(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】シリンダ用3価クロムめっき装置及び方法
(51)【国際特許分類】
C25D 21/00 20060101AFI20231221BHJP
C25D 5/24 20060101ALI20231221BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20231221BHJP
C25D 7/04 20060101ALI20231221BHJP
C25D 17/08 20060101ALI20231221BHJP
C25D 17/12 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C25D21/00 J
C25D5/24
C25D7/00 U
C25D7/04
C25D17/08 K
C25D17/12 J
C25D21/00 C
(21)【出願番号】P 2023543113
(86)(22)【出願日】2023-02-17
(86)【国際出願番号】 JP2023005674
【審査請求日】2023-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2022031030
(32)【優先日】2022-03-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000131625
【氏名又は名称】株式会社シンク・ラボラトリー
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】菅原 申太郎
(72)【発明者】
【氏名】劉 暁剛
【審査官】瀧口 博史
(56)【参考文献】
【文献】特開昭49-010828(JP,A)
【文献】特開平10-121291(JP,A)
【文献】国際公開第2012/043513(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/151665(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/164445(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0016688(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/24
C25D 7/00
C25D 7/04
C25D 17/08
C25D 17/12
C25D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3価クロムめっき液が貯留されるめっき槽と、被処理シリンダを回転可能且つ通電可能に長手方向両端を把持して前記めっき槽に水平方向に収容するチャック手段と、所定の通電が行われる不溶性電極と、を備え、前記不溶性電極を前記被処理シリンダの外周面に所定間隔をおいて近接せしめ、前記外周面に3価クロムめっきを施すようにしたシリンダ用3価クロムめっき装置であり、
前記不溶性電極が、前記被処理シリンダの外周面の周囲を囲繞する囲繞型不溶性電極であ
り、
前記囲繞型不溶性電極が、前記めっき槽に水平方向に収容された被処理シリンダの下側外周面の周囲を囲繞する下側囲繞型不溶性電極、及び/又は前記めっき槽に水平方向に収容された被処理シリンダの上側外周面の周囲を囲繞する上側囲繞型不溶性電極、を含む、シリンダ用3価クロムめっき装置。
【請求項2】
前記上側囲繞型不溶性電極及び/又は前記下側囲繞型不溶性電極が、交差型電極である請求項
1記載のシリンダ用3価クロムめっき装置。
【請求項3】
前記囲繞型不溶性電極が、エアシリンダ又は電動モータにより、前記被処理シリンダのシリンダ径に応じて前記外周面に近接せしめられてなる、請求項1記載のシリンダ用3価クロムめっき装置。
【請求項4】
前記囲繞型不溶性電極が、アームの回転運動又は間隔を広狭する動作により、前記被処理シリンダのシリンダ径に応じて前記外周面に近接せしめられてなる、請求項1記載のシリンダ用3価クロムめっき装置。
【請求項5】
請求項1~
4いずれか1項記載のシリンダ用3価クロムめっき装置を用いて、前記3価クロムめっき液で前記被処理シリンダをめっき処理してなる、3価クロムめっき方法。
【請求項6】
請求項1~
