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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】露光装置およびその性能評価方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 7/20 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
G03F7/20 501
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019171347
(22)【出願日】2019-09-20
(65)【公開番号】P2021047368
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000128496
【氏名又は名称】株式会社オーク製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100090169
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100124497
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 洋樹
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 祐哉
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-211110(JP,A)
【文献】特開2016-111197(JP,A)
【文献】特開2016-111200(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
露光対象の露光面に沿って形成された少なくとも1つのスリットと、
バー状パターンを複数並べたパターン列の光であるライン&スペース(以下、L/S)パターン光を、前記スリットに対して順に通過させたときに受光する測光部と、
前記測光部の出力から検出される光量分布波形に基づいて、少なくとも光学素子の性能劣化とピントずれに関する評価値を演算する演算部とを備え、
L/Sパターン光のパターン間隔およびL/Sパターン光のパターン幅が、光量分布波形の山部分の頂部および谷部分が略平坦となるように、前記スリットのスリット幅の3倍以上に定められていることを特徴とする露光装置。
【請求項2】
光量分布波形が、谷部分の両端から山部分の頂部に向けて直線的に傾斜する波形になっていることを特徴とする請求項に記載の露光装置。
【請求項3】
露光対象の露光面に沿って形成された少なくとも1つのスリットと、
バー状パターンを複数並べたパターン列の光であるライン&スペース(以下、L/S)パターン光を、前記スリットに対して順に通過させたときに受光する測光部と、
前記測光部の出力から検出される光量分布波形に基づいて、少なくとも2つの光学的性能に関する評価値を演算する演算部とを備え、
L/Sパターン光のパターン間隔およびL/Sパターン光のパターン幅が、光量分布波形の谷部分が略平坦となるように、前記スリットのスリット幅の3倍以上に定められ、
前記演算部が、光量分布波形の高さとオフセット値とを算出し、
オフセット値と光量分布波形の高さとの比に基づいて、光学素子の性能劣化を判断する評価部をさらに備えていることを特徴とする露光装置。
【請求項4】
オフセット値と光量分布波形の高さとの比に基づいて、光学素子の性能劣化を判断する評価部をさらに備えていることを特徴とする請求項1に記載の露光装置。
【請求項5】
露光対象の露光面に沿って形成された少なくとも1つのスリットと、
バー状パターンを複数並べたパターン列の光であるライン&スペース(以下、L/S)パターン光を、前記スリットに対して順に通過させたときに受光する測光部と、
前記測光部の出力から検出される光量分布波形に基づいて、少なくとも2つの光学的性能に関する評価値を演算する演算部とを備え、
L/Sパターン光のパターン間隔およびL/Sパターン光のパターン幅が、光量分布波形の谷部分が略平坦となるように、前記スリットのスリット幅の3倍以上に定められ、
前記演算部が、光量分布波形の谷部分の幅の長さを算出することを特徴とする露光装置。
【請求項6】
検出される谷部分の幅の長さの減少度合いに基づいて、合焦範囲であるか否かを判断する評価部をさらに備えていることを特徴とする請求項5に記載の露光装置。
【請求項7】
バー状パターンを複数並べたパターン列の光であるライン&スペース(以下、L/S)パターン光を、露光対象の露光面に沿って形成された少なくとも1つのスリットに対して順に通過させ、
前記スリットを透過した光を測光部において受光し、
