(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】配線付基板、および、その製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/38 20060101AFI20231221BHJP
H05K 3/10 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
H05K3/38 D
H05K3/10 C
(21)【出願番号】P 2018138236
(22)【出願日】2018-07-24
【審査請求日】2021-06-01
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000888
【氏名又は名称】弁理士法人山王坂特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】半谷 明彦
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 宙人
(72)【発明者】
【氏名】伊村 司
(72)【発明者】
【氏名】阿部 喜行
【合議体】
【審判長】山澤 宏
【審判官】山内 裕史
【審判官】野崎 大進
(56)【参考文献】
【文献】特開平7-188935(JP,A)
【文献】特開2016-39239(JP,A)
【文献】特開2008-235035(JP,A)
【文献】特開2018-49982(JP,A)
【文献】特開2018-49995(JP,A)
【文献】特開2007-48827(JP,A)
【文献】特開2011-17069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/00-3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、前記基板上に配置され、前記基板に接合した配線層とを有し、
前記基板と前記配線層との接合領域の断面において、前記基板および前記配線層はそれぞれ凹凸形状を有し、前記基板の凸部は前記配線層の凹部に、前記配線層の凸部は前記基板の凹部に、それぞれ嵌入し合って、界面が密着しており、
前記基板の凸部および前記配線層の凸部は、それぞれの基部の中心を通って前記基板と前記配線層の主平面に垂直な軸を中心とする各方向について非対称な3次元形状であり、前記配線層の少なくとも一部は、導電性粒子を焼結した材料により構成され、
前記凹凸形状は、前記界面の溶融によって形成され、
前記基板の凸部および前記配線層の凸部の少なくとも一部は、基部と先端との間に少なくとも1つのくびれを有することを特徴とする配線付基板。
【請求項2】
請求項
1に記載の配線付基板であって、前記くびれは、1つの前記凸部について複数あることを特徴とする配線付基板。
【請求項3】
基板と、前記基板上に配置され、前記基板に接合した配線層とを有し、
前記基板と前記配線層との接合領域の断面において、前記基板および前記配線層はそれぞれ凹凸形状を有し、前記基板の凸部は前記配線層の凹部に、前記配線層の凸部は前記基板の凹部に、それぞれ嵌入し合って、界面が密着しており、
前記基板の凸部および前記配線層の凸部は、それぞれの基部の中心を通って前記基板と前記配線層の主平面に垂直な軸を中心とする各方向について非対称な3次元形状であり、前記配線層の少なくとも一部は、導電性粒子を焼結した材料により構成され、
前記凹凸形状は、前記界面の溶融によって形成され、
前記基板の凸部および前記配線層の凸部のうちの一部は、枝分かれした形状であることを特徴とする配線付基板。
【請求項4】
請求項
3に記載の配線付基板であって、前記枝分かれは、1つの前記凸部について複数あることを特徴とする配線付基板。
【請求項5】
請求項
3または4に記載の配線付基板であって、前記基板の凸部、または、前記配線層の凸部のうちの一部は、その先端部が前記基板の主体部方向に向かう枝部を有することを特徴とする配線付基板。
【請求項6】
基板と、前記基板上に配置され、前記基板に接合した配線層とを有し、
前記基板と前記配線層との接合領域の断面において、前記基板および前記配線層はそれぞれ凹凸形状を有し、前記基板の凸部は前記配線層の凹部に、前記配線層の凸部は前記基板の凹部に、それぞれ嵌入し合って、界面が密着しており、
前記基板の凸部および前記配線層の凸部は、それぞれの基部の中心を通って前記基板と前記配線層の主平面に垂直な軸を中心とする各方向について非対称な3次元形状であり、前記配線層の少なくとも一部は、導電性粒子を焼結した材料により構成され、
