(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】搬送装置および物品の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 41/03 20060101AFI20231221BHJP
H02K 41/02 20060101ALI20231221BHJP
B65G 54/02 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
H02K41/03 A
H02K41/02 C
B65G54/02
(21)【出願番号】P 2019202780
(22)【出願日】2019-11-07
【審査請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】P 2018230243
(32)【優先日】2018-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】山本 武
【審査官】保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-095414(JP,A)
【文献】特開2012-039680(JP,A)
【文献】特開2004-187401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G54/00-54/02
H02K41/00-41/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の方向に沿って配置された
3個ずつの単位で電流制御される複数のコイル
からなるコイルユニットと、
前記複数のコイルに沿って移動する可動子と、を有し、
前記コイル
ユニットは、両隣のコイル
ユニットとの間の間隔が所定の間隔で配置された
第1コイル
ユニットと、両隣のコイルとの間の間隔の一方が前記所定の間隔より広い間隔で配置された
第2コイル
ユニットを
含み、
前記可動子が前記
第2コイルユニットと対向する領域を通過する際の前記
第2コイルユニットと前記可動子との間の距離は、前記可動子が
前記第1コイルユニットと対向する領域を通過する際の前記
第1コイルユニットと前記可動子との間の距離に比べて、
小さいことを特徴とする搬送装置。
【請求項2】
前記第1の方向において、前記
第2コイルユニットの間には、強磁性体あるいは
鉄の部材が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の搬送装置。
【請求項3】
前記可動子が前記強磁性体あるいは
鉄の部材と対向する領域を通過する際の前記強磁性体あるいは鉄の部材と前記可動子との間の距離は
前記可動子が前記第1コイルユニットと対向する領域を通過する際の前記第1コイルユニットと前記可動子との間の距離に比べて、小さいことを特徴とする請求項2に記載の搬送装置。
【請求項4】
前記可動子が
前記第2コイルユニットと対向する領域を通過する
際の
前記第2コイルユニットと前記可動子との間の距離は、前記所定の間隔と前記広い間隔の差の3%以上15%以下
であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項5】
前記
第1コイルユニットのコイルのコアは、
前記第2コイルユニットのコイルのコアより小さいことを特徴とする請求項1乃至
4のいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項6】
第1の方向に沿って配置された
3個ずつの単位で電流制御される複数のコイル
からなるコイルユニットと、
前記複数のコイルに沿って移動する可動子と、を有し、
前記
コイルユニットは、両隣のコイル
ユニットとの間の間隔が所定の間隔で配置された
第1コイル
ユニットと、両隣のコイルとの間の間隔の一方が前記所定の間隔より広い間隔で配置された
第2コイル
ユニットを
含み、
前記
第1コイルユニットのコイルのコアは、前記
第2コイルユニットのコイルのコアより小さいことを特徴とする搬送装置。
【請求項7】
前記第1の方向において、前記
第2コイルユニットの間には強磁性体あるいは
鉄の部材が配置されていることを特徴とする請求項
6に記載の搬送装置。
【請求項8】
第1の方向に沿って配置された
3個ずつの単位で電流制御される複数のコイル
からなるコイルユニットと、
前記複数のコイルに沿って移動する可動子と、を有し、
前記
コイルユニットは、両隣のコイルとの間の間隔が所定の間隔で配置された
第1コイル
ユニットと、両隣のコイルとの間の間隔の一方が前記所定の間隔より広い間隔で配置された
第2コイル
ユニットを
含み、
前記第1の方向において、前記
第2コイルユニットの間には、強磁性体あるいは
鉄が配置されていることを特徴とする搬送装置。
【請求項9】
前記可動子が前記強磁性体あるいは鉄の部材と対向する領域を通過する際の前記強磁性体あるいは鉄の部材と前記可動子との間の距離は、前記可動子が前記第1コイルユニットと対向する領域を通過する際の前記第1コイルユニットと前記可動子との間の距離に比べて、小さいことを特徴とする請求項8に記載の搬送装置。
【請求項10】
第1の方向に沿って配置された3個ずつの単位で電流制御される複数のコイルからなるコイルユニットを有するコイルボックスと、
前記複数のコイルに沿って移動する可動子と、を有し、
前記コイルボックスは、両隣のコイルユニットとの間の間隔が所定の間隔で配置された第1コイルボックスと、両隣のコイルとの間の間隔の一方が前記所定の間隔より広い間隔で配置された第2コイルボックスを含み、
前記可動子が前記第2コイルボックスと対向する領域を通過する際の前記第2コイルボックスと前記可動子との間の距離は、前記可動子が前記第1コイルボックスと対向する領域を通過する際の前記第1コイルボックスと前記可動子との間の距離に比べて、小さいことを特徴とする搬送装置。
【請求項11】
第1の方向に沿って配置された
3個ずつの単位で電流制御される複数のコイルからなるコイルユニットを有するコイルボックスと、
前記複数のコイルに沿って移動する可動子と、を有し、
前記コイルボックスは、両隣のコイルボックスとの間の間隔が所定の間隔で配置された
第1コイルボックスと、両隣のコイルボックスとの間の間隔の一方が前記所定の間隔より広い間隔で配置された
第2コイルボックスを
含み、
前記第1の方向において、前記第2コイルボックス
の間には、強磁性体あるいは
鉄の部材が配置されていることを特徴とする搬送装置。
【請求項12】
前記可動子が前記強磁性体あるいは鉄の部材と対向する領域を通過する際の前記強磁性体あるいは鉄の部材と前記可動子との間の距離は、前記可動子が前記第1コイルボックスと対向する領域を通過する際の前記第1コイルボックスと前記可動子との間の距離に比べて、小さいことを特徴とする請求項11に記載の搬送装置。
【請求項13】
前記可動子は、第1の方向に沿って配置された第1の磁石群と、前記第1の方向と交差する第2の方向に沿って配置された第2の磁石群とを有することを特徴とする請求項1乃至12のいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項14】
前記第1の磁石群及び前記第2の磁石群は、前記可動子の上面に配置されている
ことを特徴とする請求項13に記載の搬送装置。
【請求項15】
前記強磁性体あるいは鉄の部材が、ゲートバルブに配置されていることを特徴とする請求項2、7乃至9、11及び12のいずれか1項に記載の搬送装置。
【請求項16】
請求項1乃至
15のいずれか1項に記載の搬送装置により搬送されたワークに加工を行ない、物品を製造することを特徴とする物品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、搬送装置および物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、工業製品を組み立てるための生産ラインや半導体露光装置等では、搬送システムが用いられている。特に、生産ラインにおける搬送システムは、ファクトリーオートメーション化された生産ライン内又は生産ラインの間の複数のステーションの間で、部品等のワークを搬送する。また、プロセス装置中の搬送装置として使われる場合もある。搬送システムとしては、可動磁石型リニアモータによる搬送システムが既に提案されている。
