(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】測定装置
(51)【国際特許分類】
G01S 7/481 20060101AFI20231221BHJP
G01C 3/06 20060101ALI20231221BHJP
G01S 7/484 20060101ALI20231221BHJP
【FI】
G01S7/481 A
G01C3/06 120Q
G01S7/484
(21)【出願番号】P 2019220153
(22)【出願日】2019-12-05
【審査請求日】2022-10-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100089026
【氏名又は名称】木村 高明
(72)【発明者】
【氏名】矢部 雅明
(72)【発明者】
【氏名】竹居 隆一
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-191630(JP,A)
【文献】特開2008-052177(JP,A)
【文献】特開2002-243908(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第113740948(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-G01S 7/51
G01S 13/00-G01S 13/95
G01S 17/00-G01S 17/95
G01B 11/00-G01B 11/30
G02B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定光を発する光源と、前記測定光の被測定物からの反射光を受ける受光部とを備え、前記受光部が受光した前記反射光に基づいて前記被測定物までの距離を測定する測定装置において、
前記光源からの前記測定光の光束を絞る絞り部材を備え、
前記絞り部材は、前記光源の光軸上に配置された中央透光部、及び前記中央透光部の周囲に配置された複数の透光帯部を形成する遮光帯部を備え、前記測定光が前記中央透光部及び前記透光帯部を透過するときの回折による干渉により、射出する前記測定光の光束を所望の開き角に拡大し、
前記絞り部材の前記透光帯部は、前記中央透光部の周囲に配置され、前記中央透光部と同心であり所定の間隔で離間して配置された複数の弧状帯であることを特徴とする測定装置。
【請求項2】
前記絞り部材は、前記中央透光部の中心と同心である複数の扇状領域に区分けされ、それぞれの扇状領域では少なくとも2つの扇状領域において前記透光帯部の配置間隔を違えたことを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【請求項3】
前記絞り部材を、光軸を中心に回転させる駆動手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源射出される測定光の調整する絞り装置を備える測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上述の測定装置として光波距離計があり、この光距離計は、変調した所定波長領域の測定光を被測定物に照射し、被測定物からの反射光を受光して、内部参照光と受光された測定光との位相差から測定物までの距離を測定する(特許文献1、特許文献2参照)。
【0003】
特許文献2には、以下の光波距離計が記載されている。
図9は従来の光波距離計の構成を示す断面図である。
図9は光波距離計500をターゲットに光再帰性の素子を配置して距離を測定するプリズムモードで使用する場合を示している。光波距離計500は、対物レンズ510と、2つの反射面を備えるプリズム520と、光源530と、射出光学系540と、射出反射鏡550と、ダイクロイックミラー560と、視準光学系570と、受光ファイバ等の2次光源端580とを備える。
【0004】
対物レンズ510は、光軸Oaに配置した3枚のレンズで構成される。プリズム520は、対物レンズ510の後方の光軸Oa上に配置され、光軸Oaに対して45度の角度をなす平行2つの反射面、即ち測定光を射出する方向に反射する射出用反射面521と、入射した測定光を受光素子580に向け反射する受光用反射面522とを備える。
【0005】
