(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】飲食品が有するオフフレーバーを有効にマスキング可能な香気成分の探索方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/00 20060101AFI20231221BHJP
G01N 30/00 20060101ALI20231221BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20231221BHJP
B01J 20/282 20060101ALI20231221BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20231221BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20231221BHJP
C12G 3/06 20060101ALI20231221BHJP
C12G 3/04 20190101ALI20231221BHJP
【FI】
G01N33/00 C
G01N30/00 E
G01N30/88 E
B01J20/282 Z
G01N30/86 J
A23L27/00 Z
C12G3/06
C12G3/04
(21)【出願番号】P 2019171009
(22)【出願日】2019-09-20
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】591011410
【氏名又は名称】小川香料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(74)【代理人】
【氏名又は名称】新井 信輔
(72)【発明者】
【氏名】和田 聖己
(72)【発明者】
【氏名】糸部 尊郁
(72)【発明者】
【氏名】松田 知子
(72)【発明者】
【氏名】馬場 良子
(72)【発明者】
【氏名】熊沢 賢二
【審査官】西浦 昌哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-225404(JP,A)
【文献】特開2012-105591(JP,A)
【文献】特開平08-188792(JP,A)
【文献】特開2019-045243(JP,A)
【文献】特開2009-031138(JP,A)
【文献】特開平07-103964(JP,A)
【文献】特開2017-040536(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0111086(US,A1)
【文献】特開2010-063431(JP,A)
【文献】特開2016-123357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00-33/46
G01N 30/00-30/96
B01J 20/281-20/292
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
飲食品が有する特定のオフフレーバーを有効にマスキング可能な香気成分の探索方法であって、
ステップ1:
飲食品を飲食後、特定のオフフレーバーを最も優位に感知する時間(t1)、前記飲食品の風味を有意に感じなくなる時間(t2)をTDS(Temporal Dominance of Sensations)法により測定するステップと、
ステップ2:
前記飲食品または他の飲食品を飲食後から、口腔内から鼻腔内に抜けて鼻孔より排出される時間(0~t1)までの呼気を捕集して当該呼気中に含まれる各種香気成分のうちの一成分Aをガスクロマトグラフィーで測定したときの香気成分Aのピーク面積値(a1)を測定するステップと、
ステップ3:
前記飲食品または他の飲食品を飲食後から、口腔内から鼻腔内に抜けて鼻孔より排出される時間(0~t2、ただしt1<t2)までの呼気を捕集して当該呼気中の前記香気成分Aをステップ2と同様の条件にてガスクロマトグラフィーで測定したときの香気成分Aのピーク面積値(a2)を測定するステップと、
ステップ4:
ステップ1で得られた特定のオフフレーバーに関する測定値がt2/t1≧5であるとき、ステップ2と3で得られた成分Aに関する測定値がa2/a1≦3である場合に、香気成分Aをマスキング有効成分として選別し、
一方、ステップ1で得られた特定のオフフレーバーに関する測定値がt2/t1<5であるとき、ステップ2と3で得られた成分Aに関する測定値がa2/a1>t2/t1である場合に、香気成分Aをマスキング有効成分として選別するステップと、
を含むことを特徴とする、飲食品が有する特定のオフフレーバーを有効にマスキング可能な香気成分の探索方法。
【請求項2】
液状の飲食品が有する特定のオフフレーバーを有効にマスキング可能な香気成分の探索方法であって、
ステップ1:
液状の飲食品を飲食後、特定のオフフレーバーを最も優位に感知する時間(t1)をTDS(Temporal Dominance of Sensations)法により測定するステップと、
ステップ2:
前記液状の飲食品または他の飲食品を飲食後、口腔内から鼻腔内に抜けて鼻孔より排出される1回目の呼気を捕集して当該呼気中に含まれる各種香気成分のうちの一成分Aをガスクロマトグラフィーで測定したときの香気成分Aのピーク面積値(a1’)を測定するステップと、
ステップ3:
前記液状の飲食品または他の飲食品を飲食後、口腔内から鼻腔内に抜けて鼻孔より排出される1回目~10回目までの呼気を捕集して当該呼気中の前記香気成分Aをステップ2と同様の条件にてガスクロマトグラフィーで測定したときの香気成分Aのピーク面積値(a2’)を測定するステップと、
ステップ4:
ステップ1で得られた特定のオフフレーバーに関する測定値がt1≦10秒であるとき、ステップ2と3で得られた成分Aに関する測定値がa2'/a1'≦3である場合に、香気成分Aをマスキング有効成分として選別し、
一方、ステップ1で得られた特定のオフフレーバーに関する測定値がt1>10秒であるとき、ステップ2と3で得られた成分Aに関する測定値がa2'/a1'>3である場合に、香気成分Aをマスキング有効成分として選別するステップと、
を含むことを特徴とする、飲食品が有する特定のオフフレーバーを有効にマスキング可能な香気成分の探索方法。
【請求項3】
飲食品を飲食後、口腔内から鼻腔内に抜けて鼻孔より排出される呼気を捕集して当該呼気中の香気成分をガスクロマトグラフィーで測定したときの香気成分のピーク面積値を測定するステップにおいて、捕集した呼気を多孔性樹脂吸着剤で吸着処理し、吸着した成分を加熱脱着法により抽出してガスクロマトグラフィーに導入し測定する請求項1または2に記載の探索方法。
【請求項4】
飲食品が飲料であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の探索方法。
【請求項5】
飲食品がアルコール飲料であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか1項に記載の探索方法。
【請求項6】
特定のオフフレーバーが、アルコール臭および/または苦味であることを特徴とする、請求項1~5のいずれか1項に記載の探索方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の探索方法により選別された香気成分を有効成分として含有することを特徴とする、特定のオフフレーバーのマスキング剤であって、オフフレーバーと香気成分との組み合わせが以下の
(a)および/または(b)である、前記マスキング剤;
(a)オフフレーバーがアルコール臭で、前記香気成分がα-ピネン、ミルセン、p-サイメン、1,8-シネオール、シトラールから選ばれる1以上;
(b)オフフレーバーがアルコールの苦味で、前記香気成分がα-テルピネオール、ネロール、4-テルピネオールから選ばれる1以上。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の探索方法により選別された香気成分を有効成分として含有することを特徴とする、特定のオフフレーバーのマスキング用香料組成物であって、オフフレーバーと香気成分との組み合わせが以下の
(a)および/または(b)である、前記マスキング用香料組成物;
(a)オフフレーバーがアルコール臭で、前記香気成分がα-ピネン、ミルセン、p-サイメン、1,8-シネオール、シトラールから選ばれる1以上;
(b)オフフレーバーがアルコールの苦味で、前記香気成分がα-テルピネオール、ネロール、4-テルピネオールから選ばれる1以上。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載の探索方法で選別された香気成分を添加することを特徴とする、特定のオフフレーバーのマスキング用香料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品が有する特定のオフフレーバーを有効にマスキング可能な香気成分の探索方法に関する。
また、本発明は当該探索方法に基づいて、飲食品が有する特定のオフフレーバー毎に、有効にマスキング可能な香料組成物とその製造方法、並びに当該香料組成物を添加した、特定のオフフレーバーがマスキングされた飲食品、特にアルコール飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者の嗜好性が多様化したことに伴い、各種各様の商品開発が望まれている。
特に、飲食品業界はそうした傾向が強く、消費者の嗜好に合うバラエティーに富んだ飲食品の開発・販売が強く要望されている。
こうした要望に伴って、飲食品の一原料素材である香料組成物においても、従来にない新しい製品開発に期待が寄せられている。
【0003】
飲食品用の香料組成物に関しては、嗜好性の高いユニークな香気を有することに加え、最近では飲食品が有する特定のオフフレーバー(不快な異味・異臭)をマスキングし、より美味しい飲食品を提供することが求められている。
例えば、アルコール飲料におけるアルコール臭(刺激臭、酒臭さ)や苦味の抑制など、オフフレーバーのマスキングは非常に重要な要素である。
【0004】
アルコール飲料におけるアルコールの刺激臭を低減する方法としては、例えば低カロリーアルコール炭酸飲料に増粘多糖類を含有させる方法(特許文献1)が提案されている。
しかしながら、この発明はマスキング機能が主体であり、アルコールの刺激臭低減に加えて、風味の嗜好性自体を向上させるという観点からは、十分なものではなかった。
【0005】
飲食品の苦味低減の方法としては、例えば羅漢果抽出物を有効成分とする、ポリフェノール含有飲料の苦渋味マスキング剤(特許文献2)や、イソブチルアンゲレートを有効成分として含有する、柑橘類、コーヒー、茶、カカオ、ホップ等の苦味抑制剤(特許文献3)が提案されている。
しかしながら、これらの発明もやはりマスキング機能が主体であり、苦味低減に加えて、風味の嗜好性自体を向上させるという観点からは、十分なものではなかった。
【0006】