前記測光部の出力から検出される光量分布波形に基づいて、光学素子の性能劣化とピントずれに関する評価値を演算し、
演算された光学素子の性能劣化とピントずれの評価値に基づいて、光学素子の性能劣化とピントずれを評価する性能評価方法であって、
光量分布波形の山部分の頂部および谷部分が略平坦となるように、L/Sパターン光のパターン間隔およびL/Sパターン光のパターン幅を、前記スリットのスリット幅の3倍以上に定めることを特徴とする露光装置の性能評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光変調素子アレイなどを用いてパターンを形成する露光装置に関し、特に、性能評価に関する。
【背景技術】
【0002】
マスクレス露光装置では、基板が搭載されるステージを走査方向に沿って移動させながら、DMD(Digital Micro-mirror Device)などの光変調素子アレイによってパターン光を基板に投影する。そこでは、ステージに載せられた基板上における投影エリア(露光エリア)の位置に応じてパターン光を投影するように、2次元状に配列された光変調素子(マイクロミラーなど)を制御する。
【0003】
露光装置のステージ機構、投影光学系の配置構造などに何らかの支障(変化)が生じると、露光面の位置が合焦範囲から外れる。また、水蒸気などが投影レンズ表面に付着すると、結像性能か低下する。このような光学的性能の劣化を検出する方法として、ライン&スペースパターン(以下、L/Sパターンという)の光を投影し、その出力信号から判断することが知られている(特許文献1、2参照)。
【0004】
ステージを移動させながらL/Sパターンの光をスリットに照射し、スリットを透過した光から、空間的な光量分布波形を検出する。その波形の振幅に基づき、合焦範囲にあるか否か、あるいは、解像力が基準を満たしている否かを判定する。また、L/Sパターンの光をCCDで撮像し、コントラストを算出して合焦状態を検出する方法や、光源入力側と投影レンズ出射側の光量を測定し、光学系の劣化を検出する方法も知られている(特許文献3、4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-111197号公報
【文献】特開2016-111200号公報
【文献】特開2009-246165号公報
【文献】特開2015-064525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光学的な性能評価を行う場合、複数の評価項目が存在し、ピントずれ、DMDや投影光学系の素子劣化、光源出力変動、光量分布など様々である。しかしながら、これらの評価値をそれぞれ別々の測定、演算手法を用いて調べるのは作業効率が悪く、複数の評価項目を同時に測定できることが望ましい。
【0007】
しかしながら、特許文献1、2の場合、合焦状態、解像力いずれの評価項目に対しても、演算値および比較判断いずれも波形の振幅に基づいている。そのため、振幅が基準振幅を満たさないことが検出されても、合焦状態、解像力いずれの劣化であるのか判断できない。
【0008】
したがって、露光装置において、複数の評価項目を同時に評価できることが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の露光装置は、露光対象の露光面に沿って形成された少なくとも1つのスリットと、バー状パターンを複数並べたパターン列の光であるライン&スペース(以下、L/S)パターン光を、スリットに対して順に通過させたときに受光する測光部と、測光部の出力から検出される光量分布波形に基づいて、少なくとも2つの光学的性能に関する評価値を演算する演算部とを備える。ここで、光量分布波形は、測光部から時系列的に出力される信号の値を、パターン光の相対的移動量(移動時間)を横軸にしてプロットした軌跡で表される空間的波形を表す。
【0010】
本発明では、L/Sパターン光のパターン間隔と、L/Sパターン光のパターン幅と、スリットのスリット幅とが、光量分布波形の谷部分が略平坦となるように定められている。ここで、「谷部分が略平坦」とは、正弦波のようにピーク付近まで傾斜が続くような波形でなく、傾きが実施的に横方向に一定、あるいはその許容範囲にあることを表す。例えば、バスタブ曲線のような波形、すなわち、光量分布波形が、谷部分の両端から山部分の頂部に向けて直線的に傾斜する波形にすることができる。また、台形波形、ハット型波形なども含まれる。このような平坦部分を構成することによって、少なくとも2つの光学的性能に関する評価値を演算することが可能となる。
【0011】
平坦部分を形成するため、パターン幅を、スリット幅の3倍以上の長さにすればよい。また、パターン間隔を、スリット幅の3倍以上の長さにすればよく、特に、6倍以上の長さにすればよい。
【0012】