光源530は所定波長領域の光を発生する。射出光学系540は、光軸Oaと平行な光軸Obに配置され、光源530からの光を平行光にするコリメータ541と、測定光を断続的に遮断する光チョッパ542と、絞り部材543とを備える。反射鏡550は、光軸Obに45度の角度で配置され射出光学系540からの測定光の方向を90度変更して、プリズム520の射出用反射面521に向け、光軸Ocに沿って測定光を反射する。この射出用反射面521で反射された測定光は、対物レンズ510を経て測定物に射出される。
【0006】
測定物からの反射光は、対物レンズ510を経てダイクロイックミラー560に至る。ダイクロイックミラー560は、入射した光から、所定波長帯域の測定光を反射し、他の光を透過させ視準光学系570に射出する。ダイクロイックミラー560で反射された測定光は、プリズム520の受光用反射面522で反射され、受光素子580に入射する。
【0007】
このような光波距離計において絞り部材は、光源からの光を絞るものであり、光源から射出される光の配光特性に合わせて選択される。即ち、光源からの光が最も効率よく
射出されるように選定され、設置される。特許文献2には、絞りとしてスリット状の絞りが記載されている。また、絞り部材の開口の形状は円形、その他の形状が採用されている。(特許文献3参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平8-68852号公報
【文献】特開2014-149171号公報
【文献】特開2017-6767号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、従来の絞り部材の開口形状は、光源の配光特性に合わせて設定される。このため、光源の配光特性に合わせて、光源と絞り部材の角度関係(光軸を中心とする回転位置関係)が適切でないと、光源からの光が減少してしまう。このため、例えば絞り部材又は光源の角度位置(光軸を中心とする角度位置)が適正となるように調整しければならない。
【0010】
また、特許文献2に係る技術が絞り部材として使用する細長いスリットは、プリズムでの測定範囲が横方向は広く、測距光が、縦方向に回折し広がっているため、横方向の広がりが狭い。このため、回折作用による光の回り込みが縦横で偏りが生じ、絞りのぼけを生じていた。更に、光源の配光特性は個体により異なることがあり、光源における配光特性を個体別に予め把握して、絞り部材の開口形状を選定したり、光源又は絞り部材の取付角度を設定したりしなければならず手間がかかるという問題がある。
【0011】
また、特許文献3に係る技術では、絞り部材の開口の形状を円形としているが、口径絞り部材を通過した光(光束)の開き角度は、絞りの開口による回折で所望の角度にならない場合がある。この角度を広げようとすると口径が小さくなり、光量が減少する。このため、光束の広がりを所望の値に設定しようとすると絞り部材を通過した光束の開き角度を広げる拡大レンズ系(凹レンズ)590(
図9中に破線で示した)を配置する必要がある。
【0012】
しかし、このような拡大レンズ系を配置するには、そのためのスペースを確保する必要がある他、レンズ系の配置位置や光軸合わせを厳密に行わなければならず、組立や調整に手間と費用がかかってしまう。
【0013】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、回折現象によるぼけの影響をなくするとともに、光源の配光特性に応じて光源の取付状態を調整したり、光束拡開のためのレンズ系の設置や光軸調整を設定したりする必要がなく、絞り部材を通過した光束に所望の開き角を付与することができる測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するため、請求項1記載の発明は、測定光を発する光源と、前記測定光の被測定物からの反射光を受ける受光部とを備え、前記受光部が受光した前記反射光に基づいて前記被測定物までの距離を測定する測定装置において、前記光源からの前記測定光の光束を絞る絞り部材を備え、前記絞り部材は、前記光源の光軸上に配置された中央透光部、及び前記中央透光部の周囲に配置された複数の透光帯部を形成する遮光帯部を備え、前記測定光が前記中央透光部及び前記透光帯部を透過するときの回折による干渉により、射出する前記測定光の光束を所望の開き角に拡大し、前記絞り部材の前記透光帯部は、前記中央透光部の周囲に配置され、前記中央透光部と同心であり所定の間隔で離間して配置された複数の弧状帯であることを特徴とする測定装置である。
