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特許7406968水溶性シート状色材、水溶性シート状セット、および絵の具セット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】水溶性シート状色材、水溶性シート状セット、および絵の具セット
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20231221BHJP
   C09D 5/06 20060101ALI20231221BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231221BHJP
   C09D 11/17 20140101ALI20231221BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/06
C09D7/61
C09D11/17
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019216925
(22)【出願日】2019-11-29
(65)【公開番号】P2021085008
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100206265
【弁理士】
【氏名又は名称】遠藤 逸子
(72)【発明者】
【氏名】三宅 充人
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-123848(JP,A)
【文献】特開2007-009198(JP,A)
【文献】特開2018-127559(JP,A)
【文献】特開平04-225076(JP,A)
【文献】特開2018-127558(JP,A)
【文献】特開2017-210505(JP,A)
【文献】特開昭59-084955(JP,A)
【文献】特開昭52-120028(JP,A)
【文献】特開昭56-159262(JP,A)
【文献】特開2001-200192(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0175810(US,A1)
【文献】国際公開第2021/111537(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 5/06
C09D 7/61
C09D 11/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖類、
非イオン性水溶性鎖状ポリマー、
光輝性顔料粒子、および
体質材
を含んでなる、水溶性シート状色材であって、
前記光輝性顔料粒子が、アルミニウム顔料粒子であり、
水溶性シート状色材の平均膜厚が、10~150μmである、水溶性シート状色材
【請求項2】
前記光輝性顔料粒子の平均アスペクト比が1~100である、請求項に記載の水溶性シート状色材。
【請求項3】
前記アルミニウム顔料粒子が、表面被覆されている、請求項1または2に記載の水溶性シート状色材。
【請求項4】
前記体質材が、カオリン、タルク、マイカ、クレー、ベントナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および水酸化アルミニウムからなる群から選択される、請求項1~3のいずれか一項に記載の水溶性シート状色材。
【請求項5】
前記体質材の含有量が、前記水溶性シート状色材の総質量を基準として、5~50質量%である、請求項1~4のいずれか一項に記載の水溶性シート状色材。
【請求項6】
多価アルコールをさらに含んでなる、請求項1~5のいずれか一項に記載の水溶性シート状色材。
【請求項7】
多糖類、
非イオン性水溶性鎖状ポリマー、
第一着色剤、および
体質材
を含んでなる第一水溶性シート状色材と、
多糖類、
非イオン性水溶性鎖状ポリマー、
第二着色剤、および
体質材
を含んでなる第二水溶性シート状色材と
の組み合わせを具備してなり、
前記第一着色剤が、光輝性顔料粒子であり、前記光輝性顔料粒子が、アルミニウム顔料粒子であり、
前記第一水溶性シート状色材の平均膜厚が、10~150μmであり、
前記第二着色剤が、非光輝性顔料粒子である、水溶性シート状色材セット。
【請求項8】
前記第一水溶性シート状色材の総質量を基準とした前記第一水溶性シート状色材中に含まれる体質材の含有量X質量%と、
前記第二水溶性シート状色材の総質量を基準とした前記第二水溶性シート状色材に含まれる体質材の含有量Y質量%とが、
0.5<X/Y<1.5
を満たす、請求項に記載の水溶性シート状色材セット。
