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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】積層コイル部品
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/32 20060101AFI20231221BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20231221BHJP
   H01F 27/00 20060101ALI20231221BHJP
   H03H 7/09 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
H01F27/32 101
H01F17/00 B
H01F27/00 S
H03H7/09 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019043707
(22)【出願日】2019-03-11
(65)【公開番号】P2020150007
(43)【公開日】2020-09-17
【審査請求日】2020-11-17
【審判番号】
【審判請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100117477
【弁理士】
【氏名又は名称】國弘 安俊
(72)【発明者】
【氏名】村上 直之
【合議体】
【審判長】山田 正文
【審判官】小池 秀介
【審判官】山本 章裕
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/122381(WO,A1)
【文献】特開2010-147101(JP,A)
【文献】特開2008-53525(JP,A)
【文献】国際公開第2008/132913(WO,A1)
【文献】特開2009-152489(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/00-19/08
H01F 27/28
H01F 30/10
H01F 37/00
H01G 4/00-4/224
H01G 4/255-4/40
H01G 13/00-17/00
H05K 1/09
H05K 1/16
H05K 3/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
実装基板に対向して配された積層コイル部品であって、
内部導体を内蔵した部品素体と、該部品素体の表面に形成された外部電極とを備え、
前記部品素体が、前記内部導体を埋設した第1の誘電体ガラス層と、該第1の誘電体ガラス層の両主面に形成された薄層の第2の誘電体ガラス層とを有し、
前記第1及び第2の誘電体ガラス層は、主成分がホウケイ酸系ガラスからなるガラス材料で形成されると共に、少なくとも石英を含むフィラー成分を含有し、
前記第2の誘電体ガラス層のうちの少なくとも前記実装基板に面する一方の第2の誘電体ガラス層の石英含有量が、前記第1の誘電体ガラス層の石英含有量よりも少なく、
少なくとも前記一方の第2の誘電体ガラス層の厚みは10~100μmであり、
前記第1の誘電体ガラス層と前記一方の第2の誘電体ガラス層との間の前記石英の含有量差は、前記ガラス材料100重量部に対し5~10重量部であり、
かつ、前記第1及び第2の誘電体ガラス層の各々に含有される前記石英の含有量は、前記ガラス材料100重量部に対し40~60重量部であることを特徴とする積層コイル部品。
【請求項2】
前記フィラー成分にはアルミナを含み、前記第2の誘電体ガラス層のうちの少なくとも前記実装基板に面する一方の第2の誘電体ガラス層のアルミナ含有量は、前記第1の誘電体ガラス層のアルミナ含有量よりも多いことを特徴とする請求項1記載の積層コイル部品。
【請求項3】
前記一方の第2の誘電体ガラス層と前記第1の誘電体ガラス層との間の前記アルミナの含有量差は、前記ガラス材料100重量部に対し2重量部以上であることを特徴とする請求項2記載の積層コイル部品。
【請求項4】
前記第1及び第2の誘電体ガラス層の各々に含有される前記アルミナの含有量は、前記ガラス材料100重量部に対し10重量部以下であることを特徴とする請求項2又は請求項3記載の積層コイル部品。
【請求項5】
実装基板に対向して配された積層コイル部品であって、
内部導体を内蔵した部品素体と、該部品素体の表面に形成された外部電極とを備え、
前記部品素体が、前記内部導体を埋設した第1の誘電体ガラス層と、該第1の誘電体ガラス層の両主面に形成された薄層の第2の誘電体ガラス層とを有し、
前記第1及び第2の誘電体ガラス層は、主成分がホウケイ酸系ガラスからなるガラス材料で形成されると共に、前記第2の誘電体ガラス層のうちの少なくとも前記実装基板に面する一方の第2の誘電体ガラス層の線膨張係数が、前記第1の誘電体ガラス層の線膨張係数よりも小さくなるように、少なくとも石英を含むフィラー成分を含有し、
少なくとも前記一方の第2の誘電体ガラス層の厚みは10~100μmであり、
前記第1の誘電体ガラス層と前記一方の第2の誘電体ガラス層との間の線膨張係数差が、0.4ppm/℃以上であり、
かつ、前記第1及び第2の誘電体ガラス層の各々に含有される前記石英の含有量は、前記ガラス材料100重量部に対し40~60重量部であることを特徴とする積層コイル部品。
【請求項6】
前記厚みは、75μm以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の積層コイル部品。
【請求項7】
前記内部導体は、渦巻き状又は螺旋状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の積層コイル部品。
【請求項8】
積層コモンモードチョークコイルであることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の積層コイル部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層コイル部品に関し、より詳しくは部品素体がガラス材料で形成された積層コモンモードチョークコイル等の積層コイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、情報通信端末等の各種電子機器では、ノイズ除去用にコモンモードチョークコイル等の小形の積層コイル部品が使用されている。また、近年における通信機器の高周波数化の進展に伴い、高周波数帯域でのノイズ除去を効率良く行う積層コイル部品の研究・開発も盛んに行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、図7に示すように、コイル導体101が埋設された誘電体ガラス層102の両主面に磁性体層103a、103bを形成して積層体104を構成すると共に、積層体104の両主面に更に誘電体ガラス層105a、105bを形成し、誘電体ガラス層102と磁性体層103a、103bとが層間剥離しないように誘電体ガラス層105a、105bで積層体104を拘束した積層コイル部品が提案されている。