【0015】
請求項2記載の発明は、前記絞り部材は、前記中央透光部の中心と同心である複数の扇状領域に区分けされ、それぞれの扇状領域では少なくとも2つの扇状領域において前記透光帯部の配置間隔を違えたことを特徴とする請求項1記載の測定装置である。
【0016】
請求項3記載の発明にあっては、前記絞り部材を、光軸を中心に回転させる駆動手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の測定装置である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る光波距離計によれば、回折現象によるぼけの影響をなくするとともに、光源の配光特性に応じて光源の取付状態を調整したり、光束拡開のためのレンズ系の設置や光軸調整を設定したりする必要がなく、絞り部材を通過した光束に所望の開き角を付与することができる。
【0018】
即ち、請求項1に記載の測定装置によれば、絞る絞り部材は、光源の光軸上に配置された中央透光部、及び中央透光部の周囲に配置された複数の透光帯部を形成する遮光帯部を備え、前記測定光が前記中央透光部及び前記透光帯部を透過するときの回折による干渉により、射出する前記測定光の光束を所望の開き角に拡大する。
【0019】
よって、本発明によれば、絞り部の下流側に特にレンズ系を配置することなく、絞り部材を通過した光束を所望の開き角度にすることができる。このため、測定装置の組立や調整において、光源、絞り部材の取付位置や取付角度等を厳密にする必要がなく、容易に組立、調整ができ生産、調整のコストを低減できる。またレンズ系が不要であるので、レンズ系のコストや取付、調整のための手間がなくなり、コストを低減できる。
【0020】
また、請求項1に記載の測定装置によれば、絞り部材の透光帯部は、中央透光部の周囲に配置され、中央透光部と同心であり所定の間隔で離間して配置された複数の弧状帯である。このため、絞り部材には、中央透光部と、この中央透光部の周囲に配置され、中央透光部と同心であり所定の間隔で離間して配置された複数の弧状帯である透光帯部が所定間隔を開けて形成される。
【0021】
よって、中央透光部と所定距離離間した複数の弧帯状の透光帯部を通過した光は、回折して干渉し、絞り部材からの射出光は、所定の広がりをもって分布する光束となる。このため、中央透光部及び透光帯部の形状寸法を設定することにより、絞り部から所望の光量及び広がりをもつ光束を射出できる。このとき、射出される光束は直径方向に強弱の規則的分布がある。しかし、この分布は測定時における空気の揺らぎ、装置の振動により平均化され測定に影響を与えない。
【0022】
また、請求項2に記載の測定装置によれば、絞り部材は、中央透光部の中心と同心である複数の扇状領域に区分けされ、それぞれの扇状領域では少なくとも2つの扇状領域において前記透光帯部の配置間隔を違えている。このため、各扇状領域において、異なる干渉状態による異なる強度分布の光を射出する。
よって、絞り部材からの射出される光束は異なる強度分布の光束が重なりあい、直径方向の強弱分布が平均化され、干渉による強弱分布の影響を軽減できる。
【0023】
また、請求項3に記載の測定装置によれば、遮光帯部を中央透光部の周囲に配置し中央透光部と同心に配置された複数の弧状帯絞り部材とした絞り部材を駆動手段で光軸を中心に回転させている。このため、射出される光の干渉状態は時間の経過とともに変化する。よって、射出する光束の強弱の分布を平均化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態に係る光波距離計を示す正面図である。
【
図3】同光波距離計の光学系を示すものであり、(a)は測定光射出の状態を示す模式図、(b)は内部参照光射出の状態を示す模式図である。
【
図4】同光波距離計の絞り配置部材構成を示すものであり、(a)は光波距離計の全体斜視図、(b)は絞り部材の拡大図である。
【
図5】同光波距離計の絞り部材のパターンを示すものであり、(a)、(b)、(c)は異なるパターンを示す模式図である。
【