アルコール飲料におけるアルコールの刺激臭や苦味を低減し、且つ嗜好性を付与する方法としては、例えば1,3-ジヒドロキシアセトンを含有するアルコール飲料のアルコール感改善剤により、エタノールに由来する不快なアルコール臭、苦味、辛味、刺激の低減する方法(特許文献4)、シトロネラールを含んでなるアルコール飲料が、アルコール由来の苦味および刺激味を低減させ、爽快感および厚みが付与される方法(特許文献5)などが提案されている。
これらの発明は、マスキング機能と共に、嗜好性を向上させるという点で極めて有用なものではあるが、その発明の完成には、豊富な知識と経験を持ってしても過大な試行錯誤を必要とする欠点を有していた。
【0007】
一方、香気成分の機能性を探索する発明として、香気を発する香料化合物を含有する飲食品の飲食中に口から鼻に抜けて鼻より排出される飲食時間0~t1の香気成分および飲食時間0~t2(t1<t2)の香気成分をそれぞれ捕集し、時間0~t1の香気成分量をガスクロマトグラフを用いて測定したときのピーク面積値をA1、時間0~t2の香気
成分量をガスクロマトグラフを用いて同様の条件で測定したときのピーク面積値をA2としたとき、A2/A1<t2/t1である香料化合物を飲食開始時の拡散性香気を発現する初発性香料化合物として位置づけ、一方、A2/A1>t2/t1である香料化合物を長期持続性香気を発現する持続性香料化合物として位置づけることを特徴とする飲食品用香料化合物の香気発現特性の評価方法(特許文献6)が提案されている。
【0008】
また、飲料に含まれる余韻性付与香気成分の探索方法であって、飲料を飲用後に口腔内から鼻腔内に抜けて鼻孔より排出される1回目の呼気を捕集して当該呼気中の香気成分Aをガスクロマトグラフィーで測定したときの香気成分Aのピーク面積値をa1とし、一方、前記飲料を飲用後に口腔内から鼻腔内に抜けて鼻孔より排出される2回目および3回目の呼気を捕集して当該呼気中の香気成分Aを同様の条件にてガスクロマトグラフィーで測定したときの香気成分Aのピーク面積値をa2としたとき、a2/a1が1.5以上である香気成分Aを飲料の余韻性付与香気成分とすることを特徴とする余韻性付与香気成分の探索方法(特許文献7)が提案されている。
【0009】
このような状況下で、上記の発明を改良又は応用することにより、各種のオフフレーバーを効果的にマスキングし、かつ嗜好性を向上させる素材を簡便に選別できる新たな探索方法が期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2011-142890号公報
【文献】特開2014-82960号公報
【文献】特許第6296473号公報
【文献】国際公開第2017-010000号
【文献】特開2018-126114号公報
【文献】特開2009-31138号公報
【文献】特開2019-45243号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、従来のマスキング素材の選定方法における問題点を改善することであり、特定のオフフレーバーの発現時期を特定し、その特定のオフフレーバーを効果的にマスキングすると共に、嗜好性の優れた香気成分を簡便な方法にて提供するというものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上述した課題を解決するために、各種飲食品、特にアルコール飲料、コーヒー、茶飲料(紅茶、緑茶など)、さらにはノンアルコールビールテイスト飲料などを対象に、飲食品を飲食時に発生する各種のオフフレーバーの時期や強度等に関する発現特性について詳細に検討した。
その結果、飲食品のオフフレーバーは飲食と同時に総てが発生するわけではなく、特定のオフフレーバー(例えばアルコール臭や苦味など)は、飲食後経時的に発生し、しかも特定の時間に最も優位、すなわち最も支配的(dominant)になることを見出した。
【0013】
そこで、本発明者らは、特定のオフフレーバーを最も優位に感じる時間t1(秒)に、その時間までに呼気中に排出された特定の香気成分のピーク面積a1と、飲食品の風味を有意に感じなくなる(すなわち、口に含んだ飲食品が発していた多種多様の香気や香味のいずれも感知されないレベルに低下する)時間t2(秒)までに、呼気中に排出された特定の香気成分のピーク面積a2の量の比、すなわちa2/a1の値とt2/t1を比較す
ることで、対象のオフフレーバーを効果的にマスキングする素材を選別できる可能性が高いと考え、特定のオフフレーバー毎に有効なマスキング素材の新たな探索手法を構築できるとの着想を得た。
【0014】
上記の着想に基づき、まず市販のチューハイ(焼酎やウォッカなどの蒸留酒を炭酸水で割ったもの)を用いて、オフフレーバーを特定した。
熟練したパネリスト5名を用い、予備評価した結果、チューハイの代表的なオフフレーバーとして、アルコール臭(アルコールの鼻抜け、酒臭さ)、および苦味(アルコール由来の苦味を含む)、の2種を特定した。
【0015】
次に、この2種のオフフレーバーのうち、アルコール臭について、チューハイを飲用して何秒後に最も優位に感じるか、およびチューハイを飲用してどの風味も有意に感じなくなる時間を官能評価法の一つであるTDS(Temporal Dominance of Sensations)法により測定し、アルコール臭を最大に感じる時間t1、およびチューハイの風味を有意に感じなくなる時間t2を特定した。
【0016】
ここで、Temporal Dominance of Sensations(TDS)法は、食品を賞味する際に生じる感覚の経時変化を計測する手法として提案されたたものである。