4いずれか1項記載のシリンダ用3価クロムめっき装置を用いて、前記3価クロムめっき液で前記被処理シリンダをめっき処理することによりグラビアシリンダを製造してなる、グラビアシリンダの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばグラビア印刷に用いる中空円筒状のグラビアシリンダ(製版ロールとも呼ばれる)を製造するにあたり、長尺状の中空ロールの外周表面に対して不溶性電極を用いる3価クロムめっきを施すためのシリンダ用3価クロムめっき装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラビア印刷では、中空円筒状の被処理シリンダに対し製版情報に応じた微小な凹部(セル)を形成して版面を製作し、当該セルにインキを充填して被印刷物に転写するものである。一般的なグラビアシリンダは、円筒状の鉄芯またはアルミ芯(中空ロール)を基材とし、当該基材の外周表面上に下地層や剥離層等の複数の層を形成し、その上に銅めっき等のめっき層を形成する。そしてこの銅めっき等のめっき層にレーザー露光装置により製版情報に応じたセルを形成し、その後グラビアシリンダの耐刷力を増すためのクロムめっき等を施して製版(版面の製作)が完了する。この一般的なクロムめっきは、6価クロムめっき層である。
【0003】
しかし、クロムめっき工程においては毒性の高い6価クロムめっき液を用いているために、作業の安全維持を図るために余分なコストがかかる他、公害発生の問題もあり、6価クロム層に替わる表面強化被覆層の出現が待望されているのが現状である。
【0004】
6価クロムめっき液から得られる6価クロムめっき層に替わるめっき方法としては、3価クロムめっき液によってクロムめっき層を形成する3価クロムめっき方法がある。3価クロムめっき液としては、例えば、特許文献1の示される3価クロムめっき液がある。
【0005】
また、本願出願人は、めっき液が貯留されるめっき槽と、被処理シリンダを回転可能且つ通電可能に長手方向両端を把持して前記めっき槽に収容するチャック手段と、前記めっき槽内で被処理シリンダの両側面に対向して垂設され且つ所定の通電が行われる相対向する一対の不溶性電極とを備え、前記一対の不溶性電極を前記被処理シリンダの両側面に所定間隔をおいて近接せしめ、前記被処理シリンダの外周表面にめっきを施すようにしたシリンダ用めっき装置であり、前記不溶性電極が、少なくとも下部部分を内方に湾曲せしめてなる形状を有し、且つ少なくとも前記下部部分が櫛目状部とされてなり、一方の前記不溶性電極の前記櫛目状部の凹部の位置に他方の前記不溶性電極の前記櫛目状部の凸部が位置するように互い違いに相対向せしめ、前記不溶性電極の上端部分を回動中心として前記不溶性電極を回動可能に構成し、前記被処理シリンダの径に応じて前記被処理シリンダの外周表面に対する前記不溶性電極の近接距離を調節可能にしてなるシリンダ用めっき装置を既に提案した(特許文献2)。
【0006】
特許文献2のシリンダ用めっき装置では、6価クロムめっき液を用いる一般的なクロムめっきであれば、グラビア印刷に要求される表面物性である、硬度、耐摩耗性及び均一電着性などを満たす耐刷力に優れたクロムめっき層(6価クロムめっき層)を得ることができた。
【0007】
しかしながら、特許文献2のシリンダ用めっき装置で、3価クロムめっき液を用いた3価クロムめっきを行うと、
図11の写真に示されるように、シリンダの中央部分に黒い部分ができてしまう。これは、めっきがほとんど析出していない状態である未析出部分がシリンダの一部に発生してしまった状態である。このように、特許文献2のシリンダ用めっき装置で、3価クロムめっき液を用いた3価クロムめっきを行うと、未析出部分がシリンダの一部に発生してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2019-123927
【文献】WO2015/151665