【0003】
可動磁石型リニアモータによる搬送システムでは、リニアガイド等の機械的な接触を伴う案内装置を使って搬送システムを構成する。しかしながら、リニアガイド等の案内装置を使った搬送システムでは、リニアガイドの摺動部から発生する汚染物質、例えば、レールやベアリングの摩耗片や潤滑油、あるいはそれが揮発したもの等が生産性を悪化させるという問題があった。また、高速搬送時には摺動部の摩擦が大きくなってリニアガイドの寿命を小さくするという問題があった。
【0004】
そこで、特許文献1には、搬送トレイを非接触で搬送可能な磁気浮上搬送装置が記載されている。文献1で記載されているような磁気浮上搬送装置は、搬送トレイの搬送方向に沿って、チャンバの上部には浮上用電磁石を、チャンバの側面には固定子コイルを一定間隔で並べることで安定して非接触での搬送を実現させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、生産ライン内又は生産ラインの間の複数のステーションの間でワーク等の可動子を搬送する場合、どうしても電磁石やコイルを配置することができない場所がある。例えば、真空チャンバにおいては、メンテナンス、雰囲気制御を行なう目的のために途中にゲートバルブを設けて仕切る必要がある。このような場合、一定間隔で電磁石やコイルを配置することができない。そのため、吸引力の変化により搬送中の部品やワークが傾いてしまったり、落下してしまったりする可能性がある。
【0007】
本発明は、可動子を安定してスムーズに非接触で搬送することができる搬送装置および物品の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の搬送装置は、第1の方向に沿って配置された3個ずつの単位で電流制御される複数のコイルからなるコイルユニットと、前記複数のコイルに沿って移動する可動子と、を有し、前記コイルユニットは、両隣のコイルユニットとの間の間隔が所定の間隔で配置された第1コイルユニットと、両隣のコイルとの間の間隔の一方が前記所定の間隔より広い間隔で配置された第2コイルユニットを含み、前記可動子が前記第2コイルユニットと対向する領域を通過する際の前記第2コイルユニットと前記可動子との間の距離は、前記可動子が前記第1コイルユニットと対向する領域を通過する際の前記第1コイルユニットと前記可動子との間の距離に比べて、小さいことを特徴とする。
【0009】
本発明の搬送装置は、第1の方向に沿って配置された3個ずつの単位で電流制御される複数のコイルからなるコイルユニットを有するコイルボックスと、前記複数のコイルに沿って移動する可動子と、を有し、前記コイルボックスは、両隣のコイルボックスとの間の間隔が所定の間隔で配置された第1コイルボックスと、両隣のコイルボックスとの間の間隔の一方が前記所定の間隔より広い間隔で配置された第2コイルボックスを含み、前記第1の方向において、前記第2コイルボックスの間には、強磁性体あるいは鉄が配置されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の物品の製造方法は、上記の搬送装置により搬送されたワークに加工を行ない、物品を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、可動子を安定してスムーズに非接触で搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】本発明の第1実施形態を示す概略図である。
【
図1B】本発明の第1実施形態を示す概略図である。
【
図6】本発明の第1実施形態を説明する概略図である。
【
図7】本発明の第1実施形態を説明する概略図である。
【
図8A】本発明の第1実施形態を説明する概略図である。
【
図8B】本発明の第1実施形態を説明する概略図である。
【
図9】本発明の第1実施形態を説明する概略図である。
【
図10】本発明の第1実施形態を説明する概略図である。
【
図11】本発明の第1実施形態を説明する概略図である。
【
図12】本発明の第2実施形態を説明する概略図である。
【
図13】本発明の第3実施形態を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[第1実施形態]
以下、図面を参照して本発明の第1実施形態について
図1A乃至
図9を用いて説明する。
【0014】
図1A及び
図1Bは、本実施形態による可動子101及び固定子201a、201bを含む搬送システムの全体構成を示す概略図である。なお、
図1A及び
図1Bは、可動子101及び固定子201a、201bの主要部分を抜き出して示したものである。また、
図1Aは可動子101を後述のY方向から見た図、
図1Bは可動子101を後述のZ方向から見た図である。
図1Aは、固定子201aと固定子201bの間に例えばバルブゲートなどの構造物(100)が存在している場所を示している。つまり、生産ライン内又は生産ラインの間の複数のステーションの間で、連続して電磁石やコイルを配置することができない場所を示している。本実施形態においては、構造物を挟んで2つの固定子を配置する場合を記載したが、これに限らず、固定子が1つであってコイルとコイルの間にスペース(隙間)がある場合であってもよい。本実施形態は、連続して電磁石やコイルを配置することができない場所に隣接するコイルの位置(コアの位置)を、その他のコイル(コア)よりも低い位置(可動子と近接する位置)に配置することで、可動子の傾きや落下を抑制するものである。本実施形態においては、特に区別する必要がない限り、固定子を単に「固定子201」と表記する。各固定子201個別に特定する必要がある場合、「固定子201a」、「固定子201b」と表記して各固定子201を個別に特定する。
【0015】
まず、本実施形態による搬送装置を有する搬送システムの全体構成について
図1A及び
図1Bを用いて説明する。
【0016】
図1A及び
図1Bに示すように、本実施形態による搬送装置を有する搬送システム1は、台車、スライダ又はキャリッジを構成する可動子101と、搬送路を構成する固定子201とを有している。搬送システム1は、可動磁石型リニアモータ(ムービング永久磁石型リニアモータ、可動界磁型リニアモータ)による搬送システムである。さらに、搬送システム1は、リニアガイド等の案内装置を持たず、固定子201上において非接触で可動子101を搬送する磁気浮上型の搬送システムとして構成されている。
【0017】
搬送システム1は、例えば、固定子201により可動子101を搬送することにより、可動子101上のワーク102を、ワーク102に対して加工作業を施す工程装置に搬送する。ワークに加工作業を施すことにより、高精度な物品を製造することができる。なお、
図1A及び
図1Bでは、固定子201に対して1台の可動子101を示しているが、これに限定されるものではない。搬送システム1においては、複数台の可動子10が固定子201上を搬送されうる。
【0018】
ここで、以下の説明において用いる座標軸、方向等を定義する。まず、可動子101の搬送方向である水平方向に沿ってX軸をとり、可動子101の搬送方向をX方向とする。また、X方向と直交する方向である鉛直方向に沿ってZ軸をとり、鉛直方向をZ方向とする。また、X方向及びZ方向に直交する方向に沿ってY軸をとり、X方向及びZ方向に直交する方向をY方向とする。さらに、X軸周りの回転をWx、Y軸、Z軸周りの回転を各々Wy,Wzとする。また、乗算の記号として“*”を使用する。また、可動子101の中心を原点Oとし、Y+側をR側、Y-側をL側として記載する。なお、可動子101の搬送方向は必ずしも水平方向である必要はないが、その場合も搬送方向をX方向として同様にY方向及びZ方向を定めることができる。
【0019】
次に、本実施形態による搬送システム1おける搬送対象である可動子101について
図1A、
図1B及び
図2を用いて説明する。
図2は、本実施形態による搬送システム1における可動子101及び固定子201を示す概略図である。なお、
図2は、可動子101及び固定子201をX方向から見た図である。また、
図2の左半分は、
図1Bの(A)-(A)線に沿った断面(A)を示している。また、