TDS法は、複数の「質」に関して、強度は計測せず、いつからいつまでdominant (支配的)に感じているか、という「時間」を計測する手法であり、複数の特性用語の感じた順序と継続時間を解析する手法である。ただし、TDS法で計測しているdominantな「質」は感じている知覚・官能特性のうち「最も注意が向けられ、気になる」感覚であり、強いとは限らないとされている。
【0017】
次に、前記特許文献7記載と同様の手法にて、飲食後、時間0~t1、0~t2における呼気中に排出された飲食品の各香気成分のうちの特定の香気成分Aのピーク面積の値a1、a2を測定し、a2/a1を算出する。なお、この場合における飲食品は、オフフレーバーを有する飲食品(例えばチューハイ)に限られないし、場合によっては香気成分の溶液により代用することもできる。ここで香気成分Aは、オフフレーバーのマスキング有効成分の候補である。
さらに、前記測定した香気成分Aをそれぞれチューハイに添加し、そのマスキング効果を検証したところ、t2/t1の値が5以上のアルコール臭のマスキングに対してはa2/a1の値が3以下の香気成分が有効であることが確認された。
【0018】
同様に、もう一つのオフフレーバーである苦味に対して、t2/t1およびa2/a1を算出した。
次いで、測定した香気成分Aをそれぞれチューハイに添加し、そのマスキング効果を検証したところ、t2/t1の値が5未満の苦味のマスキングに対してはa2/a1の値がt2/t1の値を越える香気成分Aが有効であることが確認され、本発明を完成した。
【0019】
さらに、上記発明の簡易的手法として、前記特許文献7記載と同様の手法にて、各香気成分の飲用後最初の呼気、および1~10回目の呼気中に排出された特定の香気成分のピーク面積の値a1'、a2'を測定し、そして上記と同様に測定した香気成分をそれぞれチューハイに添加し、そのマスキング効果を検証したところ、t1が10秒以下のアルコール臭のマスキングに対してはa2'/a1'の値が3以下の香気成分が有効であることが確認され、t1が10秒を越える苦味のマスキングに対してはa2'/a1'の値が3を越える香気成分が有効であることが確認された。
【0020】
すなわち、本発明は以下の通りである。
〔1〕飲食品が有する特定のオフフレーバーを有効にマスキング可能な香気成分の探索方
法であって、
飲食品を飲食後、特定のオフフレーバーが発生する時間を官能評価法により測定するステップと、
前記飲食品または他の飲食品を飲食後、口腔内から鼻腔内に抜けて鼻孔より排出される呼気中の香気成分量を測定するステップと、
を含むことを特徴とする、飲食品が有する特定のオフフレーバーを有効にマスキング可能な香気成分の探索方法。
【0021】
〔2〕飲食品が有する特定のオフフレーバーを有効にマスキング可能な香気成分の探索方法であって、
ステップ1:
飲食品を飲食後、特定のオフフレーバーを最も優位に感知する時間(t1)、前記飲食品の風味を有意に感じなくなる時間(t2)をTDS(Temporal Dominance of Sensations)法により測定するステップと、
ステップ2:
前記飲食品または他の飲食品を飲食後から、口腔内から鼻腔内に抜けて鼻孔より排出される時間(0~t1)までの呼気を捕集して当該呼気中に含まれる各種香気成分のうちの一成分Aをガスクロマトグラフィーで測定したときの香気成分Aのピーク面積値(a1)を測定するステップと、
ステップ3:
前記飲食品または他の飲食品を飲食後から、口腔内から鼻腔内に抜けて鼻孔より排出される時間(0~t2、ただしt1<t2)までの呼気を捕集して当該呼気中の前記香気成分Aをステップ2と同様の条件にてガスクロマトグラフィーで測定したときの香気成分Aのピーク面積値(a2)を測定するステップと、
ステップ4:
ステップ1で得られた特定のオフフレーバーに関する測定値がt2/t1≧5であるとき、ステップ2と3で得られた成分Aに関する測定値がa2/a1≦3である場合に、香気成分Aをマスキング有効成分として選別し、
一方、ステップ1で得られた特定のオフフレーバーに関する測定値がt2/t1<5であるとき、ステップ2と3で得られた成分Aに関する測定値がa2/a1>t2/t1である場合に、香気成分Aをマスキング有効成分として選別するステップと、
を含むことを特徴とする、飲食品が有する特定のオフフレーバーを有効にマスキング可能な香気成分の探索方法。
【0022】
〔3〕液状の飲食品が有する特定のオフフレーバーを有効にマスキング可能な香気成分の探索方法であって、
ステップ1:
液状の飲食品を飲食後、マスキング対象のオフフレーバーを最も優位に感知する時間(t1)をTDS(Temporal Dominance of Sensations)法により測定するステップと、
ステップ2:
前記液状の飲食品または他の飲食品を飲食後、口腔内から鼻腔内に抜けて鼻孔より排出される1回目の呼気を捕集して当該呼気中に含まれる各種香気成分のうちの一成分Aをガスクロマトグラフィーで測定したときの香気成分Aのピーク面積値(a1’)を測定するステップと、
ステップ3:
前記液状の飲食品または他の飲食品を飲食後、口腔内から鼻腔内に抜けて鼻孔より排出される1回目~10回目までの呼気を捕集して当該呼気中の前記香気成分Aをステップ2と同様の条件にてガスクロマトグラフィーで測定したときの香気成分Aのピーク面積値(a2’)を測定するステップと、
ステップ4:
ステップ1で得られた特定のオフフレーバーに関する測定値がt1≦10秒であるとき、ステップ2と3で得られた成分Aに関する測定値がa2’/a1’≦3である場合に、香気成分Aをマスキング有効成分として選別し、