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みなされたもので、3価クロムめっき液を用いて、めっきの未析出部分が発生すること無く、析出が良好で均一且つ耐刷力に優れた3価クロムめっき施すことができるようにしたシリンダ用3価クロムめっき装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のシリンダ用3価クロムめっき装置は、3価クロムめっき液が貯留されるめっき槽と、被処理シリンダを回転可能且つ通電可能に長手方向両端を把持して前記めっき槽に水平方向に収容するチャック手段と、所定の通電が行われる不溶性電極とを備え、前記不溶性電極を前記被処理シリンダの外周面に所定間隔をおいて近接せしめ、前記外周面に3価クロムめっきを施すようにしたシリンダ用3価クロムめっき装置であり、前記不溶性電極が、前記被処理シリンダの外周面の周囲を囲繞する囲繞型不溶性電極である、シリンダ用3価クロムめっき装置である。
【0011】
前記囲繞型不溶性電極が、前記めっき槽に水平方向に収容された被処理シリンダの下側外周面の周囲を囲繞する下側囲繞型不溶性電極、及び/又は前記めっき槽に水平方向に収容された被処理シリンダの上側外周面の周囲を囲繞する上側囲繞型不溶性電極、を含むのが好適である。
【0012】
前記上側囲繞型不溶性電極及び/又は前記下側囲繞型不溶性電極が、交差型電極であるのが好適である。
【0013】
前記囲繞型不溶性電極が、エアシリンダ又は電動モータにより、前記被処理シリンダのシリンダ径に応じて前記外周面に近接せしめられてなるのが好適である。
【0014】
前記囲繞型不溶性電極が、アームの回転運動又は間隔を広狭する動作により、前記被処理シリンダのシリンダ径に応じて前記外周面に近接せしめられてなるのが好適である。
【0015】
本発明の3価クロムめっき方法は、前記シリンダ用3価クロムめっき装置を用いて、前記3価クロムめっき液で前記被処理シリンダをめっき処理してなる、3価クロムめっき方法である。
【0016】
本発明のグラビアシリンダの製造方法は、前記シリンダ用3価クロムめっき装置を用いて、前記3価クロムめっき液で前記被処理シリンダをめっき処理することによりグラビアシリンダを製造してなる、グラビアシリンダの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、3価クロムめっき液を用いて、均一且つ耐刷力に優れた3価クロムめっき施すことができるようにしたシリンダ用3価クロムめっき装置及び方法を提供することができるという著大な効果が達成されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係るシリンダ用3価クロムめっき装置の第一の実施の形態を示す左側面図である。
【
図2(a)】第一の実施の形態のシリンダ用3価クロムめっき装置の要部斜視図であって、左側方から見た要部斜視図である。
【
図2(b)】第一の実施の形態のシリンダ用3価クロムめっき装置の要部斜視図であって、右側方から見た要部斜視図である。
【
図3】本発明に係るシリンダ用3価クロムめっき装置の第二の実施の形態を示す左側面図である。
【
図4(a)】第二の実施の形態のシリンダ用3価クロムめっき装置の要部斜視図であって、左側方から見た要部斜視図である。
【
図4(b)】第二の実施の形態のシリンダ用3価クロムめっき装置の要部斜視図であって、右側方から見た要部斜視図である。
【
図5】本発明に係るシリンダ用3価クロムめっき装置の第三の実施の形態を示す左側面図である。
【
図6(a)】第三の実施の形態のシリンダ用3価クロムめっき装置の要部斜視図であって、左側方から見た要部斜視図である。
【
図6(b)】第三の実施の形態のシリンダ用3価クロムめっき装置の要部斜視図であって、右側方から見た要部斜視図である。
【
図7】本発明に係るシリンダ用3価クロムめっき装置の第四の実施の形態を示す左側面図である。
【
図8】第四の実施の形態のシリンダ用3価クロムめっき装置を左側方から見た斜視図である。
【
図9】第四の実施の形態のシリンダ用3価クロムめっき装置を上方から見た平面図である。
【
図10(a)】第四の実施の形態のシリンダ用3価クロムめっき装置の要部斜視図であって、左側方から見た要部斜視図である。
【
図10(b)】第四の実施の形態のシリンダ用3価クロムめっき装置の要部斜視図であって、右側方から見た要部斜視図である。
【
図11】特許文献2のシリンダ用めっき装置で、3価クロムめっき液を用いた3価クロムめっきを行い、作製したグラビアシリンダの写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明するが、図示例は例示的に示されたもので、本発明の技術的思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことは言うまでもない。
