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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】樹脂組成物及びその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 69/00 20060101AFI20231221BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20231221BHJP
   C08L 55/02 20060101ALI20231221BHJP
   C08L 79/00 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
C08L69/00
C08L51/04
C08L55/02
C08L79/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019145616
(22)【出願日】2019-08-07
(65)【公開番号】P2021024984
(43)【公開日】2021-02-22
【審査請求日】2022-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】396021575
【氏名又は名称】テクノUMG株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【弁理士】
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】田中 成季
(72)【発明者】
【氏名】木田 雄嘉
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-144075(JP,A)
【文献】特開2013-047288(JP,A)
【文献】特開平09-194719(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0369094(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0209695(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 69/00
C08L 51/04
C08L 55/02
C08L 79/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート系樹脂(A)と、ゴム変性グラフト重合体(B)と、芳香族カルボジイミド化合物(C)とを含み、
前記ゴム変性グラフト重合体(B)が、ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体成分を乳化重合して得られたものであり、
前記ポリカーボネート系樹脂(A)と前記ゴム変性グラフト重合体(B)との合計質量に対する前記ポリカーボネート系樹脂(A)の割合が、40~70質量%であり、
前記芳香族カルボジイミド化合物(C)が、重量平均分子量が3000以上である芳香族ポリカルボジイミド化合物であり、
前記芳香族カルボジイミド化合物(C)の含有量が、前記ポリカーボネート系樹脂(A)と前記ゴム変性グラフト重合体(B)との合計質量に対して0.1~3.0質量%である、樹脂組成物。
【請求項2】
前記芳香族カルボジイミド化合物(C)の含有量が、前記ポリカーボネート系樹脂(A)と前記ゴム変性グラフト重合体(B)との合計質量に対して0.1~0.5質量%である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記ポリカーボネート系樹脂(A)が、芳香族ポリカーボネート及び芳香族ポリエステルカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
他の熱可塑性樹脂の含有量が、前記ポリカーボネート系樹脂(A)と前記ゴム変性グラフト重合体(B)との合計質量に対し、0~30質量%である、請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載の樹脂組成物を含む成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物及びその成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
ABS樹脂、AES樹脂等のゴム変性グラフト重合体は、機械的強度、成形性に優れた材料であるが、耐熱性や高度の耐衝撃性が要求される用途(自動車部品、OA部品等)に用いるには耐熱性や耐衝撃性が不十分な場合がある。一方、ポリカーボネート系樹脂は、耐熱性や耐衝撃性に優れた材料であるが、成形性が不十分な場合がある。これら互いの欠点を補う方法として、ポリカーボネート系樹脂とゴム変性グラフト重合体とをブレンドする方法が知られている。
【0003】
ゴム変性グラフト重合体の製造方法としては、ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体を重合する方法が知られている。重合方法としては、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法等が知られている。これらのうち乳化重合法は、ゴム質重合体の含有率を高くでき設計の自由度が大きいこと、得られる成形品の外観が優れること、過度の熱劣化によるゴム成分の劣化、着色が低いこと、小ロット単品種生産にも対応できること等の利点がある。
【0004】
しかし、乳化重合法により製造されたゴム変性グラフト重合体とポリカーボネート系樹脂とをブレンドすると、湿熱条件下でポリカーボネート系樹脂が加水分解しやすい(耐湿熱老化性に劣る)問題がある。ポリカーボネート系樹脂が加水分解すると、耐熱性、耐衝撃性等の性能が低下する。
【0005】
耐加水分解性に優れたポリカーボネート組成物として、芳香族ポリカーボネート及び/又は芳香族ポリエステルカーボネートと、塊状、溶液又は塊状懸濁重合法により調製されたゴム変性グラフト重合体と、リチウムと、ナトリウム及び/又はカリウムとを所定の割合で含む組成物が提案されている(特許文献1)。