【請求項9】
請求項1~のいずれか一項に記載の水溶性シート状色材または請求項もしくはに記載の水溶性シート状色材セットと、筆とを具備してなる、絵の具セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性シート状色材および製造方法に関するものである。より具体的には、光輝性顔料粒子を含んでなる水溶性シート状色材および製造方法に関するものである。この水溶性シート状色材は、水に溶かすことにより、水彩絵の具として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
水彩絵の具としては、液状、またはペースト状のものが一般的であるが、その他の形態として、粉末状、もしくは顆粒状のもの、またはパレット等に固体状態で固定されたものも存在する。さらには、シート状の絵の具についても提案されている(特許文献1および2)。シート状の絵の具は、特に、シートどうしがはりつきにくいこと、適度な自立性や柔軟性を有すること、および水へ溶かしたときに速やかに均一な状態になることが求められており、これらの点の改良が求められていた。
【0003】
また、通常の絵の具と同様に、金色や銀色などの、光輝性を有する色も求められている。これらの光輝性を有する色は、通常色と混ぜて、カラーバリエーションを増やすことが好まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭59-84955号公報
【文献】特開平4-225076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みて、シートどうしがはりつきにくいこと、適度な自立性や柔軟性を有すること、および水へ溶かしたときに速やかに均一な状態になることが可能な、光輝性顔料粒子を含んでなる水溶性シート状色材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による水溶性シート状色材は、
多糖類、
非イオン性水溶性鎖状ポリマー、
光輝性顔料粒子、および
体質材
を含んでなる。
【0007】
本発明による水溶性シート状色材セットは、
多糖類、非イオン性水溶性鎖状ポリマー、第一着色剤、および体質材を含んでなる、第一水溶性シート状色材と、
多糖類、非イオン性水溶性鎖状ポリマー、第二着色剤、および体質材を含んでなる、第二水溶性シート状色材と
の組み合わせを具備してなり、
前記第一着色剤が、光輝性顔料粒子であり、
前記第二着色剤が、非光輝性顔料粒子である。
【0008】
本発明による絵具セットは、上記した水溶性シート状色材または水溶性シート状色材セットと、筆とを具備してなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明による水溶性シート状色材は、光輝性を有している。また、粘着性が低く、適度な自立性や柔軟性を有し、取り扱い性に優れている。特に、シート状であるために、溶解する前に手でちぎったり、はさみで切るなどして適当量を分取して、濃度調整などが容易である。また、本発明による水溶性シート状色材は水に溶かしたとき速やかに均一な状態になるため、筆を用いて描画した際に、色むらのない良好な筆跡を得られ、白紙のみならず黒紙に用いた場合にも、発色性が優れている。また、本発明による水溶性シート状色材は、非光輝性顔料粒子を用いて形成された光輝性を有さない一般色のシート状色材と組み合わせた場合にも、発色性に優れた筆跡を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、特に断らない限り、配合を示す「部」、「%」、「比」などは質量基準であり、含有量とは水溶性シート状色材の質量を基準としたときの構成成分の質量%である。
【0011】
<水溶性シート状色材>
本発明による水溶性シート状色材(以下、単にシート状色材ということがある)は、多糖類、非イオン性水溶性鎖状ポリマー、光輝性顔料粒子、および体質材を含んでなる。
【0012】
本発明によるシート状色材は、適度な自立性や柔軟性を有する固体である。シート状であるために、切断が容易であり、また収容する容器が必要なく、それ自体を1枚ごとに取り扱うことができるので、取り扱い性にも優れている。シート状形状として、厚さが均一なフィルムが代表的なものとして挙げられるが、部分的に厚みを変化させて、厚みの薄い部分で切断を容易にしていてもよい。ただし、本発明によるシート状色材は発色性が高いので、比較的薄い形状であっても十分な発色が得られるため、厚さが均一な薄膜形状でも十分な特性を発揮できる。このようなシート状色材の平均膜厚は、特に限定されないが、好ましくは5~300μmであり、より好ましくは10~150μmである。バーコーターを用いるような製造方法の場合は、平均膜厚が、10~60μmであることが好ましい。ここで平均膜厚は、マイクロゲージによって測定することができる。このような平均膜厚を有するシート状色材は、乾燥状態でも柔軟性を有し、また取り扱いに十分な強度を実現できる。また、本発明によるシート状色材は、粘着性が低いものであり、手で持った際に、手に成分が付着しにくい。また、複数のシートを重ねて保管しても、相互に付着しづらいものである。
