(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】水溶性シート状色材、水溶性シート状セット、および絵の具セット
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20231221BHJP
C09D 5/06 20060101ALI20231221BHJP
C09D 7/41 20180101ALI20231221BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20231221BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20231221BHJP
C09D 11/17 20140101ALI20231221BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/06
C09D7/41
C09D7/61
C09D7/65
C09D11/17
(21)【出願番号】P 2019216948
(22)【出願日】2019-11-29
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100187159
【氏名又は名称】前川 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100206265
【氏名又は名称】遠藤 逸子
(72)【発明者】
【氏名】三宅 充人
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-225076(JP,A)
【文献】特開2007-009198(JP,A)
【文献】特開2018-127559(JP,A)
【文献】特開昭59-084955(JP,A)
【文献】特開昭58-096661(JP,A)
【文献】特開昭52-120028(JP,A)
【文献】特開2006-007766(JP,A)
【文献】特開平08-225763(JP,A)
【文献】特開2005-008873(JP,A)
【文献】特開2004-182770(JP,A)
【文献】特開2016-000791(JP,A)
【文献】特開2019-123848(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0175810(US,A1)
【文献】国際公開第2021/111537(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 5/06
C09D 7/41
C09D 7/61
C09D 7/65
C09D 11/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性ポリマー、
着色樹脂粒子、および
体質材
を含んでなる、水溶性シート状色材
であって、
前記着色樹脂粒子が、蛍光着色剤とスチレン-アクリロニトリル樹脂粒子の組み合わせである、水溶性シート状色材。
【請求項2】
水溶性ポリマーが、非イオン性鎖状ポリマーおよび多糖類からなる群から選択される、請求項1に記載の水溶性シート状色材。
【請求項3】
水溶性ポリマーが、非イオン性鎖状ポリマーと多糖類との組み合わせである、請求項2に記載の水溶性シート状色材。
【請求項4】
前記体質材が、カオリン、タルク、マイカ、クレー、ベントナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、および水酸化アルミニウムからなる群から選択される、請求項1~
3のいずれか一項に記載のシート状色材。
【請求項5】
多価アルコールをさらに含んでなる、請求項1~
4のいずれか一項に記載の水溶性シート状色材。
【請求項6】
平均膜厚が、5~300μmである、請求項1~
5のいずれか一項に記載の水溶性シート状色材。
【請求項7】
水溶性ポリマー、
第一着色剤、および
体質材
を含んでなる第一水溶性シート色材と、
水溶性ポリマー、
第二着色剤、および
体質材
を含んでなる第二水溶性シート色材と
の組み合わせを具備してなり、前記第一着色剤が着色樹脂粒子であり、前記第二着色剤が前記着色樹脂粒子とは異なる着色剤であ
り、前記着色樹脂粒子が、蛍光着色剤とスチレン-アクリロニトリル樹脂粒子の組み合わせである、水溶性シート状色材セット。
【請求項8】
請求項1~