しかし、特許文献1では、乳化重合法により製造されたゴム変性グラフト重合体を用いつつ耐湿熱老化性を向上させることについて何ら検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6279420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ゴム変性グラフト重合体として乳化重合法により製造されたものを用いた場合でも、ポリカーボネート系樹脂の加水分解が抑制され、耐湿熱老化性に優れた樹脂組成物及びその成形品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
〔1〕ポリカーボネート系樹脂(A)と、ゴム変性グラフト重合体(B)と、芳香族カルボジイミド化合物(C)とを含む、樹脂組成物。
〔2〕前記芳香族カルボジイミド化合物(C)の含有量が、前記ポリカーボネート系樹脂(A)と前記ゴム変性グラフト重合体(B)との合計質量に対して0.1質量%以上である、前記〔1〕の樹脂組成物。
〔3〕前記ポリカーボネート系樹脂(A)が、芳香族ポリカーボネート及び芳香族ポリエステルカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種である、前記〔1〕又は〔2〕の樹脂組成物。
〔4〕前記ゴム変性グラフト重合体(B)が、ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体成分を乳化重合して得られたものである、前記〔1〕~〔3〕のいずれかの樹脂組成物。
〔5〕前記〔1〕~〔4〕のいずれかの樹脂組成物を含む成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ゴム変性グラフト重合体として乳化重合法により製造されたものを用いた場合でも、ポリカーボネート系樹脂の加水分解が抑制され、耐湿熱老化性に優れた樹脂組成物及びその成形品を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において、「(メタ)アクリル」は、アクリル及びメタクリルを意味し、「(メタ)アクリル酸エステル」は、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルを意味し、「(共)重合体」は、単独重合体及び共重合体を意味する。
数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0011】
〔樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物は、ポリカーボネート系樹脂(A)と、ゴム変性グラフト重合体(B)と、芳香族カルボジイミド化合物(C)とを含む。
本発明の樹脂組成物は、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂や添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0012】
<ポリカーボネート系樹脂(A)>
ポリカーボネート系樹脂(A)は、主鎖にカーボネート結合を有する樹脂である。
ポリカーボネート系樹脂(A)としては、特に限定されず、芳香族ポリカーボネート、脂肪族ポリカーボネート、脂肪族-芳香族ポリカーボネート、芳香族ポリエステルカーボネート等が挙げられる。これらのポリカーボネート系樹脂は、末端がR-CO-基又はR’-O-CO-基(R及びR’は、いずれも有機基を示す。)に変性されたものであってもよい。これらのポリカーボネート系樹脂は、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0013】
ポリカーボネート系樹脂(A)としては、耐衝撃性、耐熱性の観点から、芳香族ポリカーボネート及び芳香族ポリエステルカーボネートからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、特に耐衝撃性の観点から、芳香族ポリカーボネートがより好ましい。
【0014】
芳香族ポリカーボネートとしては、芳香族ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとのエステル交換反応による反応生成物、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとの界面重縮合法による重縮合物、芳香族ジヒドロキシ化合物とホスゲンとのピリジン法による重縮合物等が挙げられる。
【0015】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、分子内に芳香環に結合したヒドロキシ基を2つ有する化合物であればよく、ヒドロキノン、レゾルシノール等のジヒドロキシベンゼン、4,4’-ビフェノール、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」という。)、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-4-イソプロピルシクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン、9,9-ビス(p-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(p-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、4,4’-(p-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、4,4’-(m-フェニレンジイソプロピリデン)ビスフェノール、ビス(p-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(p-ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(p-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルフィド、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p-ヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0016】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物が好ましい。この化合物において、炭化水素基としては、例えばアルキレン基が挙げられる。炭化水素基は、ハロゲン置換された炭化水素基であってもよい。ベンゼン環は、そのベンゼン環に含まれる水素原子がハロゲン原子に置換されたものであってもよい。