一方、ステップ1で得られた特定のオフフレーバーに関する測定値がt1>10秒であるとき、ステップ2と3で得られた成分Aに関する測定値がa2’/a1’>3である場合に、香気成分Aをマスキング有効成分として選別するステップと、
を含むことを特徴とする、飲食品が有する特定のオフフレーバーを有効にマスキング可能な香気成分の探索方法。
【0023】
〔4〕飲食品を飲食後、口腔内から鼻腔内に抜けて鼻孔より排出される呼気を捕集して当該呼気中の香気成分をガスクロマトグラフィーで測定したときの香気成分のピーク面積値を測定するステップにおいて、捕集した呼気を多孔性樹脂吸着剤で吸着処理し、吸着した成分を加熱脱着法により抽出してガスクロマトグラフィーに導入し測定する上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の探索方法。
〔5〕飲食品が飲料であることを特徴とする、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載の探索方法。
〔6〕飲食品がアルコール飲料であることを特徴とする、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の探索方法。
〔7〕特定のオフフレーバーが、アルコール臭および/または苦味であることを特徴とする、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載の探索方法。
【0024】
〔8〕上記の〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の探索方法により選別された香気成分を有効成分として含有することを特徴とする、特定のオフフレーバーのマスキング剤。
〔9〕上記の〔8〕に記載のマスキング剤を含有することを特徴とする、特定のオフフレーバーのマスキング用香料組成物。
〔10〕上記の〔9〕に記載の特定のオフフレーバーマスキング用香料組成物を0.0001質量%~10質量%添加したことを特徴とする、特定のオフフレーバーがマスキングされた飲食品。
〔11〕上記の〔1〕~〔7〕のいずれかに記載の探索方法で選別された香気成分を添加することを特徴とする、特定のオフフレーバーのマスキング用香料組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明の探索方法によれば、オフフレーバーの種類や発現理由によらず、あらゆる特定のオフフレーバーに対し、有効にマスキングする素材(香気成分)を簡単確実に選別することができる。
また複数のマスキング用香気成分を選定できることから、それらを組合せ、嗜好性の高いマスキング用香料組成物を容易に調合することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施の形態に即して詳細に説明する。
[1]オフフレーバーの特定
(1)官能評価法
オフフレーバーとその発現時期を特定するために、風味を経時的に評価できる官能評価法を用いることができる。例えば、TDS(Temporal Dominance of Sensations)法やTI(Time Intensity)法、TCATA(Temporal Check All That Apply)法などが挙げられる。
TI法(時間強度測定法)は、1つの質に対して、その「強度」と「時間」を計測する手法であり、対象となる1つの特性の強さを注意深く追う評価に向いているとされる。
TCATA法は、時間動的にデータを収集する方法でかつ複数の風味表現に順位付けをせずに、同時に評価する方法である。
中でも、本発明においては、特定のオフフレーバー(風味表現)が最も優位(支配的)となる発現時期特定の観点から、TDS法が好ましい。
【0027】
(2)TDS法
TDS法は時間経過に伴う風味等の質的変化を測定、表現する手法であり、飲食品の飲食時にあらかじめ指定した複数の風味表現からパネリストが最も優位(支配的)に感じる風味表現を選択し、選択する風味表現がなくなるまで評価を続けることにより風味の経時変化を評価する。
飲料を測定する場合、飲用する量は、通常の飲用で容器から口腔内に注がれる量すなわち一口分、具体的には10~50mLが好適である。
【0028】
(3)オフフレーバーの発現時期の測定
前述のように、チューハイにおいて特定された2つのオフフレーバーである、アルコール臭と苦味について、TDS法により最も優位に感じる時間t1を測定した。
具体的には、熟練したパネリスト18名が市販のチューハイを20ml飲用し、飲用直後からTDS法による計測を始め、最も優位に感じる風味表現を順次選択した。評価はパネリストごとに3回繰り返し実施した。
データの取得並びに解析は市販ソフトウェアが使用でき、例えばBIOSYSTEMS社(フランス)が提供するソフトウェア「FIZZ」を例示することができる。
【0029】
(4)風味の消失時期の測定
上記と同様に、チューハイにおいていずれの風味も有意に感じなくなる時間t2をTDS法により測定した。
【0030】
[2]有効なマスキング香気成分の探索方法
(1)口腔から鼻腔に抜ける香気成分の測定法
飲食品を飲食中に口腔から鼻腔に抜ける香気成分の測定法としていくつかの手法が適用できる。
具体的には、口腔から鼻腔に抜ける香気成分を吸着剤に吸着処理した後、ガスクロマトグラフィーにて測定するR-FISS(小川香料(株)商標)法や、口腔から鼻腔に抜ける香気成分を直接イオン化して測定するMS Nose法などが挙げられる。