【0013】
本発明によるシート状色材は、水に接触すると、溶解して、液状組成物になる。この液状組成物は、一般的に使用される塗料や絵の具を水に分散させたものや塗料などと同様に使用することができる。用いる水の温度は特に限定されないが、室温程度の水に溶解可能であればよい。水への接触方法は、特に限定されないが、例えば、水を含ませた筆をシート状色材に接触させて擦過すること、シート状色材にスポイト等で水を滴下すること、水に適当な大きさのシート状色材を浸漬すること、等が挙げられる。必要に応じて、シート状色材を水中に投入し、筆等を用いて撹拌してもよい。
【0014】
本発明によるシート状色材は、着色剤が均一に分散されているため、水に接触したときに、速やかに均一な液状の絵の具にすることができる。その絵の具を筆等に含浸させ、描画すると、色むらのない良好な筆跡が得られる。
【0015】
以下に、本発明による水溶性シート状色材に用いられる成分について、説明する。
【0016】
<多糖類>
本発明に用いられる多糖類は、上記のようなシート状色材の形状を維持するための主材料となるものであり、かつ皮膜形成後に、水に溶解することができるものである。また、シート状色材を水に溶かして、描画した際に、着色された皮膜を形成する役割を果たすこともできる。
【0017】
多糖類としては、特に限定されないが、例えば、グルコースを主構成糖とするグルカンが挙げられる。グルカンは、α-グルカンとβ-グルカンに分類できる。ここで、α-グルカンとは、グルコースがα-1,4-結合で鎖状に結合した構造を基本とし、一部のグルコースの6位から分岐した構造を有していてもよい構造を有するポリマーのことを意味し、β-グルカンとは、グルコースがβ-1,3-結合で鎖状に結合した構造を基本とし、一部のグルコースの6位から分岐した構造を有していてもよい構造を有するポリマーのことを意味する。α-グルカンとしては、アミロース、プルランなどが挙げられる。β-グルカンとしては、発酵セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースおよびその誘導体が挙げられる。より好ましくは、α-グルカンである。
その他に用いることができる多糖類としては、アルギン酸およびその塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、ダイユータンガムが挙げられる。
本発明においては、水溶性シート状色材の自立性、柔軟性に優れ、さらに優れた再溶解性が得られることを考慮すると、プルランを用いることが特に好ましい。
なお、2種以上の多糖類を組み合わせてもよい。
【0018】
多糖類の質量平均分子量は、好ましくは1,000~600万、より好ましくは10万~150万、さらに好ましくは20万~60万である。この範囲にあると、自立性の高い皮膜を形成することができ、水での再溶解性が高いものとなる。ここで、本発明において、質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィを用いて通常の方法で測定することができる。
多糖類の含有量は、シート状色材の総質量を基準として、好ましくは0.05~1.0質量%であり、より好ましくは0.1~5質量%であり、特に好ましくは1~5質量である。
【0019】
<非イオン性水溶性鎖状ポリマー>
本発明に用いられる非イオン性水溶性鎖状ポリマーは、シート状色材を水に接触させたときの溶解を促進する作用を有すると共に、シート状色材を水に溶解させたときに着色剤を均一に分散させる作用も有すると考えられる。
【0020】
本発明に用いられる非イオン性水溶性鎖状ポリマーとしては、主鎖に環状構造を含まないものである。具体的にはポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド等が挙げられ、好ましくはポリビニルアルコールである。非イオン性水溶性鎖状ポリマーは、重合度が200~1,400であることが特に好ましく、200~800であることが最も好ましい。
【0021】
