(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】圧電トランス、および電子機器
(51)【国際特許分類】
H10N 30/40 20230101AFI20231221BHJP
H10N 30/853 20230101ALI20231221BHJP
H10N 30/88 20230101ALI20231221BHJP
H10N 30/50 20230101ALI20231221BHJP
H02M 3/24 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
H10N30/40
H10N30/853
H10N30/88
H10N30/50
H02M3/24 Y
(21)【出願番号】P 2018195965
(22)【出願日】2018-10-17
【審査請求日】2021-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】上林 彰
(72)【発明者】
【氏名】上田 未紀
(72)【発明者】
【氏名】松田 堅義
(72)【発明者】
【氏名】久保田 純
【審査官】田邊 顕人
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2002/0011986(US,A1)
【文献】特開昭51-123592(JP,A)
【文献】特開平08-330643(JP,A)
【文献】特開2018-107437(JP,A)
【文献】特開2000-332316(JP,A)
【文献】特開平09-186373(JP,A)
【文献】特開昭59-048969(JP,A)
【文献】特開2009-082385(JP,A)
【文献】特開2015-034121(JP,A)
【文献】特開2013-219316(JP,A)
【文献】特開2001-261435(JP,A)
【文献】特開2010-143789(JP,A)
【文献】特開平10-086365(JP,A)
【文献】国際公開第2014/077000(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0167571(US,A1)
【文献】特開2003-282986(JP,A)
【文献】特開平08-047092(JP,A)
【文献】特開平08-047093(JP,A)
【文献】特開平08-047094(JP,A)
【文献】特開平09-205029(JP,A)
【文献】特開昭62-202576(JP,A)
【文献】特開2000-223754(JP,A)
【文献】特開2000-221546(JP,A)
【文献】特開2000-174354(JP,A)
【文献】特開2006-028001(JP,A)
【文献】特開2006-108639(JP,A)
【文献】特開2015-034118(JP,A)
【文献】特開2007-238376(JP,A)
【文献】特開平04-170358(JP,A)
【文献】特開2009-227535(JP,A)
【文献】特開2013-237589(JP,A)
【文献】特開2006-179739(JP,A)
【文献】特開2014-055900(JP,A)
【文献】特開2001-342062(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0188068(US,A1)
【文献】特開2018-133566(JP,A)
【文献】特開2000-124517(JP,A)
【文献】特開2000-307164(JP,A)
【文献】国際公開第2011/004679(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/068394(WO,A1)
【文献】特開2003-128460(JP,A)
【文献】特開2011-068535(JP,A)
【文献】特開平11-180766(JP,A)
【文献】特開2011-181866(JP,A)
【文献】特開平11-060333(JP,A)
【文献】特開2004-300019(JP,A)
【文献】特開2008-239482(JP,A)
【文献】特開2013-253002(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2008-0004903(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0134928(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0134927(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0134926(KR,A)
【文献】国際公開第2005/021461(WO,A1)
【文献】特開2014-187285(JP,A)
【文献】国際公開第2014/157050(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/40
H10N 30/853
H10N 30/88
H10N 30/50
H02M 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の部材、
電極と圧電セラミックスを備えた第一の圧電素子、
電極と圧電セラミックスを備えた第二の圧電素子および第二の部材が順に積層された積層体と、該積層体の前記第一の部材と前記第二の部材を積層方向に互いに締め付ける与圧機構とを少なくとも有する圧電トランスであって、
前記圧電セラミックスは、BaとCaとTiとZrを含む、あるいはNaとNbを含む、ペロブスカイト型金属酸化物より構成され、
前記第一の圧電素子および前記第二の圧電素子の電気機械結合係数k
31が
23%以上26%