【0004】
この特許文献1では、誘電体ガラス層102、105a、105bを形成するガラス材料は、磁性体層103a、103bを形成するフェライト材料に比べて線膨張係数が小さいことから、斯かる線膨張係数の差に起因し、焼成工程等で高温から常温に冷却する過程で外層側の誘電体ガラス層105a、105bには圧縮応力が負荷される。したがって、このような積層コイル部品が実装された基板にたわみが生じても、誘電体ガラス層105a、105bにクラック等の構造欠陥が積層コイル部品に発生するのを避けることができると考えられる。
【0005】
また、特許文献2には、ガラス相と、ガラス相中に分散されたセラミックス相とを有するガラスセラミックス焼結体であって、セラミックス相がアルミナ(Al)粒子とジルコニア(ZrO)粒子とを含み、前記ガラス相がMO-Al-SiO-B系ガラス(Mはアルカリ土類金属)を含み、前記焼結体の断面において、アルミナ粒子の面積率が0.05~12%であり、 ジルコニア粒子の面積率が0.05~6%であるガラスセラミックス焼結体、及びこのガラスセラミックス焼結体からなるセラミック層を備えたコイル電子部品が提案されている。
【0006】
この特許文献2では、セラミック層(部品素体)をガラスセラミックス焼結体で形成すると共に、特定組成のガラス相中に、フィラーとして、アルミナ粒子及びジルコニア粒子を特定量含有することで、比較的低温での焼成を可能にし、誘電率が過度に上昇することなくて強度を確保しようとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-73475号公報(請求項1、図1等)
【文献】特開2018-131353号公報(請求項1、8、段落[0013]等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、上述したように磁性体層103a、103bに接する外層側の誘電体ガラス層105a、105bに圧縮応力が負荷されることから、積層コイル部品にクラック等の構造欠陥が発生するのを抑制できるものの、積層コモンモードチョークコイルのような積層コイル部品では、コモンモード成分の減衰特性(Scc21)が未だ不十分であった。
【0009】
すなわち、ノイズの減衰特性は、共振周波数における信号の鋭さを示す品質係数Q(以下、「Q値」という。)で評価することができ、良好な減衰特性を得るためにはQ値が高いことが必要とされている。また、高いQ値を得るためには比誘電率の低い低誘電率材料が効果的であることが知られている。
【0010】
しかしながら、磁性体層を形成するフェライト材料は、ガラス材料に比べると比誘電率が高く、このため未だ所望の良好な減衰特性を得ることができない状況にあった。
【0011】
また、特許文献2のように部品素体を誘電体ガラス材料で形成した場合、図8に示すように、内部導体112が部品素体111に埋設され、かつ部品素体111の両端部に外部電極113a、113bが形成されている。そして、このように形成された電子部品がリフロー加熱処理等によりはんだ114を介して基板115に実装される。
【0012】
しかしながら、この場合、ガラス材料はフェライト材料に比べて比誘電率が低いことからQ値も高く、減衰特性の向上が可能であるものの、誘電体ガラス層の表層部分には圧縮応力が殆ど負荷されない。このため、基板にたわみが生じると、部品素体111に引張応力が生じ、部品素体111にクラック等の構造欠陥116が生じるおそれがある。
【0013】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、積層コイル部品が実装された基板にたわみが生じた場合であっても、良好な減衰特性を確保しつつクラック等の構造欠陥の発生を抑制することができる積層コモンモードチョークコイル等の積層コイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上述したようにガラス材料、例えばホウケイ酸系ガラスは、フェライト材料に比べて比誘電率が低く、高Q値化が可能であることから、高周波数帯域での減衰特性を向上させるためには部品素体全体をガラス材料で形成することが望ましいと考えられる。
【0015】
しかしながら、部品素体全体を同一組成のガラス材料で形成した場合、[発明が解決しようとする課題]の項でも述べたように、誘電体ガラス層の表層部分には圧縮応力が殆ど負荷されない。このため基板にたわみが生じると、部品素体に引張応力が生じ、積層コイル部品にはクラック等の構造欠陥が発生するおそれがある。
【0016】
本発明者は、斯かる課題を解決すべく、実装基板に対向して配される積層コイル部品について、石英とホウケイ酸系ガラスとの線膨張係数の差に着目し、鋭意研究を行ったところ、石英はホウケイ酸系ガラスに比べて線膨張係数が大きいことから、部品素体を内部導体が埋設された第1の誘電体ガラス層と、該第1の誘電体ガラスの外層側の薄層の第2の誘電体ガラス層に区分し、これら第1及び第2の誘電体ガラス層の主成分を形成するホウケイ酸系ガラスに石英を添加すると共に、少なくとも実装基板に面する一方の第2の誘電体ガラス層の石英含有量を第1の誘電体ガラス層よりも少なくすることにより、第1の誘電体ガラス層と第2の誘電体ガラス層との間で線膨張係数に差が生じさせることができ、これにより第2の誘電体ガラス層に圧縮応力を負荷させることができ、積層コイル部品のたわみ強度を改善することができるという知見を得た。具体的には、少なくとも第1及び第2の誘電体ガラス層の各々に含有される石英の含有量がガラス材料100重量部に対し40~60重量部の範囲においては、第1の誘電体ガラス層と前記一方の第2の誘電体ガラス層の石英含有量差をガラス材料100重量部に対し5~10重量部とすることにより、基板にたわみが生じ、積層コイル部品に引張応力が生じても、クラック等の構造欠陥の発生を効果的に抑制でき、これにより減衰特性と機械的強度とを両立させることができることが分かった。また、本発明者の更なる鋭意研究の結果、実装基板に面する一方の第2の誘電体ガラス層の厚みを10~100μmとすることにより大きな圧縮応力が前記第2の誘電体ガラス層に負荷され、クラック等の構造欠陥の発生を効果的に抑制できることも分かった。