演算部が、光量分布波形に対して様々な特性(パラメータ)を算出することが可能であり、例えば、光量分布波形の高さとオフセット値とを算出することができる。この場合、光学素子の性能劣化を判断する評価部をさらに設けることができる。
【0013】
また、演算部は、光量分布波形の谷部分の幅の長さを算出することも可能である。この場合、検出される谷部分の幅の長さの減少度合い(例えば差分値)に基づいて、合焦範囲であるか否かを判断する評価部をさらに設けることができる。
【0014】
本発明の他の態様である露光装置の性能評価方法は、バー状パターンを複数並べたパターン列の光であるライン&スペース(以下、L/S)パターン光を、スリットに対して順に通過させ、スリットを透過した光を測光部において受光し、測光部の出力から検出される光量分布波形に基づいて、少なくとも2つの光学的性能に関する評価値を演算し、少なくとも2つの評価値に基づいて、光学的性能を評価する性能評価方法であって、光量分布波形の谷部分が略平坦となるように、L/Sパターン光およびスリットを形成する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、露光装置において、複数の評価項目を同時に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の実施形態である露光装置のブロック図である。
図2】遮光部と性能評価のパターン列を示した図である。
図3】フォトセンサと遮光部の配置を示した概略的側面図である。
図4】1つのスリットをバー状パターンの光が順次通過するときの光量分布波形を示した図である。
図5】素子劣化に起因する光量分布波形の変化を示した図である。
図6】ピントずれに起因する空間的光量分布波形の変化を示した図である。
図7】性能評価処理のフローを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
【0018】
図1は、第1の実施形態である露光装置のブロック図である。
【0019】
露光装置10は、フォトレジストなどの感光材料を塗布、あるいは貼り付けた基板(露光対象)Wへ光を照射することによってパターンを形成するマスクレス露光装置であり、基板Wを搭載するステージ12が走査方向に沿って移動可能に設置されている。ステージ駆動機構15は、主走査方向X、副走査方向Yに沿ってステージ12を移動させることができる。
【0020】
露光装置10は、パターン光を投影する複数の露光ヘッドを備えており(ここでは1つの露光ヘッド18のみ図示)、露光ヘッド18は、DMD22、照明光学系(図示せず)、結像光学系23、焦点調整用プリズム25を備える。光源20は、例えば放電ランプ(図示せず)によって構成され、光源駆動部21によって駆動される。
【0021】
ベクタデータなどで構成されるCAD/CAMデータが露光装置10へ入力されると、ベクタデータがラスタ変換回路26に送られ、ベクタデータがラスタデータに変換される。生成されたラスタデータは、バッファメモリ(図示せず)に一時的に格納された後、DMD駆動回路24へ送られる。
【0022】
DMD22は、微小マイクロミラーを2次元配列させた光変調素子アレイであり、各マイクロミラーは、姿勢を変化させることによって光の反射方向を選択的に切り替える。DMD駆動回路24によって各ミラーが姿勢制御されることにより、パターンに応じた光が、結像光学系23を介して基板Wの表面に投影(結像)される。これによって、パターン像が基板Wに形成される。
【0023】
ステージ駆動機構15は、コントローラ30からの制御信号に従い、ステージ12を移動させる。コントローラ30は、露光装置10の動作を制御し、ステージ駆動機構15、DMD駆動回路24へ制御信号を出力する。
【0024】
遮光部40の下方に設けられる光検出部28は、フォトセンサPD、およびパルス信号発生部29を備え、ステージ12の端部付近に設置されている。光検出部28は、性能評価およびアライメント調整時に使用される。演算部27は、光検出部28から送られてくる信号に基づいて、性能評価に関連する値を算出する。
【0025】
結像光学系23と遮光部40との間の光路上に設けられた焦点調整用プリズム25は、2つの楔型プリズムを互いに斜面で接するように対向配置させた光学系であり、プリズム駆動部33は、光軸方向厚さが変化するように2つのプリズムを互いに相対移動させる。結像光学系23の焦点位置は、プリズム25を駆動することにより、基板鉛直方向(z軸方向)に沿って移動する。基板の種類変更などを行った場合、基板Wの厚みなどに応じて焦点調整が行われる。
【0026】
露光動作中、ステージ12は、走査方向Xに沿って一定速度で移動する。DMD22全体による投影エリア(以下、露光エリアという)は、基板Wの移動に伴って基板W上を相対的に移動する。露光動作は所定の露光ピッチに従って行なわれ、露光ピッチに合わせてマイクロミラーがパターン光を投影するように制御される。
