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▶ 榊原 和征の特許一覧

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  • 特許-充電制御回路 図1
  • 特許-充電制御回路 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】充電制御回路
(51)【国際特許分類】
   H02J 7/00 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
H02J7/00 S
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2023529347
(86)(22)【出願日】2021-06-23
(86)【国際出願番号】 JP2021023858
(87)【国際公開番号】W WO2022269834
(87)【国際公開日】2022-12-29
【審査請求日】2023-11-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】507307651
【氏名又は名称】榊原 和征
(74)【代理人】
【識別番号】100141427
【弁理士】
【氏名又は名称】飯村 重樹
(72)【発明者】
【氏名】榊原 和征
【審査官】田中 慎太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-67928(JP,A)
【文献】特開2007-242448(JP,A)
【文献】特開2003-142162(JP,A)
【文献】特開2012-231649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00-7/12
7/34-7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充電回路と、
上限電流を超えない定電流で放電する定電流放電回路と、
前記充電回路及び前記定電流放電回路に並列接続される電池モジュールと、
を備え、
前記電池モジュールは、
電池セル群と、
前記電池セル群への充電電流を可逆的に通電または遮断する第1通電遮断素子と、
前記電池セル群への前記充電電流を不可逆的に通電または遮断する第2通電遮断素子と、
を備え、
前記電池モジュールのうちの少なくとも1つが過充電になった場合に、過充電となった前記電池モジュールの前記第1通電遮断素子を用いて前記充電電流を遮断し、
前記第1通電遮断素子による遮断に失敗した場合、全ての前記電池モジュールの前記第2通電遮断素子を用いて充電電流を遮断し、
前記第2通電遮断素子による遮断に失敗した場合、前記定電流放電回路を用いて前記電池モジュール群を放電する、
充電制御回路。
【請求項2】
前記定電流放電回路による放電開始の電圧閾値は、前記第1通電遮断素子による過充電遮断の電圧閾値および前記第2通電遮断素子による過充電遮断の電圧閾値よりも高い請求項1に記載の充電制御回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電制御回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境への配慮から、内燃機関すなわちエンジンで駆動するエンジン駆動式自動車がモータで駆動する電気自動車に置き換わりつつある。特に、モータを駆動するための電池電源にエネルギー密度の高いリチウムイオン二次電池が多く使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-225241号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
多数のリチウムイオン二次電池セルを収容する複数個の電池モジュールを搭載する気自動車の充電制御回路において、過充電防止の対策を施すことが重要な課題である。
【0005】
本発明はこのような背景を鑑みてなされたものであり、安全に充電することができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明の主たる発明は、充電制御回路であって、充電回路と、上限電流を超えない定電流で放電する定電流放電回路と、前記充電回路及び前記定電流放電回路に並列接続される電池モジュールと、を備え、前記電池モジュールは、電池セル群と、前記電池セル群への充電電流を可逆的に通電または遮断する第1通電遮断素子と、前記電池セル群への前記充電電流を不可逆的に通電または遮断する第2通電遮断素子と、を備え、前記電池モジュールのうちの少なくとも1つが過充電になった場合に、過充電となった前記電池モジュールの前記第1通電遮断素子を用いて前記充電電流を遮断し、前記第1通電遮断素子による遮断に失敗した場合、全ての前記電池モジュールの前記第2通電遮断素子を用いて充電電流を遮断し、前記第2通電遮断素子による遮断に失敗した場合、前記定電流放電回路を用いて前記電池モジュール群を放電する。
【0007】