2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物としては、ビスフェノールA、2,2-ビス(3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3、5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(p-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(p-ヒドロキシフェニル)ブタン等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中では、ビスフェノールAが特に好ましい。
【0017】
芳香族ポリカーボネートをエステル交換反応により得るために用いる炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
芳香族ポリエステルカーボネートは、主鎖にカーボネート結合及びエステル結合を有する樹脂である。
芳香族ポリエステルカーボネートとしては、ポリ-4,4’-イソプロピリデンジフェニルカーボネート等が挙げられる。
【0019】
ポリカーボネート系樹脂(A)の粘度平均分子量(Mv)は、15,000~40,000が好ましく、17,000~30,000がより好ましく、18,000~28,000が特に好ましい。Mvが上記下限値以上であれば、耐衝撃性がより優れる。Mvが上記上限値以下であれば、流動性、成形性がより優れる。
ポリカーボネート系樹脂(A)のMvは、溶融粘度により求めた値である。
【0020】
<ゴム変性グラフト重合体(B)>
ゴム変性グラフト重合体(B)は、ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体成分を重合(グラフト重合)して得られたものであり、ゴム質重合体とビニル系重合体とを含む。
ビニル系単量体成分は、1種以上のビニル系単量体からなる。ビニル系重合体は、ビニル系単量体成分の重合体であり、ビニル系単量体に基づく構成単位を含む。
【0021】
ゴム質重合体とビニル系重合体との合計質量(ゴム質重合体とビニル系単量体成分との合計質量)に対するゴム質重合体の割合は、20~60質量%が好ましく、25~55質量%がより好ましく、30~50質量%が特に好ましい。
【0022】
(ゴム質重合体)
ゴム質重合体としては、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体、ジエン系ゴム質重合体、アクリル系ゴム質重合体等が挙げられる。これらは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
ゴム質重合体としては、耐衝撃性の観点から、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体及びジエン系ゴム質重合体からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、成形品同士が互いに接触したときの軋み音を低減する観点から、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体がより好ましい。
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体とジエン系ゴム質重合体とを併用してもよい。この場合、樹脂組成物の成形品が、例えば-30℃といった非常に低温の環境下においても、衝撃破壊時に延性破壊するようになるため、樹脂組成物が、安全性が要求される成形品(自動車用部品等)の成形品の成形材料として好適なものとなる。
【0023】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体は、エチレンに基づく構成単位と、α-オレフィンに基づく構成単位とを含む。
α-オレフィンとしては、例えば、炭素数3~20のα-オレフィンが挙げられ、具体的には、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-ヘキサデセン、1-エイコセン等が挙げられる。これらのα-オレフィンは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
α-オレフィンの炭素数は、好ましくは3~20、より好ましくは3~12、さらに好ましくは3~8である。炭素数が20以下であれば、エチレンとの共重合性が良好で、樹脂組成物の成形品の表面外観がより優れる。
【0024】
エチレンに基づく構成単位とα-オレフィンに基づく構成単位との合計質量に対するエチレンに基づく構成単位の割合は、典型的には5~95質量%であり、好ましくは50~95質量%、より好ましくは60~95質量%、特に好ましくは70~90質量%である。エチレンに基づく構成単位の割合が上記範囲内であれば、エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体のゴム弾性が十分なものとなり、耐衝撃性がより優れる。
【0025】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体は、必要に応じて、非共役ジエンに基づく構成単位をさらに含んでいてもよい。
非共役ジエンとしては、1,4-ヘキサジエン、1,5-ヘキサジエン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、ジシクロペンタジエン等が挙げられる。
【0026】
非共役ジエンに基づく構成単位の含有量は、軋み音低減の観点から、少ない方が好ましい。非共役ジエンに基づく構成単位が少ないほど、ゴムの結晶性が高く、軋み音の低減効果が優れる。