非イオン性水溶性鎖状ポリマーの含有量は、シート状色材の総質量を基準として、好ましくは1~40質量%であり、より好ましくは5~35質量%であり、さらに好ましくは、10~35質量%である。
【0022】
<光輝性顔料粒子>
本発明によるシート状色材は、光輝性顔料粒子を含む。本発明において光輝性顔料粒子とは、光を鏡面反射する性質を有する界面を具備している粒子をいう。本発明による光輝性顔料粒子としては、金属アルミニウム(以下、簡単にアルミニウムということがある)、真鍮、ステンレス鋼、ブロンズ、酸化鉄、酸化アルミニウムおよびこれらの合金等からなる群から選択される金属顔料粒子や、マイカ、パールマイカ等の無機材料粒子を用いることができる。樹脂やガラスなどに金属を蒸着等して形成された金属蒸着粉顔料も、上記の金属顔料粒子と同様に、光輝性顔料粒子として用いることができる。これらの中でも、シート状色材中での光輝性顔料粒子の分散性を向上させることができ、良好な膜を形成でき、シート状色材を水へ溶かしたときの光輝性顔料粒子の分散性を向上させることができることから、アルミニウム顔料粒子が好ましい。
【0023】
光輝性顔料粒子は、水等の溶媒との反応性が低く安定性が高く、シート状色材の製造がしやすい点、およびシート状色材の水への溶解時の安定性が向上する点から、表面被覆されていることが好ましい。表面被覆は、シリカ、リン酸塩、モリブデン、ケイ酸塩、リン酸エステルまたはその他の界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、リン酸誘導体、アルキルスルホン酸塩)等により行うことができる。なかでも、水への溶解時の分散性に優れていることから、リン酸エステルまたはシリカによって表面被覆されていることが好ましく、より安定性が高いことから、シリカによって表面被覆されていることがより好ましい
【0024】
上記シリカ等による金属顔料粒子の被覆量、すなわち金属顔料粒子100質量部に対するシリカ等の被覆材の質量の割合は、3質量部以上、45質量部以下であることが好ましく、5質量部以上、30質量部以下であることがより好ましく、10質量部以上、30質量部以下であることが好ましく、11質量部以上、20質量部以下であることがより好ましい。被覆量を上記数値範囲内とすることにより、分散性をより向上させることができる。
【0025】
尚、本発明においては、前述のような金属顔料粒子を単独で用いてもよいし、2種以上を併用して用いてもよい。金属顔料粒子を併用することで、色調のバリエーションを増やしたり、色濃度を高くすることも可能になる。その結果、より多様な色調の表現が容易になる。
【0026】
光輝性顔料粒子の形状は、任意に選択できるが、光輝性という観点からは、針状、板状または方形であることが好ましい。
【0027】
光輝性顔料粒子は、膜中で、膜表面に平行配列するリーフィングタイプのものと、膜中で、分散配列するノンリーフィングタイプのものに分類される。リーフィングタイプの粒子は、輝度が高いが、非光輝性顔料粒子をさらに含むときに、その着色剤を隠蔽し、着色性が低くなる傾向にある。一方、ノンリーフィングタイプの粒子は、非光輝性顔料粒子をさらに含むときに、その着色剤と分散配列し、着色性に優れる傾向がある。本発明によるシート状色材は、さらなる着色剤を含むことができるし、また、後述のように、非光輝性顔料粒子を含むシート状色材と、組み合わせて用いることも好適な態様であり、そのときにも、ノンリーフィングタイプの粒子の方が、着色性に優れる。よって、着色性を考慮すると、光輝性顔料粒子は、ノンリーフィングタイプであることが好ましい。
なお、本発明において、非光輝性顔料粒子とは、光輝性顔料粒子以外の着色剤のことをいう。
【0028】
光輝性顔料粒子の平均粒子径は、水溶性シート状および、得られる筆跡の光輝性を十分に得ることを考慮すると、1μm以上であることが好ましく、3μm以上であることが好ましい。また、成形性や、膜強度などを考慮すると、光輝性顔料粒子の平均粒子径は、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましく、20μm以下であることがさらに好ましく、15μ以下であることが特に好ましい。
光輝性顔料粒子の平均粒子径を上記数値範囲内とすることにより、水溶性シート状色材の光輝性を維持しつつ、水性インキ組成物中における光輝性顔料粒子の再分散性を向上させることができる。
なお、本発明において、「平均粒子径」は、特に断りのない限り、体積基準の平均粒径のことを指し、レーザー回折式粒度分布測定機(商品名「MicrotracHRA9320-X100」、日機装株式会社)を用いて、標準試料や他の測定方法を用いてキャリブレーション数値を基に測定される粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)により測定することができる。
