(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】物品の製造方法および粉末
(51)【国際特許分類】
B28B 1/30 20060101AFI20231221BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20231221BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20231221BHJP
【FI】
B28B1/30
B33Y10/00
B33Y70/00
(21)【出願番号】P 2019215784
(22)【出願日】2019-11-28
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】木谷 耕治
(72)【発明者】
【氏名】沖仲 元毅
(72)【発明者】
【氏名】蒲池 康
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-064226(JP,A)
【文献】特開2019-181930(JP,A)
【文献】特開2019-111684(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0083303(US,A1)
【文献】特表2016-527161(JP,A)
【文献】特開2000-297301(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28B 1/00-1/54
C04B 35/56-35/599
C04B 35/64-35/65
B33Y 10/00
B33Y 70/00-70/10
B29C 64/153
C22C 29/02-29/10
C22C 1/051-1/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品の製造方法であって、
無機化合物を含む第1材料のコア
が、第2材料
からなる膜で覆われた粒子を含む粉末からなる粉末層を形成する工程と、
前記粉末層の所定の領域にエネルギービームを照射して、前記所定の領域の粉末を固化させる工程と、
を有
し、
前記膜の膜厚が前記コアの粒子径よりも小さく、
前記固化した領域が前記第1材料と前記第2材料の共晶をなすことを特徴とする物品の製造方法。
【請求項2】
前記膜の膜厚が1.5μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の物品の製造方法。
【請求項3】
前記膜の膜厚が3.0μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の物品の製造方法。
【請求項4】
前記粒子の粒子径が34μmよりも大きいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項5】
前記粒子に含まれる前記第1材料と前記第2材料とのモル比が、前記第1材料と前記第2材料との共晶組成から±10mol%の範囲にあることを特徴とする請求項1
乃至4のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項6】
前記第1材料が炭化珪素であり、前記第2材料が硼化金属であることを特徴とする請求項1
乃至5のいずれか1項に記載の物品の製造方法。
【請求項7】
前記硼化金属の融点が、炭化珪素の昇華点よりも低いことを特徴とする請求項
6に記載の物品の製造方法。
【請求項8】
前記硼化金属が一硼化クロム、二硼化クロム、二硼化バナジウムのいずれかであることを特徴とする請求項
6に記載の物品の製造方法。
【請求項9】
無機化合物を含む第1材料のコア
が、前記第1材料と共晶をなす第2材料
からなる膜で覆われた粒子を含
み、
前記膜の膜厚が前記コアの粒子径よりも小さいことを特徴とする粉末。
【請求項10】
前記膜の膜厚が1.5μm以上であることを特徴とする請求項9に記載の粉末。
【請求項11】
前記膜の膜厚が3.0μm以下であることを特徴とする請求項9または10に記載の粉末。
【請求項12】
前記粒子の粒子径が34μmよりも大きいことを特徴とする請求項9乃至11のいずれか1項に記載の粉末。
【請求項13】
前記粒子に含まれる前記第1材料と前記第2材料とのモル比が、前記第1材料と前記第2材料との共晶組成から±10mol%の範囲にあることを特徴とする請求項
1乃至12のいずれか1項に記載の粉末。
【請求項14】
前記第1材料が炭化珪素であり、前記第2材料が硼化金属であることを特徴とする請求項