【0017】
本発明はこのような知見に基づきなされたものであって、本発明に係る積層コイル部品は、実装基板に対向して配された積層コイル部品であって、内部導体を内蔵した部品素体と、該部品素体の表面に形成された外部電極とを備え、前記部品素体が、前記内部導体を埋設した第1の誘電体ガラス層と、該第1の誘電体ガラス層の両主面に形成された薄層の第2の誘電体ガラス層とを有し、前記第1及び第2の誘電体ガラス層は、主成分がホウケイ酸系ガラスからなるガラス材料で形成されると共に、少なくとも石英を含むフィラー成分を含有し、前記第2の誘電体ガラス層のうちの少なくとも前記実装基板に面する一方の第2の誘電体ガラス層の石英含有量が、前記第1の誘電体ガラス層の石英含有量よりも少なく、少なくとも前記一方の第2の誘電体ガラス層の厚みは10~100μmであり、前記第1の誘電体ガラス層と前記一方の第2の誘電体ガラス層との間の前記石英の含有量差は、前記ガラス材料100重量部に対し5~10重量部であり、かつ、前記第1及び第2の誘電体ガラス層の各々に含有される前記石英の含有量は、前記ガラス材料100重量部に対し40~60重量部であることを特徴としている。
【0018】
これにより実装基板にたわみが生じ、積層コイル部品に引張応力が生じても、第1の誘電体ガラス層及び第2の誘電体ガラス層間の石英含有量の差、すなわち、両者の線膨張係数の差に起因して第2の誘電体ガラス層には圧縮応力が負荷される。そしてその結果、積層コイル部品のたわみ強度が向上し、クラック等の構造欠陥を抑制できる良好な機械的強度を有する積層コイル部品を得ることができる。しかも、部品素体全体は主成分がガラス材料で形成されていることから、Q値も高く高周波数帯域での減衰特性が良好な積層コイル部品を得ることができる。すなわち、機械的強度と減衰特性とが両立した積層コイル部品を得ることができる。
【0022】
さらに、本発明の積層コイル部品は、前記フィラー成分にはアルミナを含み、前記少なくとも一方の第2の誘電体ガラス層は、前記アルミナの含有量が、前記第1の誘電体ガラス層よりも多いのが好ましい。
【0023】
これにより、アルミナは比誘電率が石英に比べて高いがビッカース硬度が高いことから、第2の誘電体ガラス層のアルミナの含有量を第1の誘電体ガラス層よりも多くすることにより、機械的強度を向上させることが可能となる。
【0024】
また、本発明の積層コイル部品は、前記少なくとも一方の第2の誘電体ガラス層と前記第1の誘電体ガラス層との間の前記アルミナの含有量差は、前記ガラス材料100重量部に対し2重量部以上であるのが好ましい。
【0025】
これにより減衰特性を損なうことなく、より一層良好な機械的強度を有する積層コイル部品を効率良く得ることができる。
【0026】
また、本発明の積層コイル部品は、前記第1及び第2の誘電体ガラス層の各々に含有される前記アルミナの含有量は、前記ガラス材料100重量部に対し10重量部以下であるのが好ましい。
【0027】
また、上記積層コイル部品では、第1の誘電体ガラス層と第2の誘電体ガラス層との間で石英の含有量に差を設けることにより、両者の線膨張係数に差を生じさせているが、フィラー成分種に依存することなく、第1の誘電体ガラス層と第2の誘電体ガラス層との間で線膨張係数に差を生じさせることによっても本発明の課題を解決することができ、減衰特性と機械的強度が両立した積層コイル部品を得ることができる。
【0028】
すなわち、本発明に係る積層コイル部品は、実装基板に対向して配された積層コイル部品であって、内部導体を内蔵した部品素体と、該部品素体の表面に形成された外部電極とを備え、前記部品素体が、前記内部導体を埋設した第1の誘電体ガラス層と、該第1の誘電体ガラス層の両主面に形成された薄層の第2の誘電体ガラス層とを有し、前記第1及び第2の誘電体ガラス層は、主成分がホウケイ酸系ガラスからなるガラス材料で形成されると共に、前記第2の誘電体ガラス層のうちの少なくとも前記実装基板に面する一方の第2の誘電体ガラス層の線膨張係数が、前記第1の誘電体ガラス層の線膨張係数よりも小さくなるように、少なくとも石英を含むフィラー成分を含有し、少なくとも前記一方の第2の誘電体ガラス層の厚みは10~100μmであり、前記第1の誘電体ガラス層と前記一方の第2の誘電体ガラス層との間の線膨張係数差が、0.4ppm/℃以上であり、かつ、前記第1及び第2の誘電体ガラス層の各々に含有される前記石英の含有量は、前記ガラス材料100重量部に対し40~60重量部であることを特徴としている。
【0030】
このようにフィラー成分種に依存することなく第1の誘電体ガラス層と第2の誘電体ガラス層との間で所定の線膨張係数差を設けることにより、上述したように減衰特性と機械的強度の両立した積層コイル部品を効率良く得ることができる。尚、この場合は、前記第1及び第2の誘電体ガラス層は、必要に応じて各種フィラー成分を含有させることができる。
【0031】
また、本発明の積層コイル部品は、前記少なくとも一方の第2の誘電体ガラス層の厚みは、10μm~100μmであるのが好ましく、75μm以下が好ましい。
【0036】
また、本発明の積層コイル部品は、前記内部導体が、渦巻状又は螺旋状に形成されているのが好ましい。
【0037】
また、本発明の積層コイル部品は、積層コモンモードチョークコイルであるのが好ましい。
【0038】
これにより高強度で高周波特性の良好な積層コモンモードチョークコイルを得ることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の積層コイル部品によれば、実装基板に対向して配された積層コイル部品であって、内部導体を内蔵した部品素体と、該部品素体の表面に形成された外部電極とを備え、前記部品素体が、前記内部導体を埋設した第1の誘電体ガラス層と、該第1の誘電体ガラス層の両主面に形成された薄層の第2の誘電体ガラス層とを有し、前記第1及び第2の誘電体ガラス層は、主成分がホウケイ酸系ガラスからなるガラス材料で形成されると共に、少なくとも石英を含むフィラー成分を含有し、前記第2の誘電体ガラス層のうちの少なくとも前記実装基板に面する一方の第2の誘電体ガラス層の石英含有量が、前記第1の誘電体ガラス層の石英含有量よりも少なく、少なくとも前記一方の第2の誘電体ガラス層の厚みは10~100μmであり、前記第1の誘電体ガラス層と前記一方の第2の誘電体ガラス層との間の前記石英の含有量差は、前記ガラス材料100重量部に対し5~10重量部であり、かつ、前記第1及び第2の誘電体ガラス層の各々に含有される前記石英の含有量は、前記ガラス材料100重量部に対し40~60重量部であるので、第1の誘電体ガラス層と第2の誘電体ガラス層の両者の線膨張係数の差に起因して第2の誘電体ガラス層には圧縮応力が負荷される。そしてその結果、積層コイル部品のたわみ強度が向上し、クラック等の構造欠陥を抑制できる良好な機械的強度を有する積層コイル部品を得ることができる。しかも、部品素体全体は主成分がガラス材料で形成されていることから、Q値も高く高周波数帯域での減衰特性が良好な積層コイル部品を得ることができる。すなわち、機械的強度と減衰特性とが両立した積層コイル部品を実現することができる。