前記凹凸形状は、前記界面の溶融によって形成され、
前記基板の凸部および前記配線層の凸部のうちの少なくとも一部は、鉤状であることを特徴とする配線付基板。
【請求項7】
基板と、前記基板上に配置され、前記基板に接合した配線層とを有し、
前記基板と前記配線層との接合領域の断面において、前記基板および前記配線層はそれぞれ凹凸形状を有し、前記基板の凸部は前記配線層の凹部に、前記配線層の凸部は前記基板の凹部に、それぞれ嵌入し合って、界面が密着しており、
前記基板の凸部および前記配線層の凸部は、それぞれの基部の中心を通って前記基板と前記配線層の主平面に垂直な軸を中心とする各方向について非対称な3次元形状であり、前記配線層の少なくとも一部は、導電性粒子を焼結した材料により構成され、
前記凹凸形状は、前記界面の溶融によって形成され、
前記基板と前記配線層との接合領域の断面には、前記基板に取り囲まれた、島状の前記配線層の領域、または、前記配線層に取り囲まれた、島状の前記基板の領域が、少なくとも1つ含まれることを特徴とする配線付基板。
【請求項8】
請求項1ないし
7のいずれか1項に記載の配線付基板であって、前記基板の凹凸形状と前記配線層の凹凸形状との界面の一部には、有機物が挟まれていることを特徴とする配線付基板。
【請求項9】
請求項
8に記載の配線付基板であって、前記有機物は、ポリビニルピロリドン、または、ポリビニルピロリドンの焼成物であることを特徴とする配線付基板。
【請求項10】
請求項1ないし
9のいずれか1項に記載の配線付基板であって、前記接合領域には空孔が含まれていることを特徴とする配線付基板。
【請求項11】
請求項1ないし
10のいずれか1項に記載の配線付基板であって、前記基板および前記配線層の凸部の基部から先端までの長さは、基板厚みの1/4以下であることを特徴とする配線付基板。
【請求項12】
請求項1ないし
11のいずれか1項に記載の配線付基板であって、前記配線層の凸部の径は、最も太いところで、前記配線層の厚みの1/4以下であることを特徴とする配線付基板。
【請求項13】
請求項1ないし
12のいずれか1項に記載の配線付基板であって、前記基板の凸部の径は、最も太いところで、1μm以下であることを特徴とする配線付基板。
【請求項14】
請求項
10に記載の配線付基板であって、前記接合領域に含まれる空孔の大きさは、1nm以下であることを特徴とする配線付基板。
【請求項15】
請求項1乃至
14に記載の配線付基板であって、前記導電性粒子の径は、100nm以下であることを特徴とする配線付基板。
【請求項16】
請求項1ないし
15のいずれか1項に記載の配線付基板であって、前記基板は、樹脂製であることを特徴とする配線付基板。
【請求項17】
請求項1ないし
16のいずれか1項に記載の配線付基板であって、前記基板は、フレキシブルであることを特徴とする配線付基板。
【請求項18】
導電性粒子が分散された溶液を基板の上に塗布して所望の形状の膜を形成する工程と、
前記膜を加熱することにより前記溶液に分散された前記導電性粒子を焼結して配線層を形成する工程と
前記配線層もしくは前記膜の一部に前記基板を侵入させることで、前記配線層もしくは前記膜と前記基板が互いに嵌入しあうようにする工程とを
有することを特徴とする
請求項1乃至17のいずれか1項に記載された配線付基板の製造方法。
【請求項19】
請求項
18に記載の配線付き基板の製造方法であって、
前記導電性粒子が分散された溶液は、
導電性粒子が20wt%~89.9wt%、溶媒が5wt%~70wt%、有機分散剤が0.01wt%~10wt%の範囲で含有される組成物であることを特徴とする配線付基板の製造方法。
【請求項20】
請求項
19に記載の配線付基板の製造方法であって、前記有機分散剤は、ポリビニルピロリドンであることを特徴とする配線付基板の製造方法。
【請求項21】
請求項
19に記載の配線付基板の製造方法であって、前記膜の加熱を、光を照射することによって行うことを特徴とする配線付基板の製造方法。
【請求項22】
請求項
21に記載の配線付基板の製造方法であって、前記基板は、前記光を透過する材質であり、前記光を前記基板の裏面側から前記基板を透過させて前記膜に照射することにより、前記膜を加熱することを特徴とする配線付基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線付基板に関し、特に、導電性粒子を焼結して形成された配線を備えた基板に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性粒子を溶媒に分散させたペースト状の組成物を基材に塗布し、加熱することにより溶媒を蒸発させるとともに導電性粒子を焼結し、配線等を基材上に形成する技術が知られている。導電性粒子として、数nm~数十μmの微粒子を用いることにより、比較的低温で導電性粒子を焼結することができるため、樹脂製の基材を用いることも可能である。