以下かつk
33が
53%以上
58%以下であり、
前記第一の圧電素子および前記第二の圧電素子の電気機械結合係数k
31に対する電気機械結合係数k
33の比(k
33/k
31)が
2.1以上
2.3以下であり、
前記第一の圧電素子および前記第二の圧電素子の室温におけるヤング率Y
11
が116GPa以上123GPa以下であり、
前記第一の圧電素子および前記第二の圧電素子の周波数定数N
31
が2210Hz・m以上2610Hz・m以下であり、
前記第一の圧電素子および前記第二の圧電素子に含まれるPb成分が1000ppm未満であることを特徴とする圧電トランス。
【請求項2】
前記圧電セラミックスは、
BaとCaとTiとZrを含む圧電セラミックスであり、
前記Baおよび前記Caの和に対する前記Caのモル比であるxが0.02≦x≦0.30であり、 前記Tiおよび前記Zrの和に対する前記Zrのモル比であるyが0.020≦y≦0.095であり、
かつy≦xであることを特徴とする請求項
1に記載の圧電トランス。
【請求項3】
前記圧電セラミックスは、
さらにMnを含有する圧電材料であって、
前記酸化物100重量部に対する前記Mnの含有量は、金属換算で0.02重量部以上0.40重量部以下であることを特徴とする請求項
1に記載の圧電トランス。
【請求項4】
前記第一の圧電素子と前記第二の圧電素子の間に、第三の部材が積層されている請求項1または2に記載の圧電トランス。
【請求項5】
前記与圧機構が前記積層体を貫通していることを特徴とする、請求項1または2に記載の圧電トランス。
【請求項6】
前記与圧機構が前記積層体に埋め込まれていることを特徴とする、請求項1または2に記載の圧電トランス。
【請求項7】
前記第一の圧電素子および前記第二の圧電素子は各々が偶数枚の板状圧電セラミックスと、複数の電極を積層して成ることを特徴とする、請求項1または2に記載の圧電トランス。
【請求項8】
前記第三の部材は絶縁体であることを特徴とする、請求項
4に記載の圧電トランス。
【請求項9】
請求項1または2に記載の圧電トランスと、該圧電トランスに交番電圧を給電する駆動回路、を備えた電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高い電力の変換効率を持つ圧電トランスに関する。また、本発明は前記圧電トランスを用いた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器内で電圧変換を行い、昇圧や降圧をする電子部品として圧電トランスが知られている。高出力化を目的とした圧電トランスの例として、以下のものが知られている。すなわち分極された圧電セラミックスと複数の電極を積層した圧電素子を入/出力部とし、入力部および出力部を積層して金属円柱で挟み込んだ構成の圧電トランス(棒状複合圧電トランス)が提案されている(特許文献1)。入力部に電気エネルギーを交番電圧として与えると、入力部の圧電セラミックスの逆圧電効果によって電気エネルギーが弾性エネルギーに変換される。この弾性エネルギーは金属円柱を介して出力部の圧電セラミックスに伝達される。そして出力部の圧電セラミックスの正圧電効果によって再び電気エネルギーとなり、出力部から取り出される。すなわち入力部に電圧を印加し、機械振動を介して出力部に生じる電圧を取り出す構成となっている。またこのような圧電トランスの構成においては、前述の弾性エネルギーの伝達方向は圧電素子の33方向に該当する。圧電素子の33方向とは、互いに交差する空間軸を3つ(例えばxyz軸)とりそれぞれ1軸、2軸、3軸とした際に、その分極方向を3軸方向とした際に3軸方向の振動モードのことを意味する。
【0003】
しかしこのような高出力化を目的とした圧電トランス(棒状複合圧電トランス)において、例えば入力部においては弾性エネルギーに寄与する33方向の振動だけでなく31方向の振動も発生する。この31方向の振動により、圧電セラミックスと電極板や金属円柱など周辺部材との界面で発熱し、振動の伝達ロスが生じてしまい電力の変換効率の低下をひきおこす問題があった。また電子機器内の高集積化においては電子部品の小型化が望まれているが、このような圧電トランスの発熱により周辺部品および周辺部材が高温となり悪影響を起こす問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の課題を解決するために成されたものであり、高出力化を目的とした圧電トランス(棒状複合圧電トランス)において、圧電セラミックスと電極板や金属円柱など周辺部材との界面における発熱を抑制するものである。そのことで、入力電力に対する出力電力の変換効率が高い圧電トランスを提供する。
【0006】
また、本発明は前記圧電トランスを用いた電子機器を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明のひとつの圧電トランスは、
第一の部材、電極と圧電セラミックスを備えた第一の圧電素子、電極と圧電セラミックスを備えた第二の圧電素子および第二の部材が順に積層された積層体と、該積層体の前記第一の部材と前記第二の部材を積層方向に互いに締め付ける与圧機構とを少なくとも有する圧電トランスであって、
前記圧電セラミックスは、BaとCaとTiとZrを含む、あるいはNaとNbを含む、ペロブスカイト型金属酸化物より構成され、
前記第一の圧電素子および前記第二の圧電素子の電気機械結合係数k31が23%以上26%以下かつk33が53%以上58%以下であり、
前記第一の圧電素子および前記第二の圧電素子の電気機械結合係数k31に対する電気機械結合係数k33の比(k33/k31)が2.1以上2.3以下であり、
前記第一の圧電素子および前記第二の圧電素子の室温におけるヤング率Y
11
が116GPa以上123GPa以下であり、