図6】回折現象を示すものであり、(a)はスリット部の拡大図、(b)は射出光の振幅強度分布を示すグラフである。
【
図7】ヤングの干渉実験を説明するためのものであり、(a)は実験装置を示す模式図、(b)は射出光の状態を示す模式図である。
【
図8】実施形態に係る絞り部材での射出光の振幅強度分布を示すグラフである。
【
図9】従来の光波距離計の構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を実施するための形態に係る測定装置について説明する。
【0026】
<第1実施形態>
図1は本発明に係る測定装置の第1実施形態である光波距離計を示す正面図である。第1実施形態に係る光波距離計100は、
図1に示すように、三脚(図示せず)に取り付けられる基台部101に架台102が設けられ、この架台102には光学系を含む望遠鏡部103が支持されている。前記基台部101は整準ねじ104を有し、架台102が水平となるように整準可能となっている。架台102は鉛直軸心を中心に回転可能であり、望遠鏡部103は水平軸心を中心に回転可能となっている。また、架台102には表示部106を有する操作入力部107が設けられ、前記表示部106には被測定物までの距離の測定値等が表示される。
【0027】
次に光波距離計100の光学系について説明する。
図2は同光波距離計を示す断面図、
図3は同光波距離計の光学系を示すものであり、(a)は測定光射出の状態を示す模式図、(b)は内部参照光射出の状態を示す模式図である。
【0028】
光波距離計100は、筐体110内に、鏡筒120と、ベース部130が形成されている。また、
図2に示すように、光波距離計100は、光学系200として、受光光学系である対物レンズ系210と、測定光を射出して測定物に照射する射出光学系220と、対物レンズ系210からの測定光を光ファイバ260に導く射出反射光学系240とを備える。また光学系200は、受光反射光学系250と、視準光学系270とを備える。光ファイバ260は、受光部である光センサー261(
図3参照)に測定光を導く。視準光学系270は対物レンズ系210からの被測定物像を目視できるようにして、光波距離計100の方向を決定したり補正したりするために使用される。
【0029】
対物レンズ系210は、鏡筒120に配置され、被測定物であるプリズム280に向かう第1光軸O1を備え、被測定物からの光を集光する。対物レンズ系210は、3枚のレンズを備えており、各種収差が補正され全体で正のパワーを備える。射出光学系220は、ベース部130に配置され、第1光軸O1と平行な第2光軸O2を備え、理想的な点光源230からの光を平行光である測定光として射出する。点光源230は、例えば赤外線を発生するレーザーダイオードである。
【0030】
射出光学系220は、コリメータレンズ221と、射出光を断続的に遮断し射出光を、光源から取得された内部参照光として取り出す台形プリズム225を備えたチョッパ226と、マイコンなどにより制御されて外光束光量を調整するサーキュラー222と手動で回転位置を設定することにより内部参照光の光量を調整する濃度フィルター310、と絞り配置部材224とを備える。濃度フィルター310は、円周上に濃度勾配を備えた円板状の部材である。また、サーキュラー222は、測定光出射光量の調整用に円周上に濃度勾配が付いている濃度フィルターを備え、サーキュラー駆動モータ223で回転駆動される円板状の部材である。
【0031】
更に、チョッパ226はチョッパ駆動モータ227で回転駆動され、所定のタイミングで、第2光軸O2上のコリメータレンズ221の前側に出没するように駆動される。ここで、チョッパ226には、コリメータレンズ221を覆う板部226aが形成されている。また、台形プリズム225は、
図3(b)に示すように2つの反射面225a、225bを備え、内部参照光を光センサー261に導く。
【0032】
測定光の射出時には、
図3(a)に示すように、チョッパ226は、コリメータレンズ221の射出口から外れ、点光源230からの光は、サーキュラー222で断続的に遮られながら反射鏡241に向け、射出される。尚、
図3(a)において、内部参照光の光軸を一点鎖線で示し、測定光の光路を矢印付の実線で示している。3(a)示した状態では、内部参照光は生成されてない。
【0033】
内部参照光の射出時には、