図2の右半分は、
図1Bの(B)-(B)線に沿った断面(B)を示している。
【0020】
図1A、
図1B及び
図2に示すように、可動子101は、永久磁石103として、永久磁石103aR、103bR、103cR、103dR、103aL、103bL、103cL、103dLを有している。
【0021】
永久磁石103は、可動子101のX方向に沿った上面のL側R側端部に2列配置されて取り付けられている。具体的には、可動子101の上面のR側に、永久磁石103aR、103bR、103cR、103dRが取り付けられている。また、可動子101の上面のL側に、永久磁石103aL、103bL、103cL、103dLが取り付けられている。なお、以下では、特に区別する必要がない限り、可動子101の永久磁石を単に「永久磁石103」と表記する。また、R側とL側とを区別する必要まではないが、各永久磁石103を個別に特定する必要がある場合、各永久磁石103に対する符号の末尾からR又はLを除いた識別子としての小文字のアルファベットまでの符号を用いて各永久磁石103を個別に特定する。この場合、「永久磁石103a」、「永久磁石103b」、「永久磁石103c」又は「永久磁石103d」と表記して、各永久磁石103を個別に特定する。
【0022】
永久磁石103aR、103dRは、可動子101のX方向に沿った上面のR側におけるX方向の一方の端部及び他方の端部に取り付けられている。永久磁石103bR、103cRは、可動子101の上面のR側の永久磁石103aR、103dR間に取り付けられている。永久磁石103aR、103bR、103cR、103dRは、例えば、X方向に等ピッチに配置されている。また、永久磁石103aR、103bR、103cR、103dRは、それぞれの中心が、例えば可動子101の上面の中心からR側に所定距離rx3離れたX方向に沿った直線上に並ぶように配置されている。
【0023】
永久磁石103aL、103dLは、可動子101のX方向に沿った上面のL側におけるX方向の一方の端部及び他方の端部に取り付けられている。永久磁石103bL、103cLは、可動子101の上面のL側の永久磁石103aL、103dL間に取り付けられている。永久磁石103aL、103bL、103cL、103dLは、例えば、X方向に等ピッチに配置されている。また、永久磁石103aL、103bL、103cL、103dLは、それぞれの中心が、例えば可動子101の上面の中心からL側に所定距離rx3離れたX方向に沿った直線上に並ぶように配置されている。さらに、永久磁石103aL、103bL、103cL、103dLは、X方向においてそれぞれ永久磁石103aR、103bR、103cR、103dRと同位置に配置されている。
【0024】
永久磁石103a、103dは、それぞれ可動子101の中心である原点OからX方向の一方及び他方の側に距離rz3だけ離れた位置に取り付けられている。永久磁石103a、103b、103c、103dは、それぞれ原点OからY方向に距離rx3だけ離れた位置に取り付けられている。永久磁石103c、103bは、それぞれ原点OからX方向の一方及び他方の側に距離ry3だけ離れた位置に取り付けられている。
【0025】
永久磁石103aR、103dR、103aL、103dLは、それぞれY方向に沿って配置された2個の永久磁石のセットである。永久磁石103a、103dは、それぞれ、固定子201側を向く外側の磁極の極性が交互に異なるように2個の永久磁石がY方向に沿って並べられて構成されたものである。なお、永久磁石103a、103dを構成するY方向に沿って配置された永久磁石の数は、2個に限定されるものではなく、複数個であればよい。また、永久磁石103a、103dを構成する永久磁石が配置される方向は、必ずしも搬送方向であるX方向と直交するY方向である必要はなく、X方向と交差する方向であればよい。すなわち、永久磁石103a、103dは、それぞれ磁極の極性が交互になるようにX方向と交差する方向に沿って配置された複数の永久磁石からなる磁石群であればよい。
【0026】
一方、永久磁石103bR、103cR、103bL、103cLは、それぞれY方向に沿って配置された3個の永久磁石のセットである。永久磁石103b、103cは、それぞれ、固定子201側を向く外側の磁極の極性が交互に異なるように3個の永久磁石がX方向に沿って並べられて構成されている。なお、永久磁石103b、103cを構成するX方向に沿って配置された永久磁石の数は、3個に限定されるものではなく、複数個であればよい。すなわち、永久磁石103b、103cは、磁極の極性が交互になるようにX方向に沿って配置された複数の永久磁石からなる磁石群であればよい。
【0027】
各永久磁石103は、可動子101の上面のR側及びL側に設けられたヨーク107に取り付けられている。ヨーク107は、透磁率の大きな物質、例えば鉄で構成されている。
【0028】
こうして、可動子101には、可動子101のX軸に沿った中心軸を対称軸として、複数の永久磁石103上面のR側及びL側に対称に配置されている。永久磁石103が配置された可動子101は、固定子201の複数のコイル202により後述するように永久磁石103が受ける電磁力により姿勢が6軸制御されつつ移動可能に構成されている。
【0029】
可動子101は、X方向に沿って2列に配置された複数のコイル202に沿ってX方向に移動可能である。可動子101は、その上面あるいは下面に搬送すべきワーク102を載置あるいは装着した状態で搬送される。可動子101は、例えば、ワークホルダ等のワーク102を可動子101上に保持する保持機構を有していてもよい。
【0030】
次に、本実施形態による搬送システム1における固定子201について
図1A、
図2及び
図3を用いて説明する。
【0031】
図3は、固定子201のコイル202を示す概略図である。なお、
図3は、コイル202をY方向から見た図である。
【0032】
固定子201は、可動子101の搬送方向であるX方向に沿って2列に配置された複数のコイル202を有している。固定子201には、複数のコイル202がそれぞれ上面のR側及びL側から可動子101に対向するように取り付けられている。固定子201a、201bは、搬送方向であるX方向に延在して可動子101の搬送路を形成する。
【0033】
固定子201に沿って搬送される可動子101は、リニアスケール104と、Yターゲット105と、Zターゲット106とを有している。リニアスケール104、Yターゲット105及びZターゲット106は、それぞれ例えば可動子101の底部にX方向に沿って取り付けられている。Zターゲット106は、リニアスケール104及びYターゲット105の両側にそれぞれ取り付けられている。
【0034】
図2に示すように、固定子201は、複数のコイル202と、複数のリニアエンコーダ204と、複数のYセンサ205と、複数のZセンサ206とを有している。
【0035】
複数のコイル202は、可動子101の上面のR側及びL側の永久磁石103と対向可能なように、X方向に沿って2列に配置されて固定子201に取り付けられている。R側において1列に配置された複数のコイル202は、可動子101のR側の永久磁石103aR、103bR、103cR、103dRと対向可能にX方向に沿って配置されている。また、L側において1列に配置された複数のコイル202の可動子と対向する面は、可動子101のL側の永久磁石103aL、103bL、103cL、103dLと対向可能にX方向に沿って配置されている。
【0036】
本実施形態では、可動子101のR側及びL側のコイル202の列が、それぞれ、互いに構成する複数の永久磁石の配置方向が異なる永久磁石103a、103d及び永久磁石103b、103cに対向可能に配置されている。このため、少ない列数のコイル202で、後述するように可動子101に対して搬送方向及び搬送方向とは異なる力を印加することができ、よって可動子101の搬送制御及び姿勢制御を実現することができる。
【0037】
こうして、複数のコイル202は、可動子101が搬送される方向に沿って取り付けられている。複数のコイル202は、X方向に所定の間隔で並べられている。また、各コイル202は、その中心軸がY方向を向くように取り付けられている。なお、コイル202は、コアにコイルが巻かれており、本実施形態において、コイルの位置とは、コアの位置を示す。