【0031】
(2)呼気の捕集方法
本発明においては、飲食品については、被験者の飲食後から前記t1(秒)までの呼気総量、および飲食後から前記t2(秒)までの呼気総量、を捕集する。
なお、被験者が安静時の通常の呼吸状態、座位姿勢での呼気を捕集することが好ましく、呼吸回数は10~20回/分が好適である。
【0032】
また、飲料を測定する場合は、飲用する量は、通常の飲用で容器から口腔内に注がれる量すなわち一口分、具体的には10~50mLが好適である。
さらに、上記方法の簡易的手法として、被験者が飲食後に口腔内から鼻腔内に抜けて鼻孔より排出される1回目の呼気総量、および飲食後に口腔内から鼻腔内に抜けて鼻孔より排出される1回目~10回目を併せた呼気総量を捕集した。
【0033】
(3)吸着剤処理
ガスクロマトグラフィーに注入し測定する前の処理として、捕集した呼気を多孔性樹脂吸着剤で吸着処理し、吸着した成分を加熱脱着法により抽出することが香気成分の検出感度向上の観点から好ましい。
具体的には、被験者の鼻孔より排出される呼気をポンプで吸引しながら多孔性樹脂吸着剤が充填されたガラス管に導入して吸着処理を行い、吸着された香気成分を窒素パージし
てから加熱脱着法(TDU/CIS)により抽出してガスクロマトグラフィー測定の対象とする。
多孔性樹脂吸着剤としては、2,6-ジフェニル-p-フェニレンオキシドをベースとする弱極性のポーラスポリマービーズ、例えばジーエルサイエンス株式会社製の「TENAX TA」を例示することができる。
【0034】
(4)ガスクロマトグラフィーによる測定
捕集した呼気又は吸着剤処理して得られた抽出成分をガスクロマトグラフィーの試料注入部からカラムに導入する。
質量分析計を装備したガスクロマトグラフィーを使用すれば効率的な測定を行うことができ、そのような装置として例えば、アジレント・テクノロジー株式会社製の「GC6890NネットワークGC」を例示することができる。
試験飲料における0~t1(秒)の呼気を測定したときのピーク面積値をa1とし、同一の条件で0~t2(秒)の呼気を測定したときのピーク面積値をa2とする。
さらに、試験飲料における1回目の呼気を測定したときのピーク面積値をa1'とし、同一の条件で1回目~10回目を併せた呼気を測定したときのピーク面積値をa2'とした。
【0035】
特定の香気成分について、ガスクロマトグラフィー測定によって得られた二つのピーク面積値の比(a2/a1)が、特定のオフフレーバーのマスキング特性に直結すると仮定し、各成分の官能におけるマスキング効果の評価を併せて検討した。
本発明者らは、そのピーク面積比(a2/a1)の値と、試験飲料特有の口中に残る特定のオフフレーバーに対するマスキング効果との関係について多数の実験データを収集して詳細に検討した。
【0036】
その結果、t2/t1≧5のオフフレーバーに対してa2/a1≦3である香気成分が、t2/t1<5のオフフレーバーに対してa2/a1>t2/t1である香気成分が、特定のオフフレーバーに対するマスキング効果を示すか否かの境界値として適切であると特定した。
また、液状の飲食品用の簡易的手法として、t1≦10秒のオフフレーバーに対してはa2'/a1'≦3である香気成分を、t1>10秒のオフフレーバーに対してはa2'/a1'>3である香気成分を、それぞれ選別することも有効であると特定した。
【0037】
[3]マスキング用香料組成物
本発明のマスキング用香料組成物は、前述の探索方法により特定のオフフレーバーに対し、有効なマスキング効果を有する香気成分として選別された成分が必須成分として配合された香料組成物である。
香料組成物中において、マスキング効果を付与する香気成分の含有量合計は、その目的、飲食品素材あるいは香料組成物の種類によって異なるものの、一般的には、溶剤などを除く有効香料成分の総量の10質量%以上であることが好ましく、特に30質量%以上であることが好ましい。
10質量%未満ではオフフレーバーのマスキング効果が十分感じられない場合がある。
【0038】
本発明のマスキング用香料組成物には、飲食品に優れた嗜好性を付与する香気成分の他に、オレンジ、レモン、アップル、バナナ、ミント、バニラなどから得られる従来公知の飲食品用天然香料成分等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0039】
本発明のマスキング用香料組成物は、果実飲料、紅茶飲料、緑茶飲料、ウーロン茶飲料のような茶飲料類、酒類、乳飲料類、炭酸飲料類のような飲料類に用いられるほか、当該飲料の風味が付与される、アイスクリーム類、シャーベット類、アイスキャンディー類の
ような冷菓類、ヨーグルト類、チーズ類のような発酵乳製品、和洋菓子類、焼菓子類、ジャム類、チューインガム類、パン類、プリン類、ゼリー類、ババロア類、ムース類のようなデザート類、各種インスタント食品類、各種スナック食品類、パン類や麺類、おにぎりや総菜類、冷凍食品などに添加することができる。
中でも、コーヒー飲料、各種茶飲料、ココア飲料などの嗜好飲料や、ビールテイストアルコール飲料、ビールテイストノンアルコール飲料などのビール様飲料に添加することで、優れたマスキング特性が付与されるように香気の発現が制御された飲食品を提供することができる。
【0040】
本発明のマスキング用香料組成物の飲食品への添加量は、一般的には0.0001質量%~10質量%、好ましくは0.001質量%~1.0質量%である。
【0041】
[4]アルコール飲料用マスキング香料組成物
本発明のマスキング香料組成物は、アルコール飲料に対して特に有効である。