6のいずれか一項に記載の水溶性シート状色材と、筆とを具備してなる、絵の具セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶性シート状色材および製造方法に関するものである。より具体的には、着色樹脂粒子を含んでなる水溶性シート状色材および製造方法に関するものである。この水溶性シート状色材は、水に溶かすことにより、水彩絵の具として使用することができる。
【背景技術】
【0002】
水彩絵の具としては、液状、またはペースト状のものが一般的であるが、その他の形態として、粉末状、もしくは顆粒状のもの、またはパレット等に固体状態で固定されたものも存在する。さらには、シート状の絵の具についても提案されている(特許文献1および2)。シート状の絵の具は、特に、成膜性が良好であること、適度な自立性や柔軟性を有すること、および水へ溶かしたときに速やかに均一な状態になることが求められており、これらの点の改良が求められていた。
【0003】
また、通常の絵の具と同様に、色相の濃い用紙、例えば、黒紙などに描画した場合にも、筆跡が容易に視認できるよう、隠蔽性が高く、発色性が良好であることが求められている。
さらに、通常の絵の具と同様に、カラーバリエーションを増やすことが求められており、特に蛍光色は、従来なかった印象を与えることができ、好まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭59-84955号公報
【文献】特開平4-225076号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みて、成膜性が良好であること、適度な自立性や柔軟性を有すること、および水へ溶かしたときに速やかに均一な状態になることが可能であり、さらに、黒紙などの色相の濃い用紙に描画した場合にも発色性および隠蔽性も良好な筆跡が得られる、着色樹脂粒子を含んでなる水溶性シート状色材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明による水溶性シート状色材は、
水溶性ポリマー、
着色樹脂粒子、および
体質材
を含んでなる。
【0007】
本発明による水溶性シート状色材セットは、
水溶性ポリマー、
第一着色剤、および
体質材
を含んでなる第一水溶性シート色材と、
水溶性ポリマー、
第二着色剤、および
体質材
を含んでなる第二水溶性シート色材と
の組み合わせを具備してなり、前記第一着色剤が着色樹脂粒子であり、前記第二着色剤が前記着色樹脂粒子とは異なる着色剤である。
【0008】
本発明による絵具セットは、上記した水溶性シート状色材と、筆とを具備してなる。
【発明の効果】
【0009】
本発明による水溶性シート状色材は、成膜性が良好であり、適度な自立性や柔軟性を有し、取り扱い性に優れている。特に、シート状であるために、溶解する前に手でちぎったり、はさみで切るなどして適当量を分取して、濃度調整などが容易である。また、本発明による水溶性シート状色材は水に溶かしたとき速やかに均一な状態になるため、筆を用いて描画した際に、色むらのない良好な筆跡を得られ、白色のみならず黒紙に用いた場合にも、発色性が優れておおり、隠蔽性にも優れている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、特に断らない限り、配合を示す「部」、「%」、「比」などは質量基準であり、含有量とは水溶性シート状色材の質量を基準としたときの構成成分の質量%である。
【0011】
<水溶性シート状色材>
本発明による水溶性シート状色材(以下、シート状色材ということがある)は、水溶性ポリマー、着色樹脂粒子、および体質材を含んでなる。
【0012】
本発明によるシート状色材は、適度な自立性や柔軟性を有する固体である。シート状であるために、切断が容易であり、また収容する容器が必要なく、それ自体を1枚ごとに取り扱うことができるので、取り扱い性にも優れている。シート状形状として、厚さが均一なフィルムが代表的なものとして挙げられるが、部分的に厚みを変化させて、厚みの薄い部分で切断を容易にしていてもよい。ただし、本発明によるシート状色材は発色性が高いので、比較的薄い形状であっても十分な発色が得られるため、厚さが均一な薄膜形状でも十分な特性を発揮できる。このようなシート状色材の平均膜厚は、特に限定されないが、好ましくは5~300μmであり、より好ましくは10~150μmである。バーコーターを用いるような製造方法の場合は、平均膜厚が10~60μmであることが好ましい。ここで平均膜厚は、マイクロゲージによって測定することができる。このような平均膜厚を有するシート状色材は、乾燥状態でも柔軟性を有し、また取り扱いに十分な強度を実現できる。また、本発明によるシート状色材は、粘着性が低いものであり、手で持った際に、手に成分が付着しにくい。また、複数のシートを重ねて保管しても、相互に付着しづらいものである。