【0040】
また、本発明の積層コイル部品によれば、実装基板に対向して配された積層コイル部品であって、内部導体を内蔵した部品素体と、該部品素体の表面に形成された外部電極とを備え、前記部品素体が、前記内部導体を埋設した第1の誘電体ガラス層と、該第1の誘電体ガラス層の両主面に形成された薄層の第2の誘電体ガラス層とを有し、前記第1及び第2の誘電体ガラス層は、主成分がホウケイ酸系ガラスからなるガラス材料で形成されると共に、前記第2の誘電体ガラス層のうちの少なくとも前記実装基板に面する一方の第2の誘電体ガラス層の線膨張係数が、前記第1の誘電体ガラス層の線膨張係数よりも小さくなるように、少なくとも石英を含むフィラー成分を含有し、少なくとも前記一方の第2の誘電体ガラス層の厚みは10~100μmであり、前記第1の誘電体ガラス層と前記一方の第2の誘電体ガラス層との間の線膨張係数差が、0.4ppm/℃以上であり、かつ、前記第1及び第2の誘電体ガラス層の各々に含有される前記石英の含有量は、前記ガラス材料100重量部に対し40~60重量部であるので、所定量の石英が含有されていれば、石英以外のフィラー種に依存することなく減衰特性と機械的強度が両立した積層コイル部品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】本発明に係る積層コイル部品としての積層コモンモードチョークコイルの一実施の形態を示す模式的に示す斜視図である。
図2図1のA-A矢視断面図である。
図3】積層成形体を模式的に示す分解斜視図である。
図4】実施例で作製された比較例試料を模式的に示す斜視図である。
図5】試料番号3の減衰特性を比較例試料と共に示した図である。
図6】モデル1、2における第2の誘電体ガラス層の厚みと圧縮応力との関係を比較例モデルと共に示す図である。
図7】磁性体層を有するタイプの従来の積層コイル部品を示す断面図である。
図8】誘電体ガラス層のみで形成された場合の従来の積層コイル部品の課題を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
次に、本発明の実施の形態を詳説する。
【0043】
図1は、本発明に係る積層コイル部品としての積層コモンモードチョークコイルの一実施の形態を示す斜視図であり、図2は、図1のA-A矢視断面図である。
【0044】
この積層コモンモードチョークコイルは、内部導体1を有する部品素体2の両端部に外部電極3a~3dが形成されている。
【0045】
部品素体2は、具体的には内部導体1を埋設した第1の誘電体ガラス層4と、該第1の誘電体ガラス層4の両主面に形成された厚みT1、T2からなる薄層の第2の誘電体ガラス層5a、5bとを有する積層構造とされている。
【0046】
第1の誘電体ガラス層4は、図2に示すように、第1~第7の誘電体ガラスシート6a~6gが積層された焼結体で形成されると共に、内部導体1は、巻き方向が互いに同一方向となるようにコイル状(渦巻状)に形成された第1及び第2のコイル導体7、8を有し、前記第1のコイル導体7と第2のコイル導体8とが、前記第1の誘電体ガラス層4に埋設されている。そして、第1のコイル導体7は、第3の誘電体ガラスシート6c上に形成された第1のコイル部9aと、第3の誘電体ガラスシート6cを貫通する第1の導通ビア9bと、第2の誘電体ガラスシート6b上に形成された第1の引出導体部9cとを有し、第1のコイル部9a、第1の導通ビア9b、及び第1の引出導体部9cが電気的に接続されている。また、第2のコイル導体8は、第4の誘電体ガラスシート6d上に形成された第2のコイル部10aと、第5の誘電体ガラスシート6eを貫通する第2の導通ビア10bと、第5の誘電体ガラスシート6e上に形成された第2の引出導体部10cとを有し、第2のコイル部10a、第2の導通ビア10b、及び第2の引出導体部10cが電気的に接続されている。そして、本積層コモンモードチョークコイルは、第2の誘電体ガラス層5aが実装基板(不図示)と対向するように配され、はんだを介して実装基板に電気的に接続される。
【0047】
このように構成された積層コモンモードチョークコイルは、第1及び第2のコイル導体7、8にノーマルモードの電流が流れると、該第1及び第2のコイル導体7、8には互いに逆方向に磁束が発生し、磁束が打ち消しあうことからインダクタとしての機能は生じない。一方、第1及び第2のコイル導体7、8にコモンモードの電流が流れると、該第1及び第2のコイル導体7、8には同一方向に磁束が発生し、インダクタとして機能する。
【0048】
このように積層コモンモードチョークコイルでは、ノーマルモードではインダクタとして機能せずに信号成分が伝送され、コモンモードではインダクタとして機能してノイズ成分が伝送されることにから、これらの伝送モードの相違を利用し、信号とノイズとに分離してノイズ除去を行うことができる。
【0049】
そして、本実施の形態では、第1及び第2の誘電体ガラス層4、5a、5bは主成分がガラス材料で形成されると共に、少なくとも石英を含むフィラー成分を含有し、第2の誘電体ガラス層5a、5bは、石英含有量が、第1の誘電体ガラス層4よりも少なくなるように形成されている。
【0050】
すなわち、ホウケイ酸系ガラス(比誘電率:4.0~5.0)に代表されるガラス材料は、フェライト材料(比誘電率:10~20)に比べて比誘電率が低く、高いQ値を得ることができることから、GHz帯域等の高周波数帯域において急峻で良好な減衰特性を得ることができ、ノイズを効果的に除去することができる。特に、石英は比誘電率が4未満であり、ホウケイ酸系ガラスよりも更に低いことから、より高いQ値を得ることが可能であり、減衰特性のより一層の向上を図ることができる。
【0051】