本発明が適用されるアルコール飲料とは、飲料に含まれるエタノールの含有量(v/v)が1%以上である飲料をいう。
本発明のマスキング用香気成分は、特に制限なく各種アルコール飲料、すなわち醸造酒、蒸留酒、混成酒といった酒類に適用できる。
具体的には、ビール、日本酒、ワイン等の醸造酒、焼酎、泡盛、ウイスキー、ブランデー、ウォッカ、ラム、テキーラ、ジン、スピリッツ等の蒸留酒、上記酒類に糖類や果実を漬け込んだ果実酒、それら酒類にさらに果汁、フレーバー、炭酸ガス等を混合したカクテル、フィズ、チューハイ、ビールテイスト(ビール風味)アルコール飲料などが挙げられる。
【0042】
また、本発明のアルコール臭マスキング用香気成分を適用するアルコール飲料の製法についても特に限定されるものではない。
しかしながら、製造過程で外部からアルコールを添加して製造されるアルコール飲料において、エタノール由来のネガティブな香味の影響が強いことが知られている。
従って、そのような製造工程中で別の酒類又は原料アルコール(醸造アルコール)を添加するような製法で作られるアルコール飲料(例えば、リキュールを使った発泡飲料)が、本発明の対象として好ましい。
【0043】
本発明のアルコール飲料用マスキング香料組成物は、本発明の探索方法により、t2/t1≧5のオフフレーバーに対してa2/a1≦3である香気成分を、t2/t1<5のオフフレーバーに対してa2/a1>t2/t1である香気成分を10質量%以上、好ましくは30質量%以上含有するものであり、当該香気成分としては、例えばt2/t1≧5のオフフレーバーに対してはリモネン、シトラール等が、t2/t1<5のオフフレーバーに対してはα-テルピネオール、4-テルピネオール等が挙げられる。
また同様に、本発明の簡易的手法により、t1≦10秒のオフフレーバーに対してはa2'/a1'≦3である香気成分を、t1>10秒のオフフレーバーに対してはa2'/a1'>3である香気成分を用いることもできる。
【0044】
本発明のアルコール飲料用マスキング香料組成物には、前記の飲食品に優れたマスキング特性を付与する香気成分の他に、レモン、ライム、グレープフルーツ、オレンジ、ゆずなどから得られる従来公知のシトラス系食品用天然香料成分等を配合することができる。
【0045】
本発明のアルコール飲料用マスキング香料組成物を、アルコールを有する飲料に添加する場合の添加量は0.0001質量%~10質量%、好ましくは0.001質量%~1.0質量%である。
【実施例】
【0046】
次に、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
[測定例1]オフフレーバーの特定
アルコールにウォッカを使用し、アルコール9%、レモン果汁3%を含む市販のレモンチューハイについて、熟練したパネリスト5名がその香味特性を意味つけるキーワードを官能評価により以下のように決定し、その中で「アルコール臭」および「苦味」を、これらの製品におけるオフフレーバーであると認定した。
【0047】
1.レモン感 :レモンの風味(レモンらしい酸味を含む)
2.アルコール臭 :アルコールの刺激的な鼻抜け、酒臭さ
3.甘味 :甘さ
4.酸味 :酸っぱさ
5.苦味 :苦さ(アルコール由来の苦味を含む)
【0048】
[測定例2]オフフレーバーの発現時期の測定
前記のアルコール9%を含む市販レモンチューハイについて、測定例1で見出された2つのオフフレーバーの「アルコール臭」および「苦味」の発現時間を測定した。
具体的には、熟練したパネリスト18名がレモンチューハイを飲用し、飲用直後から、前記オフフレーバーを最も優位に感じた時間をTDS法により測定した。また同様に、レモンチューハイのいずれの風味も有意に感じなくなる時間t2を測定した。結果を表1に示した。
【0049】
【0050】
[実施例1]
前記特許文献7に記載された方法と同様の手法にて、各香気成分のa2/a1の値を測定した。
具体的には、熟練したパネリストから選ばれた被験者が、レモン果汁8%、グラニュー糖8%を含むレモンジュースを一口で30mL飲用し、飲み込んだ後前記t1(秒)までに鼻孔より排出される呼気をポンプで吸引して捕集し、100mgの多孔性樹脂吸着剤(ジーエルサイエンス株式会社製「TENAX TA」)で吸着処理した。
【0051】
次いで、この吸着剤に吸着された香気成分を、窒素パージ(100ml/分、30分間)してから、加熱脱着法(TDU/CIS)により抽出し、質量分析計を装備したガスクロマトグラフ(アジレント・テクノロジー株式会社製「GC6890NネットワークGC」)へ導入し、レモンジュースを飲用した場合の各香気成分のピーク面積値(a1)を測定した。
【0052】
<測定条件>
TDU(Twister Desorption Unit)
加熱脱着温度 280℃
加熱脱着時間 3分間
昇温条件 20℃ - 280℃, 720℃/min
Split比 splitless
【0053】
CIS(Cooled Injection System)
トラップ温度 -150℃
昇温条件 -150℃ - 260℃ (3min hold), 720℃/min
Split比 splitless
【0054】
GC (Gas Chromatograph)
Column : DB-WAX (0.25mm i.d.×30m, film thickness 0.25μm)
Carrier gas : He (1.0mL/min)
Oven temp. : 30℃(3min hold) - 120℃, 3℃/min. - 230℃, 5℃/min.