【0013】
本発明によるシート状色材は、水に接触すると、溶解して、液状組成物になる。この液状組成物は、一般的に使用される塗料や絵の具を水に分散させたものや塗料などと同様に使用することができる。用いる水の温度は特に限定されないが、室温程度の水に溶解可能であればよい。水への接触方法は、特に限定されないが、例えば、水を含ませた筆をシート状色材に接触させて擦過すること、シート状色材にスポイト等で水を滴下すること、水に適当な大きさのシート状色材を浸漬すること、等が挙げられる。必要に応じて、シート状色材を水中に投入し、筆等を用いて撹拌してもよい。
【0014】
本発明によるシート状色材は、着色樹脂粒子が均一に分散されているため、水に接触したときに、速やかに均一な液状の絵の具にすることができる。その絵の具を筆等に含浸させ、描画すると、色むらのない良好な筆跡が得られる。
【0015】
以下に、本発明による水溶性シート状色材に用いられる成分について、説明する。
【0016】
<水溶性ポリマー>
本発明に用いられる水溶性ポリマーは、シート状色材の形状を維持するための主材料となるものであり、かつ皮膜形成後に、水に溶解することができるものである。また、シート状色材を水に溶かして、描画した際に、着色された皮膜を形成する役割を果たすこともできる。
水溶性ポリマーは、非イオン性鎖状ポリマーおよび多糖類からなる群から選択されることが好ましく、好ましくは非イオン性鎖状ポリマーを含んでなる。また、水溶性ポリマーは、非イオン性鎖状ポリマーと多糖類との組み合わせであることがより好ましい。
水溶性ポリマーの含有量は、シート状色材の総質量を基準として、好ましくは5~45質量%であり、より好ましくは10~35質量%であり、さらに好ましくは、10~30質量%である。
【0017】
非イオン性水溶性鎖状ポリマーとしては、主鎖に環状構造を含まないものである。具体的にはポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド等が挙げられ、好ましくはポリビニルアルコールである。ポリビニルアルコールは、重合度が200~1,400であることが特に好ましく、200~800であることが好まし。
非イオン性水溶性鎖状ポリマーの含有量は、シート状色材の総質量を基準として、好ましくは1~40質量%であり、より好ましくは5~35質量%であり、さらに好ましくは、10~25質量%である。
【0018】
多糖類としては、グルコースを主構成糖とするグルカンが挙げられる。グルカンは、α-グルカンとβ-グルカンに分類できる。ここで、α-グルカンとは、グルコースがα-1,4-結合で鎖状に結合した構造を基本とし、一部のグルコースの6位から分岐した構造を有していてもよい構造を有するポリマーのことを意味し、β-グルカンとは、グルコースがβ-1,3-結合で鎖状に結合した構造を基本とし、一部のグルコースの6位から分岐した構造を有していてもよい構造を有するポリマーのことを意味する。α-グルカンとしては、アミロース、プルランなどが挙げられる。β-グルカンとしては、発酵セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースおよびその誘導体が挙げられる。より好ましくは、α-グルカンである。
その他に用いることができる多糖類としては、アルギン酸およびその塩(例えば、アルギン酸ナトリウム)、キサンタンガム、ウェランガム、サクシノグリカン、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、ダイユータンガムが挙げられる。
本発明においては、水溶性シート状色材の自立性、柔軟性に優れ、さらに優れた再溶解性が得られることを考慮すると、プルランを用いることが特に好ましい。
なお、2種以上の多糖類を組み合わせてもよい。
【0019】
多糖類の質量平均分子量は、好ましくは1000~600万、より好ましくは10万~150万、さらに好ましくは20万~60万である。この範囲にあると、自立性の高い皮膜を形成することができ、水での再溶解性が高いものとなる。ここで、本発明において、質量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィを用いて通常の方法で測定することができる。
多糖類の含有量は、シート状色材の総質量を基準として、好ましくは0.05~10質量%であり、より好ましくは0.1~5質量%であり、特に好ましくは、0.5~5質量%である。。