9乃至13のいずれか項に記載の粉末。
【請求項15】
前記硼化金属の融点が、炭化珪素の昇華点よりも低いことを特徴とする請求項
14に記載の粉末。
【請求項16】
前記硼化金属が一硼化クロム、二硼化クロム、二硼化バナジウムのいずれかであることを特徴とする請求項
14に記載の粉末。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、粉末床溶融結合法を用いた無機化合物を含む物品の製造方法およびその原料となる粉末に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、少量多品種の部品や複雑な形状を有する部品を作製するために、粉末床溶融結合技術の開発が進められている。この技術は、原料粉末の薄層にレーザビームや電子ビームなどのエネルギービームを、ビーム光学系により走査しながら照射し、局所的に粉末を溶融および固化させることを層単位で繰り返して物品を造形する方法である。
【0003】
このような技術を用いて、固体からの追加工が難しい炭化珪素などの無機化合物材料を原料とする造形が検討されている。しかし、炭化ケイ素は、エネルギーを急激に与えると溶融せずに昇華してしまう、もしくは、溶融固化時に結晶化せずに脆くなるという特性を有する。
【0004】
特許文献1では、共晶や包晶などの過渡液相焼結するように複数の原材料を混合し、造型を可能にする材料組成が検討されている。炭化珪素からなる造形物を作製する造形材料として、炭化珪素と酸化アルミニウムと希土類酸化物とシリカの混合物、炭化珪素と窒化アルミニウムと希土類酸化物の混合物、炭化珪素と金属ゲルマニウムとの混合物が例示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2に記載されている粉末に含まれる各材料は、炭化珪素が3.2であるのに対して、窒化アルミニウムは3.4と比較的近いものの、シリカは2.7、金属ゲルマニウム5.3、希土類酸化物は5.0以上、と比重が異なる。そのため、粉末内に組成の偏りができやすく、得られる造形物の機械的強度に分布が生じる虞がある。
【0007】
本発明の目的は上記課題に鑑みてなされたものであり、粉末内の組成の偏りを低減し、機械的強度分布が改善された無機化合物を含む物品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明にかかる物品の製造方法は、無機化合物を含む第1材料のコアの表面に、前記第1材料と共晶をなす第2材料が付着した粒子を含む粉末からなる粉末層を形成する工程と、前記粉末層の所定の領域にエネルギービームを照射して、前記所定の領域の粉末を固化させる工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明にかかる粉末は、無機化合物を含む第1材料のコアの表面に、前記第1材料と共晶をなす第2材料が付着した粒子を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる物品の製造方法、あるいは炭化珪素を含む粉末を原料粉末として用いて物品を製造することにより、組成むらが低減して機械的強度分布が改善された物品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る粉末を構成する粒子の断面模式図である。
【
図2】本発明に好適に用いられる三次元造形装置の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、必要に応じて図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。
【0013】
粉末床溶融結合技術は、造形プレートの上に原料粉末を所定の厚さに敷き詰めて形成した粉末層に、エネルギービームを走査しながら照射し、所定の領域の粉末を選択的に溶融および結合させることを繰り返して物品を製造する方法である。エネルギービームが照射された原料粉末は、エネルギーを吸収して昇温し、少なくとも一部が溶融して固化する。
【0014】
従来技術では、物品を構成する各組成、具体的には炭化珪素とシリカ、あるいは炭化珪素と窒化アルミニウムが、別々の粒子として存在しているため、粉末内に組成の偏りが生じていた。そこで、本発明では、
図1に示す模式図のように、炭化珪素を含む物品を造形する原料粉末として、炭化珪素のコア11の表面に硼化金属12が付着した粒子を含む原料粉末10を用いる。
【0015】