エチレンに基づく構成単位とα-オレフィンに基づく構成単位との合計質量に対する非共役ジエンに基づく構成単位の割合は、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましく、0質量%が特に好ましい。すなわち、非共役ジエンに基づく構成単位を含まないことが特に好ましい。
【0027】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体としては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・1-ブテン共重合体、エチレン・1-オクテン共重合体が好ましく、エチレン・プロピレン共重合体がより好ましい。
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体の100℃におけるムーニー粘度(ML1+4)は、典型的には5~80、好ましくは10~65、より好ましくは10~45である。ムーニー粘度が上記範囲内であれば、ゴム変性グラフト重合体(B)の流動性が十分なものとなり、成形性がより優れる。
ムーニー粘度は、JIS K 6300に規定された方法に従って測定した値である。
【0029】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体は、軋み音を低減する観点から、融点(Tm)を持つことが好ましい。
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体がTmを持つことは、該ゴム質重合体が結晶性部分を有することを意味している。ゴム質重合体中に結晶性部分が存在すると、スティックスリップ現象の発生が抑制される為、軋み音の発生が抑制されるものと考えられる。
【0030】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体のTmは、好ましくは0~120℃、より好ましくは10~100℃、特に好ましくは20~80℃である。Tmが0℃以上であれば、軋み音の低減効果がより優れる。
Tmは、示差走査熱量計(DSC)を用い、1分間に20℃の一定昇温速度で吸熱変化を測定し、得られた吸熱パターンのピーク温度を読みとった値であり、詳細は、JIS K 7121:1987に規定されている。なお、DSCの測定において、吸熱変化のピークを明瞭に示さないものは、実質的に結晶性がないものであり、Tmを持たないものと判断する。
【0031】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体のガラス転移温度(Tg)は、好ましくは-20℃以下、より好ましくは-30℃以下、特に好ましくは-40℃以下である。Tgが-20℃以下であれば、樹脂組成物の成形品の耐衝撃性がより優れる。
Tgは、Tmの測定と同様に、DSCを用い、JIS K 7121:1987に規定された方法に従って測定することができる。
【0032】
エチレン・α-オレフィン系ゴム質重合体の重量平均分子量は、典型的には50,000~1,000,000、好ましくは80,000~800,000、より好ましくは80,000~500,000である。重量平均分子量が上記範囲内であれば、樹脂組成物の成形性、樹脂組成物の成形品の耐衝撃性及び外観がより優れる。
上記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される標準ポリスチレン換算の値である。
【0033】
ジエン系ゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン等の単独重合体;スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・ブタジエン共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体等のブタジエン系共重合体;スチレン・イソプレン共重合体、スチレン・イソプレン・スチレン共重合体、アクリロニトリル・スチレン・イソプレン共重合体等のイソプレン系共重合体等が挙げられる。これらはランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい。
ジエン系ゴム質重合体は、架橋重合体であってよいし、未架橋重合体であってもよい。
ジエン系ゴム質重合体は、共役ジエン系化合物よりなる単位を含む(共)重合体を水素添加してなる(共)重合体であってもよい。該ジエン系ゴム質重合体に対する水素添加率は、典型的には95%以上、好ましくは98%以上である。
ジエン系ゴム質重合体は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
(ビニル系単量体成分)
ビニル系単量体成分を構成するビニル系単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル、これらの化合物と共重合可能な他のビニル系単量体が挙げられる。他のビニル系単量体としては、マレイミド系化合物、不飽和酸無水物、カルボキシ基含有不飽和化合物、ヒドロキシ基含有不飽和化合物、オキサゾリン基含有不飽和化合物、エポキシ基含有不飽和化合物等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、β-メチルスチレン、エチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、スチレン及びα-メチルスチレンが好ましく、スチレンが特に好ましい。
【0036】
シアン化ビニル化合物の具体例としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリル、α-イソプロピルアクリロニトリル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
【0037】
(メタ)アクリル酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸sec-ブチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸n-オクチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2つ以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、メタクリル酸メチルが好ましい。
