(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】ガラス飛散防止シート
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20231221BHJP
C09J 133/08 20060101ALI20231221BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20231221BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20231221BHJP
C09J 175/04 20060101ALI20231221BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20231221BHJP
G06F 3/041 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J133/08
C09J11/06
C09J11/08
C09J175/04
B32B27/00 M
G06F3/041 460
(21)【出願番号】P 2019163365
(22)【出願日】2019-09-06
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000125978
【氏名又は名称】株式会社きもと
(74)【代理人】
【識別番号】100111419
【氏名又は名称】大倉 宏一郎
(72)【発明者】
【氏名】細越 克彦
(72)【発明者】
【氏名】倉科 隆之
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-141343(JP,A)
【文献】特開2018-205624(JP,A)
【文献】特開2018-177919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00 - 201/10
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モバイル機器のカバーガラスに貼付され、該カバーガラスが破損した際にガラス破片の飛散を防止するガラス飛散防止シートにおいて、
ガラス飛散防止シートは、フィルム基材の一方の面に、粘着剤組成物
から形成された粘着剤層を有する粘着シートからなり、
粘着シートの粘着剤層は、周波数100Hzでの損失正接(tanδ)が1.26以下に調整されており、
粘着剤組成物は、(メタ)アクリル酸エステル重合体
を含む主ポリマーと、架橋剤を有し、(メタ)アクリル酸エステル重合体は、アクリル酸ブチル由来の構成単位、
アクリル酸2-エチルヘキシル由来の構成単位、または、アクリル酸ブチル由来の構成単位とアクリル酸2-エチルヘキシル由来の構成単位の双方を含み、
架橋剤は、(メタ)アクリル酸エステル重合体がアクリル酸ブチル由来の構成単位を含む場合にはエポキシ系の架橋剤で、含まない場合にはイソシアネート系の架橋剤で構成し、
温度23℃及び相対湿度50%の環境下で、厚さ3mmのガラスに、粘着シートの粘着剤層面を2kgf荷重のローラーで貼り合わせ、30分後に、前記粘着シートを前記ガラスから、30,000mm/minの速度で180度方向に高速剥離したときに、スティックスリップ現象を起こさずに剥離可能であることを特徴とするガラス飛散防止シート。
【請求項2】
主ポリマーのガラス転移温度(Tg)が-40℃~-15℃である、請求項1記載のシート。
【請求項3】
(メタ)アクリル酸エステル重合体は、反応性官能基含有モノマー由来の構成単位を含み、反応性官能基含有モノマーは、その水酸基価が、1mgKOH/g以上、80mgKOH/g以下である、請求項1または2記載のシート。
【請求項4】
フィルム基材の、粘着剤層非形成面に、印刷適性を備えた機能層を有する、請求項1~3の何れか記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モバイル機器のカバーガラスに貼付して使用されるガラス飛散防止シートに関する。
【背景技術】
【0002】
各種モバイル機器(スマートフォンやタブレット端末など)は、その視認側表面に静電容量式タッチパネルのカバーガラスが配置されることが多い。こうした構成のモバイル機器が落下などによって大きな衝撃を受けると、カバーガラスが割れてガラス破片が周囲に飛散する。そこで、カバーガラスが割れた場合でもガラス破片の飛散を防止すべく、カバーガラスの表面(タッチ面側)や裏面(非タッチ面側)に、粘着剤層を備えた飛散防止シートを貼り付けることが提案されている(例えば、特許文献1,2)。なお、飛散防止シートは、それが非タッチ面側に貼り付けられる場合、内貼りシートと呼ばれることもある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-168652
【文献】特開2016-162284
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2による技術など、従来の、粘着剤層を備えたシートでは、モバイル機器が落下し、カバーガラスが割れた際のガラス破片の飛散防止性能が十分ではなく、その改善が求められていた。
【0005】
本発明の一側面では、ガラス破片の飛散防止性能が改善されたガラス飛散防止シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、落下による地面への衝突時にモバイル機器に瞬間的にかかる大きな力に追従可能な変形性能を、モバイル機器のカバーガラスに貼付するシートの粘着剤層に付与すれば、これまでよりも、ガラス破片の飛散防止性能を改善できるものと考えた。そして、この変形性能(すなわち、瞬間的に大きな力が加わったときに追従できる性能)は、粘着剤層の「剥離性能」を制御することによって、具体的には、「貼り合わせた後の対象物から高速で剥離した際、スティックスリップ現象を起こさずに剥離可能」となるように粘着剤層を構成すればよく、これによって飛散防止性能を改善することができることを見出し、本発明を完成させた。