炭化珪素と硼化金属とは、共晶を成す材料の組み合わせであるため、1つの粒子に含まれる材料比率を共晶組成に近い比率に調整することで、粉末を溶解する際の温度を、それぞれの材料の融点よりも低くすることができる。
【0016】
ここで、共晶/亜共晶について、説明しておく。金属などの材料X、材料Yの混合物では、融点がそれぞれの材料の融点よりも低くなる材料比率組み合わせがある。その時、融点が最も低くなる時の材料比率を共晶組成、その融点を共晶点という。
【0017】
炭化珪素と共晶を成す硼化金属としては、二硼化クロム、二硼化チタン、二硼化ジルコン、六硼化ランタンなどが知られている。従って、炭化珪素のコアの表面に付着させる硼化金属としては、一硼化クロム、二硼化クロム、二硼化チタン、二硼化ジルコン、二硼化バナジウム、六硼化ランタンが好ましい。
【0018】
また、1つの粒子に含まれる炭化珪素と硼化金属とのモル比が、共晶組成に近い比率であることが好ましく、共晶状態図で言うところの共晶組成から±10mol%の範囲にあるのが好ましい。炭化珪素とそれぞれの硼化金属との共晶組成は、二硼化クロムの場合は25mol%、二硼化チタンの場合は40mol%、二硼化ジルコンの場合は58.5mol%、六硼化ランタンの場合は26mol%である。
【0019】
硼化金属は、炭化珪素のコアの表面全体にほぼ均等に付着しているのが好ましい。硼化金属は、炭化珪素のコアの表面に離散的に付着していてもよいが、層状に形成されているのが好ましい。コアの表面に設ける手段としては、めっき法、蒸着法、スパッタ法などを用いることが可能である。
【0020】
炭化珪素の表面に硼化金属が付着して原料粉末を構成する1つの粒子を形成するため、原料粉末に組成のムラが生じるのを抑制することができる。さらに、粒子毎に炭化珪素と硼化金属とが共晶を成す組成比率となっているため、炭化珪素、硼化金属それぞれの融点よりも低い温度で、粉末を固化することが可能となる。
【0021】
粒子は、炭化珪素と共晶を成す硼化金属の中でも、炭化珪素の昇華点よりも低い融点を持つ硼化金属を表面に有しているのが好ましい。炭化珪素のコアの表面に炭化珪素の昇華点よりも低い融点を持つ硼化金属を有していると、エネルギービームの照射によって炭化珪素が昇華するよりも、先に硼化金属が溶融して炭化珪素のコアを覆うため、炭化珪素の昇華を抑制することができる。炭化珪素の昇華点よりも低い融点を持つ硼化金属としては、一硼化クロム、二硼化クロム、二硼化バナジウムが挙げられる。
【0022】
図2は、粉末床溶融結合技術を用いる造形装置の一例である。造形装置100は、ガス導入機構114、および排気機構113により、内部の雰囲気を制御することのできるチャンバー101を有している。チャンバー101の内部には、立体物を造形するための造形容器120と、造形材料である粉末(以下、原料粉末と記述する)を造形容器120に敷き詰めて粉末層111を形成するための粉末層形成機構106を有している。
【0023】
排気機構113は、圧力を調整するために、バタフライバルブ等の圧力調整機構を備えていてもよいし、ガス供給とそれに伴う圧力上昇によるチャンバー内の雰囲気を調整することができる構成(一般にブロー置換と呼ぶ)であってもよい。
【0024】
造形容器120の底部は、昇降機構108によって鉛直方向における位置を変えることができる造形ステージ107で構成されている。昇降機構108の移動方向および移動量は、制御部115によって制御され、形成する粉末層111の層厚に応じて造形ステージ107の移動量が決められる。造形ステージ107の造形面側には、ベースプレート109を設置するための構造(不図示)が設けられている。ベースプレート109は、ステンレスなど溶融可能な材料からなるプレートであり、1層目の粉末層を溶融固化する時に造形材料とともにその表面が溶融され、造形物をベースプレートに固定する構造が形成される。従って、造形の間に、ベースプレート109の上における造形物の位置がずれないよう保持することができる。造形が完了した後に、ベースプレート109は、造形物から機械的に切り離される。
【0025】
粉末層形成機構106は、原料粉末を収容する粉末収容部と、原料粉末を造形容器120に供給する供給機構を有している。さらに、ベースプレート109上に粉末層を設定した厚さに均すためのスキージおよびローラのいずれか一方を有していてもよいし、両方を有していてもよい。
【0026】