【0020】
<着色樹脂粒子>
本発明によるシート状色材は、着色樹脂粒子を含む。本発明において、着色樹脂粒子とは、樹脂粒子に対して着色剤で着色されたものをいう。ここでの、着色剤は、樹脂粒子を着色できるものであれば特に限定されず、任意の顔料または染料を用いることができる。
【0021】
樹脂粒子は、耐アルカリ性、耐酸性、および耐熱性に優れており、各種の添加剤などが存在しても安定性が高く、また熱環境性にも影響を受けにくいことから、樹脂粒子は、スチレン-アクリロニトリル樹脂粒子(以下、SA樹脂粒子ということがある)であることが好ましい。
【0022】
SA樹脂粒子は、スチレンとアクリロニトリルを単量体として共重合させて得られる樹脂粒子である。スチレンとアクリロニトリルの配合比は特に限定されないが、一般的にはスチレン10~90モル%、アクリロニトリル90~10モル%の割合で配合させる。なお、スチレンおよびアクリロニトリル以外の単量体は、本発明の効果を損なわない範囲で組み合わせることができる。
【0023】
SA樹脂粒子は、従来公知の任意の方法で得ることができるが、シート状色材の発色性、安定性を考慮すると、均一な粒子が得られやすい、スチレンとアクリロニトリルとの乳化重合により得られる樹脂粒子であることが好ましく、さらには、予め水などの分散媒に分散された状態のSA樹脂粒子分散体として用いることが好ましい。SA樹脂粒子分散体は、市販品を用いることも可能である。
【0024】
樹脂粒子の大きさは特に限定されないが、分散性や発色性の向上を考慮すると、平均粒子径は0.05~3μmであることが好ましく、0.1~1μmであることがより好ましい。ここで、SA樹脂粒子の平均粒子径は、例えばレーザー回折式粒度分布測定機(商品名「MicrotracHRA9320-X100」、日機装株式会社)を用いて、標準試料や他の測定方法を用いてキャリブレーションした数値を基にレーザー回折法で測定される粒度分布の体積累積50%時の粒子径(D50)により測定することができる。
【0025】
着色剤は、顔料であっても染料であってもよい。このような着色剤としては、無機、有機、加工顔料などから任意に選択することができる。具体的な原料としては、群青、黄鉛、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ギオキサジン系、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料、補色顔料等が挙げられる。
【0026】
このような顔料としては、具体的には ピグメント・ブルー1、同15:1、同15:3、同17、ピグメン・トレッド3、同5、同22、同38、同48、同49、同53、同57、同81、同104、同146、同245、ピグメント・イエロー1、同3、同12、同13、同14、同42、同74、ピグメント・イエロー83、ピグメント・イエロー106 、同117、ピグメント・オレンジ5、同16、ピグメント・バイオレット1、同3、同19、同23、ピグメント・バイオレット27、ピグメント・グリーン7、同36等が挙げられる。
【0027】
また、着色剤として、染料を用いることもできる。染料については、直接染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料、及び各種造塩タイプ染料等が採用可能である。
【0028】
このような染料としては、各種のものが市販されており、それらから任意も選択して用いることができる。具体的には、(a)直接染料としては、ダイレクトエロー4、同26、同44、同50、同85、ダイレクトレッド1、同2、同4、同23、同31、同37、同39、同75、同80、同81、同83、同225、同226、同227、ダイレクトブルー1、同3、同15、同41、同71、同86、同106、同119、ダイレクトオレンジ6等、(b)酸性染料としては、アシッドブラック1、同2、同24、同26、同31、同52、同107、アシッドオレンジ56、アシッドイエロー3、同7、同17、同19、同23、同42、同49、同61、同92、アシッドレッド8、同9、同14、同18、同51、同52、同73、同87、同92、同94、アシッドブルー1、同7、同9、同22、同62、同90、同103、アシッドグリーン3、同9、同16、同25、同27、アシッドバイオレット15、同17等、(c)塩基性染料としては、C.I.ベーシックイエロ-1、同2、同21、同7,同40、C.I.ベーシックオレンジ2、同14、同32、C.Iベーシックレッド1、同1:1、同2、同9、同14、C.I.ベーシックバイオレット1、同3、同7、同10、同11:1、C.I.ベーシックブル-3、同7、同26、ベーシックグリ-ン4、C.I.ベーシックブラウン12、C.I.ベーシックブラック2、メチルバイオレット、ビクトリアブルーFB、マラカイトグリーン、ローダミンのシリーズ等、(d)その他の染料としては、ディスパーズイエロー82、同121、ディスパーズブルー7などの分散染料などが挙げられる。