【0003】
特許文献1には、製造時に、導電性粒子の凝集防止のために、その表面を有機物で覆い、さらに、この有機物を酸性および塩基性官能基を有する高分子分散剤へ置換することが開示されている。これにより、低温度で焼結でき、かつ、基材への接着性が十分に得られるペースト状組成物を得ることができると特許文献1には記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、加熱に伴う体積収縮率を小さくして焼結体に割れが生じるのを抑制しつつ、耐食性を向上させるため、平均一次粒子径が1~150nmの導電性粒子と、1~10μmの導電性粒子とを所定の比率で混合したものを、還元性を有する有機溶媒に分散させたペーストが開示されている。マイクロサイズの導電性粒子が、ナノサイズの導電性粒子の自由な移動を制限することで、焼結時の体積収縮率が小さくなり、粗大ボイドやクラックの発生が抑制される。また、有機分散剤で被覆されたナノサイズの導電性粒子を用いることにより、焼結体表面に有機化合物層が残存し、耐食性が向上すると記載されている。
【0005】
特許文献3では、導電膜をポリイミド基板に搭載した構造であって、導電膜とポリイミド基板の構成成分が、界面を超えて相互に侵入する形状とすることが開示されている。これにより、導電膜とポリイミド基板との接触面積を増大させ、ポリイミド基板への密着性を高めている。また、導電膜を形成する導電性ペーストの銀粉末として、ロジン、脂肪酸、またはアミン類からなるコート剤を表面に付着させた銀粉末を用いている。これにより、250~300℃の低温で焼結が進むのでポリイミド基板への密着性が高まると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-55332号公報
【文献】特開2015-11899号公報
【文献】特許第6263146号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
照明装置のように光源の熱が伝導する用途や、クレジットカードのように使用時に基板を撓ませる応力が加わる可能性のある用途に用いられる配線付基板は、熱衝撃や基板を撓まれる応力が加わっても、配線が基板からはがれないようにする強固な密着性が要求される。
【0008】
本発明の目的は、配線が基板に強固に密着した配線付基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明によれば、基板と、基板上に配置され、基板に接合した配線層とを有する配線付基板が提供される。基板と配線層との接合領域の断面において、基板および配線層はそれぞれ凹凸形状を有し、基板の凸部は配線層の凹部に、配線層の凸部は前記基板の凸部に、それぞれ嵌入し合って、界面が密着している。基板の凸部および配線層の凸部は、基板と配線層の主平面に垂直な軸を中心とする各方向について非対称な3次元形状である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、基板と配線層の主平面に垂直な軸を中心として各方向について非対称な3次元形状の凸部が、配線層と基板の凹部に相互に嵌入し合っているため、配線層が基板に強固に密着した配線付基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】実施形態の配線付基板の界面の形状を示す説明図。
【
図3】(a)および(b)実施形態の配線付基板の製造工程を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について以下に説明する。
【0013】
図1は、本実施形態の配線付基板の断面図である。
図2は、配線付基板の基板と配線層の接合領域の凹凸構造を拡大して示す模式図である。
【0014】
図1および
図2に示したように、本実施形態の配線付基板は、基板1と、基板1上に配置され、基板に接合した配線層2とを備えて構成される。基板1と配線層2との接合領域3の断面において、基板1および配線層2はそれぞれ凹凸形状を有している。基板1の凸部11(11-1~11-6)は、配線層2の凹部22(22-1~22-6)に嵌入し、配線層2の凸部21(21-1~21-6)は、基板1の凹部12(12-1~12-6)に嵌入することにより、両者の界面31は密着している(ただし、一部について、基板1と配線層2が離間している構造が含まれていてもよい)。このとき、基板1の凸部11および配線層2の凸部21は、それぞれの基部の中心を通って基板1と配線層2の主平面に垂直な軸32を中心として、各方向について非対称な3次元形状である(例えば