加えて、さらに、粘着剤層の「高周波(100Hz)での粘弾特性」を制御すれば、より一層、飛散防止性能の改善が期待できることも見出した。
【0007】
すなわち、本発明に係るガラス飛散防止シートは、モバイル機器のカバーガラス(特に、モバイル機器の視認側表面に配置される静電容量式タッチパネルのカバーガラス)に貼付され、該カバーガラスが破損した際にガラス破片の飛散を防止するシートにおいて、
該シートは、フィルム基材の一方の面に、粘着剤組成物で構成された粘着剤層を有する粘着シートからなり、
温度23℃及び相対湿度50%の環境下で、厚さ3mmのガラスに、粘着シートの粘着剤層面を2kgf荷重のローラーで貼り合わせ、30分後に、粘着シートをガラスから、30,000mm/minの速度で180度方向に高速剥離したときに、スティックスリップ現象を起こさずに剥離可能であることを特徴とする。
【0008】
本発明に係るガラス飛散防止シートにおいて、粘着剤層は、周波数100Hzでの損失正接(tanδ)が1.26以下に調整されていてもよい。
【0009】
本発明に係るガラス飛散防止シートにおいて、粘着剤層を構成する粘着剤組成物は、アクリル酸ブチル由来の構成単位を含む(メタ)アクリル酸エステル重合体と、架橋剤と、を有していてもよい。
【0010】
本発明に係るガラス飛散防止シートにおいて、フィルム基材の、粘着剤層非形成面に、印刷適性を備えた機能層を有していてもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るガラス飛散防止シートは、高速剥離の際にスティックスリップ現象を起こさずに剥離可能となるように構成しているため、従来構成のシートと比較して、ガラス破片の飛散防止性能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るガラス飛散防止シートの断面図である。
【
図2】タッチパネルの一構成例を示す断面図である。
【
図3】実施例の特性評価(耐衝撃試験)で用いたブロック状試験片の概要図である。
【
図4】
図3のブロック状試験片に適用した試験装置の概要図である。
【
図5】
図4の一点鎖線により囲まれた部分の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0014】
[ガラス飛散防止シート]
図1に示すように、本発明の一実施形態に係るガラス飛散防止シート1は、粘着剤組成物で構成された粘着剤層11をフィルム基材12の一方の面に有する粘着シートからなり、モバイル機器の視認側表面に配置される静電容量式タッチパネルのカバーガラスに貼付される。
【0015】
静電容量式タッチパネルの構成は、種々存在するが、典型的な一例として、液晶モジュール等の表示体モジュールと、該モジュール上に積層されたフィルムセンサーと、該センサー上に積層されたカバーガラスと、を備えた構成が挙げられる。
【0016】
本発明において、ガラス飛散防止シートは、モバイル機器の外貼りシートとして、カバーガラスの外面(タッチ面)に貼付してもよく、あるいは、モバイル機器の内貼りシートとして、カバーガラスの内面(非タッチ面。例えば、フィルムセンサーとカバーガラスの間)に貼付することもできる。本実施形態では、カバーガラス21(
図2参照)の内面(非タッチ面)に貼付する場合を例示する。
【0017】
本実施形態のガラス飛散防止シート1は、該シートを構成する粘着シートの粘着剤層11面を、温度23℃及び相対湿度50%の環境下で、厚さ3mmのガラスに、2kgf荷重のローラーで貼り合わせ、30分後に、粘着シートをガラスから、30,000mm/minの速度で180度方向に高速剥離したときに、スティックスリップ現象を起こさずに剥離可能であることを特徴とする。
【0018】
この条件下でスティックスリップ現象が発生する場合、モバイル機器の、落下による地面への衝突の際、粘着シート(の粘着剤層11)がカバーガラスから剥がれ、その結果、破損したカバーガラスのガラス破片の飛散を完全に防止することができないことを、本発明者らが見出した。すなわち、この条件で、粘着シート(の粘着剤層11)がカバーガラスから剥離するのは、モバイル機器に瞬間的に大きな力が加わったときに、粘着剤層が変形(追従)できていないため、と考えられる。
【0019】
本実施形態のガラス飛散防止シート1を構成する粘着シートの粘着剤層11は、粘性的な性質と弾性的な性質の両方を持つ粘弾性体である。粘性的な性質を持つ粘性体は、変形速度(衝撃速度)が上がるほど、変形しにくくなる性質があり、一方、弾性的な性質のみからなる完全弾性体は、変形速度が速くなっても、変形に係るエネルギーが変わらず、変形できるという性質がある。
【0020】
粘着剤層内に、弾性部分と粘性部分とがランダムに存在し、弾性部分が多く(例えば全体の80%以上)、粘性部分が少ない(例えば全体の20%未満)状態の粘着剤層である場合、該粘着剤層が変形し、大きな力が瞬間的に加わると変形性に違いがあるため、粘着剤層面内にひずみが起こり、剥離するのではないかと考えている。すなわち、本実施形態のガラス飛散防止シート1を構成する粘着シートの粘着剤層11は、内部にランダムに存在する弾性部分と粘性部分との変形性を少なくすべく、弾性部分と粘性部分の比が、例えば、45:55~55:45であることが好ましい。
【0021】
本発明では、粘着シートの粘着剤層を、この変形性能を有するように構成したことにより、結果的に、破損したカバーガラスのガラス破片の飛散を完全に防止することができる。
【0022】
本発明において「スティックスリップ」とは、例えば、JIS-Z0237に記載の試験板に対する180度引き剥がし粘着力測定試験に準拠する条件で測定したときの、粘着力-引き剥がし時間曲線のグラフにも示されるように、粘着力がある一定の最大値を一定時間保持した後、急激に粘着力が減少し、その後直ちに粘着力が元に戻るのを何回か繰り返しながら剥離していく現象をいう。