【0029】
樹脂粒子の着色剤としては、特に蛍光着色剤を用いることが好ましい。これは黒紙などに筆跡を形成させる場合に、視認性が高い上、特殊な美観を与えることができるからである。蛍光着色剤としては、蛍光染料または蛍光顔料などが挙げられる。蛍光着色剤の中でも、黒紙などに筆跡の視認性が高いことや、スチレン-アクリロニリルを含んでいる樹脂粒子との安定性が高いことから、蛍光染料を用いることが好ましい。このような蛍光染料は、具体的には、キサンテン骨格、トリアリール骨格、またはアゾ骨格を有する塩基性染料、または分散染料が挙げられる。これらのうち、より筆跡の視認性が高いことから、キサンテン骨格、またはアゾ骨格を有する塩基性染料が好ましい。このような蛍光染料としては、ダイレクトイエロー85、ベーシックイエロー1、同40、ベーシックレッド1、同1:1、ベーシックバイオレット10、同11:1、アシッドイエロー7、アシッドレッド92、アシッドブルー9、ディスパーズイエロー82、同121などが挙げられる。
【0030】
特に好ましくは、着色樹脂粒子は、SA樹脂粒子と蛍光染料との組み合わせである。
【0031】
尚、着色樹脂粒子を含む市販品の一例としては、具体的には、シンロイヒカラーシリーズ(シンロヒ(株)製)、ルミコールシリーズ(日本蛍光化学(株)製)、LMシリーズ(冨士色素(株)製)、エポカラ-シリーズ((株)日本触媒製)が挙げられる。具体的には、ルミコールシリーズとしては、同NKW-2317H、同NKW-6307H、同NKW-2308H、同NKW-2302H、同NKW-2305H、同NKW-6305Hなどが挙げられる。また、シンロヒカラーシリーズとしては、シンロイヒカラーベースSW-11、同SW-12、同SW-13、同SW-14、同SW15、同SW-16、同SW-17、同SW-18、同SW-27、同SW-37、同SW-47、同SF-1012、同SF-1013、同SF-1014、同SF-1015、同SF-1017、同SF-1027、SF-1038、SF-5015なども挙げられる。
【0032】
着色樹脂粒子の含有量は、シート状色材の総質量を基準として、好ましくは20~60質量%であり、より好ましくは30~50質量%であり、特に好ましくは、35~45質量%である。
【0033】
<体質材>
本発明によるシート状色材は、体質材を含んでなる。ここで、本発明において、体質材とは、それ自体の着色性や隠蔽性は低いが、着色樹脂粒子が紙繊維等の間に沈むことを抑制し、また体質材自体が光を散乱することができるものであり、着色樹脂粒子と組み合わせることで、隠蔽性や発色性を高めることができるものをいう。体質材を含むことで、膜の強度を高めたり、膜厚を厚くしたり、シート状色材を水に接触させたときの溶解を促進することができる。具体的には、カオリン、タルク、マイカ、クレー、ベントナイト、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウムなどが挙げられ、好ましくはカオリンである。カオリンは、その製造方法の違いにより、含水カオリン(湿式カオリン)、焼成カオリン、乾式カオリンに分類でき、含水カオリンは、溶解性や分散性に優れており、シート状色材を製造するために用いやすい。また、特に、カオリンを用いることは、黒紙などの色相の濃い用紙に描画した場合にも、発色性および隠蔽性も良好な筆跡が得やすいため、好ましい。なお、これらの体質材の一部は無色ではないので、着色剤としての機能を併せ持っている。
【0034】
体質材の含有量は、シート状色材の総質量を基準として、5~50質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましい。
また、シート状色材において、優れた膜強度と、優れた発色性および隠蔽性を有する筆跡が得られること、体質材の含有量は、体質材および着色樹脂粒子の総質量を基準として、10~70質量%であることが好ましく、20~50質量%であることが好ましく、20~40質量%であることが好ましい。
また、水溶性ポリマーの含有量は、着色剤および体質材の総質量を基準として、10~100質量%であることが好ましく、20~50質量%であることがより好ましい。