【0038】
マレイミド系化合物の具体例としては、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
不飽和酸無水物の具体例としては、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0040】
カルボキシ基含有不飽和化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸、エタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クロトン酸、桂皮酸等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
ヒドロキシ基含有不飽和化合物の具体例としては、3-ヒドロキシ-1-プロペン、4-ヒドロキシ-1-ブテン、シス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、トランス-4-ヒドロキシ-2-ブテン、3-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロペン、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0042】
ビニル系単量体成分は、ゴム変性グラフト重合体(B)とその他樹脂との相溶性の観点から、芳香族ビニル化合物を含むことが好ましい。
ビニル系単量体成分の総質量に対する芳香族ビニル化合物の割合は、40質量%以上が好ましく、55質量%以上がより好ましい。該割合は100質量%であってもよい。
【0043】
ビニル系単量体成分は、ゴム変性グラフト重合体(B)とその他樹脂との相溶性の観点から、芳香族ビニル化合物に加えて、シアン化ビニル化合物及び(メタ)アクリル酸エステルからなる群から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、シアン化ビニル化合物を含むことがより好ましい。芳香族ビニル化合物と共にシアン化ビニル化合物を含むと、樹脂組成物の成形品の耐薬品性、靭性等がより優れる。
【0044】
ビニル系単量体成分が芳香族ビニル化合物及びシアン化ビニル化合物を含む場合、ビニル系単量体成分の総質量に対する芳香族ビニル化合物の割合は、40~90質量%が好ましく、55~85質量%がより好ましい。また、ビニル系単量体成分の総質量に対するシアン化ビニル化合物の割合は、10~60質量%が好ましく、15~45質量%がより好ましい。
なお、ビニル系単量体成分の総質量に対する芳香族ビニル化合物の割合は、ビニル系重合体を構成する全ての構成単位の合計質量に対する芳香族ビニル化合物に基づく構成単位の割合とみなすことができる。シアン化ビニル化合物の割合も同様である。
【0045】
(ゴム変性グラフト重合体(B)の製造方法)
ゴム変性グラフト重合体(B)は、ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体成分を重合することにより得られる。
重合方法としては、乳化重合法、溶液重合法、塊状重合法、懸濁重合法等が挙げられる。これらのなかでも、ゴム成分の含有率を高くでき設計の自由度が大きいこと、得られる成形品の外観が優れること、過度の熱劣化によるゴム質重合体の劣化、着色が低いこと、小ロット単品種生産にも対応できること等から、乳化重合法が好ましい。すなわち、ゴム変性グラフト重合体(B)は、ゴム質重合体の存在下にビニル系単量体成分を乳化重合して得られたものであることが好ましい。
【0046】
乳化重合法によりゴム変性グラフト重合体(B)を得る方法としては、例えば、ゴム質重合体のラテックスの存在下にビニル系単量体成分を重合する方法が挙げられる。これにより、ゴム変性グラフト重合体(B)のラテックスが得られる。
ゴム質重合体のラテックスは、公知の方法により製造できる。ラテックスを製造する方法としては、溶融状態のゴム質重合体を水中で攪拌剪断力によって、均質化処理(ホモジナイズ)する方法や、乳化剤の存在下で、重合性モノマーを乳化重合する方法等が知られている(特公平4-30970号公報、特許第3403828号、特開平11-269206号公報等参照)。
【0047】
ビニル系単量体成分は、ゴム質重合体のラテックスに、全量を一括して添加して重合させてもよく、少量ずつ分割して又は連続的に添加して重合させてもよい。また、これらを組み合わせた方法で重合してもよい。さらにゴム質重合体のラテックスの全量又は一部を重合の途中で添加して重合してもよい。
重合には、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤等を用いることができる。
【0048】
重合開始剤としては、例えばクメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物と、含糖ピロリン酸、スルホキシレート等の還元剤とを組み合わせたレドックス系開始剤;過硫酸カリウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、アゾビスイソブチロニトリル、ラウロイルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシラウレート、t-ブチルパーオキシモノカーボネート等の過酸化物等が挙げられる。重合開始剤は、油溶性でも水溶性でもよく、さらにはこれらを組み合わせて用いてもよい。重合開始剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。重合開始剤は、ゴム質重合体のラテックスに一括して又は連続的に添加することができる。
重合開始剤の使用量は、単量体成分全量100質量部に対し、好ましくは0.1~1.5質量部、より好ましくは0.2~0.7質量部である。
【0049】
連鎖移動剤としては、例えばオクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタン、n-ヘキサメチルメルカプタン、n-テトラデシルメルカプタン、t-テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類;ターピノーレン類;α-メチルスチレンのダイマー等が挙げられる。連鎖移動剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。連鎖移動剤は、ゴム質重合体のラテックスに一括して又は連続して添加することができる。