前記第一の圧電素子および前記第二の圧電素子の周波数定数N
31
が2210Hz・m以上2610Hz・m以下であり、
前記第一の圧電素子および前記第二の圧電素子に含まれるPb成分が1000ppm未満であることを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る電子機器は、上記の圧電トランスを用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高出力時においても高い電力の変換効率を持つ圧電トランスを提供することができる。また、本発明によれば、前記圧電トランスを用いた高い電力の変換効率を持つ電子機器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の圧電トランスの一実施形態を示す概略図である。
【
図2】本発明の圧電トランスにおける与圧機構の構成の実施の態様を示す模式図である。
【
図3】構造体における機械共振における伸縮振動(1、2、3、4次)の変位量分布と応力分布を表す概略図である。
【
図4】圧電素子の分極方向と振動方向の関係を示す模式図である。
【
図5】本発明の圧電トランスの一実施形態を示す概略図である。
【
図6】本発明の圧電トランスの構成の一実施形態における入出力部と伸縮振動の変位量分布と応力分布の関係を表す概略図である。
【
図7】本発明の実施例における出力電力と入力電力に対する出力電力の変換効率との関係を示す図である。
【
図8】本発明の実施例におけるk
31およびk
33と出力電力と入力電力に対する出力電力の変換効率との関係を示す図である。
【
図9】本発明の圧電トランス装置の構成の一実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための圧電トランスおよびそれを備えた電子機器の実施形態について説明する。
【0013】
(圧電トランスの構成)
図1は本発明の圧電トランスの一実施形態を示す概略図である。
図1(a)に示すように、圧電トランス107は、第一の圧電素子である入力用圧電素子103と第二の圧電素子である出力用圧電素子106を第一の部材109および第二の部材110で挟み込んだ構成を有する。第一の圧電素子および第二の圧電素子は、分極された圧電セラミックスと複数の電極より構成され、圧電セラミックスと電極は部材と同じ方向に積層し、また圧電セラミックスの分極方向は部材の積層方向と同じとする。前記圧電セラミックスには分極処理用の簡易電極が接着されていても良い。また
図1(b)のように、2つの第一の圧電素子103および2つの第二の圧電素子106を、それぞれ同極同士を向い合せに配備し、第一の部材109および第二の部材110で挟み込んだ構成を有する。第一の部材109および第二の部材110の一例として金属円柱が挙げられるが、第一の圧電素子103および第二の圧電素子106を挟み込むことができれば材質や形状は特に限定しない。入力部101の入力端子102に電気エネルギーを交番電圧として与えると、入力用圧電素子103の逆圧電効果によって電気エネルギーが弾性エネルギーに変換される。この弾性エネルギーは出力部104の出力用圧電素子106の正圧電効果によって再び電気エネルギーとなり、出力端子105から取り出される。すなわち入力部101に電圧を印加し、機械振動を介して出力部104に生じる電圧を取り出す構成となっている。
【0014】
また、本発明に係る圧電素子は電極と圧電セラミックスから構成される。電極と圧電セラミックスは接着されていても良いし、重ね合わせた状態でも良い。
【0015】
本発明における圧電トランス107の形状は、例えば外径Rの円柱状でも、外形Rの円柱の中心に内径rのボルトを通す孔を有する形状でもよい。構造体の両端からナットで締めつけて圧力を加える(与圧)ことで、圧電トランスの引っぱり応力に対する圧電素子の破壊耐性が向上し、入力電力を大きくすることでハイパワーでの使用が可能となる。
図2に本発明の圧電トランスにおける与圧機構の構成を示す。
図2(a)は第一の部材および第二の部材の両端からナットで締め付ける与圧機構の一例であり、
図2(b)は
図2(a)の断面図を示す。圧電トランス107の内部にシャフト118を通すために、第一の部材109、第一の圧電素子103、第二の圧電素子106、第二の部材110にはシャフト118の直径よりも大きな穴を設ける必要がある。
【0016】
またシャフト118と圧電セラミックス114と電極116を備えた第一の圧電素子103および、同様の構造の第二の圧電素子106が接触すると、第一の圧電素子103および第二の圧電素子106の振動を阻害する要因となる。そのため、シャフト118と第一の圧電素子103および第二の圧電素子106の間には必ず空間が必要となる。また金属製のシャフト118を用いた場合、第一の圧電素子103および第二の圧電素子106と接触すると短絡してしまう恐れがある。そしてシャフト118には圧電トランスの両端に位置する部分にねじ切り溝を設け、ナットで締めつけることで圧電トランスに圧力を加えることが可能となる。このように与圧手段としては、
図2(c)に模式的に示すように圧電トランス107の中心に準備した貫通孔を利用してボルトやナットなどで締める与圧機構112(斜線部)を設ける方法が好ましい。このとき、素子駆動時に利用する伸縮振動において圧電素子にかかる応力の面内均一性をできるだけ高く保ち、高い出力効率を確保することおよび耐久性向上の観点が重要である。この観点より、締め付けに用いる与圧機構112はボルトの頭やナットの断面形状が圧電トランス107の断面形状と等しい(
図2(d))ことがより好ましい。さらにボルトの頭やナットが与圧機構112に埋め込まれている(
図2(e))、構造とすることで、圧電トランス107が小型化できるためより好ましい。