【0035】
<その他>
本発明によるシート状色材は、必要に応じてその他の材料を含むことができる。用いることができる添加剤としては、例えば、着色剤、脂肪酸金属塩、多価アルコール、界面活性剤、水、粘度調整剤、塗布性能改善剤、防腐剤、消泡剤等が挙げられる。その他通常水性絵の具に使用できるものも含むことができる。
【0036】
本発明によるシート状色材は、着色剤をさらに含むことで異なった色調を実現することができ、カラーバリエーションがさらに増える。この着色剤は、着色樹脂粒子の着色に用いられるものとは異なるものである。
この着色剤としては、従来公知の顔料、染料であればいずれも用いることができるが、顔料であることが好ましい。顔料としては、特に制限されるものではなく、例えば、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、キノフタロン系顔料、スチレン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料等が挙げられる。尚、顔料は予め、界面活性剤などの顔料分散剤を用いて媒体に分散された水分散顔料製品などを用いてもよい。
また、染料としては、例えば、フタロシアニン系染料、ピラゾロン系染料、ニグロシン系染料、アントラキノン系染料、アゾ系染料などが挙げられる。
また、着色樹脂粒子に含まれる着色剤と同一の着色剤をさらに含んでいてもよい。
着色剤の含有量は、その種類によって異なるが、シート状色材全体に含まれる着色樹脂粒子の総質量を基準として、50~150質量%が好ましく、より好ましくは80~120質量%である。
【0037】
脂肪酸金属塩は、シート状色材を水に接触させたときの溶解を促進したり、シート状色材を水に溶解させたときに、着色樹脂粒子を均一に分散させる作用を有すると考えられる。
脂肪酸金属塩としては、炭素数12以上の脂肪酸の金属塩であることが好ましく、具体的には、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウム、パルミチン酸リチウム、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カリウム、ミリスチン酸リチウム、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カリウム、ラウリン酸リチウム、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カリウム、オレイン酸リチウム、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カリウム、イソステアリン酸リチウム、イソステアリン酸ナトリウム、イソステアリン酸カリウムなどが挙げられ、好ましくはオレイン酸カリウムである。
脂肪酸金属塩の含有量は、シート状色材の総質量を基準として、好ましくは0.5~30質量%であり、より好ましくは1~20質量%であり、さらに好ましくは、2~8質量%である。ただし、脂肪酸金属塩を含むことで、水に溶解させたときに泡立ちが起こることもあるので、脂肪酸金属塩を含まないことも好ましい一態様である。
【0038】
多価アルコールは、シート状色材の過乾燥を抑制し、適度に湿らせておくことを目的に用いることができる。また、シート状色材中の着色剤の凝集を防ぎ、被膜に塑性を与える作用も有すると考えられる。多価アルコールとしてはジオールまたはトリオールが好ましく、具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられ、特に好ましくはグリセリンである。
シート状色材が十分な強度を有するシート形状を維持するために、多価アルコールの含有量は、シート状色材の総質量を基準として、0.5~30質量%であることが好ましく、1~10質量%であることがより好ましい。
【0039】
界面活性剤は、着色樹脂粒子などの分散剤として、あるいは描画時の塗れ性改良剤として、用いることができる。界面活性剤としては、ノニオン性、カチオン性、アニオン性、または両性イオン性のものが知られているが、適宜選択して用いることができる。
また、界面活性剤は、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤などが挙げられるが、本発明においては、描画時の塗れ性の向上を考慮すると、フッ素系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤の中から1種以上選択して用いることがより好ましく、中でも、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤を用いることがさらに好ましい。