しかしながら、部品素体全体を同一組成のガラス材料で形成した場合、積層コモンモードチョークが実装された基板にたわみが生じると、該基板には引張応力が生じ、このため基板と外部電極3a~3dの側面折返部先端の接触部分を起点に誘電体ガラス層にクラック等の構造欠陥が発生するおそれがある。
【0052】
すなわち、特許文献1のように磁性体層の外層側に誘電体ガラス層が配されている場合は、フェライト材料とガラス材料の線膨張係数の相違から、磁性体層に接する外側の誘電体ガラス層には圧縮応力が負荷され、これにより引張応力に起因したクラック等の構造欠陥の発生を抑制することが可能である。
【0053】
しかしながら、部品素体全体を同一組成のガラス材料で形成した場合、部品素体の外層、特に表層部分には圧縮応力が殆ど負荷されず、このため実装基板にたわみが生じると、該実装基板からの引張応力に起因してクラック等の構造欠陥が発生するおそれがある。
【0054】
そこで、本実施の形態では、ホウケイ酸系ガラスと石英との線膨張係数の相違に着目し、第2の誘電体ガラス層5a、5b中の石英含有量が、第1の誘電体ガラス層4中の石英含有量よりも少なくなるよう石英含有量を調整している。すなわち、ホウケイ酸系ガラスの線膨張係数は、石英の線膨張係数より小さい。したがって、第2の誘電体ガラス層5a、5b中の石英含有量を、第1の誘電体ガラス層4中の石英含有量よりも少なくすることにより、第2の誘電体ガラス層5a、5bの線膨張係数は第1の誘電体ガラス層4の線膨張係数よりも大きくなり、焼成工程等の製造過程で高温から常温に冷却する過程で第2の誘電体ガラス層5a、5bには圧縮応力が負荷され、その結果、引張応力等の外的応力に対し機械的強度を向上させることができる。
【0055】
このように本実施の形態では、積層コモンモードチョークコイルの機械的強度が向上することから、基板にたわみが生じても積層コモンモードチョークコイルにクラック等の構造欠陥が発生するのを抑制することができる。
【0056】
第1の誘電体ガラス層4と第2の誘電体ガラス層5a、5bとの石英含有量の差(石英含有量差)は、第2の誘電体ガラス層5a、5bにクラック等の構造欠陥が生じない程度に該第2の誘電体ガラス層5a、5bに圧縮応力が負荷されるのであれば特に限定されるものではないが、通常はガラス材料100重量部に対し、3~10重量部が好ましく、5~10重量部がより好ましい。石英含有量差が、ガラス材料100重量部に対し3重量部未満になると石英含有量差が過度に少なくなって両者間で十分な線膨張係数差Δαを確保することができず、十分な機械的強度を得ることができない。一方、石英含有量差がガラス材料100重量部に対し10重量部を超えると、石英含有量の絶対値が多くなることから焼結性の低下を招くおそれがある。
【0057】
第1及び第2の誘電体ガラス層4、5a、5bの各々に含有される石英含有量も特に限定されるものではないが、通常はガラス材料100重量部に対し、40~60重量部が好ましい。
【0058】
また、第1及び第2の誘電体ガラス層4、5a、5bに含有されるフィラー成分にはアルミナを含むのも好ましく、この場合、第2の誘電体ガラス層5a、5bのアルミナの含有量が、第1の誘電体ガラス層4よりも多いのが好ましい。アルミナは比誘電率が8.5とホウケイ酸ガラスや石英に比べて高いが、ビッカース硬度が高く、第2の誘電体ガラス層5a、5b中のアルミナの含有量を、第1の誘電体ガラス層4中のアルミナの含有量よりも多くすることにより、機械的強度をより一層向上させることが可能である。
【0059】
第1の誘電体ガラス層4と第2の誘電体ガラス層5a、5bとのアルミナ含有量の差(アルミナ含有量差)は、より機械的強度の向上に寄与するのであれば特に限定されるものではないが、ガラス材料100重量部に対し、2~10重量部が好ましい。アルミナ含有量差がガラス材料100重量部に対し、2重量部未満の場合は第2の誘電体ガラス層5a、5bに対するアルミナの添加効果を十分に発揮することができない。一方、アルミナ含有量差がガラス材料100重量部に対し、10重量部を超えると、焼結性が低下し、水分が部品素体2に浸入するおそれがある。
【0060】
尚、第1及び第2の誘電体ガラス層4、5a、5bにアルミナを含有させる場合、その含有量は、良好な減衰特性と機械的強度を確保できる範囲であればば特に限定されるものではないが、通常は、ガラス材料100重量部に対し、10重量部以下である。
【0061】
また、第2の誘電体ガラス層5a、5bの厚みT1、T2は、実装基板からの引張応力は、部品素体2の表層部分に負荷されることを考慮すると、薄層であればその厚みは特に限定されるものではないが、10~100μmが好ましく、10~75μmがより好ましい。
【0062】
また、上記積層コモンモードチョークコイルでは、第1の誘電体ガラス層4と第2の誘電体ガラス層5a、5bとの間で石英の含有量に差を設けることにより、線膨張係数に差を生じさせているが、石英等のフィラー成分種に依存することなく、第1の誘電体ガラス層4と第2の誘電体ガラス層5a、5bとの間で線膨張係数に差が生じるように第1の誘電体ガラス層4と第2の誘電体ガラス層5a、5bを形成してもよい。すなわち、第2の誘電体ガラス層5a、5bの線膨張係数が、前記第1の誘電体ガラス層4の線膨張係数よりも小さくなるように形成することにより、フィラー成分種に依存することなく減衰特性と機械的強度が両立した積層コイル部品を得ることができる。
【0063】
このように第2の誘電体ガラス層5a、5bに十分な圧縮応力が負荷される程度に線膨張係数差を生じさせることにより、本発明の課題を解決することができる。尚、この場合は、第1及び第2の誘電体ガラス層4、5a、5bに任意の各種フィラー成分を含有させることができる。
【0064】
線膨張係数差は、第2の誘電体ガラス層5a、5bに十分な圧縮応力が負荷されるのであれば、特に限定されるものではないが、好ましくは、線膨張係数差は0.1ppm/℃以上、より好ましくは、0.4ppm/℃以上である。
【0065】
尚、ガラス材料としては、上述したようにSi、Bを主成分とした比誘電率の低いホウケイ酸ガラスを好んで使用することができる。例えば、SiをSiOに換算して70~85wt%、BをBに換算して10~25wt%、KをKOに換算して0.5~5wt%、AlをAlに換算して0.5wt%とされたホウケイ酸アルカリガラスを好んで使用することができる。
【0066】
また、第1及び第2のコイル導体7、8の導体材料としては、特に限定されるものではなく、Ag、Ag-Pd、Au、Cu、Ni等の各種導電性材料を使用することが可能であるが、通常は比較的安価で大気雰囲気で焼成可能なAgを主成分とした導電性材料を好んで使用することができる。