【0017】
圧電トランスの駆動には伸縮の共振を利用する。圧電トランスの両端を自由端とした構成における1次から4次の伸縮共振時の変位量および応力分布の模式図を
図3に示す。素子の駆動時に利用する伸縮共振時に応力が最大になる位置に入力部および出力部を設置することで、入力電力に対する出力電力の変換効率が高い圧電トランスとすることができる。両端が自由端とした構成を例として述べたが、片側を固定端や両端を固定端となるような構造においても伸縮共振時に応力が最大になる位置に入力部および出力部を設置することで、入力電力に対する出力電力の変換効率が高い圧電トランスとすることができる。
【0018】
圧電トランスの前記伸縮共振時に応力が最大になる位置の見積りには、例えば、有限要素法算出することができる。有限要素法のパッケージソフトの例としては、“ANSYS”(ANSYS Inc.)がある。
【0019】
本発明に係る圧電トランスは一例として
図2に示すようなものである。すなわち、第一の部材、第一の圧電素子、第二の圧電素子および第二の部材が順に積層された積層体と、該積層体の前記第一の部材と前記第二の部材を積層方向に互いに締め付ける与圧機構とを少なくとも有する圧電トランスである。さらには前記第一の圧電素子および前記第二の圧電素子の電気機械結合係数k
31に対する電気機械結合係数k
33の比(k
33/k
31)が2.0以上であることを特徴とする。(k
33/k
31)が2.0以上であることで、圧電セラミックスと電極板や金属円柱など周辺部材との界面における摩擦損失が小さくなり発熱を抑制することができる。すなわち振動エネルギーを効率よく変換し入力電力に対する出力電力の変換効率が高い圧電トランスとすることができる。電気機械結合係数kとは圧電効果の大きさを表す量の一つであり、電気エネルギーを機械的エネルギーに変換する効率を表す。kの値が大きいほどその効果が大きいことを意味し、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)規格EM-4501Aにより算出することができる。また、電気機械結合係数k
31とは
図4(a)に示すように、3軸方向の分極方向に対して1軸方向の振動モードである長辺方向伸び振動の効果を表し、本発明における圧電トランスにおいては、部材の積層方向に対して垂直方向への振動の効果を表す。一方、電気機械結合係数k
33とは
図4(b)に示すように、3軸方向の分極方向に対して3軸方向の振動モードである縦振動の効果を表し、本発明における圧電トランスにおいては、部材の積層方向への振動の効果を表す。
【0020】
また本発明に係る圧電トランスは一例として
図2に示すものである。すなわち、第一の部材、第一の圧電素子、第二の圧電素子および第二の部材が順に積層された積層体と、該積層体の前記第一の部材と前記第二の部材を積層方向に互いに締め付ける与圧機構とを少なくとも有する圧電トランスである。そして、前記第一の圧電素子および前記第二の圧電素子の電気機械結合係数k
31が30%未満かつk
33が50%以上であることを特徴とする。電気機械結合係数k
31が30%未満であることで、圧電セラミックスと電極板や金属円柱など周辺部材との界面における摩擦損失が小さくなり、発熱を抑制することができる。さらにk
33が50%以上であることで入力部および出力部における駆動時に発生する振動エネルギーを大きくすることができ、出力電力を大きくすることが可能となる。このように電気機械結合係数k
31が30%未満かつk
33が50%以上であることで、振動エネルギーを効率よく変換し、高出力かつ入力電力に対する出力電力の変換効率が高い圧電トランスとすることができる。また本発明に係る圧電トランスは一例として
図2に示すものである。すなわち、第一の部材、第一の圧電素子、第二の圧電素子および第二の部材が順に積層された積層体と、該積層体の前記第一の部材と前記第二の部材を積層方向に互いに締め付ける与圧機構とを少なくとも有する圧電トランスである。そして、さらには前記第一の圧電素子および前記第二の圧電素子の電気機械結合係数k
31に対する電気機械結合係数k
33の比(k
33/k
31)が2.0以上である。さらにはk
33/k
31が上述の比をみたし、かつ前記第一の圧電素子および前記第二の圧電素子の電気機械結合係数k
31が30%未満かつk
33が50%以上であることを特徴とする。つまり(k
33/k
31)が2.0以上であり、前記第一の圧電素子および前記第二の圧電素子の電気機械結合係数k
31が30%未満かつk
33が50%以上である。そのことで、圧電セラミックスと電極板や金属円柱など周辺部材との界面における摩擦損失が小さくなり発熱を抑制することができる。また入力部および出力部における駆動時に発生する振動エネルギーを大きくすることができる。したがって、出力電力を大きくすることが可能となる。そして振動エネルギーを効率よく変換し、入力電力に対する出力電力の変換効率が高い圧電トランスとすることができる。
【0021】
このように圧電素子の電気機械結合係数k31に対する電気機械結合係数k33の比(k33/k31)を考慮した圧電素子を用いた圧電トランスは知られていない。
【0022】
前記第一の圧電素子および前記第二の圧電素子の電気機械結合係数k31に対する電気機械結合係数k33の比(k33/k31)は2.2以上がより好ましく、さらに好ましくは2.3以上である。
【0023】
本発明に係る圧電トランスは、第一の圧電素子と第二の圧電素子の間に、第三の部材が積層されていることが好ましい。第一の圧電素子と第二の圧電素子の間に、第三の部材を積層することで、例えば
図3(b)の伸縮モード2次を利用することが可能となる。伸縮モード2次では、入力側の圧電素子と出力側の各々の圧電素子を応力が最大となる位置に設置することができるため、電力の変換効率の良い圧電トランスとすることができる。