【0023】
「スティックスリップ現象を起こさない」とは、最大粘着力に対して、30%以上増減する振幅が繰り返し(2回以上)発生しないことをいう。粘着力の振幅が30%未満の場合は、連続的に剥離している状態であり、この状態は“スティックスリップ”による剥離ではないものとする。
【0024】
本実施形態のガラス飛散防止シート1は、上記性能に加え、粘着シートの粘着剤層11が、周波数100Hzでの損失正接(tanδ)が1.26以下、好ましくは1.23以下に調整されていることが好ましい。スティックスリップ現象を起こさずに剥離可能であることに加え、高周波(100Hz)での粘弾性、具体的にはtanδが1.26以下であれば、飛散防止性能のさらなる改善が期待できることも、本発明者らにより見出された。
【0025】
以上の性能を備える、本実施形態の粘着剤層11は、粘着成分を含む粘着剤組成物で構成される。
【0026】
粘着成分は、主ポリマーとしての(メタ)アクリル酸エステル重合体を含有することが好ましい。(メタ)アクリル酸エステルとは、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの両方を意味する。他の類似用語も同様である。また、「重合体」には「共重合体」の概念も含まれるものとする。
【0027】
(メタ)アクリル酸エステル重合体は、該重合体を構成する主成分モノマーとして、アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを含有することが好ましい。これにより、得られる粘着剤は、好ましい粘着性を発現することができる。
(メタ)アクリル酸エステル重合体は、アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、反応性の官能基を有するモノマー(反応性官能基含有モノマー)と、所望により用いられる他のモノマーと、の共重合体で構成することもできる。(メタ)アクリル酸エステル重合体が、該重合体を構成するモノマーとして反応性官能基含有モノマーを含有することにより、架橋剤と反応して架橋構造を形成することができる。
【0028】
アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸n-ペンチル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸n-デシル、(メタ)アクリル酸n-ドデシル、(メタ)アクリル酸ミリスチル、(メタ)アクリル酸パルミチル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。中でも、ガラス転移温度を調整しやすいという観点から、アルキル基の炭素数が1~8の(メタ)アクリル酸エステルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸n-ブチルおよび(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシルがより好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
特に、少なくとも、アクリル酸n-ブチル(BA)由来の構成単位を含む(メタ)アクリル酸エステル重合体を用いることにより、高速剥離時のスティックスリップ現象を起こさないように調整しやすい。
【0029】
(メタ)アクリル酸エステル重合体は、該重合体を構成するモノマー単位として、アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを少なくとも含み(0質量%超)、100質量%以下で含有することが好ましく、20~80質量%含有することがより好ましい。
【0030】
反応性官能基含有モノマーとしては、分子内に水酸基を有するモノマー(水酸基含有モノマー)、分子内にカルボキシル基を有するモノマー(カルボキシル基含有モノマー)、分子内にアミノ基を有するモノマー(アミノ基含有モノマー)などが好ましく挙げられる。中でも特に水酸基含有モノマーが好ましい。これらの反応性官能基含有モノマーは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
水酸基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチルなどの(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。中でも、得られる(メタ)アクリル酸エステル重合体における水酸基の、架橋剤との反応性および他の単量体との共重合性の点から(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルが好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
カルボキシル基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸が挙げられる。中でも、得られる(メタ)アクリル酸エステル重合体(A)におけるカルボキシル基の、架橋剤との反応性および他の単量体との共重合性の点からアクリル酸が好ましい。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0033】
アミノ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸n-ブチルアミノエチル等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0034】
(メタ)アクリル酸エステル重合体は、架橋の観点から、該重合体を構成するモノマー単位として、反応性官能基含有モノマー(特に水酸基含有モノマー)を含有することが好ましい。反応性官能基含有モノマーは、その水酸基価が、1mgKOH/g以上、80mgKOH/g以下であることが好ましく、より好ましくは、5mgKOH/g以上、50mgKOH/g以下である。