造形装置100は、さらに、原料材料を溶融させるためのエネルギービーム源102と、エネルギービーム112を2軸で走査させるための走査ミラー103A、103Bと、エネルギービームを照射部に集光させるための光学系104を備えている。エネルギービーム112がチャンバー101の外側から照射されるため、チャンバー101には、エネルギービーム112を内部に導入するための導入窓105が設けられている。エネルギービームのパワー密度や走査位置は、制御部115が取得した造形対象物の三次元形状データや原料材料の特性に従って、制御部115によって制御される。また、粉末層111の表面でビーム径が焦点を結んで最小径となるよう、あらかじめ造形容器120、光学系104の位置を調整しておく。表面におけるビーム径は、造形精度に影響するため、30~100μmとするのが好ましい。
【0027】
エネルギービーム112の照射によって原料粉末の温度を上昇させ、粉末の少なくとも一部を溶融させて固化させることによって造形が行われる。
【0028】
次に、造形方法を説明する。ベースプレート109をステージ107に設置し、チャンバー101の内部を、窒素やアルゴンなどの不活性ガスで置換する。置換が終了すると、ベースプレート109上に粉末層形成機構106により、粉末層111を形成する。粉末層111は、造形対象物の三次元形状データから生成したスライスデータのスライスピッチ、即ち、積層ピッチに応じた厚みで形成される。原料粉体に含まれる粒子のサイズは、小さすぎると凝集して均一な厚みの粉末層が形成できず、大きすぎると溶融させるのに高いエネルギーが必要となって造形が困難となってしまうため、粒子径が5~70μm程度の粉末が好ましい。また、粉末層の1層あたりの厚さは、造形精度に影響するため、30~100μm程度が好適である。
【0029】
ここで、本発明において、原料粉末の粒子径は、動的光散乱法を用いた計測から求められるメジアン径をいう。
【0030】
次に、エネルギービーム112をスライスデータに従って走査し、所定領域の原料粉末にエネルギービームを照射して溶融させる。エネルギービーム源102には、原料粉末が50%以上の高い吸収率を有する波長のエネルギーを出力できるものを用いるのが好ましい。特に、造形の際には、粒子表面の硼化金属を優先的に溶融させて炭化珪素の周りを包み状態を作り出すため、硼化金属が高い吸収率を有する波長域のエネルギービームを使用するのが好ましい。造形中にこのような状態を作り出すことで、炭化珪素の昇華による損失を抑制することができる。粒子表面が二硼化クロムである場合、波長1000~1120nmの光を含む半導体ファイバーレーザが好適である。
【0031】
エネルギービーム(レーザビーム)112は、エネルギービームを照射された領域の原料粉末が、数msecの間に溶融および凝固して粒子が互いに結合するレベルのエネルギー強度とするのが好ましい。最上層の粉末層は、エネルギービームが照射されて溶融固化した領域(固化領域)と、エネルギービームが照射されず粉末のままの領域とに分かれる。エネルギービームが照射される領域では、表面の層だけでなく、直下の層もある程度溶融凝固することが、造形に必要な条件である。直下の層の溶融が不十分だと、造形は層毎に剥離しやすく、強度の低い造形物となってしまう。なお、ベースプレート109の直上に敷いた最初の粉末層の溶融固化時には、ベースプレート109の表面を同時に溶融することが必要であるため、ベースプレートの熱容量、熱伝導などを考慮してエネルギービームの照射条件を加減する。
【0032】
続いて、昇降機構108により造形ステージ107を積層ピッチ分だけ降下させた後、固化領域を含む層の上に原料粉末を敷きつめて新たな粉末層を形成し、エネルギービーム112の走査および照射を行なう。エネルギービーム112が照射される領域では、すでに形成された固化領域の表面が再び溶融され固化される。このとき、新たな粉末層のビーム照射領域と先に溶融固化した領域との境界部で互いの材料が混じり合って固化して結合する。これらの操作を繰り返せば、層単位でレーザーを照射して形成した固化領域が一体となった造形物110を形成することができる。
【0033】
以下、実際に粉末を作製し、造形を行った例について説明する。
【0034】
(実施例)
炭化珪素の球形粒子を含む、信濃電気製錬株式会社製の球状炭化珪素粉末SSC-A30(5~100μm分布、メジアン径34μm)を500メッシュのふるいにかけ、25μm以下の微粉を除去する処理を行った。処理後の粉末のメジアン径は42μmであった。
【0035】