図3(b)に示すように、チョッパ226はコリメータレンズ221の射出口に台形プリズム225の反射面225aが配置される状態となる。この状態で、点光源230からの光は、コリメータレンズ221を経て、台形プリズム225の反射面225a、225bで反射されて濃度フィルター310に向け射出される。濃度フィルター310で濃度調整された内部参照光は、光ファイバ263に入射する。このとき、コリメータレンズ221の開口は、板部226aで完全に覆われるので、対物レンズ系210側には光は入射しない。光ファイバ263は、光ファイバ260と合流し、光ファイバ263からの内部参照光と、光ファイバ260からの測定光は同一の光センサー261で検出される。尚、
図3(b)において、内部参照光の光路を矢印付の実線で示し、測定光の光軸を一点鎖線で示している。3(b)示した状態では、測定光は生成されてない。
【0034】
射出反射光学系240は、第2光軸O2上に斜めに反射面を形成した反射鏡241と、対物レンズ系210の入射側(外側)に配置される第2反射手段である送光反射プリズム242とを備える。送光反射プリズム242は第1光軸O1上に傾斜した反射面242aを備える。この例では対物レンズ系210の外側には、平行平面ガラスであるカバーガラス281が配置され、送光反射プリズム242は、このカバーガラス281の内側に接着されて配置されている。
【0035】
受光反射光学系250は、ダイクロイックミラー251と、このダイクロイックミラー251からの光を直角方向に反射する受光反射部材である受光反射プリズム252とから構成される。ダイクロイックミラー251は、鏡筒120に配置され、対物レンズ系210から第1光軸O1に沿って入射する光のうち、所定波長帯域の光である測定光を反射する。他の帯域の光は透過して、鏡筒120に配置された視準光学系270に入射する。光波距離計100のオペレーターは、視準光学系270を用いて、視準を行うことができる。受光反射プリズム252は、第1光軸O1に45度の角度で形成された反射面252aを有し、ダイクロイックミラー251からの光を光ファイバ260に向け反射する。
【0036】
このような光波距離計100では、光センサー261で検出した測定物であるプリズム280からの測定光と、光ファイバ263からの内部参照光とに基づいて被測定物であるプリズム280までの距離を演算する。
【0037】
次に、本実施形態に係る絞り部材400について説明する。絞り部材400は、絞り配置部材224に取り付けられている。
図4は同光波距離計の絞り配置部材構成を示すものであり、(a)は光波距離計の全体斜視図、(b)は絞り部材の拡大図である。絞り配置部材224は、遮光性の薄板で構成されており、絞り部材400は、絞り配置部材224の光軸の位置に配置されている。
【0038】
図5は同光波距離計の絞り部材のパターンを示す模式図である。本実施形態では、絞り部材400は、
図4(b)及び
図5(a)に示すように、光源の光軸上に配置された中央透光部401と、中央透光部401の周囲に配置された複数の円環帯である透光帯部403の間に配置される遮光帯部402を備える。この構成により、降雨量測定光が中央透光部401及び透光帯部403を透過するときの回折光の干渉により、射出する測定光の光束を所望の開き角に拡大するとともに、光量を所定の値とする。この例では中央透光部401は
図5(a)に示すように円形としている。
【0039】
図5(a)に示す例では、直径d1の中央透光部401と同心に中央透光部401を、所定間隔d2を隔てて複数個所(
図5(a)では4個所)に配置している。ここで、遮光帯部402は透光帯部403の間隔d1の幅寸法を備える。そして、中央透光部401と遮光帯部402の間及び隣接する遮光帯部402の間に透光帯部403を複数個所(同図では3個所)に配置している。尚、中央透光部401の直径寸法、中央透光部401及び遮光帯部402の幅寸法は、必要とする光量及び開き角によって適宜設定し、変更することができる。
【0040】
次に、絞り部材400の作用を、回折光が干渉して光束を所望の広がる原理とともに簡単に説明する。
【0041】
説明を簡単にするため、直線状のスリットを透過する光について説明する。まず1本のスリット(単スリット)の場合、
図6(a)に示すように、入射光の波長をλとし、回折用の単スリットの幅をaとし、スリット通過後の回折せずに進む信号光の振幅をA(0)、θだけ回折した信号光の振幅をA(θ)とすると、以下の式が成立する。