【0027】
DMD22の各マイクロミラーの制御タイミングを露光エリアの相対位置に従って調整することにより、露光エリアの位置に描くべきパターンの光が順次投影される。そして、露光ヘッド18を含めた複数の露光ヘッドにより基板W全体を描画することによって、基板W全体にパターンが形成される。
【0028】
本実施形態では、各基板に対する露光動作の開始前、ロット生産の開始前、あるいは露光作業時間が所定時間経過時などにおいて、光学的な性能評価を行う。具体的には、ステージ12を一定速度で移動させながら性能評価用のパターン光を投影し、光検出部28の出力信号に基づいて、光学的性能の劣化があるか否かを判定する。以下、これについて詳述する。
【0029】
図2は、遮光部と、性能評価用のパターン列を示した図である。図3は、フォトセンサと遮光部の配置を示した概略的側面図である。
【0030】
遮光部40は、フォトセンサPDの光源側上方に配置され、複数のスリットSTが主走査方向Xに沿って等間隔に形成されている。図2では、主走査方向Xに垂直、すなわち副走査方向Yに平行な2つのバー状スリットを示している。なお、スリット数は3つ以上でもよく、1つであってもよい。
【0031】
遮光部40の真下に配置されたフォトセンサPDは、スリットSTを通った光のみ受光し、ステージ12に取り付けられた支持機構60によって保持される(図3参照)。遮光部40は、その表面が基板Wの露光面に沿っていて、フォトセンサPDの受光面PSは、遮光部40の表面と平行になっている。遮光部40を支持する支持機構50は、支持機構60によって保持されている。
【0032】
図2に示すように、性能評価に用いられるパターン列PTは、L/Sパターンであって、主走査方向Xに垂直、すなわち副走査方向Yに平行なバー状パターンを複数並べたパターン列で構成される。パターン列PTの最小構成はPA(パターン列PTの全体幅)<SP(遮光部40の隣り合うスリット間隔)を満たす2本以上のバー状パターンであるが、ここでは、隣り合うパターンの主走査方向Xに沿って間隔PPを空けて並ぶ3つのバー状パターンPL1、PL2、PL3から成る。ステージ12移動の間にパターン列PTの光を遮光部40に向けて投影させることで、パターン列PTの光がスリットを順に通過していく。
【0033】
バー状パターンPL1、PL2、PL3の各パターン幅PWは、遮光部40に形成されたスリットSTのスリット幅SWよりも大きい。また、パターン間隔PPも、スリット幅SWよりも大きい。バー状パターンPL1、PL2、P3の各パターン幅PWは、複数のマイクロミラー像に応じた幅に定められている。パターン列PTの主走査方向Xに沿った全体幅PAは、隣り合うスリット間隔SPよりも小さい。
【0034】
このようなパターン幅PW、スリット幅SW、パターン間隔PPの長さの関係により、先頭のバー状パターンPL1が1つのスリットSTを完全に通過した後、次のバー状パターンPL2がスリットST通過を開始し、また、パターン列PTの最後尾バー状パターンPL3が1つのスリットSTを一定速度で通過終了した後、先頭のバー状パターンPL1が次のスリットSTの通過を開始する。
【0035】
図4は、1つのスリットをバー状パターンの光が順次通過するときの光量分布のグラフを示した図である。
【0036】
パターン列PTの光が遮光部40を一定速度で通過するとき、フォトセンサPDから出力される信号(以下、光量信号という)は、バー状パターンPL1、PL2、PL3の光がスリットSTを透過することによって時系列的に連続変化する。
【0037】
図4では、フォトセンサPDによって検出される時系列的な光量信号値を、ステージ12の位置の移動に対して連続的にプロットした軌跡を表している。ステージ12の位置を横軸として表されるこの空間的に示した波形状の光量分布ATを、以下では光量分布波形という。図2のパターン幅PW、パターン間隔PPに対応する区間を、ここでは同じ符号で示している。ただし、ここではX方向に沿った光量の変化の様子を表している。
【0038】
光量分布波形ATでは、山部分Mの傾斜が直線状に延び、波形ピークを含む区間Aが略平坦になっている。また、谷部分Vは、その区間Bにおいて略平坦になっている。山部分Mと谷部分Vは、バスタブ曲線に相当する波形、あるいは台形のような波形を形成している。区間Aと区間Bとを接続する傾斜部分を区間Cとする。
【0039】
谷部分Vの平坦な区間Bは、パターン幅PWと同等または広い。谷部分Vの区間Bでは、光の散乱などの影響により、微弱な光量が検出され、その平均値をオフセット値sとして表す。また、山部分Mの区間Aと谷部分Vの区間Bを接続する区間Cは、スリット幅SWをバー状パターンの端部が通過する際の光量変化を表すが、バー状パターンの輪郭のボケに起因する光量も影響する。