【0024】
(与圧機構)
本発明に係る圧電トランスは、与圧機構が積層体を貫通していることが好ましい。
図2に示すように与圧機構が積層体を貫通し、構造体の両端から圧力を加える構造とすることができる。そのように構成することで、与圧機構を含め圧電トランスの構成部品が一体の共振体となることから、振動の損失を低減することができるため、電力の変換効率の良い圧電トランスとすることができる。
【0025】
本発明に係る圧電トランスは、与圧機構が積層体に埋め込まれていることが好ましい。
図2(c)に示すように与圧機構が積層体に埋め込まれていることで、素子駆動時に利用する伸縮振動において圧電素子にかかる応力の面内均一性をできるだけ高く保つことができる。その結果耐久性を向上させ、さらに入力電力に対する出力電力の変換効率が高い圧電トランスとすることができるため好ましい。また、与圧機構積層体に埋め込まれていることで圧電トランスを小型化できるため好ましい。
【0026】
本発明に係る圧電トランスは、前記圧電素子は偶数枚の板状圧電セラミックスと、複数の電極を積層して成ることが好ましい。
図1(a)は入力部および出力部各々の圧電素子が1枚の圧電セラミックスから成っているのに対して、
図1(b)は入力部および出力部各々が2枚の圧電セラミックスから成っている。駆動回路から同じ電圧を給電した時、
図1(a)では1枚の圧電セラミックスによる振動エネルギーの発生に対して、
図1(b)では2枚の圧電セラミックスによる振動エネルギーが発生する。このため、圧電素子を偶数枚の板状圧電セラミックスと複数の電極を積層する構造とすることで、高出力な圧電トランスとすることができる。
【0027】
本発明に係る圧電トランスは、前記第三の部材が絶縁体であることが好ましい。第三の部材が絶縁体であることで、入力側の回路と出力側の回路がそれぞれ絶縁した構造となる。このような絶縁構造では、入力側の電気が直接流れることを防ぎ、出力側につながれた回路を保護することができる。また予期せぬ出力側からの電気の逆流が入力側に伝わることを防ぐことができる。このため第三の部材が絶縁体であることがより好ましい。
【0028】
(圧電素子)
本発明に係る圧電素子の室温におけるヤング率は100GPa以上200GPa以下であることが好ましい。ヤング率と共振周波数には正の相関があるため、ヤング率が大きいと共振周波数は高くなる。一定の共振周波数を持つ素子を作製する場合、ヤング率の大きな圧電素子においては、ヤング率が小さい圧電素子よりも小型化することが可能となる。ヤング率は振動形態の音速と密度の値から算出することができ、密度は例えばアルキメデス法により測定できる。
【0029】
本発明に係る圧電素子に含まれるPb成分は1000ppm未満であることが好ましい。例えば圧電素子が廃却され酸性雨を浴びたり、過酷な環境に放置されたりした際、圧電素子に含まれる圧電セラミックス中の鉛成分が土壌に溶け出し生態系に害を成す可能性が指摘されている。鉛成分が環境に与える影響を考慮すると、本発明の圧電素子は非鉛型であることが好ましく、圧電素子に含まれる鉛成分が1000ppm未満であると、鉛成分の溶出による影響を低減できるので、非鉛型の圧電素子と言える。鉛の含有量は、例えば蛍光X線分析(XRF)、ICP発光分光分析により定量された圧電セラミックスの総重量に対する鉛の含有量によって評価することができる。
【0030】
(圧電セラミックス)
本明細書において、「セラミックス」とは、基本成分が金属酸化物であり、熱処理によって焼き固められた結晶粒の凝集体(バルク体とも言う)を表す。焼結後に加工されたものも含まれる。ただし、粉末や粉末を分散させたスラリーは、この用語に含まれない。
【0031】
本発明に係る圧電セラミックスは、ペロブスカイト型金属酸化物より構成されることが好ましい。ペロブスカイト型金属酸化物は圧電特性が優れているため、高出力な圧電トランスとすることができる。
【0032】
ペロブスカイト型金属酸化物とは一般的にABO3の化学式で表現される。ペロブスカイト型金属酸化物において、元素A、Bは各々イオンの形でAサイト、Bサイトと呼ばれる単位格子の特定の位置を占める。例えば、立方晶系の単位格子であれば、A元素は立方体の頂点、B元素は体心に位置する。O元素は酸素の陰イオンとして立方体の面心位置を占める。単位格子が、立方晶単位格子の[001]、[011]、または[111]方向に歪むことにより、それぞれ、正方晶、斜方晶、菱面体晶のペロブスカイト型構造の結晶格子となる。
【0033】
本発明においてABO3の化学式で表現されるAサイトを示すA(mol)とBサイトを示すB(mol)モルの比(A/B)はaを用いてあらわす。aが1以外の値だとしても前記金属酸化物がペロブスカイト構造を主相としていれば、本発明の範囲に含まれる。
【0034】
また、ABO3の化学式においてBサイトの元素とO元素のモル比は1対3であるが、元素量の比が若干、例えば1%以内でずれた場合でも、前記金属酸化物がペロブスカイト構造を主相としていれば、本発明の範囲に含まれる。
【0035】
前記金属酸化物がペロブスカイト構造であることは、例えば、圧電セラミックスに対するX線回折や電子線回折から判断することができる。ペロブスカイト構造が主たる結晶相であれば、圧電セラミックスがその他の結晶相を副次的に含んでいても良い。
【0036】
本発明に係る圧電セラミックスを構成する化合物種は特に限定されず、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)やチタン酸バリウム、チタン酸バリウムカルシウム、チタン酸ビスマスナトリウム、チタン酸鉛、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウムナトリウム、鉄酸ビスマスや、これらを主成分とした金属酸化物を用いることが出来る。鉛成分が環境に与える影響を考慮すると、本発明の圧電セラミックスは非鉛型の金属酸化物であることがより望ましい。圧電セラミックスに含まれる鉛成分が1000ppm未満であると、鉛成分の溶出による影響を低減できるので、非鉛型の圧電セラミックスと言える。