【0035】
(メタ)アクリル酸エステル重合体が、該重合体を構成するモノマーとして含有し得る他のモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)
アクリル酸エトキシエチル等の(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル、アクリルアミド、メタクリルアミド等の非架橋性のアクリルアミド、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノプロピル等の非架橋性の3級アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル、酢酸ビニル、スチレンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0036】
(メタ)アクリル酸エステル重合体の重合態様は、ランダム共重合体であってもよいし、ブロック共重合体であってもよい。
【0037】
(メタ)アクリル酸エステル重合体の重量平均分子量(Mw)は30万~60万であることが好ましく、40万~60万であることがより好ましい。重量平均分子量が30万未満の場合、凝集破壊を生ずるおそれがある。一方、重量平均分子量が60万を超える場合、粘着力不足を生ずるおそれがある。なお、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定したポリスチレン換算の値である。
【0038】
前記重量平均分子量は、例えば、以下の測定条件によって測定することができる。
カラム:「TSK-gel superHZM-M」、「TSK-gel HZM-M」、「TSK-gel HZ2000」
溶離液:THF
流量:0.35mL/min
注入量:10μL
カラム温度:40℃
検出器:UV-8020
【0039】
(メタ)アクリル酸エステル重合体のガラス転移温度(Tg)は、-70℃~0℃であることが好ましい。Tgが-70℃未満の場合、凝集力不足のおそれがある。一方、Tgが0℃を超える場合、粘着性が発現しないおそれがある。粘着力、タック、凝集力のバランスをとるという観点からは、主ポリマーのTgは、-40℃~-15℃であることがより好ましい。なお、主ポリマーのTgは、以下のFOXの式による主ポリマーのガラス転移温度Tg(℃)の関係式で計算した値である。
【0040】
1/(273+Tg)=Σ{Wi/(273+Tgi)}
【0041】
上記式中の「Wi」は単量体iの質量分率、「Tgi」は単量体iの単独重合体のTg(℃)である。なお、単独重合体のガラス転移温度は、「ポリマーハンドブック 第4版 John Wiley & Sons著」に記載の数値を用いることができる。上記文献に記載されていない単量体の単独重合体のガラス転移温度は、動的粘弾性測定による損失正接(tanδ)のピークトップ温度を採用すればよい。
【0042】
粘着成分において、(メタ)アクリル酸エステル重合体は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
粘着成分は、架橋剤を含有することが好ましい。粘着成分が、重合体を構成するモノマー単位として反応性官能基含有モノマーを含む(メタ)アクリル酸エステル重合体と、架橋剤と、を含有する場合、その粘着成分を含む粘着剤組成物を加熱等すると、架橋剤は、(メタ)アクリル酸エステル重合体を構成する反応性官能基含有モノマーの反応性官能基と反応する。これにより、架橋剤によって(メタ)アクリル酸エステル重合体が架橋された構造が形成され、得られる粘着剤の凝集力が向上する。
【0044】
架橋剤としては、(メタ)アクリル酸エステル重合体が有する反応性官能基と反応するものであればよく、例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、アミン系架橋剤、メラミン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、ヒドラジン系架橋剤、アルデヒド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、アンモニウム塩系架橋剤等が挙げられる。(メタ)アクリル酸エステル重合体が反応性官能基として水酸基を有する場合、上記の中でも、水酸基との反応性に優れたイソシアネート系架橋剤を使用することが好ましい。架橋剤は、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0045】
エポキシ系架橋剤としては、エチレングリコールジグリシジルエーテルなどが挙げられる。中でも、N,N,N',N'-テトラグリシジル-m-キシリレンジアミンが好ましい。
【0046】
イソシアネート系架橋剤は、少なくともポリイソシアネート化合物を含むものである。ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ポリイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート等の脂環式ポリイソシアネートなど、及びそれらのビウレット体、イソシアヌレート体、さらにはエチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ヒマシ油等の低分子活性水素含有化合物との反応物であるアダクト体などが挙げられる。
中でも水酸基との反応性の観点から、トリメチロールプロパン変性の芳香族ポリイソシアネート、特にトリメチロールプロパン変性キシリレンジイソシアネートおよびトリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネートが好ましい。
【0047】