【0020】
図1~
図2において、本発明に係るシリンダ用3価クロムめっき装置の第一の形態として、シリンダ用3価クロムめっき装置10Aを示す。
【0021】
シリンダ用3価クロムめっき装置10Aは、被処理シリンダ12に3価クロムめっきを施すためのめっき装置である。シリンダ用3価クロムめっき装置10Aは、3価クロムめっき液が貯留されるめっき槽14と、被処理シリンダを回転可能且つ通電可能に長手方向両端を把持して前記めっき槽に水平方向に収容するチャック手段16と、所定の通電が行われる不溶性電極18とを備え、前記不溶性電極18を前記被処理シリンダ12の外周面に所定間隔をおいて近接せしめ、前記外周面に3価クロムめっきを施すようにしたシリンダ用3価クロムめっき装置であり、前記不溶性電極18が、前記被処理シリンダ12の外周面の周囲を囲繞する囲繞型不溶性電極である、シリンダ用3価クロムめっき装置である。
【0022】
前記囲繞型不溶性電極18は、前記めっき槽14に水平方向に収容された被処理シリンダ12の下側外周面20の周囲を囲繞する下側囲繞型不溶性電極22、及び/又は前記めっき槽14に水平方向に収容された被処理シリンダ12の上側外周面24の周囲を囲繞する上側囲繞型不溶性電極26、を含む構成とされている。
図1では、下側囲繞型不溶性電極22及び上側囲繞型不溶性電極26の両方を含む例を示した。
【0023】
なお、本発明のシリンダ用3価クロムめっき装置に用いられる囲繞型不溶性電極は、前記囲繞型不溶性電極18や後述する実施の形態における囲繞型不溶性電極を含め、メッシュ状の電極であるのが好適である。メッシュ状電極だと、前記囲繞型不溶性電極の表面だけでなく裏面からも電界が生じるため、前記囲繞型不溶性電極の電極としての表面積が増加し、結果として、前記囲繞型不溶性電極の電流密度が減少し、寿命が長くなるからである。メッシュ状電極としては、特許文献2に記載されたような、メッシュ状電極が好適に用いられる。
【0024】
シリンダ用3価クロムめっき装置10Aでは、前記下側囲繞型不溶性電極22は、交差型電極とされている。本明細書において、交差型電極とは、端部が櫛目状部とされてなる一組の不溶性電極が互い違いに交差している電極のことを指す。即ち、一組の下側囲繞型不溶性電極(22a,22b)の一方の前記下側囲繞型不溶性電極22aの櫛目状部の凹部の位置に他方の前記下側囲繞型不溶性電極22bの前記櫛目状部の凸部が位置するように互い違いに相対向せしめて交差せしめられてなる電極である。
【0025】
そして、前記囲繞型不溶性電極18の前記上側囲繞型不溶性電極26は、エアシリンダ28によって、上下動せしめられ、前記被処理シリンダ12のシリンダ径に応じて前記外周面に近接せしめられる。なお、エアシリンダ28の代わりに、電動モータによって、前記上側囲繞型不溶性電極26を上下動させて前記被処理シリンダ12のシリンダ径に応じて前記外周面に近接せしめるようにしてもよい。
【0026】
そして、前記囲繞型不溶性電極18の、前記下側囲繞型不溶性電極22は、アーム30a,30bの回転運動により、前記下側囲繞型不溶性電極22aの櫛目状部の凹部の位置に他方の前記下側囲繞型不溶性電極22bの前記櫛目状部の凸部が入り込む程度を調節することで、前記被処理シリンダ12のシリンダ径に応じて前記外周面に近接せしめられてなる。
【0027】
従来は、特許文献2に示されるように、水平方向に設置された被処理シリンダの下側部分のみに電極が位置していたが、本発明では、被処理シリンダ12の上側に前記被処理シリンダ12に被せるように電極を配置した。つまり前記被処理シリンダ12の全周にわたって電極を設けたことに特徴がある。なお、図示例では、上側囲繞型不溶性電極26と下側囲繞型不溶性電極22は、同一の電源から電気が供給されている。また、被処理シリンダ12の直径はいろいろと異なるが、上側囲繞型不溶性電極26と下側囲繞型不溶性電極22を動かすことで、様々な直径サイズの被処理シリンダ12に適用できる構成とされている。
【0028】
上記の構成とすることで、3価クロムめっき液を用いた3価クロムめっきを行っても、被処理シリンダ12の一部に未析出部分が発生してしまうといった問題が発生せずに、析出が良好で綺麗に、均一且つ耐刷力に優れたシリンダを得ることできる。耐刷力に優れていることから、グラビアシリンダとして適用できる。また、特許文献2に示される、下側のみに電極を設けた構成のシリンダ用めっき装置と比べて、シリンダ用3価クロムめっき装置10Aでは電圧がおよそ50%減少するという効果もある。