連鎖移動剤の使用量は、単量体成分全量100質量部に対し、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部である。
【0050】
乳化剤としては、例えばアニオン系界面活性剤及びノニオン系界面活性剤が挙げられる。アニオン系界面活性剤としては、高級アルコールの硫酸エステル;ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩;ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩;脂肪族リン酸塩等が挙げられる。ノニオン系界面活性剤としては、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型化合物、アルキルエーテル化合物等が挙げられる。乳化剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
乳化剤の使用量は、単量体成分全量100質量部に対し、例えば0.3~5質量部である。
【0051】
乳化重合は、ビニル系単量体、重合開始剤等の種類に応じ公知の条件で行うことができる。
乳化重合により得られたラテックスからゴム変性グラフト重合体(B)を回収する方法としては、特に制限されるものではないが、前記ラテックスを凝固剤水溶液等に投入して凝固し、重合体を回収する方法、凝固剤水溶液を前記ラテックスに投入して凝固し、重合体を回収する方法、凝固工程を低温から高温に温度勾配をつけ二段階以上に分けて凝固し、重合体を回収する方法、凝固工程を弱酸性から強酸性に又は強酸性から弱酸性に酸性度勾配をつけて二段階以上に分けて凝固し、重合体を回収する方法、前記ラテックスに凝固剤水溶液を混合してペーストとした後、細孔から温水中へ押出して凝固し、重合体を回収する方法等が挙げられ、これらの方法から二種類以上を選択して組み合わせることにより、回収することもできる。凝固剤としては、例えば、硫酸、リン酸、硝酸等の無機酸、酢酸、乳酸等の有機酸、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム等の無機塩等から選ばれた1種以上を用いることができる。
この後、公知の方法、例えば遠心脱水機、流動乾燥機を使用して、脱水・乾燥して重合体を回収することができる。なお、この際、必要に応じて、ラテックスに予め各種酸化防止剤、各種安定剤を添加してもよく、さらにこれらを乳化して添加してもよい。
【0052】
ゴム変性グラフト重合体(B)のグラフト率は、典型的には10~150質量%、好ましくは15~120質量%、より好ましくは20~100質量%、特に好ましくは30~80質量%である。グラフト率が前記範囲内であれば、樹脂組成物の耐衝撃性、成形性がより優れる。
【0053】
上記グラフト率は、下記数式(1)により求めることができる。
グラフト率(質量%)={(S-T)/T}×100 ・・・(1)
上記式中、Sは、ゴム変性グラフト重合体(B)1gをアセトン20mLに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分とを分離して得られる不溶分の質量(g)であり、Tは、ゴム変性グラフト重合体(B)1gに含まれるゴム質重合体の質量(g)である。このゴム質重合体の質量は、重合処方及び重合転化率から算出する方法、赤外線吸収スペクトル(IR)、熱分解ガスクロマトグラフィー、CHN元素分析等の方法により得ることができる。
【0054】
上記グラフト率は、例えば、単量体成分の重合時に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加量、添加方法及び添加時間、重合温度等を適宜選択することにより調整することができる。
【0055】
ゴム変性グラフト重合体(B)のアセトン可溶分の極限粘度[η](メチルエチルケトン中、30℃)は、典型的には0.1~1.5dL/g、好ましくは0.15~1.2dL/g、より好ましくは0.15~1.0dL/gである。極限粘度[η]が前記範囲内であれば、耐衝撃性、成形性がより優れる。
【0056】
上記極限粘度[η]は、下記方法により測定できる。
まず、ゴム変性グラフト重合体(B)のアセトン可溶分をメチルエチルケトンに溶解させ、濃度の異なる測定用試料5点を作製する。次に、ウベローデ粘度管を用い、30℃における各濃度の測定用試料の還元粘度を測定した結果から、極限粘度[η]を求める。単位は、dL/gである。アセトン可溶分は、ゴム変性グラフト重合体(B)の1gをアセトン20mLに投入し、25℃の温度条件下で、振とう機により2時間振とうした後、5℃の温度条件下で、遠心分離機(回転数;23,000rpm)で60分間遠心分離し、不溶分と可溶分(アセトン可溶分のアセトン溶液)とを分離し、可溶分を乾燥(アセトンを除去)して得られる。
【0057】
上記極限粘度[η]は、例えば、単量体成分の重合時に用いる連鎖移動剤の種類及び使用量、重合開始剤の種類及び使用量、重合時の単量体成分の添加方法及び添加時間、重合温度、重合時間等を適宜選択することにより調整することができる。また、極限粘度[η]が異なる2種以上のゴム変性グラフト重合体(B)を適宜選択して混合することにより調整することもできる。
【0058】
<芳香族カルボジイミド化合物(C)>
芳香族カルボジイミド化合物(C)は、分子中に芳香環及びカルボジイミド基(-N=C=N-)を有する化合物である。
芳香族カルボジイミド化合物(C)としては、カルボジイミド基を1つ有する芳香族モノカルボジイミド化合物、カルボジイミド基を2つ以上有する芳香族ポリカルボジイミド化合物が挙げられる。
【0059】
芳香族モノカルボジイミド化合物の具体例としては、N,N’-ジフェニルカルボジイミド、N,N’-ビス(2-メチルフェニル)カルボジイミド、N,N’-ビス(2-エチルフェニル)カルボジイミド、N,N’-ビス(2-イソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N’-ビス(2,6-ジメチルフェニル)カルボジイミド、N,N’-ビス(2,6-ジエチルフェニル)カルボジイミド、N,N’-ビス(2,6-ジイソプロピルフェニル)カルボジイミド、N,N’-ビス(2,6-ジメトキシフェニル)カルボジイミド、N,N’-ビス(2,4,6-トリメチルフェニル)カルボジイミドが挙げられる。