架橋剤の配合割合は、架橋剤の種類や官能基の数等によって異なるため特に限定されるものではない。100質量部の(メタ)アクリル酸エステル重合体に対し、例えば、0.04~5.0質量部の範囲が好ましい。架橋剤の配合割合を0.04質量部以上にすることで、凝集破壊をしにくくなり、5.0質量部以下とすることにより、粘着力を調整しやすいの点で都合がよい。
【0048】
粘着剤組成物は、所望により、各種添加剤、例えば、シランカップリング剤、屈折率調整剤、帯電防止剤、粘着付与剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、軟化剤、充填剤等を含有してもよい。
【0049】
例えば、得られる粘着剤の粘着力を改善する観点から、シランカップリング剤を含有することが好ましい。シランカップリング剤としては、分子内にアルコキシシリル基を少なくとも1個有する有機ケイ素化合物であって、粘着成分との相溶性がよく、光透過性を有するものが好ましい。
【0050】
かかるシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の重合性不飽和基含有ケイ素化合物、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ構造を有するケイ素化合物、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン等のメルカプト基含有ケイ素化合物、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノ基含有ケイ素化合物、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、あるいはこれらの少なくとも1つと、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン等のアルキル基含有ケイ素化合物との縮合物などが挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
粘着剤組成物中でのシランカップリング剤の含有量は、粘着成分100質量部に対して、0.05~1.5質量部であることが好ましく、0.07~1.0質量部であることがより好ましい。
【0052】
粘着剤組成物は、粘着成分と、所望により添加剤とを混合することにより製造することができる。粘着成分が(メタ)アクリル酸エステル重合体を含有する場合には、先に(メタ)アクリル酸エステル重合体を調製し、所望により架橋剤を配合する。
【0053】
(メタ)アクリル酸エステル重合体は、重合体を構成するモノマー単位の混合物を通常のラジカル重合法で重合することにより製造することができる。(メタ)アクリル酸エステル重合体の重合は、所望により重合開始剤を使用して、溶液重合法等により行うことができる。重合溶媒としては、例えば、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸イソブチル、トルエン、アセトン、ヘキサン、メチルエチルケトン等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。
【0054】
重合開始剤としては、アゾ系化合物、有機過酸化物等が挙げられ、2種類以上を併用してもよい。アゾ系化合物としては、例えば、2,2'-アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1'-アゾビス(シクロヘキサン1-カルボニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)、ジメチル2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4'-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、2,2'-アゾビス(2-ヒドロキシメチルプロピオニトリル)、2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]等が挙げられる。
【0055】
有機過酸化物としては、例えば、過酸化ベンゾイル、t-ブチルパーベンゾエイト、クメンヒドロパーオキシド、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)パーオキシジカーボネート、t-ブチルパーオキシネオデカノエート、t-ブチルパーオキシビバレート、(3,5,5-トリメチルヘキサノイル)パーオキシド、ジプロピオニルパーオキシド、ジアセチルパーオキシド等が挙げられる。
【0056】
なお、上記重合工程において、2-メルカプトエタノール等の連鎖移動剤を配合することにより、得られる重合体の重量平均分子量を調節することができる。
【0057】
(メタ)アクリル酸エステル重合体が得られたら、(メタ)アクリル酸エステル重合体の溶液に、所望により、架橋剤および添加剤を添加し、十分に混合することにより、溶剤で希釈された粘着剤組成物(塗布溶液)を得る。
【0058】
粘着剤組成物を希釈して塗布溶液とするための希釈溶剤としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、塩化メチレン、塩化エチレン等のハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、2-ペンタノン、イソホロン、シクロヘキサノン等のケトン、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル、エチルセロソルブ等のセロソルブ系溶剤などが用いられる。
【0059】
このようにして調製された塗布溶液の濃度・粘度としては、コーティング可能な範囲であればよく、特に制限されず、状況に応じて適宜選定することができる。例えば、粘着剤組成物の濃度が10~40質量%となるように希釈する。なお、塗布溶液を得るに際して、希釈溶剤等の添加は必要条件ではなく、粘着剤組成物がコーティング可能な粘度等であれば、希釈溶剤を添加しなくてもよい。