【0038】
複数のコイル202は、例えば3個ずつの単位で電流制御されるようになっている。そのコイル202の通電制御される単位を「コイルユニット203」と記載する。コイル202は、通電されることにより、可動子101の永久磁石103との間で電磁力を発生して可動子101に対して力を印加することができる。
【0039】
コイルユニット203は、単数のコイルユニットあるいは複数のコイルユニットごとに、
図1Aに示すように、コイルボックス2031の中に収容され、コイルボックス2031ごとにX方向に沿って配置してもよい。その場合は、コイルボックス2013と隣接するコイルボックス(例えば
図1Aに示すコイルボックス2031aと隣接するコイルボックス2031b)の間は、隙間S1をあけて配置されていてもよい。本実施形態では、コイルボックスの中に収容される単数のコイルユニットあるいは複数のコイルユニットをコイル群と称する場合がある。
【0040】
図1Aは、固定子201aと固定子201bの間に例えばバルブゲートなどの構造物(100)が存在している場所を示している。つまり、生産ライン内又は生産ラインの間の複数のステーションの間で、連続して電磁石やコイルを配置することができない場所を示している。すなわち、真空チャンバの境界でゲートを開閉する機構等が配されていると、可動子をガイドかつ駆動する固定子、あるいはその駆動系を隙間なく連続的に配することができない。そのため、可動子がその境界を通過する際に、固定子側の駆動系より得られる浮上、位置制御、推進力に対応する駆動力に不連続点が生じ、可動子が目標軌道からはずれたり、位置ずれを生じたり、位置精度が低下する問題を生じる危険がある。
【0041】
図1Aには、構造物を挟んで2つの固定子の間に隙間S1より大きいスペースS2がある例を記載するが、固定子が1つであってコイルとコイルの間に隙間S1以上のスペースS2がある場合であっても本発明の効果は発揮される。連続してコイルを配置することができない場所に隣接するコイルの位置は、その他のコイルの可動子と対向する面202aの、可動子が通過する時の可動子との間の距離に比べて、小さくなる位置(可動子に近接する位置)に配置する。スペースS2が空いてしまうことによる可動子の傾きや落下を抑制することができる。本実施形態では2つの固定子201a、201bがX方向にスペースS2をあけて配置される場合を示したが、固定子201bの固定子201aとは反対側に隙間S1より大きいスペースS3(不図示)をあけてさらに固定子201c(不図示)を配置してもよい。例えば、生産ラインの生産装置毎に異なる固定子を配置してもよい。
【0042】
図1において、永久磁石103a、103dは、それぞれY方向に2個の永久磁石が並べられた磁石群により構成されていている。これに対して、各コイル202は、永久磁石103a、103dの2個の永久磁石のY方向の中心がコイル202のY方向の中心と合致するように配置されている。永久磁石103a、103dに対向するコイル202に通電することで、永久磁石103a、103dに対してY方向に力を発生する。
【0043】
また、永久磁石103b、103cは、X方向に3個の永久磁石が並べられた磁石群により構成されている。これに対して、永久磁石103b、103cに対向するコイル202に通電することで、永久磁石103b、103cに対してX方向及びZ方向に力を発生する。
【0044】
図10は、本実施形態を説明するための概念図である。
図10Aは、連続してコイルを配置することができる場所における固定子201と可動子101の関係を示した図である。コイルボックス2032a~2032gは、コイルボックス)とコイルボックスとの間に所定の間隔(隙間S1)をあけて配置される。この固定子201と可動子101の関係を示した図である。
図10では、コイルボックスを、間隔をあけて配置する例を示したが、コイルボックスではなくコイルあるいはコイル群であってもよい。所定の間隔(隙間S1)をあけずコイルボックス同士を接触させて配置させてもよい。また、コイルボックスを等間隔に配置することができれば、可動子101に係る重力と、コイルと永久磁石103による吸引力とが釣り合った状態になる。
【0045】
図10Bは、
図10Aにおけるコイルボックス2032fを配置させることができず、所定の間隔より広い間隔(スペースS2)が空いてしまった場合における固定子201と可動子101の関係を示した図である。つまり、両隣のコイルボックスとの間の間隔が所定の間隔S1で配置されたコイルボックスと、両隣のコイルボックスとの間の間隔の一方が、前記所定の間隔S1より広い間隔S2で配置されたコイルボックスとの関係を示した図である。コイルボックス2032fに吸引力を発生させることができないため、可動子101に係る重力Gの方がコイルと永久磁石103による吸引力を上回ってしまう。これを解消させようと、コントローラにより、コイルには、より大きな電流が流れるように制御される。これにより、可動子には、T1+T2+T3の吸引力が加えられる。しかし、電流増加による吸引力アップには限界があり、不足している重力Gに対応する吸引力を発生させることは難しい。4×G>3×G+(T1+T2+T3)
【0046】
そこで、
図10Cに示すように、コイルボックス2032fを配置させることができず空いてしまったスペースに隣接する部分のコイルボックス2032eと2032gを可動子101側に引き下げて配置する(H)。(両隣のコイルボックスとの間の間隔の一方が、前記所定の間隔S1より広い間隔S2で配置されたコイルボックス2032eあるいは2032gを可動子101側に引き下げて配置する(H)。)つまり、前記所定の間隔で配置されたコイル103の可動子101と対向する面の、可動子101が通過する時の、前記可動子101との間の距離に比べて、前記可動子101との間の距離が狭くなる位置に配置する。前記可動子101が、前記広い間隔で配置されたコイルボックスと対向する領域を通過する際の、前記広い間隔で配置されたコイルボックスと前記可動子101との間の距離をAとする。前記可動子101が、両隣のコイルボックスとの間の間隔が前記所定の間隔で配置されたコイルボックスと対向する領域を通過する際の、前記所定の間隔で配置されたコイルボックスと前記可動子101との間の距離をBとする。Bに比べて、Aが狭くなるように配置する。これにより、吸引力を格段に向上させることができる。
図10Cの、2032eの吸引力は、Gと、電流増加による吸引力増加分T3と、コイルボックス2032を引き下げた分の吸引力増加分K1の合計となる。これにより、重力と吸引力が釣り合うように制御することが可能となる。4×G=3×G+(T1+T2+T3)+K1
【0047】
これにより、可動子101を傾かせることなく、スムーズに搬送させることができる。
【0048】
より具体的に、
図11を使ってコイル(あるいはコイルボックス)間にスペースがある場合とそのスペースの両端のコイルをキャリアに近接した場合に可動子101に働く力の大きさを説明する。
【0049】
図11Aはコイルのスペース3401がある場合を示している。TZプロファイル3402は可動子101の姿勢を維持するために必要なZ方向へのトルクの大きさを模式的に示している。可動子101はX+方向に搬送されている。
【0050】
このとき、可動子101の先端がスペース3401の3041のX-端(A)に入るとスペース3401の分だけ可動子101には吸引力が働かないのでそれを補償するためコイル202には鉛直上向きの力(Tz)が働く。その最大値をTz1とする。
【0051】
次に、可動子101の後端がスペース3041のX-端(A)に差し掛かると吸引力が印加されるのでTzプロファイル3402は0に近づく。
【0052】
また、Twyプロファイル3403は可動子101に働くWy方向のトルクの大きさを模式的に表した図である。TWyプロファイル3403は可動子101の先端(X+側)がスペース3401に差し掛かると、スペース3401に掛かる部分の吸引力が働かないためそれを補償するためにWY+方向のトルクを印加する必要がある。そのた最大値をTwy1とする。
【0053】
Twyはスペース3401の可動子101の上での位置が中央に近づくと0に近づく。逆に可動子101の後端がAの位置に差し掛かると今度はTWy+の方向に力が働くのでそれを補償するためキャリアにはWY-方向の力を印加する必要がある。