【0029】
3価クロムめっき液としては、特許文献1に記載されためっき液を使用することができる。特に、6価クロムは毒性があるため、3価クロムを用いた3価クロムめっき液が好適であり、三塩化クロム(CrCl3(CrCl3・6H2O))などの3価クロムを含む3価クロムめっき液が好適である。そして、特許文献1に記載されたように、三塩化クロムの溶液として、水を使わずに塩化物(塩化カルシウムや塩化リチウム)の溶液を使うのが好適であり、高濃度のハロゲン化カルシウムを溶解させた溶液を用いるのが好適である。また、特許文献1に記載されるような特定の分解電位を有する溶液をめっき液として使用するのが好適である。
【0030】
前記被処理シリンダ12は前記めっき槽14に水平方向に収容される。即ち、本発明のめっき装置は、被処理シリンダ12を横にして収容する横型のめっき装置である。横型のめっき装置の場合、被処理シリンダ12の上側に電極を設けると、被処理シリンダ12の前記めっき槽14への出し入れが問題となるが、上側囲繞型不溶性電極26をエアシリンダ28で上下動させることで、被処理シリンダ12の前記めっき槽14への出し入れの問題を解決している。
【0031】
また、被処理シリンダ12を鉛直方向に縦にしてめっき装置に収容する縦型めっき装置の態様も考えられるが、鉛直方向に立てた被処理シリンダ12の周囲に例えば筒のような電極を配置したとしても、綺麗に3価クロムめっきをすることはできない。このような縦型のめっき装置にした場合の問題としては、めっき槽の下の方からからめっき液が溜まっていくため、被処理シリンダの上と下とで、3価クロムめっき液に浸かる時間が異なることとなる。3価クロムめっき液は酸性なので、被処理シリンダの表面が腐食されたり、或いは被処理シリンダの表面が荒れたりしてしまうこととなる。
【0032】
さらに、縦型めっき装置にすると、めっき槽の下からめっき液が溜まっていく間、無電解めっきのような状態になるので、めっき液にNiやFeといった不純物が含まれていた場合、めっき液に浸しただけで被処理シリンダの表面に不純物が析出してしまうという問題がある。
【0033】
本発明のめっき装置は、被処理シリンダ12が前記めっき槽14に水平方向に収容される横型のめっき装置であるため、被処理シリンダ12が回転している状態でめっき液を入れられるので、シリンダの一部の表面だけが荒れるといった問題を回避することができるのである。
【0034】
次に、本発明に係るシリンダ用3価クロムめっき装置の第二の形態として、シリンダ用3価クロムめっき装置10Bを
図3~
図4に示す。
【0035】
シリンダ用3価クロムめっき装置10Bは、3価クロムめっき液が貯留されるめっき槽34と、被処理シリンダ12を回転可能且つ通電可能に長手方向両端を把持して前記めっき槽に水平方向に収容するチャック手段36と、所定の通電が行われる不溶性電極38とを備え、前記不溶性電極38を前記被処理シリンダ12の外周面に所定間隔をおいて近接せしめ、前記外周面に3価クロムめっきを施すようにしたシリンダ用3価クロムめっき装置であり、前記不溶性電極38が、前記被処理シリンダ12の外周面の周囲を囲繞する囲繞型不溶性電極である、シリンダ用3価クロムめっき装置である。
【0036】
図3において、前記囲繞型不溶性電極38は、前記めっき槽34に水平方向に収容された被処理シリンダ12の下側外周面40の周囲を囲繞する下側囲繞型不溶性電極42と、前記めっき槽14に水平方向に収容された被処理シリンダ12の上側外周面44の周囲を囲繞する上側囲繞型不溶性電極46と、を含む構成とされている。
【0037】
シリンダ用3価クロムめっき装置10Bでは、前記下側囲繞型不溶性電極42は、交差型電極とされている。
【0038】
そして、前記囲繞型不溶性電極38の前記上側囲繞型不溶性電極46は、アーム48a,48bの回転動作によって、被処理シリンダ12の上部を覆う状態と開放状態とに開閉せしめられる。このようにして、前記被処理シリンダ12のシリンダ径に応じて前記外周面に近接せしめられる。なお、アーム48a,48bは図示しない駆動源によって駆動せしめられる。
【0039】