【0060】
本実施形態の粘着剤層11は、上記粘着剤組成物から形成され、具体的には、粘着剤組成物の塗布溶液を所望の材料(剥離シートやガラス飛散防止シートのフィルム基材等)に塗布し、硬化(架橋)することにより形成される。粘着剤組成物を、塗布後に乾燥、好ましくは加熱処理して硬化させることにより、粘着剤層11を得ることができる。加熱処理後、必要に応じて、常温(例えば、23℃、50%RH)で7~14日程度の養生期間を設けてもよい。
【0061】
粘着剤組成物の塗布溶液を塗布する方法としては、例えばバーコート法、ナイフコート法、ロールコート法、ブレードコート法、ダイコート法、グラビアコート法等を利用することができる。
【0062】
粘着剤組成物の乾燥は、風乾によって行ってもよいが、通常は加熱処理(好ましくは熱風乾燥)によって行う。加熱処理を行う場合、加熱温度は、90~110℃であることが好ましい。また、加熱時間は、120秒~4分であることが好ましい。
【0063】
粘着剤組成物の粘着成分が(メタ)アクリル酸エステル重合体および架橋剤を含有する場合、粘着剤組成物の乾燥(加熱処理)により、(メタ)アクリル酸エステル重合体は架橋剤によって架橋されて、架橋構造を形成する。
【0064】
粘着剤層11の厚みは、特に限定されるものではなく、基材の材料に応じた厚みを適宜選択すればよく、具体的には0.5μm~50μm、好適には5~30μmとすることが好ましい。
【0065】
フィルム基材12としては、タッチパネルのカバーガラスが割れたときに、ガラスの飛散を防止できる程度の強度を有し、かつ、光学的透明性の高い材料からなるものであればよく、通常はプラスチックフィルムを主体とし、プラスチックフィルムのみからなってもよいし、プラスチックフィルムの、粘着剤層11とは反対面に、所望の機能層が形成されたものであってもよい。
【0066】
プラスチックフィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、トリアセチルセルロース、アクリルなどの材質で形成された透明フィルムが挙げられる。これらの中でも、延伸加工、特に二軸延伸加工されたポリエチレンテレフタレートフィルムが、機械的強度や寸法安定性に優れる点で好ましい。
【0067】
機能層としては、例えば、ハードコート層、反射防止層、防眩層、易滑層、帯電防止層などが挙げられる。特に、モバイル機器の視認側(カバーガラス)に意匠性を付与すべく、少なくとも印刷適性を備えた層を設けることもできる。
【0068】
フィルム基材12の厚さは、一般には6~500μmであり、好ましくは23~200μmである。
【0069】
本実施形態の粘着シートの一製造例としては、まず、粘着剤層12と接する面に剥離処理が施された剥離シートを準備する。剥離シートとしては、例えば、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリブテンフィルム、ポリブタジエンフィルム、ポリメチルペンテンフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、塩化ビニル共重合体フィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリブチレンテレフタレートフィルム、ポリウレタンフィルム、エチレン酢酸ビニルフィルム、アイオノマー樹脂フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体フィルム、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体フィルム、ポリスチレンフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリイミドフィルム、フッ素樹脂フィルム等が用いられる。また、これらの架橋フィルムも用いられる。さらに、これらの積層フィルムであってもよい。
剥離処理に使用される剥離剤としては、例えば、アルキッド系、シリコーン系、フッ素系、不飽和ポリエステル系、ポリオレフィン系、ワックス系の剥離剤が挙げられる。
剥離シートの厚さに制限はなく、通常20~150μm程度である。
【0070】
準備した剥離シートの剥離面に、上述した粘着剤組成物の塗布液を塗布し、加熱処理を行って硬化(架橋)させ、塗布層を形成した後、その塗布層にフィルム基材12を貼合する。養生期間が必要な場合は養生期間をおくことにより、養生期間が不要な場合はそのまま、塗布層が粘着剤層11となり粘着シートが得られ、これにより、本実施形態のガラス飛散防止シート1が得られる。
【0071】
得られた本実施形態のガラス飛散防止シート1を使用することにより、例えば、
図2に示す静電容量式のタッチパネル2を製造することができる。
【0072】
[静電容量式のタッチパネル]
本実施形態のタッチパネル2は、表示体モジュール26と、その上に粘着剤層25を介して積層されたフィルムセンサー24と、その上に粘着剤層23を介して積層された、本実施形態のガラス飛散防止シート1(剥離シートは剥離済み)と、そのシート1の粘着剤層11を介して積層された、パターニングされた透明導電膜22付きのカバーガラス21と、を備えて構成される。
すなわち、このタッチパネル2では、ガラス飛散防止粘着シート1は、内貼りシートとして、カバーガラス21の裏面側(表示体モジュール26側)に設けられている。
【0073】
本実施形態のタッチパネル2では、カバーガラス21に透明導電膜22が設けられているが、透明導電膜22は別の部位に設けられていてもよい。
【0074】
表示体モジュール26としては、例えば、液晶(LCD)モジュール、発光ダイオード(LED)モジュール、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)モジュール等が挙げられる。
【0075】