【0067】
次に、上記積層コモンモードチョークコイルの製造方法を詳述する。
【0068】
図3は本積層コモンモードチョークコイルの中間生成物である積層成形体を模式的に示す分解斜視図である。
【0069】
[第1~第7の誘電体ガラスシート6a~6gの作製]
焼成後のガラス成分の組成が、所定組成となるようにSi化合物、B化合物等のガラス素原料を秤量し、この秤量物を白金坩堝に投入し、1500~1600℃の温度で所定時間溶融させ、ガラス融液を作製する。次いで、このガラス融液を急冷した後、粉砕し、これによりガラス材料を得る。
【0070】
次に、焼成後のガラス材料100重量部に対し好ましくは40~60重量部となるように石英を秤量し、さらに必要に応じて好ましくは10重量部以下の範囲でアルミナを秤量する。次いで、これら石英、アルミナを含むフィラー成分をガラス材料に添加し、混合した後、これをポリビニルブチラール系等の有機バインダ、エタノール、トルエン等の有機溶剤、及び可塑剤をPSZボールと共に、ポットミルに投入し、十分に混合粉砕し、誘電体ガラススラリーを作製する。
【0071】
次に、ドクターブレード法等の成形加工法を使用し、前記誘電体ガラススラリーをシート状に成形加工し、これにより厚みが20~30μmの第1~第7の誘電体ガラスシート6a~6gを作製する。
【0072】
[外層用誘電体ガラスシート11a、11bの作製]
第1~第7の誘電体ガラスシート6a~6gの作製方法と同様の方法・手順でガラス材料を作製する。
【0073】
次に、石英含有量が第1~第7の誘電体ガラスシート6a~6gよりも少なくなるように、好ましくは焼成後の石英含有量差が、ガラス材料100重量部に対し3~10重量部(より好ましくは5~10重量部)となるように石英を秤量する。また、必要に応じてアルミナ含有量が第1~第7の誘電体ガラスシート6a~6gよりも多くなるように、好ましくは焼成後のアルミナ含有量差が、ガラス材料100重量部に対し2重量部以上となるように、アルミナを秤量する。
【0074】
そして、これら石英、アルミナを含むフィラー成分をガラス材料に添加し、混合した後、上述と同様の方法・手順で誘電体ガラススラリーを作製する。
【0075】
次に、ドクターブレード法等の成形加工法を使用し、前記誘電体ガラススラリーをシート状に成形加工し、これにより膜厚10~100μmの外層用誘電体ガラスシート11a、11bを作製する。
【0076】
[第1及び第2の導電膜12、13の作製]
Ag等を主成分とする導電性ペーストを用意する。そして、スクリーン印刷法等の塗布法を使用し、第2の誘電体ガラスシート6b上に導電性ペーストを塗布し、所定形状の第1の引出導体パターン12aを作製する。次に、レーザ照射等により第3の誘電体ガラスシート6cの所定箇所にビアホールを形成し、該ビアホールに導電性ペーストが充填して第1のビア導体12bを形成する。その後スクリーン印刷法等の塗布法を使用し、第3の誘電体ガラスシート6c上に渦巻状に第1のコイルパターン12cを形成し、第1の引出導体パターン12a、第1のビア導体12b、及び第1のコイルパターン12cからなる第1の導電膜12を作製する。
【0077】
同様に、スクリーン印刷法等の塗布法を使用して第4の誘電体ガラスシート6d上に導電性ペーストを塗布し、渦巻状に第2のコイルパターン13aを作製する。次に、レーザ照射等により第5の誘電体ガラスシート6eの所定箇所にビアホールを形成し、該ビアホールに導電性ペーストが充填して第2のビア導体13bを形成する。その後スクリーン印刷法等の塗布法を使用して第5の誘電体ガラスシート6e上に第2の引出導体パターン13cを形成し、第2のコイルパターン13a、第2のビア導体13b及び第2の引出導体パターン13cを有する第2の導電膜13を形成する。
【0078】
[積層コモンモードチョークコイルの作製]
外層用誘電体ガラスシート11a上に第1の誘電体ガラスシート6aを積層した後、導電膜12、13が形成された第2~第5の誘電体ガラスシート6b~6eを積層し、さらにその上に第6~第7の誘電体ガラスシート6f、6g、外層用誘電体ガラスシート11bを順次積層し、これを加熱・圧着させ、これにより積層成形体を作製する。
【0079】
次いで、この積層成形体を焼成炉に投入し、大気雰囲気下、350~500℃の加熱温度で脱バインダ処理を行い、その後、800~900℃の温度で2時間焼成処理を行い、これにより外層用誘電体ガラスシート11a、11b、第1~第7の誘電体ガラスシート6a~6g、第1及び第2の導電膜12、13が共焼成される。そして、内部導体1(第1及び第2のコイル導体7、8)が埋設された第1の誘電体ガラス層4の両主面に薄層の第2の誘電体ガラス層5a、5bが形成された部品素体2を得る。
【0080】
その後、この部品素体2の両端部の所定箇所にAg等を主成分とした外部電極用導電性ペーストを塗布し、700~800℃程度の温度で焼き付け処理を行って下地電極を形成し、その上にNiめっき及びSnめっきを順次行って下地電極上にNi皮膜及びSn皮膜を形成し、これにより第1~第4の外部電極3a~3dを作製する。すなわち、第1の引出導体部9cが第1の外部電極3aに電気的に接続されると共に第1のコイル部9aが第3の外部電極3cに電気的に接続され、また、第2のコイル部10aが第4の外部電極3dに電気的に接続されると共に第2の引出導体部10cが第2の外部電極3bに電気的に接続され、これにより図1及び図2に示す積層コモンモードチョークコイルを作製することができる。
【0081】
尚、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、上記実施の形態では、第1の誘電体ガラス層4に接する一対の第2の誘電体ガラス層5a、5bに対し、石英やアルミナの含有量を調整しているが、少なくとも一方の第2の誘電体ガラス層、具体的には実装基板に対向する誘電体ガラス層5aについて、第1の誘電体ガラス層4との間で石英含有量やアルミナ含有量に差が生じるように形成されていればよい。
【0082】
また、誘電体ガラス層4、5a、5bについても、性能に影響を与えない範囲で上述した材料種以外に適宜添加物を含有させてもよい。
【0083】
また、上記実施の形態ではコイル形状が渦巻状の2つの内部導体1(第1及び第2のコイル導体7、8)を第1の誘電体ガラス層4に埋設させているが、内部導体の形態はコイル形状であれば特に限定されるものではなく、複数の導通ビアを介して螺旋状に形成された内部導体を第1の誘電体ガラス層4に埋設させてもよい。