【0054】
図11Bはスペース3401の両側のコイル202と可動子101の距離を一定量近づけた場合を模式的に示した図である。
【0055】
この場合、TZプロファイル3404は可動子101の先端(X+側)がコイル3501に差し掛かると、可動子101とコイル3501が他のコイルと比較して近い分コイル3501側に強い吸引力を受ける。したがってそれを補償するためにZ-側のトルクを印加する必要がある。
【0056】
以降は
図11Aで説明したのと同様である。このTZプロファイル3404のZ方向のトルクの最大値TZ2はコイル3501および3502のX方向の幅と可動子101と近接させる量を適当に設定すれば、Tz1の絶対値よりTz2の絶対値を小さくすることが出来る。
【0057】
このようにすれば、可動子101の姿勢を維持するためのZ方向のトルクの最大値を小さくすることが出来るのでより安定して可動子101の姿勢を所望の値に維持することが出来る。またZ方向のトルクの最大値を小さく出来るのでコイルの大きさを小さく出来、印加する電流の大きさやそれに伴う発熱量を小さくするといった効果が得られる。
【0058】
Wy方向のトルクについてもZ方向のトルクと同様に、コイル3501および3502を可動子101に近接させることで可動子101に印加するWy方向の最大値を抑制することが可能になる。
【0059】
前記可動子との間の距離が狭くなる位置に配置する方法はどのような方法を用いてもよいが、固定子とコイルボックスの間にスペーサを間に挟み高さを調節して配置することがより好ましい。高さHは、所定の間隔S1とスペースS2との差の3%以上15%以下であることが好ましい。3%より小さいと引き下げる効果が少なく、15%より大きいと他のコイルボックスと可動子との間隔が広くなりすぎてしまい効率が悪い。
【0060】
コイルボックスを引き下げる代わりに、コイルボックスからスペースS2に向かって強磁性体あるいは比透磁率の大きい材料からなる部材1001、1002を配置してもよい。これにより吸引力を増加させることが可能になる。つまり、前記広い間隔で配置された2つのコイルの間には、前記コイルから広い間隔S2によるスペースに向かって磁性体の板を配置することが好ましい。
【0061】
コイルボックスを引き下げ、さらに強磁性体あるいは比透磁率の大きい材料からなる部材1001、1002を配置するとさらに吸引力を増加させることができるためより好ましい。
【0062】
本実施形態では、コイルボックスを引き下げる例を示したが、コイル群をコイルボックスに収容していなくてもよい。つまり、コイルボックスに収容していないコイル群を可動子側に引き下げて配置することも、コイル群ではなくコイルを引き下げてもよい。
【0063】
本実施形態ではコイルボックスとコイルボックスの間にスペースS2がある場合を説明したがコイルとコイルの間にスペースS2がある場合であっても同じである。また、コイル群とコイル群の間にスペースS2がある場合であっても同じである。
【0064】
また、本実施形態では、スペースS2に隣接する、スペースS2を挟んで両側の部分のコイルボックス2032eと2032gあるいはコイルを可動子側に引き下げて配置する例を示した。しかし、これに限るものではない。スペースS2に、可動子の進行方向の端部の磁石が対面した時、可動子の中心から、可動子の進行方向の端部の磁石までの間に配置された磁石に対面するコイルボックスのいずれかをひき下げることでも本発明の効果を得ることができる。あるいは、スペースS2に、可動子の進行方向の端部の磁石が対面した時、可動子の中心から、可動子の進行方向の端部の磁石までの間に配置された磁石に対面するコイルのいずれかをひき下げることでも本発明の効果を得ることができる。
【0065】
複数のリニアエンコーダ204は、それぞれ可動子101のリニアスケール104と対向可能なようにX方向に沿って固定子201に取り付けられている。各リニアエンコーダ204は、可動子101に取り付けられたリニアスケール104を読み取ることで、可動子101のリニアエンコーダ204に対する相対的な位置を検出して出力することができる。
【0066】
複数のYセンサ205は、それぞれ可動子101のYターゲット105と対向可能なようにX方向に沿って固定子201に取り付けられている。各Yセンサ205は、可動子101に取り付けられたYターゲット105との間のY方向の相対距離を検出して出力することができる。
【0067】
複数のZセンサ206は、それぞれ可動子101のZターゲット106と対向可能なようにX方向に沿って固定子201に2列に取り付けられている。各Zセンサ206は、可動子101に取り付けられたZターゲット106との間のZ方向の相対距離を検出して出力することができる。
【0068】
次に、本実施形態による搬送システム1を制御する制御システムについてさらに
図4を用いて説明する。
図4は、本実施形態による搬送システム1を制御する制御システム3を示す概略図である。
【0069】
図4に示すように、制御システム3は、統合コントローラ301と、コイルコントローラ302と、センサコントローラ304とを有し、可動子101と固定子201とを含む搬送システム1を制御する制御装置として機能する。統合コントローラ301には、コイルコントローラ302が通信可能に接続されている。また、統合コントローラ301には、センサコントローラ304が通信可能に接続されている。
【0070】
コイルコントローラ302には、複数の電流コントローラ303が通信可能に接続されている。コイルコントローラ302及びこれに接続された複数の電流コントローラ303は、2列のコイル202のそれぞれの列に対応して設けられている。各電流コントローラ303には、コイルユニット203が接続されている。電流コントローラ303は、接続されたコイルユニット203の各々のコイル202の電流の大きさを制御することができる。
【0071】
コイルコントローラ302は、接続された各々の電流コントローラ303に対して目標となる電流値を指令する。電流コントローラ303は接続されたコイル202の電流量を制御する。
【0072】
コイル202及び電流コントローラ303は、可動子101が搬送されるX方向の可動子101の上面の両側に取り付けられている。
【0073】
センサコントローラ304には、複数のリニアエンコーダ204、複数のYセンサ205及び複数のZセンサ206が通信可能に接続されている。
【0074】
複数のリニアエンコーダ204は、可動子101が搬送中もそのうちの1つが必ず1台の可動子101の位置を測定できるような間隔で固定子201に取り付けられている。また、複数のYセンサ205は、そのうちの2つが必ず1台の可動子101のYターゲット105を測定できるような間隔で固定子201に取り付けられている。また、複数のZセンサ206は、その2列のうちの3つが必ず1台の可動子101のZターゲット106を測定できるような間隔で固定子201に取り付けられている。
【0075】
統合コントローラ301は、リニアエンコーダ204、Yセンサ205及びZセンサ206からの出力に基づき、複数のコイル202に印加する電流指令値を決定して、コイルコントローラ302に送信する。コイルコントローラ302は、統合コントローラ301からの電流指令値に基づき、上述のように電流コントローラ303に対して電流値を指令する。これにより、統合コントローラ301は、制御装置として機能し、固定子201に沿って可動子101を非接触で搬送するとともに、搬送する可動子101の姿勢を6軸で制御する。
【0076】
以下、統合コントローラ301により実行される可動子101の姿勢制御方法について
図5を用いて説明する。
図5は、本実施形態による搬送システム1における可動子101の姿勢制御方法を示す概略図である。
図5は、可動子101の姿勢制御方法の概略について主にそのデータの流れに着目して示している。統合コントローラ301は、以下に説明するように、可動子位置算出関数401、可動子姿勢算出関数402、可動子姿勢制御関数403及びコイル電流算出関数404を用いた処理を実行する。これにより、統合コントローラ301は、可動子101の姿勢を6軸で制御しつつ、可動子101の搬送を制御する。なお、統合コントローラ301に代えて、コイルコントローラ302が統合コントローラ301と同様の処理を実行するように構成することもできる。