図2の凸部11-2参照)。
【0015】
このように、基板1および配線層2の接合領域3においては、複雑な3次元形状の凸部11,21が、それに対応する形状の凹部22、12にそれぞれ嵌入し合っているため、基板1と配線層2は、接合領域3において3次元に絡み合った構造となっている。これにより、基板1と配線層2との接触面積が増え、配線層2に加わる様々な方向への応力に対する耐久性も増すため、配線層2が基板1に強固に密着した配線付基板が得られる。
【0016】
このとき、基板1の凸部11および配線層2の凸部21の少なくとも一部(11-2、11-4、11-6)は、基部と先端との間に少なくとも1つのくびれ41を有することが望ましい。本実施形態でいう「くびれ」とは、凸部において、その太さがその前後よりも細くなっている部分である。凸部11、21がくびれ41を備えることにより、基板1と配線層2の界面31の形状は、より複雑な形状となるため、配線層2を基板1により強固に密着させることができる。なお、くびれの数は、1つの凸部について複数であるとさらに望ましい。
【0017】
また、基板1の凸部11および配線層2の凸部21のうちの一部(11-1、11-3、11-5、21-6)は、枝分かれした形状であってもよい。本実施形態でいう「枝分かれ」とは、凸部にさらに凸部が形成されている(凸部が2つ以上に分かれている)形状である。枝分かれすることにより、さらに複雑な形状となり密着度が向上するからである。なお、枝分かれの数は、1つの凸部について複数であるとさらに望ましい。また、基板1の凸部11は、その先端部が基板1の主体部方向に向かう枝部を有する場合、基板1の凸部11が特に複雑な形状になるため望ましい。同様に、配線層2の凸部21は、その先端部が配線層2の主体部方向に向かう枝部を有する場合、配線層2の凸部21が特に複雑な形状になるため望ましい。この場合の主体部とは、基板1や配線層2の界面や表面部ではない中央領域をいう。
【0018】
また、基板1の凸部11および配線層2の凸部21のうちの少なくとも一部(11-2、11-6、21-2、21-4、21-5)は、鉤状であることが望ましい。本実施形態という「鉤状」とは、凸部の中心軸が直線ではない形状であることをいう。鉤状の凸部が、それに対応する形状の凹部に嵌入することにより、配線層2を剥がす力が加わった場合でも、鉤状の凸部が、凹部に引っかかって、はがれにくく、密着力が向上する。
【0019】
さらに、基板1と配線層2との接合領域の断面には、基板1に取り囲まれた、島状の配線層2の領域が少なくともの1つ含まれることが望ましい。同様に、基板1と配線層2との接合領域の断面には、配線層2に取り囲まれた、島状の基板1の領域が少なくとも1つ含まれることが望ましい。
【0020】
配線層2の少なくとも一部は、導電性粒子を焼結した材料により構成されている。導電性粒子を所定の条件で焼結することにより、各方向について非対称な3次元形状の凸部を形成することができる。
【0021】
基板1の凹凸形状と配線層2の凹凸形状との界面31の一部には、有機物51が挟まれていることが望ましい。界面31に有機物が挟まれることにより、有機物の接着効果により基板1と配線層2を強固に接着することができる。この有機物51は、ポリビニルピロリドン、または、ポリビニルピロリドンの焼成物であることがさらに望ましい。ポリビニルピロリドンまたはその焼成物は、特に、配線層2を焼結した後の配線層2と基板1との接着性に特に向上させることができる。
【0022】
接合領域3には空孔61が含まれていることが望ましい。接合領域3に空孔61が含まれていることにより、配線層2や基板1を撓ませる応力が加わった場合に、空孔61が変形し、配線層2や基板1にフレキシブル性が生じる。これにより、撓み等の変形が生じた場合にも配線層2の膜はがれを生じにくい。なお、ここでいう接合領域3の範囲とは、界面31の凹凸の膜厚方向の最大範囲をいう。すなわち、凸部11、21の膜厚方向の基部から先端までの距離の最大値が、接合領域3の厚さである。
【0023】
なお、空孔61は、配線層2側のみならず、基板1の凸部11内に含まれていてもよい。
【0024】