【0084】
また、上記実施の形態では、積層コモンモードチョークコイルを例示して説明したが、その他の積層コイル部品に適用可能であるのはいうまでもない。
【0085】
次に、本発明の実施例を具体的に説明する。
【実施例1】
【0086】
[誘電体ガラス材料の作製と線膨張係数の測定]
(誘電体ガラス材料の作製)
SiO、B、KO、及びAlが所定の割合で含有されたガラス材料、及びフィラー成分として石英粉末及びアルミナ粉末を用意した。
【0087】
次いで、ガラス材料100重量部に対し石英粉末及びアルミナ粉末の含有量が表1となるようにこれらガラス粉末、石英粉末及びアルミナ粉末を秤量して混合し、ポリビニルブチラール系樹脂等の有機バインダ、エタノール、トルエン等の有機溶剤、及び可塑剤をPSZボールと共に、ボールミルに投入し、十分に混合粉砕し、誘電体ガラススラリーを作製した。
【0088】
次に、ドクターブレード法を使用し、前記誘電体ガラススラリーを厚みが10~30μmとなるようにシート状に成形加工し、誘電体ガラスシートを作製した。
【0089】
次に、この誘電体ガラスシートを複数枚積層し、温度80℃、圧力100MPaの条件下、WIP(温間等方圧プレス)処理を行って圧着し、成形体を得た。次いで、この成形体を焼成後の外形寸法が、長さ:約4mm、幅:約1mm、高さ:約1mmとなるようにダイサーで切断して焼成炉に投入し、800~900℃の温度で2時間焼成し、これにより試料番号A~Eの誘電体ガラス材料を作製した。
【0090】
(線膨張係数αの測定)
試料番号A~Eの誘電体ガラス材料について、熱機械分析装置(リガク社製、Thermo plus EVO2 TMAシリーズ)を使用し、20~500℃の温度範囲で線膨張係数αを測定した。
【0091】
表1は、その測定結果を示している。
【0092】
【表1】
【0093】
[積層コモンモードチョークコイルの作製と機械的強度の測定]
(積層コモンモードチョークコイルの作製)
Ag系導電性ペーストを用意し、試料番号Aの誘電体ガラスシートにスクリーン印刷法を使用して前記Ag系導電性ペーストを塗布し、渦巻状のコイルパターン及び引出導体パターンを形成した。さらに誘電体ガラスシートに対し所定箇所にレーザ照射を行ってビアホールを形成し、該ビアホールにAg系導電性ペーストを充填し、ビア導体を形成し、第1及び第2の導電膜を作製した。
【0094】
上記導電膜が形成された試料番号Aの誘電体ガラスシート、及び導電膜が形成されていない試料番号Aの誘電体ガラスシートを所定順序で積層し、この両主面を試料番号A~Dのいずれかの誘電体ガラスシートで狭持し、温度80℃、圧力100MPaの条件下、WIP処理を行って圧着し、積層体ブロックを得た。尚、試料番号B~Dは焼成後に表2に示すような第2の誘電体ガラス層の厚みTとなるように所定枚数積層した。
【0095】
次いで、この積層体ブロックをダイサーで切断して個片化した後、焼成炉に投入し、800~900℃の温度で2時間焼成し、これにより部品素体を得た。
【0096】
次に、この部品素体の両端面にAg系導電性ペーストを塗布し、700~800℃程度の温度で焼き付け処理を行って下地電極を形成し、その上にNiめっき及びSnめっきを順次行って下地電極上にNi皮膜及びSn皮膜を形成し、これにより第1~第4の外部電極を作製し、試料番号1~6の積層コモンモードチョークコイル(試料)を得た。
【0097】
得られた試料の外形寸法は、長さLが0.65mm、幅Wが0.50mm、厚みTが0.30mmであった。
【0098】
(機械的強度の評価)
試料番号1~6の各試料10個について、JISC60068-2-21(2009)に準拠し、たわみ強度試験を行い、機械的強度を評価した。すなわち、まず、長さ100mm、幅:40mm、厚み1.0mmのガラスエポキシ製のたわみ強度試験用基板を用意した。次いで、この基板の表面中央部に試料をはんだ付けして該試料を基板表面に固着させ、たわみ量δが2mm、又は3mmとなるように基板の裏面側から荷重を負荷し、5秒間放置した。そして、試料にクラック等の構造欠陥が生じていないかをマイクロスコープで確認し、試料10個中、全数で構造欠陥が認められなかったものを良品(〇)、1個でも構造欠陥が認められたものを不良品(×)と判断した。
【0099】
表2は、試料番号1~6のフィラー成分、第1の誘電体ガラス層と第2の誘電体ガラス層の含有量差ΔW、第2の誘電体ガラス層の厚みT、線膨張係数差Δα、及びたわみ強度の試験結果を示している。
【0100】
【表2】
【0101】
試料番号1は、第1及び第2の誘電体ガラス層がいずれも試料番号Aの誘電体ガラス材料を使用しており、第1の誘電体ガラス層と第2の誘電体ガラス層とで石英含有量に差がないため、たわみ強度はたわみ量δが2mm及び3mmのいずれにおいてクラック等の構造欠陥が発生した。
【0102】
これに対し試料番号2~6は、第2の誘電体ガラス層の石英含有量が第1の誘電体ガラス層の石英含有量に比べて少なく、含有量差ΔWがガラス材料100重量部に対し3重量部以上であることから、線膨張係数差Δαも0.1ppm/℃以上を確保することができた。その結果、試料番号1に比べてたわみ強度が改善され、機械的強度が向上することが分かった。特に、試料番号3~6は、含有量差ΔWがガラス材料100重量部に対し5重量部以上であり、第2の誘電体ガラス層の石英含有量が第1の誘電体ガラス層の石英含有量に比べて十分に少なく、線膨張係数差Δαも0.4ppm/℃以上を確保できることから、たわみ量δが3mmであってもクラック等の構造欠陥が生じず、十分に機械的強度が向上することが分かった。
【実施例2】
【0103】
フィラー成分として石英に加えアルミナを含有した場合について、第1の誘電体ガラス層と第2の誘電体ガラス層のアルミナ含有量差が機械的強度に及ぼす影響を調べた。
【0104】
すなわち、第1の誘電体ガラス層として試料番号Eの誘電体ガラス材料を使用し、第2の誘電体ガラス層として試料番号Bの誘電体ガラス材料を使用した以外は、実施例1と同様の方法・手順で試料番号11の試料を作製した。
【0105】
そして、実施例1と同様の方法・手順でたわみ強度試験を行い、機械的強度を評価した。
【0106】
は、試料番号1~6のフィラー成分、第1の誘電体ガラス層と第2の誘電体ガラス層の含有量差ΔW、第2の誘電体ガラス層の厚みT、線膨張係数差Δα、及びたわみ強度の試験結果を示している。尚、この表には比較のため表の試料番号2を再掲している。
【0107】
【表3】