【0029】
光輝性顔料粒子の平均粒子径をDμm、平均厚みをdμm、とした場合、光輝性顔料粒子のアスペクト比(D/d)は、1以上、100以下であることが好ましく、10以上、50以下であることがより好ましい。光輝性顔料粒子のアスペクト比(D/d)を上記数値範囲内とすることにより、水性インキ組成物の光輝性を向上させることができると共に、ペン先におけるインキ詰まりを防止することができる。
【0030】
光輝性顔料粒子の比重は、分散性の観点から、1.5~3.0であることが好ましい。
【0031】
光輝性顔料粒子の含有量は、シート状色材の総質量を基準として、好ましくは10~50質量%であり、より好ましくは15~40質量%である。
【0032】
<体質材>
本発明によるシート状色材は、体質材を含んでなる。ここで、本発明において、体質材とは、それ自体の着色性や隠蔽性は低いが、光輝性顔料粒子が紙繊維等の間に沈むことを抑制し、また体質材自体が光を散乱することができるものであり、光輝性顔料粒子と組み合わせることで、隠蔽性や発色性を高めることができるものをいう。体質材を含むことで、膜の強度を高めたり、膜厚を厚くしたり、シート状色材を水に接触させたときの溶解を促進することができる。具体的には、カオリン、タルク、マイカ、クレー、ベントナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられ、好ましくはカオリンである。カオリンは、その製造方法の違いにより、含水カオリン(湿式カオリン)、焼成カオリン、乾式カオリンに分類でき、含水カオリンは、溶解性や分散性に優れており、シート状色材を製造するために用いやすい。また、特に、光輝性顔料粒子を含まず、非光輝性顔料粒子を含む一般色のシート状色材と組み合わせたり、後述のように予め非光輝性顔料粒子を含ませたりして、多彩な光輝性を有するシート状色材を得る場合、カオリンを用いることで、非光輝性顔料粒子が紙繊維などの間に沈むことも抑制でき、シート状色材の発色性をより一層向上できるため、好ましい。なお、これらの体質材の一部は無色ではないので、着色剤としての機能を併せ持っている。
体質材の含有量は、シート状色材において、優れた膜強度と、優れた発色性および隠蔽性を有する筆跡が得られることを考慮すると、シート状色材の総質量を基準として、5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、20~30質量%であることがさらに好ましい。
また、体質材の含有量は、体質材および光輝性顔料粒子の総質量を基準として、10~70質量%であることが好ましく、20~60質量%であることが好ましい。
また、非イオン性水溶性鎖状ポリマーの含有量は、着色剤および体質材の総質量を基準として、10~100質量%であることが好ましく、20~70質量%であることがより好ましい。
【0033】
<その他>
本発明によるシート状色材は、必要に応じてその他の材料を含むことができる。用いることができる添加剤としては、例えば、非光輝性顔料粒子、脂肪酸金属塩、多価アルコール、界面活性剤、水、粘度調整剤、塗布性能改善剤、防腐剤、消泡剤等が挙げられる。その他通常水性絵の具に使用できるものも含むことができる。
【0034】
本発明によるシート状色材は、非光輝性顔料粒子をさらに含むことで、カラーバリエーションを増やすことができる。
この非光輝性顔料粒子としては、従来公知の顔料、染料であればいずれも用いることができるが、顔料であることが好ましい。顔料としては、特に制限されるものではなく、例えば、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、キノフタロン系顔料、スチレン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料、着色樹脂粒子顔料等が挙げられる。尚、顔料は予め、界面活性剤などの顔料分散剤を用いて媒体に分散された水分散顔料製品などを用いてもよい。
また、染料としては、例えば、フタロシアニン系染料、ピラゾロン系染料、ニグロシン系染料、アントラキノン系染料、アゾ系染料などが挙げられる。
光輝性顔料粒子に対する非光輝性顔料粒子の含有比(非光輝性顔料粒子/光輝性顔料粒子)は、その種類によって異なるが、質量基準で、好ましくは0.1~5であり、より好ましくは0.5~2である。
【0035】
脂肪酸金属塩は、シート状色材を水に接触させたときの溶解を促進したり、シート状色材を水に溶解させたときに、顔料粒子を均一に分散させる作用を有すると考えられる。
