生成する。さらに、第1、第2及び第3のビームは、それぞれ第1、第2及び第3の反射器によって方向転換されて、真空チャンバーを横断して戻る。しかしながら、この方式は複数の変形が可能である。例えば、レーザー源は、3つのレーザーから成り、それぞれが第1から第3のビームの1つを生成してもよい。別の変形では、反射器を省くことができ、レーザー源は、6つのレーザーから成り、それぞれが第1から第6のビームの1つを生成することができる。
【0072】
図10から図12は、代替実施形態の概略図である。真空チャンバー及び関連する構成要素は図示されていないが、図4に示されているように存在する。すべての光学素子に符号が付けられているわけではなく、例えば、ファイバー、ファイバーカップラーなどがあるが、これらは図4から理解できる。
【0073】
図10は、第1の代替実施形態の概略図である。この実施形態では、6つの冷却レーザー102_1から102_6が提供され、第1から第6の冷却ビームを生成する。さらに、オプションの単一のリポンプレーザー202が示されており、その出力ビームは、例えば、図示されているようなファイバーカップラーを用いて、冷却ビームの1つ、すなわち冷却レーザー102_4からの出力と結合される。リポンプビームを他の冷却ビームの1つ又は複数に結合する必要はないが、オプションにはなる。
【0074】
図11は、第2の代替実施形態の概略図である。3つの冷却レーザー102_1、102_2、102_3が提供されている。対向ビームペアは、それぞれのミラー334、336,338によって、図4の実施形態と同様に生成される。リポンプ光は、図10と同様に、リポンプレーザー202からの出力を冷却レーザーの1つ、ここでは冷却レーザー102_1からの出力と結合することによって提供される。
【0075】
図12は、第3の代替実施形態の概略図である。この実施形態では、冷却ビーム装置は図11と同じであるが、リポンプビームは、冷却ビームのいずれからも幾何学的に独立し、任意の角度にすることができる、参照符号203が振られた真空チャンバーの自由空間横断によって供給される。必要なのは、リポンプビームが冷却ビームの交差領域Vと交差することだけである。
【0076】
冷却ビーム及びオプションのリポンプ光を生成し、適切に方向づけるための多くのさらなる変形は、当業者には容易に予想できるであろう。
【符号の説明】
【0077】
100 冷却レーザーの構成
102 冷却レーザー、例えばDFB@780nm
104 光アイソレーター
106 半波長板
108 偏光ビームスプリッター(PBS)
110 音響光学変調器(AOM)
112 ミラー
114 ミラー
116 光ファイバーカップラー
117 光ファイバー
118 ミラー
120 PBS
122 冷却レーザー安定化用蒸気セル
124 PBS
126 ミラー
128 半波長板
130 ミラー
132 レンズ
134 フォトダイオード(PD)
136 復調電子機器
138 ミラー
140 ミラー
142 AOM
144 コリメートレンズ
146 1/4波長板
148 誘電体ミラー
200 リポンプレーザーの構成
202 リポンプレーザー、例えばDFB@780nm
203 リポンプレーザービーム
204 光アイソレーター
206 半波長板
208 PBS
210 AOM
212 ミラー
214 ミラー
216 光ファイバーカップラー
217 光ファイバー
218 ミラー
220 PBS
222 リポンプレーザー安定化用蒸気セル
224 PBS
226 ミラー
228 半波長板
230 ミラー
232 レンズ
234 4重極フォトダイオード
238 ミラー
240 ミラー
242 AOM
300 光学トラップの構成
301 2入力1出力ファイバーカップラー
302 1入力3出力ファイバースプリッター
304 光ファイバー
306 光ファイバー
308 光ファイバー
310 ファイバーカップラー
312 ファイバーカップラー
314 ファイバーカップラー
316 PBS
318 PBS
320 PBS
322 1/4波長板
324 1/4波長板
326 1/4波長板
328 1/4波長板
330 1/4波長板
332 1/4波長板
334 ミラー
336 ミラー
338 ミラー
340 イオンポンプ
342 原子(例えば、ルビジウム)源
344 原子源ヒーター
346 真空バルブ
348 真空コンジット
350 真空チャンバー
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図7
図8A
図8B
図8C
図9
図10
図11
図12