また、アセチレン結合を構造中に有する界面活性剤としては、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレングリコール系界面活性剤が挙げられ、中でも、アセチレングリコール系界面活性剤を用いることが特に好ましい。
【0040】
本発明によるシート状色材は、水を含むことができる。このような水は、溶媒として添加することのほか、着色剤や界面活性剤などの溶媒や分散媒として添加されてもよい。そのような水は後述する製造方法において、蒸発除去されてもよいし、その一部が水溶性シート状色材に残留していてもよい。
【0041】
<水溶性シート状色材の製造方法>
本発明による水溶性シート状色材の製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、以下のように製造することができる。
【0042】
水溶性ポリマー、着色樹脂粒子、および体質材を含んでなる混合物を撹拌し、均一な分散液を調製する。着色樹脂粒子は、あらかじめ、分散媒に分散された状態であるものを用いることが好ましい。
次に、分散液をベースとなる樹脂フィルム上に、バーコーターやアプリケーターなどにより塗工した後、乾燥し、ベースとなる樹脂フィルムから剥がすことなどにより、シート状色材を製造することができる。
【0043】
また、他の方法としては、水溶性ポリマー、着色樹脂粒子、および体質剤を含んでなる混合物をニーダーなどで混練し、混練物を押し出し成形し、必要に応じて、カレンダー処理、圧延処理などにより、均一なシート状色材を製造することができる。
【0044】
<水溶性シート状色材セット>
本発明による水溶性色材セットは、
水溶性ポリマー、第一着色剤、および体質材
を含んでなる第一水溶性シート色材と、
水溶性ポリマー、第二着色剤、および体質材を含んでなる第二水溶性シート色材と
の組み合わせを具備してなり、第一着色剤が着色樹脂粒子であり、第二着色剤が着色樹脂粒子とは異なる着色剤である。ここで、第二着色剤は第一着色剤とは異なる着色樹脂粒子であってもよいし、着色樹脂粒子ではない着色剤であってもよい。
ここで、着色樹脂粒子ではない着色剤は、特に限定されず、従来公知の顔料、染料であればいずれも用いることができるが、顔料であることが好ましい。顔料としては、特に制限されるものではなく、例えば、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系顔料、アゾ系顔料、キナクリドン系顔料、キノフタロン系顔料、スチレン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、ペリノン系顔料、ペリレン系顔料、ジオキサジン系顔料等が挙げられる。中でも、第一着色剤に着色樹脂粒子、特には蛍光性着色樹脂粒子を選択し、第二着色剤に、着色樹脂粒子ではない着色剤として、酸化チタンなどの白色顔料を選択することにより、使用者が所望する淡い色彩を有するパステル調の筆跡を形成しやすく、さらにその筆跡は、黒紙などに対しても発色性および隠蔽性に優れたものとなるため、効果的である。
また、第一水溶性シート状色材および第二水溶性シート状色材は、それぞれ水溶性ポリマーを含んでなる。これらは、第一水溶性シート状色材および第二水溶性シート状色材で同一であっても異なっていてもよい。第一水溶性シート状色材および第二水溶性シート状色材を混合したときの相溶性や製造容易性の観点から、同一の水溶性ポリマーを用いることが一般的であるが、用いられる着色樹脂粒子などとの相溶性や安定性などを考慮して、異なったものを採用することもできる。
この第一および第二水溶性シート状色材を組み合わせて用いることによって、新たな色を有する絵具を形成できる。
さらに、3枚以上のシート状色材を組み合わせることもできる。
【0045】
<絵具セット>
本発明による絵具セットは、本発明によるシート状色材または本発明によるシート状色材セットと、筆とを具備してなる。さらに、水を入れる容器、パレット等を組み合わせることができる。本発明による絵具セットは、描画のみならず書画にも用いることができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
<実施例1>
(1a)シート状色材製造用着色組成物の製造
・ポリビニルアルコール 20質量%水溶液 45質量部