脂肪酸金属塩としては、炭素数12以上の脂肪酸の金属塩であることが好ましく、具体的には、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、ミリスチン酸リチウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ラウリン酸リチウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、オレイン酸リチウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、イソステアリン酸リチウム、イソステアリン酸ナトリウム、イソステアリン酸カリウムなどが挙げられ、好ましくはオレイン酸カリウムである。
脂肪酸金属塩の含有量は、シート状色材の総質量を基準として、好ましくは0.5~30質量%であり、より好ましくは1~20質量%であり、さらに好ましくは2~8質量%である。ただし、脂肪酸金属塩を含むことで、水に溶解させたときに泡立ちが起こることもあるので、脂肪酸金属塩を含まないことも好ましい一態様である。
【0036】
多価アルコールは、シート状色材の過乾燥を抑制し、適度に湿らせておくことを目的に用いることができる。また、シート状色材中の着色剤の凝集を防ぎ、被膜に塑性を与える作用も有すると考えられる。多価アルコールとしてはジオールまたはトリオールが好ましく、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられ、特に好ましくはグリセリンである。
シート状色材が十分な強度を有するシート形状を維持するために、多価アルコールの含有量は、シート状色材の総質量を基準として、0.5~30質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましい。
【0037】
界面活性剤は、顔料などの分散剤として、あるいは描画時の塗れ性改良剤として、用いることができる。界面活性剤としては、ノニオン性、カチオン性、アニオン性、または両性イオン性のものが知られているが、適宜選択して用いることができる。
また、界面活性剤は、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤などが挙げられるが、本発明においては、描画時の塗れ性の向上を考慮すると、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤の中から1種以上選択して用いることがより好ましく、中でも、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤を用いることがさらに好ましい。
また、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤としては、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤が挙げられ、中でも、アセチレングリコール系界面活性剤を用いることが特に好ましい。
【0038】
本発明によるシート状色材は、水を含むことができる。このような水は、溶媒として添加することのほか、着色剤や界面活性剤などの溶媒や分散媒として添加されてもよい。そのような水は後述する製造方法において、蒸発除去されてもよいし、その一部が水溶性シート状色材に残留していてもよい。
【0039】
<水溶性シート状色材の製造方法>
本発明による水溶性シート状色材の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下のように製造することができる。
【0040】
多糖類、非イオン性水溶性鎖状ポリマー、光輝性顔料粒子、および体質材を含んでなる混合物を撹拌し、均一な分散液を調製する。光輝性顔料粒子は、あらかじめ、分散媒に分散された状態であるものを用いることが好ましい。
次に、分散液をベースとなる樹脂フィルム上に、バーコーターやアプリケーターなどにより塗工した後、乾燥し、ベースとなる樹脂フィルムから剥がすことなどにより、シート状色材を製造することができる。
【0041】
また、他の方法としては、多糖類、非イオン性水溶性鎖状ポリマー、光輝性顔料粒子、および体質剤を含んでなる混合物をニーダーなどで混練し、混練物を押し出し成形し、必要に応じて、カレンダー処理、圧延処理などにより、均一なシート状色材を製造することができる。
【0042】
<水溶性シート状色材セット>
本発明による水溶性色材セットは、多糖類、非イオン性水溶性鎖状ポリマー、第一着色剤、および体質材を含んでなる第一水溶性シート状色材と、