【0042】
【数1】
式2を、絶対値を含まない形にするため、両辺を2乗しその式をf(θ)とすると、
【数2】
【0043】
すると
図6(b)に示すように、式3でθ=0から最初の振幅が“0”になる干渉角度は、
【数3】
のときであり、
【数4】
の角度となる。
以下順次その隣の角度で振幅が“0”になるのは、
【数5】
のときとなる。
【0044】
例えば、λ=840nmの(レーザー)光源で、スリット幅0.2mmのとき、1次干渉点は、
【数6】
となる。
【0045】
この広がり角度は、プリズム(反射鏡)を用いた、通常の測定では十分な広がり角度である。この効果を利用することで、通常のレンズ系を使用せずに、発光光束を広げることが簡便にできる。
【0046】
しかし、上述の設定では、どこかに必ず信号強度がゼロか若しくは、弱くなる点が投降像上に発生する。この部分にターゲットがあった場合には、通常中心位置であれば十分に信号強度がある距離にも関わらず、測定できない信号強度になってしまう。もちろんスリット幅(実際には円形のピンホール径)を小さくすれば、回折量が増加して、1次干渉ポイント角度が広がる(円形の場合は中心から半径方向への角度)が、その分中心光束が透過できず、結果として信号光量が減少し許容できない量になることがある。
【0047】
そのため、本発明では、中央透光部401の周囲に複数の透光帯部403を配置している。以下、光波の干渉について簡単に説明する。
【0048】
上の説明は単スリットの幅に関する回折強度の考察結果であるが、視点を変えて、同じようなスリット幅aのスリットが、スリット幅の中心間隔dで配置された場合の光の干渉について説明する。これは、基本的には
図7(a)に示したヤングの干渉実験と同様の現象である。
【0049】
2本のスリットによる干渉を例とする。
図7はヤングの干渉実験を説明するためのものであり、(a)は実験装置を示す模式図、(b)は射出光の状態を示す模式図である。
図7(b)に示すように、スリット間隔がdの場合、角度θの光束の干渉を考慮すると、光束1と光束2の光路差は、d・sinθであるので、その分の位相遅れが発生する。従って、光束1の光波φ1と光束2の光波2の式は以下のようになる。
【0050】
【0051】
ここで、合成波φは、
φ=φ1+φ2
であり、
【数8】
ここで三角関数sinの和積の公式
【数9】
【数10】
式6の第1項は時間のパラメータtを含んでいないので、関数φの振幅を表す項となり、角度θの位置での振幅強度を示す。
【0052】
【数11】
式7の絶対値記号を2乗することで外すことを考える。
【数12】
【0053】
【0054】
よって式8をまとめると、
【数14】
式10で得られる振幅強度の分布状態を
図8に示す。
【0055】
上記式10は平行な2スリットの振幅解析結果であるが、スリットとして同心円状に透過用トラック(帯)を設けて、そのスリットを等価する光と中心光束の光とで干渉させることで同様の効果を発揮することも可能である。本発明では同心円上のスリットとして論ずる。
【0056】
ピンホールのみの回折現象では、上述した課題があり、回折光の強度がゼロ点になる範囲を広げようとすると、ピンホール径を極端に小さくする必要がある。すると、通過する光束が減少するために、必要光量を確保できない。本発明は、必要光量を確保しながら回折と干渉現象を利用して、中央透光部(ピンホール)と同心円状に透光帯部を設けることにより、ピンホールの回折現象と透光帯部の透過光同士の干渉により、振幅強度の分布状態を
図8に示すようにできる。
【0057】
このことから、必要光量を得ながら強度分布の影響を軽減し実質的にレンズ系で光束の広がり角度を実現する。
【0058】
具体的には、スリット幅aに相当する中央透光部401の径d1を0.4mmとし、透光帯部403の間隔d2を2.5mmとすれば、回折での振幅強度1次ゼロ点は、
【数15】
の間隔で発生する。
【0059】
また、スリット間隔が2.5mmなので、内部の振幅強度1次ゼロ点は、
【数16】
の間隔で振幅強弱が発生する。
【0060】
しかし、