Detector : MS(アジレント・テクノロジー株式会社製「5975B inert XL」)
【0055】
さらに、飲用後前記t2(秒)までを併せた呼気の各香気成分のピーク面積値(a2)を同様の方法で測定した。
次いで、t1(秒)までの呼気から検出された香気成分のピーク面積値(a1)、およびt2(秒)までを併せた呼気から検出された香気成分のピーク面積値(a2)から、それぞれの香気成分のピーク面積比(a2/a1)を算出した。
なお、算出したピーク面積比は、同じ測定を4回繰り返した測定値の平均値である。
さらに、上記方法の簡易的手法として、同様に飲用後1回目の呼気から検出された香気成分のピーク面積値(a1')、および1回目から10回目を合わせた呼気から検出された香気成分のピーク面積値(a2')から、それぞれの香気成分のピーク面積比(a2'/a1')を算出した。結果を表2に示した。
【0056】
【0057】
[試験例1](オフフレーバーがアルコール臭の場合)
実施例1によりa2/a1およびa2'/a1'が測定された表2記載の香気成分について、それぞれ1成分ずつ1ppm添加したアルコール9%を含む市販レモンチューハイについて5名の熟練したパネリストによりその効果を確認した。
香気成分を添加しない市販レモンチューハイを対照とし、アルコール臭の強さの評価を4.0の点数に設定し、各パネリストはそれを基準に各香気成分を比較評価する方法を採用した。結果を表3に示した。
【0058】
評価点1:非常に弱い
同 2:かなり弱い
同 3:少し弱い
同 4:強い
同 5:とても強い
同 6:かなり強い
同 7:非常に強い
【0059】
【0060】
表3の結果から、t2/t1=20(≧5)のオフフレーバーであるアルコール臭に対して、a2/a1≦3を満たすアルコール臭のマスキング用香気成分6種、すなわちα-ピネン、ミルセン、リモネン、p-サイメン、1,8-シネオール、シトラールが有効であることが示され、選別された。
また、簡易的な手法においても、t1≦10秒のオフフレーバーであるアルコール臭に対してa2'/a1'≦3である香気成分6種が同様に選別された。
【0061】
[試験例2](オフフレーバーが苦味の場合)
実施例1によりa2/a1およびa2'/a1'が測定された9種の香気成分について、それぞれ1成分ずつ1ppm添加したアルコール9%を含む市販レモンチューハイについて5名の熟練したパネリストによりその効果を確認した。
香気成分を添加していない市販レモンチューハイを対照とし、苦味の強さの評価を4.0の点数に設定し、各パネリストはそれを基準に各香気成分を比較評価する方法を採用した。結果を表4に示した。
【0062】
評価点1:非常に弱い
同 2:かなり弱い
同 3:少し弱い
同 4:強い
同 5:とても強い
同 6:かなり強い
同 7:非常に強い
【0063】
【0064】
表4の結果から、t2/t1=2(<5)のオフフレーバーである苦味に対して、a2/a1>t2/t1を満たす苦味のマスキング用香気成分3種、すなわちα-テルピネオール、ネロール、4-テルピネオールが顕著に有効であることが示され、選別された。
また、簡易的な手法においても、t1>10秒のオフフレーバーである苦味に対してa2'/a1'>3である香気成分3種が同様に選別された。
【0065】
[実施例2](アルコール臭マスキング用香料組成物)
実施例1で選抜されたt2/t1≧5のオフフレーバーであるアルコール臭に対してa2/a1≦3を満たす香気成分を主体として、表5に示す処方にて、本発明のアルコール臭マスキング用香料組成物を調製した。
【0066】
【0067】
[試験例3]
実施例2で調製した本発明のアルコール臭マスキング用香料組成物について、アルコール9%を含む市販レモンチューハイに0.1質量%添加し、14名の熟練したパネリストによりその効果を確認した。
市販レモンチューハイを対照とし、アルコール臭の強さを50の点数に設定し、各パネリストはそれを基準にラインスケール法にて比較評価する方法を採用した。結果を表6に
示した。
【0068】
【0069】
[実施例3](苦味マスキング用香料組成物)
実施例1で選抜されたt2/t1<5のオフフレーバーである苦味に対してa2/a1>t2/t1を満たす香気成分を主体として、表7に示す処方にて、本発明の苦味マスキング用香料組成物を調製した。
【0070】
【0071】
[試験例4]
実施例3で調製した本発明の苦味マスキング用香料組成物について、アルコール9%を含む市販レモンチューハイに0.1質量%添加し、14名の熟練したパネリストによりその効果を確認した。
市販レモンチューハイを対照とし、苦味の強さを50の点数に設定し、各パネリストはそれを基準にラインスケール法にて比較評価する方法を採用した。結果を表8に示した。
【0072】
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、特定のオフフレーバーを効果的にマスキングするために有用な香気成分を簡便、客観的かつ効率的に選別できる探索方法を提供することができる。その結果、消費者の嗜好性が多様化したことに伴う各種各様の商品開発を効率的かつ迅速に行うことができ、飲食品業界の活性化に寄与できる。