基板1および配線層2の凸部11、21の基部から先端までの長さは、基板厚みの1/4以下であることが望ましい。配線層2の凸部21の径は、最も太いところで、配線厚みの1/4以下であることが望ましい。基板1の凸部11の径は、最も太いところで、基板厚みの1/4以下であることが望ましい。
【0025】
接合領域3に含まれる空孔の大きさは、配線厚みの1/4以下であることが好ましい。
【0026】
配線層2を構成する導電性粒子の焼結前の径は、1μm以下であることが望ましい。
【0027】
基板1は、樹脂製のものを用いることができる。また、基板1は、フレキシブルであってもよいし、透明であってもよい。透明な基板1を用いた場合には、光焼結により配線層2の導電性粒子を焼結する際に、基板1を透過させて光を配線層2に照射することができる。これにより、上述してきた凹凸形状の界面31を形成しやすいというメリットが得られる。
【0028】
<<配線付基板の製造方法>>
本実施形態の配線付基板の製造方法について説明する。まず、焼結されることにより配線層2となる焼結用組成物(導電性インクと呼ぶ)を用意する。導電性インクは、導電性粒子と、導電性粒子を被覆する有機分散剤と、溶媒とを含む。導電性インクの組成は、導電性粒子が20wt%~95wt%、溶媒が5wt%~70wt%、有機分散剤が0.01wt%~10wt%の範囲であることが望ましい。例えば、導電性粒子として銀粒子が80wt%以上の割合で溶媒に分散された導電性インクを用意する。
【0029】
導電性インクを基板1に塗布して導電性インクの膜20を形成し(
図3(a))、膜20を加熱することにより導電性インクに含まれる導電性粒子を焼結し、配線層2を形成する(
図3(b))。これにより、基板1上に配線層2が搭載された配線付基板を製造することができる。
【0030】
なお、加熱方法としては、オーブン等を用いた加熱の他に、
図3(b)のように光等の電磁波を照射する方法を用いることができる。基板1が光等の電磁波を透過する特性を有する場合には、
図3(b)のように、基板1を透過させて光等の電磁波を膜20に照射して、膜20の導電性粒子を焼結することにより、本実施形態の非対称な3次元形状の凸部11,21が嵌入し合った構造の接合領域3を備えた配線付基板を製造することができる。
【0031】
<導電性粒子>
導電性インクの導電性粒子を構成する材料としては、例えば、Au、Ag、Cu、Pd、ITO、Ni、Pt、Feなどの導電性金属および導電性金属酸化物のうちの1つ以上を用いることができる。
【0032】
導電性インクの導電性粒子の粒径分布の最大値は、250nm未満であり、200nm以下であることが望ましい。ただし、誤差の範囲で粒径分布の最大値を超える粒子が一部含まれていてもよい。導電性粒子の粒径分布の最小値は、50nm未満であることが望ましく、より望ましくは、10nm以下である。これにより、配線層2の断面において空隙(空孔61を含む)が占める割合が小さく、しかも、一つ一つの空隙サイズも小さくなるため、熱抵抗率を低減することができ、焼結物の放熱性を高めることができる。
【0033】
<溶媒>
導電性インクの溶媒としては、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのグリコールや、アミン、アルコール、エーテル、芳香族、ケトン、ニトリルなどの有機溶媒や、水などを用いることができる。導電性インクの溶媒の沸点は、260℃未満であることが望ましい。
【0034】
<有機分散剤>
導電性粒子を被覆する有機分散剤としては、ポリビニルピロリドン(PVP)やポリビニルアルコール(PVA)などのポリマーや、アミンや、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルコキシ基、カルボニル基、エステル基、メルカプト基等の官能基を含む化合物などを用いることができる。特に、PVPまたはPVAを好適に用いることができる。
【0035】
<導電性粒子の製造方法>
導電性粒子は、有機分散剤に被覆されるように製造することが望ましい。例えば、溶媒に有機分散剤を溶解した有機分散剤溶液を用意し、金属のイオンを含む金属イオン溶液を滴下する方法により製造する。これにより、有機分散剤に被覆された導電性粒子を析出させることができる。
【0036】
<基板>
基板1の材質としては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、液晶ポリマー、ガラスエポキシ、紙フェノール、セラミック、ガラス含有シリコーンガラス、ガラス等の他、表面を絶縁層で被覆した金属などを用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下、本発明の実施例1、2について説明する。