また、前記囲繞型不溶性電極38の、前記下側囲繞型不溶性電極42(42a,42b)は、アーム50a,50bの回転運動により、前記下側囲繞型不溶性電極42aの櫛目状部の凹部の位置に他方の前記下側囲繞型不溶性電極42bの前記櫛目状部の凸部が入り込む程度を調節することで、前記被処理シリンダ12のシリンダ径に応じて前記外周面に近接せしめられてなる。
【0040】
上記の構成とすることで、3価クロムめっき液を用いた3価クロムめっきを行っても、被処理シリンダ12の一部に未析出部分が発生してしまうといった問題が発生せずに、析出が良好で綺麗に、均一且つ耐刷力に優れたシリンダを得ることできる。耐刷力に優れていることから、グラビアシリンダとして適用できる。また、特許文献2に示される、下側のみに電極を設けた構成のシリンダ用めっき装置と比べて、シリンダ用3価クロムめっき装置10Bでは電圧がおよそ50%減少するという効果もある。
【0041】
次に、本発明に係るシリンダ用3価クロムめっき装置の第三の形態として、シリンダ用3価クロムめっき装置10Cを
図5~
図6に示す。
【0042】
シリンダ用3価クロムめっき装置10Cは、3価クロムめっき液が貯留されるめっき槽54と、被処理シリンダ12を回転可能且つ通電可能に長手方向両端を把持して前記めっき槽に水平方向に収容するチャック手段56と、所定の通電が行われる不溶性電極58とを備え、前記不溶性電極58を前記被処理シリンダ12の外周面に所定間隔をおいて近接せしめ、前記外周面に3価クロムめっきを施すようにしたシリンダ用3価クロムめっき装置であり、前記不溶性電極58が、前記被処理シリンダ12の外周面の周囲を囲繞する囲繞型不溶性電極である、シリンダ用3価クロムめっき装置である。
【0043】
図5において、前記囲繞型不溶性電極58は、前記めっき槽54に水平方向に収容された被処理シリンダ12の左側外周面60の周囲を囲繞する左側囲繞型不溶性電極62と、前記めっき槽14に水平方向に収容された被処理シリンダ12の右側外周面64の周囲を囲繞する右側囲繞型不溶性電極66と、を含む構成とされている。
【0044】
シリンダ用3価クロムめっき装置10Cでは、前記左側囲繞型不溶性電極62及び前記右側囲繞型不溶性電極66とで、交差型電極を構成している。
【0045】
そして、前記囲繞型不溶性電極58の前記左側囲繞型不溶性電極62及び前記右側囲繞型不溶性電極66は、アーム68a,68bが間隔を広狭する動作によって、被処理シリンダ12の周囲を覆う状態と開放状態とに開閉せしめられる。このようにして、前記左側囲繞型不溶性電極62の櫛目状部の凹部の位置に前記右側囲繞型不溶性電極66の前記櫛目状部の凸部が入り込む程度を調節することで、前記被処理シリンダ12のシリンダ径に応じて前記外周面に近接せしめられる。なお、アーム68a,68bは図示しない駆動源によって駆動せしめられる。
【0046】
上記の構成とすることで、3価クロムめっき液を用いた3価クロムめっきを行っても、被処理シリンダ12の一部に未析出部分が発生してしまうといった問題が発生せずに、析出が良好で綺麗に、均一且つ耐刷力に優れたシリンダを得ることできる。耐刷力に優れていることから、グラビアシリンダとして適用できる。また、特許文献2に示される、下側のみに電極を設けた構成のシリンダ用めっき装置と比べて、シリンダ用3価クロムめっき装置10Cでは電圧がおよそ50%減少するという効果もある。
【0047】
次に、本発明に係るシリンダ用3価クロムめっき装置の第四の形態として、シリンダ用3価クロムめっき装置10Dを
図7~
図10に示す。
【0048】
シリンダ用3価クロムめっき装置10Dは、3価クロムめっき液が貯留されるめっき槽74と、被処理シリンダ12を回転可能且つ通電可能に長手方向両端を把持して前記めっき槽に水平方向に収容するチャック手段76と、所定の通電が行われる不溶性電極78とを備え、前記不溶性電極78を前記被処理シリンダ12の外周面に所定間隔をおいて近接せしめ、前記外周面に3価クロムめっきを施すようにしたシリンダ用3価クロムめっき装置であり、前記不溶性電極78が、前記被処理シリンダ12の外周面の周囲を囲繞する囲繞型不溶性電極である、シリンダ用3価クロムめっき装置である。
【0049】
図7において、前記囲繞型不溶性電極78は、前記めっき槽54に水平方向に収容された被処理シリンダ12の下側外周面80の周囲を囲繞する下側囲繞型不溶性電極82と、前記めっき槽74に水平方向に収容された被処理シリンダ12の上側外周面84の周囲を囲繞する上側囲繞型不溶性電極86と、を含む構成とされている。