【0037】
(圧電セラミックスの組成)
本発明に係る圧電セラミックスはBaとTiを含むことが好ましい。例えばBaとTiを含むペロブスカイト型金属酸化物の一例としてチタン酸バリウムがある。チタン酸バリウムを主成分とする圧電セラミックスは圧電定数dの絶対値が大きい。従って、同じ歪量を得るために必要な電圧を小さくすることができるため、電力の変換効率の良い圧電トランスとすることができる。
【0038】
圧電セラミックスの圧電定数は、当該セラミックスの密度ならびに共振周波数および反共振周波数の測定結果から、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)規格EM-4501Aに基づいて、計算により求めることができる。共振周波数および反共振周波数は、例えば、該セラミックスに一対の電極を設けた後に、インピーダンスアナライザを用いて測定できる。
【0039】
本発明に係る圧電セラミックスはさらにCaとZrを含むことが好ましい。Caを含有することにより、温度下降時の正方晶から斜方晶への相転移温度(以後Tto)や、温度上昇時の斜方晶から正方晶への相転移温度(以後Tot)が低下する。またZrを含有することにより、TtoやTotの温度が上昇する。さらに正方晶から立方晶への相転移温度であるキュリー温度(以後Tc)が低下し誘電率が上昇することから圧電定数dの絶対値が大きくなる。このように、CaとZrを含むことにより動作温度範囲における相転移温度の影響を低減させることで圧電特性の温度安定性を向上させ、電力の変換効率の良い圧電トランスとすることができる。
【0040】
キュリー温度Tcとは、一般的にその温度以上で圧電材料の圧電性が消失する温度であり、本明細書においては、強誘電相(正方晶相)と常誘電相(立方晶相)の相転移温度近傍で誘電率が極大となる温度をTcとする。チタン酸バリウムを主成分とする金属酸化物からなる圧電材料のTcはだいたい100℃~130℃くらいである。
【0041】
本発明に係る圧電セラミックスは、以下の組成比の圧電セラミクスであるとより好ましい。すなわち、BaおよびCaの和に対するCaのモル比であるxが0.02≦x≦0.30であり、TiおよびZrの和に対するZrのモル比であるyが0.020≦y≦0.095であり、かつy≦xである。xの値が0.02以上とすることで、圧電定数の温度依存性が小さくなることから、より好ましい。一方、xが0.30よりも小さいほうが、Caの固溶が促進され、焼成温度を下げることができる。さらにTi、およびZrの含有量の和に対するZrのモル比であるyの値が0.020≦y≦0.095であることがより好ましい。yの値を0.02以上とすることで、動作温度範囲(例えば-30℃~60℃)の圧電定数が大きくなる。一方、yを0.095以下とすることで、TCが例えば100℃以上と高くなり、高温下で使用する際の脱分極がより抑制されることから、圧電デバイスの動作保証温度範囲がより広くなるとともに、圧電定数の経時劣化が小さくなる。
【0042】
このように、0.02≦x≦0.30および0.020≦y≦0.095であり、かつy≦xとすることで圧電定数の温度依存性が小さく、かつ圧電定数が大きく電力の変換効率の良い圧電トランスとすることができる。
【0043】
本発明に係る圧電セラミックスはさらにMnを含有する圧電材料であって、前記酸化物100重量部に対する前記Mnの含有量は、金属換算で0.02重量部以上0.40重量部以下であることが好ましい。
【0044】
Mnの含有量が、金属換算で0.02重量部以上0.40重量部以下の範囲にあることで、室温におけるQmの値を大きくすることができるためより好ましい。一般に、Qmは圧電材料を振動子として評価した際の振動による弾性損失を表す係数であり、Qmの大きさはインピーダンス測定における共振曲線の鋭さとして観察される。つまり、Qmは振動子の共振の鋭さを表す定数である。Qmが高いと振動で失われるエネルギーは少ない。Qmが向上することで、圧電材料を圧電素子として電圧を印加して駆動させた際に損失が少なく、効率の良い圧電素子とすることができる。Qmは一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)規格EM-4501Aに従って測定可能である。
【0045】
Mnは2価から4価の間で、価数変動する性質があり、圧電セラミックス中の電荷バランスの欠陥を補償する役割を果たす。Mnの含有量を0.02重量部以上とすることで、圧電セラミックスの結晶格子中の酸素空孔濃度が増大し、非180度ドメインのドメインスイッチングによって結晶粒子間に発生する残留応力が小さくなるため、Qmの値がより増大すると考えられる。一方で、Mnの含有量値を0.40重量部以下することで、Mnの固溶を促進し、絶縁抵抗をより高くすることができる。絶縁性が向上すると、圧電材料を圧電素子として電圧を印加して駆動させた際の圧電素子の長期信頼性が確保できるため好ましい。
【0046】
Mnは金属Mnに限らず、Mn成分として圧電セラミックスに含まれていれば良く、その含有の形態は問わない。例えば、Bサイトに固溶していても良いし、粒界に含まれていてもかまわない。または、金属、イオン、酸化物、金属塩、錯体などの形態でMn成分が圧電セラミックスに含まれていても良い。より好ましくは、絶縁性や焼結容易性という観点からMnは存在することが好ましい。Mnの価数は一般に4+、2+、3+を取ることができるが、Mnの価数が4+よりも低い場合、Mnはアクセプタとなる。アクセプタとしてMnがペロブスカイト構造結晶中に存在すると、結晶中に酸素空孔が形成される。酸素空孔は欠陥双極子を形成すると、圧電セラミックスのQmを向上させることができる。Mnが4+よりも低い価数で存在するためには、Aサイトに3価の元素が存在することが好ましい。好ましい3価の元素はBiである。他方、Mnの価数は、磁化率の温度依存性の測定によって評価できる。