図8に示すように、光量の分布には、大きなゼロ点の他に、周期的に高次のゼロ点が発生する。しかし、実際の光波距離計では、大気中の揺らぎ等で光信号光束が位置的に揺られるため、一定の場所での振幅強度を維持できない。そのため上記のような細かな振幅の変動がある場合にも、大気の揺らぎの影響で平均されるため、細かな強度変化は事実上無視できる。
【0061】
従って、式10に示した振幅変動関数により、振幅強度のθに関する設定を制御できることになり、特別に光束拡開用のレンズ系を使用することなく、簡単な構成で光束の広角を所望の値に設定できることがわかる。
【0062】
尚、上記例では、位相差dsinθ=λのとき、中心強度f(0)は、0.4mm=2.5mm/6.25より、a=d/6.25の関係になるので、
【数17】
ここで、cos
2(πd・sinθ/λ)の項は、d*sinθ=λよりcos
2 (π)=1である。このため、
式10より、I(θ)/I(0)
=0.919×1.0=0.919 が正確な表現となる。
【0063】
<第2実施形態>
第1実施形態では、絞り部材400として401の同心円状に透光帯部を設けた。第2実施形態に係る光波距離計の絞り部材は、中央透光部の中心と同心である複数の扇状領域に区分けし、それぞれの扇状領域では少なくとも2つの扇状領域において透光帯部の配置状態を変更している。
【0064】
即ち、
図5(b)に示す絞り部材410は、直径を隔てて2つの扇状領域410A、410Bに区分けされている。そして各扇状領域410A、410Bには、所定間隔(d3)を有する弧状帯をなす遮光帯部412A、412Bを隔てて透光帯部413A、413Bを、各扇状領域410A、410Bにおいて異なった位相、配置間隔で配置している。
【0065】
そして、本実施形態では、絞り部材410をモータ等の駆動手段により光軸を中心として回転させる。これにより、振幅強弱の角度位置が時間的に変化し、ミキシング効果を得て、より一層の平均化することができる。
【0066】
図5(c)に示す例では、絞り部材420は、直交する2本の直径を隔てて4つの扇状領域420A、420B、420C、420Dに区分けされている。そしてこの扇状領域420A、420B、420C、420Dには、遮光帯部422A、422B、422C、422D、透光帯部423A、423B、423C、423Dを配置できる。
【0067】
<第3実施形態>
第3実施形態では、絞り部材を光の遮蔽及び透過のパターンを外部の制御で変更できる透光素子として液晶パネルで構成する。なお、透光素子としては液晶パネルの他、PLZT素子等の圧電素子を使用することができる。そして、中央透光部、遮光帯部及び透光帯部の形状を変更する。例えば、
図5(b)に示したパターンの扇状領域410A、410Bのパターンを周期的に交互に変更表示させる、
図5(c)に示したパターンの扇状領域420A、420B、420C、420Dのパターンを90度ずつ回転させたように表示することができる。
【0068】
これにより、振動等が発生する回転駆動手段等を使用することなく、射出光の振幅強弱の角度位置を時間的に変化させてミキシング効果を発揮させ、測定光を平均化することができる。
【符号の説明】
【0069】
100:光波距離計
101:基台部
102:架台
103:望遠鏡部
104:整準ねじ
106:表示部
107:操作入力部
110:筐体
120:鏡筒
130:ベース部
200:光学系
210:対物レンズ系
220:射出光学系
221:コリメータレンズ
222:サーキュラー
223:サーキュラー駆動モータ
224:絞り配置部材
225:台形プリズム
225a:反射面
225b:反射面
226:チョッパ
226a:板部
227:チョッパ駆動モータ
230:理想的な点光源
240:射出反射光学系
241:反射鏡
242:送光反射プリズム
242a:反射面
250:受光反射光学系
251:ダイクロイックミラー
252:受光反射プリズム
252a:反射面
260:光ファイバ
261:光センサー
263:光ファイバ
270:視準光学系
280:プリズム
281:カバーガラス
310:濃度フィルター
400:絞り部材
401:中央透光部
402:遮光帯部
403:透光帯部
410:絞り部材
410A、410B:扇状領域
412A、412B:遮光帯部
413A、413B:透光帯部
420:絞り部材
420A、420B、420C、420D:扇状領域
422A、422B、422C、422D:遮光帯部
423A、423B、423C、423D:透光帯部