粘着剤層23および25は、所望の粘着剤または粘着シートによって形成すればよく、飛散防止粘着シート1の粘着剤層11と同様の粘着剤によって形成してもよい。
上記所望の粘着剤としては、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリビニルエーテル系粘着剤等が挙げられるが、中でもアクリル系粘着剤が好ましい。
【0076】
フィルムセンサー24は、通常、基材フィルム241と、パターニングされた透明導電膜242と、から構成される。基材フィルム241としては、例えば、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリメチルメタクリレートフィルム、トリアセチルセルロースフィルム、ポリプロピレンフィルム等が使用される。
【0077】
透明導電膜242としては、例えば、白金、金、銀、銅等の金属、酸化スズ、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化亜鉛、二酸化亜鉛等の酸化物、スズドープ酸化インジウム(ITO)、酸化亜鉛ドープ酸化インジウム、フッ素ドープ酸化インジウム、アンチモンドープ酸化スズ、フッ素ドープ酸化スズ、アルミニウムドープ酸化亜鉛等の複合酸化物、カルコゲナイド、六ホウ化ランタン、窒化チタン、炭化チタン等の非酸化化合物などからなるものが挙げられ、中でも、ITOからなるものが好ましい。
【0078】
タッチパネル2におけるフィルムセンサー24の透明導電膜242は、
図2中、フィルムセンサー24の上側に位置しているが、フィルムセンサー24の下側に位置してもよい。
【0079】
カバーガラス21のガラス材料としては、特に限定されることなく、例えば、化学強化ガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、ソーダライムガラス、バリウム・ストロンチウム含有ガラス、アルミノケイ酸ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、バリウムホウケイ酸ガラス等が挙げられる。カバーガラス21の表面には、所望の機能層(例えば、ハードコート層など)が設けられていてもよい。
【0080】
カバーガラス21の厚さは、特に限定されることはないが、通常0.5~2.0mmであり、好ましくは0.7~1.5mmである。
【0081】
本実施形態のタッチパネル2では、カバーガラス21に透明導電膜22がパターニングされて設けられている。透明導電膜22の材料としては、フィルムセンサー24の透明導電膜242と同様のものを使用することができる。なお、透明導電膜22およびフィルムセンサー24の透明導電膜242は、通常、一方がX軸方向の回路パターンを構成し、他方がY軸方向の回路パターンを構成する。
【0082】
タッチパネル2を製造する場合、飛散防止シート1の剥離シートを剥離して、露出した粘着剤層11を、カバーガラス21の裏面側に設けられている透明導電膜22に貼付した後、当該飛散防止シート1付きのカバーガラス21を使用して、常法によりタッチパネル2を製造すればよい。
【0083】
タッチパネル2においては、落下等により大きな衝撃を受けてカバーガラス21が割れた場合であっても、カバーガラス21に貼付された飛散防止シート1の存在により、ガラス破片が飛散することが防止される。
【実施例】
【0084】
以下、実施例により本発明を更に説明する。なお、「部」、「%」は特に示さない限り、重量基準とする。
【0085】
1.ガラス飛散防止シートの作製
[実験例1]
アクリル酸n-ブチルを含むモノマー混合物を重合させて、主ポリマーとしての(メタ)アクリル酸エステル重合体を調製した。この(メタ)アクリル酸エステル重合体の、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定(GPC測定)したポリスチレン換算の重量平均分子量(Mw)は45万であり、FOXの式(前出)により求めたガラス転移温度(Tg)は、-40℃であった。
【0086】
得られた(メタ)アクリル酸エステル重合体:100質量部(固形分換算)に、エポキシ系架橋剤:0.99質量部を添加したものを溶剤で希釈し、十分に撹拌することにより、粘着剤組成物の塗布溶液を得た。
【0087】
以降の実験例を含め、粘着剤組成物の配合を表1に示す。表1に記載の組成の略号の詳細は以下のとおりである。表1記載の組成は、主ポリマーの重合に用いたモノマー混合物のうち、主成分モノマー(アルキル基の炭素数が1~20の(メタ)アクリル酸アルキルエステル)の組成のみを示している。
BA: アクリル酸n-ブチル
2EHA: アクリル酸2-エチルヘキシル
EA: アクリル酸エチル
【0088】
フィルム基材として、厚み50μmの透明PETフィルム(ルミラー:東レ社、離型処理なし)を使用し、その片面に、得られた粘着剤組成物の塗布溶液をバーコート法により塗布したのち、100℃で3分間加熱処理して粘着剤組成物の塗膜層(粘着剤層)を形成した。その後、23℃、50%RHで7日間養生することにより、厚さ25μmの粘着剤層を形成し、シートサンプル(ガラス飛散防止シート)を得た。
【0089】
〔実験例2~6〕
(メタ)アクリル酸エステル重合体を構成する各主成分モノマーの組成および主ポリマーの重量平均分子量、並びに、使用した架橋剤の種類および配合量を表1に示すように変更した以外、実験例1と同様にしてシートサンプルを製造した。
なお、実験例5と実験例6につき、(メタ)アクリル酸エステル重合体(主ポリマー)を構成する各主成分モノマーの組成および主ポリマーのMw、並びに、使用した架橋剤の種類および配合量は、それぞれ、主成分モノマーの組成(2EHA/EA)、主ポリマーのMw(50万)、種類(イソシアネート系)、配合量(0.40)と同一であるが、主ポリマーの重合に用いたモノマー混合物に主成分モノマーとともに含有させたコモノマーの種類や配合量を異ならせたことにより主ポリマーのTgの点で、両者は異なっている。
【0090】
2.評価