その他本願が開示する課題やその解決方法については、発明の実施形態の欄及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安全に充電することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本実施形態に係る電池モジュール3の構成の概略を示す回路ブロック図である。
図2】本実施形態に係る充電制御回路103の構成の概略を示す回路ブロック図である。
図3】本実施形態に係る充電回路104の構成の概略を示す回路ブロック図である。
図4】本実施形態に係る充電制御回路104のメインコントローラ9の制御の概略を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
リチウムイオン二次電池は、充電時には、前記リチウムイオン二次電池セル内の正極活物質からリチウムイオンが電解液中へ電気的に離脱する一方、放電時には、前記リチウムイオンが前記電解液中から前記正極活物質中へ電気的に挿入されることに伴う電子の移動により電流が流れる動作原理を有し、前記正極活物質内では前記リチウムイオンの前記電気的な離脱または挿入に伴い酸化還元反応が生じると言われている。
【0011】
また、前記リチウムイオン二次電池の過充電時の発火のプロセスは、リチウムオン二次電池セルに過電圧が印加される過充電時に、前記リチウムイオン二次電池セル内の正極活物質からリチウムイオンが大量に引き抜かれ前記正極活物質の結晶格子構造が崩壊した際に前記正極活物質から電気的に不安定な活性酸素が電解液中へ放出され前記活性酸素が可燃性の前記電解液に触れて着火し連鎖的に発火に及ぶと言われている。
【0012】
リチウムイオン二次電池の正極活物質は、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、または、ニッケル酸リチウムを代表的な材料として構成され、前記正極活物質内における酸化還元反応に従い充電時には、リチウムイオンが正極活物質内から電解液中へ電気的に離脱する現象、および、特に、過充電時には前記リチウムイオンが前記正極活物質内から電解中へ大量に離脱し結果的に前記活性酸素を放出する現象であることに着目すると、充電時は酸化還元反応における実質的な還元反応に類似すると言え、特に、前記過充電状態は実質的に過度な還元反応に類似すると言える。逆に、放電時は、前記実質的な酸化反応に類似、すなわち、正極活物質がその内部に実質的に酸素を取り込む現象に類似すると言える。
【0013】
したがって、過充電における安全性を高める目的において、過充電時に正極活物質が活性酸素を放出する反応、すなわち、前記実質的な過度の還元反応を抑えることが求められる。また、充電制御回路において過充電に対する二重保護の安全機構を備えても、万一に二重保護に失敗した場合、例えば、リチウムイオン二次電池セル内部に備えるCID、すなわち、充電電流を通電する溶接点を過電圧に伴う電解液の電気分解で生じたガスによる内圧上昇を利用して引き剥し充電電流を遮断する安全機構の存在を三重保護としての安全保護手段に位置づけても、前記CIDは浸水時にその封止部が電蝕し、前記内圧上昇した高圧の前記ガスが前記電蝕した封止部から電池セル外部に抜けて溶接点を引き剥すことに失敗し過充電が継続し発火することがある。また、CIDを内蔵できないラミネート式のリチウムイオン二次電池セルを用いる場合は、前記過充電二重保護の失敗によって必然的に発火に至り、前記過充電二重保護の失敗の確率が低くても発火の際の損害が甚大である。したがって、リスクアセスメント観点より、二重保護の失敗時も配慮した安全性を確保することが求められる。
【0014】
図1に示すように、電池モジュール3は、複数のリチウムイオン二次電池セルが直列接続された高電圧定格の電池セル群1Hを、その電池セル群1Hへの充電電流入力を可逆的に入力または停止する第1通電遮断素子としての半導体通電遮断素子FET6、および、不可逆的に入力または遮断する第2通電遮断素子としての自己溶断型ヒューズSCP7を直列に介して端子8に接続する。モジュールコントローラすなわち一次保護IC4は、前記電池セル群1Hの電圧、または、前記電池セル群1Hの電流、すなわち、シャント抵抗6の両端に現れる電圧を検知して、その検知結果に応じてFET6をオンまたはオフに操作し端子8らの充電電流入力の入力または停止を制御する。また、二次保護IC5は前記一次保護IC4と独立に駆動し、前記電池セル群1Hの電圧を検知して、その検知結果、または、前記一次保護IC4からの指示信号9に応じてFET10をオンに操作してSCP7内のヒータを通電加熱して前記SCP7内のヒューズエレメントを自己溶断し不可逆的に充電電流を遮断する。
【0015】
図2に示すように、充電制御回路103は、複数の電池モジュール3を直列接続して電池モジュール3群を構成し、前記電池モジュール3群を充電回路11へ接続する。前記充電回路11は、電源入力ケーブル10を商用電源に接続して交流電圧を入力し所望の直流電圧へ変換し前記電池モジュール3群へ前記直流電圧を印加しその電池モジュール3群へ充電電流を入力して前記電池モジュール3内の電池セル群1Hを充電する。
【0016】
図3に示すように、充電制御回路104は、前記充電制御回路103に定電流放電回路12を追加し電池モジュール3群に並列接続した構成した構成である。メインコントローラ9は、後述のフローチャート図に従い、制御信号13を用いて前記定電流放電回路12を制御する。