多糖類、非イオン性水溶性鎖状ポリマー、第二着色剤、および体質材を含んでなる第2水溶性シート状色材との組み合わせを具備してなり、第一着色剤が、光輝性顔料粒子であり、第二着色剤が、非光輝性顔料粒子である。
第一水溶性シート状色材は、上記に記載の本発明によるシート状色材である。
第二水溶性シート状色材に含まれる第2着色剤は、非光輝性顔料粒子である着色剤であれば特に限定されず、従来公知の顔料、染料であればいずれも用いることができるが、顔料であることが好ましい。顔料としては、特に制限されるものではなく、例えば、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、キノフタロン系顔料、スチレン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料等が挙げられる。
また、第一水溶性シート状色材および第二水溶性シート状色材は、それぞれ多糖類および非イオン性鎖状ポリマーを含んでなる。これらは、第一水溶性シート状色材および第二水溶性シート状色材で同一であっても異なっていてもよい。第一水溶性シート状色材および第二水溶性シート状色材を混合したときの相溶性や製造容易性の観点から、同一の多糖類および非イオン性鎖状ポリマーを用いることが一般的であるが、用いられる光輝性顔料粒子などとの相溶性や安定性などを考慮して、異なったものを採用することもできる。
この第一および第二水溶性シート状色材を組み合わせて用いることによって、新たな色を有する絵具を形成できる。例えば、銀色を有する第一水溶性シート状色材と、オレンジ色を有する第二水溶性シート状色材とを、ともに水に接触させ、溶解させることで、金色の絵具を形成できる。
さらに、3枚以上のシート状色材を組み合わせることもできる。
【0043】
第一水溶性シート状色材の総質量を基準とした第一水溶性シート状色材中に含まれる体質材の含有量X質量%と、第二水溶性シート状色材の総質量を基準とした前記第二水溶性シート状色材に含まれる体質材の含有量Y質量%とが、好ましくは0.5<X/Y<1.5を満たし、より好ましくは、0.7<X/Y<1.3を満たし、さらに好ましくは、0.8<X/Y<1.0を満たす。これによって、シート状色材を混合した際も、発色性を維持することができる。
【0044】
<絵具セット>
本発明による絵具セットは、本発明によるシート状色材または本発明によるシート状色材セットと、筆とを具備してなる。さらに、水を入れる容器、パレット等を組み合わせることができる。本発明による絵具セットは、描画のみならず書画にも用いることができる。
【実施例
【0045】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>
(1a)シート状色材製造用着色組成物の製造
・プルラン 10質量%水溶液 5.0質量部
(プルラン 質量平均分子量約40万)
・ポリビニルアルコール 20質量%水溶液 40質量部
(ポリビニルアルコール 重合度500、ケン化度87.0~89.0モル%)
・カオリン 10.0質量部
(「ASP-600」、含水カオリン、BASF社)
・アルミ顔料分散体 20.0質量部
(「EMR-D5660」、東洋アルミ株式会社、シリカ被覆アルミニウム粒子、平均粒子径:10μm、固形分50%、東洋アルミ株式会社製)
・オレイン酸カリウム水溶液 10質量部
(20質量%オレイン酸カリウム水溶液)
・グリセリン 1.0質量部
・界面活性剤 1.0質量部
(アセチレングリコール系界面活性剤「ダイノール604」、日信化学工業株式会社)・水 14.0質量部
上記配合物を室温で1時間攪拌混合することにより、シート状色材製造用着色組成物を得た。
(1b)シート状色材の製造
上記(1a)で得られた着色剤組成物を、100μmのポリプロピレンフィルム上に、バーコーターを用いて塗布し、50℃で12時間乾燥して、ポリプロピレンフィルム上に前記組成物が膜状となった膜状物を得た。この膜状物をポリプロピレンフィルムから剥離することにより、銀色のシート状色材を得た。
【0047】
<実施例2~13、および比較例1~3>
(a)シート状色材製造用着色組成物の製造
以下の表1に示した配合とした以外は実施例1と同じ方法により、シート状色材製造用着色組成物を作製した。得られた着色組成物を用いて、実施例1と同じ方法で、シート状色材を得た。表中の組成の数値は質量部を示す。
【表1】
表中、
・プルラン水溶液:プルラン10質量%水溶液、プルラン 質量平均分子量約40万、
・アルギン酸ナトリウム水溶液:アルギン酸ナトリウム5質量%水溶液 分子量約100万
・ポリビニルアルコール水溶液(a):ポリビニルアルコール20質量%水溶液、ポリビニルアルコール 重合度500、ケン化度87.0~89.0モル%、