【0038】
<<<実施例1、2>>>
<銀ナノ粒子の合成>
まず、実施例1~2の導電性インクに用いる導電性粒子として銀ナノ粒子を合成した。この銀ナノ粒子は、凝集を防止するため、表面が有機分散剤であるポリビニルピロリドン(PVP)で被覆されている。
【0039】
銀ナノ粒子は、ポリオール法により合成した。まず、PVP(分子量20,000)と、溶媒であるジエチレングリコール100gとを撹拌して、PVPを溶媒に溶解させ、このPVP溶液を加熱した。PVPの量は、実施例1では6g、実施例2では8gとした。
【0040】
一方、硝酸銀6gとジエチレングリコール20gとを撹拌し、硝酸銀をジエチレングリコールに溶解させた溶液を用意した。この溶液を、加熱したPVP溶液に滴下した。
【0041】
滴下後、室温まで徐冷し、PVPで被覆された銀ナノ粒子を合成した。合成溶液をエタノールで遠心分離を行うことで、PVPで被覆された球状の銀ナノ粒子を得た。
【0042】
<焼結用組成物の製造>
溶媒であるポリエチレングリコール(平均分子量200)に、PVPで被覆された銀ナノ粒子を90wt%になるように滴下し、混合した。必要に応じて、攪拌処理を実施した。これにより、実施例1、2の導電性インクを製造した。
【0043】
なお、実施例1、2の導電性インクの組成は、銀粒子が20wt%~95wt%、溶媒が5wt%~70wt%、有機分散剤が0.01wt%~10wt%の範囲であれば、組成を変更することも可能である。
【0044】
<配線付基板の製造>
光透過性のポリイミド基板1の表面に実施例1、2の導電性インクを厚さ10μmで幅200μmで塗布して膜20を形成し、この膜20に対して基板1の裏面側からレーザ光やフラッシュ光等の電磁波を基板を通して照射した。これにより、光が焼結用組成物の銀ナノ粒子に照射され、膜20とその周辺の基板1が集中的に加熱され、膜20中の銀ナノ粒子が焼結され、焼結体である配線層2が形成された。このとき、光が照射された基板の一部が溶融し、配線層2の一部に侵入した状態で再度固化することにより、
図2のような非対称な3次元形状の基板1の凸部11と配線層2の凸部21が形成され、基板1と配線層2とが界面において強固に密着される。また、有機分散剤(PVP)の一部が配線層2と基板1との間に界面に入り込み、接着剤として機能することにより、配線層2と基板1とを接着をさらに強固にする。
【0045】
以上により、実施例1、2の焼結用組成物(導電性インク)を焼結して形成された配線付基板を製造した。
【0046】
なお、基板のうち、焼結用組成物(導電性インク)の膜とその周辺以外の部分については溶融しないままであった。
【0047】
<<<比較例1、2>>>
比較例1、2として、有機溶媒に分散された銀粒子の形状が球状で、ポリビニルピロリドンは含有されていない、他社製品の2種類の導電性インクを用意し、実施例1,2と同様の手順で配線付基板を製造した。
【0048】
<<評価>>
<断面SEM写真>
実施例1、2および比較例1,2の配線付基板を切断し、SEMにより撮影した。実施例1の配線付基板の断面のSEM写真を
図4に示す。
【0049】
図4のように、基板1の凸部11は、配線層2の凹部22に嵌入し、配線層2の凸部21は、基板1の凹部12に嵌入することにより、両者の界面が密着していた。また、基板1の凸部11および配線層2の凸部21は、それぞれの基部の中心を通って基板1と配線層2の主平面に垂直な軸32を中心として非対称な形状であった。
【0050】
また、基板1の凸部11および配線層2の凸部21の一部は、基部と先端との間にくびれ41があることも
図4により確認できた。さらに、凸部のうちの一部は枝分かれし、一部は鉤状であることも
図4により確認できた。
【0051】
また、凸部が嵌入し合っている接合領域3には、空孔61が含まれていることも
図4のSEM写真により確認できた。
【0052】
また、実施例2の配線付基板の界面も、上記実施例1と同様であった。
【0053】
さらに、高倍率(10万倍以上)で基板1と配線層2との界面を観察したところ、有機物が界面に存在することが確認できた。溶媒は、焼結時に蒸発していると考えられるため、界面に存在する有機物は、ポリビニルピロリドン、または、ポリビニルピロリドンの焼成物であると推測される。
【0054】
これに対し、比較例1,2の配線付基板の基板1と配線層2の界面の形状は、断面観察用のサンプル加工中に基板と配線が剥がれてしまう事象が発生し、密着力が悪い為、基板と配線の界面に隙間などがあると推測される状態であった。