【0017】
前記充電回路104のメインコントローラ9の制御について、次に、図4のフローチャート図を用いて説明する。
【0018】
充電制御回路104のメインコントローラ9は、Step1にて、絶縁性通信信号3を用いて電池モジュール3群と通信を行い前記電池モジュール3群の内、少なくとも1個の電池モジュール3内の電池セル群1Hの電圧が所定電圧1を超えたか否かを検知する。前記電池セル群1Hの電圧が所定電圧1を超えたと判定すると、Step2へ移行し、全ての前記電池モジュール3へFET6をオフに操作するように指示し全ての電池モジュール3の充電電流の通電を停止する。メインコントローラ9は、Step3にて、絶縁性通信信号3を用いて電池モジュール3群と通信を行い前記電池モジュール3群の内、少なくとも1個の電池モジュール3内の電池セル群1Hの電圧が前記所定電圧1よりも高い所定電圧2を超えたか否かを検知する。前記電池セル群1Hの電圧が前記所定電圧2を超えたと判定すると、Step4へ移行し、全ての前記電池モジュール3へ前記電池モジュール3内のFET10をオンに操作してSCP7を不可逆に遮断するように絶縁性通信信号3を用いて指示し全ての前記電池モジュール3の充電電流の通電を遮断する。
【0019】
メインコントローラ9は、Step5にて、絶縁性通信信号3を用いて電池モジュール3群と通信を行い前記電池モジュール3群の内、少なくとも1個の電池モジュール3内の電池セル群1Hの電圧が前記所定電圧1および前記所定電圧2より高い所定電圧3を超えたか否かを検知する。前記電池セル群1Hの電圧が前記所定電圧3を超えたと判定するとStep6へ移行し、通信信号13を用いて定電流放電回路12をオンに操作し電池モジュール3群に対して上限電流を超えない所定の定電流にて放電を行う。
【0020】
なお、前記定電流放電の電流上限値は、過電流放電によって発火に至らない電流値に対して十分なマージンを取って設定し、かつ、前記所定電圧3はリチウムイオン二次電池セル内の正極活物質から活性酸素が放出される電圧よりやや低く設定すると着実に安全性を確保することができる。
【0021】
上述のように、過充電時に正極の活物質の結晶格子構造が崩壊して前記正極活物質から電解液中へ前記活性酸素を放出する現象は、正極活物質内の酸化還元反応における実質的に過度な還元反応に類似すると言え、逆に、放電時は、前記還元反応と逆の酸化反応、すなわち、時差質的に正極活物質がその内部に酸素を取り込む現象に類似すると言える。
【0022】
前述のStep4に至る状態とは、電池モジュール3群の内の少なくとも1個の電池モジュール3の一次保護IC4がStep1にて電池セル群1Hの過電圧の検知に失敗した状態、または、Step2にて電池モジュール3群の内の全ての電池モジュール3のFET6をオフに操作しても前記FET6のショート故障等により充電電流の遮断に失敗し充電が継続した状態のいずれかであり、前記Step3ないしStep4の制御は、前記Step1ないしStep2の過充電に対する一次保護の失敗を補う二重保護の役割を果たし、さらに、Step6に至る状態は、電池モジュール内の二次保護IC5が何等かの要因により正常に作動せずSCP7の遮断、すなわち、二重保護に失敗した状態であり、この段階ではリチウムイオン二次電池セル内の正極活物質からリチウムイオンが大量に引き抜かれ活性酸素が放出されようとする実質的に過度な還元反応に類似した状態にあると言え、前記定電流放電回路12による定電流放電が始まった瞬間に、前記正極活物質内の反応が前記還元反応から酸化反応に反転し、正極活物質から電解液中に電気的に離脱したリチウムイオンが前記正極活物質内に電気的に挿入され、正極活物質から放出され始めた活性酸素の放出量が電解液の着火条件に至る直前の段階では、電解液中に離脱したリチウムイオンが前記正極活物質に戻り挿入されると共に酸化反応に類似する状態、すなわち、前記活性酸素が正極活物質内に取り込まれ、前記正極活物質に前記活性酸素が実質的に吸収される状態となる一方、前記活性酸素が前記正極活物質から放出され始める前の段階では、前記放電により過電圧状態が持続することを防ぎ活性酸素の放出を予め抑制するに等しい状態になると言える。
【0023】
前述の実質的に活性酸素を吸収するに類似する機構状態、または、実質的に活性酸素の放出を抑制するに類似する機構によって、万一、前記過充電の二重保護に失敗した場合の前記CIDを有しないラミネート式リチウムイオン二次電池セル、または、CIDが前記正常に作動しないリチウムイオン二次電池の発火を回避できる。
【0024】
以上説明したように、多数のリチウムイオン二次電池セルを搭載する気自動車の充電において、リチウムイオン二次電池セルの過充電時に、発火の原因となる電池セル内において正極活物質から電解液へ放出される活性酸素を実質的に吸収または抑制し前記リチウムイオン二次電池セルの発火を回避し、リスクアセスメント観点より、過充電に対する二重保護の失敗をも想定した高い安全性を実現できる。
【0025】
以上、本実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【符号の説明】
【0026】
3 電池モジュール
9 メインコントローラ
103 充電制御回路
104 充電回路
図1
図2
図3
図4