・ポリビニルアルコール水溶液(b):ポリビニルアルコール20質量%水溶液、ポリビニルアルコール 重合度300、ケン化度86.0~90.0モル%、
・ポリビニルピロリドン水溶液:ポリビニルピロリドン20質量%水溶液、ポリビニルピロリドン 質量平均分子量45,000、
・カオリン:「ASP-600」、含水カオリン、BASF社、
・アルミ顔料分散体A:「EMR-D5660」、東洋アルミ株式会社、シリカ被覆アルミニウム粒子、ノンリーフィングタイプ、平均粒子径:10μm、固形分50%、
・アルミ顔料分散体B:「EMR-D6390」、東洋アルミ株式会社、シリカ被覆アルミニウム粒子、ノンリーフィングタイプ、平均粒子径:7μm、アスペクト比:25、シリカ被覆量:23~28質量部、固形分40%、
・アルミ顔料分散体C:「EMR-D5422」、東洋アルミ株式会社、シリカ被覆アルミニウム粒子、ノンリーフィングタイプ、平均粒子径:19μm、固形分65%・アルミ顔料分散体D:「FW-610」、旭化成メタルズ株式会社、POEアルキルエーテル、リン酸誘導体で表面処理されたアルミニウム粒子、ノンリーフィングタイプ、平均粒子径:10μm、固形分75%、比重:1.6
・アルミ顔料分散体E:「Rotosafe Aqua 260 003 Silver」、エカルト社、リン酸誘導体で表面処理されたアルミニウム粒子、リーフィングタイプ、平均粒子径:10μm、固形分95%、
・アルミ顔料分散体F:「WXM5660」、東洋アルミ株式会社、リン酸エステル被覆アルミニウム粒子、リーフィングタイプ、平均粒子径:10μm、固形分50%
・アルミ顔料分散体G:「STAPA IL Hydrolan 9160」、エカルト社、ケイ酸塩被覆アルミニウム粒子、リーフィングタイプ、平均粒子径:10μm、ケイ酸被覆量:7質量部固形分60%、
・オレイン酸カリウム水溶液:20質量%オレイン酸カリウム水溶液、
・黄色顔料分散体:ピグメントイエロー151 20質量%水分散体、10質量%ジエチレングリコール含有、
・赤色顔料分散体:ピグメントレッド170 25質量%水分散体、10質量%ジエチレングリコール含有、
・界面活性剤:アセチレングリコール系界面活性剤「ダイノール604」、日信化学工業株式会社
【0048】
得られたシート状色材の膜の状態を触診により評価したところ、全て、成膜性が良好で、シート同士のはりつきもなかった。また、これらシート状色材は、水に接触させると、速やかに均一な状態となった。
得られたシート状色材の膜厚を測定した。膜厚の測定は、マイクロゲージにより行った。得られた結果は表1に記載のとおりである。
【0049】
常温の水を含ませた筆を、それぞれ、得られたシート状色材に接触させて擦過し、均一な液状の絵の具にした。そのそれぞれの絵の具を筆に含浸させ、白色または黒色の用紙に、描画した。その描画した際の発色性を、目視にて評価した。評価基準は以下のとおりである。
A:描画した際の発色性が特に高い。
B:描画した際の発色性が高い。
C:描画した際の発色性がやや低い。
D:描画は可能であるが、その色は薄く、発色性が低い。
E:描画できない。
【0050】
光輝性顔料粒子を含む実施例1~13および比較例1および2のシート状色材は、全て光輝性を有していた。ノンリーフィングタイプの光輝性顔料粒子を含む実施例1~4および8~13のシート状色材に比べて、リーフィングタイプの光輝性顔料粒子を含む実施例5~8のシート状色材の方が、より光輝性が高かった。
【0051】
実施例1および2のシート状色材は、銀色のシート状色材であり、比較例3のシート状色材はオレンジ色の色材であった。同じ量の、実施例1または2のシート状色材と、比較例3のシート状色材を採取し、それらを常温の水を含ませた筆で接触させて、擦過すると、それぞれ金色の均一な液状の絵の具となった。これらは、上記と同様に、白色または黒色の用紙に描画すると、どちらも発色性に優れていた。なお、比較例1または2のシート状色材と、比較例3のシート状色材とを用いた場合は、金色の均一な液状絵の具を形成できたが、黒色の用紙に描画した際に、発色性がやや低かった。
また、(i)ノンリーフィングタイプの光輝性顔料粒子を含む実施例1~4の銀色のシート状色材のいずれかと、それと同量の比較例3のオレンジ色のシート状色材とを、上記のように、液状絵の具とし、描画したものと、(ii)リーフィングタイプの光輝性顔料粒子を含む実施例5~7の銀色のシート状色材のいずれかと、それと同様の、比較例3のオレンジ色のシート状色材とを、上記のように、液状絵の具とし、描画したものとを比較すると、(i)の方が着色性に優れており、より鮮やかな金色であった。