(ポリビニルアルコール 重合度500、ケン化度87.0~89.0モル%)
・着色樹脂粒子分散体 43.0質量部
(「ルミコールNKW-2317H」、日本蛍光化学株式会社、SA樹脂粒子が蛍光染料ベーシックバイオレット11:1とベーシックレッド1:1とベーシックイエロー40)で染着されたもの、平均粒子径0.4μm、45質量%水分散体)
・カオリン 10.0質量部
(「ASP-600」、含水カオリン、BASF社)
・グリセリン 1.0質量部
・界面活性剤 1.0質量部
(アセチレングリコール系界面活性剤「ダイノール604」、日信化学工業株式会社)
・水 3.0質量部
上記配合物を室温で1時間攪拌混合することにより、シート状色材製造用着色組成物を得た。
(1b)シート状色材の製造
上記(1a)で得られた着色剤組成物を、100μmのポリプロピレンフィルム上に、バーコーターを用いて塗布し、50℃で12時間乾燥して、ポリプロピレンフィルム上に前記組成物が膜状となった膜状物を得た。この膜状物をポリプロピレンフィルムから剥離することにより、蛍光桃色のシート状色材を得た。
【0048】
<実施例2、3、および比較例1、2>
(a)シート状色材製造用着色組成物の製造
以下の表1に示した配合とした以外は実施例1と同じ方法により、シート状色材製造用着色組成物を作製した。得られた着色組成物を用いて、実施例1と同じ方法で、シート状色材を得た。表中の組成の数値は質量部を示す。
【表1】
表中、
・ポリビニルアルコール水溶液:ポリビニルアルコール20質量%水溶液、ポリビニルアルコール 重合度500、ケン化度87.0~89.0モル%、
・プルラン水溶液:プルラン10質量%水溶液、プルラン 質量平均分子量約40万、
・着色樹脂粒子分散体A:SA樹脂粒子が蛍光染料(ベーシックバイオレット11:1とベーシックレッド1:1とベーシックイエロー40)で染着されたもの、平均粒子径0.4μm、45%水分散体、ルミコールシリーズ、日本蛍光化学株式会社製、
・着色樹脂粒子分散体B:SA樹脂粒子が蛍光染料(ベーシックイエロー40とディスパーズイエロー82)で染着されたもの、平均粒子径0.4μm、45%水分散体、ルミコールシリーズ、日本蛍光化学株式会社製、
・青色顔料分散体:ピグメントブルー15 25質量%水分散体、10質量%ジエチレングリコール含有、
・カオリン:「ASP-600」、含水カオリン、BASF社、
・界面活性剤:アセチレングリコール系界面活性剤「ダイノール604」、日信化学工業株式会社。
【0049】
得られたシート状色材の膜の状態を触診により評価したところ、全て、成膜性は良好であった。また、これらシート状色材は、水に接触させると、速やかに均一な状態となった。
得られたシート状色材の膜厚を測定した。膜厚の測定は、マイクロゲージにより行った。得られた結果は表1に記載のとおりである。
【0050】
実施例2~5のシート状色材は、実施例1のシート状色材と比較して、表面のべたつきがさらに抑えられており、また、手でちぎるときに伸びずにちぎれやすく、取り扱い性にさらに優れていた。
【0051】
全ての実施例のシート状色材は、比較例1のシート状色材と比較して、膜厚が厚く、膜の強度が高く、さらに適度な自立性を有しており、例えば、シート状色材製造時にポリプロピレンフィルムから剥離するときに破損等がより起こりにくく、製造が容易であった。一方、これらは、手によるちぎれやすさやはさみ等を用いた切りやすさも備えていた。そして、水に溶解したときの、溶解速度がさらに速かった。
実施例の中では、実施例5のシート状色材よりも、実施例4のシート状色材の方が、実施例4のシート状色材よりも、実施例1~3のシート状色材の方が、膜厚がより厚く、膜の強度がより高く、さらに適度な自立性を有していた。
【0052】
常温の水を含ませた筆を、それぞれ、得られたシート状色材に接触させて擦過し、均一な液状の絵の具にした。そのそれぞれの絵の具を筆に含浸させ、白色または黒色の用紙に、描画した。その描画した際の発色性を、目視にて評価したところ、実施例1~5のシート状色材は、白紙および黒紙においても、描画した際の発色性が高く、黒紙において隠蔽性が高かった。実施例5のシート状色材よりも、実施例4のシート状色材の方が、実施例4のシート状色材よりも、実施例1~3のシート状色材の方が、黒紙における隠蔽性がより高かった。
比較例1のシート状色材は、白紙および黒紙においても、描画した際の発色性が高かったが、黒紙においての隠蔽性が実施例と比較して、低かった。比較例2のシート状色材は、白紙において発色性は高かったが、黒紙では発色性が低く、隠蔽性が比較例1よりも低かった。