【0108】
試料番号11は、第1の誘電体ガラス層と第2の誘電体ガラス層とで石英含有量差及び第2の誘電体ガラス層の厚みTは同一であるが、第2の誘電体ガラス層のアルミナ含有量が第1の誘電体ガラス層のアルミナ含有量に比べて多いことから、たわみ量δが3mmであってもクラック等の構造欠陥が生じず、より一層機械的強度が向上することが分かった。
【0109】
すなわち、第1の誘電体ガラス層と第2の誘電体ガラス層とでアルミナ含有量が同一の試料番号2は、たわみ量δが2mmのときはクラック等の構造欠陥が発生しなかったが、たわみ量δが3mmになると構造欠陥の発生が認められた。したがって、第2の誘電体ガラス層のアルミナ含有量を第1の誘電体ガラス層よりも多くすることで機械的強度がより一層向上することが分かった。
【実施例3】
【0110】
[比較例試料の作製]
比較例試料として部品素体に磁性体層を有する積層コモンモードチョークコイルを作製し、本発明実施例の減衰特性と比較例試料の減衰特性を比較した。
【0111】
図4は、比較例としての積層コモンモードチョークコイルの斜視図である。
【0112】
この積層コモンモードチョークコイルでは、部品本体51は、内部導体52が埋設された厚みt1の第1の誘電体ガラス層53が厚みt2の一対の磁性体層54a、54bに狭持され、さらにこの一対の磁性体層54a、54bの各々主面には厚みt3の一対の第2の誘電体ガラス層55a、55bが形成され、厚みtの積層構造を有している。また、部品本体51の両端部には第1~第4の外部電極56a~56dが形成されている。
【0113】
この比較例試料は、以下のようにして作製した。
【0114】
まず、試料番号Aの誘電体ガラスシートを使用し、実施例1と同様の方法・手順で、この誘電体ガラスシートに渦巻状のコイルパターン又は引出導体パターンを形成した。さらにこの誘電体ガラスシートに対し所定箇所にレーザ照射を行ってビアホールを形成し、該ビアホールにAg系導電性ペーストを充填し、ビア導体を形成した。
【0115】
また、Fe、ZnO、CuO、NiOを含有したフェライト材料を用意し、これにポリビニルブチラール系等の有機バインダ、エタノール、トルエン等の有機溶剤をPSZボールと共に、再びポットミルに投入し、十分に混合粉砕し、磁性体スラリーを作製し、その後ドクターブレード法を使用してシート状に成形加工し、これにより磁性体シートを作製した。
【0116】
次に、導電膜が形成されていない誘電体ガラスシート、磁性体シート、導電膜が形成された誘電体ガラスシート、磁性体シート、及び導電膜が形成されていない誘電体ガラスシートを順次積層し、実施例1と同様の方法で加熱・加圧して圧着し、積層体を形成した。そしてその後、900℃の温度で2時間焼成して部品素体51を作製し、該部品素体51の両端部に外部電極56a~56cを形成し、これにより比較例試料を作製した。
【0117】
作製された比較例試料の外形寸法は、試料番号3と同様、長さLが0.65mm、幅Wが0.50mm、厚みtが0.30mmであった。
【0118】
(減衰特性の測定)
試料番号3(本発明実施例)及び比較例試料について、コモンモード成分の減衰特性(Scc21)を測定した。
【0119】
図5は、その測定結果を示している。横軸が周波数(GHz)、縦軸は減衰量(dB)である。また、図5中、実線が試料番号3(本発明実施例)を示し、破線が比較例試料を示している。
【0120】
この図5から明らかなように、GHzの高周波数帯域において、比較例試料は減衰量が周波数に対し緩やかに変化しているのに対し、試料番号3は減衰量の変化は周波数に対し急峻であり、良好な減衰特性を有していることが分かる。すなわち、誘電体ガラス材料はフェライト材料に比べて比誘電率が低いことから高いQ値を得ることができ、試料番号3は比較例試料に比べ減衰特性が向上したものと考えられる。
【実施例4】
【0121】
積層コイル部品の解析モデルを作成し、有限要素法を使用して応力解析を行い、第2の誘電体ガラス層の厚みTと圧縮応力との関係をシミュレーションした。
【0122】
具体的には、積層コイル部品の外形寸法を長さL:0.65mm、幅W:0.50mm、厚みt:0.30mmとし、第1の誘電体ガラス層と第2の誘電体ガラス層との線膨張係数差Δαを1.9ppm/℃(モデル1)、及び1.3ppm/℃(モデル2)に設定した。そして、部品素体の長さL方向に熱応力を負荷し、温度を800℃から20℃(室温)に冷却した場合において、第2の誘電体ガラス層の厚みTを10~140μmに変化させたときの圧縮応力を算出した。尚、実装基板と積層コイル部品との間に形成されるはんだフィレット部は、無応力状態としてシミュレーションした。
【0123】
図6は、シミュレーション結果を示している。横軸が第2の誘電体ガラス層の厚みT(μm)、縦軸は圧縮応力(MPa)である。また、図6中、●印はモデル1(線膨張係数差Δα:1.9ppm/℃)を示し、■印はモデル2(線膨張係数差Δα:1.3ppm/℃)を示している。破線は実施例3の磁性体層を含有した比較例試料と同様の仕様で比較例モデルを作成し、シミュレーションしたものである。
【0124】
この図6から明らかなように磁性体層を有する比較例モデルは、第2の誘電体ガラス層の厚みTに依存することなく約61MPaの圧縮応力が第2の誘電体ガラス層に負荷されている。
【0125】
これに対しモデル1、2では、第2の誘電体ガラス層の厚みTが厚くなるのに伴い第2の誘電体ガラス層に負荷される圧縮応力が減少し、厚みTが100μmを超えると圧縮応力が殆ど負荷されなくなることが分かる。すなわち、第2の誘電体ガラス層の厚みTが薄くなればなるほど、大きな圧縮応力が第2の誘電体ガラス層に負荷され、クラック等の構造欠陥の発生を効果的に抑制することができ、第2の誘電体ガラス層の厚みTは、好ましくは10~100μm、より好ましくは75μm以下であることが分かる。
【0126】
また、このシミュレーション結果より、線膨張係数に一定の差があれば、フィラー成分種に依存することなく、第2の誘電体ガラス層には圧縮応力が負荷されることも分かった。
【産業上の利用可能性】
【0127】
部品素体を誘電体ガラス材料で形成した場合であっても、基板のたわみに対し部品素体にクラック等の構造欠陥が生じるのを抑制し、減衰特性と機械的強度とを両立させる。
【符号の説明】
【0128】
1 内部導体
2 部品素体
3a~3d 外部電極
4 第1の誘電体ガラス層
5a、5b 第2の誘電体ガラス層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8