各実験例で得られたシートサンプルについて、下記項目の評価をした。結果を表1に示す。
【0091】
(2-1)スティックスリップ
各実験例で作製したシートサンプルを用い、幅25mm×長さ250mmのシート試験片を準備した。次に、23℃及び50%RHの環境下で、厚さ3mmのガラスに、シート試験片の粘着剤層面を2kgf荷重のローラーで貼り合わせ、30分後に、シート試験片のフィルム基材端部(遊び部分)をガラスから180度に折り返し、30,000mm/分の引張速度で連続して剥離させたときの剥離強度(引き剥がし時間に対する180度引き剥がし粘着力。単位:N/25mm)を測定し、かつ、同様の方法でシート試験片をガラスから引き剥がした際の、スティックスリップ現象発生の有無を観察し、以下の基準で評価した。
測定機器として、剥離試験機 粘着・皮膜剥離解析装置(VPA-2:協和界面化学社)を使用した。
【0092】
〇:スリップスティック現象が発生しなかった(良好)
(※粘着力の振幅が最大粘着力に対して30%未満)
×:スティックスリップ現象が発生した(不良)
【0093】
(2-2)損失正接(tanδ)
粘弾性測定装置PHYSICA MCR301(Anton Paar社製)、温度制御システムCTD450、解析ソフトRheoplus、ジオメトリーにはφ8mmの上下格子目加工パラレルプレート、を用いて測定した。
20mm×20mm、厚さ500μmの正方形のシート試験片を準備した。次に、このシート試験片を測定温度にした粘弾性測定装置のプレートに挟み、ノーマルフォース:0.2μNとなるようにプレート間距離を調整した。更に測定温度±1℃を2分間保持した後、歪み1%、周波数100Hz、温度条件23℃、窒素雰囲気にした。
次に、周波数を高周波(100Hz)にし、測定を行った。対数昇降、測定点数は5点/桁の条件で動的粘弾性測定を行うことで、シート試験片(特に粘着剤層)の損失正接(tanδ)を測定し、以下の基準で評価した。
なお、本評価で用いたシート試験片は、各実験例で作製したシートサンプルのフィルム基材(離型処理なし)を、離型処理ありのフィルム基材に変更して、その離型処理面に、厚み20~25μmの粘着剤層を形成した。さらに、当該粘着剤層のみをシート試験片の所定厚み(500μm)となるように積層したもので測定を行った。
【0094】
〇:tanδが1.26以下(良好)
×:tanδが1.26超(不良)
【0095】
(2-3)耐衝撃試験(簡易飛散防止性能試験)
まず、各実験例で作製したシートサンプルを、その粘着
剤層を介してガラス板(素ガラス)に貼りあわせた積層体(フィルム基材/粘着剤層/ガラス板の層構成)を準備した。次いで、アクリルブロック30(縦10mm×横10mm×高さ10mm)を、市販の接着剤32にて、準備した積層体のフィルム基材側に接着した。
次に、
図3に示すように、アクリルブロック30周辺の不要部分(フィルム基材/粘着剤層)をカッターにて除去することによって、ガラス板40上に、ブロック状の試験片50(アクリルブロック30/接着剤32/シートサンプル1a(フィルム基材12a/粘着剤層11a))を得た。
次に、23℃及び50%RHの環境下にて、5時間放置して試験片50中の接着剤32を硬化させた後、接着剤硬化後のブロック状の試験片50aを、
図4示す衝撃試験装置60(Digital impact tester QM 700CA、Qmesys社)にセットし、その後、ハンマー62(荷重:273g)を所定の角度まで持ち上げ、試験片50aの一部(アクリルブロック30)に衝撃を加えた。試験片50aに対して、垂直方向を0度とし、半時計周りにハンマー62を持ち上げた時の角度で評価を行った。ブロック状試験片50aがフィルムごとガラス板40から剥離したときの角度を下記基準で評価した。
なお、
図4及び5中、符号64と66は、それぞれ、試験片50aが貼り合わせられたガラス板40の押さえ板と固定台、符号68はハンマー62の操作盤である。
【0096】
◎:40度以上(特に良好)
〇:35度以上~40度未満(良好)
×:35度未満(不良)
【0097】
(2-4)飛散防止性
スマートフォン(モバイル機器の一例)の筐体のカバーガラス内面に、各実験例で作製したシートサンプルをその粘着剤層が対向するように貼り合わせ、ガラス/粘着剤層/フィルム基材の構成(カバーガラスと飛散防止シートとの積層体)の評価サンプル(総重量:130g)を得た。
次に、23℃及び50%RHの環境下にて、30分放置後、評価サンプルを45度傾けた状態で、約100cmの高さより、評価サンプルの角から落ちる(床に衝突する)ように10回落下させ、荷重のかかった箇所の状態を目視にて確認し、以下の基準で評価した。
【0098】
◎:剥がれが全くみられない(0回/10回)
〇:剥がれが殆どみられない(1~2回/10回)
×:剥がれが多くみられる(3回以上/10回)
【0099】
【0100】
3.考察
表1に示すように、シート試験片をガラスから高速剥離した際の、スティックスリップ発生の有り無しと、飛散防止性能との相関が認められた。すなわち、高速剥離時にスティックスリップが生じてしまう粘着剤層を持つもの(実験例5及び6)は、飛散防止性能を改善できなかった。
一方、高速剥離時にスティックスリップを生じさせないように粘着剤層を構成したもの(実験例1~4)は、飛散防止性能を改善できることが確認できた。中でも、高周波(100Hz)での損失正接(tanδ)が1.26以下に調整された粘着剤層を持つもの(実験例1~3)は、そうでないもの(実験例4)と比較して、より一層、耐衝撃性と飛散防止性に優れていることが確認できた。
【符号の説明】
【0101】
1… ガラス飛散防止シート
1a… シートサンプル(ガラス飛散防止シート)
11,11a… 粘着剤層
12,12a… フィルム基材
2… タッチパネル
21… カバーガラス
22… 透明導電膜
23… 粘着剤層
24… フィルムセンサー
241… 基材フィルム
242… 透明導電膜
25… 粘着剤層
26… 表示体モジュール