【0047】
本発明に係る圧電セラミックスはNaとNbを含むことが好ましい。NaとNbを含む圧電セラミックスの一例としてニオブ酸ナトリウム(NaNbO3)とチタン酸バリウム(BaTiO3)の固溶体(以下「NN-BT」という)がある。NN-BTは、難焼結性や低耐湿性の原因となるカリウムを実質的に含まないため、圧電特性が経時的に変化することがほとんどないという利点がある。また、NN-BTを圧電トランスに使用した際、圧電トランスの使用温度範囲(例えば0℃から80℃まで)に結晶構造の相転移を引き起こす点(温度)が存在しないため、使用温度によって性能が著しく変動することがほとんどないという利点もある。
【0048】
(電子機器)
本発明の圧電トランス装置は、
図9(a)、(b)に示すように外装部113を設けて電子機器に組み込み、入力用駆動回路および出力用回路(外部負荷)と接続して用いることも好ましい。高出力で高い変換効率が可能なため、従来の圧電トランスよりも小型化することにより電子機器の小型化が可能となる。
【0049】
(実施例)
以下に実施例を挙げて本発明の圧電トランスを具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0050】
(圧電セラミックス)
圧電セラミックスとして分極された2種類のPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)、2種類のNN-BT(ニオブ酸ナトリウムと少量のチタン酸バリウムの固溶体)および1種類のBCTZ-Mn(Ca、ZrおよびMnを添加したチタン酸バリウム)を用意した。2種類のPZTは、PZT_1およびPZT_2とした、また2種類のNN-BTはNN-BT_1およびNN-BT_2とした。そしてアルキメデス法により密度の測定を行った。なお、GDMS(グロー放電質量分析)を用いた半定量分析により2種類のNN-BTおよびBCTZ-Mnの圧電セラミックスに含まれる不純物元素を測定したところ、圧電セラミックスに含まれるPbは50ppm未満であった。
【0051】
圧電セラミックスの圧電基本特性として、電気機械結合係数k31、電気機械結合係数k33、および電気機械結合係数k33の比(k33/k31)、周波数定数N31およびヤング率Y11を評価した。圧電基本特性を評価するために圧電セラミックスの表裏両面にDCスパッタリング法で厚さ400nmの金(Au)電極を形成した。なお、電極と圧電セラミックスの間には、密着層として30nm厚のチタン(Ti)を成膜した。その後一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)規格EM-4501Aに基づき、長さ0.9mm×幅0.9mm×厚さ4.9mmの角柱形状に加工して電気機械結合係数k33の測定を行った。また同規格に基づき、長さ10mm×幅2.5mm×厚さ0.5mmの矩形板状に加工して電気機械結合係数k31の測定およびインピーダンスアナライザによる共振周波数の測定を行った。密度の測定結果および共振周波数の測定結果より、周波数定数N31およびヤング率Y11を算出した。これらの圧電セラミックスの圧電基本特性を表1に示す。
【0052】
【0053】
(圧電トランスの作製)
(構造1)
構造1として、
図5(a)に示すように、入力部101と出力部104を積層した圧電トランス107とした。入力部101は第一の部材109、第一の圧電素子(入力用圧電素子)103および入力端子102からなり、入力端子102は第一の圧電素子103を構成する電極とつながっている。また出力部104は第二の部材110、第二の圧電素子(出力用圧電素子)106および出力端子105からなり、出力端子105は第二の圧電素子106を構成する電極とつながっている。第一の部材および第二の部材はSUSを用いた。第一の圧電素子103および第二の圧電素子は、分極処理用の簡易電極が接着された2枚の圧電セラミックスと3枚の電極として厚さ0.2mmの銅板(不図示)を積層した構成とした。また入力部と出力部の間の電極は共通とし、銅板を合計5枚使用した。圧電トランス107を構成する、第一の部材は直径13mm・長さ29.7mm、第一の圧電素子103および第二の圧電素子106を構成する圧電セラミックスは直径13mm・長さ2.5mm、第二の部材110は直径13mm・長さ24.3mmとし、全長65mmとした。また圧電トランス107の構造体に両端から圧力を加える与圧機構を設けるために、圧電トランス107を構成する各部品には内径6mmの貫通穴を設けた。そして貫通穴にSUS製のシャフトを通し、両端部をナットで固定し圧電トランスを10N・mのトルクで締めつけた。
【0054】
本構成における1次の伸縮振動時の変位量と入力部101と出力部104の関係を模式的に
図6(a)に示す。圧電トランスの両端を自由端とした構成として入力部101を構成する第一の圧電素子103の中心位置が1次の伸縮振動の変位量の絶対値が0になる、つまり応力が一番大きくなる位置とした。
【0055】
(構造2)
構造2として、