【0077】
まず、可動子位置算出関数401は、複数のリニアエンコーダ204からの測定値及びその取り付け位置の情報から、搬送路を構成する固定子201上にある可動子101の台数及び位置を計算する。これにより、可動子位置算出関数401は、可動子101に関する情報である可動子情報406の可動子位置情報(X)及び台数情報を更新する。可動子位置情報(X)は、固定子201上の可動子101の搬送方向であるX方向における位置を示している。可動子情報406は、例えば
図5中にPOS-1、POS-2、…と示すように固定子201上の可動子101ごとに用意される。
【0078】
次いで、可動子姿勢算出関数402は、可動子位置算出関数401により更新された可動子情報406の可動子位置情報(X)から、各々の可動子101を測定可能なYセンサ205及びZセンサ206を特定する。次いで、可動子姿勢算出関数402は、特定されたYセンサ205及びZセンサ206から出力される値に基づき、各々の可動子101の姿勢に関する情報である姿勢情報(Y,Z,Wx、Wy,Wz)を算出して可動子情報406を更新する。可動子姿勢算出関数402により更新された可動子情報406は、可動子位置情報(X)及び姿勢情報(Y,Z,Wx、Wy,Wz)を含んでいる。
【0079】
次いで、可動子姿勢制御関数403は、可動子位置情報(X)及び姿勢情報(Y,Z,Wx、Wy,Wz)を含む現在の可動子情報406及び姿勢目標値から、各々の可動子101について印加力情報408を算出する。印加力情報408は、各々の可動子101に印加すべき力の大きさに関する情報である。印加力情報408は、後述する印加すべき力Tの力の3軸成分(Tx,Ty,Tz)及びトルクの3軸成分(Twx,Twy,Twz)に関する情報を含んでいる。印加力情報408は、例えば
図5中にTRQ-1、TRQ-2、…と示すように固定子201上の可動子101ごとに用意される。
【0080】
次いで、コイル電流算出関数404は、印加力情報408及び可動子情報406に基づき、各コイル202に印加する電流指令値409を決定する。
【0081】
こうして、統合コントローラ301は、可動子位置算出関数401、可動子姿勢算出関数402、可動子姿勢制御関数403及びコイル電流算出関数404を用いた処理を実行することにより、電流指令値409を決定する。統合コントローラ301は、決定した電流指令値409をコイルコントローラ302に送信する。
【0082】
ここで、可動子位置算出関数401による処理について
図6を用いて説明する。
図6は、可動子位置算出関数による処理を説明する概略図である。
【0083】
図6において、基準点Oeは、リニアエンコーダ204が取り付けられている固定子201の位置基準である。また、基準点Osは、可動子101に取り付けられているリニアスケール104の位置基準である。
図6では、可動子101として2台の可動子101a、101bが搬送され、リニアエンコーダ204として2つのリニアエンコーダ204a、204b、204cが配置されている場合を示している。なお、リニアスケール104は、各可動子101a、101bの同じ位置にX方向に沿って取り付けられている。
【0084】
例えば、
図6に示す可動子101bのリニアスケール104には、1つのリニアエンコーダ204cが対向している。リニアエンコーダ204cは、可動子101bのリニアスケール104を読み取って距離Pcを出力する。また、リニアエンコーダ204cの基準点Oeを原点とするX軸上の位置はScである。したがって、可動子101bの位置Pos(101b)は次式(1)により算出することができる。
Pos(101b)=Sc-Pc …式(1)
【0085】
例えば、
図6に示す可動子101aのリニアスケール104には、2つのリニアエンコーダ204a、204bが対向している。リニアエンコーダ204aは、可動子101aのリニアスケール104を読み取って距離Paを出力する。また、リニアエンコーダ204aの基準点Oeを原点とするX軸上の位置はSaである。したがって、リニアエンコーダ204aの出力に基づく可動子101aのX軸上の位置Pos(101a)は、次式(2)で算出することができる。
Pos(101a)=Sa-Pa …式(2)
【0086】
また、リニアエンコーダ204bは、可動子101bのリニアスケール104を読み取って距離Pbを出力する。また、リニアエンコーダ204bの基準点Oeを原点とするX軸上の位置はSbである。したがって、リニアエンコーダ204bの出力に基づく可動子101aのX軸上の位置Pos(101a)′は、次式(3)により算出することができる。
Pos(101a)′=Sb-Pb …式(3)
【0087】
ここで、各々のリニアエンコーダ204a、204bの位置は予め正確に測定されているため、2つの値Pos(101a)、Pos(101a)′の差は十分に小さい。このように2つのリニアエンコーダ204の出力に基づく可動子101のX軸上の位置の差が十分小さい場合は、それら2つのリニアエンコーダ204は、同一の可動子101のリニアスケール104を観測していると判定することができる。
【0088】
なお、複数のリニアエンコーダ204が同一の可動子101と対向する場合は、複数のリニアエンコーダ204の出力に基づく位置の平均値を算出する等して、観測された可動子101の位置を一意に決定することができる。
【0089】
可動子位置算出関数401は、上述のようにしてリニアエンコーダ204の出力に基づき、可動子位置情報として可動子101のX方向における位置Xを算出して決定する。
【0090】
次に、可動子姿勢算出関数402による処理について
図7、
図8A及び
図8Bを用いて説明する。
【0091】
図7では、可動子101として可動子101cが搬送され、Yセンサ205としてYセンサ205a、205bが配置されている場合を示している。
図7に示す可動子101cのYターゲット105には、2つのYセンサ205a、205bが対向している。2つのYセンサ205a、205bが出力する相対距離の値をそれぞれYa、Ybとし、Yセンサ205a、205b間の間隔がLyの場合、可動子101cのZ軸周りの回転量Wzは、次式(4)により算出される。
Wz=(Ya-Yb)/Ly …式(4)
【0092】
なお、可動子101の位置によっては3つ以上のYセンサ205が対向する場合もありうる。その場合、最小二乗法等を使ってYターゲット105の傾き、すなわちZ軸周りの回転量Wzを算出することができる。
【0093】
また、
図8A及び
図8Bでは、可動子101として可動子101dが搬送され、Zセンサ206としてZセンサ206a、206b、206cが配置されている場合を示している。
図8A及び
図8Bに示す可動子101dのZターゲット106には、3つのZセンサ206a、206b、206cが対向している。ここで、3つのZセンサ206a、206b、206cが出力する相対距離の値をそれぞれZa、Zb、Zcとする。また、X方向のセンサ間距離、すなわちZセンサ206a、206b間の距離をLz1とする。また、Y方向のセンサ間距離、すなわちZセンサ206a、206c間の距離をLz2とする。すると、Y軸周りの回転量Wy及びX軸周りの回転量Wxは、それぞれ次式(5a)及び(5b)により算出することができる。
Wy=(Zb-Za)/Lz1 …式(5a)
Wx=(Zc-Za)/Lz2 …式(5b)
【0094】
可動子姿勢算出関数402は、上述のようにして、可動子101の姿勢情報として各軸周りの回転量Wx、Wy,Wzを算出することができる。
【0095】
また、可動子姿勢算出関数402は、次のようにして可動子101の姿勢情報として可動子101のY方向の位置Y及びZ方向の位置Zを算出することができる。
【0096】
まず、可動子101のY方向の位置Yの算出について
図7を用いて説明する。
図7において、可動子101cがかかる2つのYセンサ205をそれぞれYセンサ205a、205bとする。また、Yセンサ205a、205bの測定値をそれぞれYa、Ybとする。また、Yセンサ205aの位置とYセンサ205bの位置との中点をOe′とする。さらに、式(1)~(3)で得られた可動子101cの位置をOs′とし、Oe′からOs′までの距離をdX′とする。このとき、可動子101cのY方向の位置Yは、次式により近似的に計算して算出することができる。