【0050】
シリンダ用3価クロムめっき装置10Dでは、前記下側囲繞型不溶性電極82及び前記上側囲繞型不溶性電極86のそれぞれが、交差型電極となっている。
【0051】
前記囲繞型不溶性電極78の前記下側囲繞型不溶性電極82は、アーム90a,90bの回転運動により、前記下側囲繞型不溶性電極82aの櫛目状部の凹部の位置に他方の前記下側囲繞型不溶性電極82bの前記櫛目状部の凸部が入り込む程度を調節することで、前記被処理シリンダ12のシリンダ径に応じて前記外周面に近接せしめられてなる。なお、アーム90a,90bは図示しない駆動源によって駆動せしめられる。
【0052】
また、前記囲繞型不溶性電極78の前記上側囲繞型不溶性電極86は、アーム92a,92bの回転運動により、前記上側囲繞型不溶性電極86aの櫛目状部の凹部の位置に他方の前記上側囲繞型不溶性電極86bの前記櫛目状部の凸部が入り込む程度を調節することで、前記被処理シリンダ12のシリンダ径に応じて前記外周面に近接せしめられてなる。なお、アーム92a,92bは図示しない駆動源によって駆動せしめられる。
【0053】
上記の構成とすることで、3価クロムめっき液を用いた3価クロムめっきを行っても、被処理シリンダ12の一部に未析出部分が発生してしまうといった問題が発生せずに、析出が良好で綺麗に、均一且つ耐刷力に優れたシリンダを得ることできる。耐刷力に優れていることから、グラビアシリンダとして適用できる。また、特許文献2に示される、下側のみに電極を設けた構成のシリンダ用めっき装置と比べて、シリンダ用3価クロムめっき装置10Dでは電圧がおよそ50%減少するという効果もある。
【0054】
本発明に係る3価クロムめっき方法は、上記本発明に係るシリンダ用3価クロムめっき装置10A~10Dを用いて、3価クロムめっき液で前記被処理シリンダ12をめっき処理してなる、3価クロムめっき方法である。本発明に係る3価クロムめっき方法によれば、3価クロムめっき液を用いた3価クロムめっきを行っても、被処理シリンダ12の一部に未析出部分が発生してしまうといった問題が発生せずに、析出が良好で綺麗に、均一且つ耐刷力に優れたシリンダを得ることできる。耐刷力に優れていることから、グラビアシリンダとして適用できる。
【0055】
本発明に係るグラビアシリンダの製造方法は、上記本発明に係るシリンダ用3価クロムめっき装置10A~10Dを用いて、前記3価クロムめっき液で前記被処理シリンダをめっき処理することによりグラビアシリンダを製造してなる、グラビアシリンダの製造方法である。本発明に係るグラビアシリンダの製造方法によれば、3価クロムめっき液を用いた3価クロムめっきを行っても、被処理シリンダ12の一部に未析出部分が発生してしまうといった問題が発生せずに、析出が良好で綺麗に、均一且つ耐刷力に優れたグラビアシリンダを得ることできる。
【符号の説明】
【0056】
10A,10B,10C,10D:3価クロムめっき装置、12:被処理シリンダ、14,34,54,74:めっき槽、16,36,56,76:チャック手段、18,38,58,78:囲繞型不溶性電極、20,40,80:下側外周面、22,22a,22b,42,42a,42b,82,82a,82b:下側囲繞型不溶性電極、24,44,84:上側外周面、26,46,86,86a,86b:上側囲繞型不溶性電極、28:エアシリンダ、30a,30b,48a,48b,50a,50b,68a,68b,90a,90b,92a,92b:アーム、60:左側外周面、62:左側囲繞型不溶性電極、64:右側外周面、66:右側囲繞型不溶性電極。
【要約】
3価クロムめっき液を用いて、めっきの未析出部分が発生すること無く、析出が良好で均一且つ耐刷力に優れた3価クロムめっき施すことができるようにしたシリンダ用3価クロムめっき装置及び方法を提供する。
3価クロムメッキ液が貯留されるめっき槽と、被処理シリンダを回転可能且つ通電可能に長手方向両端を把持して前記めっき槽に水平方向に収容するチャック手段と、所定の通電が行われる不溶性電極とを備え、前記不溶性電極を前記被処理シリンダの外周面に所定間隔をおいて近接せしめ、前記外周面に3価クロムメッキを施すようにしたシリンダ用メッキ装置であり、前記不溶性電極が、前記被処理シリンダの外周面の周囲を囲繞する囲繞型不溶性電極である、シリンダ用3価クロムメッキ装置とした。