図5(b)に示すように、入力部101と第三の部材111と出力部104を積層した圧電トランス107とした。入力部101は第一の部材109、第一の圧電素子(入力用圧電素子)103および入力端子102からなり、入力端子102は第一の圧電素子103を構成する電極とつながっている。第一の部材、第二の部材および第三の部材はSUSを用いた。また出力部104は第二の部材110、第二の圧電素子(出力用圧電素子)106および出力端子105からなり、出力端子105は第二の圧電素子106を構成する電極とつながっている。第一の圧電素子103および第二の圧電素子は、2枚の圧電セラミックスと3枚の電極として厚さ0.2mmの銅板(不図示)を積層した構成とし、銅板を合計6枚使用した。圧電トランス107を構成する、第一の部材は直径15mm・長さ3.5mm、第一の圧電素子103および第二の圧電素子106を構成する圧電セラミックスは直径15mm・長さ1.5mm、第二の部材110は直径15mm・長さ3.5mm、第三の部材は直径15mm・長さ7mmとし、全長21mmとした。また圧電トランス107の構造体に両端から圧力を加える与圧機構を設けるために、圧電トランス107を構成する各部品には内径6mmの貫通穴を設けた。
【0056】
本構成における2次の伸縮振動時の変位量と入力部101と出力部104の関係を模式的に
図6(b)に示す。圧電トランスの両端を自由端とした構成として入力部101を構成する第一の圧電素子103の中心位置および出力部104を構成する第二の圧電素子106の中心位置が2次の伸縮振動の変位量の絶対値が0になる、つまり応力が一番大きくなる位置とした。
【0057】
表1に示す圧電セラミックスを用いて、表2に示すように実施例1から実施例5および比較例1の圧電トランスを作製した。
【0058】
【0059】
(圧電トランスの特性評価)
圧電トランスの特性評価として、
図5に示す入力端子102に交流電圧を印加し、出力端子105より出力される電力を測定した。入力端子における電圧値と電流値より入力電力を算出し、出力端子における電圧値と出力端子に接続した負荷抵抗(不図示)より出力電力を算出し、入力電力に対する出力電力の割合から圧電トランスの変換効率を算出した。
【0060】
比較例1および実施例1~実施例4における圧電トランスの特性評価結果を
図7および
図8に示す。
図7は圧電トランスの各出力電力における入力電力に対する出力電力の変換効率を表している。また
図8(a)は圧電トランスの出力電力10Wの時の入力電力に対する出力電力の変換効率、
図8(b)および
図8(c)は圧電トランスの出力電力30Wの時の入力電力に対する出力電力の変換効率を表している。
【0061】
図7および
図8(a)の結果で示されるように、圧電セラミックスの電気機械結合係数k
33の比(k
33/k
31)が1.8の比較例1に対して、実施例1から4の方が以下の点で有利である。すなわち、圧電セラミックスの電気機械結合係数k
33の比(k
33/k
31)が2.0以上である実施例1から4の方が圧電トランスの入力電力に対する出力電力の変換効率が高い。
【0062】
実施例1と実施例2から実施例4を比較すると、実施例2から実施例4では圧電セラミックスの電気機械結合係数k
31が30%未満かつk
33が50%以上を満たしている。そのため、
図8(b)および
図8(c)に示されるように、実施例1よりも30W以上の高出力電力においても入力電力に対する出力電力の変換効率が高い。
【0063】
実施例2から実施例4を比較すると、
図8(a)に示されるように圧電セラミックスの電気機械結合係数k
33の比(k
33/k
31)が大きい順に入力電力に対する出力電力の変換効率が高く、実施例3よりも実施例4が、実施例4よりも実施例2が高い。
【0064】
また構造2である実施例5の電力変換効率は、出力電力10Wの時89%、30Wの時85%、50Wの時82%であった。実施例2と実施例5を比較すると、実施例5では入力部と出力部の間に第三の部材がある。実施例2では第一の圧電素子(入力用圧電素子)の中心を応力が一番大きくなる位置とした。他方、実施例5では第一の圧電素子(入力用圧電素子)および第二の圧電素子(出力用圧電素子)の各々の中心を応力が一番大きくなる位置としたことで、高い変換効率を示した。
【0065】
次に実施例5の圧電トランスの構成において、第一の部材および第二の部材であるSUSに
図2(e)で示すように凹部を設けナットを埋め込んだ形状の圧電トランスを作製した。また伸縮共振時に応力が最大になる位置に入力部および出力部を設置した。そして実施例1~5のように圧電トランスの特性を評価したところ、実施例5と同等の入力電力に対する出力電力の変換効率を確認した。与圧機構が第一の部材および第二の部材に埋め込まれている構造とすることで、圧電トランスを小型化することができた。
【0066】
今回の構造2では、第三の部材としてSUSを用いたが、金属だけでなく絶縁体を用いることも可能である。第三の部材が絶縁体であることで、入力側の回路と出力側の回路がそれぞれ絶縁した構造となる。このような絶縁構造では、入力側の電気が直接流れることを防ぎ、出力側につながれた回路を保護することができる。また予期せぬ出力側からの電気の逆流が入力側に伝わることを防ぐことができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の圧電トランスを用いることで、圧電セラミックスと電極板や金属円柱など周辺部材との界面における発熱を抑制し、高い電力の変換効率を示すことができる。本発明の圧電トランスは、圧電トランスを用いた電子機器においても利用することができる。
【符号の説明】
【0068】
101 入力部
102 入力端子
103 入力用圧電素子
104 出力部
105 出力端子
106 出力用圧電素子
107 圧電トランス
109 第一の部材
110 第二の部材
111 第三の部材
112 与圧機構
113 外装部
114 圧電セラミックス(第一の圧電素子用)
115 圧電セラミックス(第二の圧電素子用)
116 電極
117 ナット
118 シャフト