Y=(Ya+Yb)/2-Wz*dX′
【0097】
次に、可動子101のZ方向の位置Zの算出について
図8A及び
図8Bを用いて説明する。可動子101dがかかる3つのZセンサ206をそれぞれZセンサ206a、206b、206cとする。また、Zセンサ206a、206b、206cの測定値をそれぞれZa、Zb、Zcとする。また、Zセンサ206aのX座標とZセンサ206cのX座標とは同一である。また、リニアエンコーダ204は、Zセンサ206aとZセンサ206cとの中間の位置にあるものとする。また、Zセンサ206a及びZセンサ206cの位置XをOe″とする。さらに、Oe″から可動子101の中心Os″までの距離をdX″とする。このとき、可動子101のZ方向の位置Zは、次式により近似的に計算して算出することができる。
Z=(Za+Zb)/2+Wy*dX″
【0098】
なお、位置Y及び位置ZともにそれぞれWz、Wyの回転量が大きい場合には、さらに近似の精度を高めて算出することができる。
【0099】
次に、コイル電流算出関数404による処理について
図1を用いて説明する。なお、以下で用いる力の表記において、X方向、Y方向及びZ方向の力が働く方向をそれぞれx、y、zで示し、
図1におけるY+側であるR側をR、Y-側であるL側をL、X+側をf、X-方向をbで示す。
【0100】
図1においてR側及びL側の各永久磁石103に働く力をそれぞれ次のように表記する。各永久磁石103に働く力は、電流が印加された複数のコイル202により永久磁石103が受ける電磁力である。永久磁石103は、電流が印加された複数のコイル202により、可動子101の搬送方向であるX方向の電磁力のほか、X方向とは異なる方向であるY方向及びZ方向の電磁力を受ける。
【0101】
R側の永久磁石103に働く力の表記は、それぞれ次のとおりである。
FzfR:R側の永久磁石103aRのZ方向に働く力
FxfR:R側の永久磁石103bRのX方向に働く力
FyfR:R側の永久磁石103bRのY方向に働く力
FxbR:R側の永久磁石103cRのX方向に働く力
FybR:R側の永久磁石103cRのY方向に働く力
FzbR:R側の永久磁石103dRのZ方向に働く力
【0102】
L側の永久磁石103に働く力の表記は、それぞれ次のとおりである。
FzfL:L側の永久磁石103aLのZ方向に働く力
FxfL:L側の永久磁石103bLのX方向に働く力
FyfL:L側の永久磁石103bLのY方向に働く力
FxbL:L側の永久磁石103cLのX方向に働く力
FybL:L側の永久磁石103cLのY方向に働く力
FzbL:L側の永久磁石103dLのZ方向に働く力
【0103】
また、可動子101に対して印加される力Tを次式(6)により表記する。なお、Tx、Ty、Tzは、力の3軸成分であり、それぞれ力のX方向成分、Y方向成分及びZ方向成分である。また、Twx,Twy、Twzは、モーメントの3軸成分であり、それぞれモーメントのX軸周り成分、Y軸周り成分及びZ軸周り成分である。本実施形態による搬送システム1は、これら力Tの6軸成分(Tx,Ty,Tz,Twx,Twy,Twz)を制御することにより、可動子101の姿勢を6軸で制御しつつ、可動子101の搬送を制御する。
T=(Tx,Ty,Tz,Twx,Twy,Twz) …式(6)
【0104】
すると、Tx、Ty、Tz、Twx、Twy、Twzは、それぞれ次式(7a)、(7b)、(7c)、(7d)、(7e)及び(7f)により算出される。
Tx=FxfR+FxbR+FxfL+FxbL …式(7a)
Ty=FyfL+FyfR+FybL+FybR …式(7b)
Tz=FzbR+FzbL+FzfR+FzfL …式(7c)
Twx={(FzfL+FzbL)-(FzfR+FzbR)}*rx3 …式(7d)Twy={(FzfL+FzfR)-(FzbL+FzbR)}*ry3 …式(7e)Twz={(FyfL+FyfR)-(FybL+FybR)}*rz3 …式(7f)
【0105】
このとき、永久磁石103に働く力については、次式(7g)、(7h)、(7i)及び(7j)により表される制限を導入することができる。これらの制限を導入することにより、所定の6軸成分を有する力Tを得るための各永久磁石103に働く力の組み合わせを一意に決定することができる。
FxfR=FxbR=FxfL=FxbL …式(7g)
FyfL=FyfR …式(7h)
FybL=FybR …式(7i)
FzbR=FzbL …式(7j)
【0106】
次に、コイル電流算出関数404が、各永久磁石103に働く力から各コイル202に印加する電流量を決定する方法について説明する。
【0107】
まず、N極及びS極の極性がZ方向に交互に並んだ永久磁石103a、103dにZ方向の力を印加する場合について説明する。なお、コイル202は、そのZ方向の中心が永久磁石103a、103dのZ方向の中心に位置するように配置されている。これにより、永久磁石103a、103dに対してX方向及びY方向に働く力は、殆ど発生しないようになっている。
【0108】
Xを可動子101の位置、jを列に並んだコイル202の番号として、単位電流当たりのコイル202(j)のZ方向に働く力の大きさをFz(j、X)とし、コイル202(j)に印加する電流をi(j)とする。なお、コイル202(j)は、j番目のコイル202である。この場合、電流i(j)は、次式(8)を満足するように決定することができる。なお、次式(8)は、永久磁石103dRについての式である。他の永久磁石103aR、103aL、103dLについても同様にしてコイル202に印加する電流を決定することができる。
ΣFz(j、X)*i(j)=FzbR …式(8)
【0109】
コイル電流算出関数404は、上述のようにしてコイル202(j)に印加する電流指令値を決定することができる。こうして決定される電流指令値により可動子101に印加されるZ方向の力により、可動子101は、Z方向に浮上する浮上力を得るとともに、その姿勢が制御される。
【0110】
なお、複数のコイル202が永久磁石103に力を及ぼす場合には、各コイル202が及ぼす力に応じて単位電流当たりの力の大きさで電流を按分することにより、永久磁石103に働く力を一意に決定することができる。
【0111】
また、
図1に示すように、永久磁石103は、可動子101のL側及びR側に対称に配置されている。このような永久磁石103の対称配置により、永久磁石103に働く多成分の力、例えば永久磁石103a、103dに働くWxの力、すなわちX軸周りのモーメント成分をL側及びR側の力で相殺することが可能になる。この結果、より高精度な可動子101の姿勢の制御が可能になる。
【0112】
次に、N極、S極及びN極の極性がX方向に交互に並んだ永久磁石103bに対してX方向及びY方向に対して独立に力を印加する方法について説明する。
図9は、永久磁石103bに対してX方向及びY方向に独立に力を印加する方法を説明する概略図である。コイル電流算出関数404は、以下に従って、永久磁石103bに対してX方向及びY方向に対して独立に力を印加するためにコイル202に印加する電流指令値を決定する。なお、永久磁石103cについても、永久磁石103bと同様にX方向及びY方向に対して独立に力を印加することができる。
【0113】
Xを可動子101の位置、jを列に並んだコイル202の番号として、単位電流当たりのコイル202(j)のX方向及びY方向に働く力の大きさを、それぞれFx(j、X)及びFy(j、X)とする。また、コイル202(j)の電流の大きさをi(j)とする。なおコイル202(j)は、j番目のコイル202である。
【0114】
図9中の上段の図は、横にX軸、縦にY軸を取り、永久磁石103bRに対向する6個のコイル202を抜き出して示す図である。
図9中の中段の図は、
図9中の上段の図をY方向から見た図である。コイル202には、X方向に並んだ順に1から6までの番号jを付与し、以下では例えばコイル202(1)のように表記して各コイル202を特定する。
【0115】
図9中の上段及び中段の図に示すように、コイル202は、距離Lのピッチでされている。一方、可動子101の永久磁石103は、距離3/2*Lのピッチで配置されている。
【0116】