【0055】
<密着性の評価>
実施例1,2および比較例1,2の配線付基板の配線層2の上にメンディングテープ(3M社製のスコッチ(登録商標)メンディングテープ)を指で押し付けて付着させた後、メンディングテープの端部を指で保持して、基板1に対して角度120度以上になるように持ち上げて剥離し、剥離したメンディングテープに配線層2が付着しているかどうかを目視で観察した。
【0056】
メンディングテープに替えて、セロハンテープ(ニチバン社製セロテープ(登録商標))により、同様に剥離試験を行った。
【0057】
配線層2がテープに付着していないものを○、付着しているものを×として表1に示す。
【0058】
<曲げ耐性>
曲げ耐性試験は、配線付き基板の両端を治具で固定し基板の中心部をR10以下に曲げる事で基板と配線の密着力確認を実施することにより行った。配線に剥がれが発生しなかったものを○、剥がれが発生したものを×として表1に示す。
【0059】
<熱衝撃耐性>
実施例1,2および比較例1,2の配線付基板を-40℃で15分保持後120℃で15分保持し-40℃へ冷却させるのを1サイクルとし、これを1000サイクル繰り返した後、配線にクラックが生じているかどうかを顕微鏡で観察した。クラックが生じていないものを○、クラックが生じたものを×とし、表1に示す。
【表1】
表1により、実施例1、2の配線付基板は、配線層2の基板1に対する密着性に優れ、メンディングテープ試験およびセロハンテープ試験の両方で剥離を生じなかった。これに対し、比較例1は、セロハンテープ試験で剥離を生じ、比較例2は、メンディングテープ試験およびセロハンテープ試験の両方で剥離を生じた。
【0060】
また、実施例1、2の配線付基板は、曲げ耐性および熱衝撃耐性にも優れていたのに対し、比較例1,2の配線付基板は、配線の剥がれやクラックを生じた。
【0061】
<<<実施例3>>>
配線付基板の製造条件を変化させることで、基板と配線層との接合面をより複雑で強固な構造とすることもできる。以下、実施例3の配線付基板の製造条件について、実施例1~2と異なっている点のみ示す。以下に記載がない事項は、実施例1、2に記載の製造条件と同一である。
【0062】
<銀ナノ粒子の合成>
実施例1~2とは一部異なる条件で銀ナノ粒子を合成した。PVP(分子量40,000)と、溶媒であるジエチレングリコール80gとを攪拌して、PVPを溶媒に溶解させ、このPVP溶液を加熱した。PVPの量は2gとした。
<焼結用組成物の製造>
溶媒であるポリエチレングリコール(平均分子量200)に、PVPで被覆された銀ナノ粒子を80wt%になるように滴下し、混合した。
【0063】
<<評価>>
実施例3の配線付基板を切断し、SEMにより撮影した。実施例3の配線付基板の断面のSEM写真を
図5に示す。
【0064】
実施例1~2と同様に、実施例3においても、基板1の凸11部は、配線層の凹部に嵌入し、配線層の凸部21は、基板1の凹部に嵌入することにより、両者の界面が密着していた。また、基板1の凸部11および配線層2の凸部21は、それぞれの基部の中心を通って基板1と配線層2の主平面に垂直な軸32を中心として非対称な形状であった。
【0065】
実施例1~2と同様に、実施例3においても、くびれ、枝分かれの形状は確認できたが、特筆すべきは、その形状がより複雑な形状となっていることである。
図5においてA1,A2,A3で示したように、凸部21に複数のくびれが形成されている。また、B1,B2,B3で示したように、凸部21に複数の枝分かれした形状が形成されている。さらに、C1,C2で示したように、枝分かれした配線層の凸部がその先端部を配線層2の主体部の方向に向いている。さらに、Dで示したように、断面には、基板1により周囲が囲まれた、島状の配線層2を有している。当該配線層2は、この断面には現れない部分で配線層2の主体部と一体となっているものと考えられる。以上のように実施例3は、界面周辺の構造がより複雑になっているため、より強固な密着を実現することができる。
【0066】
上述してきた実施形態および実施例の配線付基板は、プリンテッドエレクトロニクス関連に使用される配線や、タッチパネルならびに透明スクリーンなど配線や、車載機器、照明装置、通信装置、遊技機、OA機器、産業機器、一般民生家電機器や、クレジットカードなどの用途に好適である。
【符号の説明】
【0067】
1…基板、2…配線層、3…接合領域、11…基板の凸部、12…基板の凹部、20…導電性インクの膜、21…配線層の凸部、22…配線層の凹部、41…くびれ、61…空孔