【0060】
芳香族モノカルボジイミド化合物としては、カルボジイミド量の最小含有量が10%以上であるものが好ましい。
「カルボジイミド量の最小含有量」とは、芳香族モノカルボジイミド化合物100質量%中のカルボジイミド基の質量の割合である。
【0061】
芳香族ポリカルボジイミド化合物の具体例としては、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミド、ポリ(1,3,5-トリイソプロピルベンゼン及び1,5-ジイソプロピルベンゼン)ポリカルボジイミドが挙げられる。
【0062】
芳香族ポリカルボジイミド化合物としては、重量平均分子量が3000以上であるものが好ましく、特にガスの発生抑制及び耐熱性の観点から、重量平均分子量が10000以上であるものがより好ましい。
芳香族ポリカルボジイミド化合物の重量平均分子量の上限は特に限定されないが、例えば50000である。
【0063】
芳香族カルボジイミド化合物(C)は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。芳香族カルボジイミド化合物(C)は、市販品を用いることができる。市販品としては、例えばスタバクゾール(登録商標)I、スタバクゾールILF、スタバクゾールP、スタバクゾールP100が挙げられる。
芳香族カルボジイミド化合物(C)としては、耐湿熱老化性、耐加水分解性の観点から、芳香族ポリカルボジイミド化合物が好ましい。
【0064】
<他の熱可塑性樹脂>
他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂等のポリエステル樹脂、ポリウレタン(PU)樹脂が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
<他の添加剤>
他の添加剤としては、紫外線吸収剤、耐候剤、充填剤、酸化防止剤、老化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、防曇剤、滑剤、抗菌剤、粘着付与剤、可塑剤、着色剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
樹脂組成物中、ポリカーボネート系樹脂(A)及びゴム変性グラフト重合体(B)の含有量は、必要とする耐衝撃性、耐熱性、機械的強度、成形性等に応じて適宜選定できる。
ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム変性グラフト重合体(B)との合計質量に対するポリカーボネート系樹脂(A)の割合は、30~80質量%が好ましく、40~70質量%がより好ましい。ポリカーボネート系樹脂(A)の割合が上記下限値以上であれば、耐衝撃性、耐熱性がより優れる。ポリカーボネート系樹脂(A)の割合が上記上限値以下であれば、機械的強度、成形性がより優れる。
【0067】
芳香族カルボジイミド化合物(C)の含有量は、ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム変性グラフト重合体(B)との合計質量に対し、0.1質量%以上が好ましく、0.4質量%以上がより好ましい。芳香族カルボジイミド化合物(C)の含有量が上記下限値以上であれば、耐湿熱老化性、引張伸び特性がより優れる。
芳香族カルボジイミド化合物(C)の含有量は、衝撃性の観点では、樹脂組成物の総質量に対して3.0質量%以下が好ましく、2.0質量%以下がより好ましい。
【0068】
他の熱可塑性樹脂の含有量は、耐衝撃性の観点では、ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム変性グラフト重合体(B)との合計質量に対し、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。他の熱可塑性樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0質量%であってもよい。
【0069】
他の添加剤の含有量は、例えば、ポリカーボネート系樹脂(A)とゴム変性グラフト重合体(B)との合計質量に対し、0~2質量%である。
【0070】
樹脂組成物の温度240℃、荷重98Nにおけるメルトマスフローレート(MFR)は、5~60g/10分が好ましく、10~55g/10分がより好ましく、15~50g/10分が特に好ましい。MFRが上記下限値以上であれば、流動性、成形性がより優れる。MFRが上記上限値以下であれば、耐衝撃性がより優れる。
MFRは、ISO 1133に規定された方法に従って測定した値である。
【0071】
本発明の樹脂組成物は、例えば、ポリカーボネート系樹脂(A)、ゴム変性グラフト重合体(B)及び芳香族カルボジイミド化合物(C)、必要に応じて他の熱可塑性樹脂及び他の添加剤を、タンブラーミキサー、ヘンシェルミキサー等の混合機を用いて混合した後、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール、フィーダールーダー等の混練機を用いて、適当な条件下で溶融混練して製造することができる。バンバリーミキサー、ニーダー等で混練した後、押出機によりペレット化することもできる。
各成分の混合順序は特に制限されず、一部の成分を混合した後、残部を混合してもよく、全成分を一括に混合してもよい。各成分を混練するに際して、各成分を一括して混練してもよく、多段、分割配合して混練してもよい。充填材のうち繊維状のものは、混練中での切断を防止するためにサイドフィーダーにより押出機の途中から供給する方が好ましい。溶融混練温度は、通常200~300℃、好ましくは220~280℃である。
【0072】
以上説明した本発明の樹脂組成物にあっては、ポリカーボネート系樹脂(A)及びゴム変性グラフト重合体(B)と共に芳香族カルボジイミド化合物(C)を含むので、耐湿熱老化性に優れる。ゴム変性グラフト重合体(B)として乳化重合法により製造されたものを用いた場合でも、湿熱条件下でのポリカーボネート系樹脂(A)の加水分解、それに伴う樹脂組成物の特性(MFR、耐衝撃性等)の変動、湿熱条件下での成形品の耐軋み音性の劣化を充分に抑制できる。また、芳香族カルボジイミド化合物(C)を含むことで、引張伸び特性も向上する。