この粉末を3群に分け、群ごとに、処理時間を変えて、粉末を構成する粒子の表面に硼化クロムのめっきを行った。めっきは、無水クロム酸を200g/L、ホウ酸を30g/L、硫酸を2g/Lで混合した液を50℃に保持しためっき槽にて、バレルめっきを行った。得られた粉末をエポキシ樹脂に埋めて研磨し、めっき膜厚を計測した。処理時間が長いほどめっき膜厚が厚くなっており、3群それぞれの平均膜厚は1.5μm、2.3μm、3.0μmであった。メジアン径と膜厚から計算では、炭化珪素とクロムのモル比は、それぞれ、82:18、74:26、68:32であった。3群の粉末を、めっきの膜厚が小さい順に、それぞれ粉末1、2、3とする。
【0036】
粉末4として、実施例1~3と同様にふるいにかけた炭化珪素の球形粒子を含む粉末を、無水クロム酸を200g/L、硫酸を2g/Lずつ混合した液を50℃に保持しためっき槽により、バレルめっきを施した。得られた粉末を構成する粒子は、平均膜厚2.4μmのクロムめっき層を有していた。
【0037】
粉末5として、実施例1~3と同様にふるいにかけた炭化珪素の球形粒子を含む粉末50gと大きさ3~6μmの二硼化クロム粉末30gとを、ボールミルに20時間かけて混合した。炭化珪素と二硼化クロムの比率は、モル比で74:26となり共晶組成と等しくなるよう調整した。
【0038】
さらに、炭化珪素単体の粉末である球状炭化珪素粉末SSC-A30を粉末6とした。
【0039】
粉末1~6を原料として、
図2の三次元造形装置により造形物を作製した。具体的には、粉末層一層あたりの厚さを50μmとし、レーザーパワー100W、走査速度300mm/sec、走査ピッチ50μmで10mm×10mmの範囲にレーザーを照射し、20層繰り返して、10mm×10mm×1mmの板状の物品を作製した。粉末1~3で作成した造形物をそれぞれ実施例1~3、粉末4~6で作成した造形物をそれぞれ比較例1~3とし、以下の評価を行った。
【0040】
(平均硬度)
得られた造形物を#400~#4000の研磨紙で順次研磨し、0.3μmのアルミナスラリーで研磨仕上げしたものを評価した。評価は、ビッカース硬度(荷重100gf)で、2mm間隔で計25ポイント測定し、測定値を平均して平均硬度とする。
【0041】
(偏差)
各造形物の25ポイントの硬度の測定値のうち最大値と最小値との差を偏差とする。
【0042】
(硬度ばらつき)
偏差/平均硬度を硬さのばらつきとした。
【0043】
(総合評価)
平均硬度、偏差、硬度ばらつきの3つの評価結果に基づいて総合評価を行った。平均硬度が2000以上かつ硬度ばらつきが5%以下のものを「良」とし、いずれか一方を満たさないものを「不良」とした。
【0044】
結果を表1に記す。
【0045】
【0046】
実施例1~3は、いずれも平均硬度が2200と非常に高く、場所による硬度ばらつきが3%未満と均一性が高かった。比較例1は、硬度が1550と低いうえに硬度ばらつきが27%と大きく、比較例2は、平均硬度は2400と高いものの、10%の大きな硬度ばらつきがあった。また、比較例3は、見た目に空孔が目立ち、#400の研磨紙で研磨する際に崩れてしまった。
【0047】
さらに、電子顕微鏡およびEDX(エネルギー分散型X線分析)で各造形物の表面を観察し、結晶粒の大きさ、また、構成する元素を同定した。硼素を含まない比較例1は、珪素を含有する結晶粒は直径30μm~40μmのほぼ球形であり、炭化珪素が溶解した様子はうかがえなかった。それに対し、実施例1~3は、この順に珪素を含有する結晶粒の粒径が小さくなっている。特に、実施例2と3は、珪素含有物の微細化がみられ、プロセス中に炭化珪素が溶解し、さらに析出したものと考えられる。実施例1~3と、比較例1から、結晶粒の大きさが小さい方が硬度が高くなる傾向にあると考えられる。比較例2には、炭化珪素の粒径が小さくなっている場所があったが、場所ごとに大きさに差があった。珪素の粉末と二硼化クロムの粉末を混合した粉末では、充分な組成均一化が図れなかったと推測される。
【0048】
以上の結果から、本発明にかかる粉末を原料に用いることで、粉末床溶融結合技術により、硬度が高く、そのばらつきが小さい造形物を得ることができた。
【0049】
今回は、炭化珪素と硼化金属との組み合わせについて説明を行ったが、無機化合物とその無機化合物と共晶を成す材料との組み合わせであれば、同様の考え方を適用することができる。例えば、窒化珪素、窒化アルミニウムなどの窒化物、もしくは、酸化チタン、酸化アルミニウムなど酸化物、炭化タングステン、炭化チタンなどの炭化物のいずれかと、選択した無機化合物材料と共晶を成す材料を、公知の相図を参考に選ぶことができる。
【符号の説明】
【0050】
10 原料粉末
11 コア
12 硼化金属
100 造形装置
107 造形ステージ
109 ベースプレート
110 造形物
111 粉体層
112 エネルギービーム