図9中の下段のグラフは、
図9中の上段及び中段の図に示す各々のコイル202に対して単位電流を印加した際に発生するX方向の力Fx及びZ方向の力Fzの大きさを模式的に示したグラフである。
【0117】
簡単のため、
図9では、コイル202のX方向の位置の原点Ocをコイル202(3)とコイル202(4)の中間とし、永久磁石103bRのX方向の中心Omを原点としている。このため、
図9は、OcとOmとが合致した場合、すなわちX=0の場合を示している。
【0118】
このとき、例えばコイル202(4)に対して働く単位電流当たりの力は、X方向にFx(4,0)、Z方向にFz(4,0)の大きさである。また、コイル202(5)に対して働く単位電流当たりの力は、X方向にFx(5,0)、Z方向にFz(5,0)の大きさである。
【0119】
ここで、コイル202(1)~202(6)に印加する電流値をそれぞれi(1)~i(6)とする。すると、永久磁石103bRに対して、X方向に働く力の大きさFxfR及びY方向に働く力の大きさFzfRは、それぞれ一般的に次式(9)及び(10)で表される。
FxfR=Fx(1,X)*i(1)+Fx(2,X)*i(2)+Fx(3,X)*i(3)+Fx(4,X)*i(4)+Fx(5,X)*i(5)+Fx(6,X)*i(6) …式(9)
FzfR=Fz(1,X)*i(1)+Fz(2,X)*i(2)+Fz(3,X)*i(3)+Fz(4,X)*i(4)+Fz(5,X)*i(5)+Fz(6,X)*i(6) …式(10)
【0120】
上記式(9)及び(10)を満足する電流値i(1)~i(6)をそれぞれコイル202(1)~202(6)に印加されるように電流指令値を決定することにより、永久磁石103bRに対してX方向及びZ方向に独立に力を印加することができる。コイル電流算出関数404は、永久磁石103に対してX方向及びZ方向に独立に力を印加するために、上述のようにしてコイル202(j)に印加する電流指令値を決定することができる。
【0121】
より簡単のため、
図9に示す場合において、永久磁石103bRに対してコイル202(1)~202(6)のうちのコイル202(3)、202(4)、202(5)だけを使い、さらにこれら3つの電流値の総和が0となるように制御する場合を例に考える。この例の場合、永久磁石103bRに対してX方向に働く力FxfR及びZ方向に働く力FzfRは、それぞれ次式(11)及び(12)により表される。
FxfR=Fx(3,X)*i(3)+Fx(4,X)*i(4)+Fx(5,X)*i(5) …式(11)
FzfR=Fz(3,X)*i(3)+Fz(4,X)*i(4)+Fz(5,X)*i(5) …式(12)
【0122】
また、コイル202(1)~202(6)の電流値は、次式(13)及び(14)を満足するように設定することができる。
i(3)+i(4)+i(5)=0 …式(13)
i(1)=i(2)=i(6)=0 …式(14)
【0123】
したがって、永久磁石103bRに対して必要な力の大きさ(FxfR、FzfR)が決定された場合、電流値i(1)、i(2)、i(3)、i(4)、i(5)及びi(6)を一意に決定することができる。こうして決定される電流指令値により可動子101にX方向及びZ方向に力が印加される。可動子101に印加されるX方向の力により、可動子101は、X方向に移動する推進力を得てX方向に移動する。また、こうして決定される電流指令値により可動子101に印加されるX方向及びZ方向の力により、可動子101はその姿勢が制御される。
【0124】
こうして、統合コントローラ301は、複数のコイル202に印加する電流を制御することにより、可動子101に印加する力の6軸成分のそれぞれを制御する。
【0125】
なお、可動子101の搬送により永久磁石103bRの中心Omに対してコイル202の中心Ocが移動した場合、すなわちX≠0の場合は、移動した位置に応じたコイル202を選択することができる。さらに、コイル202に発生する単位電流当たりの力に基づいて、上記と同様の計算を実行することができる。
【0126】
上述のようにして、統合コントローラ301は、複数のコイル202に印加する電流の電流指令値を決定して制御することにより、固定子201上での可動子101の姿勢を6軸で制御しつつ、可動子101の非接触での固定子201上の搬送を制御する。すなわち、統合コントローラ301は、可動子101の搬送を制御する搬送制御手段として機能し、複数のコイル202により永久磁石103が受ける電磁力を制御することにより、固定子201上における可動子101の非接触での搬送を制御する。また、統合コントローラ301は、可動子101の姿勢を制御する姿勢制御手段として機能し、固定子201上における可動子101の姿勢を6軸で制御する。なお、制御装置としての統合コントローラ301の機能の全部又は一部は、コイルコントローラ302その他の制御装置により代替されうる。
【0127】
[第2実施形態]
第1実施形態では、コイルあるいはコイルボックスを引き下げる例を示したが、第2実施形態では二つのステーション3001aおよび3001bの間に強磁性体あるいは比透磁率の大きい材料からなる部材1001bを配置する例を示す。コイル、コイル群、あるいはコイルボックスを引き下げる代わりにステーション間に部材1001bを配置してもよいし、引き下げおよび部材1001bの配置を両方備えていてもよい。そのほかの構成は第1の実施形態と同様であり詳細な説明は省略する。本実施形態ではステーションがチャンバである例を示す。
図12において、二つのチャンバ3001aおよび3001bはそれぞれ真空チャンバで図示しない真空ポンプが接続されて適切な真空度に維持されている。
【0128】
二つのチャンバ3001aおよび3001bの間にはゲートバルブ3002とそれを動かすためにゲートバルブ昇降部3003があり、両側のチャンバ3001aおよび3001bの雰囲気を分離する役割を果たしている。
【0129】
ゲートバルブ3002はメンテナンスなどのタイミングでは下降しているが、可動子101を搬送している間は上昇している。
【0130】
ゲートバルブ3002の下面に強磁性体あるいは比透磁率の大きい材料からなる部材1001bが取り付けられ、可動子101の上の永久磁石103との間に吸引力が働く位置に固定されている。
【0131】
このように構成することで可動子101には、スペース3004において吸引力が印加されるのでより安定して可動子101を搬送することが可能になる。
【0132】
[第3実施形態]
第1実施形態では、コイル、コイル群、あるいはコイルボックスを引き下げる例を示したが、第3実施形態ではコアの大きさを変える例を示す。コイル、コイル群、あるいはコイルボックスを引き下げる代わりにコアの大きさを変えてもよいし、引き下げおよびコアの大きさの変更を両方行なってもよい。そのほかの構成は第1の実施形態と同様であり詳細な説明は省略する。
【0133】
図13Aではコア3014の大きさの異なる二種類のコイル3101および3102を示す。コイル3101および3102は、コア3104と巻き線3013から構成される。コイル3102のコア3104はコイル3101のコア3104より大きく設計されている。このようにすることでコイル3102の磁気抵抗はコイル3101の磁気抵抗より小さくなるのでより大きな吸引力を得ることが出来る。
【0134】
図13Bはコイル3101および3102で構成された搬送路である。搬送路にはスペース3103がある。スペース3103に近い側(第1の実施形態においてコイルあるいはコイルボックスを引き下げた部分)に、それ以外の部分のコイル3101よりコアの大きなコイル3012を配置する。
【0135】
このように構成することによりコイルあるいはコイルボックスを引き下げることで得られる効果と同様の効果を得ることが出来る。つまり、可動子を安定してスムーズに非接触で搬送することができる。
【符号の説明】
【0136】
101 可動子
102 ワーク
103 永久磁石
104 リニアスケール
105 Yターゲット
106 Zターゲット
107 ヨーク
201 固定子
202 コイル
203 コイルユニット
204 リニアエンコーダ
205 Yセンサ
206 Zセンサ
301 統合コントローラ
302 コイルコントローラ
303 コイルコントローラ
304 センサコントローラ