【0040】
このような光量分布波形ATは、上述したパターン幅PW、パターン間隔PP、スリット幅SWの長さの関係によるものであり、山部分M、谷部分Vが略平坦な波形を実現させている。山部分M、谷部分Vの平坦な区間A、Bを確保するためには、パターン幅PW、およびパターン幅PPをスリット幅SWの3倍以上に定めるのがよい。特に、谷部分Vの平坦な区間Bを十分確保するため、パターン間隔PPは、スリット幅SWの6倍以上に定めるのがよい。
【0041】
図5は、光学素子劣化に起因する光量分布波形ATの変化を示した図である。結像光学系23や光変調素子アレイ22といった光学素子が劣化すると、解像力の低下、光の散乱の影響が強まり、波形高さhが低くなる一方、オフセット値sが増加する。したがって、波形高さhの変化量、オフセット値sの変化量を調べることによって、光学素子劣化の判定を行うことができる。
【0042】
図6は、ピントずれに起因する光量分布波形ATの変化を示した図である。ピントずれが生じると、焦点位置が露光面と一致しない、あるいは許容錯乱円の範囲から外れる。その結果、光束が広がる影響で、山部分Mの区間Aと傾斜する区間Cを合計した区間が幅広になり、谷部分Vの区間Bが狭くなる。したがって、区間Bの長さの変化を調べることによって、ピントずれの判定を行うことができる。
【0043】
図7は、コントローラ30の制御に基づく評価性能処理のフローを示した図である。
【0044】
処理が開始されると、ステージ12を移動させながらパターン列PTが遮光部40に投影される(S101)。光検出部28から出力される光量信号は、所定のサンプリング周波数に従って得られる光量信号であることから、1つの光量分布波形の光量信号の山部分Mの区間Aの平均値と、谷部分Vの区間Bの平均値を算出して、それぞれ光量波形分布の波形高さhとオフセット値sとする。そして、これらの平均値の比(s/h)を、性能評価値として求める(S102)。波形高さhに対するオフセット値sの比を算出することで、光の強度の影響を受けない。
【0045】
算出された比が所定値を超える場合、すなわち、波形高さhが減少し、オフセット値sが増加している場合、光学素子の劣化が生じていると判断し、警告表示を行う(S103、S104)。ユーザは警告表示に基づき、光学素子を点検すればよい。なお、光量分布波形全体から平均値s、hを求めてもよい。また、平均値の比をh/sで表し、所定値以下であるか否かによって光学素子劣化を判断してもよい。
【0046】
一方、谷部分Vの区間Bでは、光量信号が略一定の値となって検出される。したがって、略同じ値となる光量信号のサンプル数を調べることによって、谷部分Vの幅の変化を検出することができる。ここでは、オフセット値sとみなせるサンプル数と、基準となるサンプル数との差分を算出する(S105)。差分値の絶対値が閾値を越えている場合、合焦範囲から外れていると判断し、警告表示を行う(S106、S107)。
【0047】
このように本実施形態によれば、谷部分Vが平坦な光量分布波形ATを得るようなパターン列PTおよびスリットSTを形成することにより、1つの測定手法によって、素子劣化に関する評価値(波形高さhとオフセット値sとの比)と、ピントずれに関する評価値(谷部分Vの区間Bの長さと基準長さとの差分値)を検出可能となり、素子劣化とピントずれという、異なる評価項目を同時に評価判定することができる。
【0048】
判定結果に基づいて劣化の原因が明らかになるため、ユーザは、焦点位置のキャリブレーション、あるいは、光学系のメンテナンスどちらか実施すればよい。なお、警告表示だけでなく、検出した値をメモリなどへ記録してもよい。メンテナンス実施時期などを算出することも可能となる。また、通常の基板を用いた露光動作と同じようにパターン光を投影するだけでよいので、性能評価の作業効率を高めることができる。
【0049】
光量分布波形から光源出力変化などを評価判定してもよい。例えば、素子劣化に関する評価値とピントずれに関する評価値に変化ないときに光量の絶対値が変化していれば、光源出力が変化していると判定できる。これによって、光量分布波形ATから多数の評価項目について同時に評価値を算出することが可能となり、また、評価値から光学的性能劣化の原因を特定することができる。
【0050】
本実施形態では、光量波形分布において波形の頂部が略平坦であるが、正弦波のような曲線で形成してもよい。
【符号の説明】
【0051】
10 露光装置
22 DMD(光変調素子アレイ)
27 演算部
28 光検出部(測光部)
30 コントローラ(評価部)
40 遮光部
PD フォトセンサ
PT パターン列
ST スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7