【0073】
〔成形品〕
本発明の成形品は、本発明の樹脂組成物を含む。
本発明の成形品は、例えば、本発明の樹脂組成物を成形することにより製造できる。
成形方法としては、特に制限はなく、例えば、射出成形法、射出圧縮成形法、ガスアシスト成形法、プレス成形法、ブロー成形法、異形押出成形法、カレンダー成形法、Tダイ押出成形法等の公知の方法が挙げられる。
【0074】
本発明の成形品は、例えば、電気若しくは電子機器、光学機器、照明機器、事務用機器、自動車用部品、事務用機器部品、住宅用部品、家電用部品等として好適である。
【実施例
【0075】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例中、部及び%は、特に断らない限り、質量基準である。
【0076】
〔測定方法〕
<MFR>
樹脂組成物のペレットについて、ISO 1133に規定された方法に従って、温度240℃及び荷重98Nの条件でMFRを測定した。
【0077】
<シャルピー衝撃強さ(IMP)>
樹脂組成物のペレットを、射出成形機((株)日本製鋼所社製「J110AD-180H」)を用い、シリンダー温度240℃の条件で射出成形して試験片A(成形品)を得た。得られた試験片Aについて、ISO 179-1に規定された方法に従って、23℃におけるIMPを測定した。
【0078】
<引張伸び(TE)>
樹脂組成物のペレットを、射出成形機((株)日本製鋼所社製「J110AD-180H」)を用い、シリンダー温度240℃の条件で射出成形して試験片B(成形品)を得た。得られた試験片Bについて、ISO 527に規定された方法に従って、23℃におけるTEを測定した。
【0079】
<耐軋み音性>
熱可塑性樹脂組成物を東芝機械製IS-170FA射出成形機によりシリンダー温度250℃、射出圧力50MPa、金型温度60℃にて射出成形し、縦150mm、横100mm、厚さ4mmの射出成形プレートを得た。このプレートから、縦60mm、横100mm、厚さ4mmの試験片及び縦50mm、横25mm、厚さ4mmの試験片をディスクソーで切り出し、番手#100のサンドペーパーで端部を面取りした後、細かなバリをカッターナイフで除去し、大小2枚のプレートを試験片として用いた。
大きな試験片と小さな試験片をジグラー(ZIEGLER)社製スティックスリップ試験機SSP-02に固定し、温度23℃、湿度50%RHの雰囲気下で荷重5N、40N、速度1mm/秒、10mm/秒の4条件にて振幅20mmで3回擦り合わせたときの異音リスク値を測定した。そして、異音リスク値が最も大きい条件の数値を抽出して測定値とした。異音リスク値が大きいほど軋み音の発生リスクは高くなり、以下の基準で判断した。
○:異音リスク値が3以下でリスクが低く良好とした。
×:異音リスク値が3を超えてリスクが高いとした。
【0080】
〔使用材料〕
<ポリカーボネート樹脂(A)>
三菱エンジニアリングプラスチックス社製「ノバレックス7022PJ-LH1」(Mv18,700(カタログ値)の芳香族ポリカーボネート)を使用した。
【0081】
<ゴム変性グラフト重合体(B)>
UMG ABS社製「B501N」(ジエン系ゴム質重合体の存在下にアクリロニトリル及びスチレンを乳化重合して得られたABS樹脂)を使用した。
【0082】
<芳香族カルボジイミド化合物(C)>
ランクセス社製「スタバクゾール(Stabaxol)P100」(芳香族ポリカルボジイミド、分子量15,000g/mol)を使用した。
【0083】
<非芳香族カルボジイミド化合物>
日清紡ケミカル社製「カルボジライトHMV-15CA」(脂肪族ポリカルボジイミド)を使用した。
【0084】
〔実施例1~3、比較例1~2〕
表1記載の成分を表1に記載の配合割合(部)でヘンシェルミキサーにより混合した後、ベント付き二軸押出機(日本製鋼所社製、TEX44、バレル設定温度260℃)を用いて溶融混練し、樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットについて、前記した方法によりMFRを測定した。また、前記した方法により試験片を成形してIMP及びTEを測定し、耐軋み音性を評価した。
【0085】
得られたペレット及び試験片をそれぞれ、80℃、95%RHに制御した恒温恒湿槽内で250時間、500時間又は1000時間放置(湿熱処理)し、24時間80℃にて充分に乾燥した後、前記した方法によりMFR、IMP及びTEを測定し、耐軋み音性を評価した。MFR、IMP及びTEの測定結果から、下記式によりMFRの上昇率、IMPの保持率、TEの保持率を算出した。この上昇率が低いほど、又は保持率が高いほど、耐湿熱老化性に優れる。初期のMFR、IMP、TEはそれぞれ、製造直後(湿熱処理0時間)のMFR、IMP、TEである。結果を表2に示した。
MFRの上昇率(%)={湿熱処理後のMFR-初期のMFR}/初期のMFR×100
IMPの保持率(%)=湿熱処理後のIMP/初期のIMP×100
TEの保持率(%)=湿熱処理後のTE/初期のTE×100
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
実施例1~3の樹脂組成物は、比較例1に比べて、湿熱条件下において、MFRの上昇率が低く、IMPの保持率が高く、耐軋み音性の劣化が抑制されており、耐湿熱老化性に優れていた。IMPの保持率が高いことから、ポリカーボネート系樹脂の加水分解が抑制されたことがわかる。また、実施例1~3の樹脂組成物は、比較例1に比べて、初期のTEが優れていた。
実施例3における芳香族カルボジイミド化合物を非芳香族カルボジイミド化合物に置換した比較例2の樹脂組成物は、実施例3に比べて、IMP及びTEの保持率が低く、MFRの上昇率が高くなっており、耐湿熱老化性に劣っていた。このことから、カルボジイミド化合物のなかでも芳香族カルボジイミド化合物が、ポリカーボネート系樹脂(A)及びゴム変性グラフト重合体(B)を含む樹脂組成物の耐湿熱老化性の向上効果に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の樹脂組成物は、耐湿熱老化性に優れるので、過酷な環境下で使用される物品の成形材料として有用である。